深き怨恨の底の先に

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/30 09:00
完成日
2015/01/04 19:21

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●王国西部のある街道にて
「ど、どうして止まるのですか?」
 慌てた様子で1人の男性が馬車の荷台から降りてきた。
 その周囲を囲う、数人の武装した者達。
「もう、そろそろ頃合いだからな」
 スラリと剣を抜く。
「な、な、なにがなんですか?」
「まだ、気がつかないのかい?」
 剣を抜いた者とは別の者が男性の身体を抑えた。
「お前はここで死ぬ。雑魔の襲撃を受けてな」
「ひぃ。ま、待ってくれ! し、死にたくない!」
 ジタバタ暴れる男性。
 囲っている者達は不気味な笑いを浮かべた。
「ほんと、馬鹿だな、お前は。荷物を運ぶだけで金になるわけねーだろ」
「た、頼むぅ。死にたくない!」
「しつけーよ!」
 無情な一撃が胸を貫通した。
 崩れ落ちる男性。そこへ更に剣が突き立てられる。
「死に……たくない……」
 男性はそう言い残して息絶えた。
「よし、死体を隠し、荷物を引き揚げるぞ」
 真っ赤に染まった剣を持った者が指示を出した。

●港街ガンナ・エントラータのある民家にて
 西部の街に貴重な荷物を送り届けるという仕事に向かった男性が雑魔の襲撃で死んだという連絡があり、男性の妻は泣き崩れた。
「なんで……あなた……」
 そこへ、ドンドンと扉を叩く音。
 返事よりも早く、扉が開かれると、風貌の悪そうな人間が数人勝手に家に上がって来た。
「な、なんですか、貴方達は!」
「なんですかは、こちらの台詞ですよ、奥さん」
 ビシっと書類を提示する。
 仕事の契約書の様だ。
「荷物の補償金を支払ってもらいますよ」
「な、なにを言っているのです! 主人は雑魔の襲撃で……」
「えぇ、残念な事です。ですが、我々も商売。預けた荷物の行方がわからない以上、補償してもらいますよ」
 その決め事のページを見せる。
 確かに、契約書には荷物の補償について明記されていた。
「そ、そんなの、無効です!」
「……いい加減にしろや!」
 風貌の悪い男が、妻の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「ろくな護衛をつけずに行ったのが悪いんだろうが! ゴタゴタ言わずに支払え!」
 突き放され、床に座り込む。
「そんな……あの、臆病な人が、護衛も付けずに西部には……」
 ハッとなって、顔を上げる。
 入ってきた者達はニヤニヤと笑っていた。
「あ、貴方達、まさか!」
「なにを妄想しているか、わかりませんが、ちゃんと支払って下さいね」
 良い衣装に身を包んだ眼鏡の男が笑いを堪えながら言った。
 そして、奴らは家から立ち去っていった。

●恨晴石
 妻は衛兵に相談したが、取り合って貰えなかった。
 ハンターオフィスに相談しようかと思ったが、報酬を出せるほどお金があるわけじゃない。
 途方に暮れた。
 この仕事が上手くいけば、笑顔で年が越せるねと出発前に微笑んだ夫の顔が思い浮かぶ。
「私に力があれば……」
 真相を調べる事も、憎き奴らを打ちのめす事もできるのに。
 だが、そんなものありはしない。あるのは、恨みだけだ。
 そんな人間だけが辿りつけるある場所に妻はいた。
「ここは……」
 噂で聞いた事があった。
 己の全てと交換で恨みを晴らしてくれるという石が、この港町のどこかにあると……。
 ボロボロの崩れかけた教会の中に、その石が神々しく鎮座していた。
 その石を撫でながら妻は恨みの全てをぶちまける。
 恨みの果てになにがあっても構わない。あの人がいない世の中に未練はない。
 さんざん告白し終わり、それでも、現実はなにも変わらないと諦めた時だった。
「貴女の願い、叶える事、できますよ」
 どこからか、緑髪の愛らしい少女が現れた。
 クルセイダーローブに身を包んでいる。ハンター……ではないようだが。
 ローブが風でなびくと、フリルのドレスがチラリと見えた。
「誰……ですか?」
 少女からは、ただ者ではない気配を感じた。
「貴女のノゾミを叶える者です。貴女の全てと交換で、これを……」
 そう言って、少女は、トンと大きめのツボを恨晴石の横に置いた。
「この壺の中には、スライムという液体状の化け物が入っています」
「ば、化け物が?」
「蓋を開けたら出てきます。見境なしに襲ってきますので、貴女も……」
 そこから先は言葉にしなかった。
 だが、妻は微笑んだ。
 これでいい。これがあれば、仇も、そして奴らの悪だくみも明らかにできる。
「私の全て、ここに置いていきますね」
 わずかなお金。そして、愛した人がくれた大切な指輪を置いた。
「貴女のノゾミ、確かに受け取りました」
 少女が丁寧に頭を下げ、指輪とお金を取って、去って行った。
 その後ろ姿が完全に見えなくなってから、妻は壺を大事そうに抱え込んだのだった。

●あるハンターオフィスより
「事件はある行商斡旋所の倉庫で発生しました。倉庫での取引の最中に、突然、液体状の化け物が出現した様です」
 受付嬢は資料を用意しながら、説明をする。
「倉庫の中にいた数名の人間は全員死亡したと思われます。ハンターの皆様は、速やかに液体状の化け物の討伐をお願いします」
 そして、いくつかの書類に目を通す。
 普段なら、ここで説明は終了だ。後は依頼に参加するか決めるだけだが……。
「これは、追加の内密な依頼になります」
 声の大きさを落とす。
「この行商斡旋所は、荷物の配送を斡旋し、その荷物を紛失させて保証金を巻きあげるという悪い評判があります。ただ、評判だけで調査するわけにもいきません」
 倉庫の見取り図を広げた。
 階層はない大きい蔵の様な建物だ。
「皆様には、戦闘後、速やかに倉庫内を調査し、その証拠を突き止めて貰いたいと思います」
 つい先日、紛失したという荷物の概要の資料が提示された。
 それは、ある中身が入ったといるという紫色に染められた木箱との事だ。
「未確認なのですが、倉庫の中で亡くなった人の中に、先日木箱を紛失した際に死んだ方の配偶者がいたとの事です」
 こんな時期なのに、悲しい事ですねと受付嬢は俯いた。
 クリスマスの飾り付けだけが、異様に明るかった。

リプレイ本文

●倉庫前にて
「いいから、さっさと、スライムを退治しやがれ!」
 倉庫の前で柄の悪そうな大男がハンター達に叫んだ。
 カルス(ka3647)が、間取りの詳細や照明の有無を尋ねた返事がこれだ。
 大男以外にも目付きや態度が悪そうな斡旋所の職員が数名、ハンター達を睨み付けている。
(被害者の配偶者が、何故、ここの倉庫に……。偶然にしてはおかしな取り合わせじゃの)
 ヴィルマ・ネーベル(ka2549)が、その視線の受けながら心の中で感じた。
 他の仲間と同様に照明を確認する。光の入らない倉庫の中は真っ暗なはずだ。
「きな臭い話ですねぇ。これは是非とも、裏側を暴いてみたくなります」
「そうね」
 アシュリー・クロウ(ka1354)の小声に、シエラ・ヒース(ka1543)が頷いた。
 表向きはスライムの排除だが、ハンター達に課せられた依頼は、斡旋所の悪行の証拠を押さえる事もある。
「その馬はなんだ!」
「あぁ、こいつっすか。こいつに、武器や道具を背負わせてるんっす」
 神楽(ka2032)が大袋を乗せたまま引いてきた馬を見て、斡旋所の職員が咎めた。
 それを、ヘラヘラとした態度で、何事も無いように返す、神楽。
「スライムの体液は酸性なんで、飛び散って蒸発すると、俺達は、肌がピリピリしたり涙が出る程度でなんすけど、あんた等は入った瞬間溶けるっす! 骨になりたくないなら急に開けるなっす!」
 と、続けて、そんな風に警告した。
「そういう事だ。中でドンパチやってる間はな、死にたくなかったら入ってくンじゃねえぞ」
 スライム討伐後の調査に関しては内密な依頼だからだ。すぐに職員が入って来たら、困る事になる。
 カルスも神楽に合わせるように、職員達を脅す。そして、左右の手にそれぞれ、拳銃を構えた。
「スライムね……撃ち抜き甲斐は無さそうだし、食えそうもねェな……」
 彼は独り言を呟きながら、シエラが開いた扉の先の暗闇に銃口を向ける。
 ハンター達が入った後、再び倉庫の扉は閉められた。

●依り代
 暗闇の中、ハンター達の持つ照明の光に照らされて、なにかが立っていた。
 女性の犠牲者だ。既に死んでいる。その女性の表面を、液体状のスライムが覆っていた。
「あはは、ぶよんぶよんなのに、人の形してる~。なんで地面にべちゃ~って潰れちゃわないのかな?」
 短杖を向けて、夢路 まよい(ka1328)が無邪気に言い放つ。
 このスライムは、人を依り代にできる様だ。
 ハンター達の存在に気がついたのか、スライムが人の姿のまま、腕を振りかぶり襲い掛かってきた。
「わぁ! 俺っすか!」
 攻撃を避けようにも、左右には仲間、背後には馬と避ける場所がなく、上体をひねらせる。それでも、避けきれず、頭部を守った腕に衝撃が走る。
「とりあえず、早々にご退場願いましょうか!」
 アシュリーが強烈な一撃を叩き込む。
 スライムの液体を貫通し、依り代となっている犠牲者の肉に剣が届いた。
 痛点があるかわからないが、依り代の骨の可動域を無視して、大きく仰け反る。
「さっそくの、御対面というところか」
 カルスは仲間達の隙間から、射線を確保し、マテリアルを強く込めて銃撃した。
 依り代の右手首から先がスライムの残骸ごと吹き飛ぶ。
「人の形してるから、腕とか脚とか細長いとこ突き出てるし……その分、スパッと切り離しちゃうのが楽だもんね♪」
 夢路が容赦ない事をサラっと言うと、風の刃を繰り出した。
 依り代の左足がスパっと切れて、その場で倒れる。
 スライムが残った右足を振り回す。それを、今度は上手に避け、神楽がナイフで切りつけた。
 これは、すぐにでも、戦闘が終わってしまいそうねとシエラが苦笑を浮かべる。
 戦闘時間が長いという事にして、探索の時間を作るはずなので、少しは、苦戦したというアピールを残していたかったのだ。
 諦めて、彼女もナックルで殴りかかる。こうなったら、少しでも早く、退治するのみだ。
 その一撃は、狙ったわけじゃないが、依り代の首元に入った。
 ゴロっと吹き飛んで転がって行く首は……依り代となってきた犠牲者の顔は、笑っていた。
 暗闇でそれが見えなかったのは、ハンター達にとって、良かったのか悪かったのか。
 夢路が、によによとした視線をシエラに向ける。
(狙ってやったわけじゃないのよ)
 とりあえず、心の中で、シエラが呟いた。
「バラバラになるまで切り刻んじゃうよ」
 楽しそうな夢路の言葉は、彼女が操る風の刃で有言実行されるのであった。
 あっという間に戦闘は終わった。
 が、まだ倉庫内では、『戦闘音』が絶えない。ヴィルマが鉄パイプで棚やら、なにやらを倒したり、散らかしているのだ。
 すぐさま、神楽が、ナイフの先端を鍵穴に叩き込んで、鍵を破壊する。
「不慮の事故で鍵が壊れて棚が崩れたっす」
 外で待機しているであろう、斡旋所の職員に向って叫んだ。
 棚やら倉庫の中にあった箱やらで、扉を封鎖する。
「おい! どうなっているんだ!」
 外から大男の声が聞こえた。
「扉が事故で開かなくなったが心配ないのじゃ!」
 そう言いながら、神楽と一緒に入り口を封鎖するヴィルマだった。

●深き怨恨の底の先に
 シエラの気合の掛け声。
 悪行の証拠を探しているわけではなく、一人、演武をしているのだ。
 先ほどのスライムがいると、見立て、ワザと、強く踏み込んだりして、大きな音なんかも立ててみる。
「まだ終わってねェぞ、逃がすな!」
 カルスが入口付近で、扉を警戒しつつ、空砲を打つ。
 外からは、「まだか!」と聞こえてくるが、返事の代わりに、もう1発空砲を撃った。
 まだまだ、戦闘は継続していなければ困るのだ。
 神楽も魔導銃を撃ちながら、証拠を探索する。
「狭い場所はこの子に任せて、私はとりあえず探しやすい場所から探しましょうか」
 アシュリーがペットの鼠を放つと、自身はランタン片手に倉庫の中を探しまわっていった。
 鼠は、鼻を上に向けて、なにかを確認した後に、倉庫内の箱やら袋を嗅ぎまわった。
「私も、ここの人達が悪いことしてた証拠を、探してみる~」
 のんびりな口調で夢路は言いながら、倉庫の高い所や奥の方を、しっかりと見て回る。
 戦闘を続けている役は、他の人に任せて、運んでいる途中に紛失したという紫色の木箱を探す。
「もし、見つかったりしたら、ここの人達が言ってたこと、変だよね~」
 各自が持ち込んだ灯りの中、シエラの演武が犠牲者に捧げる鎮魂の舞いの如く、続く。
 一緒に倉庫に入った彼女の柴犬は、一生懸命、床の臭いを嗅いでいた。
 ヴィルマは入口付近の物影に隠れて、ステッキを扉に向けて警戒する。
 もし、斡旋所の職員が強引に入って来た時には、眠りをもたらす雲の呪文を使うつもりなのだ。
「あったのかなぁ?」
 アシュリーのペットのネズミが、ある木箱をよじ登ろうとしていた。
 その木箱はなんの変哲もない、木箱だ。
 全員の視線が集まる。意外と、普通の木箱の中に、証拠となる紫色の木箱が入っているかもしれない。
 だが、中にはチーズが入っているだけだった。
「おやおや、ここに、チーズなんて……」
 ペットに仕事をさせるのは、難しかったのだろうか。
 そこへ、シエラのペットである柴犬が近付いてきて、臭いを嗅いでいった。
「とりあえず、こっちの準備は大丈夫っすよ」
 神楽が袋の中身を適当に入れ替えて、いつでも、紫色の箱を入れる準備を整える。
 これに隠して、ハンターオフィスに持って帰るつもりなのだ。
 しかし、肝心の箱はまだ見つからない。
「おい! いくらなんでも、戦闘が長すぎないか!」
 外から大男の声が響いた。
 かなり、怪しまれている。
 カルスが空砲を撃ちながら、扉を注視する。
 ガタガタと外から開けようとしているが、ヴィルマが持ってきた鉄パイプがつっかえ棒になって簡単には開かない。
「今倒したっす。でも、危ないから最低30分、出来れば1時間待って入るすよ~。それより早いと危ねっす!」
 神楽の苦し紛れの言い訳。だが、疑っているのか、聞こえてないのか、外から扉を開けようとする動きは止まる様子がない。
 時間があまりない。演武を止めて、シエラが首を傾げながら木箱を探す夢路に呼び掛ける。
「棚の幅に収納スペースがなさそうであれば、地下か天井裏はどうかしら?」
 そのヒントに、夢路はふと、床のある場所をぐるぐるまわる柴犬に視点を変えた。
「わかったぁ~」
 中腰になり、床をステッキでトントンと叩きながら、その辺りを歩く。
 やがて……。
「ここかしら」
「ここだね」
「ここですかねぇ」
 シエラと夢路とアシュリーの3人の声が重なる。
 明らか、他の床を叩いた時と違った音がした場所を丁寧に確認すると、なにか、引っ張れる金具が出てきた。
 せーので、3人で引っ張って持ち上げると、その下には、隠しスペースが現れた。
「あったっす。紛失したはずの紫色の木箱っす」
 神楽が、紛失物を確認したその時、倉庫の扉とその辺りを塞いでいた棚やら箱やらが大きな音と共に崩れた。
 外から職員が強引に中に入ろうとしているのだ。
 すぐさま、待ち構えていたヴィルマが眠りの雲を放つ。
 中に入ろうとした大男が、四つん這いで頭だけを突きだした変な体勢のまま寝た。
「スライムが特殊なガスを発生させおってのぅ、まだ充満しておるのじゃよ。危ないでのぅ合図があるまで外で待っていてくれるかえ?」
 ヴィルマが用意していた台詞を、もっともらしく言った。
 外からは慌てた様子で「分かった」と返事が聞こえた。
 すぐさま、カルスが外から中が見えない様な位置に立ち塞がる。
 大男は仲間から身体を揺すぶられて目を覚ました。
「ふざけやがって! てめぇら! 俺に魔法を使いやがったな!」
 ギロリとハンター達を睨むと、無理矢理、倉庫の中に入ってきた。
 それに続く、風貌の悪い連中。

●底に射す光
「スライムが液状化して隙間にまだ潜んでいるから危険よ」
「早く帰って眼と体を洗いたいんでもういいっすか? 」
 シエラと神楽が誤魔化すが、もはや、無駄の様だ。
 隠しスペースが開いているのが、ハンター達が持ってきた照明の灯りで、入口付近からでも見えているに違いない。
「こんな事して、ただで済むとは思うなよ! ハンター達が勝手に倉庫内をぶっしょ……」
 大男が話している途中で再び寝る。
 一行の視線がヴィルマに向いた。だが、首を横に振る。彼女が魔法を使ったわけではないようだ。
 となると、魔法を使ったのは……。
「悪い人達だから、捕まえちゃっていいんだよね?」
 あどけない笑顔の夢路。
 他の斡旋所の職員達はお互い顔を見合わせている。
 きっと、どうすればいいか判断つかないのだろう。
「ねぇねぇ、この人達、悪い人達なんでしょ? じゃあ、壊しちゃってもいい?」
 無情な事を言いながら、不気味な微笑みを浮かべる彼女に、職員達の表情はみるみる青くなった。
 彼女なら、本当にやりかねない。
「ダメよ。せっかく、悪行の証拠を掴んだのだから」
 シエラの制止に夢路が頬を膨らませる。
「ダメ? ふ~ん、つまんないな~」
「でも、面倒な相手だから、ここでやってしまうのも、一つの手かもしれないよね」
 シエラも不気味な笑みを作って、職員を睨む。
 夢路は彼女の台詞に、無邪気な笑顔になった。
「そうじゃの。証拠品も見つかったわけじゃし、こやつらの逃亡を防がなければならぬからのぅ」
 ヴィルマがロープを取りだした。
 証拠品と共に、職員達をハンターオフィスに突きだすつもりのようだ。
「世の中、悪は無くならねえな……金の為に犠牲を出すのは御免だぜ」
 二丁拳銃を職員達に向けるカルスの表情もまた、薄明かりの中、不気味に映る。
「それなら、コイツらを俺の持ってきた袋に詰めるってのもありっすね」
 神楽が楽しそうに、袋の口を広げた。
 斡旋所の職員達は、ガタガタと震えている。
 突然、1人が土下座して謝り出すと、一斉に残りの全員もそれに倣ったのであった。
 大男も職員達も縄で縛りあげられ、駆けつけた衛兵に証拠と共に連れていかれる。
「さて、忘れないうちにメモメモっと……。うーむ、リアルタイムでメモが出来なかったのが痛いですねぇ」
 アシュリーが残念そうに言いながら、一生懸命、メモに走り書きをする。
 今回の事の一部始終を小説のネタにするつもりなのだろうか。
「俺の活躍は脚色してもいいすよ」
 調子に乗る神楽に、横から夢路が無情な言葉を投げつける。
「唯一、負傷したんだから、きっと、命を落とす位にね~」
「えぇ!? そんな活躍はいらないっす! ね?」
 同意を求める風にカルスとシエラに視線を向けた。
「……さて、片付けるか」
「お手柄だったね、グラッセ」
 しばしの間の後、いそいそと倉庫の片付けに入るカルス。シエラは愛犬の頭を褒めながら撫でて、聞こえない振りをしたのであった。

 既に片付けに入っていたヴィルマが、スライムの依り代になっていた、女性犠牲者の身体の一部に手をかけた。
 そして、一つの考えに辿りついた。
 斡旋所の不正を暴くのに、この女性自身が、仕掛けた騒動だったとしたらと。
 だとしたら、このスライムはどこから来たのだろうという疑問が生じてきた。だが、いくら考えても答えには辿り着かなかった。
「不正が暴かれれば彼女は浮かばれるじゃろうか……いや、死人には何も伝わらぬかのぅ。次の被害者が出ないことだけが唯一の救いじゃ」
 暗い倉庫の中で、入口から差し込んでくる光がとても美しく見えた。


 こうして、ハンター達の調査によって、この行商斡旋所の悪行が明るみになり、捕まった職員達は裁きを受けたのであった。


 おしまい。

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MVP一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328
  • 縁を紡ぐ者
    シエラ・ヒースka1543

重体一覧

参加者一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • GossipHunter
    アシュリー・クロウ(ka1354
    エルフ|20才|女性|闘狩人
  • 縁を紡ぐ者
    シエラ・ヒース(ka1543
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 赤雷の幻影
    カルス(ka3647
    人間(紅)|22才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談をしましょうか。
アシュリー・クロウ(ka1354
エルフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/12/30 08:10:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/24 21:49:20