ゲスト
(ka0000)
【陶曲】届けメッセージ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/08/31 22:00
- 完成日
- 2018/09/05 23:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ポルトワール・グリーク商会
ナルシスは久方ぶりに実家へ足を運んでみた。姉のニケが性にも合わないことを始めていると小耳に挟んだので、ちょっとばかり嫌みを言いたくなったのだ。
「姉さん、身柄引き受けた孤児をあの商船学校に入れたんだって?」
「そうよ」
「残酷なことするねえ。あそこがどういう校風か姉さん知ってるじゃない。貧乏人には居場所ないよ」
「ええ。でも授業内容には間違いがないからね。あんたもあそこでようやく少しは何事かが身についたわけだし。怠け癖は全然直らなかったけど」
「人のことはほっといてよ。まあ僕が思うに、早晩嫌になって逃げちゃうね、その子」
「ならないわよ。根性のある子だったから。それよりナルシス、あんたバイトする気はない? どうせヒマでしょ。というかヒマしかないでしょ。ヒモだから」
「やだよ、僕こう見えても忙しいんだから」
「見え透いた嘘はいいからとにかくバイトしてちょうだい。ユニゾンの保養所がこの秋オープン予定だから、そこで」
「やだね」
「やんなさい」
「しつこいな、やだって言ってるじゃ」
「 や れ 」
「…………」
ナルシスが位負けしているところに、商会社員が入ってきた。
「副会長、手紙が届いています――副会長宛に」
社員が渡してきたのは、不格好な大きい封筒だった。
表には「ぐりいくしぉうかい、にけ・ぐりーくさま」。
送り主はと裏を見ると、「えんりけどおり にのななばんち えくらのいえ。しもん、なな、そのほか」
開けてみればそこには、複数の便せんが入っていた。
そのうちの一枚を取り、読んでみる。
『はいけい にけさま。まるこにいちゃんはげんきですか。おてがみしたいけど、がっこうのあるばしょ、わからんからできないです。だから、このてがみ、かわりに、とどけてください。しもん、は、えくらのいえ、で、げんきにしています。ななも、です――』
●全寮制商船学校――ベレン学院
ベレン学院は、海運業に必要な知識と実技の一切を教えてくれると評判の私立学校である。
中等、高等の2部門に分かれている。中等教育は12歳から15歳まで、高等教育は15歳から18歳までということになっているが、優秀な子には飛び級も認められている。
施される教育のレベルは高い。それだけに授業料も半端ではない。従って経済力のある家の子弟子女しか集まらない。
●べレン学院中等課1年A組
この夏急遽前ぶれなく転入してきたマルコについてクラスの面々は、情報を引き出そうと試みた。
彼が自分たちの社会においてどの位置に当てはまる人間なのか、調べるために。
「どこから来たの?」
「家は何をしているの?」
「これまでどこの初等学校にいたの」
それによってなんとか彼から、これまでどこの初等学校にも通っていなかったことを聞き出した。ついで孤児であることも。
この時点で面々は彼に対する評価を大いに下げた。恵まれた環境にいる者はそうでない者に対し、優越感と軽蔑を抱きがちなものだ。
「初等学校に行ったことない奴なんか初めて見た」
「親もいないのになんでこんなところに入ってきたんだ」
「来るところ間違えてんじゃないのか」
しかしそれでも彼らは、マルコに対しあからさまにその感情を示すことをためらった。
マルコは自分たちと同じように既製品ではなくオーダーメイドの服を着ている。高価な参考書や文具、その他諸々もきちんと揃えている。
ということはつまり、それだけの経済的支援が出来る誰かがバックにいるということになる。
それは一体誰なのか。どういう経過でそうなったのか。
そこのあたりをはっきりさせない限り、うかつなことは出来ない。
「誰か先生に聞いてみたら」
「知ってたって教えてくれないでしょ。同じ先生にならともかく、生徒には」
彼らの行動は、動かない動物の周囲を巡るカラスに似ていた。
時折おどけるように嘴で軽くつついては、これは強いのか弱いのか、生きているのか死んでいるのか、食えるものか食えないものか慎重に確かめている。
もし弱いなら、死んでいるなら、食えるなら、肉を啄んでやるのだが。目玉をほじってやるのだが。
●マルコの気持ち
今のところ、自分に対し周囲が特に何かするということはない。普通に挨拶もしてくる。
だが、その後ろに『探っている』という気配を強く感じる。
「そう、お父さんもお母さんもいないんだ」
「ふうん、苦労したんだね。大変だったんだね。でもさ、保護者さんはいるんだよね? この学校に入れるんだから」
「その人はおじいさん? おばあさん? それともおじさん、おばさん?」
「どこに住んでいるの? ポルトワール? それとも別のどこか?」
「教えてくれない?」
保護者だった人は歪虚に襲われて死んだ。住んでいた孤児院は買収にあって潰れた。孤児仲間は自分も含めてばらばらになってしまった。この学校に自分を入れたのはその買収相手である商会のトップである。
そんな事情口が裂けても説明したくない。
相手が信用ならないからとかいうことではない――実際信用ならないが。
そうではなくて、たとえ信用出来そうな相手であっても、話したくないのだ。
自分自身でまだ気持ちに整理がついていない。客観視して話せるほどには。
●託された手紙
「あなたがたにお使いをしに行ってもらいたいんですよ」
と言ってニケは、大きな封筒をハンターに渡した。
「彼への手紙です。同じ孤児院にいた子たちが送ってきましてね。彼のいる住所が分からないからって」
「教えてあげてないんですか?」
「ええ。でも、教えてあげてもいいですよ。彼が自分の元へ直に手紙が来てもいいという意思表示をしてくれるなら。だからこの手紙を渡すついでに、そこを聞いてきてください。ついでに……まさかもう音を上げているとは思いませんけど、一応――彼の様子も確かめてきてくれますか?」
ナルシスは久方ぶりに実家へ足を運んでみた。姉のニケが性にも合わないことを始めていると小耳に挟んだので、ちょっとばかり嫌みを言いたくなったのだ。
「姉さん、身柄引き受けた孤児をあの商船学校に入れたんだって?」
「そうよ」
「残酷なことするねえ。あそこがどういう校風か姉さん知ってるじゃない。貧乏人には居場所ないよ」
「ええ。でも授業内容には間違いがないからね。あんたもあそこでようやく少しは何事かが身についたわけだし。怠け癖は全然直らなかったけど」
「人のことはほっといてよ。まあ僕が思うに、早晩嫌になって逃げちゃうね、その子」
「ならないわよ。根性のある子だったから。それよりナルシス、あんたバイトする気はない? どうせヒマでしょ。というかヒマしかないでしょ。ヒモだから」
「やだよ、僕こう見えても忙しいんだから」
「見え透いた嘘はいいからとにかくバイトしてちょうだい。ユニゾンの保養所がこの秋オープン予定だから、そこで」
「やだね」
「やんなさい」
「しつこいな、やだって言ってるじゃ」
「 や れ 」
「…………」
ナルシスが位負けしているところに、商会社員が入ってきた。
「副会長、手紙が届いています――副会長宛に」
社員が渡してきたのは、不格好な大きい封筒だった。
表には「ぐりいくしぉうかい、にけ・ぐりーくさま」。
送り主はと裏を見ると、「えんりけどおり にのななばんち えくらのいえ。しもん、なな、そのほか」
開けてみればそこには、複数の便せんが入っていた。
そのうちの一枚を取り、読んでみる。
『はいけい にけさま。まるこにいちゃんはげんきですか。おてがみしたいけど、がっこうのあるばしょ、わからんからできないです。だから、このてがみ、かわりに、とどけてください。しもん、は、えくらのいえ、で、げんきにしています。ななも、です――』
●全寮制商船学校――ベレン学院
ベレン学院は、海運業に必要な知識と実技の一切を教えてくれると評判の私立学校である。
中等、高等の2部門に分かれている。中等教育は12歳から15歳まで、高等教育は15歳から18歳までということになっているが、優秀な子には飛び級も認められている。
施される教育のレベルは高い。それだけに授業料も半端ではない。従って経済力のある家の子弟子女しか集まらない。
●べレン学院中等課1年A組
この夏急遽前ぶれなく転入してきたマルコについてクラスの面々は、情報を引き出そうと試みた。
彼が自分たちの社会においてどの位置に当てはまる人間なのか、調べるために。
「どこから来たの?」
「家は何をしているの?」
「これまでどこの初等学校にいたの」
それによってなんとか彼から、これまでどこの初等学校にも通っていなかったことを聞き出した。ついで孤児であることも。
この時点で面々は彼に対する評価を大いに下げた。恵まれた環境にいる者はそうでない者に対し、優越感と軽蔑を抱きがちなものだ。
「初等学校に行ったことない奴なんか初めて見た」
「親もいないのになんでこんなところに入ってきたんだ」
「来るところ間違えてんじゃないのか」
しかしそれでも彼らは、マルコに対しあからさまにその感情を示すことをためらった。
マルコは自分たちと同じように既製品ではなくオーダーメイドの服を着ている。高価な参考書や文具、その他諸々もきちんと揃えている。
ということはつまり、それだけの経済的支援が出来る誰かがバックにいるということになる。
それは一体誰なのか。どういう経過でそうなったのか。
そこのあたりをはっきりさせない限り、うかつなことは出来ない。
「誰か先生に聞いてみたら」
「知ってたって教えてくれないでしょ。同じ先生にならともかく、生徒には」
彼らの行動は、動かない動物の周囲を巡るカラスに似ていた。
時折おどけるように嘴で軽くつついては、これは強いのか弱いのか、生きているのか死んでいるのか、食えるものか食えないものか慎重に確かめている。
もし弱いなら、死んでいるなら、食えるなら、肉を啄んでやるのだが。目玉をほじってやるのだが。
●マルコの気持ち
今のところ、自分に対し周囲が特に何かするということはない。普通に挨拶もしてくる。
だが、その後ろに『探っている』という気配を強く感じる。
「そう、お父さんもお母さんもいないんだ」
「ふうん、苦労したんだね。大変だったんだね。でもさ、保護者さんはいるんだよね? この学校に入れるんだから」
「その人はおじいさん? おばあさん? それともおじさん、おばさん?」
「どこに住んでいるの? ポルトワール? それとも別のどこか?」
「教えてくれない?」
保護者だった人は歪虚に襲われて死んだ。住んでいた孤児院は買収にあって潰れた。孤児仲間は自分も含めてばらばらになってしまった。この学校に自分を入れたのはその買収相手である商会のトップである。
そんな事情口が裂けても説明したくない。
相手が信用ならないからとかいうことではない――実際信用ならないが。
そうではなくて、たとえ信用出来そうな相手であっても、話したくないのだ。
自分自身でまだ気持ちに整理がついていない。客観視して話せるほどには。
●託された手紙
「あなたがたにお使いをしに行ってもらいたいんですよ」
と言ってニケは、大きな封筒をハンターに渡した。
「彼への手紙です。同じ孤児院にいた子たちが送ってきましてね。彼のいる住所が分からないからって」
「教えてあげてないんですか?」
「ええ。でも、教えてあげてもいいですよ。彼が自分の元へ直に手紙が来てもいいという意思表示をしてくれるなら。だからこの手紙を渡すついでに、そこを聞いてきてください。ついでに……まさかもう音を上げているとは思いませんけど、一応――彼の様子も確かめてきてくれますか?」
リプレイ本文
●学院への訪問者
ベレン学院はジュード・エアハート(ka0410)による見学申し出を快く受け入れた。
裕福な海商の息子。商会に籍を置く一本立ちの経営者。同学院系列校の卒業生。身なりのよさや品のよさ。寄付金――等々の要素を鑑みた結果、そうするだけの価値がある人間だと判断したのだ。
護衛役に扮したエアルドフリス(ka1856)は、随行員と談笑するジュードに付き従い廊下を歩いて行く。
(これが商船学校ってもんか)
大理石の床、柱、各所に施された彫刻、高い天井には鮮やかな装飾画。廊下の側面にははめ込み式の陳列棚。並んでいるのはこの学院が手にいれた賞牌の数々。社会の成功者となった卒業生の肖像。
今は授業時間。生徒達は教室にいる。窓から盗み見れば皆一様に身なりがよかった。利口そうな、抜け目のなさそうな目をしている。
エアルドフリスは胸の中で呟いた。
(子供らしさってもんはねえな)
ジュードは、随行員と話を続けている。
「――ところで噂で聞いたんですが、最近ちょっと毛色の違う子が入ったとか。さる海商の支援を受けた孤児だそうで。名前はそう……マルコ・ニッティだとか」
「あ、はい、その子なら確かにいます。夏に転入して来ました子で」
「どうなんです、成績などは」
「そうですねー、私はそのクラス担当じゃありませんので詳細までは分かりませんが、なかなか優秀ですよ。この間初めて受けた校内テストで、学年30番内に入っていましたし。これまできちんとした教育を受けてこなかった子だと聞きましたから、そこまでいけたのは正直驚きです」
「へえ、それは素晴らしい。クラスの子たちとは仲良くやれていますか?」
「普通程度に仲良くしていると思いますよ? もちろん学期の中途から転入してきたわけですから、まだまだなじめていない部分もあるでしょうがね」
「なるほど」
ジュードはマルコの学院生活が多難なものであろうことを、今得た情報の端々から察する。
エアルドフリスも彼と同じことを感じ取った。学校生活の経験こそないが、周囲と環境が違い過ぎてどうしたらいいのか判らないという状況は経験したことがある。だから、大体の想像はつく。
(なかなか複雑な状況のようだな……)
●寮への訪問者
ベレン学院中等科寮の寮長室。
扉の外には御者に扮したマルカ・アニチキン(ka2542)が慇懃かつ堂々とした態度で立っている。護衛として同行しているレイア・アローネ(ka4082)と共に。
部屋の中では天竜寺 詩(ka0396)が寮長と話をしていた。マルコがこの学園へ行くきっかけを作ったのは自分である。従って自分には、彼の現状を見届ける義務がある――と彼女は強く思っていた。
「そうですか、マルコ君に会いに来られたんですか」
「はい、商会としては彼がどういう寮生活を送っているのか知りたく思いまして……どうでしょう、彼は真面目にやっていますでしょうか」
「真面目に学業に励んでいますよ。寮の決まりもきちんと守っていますし。問題らしい問題は一つも起こしていません」
「そうですか……安心しました。それではマルコさんが帰って来るまで、ここで待たせていただけますでしょうか?」
「ええ、かまいませんよ」
「その際、談話室を貸していただけますか?」
「はい、どうぞ」
マルコにはニケのことを理解してほしい、と彼女は切に願う。あの事件が起きてからそんなに日数もたっていないから、難しいかもしれないが。
●放課後の学院で
随行員から自由行動を許可されたジュードとエアルドフリスは、学生たちとの接触を試みた。マルコの様子を更に詳しく調べるために。
彼らは見学者であるジュード達に対し、総じて礼儀正しかった。態度物腰も柔らかかったし、尋ねられたこと……例えばマルコの印象などについて、実にはきはきと答えた。
「マルコくんですか。えーと、私たちもあまり詳しいことは……彼、ちょっと人見知りするようなところがあるんでしょうか、あまり話をしようとしないんで」
「僕たちも彼のことはすごく気にしているんです。なんでも、ご両親が早いうちに亡くなられて、孤児院にいたそうですね?」
「そういうの、きっと寂しいだろうなと思うんです。だから、もっと打ち解けてほしいんですけど……」
2人は察した。自分たちがマルコについて情報を得ようとしている以上に、彼らもマルコについての情報を得ようとしていることを。
同情的な言葉の裏に、冷たい計算と打算が蠢いている。
「マルコくんは、誰のご支援でこの学院に入学してきたんでしょうか? ご存じですか?」
エアルドフリスは声を低め、ぎろっと生徒達を睨みつけた。
「……俺がお前らみたいなガキ相手に、守秘事項をぺらぺら喋るとでも思ってるのか?」
威圧が効いていることを確認し、念押すような一言。
「坊っちゃんに良からぬ事を企む生徒は居ないだろうな?」
気圧された生徒達は言葉を飲みこんだ。
そこですかさずジュードが、空気を和らげる。
「エアさん、いつもの調子で喋るのやめなよ。印象悪いから――ごめんね、根はいい人なんだよこの人。ただ口が悪いだけで。皆色々教えてくれてありがとう。邪魔したね」
2人は場を離れた。
生徒達の姿が見えなくなったところで、エアルドフリスが言う。
「ちょっとやりすぎたか?」
「ううん。あのくらいでちょうどいいよエアさん。強い後ろ盾がいるんだって思わせておくのはいいことだよ」
「しかし、当のマルコ少年はどこにいるんだろうな」
「んー、俺の経験上彼みたいな人間が行くところは図書室とか、中庭の隅とか、人気が少なかったり静かな所かな――多分」
●黒い羊
図書館の隅で参考書を読んでいたマルコは、近づいてくる足音に半眼を向けた。同級生が来たのかと思ったのだ。
しかし違った。来たのは茶色のスーツを着た青年と、雨合羽にも似た装束の男。どちらも初めて見る顔だ。
青年はにっこり笑って、自分の名を名乗った。
それからポルトワールの商人であること、将来有望そうな子がいないか学校見学に来ていること、苦学生がいるという噂を聞き興味を持ったという旨を説明してきた。
「感心だね、放課後一刻も惜しまず勉強とは」
「はあ、まあ……」
「マルコ君はこの夏中途入校してきたと聞くけど、学院には慣れたかい?」
「はい、まあまあ……」
「そう。大変だよね、寮生活は。窮屈でさ。俺も以前、全寮制の商船学校に通ってたことがあるから分かるよ」
「……そうなんですか?」
「うん。といっても俺は、結局海商にならなかったけどね。今はリゼリオで『極楽鳥』っていう菓子屋をやってるんだ」
マルコは目をしばたいた。ジュードの言葉が意外だったのだ。
周囲にいる同級生たちが、将来海運関係の仕事に就くことを見据えているので。
商船学校を卒業しながら別の道を志すものがいるなどとは、正直想像していなかった。
「菓子屋……ですか?」
「そう、菓子屋――これを聞くのはまだ気が早いと思うんだけど、君は将来何になりたいと思っているんだい?」
マルコは考えた。頭の中をこれまでの出来事がぐるぐる回る。それが、次の言葉を吐き出させる。
「俺は、海商になりたいです。一番大きい海商に」
ジュードはマルコの肩をポンと叩いた。
「君に追い風があらんことを」
励ましの言葉の後、耳元に告げる。
「寮で君の知り合いが待っているそうだ。グリーク商会から何か預かってきたとか」
マルコは急いで参考書を片付け、ジュードに一礼し、図書室から退室していく。商会が一体何を届けに来たのだろうといぶかしみながら。
出入り口に控えていたエアルドフリスは、彼のために扉を開けてやった。
「戦う気なら、振り返らん方がいいかもしれん。あんた次第だがね」
●メッセージ
「お久しぶりです、天龍寺さん、アニチキンさん――」
視線が向かってきたタイミングで、レイアがマルコに自己紹介する。
「私はレイア・アローネだ。君とは初めまして、ということになる」
「そうですか、初めまして、アローネさん。それでその、商会からの用事というのは……」
詩はニケから預かってきた封筒を渡した。そこにある表書きの字にマルコは、はっとした顔になる。急ぐあまりもつれる手で中の手紙を取り出す。そして、食い入るように読み始める。
その様子を見守りながら詩は、静かに話しかけた。
「私ね、実はお父さんの浮気相手の子供なんだ。ママが死んでお父さんに引き取られたんだけどね。愛人の子って事で学校でも色々言われた。特にお父さん、私の国では古典芸能の大家でママは外人だったから余計ね。外人なんかに我が国の芸能が取得できるか、とかもね。でも一つ一つ、歌も踊りも身につけていったら誰も何も言わなくなったよ。それにね」
マルコが手紙から顔を上げた。
詩は彼の目を見つめる。心なし揺らいでいるように見える目を。
「生まれも何も関係ない。本当のマルコ君自身を見てくれる人はきっといるよ。ニケさんは無駄な事はしない人だから、マルコ君を此処に入れたのも、オーダーメイドの服も高価な勉強道具も、全部マルコ君にそれだけの価値があると思ったからだよ。あの人は少なくとも生まれや身分で他人を判断する人じゃない。マルコ君はニケさんが憎いかもしれないけど、それだけは解って欲しいな」
マルコは唇を引き結んで彼女の言葉を聞いた。間を置き、苦さの滲む口調で反論した。
「生まれや身分ではそうかもしれないけど、金のあるなしでは確実に判断してるよね。ここの連中と一緒でさ」
そこでマルカが口を挟んだ。
「違うと思います。ニケさんの場合は現時点での金のあるなしよりも、それを自分で稼ぐ甲斐性があるか否かで判断しているんだと思います。弟のナルシスさんに対するあしらいを考慮してみますに」
詩とマルカはマルコとの面識がある。だが自分はそうではない。見ず知らずの人間がかける言葉は説得力に欠けるであろう。
それが分かっていてもレイアは、彼を元気づけたかった。たとえ傲慢であると取られようとも、胸に蟠っているよどみを吹き飛ばしてやりたかった。
労るのではなく激励の意味を込め、少年の肩を強く叩く。相手が思わず上半身をよろけさせるほど。
「君は強い。今、君は見知らぬ地で一人で歯を食いしばっている。それは大人であってもそうそう出来ない事だ。だから誰に対しても今の自分を引け目に思う必要はない。今の自分も、過去の自分もだ。勿論君の仲間達も。君の仲間は見られて恥ずかしいものではないだろう?」
マルコは苛立ちを込めた視線でレイアを見返してくる。
それを彼女は正面から受け止めた。反発する力があるなら安心だと思いながら、続ける。
「違うのか? 恥ずかしいと思っているのか?」
「――思ってないっ」
声を張り上げ息を弾ませるマルコの姿を見て、マルカは考える。マルコの出自が明らかにされた場合、彼が不利益を被るのではないか、と。
それとなく探りを入れた限りにおいて彼の同級生たちは、不遇な相手に対するいたわりを示す人間ではなさそうだった。
むしろ、そういう相手を「弱い」と見なすのではないだろうか。その場合、心に秘めている軽侮が行動となって表面化する恐れはないだろうか。
苦難と戦い克服するのは大事なこと。だが、前以て余計な苦難を回避する手立てを打つのも、これまた大事なこと。
だから、そのことを彼に伝える。
「本当のマルコさんを見てくれる人がどこかにいると私も思います。いずれ見つかるとも。だから……これまでのことはその人にだけ言えばいいんです。あなたが信用出来ないと思っている人にまで、真実を教えることはありません。そういう人達は他人の不幸を聞いても、笑ったり馬鹿にしたりするだけですから」
詩はつかの間自分の学校時代について回想した。そしてマルカの言うことが正しいと思った。
そこはレイアも同感だったらしい。腰に手を当て息を吐く。
「誰だってわずらわしいのはごめんだし、意地を張って傷つく必要などない。けど、仮に将来の話でも、もし仲間に近況を教えるのであれば、もし学友達に仲間を見せるのであれば、その時は胸を張ってこう言ってやれ。「どうだ、すごいだろう」と、な」
マルコは手紙を握り締め言った。両目に力強い光を宿らせて。
「……皆には俺から返事を書いて送るよ。あいつらまだ小さいから、すごく心細いと思うんだ。新しい場所にいるのが。俺よりずっと。俺、ここで一番になるよ。そしたら回りの奴も、俺に余計なこと言ったりしたり出来なくなると思うから」
マルカは彼に、『携帯用高級羽ペン』並びに『新書版「宝井正博ビジネス論」』をそっと手渡す。そして、小声で言う。
「周囲の自分に対する曲解、誤解と無知を利用して利益を享受するくらいは、ここの義務教育過程に入っていると思ってください。”誰かに任せる”事と”誰かに頼ってやってもらう”事とは違います。もし何か困り事があれば、私たちハンターを利用してください。それはズルではありません。検討とご健闘を……」
●最終報告
エアルドフリスは次の言葉で、報告の最後を締めくくる。
「――まぁ、よくやってるんじゃあないですかね。戦う対象がありゃ人間は頑張れるもんです」
執務机のニケは顎の前で手を組み、半ば目を閉じるようにして聞いている。
「なるほど、よく分かりました。ありがとうございます。それで、手紙の件について彼は何と?」
その質問には詩が答える。
「この先も商会の方で取り次いでくれないかってことだったよ。自分も返事を書くから、それを向こうに届けて欲しいって。というわけでこれが今回のお手紙の返事」
言いながらニケに、マルコから預かった封筒を渡す。
ニケはそれを受け取った。
「いいでしょう。これはこちらから孤児院に送っておきます。そのほかに彼は、何か言っていませんでしたか?」
そちらの質問にはマルカが、いつものおずおずした調子で答えた。遠慮がちに手を挙げて。学院にいた時とは違い、今彼女は覚醒していない。
「あのー、ですね。ニケさんに、ですね、伝言が……その、この先ハンターオフィスに依頼を出す必要があるとしたら……そのときはニケさんの名義で出すので、ニケさんに報酬を支払ってほしい……と。これは自分が学院で生活して行く上での必要経費だから、と」
ニケの目が一瞬鋭く細まった。マルカは自分が怒られているような気持ちになり、すくんでしまう。
レイアが脇からフォローした。
「出世払いでのしつけて返すと、その後続けて言っていたぞ」
ジュードがふふっとおかしそうに笑う。
「ニケさんが言うように、なかなか根性あるよね、あの子」
直後ニケも笑った。いかにも痛快だといった、楽しげな笑い声だった。
「いいでしょう、出しますとも。先行投資について、私は惜しく思いませんからね!」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/31 20:42:21 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/08/31 21:01:01 |