• 空蒼

【空蒼】夜叉羅刹の主

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/09/14 22:00
完成日
2018/09/21 00:32

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●大学生の夏休み
 イクシード・アプリをインストールしたものは暴徒化しやすい。
 と、言うのが美雪の周辺の共通の見解であった。東京都下にある某大学の文学部、その教室の一角。普段から顔を合わせる学生同士が、暗い顔をして窓から下を見下ろしている。
「夏休みもまだ残ってるし、里帰りして様子見ようかなって。家族も心配だし」
 一人が言った。
「そう、だね」
 美雪も頷く。彼女にも、帰る実家が都外にある。幼い頃美雪を引き取って面倒を見てくれた祖母は、常に美雪の身を案じてくれていた。美雪だって同じくらい心配だ。レポートの資料集めで東京に長く残っていたが、この状況を見ると、必要そうな資料を片っ端から借りて実家に帰った方が良さそうだ。
「つっても」
 友人は言った。皮肉めいた笑い方だった。
「夏休み明けに学校がある保証もないんだよね」

●北の武神
「おばあちゃん?」
 特急のチケットは無事に取れた。急な里帰りになる。美雪はその晩、実家の祖母に電話を掛けた。祖母の声ははつらつとしている。元気でいるようだった。
「美雪ちゃん! どうしたの?」
「うん。明日帰ろうかなって」
「ま! 嬉しい。レポートの資料は集まった?」
「集まったよ。ねえ、そっちは大丈夫? アプリの暴徒とか、VOIDとか、襲われてない?」
「こっちはねぇ、大丈夫。多聞天が守ってくれてるから」
「多聞天?」
 帝釈天四天王の事だろうか。祖母はとても嬉しそうに語る。
「そう! 多聞天よ! 美雪ちゃんも帰ってきたらきっと見られるわ。もう、すごいんだから。変なのが出ても多聞天が現れてどうにかしてくれるの!」
「……と言うことはそっちにも出るんだ、VOID……」
 ますます心配だが、多聞天とは何だろう?
「でもね、その多聞様がすごいから大丈夫なの」
「ふふっ」
 祖母がこうして元気でいると言うことは、実家周辺は比較的安全なのだろう。美雪は安心して電話を切った。

●災いの里帰り
 イクシード・アプリをインストールしたものは暴徒化しやすい。
 だって力を手に入れたから。
 出来なかったことをするんだ。

 美雪の母は彼女を産んで早々に亡くなったが、父親には問題があった。詳しいことは紙幅の都合で省略するが、経済的な困窮を自らの娯楽で招くタイプの人間だった。
 だから、彼の実母である祖母は、美雪を彼から取り上げた。

 そんなの自業自得じゃん。美雪はそう思っている。

 だから、イクシード・アプリをインストールした父親が報復に来ているなんて想像もしていなかった。
 帰って来て、怒号に驚いて居間に駆けつけたら、にやにやしている父親がいるなんて想像もしていなかった。

 祖母が、ほうきを構えてじりじりと後ずさっている。料理中に来たのだろう、割れたまな板と、大皿が転がっている。父には何カ所か裂傷があった。祖母が殴ったのだろう。けれど、それだけの怪我をしても、彼は何も動じていないように見えた。
 話を聞く限り、父にそんな根性はない。それで美雪はピンと来た。彼はアプリをインストールしている。
「おばあちゃん!」
「美雪ちゃん! 駐在さん呼んでぇ!」
 父がくるりとこちらを向いた。そして言った。
「美雪、迎えに来たよ。パパと一緒に暮らそう? このアプリがあればなんだってできんだからさぁ、もう苦労なんてかけないから」
「馬鹿なこと言わないで!」
 美雪はハードカバーの研究書を父親に投げつけた。すぐに祖母の肩を抱いて居間を出る。
 玄関にたどり着いた二人の背後から、父親が何かを投げつける。美雪の頭を掠めて扉前に落ちたのは、居間にあった椅子だ。玄関がふさがれて、美雪と祖母はすぐ左手の廊下に駆け出した。客間に入り、襖を素早く閉める。反対側の縁側を目指した。
 ここは美雪の育った家であり、祖母の自宅であるが、父の実家でもある。地の利は同じくらい。そういつまでも逃げ回っていられるとは思えない。縁側から出て、外を這っていくしかない。
 その時だった。轟音がして、外からまばゆい光が差し込む。家が揺れた。美雪は祖母をかばって床に伏せる。
「大丈夫!?」
 小声で尋ねると、祖母はほっとした顔を見せた。そして言った。
「多聞天よ」
「え?」
「多聞天が助けに来てくれたわ! もう大丈夫よ!」
「ババアどこ行きやがった! テメェの差し金かクソが! 美雪を返せ!」
「やだね! バチが当たったんだよこの馬鹿息子!」
「おばあちゃん!」
 声で居場所がバレてしまう。
 再び光と大きな音が轟いて、家が揺れた。父親は廊下で喚いている。どうやら度を失ったようだ。彼から逃げるなら今がチャンス。
 早く出ないと、父親ではなくて外の何かに家ごと潰されてしまう。美雪は祖母の手を握った。
「一緒に出るからね!」

●『多聞天』降臨
 一方、屋外では、光の槍と鎧で武装し、頭に光の輪を頂く人の形をした何かが上空に現れていた。何かを探すように飛ぶそれは、大きいものが一体、それに従うように、小さいものが四体。
 もし、それらが目についたなら、美雪の祖母は嬉しそうにこう言うだろう。

「ほら、美雪ちゃん、あれが多聞天」

●ハンドアウト
 あなたたちは、使徒出現の報せを受けて現場に駆けつけたハンターです。その道中であなたたちは嫌な話を聞きます。
「使徒が出た家の、勘当された息子に似た男がそっちに歩いて行った」
 と。更によくよく話を聞けば、その家には男を勘当したおばあさんが一人で暮らしていると言うではありませんか。あなたたちは家に急ぎます。
 駆けつけた家であなたたちが見たものは、半壊した玄関の家、家屋上空から何かを探し回るように飛んでいる使徒の姿でした。

リプレイ本文

●現場到着
「使徒が出たなら『勘当された息子が心を入れ替えて会いに来た』って線は薄そうだな」
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)がぼやくと、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)もやれやれと首を横に振った。恐らく、その勘当息子はイクシード・アプリをインストールしているのだろう。そのために使徒が来てしまった。
「イクシードアプリっていうのは本当に厄介だな? どうしようもない奴にまで簡単に力を与えてしまう。使徒とは逆に気が合うのかもしれない」
「アプリの話は聞いていましたが……何というか、どうしようもない人間もいるものですね」
 鳳城 錬介(ka6053)もそれに同意しながらやや遠い目をした。なんで勘当されたのか。ギャンブルで生活費をすってしまったから、と言うのである。
「ホント、悪意の塊だよな!」
 歩夢(ka5975)が唸るように言った。

 現場は教えられた家だった。半壊した玄関。おそらくは使徒の攻撃で壊れたのだろう。その数は合わせて五体。屋根の上を飛んで何かを探し回っている。
「私、おばあさんの保護に行ってきます」
 穂積 智里(ka6819)が仲間たちを見た。
「使徒のことはお願いしても良いでしょうか?」
「わかりました。保護の方をお願いします」
 魔導拡声器を取り出しながら、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が頷いた。他の面々も異論はない。

 家屋内突入は、老婦人保護の智里と、勘当息子捕縛のアルト、二人の支援をする錬介の三人が行くことになった。残り三人の内、レイオスと歩夢は使徒対応、エラは勘当息子の陽動を担当する。捕縛後は、エラが拾撃と攻性防壁の併用で使徒から守る方針だ。
 歩夢が玄関前で生命感知の結界を張った。その結果、三人分の生命体が引っかかる。
「三人いるぞ」
「一人は勘当息子、一人はおばあさんだろうが、もう一人は誰だろう。お孫さんかな」
 アルトが首を傾げた。
「そうかもしれない。二人分は近くにいたから、一緒に逃げてるのかも」
「一人を逃がしている可能性もあります。急ぎましょう」
 智里は心なしか落ち着かないように見えた。歩夢から、生命体の大まかな位置を教えられると、三人は半開きの玄関ドアから中に入り込んだ。
「頼んだぜ」
 一方、レイオスはフライングスレッドで屋根の上に飛び上がっていた。使徒はレイオスには特に反応を示さない。ただ、歪虚の力を探している。
 エラは、誤情報を流すために間を開けた。すぐに呼びかけては気付かれてしまう。
「お前達の攻撃は被害がデカ過ぎだ。悪いがこっちの相手になってもらうぜ」
 レイオスはそう言って、剣を構えた。使徒たちは聞いているのか聞いていないのか。
 同じように使徒を睨みながら、歩夢は籠手の力を解放した。修祓陣で、使徒の反撃に備える。
「家なき子にする訳にもいかないし、思い出もあるだろうしね……俺たちが相手だ」
 不意に、使徒の動きが止まった。屋根を見下ろしている。その視線の先に、レイオスも歩夢もいない。見付けたのだろう、勘当息子を。
「お前達の相手はこっち、だ!」
 ソウルエッジで強化したデイブレイカーが衝撃波を放つ。近くにいた二体に命中した。突然の衝撃に、顔がこちらを向く。
「よし、来い」
 今の攻撃で生じた音を利用できると踏んだエラは、拡声器を持ち上げて屋内に向かって呼びかけた。
「お母様はこちらで保護しました。あなたの目的が勘当への報復かどうかは知りませんが、そちらにいては目的を達成できないのでは? 潰れるご実家と運命を共にされますか?」
 中から怒号が上がった。

●家屋からの脱出
 屋内に突入したアルト、錬介、智里は、歩夢から聞いた生命体の位置に向かって行った。
 智里と錬介が客間らしき部屋に入ると縁側でかばい合っている二人の女性がいた。一人は老人で、もう一人は若い女性だ。
 歩夢の言っていたもう一人は、やはり孫だったらしい。顔がなんとなく似ている。
「誰!?」
 若い女性がぎょっとしたように二人を見た。
「私はハンターの穂積智里と言います。使徒がアプリ使用者しか襲わなくても、巻き添えで怪我することはあります。一旦家から離れましょう」
「どう言うこと!? ハンター!? 本物!?」
「本物です。俺は鳳城錬介と申します。この方の息子さんを狙って使徒が来ています。ここも危険です」
 錬介が口添えした。彼は言いながらアンチボディを二人にほどこす。老婦人はほっとしたような顔になった。
「美雪ちゃん、あたしちょっと楽になったよ」
「え、それ大丈夫なやつ?」
 美雪と呼ばれた女性は、まだ疑いの眼差しだ。智里は灯火の水晶球を飛ばして見せる。
「灯火の水晶球はハンターしか使えません!」
「そうなの?」
「そうだ……アースウォール! 魔術を使えるのもハンターだけです、使っても暴走してないでしょう?」
「美雪ちゃん、大丈夫だよ。多聞天がこの人たちに向かって来ないから。大丈夫な人」
「時間がありません」
 錬介が言ったその時、外で轟音がした。家がわずかに揺れる。外で仲間と使徒の戦いが始まっているのだ。彼らがこの家への攻撃を許すとは思えないが、既に家の損傷は激しい。
「わかりました。どうしたら良いの?」
 美雪は二人を見た。智里は二人を同時に脇に抱えて、叫んだ。
「少しだけじっとしていて下さい! 鳳城さん、私はこれで!」
「お気を付けて」
 智里は家を飛び出した。
「お母様はこちらで保護しました。あなたの目的が勘当への報復かどうかは知りませんが、そちらにいては目的を達成できないのでは? 潰れるご実家と運命を共にされますか?」
 外から、拡声器を通したエラの声が聞こえた。

 アルトは踏鳴で迅速な捜索を試みた。が、そんなに探し回る必要はなかった。何しろ、勘当息子は足音が大きいのである。
「何だ、テメェ……」
 彼に暴走の気配は見えなかった。おそらくは元の性格だろう。どうしようもない奴。自分で言ったことが思い起こされる。彼女は鞭を取り出した。
「このままでは家が壊れかねない。あなたには外に出てもらう」
「はぁ? 人の家に勝手に上がり込んで何言って……」
 アルトは鞭を振るった。かなり加減している。あえて回避を許すような動き。勘当息子は鼻で笑いながらそれを軽く避けようとした。読み通りだ。
「はっ!」
 そのタイミングで、彼女は手首を翻した。後ろに下がろうとする脚を捉えて引き倒す。
「何しやがる!」
 さて、取り押さえるのは簡単だが、その後どうするか、である。いくら強化人間になっているとは言え、急ごしらえ。加減を誤れば殺しかねないし、それは本意ではない。だからと言って中途半端に意識があると暴れる。
 その時だった。
「お母様はこちらで保護しました。あなたの目的が勘当への報復かどうかは知りませんが、そちらにいては目的を達成できないのでは? 潰れるご実家と運命を共にされますか?」
 外からエラの誤報が入る。
「……んだとぉ!?」
「そういうことだ。お前の目的はもう果たせない」
「う、うるせー! これ外しやがれクソ!」
「アルトさん!」
 そこに錬介が合流した。彼は鞭で脚を捉えられている勘当息子を見ると、聖盾剣を振り上げた。
「時間がありません! 叩き出しましょう! 大丈夫!」
 錬介は元の人の良さ、好青年であることがにじみ出るような声で断言した。
「生きてさえいれば治してみせます!」
「ちょ、ちょっ……!」
 抗議しようとする勘当息子を、彼は思いっきり殴りつけた。

「美雪ちゃん、智里ちゃん、今、うちの方から鐘の音が聞こえなかったかね?」
「お寺さんじゃない?」
「色んな音がしていますから……」
 智里は気付いている。今聞こえた音が、人をぶん殴る音であることに。おそらくは勘当息子の捕縛に成功したのだ。彼女は、状況確認の意味合いも込めてトランシーバーで仲間に連絡を入れる。
「穂積です。生存者二名保護、脱出完了しました」

●視線
「穂積です。生存者二名保護、脱出完了しました」
「こちらヴァレンティーニ。了解した。こちらも暴徒を確保した。そちらは頼む」
 イヤリングで智里と通信したアルトは、錬介に頷いて見せた。彼にはそれで充分だった。二人が気絶した勘当息子を連れて外に出ると、エラが駆け寄った。屋根の上では、胸を押さえたレイオスが使徒を睨んでいる。
「お疲れ様です。怪我はありませんか」
「ああ、それは大丈夫だよ。エラさん、後はお願いして良いかな」
「はい」
「錬介! レイオスが怪我してるんだ。治してやってくれ」
 歩夢が錬介に声を掛ける。聞けば、使徒の反撃が急所に入ったのだと言う。元々の生命力の高さで致命傷には至らないが、半分は削られたに違いない。本人もアンチボディを持っているが、フルリカバリーがあるならそれを使うに越したことはない。
「了解しました」
 錬介はそう言うと、ファーストエイドの術式を用いてフルリカバリーをレイオスに掛けた。傷も、残存していた痛みも消え失せて、レイオスはほっと息を吐く。
「ありがとな、錬介」
 そう言ってから使徒の方を向いて、彼は息を呑んだ。その様子に、他の面々も彼の視線を追う。
 その兜の下に両目があるとしたら、合計十。全ての視線が、のびている勘当息子に向かっているのだ。使徒は一斉に地面に向かって降りてくる。
「こいつは……マジで狙ってやがるな」
 歩夢は不敵にも威嚇にも見えるように歯を見せている。レイオスは屋根から降りた。
「やっぱり怒ってるか? 横槍を入れたのは悪かったな。それはそれとして、アレはこっちでなんとかするから、そろそろ退いて貰えないか?」
 彼は使徒に向かってそう呼びかけた。しかし、使徒たちは皆、勘当息子の方を見つめたまま動かない。さながらマネキンのようだ。
「責任をもって処理する。だからここは撤退してもらえないだろうか」
 アルトも、胸を張って凛とした声で告げた。やはり反応はない。
「聞いてんのか?」
「わかりません」
 歩夢が訝しげに言うのに、錬介が押し殺した声で答えた。相談する気配もない。
 その時、彼らは自分にマテリアルが注がれるのを感じた。見れば、枝が自分に伸びていて、光の珠の如き白い花が咲いている。
「撤退しそうにありません」
 エラの導強だ。七竈の花が咲く幻影は、七度くべられても燃え尽きないと言われる、その強さになぞらえたものだろうか。
「応戦しかないでしょう。彼はこちらで保護します」
「任せろ」
 レイオスが剣を構え直した。それを合図にするように、各々武器を構える。

●夜叉羅刹の主
 アルトは踏鳴で素早く小型の使徒の内二体に近づいた。連華、と同業者に呼ばれた連続攻撃を仕掛ける。鞭を振るった彼女が通り過ぎた後、その二体の使徒は光の粒子になって消滅した。
「逆に気が合うかもしれない、と思っていたが残念だ」
「別に精霊を殺しに来たわけじゃないんだけどな!」
 調子を取り戻したレイオスは衝撃波を放つ。小型のものと、甲冑を着た大型のものに向けたが、大型はかわした。受けた小型二体も、かなりのダメージが入ったには違いないが、持ちこたえている。
「これでどうだ!」
 歩夢が五色光符陣を展開する。掛かったのは小型の一体だ。今のがとどめになったようで、こちらも消滅する。
 エラが拾撃を張りながら、三烈を射出。残りの小型一体と大型一体を狙い撃ちにする。小型のものはそれで全て消滅した。残りは大型の一体だ。
「エラさん」
 錬介がアンチボディを用いて、導強で消費したエラの生命力を回復する。錬介もガウスジェイルを使うつもりではいるが、使徒が勘当息子を狙う以上、攻撃にさらされるのはエラの方になる。防御も兼ねての処置だ。
「ありがとうございます。さてどう出ますかね」
 使徒はじっとこちらを見ている。やがて、槍を持ち直して突進した。
「我が身に来たれ、災厄」
 拾撃は狙い通りに作用した。ベクトルをねじ曲げられた槍の穂先は、勘当息子ではなくエラに向いた。彼女はすぐ様、攻性防壁を展開する。
 電撃が炸裂した。弾き飛ばされて、使徒は砂利を踏んで滑るようにノックバックされる。電撃が甲冑の上を走っている。かなりしびれているはずだ。
 全員が固唾を呑んで見守っていると、使徒はしばらくじっとしていたが、やがて空に飛び上がった。アルトが空中戦に備えて空渡の準備をしたが、使徒はそのままこちらに背を向けて去って行った。
「行ったのか……?」
 歩夢が符を構えながら、目をこらしてそちらを見つめる。
「おそらくは……追う必要はないでしょう」
「ひとまずは安心か」
 エラとアルトが戦闘体勢を解いた。レイオス、歩夢、錬介も、ほっと息を吐きながら武器を下ろす。アルトはイヤリングで智里に通信を入れた。
「ヴァレンティーニだ。使徒は撤退した。そちらは大丈夫か?」
「穂積です。お疲れ様でした。こちらは特に何もありません。戻ります」
 ハンターたちは警察と救急、そして児童相談所に通報をした。勘当息子はそのまま連行されて行く。最後まで暴走と呼べる行いはなかった。個人差があるらしいことは知られているが、この手の男が暴走しなかったのは意外と言えば意外である。
 老婦人は病院で手当を受けた。逃げる過程での打撲傷と体力の消耗への処置がされた。
 児童相談所に通報したは良いが、大学生の美雪は対象年齢を超えていた。とはいえ、職員は親身になって美雪の話を聞いた。落ち着いた彼女は、ひとまずは病院近くのビジネスホテルに泊まり、祖母のことは、自分が東京で一人暮らししているマンションに連れて行くとのことだった。

●Meine Oma
 話は少し前に遡る。ハンターたちが、本格的に使徒と戦闘を開始したときのことだ。
「あー、あんたたち、罰当たりだよぉ」
 老婦人は遠くから使徒とハンターたちの交戦を見守って嘆く。
「あれは使徒と言います。この世界の大精霊が作った白血球みたいなものです。VOID由来のものを襲うんですけど……周囲の被害を考えずに戦闘するので、見かけたら避難した方が良いです」
「使徒ってキリストの弟子?」
「便宜上そう呼ばれています」
「どっちにしろ罰当たりだよ……あー、でもすごいねぇ」
「……あの男、アプリがって言ってたけど、あのアプリは結局……」
「イクシード・アプリはVOIDが生み出したVOID契約って言われてます。VOIDになる代わりに力を貸すって話らしいです」
「やっぱり駄目なやつじゃん……」
「もともと、ぼいどみたいなもんだよあの馬鹿息子」
 老婦人は憤然としている。智里はその様子を見てくすりと笑った。
「素敵なお祖母ちゃんですね。私もオーマが大好きなので……会いたくなっちゃいました」
 その言葉にどこか寂寥感を感じて、美雪と老婦人は顔を見合わせた。二人は同時に智里に手を伸ばし、その頭を撫でた。
 遠くではエラの三烈が炸裂している。

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重体一覧

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/09/14 20:17:46
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/11 01:20:20