ゲスト
(ka0000)
【空蒼】恨絶の狂機 4機目
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~12人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/14 09:00
- 完成日
- 2018/09/22 03:00
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●廃棄コロニー
「コロニーの奥底へ行く」
仮設のテントの中で、荷物をまとめた星加 籃奈(kz0247)が、部下のリー軍曹に告げた。
強化人間の部隊を率いてコロニー内のVOIDを討伐し、拠点を構築する任務を籃奈は受けていた。
だが、それは籃奈をよく思わない“上司”の陰謀であった。
彼女が率いる隊には、軍の各隊から『問題がある兵士』が集められていたのだ。
そして、“上司”は強化人間の反乱・暴走という形で、自分達を一網打尽にしようと考えていた。
「強化人間は暴走する。けれど、暴走に至るには、キッカケがあると思うの。それを、確かめてくるわ」
「待って下さい。それじゃ、万が一でも暴走したら……」
「そしたら、暴走するキッカケが奥底にあるという事になる。それが何かを……リー軍曹が後でハンター達に依頼すればいい。貴方はその足じゃ……身動きは取れないのだから」
「暴走したら、ハンターに倒される可能性だってあるんですよ!」
それが暴走した強化人間が辿る道であった。
だが、このままコロニーに居ても、“上司”にコロニーごと消滅させられるだけだ。
「……そうね。けれど、これは力を得た『代償』というべきものよ」
籃奈の瞳に揺らぎは無かった。
もし、戦死した夫が、今の自分に置かれた状況にあったとしたら、きっと、同じ行動を取っていただろう。
その確信だけで、籃奈は孤独ではなかった。それに、強化人間の暴走が意図的なものと分かれば、他の強化人間達の生存にも繋がる可能性が高い。
「籃奈隊長殿……」
「これは命令よ、リー軍曹。貴方は生き延びなさい」
部下にそう言いながら、籃奈はポケットからメモリーカードを取り出した。
それをリー軍曹に確りと手渡しする。
「これを、鳴月牡丹という名のハンターに絶対に渡して。貴方好みの胸の大きい人だから、すぐ分かると思うわ」
爽やかな微笑みを見せて籃奈は立ち上がると、振り向きもせずに、自分のCAMへと向かう。
リー軍曹は隊長の名を幾度もなく呼んだが、それは無視された。
程なくして起動したCAMを見上げ、リー軍曹は静かに呟く。
「……俺、隊長みたいに胸の小さい女性が好みなんですよ」
●コロニー最奥
先程からアラートが鳴りっぱなしだった。
籃奈はうんざりとした様子で、アラートを止める。警報はCAM外のマテリアル汚染の濃度を知らせていた。
「イニシャライズフィールドは……正常に作動している……ようね」
頭を抑えながら、籃奈は呟いた。
独り言ではない。自分が見た状況をブラックボックスに録音させる為だ。
もしもの事があっても、機体さえ無事であれば、ハンター達が通信記録を確認するはずだからだ。
そうすれば、このコロニーで何が起こったのか、その手掛かりになる。
「……よくよく、考えてみれば、マテリアルの汚染で……暴走する可能性は、低いわね」
これまで、強化人間達はマテリアル汚染のある所で戦って来た。
もし、単なる汚染で暴走する事があれば、もっと前から暴走者が続出していただろう。
「となると、暴走する原因はもっと、別の事という……ことかしら……」
自身を落ち着かせるように深呼吸する籃奈。
頭に響く“声”は先程よりも強くなっているのだ。
「……私の頭の中に“声”が聞こえる。それは、コロニーに入ってから、この最奥に向かうほど、強くなっている」
“声”の言葉自体は理解不能だった。
あるいは、籃奈にとって知らない言語の可能性もある。
再現しようと言葉そのままを口に出そうとするが、上手くいかない。
「シーバ軍曹は……コロニー近くの宇宙空間で……“声”が聞こえると言った。コンドウ曹長は……コロニーの中で聞こえると言った」
これらは暴走する前兆だったのだろうか。
「一方で、リー軍曹にはそうした“声”は聞こえなかったと言った……推測するに、強化人間といっても……個人差が強いのではないだろうか。暴走する者と暴走しない者の差は分からないが……」
リー軍曹が特別な力を持っている――とは思えなかった。
「環境条件が……ほぼ同じという事を考慮すれば……暴走するかしないかは個人の素質が影響するかもしれない……あるいは……」
考えられるのは、誰かの“指示”なのか。
“声”が強化人間を暴走させる“指示”であれば、その“声”が届きにくい強化人間は暴走する事はないのではないだろうか。
その時、コンフェッサーのアラーム音がコックピット内に響いた。
今度は先程の汚染を知らせるものではない。
「敵!?」
モニターに映っているのは、VOIDのようだった。
人型の上半身がコロニーの外壁と同化しているようなVOID。
直後、籃奈に襲い掛かったのは、“声”の大合唱だった。
「これは……」
詳細を述べる事も出来ず、籃奈の意識は、もっと別の何かへと向かうのであった。
●コロニー宙域
籃奈の頭に“声”が鳴り続ける。
反響するように、脳裏に浮かぶのは今は亡き夫と、まだ幼さが残る一人息子。
平和に暮らしていたはずなのに……全ての元凶は、あの“上司”だ。夫を陥れ、軍需産業と不正を繰り返し、意に沿ぐわない者を口封じする。
それを黙認する軍も悪い。軍が必要な世界も悪い。
愛する夫が守ろうとした世界を保つには、悪者は倒さなければならない。
討伐艦隊が迫っている。あれを倒すには戦力が足りない……なら、増やせばいい。今なら、きっと、できる。
途切れ途切れの視界、あるいは幻視なのか。
見開いた瞳で籃奈はただただ、頭の中に響く“声”がままにコンフェッサーの操縦桿を握った。
「母船の中に……予備の機体が……あるはず……」
目標はあくまでも討伐艦隊だ。
だから、母艦はあってもなくてもいい。とりあえず、予備機を拾うのが先だ。
そうでもしないと、戦力が足りない。敵は宇宙軍の艦隊なのだ。
通信機から何か言葉が聞こえるが、それは無視した。
というよりかは、何を言っているのか、理解する事が困難だった。
「戦いが終わったら、後で聞くから……」
そんな言い訳を呟きながら、母船のハッチに取り付くと、強引に扉を開けた。
宇宙服を着た船員達が慌てて避難するが、気にはならない。あんな小物に拘っている場合ではない。
「稼働している機体は……」
残念ながらスタンバイ状態の機体は2機だけだった。
「ネオマテリアルライン起動」
試作実験を繰り返していた特別な兵装のスイッチを入れた。
マテリアルが可視化されている訳ではないが、籃奈には、自機から出現したマテリアルがスタンバイ状態のCAMを絡めとったように思えた。
「接続完了」
母船での目的は達した。籃奈は機体を宇宙空間へ飛び出させる。
籃奈機を追うように、スタンバイ状態にあった2機のCAMが母船から飛び出すのであった。
★個人連動シナリオ『【空蒼】恨絶の狂機 5機目』のオープニングに続きます★
「コロニーの奥底へ行く」
仮設のテントの中で、荷物をまとめた星加 籃奈(kz0247)が、部下のリー軍曹に告げた。
強化人間の部隊を率いてコロニー内のVOIDを討伐し、拠点を構築する任務を籃奈は受けていた。
だが、それは籃奈をよく思わない“上司”の陰謀であった。
彼女が率いる隊には、軍の各隊から『問題がある兵士』が集められていたのだ。
そして、“上司”は強化人間の反乱・暴走という形で、自分達を一網打尽にしようと考えていた。
「強化人間は暴走する。けれど、暴走に至るには、キッカケがあると思うの。それを、確かめてくるわ」
「待って下さい。それじゃ、万が一でも暴走したら……」
「そしたら、暴走するキッカケが奥底にあるという事になる。それが何かを……リー軍曹が後でハンター達に依頼すればいい。貴方はその足じゃ……身動きは取れないのだから」
「暴走したら、ハンターに倒される可能性だってあるんですよ!」
それが暴走した強化人間が辿る道であった。
だが、このままコロニーに居ても、“上司”にコロニーごと消滅させられるだけだ。
「……そうね。けれど、これは力を得た『代償』というべきものよ」
籃奈の瞳に揺らぎは無かった。
もし、戦死した夫が、今の自分に置かれた状況にあったとしたら、きっと、同じ行動を取っていただろう。
その確信だけで、籃奈は孤独ではなかった。それに、強化人間の暴走が意図的なものと分かれば、他の強化人間達の生存にも繋がる可能性が高い。
「籃奈隊長殿……」
「これは命令よ、リー軍曹。貴方は生き延びなさい」
部下にそう言いながら、籃奈はポケットからメモリーカードを取り出した。
それをリー軍曹に確りと手渡しする。
「これを、鳴月牡丹という名のハンターに絶対に渡して。貴方好みの胸の大きい人だから、すぐ分かると思うわ」
爽やかな微笑みを見せて籃奈は立ち上がると、振り向きもせずに、自分のCAMへと向かう。
リー軍曹は隊長の名を幾度もなく呼んだが、それは無視された。
程なくして起動したCAMを見上げ、リー軍曹は静かに呟く。
「……俺、隊長みたいに胸の小さい女性が好みなんですよ」
●コロニー最奥
先程からアラートが鳴りっぱなしだった。
籃奈はうんざりとした様子で、アラートを止める。警報はCAM外のマテリアル汚染の濃度を知らせていた。
「イニシャライズフィールドは……正常に作動している……ようね」
頭を抑えながら、籃奈は呟いた。
独り言ではない。自分が見た状況をブラックボックスに録音させる為だ。
もしもの事があっても、機体さえ無事であれば、ハンター達が通信記録を確認するはずだからだ。
そうすれば、このコロニーで何が起こったのか、その手掛かりになる。
「……よくよく、考えてみれば、マテリアルの汚染で……暴走する可能性は、低いわね」
これまで、強化人間達はマテリアル汚染のある所で戦って来た。
もし、単なる汚染で暴走する事があれば、もっと前から暴走者が続出していただろう。
「となると、暴走する原因はもっと、別の事という……ことかしら……」
自身を落ち着かせるように深呼吸する籃奈。
頭に響く“声”は先程よりも強くなっているのだ。
「……私の頭の中に“声”が聞こえる。それは、コロニーに入ってから、この最奥に向かうほど、強くなっている」
“声”の言葉自体は理解不能だった。
あるいは、籃奈にとって知らない言語の可能性もある。
再現しようと言葉そのままを口に出そうとするが、上手くいかない。
「シーバ軍曹は……コロニー近くの宇宙空間で……“声”が聞こえると言った。コンドウ曹長は……コロニーの中で聞こえると言った」
これらは暴走する前兆だったのだろうか。
「一方で、リー軍曹にはそうした“声”は聞こえなかったと言った……推測するに、強化人間といっても……個人差が強いのではないだろうか。暴走する者と暴走しない者の差は分からないが……」
リー軍曹が特別な力を持っている――とは思えなかった。
「環境条件が……ほぼ同じという事を考慮すれば……暴走するかしないかは個人の素質が影響するかもしれない……あるいは……」
考えられるのは、誰かの“指示”なのか。
“声”が強化人間を暴走させる“指示”であれば、その“声”が届きにくい強化人間は暴走する事はないのではないだろうか。
その時、コンフェッサーのアラーム音がコックピット内に響いた。
今度は先程の汚染を知らせるものではない。
「敵!?」
モニターに映っているのは、VOIDのようだった。
人型の上半身がコロニーの外壁と同化しているようなVOID。
直後、籃奈に襲い掛かったのは、“声”の大合唱だった。
「これは……」
詳細を述べる事も出来ず、籃奈の意識は、もっと別の何かへと向かうのであった。
●コロニー宙域
籃奈の頭に“声”が鳴り続ける。
反響するように、脳裏に浮かぶのは今は亡き夫と、まだ幼さが残る一人息子。
平和に暮らしていたはずなのに……全ての元凶は、あの“上司”だ。夫を陥れ、軍需産業と不正を繰り返し、意に沿ぐわない者を口封じする。
それを黙認する軍も悪い。軍が必要な世界も悪い。
愛する夫が守ろうとした世界を保つには、悪者は倒さなければならない。
討伐艦隊が迫っている。あれを倒すには戦力が足りない……なら、増やせばいい。今なら、きっと、できる。
途切れ途切れの視界、あるいは幻視なのか。
見開いた瞳で籃奈はただただ、頭の中に響く“声”がままにコンフェッサーの操縦桿を握った。
「母船の中に……予備の機体が……あるはず……」
目標はあくまでも討伐艦隊だ。
だから、母艦はあってもなくてもいい。とりあえず、予備機を拾うのが先だ。
そうでもしないと、戦力が足りない。敵は宇宙軍の艦隊なのだ。
通信機から何か言葉が聞こえるが、それは無視した。
というよりかは、何を言っているのか、理解する事が困難だった。
「戦いが終わったら、後で聞くから……」
そんな言い訳を呟きながら、母船のハッチに取り付くと、強引に扉を開けた。
宇宙服を着た船員達が慌てて避難するが、気にはならない。あんな小物に拘っている場合ではない。
「稼働している機体は……」
残念ながらスタンバイ状態の機体は2機だけだった。
「ネオマテリアルライン起動」
試作実験を繰り返していた特別な兵装のスイッチを入れた。
マテリアルが可視化されている訳ではないが、籃奈には、自機から出現したマテリアルがスタンバイ状態のCAMを絡めとったように思えた。
「接続完了」
母船での目的は達した。籃奈は機体を宇宙空間へ飛び出させる。
籃奈機を追うように、スタンバイ状態にあった2機のCAMが母船から飛び出すのであった。
★個人連動シナリオ『【空蒼】恨絶の狂機 5機目』のオープニングに続きます★
リプレイ本文
●
特務双艦ジェミニに幾つかあるCAMデッキの一つ、ハンター達の機体が置かれている区画の多重ハッチが一斉に開いた。
多数の機体を緊急発艦させる為の工夫である。現れた機体数は12。特務双艦ジェミニを旗艦とする宇宙艦隊のCAM部隊の中で、ハンター達の機体は間違いなく同艦隊中、最大級の戦力だ。
「ひどい有り様……ね」
Sthen=No(R7エクスシア)(ka5902unit002)のコックピット内で十色 乃梛(ka5902)が呟いた。
モニターには戦場の様子が映し出されているが彼女の台詞は、戦況を如実に伝えていた。
多数の狂気VOIDが特務双艦ジェミニに取り付いている。もう少し早く出撃許可があればこんな事にはならなかっただろうに。
「チッ……リアルブルーの軍ってのぁ、全部、こんなんなのか?」
憎まれ口を叩くボルディア・コンフラムス(ka0796)は自機――炎帝(R7エクスシア)(ka0796unit003)――の兵装を選択する。
既に敵が船に取り付いているのだ。今頃、船内でも白兵戦が繰り広げられているに違いない。
本当を言うとそんな状況になる前に対処すべき事であるが、先程から指揮系統も混乱したままだ。
「デカブツに乗ってる癖に随分情けねぇ有様じゃねぇか……まぁ、見捨てるつもりはねぇけどな」
「そうね。できる限りの生存者救出とこの状況の沈静化……かな」
ボルディアの言葉に乃梛が頷きながら答える。
流れ弾が機体の装甲に当たり、不快な音を立てた。ゼーヴィント(魔導型デュミナス)(ka1963unit002)に被害が無い事を確認し、レベッカ・アマデーオ(ka1963)が混沌とする宙域に目を向ける。
「久しぶりにこっち来れたと思ったら……ああ、もう!」
モニターに映っているのは狂気VOIDだけではない。
宇宙軍のCAMも多数確認できる。確認できるが……その動きは敵味方に分かれていた。
その状況を冷静に確認しつつ、瀬崎・統夜(ka5046)は黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)のコントロールパネルを操作する。
「面倒なことが立て続けだな」
「操作を奪われてる機体のパイロットは生存しているんでしょ」
「そうらしいな。だから、放っておく訳にはいかないな」
暴走した星加 籃奈(kz0247)に機体のコントロールを奪われているだけで、パイロットは生存している。
戦闘訓練を受けているとはいえ、非覚醒者の軍人と、覚醒者であるハンターとの力量差は明らかであるが、CAMという機体同士の戦闘になると、その戦力比は生身の時よりも小さくなる。
そうした状況下で、パイロットを生存させつつCAMを無力化させるのは大変な事だろう。
「だけど……やるしかないよね!」
気合を入れて時音 ざくろ(ka1250)が宣言した。
狂気VOIDから特務双艦ジェミニを守りつつ、コントロールを奪われたCAMのパイロットを保護しなければならない。
「あの船には大事な仲間達も乗っているんだ。絶対に守り切って見せる……そして、籃奈も死なせやしないよ!」
魔動冒険機『アルカディア』(R7エクスシア)(ka1250unit002)のメインスラスターの出力を上げるざくろ。
特務双艦ジェミニには同じギルドのメンバーをはじめ、ハンター達が残っている。
万が一でも艦が撃沈するような事があれば……ここは宇宙空間だ。如何にハンターといえども、無事では済まないだろう。
それに、暴走している星加籃奈とは全く知らない関係ではないのだ。彼女を救う事が出来るのは今、ここに集まった者達だけが出来る事だ。
「全く……状況は最悪、ですか」
「薄々気にかけてたけど、本当に起こっちゃったか……」
鹿東 悠(ka0725)とアイビス・グラス(ka2477)が戦況を分析しながら、言葉を口にした。
艦隊の直掩機は暴走機体とコントロールを奪われた仲間からの攻撃と狂気VOIDに全く対処できていなかった。
大破した特務双艦ジェミニの対空ブリッジを確認した鹿東はAzrael(R7エクスシア)(ka0725unit001)の操縦桿をグッと握る。
「状況的にブリッジの狸が星加さんの仇――“上司”――だったんでしょう」
急接近した星加機が放った一撃で、戦闘ブリッジに移る前の艦隊司令室が全滅したのだ。
おかげで、指揮系統が失われてしまった。最後の命令としてハンター達の緊急発進が出たのは幸いだったかもしれない。
「……仇討に他人を巻き込んではダメだ。こんなやり方では怨嗟が続くだけ……」
「これ以上の暴走は止めないと……手荒な真似になっちゃうけど、待っててよね。じゃないと、牡丹さんや孝純君に合わせる顔がないから」
星加機と同じコンフェッサー(ka2477unit003)に乗るアイビスの脳裏に、鳴月 牡丹(kz0180)と籃奈の息子が浮かんだ。
なんとしてでも、籃奈は保護しなければならないだろう。あの二人の為にも。
だが、モニターに映る星加機の動きはそれを困難にさせるだろうと感じさせるものであった。
「これもまた……というより、間違いなく暴走の様ね」
【Aquarius】ガラティン(R7エクスシア)(ka0239unit003)の操縦席でユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が眉をひそめた。
艦隊に容赦なく襲い掛かる様子に戸惑いは感じられない。
「暴走によって齎されるものは、個人個人で違うのかしら?」
「個人差があるという事だろうな」
ユーリの疑問の応えたのはR7エクスシア(ka3669unit001)に乗るストゥール(ka3669)だった。
全ての強化人間が暴走する訳でもなく、また暴走内容にも意識レベルの差があるかもしれない。
「なんにせよ、全力で食い止めるしかない、か。本当に、問題が山積みね……」
「……よくよく思ってはいたが、暗いんだな。この戦場は」
強化人間の有り様の縮図を、今、垣間見ている気がした。
一般人では到底敵わない力を持つVOIDと対抗するには、ハンターのような力――強化人間――が必要となる。
だが、それは暴走するという諸刃の剣だ。それでも人は、その力に頼らなければならない。
甲板の上にダインスレイブ(ka6605unit004)と羽々斬(R7エクスシア)(ka6568unit001)が並んだ。
クラン・クィールス(ka6605)とアーク・フォーサイス(ka6568)の二人の機体だ。
「やられっぱなしは性に合わないとは言っていたが……これはまた、随分と派手にやり返したものだな」
図った訳ではないだろうが、籃奈はこれまで辛酸をなめさせられていた“上司”を討ったのだ。
思わずクランは苦笑を浮かべた。“上司”にとって、正に因果応報という事だ。
「とりあえずは、母艦を守り切ればいいという事か」
アークの台詞にクランは頷いた。
最大の懸念だった“上司”はもう居ないのだ。後は母艦を守り、籃奈を保護すればいい。
「……籃奈は恐らく、やるべき事をやったんだろう。次は……俺達の番だ」
もしかして、籃奈はこの状況になる事を予想していたかもしれない。
だから、ハンター達に「討って」と言ったのだろう。対峙した時に手が負えない状況かもしれないからだ。
籃奈は自らの宿命と戦い抜いた。今度はハンター達の番だ。
「そうだな。それでは、行こうか」
進みだしたアークの機体を横目に、央崎 遥華(ka5644)もキルケー(R7エクスシア)(ka5644unit001)をゆっくりと前進させた。
気合を入れる為か、手で頬をパンパンと叩く。
「元気にがんばっていくよー!」
戦況が不利な状態から始まるのだ。気負っていたら押し込まれるだろう。
「よしっ!」と小さく呟きつつ、イニシャライズフィールドのスイッチを入れた時だった。
警報音が突如として鳴る。このフィールド機能は狂気の影響を遮断する目的で作成されたものだが、それ以外の妨害効果に対しても威力を発揮する。
それが作動しているのだ。作動する分には問題ない。
「これは……負のマテリアルですか!?」
突然の事に驚く遥華。
モニター画面が不快な音を立ててチラつくが、それも一瞬の事。いつもの正常な画面に戻った。
「……まさか、コントロールを奪われる所でした?」
「そうみていいと思いますよ。各機異変はありませんか?」
間髪入れずに答えたのは鹿東だった。
幸いな事にハンター達の機体は誰一人としてコントロールを奪われずに済んだようだった。多少の運というのもあったかもしれないが。
「どういう事だ?」
念の為、イニシャライズフィールドを自分の周囲に展開させるストゥールの疑問に鹿東は丁寧に答え続ける。
「あくまで推測ですが……コントロール奪取に関しては一連の依頼で使用していたマテリアルラインの改良型を使った電子攻撃の一種でしょう」
籃奈は廃棄コロニーの制圧作戦において、試作兵装を持ち込んでいた。
作戦に参加している各機体の通信を繋ぐシステムであった。各機体が星加機をハブとして繋がっていたのだが……応用次第ではその繋がりを使って遠隔操作が可能だったのだろう。
「そっか! 通信!」
鹿東の言葉にハッとして乃梛が手を叩いた。
マテリアルラインで繋がっている訳でもないのに、ハンター間のみならず、コントロールを奪われているCAMのパイロットの悲痛な声も通信機を通じて聞こえてくるのだ。
これは、間違いなく、星加機の試作兵装の力だ。
「この会話も相手には聞かれているという事か」
「もしかして、呼び掛け続ければ籃奈さんに届く?」
クランとアイビスのそれぞれの言葉に鹿東は頷く。
「それだけではありません。星加機を機能停止に追い込めば、きっと、この状況を覆すこともできるはずです」
「なるほどな。難しい事はよく分からないが、俺達がやるべき事は単純明白って事か!」
ボルディアは力強く告げると、炎帝のスラスターを全開にしたのだった。
●
混乱極める戦場にボルディアの炎帝が突入する。
獣を連想させるようなマテリアルのオーラを発しながら、炎帝は狂気VOIDの攻撃を避けていった。
「あー、テステス……これホントに聞こえてんのか? 俺はハンターだ。救援に来た」
救援という言葉にCAMパイロット達の反応が早かった。
指揮系統が失われていたからこそ、ボルディアの言葉は彼らにとって救いであったようだ。
「で、だ。まずは俺が敵を引き付ける。お前等はその間に戦線を整えろ」
「た、頼んだ」
コントロールを奪われなかった数機が一度引き上げる。
空いたスペースにボルディアは機体を滑り込ませた。すぐさま狂気VOIDに囲まれるが、それは狙い通りだ。
CAM用のハルバードを豪快に振り回す炎帝。
その一撃でVOIDの一団が砕け散ると、遥華が駆るキルケーがレーダー上に映る次の一群に狙いを定める。
「危険度の高いものから」
ピピっとサポートロボットが反応してモニターに索敵結果を表示した。
まずは艦を守る必要があるが、敵の数が多いので、優先対象を決める必要があるのは当然の事だった。
「この数の狂気VOID。それに、コントロールを奪われた友軍機も」
ガトリングガンから放たれる銃弾が機能奪取された機体へ向かう。
直撃する寸前にほぼ直角に近い形でその機体が避けた。
遥華としては牽制で撃ったものだ。通信機から中のパイロットの絶叫が聞こえてくる。
入れ替わるように狂気VOIDが迫るが、それをレベッカのゼーヴィントが迎え撃つ。
「随分と統制取れてるじゃん……こりゃ苦労しそうだわ。時間稼いでくるからヨロシク」
機鎌を八の字に振り回しつつ、柄を伸ばす。
接敵する時には長大な大鎌となり、緑色にマテリアルの光を発する刃で狂気VOIDを両断した。
一瞬、動きの止まった所に残った狂気VOIDからの攻撃が集中する。
「そりゃ狙うよね……別方向からお客さん来たよ!」
メインスラスター全開。囲みを突破して艦に襲い掛かるVOIDに突貫する。
それを邪魔するようにコントロールを奪われた友軍機が割って入るが、レベッカはそれで止まる事はない。
不用意に接近してきた1機を攻性防壁で弾き飛ばす。
「恨んでくれていいよ。こっちだって命賭けてんだから……そうそう落とされるわけにはいかないんだ!」
通信機から聞こえてくる悲鳴を聞きつつ、機体をVOIDの群れの中へと向けた。
「あたしに構わず、撃って!」
「分かった……ジェミニの防衛に専念する」
ダインスレイブの砲身を微調整しながらクランが答えた。
この状況ならば籃奈の方は他の仲間に託すしかない。
(救えたなら幸運だが……いや、ダメだとしても、籃奈も覚悟の上だろう……)
要は“幸運”を掴み取ればいい。それがどんなにか細い糸であったとしても。
クラン機が放った砲弾がゼーヴィントの脇をかすめて飛んでいく。
「新たに取付こうとした分は止めらたようだ」
「敵はざくろ達が引き付けて、射線も遮る。だから、そのうちに味方同士の連携と立て直しを!」
アークとざくろ。二人のエクスシアが甲板スレスレに並ぶと、背部の円形マテリアルエンハンサーが展開した。
最大出力でのマテリアルを放出。それが輝く翼を形成する。
「救援が来た、安全だと分かれば、この混乱もある程度は抑えられるかもしれません」
一度、はばたくようなゆらぎと共に形成された翼は、ただのマテリアルの壁ではない。
敵の攻撃や移動、そして射線すらも防ぐ障壁となるだ。
「アルカディア最大出力、はばたけ光の翼っ!!」
ざくろが機体を移動させる。
最大出力で翼を出現させているので、移動以外の行動は出来ないが、今はそれでも十分だ。
広く展開したおかげで艦を庇う事はできる。だが、この能力も完璧ではない。射線を防ぐが範囲攻撃の効果範囲は防げないからだ。
負のマテリアルによる疑似ミサイルが幾つも爆発する。
「耐えてくれアルカディア」
「そう簡単に抜かせたりはしない」
モニターに映るざくろとアークの機体を確認しつつ、クランは通信機に向かって呼び掛ける。
「先任者は誰だ?」
「そ、その誰かを確認中でして……」
怒号が飛び交う中、頼りない返事が返ってきた。
通常、指揮権の継承は一定のルールが存在する。既に指揮上層の者達が全滅した以上、生き残った者の中でもっとも階級が高い者に指揮権が継承されるだろうが、複数人がそれもバラバラの場所に居た事が災いとなったようだ。
特務双艦ジェミニが巡洋艦二隻分以上の大きさを持ち、大勢の乗組員が乗っている事も影響しているだろう。
「……指揮権継承まで、こちらで簡易的に指示、いや、助言を出す。兎に角、戦線はこちらが支えるから立て直しに専念するんだ」
「わ、分かった。頼む」
頼まれたが、やるべき事が多い。戦闘可能な友軍機の数や配置の再調整もある。
それでもやらなければならない。横目でレーダーパネルを叩きながら、クランは砲撃を放った。
●
戦場を流星のように駆け抜ける星加機とその直掩機。
あまりの速さについていくだけで精一杯だ。
「幾ら呼び掛けても直掩機から返事が無いけど……」
乃梛がSthen=Noの操縦席で呟いた。
息づかいや絶叫とか独り言とか何か聞こえてきてもいいはずだが、直掩機からは何も返事が無いのだ。
「アンテナとか頭部とか、壊していけば、この事象も解除できるのよね?」
マテリアルライフルで照準を付けるが、相手の動きが早すぎる。
この状態で特定の部位を狙うのは難しそうだ。
「まずは機体を止めなくちゃならないって、そういう事だな」
ため息をつきながら瀬崎が狙いを定めた一撃を放つが、常識では考えられないストップ&ゴーで避けられる。
あんな動きが出来るのは、パイロットが居ないからだろうか。もし、中に生身の人間が居れば操縦席内でミンチになっているはずだ。
「さて……どうしたものか」
「肉薄して、直接捉えるしかないです」
ユーリの機体がマテリアルの残光を残して一気に迫る。
斬魔刀が振るわれるが、僅かに直掩機を掠る程度だった。
「ある程度動きをトレース出来るとはいえ、やはり生身の様にはいかないわね。って、愚痴っても仕方ないけど」
敵の反撃。素早く機体を操作し、斉射を避けるとくぐるように回り込む。
それを追い掛ける直掩機。一気に間合いを取る事も出来たが、ユーリは付かず離れずの位置を保った。
「直掩機を分断させます」
ユーリが稼いだ一瞬の隙をついてアイビスの機体が星加機を追撃する。
複雑な機動を描くが、ギッと瞳を見開き、辛うじて付いていく。
「こういう形で戦う事になるのはちょっと残念だけどね。少し長いダンスに付き……って、これじゃ!」
進路上にコントロールを奪われた友軍機が割って入って邪魔をする。
全力で叩けば、中のパイロットは死んでしまうかもしれないし、かといって、無視する訳にもいかない。
「追いつけそうなのに!」
「機体操作を奪われていたらキリが無いですね。困った電子攻撃です」
状況を冷静に観察していた鹿東が淡々と言った。
同時に自分が発した言葉に違和感を覚えた。それを確かめるように通信機に向かって告げた。
「遥華さん。先程、イニシャライズフィールドが作動したと言いましたね」
「え!? あ……はい。そうです」
突然、呼び掛けられて驚きながらも遥華は答える。
それは彼女の機体だけではない。全員の機体が同様の現象が一瞬、現れた。
「負のマテリアルの力で機体のコントロールを奪うという能力かもしれません」
「それなら、私がイニシャライズオーバーで支援しよう」
ストゥールが応えるとアクティブスラスターを全開にしてエクスシアを飛ばす。
追撃されていると気が付いた星加機が狂ったような機動を描きつつ、周囲にコントロールを奪ったCAMを集めた。
「今だ!」
タイミングを見計らってストゥール機がイニシャライズオーバーを作動させた。
瞬く間に広がるマテリアルの結界。その範囲は宇宙空間では狭いものかもしれないが、進路を阻もうとした友軍機を巻き込むには十分だった。
「き、機体の操縦が戻った!」
「こっちもだ!」
数機がコントロールを復帰させる。
同時に、機体の操縦が奪われる能力がバッドステータスである事が判明した瞬間でもあった。
「引き続き、援護する。この機会に直掩機を墜とす!」
「仕掛けが分かれば怖いものなしね。できる限り救いたいから」
乃梛がホッとした声で言った。
少なくとも、これで友軍機を撃ち落とす必要性は低下したはずだ。
再び遠距離からマテリアルライフルを放つ。当たらなくてもいい。牽制になれば十分だからだ。
回避行動を取った瞬間を狙ってストゥールがスキルトレースで機導術を発動させる。
「回り込め、ユーリ君」
「分かりました」
扇状に放たれたマテリアルの炎を避けるように無理な挙動を取る直掩機。
その姿勢を整える前に、ユーリの機体がマテリアルソードを構え、一直線に突撃した。
激しい衝撃と共に、剣先が直掩機を貫く。
「まずは、1機目です」
同時に通信機から機体操作が戻ったとCAMパイロット達の歓声が響いた。
それは全機ではないにせよ、吉報だ。
「直掩機が中継機としても機能していたのか」
そんな推測を呟きながら瀬崎は残る直掩機に狙いを定める。
ようやっと勝利への道筋が見えてきたのだ。ここからが正念場だろう。
●
イニシャライズオーバーでのバッドステータス解除。
そして、中継機を兼ねていた直掩機を1機落とし、戦況は改善されてきた。
「狂気VOIDへの対処は俺達に任して、保護したCAMをいつでも回収できるようにするんだ」
クランが指揮権を継承した士官に告げる。
機体操作が不能のまま宙域を漂っている機体もいるからだ。
「て、敵の数も多いようだが」
「心配無用だ」
短く言うと、クランは機体に備え付けられた砲身から徹甲榴弾を放った。
強力な砲撃支援能力を持つダインスレイブが固定砲台のように次々と砲撃を繰り返す。
「纏まっているなら、好都合というもの」
構えた対VOIDミサイルが幾重にも弧を描きながら飛翔する。
狂気VOIDにとって、クラン機は脅威に映ったようだった。周囲のVOIDが急接近してきた。接近戦なら勝てるとでも思ったのか。
「抜かせたりはしないといったはずです」
斬艦刀でVOIDを切り刻みながら羽々斬が舞い降りる。
コントロールを奪われた友軍機がその背後に迫る――銃撃に機体を捩じって回避すると、長大な刀を横一文字に払った。
「コックピットは狙いませんから」
友軍機は両脚を切り落とされる。その衝撃で吹き飛ぶと甲板上を転がっていく。
彼の機体は先程から斬艦刀を巧みに扱い、VOIDは討伐し、友軍機は無力化させていたのだ。
「クランの背は俺が守る」
「……アーク。それなら、任せた!」
二機が甲板上で奮闘を続けるように、艦周囲でも激戦は続いていた。
もはや、艦に取り付くのは止めたようで、多数の狂気VOIDが暴れまわっている。
コントロールを奪われた機体の数も少なくなってきている。
「特攻する機体がいなくて良かったよ」
レベッカが安堵しながら言う。追い詰められた状況で機体を突っ込ませてきたらどう止めるかと考えていたが、その状況にはならずに済んだようだ。
VOIDを機鎌で斬り裂きつつ、スラスターを吹かし、敵の攻撃を避けた。
次々に標的が現れるが数度斬りつけては引き寄せるよう戦場を駆ける。
「もうちょいでまとめ切れるから薙ぎ払って!」
「ったく、無茶しやがって。ちゃんと囲いから脱出しろよ」
ハルバートを勢いよく振った炎帝が姿勢を整えると、豪快に突撃する。
炎のオーラを噴き出しながら進路上にいたVOIDを弾き飛ばして迫るその様子は正しく炎の皇帝ともいうべきか。
「だぁらぁぁぁ!」
長大なハルバートが振り下ろされる直前、レベッカは機体のブースターを点火した。
圧倒的なまでの衝撃と共に、ゼーヴィントがその場から消え去るように移動する。
「ここから援護するよ!」
プラズマライフルの銃口をVOIDへと向けた。
ゼーヴィントと入れ替わるように囲まれた炎帝だが、ピンチでは無かった。
むしろ、敵を集めた所で集中砲火が可能だろう。援護するようにコントロールを取り戻した友軍機が次々に銃撃を放つ。
「どうやら、残った直掩機も倒したようですね」
レーダーとモニターの様子を確りと確認した遥華。
遥華は未だに残る狂気VOIDの群れを定めると魔砲「天雷」を構える。
「少し、お片付けしますっ!」
スキルトレースが発動、練り上げた術式を砲に込めた――刹那、キルケ―の足元から浮かび上がったマテリアルの石礫が白銀の光を纏って、放たれる。
強力な魔法を放てる反面、魔砲の使用回数は限られている。
「最近、戦魔女みたいになってきてるような……もうちょっと前からか」
苦笑を浮かべながら遥華はキルケ―の魔導エンジンの出力を上げた。コックピット内に響くエンジン音。
マテリアルエンジンから魔砲へとエネルギーを充填しているのだ。
その僅かな間、遥華はモニターに映る強化人間の乗る機体を見つめる。
「できることなら――あくまで『希望』でしかないけど……助かるのであれば、どうか無事で」
「大丈夫。きっと」
ざくろの声を残しながらアルカディアが宙域を飛翔する。
(可能であれば、暴走CAMは行動不能にして操縦者を助けたいけど……)
そうさせてくれるような状況ではないと、ざくろ自身はよく理解していた。
だから、自分に課せられた役割を果たすだけだ。
VOIDからの攻撃はフロートシールドで防ぎつつ、スキルトレースで機導術を放つ。
ブラストハイロゥを使い切った今、1体でも多くの敵を倒すしかない。
「ロプロース! ……アルカディアバードアタック!」
アルカディアに装着されていたロプラスがマテリアルに包まれる。
マテリアルの塊が驚くべき速さで射出されるとVOIDを貫き破った。
「よし、このまま押し返そう!」
周囲の仲間や友軍機に呼び掛けた。防衛完了まで、後少しだ。
●
狂気VOIDが駆逐されつつある。コントロールを奪われた機体も回復している。
後は、星加機を止めればいい……だが、その状況は芳しくなかった。
「流石カスタマイズされた事だけあるわね、けど食いつかせて貰うわ!」
「この速さ、改造だけではなさそうですね」
アイビスとユーリの二人の機体が星加機を追い掛ける。
邪魔が入らなくなったが、運動性能は先程よりも高まっている気がした。
ハンター達が知る由もないが、マテリアルラインで伸ばした負のマテリアルを操り、機体を外側から引っ張り、加速力を高めていたのだ。
「それに、この、動き……っ!」
キュっと止まり、急上昇、急降下する動きはCAMという概念を、もはや超えている。
このままだと、幾ら強化人間とはいえ、体が持たないだろう。
「死なせるつもりはない。だけど、生半可な手加減じゃ助けられない。だから、全力で機体を沈黙させる!」
ユーリ機が剣を突き出しながら突進する。
直撃コース……が、星加機がバルーンを射出した。
コンフェッサー独特の能力であるマテリアルバルーンだ。
「これは……ただのバルーンではないようですね」
負のマテリアルを湛えたそれは、それ単体がVOIDのようだ。
「今度は違う直掩機が出て来たか」
「ここは私達に任せて」
新手に対してストゥールと乃梛が向かって行く。VOIDが相手であれば、遠慮はいらない。
出現したバルーンVOIDは星加機を追うような動きを見せた。
「追わせない!」
紫色の光線が宙域を一直線に貫く。ストゥールの機体が放ったマテリアルライフルだ。
その一撃が脅威と感じたようだ。宇宙空間というのに跳ねるように迫るバルーンVOIDは負のマテリアルの光線を撃ってきた。
機体を上昇させて避けたストゥール機とすれ違うように三日月斧を構えた乃梛機が急降下する。
「星加さん! 聞こえているでしょ!」
呼び掛けながらバルーンVOIDに三日月斧に突き立てた。
元々がバルーンなだけあったからか、耐久力はなさそうだ。数撃もすれば倒せるだろう。
だから、斧を振り回しながら、乃梛は呼び掛けた。
「星加さん!!」
返事はない。聞こえてくるのは呪詛のような呟きのみ。
ハンター達の声は届いていないようだ。
星加機はその間も高速で飛び回っている。視界の中に留めておくのですら、苦労するほどだ。
「速すぎる……このままじゃ……」
アイビスの悲痛な声に、鹿東は一人の少年を思い浮かべていた。
「止められるか? ……いや、孝純君のこともある」
複雑な機動を描く星加機を追い掛けるように機体を飛ばす鹿東。
艦の方はおおかた決着がついた。後は、暴走する星加機だけだ。
「黒幕も死んだと仮定するならこのまま彼女を止めて、一先ずのハッピーエンドと洒落込みますか」
アクティブスラスターを最大に回す。
(しかし…俺も随分と甘くなったもんだ)
そんな苦笑を浮かべた時だった。
機体を残骸に固定させた瀬崎が銃口を星加機に向けたまま叫ぶ。
「このままじゃ旦那さんの……正嘉さんの二の舞だぞ、星加籃奈!」
だが、反応はない。やはり、ハンターの声は誰も彼女に届いていないようだった。
「聞け、星加籃奈!」
それでも、瀬崎は諦めない。その時、通信機から女性の声が聞こえてきた。
それは瀬崎が特務双艦ジェミニの中にいる仲間からの通信を流していたのだ。
「……思いを込めて此処でできることを!」
その言葉に励まされるように少年の声が通信機から響く。
「か……母さん!」
変わらず星加機の動きは止まらない。
それでも、少年の叫びは続いた。幾度も繰り返して。
「母さん! 母さん!」
心の奥底から、力の限り叫ぶ少年の声。
アイビスは覚悟を決める。この親子を不幸にしてはいけない。あの利発な少年に重い未来を背負わせてしまう訳にはいかないと。
既に全開になっているアクティブスラスターにスキルトレースで疾影士の力を発動する。猛烈なGが全身を襲う。
機体の拳に宿るマテリアルの光を残しながら追い掛けた直後、星加機の動きが一瞬止まった。
どうして止まったのか、そんな事考えている暇は無かった。
再び動き出した星加機。加速の差は圧倒的だが――。
「藍奈さん!」
その一撃が辛うじて星加機の足に届き、粉砕した。
星加機の体勢が崩れる。クルクルっと回転し無防備だ。
この好機を瀬崎も逃さなかった。
「今しかない!」
放たれたのはマテリアルの冷気を帯びた弾丸。
それが残った脚に直撃。脚部のスラスターの動きを不調にさせたのだ。
「少々痛いが……我慢しろ!」
急速接近したのは、鹿東の機体だった。
斬艦刀と可変機銃で切り掛かるが、両腕でそれぞれ止められる。だが、鹿東は可変機銃の機構を作動。
機体を回転しつつ、盾の部分で星加機を叩きつけた。
なおも噴出を続けていた星加機のスラスターが弱々しく消えていき、やがて、動きを止めた。
戦闘の状況が見えているのか、通信機からは少年の叫び声が続いていた。
「母さんは!?」
「……大丈夫だ。これぐらいでは強化人間は死なない」
生きているという確証は無いが死んだ感触を鹿東はしなかった。
これまでの激しい機動と先程の衝撃で気絶しているのだろう。
「重要参考人を確保。ジェミニ管制、最寄りの格納庫に運ぶ。受け入れ準備を頼む」
鹿東の台詞に通信機から多くの歓声が上がった。
ちょうど狂気VOIDも殲滅が終わった所のようだ。
「私も手伝うわ。機体から降りれば回復魔法を使えるから」
乃梛が星加機を挟むように掴む。
先導するようにストゥールの機体が進む。
「任務完了だな」
「そういう事だ」
口元をフッと緩める瀬崎。
仲間のハンター達に星加機が受け入れられるハッチ番号を告げた。
機体のチェックを行いながらアイビスがふと疑問を口にする。
「そういえば……なんで、あの時、藍奈さんの機体は動きを止めたのかな?」
それまで追随するのが難しい程の運動性能を見せていたのに。
「分からないけど、きっと……」
応えたのはユーリだった。
少年の声を星加も聞いていたはずだ。ハンター達の声は届かなくとも。
「きっと、家族の絆……だと思うわ」
強化人間の暴走には謎が多い。呼び掛けで止まるという単純な話ではないだろう。
それでも、信じるには値する奇跡が起こった。それでいいのかもしれない。
「そういう事で良いと私も良いと思います」
遥華が想い深く頷きながら同意した。
一瞬だけちょっとクールな家族が思い浮かんだが、あんな風に叫ばれたら恥ずかしいな思い、コホンと咳払いする。
「船も守れたし、これって任務以上の事ができたって事でいいのかな!?」
「そうだよ! 艦隊のCAMパイロットも無事だし、籃奈も保護できたんだから」
レベッカの問いに、ざくろが力強く答える。
細かい事で何か残っているかもしれないが、一先ずの危機は去ったとみていいはずだ。
「息子が見ている目の前で倒すようなことにならずによかったぜ」
少年の叫び声を思い出しながらボルディアが呟く。
もし、ハンター達に母親を倒されていたら、少年の心に大きな傷を作ってしまう所だったかもしれない。
「そうなったら、ハンターを恨んだかもな……」
クランの暗く抑えて言った台詞にアークは頷いた。
悪い連鎖に繋がれば、最悪――新しい敵をハンター達は自ら生み出していた可能性をある。
他者が聞けば馬鹿らしいと思う人もいるかもしれない。けれど、復讐を誓って人類の前に立つ堕落者だっているのだ。可能性が無いとは言い切れない。
「さぁ、任務完了です。帰りましょう。待っている人達の所へ」
静かに告げたアークの言葉が通信機を介して、宙域に響いていった。
強襲を受けた宇宙軍艦隊だったが、ハンター達の尽力の結果、コントロールを奪われた機体は正常に戻り、襲ってきた狂気VOIDも殲滅した。
また、暴走していた星加籃奈の捕縛に成功したのだった。保護された籃奈は意識不明のままだが、命に別状はなく、息子である孝純の付き添いで月面基地へと送られるのであった。
特務双艦ジェミニに幾つかあるCAMデッキの一つ、ハンター達の機体が置かれている区画の多重ハッチが一斉に開いた。
多数の機体を緊急発艦させる為の工夫である。現れた機体数は12。特務双艦ジェミニを旗艦とする宇宙艦隊のCAM部隊の中で、ハンター達の機体は間違いなく同艦隊中、最大級の戦力だ。
「ひどい有り様……ね」
Sthen=No(R7エクスシア)(ka5902unit002)のコックピット内で十色 乃梛(ka5902)が呟いた。
モニターには戦場の様子が映し出されているが彼女の台詞は、戦況を如実に伝えていた。
多数の狂気VOIDが特務双艦ジェミニに取り付いている。もう少し早く出撃許可があればこんな事にはならなかっただろうに。
「チッ……リアルブルーの軍ってのぁ、全部、こんなんなのか?」
憎まれ口を叩くボルディア・コンフラムス(ka0796)は自機――炎帝(R7エクスシア)(ka0796unit003)――の兵装を選択する。
既に敵が船に取り付いているのだ。今頃、船内でも白兵戦が繰り広げられているに違いない。
本当を言うとそんな状況になる前に対処すべき事であるが、先程から指揮系統も混乱したままだ。
「デカブツに乗ってる癖に随分情けねぇ有様じゃねぇか……まぁ、見捨てるつもりはねぇけどな」
「そうね。できる限りの生存者救出とこの状況の沈静化……かな」
ボルディアの言葉に乃梛が頷きながら答える。
流れ弾が機体の装甲に当たり、不快な音を立てた。ゼーヴィント(魔導型デュミナス)(ka1963unit002)に被害が無い事を確認し、レベッカ・アマデーオ(ka1963)が混沌とする宙域に目を向ける。
「久しぶりにこっち来れたと思ったら……ああ、もう!」
モニターに映っているのは狂気VOIDだけではない。
宇宙軍のCAMも多数確認できる。確認できるが……その動きは敵味方に分かれていた。
その状況を冷静に確認しつつ、瀬崎・統夜(ka5046)は黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)のコントロールパネルを操作する。
「面倒なことが立て続けだな」
「操作を奪われてる機体のパイロットは生存しているんでしょ」
「そうらしいな。だから、放っておく訳にはいかないな」
暴走した星加 籃奈(kz0247)に機体のコントロールを奪われているだけで、パイロットは生存している。
戦闘訓練を受けているとはいえ、非覚醒者の軍人と、覚醒者であるハンターとの力量差は明らかであるが、CAMという機体同士の戦闘になると、その戦力比は生身の時よりも小さくなる。
そうした状況下で、パイロットを生存させつつCAMを無力化させるのは大変な事だろう。
「だけど……やるしかないよね!」
気合を入れて時音 ざくろ(ka1250)が宣言した。
狂気VOIDから特務双艦ジェミニを守りつつ、コントロールを奪われたCAMのパイロットを保護しなければならない。
「あの船には大事な仲間達も乗っているんだ。絶対に守り切って見せる……そして、籃奈も死なせやしないよ!」
魔動冒険機『アルカディア』(R7エクスシア)(ka1250unit002)のメインスラスターの出力を上げるざくろ。
特務双艦ジェミニには同じギルドのメンバーをはじめ、ハンター達が残っている。
万が一でも艦が撃沈するような事があれば……ここは宇宙空間だ。如何にハンターといえども、無事では済まないだろう。
それに、暴走している星加籃奈とは全く知らない関係ではないのだ。彼女を救う事が出来るのは今、ここに集まった者達だけが出来る事だ。
「全く……状況は最悪、ですか」
「薄々気にかけてたけど、本当に起こっちゃったか……」
鹿東 悠(ka0725)とアイビス・グラス(ka2477)が戦況を分析しながら、言葉を口にした。
艦隊の直掩機は暴走機体とコントロールを奪われた仲間からの攻撃と狂気VOIDに全く対処できていなかった。
大破した特務双艦ジェミニの対空ブリッジを確認した鹿東はAzrael(R7エクスシア)(ka0725unit001)の操縦桿をグッと握る。
「状況的にブリッジの狸が星加さんの仇――“上司”――だったんでしょう」
急接近した星加機が放った一撃で、戦闘ブリッジに移る前の艦隊司令室が全滅したのだ。
おかげで、指揮系統が失われてしまった。最後の命令としてハンター達の緊急発進が出たのは幸いだったかもしれない。
「……仇討に他人を巻き込んではダメだ。こんなやり方では怨嗟が続くだけ……」
「これ以上の暴走は止めないと……手荒な真似になっちゃうけど、待っててよね。じゃないと、牡丹さんや孝純君に合わせる顔がないから」
星加機と同じコンフェッサー(ka2477unit003)に乗るアイビスの脳裏に、鳴月 牡丹(kz0180)と籃奈の息子が浮かんだ。
なんとしてでも、籃奈は保護しなければならないだろう。あの二人の為にも。
だが、モニターに映る星加機の動きはそれを困難にさせるだろうと感じさせるものであった。
「これもまた……というより、間違いなく暴走の様ね」
【Aquarius】ガラティン(R7エクスシア)(ka0239unit003)の操縦席でユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が眉をひそめた。
艦隊に容赦なく襲い掛かる様子に戸惑いは感じられない。
「暴走によって齎されるものは、個人個人で違うのかしら?」
「個人差があるという事だろうな」
ユーリの疑問の応えたのはR7エクスシア(ka3669unit001)に乗るストゥール(ka3669)だった。
全ての強化人間が暴走する訳でもなく、また暴走内容にも意識レベルの差があるかもしれない。
「なんにせよ、全力で食い止めるしかない、か。本当に、問題が山積みね……」
「……よくよく思ってはいたが、暗いんだな。この戦場は」
強化人間の有り様の縮図を、今、垣間見ている気がした。
一般人では到底敵わない力を持つVOIDと対抗するには、ハンターのような力――強化人間――が必要となる。
だが、それは暴走するという諸刃の剣だ。それでも人は、その力に頼らなければならない。
甲板の上にダインスレイブ(ka6605unit004)と羽々斬(R7エクスシア)(ka6568unit001)が並んだ。
クラン・クィールス(ka6605)とアーク・フォーサイス(ka6568)の二人の機体だ。
「やられっぱなしは性に合わないとは言っていたが……これはまた、随分と派手にやり返したものだな」
図った訳ではないだろうが、籃奈はこれまで辛酸をなめさせられていた“上司”を討ったのだ。
思わずクランは苦笑を浮かべた。“上司”にとって、正に因果応報という事だ。
「とりあえずは、母艦を守り切ればいいという事か」
アークの台詞にクランは頷いた。
最大の懸念だった“上司”はもう居ないのだ。後は母艦を守り、籃奈を保護すればいい。
「……籃奈は恐らく、やるべき事をやったんだろう。次は……俺達の番だ」
もしかして、籃奈はこの状況になる事を予想していたかもしれない。
だから、ハンター達に「討って」と言ったのだろう。対峙した時に手が負えない状況かもしれないからだ。
籃奈は自らの宿命と戦い抜いた。今度はハンター達の番だ。
「そうだな。それでは、行こうか」
進みだしたアークの機体を横目に、央崎 遥華(ka5644)もキルケー(R7エクスシア)(ka5644unit001)をゆっくりと前進させた。
気合を入れる為か、手で頬をパンパンと叩く。
「元気にがんばっていくよー!」
戦況が不利な状態から始まるのだ。気負っていたら押し込まれるだろう。
「よしっ!」と小さく呟きつつ、イニシャライズフィールドのスイッチを入れた時だった。
警報音が突如として鳴る。このフィールド機能は狂気の影響を遮断する目的で作成されたものだが、それ以外の妨害効果に対しても威力を発揮する。
それが作動しているのだ。作動する分には問題ない。
「これは……負のマテリアルですか!?」
突然の事に驚く遥華。
モニター画面が不快な音を立ててチラつくが、それも一瞬の事。いつもの正常な画面に戻った。
「……まさか、コントロールを奪われる所でした?」
「そうみていいと思いますよ。各機異変はありませんか?」
間髪入れずに答えたのは鹿東だった。
幸いな事にハンター達の機体は誰一人としてコントロールを奪われずに済んだようだった。多少の運というのもあったかもしれないが。
「どういう事だ?」
念の為、イニシャライズフィールドを自分の周囲に展開させるストゥールの疑問に鹿東は丁寧に答え続ける。
「あくまで推測ですが……コントロール奪取に関しては一連の依頼で使用していたマテリアルラインの改良型を使った電子攻撃の一種でしょう」
籃奈は廃棄コロニーの制圧作戦において、試作兵装を持ち込んでいた。
作戦に参加している各機体の通信を繋ぐシステムであった。各機体が星加機をハブとして繋がっていたのだが……応用次第ではその繋がりを使って遠隔操作が可能だったのだろう。
「そっか! 通信!」
鹿東の言葉にハッとして乃梛が手を叩いた。
マテリアルラインで繋がっている訳でもないのに、ハンター間のみならず、コントロールを奪われているCAMのパイロットの悲痛な声も通信機を通じて聞こえてくるのだ。
これは、間違いなく、星加機の試作兵装の力だ。
「この会話も相手には聞かれているという事か」
「もしかして、呼び掛け続ければ籃奈さんに届く?」
クランとアイビスのそれぞれの言葉に鹿東は頷く。
「それだけではありません。星加機を機能停止に追い込めば、きっと、この状況を覆すこともできるはずです」
「なるほどな。難しい事はよく分からないが、俺達がやるべき事は単純明白って事か!」
ボルディアは力強く告げると、炎帝のスラスターを全開にしたのだった。
●
混乱極める戦場にボルディアの炎帝が突入する。
獣を連想させるようなマテリアルのオーラを発しながら、炎帝は狂気VOIDの攻撃を避けていった。
「あー、テステス……これホントに聞こえてんのか? 俺はハンターだ。救援に来た」
救援という言葉にCAMパイロット達の反応が早かった。
指揮系統が失われていたからこそ、ボルディアの言葉は彼らにとって救いであったようだ。
「で、だ。まずは俺が敵を引き付ける。お前等はその間に戦線を整えろ」
「た、頼んだ」
コントロールを奪われなかった数機が一度引き上げる。
空いたスペースにボルディアは機体を滑り込ませた。すぐさま狂気VOIDに囲まれるが、それは狙い通りだ。
CAM用のハルバードを豪快に振り回す炎帝。
その一撃でVOIDの一団が砕け散ると、遥華が駆るキルケーがレーダー上に映る次の一群に狙いを定める。
「危険度の高いものから」
ピピっとサポートロボットが反応してモニターに索敵結果を表示した。
まずは艦を守る必要があるが、敵の数が多いので、優先対象を決める必要があるのは当然の事だった。
「この数の狂気VOID。それに、コントロールを奪われた友軍機も」
ガトリングガンから放たれる銃弾が機能奪取された機体へ向かう。
直撃する寸前にほぼ直角に近い形でその機体が避けた。
遥華としては牽制で撃ったものだ。通信機から中のパイロットの絶叫が聞こえてくる。
入れ替わるように狂気VOIDが迫るが、それをレベッカのゼーヴィントが迎え撃つ。
「随分と統制取れてるじゃん……こりゃ苦労しそうだわ。時間稼いでくるからヨロシク」
機鎌を八の字に振り回しつつ、柄を伸ばす。
接敵する時には長大な大鎌となり、緑色にマテリアルの光を発する刃で狂気VOIDを両断した。
一瞬、動きの止まった所に残った狂気VOIDからの攻撃が集中する。
「そりゃ狙うよね……別方向からお客さん来たよ!」
メインスラスター全開。囲みを突破して艦に襲い掛かるVOIDに突貫する。
それを邪魔するようにコントロールを奪われた友軍機が割って入るが、レベッカはそれで止まる事はない。
不用意に接近してきた1機を攻性防壁で弾き飛ばす。
「恨んでくれていいよ。こっちだって命賭けてんだから……そうそう落とされるわけにはいかないんだ!」
通信機から聞こえてくる悲鳴を聞きつつ、機体をVOIDの群れの中へと向けた。
「あたしに構わず、撃って!」
「分かった……ジェミニの防衛に専念する」
ダインスレイブの砲身を微調整しながらクランが答えた。
この状況ならば籃奈の方は他の仲間に託すしかない。
(救えたなら幸運だが……いや、ダメだとしても、籃奈も覚悟の上だろう……)
要は“幸運”を掴み取ればいい。それがどんなにか細い糸であったとしても。
クラン機が放った砲弾がゼーヴィントの脇をかすめて飛んでいく。
「新たに取付こうとした分は止めらたようだ」
「敵はざくろ達が引き付けて、射線も遮る。だから、そのうちに味方同士の連携と立て直しを!」
アークとざくろ。二人のエクスシアが甲板スレスレに並ぶと、背部の円形マテリアルエンハンサーが展開した。
最大出力でのマテリアルを放出。それが輝く翼を形成する。
「救援が来た、安全だと分かれば、この混乱もある程度は抑えられるかもしれません」
一度、はばたくようなゆらぎと共に形成された翼は、ただのマテリアルの壁ではない。
敵の攻撃や移動、そして射線すらも防ぐ障壁となるだ。
「アルカディア最大出力、はばたけ光の翼っ!!」
ざくろが機体を移動させる。
最大出力で翼を出現させているので、移動以外の行動は出来ないが、今はそれでも十分だ。
広く展開したおかげで艦を庇う事はできる。だが、この能力も完璧ではない。射線を防ぐが範囲攻撃の効果範囲は防げないからだ。
負のマテリアルによる疑似ミサイルが幾つも爆発する。
「耐えてくれアルカディア」
「そう簡単に抜かせたりはしない」
モニターに映るざくろとアークの機体を確認しつつ、クランは通信機に向かって呼び掛ける。
「先任者は誰だ?」
「そ、その誰かを確認中でして……」
怒号が飛び交う中、頼りない返事が返ってきた。
通常、指揮権の継承は一定のルールが存在する。既に指揮上層の者達が全滅した以上、生き残った者の中でもっとも階級が高い者に指揮権が継承されるだろうが、複数人がそれもバラバラの場所に居た事が災いとなったようだ。
特務双艦ジェミニが巡洋艦二隻分以上の大きさを持ち、大勢の乗組員が乗っている事も影響しているだろう。
「……指揮権継承まで、こちらで簡易的に指示、いや、助言を出す。兎に角、戦線はこちらが支えるから立て直しに専念するんだ」
「わ、分かった。頼む」
頼まれたが、やるべき事が多い。戦闘可能な友軍機の数や配置の再調整もある。
それでもやらなければならない。横目でレーダーパネルを叩きながら、クランは砲撃を放った。
●
戦場を流星のように駆け抜ける星加機とその直掩機。
あまりの速さについていくだけで精一杯だ。
「幾ら呼び掛けても直掩機から返事が無いけど……」
乃梛がSthen=Noの操縦席で呟いた。
息づかいや絶叫とか独り言とか何か聞こえてきてもいいはずだが、直掩機からは何も返事が無いのだ。
「アンテナとか頭部とか、壊していけば、この事象も解除できるのよね?」
マテリアルライフルで照準を付けるが、相手の動きが早すぎる。
この状態で特定の部位を狙うのは難しそうだ。
「まずは機体を止めなくちゃならないって、そういう事だな」
ため息をつきながら瀬崎が狙いを定めた一撃を放つが、常識では考えられないストップ&ゴーで避けられる。
あんな動きが出来るのは、パイロットが居ないからだろうか。もし、中に生身の人間が居れば操縦席内でミンチになっているはずだ。
「さて……どうしたものか」
「肉薄して、直接捉えるしかないです」
ユーリの機体がマテリアルの残光を残して一気に迫る。
斬魔刀が振るわれるが、僅かに直掩機を掠る程度だった。
「ある程度動きをトレース出来るとはいえ、やはり生身の様にはいかないわね。って、愚痴っても仕方ないけど」
敵の反撃。素早く機体を操作し、斉射を避けるとくぐるように回り込む。
それを追い掛ける直掩機。一気に間合いを取る事も出来たが、ユーリは付かず離れずの位置を保った。
「直掩機を分断させます」
ユーリが稼いだ一瞬の隙をついてアイビスの機体が星加機を追撃する。
複雑な機動を描くが、ギッと瞳を見開き、辛うじて付いていく。
「こういう形で戦う事になるのはちょっと残念だけどね。少し長いダンスに付き……って、これじゃ!」
進路上にコントロールを奪われた友軍機が割って入って邪魔をする。
全力で叩けば、中のパイロットは死んでしまうかもしれないし、かといって、無視する訳にもいかない。
「追いつけそうなのに!」
「機体操作を奪われていたらキリが無いですね。困った電子攻撃です」
状況を冷静に観察していた鹿東が淡々と言った。
同時に自分が発した言葉に違和感を覚えた。それを確かめるように通信機に向かって告げた。
「遥華さん。先程、イニシャライズフィールドが作動したと言いましたね」
「え!? あ……はい。そうです」
突然、呼び掛けられて驚きながらも遥華は答える。
それは彼女の機体だけではない。全員の機体が同様の現象が一瞬、現れた。
「負のマテリアルの力で機体のコントロールを奪うという能力かもしれません」
「それなら、私がイニシャライズオーバーで支援しよう」
ストゥールが応えるとアクティブスラスターを全開にしてエクスシアを飛ばす。
追撃されていると気が付いた星加機が狂ったような機動を描きつつ、周囲にコントロールを奪ったCAMを集めた。
「今だ!」
タイミングを見計らってストゥール機がイニシャライズオーバーを作動させた。
瞬く間に広がるマテリアルの結界。その範囲は宇宙空間では狭いものかもしれないが、進路を阻もうとした友軍機を巻き込むには十分だった。
「き、機体の操縦が戻った!」
「こっちもだ!」
数機がコントロールを復帰させる。
同時に、機体の操縦が奪われる能力がバッドステータスである事が判明した瞬間でもあった。
「引き続き、援護する。この機会に直掩機を墜とす!」
「仕掛けが分かれば怖いものなしね。できる限り救いたいから」
乃梛がホッとした声で言った。
少なくとも、これで友軍機を撃ち落とす必要性は低下したはずだ。
再び遠距離からマテリアルライフルを放つ。当たらなくてもいい。牽制になれば十分だからだ。
回避行動を取った瞬間を狙ってストゥールがスキルトレースで機導術を発動させる。
「回り込め、ユーリ君」
「分かりました」
扇状に放たれたマテリアルの炎を避けるように無理な挙動を取る直掩機。
その姿勢を整える前に、ユーリの機体がマテリアルソードを構え、一直線に突撃した。
激しい衝撃と共に、剣先が直掩機を貫く。
「まずは、1機目です」
同時に通信機から機体操作が戻ったとCAMパイロット達の歓声が響いた。
それは全機ではないにせよ、吉報だ。
「直掩機が中継機としても機能していたのか」
そんな推測を呟きながら瀬崎は残る直掩機に狙いを定める。
ようやっと勝利への道筋が見えてきたのだ。ここからが正念場だろう。
●
イニシャライズオーバーでのバッドステータス解除。
そして、中継機を兼ねていた直掩機を1機落とし、戦況は改善されてきた。
「狂気VOIDへの対処は俺達に任して、保護したCAMをいつでも回収できるようにするんだ」
クランが指揮権を継承した士官に告げる。
機体操作が不能のまま宙域を漂っている機体もいるからだ。
「て、敵の数も多いようだが」
「心配無用だ」
短く言うと、クランは機体に備え付けられた砲身から徹甲榴弾を放った。
強力な砲撃支援能力を持つダインスレイブが固定砲台のように次々と砲撃を繰り返す。
「纏まっているなら、好都合というもの」
構えた対VOIDミサイルが幾重にも弧を描きながら飛翔する。
狂気VOIDにとって、クラン機は脅威に映ったようだった。周囲のVOIDが急接近してきた。接近戦なら勝てるとでも思ったのか。
「抜かせたりはしないといったはずです」
斬艦刀でVOIDを切り刻みながら羽々斬が舞い降りる。
コントロールを奪われた友軍機がその背後に迫る――銃撃に機体を捩じって回避すると、長大な刀を横一文字に払った。
「コックピットは狙いませんから」
友軍機は両脚を切り落とされる。その衝撃で吹き飛ぶと甲板上を転がっていく。
彼の機体は先程から斬艦刀を巧みに扱い、VOIDは討伐し、友軍機は無力化させていたのだ。
「クランの背は俺が守る」
「……アーク。それなら、任せた!」
二機が甲板上で奮闘を続けるように、艦周囲でも激戦は続いていた。
もはや、艦に取り付くのは止めたようで、多数の狂気VOIDが暴れまわっている。
コントロールを奪われた機体の数も少なくなってきている。
「特攻する機体がいなくて良かったよ」
レベッカが安堵しながら言う。追い詰められた状況で機体を突っ込ませてきたらどう止めるかと考えていたが、その状況にはならずに済んだようだ。
VOIDを機鎌で斬り裂きつつ、スラスターを吹かし、敵の攻撃を避けた。
次々に標的が現れるが数度斬りつけては引き寄せるよう戦場を駆ける。
「もうちょいでまとめ切れるから薙ぎ払って!」
「ったく、無茶しやがって。ちゃんと囲いから脱出しろよ」
ハルバートを勢いよく振った炎帝が姿勢を整えると、豪快に突撃する。
炎のオーラを噴き出しながら進路上にいたVOIDを弾き飛ばして迫るその様子は正しく炎の皇帝ともいうべきか。
「だぁらぁぁぁ!」
長大なハルバートが振り下ろされる直前、レベッカは機体のブースターを点火した。
圧倒的なまでの衝撃と共に、ゼーヴィントがその場から消え去るように移動する。
「ここから援護するよ!」
プラズマライフルの銃口をVOIDへと向けた。
ゼーヴィントと入れ替わるように囲まれた炎帝だが、ピンチでは無かった。
むしろ、敵を集めた所で集中砲火が可能だろう。援護するようにコントロールを取り戻した友軍機が次々に銃撃を放つ。
「どうやら、残った直掩機も倒したようですね」
レーダーとモニターの様子を確りと確認した遥華。
遥華は未だに残る狂気VOIDの群れを定めると魔砲「天雷」を構える。
「少し、お片付けしますっ!」
スキルトレースが発動、練り上げた術式を砲に込めた――刹那、キルケ―の足元から浮かび上がったマテリアルの石礫が白銀の光を纏って、放たれる。
強力な魔法を放てる反面、魔砲の使用回数は限られている。
「最近、戦魔女みたいになってきてるような……もうちょっと前からか」
苦笑を浮かべながら遥華はキルケ―の魔導エンジンの出力を上げた。コックピット内に響くエンジン音。
マテリアルエンジンから魔砲へとエネルギーを充填しているのだ。
その僅かな間、遥華はモニターに映る強化人間の乗る機体を見つめる。
「できることなら――あくまで『希望』でしかないけど……助かるのであれば、どうか無事で」
「大丈夫。きっと」
ざくろの声を残しながらアルカディアが宙域を飛翔する。
(可能であれば、暴走CAMは行動不能にして操縦者を助けたいけど……)
そうさせてくれるような状況ではないと、ざくろ自身はよく理解していた。
だから、自分に課せられた役割を果たすだけだ。
VOIDからの攻撃はフロートシールドで防ぎつつ、スキルトレースで機導術を放つ。
ブラストハイロゥを使い切った今、1体でも多くの敵を倒すしかない。
「ロプロース! ……アルカディアバードアタック!」
アルカディアに装着されていたロプラスがマテリアルに包まれる。
マテリアルの塊が驚くべき速さで射出されるとVOIDを貫き破った。
「よし、このまま押し返そう!」
周囲の仲間や友軍機に呼び掛けた。防衛完了まで、後少しだ。
●
狂気VOIDが駆逐されつつある。コントロールを奪われた機体も回復している。
後は、星加機を止めればいい……だが、その状況は芳しくなかった。
「流石カスタマイズされた事だけあるわね、けど食いつかせて貰うわ!」
「この速さ、改造だけではなさそうですね」
アイビスとユーリの二人の機体が星加機を追い掛ける。
邪魔が入らなくなったが、運動性能は先程よりも高まっている気がした。
ハンター達が知る由もないが、マテリアルラインで伸ばした負のマテリアルを操り、機体を外側から引っ張り、加速力を高めていたのだ。
「それに、この、動き……っ!」
キュっと止まり、急上昇、急降下する動きはCAMという概念を、もはや超えている。
このままだと、幾ら強化人間とはいえ、体が持たないだろう。
「死なせるつもりはない。だけど、生半可な手加減じゃ助けられない。だから、全力で機体を沈黙させる!」
ユーリ機が剣を突き出しながら突進する。
直撃コース……が、星加機がバルーンを射出した。
コンフェッサー独特の能力であるマテリアルバルーンだ。
「これは……ただのバルーンではないようですね」
負のマテリアルを湛えたそれは、それ単体がVOIDのようだ。
「今度は違う直掩機が出て来たか」
「ここは私達に任せて」
新手に対してストゥールと乃梛が向かって行く。VOIDが相手であれば、遠慮はいらない。
出現したバルーンVOIDは星加機を追うような動きを見せた。
「追わせない!」
紫色の光線が宙域を一直線に貫く。ストゥールの機体が放ったマテリアルライフルだ。
その一撃が脅威と感じたようだ。宇宙空間というのに跳ねるように迫るバルーンVOIDは負のマテリアルの光線を撃ってきた。
機体を上昇させて避けたストゥール機とすれ違うように三日月斧を構えた乃梛機が急降下する。
「星加さん! 聞こえているでしょ!」
呼び掛けながらバルーンVOIDに三日月斧に突き立てた。
元々がバルーンなだけあったからか、耐久力はなさそうだ。数撃もすれば倒せるだろう。
だから、斧を振り回しながら、乃梛は呼び掛けた。
「星加さん!!」
返事はない。聞こえてくるのは呪詛のような呟きのみ。
ハンター達の声は届いていないようだ。
星加機はその間も高速で飛び回っている。視界の中に留めておくのですら、苦労するほどだ。
「速すぎる……このままじゃ……」
アイビスの悲痛な声に、鹿東は一人の少年を思い浮かべていた。
「止められるか? ……いや、孝純君のこともある」
複雑な機動を描く星加機を追い掛けるように機体を飛ばす鹿東。
艦の方はおおかた決着がついた。後は、暴走する星加機だけだ。
「黒幕も死んだと仮定するならこのまま彼女を止めて、一先ずのハッピーエンドと洒落込みますか」
アクティブスラスターを最大に回す。
(しかし…俺も随分と甘くなったもんだ)
そんな苦笑を浮かべた時だった。
機体を残骸に固定させた瀬崎が銃口を星加機に向けたまま叫ぶ。
「このままじゃ旦那さんの……正嘉さんの二の舞だぞ、星加籃奈!」
だが、反応はない。やはり、ハンターの声は誰も彼女に届いていないようだった。
「聞け、星加籃奈!」
それでも、瀬崎は諦めない。その時、通信機から女性の声が聞こえてきた。
それは瀬崎が特務双艦ジェミニの中にいる仲間からの通信を流していたのだ。
「……思いを込めて此処でできることを!」
その言葉に励まされるように少年の声が通信機から響く。
「か……母さん!」
変わらず星加機の動きは止まらない。
それでも、少年の叫びは続いた。幾度も繰り返して。
「母さん! 母さん!」
心の奥底から、力の限り叫ぶ少年の声。
アイビスは覚悟を決める。この親子を不幸にしてはいけない。あの利発な少年に重い未来を背負わせてしまう訳にはいかないと。
既に全開になっているアクティブスラスターにスキルトレースで疾影士の力を発動する。猛烈なGが全身を襲う。
機体の拳に宿るマテリアルの光を残しながら追い掛けた直後、星加機の動きが一瞬止まった。
どうして止まったのか、そんな事考えている暇は無かった。
再び動き出した星加機。加速の差は圧倒的だが――。
「藍奈さん!」
その一撃が辛うじて星加機の足に届き、粉砕した。
星加機の体勢が崩れる。クルクルっと回転し無防備だ。
この好機を瀬崎も逃さなかった。
「今しかない!」
放たれたのはマテリアルの冷気を帯びた弾丸。
それが残った脚に直撃。脚部のスラスターの動きを不調にさせたのだ。
「少々痛いが……我慢しろ!」
急速接近したのは、鹿東の機体だった。
斬艦刀と可変機銃で切り掛かるが、両腕でそれぞれ止められる。だが、鹿東は可変機銃の機構を作動。
機体を回転しつつ、盾の部分で星加機を叩きつけた。
なおも噴出を続けていた星加機のスラスターが弱々しく消えていき、やがて、動きを止めた。
戦闘の状況が見えているのか、通信機からは少年の叫び声が続いていた。
「母さんは!?」
「……大丈夫だ。これぐらいでは強化人間は死なない」
生きているという確証は無いが死んだ感触を鹿東はしなかった。
これまでの激しい機動と先程の衝撃で気絶しているのだろう。
「重要参考人を確保。ジェミニ管制、最寄りの格納庫に運ぶ。受け入れ準備を頼む」
鹿東の台詞に通信機から多くの歓声が上がった。
ちょうど狂気VOIDも殲滅が終わった所のようだ。
「私も手伝うわ。機体から降りれば回復魔法を使えるから」
乃梛が星加機を挟むように掴む。
先導するようにストゥールの機体が進む。
「任務完了だな」
「そういう事だ」
口元をフッと緩める瀬崎。
仲間のハンター達に星加機が受け入れられるハッチ番号を告げた。
機体のチェックを行いながらアイビスがふと疑問を口にする。
「そういえば……なんで、あの時、藍奈さんの機体は動きを止めたのかな?」
それまで追随するのが難しい程の運動性能を見せていたのに。
「分からないけど、きっと……」
応えたのはユーリだった。
少年の声を星加も聞いていたはずだ。ハンター達の声は届かなくとも。
「きっと、家族の絆……だと思うわ」
強化人間の暴走には謎が多い。呼び掛けで止まるという単純な話ではないだろう。
それでも、信じるには値する奇跡が起こった。それでいいのかもしれない。
「そういう事で良いと私も良いと思います」
遥華が想い深く頷きながら同意した。
一瞬だけちょっとクールな家族が思い浮かんだが、あんな風に叫ばれたら恥ずかしいな思い、コホンと咳払いする。
「船も守れたし、これって任務以上の事ができたって事でいいのかな!?」
「そうだよ! 艦隊のCAMパイロットも無事だし、籃奈も保護できたんだから」
レベッカの問いに、ざくろが力強く答える。
細かい事で何か残っているかもしれないが、一先ずの危機は去ったとみていいはずだ。
「息子が見ている目の前で倒すようなことにならずによかったぜ」
少年の叫び声を思い出しながらボルディアが呟く。
もし、ハンター達に母親を倒されていたら、少年の心に大きな傷を作ってしまう所だったかもしれない。
「そうなったら、ハンターを恨んだかもな……」
クランの暗く抑えて言った台詞にアークは頷いた。
悪い連鎖に繋がれば、最悪――新しい敵をハンター達は自ら生み出していた可能性をある。
他者が聞けば馬鹿らしいと思う人もいるかもしれない。けれど、復讐を誓って人類の前に立つ堕落者だっているのだ。可能性が無いとは言い切れない。
「さぁ、任務完了です。帰りましょう。待っている人達の所へ」
静かに告げたアークの言葉が通信機を介して、宙域に響いていった。
強襲を受けた宇宙軍艦隊だったが、ハンター達の尽力の結果、コントロールを奪われた機体は正常に戻り、襲ってきた狂気VOIDも殲滅した。
また、暴走していた星加籃奈の捕縛に成功したのだった。保護された籃奈は意識不明のままだが、命に別状はなく、息子である孝純の付き添いで月面基地へと送られるのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談卓 鹿東 悠(ka0725) 人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/09/13 12:59:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/11 12:23:45 |