ゲスト
(ka0000)
【空蒼】少女とイクシード・アプリ
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/28 15:00
- 完成日
- 2018/08/30 13:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●イクシード・アプリ
怪しいものに手を出してはいけないし、それが一見どんなに魅力的に見えるものであっても、信じるべきではない。
それが、竜造寺冴子の信条であり、常識でもあった。
予鈴が鳴って、教師が来て朝のホームルームが始まるまでの数分間。
たったこれだけの時間でも、話題は配信されたハンターになれるというイクシード・アプリの話で持ちきりだった。
ここ最近立て続けに起きた事件によって公開された情報により、度々リアルブルーで起きていた失踪、神隠し事件の被害者の中に、異世界クリムゾンウエストに転移していた人物がいるのは既知の事実だ。
一時期はニュースなどにもなったのだ。知らないわけがない。
そして実しやかに世間に出回っている情報では、リアルブルー人は、皆クリムゾンウエストに行けばハンターになれる素質があるらしい。
ハンターというものそのものに対して、冴子は懐疑的だ。
その存在や理念が悪いとはいわないが、分不相応な力など、生き延びるためには選択肢がそれしかなかったなど、余程の事情が無い限り取るべきではないし、冴子自身取りたくはないと思っている。
過ぎた力は身を滅ぼす。甘い話には裏がある。
慎重な性格の冴子にとって警戒するのは当然のことであり、力を得られるというアプリを嬉々としてインストールする人間の心理が、理解できない。
もちろん、鳴りを潜めていたVOID残党が各地で暴れている今、襲われて身を守るためという理由で仕方なくアプリをインストールしたという状況なら理解できる。
実際、もしもの可能性を考え、懐疑的なスタンスを崩さない冴子自身も、アプリのインストール手段だけは頭に叩き込んでいるのだから。
しかしそれはやはり『本意ではない』のが前提であり、安易に力を得られるからと、怪しいアプリに手を出すべきではないと冴子は思うのだ。
だから、冴子はよりにもよって教室の中でアプリをインストールしようとするクラスメートに苦言を呈する。
「止めた方がいいわよ。アンインストールして元に戻れるかも分からないのに、手を出すべきじゃないわ。本当に差し迫っている状況ならともかく」
「VOIDが各地で暴れてるって緊急特番だってやってたじゃない。身を守るためにアプリに頼ることの何がいけないの?」
「本来私たちを守ってくれるはずだった強化人間だって、今じゃVOIDと同じように暴走してる。もう自分の身は自分で守らなきゃいけないのよ」
善意による冴子の助言に返されたのは、反感だった。
当然だ。
強化人間の暴走、VOID残党の蜂起、この二つの大きな事件によって、世間の治安は乱れに乱れている。
テレビやネットでは、あのアプリをインストールしたことによって命が助かった者たちの歓喜の声が飛び交っている。
……まるで、一人でも多くの人間にアプリをインストールさせようと、何かが舌なめずりをして待ち構えているかのように。
アプリをインストールする理由として出来過ぎた今の状況に、冴子は襲われることへの恐怖以上に、知らず取り返しのつかない落とし穴に足を踏み出しかけているかのような、不安を抱かずにはいられない。
とはいえ、例え怪しくても本当に力が手に入るのなら身を守るためにアプリに頼りたいと思う気持ちも理解はできる。
だから、冴子にできるのは、己のクラス委員長という立場を振りかざして、一時的に強権で押さえつけることだけだった。
「今はまだ、私たちは襲われたわけじゃない。少なくとも、今ここでやるようなことじゃないわ。第一、もうすぐ先生だって来るのよ。やるなら放課後、学校を出てからにしなさい。校内での携帯の操作は校則違反よ。看過できない。これ以上続けるなら先生に取り上げてもらうわよ」
さすがに没収されるのは嫌だったのか、アプリをインストールしようとしていたクラスメートたちはしぶしぶ中止して携帯をしまう。
その様子を見て安堵しながらも、冴子は悟っていた。
きっと放課後になれば、皆こぞってアプリをインストールするのだろう。
さすがにそこまではクラス委員長というだけでは口出しできないし、冴子にとっても彼ら彼女らにとっても、ただのクラスメート以外の関係ではないのだから。
だが、冴子は知らなかった。
続くと思っていた自分の日常が、もうすぐ壊れてしまうことを。
●VOIDの襲撃
本当に、突然の出来事だった。
轟音とともに校舎が大きく揺れ、窓ガラスが一斉に割れ、校舎は逃げ惑う生徒や教師たちの悲鳴が響く阿鼻叫喚の地獄絵図に変わった。
下を向けば、散った窓ガラスの破片や壊れた机の残骸に混じって、床に横たわる見慣れた誰かの無残な死体が嫌でも目に入る。
今や校舎のいたるところで、多くの人間が逃げ惑っていた。
穏やかで平凡な学校の風景が、たった数分で非日常に塗り替えられた中、冴子もまた必死に生存を目指して足掻いている。
アプリをインストールして抗戦する生徒や教師がぽつぽつと現れる中、未だに冴子は一般人のままだった。
どこもかしこも、見回せば深海魚のようにグロテスクなVOIDだらけ。
例え、冴子自身がアプリをインストールした誰かに助けられたとしても、冴子は決して誰かをアプリで守ろうとは考えなかった。
もちろん、後ろめたい気持ちはある。ないはずがない。冴子はクラス委員長で、本来なら避難誘導を行わなければならないのだから。
自分がアプリをインストールすれば助けられる人間がいるかもしれないのだ。実際に、そんな場面には何度も出くわした。
そのたびに、手はスマートフォンを探して彷徨って、しかし、結局手にすることはなかった。
どうしてもアプリに対する疑念が頭を離れない。
また、誰かが襲われているのが見えた。
助けてと叫んでいる。
距離的には冴子が一番近い。今すぐアプリをインストールすれば助けられるだろう。逡巡する。でも。
(ごめん、なさい……!)
見捨てて逃げる冴子に向けられた懇願が絶叫に変わった。
代わりに別の生徒が助けに入って、冴子を睨む。
どうして助けないのかと、憤慨するその目が語っていた。
VOIDと戦い始める生徒を残し、冴子はその場を逃げ出す。
(私にどうしろっていうのよ!)
たくさんの生徒たちが襲われていた。たくさんの生徒たちに助けを求められた。
多くの生徒がアプリをインストールして誰かを守ろうと戦っているのを見た。
冴子も彼らに倣い、アプリをインストールして戦うのがきっと正しいのだろう。情のある人間としては。
(でも、でもっ!)
それが、冴子にはできない。
疑り深い性格がアプリに頼ることをよしとせず、非常事態で曝け出された本能は、真っ先に冴子に自分の命を優先させた。
笑えるほどに、己の醜さを見せつけられる。
生存者たちが誰かを守るために戦う中、冴子は泣きながら、安全な場所を求めて逃げ続けた。
怪しいものに手を出してはいけないし、それが一見どんなに魅力的に見えるものであっても、信じるべきではない。
それが、竜造寺冴子の信条であり、常識でもあった。
予鈴が鳴って、教師が来て朝のホームルームが始まるまでの数分間。
たったこれだけの時間でも、話題は配信されたハンターになれるというイクシード・アプリの話で持ちきりだった。
ここ最近立て続けに起きた事件によって公開された情報により、度々リアルブルーで起きていた失踪、神隠し事件の被害者の中に、異世界クリムゾンウエストに転移していた人物がいるのは既知の事実だ。
一時期はニュースなどにもなったのだ。知らないわけがない。
そして実しやかに世間に出回っている情報では、リアルブルー人は、皆クリムゾンウエストに行けばハンターになれる素質があるらしい。
ハンターというものそのものに対して、冴子は懐疑的だ。
その存在や理念が悪いとはいわないが、分不相応な力など、生き延びるためには選択肢がそれしかなかったなど、余程の事情が無い限り取るべきではないし、冴子自身取りたくはないと思っている。
過ぎた力は身を滅ぼす。甘い話には裏がある。
慎重な性格の冴子にとって警戒するのは当然のことであり、力を得られるというアプリを嬉々としてインストールする人間の心理が、理解できない。
もちろん、鳴りを潜めていたVOID残党が各地で暴れている今、襲われて身を守るためという理由で仕方なくアプリをインストールしたという状況なら理解できる。
実際、もしもの可能性を考え、懐疑的なスタンスを崩さない冴子自身も、アプリのインストール手段だけは頭に叩き込んでいるのだから。
しかしそれはやはり『本意ではない』のが前提であり、安易に力を得られるからと、怪しいアプリに手を出すべきではないと冴子は思うのだ。
だから、冴子はよりにもよって教室の中でアプリをインストールしようとするクラスメートに苦言を呈する。
「止めた方がいいわよ。アンインストールして元に戻れるかも分からないのに、手を出すべきじゃないわ。本当に差し迫っている状況ならともかく」
「VOIDが各地で暴れてるって緊急特番だってやってたじゃない。身を守るためにアプリに頼ることの何がいけないの?」
「本来私たちを守ってくれるはずだった強化人間だって、今じゃVOIDと同じように暴走してる。もう自分の身は自分で守らなきゃいけないのよ」
善意による冴子の助言に返されたのは、反感だった。
当然だ。
強化人間の暴走、VOID残党の蜂起、この二つの大きな事件によって、世間の治安は乱れに乱れている。
テレビやネットでは、あのアプリをインストールしたことによって命が助かった者たちの歓喜の声が飛び交っている。
……まるで、一人でも多くの人間にアプリをインストールさせようと、何かが舌なめずりをして待ち構えているかのように。
アプリをインストールする理由として出来過ぎた今の状況に、冴子は襲われることへの恐怖以上に、知らず取り返しのつかない落とし穴に足を踏み出しかけているかのような、不安を抱かずにはいられない。
とはいえ、例え怪しくても本当に力が手に入るのなら身を守るためにアプリに頼りたいと思う気持ちも理解はできる。
だから、冴子にできるのは、己のクラス委員長という立場を振りかざして、一時的に強権で押さえつけることだけだった。
「今はまだ、私たちは襲われたわけじゃない。少なくとも、今ここでやるようなことじゃないわ。第一、もうすぐ先生だって来るのよ。やるなら放課後、学校を出てからにしなさい。校内での携帯の操作は校則違反よ。看過できない。これ以上続けるなら先生に取り上げてもらうわよ」
さすがに没収されるのは嫌だったのか、アプリをインストールしようとしていたクラスメートたちはしぶしぶ中止して携帯をしまう。
その様子を見て安堵しながらも、冴子は悟っていた。
きっと放課後になれば、皆こぞってアプリをインストールするのだろう。
さすがにそこまではクラス委員長というだけでは口出しできないし、冴子にとっても彼ら彼女らにとっても、ただのクラスメート以外の関係ではないのだから。
だが、冴子は知らなかった。
続くと思っていた自分の日常が、もうすぐ壊れてしまうことを。
●VOIDの襲撃
本当に、突然の出来事だった。
轟音とともに校舎が大きく揺れ、窓ガラスが一斉に割れ、校舎は逃げ惑う生徒や教師たちの悲鳴が響く阿鼻叫喚の地獄絵図に変わった。
下を向けば、散った窓ガラスの破片や壊れた机の残骸に混じって、床に横たわる見慣れた誰かの無残な死体が嫌でも目に入る。
今や校舎のいたるところで、多くの人間が逃げ惑っていた。
穏やかで平凡な学校の風景が、たった数分で非日常に塗り替えられた中、冴子もまた必死に生存を目指して足掻いている。
アプリをインストールして抗戦する生徒や教師がぽつぽつと現れる中、未だに冴子は一般人のままだった。
どこもかしこも、見回せば深海魚のようにグロテスクなVOIDだらけ。
例え、冴子自身がアプリをインストールした誰かに助けられたとしても、冴子は決して誰かをアプリで守ろうとは考えなかった。
もちろん、後ろめたい気持ちはある。ないはずがない。冴子はクラス委員長で、本来なら避難誘導を行わなければならないのだから。
自分がアプリをインストールすれば助けられる人間がいるかもしれないのだ。実際に、そんな場面には何度も出くわした。
そのたびに、手はスマートフォンを探して彷徨って、しかし、結局手にすることはなかった。
どうしてもアプリに対する疑念が頭を離れない。
また、誰かが襲われているのが見えた。
助けてと叫んでいる。
距離的には冴子が一番近い。今すぐアプリをインストールすれば助けられるだろう。逡巡する。でも。
(ごめん、なさい……!)
見捨てて逃げる冴子に向けられた懇願が絶叫に変わった。
代わりに別の生徒が助けに入って、冴子を睨む。
どうして助けないのかと、憤慨するその目が語っていた。
VOIDと戦い始める生徒を残し、冴子はその場を逃げ出す。
(私にどうしろっていうのよ!)
たくさんの生徒たちが襲われていた。たくさんの生徒たちに助けを求められた。
多くの生徒がアプリをインストールして誰かを守ろうと戦っているのを見た。
冴子も彼らに倣い、アプリをインストールして戦うのがきっと正しいのだろう。情のある人間としては。
(でも、でもっ!)
それが、冴子にはできない。
疑り深い性格がアプリに頼ることをよしとせず、非常事態で曝け出された本能は、真っ先に冴子に自分の命を優先させた。
笑えるほどに、己の醜さを見せつけられる。
生存者たちが誰かを守るために戦う中、冴子は泣きながら、安全な場所を求めて逃げ続けた。
リプレイ本文
●校舎前にて
駆けつけてきたハンターたちが、状況を理解して取った反応は様々だった。
「へぇー、こいつは傑作だ! 本当に誰でも強化人間になっているじゃないか! うんうん、向こうの連中も面白いものを作ったもんだね! 後で是非そのスマホを貸してもらえないかな? 良いだろう良いよねえボクも非常に興味があるんだ!」
フワ ハヤテ(ka0004)がイクシード・アプリをインストールした生徒たちを見つけて話しかけるが、生徒たちはそれどころではないようだ。
「強化人間の暴走の次は玩具ですか……。やれやれ……休む暇もありませんね」
ため息をついた鹿東 悠(ka0725)は、それでも意識を切り替え事前に行っておいた行動をもう一度思い返した。
作業効率化を図るため、あらかじめ学校の間取り図を入手しておき、校庭か校門の前に要救助者の回収と、予測されるアプリ使用者を拘束及び輸送する手段と要員を要請しておいたのだ。
「イクシードアプリ、か。予想以上に広まっている様子だな。人の心の弱さを利用か、ヘドが出る」
味方のハンターたちに名前を名乗りながら、シルヴェイラ(ka0726)は打ち合わせた通りに、各階を担当分けして動き出す。
シルヴェイラの担当は二階なので真っ先に目指していく。
イクシード・アプリをインストールした者たちも要救助対象だと考えているが、今は戦う力のない者を最優先に保護することが先決と考えている。
「上から順に下へと掃討していくようにしましょうか……。下からと上から、両方から圧力をかければ何とかなるでしょう……」
校舎の外から三階にある、ガラスが割れた窓ガラスを目視したサクラ・エルフリード(ka2598)は、魔箒に乘ると空へ舞い上がり、内部へ突入する。
まずは真っ先に屋上を一度確認し、安全を確かめた後に三階の一般人保護と校舎に蔓延る狂気VOIDを退治するつもりだ。
「優勢に戦ってるとはいえ、ロクな装備がないしスキルも尽きたら自己防衛すらできねェだろ。勇気と無謀を履き違えるのは見過ごせないぜェ。あと急所へのマグレ当たりで即死するだろ……」
奮戦する生徒たちも、ハンターであるシガレット=ウナギパイ(ka2884)にしてみれば危なかっしいことこの上ない。
安全な教室かどこかに避難してもらいのが本音だった。
「待て、サクラ。俺も……くそ、このタイミングで飛べばいい的か」
校舎に突入して階段から三階を目指そうとしていた鳳凰院ひりょ(ka3744)は、引き返してサクラの後を追おうとしたものの、現れたVOIDを見て空を飛ぶサクラに興味を抱かないよう注意を引きながら、自分は改めて階段で三階を目指すことにした。
瓦礫などの移動を阻害しそうな障害物は魔箒で天井に気を付けつつ飛行して乗り越え、敵から逃げる一般人を見かけたらその場へ急行するつもりだ。
「またも面倒なものを仕向けてくれるじゃないか。だがこれだけは覚えておけ。貴様らが狼藉を続ければ続けるほど貴様ら自身の首を絞めることになるとな」
イクシード・アプリなるものが十分な脅威であることは火を見るよりも明らかだった。
しかしその情報はまだ謎に包まれたままだ。
今度の事件を契機にその謎の手掛かりを探す、それがコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が己に定めた今回の個人的目標だ。
霧島 百舌鳥(ka6287)は生存者のうち、優先的にアプリを使用していない者を救助するつもりだった。
ほとんどの生徒や教師は自衛のためにアプリを使用するだろうが、中にはしていない者もいないとは限らないと考えたからだ。
さあ、戦いの始まりだ!
●一階の戦い
担当するのはハヤテ、悠、シガレット、コーネリアの四人だ。
トランシーバーで連絡を取れるよう、予め全員周波数を揃えたうえで校舎内に踏み込んだ。
(アプリに対する興味は尽きないが、それはそれとしてまず歪虚を片付けないと始まらないね。分かっているよ。分かっているとも)
ハヤテは一階から仲間とともに突入し、敵を排除しながら階段の確保を目指す。
廊下の端と端階段があるので、まずはそのうちの一つを押さえるのだ。
思った以上に廊下の状態が酷く、浮いて階段まで移動した方がいいと判断する。
階段に着いたので廊下の床に降り、階段確保係として一階と二回から降りてくる敵がいないか見張り、近づくVOIDを待ち構える。
確保出来次第各味方に伝えるためにも徹底して排除することが求められている。
近付いてきたVOIDたちを五本の魔法の矢で迎撃し、外すことなく射抜き地に叩き落とす。
「あそこで戦ってるのは……ここの生徒か」
男子生徒らしき少年を見かけ、彼が応戦しているVOIDを優先目標に一直線に伸びる雷撃を呼び出し撃ち抜く。
基本近付かれる前に倒したいところだが、いかんせん数が多いのでそういうわけにもいかず、時折繰り出される反撃や他のVOIDの横槍を蒼機盾で受け流していく。
どうしても受け流せない場面も出てくるので、時折ポーションで回復も行った。
「ハンターが救助にきた! 道を開けてくれ!」
シガレットが声を張り上げるものの、力を得て興奮している生徒や教師たちは目の前のVOIDを倒すことを優先しようとしている。
気持ちは分からなくもないので、シガレットも説得よりVOIDの殲滅を優先して安全確保を急ぐことにした。
周囲の物事を立体的に把握したシガレットは、あちこちで生き残りが戦っている気配を察知し、自分たちがVOIDにとって脅威的存在であることを示し警戒させることで、生徒たちの安全を図った。
無数の闇の刃を作り、VOIDたちを串刺しにしていく。
それが届かない遠くの敵には影が固まったかのような黒い塊を飛ばし、衝撃で壁に叩きつけた。
「こちら一階制圧班だ。生存者を何人か見つけたが、全員アプリをインストール済みらしい。一応治療しておくぞ」
トランシーバーで他の階を受け持つ味方に伝えると、精霊に祈りを捧げることによりマテリアルの力を引き出し、柔らかい光で生徒や教師たちの傷を包み、癒していく。
いざとなれば祈りの力を強く広げる高位法術を使う用意もしている。
死人が蘇るほどの奇跡は持ち合わせてなくとも、死んでさえいなければ何とかできる自信はあった。
「それにしても、数が多いな。まあ問題ないが」
ライフルで的確にVOIDを撃ち抜きなら、コーネリアは一人ごちる。
時間をかけてマテリアルを収束し、さらに発射した弾丸をマテリアルで操作する。
変則的な弾道を描きながら次々に敵を撃ち抜いていく弾丸は咆哮のような銃声を響かせながら、階段付近に固まったVOIDたちを蹴散らす。
離散した敵にもコーネリアは容赦しない。
周囲に粉雪のようなオーラが舞い銃口に集うと、冷気に還元されたマテリアルが弾丸に集束されて撃ち出された。
VOIDに直撃した弾丸は瞬く間に冷気が飛散し、氷漬けにしていく。
不規則な動きでVOIDが数匹近付いてきても、コーネリアは慌てなかった。
全身のマテリアルを練り、一気に放出することで一度に殴り飛ばしたのだ。
「一階の生存者はあらかた確認できた。これよりVOIDを殲滅し二階の応援に向かう」
通信で全員に伝えると、コーネリアは各メンバーと連絡を取り合いながら上階へと探索範囲を広げていく。
上階に向かうにつれて敵が少なくなっているようだから、生き残りは上の方が多そうだ。
比較的安全なら、まだアプリをインストールしていない者が残っている可能性もあるだろう。
「情報提供ありがとうございます。君たちは校舎の外に退避していなさい」
イクシード・アプリをインストールしてVOIDと戦っていた生存者に対し、悠は確保したルートから退避を指示する。
一番VOIDが多そうな一階はあらかた片付け終え、無線での情報共有を行いつつ、悠は放送室を目指すことにした。試すにはちょうどいい頃だろう。
二階で戦う仲間たちへの応援は他の三人に任せ、悠は一路放送室を目指した。
無事放送室が見つかったので、機材がまだ使えることを確認し、全校放送で指示を出す。
放送に引き寄せられ現れたVOIDたちを悠は己のマテリアルを炎のように燃やし、その輝きでもって誘引を試行する。
蒼機剣の刀身を切り離し、マテリアルの線で結んで鞭状にし、試作振動刀と合わせて斬撃の嵐を繰り出しVOIDを屠っていく。
悠に助けられた生徒たちは共闘を申し出てきたが、悠は断った。
「力の使い方を知らない素人が戦場に居ても邪魔だ。さっさと外の連中に保護して貰うことです。それに……」
君たちがなったのはハンターではない。
彼らにとって酷過ぎるその事実を口にするのは、辛うじて堪えた悠だった。
●二階の戦い
一階ほどではないが、二階でも戦いは起きていた。
生徒たちの何人かがVOIDと戦っている。当然、アプリをインストールした生徒たちだ。
その場では無理をしない様にと声をかけるにとどめ、シルヴェイラは百舌鳥と一緒に先を急ぐ。
がたっ、と教室から物音がし、教室に入ると一匹のVOIDがいた。
とりあえず銃撃を行いVOIDを倒すと、教卓の裏側から女子生徒が出てきた。
「も、もしかして、ハンター……? 助けに、来てくれたの?」
「よく頑張った。偉いな」
少女は竜造寺冴子と名乗った。
依頼内容から鑑みると、ここで戦えている者はイクシードアプリに手を出していることは間違いない。
この状況ではそれを責める事は出来ない。
だが、この状況でなお流されずにインストールを思いとどまった者がいたならばそれはとても勇気がいる事だったろうとシルヴェイラは思う。
そのまま冴子の護衛を百舌鳥に任せ、シルヴェイラはこの階の索敵と殲滅を行う。
生存者たちを襲っている敵を優先して攻撃し、少しでも早く戦闘を終わらせる。
「悪いがしばらくついて来てくれ。まだ安全とは言い切れない」
シルヴェイラはマテリアルを集束し、エネルギーに変換することで機導術の出力を高め、扇状に炎の力を持った破壊エネルギーを噴射してVOIDたちを焼き殺した。
他にも、散発的に現れる個体に対しては光でできた三角形を出し、その頂点一つ一つから伸びた光で貫いていく。
マテリアルを自身に直接集束したうえで継続して放出することで防御膜を形成することもできるので、囲まれても怖くない。
「……えっと。ハンターなんですよね?」
「ボクはしがない探偵さ。ハンターでもあるけれど! 百舌鳥でも探偵さんでも好きに呼んでくれたまえ!」
呆気に取られている冴子に、さっそく百舌鳥は疑問をぶつけてみることにした。
アプリをインストールすれば戦うことができるのは分かっていたのに、どうしてそうしなかったのかと。
「……アプリが、信用できなかったからです」
答えを聞いた百舌鳥はに、と笑った。
「この状況ですら君は猜疑心を失わないのか! いや、大変素晴らしい! 冴子君。君はとても正しい判断をした。なんせあのアプリは覚醒者になれるものではないからねぇ!」
ケラケラと笑う百舌鳥だが、冴子は話についていけずに唖然とした。
冴子への攻撃は空間のベクトルを捻じ曲げて自分に向けることでシャットアウトし、百舌鳥は直衛を務める。
隙あらば槍や盾を叩きつけ、弾き飛ばし、冴子の避難誘導をやりやすくする。
「君は安全さ。少なくともボクが立っているうちは! でも、荒事は専門外なんだよ、ボクはあくまで探偵だからねぇ!」
上段から振り下ろす渾身の一撃でVOIDを屠るのを見た冴子は、信じられないでもいうような驚いた表情をしていたが。
●三階の戦い
下の階とは違い、三階は比較的生存者が多いようだった。
トランシーバーで情報を共有しながら、ひりょは生き残っている一般人たちを回収していく。
幸い、暴走などをしていることもなく大人しい者ばかりだ。
VOIDの姿も少ないので、この階にいるのはアプリをインストールしたはいいがあまり戦いには向かなかった者たちなのかもしれない。
散発的に現れるVOIDを、遠くにいて単体なら魔法の矢で狙い撃ち、複数ならば一直線に伸びる雷撃を呼び出し纏めて撃ち抜く。
距離が近くて単体ならば生体マテリアルを武器に伝達し、強化した降魔刀で斬り捨てる。
複数に近寄られた時は少し苦戦したものの、サクラの助けもあり何とかなった。
戦いながら屋上に向かい、扉を開けて階段から外を確認したが、誰かいるような様子はなかった。
あらかたVOIDを片付け、三階の安全を確認できたので、戦っていた生存者たちを伴い仲間と合流するため二階へ降りる。
幸い、すぐに冴子を連れたシルヴェイラと百舌鳥のペアと合流することができた。
二人から冴子がアプリをインストールしていないことを知らされ、ひりょは感心して誘惑に負けず必死に耐えたことを褒めた。
その選択肢が決して間違っていなかったことをちゃんと認めて、冴子を安心させたのだ。
さらに全員が合流すると、脱出しようとした一行を狙い、生き残りのVOIDたちが不規則な移動を混ぜながら追いすがってくる。
生存者たちが一か所に集まったことで、引き寄せられてしまったようだ。
「傷つけさせはしませんよ……! 光の波動よ、悪しき物を打ち倒せ……セイクリッドフラッシュ……!」
VOIDたちが群がって乱戦気味になればサクラから光の波動が周囲に広がり、周りのVOIDたちのみに衝撃とダメージを与えて打ち倒す。
「追いかけたりもさせませんよ……。束縛させて貰います、ブルガトリオ……!」
一階正面の昇降口に続く階段を目指す一行を追いかけてくるVOIDたちに対しては、無数の闇の刃を作り出し、次々に串刺しにしていく。
後は味方が動けないVOIDたちを始末するだけの簡単なお仕事だ。
それでも不規則な動きを見せるVOIDたちは、意表をついて数匹が警戒陣を抜けてきた。
襲われそうになる一般人の前に割り込み、サクラは盾で防御を行う。
三階から変わらずひりょと連携しつつ行動し、マテリアルを聖なる光の防御壁として変成させ、的確にVOIDの攻撃を防いでいく。
こうして残っていたVOIDたちも全滅させ、ハンターたちは数多くの生存者を助けることに成功したのだった。
●全てが終わって
校舎の外に出ると、何台もの救急車や消防車、パトカーといった車が校庭や校門前に止められていた。
呆ける冴子に、もし闇と対峙する術を学ぶ気があるのなら……ハンターズソサエティの扉を叩いてみなさいと悠がアドバイスをした。
他の生存者には、シガレットがイグシードアプリの力は極力使わないほうがいいことを理由を添えて説明している。
助かったのだ。
ようやく実感が沸いた冴子は、今頃になって腰が抜け、立てなくなるのだった。
駆けつけてきたハンターたちが、状況を理解して取った反応は様々だった。
「へぇー、こいつは傑作だ! 本当に誰でも強化人間になっているじゃないか! うんうん、向こうの連中も面白いものを作ったもんだね! 後で是非そのスマホを貸してもらえないかな? 良いだろう良いよねえボクも非常に興味があるんだ!」
フワ ハヤテ(ka0004)がイクシード・アプリをインストールした生徒たちを見つけて話しかけるが、生徒たちはそれどころではないようだ。
「強化人間の暴走の次は玩具ですか……。やれやれ……休む暇もありませんね」
ため息をついた鹿東 悠(ka0725)は、それでも意識を切り替え事前に行っておいた行動をもう一度思い返した。
作業効率化を図るため、あらかじめ学校の間取り図を入手しておき、校庭か校門の前に要救助者の回収と、予測されるアプリ使用者を拘束及び輸送する手段と要員を要請しておいたのだ。
「イクシードアプリ、か。予想以上に広まっている様子だな。人の心の弱さを利用か、ヘドが出る」
味方のハンターたちに名前を名乗りながら、シルヴェイラ(ka0726)は打ち合わせた通りに、各階を担当分けして動き出す。
シルヴェイラの担当は二階なので真っ先に目指していく。
イクシード・アプリをインストールした者たちも要救助対象だと考えているが、今は戦う力のない者を最優先に保護することが先決と考えている。
「上から順に下へと掃討していくようにしましょうか……。下からと上から、両方から圧力をかければ何とかなるでしょう……」
校舎の外から三階にある、ガラスが割れた窓ガラスを目視したサクラ・エルフリード(ka2598)は、魔箒に乘ると空へ舞い上がり、内部へ突入する。
まずは真っ先に屋上を一度確認し、安全を確かめた後に三階の一般人保護と校舎に蔓延る狂気VOIDを退治するつもりだ。
「優勢に戦ってるとはいえ、ロクな装備がないしスキルも尽きたら自己防衛すらできねェだろ。勇気と無謀を履き違えるのは見過ごせないぜェ。あと急所へのマグレ当たりで即死するだろ……」
奮戦する生徒たちも、ハンターであるシガレット=ウナギパイ(ka2884)にしてみれば危なかっしいことこの上ない。
安全な教室かどこかに避難してもらいのが本音だった。
「待て、サクラ。俺も……くそ、このタイミングで飛べばいい的か」
校舎に突入して階段から三階を目指そうとしていた鳳凰院ひりょ(ka3744)は、引き返してサクラの後を追おうとしたものの、現れたVOIDを見て空を飛ぶサクラに興味を抱かないよう注意を引きながら、自分は改めて階段で三階を目指すことにした。
瓦礫などの移動を阻害しそうな障害物は魔箒で天井に気を付けつつ飛行して乗り越え、敵から逃げる一般人を見かけたらその場へ急行するつもりだ。
「またも面倒なものを仕向けてくれるじゃないか。だがこれだけは覚えておけ。貴様らが狼藉を続ければ続けるほど貴様ら自身の首を絞めることになるとな」
イクシード・アプリなるものが十分な脅威であることは火を見るよりも明らかだった。
しかしその情報はまだ謎に包まれたままだ。
今度の事件を契機にその謎の手掛かりを探す、それがコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が己に定めた今回の個人的目標だ。
霧島 百舌鳥(ka6287)は生存者のうち、優先的にアプリを使用していない者を救助するつもりだった。
ほとんどの生徒や教師は自衛のためにアプリを使用するだろうが、中にはしていない者もいないとは限らないと考えたからだ。
さあ、戦いの始まりだ!
●一階の戦い
担当するのはハヤテ、悠、シガレット、コーネリアの四人だ。
トランシーバーで連絡を取れるよう、予め全員周波数を揃えたうえで校舎内に踏み込んだ。
(アプリに対する興味は尽きないが、それはそれとしてまず歪虚を片付けないと始まらないね。分かっているよ。分かっているとも)
ハヤテは一階から仲間とともに突入し、敵を排除しながら階段の確保を目指す。
廊下の端と端階段があるので、まずはそのうちの一つを押さえるのだ。
思った以上に廊下の状態が酷く、浮いて階段まで移動した方がいいと判断する。
階段に着いたので廊下の床に降り、階段確保係として一階と二回から降りてくる敵がいないか見張り、近づくVOIDを待ち構える。
確保出来次第各味方に伝えるためにも徹底して排除することが求められている。
近付いてきたVOIDたちを五本の魔法の矢で迎撃し、外すことなく射抜き地に叩き落とす。
「あそこで戦ってるのは……ここの生徒か」
男子生徒らしき少年を見かけ、彼が応戦しているVOIDを優先目標に一直線に伸びる雷撃を呼び出し撃ち抜く。
基本近付かれる前に倒したいところだが、いかんせん数が多いのでそういうわけにもいかず、時折繰り出される反撃や他のVOIDの横槍を蒼機盾で受け流していく。
どうしても受け流せない場面も出てくるので、時折ポーションで回復も行った。
「ハンターが救助にきた! 道を開けてくれ!」
シガレットが声を張り上げるものの、力を得て興奮している生徒や教師たちは目の前のVOIDを倒すことを優先しようとしている。
気持ちは分からなくもないので、シガレットも説得よりVOIDの殲滅を優先して安全確保を急ぐことにした。
周囲の物事を立体的に把握したシガレットは、あちこちで生き残りが戦っている気配を察知し、自分たちがVOIDにとって脅威的存在であることを示し警戒させることで、生徒たちの安全を図った。
無数の闇の刃を作り、VOIDたちを串刺しにしていく。
それが届かない遠くの敵には影が固まったかのような黒い塊を飛ばし、衝撃で壁に叩きつけた。
「こちら一階制圧班だ。生存者を何人か見つけたが、全員アプリをインストール済みらしい。一応治療しておくぞ」
トランシーバーで他の階を受け持つ味方に伝えると、精霊に祈りを捧げることによりマテリアルの力を引き出し、柔らかい光で生徒や教師たちの傷を包み、癒していく。
いざとなれば祈りの力を強く広げる高位法術を使う用意もしている。
死人が蘇るほどの奇跡は持ち合わせてなくとも、死んでさえいなければ何とかできる自信はあった。
「それにしても、数が多いな。まあ問題ないが」
ライフルで的確にVOIDを撃ち抜きなら、コーネリアは一人ごちる。
時間をかけてマテリアルを収束し、さらに発射した弾丸をマテリアルで操作する。
変則的な弾道を描きながら次々に敵を撃ち抜いていく弾丸は咆哮のような銃声を響かせながら、階段付近に固まったVOIDたちを蹴散らす。
離散した敵にもコーネリアは容赦しない。
周囲に粉雪のようなオーラが舞い銃口に集うと、冷気に還元されたマテリアルが弾丸に集束されて撃ち出された。
VOIDに直撃した弾丸は瞬く間に冷気が飛散し、氷漬けにしていく。
不規則な動きでVOIDが数匹近付いてきても、コーネリアは慌てなかった。
全身のマテリアルを練り、一気に放出することで一度に殴り飛ばしたのだ。
「一階の生存者はあらかた確認できた。これよりVOIDを殲滅し二階の応援に向かう」
通信で全員に伝えると、コーネリアは各メンバーと連絡を取り合いながら上階へと探索範囲を広げていく。
上階に向かうにつれて敵が少なくなっているようだから、生き残りは上の方が多そうだ。
比較的安全なら、まだアプリをインストールしていない者が残っている可能性もあるだろう。
「情報提供ありがとうございます。君たちは校舎の外に退避していなさい」
イクシード・アプリをインストールしてVOIDと戦っていた生存者に対し、悠は確保したルートから退避を指示する。
一番VOIDが多そうな一階はあらかた片付け終え、無線での情報共有を行いつつ、悠は放送室を目指すことにした。試すにはちょうどいい頃だろう。
二階で戦う仲間たちへの応援は他の三人に任せ、悠は一路放送室を目指した。
無事放送室が見つかったので、機材がまだ使えることを確認し、全校放送で指示を出す。
放送に引き寄せられ現れたVOIDたちを悠は己のマテリアルを炎のように燃やし、その輝きでもって誘引を試行する。
蒼機剣の刀身を切り離し、マテリアルの線で結んで鞭状にし、試作振動刀と合わせて斬撃の嵐を繰り出しVOIDを屠っていく。
悠に助けられた生徒たちは共闘を申し出てきたが、悠は断った。
「力の使い方を知らない素人が戦場に居ても邪魔だ。さっさと外の連中に保護して貰うことです。それに……」
君たちがなったのはハンターではない。
彼らにとって酷過ぎるその事実を口にするのは、辛うじて堪えた悠だった。
●二階の戦い
一階ほどではないが、二階でも戦いは起きていた。
生徒たちの何人かがVOIDと戦っている。当然、アプリをインストールした生徒たちだ。
その場では無理をしない様にと声をかけるにとどめ、シルヴェイラは百舌鳥と一緒に先を急ぐ。
がたっ、と教室から物音がし、教室に入ると一匹のVOIDがいた。
とりあえず銃撃を行いVOIDを倒すと、教卓の裏側から女子生徒が出てきた。
「も、もしかして、ハンター……? 助けに、来てくれたの?」
「よく頑張った。偉いな」
少女は竜造寺冴子と名乗った。
依頼内容から鑑みると、ここで戦えている者はイクシードアプリに手を出していることは間違いない。
この状況ではそれを責める事は出来ない。
だが、この状況でなお流されずにインストールを思いとどまった者がいたならばそれはとても勇気がいる事だったろうとシルヴェイラは思う。
そのまま冴子の護衛を百舌鳥に任せ、シルヴェイラはこの階の索敵と殲滅を行う。
生存者たちを襲っている敵を優先して攻撃し、少しでも早く戦闘を終わらせる。
「悪いがしばらくついて来てくれ。まだ安全とは言い切れない」
シルヴェイラはマテリアルを集束し、エネルギーに変換することで機導術の出力を高め、扇状に炎の力を持った破壊エネルギーを噴射してVOIDたちを焼き殺した。
他にも、散発的に現れる個体に対しては光でできた三角形を出し、その頂点一つ一つから伸びた光で貫いていく。
マテリアルを自身に直接集束したうえで継続して放出することで防御膜を形成することもできるので、囲まれても怖くない。
「……えっと。ハンターなんですよね?」
「ボクはしがない探偵さ。ハンターでもあるけれど! 百舌鳥でも探偵さんでも好きに呼んでくれたまえ!」
呆気に取られている冴子に、さっそく百舌鳥は疑問をぶつけてみることにした。
アプリをインストールすれば戦うことができるのは分かっていたのに、どうしてそうしなかったのかと。
「……アプリが、信用できなかったからです」
答えを聞いた百舌鳥はに、と笑った。
「この状況ですら君は猜疑心を失わないのか! いや、大変素晴らしい! 冴子君。君はとても正しい判断をした。なんせあのアプリは覚醒者になれるものではないからねぇ!」
ケラケラと笑う百舌鳥だが、冴子は話についていけずに唖然とした。
冴子への攻撃は空間のベクトルを捻じ曲げて自分に向けることでシャットアウトし、百舌鳥は直衛を務める。
隙あらば槍や盾を叩きつけ、弾き飛ばし、冴子の避難誘導をやりやすくする。
「君は安全さ。少なくともボクが立っているうちは! でも、荒事は専門外なんだよ、ボクはあくまで探偵だからねぇ!」
上段から振り下ろす渾身の一撃でVOIDを屠るのを見た冴子は、信じられないでもいうような驚いた表情をしていたが。
●三階の戦い
下の階とは違い、三階は比較的生存者が多いようだった。
トランシーバーで情報を共有しながら、ひりょは生き残っている一般人たちを回収していく。
幸い、暴走などをしていることもなく大人しい者ばかりだ。
VOIDの姿も少ないので、この階にいるのはアプリをインストールしたはいいがあまり戦いには向かなかった者たちなのかもしれない。
散発的に現れるVOIDを、遠くにいて単体なら魔法の矢で狙い撃ち、複数ならば一直線に伸びる雷撃を呼び出し纏めて撃ち抜く。
距離が近くて単体ならば生体マテリアルを武器に伝達し、強化した降魔刀で斬り捨てる。
複数に近寄られた時は少し苦戦したものの、サクラの助けもあり何とかなった。
戦いながら屋上に向かい、扉を開けて階段から外を確認したが、誰かいるような様子はなかった。
あらかたVOIDを片付け、三階の安全を確認できたので、戦っていた生存者たちを伴い仲間と合流するため二階へ降りる。
幸い、すぐに冴子を連れたシルヴェイラと百舌鳥のペアと合流することができた。
二人から冴子がアプリをインストールしていないことを知らされ、ひりょは感心して誘惑に負けず必死に耐えたことを褒めた。
その選択肢が決して間違っていなかったことをちゃんと認めて、冴子を安心させたのだ。
さらに全員が合流すると、脱出しようとした一行を狙い、生き残りのVOIDたちが不規則な移動を混ぜながら追いすがってくる。
生存者たちが一か所に集まったことで、引き寄せられてしまったようだ。
「傷つけさせはしませんよ……! 光の波動よ、悪しき物を打ち倒せ……セイクリッドフラッシュ……!」
VOIDたちが群がって乱戦気味になればサクラから光の波動が周囲に広がり、周りのVOIDたちのみに衝撃とダメージを与えて打ち倒す。
「追いかけたりもさせませんよ……。束縛させて貰います、ブルガトリオ……!」
一階正面の昇降口に続く階段を目指す一行を追いかけてくるVOIDたちに対しては、無数の闇の刃を作り出し、次々に串刺しにしていく。
後は味方が動けないVOIDたちを始末するだけの簡単なお仕事だ。
それでも不規則な動きを見せるVOIDたちは、意表をついて数匹が警戒陣を抜けてきた。
襲われそうになる一般人の前に割り込み、サクラは盾で防御を行う。
三階から変わらずひりょと連携しつつ行動し、マテリアルを聖なる光の防御壁として変成させ、的確にVOIDの攻撃を防いでいく。
こうして残っていたVOIDたちも全滅させ、ハンターたちは数多くの生存者を助けることに成功したのだった。
●全てが終わって
校舎の外に出ると、何台もの救急車や消防車、パトカーといった車が校庭や校門前に止められていた。
呆ける冴子に、もし闇と対峙する術を学ぶ気があるのなら……ハンターズソサエティの扉を叩いてみなさいと悠がアドバイスをした。
他の生存者には、シガレットがイグシードアプリの力は極力使わないほうがいいことを理由を添えて説明している。
助かったのだ。
ようやく実感が沸いた冴子は、今頃になって腰が抜け、立てなくなるのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鹿東 悠(ka0725) 人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/08/28 09:22:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/24 23:38:50 |