ゲスト
(ka0000)
日々の点検は万全ですか?
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/13 19:00
- 完成日
- 2018/09/16 14:15
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●境界線
フクカンの仕事は多い。
職員として割り当てられている事務仕事をこなすのは当たり前だ。タングラムの補佐として、書類の分類整理や資料作成、スケジュール管理は勿論のこと、間食(酒類も含む)の補充や仮眠場所の手入れといった休憩のための支度や、余裕があるときは三食きちんと摂っているかの確認等も。フクカンが自主的に気を回していることがある。
承認の必要なものや機密性の高いものには手を出さないし、着替えや武装のようなタングラムが直接身に着け管理すべき私物には触れないようには気を付けている。前者は当たり前として、後者はその度胸が無いとか緊張するとか赤面して手が震えるとか転んで壊したらどうしようとか……男の問題なのだけれども。
そんなフクカンにも勿論休日はある。敬愛し熱愛し盲愛を隠さずその唯一に己の全てを捧げる勢いで日々を過ごしているフクカンではあるが、無休ではない。
休日であろうとタングラムの世話はしたいし、実際休日だろうと毎日APVに居るのが周囲の認識となっているが、フクカンだってオフィスに居ない日くらいある。更にタングラムがAPVに居てフクカンがAPVに居ない、という日もごく稀にだが存在していた。
その日が定期的に設定されるようになったのは、ここ数年の話なのではあるけれど。
「今日もタングラムさまは素敵でした!」
終業時刻を迎えてからは、日課の「今日のタングラムさま」を振り返る時間である。スケジュール管理の為でもあり、自分の業務向上に必要な時間。
実際はただの趣味の時間だとわかっているので、規定の業務時間外に行っている。
「ふんふんふーん♪」
次の買い出しリストまで作成し終えてから、自分のスケジュールへと意識を向けた。
(来週の予定は……?)
そのメモはいつもと違い、「休日」の文字の後に続いて、翌日の欄にまで矢印が伸びていた。
「そうでした。後回しにしたままじゃいけないですもんね」
日々の忙しさを建前に、なるべくタングラムから離れたくない本音を混ぜて。フクカンは連休をとることがほとんどないと言っていい。つまりこの矢印が意味するのは連休だ。
無意識に吐息が漏れる。仕方がないことだと分かっていても、やはり眉が下がってしまう。心なしか肩もくたりと力が抜けている。
「普段の業務中に行くなんて、そんな時間の勿体ない使い方、出来ません!」
これはあくまでも効率的な時間の使い方なのだからと、自分を鼓舞する声に力を入れた。
APV温泉は、設立当初から関連依頼の処理やらなにやらをフクカンが担当している。その縁は今も続いていて、新規で設備が増えたり、不具合が出たり、新メニューの構想案だったり。大小さまざまどんなものでも、連絡はフクカンのところに必ず届けられている。
宿泊設備が整ったと聞いたのは、今年の春ごろだっただろうか。利用方針などを詰めるのにも時間がかかり、ついに完成した……と聞いてはいた。報告書も届けられてはいるが、やはり直接確かめるのが大事だとフクカンは思っている。だから、定期点検というのか視察というのか。行かなければならない。
泊まりでリゼリオから離れるのは、本音はやっぱり嫌なのだけれど……
「帝国に大事のないこの隙が休み時ですよ。たまには……んーなんですかオトリ? ……その連休は私からのプレゼントってやつですよ?」
背にかかるのはタングラムからの声。途中、同僚のオトリおねえさんの声が混ざった気もするが。タングラム様からの好意を無碍になんてできやしない!
第三者のテコ入れよりも唯一の人の言葉が大事。
「ありがとうございますっ! 楽しんできますね!」
●APV温泉概要~パンフレット(1018年版)より抜粋~
当施設のご案内をさせていただきます。
『APV温泉』の名の通り、主に温泉を特色としたサービスの提供をしております。
【男湯】、【女湯】、【混浴】と別れておりますので、施設内の案内を元にご利用くださいませ。
設立当時にご協力いただいたハンターの方々が作成した設計図を元に作られておりますので、仕切りや脱衣所の壁には、リアルブルーの頑丈な設計技術が取り入れられております。
温泉マナーとして、「着衣入浴の禁止」「タオルを湯船に付けるのは禁止」とさせていただいておりますが、【混浴】でのみ、水着の着用やタオルを巻いての入浴を許可しております。公的良俗のため、ぜひともご協力をよろしくお願いいたします。
着衣のままでも楽しめる設備といたしまして、別途【足湯】のご用意もございます。
足湯の形状は様々で、お一人様でも、大人数様でも共に楽しめるよう工夫を凝らしてございます。
気に入りの、居心地の良い一席を探してみるのは如何でしょうか。
通年、温泉と同じ湯を流しておりますが、夏季限定で、温泉ではなく水を張っている場所もございます。
季節柄非常に冷たいと言うほどの物ではありませんが、少しでも涼を感じていただけたらと思います。
また【食事】の提供もさせていただいております。
【足湯】の近く、ベンチに囲まれている建物が該当しております。
温泉の熱い湯気を利用した蒸し料理を中心に提供させていただいております。
特に「温泉芋」は甘みが強く感じられると好評をいただき、今では一番の名物となっております。
他にも野菜やヴルスト、羊肉などお食事向きのもの、甘い餡を入れた饅頭もご用意しております。
お飲物は冷えたお酒やジュースを取り揃えてございます。帝国の技術を駆使した魔導冷蔵庫がございますので、いつでも冷えた状態で提供することが可能となっております。
冷えた羊乳や果実のジュース、濃い目の紅茶を湯上りに一杯、が通とされているようです。
ビールもございますが、未成年の方はお間違えのないようご注意くださいませ。
本年より、宿泊にもご利用いただける施設を新規に併設いたしました。
温泉に近い場所に在る大部屋棟は、簡易的な仕切りではありますが隣席のお客様からの視線を遮る事が可能です。
湯上りの身体を冷ますご休憩は勿論、仮眠所としてもご利用いただけます。
大部屋棟よりも奥へと御足労いただくことになりますが、個室での宿泊を希望される方向けの別棟もご用意しております。
当施設はあくまでも温泉をお楽しみいただくための場所で御座いますので、お食事や入浴の際は、その都度専用の施設へと移動をお願いいたします。
お部屋への配達は承っておりませんが、お客様ご自身での持ち込みは可能となっております。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
以上で御座います。
それでは当施設にて、どうぞ和やかなひとときをお楽しみくださいませ。
フクカンの仕事は多い。
職員として割り当てられている事務仕事をこなすのは当たり前だ。タングラムの補佐として、書類の分類整理や資料作成、スケジュール管理は勿論のこと、間食(酒類も含む)の補充や仮眠場所の手入れといった休憩のための支度や、余裕があるときは三食きちんと摂っているかの確認等も。フクカンが自主的に気を回していることがある。
承認の必要なものや機密性の高いものには手を出さないし、着替えや武装のようなタングラムが直接身に着け管理すべき私物には触れないようには気を付けている。前者は当たり前として、後者はその度胸が無いとか緊張するとか赤面して手が震えるとか転んで壊したらどうしようとか……男の問題なのだけれども。
そんなフクカンにも勿論休日はある。敬愛し熱愛し盲愛を隠さずその唯一に己の全てを捧げる勢いで日々を過ごしているフクカンではあるが、無休ではない。
休日であろうとタングラムの世話はしたいし、実際休日だろうと毎日APVに居るのが周囲の認識となっているが、フクカンだってオフィスに居ない日くらいある。更にタングラムがAPVに居てフクカンがAPVに居ない、という日もごく稀にだが存在していた。
その日が定期的に設定されるようになったのは、ここ数年の話なのではあるけれど。
「今日もタングラムさまは素敵でした!」
終業時刻を迎えてからは、日課の「今日のタングラムさま」を振り返る時間である。スケジュール管理の為でもあり、自分の業務向上に必要な時間。
実際はただの趣味の時間だとわかっているので、規定の業務時間外に行っている。
「ふんふんふーん♪」
次の買い出しリストまで作成し終えてから、自分のスケジュールへと意識を向けた。
(来週の予定は……?)
そのメモはいつもと違い、「休日」の文字の後に続いて、翌日の欄にまで矢印が伸びていた。
「そうでした。後回しにしたままじゃいけないですもんね」
日々の忙しさを建前に、なるべくタングラムから離れたくない本音を混ぜて。フクカンは連休をとることがほとんどないと言っていい。つまりこの矢印が意味するのは連休だ。
無意識に吐息が漏れる。仕方がないことだと分かっていても、やはり眉が下がってしまう。心なしか肩もくたりと力が抜けている。
「普段の業務中に行くなんて、そんな時間の勿体ない使い方、出来ません!」
これはあくまでも効率的な時間の使い方なのだからと、自分を鼓舞する声に力を入れた。
APV温泉は、設立当初から関連依頼の処理やらなにやらをフクカンが担当している。その縁は今も続いていて、新規で設備が増えたり、不具合が出たり、新メニューの構想案だったり。大小さまざまどんなものでも、連絡はフクカンのところに必ず届けられている。
宿泊設備が整ったと聞いたのは、今年の春ごろだっただろうか。利用方針などを詰めるのにも時間がかかり、ついに完成した……と聞いてはいた。報告書も届けられてはいるが、やはり直接確かめるのが大事だとフクカンは思っている。だから、定期点検というのか視察というのか。行かなければならない。
泊まりでリゼリオから離れるのは、本音はやっぱり嫌なのだけれど……
「帝国に大事のないこの隙が休み時ですよ。たまには……んーなんですかオトリ? ……その連休は私からのプレゼントってやつですよ?」
背にかかるのはタングラムからの声。途中、同僚のオトリおねえさんの声が混ざった気もするが。タングラム様からの好意を無碍になんてできやしない!
第三者のテコ入れよりも唯一の人の言葉が大事。
「ありがとうございますっ! 楽しんできますね!」
●APV温泉概要~パンフレット(1018年版)より抜粋~
当施設のご案内をさせていただきます。
『APV温泉』の名の通り、主に温泉を特色としたサービスの提供をしております。
【男湯】、【女湯】、【混浴】と別れておりますので、施設内の案内を元にご利用くださいませ。
設立当時にご協力いただいたハンターの方々が作成した設計図を元に作られておりますので、仕切りや脱衣所の壁には、リアルブルーの頑丈な設計技術が取り入れられております。
温泉マナーとして、「着衣入浴の禁止」「タオルを湯船に付けるのは禁止」とさせていただいておりますが、【混浴】でのみ、水着の着用やタオルを巻いての入浴を許可しております。公的良俗のため、ぜひともご協力をよろしくお願いいたします。
着衣のままでも楽しめる設備といたしまして、別途【足湯】のご用意もございます。
足湯の形状は様々で、お一人様でも、大人数様でも共に楽しめるよう工夫を凝らしてございます。
気に入りの、居心地の良い一席を探してみるのは如何でしょうか。
通年、温泉と同じ湯を流しておりますが、夏季限定で、温泉ではなく水を張っている場所もございます。
季節柄非常に冷たいと言うほどの物ではありませんが、少しでも涼を感じていただけたらと思います。
また【食事】の提供もさせていただいております。
【足湯】の近く、ベンチに囲まれている建物が該当しております。
温泉の熱い湯気を利用した蒸し料理を中心に提供させていただいております。
特に「温泉芋」は甘みが強く感じられると好評をいただき、今では一番の名物となっております。
他にも野菜やヴルスト、羊肉などお食事向きのもの、甘い餡を入れた饅頭もご用意しております。
お飲物は冷えたお酒やジュースを取り揃えてございます。帝国の技術を駆使した魔導冷蔵庫がございますので、いつでも冷えた状態で提供することが可能となっております。
冷えた羊乳や果実のジュース、濃い目の紅茶を湯上りに一杯、が通とされているようです。
ビールもございますが、未成年の方はお間違えのないようご注意くださいませ。
本年より、宿泊にもご利用いただける施設を新規に併設いたしました。
温泉に近い場所に在る大部屋棟は、簡易的な仕切りではありますが隣席のお客様からの視線を遮る事が可能です。
湯上りの身体を冷ますご休憩は勿論、仮眠所としてもご利用いただけます。
大部屋棟よりも奥へと御足労いただくことになりますが、個室での宿泊を希望される方向けの別棟もご用意しております。
当施設はあくまでも温泉をお楽しみいただくための場所で御座いますので、お食事や入浴の際は、その都度専用の施設へと移動をお願いいたします。
お部屋への配達は承っておりませんが、お客様ご自身での持ち込みは可能となっております。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
以上で御座います。
それでは当施設にて、どうぞ和やかなひとときをお楽しみくださいませ。
リプレイ本文
●支度
書庫に籠もりきりだったエルティア・ホープナー(ka0727)は埃まみれで服もボロボロだったのだ。
「……せっかくだし温泉にでも行こうか」
どんな姿でも彼女の魅力を損なう事はないけれど。シルヴェイラ(ka0726)が溜息と共に呟けば。エアは素直に頷いた。
「温泉で読書も良いわね……」
原動力はそれなのか。
(まあ、それがエアだからな)
「仕方ないから、一緒に行ってあげる」
兄にどんな風が吹いたのか。聞こうとして口を開いたエステル・クレティエ(ka3783)は別の言葉とすり替えた。
「孝行する相手が違うと思うけどね?」
文句が続くけれど、声色は弾んでいる。
「それは何時か兄弟全員でってことで」
ユリアン(ka1664)が頭を下げれば、それでよし、と明るい声で笑顔が浮かんだ。
「ネフィ、あまり騒ぎすぎないようにね?」
フローレンス・レインフォード(ka0443)が部屋の手続きをする間、そわそわと落ち着きがない妹達。それも可愛らしいと思うけれど。
「温泉と聞いたら行かないわけにはいかないのだ♪」
ネフィリア・レインフォード(ka0444)は姉妹を誘ったからこそ、特に張り切っている。
「フロー姉とブリスちゃんと3人でお風呂ー♪」
「……楽しみ」
姉様達と。ブリス・レインフォード(ka0445)の小さな声は口の中で消える程。微笑みも同じように小さいものだが、彼女の姉達は纏う雰囲気で喜んでいるのが分かっている。
手続きの終わりを確認してすぐに駆けだすネフィ。
「ほら、ブリス。私達も行きましょう」
仕方がないわねと、ブリスの手をとりフローも歩みだした。
小隊の仲間達との旅行も楽しい思い出だけれど、一人でノンビリするオンセンも悪くないらしい。誰に約束するでもなく訪れたアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は見知った顔に声をかけることにする。
「オーイ! 君らも来ていたのダネ」
「アルヴィンさんお久しぶりです!」
ゆるりと手を振る兄と、反対の腕を抱えて元気に手を振る妹。
「妹いるけど、良かったら一緒に」
ユリアンの瞳は手伝ってほしいと語っていた。
(いいのカナ?)
依頼で共に過ごした際の様子と違い、ユリアンが居るとより嬉しそうな様子のエステルに気付く。邪魔にならない方がいいと思っているけれど。
「じゃあ、ご一緒しようカナ。ヨロシクお願いシマス、なんダヨー!」
他の誰かが居ても兄妹の仲には関係ないようだから。
●男湯
わずかに引き攣れる感覚を残した胸の傷跡が残っていることにユリアンは安堵する。存在感そのものに意味がある。
(……色々サボってたから)
家族という理由がなくても、放っておかずにいてくれる。できた妹に構うのも久しぶりだ。切欠に感謝……は難しいけれど。切り替えるには悪くない。
すぐ横で湯を入れた桶の中でぱちゃぱちゃと遊ぶパムに気付き、苦笑い。湿っぽい空気は湯に流してしまおう。
「前に正しい作法を教えて貰ったノデきっと大丈夫」
流行に敏い仲間の言葉を思い出しながら、タオルを頭に巻き付けるアルヴィン。周囲には同じように巻いた人はいないのだけれど、訂正されなかったことを正解と信じているので、浮いていても気にしなかった。
風呂酒一式を眺めフワ ハヤテ(ka0004)はくすりと笑う。
「これであいつの自慢話にも張り合えるというものだね?」
桶の中にはワインとグラス、チェイサーとしての冷えた水。グラスや瓶が倒れにくいよう間仕切りも入っているから安心だ。湯にぷかりと浮いた桶を時折つついて舟遊びに興じながら、湯気に混じるワインの香りをより深く吸い込んだ。
「こう言う大きなお風呂も、誰かと一緒に湯に入ると言うノモあまり無いカラ、新鮮な感じダヨネ」
混浴だって、リアルブルーでは普通なのカナ?
「トウジって言って、温泉で病気や怪我を治そうと長期滞在してる人達がいたよ」
東方での経験を伝えるのはユリアン。
「違う世界の事と言うのは何かと興味深いネ」
知り合ったリアルブルーのヒトはたくさんいるけれど、まだまだ知らないことは多い。
「神託の皆ともまた行きたいね……」
微笑みの形にユリアンの口元が緩む。
「ふふふ、次の旅行の計画でも考えようカナ?」
皆の都合が合えばいいネ!
●女湯
常々邪魔だと思っている服をぽいぽいと脱ぎ捨てたネフィが、やはり小走りで浴槽へ駆けだそうとしたのだが。
「あやややや!?」
「こぉーらっ。先に体を洗うのが礼儀なのだから」
予想通りの行動にくすくすと笑いながら、フローがネフィの腕を掴む。飛び出す勢いを流すように利用して、ぐるり。腕の中にナイスキャッチ。ぷよん♪
「ほら、二人とも。洗ってあげるから、おいでなさい」
「……洗ってあげる」
ブリスの一言も続く。
「む、それじゃあ皆で洗いっこするのだ♪」
ならばと素直に従うネフィ。
「前も後ろも綺麗綺麗にするのだ♪」
備え付けの石鹸をすかさず手に取る妹達。
「ふふっ。では、お願いするわね」
お世話されてみるのもたまには良いかもしれない。妹達の成長を感じて嬉しくなるフローだった。
泡立てていただけの筈なのに、今や全員が泡だらけだ。準備は完璧。まずはとフローの背中に歩み寄るブリス。自分で手の届かない背中だからこそ、お互いの手が役に立つ。
「うふふ、姉様達の身体全部、ブリスが綺麗にしてあげる……♪」
フローの背に石鹸の泡を滑らせる。ついでに自分の身体も洗うのだと、手だけではなく身体を使っているのは……うっかりではないのかもしれない。
(姉様、すべすべ……♪)
すべすべぷよん。
「洗いっこ対決なのだ♪」
もちもちぺたん。ぷよふにゅつるん。石鹸の泡はいい仕事をしているようで。
「ふぁー♪ 気持ちいいのだ♪」
次第にネフィの全身が弛緩して、ぷかりと無防備な身体が湯に浮いている。
洗いっこでほんの少しばかり楽しみ過ぎたブリスは、フローに寄りかかるようにくっついている。
「あたたか……」
無意識に頬ずりもしつつ温まっているのだが、ネフィにも抱きつきたいなと視線を向けた。
「ネフィ姉様。抱っこ……いい?」
「じゃあブリスが捕まえてて―♪」
言いながら体勢をなおしたネフィは甘えるようにフローの膝に乗った。
「じゃあ……フロー姉様も、ネフィ姉様も、一緒に……ぎゅー……♪」
フローの正面に回って、精一杯広げた腕を回す。自分よりも背の高い姉二人を包むことまでは出来ないけれど、少しでも触れる面積を増やそうとして。ぷにんと柔らかい部分が隙間を埋めていった。
●混浴
水着と、羽織る程度の上着。着替えたシーラが待つ場に現れるエア。勿論埃は綺麗に落として、髪をアップに。煌めくパレオは鱗のようで人魚を思わせる。
見覚えのない水着は新鮮で、感想を……と、気付いてしまったいつもの厚み。
「ふっ」
苦笑を噛み殺し小さく肩をすくめたシーラにエアが首を傾げる。視線の先は防水カバーを着けた本。
「……いや、なんでもない。似合っているよ水着」
カバーがあるとはいえ、極力濡れないように半身浴。前に来た足湯と勝手が違う。視線は本に向いたまま、無意識に背もたれを探して、シーラにもたれる様に身を寄せるエア。
「読みながらでも体が解せるなんて、悪くないわ」
いつもより読書が捗る気がする。
「その感想は世界初じゃないかな」
物語があれば、そこは素晴らしい環境。それくらい没頭するエアだからこそ。
陽射しが柔らかくなっている意味に気付き、顔をあげたエアは目を細めた。
「……暫くしたら、森が鮮やかに染まるわね」
風にも涼しさを感じられる。季節の移ろいは繰り返されても、その時ごとに様子が違う。
「そうなったら紅葉狩りにでも行こうか」
本だけが物語をもつ存在ではない。文字に留まらない物語の世界を広げるためのシーラの提案。
(連れ出す良い口実にもなるし、ね)
……くぅ。
小さな腹の虫に、ぱちくり瞬きをするエア。
「ははっ。じゃあ食事にしようか……でも、その前に」
上着の中に隠していた柊の簪を手渡すシーラ。
「浴衣に合うだろうと思ってね」
着替えたら、食堂へのエスコートも任せてくれ。
●食事
「ゆっくりできた?」
「当たり前! ねえ兄さん、お夕飯は盛り合わせとかでいい?」
どれくらい必要だろうかと、一人前の量を見ながら悩むエステル。
「賑やかになるし良いんじゃないかな」
大きめの皿に盛られた温泉芋に、その周囲を飾るように並んだ各種のヴルスト。トッピングとディップの提案をしてきたエステルが、参考になるかもしれないと請われるまま盛付けてきたものだ。パーティー料理の様相を呈して居るのを見て、ユリアンは手元のコップに視線を落とす。
(組み合わせたら、女の子達が喜びそうだ)
慎重に注いで仕上げた果汁と紅茶のセパレートティーは綺麗な層ができている。飾りつけに果物も良さそうだ、あとで提案してみよう。
「オンセンからあがったら、コレだって聞いたんダヨ」
けれどソッチも気になるねと興味津々なアルヴィンの視線。
「美味しい配合を探しているところだけど。あとで味見もしてもらえるかな?」
「ブリスちゃん、食べさせてあげるのだ♪ はい、あーん♪」
口の大きさに合わせ小さくした温泉芋を差し出すネフィだが、自分の口にも勿論運んでいる。早いように見えるがしっかりと味わっているのは、多分一口の量が人よりちょっと多いおかげ。
「あら、これも美味しいわ。ネフィもどうかしら」
「あーん♪」
甘えて口を開ける妹達の様子にフローは雛鳥を思い浮かべる。変わらず頼って貰えることも嬉しい。
「美味しい? ふふっ、よかったわ」
結局どれも美味しくて、三姉妹では多めに見える料理達も全滅するのだった。主にネフィの活躍のおかげで。
蒸し料理を楽しんで、最後に温泉芋をシーラと半分ずつ。
「美味しい……これ、買って帰れるかしら……ねぇ、シーラ、貴方ならこれで何を作ってくれる?」
ここに幼馴染の手が加わったら、もっと美味しいだろうとエアは思う。甘味があるから菓子だろうか?
「無茶振りを……まあご要望とあらば」
改めて一口。吟味し思案するシーラ。レシピがもらえるかは頼んでみることにして、再現も試すべきだ。なにより珈琲との相性も気にしなければ。
●足湯
(無理はしないつもりだけど……頑張らないと、な)
また連れてこられるように。足湯ではしゃぐ妹の横顔に、改めて思う。
「ねぇねぇ兄様、泊まっていくでしょう?」
気付けばエステルに袖をひかれている。
「アルヴィンさんもご一緒にどうですか?」
隣の足湯からのお誘いに、ゆっくりと水が跳ねない程度のバタ足を止めて笑顔を返すアルヴィン。
「今日は兄妹水入らず、なんデショ?」
二人の掛け合いを聞きながら、くすくすと笑みを零してお断り。足元からのぼってきた温かさが、じんわりと胸元まで届いたような気がしたのかもしれない。
「小さい頃みたいに怖い夢を見たって、泣いて一緒に寝るなんて言うなよ?」
「もう大人なんだから。そんな昔のこと……!」
●個室
夕涼みを兼ねた移動。下駄の歩みもゆっくりだ。
ふと小さな差異を感じた気がして、シーラを見上げるエア。
「シーラ……少し変わった?……強くなったって言うか……ふふ、何だか不思議ね」
首を傾げる。口元には小さな笑み。
「そうかい? まあ、悪い気は、しないな」
必要なことだから、なんて言うつもりはない。言えぬ自分にシーラは内心苦笑を向ける。
「けれど、君だって変わったよ。エア」
「いつも一緒にしても、こうして変化に気づけるなんて……私が周りを見て居なかったのも有るけれど」
続けようとするエアに気付かぬふりで、シーラが紡ぐ。
「表情が柔らかくなったし、……綺麗になったよ」
昔から知る本来の君はそのままだけれど。ずっと見ていた私が、更に見ていたいと思うくらいに。
笑ったことに、だろうか?
「ずっと読んでいたお話がね、とても面白くって、笑ってしまうのよ……」
だから思い出して、同じ笑みを見せようと話すエア。その表情はシーラにしか見せていないという事実は、本人が気付いていない。
短くとも効果のある仮眠の後、ハヤテの意識が浮上する。
「んー……ああ、折角だ」
一人であることを再確認したおかげで思い出した。やりたくても、一人、好きなだけ集中できる環境でなければできないことを。
荷物の中でも大きめの袋。泥のように混ざり合って暗いようで眩しい、混沌じみたそれの中身はこれまでに集めた魔導書達。その中から大本命の星神器を取り出した。
「解読不可能? だからどうした」
誰にともなく呟く。唇の端が上がる。狂気と呼ぶほどではない、熱意。
「ボクは読みたい」
星神器に意思があるかは知らないが、これから挑戦する宣言はすべきだと本能が告げる。この欲望の為だけに手に入れたのだ。参考資料としての魔導書集めだって馬鹿にならない手間をかけた。
「さぁ、基本の模写からはじめるとしようか?」
根気よく続ければ規則性や関連性も見えてくるだろう。それがどれほど時間のかかることかはともかくとして……読みたい、その気持ちは自分でも止められない。止めるつもりはない。いつもなら邪魔が入るのを嫌って、こうして一人になれるまで保留にしてきたのだから!
「皆で並んで一緒に寝るのだ♪ フロー姉が真ん中かな?」
言いながら姉に抱きつこうとするネフィの横で、ブリスの瞼がゆっくりおりようとしている。食事中も小さく欠伸を零していたのだ。姉達の世話になりながらもなんとか食べ終えたけれど……やっぱり、眠い。
「……ん、一緒に」
ブリスに向き直ったネフィに支えられ、ゆっくりと寝床に身を横たえる。フローの腕も、反対側から抱きしめるように伸びてきた。
(とっても、しあわせ……)
姉二人に伝えようと唇を動かしたつもりだけれど、声になったかどうか自分でもわからない。二人の温もりを更に求めるように身を摺り寄せまがら、夢の世界に誘われている。
(楽しかった……また来ようね、姉様……大好き……)
夢でも姉二人に囲まれて、ブリスは何度も口にしていた。
(ええ、私も大好きよ)
起こさぬよう、寝言には心の中で返事を。笑顔のまま寝入る妹達を眺めてから、ゆっくりと身を起こすのはフロー。
「……二人共、満足したかしら?」
自分は勿論。けれど三人揃って楽しく過ごせるのが一番だ。
「お休み。私の可愛い妹達」
返事はない。そっと窓の外を見れば、まだ遅すぎる時間でもなく。
(そう、私はまだ疲れてはいないから、ね?)
気にはなっていたけれど、二人の手前遠慮していた……混浴に、入りなおしに行こう。
鍵を返しに来る予定の時間にも表れないことで、心配したスタッフにより強引に研究を止められたハヤテ。
「最高に贅沢な時間だった」
帰路でそう零した彼は、一生の趣味として星神器の研究をすると決めた。
書庫に籠もりきりだったエルティア・ホープナー(ka0727)は埃まみれで服もボロボロだったのだ。
「……せっかくだし温泉にでも行こうか」
どんな姿でも彼女の魅力を損なう事はないけれど。シルヴェイラ(ka0726)が溜息と共に呟けば。エアは素直に頷いた。
「温泉で読書も良いわね……」
原動力はそれなのか。
(まあ、それがエアだからな)
「仕方ないから、一緒に行ってあげる」
兄にどんな風が吹いたのか。聞こうとして口を開いたエステル・クレティエ(ka3783)は別の言葉とすり替えた。
「孝行する相手が違うと思うけどね?」
文句が続くけれど、声色は弾んでいる。
「それは何時か兄弟全員でってことで」
ユリアン(ka1664)が頭を下げれば、それでよし、と明るい声で笑顔が浮かんだ。
「ネフィ、あまり騒ぎすぎないようにね?」
フローレンス・レインフォード(ka0443)が部屋の手続きをする間、そわそわと落ち着きがない妹達。それも可愛らしいと思うけれど。
「温泉と聞いたら行かないわけにはいかないのだ♪」
ネフィリア・レインフォード(ka0444)は姉妹を誘ったからこそ、特に張り切っている。
「フロー姉とブリスちゃんと3人でお風呂ー♪」
「……楽しみ」
姉様達と。ブリス・レインフォード(ka0445)の小さな声は口の中で消える程。微笑みも同じように小さいものだが、彼女の姉達は纏う雰囲気で喜んでいるのが分かっている。
手続きの終わりを確認してすぐに駆けだすネフィ。
「ほら、ブリス。私達も行きましょう」
仕方がないわねと、ブリスの手をとりフローも歩みだした。
小隊の仲間達との旅行も楽しい思い出だけれど、一人でノンビリするオンセンも悪くないらしい。誰に約束するでもなく訪れたアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は見知った顔に声をかけることにする。
「オーイ! 君らも来ていたのダネ」
「アルヴィンさんお久しぶりです!」
ゆるりと手を振る兄と、反対の腕を抱えて元気に手を振る妹。
「妹いるけど、良かったら一緒に」
ユリアンの瞳は手伝ってほしいと語っていた。
(いいのカナ?)
依頼で共に過ごした際の様子と違い、ユリアンが居るとより嬉しそうな様子のエステルに気付く。邪魔にならない方がいいと思っているけれど。
「じゃあ、ご一緒しようカナ。ヨロシクお願いシマス、なんダヨー!」
他の誰かが居ても兄妹の仲には関係ないようだから。
●男湯
わずかに引き攣れる感覚を残した胸の傷跡が残っていることにユリアンは安堵する。存在感そのものに意味がある。
(……色々サボってたから)
家族という理由がなくても、放っておかずにいてくれる。できた妹に構うのも久しぶりだ。切欠に感謝……は難しいけれど。切り替えるには悪くない。
すぐ横で湯を入れた桶の中でぱちゃぱちゃと遊ぶパムに気付き、苦笑い。湿っぽい空気は湯に流してしまおう。
「前に正しい作法を教えて貰ったノデきっと大丈夫」
流行に敏い仲間の言葉を思い出しながら、タオルを頭に巻き付けるアルヴィン。周囲には同じように巻いた人はいないのだけれど、訂正されなかったことを正解と信じているので、浮いていても気にしなかった。
風呂酒一式を眺めフワ ハヤテ(ka0004)はくすりと笑う。
「これであいつの自慢話にも張り合えるというものだね?」
桶の中にはワインとグラス、チェイサーとしての冷えた水。グラスや瓶が倒れにくいよう間仕切りも入っているから安心だ。湯にぷかりと浮いた桶を時折つついて舟遊びに興じながら、湯気に混じるワインの香りをより深く吸い込んだ。
「こう言う大きなお風呂も、誰かと一緒に湯に入ると言うノモあまり無いカラ、新鮮な感じダヨネ」
混浴だって、リアルブルーでは普通なのカナ?
「トウジって言って、温泉で病気や怪我を治そうと長期滞在してる人達がいたよ」
東方での経験を伝えるのはユリアン。
「違う世界の事と言うのは何かと興味深いネ」
知り合ったリアルブルーのヒトはたくさんいるけれど、まだまだ知らないことは多い。
「神託の皆ともまた行きたいね……」
微笑みの形にユリアンの口元が緩む。
「ふふふ、次の旅行の計画でも考えようカナ?」
皆の都合が合えばいいネ!
●女湯
常々邪魔だと思っている服をぽいぽいと脱ぎ捨てたネフィが、やはり小走りで浴槽へ駆けだそうとしたのだが。
「あやややや!?」
「こぉーらっ。先に体を洗うのが礼儀なのだから」
予想通りの行動にくすくすと笑いながら、フローがネフィの腕を掴む。飛び出す勢いを流すように利用して、ぐるり。腕の中にナイスキャッチ。ぷよん♪
「ほら、二人とも。洗ってあげるから、おいでなさい」
「……洗ってあげる」
ブリスの一言も続く。
「む、それじゃあ皆で洗いっこするのだ♪」
ならばと素直に従うネフィ。
「前も後ろも綺麗綺麗にするのだ♪」
備え付けの石鹸をすかさず手に取る妹達。
「ふふっ。では、お願いするわね」
お世話されてみるのもたまには良いかもしれない。妹達の成長を感じて嬉しくなるフローだった。
泡立てていただけの筈なのに、今や全員が泡だらけだ。準備は完璧。まずはとフローの背中に歩み寄るブリス。自分で手の届かない背中だからこそ、お互いの手が役に立つ。
「うふふ、姉様達の身体全部、ブリスが綺麗にしてあげる……♪」
フローの背に石鹸の泡を滑らせる。ついでに自分の身体も洗うのだと、手だけではなく身体を使っているのは……うっかりではないのかもしれない。
(姉様、すべすべ……♪)
すべすべぷよん。
「洗いっこ対決なのだ♪」
もちもちぺたん。ぷよふにゅつるん。石鹸の泡はいい仕事をしているようで。
「ふぁー♪ 気持ちいいのだ♪」
次第にネフィの全身が弛緩して、ぷかりと無防備な身体が湯に浮いている。
洗いっこでほんの少しばかり楽しみ過ぎたブリスは、フローに寄りかかるようにくっついている。
「あたたか……」
無意識に頬ずりもしつつ温まっているのだが、ネフィにも抱きつきたいなと視線を向けた。
「ネフィ姉様。抱っこ……いい?」
「じゃあブリスが捕まえてて―♪」
言いながら体勢をなおしたネフィは甘えるようにフローの膝に乗った。
「じゃあ……フロー姉様も、ネフィ姉様も、一緒に……ぎゅー……♪」
フローの正面に回って、精一杯広げた腕を回す。自分よりも背の高い姉二人を包むことまでは出来ないけれど、少しでも触れる面積を増やそうとして。ぷにんと柔らかい部分が隙間を埋めていった。
●混浴
水着と、羽織る程度の上着。着替えたシーラが待つ場に現れるエア。勿論埃は綺麗に落として、髪をアップに。煌めくパレオは鱗のようで人魚を思わせる。
見覚えのない水着は新鮮で、感想を……と、気付いてしまったいつもの厚み。
「ふっ」
苦笑を噛み殺し小さく肩をすくめたシーラにエアが首を傾げる。視線の先は防水カバーを着けた本。
「……いや、なんでもない。似合っているよ水着」
カバーがあるとはいえ、極力濡れないように半身浴。前に来た足湯と勝手が違う。視線は本に向いたまま、無意識に背もたれを探して、シーラにもたれる様に身を寄せるエア。
「読みながらでも体が解せるなんて、悪くないわ」
いつもより読書が捗る気がする。
「その感想は世界初じゃないかな」
物語があれば、そこは素晴らしい環境。それくらい没頭するエアだからこそ。
陽射しが柔らかくなっている意味に気付き、顔をあげたエアは目を細めた。
「……暫くしたら、森が鮮やかに染まるわね」
風にも涼しさを感じられる。季節の移ろいは繰り返されても、その時ごとに様子が違う。
「そうなったら紅葉狩りにでも行こうか」
本だけが物語をもつ存在ではない。文字に留まらない物語の世界を広げるためのシーラの提案。
(連れ出す良い口実にもなるし、ね)
……くぅ。
小さな腹の虫に、ぱちくり瞬きをするエア。
「ははっ。じゃあ食事にしようか……でも、その前に」
上着の中に隠していた柊の簪を手渡すシーラ。
「浴衣に合うだろうと思ってね」
着替えたら、食堂へのエスコートも任せてくれ。
●食事
「ゆっくりできた?」
「当たり前! ねえ兄さん、お夕飯は盛り合わせとかでいい?」
どれくらい必要だろうかと、一人前の量を見ながら悩むエステル。
「賑やかになるし良いんじゃないかな」
大きめの皿に盛られた温泉芋に、その周囲を飾るように並んだ各種のヴルスト。トッピングとディップの提案をしてきたエステルが、参考になるかもしれないと請われるまま盛付けてきたものだ。パーティー料理の様相を呈して居るのを見て、ユリアンは手元のコップに視線を落とす。
(組み合わせたら、女の子達が喜びそうだ)
慎重に注いで仕上げた果汁と紅茶のセパレートティーは綺麗な層ができている。飾りつけに果物も良さそうだ、あとで提案してみよう。
「オンセンからあがったら、コレだって聞いたんダヨ」
けれどソッチも気になるねと興味津々なアルヴィンの視線。
「美味しい配合を探しているところだけど。あとで味見もしてもらえるかな?」
「ブリスちゃん、食べさせてあげるのだ♪ はい、あーん♪」
口の大きさに合わせ小さくした温泉芋を差し出すネフィだが、自分の口にも勿論運んでいる。早いように見えるがしっかりと味わっているのは、多分一口の量が人よりちょっと多いおかげ。
「あら、これも美味しいわ。ネフィもどうかしら」
「あーん♪」
甘えて口を開ける妹達の様子にフローは雛鳥を思い浮かべる。変わらず頼って貰えることも嬉しい。
「美味しい? ふふっ、よかったわ」
結局どれも美味しくて、三姉妹では多めに見える料理達も全滅するのだった。主にネフィの活躍のおかげで。
蒸し料理を楽しんで、最後に温泉芋をシーラと半分ずつ。
「美味しい……これ、買って帰れるかしら……ねぇ、シーラ、貴方ならこれで何を作ってくれる?」
ここに幼馴染の手が加わったら、もっと美味しいだろうとエアは思う。甘味があるから菓子だろうか?
「無茶振りを……まあご要望とあらば」
改めて一口。吟味し思案するシーラ。レシピがもらえるかは頼んでみることにして、再現も試すべきだ。なにより珈琲との相性も気にしなければ。
●足湯
(無理はしないつもりだけど……頑張らないと、な)
また連れてこられるように。足湯ではしゃぐ妹の横顔に、改めて思う。
「ねぇねぇ兄様、泊まっていくでしょう?」
気付けばエステルに袖をひかれている。
「アルヴィンさんもご一緒にどうですか?」
隣の足湯からのお誘いに、ゆっくりと水が跳ねない程度のバタ足を止めて笑顔を返すアルヴィン。
「今日は兄妹水入らず、なんデショ?」
二人の掛け合いを聞きながら、くすくすと笑みを零してお断り。足元からのぼってきた温かさが、じんわりと胸元まで届いたような気がしたのかもしれない。
「小さい頃みたいに怖い夢を見たって、泣いて一緒に寝るなんて言うなよ?」
「もう大人なんだから。そんな昔のこと……!」
●個室
夕涼みを兼ねた移動。下駄の歩みもゆっくりだ。
ふと小さな差異を感じた気がして、シーラを見上げるエア。
「シーラ……少し変わった?……強くなったって言うか……ふふ、何だか不思議ね」
首を傾げる。口元には小さな笑み。
「そうかい? まあ、悪い気は、しないな」
必要なことだから、なんて言うつもりはない。言えぬ自分にシーラは内心苦笑を向ける。
「けれど、君だって変わったよ。エア」
「いつも一緒にしても、こうして変化に気づけるなんて……私が周りを見て居なかったのも有るけれど」
続けようとするエアに気付かぬふりで、シーラが紡ぐ。
「表情が柔らかくなったし、……綺麗になったよ」
昔から知る本来の君はそのままだけれど。ずっと見ていた私が、更に見ていたいと思うくらいに。
笑ったことに、だろうか?
「ずっと読んでいたお話がね、とても面白くって、笑ってしまうのよ……」
だから思い出して、同じ笑みを見せようと話すエア。その表情はシーラにしか見せていないという事実は、本人が気付いていない。
短くとも効果のある仮眠の後、ハヤテの意識が浮上する。
「んー……ああ、折角だ」
一人であることを再確認したおかげで思い出した。やりたくても、一人、好きなだけ集中できる環境でなければできないことを。
荷物の中でも大きめの袋。泥のように混ざり合って暗いようで眩しい、混沌じみたそれの中身はこれまでに集めた魔導書達。その中から大本命の星神器を取り出した。
「解読不可能? だからどうした」
誰にともなく呟く。唇の端が上がる。狂気と呼ぶほどではない、熱意。
「ボクは読みたい」
星神器に意思があるかは知らないが、これから挑戦する宣言はすべきだと本能が告げる。この欲望の為だけに手に入れたのだ。参考資料としての魔導書集めだって馬鹿にならない手間をかけた。
「さぁ、基本の模写からはじめるとしようか?」
根気よく続ければ規則性や関連性も見えてくるだろう。それがどれほど時間のかかることかはともかくとして……読みたい、その気持ちは自分でも止められない。止めるつもりはない。いつもなら邪魔が入るのを嫌って、こうして一人になれるまで保留にしてきたのだから!
「皆で並んで一緒に寝るのだ♪ フロー姉が真ん中かな?」
言いながら姉に抱きつこうとするネフィの横で、ブリスの瞼がゆっくりおりようとしている。食事中も小さく欠伸を零していたのだ。姉達の世話になりながらもなんとか食べ終えたけれど……やっぱり、眠い。
「……ん、一緒に」
ブリスに向き直ったネフィに支えられ、ゆっくりと寝床に身を横たえる。フローの腕も、反対側から抱きしめるように伸びてきた。
(とっても、しあわせ……)
姉二人に伝えようと唇を動かしたつもりだけれど、声になったかどうか自分でもわからない。二人の温もりを更に求めるように身を摺り寄せまがら、夢の世界に誘われている。
(楽しかった……また来ようね、姉様……大好き……)
夢でも姉二人に囲まれて、ブリスは何度も口にしていた。
(ええ、私も大好きよ)
起こさぬよう、寝言には心の中で返事を。笑顔のまま寝入る妹達を眺めてから、ゆっくりと身を起こすのはフロー。
「……二人共、満足したかしら?」
自分は勿論。けれど三人揃って楽しく過ごせるのが一番だ。
「お休み。私の可愛い妹達」
返事はない。そっと窓の外を見れば、まだ遅すぎる時間でもなく。
(そう、私はまだ疲れてはいないから、ね?)
気にはなっていたけれど、二人の手前遠慮していた……混浴に、入りなおしに行こう。
鍵を返しに来る予定の時間にも表れないことで、心配したスタッフにより強引に研究を止められたハヤテ。
「最高に贅沢な時間だった」
帰路でそう零した彼は、一生の趣味として星神器の研究をすると決めた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/13 17:55:25 |