ゲスト
(ka0000)
【空蒼】Vidi un teschio
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/28 22:00
- 完成日
- 2018/11/29 13:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●シチリア系マフィアの叛逆
20世紀後半から『マフィアを撲滅しよう』という動きが世界的に強まり、特にシチリア島でその動きは顕著となった。
当然、シチリア系マフィア達はそれに応戦。金と暴力、麻薬と女で手に入れた権力を決して彼らは手放さず、その影響は警察内部、国政内部にまで侵食していたが、連合軍の投入により抗争は激化。
結果、シチリア半島の1/2を焦土と化しつつも、第三次マフィア戦争は連合軍の辛勝で幕を閉じた。
その後、イタリアはこの紛争の中で最も助力を連合軍にシチリア半島の10%を提供。連合軍がもたらす軍事利益により急成長を遂げたシチリア島は、イタリア南部で最も裕福な地域へと変貌を遂げた。
この時、ほぼ壊滅状態となったシチリア系マフィアだが、結局のところ連合軍のお陰で利益を上げるようになったシチリア島の深部に潜み、30年以上という月日を掛けて世界への復讐のチャンスを掴んだのだった。
ここシチリア島には3つの連合軍基地が設立されていた。
カターニア基地。メッシーナ基地。シラクサ基地。その何れもアスガルドでの強化人間手術の成功以来、特に強化人間手術への着手、更に強化人間の訓練施設としては随一の力の入れ具合だった。
『ハンターに頼らないリアルブルー人による、リアルブルー人だけの組織と戦力』
その合い言葉の下、世界中が期待を寄せていた。その期待が完全に裏目に出た。
今回のカターニア基地での暴走事件により、保護下にあった365人の強化人間達が暴走、うち258人で空母一隻と連合軍兵2253人を鹵獲して逃走。残った強化人間107人のうち31名が死亡、76名が重傷から軽傷、そして例の如く意識不明となって隔離、収容された。
残る2箇所の基地でも未暴走の強化人間達を保護、監視を行っている。その数、総勢で1237名。
彼らが暴走するような事があれば、今度こそシチリア島の全土が焦土と化すのではないか……そう不安に思う人々とそれを煽る一般人に擬態したマフィア達の囁き。そして、マフィアと裏で繋がっている政治家、連合君幹部の存在がさらに各組織下で疑心暗鬼を煽る。
――そして、人々の不安がピークに達した頃合いを見計らい、悲劇は幕を開けた。
●Long Goodbye
悪魔のモーニングコールは、メッシーナ基地、シラクサ基地、ほぼ同時に鳴り響いた。
当然、これらを予防するための策は幾重にも取られていた。しかし、その全てを突破した上でのモーニングコールだった。
だが警戒を強めていたゆえに、ハンター達への救援要請は前回よりも速やかに行われた。それぞれの基地に100人ずつのハンターを派遣し、事態の沈静化を図ったのだ。
メッシーナ基地には624名の強化人間達が保護という名目の下監視、軟禁されていた。
一方で基地にいた連合軍兵(一般人)は3526名。彼らとてなんの抵抗もなく基地を手放しはしなかったが、5倍近い人員を誇っていても、基礎身体能力の高さ、更に加えて覚醒者に類似した能力が使える強化人間達を前に、ハンター達が到着した時にはその半数以上が既に息絶えている状態だった。
強化人間達の目的は基地の制圧。さらには前回同様CAM、空母、またその護衛艦隊の鹵獲である可能性が高かった為、連合軍の対策部は先手を打ち、空母、護衛艦隊が停泊中の港に直接ハンター達の転移先となるマーカーを設置。
結果、彼らにこれ以上鹵獲される前にハンター達を戦場の中心へと送ることに成功していた。
『まさか、転移門を潜った先が戦火まっただ中でした、とはな!』
『事前に打ち合わせが出来たことが救いか』
『港の制圧、これでほぼ完了か。お次は、官舎制圧と訓練場制圧だっけか』
『じゃ、お互い健闘を祈る』
通信機器を用いてハンター達は包囲網を展開。速やかなる基地施設奪還作戦に推移していくが、暴走した強化人間達もまた容易には道を譲らない。
ハンター達は各々の持ちうる全力を持って戦いに身を投じていったのだった。
そんな戦い中、あなた達5名はCAM整備施設奪還作戦の担当となった。
奪われたのはCAM整備施設……全体像としては倉庫を想像すると早いか。
一度に5機のCAMを修理することが出来るドッグには、現在整備中のCAMがそのまま5機取り残されていたという。
それ以外にも修理が終わった機体が3機、搬入口側に待機していた。
施設内部はCAM同士が戦うほどの広さ的な余裕はない。
ただ施設の前には空輸用の滑走路が敷かれており、CAM同士で戦うならここが障害物もなく適していると言えるだろう。
一方、人の身であるならば施設内は乱暴な言い方をすればジャングルジムのような様相を呈していた。
CAMを整備・修理するために三階建ての足場が組まれている。
CAMの足元はそのまま回転出来るようになっており、CAMを固定し床を回転させることでCAMの前後左右を見ることが出来る装置が仕掛けられているのだという。
『強化人間達に修理済みの3機は確実に鹵獲されたと考えた方がいいだろう。残りの修理中だった5機だが、動かすと異音がするとか、通信に難があるなどのほぼ動きには支障のない小さな修繕だったため、これも奪われてしまった可能性が高い』
救出された整備班班長だという兵士からの情報だった。
「見えた、あの建物か! ……いるな」
施設へと駆けつけるハンター達は大きな格納庫のような施設、そしてその前で銃を構えているR7エクスシア3体と強化人間達を発見した。
……しかし、他5体の姿はない。
もしかすると、固定具を外したりなどで手間取っているのかもしれない。
CAMに乗れなかった強化人間達が近付くハンターに気付いて銃を放つ。
「まぁ、いっちょやってやりましょうか!」
あなた達はそれぞれの得物を手に施設へと近付いていった。
20世紀後半から『マフィアを撲滅しよう』という動きが世界的に強まり、特にシチリア島でその動きは顕著となった。
当然、シチリア系マフィア達はそれに応戦。金と暴力、麻薬と女で手に入れた権力を決して彼らは手放さず、その影響は警察内部、国政内部にまで侵食していたが、連合軍の投入により抗争は激化。
結果、シチリア半島の1/2を焦土と化しつつも、第三次マフィア戦争は連合軍の辛勝で幕を閉じた。
その後、イタリアはこの紛争の中で最も助力を連合軍にシチリア半島の10%を提供。連合軍がもたらす軍事利益により急成長を遂げたシチリア島は、イタリア南部で最も裕福な地域へと変貌を遂げた。
この時、ほぼ壊滅状態となったシチリア系マフィアだが、結局のところ連合軍のお陰で利益を上げるようになったシチリア島の深部に潜み、30年以上という月日を掛けて世界への復讐のチャンスを掴んだのだった。
ここシチリア島には3つの連合軍基地が設立されていた。
カターニア基地。メッシーナ基地。シラクサ基地。その何れもアスガルドでの強化人間手術の成功以来、特に強化人間手術への着手、更に強化人間の訓練施設としては随一の力の入れ具合だった。
『ハンターに頼らないリアルブルー人による、リアルブルー人だけの組織と戦力』
その合い言葉の下、世界中が期待を寄せていた。その期待が完全に裏目に出た。
今回のカターニア基地での暴走事件により、保護下にあった365人の強化人間達が暴走、うち258人で空母一隻と連合軍兵2253人を鹵獲して逃走。残った強化人間107人のうち31名が死亡、76名が重傷から軽傷、そして例の如く意識不明となって隔離、収容された。
残る2箇所の基地でも未暴走の強化人間達を保護、監視を行っている。その数、総勢で1237名。
彼らが暴走するような事があれば、今度こそシチリア島の全土が焦土と化すのではないか……そう不安に思う人々とそれを煽る一般人に擬態したマフィア達の囁き。そして、マフィアと裏で繋がっている政治家、連合君幹部の存在がさらに各組織下で疑心暗鬼を煽る。
――そして、人々の不安がピークに達した頃合いを見計らい、悲劇は幕を開けた。
●Long Goodbye
悪魔のモーニングコールは、メッシーナ基地、シラクサ基地、ほぼ同時に鳴り響いた。
当然、これらを予防するための策は幾重にも取られていた。しかし、その全てを突破した上でのモーニングコールだった。
だが警戒を強めていたゆえに、ハンター達への救援要請は前回よりも速やかに行われた。それぞれの基地に100人ずつのハンターを派遣し、事態の沈静化を図ったのだ。
メッシーナ基地には624名の強化人間達が保護という名目の下監視、軟禁されていた。
一方で基地にいた連合軍兵(一般人)は3526名。彼らとてなんの抵抗もなく基地を手放しはしなかったが、5倍近い人員を誇っていても、基礎身体能力の高さ、更に加えて覚醒者に類似した能力が使える強化人間達を前に、ハンター達が到着した時にはその半数以上が既に息絶えている状態だった。
強化人間達の目的は基地の制圧。さらには前回同様CAM、空母、またその護衛艦隊の鹵獲である可能性が高かった為、連合軍の対策部は先手を打ち、空母、護衛艦隊が停泊中の港に直接ハンター達の転移先となるマーカーを設置。
結果、彼らにこれ以上鹵獲される前にハンター達を戦場の中心へと送ることに成功していた。
『まさか、転移門を潜った先が戦火まっただ中でした、とはな!』
『事前に打ち合わせが出来たことが救いか』
『港の制圧、これでほぼ完了か。お次は、官舎制圧と訓練場制圧だっけか』
『じゃ、お互い健闘を祈る』
通信機器を用いてハンター達は包囲網を展開。速やかなる基地施設奪還作戦に推移していくが、暴走した強化人間達もまた容易には道を譲らない。
ハンター達は各々の持ちうる全力を持って戦いに身を投じていったのだった。
そんな戦い中、あなた達5名はCAM整備施設奪還作戦の担当となった。
奪われたのはCAM整備施設……全体像としては倉庫を想像すると早いか。
一度に5機のCAMを修理することが出来るドッグには、現在整備中のCAMがそのまま5機取り残されていたという。
それ以外にも修理が終わった機体が3機、搬入口側に待機していた。
施設内部はCAM同士が戦うほどの広さ的な余裕はない。
ただ施設の前には空輸用の滑走路が敷かれており、CAM同士で戦うならここが障害物もなく適していると言えるだろう。
一方、人の身であるならば施設内は乱暴な言い方をすればジャングルジムのような様相を呈していた。
CAMを整備・修理するために三階建ての足場が組まれている。
CAMの足元はそのまま回転出来るようになっており、CAMを固定し床を回転させることでCAMの前後左右を見ることが出来る装置が仕掛けられているのだという。
『強化人間達に修理済みの3機は確実に鹵獲されたと考えた方がいいだろう。残りの修理中だった5機だが、動かすと異音がするとか、通信に難があるなどのほぼ動きには支障のない小さな修繕だったため、これも奪われてしまった可能性が高い』
救出された整備班班長だという兵士からの情報だった。
「見えた、あの建物か! ……いるな」
施設へと駆けつけるハンター達は大きな格納庫のような施設、そしてその前で銃を構えているR7エクスシア3体と強化人間達を発見した。
……しかし、他5体の姿はない。
もしかすると、固定具を外したりなどで手間取っているのかもしれない。
CAMに乗れなかった強化人間達が近付くハンターに気付いて銃を放つ。
「まぁ、いっちょやってやりましょうか!」
あなた達はそれぞれの得物を手に施設へと近付いていった。
リプレイ本文
地中海から風吹く。
「臭うじゃん」
ゾファル・G・初火(ka4407)が鼻を鳴らす。
過去の大勢の人間が風光明媚と称えてきた南イタリアに相応しい、爽やかな風だ。
だが、風に混じる自暴自棄な気配が、風も風景も全てを台無しにしている。
「ヒー兄」
不安げなシェリル・マイヤーズ(ka0509)との距離を、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)を乗せたイェジドがわずかに詰めた。
「アーベント、気を遣わせたな」
ヒースはそう礼を言ってから、信頼する戦友でもある妹分に穏やかな目を向けた。
「どれほどの血が流れようと、ボクらは止まれない」
負の気配を感じる。
精霊と契約したハンターとは異なり、強化人間は歪虚と契約して力を得ている。
騙された結果としての契約であっても、負の力により体を蝕まれ今は心まで狂わされている。
「ヒー兄。早く終わらせよう……」
シェリルは兄にすがりたい気持ちを抑え込む。
死神のアルカナナンバーが刻まれた魔導銃をぎゅっと抱きしめ、微かに震えながらではあるが決然とした表情でヒースを見上げた。
「後ろは……任せて……」
「ああ。行こうか、シェリー」
黒々とした幻獣を先頭に、ハンター達の突撃が始まった。
●兄妹と幻獣のロンド
「殺せ!」
暴走した強化人間は基本的に自我を持たないが、指揮官として扱われる個体には意思があるらしい。
仲間の強化人間に指示をすると、CAM用アサルトライフルの銃撃とR7の紫色光線がアーベントに迫る。
前者は30ミリ弾で後者はエンハンサーで強化された魔法攻撃だ。
当たれば血煙や消し炭に変わってもおかしくないし、躱すのは困難で躱し続けるのは不可能だ。
少なくとも強化人間の常識ではそうだった。
「ハッ、当たって消えやがったぜ!」
R7の強化人間がアーベントを見失う。
実際はイェジドの加速が予想を上回り見失っただけだ。
暴走を強いられた心が判断を雑にしている。
普段から陽気ではないヒースだが、今は怖いほどに冷たい気配を放っていた。
「お前にヒトを殺す役割を求める。赦せとは言わない。ただ今は、共に戦ってくれ」
稲妻じみた進路で流れ弾を躱しながら、アーベントは怒りも喜びもなく小さくうなずいた。
「助かるよ」
R7の1機がヒースに気付くが遅すぎる。
契約精霊に由来する血色のオーラが両足から広がり、ヒースが繰り出す斬撃と一体化する形で目の前全てのものに牙を剥く。
戦車に及ばないとはいえ装甲車以上の装甲を持つR7だけでなく、その背後で機会を伺っていた強化人間数人を文字通り切り裂いた。
柄とガントレット越しの感触は忌まわしい。
だから決して顔には出さない。
少しでも妹の心理的負担を軽くするために。
「今回は危険……危なくなったら………身を守って……。ピンチのときは……助けるから、ね……」
シェリルは、ユグディラを置いて近くのドラム缶の影に飛び込んだ。
ナイトカーテンの発動と隠密行動への移動は非常に滑らかであり、ハンターに比べると練度の落ちる強化人間だけでなくユグディラですらシェリルを見失う。
そりゃないよという気配でにゃーにゃー鳴くユグディラに、左足1本を破壊され横倒しになったR7が銃口を向けた。
にゃーっ、という悲鳴が銃声に紛れて消える。
銃声というより砲声が響くたびに鋪装された地面が砕け、歩くのも難しい場所に成り果てた。
その中央の尖ったコンクリ片に、ユグディラが3回転した後ふわりと着地する。
「馬鹿な」
半ば狂気の中にあるはずの強化人間なのに、ただ1人冷静に指揮をとっていた男が焦りを見せた。
「俺は幻でも見ているのか?」
猫にしか見えない幻獣がリュートの演奏を始める。
殺意と狂気に満ちた戦場に響く旋律に、彼はほんの数秒惚け、そのまま意識ごと命を消し飛ばされた。
「敵……指揮官1……撃破」
ナイトカーテンの効果が切れシェリルの姿が認識可能になる。
強化人間達にとっては酷く近く、ユグディラにとっては遠い。
指揮官を亡くした強化人間たちが勢いはあってもペース配分を考えない猛攻に移る。
扇動者でもあった頭部半壊死体が、流れ弾を受けて砕かれ焼き尽くされた。
「構わない。行け」
ヒースは妹を援護しない。
妹がつくった好機を活かすため、妹に惹きつけられた強化人間部隊の真後ろへ回り込む。
「4、8……格納庫のR7を動かすだけの数に入り込まれたな」
必要な情報だけを通信機で送る。
たった1人に1拠点落とすのを任せることになるが、それが無理な者はこの依頼に参加していない。
格納庫に敵増援を入れず、格納庫から逃げようとする敵への対処をこちらで行えば、単独でも問題なく陥落させるはずだ。
強化人間のアサルトライフルとは異なる銃声が時折混じる。
シェリルが隠密移動と狙撃を繰り返し、生身の強化人間の連携を断つ一撃を繰り返す。
それは殺す人間をよく見ているということであり、シェリルの心労を察したヒースの心がますます冷える。
「例えお前たちを元に戻すことが出来ても、今ボクがやるべき事は変わらない」
装備は良くても連携はぼろぼろで、同時攻撃でも時間差攻撃ですらない銃撃を易々回避しながらヒースとアーベントが突っ込む。
血色のオーラが濃さを増し、すれ違い様に犠牲者を食らい命をすする。
暴走状態の強化人間でも分かるほど、ヒースから容赦のない殺気が叩きつけられた。
「さぁ、殺し合おうか」
少し間延びし気怠げな声が1年前はただの少年少女だった強化人間に絡みつく。
磨き抜かれた殺意に晒され鳥肌が立ちうまく声がでない。
「ボクはお前たちの」
血の色が広がる。
骨と骨の隙間を抉った刃が体の反対側から現れる。
「敵だからさぁ」
冷静に、的確に急所を抉る。
戦闘能力を奪う以上のダメージを与える気は無いが、結果として相手が死んでも結果から逃げるつもりは一切なかった。
●屋内戦
強化人間の多くは、ハンターほどの心も技も持っていない。
しかし腕力や体力は同等に近い。
つまり、人間サイズの重機として活動できるのだ。
「急げ!」
扇動者が声を枯らして叫ぶ。
R7に取り付いた強化人間を除く全員が、分厚い隔壁を人力で押してハンターへの盾にしようとした。
重い足音が連続して聞こえる。
外のアスファルトを踏み、中のコンクリを踏み、CAM用の整備台に着地する音が聞こえてようやく止まる。
「――想い出すわね、マスクウェル。黙示録騎士と、その手口を」
全長1メートルを超える刃が、小型の物差しか何かのように高速で振られた。
細かく砕けた装甲片が刃から離れ。
待機状態のまま3度斬撃を浴びたエクスシアが内側から発火した。
虚ろな色の炎がアリア・セリウス(ka6424)の髪を禍々しく照らす。
強化人間が反射的に銃口を向け引き金を引いても、アリアを乗せた幻獣が素早く飛び退き銃弾にはかすらせもしない。
「繰り返させない……この憧れた、蒼の世界の空の下で」
太陽を隠していた雲が去り、南向きの搬入口から南イタリアの陽光が差し込んだ。
「エクスシアをぶつけろ!」
4機のR7が立ち上がりながらアサルトライフルを構える。
修理用の機材や資材が大量に積まれているため、30ミリ弾程度ではアリアまで届かない。
だから、貫通性能の高い紫色光線4本を一斉に照射する。
機材も資材も同胞であるはずの強化人間も巻き添えにするのもおかまいなしだ。
肉と髪と脂肪が焼ける臭いが発生する。
高位の聖導士でも癒やせない傷を抱え、ただの子供に戻った強化人間が泣き叫んだ。
「此処は戦場ですら、ないのでしょうね」
光線4本は本来の目標に届かない。
凶悪な攻撃ではあるが熟練の技ではなく、ばらばらの射撃攻撃4つが全てイェジドに回避される。
アリアはため息は堪えても軽く目を伏せてしまう。
それを機と見た扇動者が特注の対物銃をぶっ放す。
イェジドの反応を超えた素晴らしい狙撃であったのに、アリアの反応はそれを上回った。
剣の腹にそっと弾を撫でられ、CAMすら穿つ威力の銃撃が明後日の方向へ飛びクレーンにめり込む。
「だから、止まれないの」
隔壁にとりついたままの歩兵に近づく。
速いことは速いが強化人間の視覚であれば十分捕捉可能。
そのはずなのに、それぞれに計算し尽くされた2刀の動きと幻獣の巨体に惑わされる。
「私は、月光のように、ありたい」
手加減はないが配慮はあった。
頭蓋から腰骨まで両断する斬撃ではなく、運が良ければショック死しないで済む角度で1人ずつ切り捨てる。
凶器であっても性能をつきつめると美に通じる。
得物と使い手がもとより美しければなおさらだ。
だが、その美しさを感じられる正気が、強化人間には残っていない。
「導く為に、闇と血を剣で祓うわ」
足止めしようとする者を寄せ付けず。
「夢の姿を、幻の月としない為に」
生身の強化人間を捨て駒に一撃を狙ったR7を、オーラの斬撃により押し折った。
イェジドが軽く身じろぎする。
激戦の割に敵の数が減っていないのを気にしているようだ。
「私達だけで戦う必要はないの」
R7の生き残りが生身の同胞を見捨てて別の搬入口へ逃げる。
アリアは、その搬入口のすぐ近くまでハンターが近づいていることに気付いている。
生身に止めを刺さず、CAMに追撃もかけずクレーンを足場にして中二階に登る。
扇動者と正気に近いもう1人が、息を殺して小さな出口へ這いずり近づくのが見えた。
「行きましょう」
どれだけ有利な状況でも油断せず、アリアは強化人間たち無力化していった。
●ロボ乱舞
時速数十キロ。
アウトバーンでは止まっているも同然の速度ではあるが、銃弾や砲弾がみっしりと飛び交う戦場では破滅的な高速だ。
「馬鹿な、あんな図体でどうしてそんな速度が出るっ」
CAM乗りとして十分な訓練を受けた強化人間が混乱する。
速度を落とさず銃撃を躱しながら向かって来るヘイムダルは、彼の常識を粉砕するほどのインパクトがあった。
「おっそい! にっぶい!」
そのヘイムダル、個体名ダルちゃんを操るゾファルは不満たらたらだ。
いつも使っている気体と比べると遅いし鈍いしで操縦していてもあまり楽しくない。
「ダルちゃん乗っているとだりぃじゃん……なんちゃって」
冗談の切れ味も今ひとつであり、全く油断はしていないのに30ミリ弾2つを胸部に浴びる。
もっとも、装甲に凹みができただけで内部の機構にダメージはない。30ミリ弾2つがぽろりと落ちて背後に転がった。
「意外とやる気じゃ~ん」
エクスシア3機のうち2機がゾファルに銃口を向ける。
ゾファルは声には出さず、予想外に楽な展開ににやりとした。
「俺様ちゃんと遊ぼうぜ!」
数発の被弾に耐えながら一気に距離を詰める。
衝突の瞬間にヘイムダルの全長ほどもある魔導剣を構え、R7がとっさに構えた構えた盾をその盾を支える腕ごとR7に叩きつけた。
「後2発」
衝突時の揺れから敵の頑丈さと残り耐久力を正確に予測する。
慌てて距離をとろうとするR7を追い、斜め横からもう1機の銃撃を受けながらもう1回振り下ろす。
機体の全ての力を一振りに集中する動きは、荒々しくも美しい。
強化人間は動揺したせいか盾の防御が間に合わず、脚部に魔導剣の半ばまでを突き刺されてしまう。
「後1発!」
引き抜く動作で切っ先を加速させ、運動エネルギーを維持したまま止めの一撃を振るう。
だが唐突に光の壁が現れ剣先もダルちゃん本体も押し止めた。
ハンターも散々有効利用してきた、ユニットスキルブラストハイロゥである。
「畜生、こんな異世界のロボットに」
光の壁をマテリアルライフルの紫色が撫でている。
解除すれば大破確実なので反撃もできずに逃げることしかできない。
1機だけ無事だったR7に別の紫色光線が突き刺さる。
CAMは人より大きく強靱だ。
その巨体があるから人間用武器を数段上回る火気も運用できる。
だが範囲攻撃には弱い。ただでさえ強力な威力のある紫色の光を、人間の3倍の効率で受け止めてしまった。
「仙道・宙。レーヴァテイン。所属はクリムゾンウェスト連合軍」
黒い装甲を禍々しいマテリアル光で浮かび上がらせるエクスシアがいる。
元は同じR7なのに威圧感も存在感も桁が違う。
機体の性能差もあるが、それ以上に乗り手の格が違い過ぎるのだ。
「そこの強化人間、降伏する場合は所定の手続きを行え。その程度の教育は連合宙軍で受けているだろう」
R7は光壁の陰に隠れる。
維持にR7が1機必要ではあるが、一方的に相手を攻撃できる最強の盾になるはずだった。
「降伏はいつでも受け入れる。……手は緩めないがな」
同じR7と思えないほど機敏に、仙道・宙(ka2134)のレーヴァテインが光壁の向こうから伸びる紫光を跳び越えた。
「耐えろよ」
レーヴァテインの手元に火球が現れ光壁の手前に突き刺さる。
広がる爆風はハイロゥを維持するR7には届かなかったが、不用意に前に出すぎたもう一機を巻き込み大破寸前へと追い込む。
宙は追撃をしようとして別の気配に気付く。
生身の強化人間達が、R7を支援するためレーヴァテインへ数人がかりで発砲しようとしていた。
引き金が引かれるより早く別の銃声が響く。
こっそり忍び寄ったシェリルが遮蔽物の陰から制圧射撃を行い、軍で身につけた技術を使えばしぶとく戦えたはずの強化人間達を一時的にではあるが無力化する。
「感謝する。敵歩兵はヒースが担当するようだ」
機体のセンサーで捉えた情報をトランシーバー越しに伝えると、シェリルの気配がヒースの名を聞いたときだけ柔らかくなった。
「みつけたにゃ~ん」
光壁の端から、砲撃型であり動きが鈍いようにも見えるゾファルの機体が猫じみた機敏さで顔を出した。
R7がとっさに向きを変え光壁で防ごうとするが間に合わない。
ダルちゃんが魔導剣を振り上げ、獲物の襲いかかる猫のような素早さで襲いかかる。
回避にしくじっても盾による防御は間に合った。
しかしゾファルに導かれるダルちゃんは、盾ごと突き刺したまま突き進み脇腹の装甲と盾を同時に引きちぎる。
剣先に人間を一瞬引っかけたが、内臓を潰した感触も重要な骨を砕いた感触も一切なかった。
「運がいいね」
急速に薄れる光壁の向こうに2つの紫光が灯る。
格納庫の薄い隔壁を貫き、当たればダルちゃんでも危ない威力の紫光が全く同じタイミングで迫る。
「そうこうなくちゃ!」
意識が加速する。
左の光線は一歩右へ踏み出すだけで回避する。
右の光線はダルちゃんの速度では回避不能。だから魔導剣で受けることで機体へのダメージを減らす。
「建物内、3体!」
もう1本がレーヴァテインを襲う。
宙は止めの火球を使った直後だ。ゾファルの警告は間に合ったが回避するほどの余裕はない。
それでも高性能の盾を構えて紫色光線を受け止める。
ファイアーボールの爆風がコクピットの上から中身ごと押し潰す。
ダルちゃんと比較して装甲の薄いレーヴァティンは、腕から肩にかけて深刻なダメージを受け細かな火花が散り始めた。
「ごめんなさい。3機そちらにいくかもしれないわ」
格納庫内から届いたアリアの声に、強化人間の断末魔の絶叫が重なっていた。
「建物外のR7排除は完了した」
HMDに小さく表示される、ヒースによる擱座機破壊を横目で見ながら報告する。
「損害も許容範囲でユグディラも無事だ。こちらに敵を流しても問題ない」
10秒ごとにHMDのエラー表示が減っていく。
地獄じみた戦場でユグディラの演奏は力強さと滑らかさを増していき、今は広範囲のハンターとユニットを癒やしている。
無機物であるCAMは修理しないと元には戻らない。
だがマテリアルを含むエネルギーの流れが改善され、実質的な耐久力が回復する。
くすりと笑う声が聞こえた後、アリアのお願いねという言葉が届いた。
隔壁が崩れる。
2機か無傷で1機が大破寸前で、無傷な最後尾の1機がいきなり背中を晒した。
ブラストハイロゥだ。
アリアの追撃を防ぐため、残りの2機を外からの攻撃に晒すことを承知の上で使わざるを得なかったのだ。
「完璧だ」
宙は口元だけで微笑みアリアの手際を賞賛する。
R7たちが紫光をレーヴァティンに飛ばす。
宙はスラスターを絶妙のタイミングで使わせることでレーヴァティンに回避させ、同じ紫光で容赦なく反撃する。
直線型なので薙ぎ払うとはいかないが、貫通型でもあるので大破寸前機が回避に専念して攻撃する余裕が無くなる。
そこにゾファルが突撃する。
生き残りの生身強化人間から銃撃が飛んできても当たりはせず、万一当たったところで装甲を打ち抜けない。
だから、暴走中の強化人間が怯える勢いで跳ぶことができる。
「結構巧いじゃん」
R7が盾を突きだしゾファル機の進路を制限する。
R7が剣を構えて装甲の隙間を狙う。
「俺様ちゃんの方がずーっと巧いけどさぁ!」
足先の向きを微かに変えることで向きと速度を調整。
R7の剣と盾の間をすり抜け、足から腰にかけて魔導剣を振り抜いた。
亀裂から、油と血の混合物がとろりと垂れた。
「戦力的な救援は不要」
宙は友軍からの通信に応え、残しておいたスラスターを使う。
アリアに追われゾファルに怯えた機体が、 マテリアルの延長線上に飛び出した。
「降伏勧告を認識できていないのかもしれないが」
強化人間搭乗機より数段上の威力の紫の光がR7を貫く。
コクピットを避けて破壊するほどの技術はなく、ここで強化人間を逃がすこともできない。
周囲の封鎖は完全ではなく、暴走する強化人間が民間人を殺戮するという未来すらあり得るからだ。
「強化人間の叛乱、か」
宙は、受け身もとれず前のめりに倒れた機体に刃を当てる。
降伏を口にするには十分な時間を与えてもR7の殺気は衰えない。
強引に立ち上がりながら小型の格闘武器を突き出そうとして、至近距離からのマテリアルライフルにエンジンとコクピットを貫かれた。
「こちらクリムゾンウェスト連合軍所属のハンターだ。強化人間の無力化を完了した」
最後まで粘っていたR7も、ハイロゥが切れた瞬間ゾファルとアリアによって四肢を断たれて捕獲される。
ここまでの戦力差がなければ敵を捕獲することは難しい。
通信機から了解の返事が届く。
軍医を車で寄越すとも言ってはきたが、負傷した強化人間のうち何割がそれまでもつか、誰にも分からなかった。
●血の臭い
悲鳴をあげる少年を、ヒースが無言で押さえつけていた。
「ごめんヒース。早く済ます……ね」
シェリルは深刻な出血を抑える処置だけをした後、暴れても高速が解けないよう改めて縛る。
「次は」
血の臭いの濃い少女に向かおうとして、ヒースの目に制止される。
もう息をしていない。
軍用車両の音が近づいて来る。
半死半生の少年少女に気付いているのに決して急がず、重武装の兵士に囲まれた軍医が降り立ち慎重に近づいて来る。
「終わったから……助かるのかは……分からないけど……」
シェリルは感情を抑え込み、なんとかそれだけ口にした。
「貴方は休んでください。顔色が……いえ、分かりました」
促された軍医が、衛生兵と一緒になって仕事を始める。
ユグディラの演奏で予想以上に生き延びてはいるが、森の午睡の前奏曲は致命傷や再起不能の傷には届かない。
戦死者だけで、5割を超えていた。
「行こう」
ヒースがシェリルの肩を抱いて惨い光景から目を逸らさせる。
クリムゾンウェストへ引き戻された後も、血の臭いと苦痛の悲鳴が残っているように感じられた。
生き残りの強化人間は、最低限の治療と回復を終えた後に月の崑崙基地へ移送され、トマーゾ博士の診療を受けることになる。
(代筆:馬車猪)
「臭うじゃん」
ゾファル・G・初火(ka4407)が鼻を鳴らす。
過去の大勢の人間が風光明媚と称えてきた南イタリアに相応しい、爽やかな風だ。
だが、風に混じる自暴自棄な気配が、風も風景も全てを台無しにしている。
「ヒー兄」
不安げなシェリル・マイヤーズ(ka0509)との距離を、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)を乗せたイェジドがわずかに詰めた。
「アーベント、気を遣わせたな」
ヒースはそう礼を言ってから、信頼する戦友でもある妹分に穏やかな目を向けた。
「どれほどの血が流れようと、ボクらは止まれない」
負の気配を感じる。
精霊と契約したハンターとは異なり、強化人間は歪虚と契約して力を得ている。
騙された結果としての契約であっても、負の力により体を蝕まれ今は心まで狂わされている。
「ヒー兄。早く終わらせよう……」
シェリルは兄にすがりたい気持ちを抑え込む。
死神のアルカナナンバーが刻まれた魔導銃をぎゅっと抱きしめ、微かに震えながらではあるが決然とした表情でヒースを見上げた。
「後ろは……任せて……」
「ああ。行こうか、シェリー」
黒々とした幻獣を先頭に、ハンター達の突撃が始まった。
●兄妹と幻獣のロンド
「殺せ!」
暴走した強化人間は基本的に自我を持たないが、指揮官として扱われる個体には意思があるらしい。
仲間の強化人間に指示をすると、CAM用アサルトライフルの銃撃とR7の紫色光線がアーベントに迫る。
前者は30ミリ弾で後者はエンハンサーで強化された魔法攻撃だ。
当たれば血煙や消し炭に変わってもおかしくないし、躱すのは困難で躱し続けるのは不可能だ。
少なくとも強化人間の常識ではそうだった。
「ハッ、当たって消えやがったぜ!」
R7の強化人間がアーベントを見失う。
実際はイェジドの加速が予想を上回り見失っただけだ。
暴走を強いられた心が判断を雑にしている。
普段から陽気ではないヒースだが、今は怖いほどに冷たい気配を放っていた。
「お前にヒトを殺す役割を求める。赦せとは言わない。ただ今は、共に戦ってくれ」
稲妻じみた進路で流れ弾を躱しながら、アーベントは怒りも喜びもなく小さくうなずいた。
「助かるよ」
R7の1機がヒースに気付くが遅すぎる。
契約精霊に由来する血色のオーラが両足から広がり、ヒースが繰り出す斬撃と一体化する形で目の前全てのものに牙を剥く。
戦車に及ばないとはいえ装甲車以上の装甲を持つR7だけでなく、その背後で機会を伺っていた強化人間数人を文字通り切り裂いた。
柄とガントレット越しの感触は忌まわしい。
だから決して顔には出さない。
少しでも妹の心理的負担を軽くするために。
「今回は危険……危なくなったら………身を守って……。ピンチのときは……助けるから、ね……」
シェリルは、ユグディラを置いて近くのドラム缶の影に飛び込んだ。
ナイトカーテンの発動と隠密行動への移動は非常に滑らかであり、ハンターに比べると練度の落ちる強化人間だけでなくユグディラですらシェリルを見失う。
そりゃないよという気配でにゃーにゃー鳴くユグディラに、左足1本を破壊され横倒しになったR7が銃口を向けた。
にゃーっ、という悲鳴が銃声に紛れて消える。
銃声というより砲声が響くたびに鋪装された地面が砕け、歩くのも難しい場所に成り果てた。
その中央の尖ったコンクリ片に、ユグディラが3回転した後ふわりと着地する。
「馬鹿な」
半ば狂気の中にあるはずの強化人間なのに、ただ1人冷静に指揮をとっていた男が焦りを見せた。
「俺は幻でも見ているのか?」
猫にしか見えない幻獣がリュートの演奏を始める。
殺意と狂気に満ちた戦場に響く旋律に、彼はほんの数秒惚け、そのまま意識ごと命を消し飛ばされた。
「敵……指揮官1……撃破」
ナイトカーテンの効果が切れシェリルの姿が認識可能になる。
強化人間達にとっては酷く近く、ユグディラにとっては遠い。
指揮官を亡くした強化人間たちが勢いはあってもペース配分を考えない猛攻に移る。
扇動者でもあった頭部半壊死体が、流れ弾を受けて砕かれ焼き尽くされた。
「構わない。行け」
ヒースは妹を援護しない。
妹がつくった好機を活かすため、妹に惹きつけられた強化人間部隊の真後ろへ回り込む。
「4、8……格納庫のR7を動かすだけの数に入り込まれたな」
必要な情報だけを通信機で送る。
たった1人に1拠点落とすのを任せることになるが、それが無理な者はこの依頼に参加していない。
格納庫に敵増援を入れず、格納庫から逃げようとする敵への対処をこちらで行えば、単独でも問題なく陥落させるはずだ。
強化人間のアサルトライフルとは異なる銃声が時折混じる。
シェリルが隠密移動と狙撃を繰り返し、生身の強化人間の連携を断つ一撃を繰り返す。
それは殺す人間をよく見ているということであり、シェリルの心労を察したヒースの心がますます冷える。
「例えお前たちを元に戻すことが出来ても、今ボクがやるべき事は変わらない」
装備は良くても連携はぼろぼろで、同時攻撃でも時間差攻撃ですらない銃撃を易々回避しながらヒースとアーベントが突っ込む。
血色のオーラが濃さを増し、すれ違い様に犠牲者を食らい命をすする。
暴走状態の強化人間でも分かるほど、ヒースから容赦のない殺気が叩きつけられた。
「さぁ、殺し合おうか」
少し間延びし気怠げな声が1年前はただの少年少女だった強化人間に絡みつく。
磨き抜かれた殺意に晒され鳥肌が立ちうまく声がでない。
「ボクはお前たちの」
血の色が広がる。
骨と骨の隙間を抉った刃が体の反対側から現れる。
「敵だからさぁ」
冷静に、的確に急所を抉る。
戦闘能力を奪う以上のダメージを与える気は無いが、結果として相手が死んでも結果から逃げるつもりは一切なかった。
●屋内戦
強化人間の多くは、ハンターほどの心も技も持っていない。
しかし腕力や体力は同等に近い。
つまり、人間サイズの重機として活動できるのだ。
「急げ!」
扇動者が声を枯らして叫ぶ。
R7に取り付いた強化人間を除く全員が、分厚い隔壁を人力で押してハンターへの盾にしようとした。
重い足音が連続して聞こえる。
外のアスファルトを踏み、中のコンクリを踏み、CAM用の整備台に着地する音が聞こえてようやく止まる。
「――想い出すわね、マスクウェル。黙示録騎士と、その手口を」
全長1メートルを超える刃が、小型の物差しか何かのように高速で振られた。
細かく砕けた装甲片が刃から離れ。
待機状態のまま3度斬撃を浴びたエクスシアが内側から発火した。
虚ろな色の炎がアリア・セリウス(ka6424)の髪を禍々しく照らす。
強化人間が反射的に銃口を向け引き金を引いても、アリアを乗せた幻獣が素早く飛び退き銃弾にはかすらせもしない。
「繰り返させない……この憧れた、蒼の世界の空の下で」
太陽を隠していた雲が去り、南向きの搬入口から南イタリアの陽光が差し込んだ。
「エクスシアをぶつけろ!」
4機のR7が立ち上がりながらアサルトライフルを構える。
修理用の機材や資材が大量に積まれているため、30ミリ弾程度ではアリアまで届かない。
だから、貫通性能の高い紫色光線4本を一斉に照射する。
機材も資材も同胞であるはずの強化人間も巻き添えにするのもおかまいなしだ。
肉と髪と脂肪が焼ける臭いが発生する。
高位の聖導士でも癒やせない傷を抱え、ただの子供に戻った強化人間が泣き叫んだ。
「此処は戦場ですら、ないのでしょうね」
光線4本は本来の目標に届かない。
凶悪な攻撃ではあるが熟練の技ではなく、ばらばらの射撃攻撃4つが全てイェジドに回避される。
アリアはため息は堪えても軽く目を伏せてしまう。
それを機と見た扇動者が特注の対物銃をぶっ放す。
イェジドの反応を超えた素晴らしい狙撃であったのに、アリアの反応はそれを上回った。
剣の腹にそっと弾を撫でられ、CAMすら穿つ威力の銃撃が明後日の方向へ飛びクレーンにめり込む。
「だから、止まれないの」
隔壁にとりついたままの歩兵に近づく。
速いことは速いが強化人間の視覚であれば十分捕捉可能。
そのはずなのに、それぞれに計算し尽くされた2刀の動きと幻獣の巨体に惑わされる。
「私は、月光のように、ありたい」
手加減はないが配慮はあった。
頭蓋から腰骨まで両断する斬撃ではなく、運が良ければショック死しないで済む角度で1人ずつ切り捨てる。
凶器であっても性能をつきつめると美に通じる。
得物と使い手がもとより美しければなおさらだ。
だが、その美しさを感じられる正気が、強化人間には残っていない。
「導く為に、闇と血を剣で祓うわ」
足止めしようとする者を寄せ付けず。
「夢の姿を、幻の月としない為に」
生身の強化人間を捨て駒に一撃を狙ったR7を、オーラの斬撃により押し折った。
イェジドが軽く身じろぎする。
激戦の割に敵の数が減っていないのを気にしているようだ。
「私達だけで戦う必要はないの」
R7の生き残りが生身の同胞を見捨てて別の搬入口へ逃げる。
アリアは、その搬入口のすぐ近くまでハンターが近づいていることに気付いている。
生身に止めを刺さず、CAMに追撃もかけずクレーンを足場にして中二階に登る。
扇動者と正気に近いもう1人が、息を殺して小さな出口へ這いずり近づくのが見えた。
「行きましょう」
どれだけ有利な状況でも油断せず、アリアは強化人間たち無力化していった。
●ロボ乱舞
時速数十キロ。
アウトバーンでは止まっているも同然の速度ではあるが、銃弾や砲弾がみっしりと飛び交う戦場では破滅的な高速だ。
「馬鹿な、あんな図体でどうしてそんな速度が出るっ」
CAM乗りとして十分な訓練を受けた強化人間が混乱する。
速度を落とさず銃撃を躱しながら向かって来るヘイムダルは、彼の常識を粉砕するほどのインパクトがあった。
「おっそい! にっぶい!」
そのヘイムダル、個体名ダルちゃんを操るゾファルは不満たらたらだ。
いつも使っている気体と比べると遅いし鈍いしで操縦していてもあまり楽しくない。
「ダルちゃん乗っているとだりぃじゃん……なんちゃって」
冗談の切れ味も今ひとつであり、全く油断はしていないのに30ミリ弾2つを胸部に浴びる。
もっとも、装甲に凹みができただけで内部の機構にダメージはない。30ミリ弾2つがぽろりと落ちて背後に転がった。
「意外とやる気じゃ~ん」
エクスシア3機のうち2機がゾファルに銃口を向ける。
ゾファルは声には出さず、予想外に楽な展開ににやりとした。
「俺様ちゃんと遊ぼうぜ!」
数発の被弾に耐えながら一気に距離を詰める。
衝突の瞬間にヘイムダルの全長ほどもある魔導剣を構え、R7がとっさに構えた構えた盾をその盾を支える腕ごとR7に叩きつけた。
「後2発」
衝突時の揺れから敵の頑丈さと残り耐久力を正確に予測する。
慌てて距離をとろうとするR7を追い、斜め横からもう1機の銃撃を受けながらもう1回振り下ろす。
機体の全ての力を一振りに集中する動きは、荒々しくも美しい。
強化人間は動揺したせいか盾の防御が間に合わず、脚部に魔導剣の半ばまでを突き刺されてしまう。
「後1発!」
引き抜く動作で切っ先を加速させ、運動エネルギーを維持したまま止めの一撃を振るう。
だが唐突に光の壁が現れ剣先もダルちゃん本体も押し止めた。
ハンターも散々有効利用してきた、ユニットスキルブラストハイロゥである。
「畜生、こんな異世界のロボットに」
光の壁をマテリアルライフルの紫色が撫でている。
解除すれば大破確実なので反撃もできずに逃げることしかできない。
1機だけ無事だったR7に別の紫色光線が突き刺さる。
CAMは人より大きく強靱だ。
その巨体があるから人間用武器を数段上回る火気も運用できる。
だが範囲攻撃には弱い。ただでさえ強力な威力のある紫色の光を、人間の3倍の効率で受け止めてしまった。
「仙道・宙。レーヴァテイン。所属はクリムゾンウェスト連合軍」
黒い装甲を禍々しいマテリアル光で浮かび上がらせるエクスシアがいる。
元は同じR7なのに威圧感も存在感も桁が違う。
機体の性能差もあるが、それ以上に乗り手の格が違い過ぎるのだ。
「そこの強化人間、降伏する場合は所定の手続きを行え。その程度の教育は連合宙軍で受けているだろう」
R7は光壁の陰に隠れる。
維持にR7が1機必要ではあるが、一方的に相手を攻撃できる最強の盾になるはずだった。
「降伏はいつでも受け入れる。……手は緩めないがな」
同じR7と思えないほど機敏に、仙道・宙(ka2134)のレーヴァテインが光壁の向こうから伸びる紫光を跳び越えた。
「耐えろよ」
レーヴァテインの手元に火球が現れ光壁の手前に突き刺さる。
広がる爆風はハイロゥを維持するR7には届かなかったが、不用意に前に出すぎたもう一機を巻き込み大破寸前へと追い込む。
宙は追撃をしようとして別の気配に気付く。
生身の強化人間達が、R7を支援するためレーヴァテインへ数人がかりで発砲しようとしていた。
引き金が引かれるより早く別の銃声が響く。
こっそり忍び寄ったシェリルが遮蔽物の陰から制圧射撃を行い、軍で身につけた技術を使えばしぶとく戦えたはずの強化人間達を一時的にではあるが無力化する。
「感謝する。敵歩兵はヒースが担当するようだ」
機体のセンサーで捉えた情報をトランシーバー越しに伝えると、シェリルの気配がヒースの名を聞いたときだけ柔らかくなった。
「みつけたにゃ~ん」
光壁の端から、砲撃型であり動きが鈍いようにも見えるゾファルの機体が猫じみた機敏さで顔を出した。
R7がとっさに向きを変え光壁で防ごうとするが間に合わない。
ダルちゃんが魔導剣を振り上げ、獲物の襲いかかる猫のような素早さで襲いかかる。
回避にしくじっても盾による防御は間に合った。
しかしゾファルに導かれるダルちゃんは、盾ごと突き刺したまま突き進み脇腹の装甲と盾を同時に引きちぎる。
剣先に人間を一瞬引っかけたが、内臓を潰した感触も重要な骨を砕いた感触も一切なかった。
「運がいいね」
急速に薄れる光壁の向こうに2つの紫光が灯る。
格納庫の薄い隔壁を貫き、当たればダルちゃんでも危ない威力の紫光が全く同じタイミングで迫る。
「そうこうなくちゃ!」
意識が加速する。
左の光線は一歩右へ踏み出すだけで回避する。
右の光線はダルちゃんの速度では回避不能。だから魔導剣で受けることで機体へのダメージを減らす。
「建物内、3体!」
もう1本がレーヴァテインを襲う。
宙は止めの火球を使った直後だ。ゾファルの警告は間に合ったが回避するほどの余裕はない。
それでも高性能の盾を構えて紫色光線を受け止める。
ファイアーボールの爆風がコクピットの上から中身ごと押し潰す。
ダルちゃんと比較して装甲の薄いレーヴァティンは、腕から肩にかけて深刻なダメージを受け細かな火花が散り始めた。
「ごめんなさい。3機そちらにいくかもしれないわ」
格納庫内から届いたアリアの声に、強化人間の断末魔の絶叫が重なっていた。
「建物外のR7排除は完了した」
HMDに小さく表示される、ヒースによる擱座機破壊を横目で見ながら報告する。
「損害も許容範囲でユグディラも無事だ。こちらに敵を流しても問題ない」
10秒ごとにHMDのエラー表示が減っていく。
地獄じみた戦場でユグディラの演奏は力強さと滑らかさを増していき、今は広範囲のハンターとユニットを癒やしている。
無機物であるCAMは修理しないと元には戻らない。
だがマテリアルを含むエネルギーの流れが改善され、実質的な耐久力が回復する。
くすりと笑う声が聞こえた後、アリアのお願いねという言葉が届いた。
隔壁が崩れる。
2機か無傷で1機が大破寸前で、無傷な最後尾の1機がいきなり背中を晒した。
ブラストハイロゥだ。
アリアの追撃を防ぐため、残りの2機を外からの攻撃に晒すことを承知の上で使わざるを得なかったのだ。
「完璧だ」
宙は口元だけで微笑みアリアの手際を賞賛する。
R7たちが紫光をレーヴァティンに飛ばす。
宙はスラスターを絶妙のタイミングで使わせることでレーヴァティンに回避させ、同じ紫光で容赦なく反撃する。
直線型なので薙ぎ払うとはいかないが、貫通型でもあるので大破寸前機が回避に専念して攻撃する余裕が無くなる。
そこにゾファルが突撃する。
生き残りの生身強化人間から銃撃が飛んできても当たりはせず、万一当たったところで装甲を打ち抜けない。
だから、暴走中の強化人間が怯える勢いで跳ぶことができる。
「結構巧いじゃん」
R7が盾を突きだしゾファル機の進路を制限する。
R7が剣を構えて装甲の隙間を狙う。
「俺様ちゃんの方がずーっと巧いけどさぁ!」
足先の向きを微かに変えることで向きと速度を調整。
R7の剣と盾の間をすり抜け、足から腰にかけて魔導剣を振り抜いた。
亀裂から、油と血の混合物がとろりと垂れた。
「戦力的な救援は不要」
宙は友軍からの通信に応え、残しておいたスラスターを使う。
アリアに追われゾファルに怯えた機体が、 マテリアルの延長線上に飛び出した。
「降伏勧告を認識できていないのかもしれないが」
強化人間搭乗機より数段上の威力の紫の光がR7を貫く。
コクピットを避けて破壊するほどの技術はなく、ここで強化人間を逃がすこともできない。
周囲の封鎖は完全ではなく、暴走する強化人間が民間人を殺戮するという未来すらあり得るからだ。
「強化人間の叛乱、か」
宙は、受け身もとれず前のめりに倒れた機体に刃を当てる。
降伏を口にするには十分な時間を与えてもR7の殺気は衰えない。
強引に立ち上がりながら小型の格闘武器を突き出そうとして、至近距離からのマテリアルライフルにエンジンとコクピットを貫かれた。
「こちらクリムゾンウェスト連合軍所属のハンターだ。強化人間の無力化を完了した」
最後まで粘っていたR7も、ハイロゥが切れた瞬間ゾファルとアリアによって四肢を断たれて捕獲される。
ここまでの戦力差がなければ敵を捕獲することは難しい。
通信機から了解の返事が届く。
軍医を車で寄越すとも言ってはきたが、負傷した強化人間のうち何割がそれまでもつか、誰にも分からなかった。
●血の臭い
悲鳴をあげる少年を、ヒースが無言で押さえつけていた。
「ごめんヒース。早く済ます……ね」
シェリルは深刻な出血を抑える処置だけをした後、暴れても高速が解けないよう改めて縛る。
「次は」
血の臭いの濃い少女に向かおうとして、ヒースの目に制止される。
もう息をしていない。
軍用車両の音が近づいて来る。
半死半生の少年少女に気付いているのに決して急がず、重武装の兵士に囲まれた軍医が降り立ち慎重に近づいて来る。
「終わったから……助かるのかは……分からないけど……」
シェリルは感情を抑え込み、なんとかそれだけ口にした。
「貴方は休んでください。顔色が……いえ、分かりました」
促された軍医が、衛生兵と一緒になって仕事を始める。
ユグディラの演奏で予想以上に生き延びてはいるが、森の午睡の前奏曲は致命傷や再起不能の傷には届かない。
戦死者だけで、5割を超えていた。
「行こう」
ヒースがシェリルの肩を抱いて惨い光景から目を逸らさせる。
クリムゾンウェストへ引き戻された後も、血の臭いと苦痛の悲鳴が残っているように感じられた。
生き残りの強化人間は、最低限の治療と回復を終えた後に月の崑崙基地へ移送され、トマーゾ博士の診療を受けることになる。
(代筆:馬車猪)
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 2人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 アリア・セリウス(ka6424) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/08/27 22:29:06 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/28 14:17:39 |