ゲスト
(ka0000)
【幻痛】激突~ベアーレヤクト二戦~
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/29 19:00
- 完成日
- 2018/09/04 15:54
みんなの思い出
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オープニング
ビックマー討伐作戦『ベアーレヤクト』は順調に進んでいるかと思われたが、予想外の事件が発生する。
チュプ大神殿にある幻獣強化システム『ラメトク』により大幻獣トリシュヴァーナを巨大化。それを切り札としてビックマーに決戦を挑む手筈となっていた。
しかし何のトラブルかは不明だが、巨大化したのはトリシュヴァーナではなく幻獣王チューダ(kz0173)。腕っ節はからっきし。幻獣に対する知識はあっても忘れっぽい挙げ句、プライドだけは生意気にも高い怠惰の眷属以上に怠惰な大幻獣である。
それでもビックマーを止められるのはチューダしかいない。
部族会議はチューダを戦力として投入する事を決定する。
「さて。うまく行けば良いのですが……」
作戦の指揮を執るヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、遠くに見えるチューダとビックマーの戦いを見守っていた。
他の歪虚王と異なり、怠惰の感染さえ対応できればビックマーに特殊能力は確認されていない。しかし、100メートルを超える巨体は近くで行動するだけでも危険が伴う。
ケリド川南岸に構築した部族会議の本陣。その周辺に設置された対怠惰の感染用結界の中であっても緊張の雰囲気は漂っている。
「やってるなホー」
そこへ翼を羽ばたきながら柵に止まったのは大幻獣のモフロウ博士。
幻獣の森に住む幻獣『ポロウ』達をまとめる突然変異の大幻獣である。
「おや、確かモフロウ博士さんですね」
「博士でいいホー。今日はお手紙を預かってきたホー」
そう言いながら、博士は足に結ばれた手紙をクチバシで指し示す。
足から外して手紙を広げるヴェルナー。
差出人は四大精霊の一人イクタサ(kz0246)からである。
『やぁ。ビックマーと戦っていると聞いたけど、まさかラメトクで巨大化させる幻獣にあのうるさい奴を選ぶとは思わなかったよ』
「ええ。私自身も驚きです」
この場にいないイクタサへ返事をするヴェルナー。
自らの行いを軽く鼻で笑った後、ヴェルナーは手紙の続きを読み始める。
『ラメトクで巨大化させる大幻獣を戦わせるアイディアは悪くない。ビックマーを負のマテリアルの塊だと考えれば、大幻獣の持つ正のマテリアルをぶつける事でマテリアルを相殺できる。そうなれば、ビックマーの巨体は小型化していく。
いいかい、もしビックマーをもっと小さくしないのであれば、あのうるさい奴をビックマーの戦いに集中させるんだ。勝負は巨大化している間にどこまでビックマーにダメージが与えられるかだよ』
イクタサによればチューダとビックマーが戦闘すれば、お互いのマテリアルが消費される事でビックマーを小型化させる事ができる。
そしてその小型化はチューダが巨大化している間にどこまでビックマーにダメージを与えられるかにかかっている。ここでビックマーを小型化できれば、最終防衛ラインでの戦いに大きく影響を与えるはずだ。
「わざわざアドバイスですか。手を貸さないと言いながら、心配なんですね」
イクタサの行動を微笑ましく思うヴェルナー。
四大精霊と呼ばれていても、ファリフ・スコール(kz0009)が身を投じる戦いである。心配で仕方ないのだろう。
『言っておくけど、君の事はまったく心配してないから。早く戦いを終わらせて報告に来るといいよ。お茶ぐらいは出してあげるから』
嫌いだ、と言っておきながら人との交流を捨てられない。
そんなイクタサのまるで子供のような態度にヴェルナーは微笑ましくなる。
「……さて」
手紙を読み終えたヴェルナーは、再びチューダとビックマーの戦いに視線を向ける。
今の所変化はないが、部族会議の切り札はあの万年運動不足のチューダだ。途中でへこたれる可能性もある。さらに不安要素は足元を通過する武装巨人である。周辺の武装巨人を排除してチューダをビックマーの戦いに集中させる必要がある。
「ハンターへ出撃を依頼して下さい。チューダさんの周辺にいる武装巨人を排除。それからチューダさんに声をかけてやる気を引き出すよう伝えて下さい。途中で投げ出しかねませんから……」
●
大霊堂近くでは既にチューダとビックマーの戦いは開始されている。
「い、痛いっ! ぶった……ぶったでありますな!」
頬を押さえるチューダ。
だが、遠慮する事無くビックマーは再び巨大なパンチを繰り出した。
ぬいぐるみのような拳がチューダの頬にめり込んだ。
「二度もぶったっ! 大巫女にもぶたれた事も……あ、たまにあったであります」
「ヒュー! とぼけたツラしてなかなかやるじゃねぇか。気に入ったぜ。
どうやら、お前を乗り越えなきゃ先には進めねぇらしいな」
ビックマーにとって自分と同じぐらい巨大な相手を見たのは数度しかない。
前回みたのは一体何年も前の話か――。
しかし、目の前にいる黄色いネズミを片付けない限り、怠惰の軍に勝利は無い。そう考えたからこそ、ビックマーはチューダに本気で挑む事を決意した。
「来な。お前に格の違いを見せてやる」
「聞けばお前も王らしいでありますな。我輩のぷりちーな王の座は渡さないであります。
喧嘩は苦手でありますが……ま、何とかなるでありますよ」
正面切って姿を見せたチューダだが、その小さい脳には作戦など浮かんでいない。
辺境の地を賭けた戦いは、煽てに弱い馬鹿同士の激突から始まる――。
チュプ大神殿にある幻獣強化システム『ラメトク』により大幻獣トリシュヴァーナを巨大化。それを切り札としてビックマーに決戦を挑む手筈となっていた。
しかし何のトラブルかは不明だが、巨大化したのはトリシュヴァーナではなく幻獣王チューダ(kz0173)。腕っ節はからっきし。幻獣に対する知識はあっても忘れっぽい挙げ句、プライドだけは生意気にも高い怠惰の眷属以上に怠惰な大幻獣である。
それでもビックマーを止められるのはチューダしかいない。
部族会議はチューダを戦力として投入する事を決定する。
「さて。うまく行けば良いのですが……」
作戦の指揮を執るヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、遠くに見えるチューダとビックマーの戦いを見守っていた。
他の歪虚王と異なり、怠惰の感染さえ対応できればビックマーに特殊能力は確認されていない。しかし、100メートルを超える巨体は近くで行動するだけでも危険が伴う。
ケリド川南岸に構築した部族会議の本陣。その周辺に設置された対怠惰の感染用結界の中であっても緊張の雰囲気は漂っている。
「やってるなホー」
そこへ翼を羽ばたきながら柵に止まったのは大幻獣のモフロウ博士。
幻獣の森に住む幻獣『ポロウ』達をまとめる突然変異の大幻獣である。
「おや、確かモフロウ博士さんですね」
「博士でいいホー。今日はお手紙を預かってきたホー」
そう言いながら、博士は足に結ばれた手紙をクチバシで指し示す。
足から外して手紙を広げるヴェルナー。
差出人は四大精霊の一人イクタサ(kz0246)からである。
『やぁ。ビックマーと戦っていると聞いたけど、まさかラメトクで巨大化させる幻獣にあのうるさい奴を選ぶとは思わなかったよ』
「ええ。私自身も驚きです」
この場にいないイクタサへ返事をするヴェルナー。
自らの行いを軽く鼻で笑った後、ヴェルナーは手紙の続きを読み始める。
『ラメトクで巨大化させる大幻獣を戦わせるアイディアは悪くない。ビックマーを負のマテリアルの塊だと考えれば、大幻獣の持つ正のマテリアルをぶつける事でマテリアルを相殺できる。そうなれば、ビックマーの巨体は小型化していく。
いいかい、もしビックマーをもっと小さくしないのであれば、あのうるさい奴をビックマーの戦いに集中させるんだ。勝負は巨大化している間にどこまでビックマーにダメージが与えられるかだよ』
イクタサによればチューダとビックマーが戦闘すれば、お互いのマテリアルが消費される事でビックマーを小型化させる事ができる。
そしてその小型化はチューダが巨大化している間にどこまでビックマーにダメージを与えられるかにかかっている。ここでビックマーを小型化できれば、最終防衛ラインでの戦いに大きく影響を与えるはずだ。
「わざわざアドバイスですか。手を貸さないと言いながら、心配なんですね」
イクタサの行動を微笑ましく思うヴェルナー。
四大精霊と呼ばれていても、ファリフ・スコール(kz0009)が身を投じる戦いである。心配で仕方ないのだろう。
『言っておくけど、君の事はまったく心配してないから。早く戦いを終わらせて報告に来るといいよ。お茶ぐらいは出してあげるから』
嫌いだ、と言っておきながら人との交流を捨てられない。
そんなイクタサのまるで子供のような態度にヴェルナーは微笑ましくなる。
「……さて」
手紙を読み終えたヴェルナーは、再びチューダとビックマーの戦いに視線を向ける。
今の所変化はないが、部族会議の切り札はあの万年運動不足のチューダだ。途中でへこたれる可能性もある。さらに不安要素は足元を通過する武装巨人である。周辺の武装巨人を排除してチューダをビックマーの戦いに集中させる必要がある。
「ハンターへ出撃を依頼して下さい。チューダさんの周辺にいる武装巨人を排除。それからチューダさんに声をかけてやる気を引き出すよう伝えて下さい。途中で投げ出しかねませんから……」
●
大霊堂近くでは既にチューダとビックマーの戦いは開始されている。
「い、痛いっ! ぶった……ぶったでありますな!」
頬を押さえるチューダ。
だが、遠慮する事無くビックマーは再び巨大なパンチを繰り出した。
ぬいぐるみのような拳がチューダの頬にめり込んだ。
「二度もぶったっ! 大巫女にもぶたれた事も……あ、たまにあったであります」
「ヒュー! とぼけたツラしてなかなかやるじゃねぇか。気に入ったぜ。
どうやら、お前を乗り越えなきゃ先には進めねぇらしいな」
ビックマーにとって自分と同じぐらい巨大な相手を見たのは数度しかない。
前回みたのは一体何年も前の話か――。
しかし、目の前にいる黄色いネズミを片付けない限り、怠惰の軍に勝利は無い。そう考えたからこそ、ビックマーはチューダに本気で挑む事を決意した。
「来な。お前に格の違いを見せてやる」
「聞けばお前も王らしいでありますな。我輩のぷりちーな王の座は渡さないであります。
喧嘩は苦手でありますが……ま、何とかなるでありますよ」
正面切って姿を見せたチューダだが、その小さい脳には作戦など浮かんでいない。
辺境の地を賭けた戦いは、煽てに弱い馬鹿同士の激突から始まる――。
リプレイ本文
対怠惰王ビックマー討伐作戦『ベアーレヤクト』。
その切り札となるのは、幻獣強化システム『ラメトク』による大幻獣の巨大化であった。
システムの限界を超える為に一度だけの禁じ手であるが、100メートルを超えるビックマーを倒すにはこの方法しかない。
作戦の立案者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)はそう考えていた。
――だが。現実は都合良く事が運ぶとは限らない。
「ハンターの皆さん、お願い致します。厄介な役回りである事は承知していますが、今は皆さんに頼る他ありません」
巨大なビックマーに向かって進軍したハンター達。
その後ろ姿をヴェルナーは見守っていた。
怠惰王とその眷属に対してどこまで痛撃を与えられるか。それによって今後の戦い方も変わってくる。
辺境の未来は――ハンターの活躍にかかっている。
「うわーんっ! 我輩、肉体労働は苦手であります」
ビャスラグ山の麓に響く幻獣王チューダ(kz0173)の声。
普段と異なるのは、その声が遙かに大きい事。
そして、サイズがビックマーレベルに達している事であった。
「あのクマさんを攻撃するとチューダさんも小さくなりますっ」
ワイバーン『ウイヴル』でチューダの周囲を滑空するUisca Amhran(ka0754)。
ビックマーの足元を抜ける形で進軍を継続する武装巨人を排除する傍ら、時折チューダを励ましている。
実はヴェルナーからハンターへ依頼された内容に『チューダを煽てて戦いを継続させる事』が付け加えられていた。
チューダは幻獣王を自称しているものの、頭の方はかなり残念な部類に入る大幻獣である。目を離せばサボる事は必至。そこで時折煽てる事でチューダを戦いへ集中させようというのである。
「小さくなると桃が一つでもお腹が膨れるようになりますよ! 帰ったら膝枕で桃をいっぱい食べさせてあげますからね」
「ほ、本当でありますかっ! 我輩、頑張っちゃうであります!」
まんまとUiscaの煽てに乗るチューダ。
これ程簡単にかかるのは拍子抜けな感じもするが、これでビックマーと戦ってくれるなら楽なものである。
「ヒュー! 俺様との戦いの報酬は桃か? だが、俺様は桃のように甘酸っぱくはねぇぞ」
「桃、我輩を導いてくれであります!」
ビックマーに向けて飛び掛かるチューダ。
怠惰の感染を結界で封じている状況である為、ビックマーの武器は巨体を除けばパンチやキック。つまりチューダと左程変わらない。
チューダの戦闘能力次第では、勝利の可能性はある。
「では、今のうちに」
Uiscaはウイヴルを地面に向けて飛行させる。
仲間達が武装巨人を相手に足止めを行っている。チューダを煽ててビックマーに集中させている隙に少しでも武装巨人の数を減らしたい。
「……ウイヴルっ!」
ウイヴルへ向けて巨人用突撃砲を放つ武装巨人。
バレルロールで回避しながら地面近くで軌道修正。武装巨人の頭上を飛行する。
「これ以上、行かせません」
ウイヴル近くの武装巨人を闇色の龍牙が襲いかかる。
無数とも言うべき龍牙と龍爪は、武装巨人の体を貫いて動きを止める。
武装巨人の動きを止める事で、少しでも仲間が巨人達を倒す機会を作り出そうとしていた。
「戦いは始まったばかりです。皆さん、お願いします」
Uiscaの声が仲間達へともたらされる。
巨人対応とチューダのお守り。
ベアーレヤクトにおける重要な作戦が、たった今始まった。
●
「さって。僕らが頑張るとチューダの援護にもなるし、やる気も出ると。やってやりますか」
ワイバーン『さいふぁー』に援護を指示したミリア・ラスティソード(ka1287)は、大身槍「蜻蛉切」を手に武装巨人の前へ立つ。
チューダの足元を武装巨人が彷徨けば、それだけビックマーとの戦いに集中できなくなる。チューダに貯えられた正のマテリアルとビックマーの持つ負のマテリアルとぶつけて弱体化させる為には、チューダをビックマーの戦いに集中させる他ない。
その為には周辺の武装巨人を一掃して、戦いの邪魔をする巨人を排除しなければならない。
「さぁ、まとめてかかってきなよ」
根性注入で蜻蛉切を許可したミリアは、神速の突きを繰り出した。
Uiscaの龍爪により動きを止められていた武装巨人は、回避する暇すら与えられず胸を貫かれた。
さらにミリアは薙ぎ払いを繰り出しながら、武装巨人の群れの中へとその身を晒す。
ミリアの狙いの一つは囮役である。
武装巨人の集団に近接攻撃を仕掛ける事で、武装巨人の注目を集めようというのだ。
「どうした? まだまだ行っくよー」
蜻蛉切を振り回しながら、大きく踏み込むミリア。
だが、武装巨人の間に出来た隙間から巨人用突撃砲でミリアを狙う巨人がいた。
銃口をそっと向け、静かに照準を定める。
「させるかっ!」
フライトシールド「プリドゥエン」の上部に乗った魔導型デュミナス『バレル』。
パイロットのジーナ(ka1643)は、ミリアを狙う武装巨人の付近に向けてプラズマライフル「イナードP5」の一撃を叩き込む。
プラズマシューターで強化された弾丸は、武装巨人の体を突き破りながら狙撃ポイントに着弾。
この狙撃のせいでミリアに向けられた巨人用突撃砲の照準は大きくズレる。
鳴り響く銃声。
そして、この時点でミリアは狙われていた状況を素早く察知して迎撃に移る。
「さいふぁーっ!」
援護を指示していたさいふぁーはミリアの言葉を受けて飛来。
地上の武装巨人達に向けてファイアブレスの一撃。
燃え盛る炎が武装巨人へ襲いかかる。炎で一瞬怯む巨人。その瞬間を見逃さず、ミリアは蜻蛉切で再び斬り込んでいく。
「以前の勢いから明らかに減っている。先の戦いで大きく敵の戦力を削る事ができたか。だが、ビックマーを追い詰めるには……足りないか」
ジーナは、後方のケリド川に視線を送る。
ヴェルナーが準備している武装巨人の迎撃作戦。その成功を願いながら、再び前へ向き直る。
与えられた任務を着実に遂行する為に。
●
「相手もなかなかイカス外見してっけど、負けるんじゃねぇぞ、チューダ!」
リュー・グランフェスト(ka2419)はワイバーン『シエル』の背に乗ってチューダを励ましていた。
チューダに近い武装巨人に衝撃破を浴びせながら、時折チューダを気に掛けて頭上近くを飛行している。
『目を離せばサボろうとする』。
大巫女が言っていた言葉らしいのだが、確かにチューダの集中力は驚く程持たない。
「えー。我輩の方がイカスであります。何もしなくてもイケメンであります」
「だったら、それをあいつに見せつけてやれよ」
「でも、我輩は既に何度も殴られているであります。もう帰りたいであります……」
リューにも分かった。既にチューダの戦意が低下し始めている事に。
それは敵が強いという理由ではない。単純に『飽きっぽい』のだ。
辺境の未来をこの馬鹿な生き物に託さなければならなくなった運命を呪わずにはいられない。
「そう言いながら、俺様に何発か良いのをくれてるじゃねぇか」
距離を置いていたビックマーはぬいぐるみのような大きな手で口を拭った。
格好つけてはいるが、傍目から見ればくまのぬいぐるみとデブのハムスターの喧嘩である。チューダのラッキーパンチもしっかりビックマーにヒットしていたようだ。
「え。本当でありますか?」
「ああ。こりゃ、俺様もうかうかしてられねぇぜ」
肩の力を抜くようにビックマーは大きく息を吸い込んだ。
ビックマーがここから本腰を入れてくる。
そう感じたリューは、直様チューダの闘争心に火をつける。
「王の威厳って奴を見せつけてくれよな! 倒せたらケーキをたらふく奢ってやるぜ!」
「ケーキ! 我輩、頑張るであります!」
桃、そしてケーキ。
食欲と睡眠欲の権化とも言えるチューダ相手には、食べ物と王のプライドを煽った方が効果的のようだ。
目の前にぶる下がった人参に向けてチューダは短い足を必死で動かし続ける。
「ぬりゃ!」
チューダの大振りのパンチ。
だが、大振り故にビックマーは簡単に回避する。
その隙を突いてビックマーの強烈なボディーブロー。
一瞬、顔を歪めるチューダ。
もう少しダイエットしていればパンチが命中した可能性もあるのだが――。
「良い面構えだ。ちったぁ見られるようになったな」
チューダの耳元で呟くビックマー。
セコンド状態のリューは、すかさずチューダにアドバイスを送る。
「チューダ! 相手をよく見ろ。敵に当てる事を考えるんだ」
「悪ぃが、男同士のガチな喧嘩だ。外野は黙っててくれ」
ビックマーはチューダを突き飛ばすとリューに向けて大きな腕を薙いだ。
しかし、危険を察知したリューはシエルと共に回避。距離を取ってビックマーの攻撃範囲から離れる。
「ビックマーもチューダを倒すべき相手と見定めた。それでも、まあいいか」
姿勢制御で体勢を立て直しながら、リューはビックマーの背後へ回り込んだ
●
「自分で飛ぶのとはまた少し感覚が違って……なんというか……ん、疾風さん宜しくお願い、します」
この依頼で初めてタッグを組んだグリフォン『疾風』に挨拶をする桜憐りるか(ka3748)。
早く戦いを終わらせてヴェルナーとゆっくりお茶を楽しみたい。
そんな想いを秘めて戦いへ向かうりるかであるが、初めて共に戦う疾風を前に感覚を掴み切れていない様子だ。
「大丈夫ですか? 武装巨人は厄介な相手と聞きます。油断はできません」
疾風の傍らに並ぶ形となったワイバーン『ボレアス』の背で夜桜 奏音(ka5754)はりるかを案じていた。
既にミリアが囮役となって奮戦しているが、武装巨人はアサルトライフルなどの近代兵器に身を包んでいる。地上から射撃されるだけでも負傷するかもしれないのだ。
「はい……大丈夫、です」
「そうですか。チューダさんが何処まで頑張ってくれるかが鍵です。頑張りましょう」
奏音は気合いを入れ直した。
幸い、ビックマーの怠惰の感染は周辺に展開した結界により抑えられている。万一の場合にはビックマーに黒曜封印符を使うつもりであったが、ビックマーは特殊なスキルを気配はない。ただパンチとキックだけで攻撃をするだけである。
懸念していた黒曜封印符の出番は無さそうだが、それでもここは安心して良い戦場ではない。
「巨人へ上空から攻撃を仕掛けます」
奏音は、ボレアスを巨人の群れに向かって飛行させる。
ボレアスの飛来に気付いて対空射撃を始める武装巨人達。
しかし、気付くのが遅かった。
弾丸がボレアスに向けられるよりも前に奏音の風雷陣が炸裂。
上空に放り投げられた符が招来する雷。
強烈な一撃が巨人に向けて落とされる。
さらに奏音に次いで飛来するのは、ストーンアーマーで防御力を上げたりるかである。
「チューダさんの邪魔はさせない、ですよ」
奏音の作った隙を生かし、巨人の集団に向けてりるかはライトニングボルトを放った。
金杖「アララギ」から放たれる一直線の雷撃が、複数の巨人を巻き込んで貫いた。
奏音とりるかの連携で生み出された雷の二連撃。
武装巨人達の足を止めるには充分な攻撃であった。
「良い感じ、ですの」
「はい。ですが、これも長く持てば良いのですが……」
奏音は視線を横に向ける。
そこにはビックマーに殴り飛ばされるチューダの姿があった。
●
「おい、チューダ! もっと細かくパンチを出すんだ」
チューダに向けたリューのアドバイス。
しかし、チューダは肉体よりも頭脳派。忘れっぽい残念な頭脳な上に、格闘センスは仕込んだパルムの方があると思わせる程に絶望的だ。
「そんな事言ったって……うわわーーん!」
パニックになったチューダは泣け叫びながらぐるぐると両手を回してビックマーへ突撃する。
まるでいじめられっ子の逆ギレを彷彿とさせる無様な戦い。目と鼻から溢れる体液が惨めさを演出している。
「わ、危ねぇ!」
リューの言葉よりも先にビックマーの拳がチューダの顔面へクリーンヒット。
後方へ大きく倒れ込むチューダ。
既に何発もビックマーに殴られている。
サンドバック状態のチューダが、最早哀れに感じられる。
――しかし。
「桃……ケーキ……」
チューダは、体を動かして立ち上がる。
それはチューダの前にぶる下がった人参の効果であった。
「倒されても起き上がる闘志。やっぱお前ぇは大したもんだよ。
ヒューっ! 男……いや、漢だねぇ」
ビックマーは戦いの構えを崩さない。
一方、チューダはゆらりと体を動かしながら立ち上がる。
そこへ奏音とりるかがさらにチューダの前に大量の人参をぶら下げ始める。
「これが終わったらお菓子とかチューダさんの好きなものをあげますから、頑張ってください」
「無事に終わったらお菓子を準備して……います。チューダさんが格好良くやればできる方、です。応援しているの……」
チューダの頭上を飛来するボレアスと疾風。
二人の口から発せられたお菓子という言葉をチューダは自然と繰り返す。
「お……か……し……」
「そう、です。甘いお菓子……ですの」
「クッキーにマカロン、チョコ餅もあります。チューダさんを待ってますよ」
二人の励まし。
お菓子の存在が、チューダの心に火を灯す。
「お菓子……甘いお菓子が、我輩を……。
うぉぉぉ! スイーツのみんな、我輩に元気を分けてくれであります!」
勝利の先にある桃、ケーキ、お菓子に向かって走り出すチューダ。
その闘志に正面から答えようとするビックマーもまた男であった。
だが、懸念が消えた訳ではない。
「いくら立ち上がったからって、あの一方的なやられ方はヤバいだろ」
リューは並走していたUiscaへ叫んだ。
チューダの戦闘センスの無さは異常だ。唯一の武器は逃げ足の速さだけ。あれでは立ち上がっても殴られ続けるのがオチだ。
リューの傍らで魔導スマートフォンで誰かと話していたUisca。
通話を終えた後で驚くべき言葉を口にした。
「それが……あの戦いでも問題無いそうです」
●
「ヴェルナー、どういう事だ?」
同じく魔導スマートフォンで通話していたジーナ。
言っている事が理解できない様子でヴェルナーへ聞き返した。
「チューダさんが戦いに向かない事は織り込み済みです。イクタサさんも仰っていますが、大切なのはチューダさんの正のマテリアルをビックマーの負のマテリアルにぶつける事。
つまり、チューダさんとビックマーが殴り合った結果は関係ありません。チューダさんが一方的に殴られたとしてもチューダさんビックマーへ向かっていけば、双方のマテリアルが相殺されてビックマーの体は小さくなるはずです」
ヴェルナーの話によれば、仮にチューダがビックマーに殴られ続けたとしても正負双方のマテリアルがぶつかればビックマーの体は縮小する。
重要な事はビックマーに殴られてもチューダがビックマーに挑み続ける事だ。
ハンター達が食べ物でチューダを釣った事で、チューダは目論見通りビックマーへ戦いを挑み続けていたのだ。
まさに単純馬鹿向きの作戦であった。
巨大化したのがトリシュヴァーナであれば、一気にケリも付けられたかもしれないが。
「だが、あの戦いではチューダの体が持たないのでは……」
「ちょっと、あれ!」
武装巨人に蜻蛉切の一撃を叩き込んでいたミリアが叫ぶ。
バレルのモニタに移し出された光景は、チューダとビックマーのサイズが徐々に縮んでいく光景であった。100メートルを超えるサイズも、チューダが殴られる度にサイズが小さくなっていく。
殴られても殴られてもチューダは立ち上がって、立ち向かう。
泥臭く一方的なワンサイドゲーム。
しかし、部族会議がビックマーに仕掛けた大勝負は巨大怪獣の殴り合いの勝敗を越えた結果をもたらそうとしていた。
「負のマテリアルが失われていけば、ハンターの皆さんの攻撃も通用するでしょう。
ですが、その前にチューダさんを助けてあげて下さい。トラブルで巨大化する事になりましたが、一応は今回の功労者です」
「そうだな。無事に助けられたなら、褒めてやらないとな」
「だったら、こいつらの相手も最後までやってやらないとな!」
ミリアは、大きく一歩踏み込んだ。
蜻蛉切の刃が武装巨人の首を捉え、大きく食い込んだ。
●
サイズが縮んでいくチューダとビックマー。
その大きさはハンター達の目から見ても段違いだ。それはビックマー自身も理解しているのだろう。
「……ちっ。そういう作戦かよ」
ビックマーも、部族会議の意図を汲み取ったようだ。
正負のマテリアルをぶつけてビックマーを弱体化させる。チューダを避けて通ればビックマーも弱体化はなかっただろう。
だが、ビックマーには正面から挑んでくる敵を避けて通る事は許されなかった。
それは怠惰の王たる義務ではなく、男として応えなければならないという矜持に他ならない。
「卑怯とは言わねぇ。こいつは歪虚と人間との戦争だ。見抜けなかった俺様が間抜けなだけだ。
だが、それ以上に……幻獣の王にしてやられたな」
その言葉と同時にチューダとビックマーは一気にサイズが小さくなる。
チューダは元のサイズに。
ビックマーは当初のサイズから四分の一程度の大きさとなった。
25メートル――それは、チューダが待ち望んだスイーツによってもぎ取った勝利である。
「よく頑張りましたねっ。帰ったら膝枕で桃をたくさん食べさせてあげますよ」
落下するチューダをウイヴルの上でキャッチするUisca。
既に殴られすぎて顔面が腫れ上がっているが、これも勝利の為の勲章と言えるだろう。
「やべぇな……一旦引くか。
だが、このままじゃ終わらせねぇ。次は意地でも叩き潰す。徹底的にな」
小さくなった体を揺らしながら、ビックマーは撤退していく。
ハンター達の尽力により、ビックマー撃退に成功した瞬間であった。
●
「奴らが役者として一枚上手だった。……くそっ」
ビックマーは小さくなった体を引き摺りながら、北へ進路を取った。
今までなら一跨ぎだった森も、今は森を体に沈めなければならない。それは屈辱な光景であった。
しかし、ビックマーはここで退けない理由がある。
「ここで倒れる訳にはいかねぇ。プライドを捨ててでも……俺様はあの城を潰さなきゃな」
ビックマーは弱りながらも覚悟を決めた。
今まで退治してきた連中は、もうここまで力を付けてきた。
侮る余裕は一切ない。こちらも捨て身で挑まなければ、やられるかもしれない。
――全力。
もう油断は許されない。
定めた目標は、必ず成し遂げる。
「悪ぃな、オーロラ。男はな、一度腹に決めた掟を違える事はできねぇんだ。
たとえ、傷付き倒れて……お前を泣かせる事になっても、やらなきゃならねぇ。
……分かってくれ」
●
「うわーーい! 御褒美でありますっ!」
戦いの後、チューダはハンター達が持っていたお菓子を平らげた後、Uiscaの膝の上で桃を食べさせてもらっている。
さっきまでサンドバックだった生物とは思えない。
「さすが、かわいい頂点に立つ王さまなのです! もふもふです!」
Uiscaもチューダの毛並みを思う存分堪能しているようだ。
「良かったですね。チューダさん。今日は頑張った御褒美ですよ」
「わーい、我輩への貢ぎ物であります!」
多くのお菓子を提供した奏音。
瞬く間にそれを食い尽くす辺りがチューダらしい。
だが、誰もが褒めるばかりではない。
「ふふ、酷な役回りをお願いする事になりお詫び致します。ですが、作戦の邪魔をしたチューダさんにも非はあります」
ヴェルナーはチューダに苦言を呈してみたものの、チューダには聞く素振りもない。
「勝てば官軍であります! ぷりちーな王へのお説教はノーセンキュウでありますよ」
辺境を危機に陥れた自覚など皆無のようだ。
呆れるヴェルナーの横でりるかは質問を投げかける。
「ヴェルナーさん、この後の……作戦は?」
「既にバタルトゥさんが準備に入っています。
最終防衛ライン。あのサイズになったビックマーならハンターさんの力を結集して倒せるはずです。
ですが……」
そこでヴェルナーは言葉を濁す。
ヴェルナーの脳裏に一抹の普段がよぎったからだ。
「ヴェルナーさん?」
「敵はビックマーだけでは無いと思います。りるかさん、十分に注意して下さい」
「どういう事だ? ビックマー以外って……あっ」
問いかけようしたミリアの脳裏にも、ある存在が浮かんだ。
それは先の戦いで姿を見せながら、今回の戦いで姿を見せなかった歪虚達。
青木燕太郎。
ブラッドリー。
彼らが如何なる動きを見せるかは分からない。だが、敵対となれば戦力は分割させる。ビックマーに戦力を集中できないのはかなり厄介だ。
「あいつら、やっぱ何か仕掛けてくるのか?」
「かもしれません。最終防衛ライン周辺の警戒を強化しますが……」
「分かってるって。奴らが出てくるようなら、俺達の出番だろ?」
リューは決戦に向けて気合いを入れる。
怠惰王と部族会議の最終決戦は、間もなく始まろうとしていた。
その切り札となるのは、幻獣強化システム『ラメトク』による大幻獣の巨大化であった。
システムの限界を超える為に一度だけの禁じ手であるが、100メートルを超えるビックマーを倒すにはこの方法しかない。
作戦の立案者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)はそう考えていた。
――だが。現実は都合良く事が運ぶとは限らない。
「ハンターの皆さん、お願い致します。厄介な役回りである事は承知していますが、今は皆さんに頼る他ありません」
巨大なビックマーに向かって進軍したハンター達。
その後ろ姿をヴェルナーは見守っていた。
怠惰王とその眷属に対してどこまで痛撃を与えられるか。それによって今後の戦い方も変わってくる。
辺境の未来は――ハンターの活躍にかかっている。
「うわーんっ! 我輩、肉体労働は苦手であります」
ビャスラグ山の麓に響く幻獣王チューダ(kz0173)の声。
普段と異なるのは、その声が遙かに大きい事。
そして、サイズがビックマーレベルに達している事であった。
「あのクマさんを攻撃するとチューダさんも小さくなりますっ」
ワイバーン『ウイヴル』でチューダの周囲を滑空するUisca Amhran(ka0754)。
ビックマーの足元を抜ける形で進軍を継続する武装巨人を排除する傍ら、時折チューダを励ましている。
実はヴェルナーからハンターへ依頼された内容に『チューダを煽てて戦いを継続させる事』が付け加えられていた。
チューダは幻獣王を自称しているものの、頭の方はかなり残念な部類に入る大幻獣である。目を離せばサボる事は必至。そこで時折煽てる事でチューダを戦いへ集中させようというのである。
「小さくなると桃が一つでもお腹が膨れるようになりますよ! 帰ったら膝枕で桃をいっぱい食べさせてあげますからね」
「ほ、本当でありますかっ! 我輩、頑張っちゃうであります!」
まんまとUiscaの煽てに乗るチューダ。
これ程簡単にかかるのは拍子抜けな感じもするが、これでビックマーと戦ってくれるなら楽なものである。
「ヒュー! 俺様との戦いの報酬は桃か? だが、俺様は桃のように甘酸っぱくはねぇぞ」
「桃、我輩を導いてくれであります!」
ビックマーに向けて飛び掛かるチューダ。
怠惰の感染を結界で封じている状況である為、ビックマーの武器は巨体を除けばパンチやキック。つまりチューダと左程変わらない。
チューダの戦闘能力次第では、勝利の可能性はある。
「では、今のうちに」
Uiscaはウイヴルを地面に向けて飛行させる。
仲間達が武装巨人を相手に足止めを行っている。チューダを煽ててビックマーに集中させている隙に少しでも武装巨人の数を減らしたい。
「……ウイヴルっ!」
ウイヴルへ向けて巨人用突撃砲を放つ武装巨人。
バレルロールで回避しながら地面近くで軌道修正。武装巨人の頭上を飛行する。
「これ以上、行かせません」
ウイヴル近くの武装巨人を闇色の龍牙が襲いかかる。
無数とも言うべき龍牙と龍爪は、武装巨人の体を貫いて動きを止める。
武装巨人の動きを止める事で、少しでも仲間が巨人達を倒す機会を作り出そうとしていた。
「戦いは始まったばかりです。皆さん、お願いします」
Uiscaの声が仲間達へともたらされる。
巨人対応とチューダのお守り。
ベアーレヤクトにおける重要な作戦が、たった今始まった。
●
「さって。僕らが頑張るとチューダの援護にもなるし、やる気も出ると。やってやりますか」
ワイバーン『さいふぁー』に援護を指示したミリア・ラスティソード(ka1287)は、大身槍「蜻蛉切」を手に武装巨人の前へ立つ。
チューダの足元を武装巨人が彷徨けば、それだけビックマーとの戦いに集中できなくなる。チューダに貯えられた正のマテリアルとビックマーの持つ負のマテリアルとぶつけて弱体化させる為には、チューダをビックマーの戦いに集中させる他ない。
その為には周辺の武装巨人を一掃して、戦いの邪魔をする巨人を排除しなければならない。
「さぁ、まとめてかかってきなよ」
根性注入で蜻蛉切を許可したミリアは、神速の突きを繰り出した。
Uiscaの龍爪により動きを止められていた武装巨人は、回避する暇すら与えられず胸を貫かれた。
さらにミリアは薙ぎ払いを繰り出しながら、武装巨人の群れの中へとその身を晒す。
ミリアの狙いの一つは囮役である。
武装巨人の集団に近接攻撃を仕掛ける事で、武装巨人の注目を集めようというのだ。
「どうした? まだまだ行っくよー」
蜻蛉切を振り回しながら、大きく踏み込むミリア。
だが、武装巨人の間に出来た隙間から巨人用突撃砲でミリアを狙う巨人がいた。
銃口をそっと向け、静かに照準を定める。
「させるかっ!」
フライトシールド「プリドゥエン」の上部に乗った魔導型デュミナス『バレル』。
パイロットのジーナ(ka1643)は、ミリアを狙う武装巨人の付近に向けてプラズマライフル「イナードP5」の一撃を叩き込む。
プラズマシューターで強化された弾丸は、武装巨人の体を突き破りながら狙撃ポイントに着弾。
この狙撃のせいでミリアに向けられた巨人用突撃砲の照準は大きくズレる。
鳴り響く銃声。
そして、この時点でミリアは狙われていた状況を素早く察知して迎撃に移る。
「さいふぁーっ!」
援護を指示していたさいふぁーはミリアの言葉を受けて飛来。
地上の武装巨人達に向けてファイアブレスの一撃。
燃え盛る炎が武装巨人へ襲いかかる。炎で一瞬怯む巨人。その瞬間を見逃さず、ミリアは蜻蛉切で再び斬り込んでいく。
「以前の勢いから明らかに減っている。先の戦いで大きく敵の戦力を削る事ができたか。だが、ビックマーを追い詰めるには……足りないか」
ジーナは、後方のケリド川に視線を送る。
ヴェルナーが準備している武装巨人の迎撃作戦。その成功を願いながら、再び前へ向き直る。
与えられた任務を着実に遂行する為に。
●
「相手もなかなかイカス外見してっけど、負けるんじゃねぇぞ、チューダ!」
リュー・グランフェスト(ka2419)はワイバーン『シエル』の背に乗ってチューダを励ましていた。
チューダに近い武装巨人に衝撃破を浴びせながら、時折チューダを気に掛けて頭上近くを飛行している。
『目を離せばサボろうとする』。
大巫女が言っていた言葉らしいのだが、確かにチューダの集中力は驚く程持たない。
「えー。我輩の方がイカスであります。何もしなくてもイケメンであります」
「だったら、それをあいつに見せつけてやれよ」
「でも、我輩は既に何度も殴られているであります。もう帰りたいであります……」
リューにも分かった。既にチューダの戦意が低下し始めている事に。
それは敵が強いという理由ではない。単純に『飽きっぽい』のだ。
辺境の未来をこの馬鹿な生き物に託さなければならなくなった運命を呪わずにはいられない。
「そう言いながら、俺様に何発か良いのをくれてるじゃねぇか」
距離を置いていたビックマーはぬいぐるみのような大きな手で口を拭った。
格好つけてはいるが、傍目から見ればくまのぬいぐるみとデブのハムスターの喧嘩である。チューダのラッキーパンチもしっかりビックマーにヒットしていたようだ。
「え。本当でありますか?」
「ああ。こりゃ、俺様もうかうかしてられねぇぜ」
肩の力を抜くようにビックマーは大きく息を吸い込んだ。
ビックマーがここから本腰を入れてくる。
そう感じたリューは、直様チューダの闘争心に火をつける。
「王の威厳って奴を見せつけてくれよな! 倒せたらケーキをたらふく奢ってやるぜ!」
「ケーキ! 我輩、頑張るであります!」
桃、そしてケーキ。
食欲と睡眠欲の権化とも言えるチューダ相手には、食べ物と王のプライドを煽った方が効果的のようだ。
目の前にぶる下がった人参に向けてチューダは短い足を必死で動かし続ける。
「ぬりゃ!」
チューダの大振りのパンチ。
だが、大振り故にビックマーは簡単に回避する。
その隙を突いてビックマーの強烈なボディーブロー。
一瞬、顔を歪めるチューダ。
もう少しダイエットしていればパンチが命中した可能性もあるのだが――。
「良い面構えだ。ちったぁ見られるようになったな」
チューダの耳元で呟くビックマー。
セコンド状態のリューは、すかさずチューダにアドバイスを送る。
「チューダ! 相手をよく見ろ。敵に当てる事を考えるんだ」
「悪ぃが、男同士のガチな喧嘩だ。外野は黙っててくれ」
ビックマーはチューダを突き飛ばすとリューに向けて大きな腕を薙いだ。
しかし、危険を察知したリューはシエルと共に回避。距離を取ってビックマーの攻撃範囲から離れる。
「ビックマーもチューダを倒すべき相手と見定めた。それでも、まあいいか」
姿勢制御で体勢を立て直しながら、リューはビックマーの背後へ回り込んだ
●
「自分で飛ぶのとはまた少し感覚が違って……なんというか……ん、疾風さん宜しくお願い、します」
この依頼で初めてタッグを組んだグリフォン『疾風』に挨拶をする桜憐りるか(ka3748)。
早く戦いを終わらせてヴェルナーとゆっくりお茶を楽しみたい。
そんな想いを秘めて戦いへ向かうりるかであるが、初めて共に戦う疾風を前に感覚を掴み切れていない様子だ。
「大丈夫ですか? 武装巨人は厄介な相手と聞きます。油断はできません」
疾風の傍らに並ぶ形となったワイバーン『ボレアス』の背で夜桜 奏音(ka5754)はりるかを案じていた。
既にミリアが囮役となって奮戦しているが、武装巨人はアサルトライフルなどの近代兵器に身を包んでいる。地上から射撃されるだけでも負傷するかもしれないのだ。
「はい……大丈夫、です」
「そうですか。チューダさんが何処まで頑張ってくれるかが鍵です。頑張りましょう」
奏音は気合いを入れ直した。
幸い、ビックマーの怠惰の感染は周辺に展開した結界により抑えられている。万一の場合にはビックマーに黒曜封印符を使うつもりであったが、ビックマーは特殊なスキルを気配はない。ただパンチとキックだけで攻撃をするだけである。
懸念していた黒曜封印符の出番は無さそうだが、それでもここは安心して良い戦場ではない。
「巨人へ上空から攻撃を仕掛けます」
奏音は、ボレアスを巨人の群れに向かって飛行させる。
ボレアスの飛来に気付いて対空射撃を始める武装巨人達。
しかし、気付くのが遅かった。
弾丸がボレアスに向けられるよりも前に奏音の風雷陣が炸裂。
上空に放り投げられた符が招来する雷。
強烈な一撃が巨人に向けて落とされる。
さらに奏音に次いで飛来するのは、ストーンアーマーで防御力を上げたりるかである。
「チューダさんの邪魔はさせない、ですよ」
奏音の作った隙を生かし、巨人の集団に向けてりるかはライトニングボルトを放った。
金杖「アララギ」から放たれる一直線の雷撃が、複数の巨人を巻き込んで貫いた。
奏音とりるかの連携で生み出された雷の二連撃。
武装巨人達の足を止めるには充分な攻撃であった。
「良い感じ、ですの」
「はい。ですが、これも長く持てば良いのですが……」
奏音は視線を横に向ける。
そこにはビックマーに殴り飛ばされるチューダの姿があった。
●
「おい、チューダ! もっと細かくパンチを出すんだ」
チューダに向けたリューのアドバイス。
しかし、チューダは肉体よりも頭脳派。忘れっぽい残念な頭脳な上に、格闘センスは仕込んだパルムの方があると思わせる程に絶望的だ。
「そんな事言ったって……うわわーーん!」
パニックになったチューダは泣け叫びながらぐるぐると両手を回してビックマーへ突撃する。
まるでいじめられっ子の逆ギレを彷彿とさせる無様な戦い。目と鼻から溢れる体液が惨めさを演出している。
「わ、危ねぇ!」
リューの言葉よりも先にビックマーの拳がチューダの顔面へクリーンヒット。
後方へ大きく倒れ込むチューダ。
既に何発もビックマーに殴られている。
サンドバック状態のチューダが、最早哀れに感じられる。
――しかし。
「桃……ケーキ……」
チューダは、体を動かして立ち上がる。
それはチューダの前にぶる下がった人参の効果であった。
「倒されても起き上がる闘志。やっぱお前ぇは大したもんだよ。
ヒューっ! 男……いや、漢だねぇ」
ビックマーは戦いの構えを崩さない。
一方、チューダはゆらりと体を動かしながら立ち上がる。
そこへ奏音とりるかがさらにチューダの前に大量の人参をぶら下げ始める。
「これが終わったらお菓子とかチューダさんの好きなものをあげますから、頑張ってください」
「無事に終わったらお菓子を準備して……います。チューダさんが格好良くやればできる方、です。応援しているの……」
チューダの頭上を飛来するボレアスと疾風。
二人の口から発せられたお菓子という言葉をチューダは自然と繰り返す。
「お……か……し……」
「そう、です。甘いお菓子……ですの」
「クッキーにマカロン、チョコ餅もあります。チューダさんを待ってますよ」
二人の励まし。
お菓子の存在が、チューダの心に火を灯す。
「お菓子……甘いお菓子が、我輩を……。
うぉぉぉ! スイーツのみんな、我輩に元気を分けてくれであります!」
勝利の先にある桃、ケーキ、お菓子に向かって走り出すチューダ。
その闘志に正面から答えようとするビックマーもまた男であった。
だが、懸念が消えた訳ではない。
「いくら立ち上がったからって、あの一方的なやられ方はヤバいだろ」
リューは並走していたUiscaへ叫んだ。
チューダの戦闘センスの無さは異常だ。唯一の武器は逃げ足の速さだけ。あれでは立ち上がっても殴られ続けるのがオチだ。
リューの傍らで魔導スマートフォンで誰かと話していたUisca。
通話を終えた後で驚くべき言葉を口にした。
「それが……あの戦いでも問題無いそうです」
●
「ヴェルナー、どういう事だ?」
同じく魔導スマートフォンで通話していたジーナ。
言っている事が理解できない様子でヴェルナーへ聞き返した。
「チューダさんが戦いに向かない事は織り込み済みです。イクタサさんも仰っていますが、大切なのはチューダさんの正のマテリアルをビックマーの負のマテリアルにぶつける事。
つまり、チューダさんとビックマーが殴り合った結果は関係ありません。チューダさんが一方的に殴られたとしてもチューダさんビックマーへ向かっていけば、双方のマテリアルが相殺されてビックマーの体は小さくなるはずです」
ヴェルナーの話によれば、仮にチューダがビックマーに殴られ続けたとしても正負双方のマテリアルがぶつかればビックマーの体は縮小する。
重要な事はビックマーに殴られてもチューダがビックマーに挑み続ける事だ。
ハンター達が食べ物でチューダを釣った事で、チューダは目論見通りビックマーへ戦いを挑み続けていたのだ。
まさに単純馬鹿向きの作戦であった。
巨大化したのがトリシュヴァーナであれば、一気にケリも付けられたかもしれないが。
「だが、あの戦いではチューダの体が持たないのでは……」
「ちょっと、あれ!」
武装巨人に蜻蛉切の一撃を叩き込んでいたミリアが叫ぶ。
バレルのモニタに移し出された光景は、チューダとビックマーのサイズが徐々に縮んでいく光景であった。100メートルを超えるサイズも、チューダが殴られる度にサイズが小さくなっていく。
殴られても殴られてもチューダは立ち上がって、立ち向かう。
泥臭く一方的なワンサイドゲーム。
しかし、部族会議がビックマーに仕掛けた大勝負は巨大怪獣の殴り合いの勝敗を越えた結果をもたらそうとしていた。
「負のマテリアルが失われていけば、ハンターの皆さんの攻撃も通用するでしょう。
ですが、その前にチューダさんを助けてあげて下さい。トラブルで巨大化する事になりましたが、一応は今回の功労者です」
「そうだな。無事に助けられたなら、褒めてやらないとな」
「だったら、こいつらの相手も最後までやってやらないとな!」
ミリアは、大きく一歩踏み込んだ。
蜻蛉切の刃が武装巨人の首を捉え、大きく食い込んだ。
●
サイズが縮んでいくチューダとビックマー。
その大きさはハンター達の目から見ても段違いだ。それはビックマー自身も理解しているのだろう。
「……ちっ。そういう作戦かよ」
ビックマーも、部族会議の意図を汲み取ったようだ。
正負のマテリアルをぶつけてビックマーを弱体化させる。チューダを避けて通ればビックマーも弱体化はなかっただろう。
だが、ビックマーには正面から挑んでくる敵を避けて通る事は許されなかった。
それは怠惰の王たる義務ではなく、男として応えなければならないという矜持に他ならない。
「卑怯とは言わねぇ。こいつは歪虚と人間との戦争だ。見抜けなかった俺様が間抜けなだけだ。
だが、それ以上に……幻獣の王にしてやられたな」
その言葉と同時にチューダとビックマーは一気にサイズが小さくなる。
チューダは元のサイズに。
ビックマーは当初のサイズから四分の一程度の大きさとなった。
25メートル――それは、チューダが待ち望んだスイーツによってもぎ取った勝利である。
「よく頑張りましたねっ。帰ったら膝枕で桃をたくさん食べさせてあげますよ」
落下するチューダをウイヴルの上でキャッチするUisca。
既に殴られすぎて顔面が腫れ上がっているが、これも勝利の為の勲章と言えるだろう。
「やべぇな……一旦引くか。
だが、このままじゃ終わらせねぇ。次は意地でも叩き潰す。徹底的にな」
小さくなった体を揺らしながら、ビックマーは撤退していく。
ハンター達の尽力により、ビックマー撃退に成功した瞬間であった。
●
「奴らが役者として一枚上手だった。……くそっ」
ビックマーは小さくなった体を引き摺りながら、北へ進路を取った。
今までなら一跨ぎだった森も、今は森を体に沈めなければならない。それは屈辱な光景であった。
しかし、ビックマーはここで退けない理由がある。
「ここで倒れる訳にはいかねぇ。プライドを捨ててでも……俺様はあの城を潰さなきゃな」
ビックマーは弱りながらも覚悟を決めた。
今まで退治してきた連中は、もうここまで力を付けてきた。
侮る余裕は一切ない。こちらも捨て身で挑まなければ、やられるかもしれない。
――全力。
もう油断は許されない。
定めた目標は、必ず成し遂げる。
「悪ぃな、オーロラ。男はな、一度腹に決めた掟を違える事はできねぇんだ。
たとえ、傷付き倒れて……お前を泣かせる事になっても、やらなきゃならねぇ。
……分かってくれ」
●
「うわーーい! 御褒美でありますっ!」
戦いの後、チューダはハンター達が持っていたお菓子を平らげた後、Uiscaの膝の上で桃を食べさせてもらっている。
さっきまでサンドバックだった生物とは思えない。
「さすが、かわいい頂点に立つ王さまなのです! もふもふです!」
Uiscaもチューダの毛並みを思う存分堪能しているようだ。
「良かったですね。チューダさん。今日は頑張った御褒美ですよ」
「わーい、我輩への貢ぎ物であります!」
多くのお菓子を提供した奏音。
瞬く間にそれを食い尽くす辺りがチューダらしい。
だが、誰もが褒めるばかりではない。
「ふふ、酷な役回りをお願いする事になりお詫び致します。ですが、作戦の邪魔をしたチューダさんにも非はあります」
ヴェルナーはチューダに苦言を呈してみたものの、チューダには聞く素振りもない。
「勝てば官軍であります! ぷりちーな王へのお説教はノーセンキュウでありますよ」
辺境を危機に陥れた自覚など皆無のようだ。
呆れるヴェルナーの横でりるかは質問を投げかける。
「ヴェルナーさん、この後の……作戦は?」
「既にバタルトゥさんが準備に入っています。
最終防衛ライン。あのサイズになったビックマーならハンターさんの力を結集して倒せるはずです。
ですが……」
そこでヴェルナーは言葉を濁す。
ヴェルナーの脳裏に一抹の普段がよぎったからだ。
「ヴェルナーさん?」
「敵はビックマーだけでは無いと思います。りるかさん、十分に注意して下さい」
「どういう事だ? ビックマー以外って……あっ」
問いかけようしたミリアの脳裏にも、ある存在が浮かんだ。
それは先の戦いで姿を見せながら、今回の戦いで姿を見せなかった歪虚達。
青木燕太郎。
ブラッドリー。
彼らが如何なる動きを見せるかは分からない。だが、敵対となれば戦力は分割させる。ビックマーに戦力を集中できないのはかなり厄介だ。
「あいつら、やっぱ何か仕掛けてくるのか?」
「かもしれません。最終防衛ライン周辺の警戒を強化しますが……」
「分かってるって。奴らが出てくるようなら、俺達の出番だろ?」
リューは決戦に向けて気合いを入れる。
怠惰王と部族会議の最終決戦は、間もなく始まろうとしていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/25 20:58:21 |
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【相談卓】ぬいぐるみ大決戦! Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/08/29 12:03:26 |