ゲスト
(ka0000)
【空蒼】少女たちと使徒
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/14 15:00
- 完成日
- 2018/09/16 14:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●学校は無期限休校
何の変哲もない学校が、VOIDに襲われ壊滅的被害を被ったニュースは、テレビや新聞、インターネットなどの情報網によって瞬く間に広まった。
物理的な校舎の損壊も酷いもので、修復するより解体して建て直した方が安くつくんじゃないかと思えるほど。
当然授業などできるはずもなく、竜造寺冴子が通っていた学校は無期限休校と相成った。
連絡してくれた教師に尋ねたところによると、冴子を含む生き残りの生徒たちは、特別措置として近くの高校に編入されることが決まったらしい。
(……校舎にいて生き残った生徒や教師たちの中で、あのアプリをインストールせずに済んだのは私だけ、か)
教師から聞いた言葉と、その際にしきりにアプリのインストールを勧められた薄気味悪さを冴子は思い出す。
また襲われる可能性や、今度もハンターの助けが間に合うとは限らない以上、自分で自衛する手段を手に入れるという理屈は、一定の理に適っている。
実際に、多くの命があのアプリによって助かったのは事実だ。
しかしハンターがいうには、あのアプリは決して皆が思っているようなものではないという。
連絡を取ったクラスメートも、教師たちも、冴子が無事だったことを喜び、冴子をしきりに心配してきた。
電話越しではあったが、その声に作り物の感情のような不自然さを、少なくとも冴子は見出すことができなかった。
本当に、冴子が助かったことによる安堵と、凄惨な現場で心が傷付いた冴子を案じる感情が透けて見えるように感じた。
だからこそ、不気味だ。
確かに冴子はクラス委員長で、教師たちから受けが良かった。
クラスメートからも特に嫌われることもなく、一定の距離を保っていた。
だが真面目なクラス委員長という評価も、非常時に自分のことを優先してしまった事実で地に落ちたと思っていたのに。
蓋を開けてみればどうだ。
後から避難誘導を行ったのだからそれでチャラとでもいうかのように、誰もが冴子に対して心を開いてきた。
あの地獄みたいな場所で生き残った時点で、自分たちは家族みたいなものだと、冴子に心を寄せた。
そして決まって、冴子にこう問いかけてくるのだ。
「ねえ、本当にアプリをインストールしなくていいの?」
「いつだって都合よくハンターが助けに来てくれるわけじゃないんだよ。私たちが一緒なら守ってあげられるけど、ずっと一緒にいられるわけじゃないんだし」
一見すると、冴子の身を案じているように思える。
けれど、どうしても裏があるように思えてならないのは、冴子の思い過ごしだろうか。
気のせいだといいのだが、アプリをインストールしてから、皆微妙に行動がどこかちぐはぐで不規則で、一貫性がなくなったように思える。
それが冴子には不気味に思えるのだった。
●デパートが占拠された
あの事件を切欠に友人になったクラスメートの一人と、気晴らしに近場のデパートでショッピングを楽しもうとしたら、訪れたデパートがテロリストの襲撃を受けた。
どうしてここまで自分は間が悪いのだろうか。
取り残されて友人と一緒に逃げ回りながら、冴子はのこのこと出歩いた自分の迂闊さを呪わずにはいられない。
学校がVOIDに襲われて以来、確実に街の治安は悪くなっていた。
その理由として、学生や会社員といったいわゆる一般人が、イクシード・アプリによって特別な力を簡単に手に入れることができるようになってしまったことが挙げられる。
ろくに喧嘩をしたことがない子どもであっても、自衛するだけなら十分過ぎる異能をあのアプリは与えてくれる。
今一緒に行動している友人は、アプリをインストールしたクラスメートの中で唯一、異常な言動が見られなかった子だ。
冴子の話も真剣に聞いてくれて、アプリの力を使うのは非常時のみに留めると約束してくれた。
名前を、西園美紅という。
今、冴子たちは他の逃げ遅れた人たちと一緒になって、テロリストから逃げ隠れている最中だ。
現在地はデパートの四階、吹き抜けになって一階まで繋がっている見晴らしのいい場所。
しかし、見晴らしがいい割には咄嗟に隠れられる場所が多くあり、いざとなればテロリストたちに発見されても隠れて時間をかせぐことができる……かもしれない。
「最高だぜ! このアプリのお陰で俺達怖いものなしだ!」
「警察だって怖くねぇ! このアプリさえあれば、蹴散らせちまえるからな!」
冴子たちが息を潜める中、すぐ近くをテロリストたちが通過する。
テロリストたちは、恐るべき身体能力を持っていた。
そう、まるで校舎で冴子を助けたハンターたちのように超人的な運動神経を持っていたのだ。
唯一彼らを鎮圧できそうなのは軍くらいだが、彼らは身内の強化人間たちの暴走を抑えたり、重要施設を守るのに手一杯で、そこかしこで勃発する民間人の反乱騒ぎに全く対応できていない。
代わりに警察が事態を収拾せんと動いているとはいえ、一般人では太刀打ちできない超人的な力に為す術も無く撃退されているようだ。
「畜生! お前たちみたいな奴がいるから、俺達までこんな目に遭うんだ!」
突然、人質の一人が縄を自力で引き千切ってテロリストたちに襲い掛かった。
「なっ、こいつ、アプリをインストールしてるのか!?」
「殺せ、強いぞ、こいつ!」
大立ち回りをするその男は、冴子たち人質に向けて叫んだ。
「君たちも早くアプリをインストールして加勢してくれ! 俺一人じゃやられる! でも、皆で戦えば勝てるはずだ!」
男の必死な声で、顔を見合わせた人質たちは一人、また一人とイクシード・アプリをインストールしてテロリストとの戦いに身を投じていった。
自分たちへの注意が逸れたことを確認し、美紅が自分の拘束を引き千切り、冴子の戒めも解いてくれた。
「待って!」
走り出そうとする美紅を、冴子は必死に押し留める。
「……どうして? 今は非常時だよ」
「でも、あれ見てよ! たった今インストールしたばかりなのに、あの人たちはもうあんな有様よ!?」
冴子が手で示した先では、人質のうち何人かが、テロリストと何故か一緒になって暴れ出していた。
訳が分からないが、だからこそイクシード・アプリがそんな都合の良い代物ではないということだけは分かった。
美紅も、いざ戦えば彼らのように正気を失ってしまうかもしれない。
その時、大きな衝撃で建物全体が揺れた。
唖然とした表情で、美紅が何かを見つめている。
「……何、あれ」
視線の先、爆弾か何かで外側から吹き飛ばされたかのようにデパートの壁に穴が開いている。
そしてその穴から、ぞろぞろと天使のような姿の何かが入り込んできた。
冴子と美紅がじっと様子を窺う中、天使たちは周りにいたアプリ使用者たちを見境なく襲い始めた。
何の変哲もない学校が、VOIDに襲われ壊滅的被害を被ったニュースは、テレビや新聞、インターネットなどの情報網によって瞬く間に広まった。
物理的な校舎の損壊も酷いもので、修復するより解体して建て直した方が安くつくんじゃないかと思えるほど。
当然授業などできるはずもなく、竜造寺冴子が通っていた学校は無期限休校と相成った。
連絡してくれた教師に尋ねたところによると、冴子を含む生き残りの生徒たちは、特別措置として近くの高校に編入されることが決まったらしい。
(……校舎にいて生き残った生徒や教師たちの中で、あのアプリをインストールせずに済んだのは私だけ、か)
教師から聞いた言葉と、その際にしきりにアプリのインストールを勧められた薄気味悪さを冴子は思い出す。
また襲われる可能性や、今度もハンターの助けが間に合うとは限らない以上、自分で自衛する手段を手に入れるという理屈は、一定の理に適っている。
実際に、多くの命があのアプリによって助かったのは事実だ。
しかしハンターがいうには、あのアプリは決して皆が思っているようなものではないという。
連絡を取ったクラスメートも、教師たちも、冴子が無事だったことを喜び、冴子をしきりに心配してきた。
電話越しではあったが、その声に作り物の感情のような不自然さを、少なくとも冴子は見出すことができなかった。
本当に、冴子が助かったことによる安堵と、凄惨な現場で心が傷付いた冴子を案じる感情が透けて見えるように感じた。
だからこそ、不気味だ。
確かに冴子はクラス委員長で、教師たちから受けが良かった。
クラスメートからも特に嫌われることもなく、一定の距離を保っていた。
だが真面目なクラス委員長という評価も、非常時に自分のことを優先してしまった事実で地に落ちたと思っていたのに。
蓋を開けてみればどうだ。
後から避難誘導を行ったのだからそれでチャラとでもいうかのように、誰もが冴子に対して心を開いてきた。
あの地獄みたいな場所で生き残った時点で、自分たちは家族みたいなものだと、冴子に心を寄せた。
そして決まって、冴子にこう問いかけてくるのだ。
「ねえ、本当にアプリをインストールしなくていいの?」
「いつだって都合よくハンターが助けに来てくれるわけじゃないんだよ。私たちが一緒なら守ってあげられるけど、ずっと一緒にいられるわけじゃないんだし」
一見すると、冴子の身を案じているように思える。
けれど、どうしても裏があるように思えてならないのは、冴子の思い過ごしだろうか。
気のせいだといいのだが、アプリをインストールしてから、皆微妙に行動がどこかちぐはぐで不規則で、一貫性がなくなったように思える。
それが冴子には不気味に思えるのだった。
●デパートが占拠された
あの事件を切欠に友人になったクラスメートの一人と、気晴らしに近場のデパートでショッピングを楽しもうとしたら、訪れたデパートがテロリストの襲撃を受けた。
どうしてここまで自分は間が悪いのだろうか。
取り残されて友人と一緒に逃げ回りながら、冴子はのこのこと出歩いた自分の迂闊さを呪わずにはいられない。
学校がVOIDに襲われて以来、確実に街の治安は悪くなっていた。
その理由として、学生や会社員といったいわゆる一般人が、イクシード・アプリによって特別な力を簡単に手に入れることができるようになってしまったことが挙げられる。
ろくに喧嘩をしたことがない子どもであっても、自衛するだけなら十分過ぎる異能をあのアプリは与えてくれる。
今一緒に行動している友人は、アプリをインストールしたクラスメートの中で唯一、異常な言動が見られなかった子だ。
冴子の話も真剣に聞いてくれて、アプリの力を使うのは非常時のみに留めると約束してくれた。
名前を、西園美紅という。
今、冴子たちは他の逃げ遅れた人たちと一緒になって、テロリストから逃げ隠れている最中だ。
現在地はデパートの四階、吹き抜けになって一階まで繋がっている見晴らしのいい場所。
しかし、見晴らしがいい割には咄嗟に隠れられる場所が多くあり、いざとなればテロリストたちに発見されても隠れて時間をかせぐことができる……かもしれない。
「最高だぜ! このアプリのお陰で俺達怖いものなしだ!」
「警察だって怖くねぇ! このアプリさえあれば、蹴散らせちまえるからな!」
冴子たちが息を潜める中、すぐ近くをテロリストたちが通過する。
テロリストたちは、恐るべき身体能力を持っていた。
そう、まるで校舎で冴子を助けたハンターたちのように超人的な運動神経を持っていたのだ。
唯一彼らを鎮圧できそうなのは軍くらいだが、彼らは身内の強化人間たちの暴走を抑えたり、重要施設を守るのに手一杯で、そこかしこで勃発する民間人の反乱騒ぎに全く対応できていない。
代わりに警察が事態を収拾せんと動いているとはいえ、一般人では太刀打ちできない超人的な力に為す術も無く撃退されているようだ。
「畜生! お前たちみたいな奴がいるから、俺達までこんな目に遭うんだ!」
突然、人質の一人が縄を自力で引き千切ってテロリストたちに襲い掛かった。
「なっ、こいつ、アプリをインストールしてるのか!?」
「殺せ、強いぞ、こいつ!」
大立ち回りをするその男は、冴子たち人質に向けて叫んだ。
「君たちも早くアプリをインストールして加勢してくれ! 俺一人じゃやられる! でも、皆で戦えば勝てるはずだ!」
男の必死な声で、顔を見合わせた人質たちは一人、また一人とイクシード・アプリをインストールしてテロリストとの戦いに身を投じていった。
自分たちへの注意が逸れたことを確認し、美紅が自分の拘束を引き千切り、冴子の戒めも解いてくれた。
「待って!」
走り出そうとする美紅を、冴子は必死に押し留める。
「……どうして? 今は非常時だよ」
「でも、あれ見てよ! たった今インストールしたばかりなのに、あの人たちはもうあんな有様よ!?」
冴子が手で示した先では、人質のうち何人かが、テロリストと何故か一緒になって暴れ出していた。
訳が分からないが、だからこそイクシード・アプリがそんな都合の良い代物ではないということだけは分かった。
美紅も、いざ戦えば彼らのように正気を失ってしまうかもしれない。
その時、大きな衝撃で建物全体が揺れた。
唖然とした表情で、美紅が何かを見つめている。
「……何、あれ」
視線の先、爆弾か何かで外側から吹き飛ばされたかのようにデパートの壁に穴が開いている。
そしてその穴から、ぞろぞろと天使のような姿の何かが入り込んできた。
冴子と美紅がじっと様子を窺う中、天使たちは周りにいたアプリ使用者たちを見境なく襲い始めた。
リプレイ本文
●突入開始前
一階から突入したハンターたちは、打ち合わせ通り迅速に行動を開始した。
「テロリストと人質と使徒が集まってる現場で、できるだけ犠牲を出さずに解決しろって、仕事の要求水準高すぎねえか?」
見取り図を見たリカルド=フェアバーン(ka0356)は、大まかな構造と避難経路を仲間に伝達する。
「まあこっちの生まれの人間も多そうだし気持ちはわかる。俺も殺人狂じゃないし、やれるだけのことはしてみるか」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)は退避経路を限定し、テロリストの逃亡を防ぐのが目的だ。
もしアプリ未使用者がいれば優先で避難させ、完了するまで使徒には仕掛けない。
『ご清聴ー。ハンターでーす。今の現場責任者は?』
マイクを取り出したカーミンは、避難や被害状況、テロリストと人質、外見で見分けつくかなど聴取を始めた。
「紫炎という。宜しく頼む」
リアルブルーの状況は思っていた以上に深刻なようで、紫炎(ka5268)は心して掛かろうと気を引き締める。
避難経路を確保するため見取り図を探し、エレベーターを止めてもらえるよう頼んだ。
「四階組と連携をするぞ。トランシーバーで指示後、こちらから迎えに出向く」
これで経路の安全を確認できるだろう。
一階組が行動している間に、他のハンターたちも動き出し、使徒が空けた穴から四階へ突入する。
「つっ!あれが使徒か!」
箒から飛び降りた鳳凰院ひりょ(ka3744)は、初めて間近に見る使徒の力を正確に感じ取った。
(あれはまずい。アプリ使用者じゃ相手にならないぞっ)
テロリスト達も含め皆に聞こえるように叫ぶ。
「こいつらは使徒。標的はアプリ使用者だ! ここは俺達ハンターが抑える。死にたくなかったら避難するんだ!」
「極力犠牲を出さずに……って難しいオーダーだね」
央崎 枢(ka5153)は、やはり『できることなら』殺したくはなかった。
本当の『覚醒者』は、ちゃんと理性を残しているのだ。
「……蜘蛛になる時間か」
ゴーグルを装着し、壁を歩いて四階に接近する。
棍で窓を破壊し、火竜票を放り込み、引き合う様に加速を受けて一気に侵入する。
一人でも多くを助けるため使徒と全力で戦うと決めた鞍馬 真(ka5819)は、事態を確認して呟いた。
「……嫌な状況だなあ……」
使徒による被害を防ぐためには、すぐに距離を詰めて使徒を攻撃し、意識を自分に向けさせなければならないだろう。
近くの人間を巻き込まないように、本格的な戦闘に入る前に結界も張っておいた方がいい。
隠れるように蹲っていた冴子と美紅の二人に気付くと、霧島 百舌鳥(ka6287)は呑気にケラケラと笑った。
「やぁ冴子君! また会ったねぇ!」
冴子も美紅も、唖然として百舌鳥の箒を見ている。
「これかい? ボクらの所の新たな常識の一つさ! 気になるなら後で乗せてあげようじゃないか! で、その子は友人かい?」
冴子はこくりと頷いた。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は暴徒鎮圧とアプリの使用抑制が目的だ。
「アプリの使用はお勧めしません。人として死ぬことになりますよ?」
笑みを浮かべ、世間話のようにハンスは正気を保っていそうな人質に声かけた。
「麻薬と同じです。暴走すれば拘束され、使徒にも狙われる。現段階ではアプリの使用は自殺と変わりませんね」
ハンターたちにが乱入したことで、事態は四つ巴に発展した。
さあ、戦いの始まりだ!
●四つ巴の戦い
カーミン、紫炎、リカルドの三人は、ぞれぞれするべきことを行いながら四階を目指す。
「三階以下の避難経路の確保と、四階階段付近の制圧終わったわよ!」
エスカレータを止め、階段を使用できるように安全確保したカーミンは、四階で戦う仲間たちへ報告した。
状況聴取とエレベータを止める指示は既に終えた。
四階の戦況を聞きつつ、二、三階の非常階段等、経路・避難状況を直接目視し、リカルド、紫炎と確認し合う。
四階に到着すると、間髪入れず突入する。
そこでは激闘が繰り広げられていた。
真はまず、星神器で近くの人間を守れるように結界を張った。
続いて生体マテリアルを左右の手に握った魔導剣と蒼機刀に伝達し、斬りかかる。
使徒が剣を構えて受け止めた瞬間、真はオーラを解放した。
魔力により凄まじい加速を得た連撃が使徒を両断するかと思われた。
しかし、使徒はがっちりと真の連撃を受け止め切っている。
魔力の放出で魔法剣が解除される中、使徒の剣が真を襲う。
回避しようとした真は、背後で人質が一人腰を抜かしていることに気が付いた。
(避けるわけにはいかない!)
横殴りに大きく吹き飛ばされる。
腰が抜け、泣きながら這いずって逃げようとする人質に、使徒は静かに手のひらを向けた。
静かに渦巻く、マテリアルの奔流。
「させる、ものかああああああああああ!」
二度目の踏み込み音は本当にマテリアルが爆発したかのような音だった。
一気に間合いを詰めた真は使徒に対し半身の姿勢で二刀を水平に構え、貫き斬る。
「私にとっては目の前の一般人を守ることが最優先だ! 例え撃滅するこ とで未来に不利益が出たとしても、それは今気にするべきことじゃない!」
静かに見下ろしてくる使徒に、真は叫んだ。
ハンスは円を意識した体さばきと、致命傷を負わせない技術で、自分の周囲にいるテロリストや人質たちに対し素早く動きながら何度も斬りつけた。
失神した暴徒たちを死なない程度に気を付けてまとめて蹴り寄せ、とりあえず使徒の注意を引きにくそうな場所に転がしておく。
「それでは場所も広くなりましたし……始めましょうか」
うっすら笑いながら、ハンスは使徒の一体と戦闘を開始した。
お互い剣を扱う者同士、激しい剣撃が交わされる。
最終的に一撃を浴びせたのは、使徒だった。
やはり強い。
「くっ……! 俺の剣を抜けて、なお当ててきますか!」
使徒が振るった剣の軌道を読み、最小限の被害で攻撃を受け流すことに成功したものの、受けた被害は決して小さくない。
「真さんが一撃受けていたことからも、接近戦は不利……ならば!」
一度距離を取ったハンスは静かに聖罰刃を構えると、マテリアルを練り上げる。
マテリアルが乗った斬撃は使徒が受けた剣に直撃し、空間ごと両断せんと激しい攻防を繰り広げる。
「やられっ放しの俺ではありませんよ!」
聖罰刃が大きく振り抜かれ、使徒が吹き飛ばされる。
今度はハンスが押し勝ったのだ。
保護された冴子を見て、ひりょはホッとする。
(あの時の子か。あの様子ではまだアプリは……使っていないようだ)
テロリストを含め一般人にこれ以上の被害を出させないため、まずは使徒の注意を引きつけなければならない。
真に加勢し、魔法の矢を放つ。
さらに残りの二体へ放った魔法の矢が、見事直撃した。
濃密なマテリアルの激流が使徒たちから立ち上る。
暴虐的な破壊力を持った魔法のクロスファイアが、ひりょ目掛けて放たれた。
咄嗟にフェンスシールドで受け止める。
「うおおおおおおおおおおお!」
しばらくして消えたマテリアルの閃光は、デパートの床に大きく十字の焦げ痕を残していた。
ひりょが体内のマテリアルを活性化させると、使徒の魔法で負った傷が癒えていく。
(今回は前衛職ばかり。回復専門職がいないから無理はできないしさせられない!)
真が集中砲火を浴びそうになるのを見て取ると、急いで守りに適した構えを取り盾を構えて前線へ向かう。
被害を軽減し、真が立て直す時間を稼いだ。
「そこだっ!」
使徒が密集したタイミングで、ひりょは一直線に伸びる雷撃を呼び出しまとめて感電させた。
八角棍を手に、テロリストたちやアプリを使用し暴走した者たちに枢は強襲を仕掛けた。
「骨の一本で済むかそれ以上かは保障できねーけど、禁断のアプリ使っちまった事への代償だ。そこは悪く思わんでくれ」
蹴りを入れて一人を昏倒させると、マテリアルを込めて移動力を上昇させる
姿勢を低くし、同じ場所には留まらず駆け抜け別のテロリストを八角棍で打ち据え、さらに違うテロリストを蹴りつけた。
苦し紛れに反撃してくるテロリストや暴走者たちの攻撃を余裕で避けていると、背後から使徒の魔法が突然飛んできた。
どうやら流れ弾のようだ。
「おっと、危ない、危ない」
幸いテロリストを攻撃しようと投げていた火竜票に引き寄せられていた最中の枢には、魔法が当たることはなかった。
普通に回避しようと使っていたら間に合わなかったかもしれない。これは運がいい。
単純な攻撃だけでなく、距離を縮めるには割と便利である。
テロリストは容赦無用に、アプリ使用者は多少の怪我は仕方ないと思いながら無力化を念頭に置く。
使徒の相手は一般人の巻き込みを考慮し避難が終わった後にし、それまで使徒を己の戦闘場所に混在させないよう枢は戦闘を続けた。
「テロリストや暴走者たちを相手にした方が好さそうね」
マテリアルのオーラで覆われたカーミンの身体が残像を纏うほど加速する。
一度として同じところに留まらず、あらゆる場所から弓による射撃が放たれ、続いて展開された赤く輝く無数のマテリアルが、美しくされど明確な暴威でもって面制圧を行う。
逃げ損ねていた暴走していない人質が盾にされても、慌てずカーミンは隠形して姿を消す。
出し抜けに突然放たれた死角からの一撃が、ソード・リリィという名のごとき鋭い剣先となり、人質を取ったテロリストを刺し穿った。
鎮圧を完了したカーミンは、使徒に向き直った。
カーミンの瞳が一時、静謐の青に染まる。
「犯罪者を裁くのはこの国の法よ。天使はお呼びじゃないの」
空気を裂いて飛ぶ龍矢が、真に剣を振り下ろそうとしていた使徒の腕部を砕いた。
人が数人いたので声をかけると、どうやら幸運にもまだ使徒に狙われてはいないらしい。
「私はハンターだ。脱出するなら指示をしよう」
何名かテロリストが混じっていたらしく、紫炎の名乗りを聞くなり銃撃を行ってきた。
しかし、鉄壁の防御を誇る紫炎には傷一つ付けられない。
活人剣をど忘れしてしまったたため、うっかり殺さないよう細心の注意を払って無力化する。
使徒の魔法に関しては、ベクトルを捻じ曲げ己に引き寄せることで対処し護衛した。
味方との通信で、紫炎は百舌鳥が冴子と美紅たちを含めた人質たちを保護したことを知った。
百舌鳥がさほど怪我をしていない状態のようなので、方針を変更して人質を彼に託し、後ろから敵が追ってきた場合の足止めを行うことにする。
人質たちを引き連れ百舌鳥が行くのを待ち、曲がり角で潜んでいると暴走した人質が追ってきたので奇襲を敢行する。
「卑怯かもしれないな。申し訳ない」
やっぱり活人剣をど忘れしてしまっているので、細心の注意を払う。
通さない様に立ち回り、撤退してくれるなら追撃はしない。
攻撃は受ける直前に身を動かし、防具の特に頑丈な部分で受け流した。
リカルドもまたテロリストや暴れる人質たちへの対応だ。
接近して手足を斬りつけたり、刀の柄で鳩尾を殴ることで、基本的に動けなくするように心がけ、距離があるときはできる限り近づき、拳銃で比較的死ににくい肩口や足を打ち抜き動きを止める。
「めんどくせえってわけじゃないが、動く目標の急所外すのってホント難しいんだよ」
カーミンが対応した最後の一人のように、無関係な一般人に命の危険性を及ばせる相手に対し、リカルドは一切容赦せずに発砲し斬りつけて排除した。
一般人の救助をこなしながら、周囲を警戒しつつテロリストや暴走者の排除を続けていると、運悪く使徒の流れ弾魔法が飛んできた。
仰け反って回避後、即拳銃を頭部に二発命中させ、強く踏み込み、蒼機拳による掌底打ちから試作光斬刀での斬りつけに繋げた。
振るわれる剣を左に回り込んで回避し、膝の裏と延髄を斬りつけていき味方の下へ行こうとすると、もう一度流れ弾が迫っていた。
「ちぃっ! 迷惑な敵だな!」
咄嗟に魔法の盾とした左腕を犠牲に使徒の魔法を何とかいなし、遮蔽物を利用して隠れ、リカルドは背面から鋭く踏み込んで斬撃を叩き込んだ。
百舌鳥は避難誘導を行っていた。
使徒を見ていた冴子が不安そうな表情で問いかける。
「何ですか、あれ」
「アレはボクらが『使徒』って呼んでるモノさ。いわば星の防衛機構……まぁ受け売りだけれど!」
「星の防衛機構とは?」
不思議そうに首を傾げたのは美紅だ。
「負のマテリアルに反応し、歪虚との契約者、つまり……」
暴走して何かをブツブツ口にしながらフラフラ歩いていた元人質が、使徒が放った砲撃魔法に薙ぎ払われた。
「この通りアプリ使用者を狙う。冴子君、君は何もしなければ攻撃されない筈さ。なんせ『使っていない』からね! 本当に素晴らしい判断力だ! その調子で疑い続けたまえ。時にはボクすらもね!」
冗談を交えつつ、他に保護した正気を保つ人質たちに対しても、百舌鳥は落ち着いて使徒と暴走者から離れ逃げるよう指示した。
「冴子君は友人が心配なら無理に先に逃げなくていいよ。ボクが必ず守る」
百舌鳥は闊達に笑った。
「という訳で使用者諸君。ボクから具体的に半径三メートル以上離れない事を推奨するよ! さて、行こうか!」
百舌鳥は冴子と美紅を含む人質たちを伴い、避難経路通りに彼女たちを脱出させた。
●デパートから出てきた彼らは……
冴子と美紅が脱出した後、百舌鳥は再びテロリストと暴走アプリ使用者と使徒で混沌となっているデパート内へと戻っていった。
中からは、未だに戦闘音が聞こえている。
百舌鳥もあれから仲間たちと合流して戦っているのだろうか。
「大丈夫かな……」
「平気よ。だって、ハンターだもの。あなたはもちろん、私よりも皆ずっと強いわ」
お互いの手を固く握り合って、二人はともに外からでもはっきりと見える四階の大穴を見上げる。
「私、何になっちゃんたんだろう。ハンターじゃないことは確かみたいだけど」
「美紅ちゃん……」
未使用者である冴子には、美紅へ何といえばいいのか分からなかった。
ぼろぼろになった四体の使徒が、おぼつかない飛行で四階の穴からどこかへ飛び去って行く。
使徒が撃退されたのだ。
やがて、テロリストや暴走したアプリ使用者たちを可能な限り無力化させたハンターたちが、デパートを出てくる。
リカルド、カーミン、ひりょ、枢、紫炎、真、百舌鳥、ハンス。
誰一人欠けることなく、皆笑顔だった。
避難した人質たちが、拍手して彼らを迎える。
冴子と美紅が、百舌鳥に駆け寄っていく。
脅威がなくなり弛緩した空気が漂う中、真が負傷者の応急手当を始めた。
一階から突入したハンターたちは、打ち合わせ通り迅速に行動を開始した。
「テロリストと人質と使徒が集まってる現場で、できるだけ犠牲を出さずに解決しろって、仕事の要求水準高すぎねえか?」
見取り図を見たリカルド=フェアバーン(ka0356)は、大まかな構造と避難経路を仲間に伝達する。
「まあこっちの生まれの人間も多そうだし気持ちはわかる。俺も殺人狂じゃないし、やれるだけのことはしてみるか」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)は退避経路を限定し、テロリストの逃亡を防ぐのが目的だ。
もしアプリ未使用者がいれば優先で避難させ、完了するまで使徒には仕掛けない。
『ご清聴ー。ハンターでーす。今の現場責任者は?』
マイクを取り出したカーミンは、避難や被害状況、テロリストと人質、外見で見分けつくかなど聴取を始めた。
「紫炎という。宜しく頼む」
リアルブルーの状況は思っていた以上に深刻なようで、紫炎(ka5268)は心して掛かろうと気を引き締める。
避難経路を確保するため見取り図を探し、エレベーターを止めてもらえるよう頼んだ。
「四階組と連携をするぞ。トランシーバーで指示後、こちらから迎えに出向く」
これで経路の安全を確認できるだろう。
一階組が行動している間に、他のハンターたちも動き出し、使徒が空けた穴から四階へ突入する。
「つっ!あれが使徒か!」
箒から飛び降りた鳳凰院ひりょ(ka3744)は、初めて間近に見る使徒の力を正確に感じ取った。
(あれはまずい。アプリ使用者じゃ相手にならないぞっ)
テロリスト達も含め皆に聞こえるように叫ぶ。
「こいつらは使徒。標的はアプリ使用者だ! ここは俺達ハンターが抑える。死にたくなかったら避難するんだ!」
「極力犠牲を出さずに……って難しいオーダーだね」
央崎 枢(ka5153)は、やはり『できることなら』殺したくはなかった。
本当の『覚醒者』は、ちゃんと理性を残しているのだ。
「……蜘蛛になる時間か」
ゴーグルを装着し、壁を歩いて四階に接近する。
棍で窓を破壊し、火竜票を放り込み、引き合う様に加速を受けて一気に侵入する。
一人でも多くを助けるため使徒と全力で戦うと決めた鞍馬 真(ka5819)は、事態を確認して呟いた。
「……嫌な状況だなあ……」
使徒による被害を防ぐためには、すぐに距離を詰めて使徒を攻撃し、意識を自分に向けさせなければならないだろう。
近くの人間を巻き込まないように、本格的な戦闘に入る前に結界も張っておいた方がいい。
隠れるように蹲っていた冴子と美紅の二人に気付くと、霧島 百舌鳥(ka6287)は呑気にケラケラと笑った。
「やぁ冴子君! また会ったねぇ!」
冴子も美紅も、唖然として百舌鳥の箒を見ている。
「これかい? ボクらの所の新たな常識の一つさ! 気になるなら後で乗せてあげようじゃないか! で、その子は友人かい?」
冴子はこくりと頷いた。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は暴徒鎮圧とアプリの使用抑制が目的だ。
「アプリの使用はお勧めしません。人として死ぬことになりますよ?」
笑みを浮かべ、世間話のようにハンスは正気を保っていそうな人質に声かけた。
「麻薬と同じです。暴走すれば拘束され、使徒にも狙われる。現段階ではアプリの使用は自殺と変わりませんね」
ハンターたちにが乱入したことで、事態は四つ巴に発展した。
さあ、戦いの始まりだ!
●四つ巴の戦い
カーミン、紫炎、リカルドの三人は、ぞれぞれするべきことを行いながら四階を目指す。
「三階以下の避難経路の確保と、四階階段付近の制圧終わったわよ!」
エスカレータを止め、階段を使用できるように安全確保したカーミンは、四階で戦う仲間たちへ報告した。
状況聴取とエレベータを止める指示は既に終えた。
四階の戦況を聞きつつ、二、三階の非常階段等、経路・避難状況を直接目視し、リカルド、紫炎と確認し合う。
四階に到着すると、間髪入れず突入する。
そこでは激闘が繰り広げられていた。
真はまず、星神器で近くの人間を守れるように結界を張った。
続いて生体マテリアルを左右の手に握った魔導剣と蒼機刀に伝達し、斬りかかる。
使徒が剣を構えて受け止めた瞬間、真はオーラを解放した。
魔力により凄まじい加速を得た連撃が使徒を両断するかと思われた。
しかし、使徒はがっちりと真の連撃を受け止め切っている。
魔力の放出で魔法剣が解除される中、使徒の剣が真を襲う。
回避しようとした真は、背後で人質が一人腰を抜かしていることに気が付いた。
(避けるわけにはいかない!)
横殴りに大きく吹き飛ばされる。
腰が抜け、泣きながら這いずって逃げようとする人質に、使徒は静かに手のひらを向けた。
静かに渦巻く、マテリアルの奔流。
「させる、ものかああああああああああ!」
二度目の踏み込み音は本当にマテリアルが爆発したかのような音だった。
一気に間合いを詰めた真は使徒に対し半身の姿勢で二刀を水平に構え、貫き斬る。
「私にとっては目の前の一般人を守ることが最優先だ! 例え撃滅するこ とで未来に不利益が出たとしても、それは今気にするべきことじゃない!」
静かに見下ろしてくる使徒に、真は叫んだ。
ハンスは円を意識した体さばきと、致命傷を負わせない技術で、自分の周囲にいるテロリストや人質たちに対し素早く動きながら何度も斬りつけた。
失神した暴徒たちを死なない程度に気を付けてまとめて蹴り寄せ、とりあえず使徒の注意を引きにくそうな場所に転がしておく。
「それでは場所も広くなりましたし……始めましょうか」
うっすら笑いながら、ハンスは使徒の一体と戦闘を開始した。
お互い剣を扱う者同士、激しい剣撃が交わされる。
最終的に一撃を浴びせたのは、使徒だった。
やはり強い。
「くっ……! 俺の剣を抜けて、なお当ててきますか!」
使徒が振るった剣の軌道を読み、最小限の被害で攻撃を受け流すことに成功したものの、受けた被害は決して小さくない。
「真さんが一撃受けていたことからも、接近戦は不利……ならば!」
一度距離を取ったハンスは静かに聖罰刃を構えると、マテリアルを練り上げる。
マテリアルが乗った斬撃は使徒が受けた剣に直撃し、空間ごと両断せんと激しい攻防を繰り広げる。
「やられっ放しの俺ではありませんよ!」
聖罰刃が大きく振り抜かれ、使徒が吹き飛ばされる。
今度はハンスが押し勝ったのだ。
保護された冴子を見て、ひりょはホッとする。
(あの時の子か。あの様子ではまだアプリは……使っていないようだ)
テロリストを含め一般人にこれ以上の被害を出させないため、まずは使徒の注意を引きつけなければならない。
真に加勢し、魔法の矢を放つ。
さらに残りの二体へ放った魔法の矢が、見事直撃した。
濃密なマテリアルの激流が使徒たちから立ち上る。
暴虐的な破壊力を持った魔法のクロスファイアが、ひりょ目掛けて放たれた。
咄嗟にフェンスシールドで受け止める。
「うおおおおおおおおおおお!」
しばらくして消えたマテリアルの閃光は、デパートの床に大きく十字の焦げ痕を残していた。
ひりょが体内のマテリアルを活性化させると、使徒の魔法で負った傷が癒えていく。
(今回は前衛職ばかり。回復専門職がいないから無理はできないしさせられない!)
真が集中砲火を浴びそうになるのを見て取ると、急いで守りに適した構えを取り盾を構えて前線へ向かう。
被害を軽減し、真が立て直す時間を稼いだ。
「そこだっ!」
使徒が密集したタイミングで、ひりょは一直線に伸びる雷撃を呼び出しまとめて感電させた。
八角棍を手に、テロリストたちやアプリを使用し暴走した者たちに枢は強襲を仕掛けた。
「骨の一本で済むかそれ以上かは保障できねーけど、禁断のアプリ使っちまった事への代償だ。そこは悪く思わんでくれ」
蹴りを入れて一人を昏倒させると、マテリアルを込めて移動力を上昇させる
姿勢を低くし、同じ場所には留まらず駆け抜け別のテロリストを八角棍で打ち据え、さらに違うテロリストを蹴りつけた。
苦し紛れに反撃してくるテロリストや暴走者たちの攻撃を余裕で避けていると、背後から使徒の魔法が突然飛んできた。
どうやら流れ弾のようだ。
「おっと、危ない、危ない」
幸いテロリストを攻撃しようと投げていた火竜票に引き寄せられていた最中の枢には、魔法が当たることはなかった。
普通に回避しようと使っていたら間に合わなかったかもしれない。これは運がいい。
単純な攻撃だけでなく、距離を縮めるには割と便利である。
テロリストは容赦無用に、アプリ使用者は多少の怪我は仕方ないと思いながら無力化を念頭に置く。
使徒の相手は一般人の巻き込みを考慮し避難が終わった後にし、それまで使徒を己の戦闘場所に混在させないよう枢は戦闘を続けた。
「テロリストや暴走者たちを相手にした方が好さそうね」
マテリアルのオーラで覆われたカーミンの身体が残像を纏うほど加速する。
一度として同じところに留まらず、あらゆる場所から弓による射撃が放たれ、続いて展開された赤く輝く無数のマテリアルが、美しくされど明確な暴威でもって面制圧を行う。
逃げ損ねていた暴走していない人質が盾にされても、慌てずカーミンは隠形して姿を消す。
出し抜けに突然放たれた死角からの一撃が、ソード・リリィという名のごとき鋭い剣先となり、人質を取ったテロリストを刺し穿った。
鎮圧を完了したカーミンは、使徒に向き直った。
カーミンの瞳が一時、静謐の青に染まる。
「犯罪者を裁くのはこの国の法よ。天使はお呼びじゃないの」
空気を裂いて飛ぶ龍矢が、真に剣を振り下ろそうとしていた使徒の腕部を砕いた。
人が数人いたので声をかけると、どうやら幸運にもまだ使徒に狙われてはいないらしい。
「私はハンターだ。脱出するなら指示をしよう」
何名かテロリストが混じっていたらしく、紫炎の名乗りを聞くなり銃撃を行ってきた。
しかし、鉄壁の防御を誇る紫炎には傷一つ付けられない。
活人剣をど忘れしてしまったたため、うっかり殺さないよう細心の注意を払って無力化する。
使徒の魔法に関しては、ベクトルを捻じ曲げ己に引き寄せることで対処し護衛した。
味方との通信で、紫炎は百舌鳥が冴子と美紅たちを含めた人質たちを保護したことを知った。
百舌鳥がさほど怪我をしていない状態のようなので、方針を変更して人質を彼に託し、後ろから敵が追ってきた場合の足止めを行うことにする。
人質たちを引き連れ百舌鳥が行くのを待ち、曲がり角で潜んでいると暴走した人質が追ってきたので奇襲を敢行する。
「卑怯かもしれないな。申し訳ない」
やっぱり活人剣をど忘れしてしまっているので、細心の注意を払う。
通さない様に立ち回り、撤退してくれるなら追撃はしない。
攻撃は受ける直前に身を動かし、防具の特に頑丈な部分で受け流した。
リカルドもまたテロリストや暴れる人質たちへの対応だ。
接近して手足を斬りつけたり、刀の柄で鳩尾を殴ることで、基本的に動けなくするように心がけ、距離があるときはできる限り近づき、拳銃で比較的死ににくい肩口や足を打ち抜き動きを止める。
「めんどくせえってわけじゃないが、動く目標の急所外すのってホント難しいんだよ」
カーミンが対応した最後の一人のように、無関係な一般人に命の危険性を及ばせる相手に対し、リカルドは一切容赦せずに発砲し斬りつけて排除した。
一般人の救助をこなしながら、周囲を警戒しつつテロリストや暴走者の排除を続けていると、運悪く使徒の流れ弾魔法が飛んできた。
仰け反って回避後、即拳銃を頭部に二発命中させ、強く踏み込み、蒼機拳による掌底打ちから試作光斬刀での斬りつけに繋げた。
振るわれる剣を左に回り込んで回避し、膝の裏と延髄を斬りつけていき味方の下へ行こうとすると、もう一度流れ弾が迫っていた。
「ちぃっ! 迷惑な敵だな!」
咄嗟に魔法の盾とした左腕を犠牲に使徒の魔法を何とかいなし、遮蔽物を利用して隠れ、リカルドは背面から鋭く踏み込んで斬撃を叩き込んだ。
百舌鳥は避難誘導を行っていた。
使徒を見ていた冴子が不安そうな表情で問いかける。
「何ですか、あれ」
「アレはボクらが『使徒』って呼んでるモノさ。いわば星の防衛機構……まぁ受け売りだけれど!」
「星の防衛機構とは?」
不思議そうに首を傾げたのは美紅だ。
「負のマテリアルに反応し、歪虚との契約者、つまり……」
暴走して何かをブツブツ口にしながらフラフラ歩いていた元人質が、使徒が放った砲撃魔法に薙ぎ払われた。
「この通りアプリ使用者を狙う。冴子君、君は何もしなければ攻撃されない筈さ。なんせ『使っていない』からね! 本当に素晴らしい判断力だ! その調子で疑い続けたまえ。時にはボクすらもね!」
冗談を交えつつ、他に保護した正気を保つ人質たちに対しても、百舌鳥は落ち着いて使徒と暴走者から離れ逃げるよう指示した。
「冴子君は友人が心配なら無理に先に逃げなくていいよ。ボクが必ず守る」
百舌鳥は闊達に笑った。
「という訳で使用者諸君。ボクから具体的に半径三メートル以上離れない事を推奨するよ! さて、行こうか!」
百舌鳥は冴子と美紅を含む人質たちを伴い、避難経路通りに彼女たちを脱出させた。
●デパートから出てきた彼らは……
冴子と美紅が脱出した後、百舌鳥は再びテロリストと暴走アプリ使用者と使徒で混沌となっているデパート内へと戻っていった。
中からは、未だに戦闘音が聞こえている。
百舌鳥もあれから仲間たちと合流して戦っているのだろうか。
「大丈夫かな……」
「平気よ。だって、ハンターだもの。あなたはもちろん、私よりも皆ずっと強いわ」
お互いの手を固く握り合って、二人はともに外からでもはっきりと見える四階の大穴を見上げる。
「私、何になっちゃんたんだろう。ハンターじゃないことは確かみたいだけど」
「美紅ちゃん……」
未使用者である冴子には、美紅へ何といえばいいのか分からなかった。
ぼろぼろになった四体の使徒が、おぼつかない飛行で四階の穴からどこかへ飛び去って行く。
使徒が撃退されたのだ。
やがて、テロリストや暴走したアプリ使用者たちを可能な限り無力化させたハンターたちが、デパートを出てくる。
リカルド、カーミン、ひりょ、枢、紫炎、真、百舌鳥、ハンス。
誰一人欠けることなく、皆笑顔だった。
避難した人質たちが、拍手して彼らを迎える。
冴子と美紅が、百舌鳥に駆け寄っていく。
脅威がなくなり弛緩した空気が漂う中、真が負傷者の応急手当を始めた。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 4人 |
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相談卓 リカルド=フェアバーン(ka0356) 人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/09/14 14:59:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/11 11:05:29 |