ゲスト
(ka0000)
【空蒼】光り輝く翼の迎え
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/28 07:30
- 完成日
- 2018/09/01 03:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
天使を想像してから上を見上げるといい。
脳内で理想化された理想像より、ずっと強く正しく美しいものが見えるはずだ。
それが己を滅ぼすものであっても、天使であることには変わりがない。
●狂信者の視点
Hと大書された屋上発着場に、激突するような勢いでヘリコプターが停止した。
最初に降り立ったのは重武装の精鋭だ。
VOIDもテロリストも見逃さない目つきで警戒し、安全を確認して初めて合図を送る。
「ありがとうございます」
20前後の女性が姿を現す。
身に纏う装束はカソックの要素もあるものの、カソックというには華やかすぎ実用的過ぎた。
兵士の手を借りずにヘリコプターから飛び降りる。
特に鍛えているようにも見えないのに、装束の裾も淡い色をした髪も揺れすらしなかった。
「お待ちしておりました」
大病院のトップが深く頭を下げる。
兵士から殺気に近いものを向けられているからだけではない。
「歪虚……VOIDとの戦いで傷ついた方を癒やすのは我々の義務です。お手数おかけしますが、案内をよろしくお願いいたします」
綺麗な英語を使う彼女は歪虚必ずぶっ殺す教団こと聖堂教会の司祭であり、優れた治癒術の使い手だった。
10分後。
重軽傷者をまとめて癒やした司祭は再び空の上にいた。
「1日5件を超えると堪えますね」
「後1件です。不調なら次回に回しますが」
護衛も疲労を隠せていない。
非覚醒者が高位覚醒者についていくのは、鍛え抜かれた軍人であっても厳しいのだ。
「スキルは全部使い切りたいですから。最後の1件は基地の近くですしね。ヒーリングスフィアを使った後に休憩をぉっ!?」
機内が90度近く傾いた。
ベルトに締め付けられ、ふぐぅと情け無い音が漏れる。
すぐに角度が元に戻るが全く安定しない。
「そんな、神様っ」
パイロットが悲痛な叫びをあげている。
対VOID戦の初期から戦い抜いた強者なのに、初陣の新兵を思わせる怯えっぷりだ。
護衛が外を見る。
敵の姿はどこにも見えない。
パイロットを確かめても、何度かくらったことのある狂気の状態異常攻撃と印象が違い過ぎた。
「え?」
緑の瞳が瞬いた。
司祭が目を細めて遠くに視点をあわせると、地球連合宇宙軍の基地を光り輝く何かが襲っていた。
「アニメの天使?」
それは、彼女が知っている精霊とは違い過ぎた。
体を構成しているのは純粋な正マテリアル。
知り合いの精霊とは次元が異なる強さで、しかし負マテリアルに対する敵意は共通している。
慌てて振り返り護衛に問いかける。
「すみません、基地から何か連絡はありませんか。VOIDが襲って来たとか」
「基地周辺のVOID掃討は完了しました。新たに出現したとの情報もありません」
もう1人の護衛はパイロットを説得し落ち着かせようとしている。
通信機の設定が切り替わり、基地からの情報が直接届くようになる。
「強化人間に出撃許可が出ました」
「所属不明機が強化人間に向かっています! 早く出撃をっ」
輪状のオーラを伴う機械風の人型マテリアルが、人類の戦力を一方的に蹂躙する。
それに負マテリアルが含まれていないのを何度も確認した後、司祭はあっと声をあげた。
「戦闘専門の精霊が狂わずに攻撃って……まさか」
血の気の引いた頬が引き攣る。
気が遠くなるのを根性で耐える。
「契約者を叩いて潰す前に歪虚を攻撃しなさいっ! 私でもそのくらい我慢するのに順番考えろばかーっ!!」
アポストルと呼称される存在は、社会的に追い詰められてもなお人類のため戦うとする強化人間を襲っていた。
護衛全員が内心頭を抱える。
彼等は一応護衛ではあるが、危険人物を監視し場合によっては鎮圧するのが最優先の任務だった。
●アポストル
光刃がR7の装甲を削り複数の回路を焼き潰す。
斬撃は一度では止まらない。
強化人間が一呼吸する間に3度繰り返される。
左腕と左脚が脱落し、しかしバランスを崩す前にブースターに火を入れ飛びかかる。
「ジョニー無理すんな!」
「しないで終われるかよ!!」
書類上では拘束されているはずの男が絶叫する。
「俺は諦めねぇ、出世して美味い飯と美人のねーちゃんを味わった後に老衰で死ぬんだ!」
ダガーを両手で抱えて直進する。
極限の集中はVOID由来の力をさらに洗練させ、ハンターに迫る精度と速度で刃を振るわせることに成功する。
だが届かない。
アポストルは仕切り直すために20メートルを後退。
実戦経験の密度から考えると分不相応の集中は消え、攻撃直後の隙を晒したR7だけが残る。
「畜生」
瞬きする間にアポストルが再接近。
小回りの効かないブースターと2本の手足では躱すことも防ぐこともできない。
そのタイミングで、ハンターの転移が完了した。
●救援依頼
地球連合宇宙軍の基地が所属不明機による襲撃を受けています。
撃退または撃墜をお願いします。
脳内で理想化された理想像より、ずっと強く正しく美しいものが見えるはずだ。
それが己を滅ぼすものであっても、天使であることには変わりがない。
●狂信者の視点
Hと大書された屋上発着場に、激突するような勢いでヘリコプターが停止した。
最初に降り立ったのは重武装の精鋭だ。
VOIDもテロリストも見逃さない目つきで警戒し、安全を確認して初めて合図を送る。
「ありがとうございます」
20前後の女性が姿を現す。
身に纏う装束はカソックの要素もあるものの、カソックというには華やかすぎ実用的過ぎた。
兵士の手を借りずにヘリコプターから飛び降りる。
特に鍛えているようにも見えないのに、装束の裾も淡い色をした髪も揺れすらしなかった。
「お待ちしておりました」
大病院のトップが深く頭を下げる。
兵士から殺気に近いものを向けられているからだけではない。
「歪虚……VOIDとの戦いで傷ついた方を癒やすのは我々の義務です。お手数おかけしますが、案内をよろしくお願いいたします」
綺麗な英語を使う彼女は歪虚必ずぶっ殺す教団こと聖堂教会の司祭であり、優れた治癒術の使い手だった。
10分後。
重軽傷者をまとめて癒やした司祭は再び空の上にいた。
「1日5件を超えると堪えますね」
「後1件です。不調なら次回に回しますが」
護衛も疲労を隠せていない。
非覚醒者が高位覚醒者についていくのは、鍛え抜かれた軍人であっても厳しいのだ。
「スキルは全部使い切りたいですから。最後の1件は基地の近くですしね。ヒーリングスフィアを使った後に休憩をぉっ!?」
機内が90度近く傾いた。
ベルトに締め付けられ、ふぐぅと情け無い音が漏れる。
すぐに角度が元に戻るが全く安定しない。
「そんな、神様っ」
パイロットが悲痛な叫びをあげている。
対VOID戦の初期から戦い抜いた強者なのに、初陣の新兵を思わせる怯えっぷりだ。
護衛が外を見る。
敵の姿はどこにも見えない。
パイロットを確かめても、何度かくらったことのある狂気の状態異常攻撃と印象が違い過ぎた。
「え?」
緑の瞳が瞬いた。
司祭が目を細めて遠くに視点をあわせると、地球連合宇宙軍の基地を光り輝く何かが襲っていた。
「アニメの天使?」
それは、彼女が知っている精霊とは違い過ぎた。
体を構成しているのは純粋な正マテリアル。
知り合いの精霊とは次元が異なる強さで、しかし負マテリアルに対する敵意は共通している。
慌てて振り返り護衛に問いかける。
「すみません、基地から何か連絡はありませんか。VOIDが襲って来たとか」
「基地周辺のVOID掃討は完了しました。新たに出現したとの情報もありません」
もう1人の護衛はパイロットを説得し落ち着かせようとしている。
通信機の設定が切り替わり、基地からの情報が直接届くようになる。
「強化人間に出撃許可が出ました」
「所属不明機が強化人間に向かっています! 早く出撃をっ」
輪状のオーラを伴う機械風の人型マテリアルが、人類の戦力を一方的に蹂躙する。
それに負マテリアルが含まれていないのを何度も確認した後、司祭はあっと声をあげた。
「戦闘専門の精霊が狂わずに攻撃って……まさか」
血の気の引いた頬が引き攣る。
気が遠くなるのを根性で耐える。
「契約者を叩いて潰す前に歪虚を攻撃しなさいっ! 私でもそのくらい我慢するのに順番考えろばかーっ!!」
アポストルと呼称される存在は、社会的に追い詰められてもなお人類のため戦うとする強化人間を襲っていた。
護衛全員が内心頭を抱える。
彼等は一応護衛ではあるが、危険人物を監視し場合によっては鎮圧するのが最優先の任務だった。
●アポストル
光刃がR7の装甲を削り複数の回路を焼き潰す。
斬撃は一度では止まらない。
強化人間が一呼吸する間に3度繰り返される。
左腕と左脚が脱落し、しかしバランスを崩す前にブースターに火を入れ飛びかかる。
「ジョニー無理すんな!」
「しないで終われるかよ!!」
書類上では拘束されているはずの男が絶叫する。
「俺は諦めねぇ、出世して美味い飯と美人のねーちゃんを味わった後に老衰で死ぬんだ!」
ダガーを両手で抱えて直進する。
極限の集中はVOID由来の力をさらに洗練させ、ハンターに迫る精度と速度で刃を振るわせることに成功する。
だが届かない。
アポストルは仕切り直すために20メートルを後退。
実戦経験の密度から考えると分不相応の集中は消え、攻撃直後の隙を晒したR7だけが残る。
「畜生」
瞬きする間にアポストルが再接近。
小回りの効かないブースターと2本の手足では躱すことも防ぐこともできない。
そのタイミングで、ハンターの転移が完了した。
●救援依頼
地球連合宇宙軍の基地が所属不明機による襲撃を受けています。
撃退または撃墜をお願いします。
リプレイ本文
「俺はぁっ!」
悲鳴に全く異なる音が混る。
「各機、防御に意識を集中しろ。10秒耐えればカバーに回る」
光だ。
綺麗すぎて非人間的な天使の光とは違う、猛々しくも暖かな光の翼が庇ってくれている。
「良いねえジョニーいい啖呵だ。俺も死ぬなら老衰が良いな。まあとりあえず生き残ろうぜ!」
東洋の神像を思わせるR7が、天使から彼を庇ってくれていた。
●刃はどこまでも届く
HUDOの中で笑う仙堂 紫苑(ka5953)は、目の前の巨体に全神経を集中させていた。
「新しい敵か……けど随分雰囲気が違うな。」
VOIDとは気配の質が根本的に異なり、気配の強さは非常に高位のVOID並だ。
「マジで正のマテリアルの塊なのかよ」
岩井崎 旭(ka0234)が目を丸くしながらワイバーンを宥める。
上司の上司の上司に出くわしでもしたような、初めてみる動揺っぷりだ。
巨体が消える。
高位覚醒者が辛うじて追える速度で、HUDOが展開する光翼を大回りして強化人間用R7を狙う。
「そういうことなの」
白兵戦仕様のR7から、天使とは別の意味で強圧的な気配が噴き出している。
天使の気配が透明から困惑、困惑から薄い敵意に変わる。
「お前がリアルブルーの大精霊の使徒だというなら、我らエクラ教徒は人の使徒、エクラの司祭は人の代弁者にして人の守護者!」
超高速で走る天使とスラスター全開で跳ぶR7の間で無数の火花が散る。
「人でないものが人を害するというなら」
鉄壁の守りに定評がある光翼が悲鳴をあげている。
頭を垂れ許しを請えと、ディーナ・フェルミ(ka5843)の本能に近い部分が絶叫している。
「お前もリアルブルーの大精霊も」
エンハンサーが限界を超え光翼が消滅。
天使の腕がR7を押しのける動きで伸ばされる。
「まとめて殴り倒すの反省しなさいなのー!」
気合いと理性が本能を制圧する。
異なるマテリアルでできた刃が、天使の刃と正面から噛み合った。
「リアルブルーの大精霊の……えーと、あーゆーの何ていうんだ?」
旭が慌てているように見えるのは、高度な術の準備にほぼ全神経を集中しているからだ。
「ともかく! 何様だか知らねーが、そこまでだ!」
鋭利な断面で斬られたCAMのパーツや火砲を跳び越え、CAM戦では至近距離に等しい距離で高らかに宣言。
旭の膨大なマテリアルが伸び、途中で10近い幻の手に変じて天使を拘束する。
「強化人間だって、リアルブルーを護りたくって力に手を伸ばしたんだ!」
この基地の強化人間はぼろぼろだ。
疑いの目を晴らすため、何より強化人間に志願したときの願いを叶えるため、骨身を惜しまずVOIDと戦い戦う術を持たぬ人々を守ってきた。
「現に、それでもってヴォイドと戦ってきてたじゃねーか!」
天使は移動できない。
どこかCAMを思わせる機械的な体を捻り旭を見下ろす。
「その力がヴォイド由来だからって、単純に切り捨てるなんて! させるかよ!」
ハンターに対する敵意のなかった天使が、微かではあるが明確な殺意をみせる。
光刃が掬い上げる動きで振るわれると、許可されたコンクリートが豆腐か何かのようにすぱりと切れた。
「アイツを止めるぜ、ロジャック! 力を貸してくれ!」
ワイバーンも覚悟を決めた。
大型とはいえ倉庫という限られた空間を、翼をどこにも当てることなく飛んで炎のブレスを放つ。
「気をつけろ、回避力はロジャック並だ」
避けにくいはずのブレスが回避されている。
嵐の如く速く力強く抗い辛い斬撃も、非人間的な速度と正確さの天使を捉えられない。
「嘘だろ」
刃の構え方を見て旭の顔が引きつる。
4連撃の構え。超人と化した旭でも実用不能な大技だ。
「ブラストハイロウは維持してくれ!」
攻撃準備とは別に、術への抵抗が凄まじい。
幻の腕が3つ、内側から弾けて消滅する。
消滅しきる前に、4回同時にしか見えない連撃が旭のワイバーンを狙った。
回避が追いつかない。
1つは避けた。残る3連撃は角状武器で受けるが威力が大きすぎる。
ライフリンクによる守りも2撃目で消し飛んだ。
「すまねぇ」
旭が飛び降りる。
片翼が千切れかけたロジャックが、奥歯を噛みしめコンクリの地面に叩きつけられる。
「続けるなら俺を倒して見ろ!」
通常の戦闘なら紛れ当たり以外は回避可能で、装甲も厚く盾としても扱う武器も分厚い。
だが不十分だ。
少なくとも、アポストルの攻撃を防ぎきるには全く足らなかった。
「歯痒いな」
危険物に覆われた床を、HUDOは滑るように走る。
旭の支援に向かうこともできず、傷だらけの強化人間に肩を貸すこともできない。
光翼という最強の壁がなくなれば圧倒的な速度で突破されかねないからだ。
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は光翼の影から3連撃の術を連打する。
文字通りの一方的な攻撃だ。
仮に敵が来ても、大回りして回り込まれない限りダメージはない。
HUDOは細かく位置を変えているので、光翼が限界に達しない限り安全地帯は維持される。
しかしそれでも足りない。
ハンターが生き延びても、強化人間の命を取りこぼせば負けなのだ。
「非常手段もやむを得ませんね」
グリフォンと共にふわりと飛び、ほとんど身動きのとれぬジョニー機の元へ向かった。
「来るなの!」
清らかな光が無制限に広がる。
無骨で乱雑な特大倉庫が神殿を思わせる気配で満ちる。
この場の主役は天使にも機械の巨人にも見えるアポストル。
リアルブルー大精霊配下の大物だ。
「人を作った神も居るかもしれないの」
多神教なら神、一神教なら天使にあたる存在へディーナが敵意を向けた。
「でもエクラは人が作った神!」
アポストルが加速。
ディーナが焼き切るつもりでブースターを酷使し光翼を間に合わせる。
「歪虚に染まった程度で人を滅するような神の使徒なんて要らないの、何柱だろうと滅ぼすの!」
正一色の気配に微かな困惑が混じった。
●血と銀
「本当に、無茶するわね」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)の鼻を鉄錆の匂いが刺激する。
同時に芳醇なマテリアルも感じる。
血に溶け出た、旭の扱っていたマテリアルだ。
「まぁ、私も人の事は言えた義理じゃないけど」
旭も旭のワイバーンもぴくりとも動いていないが生の気配は感じる。
この戦闘中の回復はまず無理だが死にはしない。
「これが相手ではね」
敵の脚が床から離れる。
フライトシステムで無理矢理飛ぶCAMとは違い、前衛ハンターのように大胆かつ緻密に、しかも高速で宙を駆ける。
紫苑の舌打ち。
HUDOが跳躍しても追いつけず、使徒が強化人間へ一気に近づく。
その真上からグリフォンが降ってくる。
覚醒者でもないのにその攻撃は非常に重く、爆発じみた風による衝撃はCAMサイズの巨体をその場から押し戻すはずだった。
光の刃が風を切り裂く。
威力を削られた風はアポストルの装甲を貫けず、押し戻すこともその場に止めることもできない。
「ただでさえ混乱してるトコにさらに余計なものが! 空気読めっつうの!」
数十の極細光線が屈折を繰り返しながら使徒に迫る。
光線は3群に別れて絶妙の時間差を維持している。
銃弾も軽々避ける巨体に追いつき、1群は切り潰されたが残る2群が使徒にめり込んだ。
「硬っ」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)が渋面になる。
戦車の装甲を打ち抜ける威力があるのに内側まで通った気が全くしない。
大型パーツを釣り上げるためのクレーンがみしみしと音をたてる。
体格の良いイェジドが、野生の猫を思わせる身軽さでクレーンから隣のクレーンへと飛び移る。
ユーリが鋭く呼気を吐く。
蒼白い雷に覆われた斬撃が、斜め上へ伸びて鎧風の肩部装甲を切り取った。
「あなたは与えられた命をこなすだけの人形? それとも明確な自我を有してるのかしら?」
巨体が振り返る。
脚も腕も動かさないのにベクトルが激変してユーリの死角へ移動。
オリーヴェは60度近い傾斜のクレーンで器用に向きだけを変える。
「どんな目的と意図を以て彼等を襲ったのかは知らないけど」
ひたすら早いだけの斬撃がオリーヴェとユーリを襲う。
オリーヴェは余裕を以て躱してみせたが、足場だったクレーンが美しくさえある断面を残し両断される。
「生きる意志を貫き足掻く人を黙って見捨てる程……生憎と薄情じゃないの」
着地の際に速度を落とさず、使徒に向けさらに増速する。
ワイバーン以上の速度だが、地上を走るならオリーヴェも負けてはいない。
「だから、貴様の相手は私達だ」
長大な刃が大精霊の僕へ届く。
驚異的に伸びる、酷く躱しづらい刺突を回避しきれず光の剣で使徒が受ける。
ユーリは、押し込んだ。
物理的にも精神的にも、あらゆる力を絞り出し刃を通して叩き付ける。
光刃が歪み、蒼白の閃光が神々しい巨体に突き立った。
「歪虚の次は天使ね……。いよいよもって、『神様』はこの世界を見捨てたのかしら?」
敵の気配が濃くなる。
ようやく、ユーリを障害と認識したのだ。
「どう結論下したのかは知らないけど、ただ……狙う相手を間違えてるわよ」
使徒を構成する正マテリアルの一部が燃える。
そのエネルギーで速度が一段階上がり、4つの斬撃がユーリに迫る。
オリーヴェが必死に間合いを外そうとするが間に合わない。受け流そうにも得物が防御に向かず、対大型戦に有効な頭部防具も厚くはない。
ユーリも防御に加わらざるを得ず、雷に彩られた白い肌に鮮血の色が加わった。
「肉を焼く前に振り切れるのは見事なものね。人の話を聞くって感じしないし、まずは……全力で斬り伏せる。話はそれからよ」
激痛に襲われているのに顔には一切出さず、ユーリは少しでも時間を稼ぐために巨大な天使に立ち向かった。
●救いの手
転移直後にエルバッハ・リオン(ka2434)が目にしたのは、全滅寸前のCAM小隊だった。
3つのCAMはスクラップ同然。
残る1つも降りて戦った方がまだ抵抗できそうだ。
「乗りなさい」
助手席のドアを殴るようにして開ける。
腕の力しか使っていないのに、重厚な装甲のドアがとんでもない勢いで外側に開いた。
「え、あの」
「わーいお人形さんみたいなエルフさんだー」
アメフト選手をこなせそうな野郎共が戸惑っている。
己の暴走に怯え、危険に身をさらして人類のため戦い、それなのに巨体の天使に襲われた上で目の前の光景だ。
心の弱い者なら途中で潰れている。この程度の混乱で済んでいるのは十分凄い。
細くすらりとした足が、絶妙の力加減でアクセルを踏んだ。
白い手がハンドルを一見乱暴にその実職業ドライバー並の練度で操り、複数の強化人間を開きっぱなしの助手席に招き入れる。
「へぁっ!?」
宙に浮かぶ強化人間を柔らかな指先が捕獲。
そのままぽいと荷台に放り込み、2人目の強化人間も同様に放り込む。
依頼成功だけでなく、自分と仲間の命だけでもなく、強化人間の若者達の命もかかっているので容赦なしである。
「待ってくれ、ボブが」
騒ぐ強化人間の目の前でドアが開く。
筋肉量2割増しの巨体が、野郎共と比べると子供にしか見えない八原 篝(ka3104)によって運び込まれる。
「ベッドを」
「了解、ほら自分でベルトつけなさいその程度できるでしょ」
エルバッハがアクセルを踏み込む。
篝が苦しむ重傷者を荷台に固定する。
「あの天使の狙いはあなた達強化人間よ。あれ相手に何人も守りながら戦えないわ。悔しいかもしれないけど今は引いて」
「でもジョニーがまだ戦っているんだ!」
ドアに手を伸ばすが篝に遮られる。
「悪いけど、足手まといよ」
うずまく感情を抑えて無表情に言い切った。
それが事実であると分かる程度には現実が見えているので、強化人間達は絶句し、力が抜け、力なく腰を下ろした。
「時間は稼ぐわ。後よろしく」
篝は助手席に移り、エルバッハに声を掛けてから無造作に飛び降りる。
「気にせず撃ちなさいタヂカラ!」
キャニスター弾の子弾がまき散らされる。
光の障壁を乗り越えた直後のアポストルに当たって微か時間足止めする。
当たらなかった子弾が弾薬箱を穴だらけに。
旧式のCAMが買える価格の整備施設を巻き込み爆発した。
「あなた名前を訊いても良い?」
「ジョニーだ。このあと有名になるから覚えてろよ-」
半壊した操縦席の中で大量の血を流しているはずなのに、彼は強がりを貫いてみせる。
微かに声が震えているのには気付かないふりをあげて、篝は端的に要求を突きつけた。
「悪いんだけど、奴をこの場に留めるためのエサ役になってもらうわ」
「覚悟はしてたさ。ボーナス増額と昇進に口添えしてくれよっ」
「そうじゃなくて」
構えようとしたガトリングガンを器用に蹴り飛ばす。
「装備は盾だけ。敵の動きを追いきれないと思うからハンターの指示に従ってね。これ止血用ね」
強化人間にとっては地獄の戦場でも、篝にとってはたまにある程度の戦場であり特に気合いを入れる必要もない。
なんだか釈然としないものを感じながら、ジョニーはCAMをアポストルに向けたまま後ろ向きに後退させる。
「20秒!」
「あわせる」
ソフィアの宣言にハンターが反応する。
アポストルは変化に気付いても変化の内容には気付けない。
「紅鳴&アルケミックパワー、急速付与充填!」
素材を保管庫から引き出しながら加工するような、とてつもなく難易度の高いマテリアル操作。
「使徒のマテリアル分析結果のロード!」
百戦と見た目以上に生きてきた経験であたりをつけ。
「ドライブ!」
構えと同時にマテリアルを微修正。
狙いと力の流れがぴたりと調和はするが体と魂がきしむ。
「ちぃっ、無限の寿命があっても擦り切れそうだよ!」
アポストルが止まる。
反射的に光刃を振るうのでもなく、速度と頑丈さを活かしてVOIDの気配を追うのでもなく、使徒並の力をソフィアの銃に感じて排除しようと走る。
HODOとディーナの援護が間に合い、光と衝撃が格納庫内に広がった。
「ブリューナク、最適化。全マテリアル解放!!」
銃身から放たれる強烈な気配が消えていく。
ただ1つの弾丸に、守護者をこなせる覚醒者の力と大精霊クリムゾンウェストの助力が集まり反応する。
ソフィアは、マテリアルを精密に動かすことで引き金を引いた。
「顕現せよ」
燃える太陽が地上に現れる。
極小の太陽と化した弾丸が、使徒の頭と胴体と下半身を巻き込む位置に短距離跳躍。
「紅き太陽!」
CAMより硬く頑丈な床やクレーンが溶け落ちる。
ハンターの攻撃の大部分を無効してきた天使の装甲が機能しなくなる。
これまでの苦戦が嘘のように、大量の正マテリアルが吹き飛んだ。
「戦闘でカメラが全部死んでて良かったよ」
TV撮影用に気合いをいれた服装も、すっかり乱れてしまっていた。
「ジョニー機はそのまま後退しなさい。真っ直ぐに」
エラは過去最大級に気を遣って言葉を選んでいる。
目配せで裏事情まで察してくるハンターや渡した情報を過不足なく理解してくれるリアルブルー軍人とは異なり、ジョニーというより強化人間の多くは力があるだけの素人だ。
こんな状況では指示通りでCAMを動かすのも正直苦しい。
「機体のアシストに従うだけで十分です」
誘導と平行して攻撃も行っている。
とにかく当てるのを優先して、デルタレイをカスタマイズした術を使徒の巨体に当てる。
当たっても有効打にならず、光刃で受けられたらほぼ無傷という直前までの展開とは異なり、三竜の威力が最高の効率で敵に伝わり正マテリアルを食い荒らす。
が、マテリアルはまだ多い。
「気を抜かないで」
露骨に気を抜いたジョニーを叱咤する。
使徒内部の力の激変を五感で捉え続ける。
「装甲が復活するも生命力の7割を喪失。平均的な戦いなら後は消化試合なのですけどね」
三竜が効かない。
一応当たってはいるのに、最大生命力の0.1パーセント程度しか削れていない感触だ。
「装甲無効化の上でのフルオートにも耐えるか」
攻撃を続行。
3本の矢がアポストルに跳ね返される。
2本当たって装甲に凹みができているがそれ以上のダメージは一切無い。
ソフィアと連携して当てた3本が反対側まで抜けたときと比べると、無傷同然だ。
「来……たわねっ!」
そのソフィアはカメラの気配を感じて瞬時に猫を被る。
1本が4本ににも見える光の剣が迫る。
強大な力を持つ使徒にとっても無理をした攻撃のようで、最大生命力の1パーセント程度が消えていた。
「逃げ切れないなら前へ出る! 1分でも1秒でも時間を稼いで、勝利に近づくんだ!」
なお、本人は即死を避ける防御行動に全力を投じていて反撃は最低限だった。
●人外の境界
イコニアがヘリから降りた。
出発前は無骨ながら機能美があった倉庫が今は崩壊直前の有様だ。
入り口が瓦礫の山か分からない場所から、物理的にも霊的にも輝く天使が姿を現す。
「あれが蒼の大精霊の使徒」
彼女は恐れも怒りも感じていない。
初めて顔をあわせる同業者に対するような、微かな理解と共感だけがあった。
「イコニアさん駄目」
「カメラ止めて」
魔導トラックの中で、これまで勇気に満ちてすらいた強化人間が恐怖に震えている。
殺意を通り越し殺処分の対象を見る視線に気付いてしまったのだ。
「イコニア司祭……純粋なる人を殴る司祭はエクラの司祭として失格だと思うの」
ディーナの気迫が増幅された音と一緒に叩き付けられる。
黒い装束が激しく揺れても、金の髪も緑の瞳も全く動かない。
明らかに使徒から影響を受けている。
「ディーナ・フェルミ。守護者への道も開かれた貴方なら理解しているはずです」
強化人間は己の生命力と引き替えに……寿命を力に変えて覚醒者に準じる力を振るってきた。
仮にVOIDとの契約を解除できたとしても寿命は残り少なく、恐怖と絶望に耐えきれずVOID化する道を選んでしまいかねない。
アポストルよりは人間的で、しかしアポストルと同じ性質の威を持つ司祭に、護衛も基地の軍人達も精神的に屈服しかけていた。
「じゃかぁしぃの!」
可愛らしい怒声が人外の気配と理屈を吹き飛ばす。
緑の瞳が何度も瞬きして、数十秒の記憶が飛んでいるのを理解し困惑の色に染まる。
「兵隊さん手荒く拘束して良いからその人後ろに連れてって下さいなの前に出したら死んじゃうの! その人が死んだら大問題なの!」
速やかに連行されていく司祭をHMDの隅で確認しながら、ディーナは使徒へ突撃する。
「司祭位以上はこれだから」
人間扱いをする必要がないほど、人から外れてしまう者がいる。
万一守護者になる機会があってもああはなるまいと心に決め、ディーナはブラストハイロゥの尽きた機体で時間稼ぎを試みる。
「代わりにっ、くらぇ!!」
ドリルでぶん殴る。
とうにマテリアルは尽きているからろくな威力がないはずなのに、地球の使徒は気圧されたように一歩後ろへ下がる。
「混乱しているな?」
乗り手の強力な治癒術もあり圧倒的な頑丈さを誇るR7を盾にしながら、HUDOが間合いを計る。
外の気配が、細く束ねられてHUDOを向いた。
「ハハッ! 弱く見える方を攻めるよなァッ!」
己の支配下にあるマテリアルを調整。
HUDOと完全に調和させることで機体のあらゆる能力を引き上げる。
それでもなお光刃4連撃を躱すには足りない。
ブースターの援護を受けても奇跡的に2度躱すのが精一杯で、残る2連撃が操縦席と腰部に迫る。
「対応してやるよ」
銀色のシールドと白い装甲を用いてコクピットへの一撃を受け流す。
腰部を多う装甲の過半を犠牲にすることで、移動力を損なわない形で耐えきり組み付く。
旭のファントムハンドのような拘束力はないが、仲間が駆けつけるまで保たせるには十分だ。
HUDOが振りほどかれる。
常識外に大きな機械弓が炎の矢の弾幕を張る。
「上級ヴォイドの侵入も黙示騎士もほっといて、今更出張ってきて何やってんのよ……!」
篝は頭に来ている。
クリムゾンウェストでもリアルブルーでも散々苦労して、ようやく一定時間であればリアルブルーに戻れようになったのだ。
今までの成果を台無しにしかねない馬鹿に一言言ってやらないと気が済まない。
「タヂカラァ!」
HUDOがより早く反応して体を躱す。
ゴーレムによるクラスター弾と優れた貫通能力を持たされた矢が十字砲火を形作り、アポストルの腹部に深刻な打撃を与える。
「間に合ったというか、なんというか」
荷台が空の魔導トラックが急ブレーキ。
止まりきれず巨人の前まで滑り、運転席で上半身がある部位を貫かれる。
エルバッハは使徒の動きを読み切り助手席に座って操作していた。
平然と車から降り、淡々とファイアーボールを投げて使徒の力を削る。
「もう帰ってくれてもいいんですよ?」
気軽な感じで投げている火球は、魔導トラックが撤退時の牽制で撃っていた30ミリ砲よりはるかに強い。
光が薄れていく。
蒼世界の使徒の滅びがすぐそこまで迫っている。
「前衛後衛の後退を提案」
グリフォンと前に出ながらエラが言い、紫苑が苦渋の表情で脱出しようとした。
「必要無いの」
強烈な癒やしの力がHUDOを支える。その力が保っている間に紫苑が予備の回路へ切り替える。
倒れ動けないはずの旭とユーリとその相棒が、血の気は引いていても戦闘力を維持してアポストル包囲に加わる。
「これで最後!」
ソフィアが最後のスキルを使用。
鮮やかな光が3つ突き抜け、使徒の胸部にマテリアルの小爆発が発生。
紅世界の守護者を鮮やかに照らし出す。
「ズィルヴィント、後は壁役、粘るわよ」
疲労の極みにあっても、ソフィアの戦闘力と猫は万全だった。
●天使の後ろ姿
全力を出し続ければハンターだって疲れる。
今もエラの呼吸が乱れ、エラを支えるグリフォンに至ってはいつ翼が痙攣し頭から落ちてもおかしくない状況だ。
そんな状況でもエラの思考はいつも通りに冴えている。
蒼の使徒から感じる圧力を数値で表し、自軍の残り戦力と冷静に比較する。
エラの呼吸の乱れが酷くなる。
使徒の巨体が一瞬薄れて戻りきらない。
エラによる3つの光が敵を削り、正マテリアルを最大値の10分の1まで削り取った。
「説得を試みるならこのタイミングしかありません」
「俺がやる。いいな?」
HUDOの搭乗口が静かに開く。
紫苑は人機一体の連続使用により危険なほど顔色が悪い。
ハンターは得物を向けたまま攻撃の手を止める。
「帰って上司に伝えな。このまま戦いを続けてもいたずらに戦力を消耗するだけ。そちらの攻撃基準はわからないが、こちらにも守るべきものがある」
1人囮役を引き受け、機体はぎりぎり中破でも乗り手が限界を迎えたCAMが倒れてる。
「一度会談の場を設けたい。そちらからのリアクションを期待する」
前者は否。後者は消極的肯定。
少なくとも紫苑はそう感じた。
「行くなら止めはしない」
この状況で光刃を振るわれたら即死するのを理解した上で、紫苑はじっと使徒を見た。
エルバッハは火球を消し、魔導トラックから荷物を引っ張り出して全力で駆ける。
使徒に無防備な背中を見せることになるが今は時間が惜しい。
細部はともかく基本的な構造はよく知っているCAMにとりつき、正規の操作で搭乗口を開ける。
ジョニーは死相を浮かべている。
「俺、僕、は……」
エルバッハは手を止めずに治療を施す。
強化人間は何かを言いかけ、諦めたように口を閉じようとして舌をかみ切らないよう布をかまされる。
手足を振り回さないよう、そして傷つけないよう、絶妙の手加減でロープで固定された。
「意識を強く持って下さい」
エルバッハは一度言葉を切る。
「?」
死者を悼む目を予想していたのに、エルフの目には歯医者に向かう子供を気遣う色が……。
白兵仕様のR7から、使徒と違って人間的な、ただし容赦のない癒やしの力がジョニーに向かって降り注ぐ。
「いっ!?」
神経と血管が繋がり電気信号とエネルギーの流れが復活。
壊れていた痛覚が復活し新鮮かつ強烈な痛なみがジョニーを襲う。
エルバッハ達にとっては慣れて特に気にしない痛みでも、強化人間にとっては拷問以上であった。
「交渉成立だな。……さすがに、少し疲れた」
長距離転移発動直前の使徒を眺め、紫苑が大きく息を吐く。
視線を横に向けると、おそるおそるこちらを見ている、ジョニー以外の強化人間が見えた。
「共に歩む意志のあるものを、私は友と呼びたい」
エラのつぶやきに蒼の使徒は何の反応も示さず、どこか遠くへ跳んだ。
徹底的に痛めつけられているため、アプリの犠牲者を襲うことも、しばらくの間はないはずだった。
悲鳴に全く異なる音が混る。
「各機、防御に意識を集中しろ。10秒耐えればカバーに回る」
光だ。
綺麗すぎて非人間的な天使の光とは違う、猛々しくも暖かな光の翼が庇ってくれている。
「良いねえジョニーいい啖呵だ。俺も死ぬなら老衰が良いな。まあとりあえず生き残ろうぜ!」
東洋の神像を思わせるR7が、天使から彼を庇ってくれていた。
●刃はどこまでも届く
HUDOの中で笑う仙堂 紫苑(ka5953)は、目の前の巨体に全神経を集中させていた。
「新しい敵か……けど随分雰囲気が違うな。」
VOIDとは気配の質が根本的に異なり、気配の強さは非常に高位のVOID並だ。
「マジで正のマテリアルの塊なのかよ」
岩井崎 旭(ka0234)が目を丸くしながらワイバーンを宥める。
上司の上司の上司に出くわしでもしたような、初めてみる動揺っぷりだ。
巨体が消える。
高位覚醒者が辛うじて追える速度で、HUDOが展開する光翼を大回りして強化人間用R7を狙う。
「そういうことなの」
白兵戦仕様のR7から、天使とは別の意味で強圧的な気配が噴き出している。
天使の気配が透明から困惑、困惑から薄い敵意に変わる。
「お前がリアルブルーの大精霊の使徒だというなら、我らエクラ教徒は人の使徒、エクラの司祭は人の代弁者にして人の守護者!」
超高速で走る天使とスラスター全開で跳ぶR7の間で無数の火花が散る。
「人でないものが人を害するというなら」
鉄壁の守りに定評がある光翼が悲鳴をあげている。
頭を垂れ許しを請えと、ディーナ・フェルミ(ka5843)の本能に近い部分が絶叫している。
「お前もリアルブルーの大精霊も」
エンハンサーが限界を超え光翼が消滅。
天使の腕がR7を押しのける動きで伸ばされる。
「まとめて殴り倒すの反省しなさいなのー!」
気合いと理性が本能を制圧する。
異なるマテリアルでできた刃が、天使の刃と正面から噛み合った。
「リアルブルーの大精霊の……えーと、あーゆーの何ていうんだ?」
旭が慌てているように見えるのは、高度な術の準備にほぼ全神経を集中しているからだ。
「ともかく! 何様だか知らねーが、そこまでだ!」
鋭利な断面で斬られたCAMのパーツや火砲を跳び越え、CAM戦では至近距離に等しい距離で高らかに宣言。
旭の膨大なマテリアルが伸び、途中で10近い幻の手に変じて天使を拘束する。
「強化人間だって、リアルブルーを護りたくって力に手を伸ばしたんだ!」
この基地の強化人間はぼろぼろだ。
疑いの目を晴らすため、何より強化人間に志願したときの願いを叶えるため、骨身を惜しまずVOIDと戦い戦う術を持たぬ人々を守ってきた。
「現に、それでもってヴォイドと戦ってきてたじゃねーか!」
天使は移動できない。
どこかCAMを思わせる機械的な体を捻り旭を見下ろす。
「その力がヴォイド由来だからって、単純に切り捨てるなんて! させるかよ!」
ハンターに対する敵意のなかった天使が、微かではあるが明確な殺意をみせる。
光刃が掬い上げる動きで振るわれると、許可されたコンクリートが豆腐か何かのようにすぱりと切れた。
「アイツを止めるぜ、ロジャック! 力を貸してくれ!」
ワイバーンも覚悟を決めた。
大型とはいえ倉庫という限られた空間を、翼をどこにも当てることなく飛んで炎のブレスを放つ。
「気をつけろ、回避力はロジャック並だ」
避けにくいはずのブレスが回避されている。
嵐の如く速く力強く抗い辛い斬撃も、非人間的な速度と正確さの天使を捉えられない。
「嘘だろ」
刃の構え方を見て旭の顔が引きつる。
4連撃の構え。超人と化した旭でも実用不能な大技だ。
「ブラストハイロウは維持してくれ!」
攻撃準備とは別に、術への抵抗が凄まじい。
幻の腕が3つ、内側から弾けて消滅する。
消滅しきる前に、4回同時にしか見えない連撃が旭のワイバーンを狙った。
回避が追いつかない。
1つは避けた。残る3連撃は角状武器で受けるが威力が大きすぎる。
ライフリンクによる守りも2撃目で消し飛んだ。
「すまねぇ」
旭が飛び降りる。
片翼が千切れかけたロジャックが、奥歯を噛みしめコンクリの地面に叩きつけられる。
「続けるなら俺を倒して見ろ!」
通常の戦闘なら紛れ当たり以外は回避可能で、装甲も厚く盾としても扱う武器も分厚い。
だが不十分だ。
少なくとも、アポストルの攻撃を防ぎきるには全く足らなかった。
「歯痒いな」
危険物に覆われた床を、HUDOは滑るように走る。
旭の支援に向かうこともできず、傷だらけの強化人間に肩を貸すこともできない。
光翼という最強の壁がなくなれば圧倒的な速度で突破されかねないからだ。
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は光翼の影から3連撃の術を連打する。
文字通りの一方的な攻撃だ。
仮に敵が来ても、大回りして回り込まれない限りダメージはない。
HUDOは細かく位置を変えているので、光翼が限界に達しない限り安全地帯は維持される。
しかしそれでも足りない。
ハンターが生き延びても、強化人間の命を取りこぼせば負けなのだ。
「非常手段もやむを得ませんね」
グリフォンと共にふわりと飛び、ほとんど身動きのとれぬジョニー機の元へ向かった。
「来るなの!」
清らかな光が無制限に広がる。
無骨で乱雑な特大倉庫が神殿を思わせる気配で満ちる。
この場の主役は天使にも機械の巨人にも見えるアポストル。
リアルブルー大精霊配下の大物だ。
「人を作った神も居るかもしれないの」
多神教なら神、一神教なら天使にあたる存在へディーナが敵意を向けた。
「でもエクラは人が作った神!」
アポストルが加速。
ディーナが焼き切るつもりでブースターを酷使し光翼を間に合わせる。
「歪虚に染まった程度で人を滅するような神の使徒なんて要らないの、何柱だろうと滅ぼすの!」
正一色の気配に微かな困惑が混じった。
●血と銀
「本当に、無茶するわね」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)の鼻を鉄錆の匂いが刺激する。
同時に芳醇なマテリアルも感じる。
血に溶け出た、旭の扱っていたマテリアルだ。
「まぁ、私も人の事は言えた義理じゃないけど」
旭も旭のワイバーンもぴくりとも動いていないが生の気配は感じる。
この戦闘中の回復はまず無理だが死にはしない。
「これが相手ではね」
敵の脚が床から離れる。
フライトシステムで無理矢理飛ぶCAMとは違い、前衛ハンターのように大胆かつ緻密に、しかも高速で宙を駆ける。
紫苑の舌打ち。
HUDOが跳躍しても追いつけず、使徒が強化人間へ一気に近づく。
その真上からグリフォンが降ってくる。
覚醒者でもないのにその攻撃は非常に重く、爆発じみた風による衝撃はCAMサイズの巨体をその場から押し戻すはずだった。
光の刃が風を切り裂く。
威力を削られた風はアポストルの装甲を貫けず、押し戻すこともその場に止めることもできない。
「ただでさえ混乱してるトコにさらに余計なものが! 空気読めっつうの!」
数十の極細光線が屈折を繰り返しながら使徒に迫る。
光線は3群に別れて絶妙の時間差を維持している。
銃弾も軽々避ける巨体に追いつき、1群は切り潰されたが残る2群が使徒にめり込んだ。
「硬っ」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)が渋面になる。
戦車の装甲を打ち抜ける威力があるのに内側まで通った気が全くしない。
大型パーツを釣り上げるためのクレーンがみしみしと音をたてる。
体格の良いイェジドが、野生の猫を思わせる身軽さでクレーンから隣のクレーンへと飛び移る。
ユーリが鋭く呼気を吐く。
蒼白い雷に覆われた斬撃が、斜め上へ伸びて鎧風の肩部装甲を切り取った。
「あなたは与えられた命をこなすだけの人形? それとも明確な自我を有してるのかしら?」
巨体が振り返る。
脚も腕も動かさないのにベクトルが激変してユーリの死角へ移動。
オリーヴェは60度近い傾斜のクレーンで器用に向きだけを変える。
「どんな目的と意図を以て彼等を襲ったのかは知らないけど」
ひたすら早いだけの斬撃がオリーヴェとユーリを襲う。
オリーヴェは余裕を以て躱してみせたが、足場だったクレーンが美しくさえある断面を残し両断される。
「生きる意志を貫き足掻く人を黙って見捨てる程……生憎と薄情じゃないの」
着地の際に速度を落とさず、使徒に向けさらに増速する。
ワイバーン以上の速度だが、地上を走るならオリーヴェも負けてはいない。
「だから、貴様の相手は私達だ」
長大な刃が大精霊の僕へ届く。
驚異的に伸びる、酷く躱しづらい刺突を回避しきれず光の剣で使徒が受ける。
ユーリは、押し込んだ。
物理的にも精神的にも、あらゆる力を絞り出し刃を通して叩き付ける。
光刃が歪み、蒼白の閃光が神々しい巨体に突き立った。
「歪虚の次は天使ね……。いよいよもって、『神様』はこの世界を見捨てたのかしら?」
敵の気配が濃くなる。
ようやく、ユーリを障害と認識したのだ。
「どう結論下したのかは知らないけど、ただ……狙う相手を間違えてるわよ」
使徒を構成する正マテリアルの一部が燃える。
そのエネルギーで速度が一段階上がり、4つの斬撃がユーリに迫る。
オリーヴェが必死に間合いを外そうとするが間に合わない。受け流そうにも得物が防御に向かず、対大型戦に有効な頭部防具も厚くはない。
ユーリも防御に加わらざるを得ず、雷に彩られた白い肌に鮮血の色が加わった。
「肉を焼く前に振り切れるのは見事なものね。人の話を聞くって感じしないし、まずは……全力で斬り伏せる。話はそれからよ」
激痛に襲われているのに顔には一切出さず、ユーリは少しでも時間を稼ぐために巨大な天使に立ち向かった。
●救いの手
転移直後にエルバッハ・リオン(ka2434)が目にしたのは、全滅寸前のCAM小隊だった。
3つのCAMはスクラップ同然。
残る1つも降りて戦った方がまだ抵抗できそうだ。
「乗りなさい」
助手席のドアを殴るようにして開ける。
腕の力しか使っていないのに、重厚な装甲のドアがとんでもない勢いで外側に開いた。
「え、あの」
「わーいお人形さんみたいなエルフさんだー」
アメフト選手をこなせそうな野郎共が戸惑っている。
己の暴走に怯え、危険に身をさらして人類のため戦い、それなのに巨体の天使に襲われた上で目の前の光景だ。
心の弱い者なら途中で潰れている。この程度の混乱で済んでいるのは十分凄い。
細くすらりとした足が、絶妙の力加減でアクセルを踏んだ。
白い手がハンドルを一見乱暴にその実職業ドライバー並の練度で操り、複数の強化人間を開きっぱなしの助手席に招き入れる。
「へぁっ!?」
宙に浮かぶ強化人間を柔らかな指先が捕獲。
そのままぽいと荷台に放り込み、2人目の強化人間も同様に放り込む。
依頼成功だけでなく、自分と仲間の命だけでもなく、強化人間の若者達の命もかかっているので容赦なしである。
「待ってくれ、ボブが」
騒ぐ強化人間の目の前でドアが開く。
筋肉量2割増しの巨体が、野郎共と比べると子供にしか見えない八原 篝(ka3104)によって運び込まれる。
「ベッドを」
「了解、ほら自分でベルトつけなさいその程度できるでしょ」
エルバッハがアクセルを踏み込む。
篝が苦しむ重傷者を荷台に固定する。
「あの天使の狙いはあなた達強化人間よ。あれ相手に何人も守りながら戦えないわ。悔しいかもしれないけど今は引いて」
「でもジョニーがまだ戦っているんだ!」
ドアに手を伸ばすが篝に遮られる。
「悪いけど、足手まといよ」
うずまく感情を抑えて無表情に言い切った。
それが事実であると分かる程度には現実が見えているので、強化人間達は絶句し、力が抜け、力なく腰を下ろした。
「時間は稼ぐわ。後よろしく」
篝は助手席に移り、エルバッハに声を掛けてから無造作に飛び降りる。
「気にせず撃ちなさいタヂカラ!」
キャニスター弾の子弾がまき散らされる。
光の障壁を乗り越えた直後のアポストルに当たって微か時間足止めする。
当たらなかった子弾が弾薬箱を穴だらけに。
旧式のCAMが買える価格の整備施設を巻き込み爆発した。
「あなた名前を訊いても良い?」
「ジョニーだ。このあと有名になるから覚えてろよ-」
半壊した操縦席の中で大量の血を流しているはずなのに、彼は強がりを貫いてみせる。
微かに声が震えているのには気付かないふりをあげて、篝は端的に要求を突きつけた。
「悪いんだけど、奴をこの場に留めるためのエサ役になってもらうわ」
「覚悟はしてたさ。ボーナス増額と昇進に口添えしてくれよっ」
「そうじゃなくて」
構えようとしたガトリングガンを器用に蹴り飛ばす。
「装備は盾だけ。敵の動きを追いきれないと思うからハンターの指示に従ってね。これ止血用ね」
強化人間にとっては地獄の戦場でも、篝にとってはたまにある程度の戦場であり特に気合いを入れる必要もない。
なんだか釈然としないものを感じながら、ジョニーはCAMをアポストルに向けたまま後ろ向きに後退させる。
「20秒!」
「あわせる」
ソフィアの宣言にハンターが反応する。
アポストルは変化に気付いても変化の内容には気付けない。
「紅鳴&アルケミックパワー、急速付与充填!」
素材を保管庫から引き出しながら加工するような、とてつもなく難易度の高いマテリアル操作。
「使徒のマテリアル分析結果のロード!」
百戦と見た目以上に生きてきた経験であたりをつけ。
「ドライブ!」
構えと同時にマテリアルを微修正。
狙いと力の流れがぴたりと調和はするが体と魂がきしむ。
「ちぃっ、無限の寿命があっても擦り切れそうだよ!」
アポストルが止まる。
反射的に光刃を振るうのでもなく、速度と頑丈さを活かしてVOIDの気配を追うのでもなく、使徒並の力をソフィアの銃に感じて排除しようと走る。
HODOとディーナの援護が間に合い、光と衝撃が格納庫内に広がった。
「ブリューナク、最適化。全マテリアル解放!!」
銃身から放たれる強烈な気配が消えていく。
ただ1つの弾丸に、守護者をこなせる覚醒者の力と大精霊クリムゾンウェストの助力が集まり反応する。
ソフィアは、マテリアルを精密に動かすことで引き金を引いた。
「顕現せよ」
燃える太陽が地上に現れる。
極小の太陽と化した弾丸が、使徒の頭と胴体と下半身を巻き込む位置に短距離跳躍。
「紅き太陽!」
CAMより硬く頑丈な床やクレーンが溶け落ちる。
ハンターの攻撃の大部分を無効してきた天使の装甲が機能しなくなる。
これまでの苦戦が嘘のように、大量の正マテリアルが吹き飛んだ。
「戦闘でカメラが全部死んでて良かったよ」
TV撮影用に気合いをいれた服装も、すっかり乱れてしまっていた。
「ジョニー機はそのまま後退しなさい。真っ直ぐに」
エラは過去最大級に気を遣って言葉を選んでいる。
目配せで裏事情まで察してくるハンターや渡した情報を過不足なく理解してくれるリアルブルー軍人とは異なり、ジョニーというより強化人間の多くは力があるだけの素人だ。
こんな状況では指示通りでCAMを動かすのも正直苦しい。
「機体のアシストに従うだけで十分です」
誘導と平行して攻撃も行っている。
とにかく当てるのを優先して、デルタレイをカスタマイズした術を使徒の巨体に当てる。
当たっても有効打にならず、光刃で受けられたらほぼ無傷という直前までの展開とは異なり、三竜の威力が最高の効率で敵に伝わり正マテリアルを食い荒らす。
が、マテリアルはまだ多い。
「気を抜かないで」
露骨に気を抜いたジョニーを叱咤する。
使徒内部の力の激変を五感で捉え続ける。
「装甲が復活するも生命力の7割を喪失。平均的な戦いなら後は消化試合なのですけどね」
三竜が効かない。
一応当たってはいるのに、最大生命力の0.1パーセント程度しか削れていない感触だ。
「装甲無効化の上でのフルオートにも耐えるか」
攻撃を続行。
3本の矢がアポストルに跳ね返される。
2本当たって装甲に凹みができているがそれ以上のダメージは一切無い。
ソフィアと連携して当てた3本が反対側まで抜けたときと比べると、無傷同然だ。
「来……たわねっ!」
そのソフィアはカメラの気配を感じて瞬時に猫を被る。
1本が4本ににも見える光の剣が迫る。
強大な力を持つ使徒にとっても無理をした攻撃のようで、最大生命力の1パーセント程度が消えていた。
「逃げ切れないなら前へ出る! 1分でも1秒でも時間を稼いで、勝利に近づくんだ!」
なお、本人は即死を避ける防御行動に全力を投じていて反撃は最低限だった。
●人外の境界
イコニアがヘリから降りた。
出発前は無骨ながら機能美があった倉庫が今は崩壊直前の有様だ。
入り口が瓦礫の山か分からない場所から、物理的にも霊的にも輝く天使が姿を現す。
「あれが蒼の大精霊の使徒」
彼女は恐れも怒りも感じていない。
初めて顔をあわせる同業者に対するような、微かな理解と共感だけがあった。
「イコニアさん駄目」
「カメラ止めて」
魔導トラックの中で、これまで勇気に満ちてすらいた強化人間が恐怖に震えている。
殺意を通り越し殺処分の対象を見る視線に気付いてしまったのだ。
「イコニア司祭……純粋なる人を殴る司祭はエクラの司祭として失格だと思うの」
ディーナの気迫が増幅された音と一緒に叩き付けられる。
黒い装束が激しく揺れても、金の髪も緑の瞳も全く動かない。
明らかに使徒から影響を受けている。
「ディーナ・フェルミ。守護者への道も開かれた貴方なら理解しているはずです」
強化人間は己の生命力と引き替えに……寿命を力に変えて覚醒者に準じる力を振るってきた。
仮にVOIDとの契約を解除できたとしても寿命は残り少なく、恐怖と絶望に耐えきれずVOID化する道を選んでしまいかねない。
アポストルよりは人間的で、しかしアポストルと同じ性質の威を持つ司祭に、護衛も基地の軍人達も精神的に屈服しかけていた。
「じゃかぁしぃの!」
可愛らしい怒声が人外の気配と理屈を吹き飛ばす。
緑の瞳が何度も瞬きして、数十秒の記憶が飛んでいるのを理解し困惑の色に染まる。
「兵隊さん手荒く拘束して良いからその人後ろに連れてって下さいなの前に出したら死んじゃうの! その人が死んだら大問題なの!」
速やかに連行されていく司祭をHMDの隅で確認しながら、ディーナは使徒へ突撃する。
「司祭位以上はこれだから」
人間扱いをする必要がないほど、人から外れてしまう者がいる。
万一守護者になる機会があってもああはなるまいと心に決め、ディーナはブラストハイロゥの尽きた機体で時間稼ぎを試みる。
「代わりにっ、くらぇ!!」
ドリルでぶん殴る。
とうにマテリアルは尽きているからろくな威力がないはずなのに、地球の使徒は気圧されたように一歩後ろへ下がる。
「混乱しているな?」
乗り手の強力な治癒術もあり圧倒的な頑丈さを誇るR7を盾にしながら、HUDOが間合いを計る。
外の気配が、細く束ねられてHUDOを向いた。
「ハハッ! 弱く見える方を攻めるよなァッ!」
己の支配下にあるマテリアルを調整。
HUDOと完全に調和させることで機体のあらゆる能力を引き上げる。
それでもなお光刃4連撃を躱すには足りない。
ブースターの援護を受けても奇跡的に2度躱すのが精一杯で、残る2連撃が操縦席と腰部に迫る。
「対応してやるよ」
銀色のシールドと白い装甲を用いてコクピットへの一撃を受け流す。
腰部を多う装甲の過半を犠牲にすることで、移動力を損なわない形で耐えきり組み付く。
旭のファントムハンドのような拘束力はないが、仲間が駆けつけるまで保たせるには十分だ。
HUDOが振りほどかれる。
常識外に大きな機械弓が炎の矢の弾幕を張る。
「上級ヴォイドの侵入も黙示騎士もほっといて、今更出張ってきて何やってんのよ……!」
篝は頭に来ている。
クリムゾンウェストでもリアルブルーでも散々苦労して、ようやく一定時間であればリアルブルーに戻れようになったのだ。
今までの成果を台無しにしかねない馬鹿に一言言ってやらないと気が済まない。
「タヂカラァ!」
HUDOがより早く反応して体を躱す。
ゴーレムによるクラスター弾と優れた貫通能力を持たされた矢が十字砲火を形作り、アポストルの腹部に深刻な打撃を与える。
「間に合ったというか、なんというか」
荷台が空の魔導トラックが急ブレーキ。
止まりきれず巨人の前まで滑り、運転席で上半身がある部位を貫かれる。
エルバッハは使徒の動きを読み切り助手席に座って操作していた。
平然と車から降り、淡々とファイアーボールを投げて使徒の力を削る。
「もう帰ってくれてもいいんですよ?」
気軽な感じで投げている火球は、魔導トラックが撤退時の牽制で撃っていた30ミリ砲よりはるかに強い。
光が薄れていく。
蒼世界の使徒の滅びがすぐそこまで迫っている。
「前衛後衛の後退を提案」
グリフォンと前に出ながらエラが言い、紫苑が苦渋の表情で脱出しようとした。
「必要無いの」
強烈な癒やしの力がHUDOを支える。その力が保っている間に紫苑が予備の回路へ切り替える。
倒れ動けないはずの旭とユーリとその相棒が、血の気は引いていても戦闘力を維持してアポストル包囲に加わる。
「これで最後!」
ソフィアが最後のスキルを使用。
鮮やかな光が3つ突き抜け、使徒の胸部にマテリアルの小爆発が発生。
紅世界の守護者を鮮やかに照らし出す。
「ズィルヴィント、後は壁役、粘るわよ」
疲労の極みにあっても、ソフィアの戦闘力と猫は万全だった。
●天使の後ろ姿
全力を出し続ければハンターだって疲れる。
今もエラの呼吸が乱れ、エラを支えるグリフォンに至ってはいつ翼が痙攣し頭から落ちてもおかしくない状況だ。
そんな状況でもエラの思考はいつも通りに冴えている。
蒼の使徒から感じる圧力を数値で表し、自軍の残り戦力と冷静に比較する。
エラの呼吸の乱れが酷くなる。
使徒の巨体が一瞬薄れて戻りきらない。
エラによる3つの光が敵を削り、正マテリアルを最大値の10分の1まで削り取った。
「説得を試みるならこのタイミングしかありません」
「俺がやる。いいな?」
HUDOの搭乗口が静かに開く。
紫苑は人機一体の連続使用により危険なほど顔色が悪い。
ハンターは得物を向けたまま攻撃の手を止める。
「帰って上司に伝えな。このまま戦いを続けてもいたずらに戦力を消耗するだけ。そちらの攻撃基準はわからないが、こちらにも守るべきものがある」
1人囮役を引き受け、機体はぎりぎり中破でも乗り手が限界を迎えたCAMが倒れてる。
「一度会談の場を設けたい。そちらからのリアクションを期待する」
前者は否。後者は消極的肯定。
少なくとも紫苑はそう感じた。
「行くなら止めはしない」
この状況で光刃を振るわれたら即死するのを理解した上で、紫苑はじっと使徒を見た。
エルバッハは火球を消し、魔導トラックから荷物を引っ張り出して全力で駆ける。
使徒に無防備な背中を見せることになるが今は時間が惜しい。
細部はともかく基本的な構造はよく知っているCAMにとりつき、正規の操作で搭乗口を開ける。
ジョニーは死相を浮かべている。
「俺、僕、は……」
エルバッハは手を止めずに治療を施す。
強化人間は何かを言いかけ、諦めたように口を閉じようとして舌をかみ切らないよう布をかまされる。
手足を振り回さないよう、そして傷つけないよう、絶妙の手加減でロープで固定された。
「意識を強く持って下さい」
エルバッハは一度言葉を切る。
「?」
死者を悼む目を予想していたのに、エルフの目には歯医者に向かう子供を気遣う色が……。
白兵仕様のR7から、使徒と違って人間的な、ただし容赦のない癒やしの力がジョニーに向かって降り注ぐ。
「いっ!?」
神経と血管が繋がり電気信号とエネルギーの流れが復活。
壊れていた痛覚が復活し新鮮かつ強烈な痛なみがジョニーを襲う。
エルバッハ達にとっては慣れて特に気にしない痛みでも、強化人間にとっては拷問以上であった。
「交渉成立だな。……さすがに、少し疲れた」
長距離転移発動直前の使徒を眺め、紫苑が大きく息を吐く。
視線を横に向けると、おそるおそるこちらを見ている、ジョニー以外の強化人間が見えた。
「共に歩む意志のあるものを、私は友と呼びたい」
エラのつぶやきに蒼の使徒は何の反応も示さず、どこか遠くへ跳んだ。
徹底的に痛めつけられているため、アプリの犠牲者を襲うことも、しばらくの間はないはずだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/08/24 17:05:37 |
|
![]() |
相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/08/27 02:19:38 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/23 17:19:44 |