ゲスト
(ka0000)
【空蒼】僕と世界の不機嫌な関係
マスター:ゆくなが
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
世界はそれでも日常というやつを忘れないらしい。
「合計で444円でーす」
4、し、死。
嫌な数字だな、と思ったが、僕はやる気を可能な限り削ぎつつ、それでもクレームを受けないくらいには誠実な声音で値段を告げた。
この辺りの街はVOIDによる被害が少なく、人々は比較的今までと変わらない生活を営んでいた。
僕もまたその1人で、「店が壊れないうちは営業を続行する」という店長の方針に従い、レジに立っているコンビニ店員だった。
世界はもう直ぐ終わるのかもしれない。
ここでは薄氷の日常が続いていた。
それでも変わったことはあって、イクシード・アプリというやつをインストールして強くなった人たちが自警団を結成し、軍隊で使っているようなゴツい四駆に乗って街をパトロールしていた。
僕は客にお釣りを手渡して、待機列にいる次の客に声をかける。
機械的にバーコードを読み込んでいく。
ピッ、ピッ、ピッという音がちょっと、心音みたいだった。
僕の燻っている心音みたいだった。
もしも、世界が終わるなら、僕だって活躍できるのに。
昔はそんなことを思っていた。
でも、違った。
いまこの世界は危機に陥っている。けれど僕はコンビニ店員だった。
街を守ろうと必死でパトロールしている奴をどこかで笑っている、嫌な奴だった。
イクシード・アプリを使えば変われる。それは知っている。
でも、僕は持ち前の猜疑心に囚われて、その事実を素直に受け止めることができなかった。
ポケットに入れているスマートフォンがずしりと重い。
まるで、臆病者の僕を責めているみたいだった。
わかってるんだよ。僕だって強くなって、あの四駆を乗りましわしている連中の仲間に加わって、かっこよくVOIDを倒して、それで、好きな人に告白するんだ。
もしくは戦って、かっこよく死んで、好きなあの子に泣いてもらうんだ。
そんなこと考えて、考えるだけ考えて、結局僕は何もしなかった。
時間は残酷に過ぎていく。そんな青春の勘違いを背負ったまま、僕は27歳になっていた。
「合計で666円でーす」
666。獣の数字。6番目のアルファベットはF。ファムファタールのF。不甲斐ない僕。
客は1000円札を払ったので、僕はレジスターからお釣りを取り出した。
そしてお釣りを相手に渡そうとした時、爆音が聞こえ、店の道路に面した窓ガラスがきらきら破片になって店の内部へ吹き飛んだ。
「……お釣りの334円です」
僕はきっと、混乱していたのだろう。だからこそ日常を続けようとした。
しかし、客は、甲高い悲鳴をあげて買ったはずの商品すら置いて逃げ出してしまった。
続いて、銃声が聞こえ始める。
店の面した通りに四駆が何台も駆けつけてきて、そこから降りた人たちが、どこから手に入れたか知らないがライフルや鉄パイプを手に、クラゲのようなVOIDと戦っていた。
その余波で、道路がえぐれる、爆風が店内を荒らす。
僕は行き場を失ったお釣りをどうしようか考えていた。
四駆で駆けつけた自警団は、武道なり護身術なりの訓練を受けていたのか、順当にVOIDを倒していった。
僕はそれをぼんやり見て、ああ、僕だったらもっと上手にやれるのに、と考えていた。
でも、僕の体は動かなかった。
お釣りを握りしめて、動けなかった。
いよいよ、彼らがVOIDを殲滅しきるかと思った時、天空から眩い光が地上を焼き尽くした。
あまりの眩しさに、僕は床にうずくまった。
恐る恐る、外の状況を確認する。
道路には、光の輪を冠した、白銀の鎧を着た騎士が降り立っていた。
僕は即座に、先ほどの光はあの騎士によるものだと確信した。
そして、道路の方をよく見てみると、地形が変わっていた。
光が着弾したと思われる場所はクレーターとなり、アスファルトを深くえぐっている。
そして先ほどまでいた、VOIDの姿はどこにも見えず、戦っていた人間たちの数も少なくなっていた。
あの光にやられたに違いない。
騎士は、ゆっくり獲物を見定めるように人間たちに向き合うと、再び、目がくらむばかりの光線を放った。
それは戦っていた人たちを貫いて、何人かを文字通り消し炭にした。
僕が命の危機を感じたのはことの時だった。
僕はレジ台を背にして、息を殺すようにした。
その間にも眩い光は何度も照射され、人々の悲鳴が聞こえた。
確実に人が死んでいる。あれは死の光線だ。
さっきまであんなに勇敢に戦っていた人たちがなすすべもなく灰に変えられている。
人々を守って戦ったのに、よくわからない何かに殺されている。
「助けなくちゃ」
こんなのは間違っている。そう思った。
けど、僕はどうすればいい?
僕はポケットからスマートフォンを取り出した。
イクシード・アプリをダウンロードしようとして、やめた。
戦うのは怖い。そう思った。
考えただけで指が震えた。
無理だ。臆病者の僕には戦えない。彼らを救うことはできない。
どうすれば、どうすれば、どうすれば……!?
また光った。誰かが死んだ。
僕は戦えない。なら、戦える奴に来てもらうしかない。
僕は震える指を理性で押さえつけて、ある番号を調べ、すぐに発信する。
繋がるまでの時間が、永遠にも思えた。早く出てくれ……。
「はい、こちらハンターオフィス秋葉原支部……」
僕は挨拶もわすれて、すぐに用件を話す。
「助けてくれ、人が、騎士みたいなやつに襲われてるんだ」
これが僕にできる、最善のこと。
臆病者の僕にできる最善のことと信じながら。
握りしめられたお釣りは体温にすっかり染まっていた。
「合計で444円でーす」
4、し、死。
嫌な数字だな、と思ったが、僕はやる気を可能な限り削ぎつつ、それでもクレームを受けないくらいには誠実な声音で値段を告げた。
この辺りの街はVOIDによる被害が少なく、人々は比較的今までと変わらない生活を営んでいた。
僕もまたその1人で、「店が壊れないうちは営業を続行する」という店長の方針に従い、レジに立っているコンビニ店員だった。
世界はもう直ぐ終わるのかもしれない。
ここでは薄氷の日常が続いていた。
それでも変わったことはあって、イクシード・アプリというやつをインストールして強くなった人たちが自警団を結成し、軍隊で使っているようなゴツい四駆に乗って街をパトロールしていた。
僕は客にお釣りを手渡して、待機列にいる次の客に声をかける。
機械的にバーコードを読み込んでいく。
ピッ、ピッ、ピッという音がちょっと、心音みたいだった。
僕の燻っている心音みたいだった。
もしも、世界が終わるなら、僕だって活躍できるのに。
昔はそんなことを思っていた。
でも、違った。
いまこの世界は危機に陥っている。けれど僕はコンビニ店員だった。
街を守ろうと必死でパトロールしている奴をどこかで笑っている、嫌な奴だった。
イクシード・アプリを使えば変われる。それは知っている。
でも、僕は持ち前の猜疑心に囚われて、その事実を素直に受け止めることができなかった。
ポケットに入れているスマートフォンがずしりと重い。
まるで、臆病者の僕を責めているみたいだった。
わかってるんだよ。僕だって強くなって、あの四駆を乗りましわしている連中の仲間に加わって、かっこよくVOIDを倒して、それで、好きな人に告白するんだ。
もしくは戦って、かっこよく死んで、好きなあの子に泣いてもらうんだ。
そんなこと考えて、考えるだけ考えて、結局僕は何もしなかった。
時間は残酷に過ぎていく。そんな青春の勘違いを背負ったまま、僕は27歳になっていた。
「合計で666円でーす」
666。獣の数字。6番目のアルファベットはF。ファムファタールのF。不甲斐ない僕。
客は1000円札を払ったので、僕はレジスターからお釣りを取り出した。
そしてお釣りを相手に渡そうとした時、爆音が聞こえ、店の道路に面した窓ガラスがきらきら破片になって店の内部へ吹き飛んだ。
「……お釣りの334円です」
僕はきっと、混乱していたのだろう。だからこそ日常を続けようとした。
しかし、客は、甲高い悲鳴をあげて買ったはずの商品すら置いて逃げ出してしまった。
続いて、銃声が聞こえ始める。
店の面した通りに四駆が何台も駆けつけてきて、そこから降りた人たちが、どこから手に入れたか知らないがライフルや鉄パイプを手に、クラゲのようなVOIDと戦っていた。
その余波で、道路がえぐれる、爆風が店内を荒らす。
僕は行き場を失ったお釣りをどうしようか考えていた。
四駆で駆けつけた自警団は、武道なり護身術なりの訓練を受けていたのか、順当にVOIDを倒していった。
僕はそれをぼんやり見て、ああ、僕だったらもっと上手にやれるのに、と考えていた。
でも、僕の体は動かなかった。
お釣りを握りしめて、動けなかった。
いよいよ、彼らがVOIDを殲滅しきるかと思った時、天空から眩い光が地上を焼き尽くした。
あまりの眩しさに、僕は床にうずくまった。
恐る恐る、外の状況を確認する。
道路には、光の輪を冠した、白銀の鎧を着た騎士が降り立っていた。
僕は即座に、先ほどの光はあの騎士によるものだと確信した。
そして、道路の方をよく見てみると、地形が変わっていた。
光が着弾したと思われる場所はクレーターとなり、アスファルトを深くえぐっている。
そして先ほどまでいた、VOIDの姿はどこにも見えず、戦っていた人間たちの数も少なくなっていた。
あの光にやられたに違いない。
騎士は、ゆっくり獲物を見定めるように人間たちに向き合うと、再び、目がくらむばかりの光線を放った。
それは戦っていた人たちを貫いて、何人かを文字通り消し炭にした。
僕が命の危機を感じたのはことの時だった。
僕はレジ台を背にして、息を殺すようにした。
その間にも眩い光は何度も照射され、人々の悲鳴が聞こえた。
確実に人が死んでいる。あれは死の光線だ。
さっきまであんなに勇敢に戦っていた人たちがなすすべもなく灰に変えられている。
人々を守って戦ったのに、よくわからない何かに殺されている。
「助けなくちゃ」
こんなのは間違っている。そう思った。
けど、僕はどうすればいい?
僕はポケットからスマートフォンを取り出した。
イクシード・アプリをダウンロードしようとして、やめた。
戦うのは怖い。そう思った。
考えただけで指が震えた。
無理だ。臆病者の僕には戦えない。彼らを救うことはできない。
どうすれば、どうすれば、どうすれば……!?
また光った。誰かが死んだ。
僕は戦えない。なら、戦える奴に来てもらうしかない。
僕は震える指を理性で押さえつけて、ある番号を調べ、すぐに発信する。
繋がるまでの時間が、永遠にも思えた。早く出てくれ……。
「はい、こちらハンターオフィス秋葉原支部……」
僕は挨拶もわすれて、すぐに用件を話す。
「助けてくれ、人が、騎士みたいなやつに襲われてるんだ」
これが僕にできる、最善のこと。
臆病者の僕にできる最善のことと信じながら。
握りしめられたお釣りは体温にすっかり染まっていた。
リプレイ本文
仲間が殺された。
あいつは──敵だ。
自警団の生き残った3人はそう考えた。
ひとりは、手にした鉄パイプを振りかぶって、使徒へと振り下ろす。
だが、それは使徒の手にした盾で、軽くあしらわれてしまう。
男は突進した勢いでつんのめり、地面に倒れた。
でも、それでも──と、使徒に振り返ったその時。
きらめく使徒の剣が今にも自分に振り下ろされようとしていた。
ああ──死ぬのか。
あっけなく、男はそう思った。
流れ出す走馬灯。
スローモーションに見える現実。
天使のような外見の使徒。
残酷な、白刃。
そして──聞こえてくるのは、地面から響いて来るある音だった。
映画の中で、何回か聞いたことのある音。
これは──馬の蹄の音だ。
そう確信した時、現実は元の速さで動き出す。
剣と剣がぶつかり合う、甲高い金属音が、道路に響き渡った。
「遅くなってすまんな!」
それは、セラフに跨ったエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が使徒の攻撃を生存剣「リヴァティ・マーセ」で受け止めた音だった。
使徒は、予想外のハンターの登場に一歩下がろうとする。
しかし、その足に重力波の紫色の鎖が絡みつき、移動を困難にした。
ルナ・レンフィールド(ka1565)が集束魔で対象を限定したグラビティフォールだ。
「大丈夫ですか? ハンターズソサエティの者です」
倒れている男に駆け寄って、ルナが手を差し出す。
「助けに来てくれたのか……?」
「はい、通報がありましたので。頑張られましたね、後は私達に任せてくださいね」
「こっからは選手交代だ、俺達の後ろに下がれ!」
エヴァンスが退避を促す。
「いや、俺たちも一緒に戦う!」
しかし自警団はそうごねた。
「戦う気概は買うが、今だけは力を抑えて騎士もどきを刺激しないようにしな」
「下がってなさい。もっと仲間がいたのにこの惨状でしょう? つまりあいつに比べて貴方たちはあまりにも弱い、戦うだけ無駄よ」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)がエヴァンスの言葉に続いた。
ルナは生き残った自警団の3人を見て、怪我がないか確認する。彼等は疲労して、軽傷があったが、重傷では無い。
「おい、今狙われたおまえ」
ルナの手を取って立ち上がった男に対し、エヴァンスはあることを尋ねた。
「アプリをインストールした時、スマホ使っただろ? 今、持ってるか?」
「いや、今日は家に忘れてしまって……」
エヴァンスが気にかけているのは、負のマテリアルがアプリ契約者とアプリをインストールした端末、どちらから溢れているのか、と言うことだ。
しかし今、使徒の攻撃の対象となった男はスマートフォンを携帯していなかった。
つまり、負のマテリアルの発生源はアプリ契約者自身ということになる。
「なるほど。ならば、こういうのはどうだ?」
そこで、テノール(ka5676)が考えたのは、負のマテリアルを吸着したW型アブソーバーに使徒は反応するのか、というものだ。
テノールはW型アブソーバーを使徒の気を引くように、投げた。
しかし、使徒はそれには全く反応しなかった。
W型アブソーバーは負のマテリアルを吸着してはいるが、それを発しているわけではないのだ。
「つまり……あの使徒とかいう奴を止めるには、アレを撃破しなくちゃいけないってこと?」
アルスレーテが言う。
「ところで相手アレでしょ? リアルブルーの精霊でしょ? 大丈夫? 精霊と戦って、私のとこの精霊とかリアルブルーの大精霊とかヘソ曲げない?」
「覚醒者としては、精霊と仲違いはしたくはないんだが……まあ今回はこれが仕事だ、戦いに集中しよう」
テノールはアルスレーテの言葉にそうこたえた。
「使徒様は『誰』の高弟なのやら」
戦場に着くまでに、アサルトライフルへ特殊侵食弾「アポピス」をリロードしているカイン・シュミート(ka6967)が呟く。
「俺の獲物銃なんで接近されると弱ぇんだわ。フォローすると思って下がってくれねぇか」
「なんにせよ、護ることが依頼なら、達成するだけだけどね!」
夢路 まよい(ka1328)が無邪気に言った。
自警団は少なからず、武道等の経験がある者達だ。だから、ハンター達を見て即座に確信した。
──場数が違いすぎる。
「……わかった、君達の言う通りにしよう」
自警団は大人しく、エヴァンスの後ろに集まった。
「私達が、きっと守ります──さあ、奏でましょう」
ルナがリュートで夜想曲『蒼月光』を奏ではじめる。
穏やかなリズムが味方のマテリアルを活性化させる。
そして、その時──使徒の姿が消えた。
光速にも近い速さで移動する、使徒のスキルだった。
使徒はまだルナのグラビティフォールによる足枷がついているが、それでも殲滅すべき対象──自警団に迫るには十分だった。
しかし、それに追いつく者達がいた。
「人間急ぎすぎたっていい事ないわよ、少し落ち着きなさいな。私も貴方も人間じゃないけど」
ひとりはアルスレーテ。
「自分だけが速く動けるとは思わないことだ」
もうひとりはテノールだった。
明鏡止水による追撃である。
移動後、即座にアルスレーテが鉄扇「愛しきミゼリア」で痛快な一撃を叩き込む。
「これで完全に敵対しちゃったわね……まあいいか、精霊にヘソ曲げられたら故郷帰ろ」
さらにテノールの拳も使徒を攻撃する。
だが、両者の攻撃は使徒を行動不能にするには至らない。
使徒がマテリアルを収束させる。それは眩い光となって自警団を焼き焦がす──かに思えた。
「させないよ!」
まよいがカウンターマジックでその魔法を打ち消したのだ。
「今度はこっちからいっちゃうよ!」
まよいが集中する。
そして編み込まれるのは、アブソリュートゼロ。
降り注ぐ2撃の魔法を避けるのは困難だ。
即座に使徒は防御のために、光盾を発動するも、今度はルナのカウンターマジックに相殺されてしまう。
使徒の鎧の輝きが、まよいの魔法でくすんでいく。
さらに、マテリアルの奔流は使徒の体に巻きついて、行動を阻害する。
「よし、今のうちに畳みかけよー!」
その言葉は無邪気であると同時にどこか残酷だった。
「辛そうね? まあ、だからと言って手加減はしないけど」
アルスレーテは九想乱麻により、マテリアルの乱れを利用し、敵の意識の外から災いの娘を確実に命中させる。
意識を刈り取る攻撃を直撃させられて、ふらつく使徒へ、今度は青龍の牙が来襲する。
テノールの青龍翔咬波だ。
辛うじて、それを盾で防御するが、その途端、使徒の盾は急に重くなった。
「防御されると面倒だからな。封じさせてもらうぞ」
そう、今の攻撃にはソードブレイカーの呪いが混ぜ込まれていたのだ。
「くらえ!」
空気を引き裂く音がした。
剣が振り抜かれると同時に、琥珀色のマテリアルが残り火のように宙を舞い、使徒に叩きつけられる。
エヴァンスの残火衝天である。
カインは自警団にヒールやレジストを施していた。
自警団を護衛・フォローするようにカインは動いていた。
万が一、彼等が攻撃に加勢した場合、味方のハンターの邪魔になることだってある。それを阻止するためでもあった。
──まあ、それは杞憂に終わりそうだな。
カインは思う。
自警団は、なまじ武道等の経験があるために実力の差を認識しており、ハンター達の言う通りに行動していた。側にカインやルナがいてくれることは、強力な敵を前にした自警団にとって心強かったころだろう。
また、負のマテリアルを発している対象に回復・補助スキルが効くかどうか疑問だったが、スキルの効果対象の『味方』というのは、スキル使用者が味方と思っているかどうかうよるものなので、相手が歪虚であろうと使用に問題のないことは出発前に確認済みだ。
そして、再び使徒が姿を消し、光速で移動する。
だが──やはりアルスレーテとテノールが追いついた。
「今度こそ、その動き……止めるわよ?」
追撃が、使徒に打ち込まれる。
まよいのアブソリュートゼロによる行動阻害で使徒の抵抗も半減している。
だから、今度ばかりは使徒も動きを封じられた。
即座に攻勢に移るハンター達。
「もう一度、いくよ」
練り上げられるまよいのマテリアル。
再度放たれるアブソリュートゼロは使徒の鎧に罅を入れた。ぱらぱらとこぼれる破片は、地面に落ちる前に光となって消えていく。
続いて、ルナのグラビティフォールが使徒を圧壊させる。
使徒が移動したことにより、エヴァンスも陣形を変え、自警団が使徒の攻撃に巻き込まれない形をとる。
おそらく、この時だ。
使徒がハンターを明確な敵として捉えたのは。
明鏡止水による行動不能のバッドステータスを解除した使徒は、アルスレーテとテノールを当面の敵として、排除することにしたらしい。
マテリアルが刃に込められ、舞うように、周囲の敵を切り刻む。
テノールが拳を引いた。
そして、迫り来る使徒の剣に合わせるように、その拳を打ち出した。
剣は弾き返され、思いもよらぬ反撃に、使徒の足がもつれる。
練気「龍鱗甲」による反撃だった。
こうして、使徒が満足な攻撃もできぬまま、手番はハンター達になる。
マテリアルの乱れを読み取って、的確な打撃を浴びせるアルスレーテ。累積したバッドステータスの分だけ、九想乱麻は追加のダメージを与える。
アブソリュートゼロを使い切ったまよいは攻撃を使用回数の多いマジックアローへと切り替えて、戦闘を継続する。
ルナは夜想曲『蒼月光』を奏でつつ、集束させたグラビティフォールを使徒へと放つ。
カインの弾丸が剣を狙撃する。
行動阻害によって使徒は、満足に回避することも出来ない。ソードブレイクにより盾もあまり機能しない。
だが、それでも、目の前には負のマテリアルを纏ったものがいる。それを捨て置ける使徒ではない。
使徒は、テノールの練気「龍鱗甲」を避けるためだろう、光刃による攻撃ではなくただの斬撃でアルスレーテに斬りかかる。
アルスレーテは鉄扇を広げて盾として用いるが、しかし、完全には攻撃を受け止めきれず、肩から血が噴出した。
「その光輪、なにか弱点だったりしないもんかね」
銃声が轟いた。
カインが使徒の光輪を狙うが、それは出来ず、弾丸は頭へ飛来する。
使徒は頭を盾でかばい、ダメージを軽減させた。
そして──次の瞬間だった。
使徒は、ついにアブソリュートゼロによる行動阻害と、グラビティフォールによる移動阻害を振り切ったのだ。
だが、使徒の体力もぎりぎりだった。
だから、なのか。
使徒が攻撃の目標に選んだのはアルスレーテでもテノールでもなく、エヴァンスの後ろにいる自警団だった。
最後に、せめてひとりでも道連れにする魂胆なのかもしれない。
使徒の表情は兜に覆われていてわからない。いや、そもそも顔があるのかどうかもわからない。
光速で自警団への距離を一気につめる使徒。
やはりアルスレーテとテノールが明鏡止水で追いかけるも、追撃は強度が足らず、行動不能には出来ない。
狙われた自警団のひとりが恐怖に顔を歪ませる。
きらめく白刃がアプリ契約者に当たると思った刹那──それは軌道を変えた。
「やらせねぇよ!」
エヴァンスが発動していたガウスジェイルによる攻撃の引き寄せだ。
しかし、使徒の剣撃はこの後に及んで一層鋭かった。
「自由にはさせねぇさ」
カインがエヴァンスに防御障壁を展開する
光の障壁は使徒の攻撃を受けて、ガラスのように砕けた。それでも防御を許さない速度で振り抜かれる一撃はエヴァンスの肩から胴にかけて深く斬りつけた。
地面に鮮血が溢れる。
でも──エヴァンスは笑っていた。
獰猛な笑みを浮かべていた。
「重力に氷、その上俺の剣戟まで味わいたいなんざ贅沢者だぜてめぇ!」
使徒は剣を振り抜いたままの体勢だ。そして、防御のための盾は、最前のカインの銃撃を防御したままで、頭上に掲げられている。
紡がれるのは逆転の一手。
それだけではない。エヴァンスのマテリアルが一層昂ぶっている。
──痛撃の咆哮。
自らの命を喰らわせることで、カウンターにオーラを纏わせる技巧。
ふたつのスキルによって上乗せされた威力は凄まじいものになっていた。
使徒はとっさに光盾を練る。
「今だ、やつの魔術を消せ!」
「オッケー、エヴァンス。この時を待っていたよ!」
だが、それはまよいのカウンターマジックにかき消され、光盾は砕けた。
「これで──終わりだ!!」
エヴァンスの剣が使徒を斬り上げる。
剣と鎧がぶつかる。
すでに罅の入っていた鎧は限界だった。エヴァンスの斬撃によって、腰から胴にかけて両断されていく。
断面から、輝くマテリアルが血飛沫のように噴出する。
そして、使徒は鎧の関節からバラバラになり、やはりそれらもまた、光に変換されて、完全に空気の中に消えていったのだった。
「これで、依頼完了、ですね」
ルナが言った。
無事に使徒は退治された。
自警団の面々にも新たな傷はどこにもない。
ハンター達は、こうして依頼を終えたのだった。
覚醒状態を解いて、蒼氷色から黒の瞳に戻ったテノールが自警団に向かってあることを伝えた。
「武道等格闘技の経験があるように見えるから言おうか」
自警団は大人しくテノールの話を聴いている。
「格闘技を齧った程度の素人と軍人などの戦闘プロが戦って勝てると思うか? 自殺願望が無ければあれには手を出さない方がいいな。情報がまだないっていうのもあるが、あいつらは、俺らハンターでも危険な相手だ。少なくともそれが分からない程度なら死ぬだけだろうな」
自警団はテノールの言葉を心に刻んだ。実力の差を知ったからこそ、響く言葉だった。
「それじゃ、怪我人は回復するわよ」
アルスレーテは母なるミゼリアで傷ついた者を癒していく。
こうして、戦場に仮初めの日常が戻ったのだった。
●
戦場から音は消えていた。
戦闘は終わったのだろうか?
僕はそろそろとレジ台から顔を出すと、最初に飛び込んできたのは茶髪に赤い瞳で大きな剣を背負った男だった。
「よう。おまえがオフィスに連絡を入れてくれたんだろ?」
僕は彼がハンターだと確信した。
「あんな状況で救援を出すたぁナイスガッツだ」
男は言う。
「もし俺達が頼りになると欠片でも思ったなら、ひとつだけ約束してくれ。あの怪しいアプリには頼らず、次も必ずハンターを呼べ。絶対に駆けつけてやる」
男は自信に満ちた笑顔を浮かべる。
それじゃあな、と男は手を振って去っていった。
戦場には生き残ったらしい自警団がいる。
──ああ、
──僕にも出来たことがあったのだ。
相変わらず、僕と世界の関係は不機嫌だ。
けれど、やれることはあった。
僕はこの世界に、この僕のまま、もうちょっと関わっていく気になったのだった。
あいつは──敵だ。
自警団の生き残った3人はそう考えた。
ひとりは、手にした鉄パイプを振りかぶって、使徒へと振り下ろす。
だが、それは使徒の手にした盾で、軽くあしらわれてしまう。
男は突進した勢いでつんのめり、地面に倒れた。
でも、それでも──と、使徒に振り返ったその時。
きらめく使徒の剣が今にも自分に振り下ろされようとしていた。
ああ──死ぬのか。
あっけなく、男はそう思った。
流れ出す走馬灯。
スローモーションに見える現実。
天使のような外見の使徒。
残酷な、白刃。
そして──聞こえてくるのは、地面から響いて来るある音だった。
映画の中で、何回か聞いたことのある音。
これは──馬の蹄の音だ。
そう確信した時、現実は元の速さで動き出す。
剣と剣がぶつかり合う、甲高い金属音が、道路に響き渡った。
「遅くなってすまんな!」
それは、セラフに跨ったエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が使徒の攻撃を生存剣「リヴァティ・マーセ」で受け止めた音だった。
使徒は、予想外のハンターの登場に一歩下がろうとする。
しかし、その足に重力波の紫色の鎖が絡みつき、移動を困難にした。
ルナ・レンフィールド(ka1565)が集束魔で対象を限定したグラビティフォールだ。
「大丈夫ですか? ハンターズソサエティの者です」
倒れている男に駆け寄って、ルナが手を差し出す。
「助けに来てくれたのか……?」
「はい、通報がありましたので。頑張られましたね、後は私達に任せてくださいね」
「こっからは選手交代だ、俺達の後ろに下がれ!」
エヴァンスが退避を促す。
「いや、俺たちも一緒に戦う!」
しかし自警団はそうごねた。
「戦う気概は買うが、今だけは力を抑えて騎士もどきを刺激しないようにしな」
「下がってなさい。もっと仲間がいたのにこの惨状でしょう? つまりあいつに比べて貴方たちはあまりにも弱い、戦うだけ無駄よ」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)がエヴァンスの言葉に続いた。
ルナは生き残った自警団の3人を見て、怪我がないか確認する。彼等は疲労して、軽傷があったが、重傷では無い。
「おい、今狙われたおまえ」
ルナの手を取って立ち上がった男に対し、エヴァンスはあることを尋ねた。
「アプリをインストールした時、スマホ使っただろ? 今、持ってるか?」
「いや、今日は家に忘れてしまって……」
エヴァンスが気にかけているのは、負のマテリアルがアプリ契約者とアプリをインストールした端末、どちらから溢れているのか、と言うことだ。
しかし今、使徒の攻撃の対象となった男はスマートフォンを携帯していなかった。
つまり、負のマテリアルの発生源はアプリ契約者自身ということになる。
「なるほど。ならば、こういうのはどうだ?」
そこで、テノール(ka5676)が考えたのは、負のマテリアルを吸着したW型アブソーバーに使徒は反応するのか、というものだ。
テノールはW型アブソーバーを使徒の気を引くように、投げた。
しかし、使徒はそれには全く反応しなかった。
W型アブソーバーは負のマテリアルを吸着してはいるが、それを発しているわけではないのだ。
「つまり……あの使徒とかいう奴を止めるには、アレを撃破しなくちゃいけないってこと?」
アルスレーテが言う。
「ところで相手アレでしょ? リアルブルーの精霊でしょ? 大丈夫? 精霊と戦って、私のとこの精霊とかリアルブルーの大精霊とかヘソ曲げない?」
「覚醒者としては、精霊と仲違いはしたくはないんだが……まあ今回はこれが仕事だ、戦いに集中しよう」
テノールはアルスレーテの言葉にそうこたえた。
「使徒様は『誰』の高弟なのやら」
戦場に着くまでに、アサルトライフルへ特殊侵食弾「アポピス」をリロードしているカイン・シュミート(ka6967)が呟く。
「俺の獲物銃なんで接近されると弱ぇんだわ。フォローすると思って下がってくれねぇか」
「なんにせよ、護ることが依頼なら、達成するだけだけどね!」
夢路 まよい(ka1328)が無邪気に言った。
自警団は少なからず、武道等の経験がある者達だ。だから、ハンター達を見て即座に確信した。
──場数が違いすぎる。
「……わかった、君達の言う通りにしよう」
自警団は大人しく、エヴァンスの後ろに集まった。
「私達が、きっと守ります──さあ、奏でましょう」
ルナがリュートで夜想曲『蒼月光』を奏ではじめる。
穏やかなリズムが味方のマテリアルを活性化させる。
そして、その時──使徒の姿が消えた。
光速にも近い速さで移動する、使徒のスキルだった。
使徒はまだルナのグラビティフォールによる足枷がついているが、それでも殲滅すべき対象──自警団に迫るには十分だった。
しかし、それに追いつく者達がいた。
「人間急ぎすぎたっていい事ないわよ、少し落ち着きなさいな。私も貴方も人間じゃないけど」
ひとりはアルスレーテ。
「自分だけが速く動けるとは思わないことだ」
もうひとりはテノールだった。
明鏡止水による追撃である。
移動後、即座にアルスレーテが鉄扇「愛しきミゼリア」で痛快な一撃を叩き込む。
「これで完全に敵対しちゃったわね……まあいいか、精霊にヘソ曲げられたら故郷帰ろ」
さらにテノールの拳も使徒を攻撃する。
だが、両者の攻撃は使徒を行動不能にするには至らない。
使徒がマテリアルを収束させる。それは眩い光となって自警団を焼き焦がす──かに思えた。
「させないよ!」
まよいがカウンターマジックでその魔法を打ち消したのだ。
「今度はこっちからいっちゃうよ!」
まよいが集中する。
そして編み込まれるのは、アブソリュートゼロ。
降り注ぐ2撃の魔法を避けるのは困難だ。
即座に使徒は防御のために、光盾を発動するも、今度はルナのカウンターマジックに相殺されてしまう。
使徒の鎧の輝きが、まよいの魔法でくすんでいく。
さらに、マテリアルの奔流は使徒の体に巻きついて、行動を阻害する。
「よし、今のうちに畳みかけよー!」
その言葉は無邪気であると同時にどこか残酷だった。
「辛そうね? まあ、だからと言って手加減はしないけど」
アルスレーテは九想乱麻により、マテリアルの乱れを利用し、敵の意識の外から災いの娘を確実に命中させる。
意識を刈り取る攻撃を直撃させられて、ふらつく使徒へ、今度は青龍の牙が来襲する。
テノールの青龍翔咬波だ。
辛うじて、それを盾で防御するが、その途端、使徒の盾は急に重くなった。
「防御されると面倒だからな。封じさせてもらうぞ」
そう、今の攻撃にはソードブレイカーの呪いが混ぜ込まれていたのだ。
「くらえ!」
空気を引き裂く音がした。
剣が振り抜かれると同時に、琥珀色のマテリアルが残り火のように宙を舞い、使徒に叩きつけられる。
エヴァンスの残火衝天である。
カインは自警団にヒールやレジストを施していた。
自警団を護衛・フォローするようにカインは動いていた。
万が一、彼等が攻撃に加勢した場合、味方のハンターの邪魔になることだってある。それを阻止するためでもあった。
──まあ、それは杞憂に終わりそうだな。
カインは思う。
自警団は、なまじ武道等の経験があるために実力の差を認識しており、ハンター達の言う通りに行動していた。側にカインやルナがいてくれることは、強力な敵を前にした自警団にとって心強かったころだろう。
また、負のマテリアルを発している対象に回復・補助スキルが効くかどうか疑問だったが、スキルの効果対象の『味方』というのは、スキル使用者が味方と思っているかどうかうよるものなので、相手が歪虚であろうと使用に問題のないことは出発前に確認済みだ。
そして、再び使徒が姿を消し、光速で移動する。
だが──やはりアルスレーテとテノールが追いついた。
「今度こそ、その動き……止めるわよ?」
追撃が、使徒に打ち込まれる。
まよいのアブソリュートゼロによる行動阻害で使徒の抵抗も半減している。
だから、今度ばかりは使徒も動きを封じられた。
即座に攻勢に移るハンター達。
「もう一度、いくよ」
練り上げられるまよいのマテリアル。
再度放たれるアブソリュートゼロは使徒の鎧に罅を入れた。ぱらぱらとこぼれる破片は、地面に落ちる前に光となって消えていく。
続いて、ルナのグラビティフォールが使徒を圧壊させる。
使徒が移動したことにより、エヴァンスも陣形を変え、自警団が使徒の攻撃に巻き込まれない形をとる。
おそらく、この時だ。
使徒がハンターを明確な敵として捉えたのは。
明鏡止水による行動不能のバッドステータスを解除した使徒は、アルスレーテとテノールを当面の敵として、排除することにしたらしい。
マテリアルが刃に込められ、舞うように、周囲の敵を切り刻む。
テノールが拳を引いた。
そして、迫り来る使徒の剣に合わせるように、その拳を打ち出した。
剣は弾き返され、思いもよらぬ反撃に、使徒の足がもつれる。
練気「龍鱗甲」による反撃だった。
こうして、使徒が満足な攻撃もできぬまま、手番はハンター達になる。
マテリアルの乱れを読み取って、的確な打撃を浴びせるアルスレーテ。累積したバッドステータスの分だけ、九想乱麻は追加のダメージを与える。
アブソリュートゼロを使い切ったまよいは攻撃を使用回数の多いマジックアローへと切り替えて、戦闘を継続する。
ルナは夜想曲『蒼月光』を奏でつつ、集束させたグラビティフォールを使徒へと放つ。
カインの弾丸が剣を狙撃する。
行動阻害によって使徒は、満足に回避することも出来ない。ソードブレイクにより盾もあまり機能しない。
だが、それでも、目の前には負のマテリアルを纏ったものがいる。それを捨て置ける使徒ではない。
使徒は、テノールの練気「龍鱗甲」を避けるためだろう、光刃による攻撃ではなくただの斬撃でアルスレーテに斬りかかる。
アルスレーテは鉄扇を広げて盾として用いるが、しかし、完全には攻撃を受け止めきれず、肩から血が噴出した。
「その光輪、なにか弱点だったりしないもんかね」
銃声が轟いた。
カインが使徒の光輪を狙うが、それは出来ず、弾丸は頭へ飛来する。
使徒は頭を盾でかばい、ダメージを軽減させた。
そして──次の瞬間だった。
使徒は、ついにアブソリュートゼロによる行動阻害と、グラビティフォールによる移動阻害を振り切ったのだ。
だが、使徒の体力もぎりぎりだった。
だから、なのか。
使徒が攻撃の目標に選んだのはアルスレーテでもテノールでもなく、エヴァンスの後ろにいる自警団だった。
最後に、せめてひとりでも道連れにする魂胆なのかもしれない。
使徒の表情は兜に覆われていてわからない。いや、そもそも顔があるのかどうかもわからない。
光速で自警団への距離を一気につめる使徒。
やはりアルスレーテとテノールが明鏡止水で追いかけるも、追撃は強度が足らず、行動不能には出来ない。
狙われた自警団のひとりが恐怖に顔を歪ませる。
きらめく白刃がアプリ契約者に当たると思った刹那──それは軌道を変えた。
「やらせねぇよ!」
エヴァンスが発動していたガウスジェイルによる攻撃の引き寄せだ。
しかし、使徒の剣撃はこの後に及んで一層鋭かった。
「自由にはさせねぇさ」
カインがエヴァンスに防御障壁を展開する
光の障壁は使徒の攻撃を受けて、ガラスのように砕けた。それでも防御を許さない速度で振り抜かれる一撃はエヴァンスの肩から胴にかけて深く斬りつけた。
地面に鮮血が溢れる。
でも──エヴァンスは笑っていた。
獰猛な笑みを浮かべていた。
「重力に氷、その上俺の剣戟まで味わいたいなんざ贅沢者だぜてめぇ!」
使徒は剣を振り抜いたままの体勢だ。そして、防御のための盾は、最前のカインの銃撃を防御したままで、頭上に掲げられている。
紡がれるのは逆転の一手。
それだけではない。エヴァンスのマテリアルが一層昂ぶっている。
──痛撃の咆哮。
自らの命を喰らわせることで、カウンターにオーラを纏わせる技巧。
ふたつのスキルによって上乗せされた威力は凄まじいものになっていた。
使徒はとっさに光盾を練る。
「今だ、やつの魔術を消せ!」
「オッケー、エヴァンス。この時を待っていたよ!」
だが、それはまよいのカウンターマジックにかき消され、光盾は砕けた。
「これで──終わりだ!!」
エヴァンスの剣が使徒を斬り上げる。
剣と鎧がぶつかる。
すでに罅の入っていた鎧は限界だった。エヴァンスの斬撃によって、腰から胴にかけて両断されていく。
断面から、輝くマテリアルが血飛沫のように噴出する。
そして、使徒は鎧の関節からバラバラになり、やはりそれらもまた、光に変換されて、完全に空気の中に消えていったのだった。
「これで、依頼完了、ですね」
ルナが言った。
無事に使徒は退治された。
自警団の面々にも新たな傷はどこにもない。
ハンター達は、こうして依頼を終えたのだった。
覚醒状態を解いて、蒼氷色から黒の瞳に戻ったテノールが自警団に向かってあることを伝えた。
「武道等格闘技の経験があるように見えるから言おうか」
自警団は大人しくテノールの話を聴いている。
「格闘技を齧った程度の素人と軍人などの戦闘プロが戦って勝てると思うか? 自殺願望が無ければあれには手を出さない方がいいな。情報がまだないっていうのもあるが、あいつらは、俺らハンターでも危険な相手だ。少なくともそれが分からない程度なら死ぬだけだろうな」
自警団はテノールの言葉を心に刻んだ。実力の差を知ったからこそ、響く言葉だった。
「それじゃ、怪我人は回復するわよ」
アルスレーテは母なるミゼリアで傷ついた者を癒していく。
こうして、戦場に仮初めの日常が戻ったのだった。
●
戦場から音は消えていた。
戦闘は終わったのだろうか?
僕はそろそろとレジ台から顔を出すと、最初に飛び込んできたのは茶髪に赤い瞳で大きな剣を背負った男だった。
「よう。おまえがオフィスに連絡を入れてくれたんだろ?」
僕は彼がハンターだと確信した。
「あんな状況で救援を出すたぁナイスガッツだ」
男は言う。
「もし俺達が頼りになると欠片でも思ったなら、ひとつだけ約束してくれ。あの怪しいアプリには頼らず、次も必ずハンターを呼べ。絶対に駆けつけてやる」
男は自信に満ちた笑顔を浮かべる。
それじゃあな、と男は手を振って去っていった。
戦場には生き残ったらしい自警団がいる。
──ああ、
──僕にも出来たことがあったのだ。
相変わらず、僕と世界の関係は不機嫌だ。
けれど、やれることはあった。
僕はこの世界に、この僕のまま、もうちょっと関わっていく気になったのだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/24 19:22:23 |
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相談卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/08/28 23:00:16 |