王国最強ロボ――素材編

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2018/09/10 22:00
完成日
2018/09/13 22:36

みんなの思い出

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オープニング

「全ては私の最強ロボのために」

           某博士の部門長就任演説より


 読み難いにもほどがある。
 悪筆は序の口、題名や本文の並び方は神経を逆撫でするほどで、内容も分かり易く説明するという意識が欠落している。
「これをもとに予算を増やすのは無理ですよ」
「無理でもやるんだ」
 上司は酷い顔色で腹を押さえている。
「後援者にこんな報告書上げてくるような連中なんて使えませんって」
 数ヶ月前、高位歪虚ベリアルがハンターによって討たれた。
 その際に未知の金属が手に入り、その地の支配者である王国が手に入れ研究することになった。
 が、研究はほぼ全く進んでいない。
「上の上からの命令だ。他国に対する交渉材料になる水準の技術か知識をものにせよ、とな」
 若手官僚の顔色も酷くなる。
 グラズヘイム王国は良くも悪くも保守的だ。
 研究分野ではリアルブルーはもとより他国にも後れをとっている。
 奮闘している研究者もいはするが少数で、この報告書を送り付けてきた連中は最悪の意味で保守的な者達だ。
「上に現状の報告を……」
 上司は胃薬を噛み砕きながら、沈痛な表情で首を左右に振った。
 失敗の責任を押しつけられてクビかぁ、と己の前途に絶望する直前、見慣れた顔の騎士が羊皮紙の束を運んで来る。
 王国騎士を配達員に使うほど機密性の高い書類だ。
 上司が受け取り、差出人を見てその場に崩れ落ちた。
「あ、はい、受け取りの署名ですね。はい、すみません、聖堂教会の医務室に運んで頂けると……どうも、助かります」
 上司に代わって受け取りを終え、運ばれていく上司を見送る。
「いったい何……が」
 ひ、と悲鳴がもれる。
 何も食べていないのに胃袋が動いている。
 例の報告書の、続編だった。
「目を通さない訳にも……エクラ様」
 祈りは聞き届けられた。
 恐る恐る表紙をめくると、色鮮やかなグラフと短い文章が目に飛び込んで情報として脳へ届く。
「えっ?」
 理解できる。
 それは本来当然なのだけど、一瞬で理解できるなんて予想外だ。
「正負かかわらずマテリアルに反応する?」
 この報告書をざっと通読するだけで、これまで意味不明だった前回までの報告書もある程度理解できるようになる。
「具体的な利用方法として医療と軍事の……」
 夢想ではなく現実的な目標が列記されている。
 予算を倍に増やしても、4分の3を失敗したとしても十分元が取れる。
「待て、待つんだ俺」
 冷え切った紅茶を飲み干し深呼吸。
「明らかに怪しいだろこれは」
 研究者が心を入れ替え技術を高めたとしてもこんな報告書は不可能だ。
「誰が書いたんだ、いや、誰があの金属に関わった?」
 他国のスパイなら最悪ではない。
 最悪の場合、高い知性を持つ歪虚が関わっている。
「クソ、だが」
 これは止められない。
 最後に書かれた、国産CAMという単語が魅力的すぎる。
 現代の英雄であるハンターの軍馬であり鎧でもある大型兵器。
 ゾンネンシュトラール帝国は魔導アーマーという形で国産化しているのに、王国には開発構想すらない。いや刻令術によるゴーレムという兵器も確かにあるが、やはり搭乗型にはある種の憧れのようなものがある。
「可能な限り手続きを遅らせても内偵する時間が足りない。……やむを得ないか」
 ハンターズソサエティーに対し、ある研究所の調査依頼が行われた。
 護衛の名目で入り込み、場合によっては武力行使も許されるという、きな臭すぎる依頼であった。

●黒幕捕獲
 かつては雑然と並んでいた資料が整然かつ厳重に保管され、緊張感に欠けていた助手達はきびきびとした動きで実験を続ける。
 旧態依然とした幹部の実験室とは全く異なる光景だ。
 その全てを演出したのは、パートタイム事務員のはずの老人だった。
「ようやくだ」
 研究者としてトマーゾ・アルキミアに負けた。
 CAM開発でアワフォード社に負けた。
 それは飲み込める。
 正々堂々戦って自分が負けたからだ。
 二足歩行兵器の第一人者の座は諦められる。
「ようやく、俺のロボを」
 だがこれを諦めるのは不可能だ。
 何度失敗しても胸の中の炎は強くなるばかり。
 かつて夢見、今も夢見る理想のロボを現実のものにする。
 そのためだけにキャリアを積み重ね技術を磨き、貴重な金属を無駄にしている組織に潜り込んだ。
「ファンタジーロボットを!」
 前世紀のロボアニメの脳内再生余裕である。
 駄目研究者である以前に駄目人間の集団だった研究所の乗っ取りも完了した。
 後は目当ての機体を開発するだけだ。
 開発できれば後は捕まってもいいし出来た機体は王国に引き渡す。
 受け取り拒否ならコネを使って連合宇宙軍に持ち込めばいい。
 内心高笑いをする老人の肩に、ハンターの手が静かに置かれた。

●悪魔の誘い
「取引をしよう」
 不敵に笑う老人の顔に、見覚えのあるハンターが何人もいる。
 確か、連合宇宙軍所属の研究者というか一部門のトップだ。
 超人じみたハンター用機体の扱いに長けているので、整備や修理でお世話になったこともあるかもしれない。
「ロボットだよロボット。君らもそのために来たのだろう?」
 情報漏洩やスパイ容疑で捕まるかもしれないのに全く悪びれていない。
「私のことを見なかったことにする。儂の私財の機材を君らが使う。WINWINだ。……いや通報は待って。せめて開発完了まで見物できるよう口添えして!」
 軽く脅すと素直になってくれた。
「真面目に話すとだな、このままだとこれが無駄になるぞ」
 奇妙な金属を指差す。
 老人が触っても何の反応もしないのに、ハンターが意識を向けただけで生身の肉っぽく反応する。
「制御系に組み込んで高位覚醒者用機体の開発とかも可能なはずなんだが」
 王国の研究者の能力が不足している。
 より正確に表現すると、必要な分野がいくつか育っていない。
「帝国やロッソに持ち込めばいいと考えたな? 実はそれも危険なんだ」
 高位歪虚が乗り移り己の体として利用した金属だ。
 実験の過程で一部が雑魔化することもあった。その度に聖堂戦士団が滅多打ちにして浄化してようやく安定してきた。
 万一のことを考えると王国の外へ動かしたくない。
「戦闘中に機体を高位歪虚に操られたり、人機一体でこの金属に食われるのは君らも嫌だろう?」
 合金にするなら配合を考えての試験が必要。
 金属をそのまま使う運用でも、実際に組み込んで試験が必要だ。
「試験にはコレを使うといい。最近の基準では高位に分類されないかもしれないが強力な歪虚の力が付与されている。コレに反応しなければ問題ない……はずだ」
 分厚い金庫が開けられると、鱗じみた形に変わった装甲の断片が外気に晒された。

リプレイ本文

●開発のはじまり
「正直言って、王国の技術体系と異なる機動兵器の開発ってどうなの……というのが本音ですけど」
 クレーンの動作音や槌音が響く中、クオン・サガラ(ka0018)が準備を進めている。
「今後を見越して侵食対策を含む研究は進めておきたいですね」
 安全面で問題があるので、リアルブルーでもロッソでも、歪虚化の危険のある実験はなかなかできない。
 クオン達が鎮圧できる範囲内ならできるだけ成果をあげたいのが本音だ。
「とりあえず魔導型デュミナスをベースにする案は駄目ですね」
「何故だ。カタログスペックは平凡でも堅牢で良い機体だぞ」
「いつの話ですか。今では魔導エンジンへの被弾を恐れつつもギリギリで稼働させているという体たらくですからね」
「ねえリチャード博士?」
 本人的には精一杯愛想良くしたつもりのウーナ(ka1439)が、子供のようなわくわくした目で語りかける。
「苦節ウン十年、ようやく博士と呼ばれたっ」
「博士は何十年も前に最初の博士号とられているはずですよね?」
「馬鹿者! ロボットパイロットの、美少女と! 他の有象無象を同じにするんじぁあない!」
 怒鳴りながら振り返ったリチャード・クラフトマン御年72歳の顔が、凍り付いたように固まった。
「エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください」
 美しい所作で頭を下げるのはエルバッハ・リオン(ka2434)。
 外見的にウーナより4歳は下の、それでいて胸はウーナに匹敵するエルフである。
「失礼した」
 一瞬で猫を被り直す。
 トマーゾ教授より数段落ちるとはいえ、あのトマーゾと比較される程度には超エリートなのでこうしているとある種の格好良さがある。
「君もハンター……監視役かね?」
「はい」
 エルバッハは誤魔化さずにうなずいた。
「監視も目的です。あなたは問題行為をされてはいるので監視はしますが、利害は共有できると思っています」
「そうだよー。アリバイ工作とか、グレーゾーンまでなら踏み込んで庇うよ。世の中、法より大事な事はあるの」
 ウーナがにまりと笑った。
「そのかわり……機体は博士の希望でいいから、完成したらあたしが1号パイロットね? 司法取引ってヤツ!」
「分かっているとも」
 満足げにうなずく博士に、エルバッハが奇妙に近い距離で控える。
「む、失礼」
 老人の腕がエルフのおむねを掠める。
 ラッキースケベというには浅すぎる接触であり、リアルブルー基準ではセクハラぎりぎりの接触度だ。
「……ふむ」
 当たった箇所を反対側の手で触れて思索にふける。
 哲学的な問題を考えているかのような目で、エルバッハの足の先から頭頂までじっくりと見つめ、しかし全く脂下がらない。
「エル君、ぴっちりスーツに興味はないかね。無論私が全額」
 浄化の光が老人の頭を突き抜けた。
「ウーナちゃーん!」
 ひっしとウーナに抱きつくのはディーナ・フェルミ(ka5843)だ。
 自分の体で老人の目からウーナの体を隠している。
「さすがにそこまではしないよ。エ」
 エルバッハさんも捜査のためだろうしと言いかけて、ウーナは言葉を飲み込んだ。
「まあ、そんな」
 敢えて媚びを見せ。
 敢えて隙を見せ。
 禁欲的な聖職者であっても道を踏み外しかねない色気でエルバッハが誘導する。
「うむ」
 博士納得したようなうなずき。
 PDAに参考画像のアニメを表示させ、高額の預金小切手も取り出しじりじり迫る。
「ファンタジーはいいな。実にいい」
 エルバッハは少しずつ距離をとりながら、老人に対する警戒を2段階引き上げた。
 この男は枯れていない。
 だが性欲よりも己の理想に対する欲の方がはるかに強い。
 つまり、最も極端な行動をとりかねない、危険人物であると確信した。
「なァ、有能ジジィ」
 ASU-R-0028(ka6956)が顔を出す。
 非常に体格がよいだけでなく、聖堂戦士団に誰何され身元確認に時間をとられてしまうほどの怪しい見た目だ。
「私は君のじじいではないよ」
 巨体のオートマトンの顔を見て、四肢を見て、興味を引かれたようだ。
「ワシの機体部位を診てくれねぇか」
「承諾書を書いてくれるなら構わんよ。指紋? ではそれで。やはり精霊……オートマトンか」
 ASU-R-0028の眉間に皺が寄る。
 痛い。
 力の流れが滑らかになっている感覚がなければ敵認定して暴れていた程度には痛い。
「エル君すまんが何か飲み物を。君も座りなさい」
 油とも血ともつかないものに塗れても眉ひとつ動かさない。
「できそうか?」
「完全にする気なら専門家に……ああそちらか」
 試料の山を1つずつ実験しているハンター達を見る。
「空は飛べた方がええ、片側壊されても飛んでられる翼とかかの!」
「それは良くて次回の次回だ。例の金属を完璧に使いこなせるようになれば話は別だが……これか?」
 オートマトンの言葉が不自然に途切れ規制音に近い音が連続した。
「意識はあるな? なら私ができるのはここまでだ。この年になって神霊の分野に関わることになるとはなぁ」
 赤黒く染まった手袋を外し、行儀悪く地面に腰を下ろす。
「おお、動く動く。なら今からお前さんはワシの保護対象じゃ」
 軽く背中を撫でたつもりが勢いがつきすぎ老人が前転。
 前回り受け身を取り損ねて低くうめく。
「なあ、鱗っぽいあれはドラゴンの……いやァ、知り合いが向かった依頼じゃったから読んだんじゃ」
 言うなよ、絶対言うなよという視線を笑顔で無視するASU-R-0028であった。

●積み上げる
「いいじゃろう、そなたの企みに乗ってやろうではないか。そのかわりミグらにも1枚噛ませるのじゃぞ」
 1個1個厳重に封印された合金を、空飛ぶCAMで実験室へ運ぶ。
 これが国産機ならと王国の官僚が思うレベルの機体に乗っているのだが、作り手にしてパイロットで有るミグ・ロマイヤー(ka0665)は全く満足していない。
「聖堂騎士団を誤魔化すのは頑張るんじゃぞ」
「勘で見抜いてくる連中はきついんだがな……。ああ、これだ。注文通りにしたら諸費用捻出のために特許をいくつか売ることになったぞ」
 1つめは大量の金属繊維だ。
 金属を鋼線化し、聖堂教会に金を積んで浄化のコーティングをすることで歪虚の浸透を防止した一品だ。
 2つめは積層化装甲。金属を圧延し、符術師の結界術式を刻んだ別種の金属板で積層することで強度を確保しつつ歪虚からの汚染を防止。さらに加護術も加えることで魔法的な防御能力も追加した。
 他国の能力者に協力を求めロッソの設備も使ったので経費は1の約4倍だ。
 3つめは通常の装甲に近い。機導術による浄化術カートリッジを鋳込むことで、汚染された際に浄化術で汚染を吸引して、その部分を交換することで歪虚化を抑制することを目指した。
 前2種と比べると常識的な金額だが強度面に不安がある。
「ミグの腕力に負けるようではのう」
 厚さ3センチの3が、ドワーフの手と義手によってティッシュの如く引き千切られた。
「これはまた」
 クオンが絶句する。
 霊的な加工にかかった金はともかく、それ以外でかかった金を概算で計算しただけで頭が痛くなる。
「ほう」
 クオンの用意したものにミグは興味津々だ。
「チタンとセラミックス複合材は基材か。む、補強もしてあるの」
 文字通り手で測り記録に残す。
「表に張ってある金属は……考えたな。マテリアル・フィールドから派生した技術を組み込んだか」
「早期に実用化するならこれしかない、程度の自負はありますよ。ああ、実験はウーナさんに協力を求めましょう。イニシャライズフィールド外での実験はその次です」
「妥当じゃの」
 イニシャライズフィールドが展開され、鱗状の危険物が改めて運び込まれた。
 連続するシャッター音はウーナの機体が器用に指で構えた魔導カメラのもの。
 それ以外の計測機器も、僅かな変化も見逃さないよう合金を中止している。
「1Aに変化無し。合格です。1Bと1Cは? やっぱり手作業だと時間かかりますよね」
 一応の合格。
「2Cに歪虚化の兆候」
 攻撃そして破壊。同種で問題がなかった試料は保留。
「3Aの含有マテリアルが消失」
 鱗に取り込まれかかったので浄化して引き離し。同種試料破棄。
「4Aが雑魔化しました」
 数時間耐えたので合格点。当然破壊。
「4CもOK、全て合格です。いける!」
「1や2と比べると安全面以外がなぁ」
「著名な術者が関わったような物と比べられても困りますよ」
「2は噛み合わせがな。複数の術を使っておるので高性能不安定じゃ」
 いつの間にか太陽は去り、外は真っ暗になっていた。
「1つでも失敗したものは不合格だ。CAMは負のマテリアルに晒される中で使用するのだからな」
 完成すれば歪虚王や邪神との戦闘にも投入されるだろう機体だ。
 ルベーノ・バルバライン(ka6752)の提案ももっともである。
「伸縮性があるから強度や耐熱温度が重要なエンジン部は厳しい。可能性があるのは内部骨格・神経節・人工筋肉辺りか」
 理想と現実のすりあわせは、夜が明けても続けられた。

●試作機1号
 きらきらしている。
 装甲とケーブルなど試作品と換えただけなのに、古びたデュミナスが最新機種並の存在感と威圧感だ。
「えっ」
 整備場にうきうき気分で入って来たディーナの足が止まる。
「王国製のCAMって聞いて、格好良い子ができるといいなって思ったの」
 手からも力が抜ける。
 依頼票の写しがふわりと足下へ落ちる。
「外見はコンフェッサーも格好良いけど、総合力で見たらR7が1番だと思うの。R7なら大精霊とだって殴り合える気がするの。R7に比肩するような、操縦者のスキルトレース技能が高い機体が作られるんじゃないかって」
 普段より少しだけ早い口調は並々ならぬ気合いの表れだ。
「期待してきたんだけど」
 肩が落ちる。
 素晴らしく強そうな……具体的には凄まじい反応速度による圧倒的回避能力がありそうな改造デュミナスが、無視できない強さの歪虚じみた気配を放っている。
 お試し版でこれなら、本気で作ったら歪虚化して王国が人類の敵になりそうだ。
 ディーナは口には出さず飲み込んで、へにょんと眉根を下げた。
「接触させてないのにこの有様っす!」
 神楽(ka2032)は鱗状の危険物を抱えてデュミナスとは反対方向へ走る。
「俺は食い物じゃないっすよ」
 鱗の表面に負のマテリアルが浮かんで神楽に染みこもうとする。
 もちろん、歴戦の神楽の抵抗力を貫くことなどできず無駄に力を浪費するだけで終わる……ような諦めのよさはない。
 負マテリアルが神楽の鎧に向かいじわじわ動いた。
「俺の装備も食い物じゃねーっす!」
 足を止めると同時に錬金杖を地面に叩き付け、負マテリアル汚染を体で吸い込み浄化する。
 存在感が少し薄れた鱗と、一時汚染されかけ手入れがちょっとだけ大変そうな鎧が残された。
「馬鹿じゃねぇっすかこれ持ち込んだ奴!」
 対歪虚の抵抗力が薄いCAMなら接触即歪虚化不可避、今の実験機に近付ければ接触するまでもなく強力な歪虚になりかねない。
「マテリアルを注げば増量しやがるし」
 己から極微量のマテリアルを切り離すと、鱗が吸収して大きくなる。
 固くならないだけましではあるが、実験に使いたくないレベルで危険だ。
「うん、浄化要員として実験に立ち会うの。聖堂戦士団を呼ぶ前に必ず呼んでほしいの」
 精神的再建を果たしたディーナが欠片に気付き、真顔かつ無言で浄化の術を連打した。
 高笑いが響いている。
 歳経て深みの有る声と、眩い生命力を感じさせる若々しい声の二重奏だ。
「まさしく暴れ馬よ。だが悪くない。直接乗れないのが口惜しいわ」
 ルベーノはケーブルを介して実験と繋がったHMDを被り、傲慢そのものの口調で言う。
 しかし要求された操作は確実かつ高速でこなしており、安全第一でやっていては手に入らないデータの収集が順調に進む。
「技術後進国の王国が最高のCAMを作るっ! 素晴らしい依頼ではないか。浪漫にあふれる依頼、浪漫に溢れる兵器っ! 勿論自爆装置を標準装備するのだろう」
「自爆装置、だと」
 若き野心家と老博士の間で火花が散る。
「断る!」
「最強のロボットを目指すのだろうが! 最強ならば自爆装置を積まねばならん」
 激さず自然な動作で老博士の服を掴み釣り上げる。
 非覚醒者の老人では抵抗もできないのに気迫も気合いも負けていない。
「自爆装置なしのバンザイアタックなど戦場の華でも何でもない、無策の破れかぶれというのだ。そんな評価の機体を作って許せるのか? 最高を目指すのだろう!」
「私の趣味で拒否する!」
 火花が物理的に見えた気がした。
「遊んでないで後片付け手伝って欲しいの。右脚の装甲が雑魔化しそうなの」
 浄化術を使うディーナにじーっと見つめられ、老人はHMDの接続解除にとりかかる。
「間に合わん。メンテナンスモード起動、予備弾薬を選択! 皆伏せろ!」
 ゲーム機流用コントローラを操作し最期の命令を下す。
 機体内部で爆発が起こり銀の機体が膨れあがる。
 しかしどのパーツも伸びはしても千切れはせず、爆発がおさまり緩くなった元人型が地面に転がった。

●実験は続く
「無理しちゃ駄目だよウーナちゃん。全部終わったら鑑さんのとこに行って一緒に温泉に入ろうなの」
 紅世界と蒼世界の少女が互いを抱きしめ、目に強い光を灯して静かに離れた。
「試験対象は最初に編み物装甲、次に複合装甲じゃ」
 ミグは疲労困憊だ。
 細い特殊金属を織り上げるのは、技術はもちろん凄まじい体力が必要だった。
「例の鱗の影響も受けなかった。合金の中で最も安全で安定しておる」
 鮮やかな色合いのCAMが金属織りを手に取る。
 まだ変化はない。
 イニシャライズフィールドを切る。
 変化がないことを確認した後、安堵の吐息が10人分吐き出される。
「じゃあ本番いくよっ」
 イニシャライズフィールド再起動。
 ディーナが念入りに機体とその周辺を清める。
 そして、装甲というには薄すぎる金属布を、機体の指に巻き付けた。
 空気が流れている。
 HMDからの視覚情報でもなく、耳や骨で感じる振動でもなく、空気の流れに触れている感覚が確かにある。
 己の肌で感じるものと比べると2桁は弱い感覚だ。でも錯覚ではなく本物の感覚だ!
「……ナちゃ……ウーナちゃん! ん、このぉっ!」
 HMDに警告表示。
 慌てて腕を上げるがわずかに間に合わず、指に巻き付けた金属をメイスで剥ぎ取られた。
「ディーナちゃんごめん。夢中になりすぎた」
 気持ちを切り替える。
 設計段階から己の好みにあわせた専用機という夢を一時的に忘れ、実験を予定通りに淡々と熟す。
「合格点なのはミグの金属布装甲とクオンの複合装甲だけだね」
「ぬしの注文した合金も問題ないだろう」
「安定性だけならね」
 腕を動かす。
 右腕部分に追加装甲として装備させ、イニシャライズフィールドも切っているのに完全に安定している。
 しかし触覚はないも同然。
 マテリアルを通しづらい金属を混ぜたメリットとデメリットだった。
「イニシャライズフィールド無しだと歪虚化する機体なんて危なくて戦場で使えないけど」
 禍々しい気配の鱗をお手玉する。
 短時間触れた程度では浸食されない。
「あれだけお金を使ってこの程度の性能効能じゃね。これを使うくらいなら既存の追加装甲を強化した方がいーんじゃないかな。」
 最も安価なウーナ案ですら、量産によるコストダウンを計算に入れても高価な装甲になるのは確定していた。
「まあとりあえず目処は立ったっす。現行機に組み込むだけでも性能向上いけるっすよね?」
 神楽が纏めると皆うなずきはする。
 ただ、コスト高騰を懸念する声が非常に多い。
「とりあえずそれは置いておくっす。ぶっちゃけ最初から無理があるんすよ、クリムゾンウェストの技術先進国の帝国でさえ魔導アーマーが精一杯なのに後進国の王国ができるわけねーっす」
 制御に手間暇金が必要な金属を使い国産CAMを使うのは無理無茶無謀だ。
「成功させるつもりなら博士は必須っす。共同開発の為に出向扱いという形にでもするしかないっすよ」
 護衛兼監視役の騎士に目を向ける。
「連合宇宙軍所属の一部門のトップなんて扱いを間違えると国際問題っす、それに」
 笑顔で博士に近づくディーナに後を任せる。
「この鱗は誰が持ち込んだの?」
 目が笑っていない。
 歪虚との契約者やその疑いがある者へ向ける目だ。
 鱗をかざす。
 鍛えに鍛えた浄化術を強力な法具を用いて連続使用してようやく、負の力が消えかけ鱗の内部に押し込められている。
「私だ」
「誰から受け取ったの? 戦場に落ちてたなんて言い訳は無視するの。こんな力があるなら封印する前に歪虚になっちゃうもの」
 ディーナはエクラ教徒としては穏健派だ。
 強化人間も積極的に助けたし司祭にツッコミを入れたことだってある。
 それでも、人類の裏切り者を見逃すつもりはない。
「おはなし聞かせてくださいなの」
 ウーナ機に捕獲された博士が、ハンターズソサエティーまで護送されていった。

 超高価格高性能素材と高価格良素材の試作品。
 厳しい取り調べを受けていた筈のリチャード・クラフトマンが、何故か相談役として王国に正式に出張決定。
 王国国産CAM開発の条件が、揃った……のかも、しれない。

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    クオン・サガラka0018
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤーka0665
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバラインka6752

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参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    バウ・スラスター
    バウ・スラスター(ka0665unit007
    ユニット|CAM
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    エクスシア・トリニティ
    エクスシア・TTT(ka1439unit002
    ユニット|CAM
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

  • ASU-R-0028(ka6956
    オートマトン|17才|男性|舞刀士

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アイコン 相談卓
エルバッハ・リオン(ka2434
エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/09/10 20:50:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/09 20:11:06