ゲスト
(ka0000)
【空蒼】選ばれることを、選べない
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/28 22:00
- 完成日
- 2018/08/31 05:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
──どうしてクリムゾンウェストは、僕を選ばなかった。
「……」
現場に到着する。立派な屋敷だが、意識を集中すると、中に居るものが騒いでいる気配が感じ取れて、高瀬少尉は溜め息をつく気にもなれなかった。
イクシード・アプリ。
誰でも覚醒者になれるという触れ込みで今広まりつつあるそれは、少なくとも、力を与えてくれるのは事実だった。
……だが、疑いもせずにそんなものに手を出す人間が軽率に力を手にすればどうなるか。
力を得たら、その力を誇示したくなる。しかし都合良く目の前に歪虚が現れてくれるわけでもない。
持て余した少年たちが活躍の場を求めて目をつけたのは、この不安定な時勢に非常用品の買い占めを行ったという金持ちだった。……まあ余り行儀がよろしいとは思えないが、現状別に罪ではない。
だがこれを聞き付けた少年たちは幸いとばかりに「正義を執行する」と宣言して、突き止めた金持ちの家を襲撃し、占拠。手に入れた物資をSNSの友人に配布するという事件を起こしたわけだ。
如何に「全ての地球人に正義を知らしめ、それをもってVOIDへの対抗手段とする」などと宣っても、現在の日本の法律に照らし合わせればどこをどう切り取っても犯罪である。
ここで困るのは、それでもイクシード・アプリの力は本物だということだ。つまり、元がただのやんちゃ少年だろうが、並みの警察官では歯が立たない。
かくして、やむなく初動は強化人間の出番となるわけである。ハンターが到着するまで、ここで少年たちを見張り、逃亡するようであれば足止めすること。
力を得たとはいえ訓練を受けていない少年が二人、本来なら少尉一人でも鎮圧は出来るのだろうが。暴走の可能性を考えればハンターの出動を待つのが最適となるのだろう。
……一つ一つ、現状を確認して。
やはり、溜め息も出ない。
良く分からず選ばれて真面目にやっているのかも分からないハンターたちより、自ら志願できる強化人間の方が正しいと思って、この力を得た。
それが──実際、誰もが力を得られるようになったらこの様か。
遅れてこの世界にやってくるハンターが頼り、ではいけないと思った。地球人が一番頼りにするのは自分達になるように在らなければ、と。だから反発した。負けてはならないと己に課すために。だがそれも結局──羨望の裏返しだったと分かっている今、自分があの少年たちを嗤えるのか。
自分はどうすればよかったのだろう。
今更自分に──何の価値がある。
そこまで考えたとき。少尉は顔を上げた。それはネガティブな考えを振り払おうとしてではない、単純に何かを感じたからだ。
そして……見上げたその先で、光が集束していた。
瞬時に意識が切り替わる。思考は現象を理解するために全てを回す。そうだ、あれについても報告で聞いていた──思い出し、動けるように身構えると同時に、光から現れた「使徒(アポストル)」は光輪を放った。……少尉に向けてではなく、屋敷に向けて。
光は容赦なく屋根をぶち抜き、屋敷を大きく揺るがせた。
「うわああああ!?」
泡を食って飛び出してくる少年たち。
「ななななんだあれ!? VOIDか!?」
「あ、慌てんじゃねえ! おお俺たちには力があるんだ!」
縺れ合いながら……一応構えでも取ろうとしているのかあれは? 混乱もあって、まるでお話にならない。雑魚VOIDならともかく、聞いていた「使徒」の報告が正しいならあれでは……。
そこに。ハンターたちが駆けつける気配がした。
だが、共闘したところであれが優先して狙うのは強化人間とアプリ使用者のはずだ。あっという間に殺される──
咄嗟、だった。
本当に、咄嗟で考えられたのは、それだけだった。
やって来たハンターたちに向けて、少年たちを突き飛ばす。
「……僕が一旦囮になる! そいつらを巻き込まれないところまで離せ!」
叫んでから、使徒に向けて射撃する。
狙い通り。使徒は、「強化人間」かつ、「攻撃してきた」少尉に意識が向いたようだった。
光輪が、再び生まれる。少尉は盾を掲げ転がるようにして避けてそれをかろうじて凌ぐと、屋敷へと飛び込んだ。
……もし、覚醒者として向こうの世界に転移していれば。戦い続けることに迷いなど、無かったと思うのに。彼らのように、どうして選ばれなかったのか。
そうして選べたと思った力の価値は、無様に堕ちて。
それでも。
それでも。
今あるこの力を、どう使うのか、選べるのならば。
……軍人として、何があっても、己より弱きものを守れ、と。その教えを。
屋敷を再び襲った破壊は……近かった。時間稼ぎのために屋敷内を移動しているが、どうやらおおよその位置は捕捉されているらしい。……完璧ではない。それなら今寄りかかっているこの壁ごと吹っ飛ばされていただろうから。
多分、長くは持たない。ここで終わるのか。その上で、あの子たちがどうなるかは、結局ハンターたちが頼り。
だというのに……今はそのどちらにも。そんなに悪い気は、しなかった。
「……」
現場に到着する。立派な屋敷だが、意識を集中すると、中に居るものが騒いでいる気配が感じ取れて、高瀬少尉は溜め息をつく気にもなれなかった。
イクシード・アプリ。
誰でも覚醒者になれるという触れ込みで今広まりつつあるそれは、少なくとも、力を与えてくれるのは事実だった。
……だが、疑いもせずにそんなものに手を出す人間が軽率に力を手にすればどうなるか。
力を得たら、その力を誇示したくなる。しかし都合良く目の前に歪虚が現れてくれるわけでもない。
持て余した少年たちが活躍の場を求めて目をつけたのは、この不安定な時勢に非常用品の買い占めを行ったという金持ちだった。……まあ余り行儀がよろしいとは思えないが、現状別に罪ではない。
だがこれを聞き付けた少年たちは幸いとばかりに「正義を執行する」と宣言して、突き止めた金持ちの家を襲撃し、占拠。手に入れた物資をSNSの友人に配布するという事件を起こしたわけだ。
如何に「全ての地球人に正義を知らしめ、それをもってVOIDへの対抗手段とする」などと宣っても、現在の日本の法律に照らし合わせればどこをどう切り取っても犯罪である。
ここで困るのは、それでもイクシード・アプリの力は本物だということだ。つまり、元がただのやんちゃ少年だろうが、並みの警察官では歯が立たない。
かくして、やむなく初動は強化人間の出番となるわけである。ハンターが到着するまで、ここで少年たちを見張り、逃亡するようであれば足止めすること。
力を得たとはいえ訓練を受けていない少年が二人、本来なら少尉一人でも鎮圧は出来るのだろうが。暴走の可能性を考えればハンターの出動を待つのが最適となるのだろう。
……一つ一つ、現状を確認して。
やはり、溜め息も出ない。
良く分からず選ばれて真面目にやっているのかも分からないハンターたちより、自ら志願できる強化人間の方が正しいと思って、この力を得た。
それが──実際、誰もが力を得られるようになったらこの様か。
遅れてこの世界にやってくるハンターが頼り、ではいけないと思った。地球人が一番頼りにするのは自分達になるように在らなければ、と。だから反発した。負けてはならないと己に課すために。だがそれも結局──羨望の裏返しだったと分かっている今、自分があの少年たちを嗤えるのか。
自分はどうすればよかったのだろう。
今更自分に──何の価値がある。
そこまで考えたとき。少尉は顔を上げた。それはネガティブな考えを振り払おうとしてではない、単純に何かを感じたからだ。
そして……見上げたその先で、光が集束していた。
瞬時に意識が切り替わる。思考は現象を理解するために全てを回す。そうだ、あれについても報告で聞いていた──思い出し、動けるように身構えると同時に、光から現れた「使徒(アポストル)」は光輪を放った。……少尉に向けてではなく、屋敷に向けて。
光は容赦なく屋根をぶち抜き、屋敷を大きく揺るがせた。
「うわああああ!?」
泡を食って飛び出してくる少年たち。
「ななななんだあれ!? VOIDか!?」
「あ、慌てんじゃねえ! おお俺たちには力があるんだ!」
縺れ合いながら……一応構えでも取ろうとしているのかあれは? 混乱もあって、まるでお話にならない。雑魚VOIDならともかく、聞いていた「使徒」の報告が正しいならあれでは……。
そこに。ハンターたちが駆けつける気配がした。
だが、共闘したところであれが優先して狙うのは強化人間とアプリ使用者のはずだ。あっという間に殺される──
咄嗟、だった。
本当に、咄嗟で考えられたのは、それだけだった。
やって来たハンターたちに向けて、少年たちを突き飛ばす。
「……僕が一旦囮になる! そいつらを巻き込まれないところまで離せ!」
叫んでから、使徒に向けて射撃する。
狙い通り。使徒は、「強化人間」かつ、「攻撃してきた」少尉に意識が向いたようだった。
光輪が、再び生まれる。少尉は盾を掲げ転がるようにして避けてそれをかろうじて凌ぐと、屋敷へと飛び込んだ。
……もし、覚醒者として向こうの世界に転移していれば。戦い続けることに迷いなど、無かったと思うのに。彼らのように、どうして選ばれなかったのか。
そうして選べたと思った力の価値は、無様に堕ちて。
それでも。
それでも。
今あるこの力を、どう使うのか、選べるのならば。
……軍人として、何があっても、己より弱きものを守れ、と。その教えを。
屋敷を再び襲った破壊は……近かった。時間稼ぎのために屋敷内を移動しているが、どうやらおおよその位置は捕捉されているらしい。……完璧ではない。それなら今寄りかかっているこの壁ごと吹っ飛ばされていただろうから。
多分、長くは持たない。ここで終わるのか。その上で、あの子たちがどうなるかは、結局ハンターたちが頼り。
だというのに……今はそのどちらにも。そんなに悪い気は、しなかった。
リプレイ本文
「一つ問題が片付いたら二つ三つ新しい厄介事って勢いで蒼の世界で騒ぎが起きてないか……? ここんところ」
ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)が半ばぼやきのように口を開いた。
「てかそんな手軽に力は手に入らねえよもっと怪しめよ……いや、混乱と外敵まみれで藁にも縋りたいところを狙った罠なのか……?」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)が肩を竦める。
「力に限った話ではありませんよ。簡単に痩せられるとか奇跡の水だとか……そういった話に飛び付く人々というのは、まあ、この世界では残念ながら良く聞く話ですから」
少し考えてみればそんなものには引っ掛からないだろう……というような話は、遺憾ながらそう珍しい事でもない。
「デモ……今のリアルブルー、ミンナ不安になるノ、分かるヨ。急に色んなコト起きすぎて、ジッとしてられナイんだと思うナ」
ポツリと、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が話に加わった。
「パティはだから、その、アプリを使った子たちともチャンとお話出来たらいいナ。もちろん、悪いコトは悪いコト。まずは、メッ、しなきゃダケドネ?」
語るパトリシアの声は複雑さが滲んでいたものの明るい声だった。
そんなやりとりを、覚醒状態になっていないエリ・ヲーヴェン(ka6159)は静かに聞いていた。
現場に向かうまでの彼らの足取りにはどこか余裕があった。そう、余裕はあるはずだったのだ。アプリを使用したばかりの少年二人が相手、というのに、ハンター四人というのは過剰と言っていい戦力なのだから──
そうして現場にたどり着いたハンターたちを出迎えた状況に。
「……」
色々と、駆け巡る想いはあれど、ルナリリルはそれに囚われるより先に行動を開始した。
魔導銃「狂乱せしアルコル」。闇属性を持つ弾丸が宙に浮く使徒を穿つ。
巨兵が僅かに身動ぎしてルナリリルに振り返る。機体めいた顔からは何も伺えなかった。
(VOIDのコロニー襲撃だの強化人間志願者増加だのには一切反応しなかったくせになんで今更使徒──ブルーの精霊が出てくる?)
釈然としない思いで、彼女は使徒の無表情を見つめ返す。乱入に対する怒りも使命感もそこからは感じなかった。ただ、無機質に淡々と状況を判断している。
(これまでの騒ぎを無視していたのに今になって動いた理由は一体……? 読めんな)
考えるも、少なくとも目の前の使徒からは何も聞けそうも無いし分かりそうもなかった。意識を切り替え、戦闘に集中することにする。
「……もうっ! ヒトリで無茶しちゃダメでしょー?」
少尉が消えた屋敷へと向けてパトリシアが唇を尖らせる。
皆で生きて帰ること、を目標に掲げる彼女にとって、少尉が取った自己犠牲的な作戦には不服がある。だが。
「ほでも、おかげでアプリっ子達は無事ネ? ぐっじょぶダヨ、タカセくん」
次いで、健闘を讃えるように一転、柔らかな声でそう呼び掛けると、彼女は装備から呪符「善妙」を引き抜いた。五行相剋符。札から闇の力を引き出すと、次いで投げ放たれた符から黒く光る雷が、大柄な使徒の身体を二度叩く。
これは流石に無視できない威力だったのだろう。新たに出現した存在が、明確に己を攻撃する意思があると判断した使徒は、今度は身体ごとハンターの方へと向き直る。
二人が動くと同時に、ハンスは素早く、まだ成り行きが飲み込めていない少年たちに立ちはだかるように位置取っていた。
「確認ですが、イクシード・アプリを利用して悪事を行ったというのは貴方方ですね?」
静かに、見下ろしながらハンスが問う。少年は一度キョトン、として、それから質問の意味を理解すると、
「……悪事じゃねえ! 俺たちは正ぎょふっ!」
ハンスにとって、そこまで聞けば確認には十分だった。
この期に及んでまだ己の仕出かしたことを正義と宣うのはある意味大したものだが、付き合う義理はない。ハンスの手にした剣が縦横無尽に閃くと、まさに有無を言わさず少年二人はあっけなく昏倒した。活人剣。今の少年たちの抵抗力では、余程運が良くない限り目覚めることはないだろう。
エリは、ルナリリルとパトリシアの二人が使徒の気を引くのに成功すると、少尉の元へと向かっていった。
「少尉、で良いかしら? 貴方の事は私が守ってアゲル。だって貴方私より弱いでしょう?」
「なっ!?」
そして呼び掛けられた第一声に、少尉の反応は激高だった。
発破をかける意図は合ったのかもしれない。だが、ハンターに劣等感を抱く少尉と、覚醒したエリの物言いの相性は最悪に近かった。
彼女はそのまま、使徒の攻撃はガウスジェイルで引き受ける、仲間が来るまで逃げと防御に専念するからと言って己のエクウスに乗れと促すのだが……。
「断る! そこまではっきり足手纏い扱いされて大人しくただ足手纏いになれるか!?」
怒鳴り返す、それが少尉の返事だった。
本音ではハンターを認める気持ちはあるとは言え、だからこその少尉へのこの扱いは、彼が受け入れることのできる度量を超えていた。
はっきりと不穏な空気が生まれる中、次に声をかけたのがハンスだった。
「ところで少尉、知っていましたか? 私達はリアルブルーでは死んだ扱いになっていて、貴方方軍部に家族との連絡さえ邪魔されているということを。生者は生者が面倒を見ればよろしかろうと思うのですよ、私はね?」
表面上は穏やかに。ハンスは少尉を呼び止め、少尉が逃がさねば殺されるだけだろうと諭し少年二人の保護と撤退を依頼──しようとしたのだろう。
だが。
「で!? 僕はそこの女性と逃げればいいのか!? それともあの子たちも連れて行くのかどっちなんだ!」
返ってきたのは更に苛立った怒号だった。この状況からハンターの意思が統一されていないのは間が悪すぎた。再びハンターへと刺々しい感情を向けるようになった少尉に、ハンスがその言葉の裏に込めた意味も見過ごせよう筈もない。
「それに──つまり貴方は、軍部が悪意をもってハンターのリアルブルーへの連絡を『邪魔』しているとそう言いたい訳か」
少尉は嗤う。
「別にそう感じるのは構わないのですけどね。それが現在の軍とハンターの間の信頼関係の程度であるならば、そこで『犯罪者』の扱いを僕に委ねるのは筋が通らないんじゃないですか?」
冷笑。だが、その嘲りは、ハンスにというより……己に向けられていた。
「僕は貴方の考えには反対です。この場で僕とアプリ使用者が固まり、身動きがままならなくなることは、使徒に目的の完遂が容易になったと判断されかねません」
言って少尉は再び、屋敷の内部を移動した。振動が再び建物を揺らす。表で戦っている仲間の流れ弾なのか、それとも少尉を狙ったものなのか。はっきりとは言えないだけに、ハンスは、少尉の判断にも一部の理はあることを認めざるを得なかった。確かに、少年とはいえ二人を抱えて移動しろというのは、使徒が何かの拍子に本来の標的に意識を向けた瞬間に終わりを意味するのだ。その隙をハンターが一切見せないと言えるのか。エリとハンスの食い違いを見せてしまっただけに、完全に信頼して任せろというのは難しくなってしまった。
この状況から出来ることは何か。先に動いたのはエリだった。表の仲間に加勢する。ハンスも、今機嫌を取るのに時間をかけるよりも使徒を集中して落とす方が確かにここは確実かと納得し、その後を追った。
ルナリリルが宙に浮く相手に向かって十二偽光、頭上に浮かぶ十二角形から光の束を放つ機導術で使徒を攻撃する。
使徒は今はパトリシアの風雷陣の方をより脅威と見たか、光輪を立て続けに彼女に向けて放っていた。
「……ッ!」
決して軽くは見れない衝撃が、彼女の身体を貫いていく。
そうした攻防を重ねるうちに、使徒は空中ではやや分が悪いと見たか、ゆっくりと地上へと降下する。それを認めると、ルナリリルは蒼機剣を手に使徒と距離を詰めていく。
「射撃のほうが得意なんだがね……別に接近戦が苦手と言った覚えもないが」
狙い通り、接近するとやはり注意は引きやすいようだった。使徒は手にした光剣をルナリリルへと向ける。地上にしっかりと降り立った分その精度も増していた。だが、パトリシアより彼女の方が防御力は高い。この二人でこの場を乗り切るにはこの状態の方が安定していると言えた。
パトリシアはそうして、使徒の行動の様子を観察する。
見た目から光属性を予測したが、特に闇属性が効いているという風でもなかった。受ける攻撃も、単純に衝撃波だ。……一先ず、目の前の相手については。
そうするうちに、エリとハンスが戦線に加わってくる。そのあとから……少尉が姿を現さなかったことに、パトリシアは少なからず落胆を覚えた。
「タカセくんの役割ハ、ここで死ぬコトなんかじゃないとパティは思うヨ……」
呟く。建物の中に向けて意識を集中すると、まだそこに少尉の気配は感じ取れる気がした。迂闊な手出しはハンターの妨害にしかならないことは理解しているのだろう。それでも、足掻いている。息をひそめて、様子を窺っている。必要な時がくれば、一番に使徒の気を引けるだろう己が事を起こせるように。己が存在する意味を求めて──本当にそれが必要になれば、また命を賭するつもりで。
「少尉の命も仕事のうちだ! コイツは我々に任せて退避してくれ!」
ルナリリルが屋敷に向かって叫ぶ。だが届く可能性は低いと思えた。やむなく彼女は、これまでも使徒の気を引くために全力だった攻撃の手を更に研ぎ澄まそうとする。
そこに、エリが戦線に加わる。ランスを手に距離を詰めるとやはり使徒は意識は向けてくるようだった。
「向かってくるなら都合が良いわ! 迎え撃ってアゲル!!!」
狂乱の声と笑いを上げるエリの身体を黒いオーラが纏っていく。その力が体現する正義とは「拒絶」。
強化した肉体から放たれる一撃は正に渾身。自らの生命力を抽出し纏わせるその技に、彼女は込められるだけの生命力を注ぎ込み眼前の使徒の脚へとランスを突き込んでいく。削り取られるように、槍を突き立てた先から使徒のマテリアルが光となって零れ爆ぜた。
「血が出るかとても興味があったのだけど……まあ美味しくいただくわ!」
ブラッドドレイン。エリがぺろりと唇を舐めて笑みを浮かべると流出したマテリアルは彼女に向かって吸収されて行く。実際に使徒から血が流れたわけでは無いが、マテリアルの吸収は出来る。
「歪虚以外と戦うのは久しぶりなの! 楽しませてね!!!」
本格的な戦闘に突入して、彼女は嗤い声を上げ続ける。反撃の刃が彼女へと向けられる、それすら楽しそうに。
そんな中で。
「ねぇ、使徒ちゃん。精霊さん」
隙に、祈るような声で、パトリシアは使徒へと語りかけた。
「あの子たちは、だいじょぶダカラ。パティ達も一緒に居るカラ」
語りかけて、だが、攻撃の手を緩めることは出来なかった。余裕が生まれれば、使徒は傍で倒れたままの少年たちを狙うかもしれない。
「その木偶が我々の言葉に耳を傾けるわけがないでしょう? 徒に使われるものだからこそ使徒、主命以外に耳を傾け行動を変えるなら、それはただの愚物というのですよ」
そんな彼女の背からハンスが淡々と告げた。ゆらり、円を思わせる動きでその身体が使徒の周囲を翻弄すべく駆け巡る。
「大精霊の爪の垢程度の存在でしょうから、消滅させても大精霊の負担にはならないと思いますね。顕現させるにはそれ相応の力を使ったかもしれませんが、これ自体は使い捨てタイプの技能だと思いますよ」
ばっさりと、あまりにもきっぱりと切り捨てるようなその物言いは、歪虚とは違う狂気を見せようとでもいうような矜持を感じさせた。
実際……ハンスが正しいのだろう。パトリシアの呼び掛けにも、ハンスの挑発にも、使徒は何の反応も見せない。
ハンスが前に出ると、ルナリリルが譲るように再び魔導銃での射撃に切り替え、下がる。これで、ハンスはエリを巻き込まない形での次元斬を放つことが出来るようになった。空間ごと切り裂く一撃が使徒の全身を透過していくと、ハンス自身の攻撃力もあってマテリアルの塊であるその身体をぐらつかせるほどのダメージがそこに刻まれていった。
「でかい分狙いやすくはあるが……」
ルナリリルが銃口を向ける先。使徒はハンターたちの猛攻に、迎撃する方向では任務を全うできないとここでようやく判断したか、離脱しようという風に再びその身体を浮かび上がらせる。ルナリリルは合わせて銃口を上げて……。
「翼を狙うという訳にもいかんか。どうやって浮いてるんだあいつ」
ぼやきながらもそう判断すると、飛翔しての追跡、頭上を押さえる動きに切り替える。足から噴出するマテリアルは赤い翼の如き輝きだった。ハンスもまた、小型飛行翼アーマー「ダイダロス」を展開し追撃する。二人の攻撃を支援するように桜の幻影が舞った。パトリシアの支援である。
気を抜いたら守るべき対象が一瞬で殺されるという状況、前のめりな攻めにならざるを得なかった分受けた負傷もあるが、飛行対策も取っていた彼らは最終的には地力でこの戦いを制した。使徒はその存在を保つだけの力を失い、光となって消えていく。
「……」
結局使徒は最後まで、戦闘以外の何物にも興味も反応も示すことは無かった。そういうものだ……と理解しようとしても。
(ホームであるブルーの精霊さんと分かり合えないのハ、かなしぃ)
それがパトリシアの素直な気持ちだった。
……分かり合えない、と言えば。
「終わり、ましたか」
最後まで、出番を見出せなかったのだろう。少尉が、所在なさげに屋敷から姿を現す。
顔を向けるハンターたちに、少尉は視線を合わせようとはしなかった。
「貴方たちより弱い、か……。ええ。言われなくても、分かっていますよ……」
皮肉気に、少尉はそれだけを言った。何も出来なかった。何もしなかった。結局、判断を誤ったのだろうと。少尉は、ハンターたちに何を言うつもりもないようだった。
「パティは覚醒者デ、戦う力があっテ。いろいろあるゲド、良かったと思ってる」
パトリシアは少尉へと話しかける。
「ほだケド、何でもできるっテわけじゃナイ。声の届くトコハ限られてるシ、手ハ2つ。ダカラ、ミンナと一緒にがんばるノ。パティはパティにできるコト」
パトリシアが語る間、少尉は結局、彼女と視線を合わせることは、無かった。
「周りを見テ、みんなの声を聞いテ、自分の役割を見つけて」
訴える、その言葉は。しかし、実際にハンターとの会話の結果、何も出来ずに動けなくなった彼にどう、届くのだろうか。
──任務は、成功である。死者を出すことなく、目標だった対象の確保にも成功した。そのことに、地球統一政府からの礼は、後日正式に、届けられた。
ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)が半ばぼやきのように口を開いた。
「てかそんな手軽に力は手に入らねえよもっと怪しめよ……いや、混乱と外敵まみれで藁にも縋りたいところを狙った罠なのか……?」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)が肩を竦める。
「力に限った話ではありませんよ。簡単に痩せられるとか奇跡の水だとか……そういった話に飛び付く人々というのは、まあ、この世界では残念ながら良く聞く話ですから」
少し考えてみればそんなものには引っ掛からないだろう……というような話は、遺憾ながらそう珍しい事でもない。
「デモ……今のリアルブルー、ミンナ不安になるノ、分かるヨ。急に色んなコト起きすぎて、ジッとしてられナイんだと思うナ」
ポツリと、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が話に加わった。
「パティはだから、その、アプリを使った子たちともチャンとお話出来たらいいナ。もちろん、悪いコトは悪いコト。まずは、メッ、しなきゃダケドネ?」
語るパトリシアの声は複雑さが滲んでいたものの明るい声だった。
そんなやりとりを、覚醒状態になっていないエリ・ヲーヴェン(ka6159)は静かに聞いていた。
現場に向かうまでの彼らの足取りにはどこか余裕があった。そう、余裕はあるはずだったのだ。アプリを使用したばかりの少年二人が相手、というのに、ハンター四人というのは過剰と言っていい戦力なのだから──
そうして現場にたどり着いたハンターたちを出迎えた状況に。
「……」
色々と、駆け巡る想いはあれど、ルナリリルはそれに囚われるより先に行動を開始した。
魔導銃「狂乱せしアルコル」。闇属性を持つ弾丸が宙に浮く使徒を穿つ。
巨兵が僅かに身動ぎしてルナリリルに振り返る。機体めいた顔からは何も伺えなかった。
(VOIDのコロニー襲撃だの強化人間志願者増加だのには一切反応しなかったくせになんで今更使徒──ブルーの精霊が出てくる?)
釈然としない思いで、彼女は使徒の無表情を見つめ返す。乱入に対する怒りも使命感もそこからは感じなかった。ただ、無機質に淡々と状況を判断している。
(これまでの騒ぎを無視していたのに今になって動いた理由は一体……? 読めんな)
考えるも、少なくとも目の前の使徒からは何も聞けそうも無いし分かりそうもなかった。意識を切り替え、戦闘に集中することにする。
「……もうっ! ヒトリで無茶しちゃダメでしょー?」
少尉が消えた屋敷へと向けてパトリシアが唇を尖らせる。
皆で生きて帰ること、を目標に掲げる彼女にとって、少尉が取った自己犠牲的な作戦には不服がある。だが。
「ほでも、おかげでアプリっ子達は無事ネ? ぐっじょぶダヨ、タカセくん」
次いで、健闘を讃えるように一転、柔らかな声でそう呼び掛けると、彼女は装備から呪符「善妙」を引き抜いた。五行相剋符。札から闇の力を引き出すと、次いで投げ放たれた符から黒く光る雷が、大柄な使徒の身体を二度叩く。
これは流石に無視できない威力だったのだろう。新たに出現した存在が、明確に己を攻撃する意思があると判断した使徒は、今度は身体ごとハンターの方へと向き直る。
二人が動くと同時に、ハンスは素早く、まだ成り行きが飲み込めていない少年たちに立ちはだかるように位置取っていた。
「確認ですが、イクシード・アプリを利用して悪事を行ったというのは貴方方ですね?」
静かに、見下ろしながらハンスが問う。少年は一度キョトン、として、それから質問の意味を理解すると、
「……悪事じゃねえ! 俺たちは正ぎょふっ!」
ハンスにとって、そこまで聞けば確認には十分だった。
この期に及んでまだ己の仕出かしたことを正義と宣うのはある意味大したものだが、付き合う義理はない。ハンスの手にした剣が縦横無尽に閃くと、まさに有無を言わさず少年二人はあっけなく昏倒した。活人剣。今の少年たちの抵抗力では、余程運が良くない限り目覚めることはないだろう。
エリは、ルナリリルとパトリシアの二人が使徒の気を引くのに成功すると、少尉の元へと向かっていった。
「少尉、で良いかしら? 貴方の事は私が守ってアゲル。だって貴方私より弱いでしょう?」
「なっ!?」
そして呼び掛けられた第一声に、少尉の反応は激高だった。
発破をかける意図は合ったのかもしれない。だが、ハンターに劣等感を抱く少尉と、覚醒したエリの物言いの相性は最悪に近かった。
彼女はそのまま、使徒の攻撃はガウスジェイルで引き受ける、仲間が来るまで逃げと防御に専念するからと言って己のエクウスに乗れと促すのだが……。
「断る! そこまではっきり足手纏い扱いされて大人しくただ足手纏いになれるか!?」
怒鳴り返す、それが少尉の返事だった。
本音ではハンターを認める気持ちはあるとは言え、だからこその少尉へのこの扱いは、彼が受け入れることのできる度量を超えていた。
はっきりと不穏な空気が生まれる中、次に声をかけたのがハンスだった。
「ところで少尉、知っていましたか? 私達はリアルブルーでは死んだ扱いになっていて、貴方方軍部に家族との連絡さえ邪魔されているということを。生者は生者が面倒を見ればよろしかろうと思うのですよ、私はね?」
表面上は穏やかに。ハンスは少尉を呼び止め、少尉が逃がさねば殺されるだけだろうと諭し少年二人の保護と撤退を依頼──しようとしたのだろう。
だが。
「で!? 僕はそこの女性と逃げればいいのか!? それともあの子たちも連れて行くのかどっちなんだ!」
返ってきたのは更に苛立った怒号だった。この状況からハンターの意思が統一されていないのは間が悪すぎた。再びハンターへと刺々しい感情を向けるようになった少尉に、ハンスがその言葉の裏に込めた意味も見過ごせよう筈もない。
「それに──つまり貴方は、軍部が悪意をもってハンターのリアルブルーへの連絡を『邪魔』しているとそう言いたい訳か」
少尉は嗤う。
「別にそう感じるのは構わないのですけどね。それが現在の軍とハンターの間の信頼関係の程度であるならば、そこで『犯罪者』の扱いを僕に委ねるのは筋が通らないんじゃないですか?」
冷笑。だが、その嘲りは、ハンスにというより……己に向けられていた。
「僕は貴方の考えには反対です。この場で僕とアプリ使用者が固まり、身動きがままならなくなることは、使徒に目的の完遂が容易になったと判断されかねません」
言って少尉は再び、屋敷の内部を移動した。振動が再び建物を揺らす。表で戦っている仲間の流れ弾なのか、それとも少尉を狙ったものなのか。はっきりとは言えないだけに、ハンスは、少尉の判断にも一部の理はあることを認めざるを得なかった。確かに、少年とはいえ二人を抱えて移動しろというのは、使徒が何かの拍子に本来の標的に意識を向けた瞬間に終わりを意味するのだ。その隙をハンターが一切見せないと言えるのか。エリとハンスの食い違いを見せてしまっただけに、完全に信頼して任せろというのは難しくなってしまった。
この状況から出来ることは何か。先に動いたのはエリだった。表の仲間に加勢する。ハンスも、今機嫌を取るのに時間をかけるよりも使徒を集中して落とす方が確かにここは確実かと納得し、その後を追った。
ルナリリルが宙に浮く相手に向かって十二偽光、頭上に浮かぶ十二角形から光の束を放つ機導術で使徒を攻撃する。
使徒は今はパトリシアの風雷陣の方をより脅威と見たか、光輪を立て続けに彼女に向けて放っていた。
「……ッ!」
決して軽くは見れない衝撃が、彼女の身体を貫いていく。
そうした攻防を重ねるうちに、使徒は空中ではやや分が悪いと見たか、ゆっくりと地上へと降下する。それを認めると、ルナリリルは蒼機剣を手に使徒と距離を詰めていく。
「射撃のほうが得意なんだがね……別に接近戦が苦手と言った覚えもないが」
狙い通り、接近するとやはり注意は引きやすいようだった。使徒は手にした光剣をルナリリルへと向ける。地上にしっかりと降り立った分その精度も増していた。だが、パトリシアより彼女の方が防御力は高い。この二人でこの場を乗り切るにはこの状態の方が安定していると言えた。
パトリシアはそうして、使徒の行動の様子を観察する。
見た目から光属性を予測したが、特に闇属性が効いているという風でもなかった。受ける攻撃も、単純に衝撃波だ。……一先ず、目の前の相手については。
そうするうちに、エリとハンスが戦線に加わってくる。そのあとから……少尉が姿を現さなかったことに、パトリシアは少なからず落胆を覚えた。
「タカセくんの役割ハ、ここで死ぬコトなんかじゃないとパティは思うヨ……」
呟く。建物の中に向けて意識を集中すると、まだそこに少尉の気配は感じ取れる気がした。迂闊な手出しはハンターの妨害にしかならないことは理解しているのだろう。それでも、足掻いている。息をひそめて、様子を窺っている。必要な時がくれば、一番に使徒の気を引けるだろう己が事を起こせるように。己が存在する意味を求めて──本当にそれが必要になれば、また命を賭するつもりで。
「少尉の命も仕事のうちだ! コイツは我々に任せて退避してくれ!」
ルナリリルが屋敷に向かって叫ぶ。だが届く可能性は低いと思えた。やむなく彼女は、これまでも使徒の気を引くために全力だった攻撃の手を更に研ぎ澄まそうとする。
そこに、エリが戦線に加わる。ランスを手に距離を詰めるとやはり使徒は意識は向けてくるようだった。
「向かってくるなら都合が良いわ! 迎え撃ってアゲル!!!」
狂乱の声と笑いを上げるエリの身体を黒いオーラが纏っていく。その力が体現する正義とは「拒絶」。
強化した肉体から放たれる一撃は正に渾身。自らの生命力を抽出し纏わせるその技に、彼女は込められるだけの生命力を注ぎ込み眼前の使徒の脚へとランスを突き込んでいく。削り取られるように、槍を突き立てた先から使徒のマテリアルが光となって零れ爆ぜた。
「血が出るかとても興味があったのだけど……まあ美味しくいただくわ!」
ブラッドドレイン。エリがぺろりと唇を舐めて笑みを浮かべると流出したマテリアルは彼女に向かって吸収されて行く。実際に使徒から血が流れたわけでは無いが、マテリアルの吸収は出来る。
「歪虚以外と戦うのは久しぶりなの! 楽しませてね!!!」
本格的な戦闘に突入して、彼女は嗤い声を上げ続ける。反撃の刃が彼女へと向けられる、それすら楽しそうに。
そんな中で。
「ねぇ、使徒ちゃん。精霊さん」
隙に、祈るような声で、パトリシアは使徒へと語りかけた。
「あの子たちは、だいじょぶダカラ。パティ達も一緒に居るカラ」
語りかけて、だが、攻撃の手を緩めることは出来なかった。余裕が生まれれば、使徒は傍で倒れたままの少年たちを狙うかもしれない。
「その木偶が我々の言葉に耳を傾けるわけがないでしょう? 徒に使われるものだからこそ使徒、主命以外に耳を傾け行動を変えるなら、それはただの愚物というのですよ」
そんな彼女の背からハンスが淡々と告げた。ゆらり、円を思わせる動きでその身体が使徒の周囲を翻弄すべく駆け巡る。
「大精霊の爪の垢程度の存在でしょうから、消滅させても大精霊の負担にはならないと思いますね。顕現させるにはそれ相応の力を使ったかもしれませんが、これ自体は使い捨てタイプの技能だと思いますよ」
ばっさりと、あまりにもきっぱりと切り捨てるようなその物言いは、歪虚とは違う狂気を見せようとでもいうような矜持を感じさせた。
実際……ハンスが正しいのだろう。パトリシアの呼び掛けにも、ハンスの挑発にも、使徒は何の反応も見せない。
ハンスが前に出ると、ルナリリルが譲るように再び魔導銃での射撃に切り替え、下がる。これで、ハンスはエリを巻き込まない形での次元斬を放つことが出来るようになった。空間ごと切り裂く一撃が使徒の全身を透過していくと、ハンス自身の攻撃力もあってマテリアルの塊であるその身体をぐらつかせるほどのダメージがそこに刻まれていった。
「でかい分狙いやすくはあるが……」
ルナリリルが銃口を向ける先。使徒はハンターたちの猛攻に、迎撃する方向では任務を全うできないとここでようやく判断したか、離脱しようという風に再びその身体を浮かび上がらせる。ルナリリルは合わせて銃口を上げて……。
「翼を狙うという訳にもいかんか。どうやって浮いてるんだあいつ」
ぼやきながらもそう判断すると、飛翔しての追跡、頭上を押さえる動きに切り替える。足から噴出するマテリアルは赤い翼の如き輝きだった。ハンスもまた、小型飛行翼アーマー「ダイダロス」を展開し追撃する。二人の攻撃を支援するように桜の幻影が舞った。パトリシアの支援である。
気を抜いたら守るべき対象が一瞬で殺されるという状況、前のめりな攻めにならざるを得なかった分受けた負傷もあるが、飛行対策も取っていた彼らは最終的には地力でこの戦いを制した。使徒はその存在を保つだけの力を失い、光となって消えていく。
「……」
結局使徒は最後まで、戦闘以外の何物にも興味も反応も示すことは無かった。そういうものだ……と理解しようとしても。
(ホームであるブルーの精霊さんと分かり合えないのハ、かなしぃ)
それがパトリシアの素直な気持ちだった。
……分かり合えない、と言えば。
「終わり、ましたか」
最後まで、出番を見出せなかったのだろう。少尉が、所在なさげに屋敷から姿を現す。
顔を向けるハンターたちに、少尉は視線を合わせようとはしなかった。
「貴方たちより弱い、か……。ええ。言われなくても、分かっていますよ……」
皮肉気に、少尉はそれだけを言った。何も出来なかった。何もしなかった。結局、判断を誤ったのだろうと。少尉は、ハンターたちに何を言うつもりもないようだった。
「パティは覚醒者デ、戦う力があっテ。いろいろあるゲド、良かったと思ってる」
パトリシアは少尉へと話しかける。
「ほだケド、何でもできるっテわけじゃナイ。声の届くトコハ限られてるシ、手ハ2つ。ダカラ、ミンナと一緒にがんばるノ。パティはパティにできるコト」
パトリシアが語る間、少尉は結局、彼女と視線を合わせることは、無かった。
「周りを見テ、みんなの声を聞いテ、自分の役割を見つけて」
訴える、その言葉は。しかし、実際にハンターとの会話の結果、何も出来ずに動けなくなった彼にどう、届くのだろうか。
──任務は、成功である。死者を出すことなく、目標だった対象の確保にも成功した。そのことに、地球統一政府からの礼は、後日正式に、届けられた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/26 08:29:35 |
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ブルーの天使に会いに(相談卓) パトリシア=K=ポラリス(ka5996) 人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2018/08/27 00:49:43 |