ゲスト
(ka0000)
ふるさとに似た焼野原
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/09 22:00
- 完成日
- 2018/09/17 22:09
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●これは夢
燃えている。激しく激しく、燃えている。
家が、塀が、木が、家畜が……、人が。
きっと周囲は耳を覆いたくなるような恐ろしい声や音がしているのだろう。しかし、それらは不思議と一切届いては来なかった。だから、凄惨な光景も、どこか穏やかに感じられてしまう。
穏やかな、わけがない。
そう、そんなわけはないのだ。
けれど、その奇妙な穏やかさのおかげで、目の前の様子をできるだけ詳しく眺められる、というのは皮肉なことだった。
ことごとく火に包まれ焼け落ちてゆく小さな家々、圧倒的な熱から逃げ惑う人影、紅葉の盛りのように炎を纏う街路樹、丈夫そうな立派な建物も燃えている……あれは学校だろうか。
つぶさに眺めながら、まるごと火事になっているこの集落に、見覚えがあるような気がして仕方がなかった。あの路地も、あの広場も、見たことがあるような気がする。でも、それにしては何か足らないような気もするのだ。
思い出せない。
思い出せない。
思い出せない。
ああ、何もかも、燃えてゆく……。
●これは現実
目覚めたとき、セブンス・ユングは汗びっしょりだった。
数えきれないほどの夢をみてきたセブンスにとって、多少怖い思いをすることなど珍しくはない。殺人の現場を見てしまったことだって何度もある。
だが、今回はそれらとは違う種類の恐怖が、彼を襲っていた。
目の前で炎に苦しめられる人々を見たからではない。
そうでは、なく。
「あの集落は、もしかして……」
セブンスはがばりと起き上がると、いつも持ち歩いている分厚いノートをめくった。そのノートには、セブンスが見てきた夢をすべて書き留めてあるのである。
ノートをすべて遡っても、セブンスが求めていた情報は出てこなかった。ベッドの下に置いているトランクを開き、ページを埋め尽くしたノートをすべてひっくり返す。もうすでに事実確認が済んでいるものまで、何もかもを見返したが、しかし。
「ない……。……そうか。俺は、これまで、あの場所の夢をみたことがなかったのか……」
セブンスは、呆然とした気持ちにも似た心境で、呟いた。
彼が「もしかして」と考えていたのは。
あの夢の中で燃えていた集落は、自分の故郷ではないだろうか、ということだった。
「そうか。では、もしかして、と思ったことは、本当にわずかな、わずかな記憶のかけらに引っかかった、ということだな」
セブンスは、自分がみた夢以外のことはほとんど何も覚えていない。覚えているのは「先生」と過ごした日々の一部と、「先生」が命を落とした日のことくらいだ。故郷のことなど、これまで思い出したこともなかった。
「と、なると、燃えていたあの集落が本当に俺の故郷なのかどうかを確かめるのは、極めて困難になったわけか」
しかし、あそこがどこであろうとも、探してみないわけにはいかないだろうと思う。あの火事が過去のものなのか未来に起こることなのかわからないが、「事実」なのは間違いがないのだから。
セブンスのみる夢はすべて、現実なのだ。
夢でみたものをできるだけ詳細に絵と文章で書き起こし、地図に照らし合わせ、このあたりではないか、というだいたいの目星をつけてから、セブンスは出発した。
居候をしている屋敷の主人がずいぶんと心配し、供の者をつけてやろうかと言ってくれたが、丁重に断った。まずはあちこち動き回らなければならないため、ひとりの方が身軽で都合がよい。
ひとつ目の候補地へ向かう途中、何やら人々が街道に集まっているのをみつけた。集まる人々の中心には、武装した数名の姿が見える。どうやらハンターのようだ。
気にならないわけではなかったが、セブンスはそのまま脇を通り過ぎようとした。と。
「おーい、その先は行かない方がいいぜ」
集まっている人々から、呼び止められたのである。
「どういうことですか」
事情を尋ねると、驚くべき答えが返ってきた。いわく。
この先にある村は、つい昨夜、村ごと火事になったのだという。今、後片付けや救助活動が進められているところだそうだが、それと同時に、その火事が放火であり、その犯人が村の先にぽつんと残っている空き家に潜伏しているというのである。
「五人組の窃盗団らしいんだ。盗むだけにとどまらず、村全体に火を放っていきやがった。許せねえ」
そう声を震わせる男性はおそらく、焼かれた村の住民なのだろう。
「と、いうことで、ハンターに討伐を依頼したんだ。解決するまでは、行かない方がいい」
セブンスはなるほど、と頷いたものの、言われるとおりにただ待っているわけにはいかない、と思った。その村というのは十中八九、セブンスが夢にみた集落のことだろう。昨夜火事にあったばかりだということは、セブンスはほぼリアルタイムにその光景を夢にみていたことになる。
セブンスは、人々に自分の事情を話した。夢にみた、という部分は信じてもらえないとややこしくなるので上手く伏せ、火事になった村が自分の故郷かもしれない、だからそれを確かめたい、と話す。
「もちろん、その犯人たちの討伐が済んでからで結構です。それを指をくわえて見ているつもりもありません。討伐のメンバーに、俺も加えてください。ケンカは強くありませんが、弓の腕だけは、自信があります」
どこもかしこも焼き尽くしていった、あの赤い炎の夢を思い、セブンスはこぶしを握った。たとえ故郷でなかったとしても、あんなことは、許されてはいけない。
燃えている。激しく激しく、燃えている。
家が、塀が、木が、家畜が……、人が。
きっと周囲は耳を覆いたくなるような恐ろしい声や音がしているのだろう。しかし、それらは不思議と一切届いては来なかった。だから、凄惨な光景も、どこか穏やかに感じられてしまう。
穏やかな、わけがない。
そう、そんなわけはないのだ。
けれど、その奇妙な穏やかさのおかげで、目の前の様子をできるだけ詳しく眺められる、というのは皮肉なことだった。
ことごとく火に包まれ焼け落ちてゆく小さな家々、圧倒的な熱から逃げ惑う人影、紅葉の盛りのように炎を纏う街路樹、丈夫そうな立派な建物も燃えている……あれは学校だろうか。
つぶさに眺めながら、まるごと火事になっているこの集落に、見覚えがあるような気がして仕方がなかった。あの路地も、あの広場も、見たことがあるような気がする。でも、それにしては何か足らないような気もするのだ。
思い出せない。
思い出せない。
思い出せない。
ああ、何もかも、燃えてゆく……。
●これは現実
目覚めたとき、セブンス・ユングは汗びっしょりだった。
数えきれないほどの夢をみてきたセブンスにとって、多少怖い思いをすることなど珍しくはない。殺人の現場を見てしまったことだって何度もある。
だが、今回はそれらとは違う種類の恐怖が、彼を襲っていた。
目の前で炎に苦しめられる人々を見たからではない。
そうでは、なく。
「あの集落は、もしかして……」
セブンスはがばりと起き上がると、いつも持ち歩いている分厚いノートをめくった。そのノートには、セブンスが見てきた夢をすべて書き留めてあるのである。
ノートをすべて遡っても、セブンスが求めていた情報は出てこなかった。ベッドの下に置いているトランクを開き、ページを埋め尽くしたノートをすべてひっくり返す。もうすでに事実確認が済んでいるものまで、何もかもを見返したが、しかし。
「ない……。……そうか。俺は、これまで、あの場所の夢をみたことがなかったのか……」
セブンスは、呆然とした気持ちにも似た心境で、呟いた。
彼が「もしかして」と考えていたのは。
あの夢の中で燃えていた集落は、自分の故郷ではないだろうか、ということだった。
「そうか。では、もしかして、と思ったことは、本当にわずかな、わずかな記憶のかけらに引っかかった、ということだな」
セブンスは、自分がみた夢以外のことはほとんど何も覚えていない。覚えているのは「先生」と過ごした日々の一部と、「先生」が命を落とした日のことくらいだ。故郷のことなど、これまで思い出したこともなかった。
「と、なると、燃えていたあの集落が本当に俺の故郷なのかどうかを確かめるのは、極めて困難になったわけか」
しかし、あそこがどこであろうとも、探してみないわけにはいかないだろうと思う。あの火事が過去のものなのか未来に起こることなのかわからないが、「事実」なのは間違いがないのだから。
セブンスのみる夢はすべて、現実なのだ。
夢でみたものをできるだけ詳細に絵と文章で書き起こし、地図に照らし合わせ、このあたりではないか、というだいたいの目星をつけてから、セブンスは出発した。
居候をしている屋敷の主人がずいぶんと心配し、供の者をつけてやろうかと言ってくれたが、丁重に断った。まずはあちこち動き回らなければならないため、ひとりの方が身軽で都合がよい。
ひとつ目の候補地へ向かう途中、何やら人々が街道に集まっているのをみつけた。集まる人々の中心には、武装した数名の姿が見える。どうやらハンターのようだ。
気にならないわけではなかったが、セブンスはそのまま脇を通り過ぎようとした。と。
「おーい、その先は行かない方がいいぜ」
集まっている人々から、呼び止められたのである。
「どういうことですか」
事情を尋ねると、驚くべき答えが返ってきた。いわく。
この先にある村は、つい昨夜、村ごと火事になったのだという。今、後片付けや救助活動が進められているところだそうだが、それと同時に、その火事が放火であり、その犯人が村の先にぽつんと残っている空き家に潜伏しているというのである。
「五人組の窃盗団らしいんだ。盗むだけにとどまらず、村全体に火を放っていきやがった。許せねえ」
そう声を震わせる男性はおそらく、焼かれた村の住民なのだろう。
「と、いうことで、ハンターに討伐を依頼したんだ。解決するまでは、行かない方がいい」
セブンスはなるほど、と頷いたものの、言われるとおりにただ待っているわけにはいかない、と思った。その村というのは十中八九、セブンスが夢にみた集落のことだろう。昨夜火事にあったばかりだということは、セブンスはほぼリアルタイムにその光景を夢にみていたことになる。
セブンスは、人々に自分の事情を話した。夢にみた、という部分は信じてもらえないとややこしくなるので上手く伏せ、火事になった村が自分の故郷かもしれない、だからそれを確かめたい、と話す。
「もちろん、その犯人たちの討伐が済んでからで結構です。それを指をくわえて見ているつもりもありません。討伐のメンバーに、俺も加えてください。ケンカは強くありませんが、弓の腕だけは、自信があります」
どこもかしこも焼き尽くしていった、あの赤い炎の夢を思い、セブンスはこぶしを握った。たとえ故郷でなかったとしても、あんなことは、許されてはいけない。
リプレイ本文
名前は忘れてしまった、と、セブンス・ユング (kz0232)はハンターたちにそう言った。本当は、忘れたくても忘れられない名前なのに。他のことは忘れたくなくても忘れてしまうのに、なんとも上手くいかないものだと思う。
「あれ?あなた確か……」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)が首を傾げてセブンスを見た。
「夢追い人、そう名乗っていた気がするんだけど」
「……どこかで、お会いしたことがあったんですね。すみません、覚えていなくて」
「別に気にしないわ。それより……」
カーミンはハンター一同の顔を見まわした。皆、厳しい表情をしている。鞍馬 真(ka5819)もそのひとりだった。実は真もセブンスとは面識があるのだが、ひとまず口にしなかった。代わりに、鋭いまなざしでカーミンに頷く。
「……ふざけた奴らだ」
強盗と放火をした犯人たちのことである。
「――強盗に、火とは。刃銀の檻か、断台か」
橘花 夕弦(ka6665)も低い声で呟いて、怒りを示した。エリス・ヘルツェン(ka6723)は沈痛な面持ちで言った。そこに滲むのは怒りというよりも、悲しみだ。
「罪の無い人々に、どうしてこの様な事を……許されざる行いです。これ以上同じ事態を繰り返させない為に、精一杯尽力して…臨まなければいけませんね」
ニーロートパラ(ka6990)が、エリスを気遣わしげに見やる。彼女の心が痛まなければいいと、祈っているがゆえだった。
そんな、誰もが犯人討伐への意志を強く表す中、昏い瞳を伏せていた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が顔を上げた。いつもの、不敵な笑顔で言い放つ。
「さぁ、下衆共を仕留めに征こうか」
犯人たちがいるという小屋は、問題なく発見できた。道中、何かを思い出すような表情で胸元の蝶を撫でていた白藤(ka3768)が、さて、と立ち止まって微笑む。
「まずは、敵情を把握せなな」
「そうだね。見張りや罠に警戒しないと」
エルシス・ファルツ(ka4163)が頷く。白藤は、大きなカラスを空に放った。
「さぁ、ちょいと空で……うちの目になりよ」
ファミリアズアイでカラスの視界を共有する。蜜鈴もまた、黒猫の嚠赫とイヌワシの允に周囲を警戒させた。ペットだけでなく、自らも直感にて小屋の中、周囲の様子を油断なく探る。その結果。
「小屋の中には五人……、つまり全員おるみたいやな」
「周囲にも、特に罠はないようだのう……」
白藤と蜜鈴が顔を見合わせた。ふたりと同じくシェパードで周囲の様子を探っていたカーミンが、ふむ、と首をかしげる。
「油断するのは、それだけの準備があるとみていいんだけど、何もないか。本当にただのバカだったのかしら。なんにせよ、引き続き警戒しながら近づいた方がいいわね」
カーミンはシェパードを先に小屋へ向かわせ、包囲を狭められるように配置した。真が恐ろしいほどの静かな闘志を迸らせて小屋をまっすぐに見据える。
「よし、じゃあ接近しよう」
「坊や、ウチらから離れなや」
白藤に囁かれ、セブンスは素早くハンターたちに近付いた。カーミンがそっと彼の隣に並ぶ。
「あなたも弓、引けるのね。タイミングは私に合わせればいいわ。大丈夫ね?」
セブンスは黙って頷く。場の緊張感が、上がったのを感じていた。
まず、蜜鈴とエルシスが隠の徒を使用して小屋の窓の下へ近付いた。中を窺い、五人いるかどうかを再確認する。小屋の中は、随分と陽気な声に満ちていた。それに混じって、いびきも聞こえる。
「他人の生活を滅茶苦茶にしておいて呑気に休憩とか、随分と良い御身分だね」
エルシスが顔をしかめながら小声で毒づくと、蜜鈴も嫌悪感あらわに呟く。
「昼日中より酔い潰れて居るわ……ほんに醜悪じゃのう」
「腹立つしちゃちゃっと捕まえよっか」
エルシスは蜜鈴と頷き合って、手にしていた発煙手榴弾を窓に向かって投擲した。薄いガラスが割り破られ、手榴弾がもくもくと煙を上げる。
「わああ!?」
「なんだなんだ!?」
途端に、小屋の中が騒然となった。ひとつしかない扉が、ガタガタと鳴る。蜜鈴が黄泉ノ揺籠を使用するよりも早く、扉が開きそうだった。
「出てくるぞ!」
真が剣を構えて叫び、待ち構えているハンターの面々が頷く。
「さて、水面の月影のように泳ぐ剣から逃れられるでしょうかね。俺は逃す気は毛頭ないわけですが」
夕弦も刀の柄に手を置いて姿勢を低くした。
そして、大きく歪み、きしんで、小屋の粗末な扉が開くと、どっと三人の男たちがむせながら外へ出てきた。
「なんなんだよ……って、誰だお前たちは!!」
混乱しているにしては瞬時に、男たちはハンターの姿に気がついた。戦うつもりだったのか、逃げるつもりだったのかわからないが、足を動かそうとする、が。
「ぐっ……!?」
思うように動かせず、つんのめる。
「逃がしません」
エリスのジャッジメントによって動きが封じられたのだ。そこへ、白藤とニーロートパラの威嚇射撃が撃ち込まれる。
「うわあ……っとぉ」
たまらず、三人ともがのけ反って仰向けに倒れ込んだ。しかし、すぐに起き上がる。攻撃が「威嚇」であることも瞬時に見ぬいたようだった。
「クズの割には、いい反応してるじゃない」
そう呟くのは、火をつけるような真似をしないかと、弓の飛距離を計算した立ち位置で警戒していたカーミンだ。決して油断していい相手ではなかったことが、これだけでわかったというものである。
「逃げれると思いなや」
そう言い放ったのは、白藤。その言葉に呼応したように。
「ぎゃあああ!!!!」
「ひぃいいいい!!!」
「うぎゃあああ!!!」
男たちの足を斬りつけたのは、真と夕弦。まるで風のように、流水のように、しなやかにしかし鋭い剣戟で、的確に男たちの足の腱を切った。地面に、鮮血が散る。男たちは立ち向かうのをやめ、地面を這うようにして逃れようとした。その、目の前に、夕弦が刃を突き立ててゆくえを阻む。
「足を失った処で、家を焼かれた痛みには届かないでしょう……それとも、四肢といきますか?」
その一言が、男たちの戦意を完全に、削いだ。
一方、窓から手榴弾を投げ入れてあぶり出しをはかった蜜鈴とエルシスは、蜜鈴の樹櫻によって窓を塞ぎ、退路を扉のみに絞っていた。エルシスはいつでも扉の方に加勢できるよう身構えていたが、油断ならぬ相手だったとはいえあの人数とあの実力のハンターたちの前では、強盗など無力も同然だ。エルシスが手を出す隙すらなく、男たちは地に伏していた。しかし。扉から出てきたのは三人だけだ。
「黄泉ノ揺籠によって眠っておるかのう?」
「その可能性が高いかもね」
蜜鈴とエルシスが頷き合った。
「中へ入ってみるよ」
振るったばかりの剣をさっと払って、真が言う。弓弦も頷いた。無力化した三人の男たちを、ニーロートパラとエリスがロープで縛り上げている。
「気を付けて、火を放つ道具や技を出してくるかもしれないわ。……ま、そのときは私が対処するつもりだけど」
カーミンが促した注意に真と夕弦は頷いて、煙の白さがだいぶ引いた小屋の中へ足を踏み入れた。他のメンバーは、いつでもサポートできるように身構えている。
小屋の中に見えたのは。何か握りしめた状態でうつぶせに倒れている男がひとりと、小屋の一番奥で、いびきをかいて仰向けにひっくりかえっている男がひとり、であった。
「奥の男は、最初から寝ていたとみてよさそうだな」
真が、厳しい目つきのまま苦笑する。
「手前の男は、出て行こうとしたが眠らされた、ってところか」
「その男が手に持っているものは何です?」
ニーロートパラが首をかしげる。男は筒状のものを握りしめていた。その筒は太いホースのようなものに接続されており、そのホースはまた大きなガスボンベのようなものに繋がっている。
「これは……、火を出す道具ではないでしょうか」
それまでカーミンの隣でじっとしていたセブンスが言った。
「これが火を出す道具、ですか?」
エリスが不思議そうにするのに頷く。
「焼畑などをするときに使うものなのではないかと」
「焼畑! なるほど。だから生木も燃やせたってわけね」
カーミンが納得したように呟いた。これを自分たちに向けて使うつもりだったとなると、カーミンの警戒は至極的を射ていたことになる。
「とりあえずそいつら、縛り上げた方がええんちゃう?」
白藤の言葉に頷いて、奥の男を真と夕弦が、手前の男をニーロートパラとエリスがロープで縛り上げた。
「小屋の中に盗んだ物品はないようだよ」
縛り上げながら小屋の中をしっかり見分した真が言うと、蜜鈴がふむ、とひとつ微笑んでから、冷たい声で言い放った。
「では、容赦なくこのツラ張り飛ばして目覚めさせようかのう。金品の隠し場所を吐かせるのじゃ」
「そうしよう」
真もあっさりと頷く。慈悲とは、こういうときに使うものではない。
男たちを地元の警邏に引き渡し、ハンターたちは無残に焼かれた集落へと、やってきた。黒く焦げた大地、焼け残った建物の痛々しさ、そこここから聞こえるすすり泣き。
「……嘆きが……響くのう……」
蜜鈴が、目を伏せた。エリスも沈痛な面持ちで焼け跡を見つめ、ニーロートパラが寄り添う。
「さーて、それじゃあ復興活動手伝うとしよっか!」
エルシスが明るい声でそう言って、ハンターたちは沈んでいた顔を上げた。自分たちが落ち込んだ様子でいるわけには、いかない。
夕弦がまずやったことは、テントを建てることだった。焼け跡には屋根の残る建物がほとんどなく、人々は怪我人の治療も日差しと風にさらされながら行っていたのである。
「怪我人を、どうぞこちらに」
夕弦はそう声をかけると、こうした「屋根のある場所」をひとつでも増やそうと、撤去作業の中でも使えそうな材料を探しに出た。
「衣食住の中でも季節の変わり目、通り雨も多い今に雨は人の体調を崩しますし、食べる場所はせめて安心出来るようにした方が」
夕弦のその言葉に、なるほど、と住民たちは頷いて、身動きの取れる男性たちが、夕弦とともに資材を運ぶ作業を始めた。
真と白藤も、焼け残ったものの片付けを手伝っていた。途中、怪我人を見つければすぐにそちらの治療にあたる。そうしながらふたりは、呆然とした表情で集落を歩き回るセブンスのことを気にかけていた。
「まるで迷子の子供みたいや。……迷子なんは、記憶なんやろうか、心なんやろうか……」
白藤は、誰にも聞こえないようにそっと呟いてから、セブンスに近寄って声をかけた。
「坊やの欲しいもんは、なんや見つかった?」
うちと会ったことも覚えてへんやろうけど、という言葉は飲み込む。白藤もまた、過去の依頼でセブンスとかかわっているのである。
「いえ……まだ何も」
力なく首を横に振るセブンスに、真も声をかける。
「良かったら、聞き込みを手伝うよ」
「ありがとうございます」
セブンスが、頭を下げると。
「ちょっとー、夢追いくーん、こっち手伝って!」
カーミンがセブンスを呼んだ。カーミンの前には、治療を待つ怪我人が列をつくっている。
「はい、消毒して。やり方わかるわね?」
テキパキと指示をしてセブンスを手伝わせつつ、カーミンは列をつくる人々に尋ねた。
「ねえ、この人を見たことない?」
セブンスが、目を見開く。たしかに、自分の記憶があてにならないとなれば、誰かが自分のことを覚えていることに期待する方がいい。
「さあ……、知らないなあ」
だが、誰もが首をかしげていた。それはそうだろう、とセブンスは思う。
「俺は、故郷には五、六歳頃までしかいなかったらしいですから。もしここが故郷だったとしても覚えている人がいるかどうか」
「……そう。でも何もしないよりはいいでしょ」
「そうですね」
セブンスは頷いた。自分の為に協力してくれるハンターたちの優しい心根が嬉しく、自分も躊躇っている場合ではないと、そう思えたのだった。だから、口を開いた。
「……ユング家という家に、聞き覚えは、ありませんか」
悲惨な状況は、ハンターたちの個人的な感情をときにひどく揺さぶる。彼らは決して、それを理由に任務の手を緩めることはしないけれど。
やけどをした人を助け起こしてから、白藤は呟く。胸の蝶を、そっと撫でて。
「誰か一人でも、うちの手で助けたいんや……。泣くだけの子供やない、せやろ?……兄さん」
蜜鈴は、子どもを抱いていた。ふええふええ、と力なく泣く子供をあやし、童歌を歌う。大人以上に子どもは不安であろうと思ってのことだった。子どもたちが落ち着いたら、共に植物の種や苗を植えようと、考える。
「死は平等じゃ……なれど、残酷さは人と歪虚の共通点よな……」
歌の合間に呟いた言葉。白藤の想いも、蜜鈴の祈りも、そっと黒い大地に溶け込むようだった。
エリスもまた、深い思慮を抱えていた。夕弦が張ったテントの下で、救急セットやヒーリングスフィアを使い、優しく声をかけながら応急手当をしてゆく。エリスのもとに怪我人を連れてくるのは、ニーロートパラだった。ミネラルウォーターを飲ませ、気持ちを落ち着けさせてから、テントへと導く。
「疲れてはいませんか」
ニーロートパラがエリスを気遣う。エリスは大丈夫、と微笑んでから、そっと、語った。
「強くなりたいという思いは……守りたいものを守れる様に。形や状況は異なるかもしれませんが……ニーロ様が抱いていた思いを、私もちゃんと理解出来たような。そんな気がします」
ふたりはゆっくりと、微笑みあった。
集落の中をガンガン積極的に歩き回って片づけを手伝っていたエルシスは、考え込むような顔つきで瓦礫を掻き分けているセブンスを見かけた。先ほどまで一緒にいたカーミンは、焦げ付いて開かなくなった金庫をピッキングできないかと呼ばれて行ったらしい。
「探して欲しい物とかない? あたしに出来る事ならなんでも手伝うからドンドン言ってね」
エルシスが元気よくセブンスに声をかけると、セブンスは少し驚いたように目を見開いてから頷いて、ありがとう、と言った。
「では、もし、また次の機会のために、俺を覚えていてください。俺は、あなた方を忘れてしまうから」
「え?」
予想外の方向の返事が来て、エルシスは面喰った。
「……俺の故郷は、ここではありませんでした」
カーミンが協力してくれた聞き込みの結果、それがわかったのだった。それだけではない。
「ユング家? それって隣町にある大きなお屋敷のことか? あそこは、ウチの集落に街並みがそっくりなんだ。たぶん、ウチがむこうを真似たんだろうけどな」
そういう証言を、いくつも聞くことができたのである。
「……たぶん俺は、そこへ行かなければならない……」
セブンスはそう呟いて、空を見上げた。その空は、焼け跡の痛々しさを慰めるかのような、優しい青をしていた。
「あれ?あなた確か……」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)が首を傾げてセブンスを見た。
「夢追い人、そう名乗っていた気がするんだけど」
「……どこかで、お会いしたことがあったんですね。すみません、覚えていなくて」
「別に気にしないわ。それより……」
カーミンはハンター一同の顔を見まわした。皆、厳しい表情をしている。鞍馬 真(ka5819)もそのひとりだった。実は真もセブンスとは面識があるのだが、ひとまず口にしなかった。代わりに、鋭いまなざしでカーミンに頷く。
「……ふざけた奴らだ」
強盗と放火をした犯人たちのことである。
「――強盗に、火とは。刃銀の檻か、断台か」
橘花 夕弦(ka6665)も低い声で呟いて、怒りを示した。エリス・ヘルツェン(ka6723)は沈痛な面持ちで言った。そこに滲むのは怒りというよりも、悲しみだ。
「罪の無い人々に、どうしてこの様な事を……許されざる行いです。これ以上同じ事態を繰り返させない為に、精一杯尽力して…臨まなければいけませんね」
ニーロートパラ(ka6990)が、エリスを気遣わしげに見やる。彼女の心が痛まなければいいと、祈っているがゆえだった。
そんな、誰もが犯人討伐への意志を強く表す中、昏い瞳を伏せていた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が顔を上げた。いつもの、不敵な笑顔で言い放つ。
「さぁ、下衆共を仕留めに征こうか」
犯人たちがいるという小屋は、問題なく発見できた。道中、何かを思い出すような表情で胸元の蝶を撫でていた白藤(ka3768)が、さて、と立ち止まって微笑む。
「まずは、敵情を把握せなな」
「そうだね。見張りや罠に警戒しないと」
エルシス・ファルツ(ka4163)が頷く。白藤は、大きなカラスを空に放った。
「さぁ、ちょいと空で……うちの目になりよ」
ファミリアズアイでカラスの視界を共有する。蜜鈴もまた、黒猫の嚠赫とイヌワシの允に周囲を警戒させた。ペットだけでなく、自らも直感にて小屋の中、周囲の様子を油断なく探る。その結果。
「小屋の中には五人……、つまり全員おるみたいやな」
「周囲にも、特に罠はないようだのう……」
白藤と蜜鈴が顔を見合わせた。ふたりと同じくシェパードで周囲の様子を探っていたカーミンが、ふむ、と首をかしげる。
「油断するのは、それだけの準備があるとみていいんだけど、何もないか。本当にただのバカだったのかしら。なんにせよ、引き続き警戒しながら近づいた方がいいわね」
カーミンはシェパードを先に小屋へ向かわせ、包囲を狭められるように配置した。真が恐ろしいほどの静かな闘志を迸らせて小屋をまっすぐに見据える。
「よし、じゃあ接近しよう」
「坊や、ウチらから離れなや」
白藤に囁かれ、セブンスは素早くハンターたちに近付いた。カーミンがそっと彼の隣に並ぶ。
「あなたも弓、引けるのね。タイミングは私に合わせればいいわ。大丈夫ね?」
セブンスは黙って頷く。場の緊張感が、上がったのを感じていた。
まず、蜜鈴とエルシスが隠の徒を使用して小屋の窓の下へ近付いた。中を窺い、五人いるかどうかを再確認する。小屋の中は、随分と陽気な声に満ちていた。それに混じって、いびきも聞こえる。
「他人の生活を滅茶苦茶にしておいて呑気に休憩とか、随分と良い御身分だね」
エルシスが顔をしかめながら小声で毒づくと、蜜鈴も嫌悪感あらわに呟く。
「昼日中より酔い潰れて居るわ……ほんに醜悪じゃのう」
「腹立つしちゃちゃっと捕まえよっか」
エルシスは蜜鈴と頷き合って、手にしていた発煙手榴弾を窓に向かって投擲した。薄いガラスが割り破られ、手榴弾がもくもくと煙を上げる。
「わああ!?」
「なんだなんだ!?」
途端に、小屋の中が騒然となった。ひとつしかない扉が、ガタガタと鳴る。蜜鈴が黄泉ノ揺籠を使用するよりも早く、扉が開きそうだった。
「出てくるぞ!」
真が剣を構えて叫び、待ち構えているハンターの面々が頷く。
「さて、水面の月影のように泳ぐ剣から逃れられるでしょうかね。俺は逃す気は毛頭ないわけですが」
夕弦も刀の柄に手を置いて姿勢を低くした。
そして、大きく歪み、きしんで、小屋の粗末な扉が開くと、どっと三人の男たちがむせながら外へ出てきた。
「なんなんだよ……って、誰だお前たちは!!」
混乱しているにしては瞬時に、男たちはハンターの姿に気がついた。戦うつもりだったのか、逃げるつもりだったのかわからないが、足を動かそうとする、が。
「ぐっ……!?」
思うように動かせず、つんのめる。
「逃がしません」
エリスのジャッジメントによって動きが封じられたのだ。そこへ、白藤とニーロートパラの威嚇射撃が撃ち込まれる。
「うわあ……っとぉ」
たまらず、三人ともがのけ反って仰向けに倒れ込んだ。しかし、すぐに起き上がる。攻撃が「威嚇」であることも瞬時に見ぬいたようだった。
「クズの割には、いい反応してるじゃない」
そう呟くのは、火をつけるような真似をしないかと、弓の飛距離を計算した立ち位置で警戒していたカーミンだ。決して油断していい相手ではなかったことが、これだけでわかったというものである。
「逃げれると思いなや」
そう言い放ったのは、白藤。その言葉に呼応したように。
「ぎゃあああ!!!!」
「ひぃいいいい!!!」
「うぎゃあああ!!!」
男たちの足を斬りつけたのは、真と夕弦。まるで風のように、流水のように、しなやかにしかし鋭い剣戟で、的確に男たちの足の腱を切った。地面に、鮮血が散る。男たちは立ち向かうのをやめ、地面を這うようにして逃れようとした。その、目の前に、夕弦が刃を突き立ててゆくえを阻む。
「足を失った処で、家を焼かれた痛みには届かないでしょう……それとも、四肢といきますか?」
その一言が、男たちの戦意を完全に、削いだ。
一方、窓から手榴弾を投げ入れてあぶり出しをはかった蜜鈴とエルシスは、蜜鈴の樹櫻によって窓を塞ぎ、退路を扉のみに絞っていた。エルシスはいつでも扉の方に加勢できるよう身構えていたが、油断ならぬ相手だったとはいえあの人数とあの実力のハンターたちの前では、強盗など無力も同然だ。エルシスが手を出す隙すらなく、男たちは地に伏していた。しかし。扉から出てきたのは三人だけだ。
「黄泉ノ揺籠によって眠っておるかのう?」
「その可能性が高いかもね」
蜜鈴とエルシスが頷き合った。
「中へ入ってみるよ」
振るったばかりの剣をさっと払って、真が言う。弓弦も頷いた。無力化した三人の男たちを、ニーロートパラとエリスがロープで縛り上げている。
「気を付けて、火を放つ道具や技を出してくるかもしれないわ。……ま、そのときは私が対処するつもりだけど」
カーミンが促した注意に真と夕弦は頷いて、煙の白さがだいぶ引いた小屋の中へ足を踏み入れた。他のメンバーは、いつでもサポートできるように身構えている。
小屋の中に見えたのは。何か握りしめた状態でうつぶせに倒れている男がひとりと、小屋の一番奥で、いびきをかいて仰向けにひっくりかえっている男がひとり、であった。
「奥の男は、最初から寝ていたとみてよさそうだな」
真が、厳しい目つきのまま苦笑する。
「手前の男は、出て行こうとしたが眠らされた、ってところか」
「その男が手に持っているものは何です?」
ニーロートパラが首をかしげる。男は筒状のものを握りしめていた。その筒は太いホースのようなものに接続されており、そのホースはまた大きなガスボンベのようなものに繋がっている。
「これは……、火を出す道具ではないでしょうか」
それまでカーミンの隣でじっとしていたセブンスが言った。
「これが火を出す道具、ですか?」
エリスが不思議そうにするのに頷く。
「焼畑などをするときに使うものなのではないかと」
「焼畑! なるほど。だから生木も燃やせたってわけね」
カーミンが納得したように呟いた。これを自分たちに向けて使うつもりだったとなると、カーミンの警戒は至極的を射ていたことになる。
「とりあえずそいつら、縛り上げた方がええんちゃう?」
白藤の言葉に頷いて、奥の男を真と夕弦が、手前の男をニーロートパラとエリスがロープで縛り上げた。
「小屋の中に盗んだ物品はないようだよ」
縛り上げながら小屋の中をしっかり見分した真が言うと、蜜鈴がふむ、とひとつ微笑んでから、冷たい声で言い放った。
「では、容赦なくこのツラ張り飛ばして目覚めさせようかのう。金品の隠し場所を吐かせるのじゃ」
「そうしよう」
真もあっさりと頷く。慈悲とは、こういうときに使うものではない。
男たちを地元の警邏に引き渡し、ハンターたちは無残に焼かれた集落へと、やってきた。黒く焦げた大地、焼け残った建物の痛々しさ、そこここから聞こえるすすり泣き。
「……嘆きが……響くのう……」
蜜鈴が、目を伏せた。エリスも沈痛な面持ちで焼け跡を見つめ、ニーロートパラが寄り添う。
「さーて、それじゃあ復興活動手伝うとしよっか!」
エルシスが明るい声でそう言って、ハンターたちは沈んでいた顔を上げた。自分たちが落ち込んだ様子でいるわけには、いかない。
夕弦がまずやったことは、テントを建てることだった。焼け跡には屋根の残る建物がほとんどなく、人々は怪我人の治療も日差しと風にさらされながら行っていたのである。
「怪我人を、どうぞこちらに」
夕弦はそう声をかけると、こうした「屋根のある場所」をひとつでも増やそうと、撤去作業の中でも使えそうな材料を探しに出た。
「衣食住の中でも季節の変わり目、通り雨も多い今に雨は人の体調を崩しますし、食べる場所はせめて安心出来るようにした方が」
夕弦のその言葉に、なるほど、と住民たちは頷いて、身動きの取れる男性たちが、夕弦とともに資材を運ぶ作業を始めた。
真と白藤も、焼け残ったものの片付けを手伝っていた。途中、怪我人を見つければすぐにそちらの治療にあたる。そうしながらふたりは、呆然とした表情で集落を歩き回るセブンスのことを気にかけていた。
「まるで迷子の子供みたいや。……迷子なんは、記憶なんやろうか、心なんやろうか……」
白藤は、誰にも聞こえないようにそっと呟いてから、セブンスに近寄って声をかけた。
「坊やの欲しいもんは、なんや見つかった?」
うちと会ったことも覚えてへんやろうけど、という言葉は飲み込む。白藤もまた、過去の依頼でセブンスとかかわっているのである。
「いえ……まだ何も」
力なく首を横に振るセブンスに、真も声をかける。
「良かったら、聞き込みを手伝うよ」
「ありがとうございます」
セブンスが、頭を下げると。
「ちょっとー、夢追いくーん、こっち手伝って!」
カーミンがセブンスを呼んだ。カーミンの前には、治療を待つ怪我人が列をつくっている。
「はい、消毒して。やり方わかるわね?」
テキパキと指示をしてセブンスを手伝わせつつ、カーミンは列をつくる人々に尋ねた。
「ねえ、この人を見たことない?」
セブンスが、目を見開く。たしかに、自分の記憶があてにならないとなれば、誰かが自分のことを覚えていることに期待する方がいい。
「さあ……、知らないなあ」
だが、誰もが首をかしげていた。それはそうだろう、とセブンスは思う。
「俺は、故郷には五、六歳頃までしかいなかったらしいですから。もしここが故郷だったとしても覚えている人がいるかどうか」
「……そう。でも何もしないよりはいいでしょ」
「そうですね」
セブンスは頷いた。自分の為に協力してくれるハンターたちの優しい心根が嬉しく、自分も躊躇っている場合ではないと、そう思えたのだった。だから、口を開いた。
「……ユング家という家に、聞き覚えは、ありませんか」
悲惨な状況は、ハンターたちの個人的な感情をときにひどく揺さぶる。彼らは決して、それを理由に任務の手を緩めることはしないけれど。
やけどをした人を助け起こしてから、白藤は呟く。胸の蝶を、そっと撫でて。
「誰か一人でも、うちの手で助けたいんや……。泣くだけの子供やない、せやろ?……兄さん」
蜜鈴は、子どもを抱いていた。ふええふええ、と力なく泣く子供をあやし、童歌を歌う。大人以上に子どもは不安であろうと思ってのことだった。子どもたちが落ち着いたら、共に植物の種や苗を植えようと、考える。
「死は平等じゃ……なれど、残酷さは人と歪虚の共通点よな……」
歌の合間に呟いた言葉。白藤の想いも、蜜鈴の祈りも、そっと黒い大地に溶け込むようだった。
エリスもまた、深い思慮を抱えていた。夕弦が張ったテントの下で、救急セットやヒーリングスフィアを使い、優しく声をかけながら応急手当をしてゆく。エリスのもとに怪我人を連れてくるのは、ニーロートパラだった。ミネラルウォーターを飲ませ、気持ちを落ち着けさせてから、テントへと導く。
「疲れてはいませんか」
ニーロートパラがエリスを気遣う。エリスは大丈夫、と微笑んでから、そっと、語った。
「強くなりたいという思いは……守りたいものを守れる様に。形や状況は異なるかもしれませんが……ニーロ様が抱いていた思いを、私もちゃんと理解出来たような。そんな気がします」
ふたりはゆっくりと、微笑みあった。
集落の中をガンガン積極的に歩き回って片づけを手伝っていたエルシスは、考え込むような顔つきで瓦礫を掻き分けているセブンスを見かけた。先ほどまで一緒にいたカーミンは、焦げ付いて開かなくなった金庫をピッキングできないかと呼ばれて行ったらしい。
「探して欲しい物とかない? あたしに出来る事ならなんでも手伝うからドンドン言ってね」
エルシスが元気よくセブンスに声をかけると、セブンスは少し驚いたように目を見開いてから頷いて、ありがとう、と言った。
「では、もし、また次の機会のために、俺を覚えていてください。俺は、あなた方を忘れてしまうから」
「え?」
予想外の方向の返事が来て、エルシスは面喰った。
「……俺の故郷は、ここではありませんでした」
カーミンが協力してくれた聞き込みの結果、それがわかったのだった。それだけではない。
「ユング家? それって隣町にある大きなお屋敷のことか? あそこは、ウチの集落に街並みがそっくりなんだ。たぶん、ウチがむこうを真似たんだろうけどな」
そういう証言を、いくつも聞くことができたのである。
「……たぶん俺は、そこへ行かなければならない……」
セブンスはそう呟いて、空を見上げた。その空は、焼け跡の痛々しさを慰めるかのような、優しい青をしていた。
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【質問卓】確認事項 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009) エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/09/07 21:10:49 |
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【相談卓】討伐と調査 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009) エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/09/09 07:04:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/05 14:41:03 |