ゲスト
(ka0000)
甘い香りに誘われて
マスター:ザント

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~4人
- サポート
- 0~20人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/21 07:30
- 完成日
- 2018/09/26 00:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ジェオルジにある村の住居。
そこにあるベッドには男性が寝ており、その傍らには男性を咎める様な目をした少女がいた。
「今日は薬草採取に行く日なのにどうするんですか」
薬草採取の手伝いと護衛としてハンターを雇い、いざ当日という所で頼んだ本人が暑さにやられて倒れてしまったのだ。
「ごめんよシャール……」
少女の名はシャール、男性の名はオックス。
村の救護所で働く薬師とその弟子の薬師見習いだ。
オックスは掻き消えそうな声での謝罪にシャールは仕方ないと言わんばかりに軽く頭を振った。
「今回は私が代理で薬草採取に行ってきますね」
「それは……」
何か言いたげなオックスに、シャールは笑顔を向ける。
「大丈夫ですよ。前みたいに変な噂もありませんし、何よりハンターの人たちがいるんですから」
シャールとオックスは以前、薬草を採りに行った森で雑魔に襲われたことがあった。
その時は無事解決したが、それからは薬草採取に行く時には必ず護衛を雇うようにし、その間はシャールに留守番をさせていた。
「あの時のことはもう大丈夫です。時間が経っていますから」
オックスはその心配をしていたが、シャールの言葉で言いたいことを全て飲み込む。
「それじゃあ、そろそろ行きますね。ちゃんと水分を取って休んでいてくださいよ」
「あぁ、気をつけて行ってくるんだよ……」
「はい。行ってきます」
まだ心配そうなオックスにそう言うと、シャールはハンターと共に森へと出発していった。
昨日、森に雨が降った為に森の中は未だに湿度が高く蒸し暑く、かいた汗も乾かず、熱と湿気が体力と心をじりじりと削り続けていた。
そんな中でハンターたちは薬草採取をしていたが、ハンターの一人が汗を拭い、たまらず呟いた。
「こんな蒸し暑いのに森での依頼なんて受けるんじゃなかったな……」
「ぼやいてないで手を動かせよ」
仲間に注意され、男は軽い返事をしてまた作業へと戻る。
その様子を見てシャールは、休憩を入れるべきかと思い、額の汗を拭うと木陰に移動して休憩の準備を始める。
と言っても、敷物とコップに飲み物を用意するだけだが。
準備を終えると、作業を続けるハンターたちへ声をかける。
「皆さん、そろそろ一度休憩しましょう!」
シャールの提案にハンターたちは作業の手を止め、木陰へと移動して飲み物が注がれたコップを受け取ると一気に飲み干した。
「あー、生き返る」
口々にそう言うハンターたちを見て、休憩を入れて良かったとシャールは思い、自分も飲み物を飲む。
その後しばらくは休憩という名の談笑をしていると、ふと女性ハンターが声を上げた。
「何か、甘い匂いがしない?」
「確かに、バナナみたいな匂いがするな」
「これはきっとポポーですね」
風に運ばれてきた匂いを嗅ぎ、シャールがその正体を突き止める。
「ポポー?」
「はい。幻の果実と呼ばれる果実で、果肉は凄く柔らかくてとても甘くて美味しいんですよ」
シャールが形や大きさなどを教えると、ハンターたちは感心したように声を上げる。
そんな中、ハンターの一人が尋ねた。
「そんなに美味しいなら、どうして流通しないの?」
「腐るのが早いから流通出来ないんです。それに熟した時の見た目は、皮に黒カビが生えているみたいなんです」
「それは……売れないだろうな」
人は基本見た目で判断するもので、それが食材だとなればなおさらだ。
「ですよね……」
ハンターの言葉を予想していたシャールは、苦笑すると立ち上がった。
「休憩はこの辺にして、そろそろ再開しましょう」
「了解」
そしてシャールとハンターたちは休憩を終え、薬草採取を再開する。
休憩を挟んだからか予定よりも早く目標の量を採取し終えた一行は、薬草と共にシャールを村へと送り届け、そこで依頼が終了。
帰ろうとしていたハンターたちは、ポポーのことを思い出していた。
「幻の果実って言われてるし、ちょっと興味あるわよね」
「……まだ日没まで時間があるし、ちょっと探してみるか?」
ポポーに興味津々のハンターたちは、日没まで猶予があることを確認するとまた森へと足を踏み入れる。
甘い匂いを辿って森の中を突き進んで行き、匂いの元へと辿り着いた。
「あの木の根元に幾つも落ちているのがポポーか」
シャールから聞いた特徴と一致している果実を見つけ、ハンターたちはポポーを拾おうとポポーの木へと近づいていく。
「いてっ」
不意に、ハンターの一人が痛みを訴えた。
「いつっ!」
「いたっ!」
「どうした!?」
次々と痛みを訴えるハンターたちは、痛みのあった箇所を見て目を見開いた。
そこに居たのは全体的に真っ黒な色の蝶。
大きさは通常の蝶程だが、両羽に赤い色の眼球のような模様が計四つあり、口である管は肌に突き刺さっている。
蝶はハンターたちに気づかれてもお構いなしに真っ赤な液体を吸い続け、黒い体を徐々に赤黒く変色させていく。
(な、何だ。だんだん体が痺れて……)
血を吸われ続ける中、体が徐々に麻痺していくのを感じたハンターたちは危険を感じて蝶を払い落とす。
「に、逃げるぞ!」
そしてそのままハンターたちは、身を翻して来た道を引き返していった。
「その後、ハンターオフィスに駆け込んできた彼らから事情を聞き、危険な蝶が森に生息していたことが発覚しました。ハンター達の証言から考えるに、襲ってきた蝶というのは紅眼揚羽でしょう。とても特徴的な模様のある蝶ですので、まず間違いありません」
ハンターオフィスの女性職員はハンター時代に出会ったことがあるのか、詳細な情報を教えてくれた。
「紅眼揚羽は森や草原に生息しており、大きさも強さも通常の蝶と同じですが、餌として動物や人間の体液を吸い、吸血と同時に生物を麻痺させる成分を注入して動けなくしてから、血を吸い尽くすという恐ろしい生態を持っています。餌を効率的に集める為に甘い匂いを放つ果実や花などの近くに集まる習性があり、今回のハンターたちはまさにそれに当てはまってしまったということですね」
職員は頭を軽く振って呆れた様子を見せてから、依頼内容を説明し始めた。
「依頼主は我々ハンターオフィス。紅眼揚羽の討伐をお願いします。今回はハンターだったので全員無事でしたが、一般人がいつ襲われるかも分かりません。ですので、全ての紅眼揚羽を倒してください。それと別口なのですが……この話を聞いたグルメで有名な貴族の方がポポーを味わってみたいと仰り、その貴族の方からポポーの実採取の依頼が来ました。可能であればポポーを採取して来てください」
説明を終えた職員は真剣な眼差しで。
「紅眼揚羽には十分に気をつけてください。運が悪いとミイラになっちゃいますよ」
と、警告をしてきた。
そこにあるベッドには男性が寝ており、その傍らには男性を咎める様な目をした少女がいた。
「今日は薬草採取に行く日なのにどうするんですか」
薬草採取の手伝いと護衛としてハンターを雇い、いざ当日という所で頼んだ本人が暑さにやられて倒れてしまったのだ。
「ごめんよシャール……」
少女の名はシャール、男性の名はオックス。
村の救護所で働く薬師とその弟子の薬師見習いだ。
オックスは掻き消えそうな声での謝罪にシャールは仕方ないと言わんばかりに軽く頭を振った。
「今回は私が代理で薬草採取に行ってきますね」
「それは……」
何か言いたげなオックスに、シャールは笑顔を向ける。
「大丈夫ですよ。前みたいに変な噂もありませんし、何よりハンターの人たちがいるんですから」
シャールとオックスは以前、薬草を採りに行った森で雑魔に襲われたことがあった。
その時は無事解決したが、それからは薬草採取に行く時には必ず護衛を雇うようにし、その間はシャールに留守番をさせていた。
「あの時のことはもう大丈夫です。時間が経っていますから」
オックスはその心配をしていたが、シャールの言葉で言いたいことを全て飲み込む。
「それじゃあ、そろそろ行きますね。ちゃんと水分を取って休んでいてくださいよ」
「あぁ、気をつけて行ってくるんだよ……」
「はい。行ってきます」
まだ心配そうなオックスにそう言うと、シャールはハンターと共に森へと出発していった。
昨日、森に雨が降った為に森の中は未だに湿度が高く蒸し暑く、かいた汗も乾かず、熱と湿気が体力と心をじりじりと削り続けていた。
そんな中でハンターたちは薬草採取をしていたが、ハンターの一人が汗を拭い、たまらず呟いた。
「こんな蒸し暑いのに森での依頼なんて受けるんじゃなかったな……」
「ぼやいてないで手を動かせよ」
仲間に注意され、男は軽い返事をしてまた作業へと戻る。
その様子を見てシャールは、休憩を入れるべきかと思い、額の汗を拭うと木陰に移動して休憩の準備を始める。
と言っても、敷物とコップに飲み物を用意するだけだが。
準備を終えると、作業を続けるハンターたちへ声をかける。
「皆さん、そろそろ一度休憩しましょう!」
シャールの提案にハンターたちは作業の手を止め、木陰へと移動して飲み物が注がれたコップを受け取ると一気に飲み干した。
「あー、生き返る」
口々にそう言うハンターたちを見て、休憩を入れて良かったとシャールは思い、自分も飲み物を飲む。
その後しばらくは休憩という名の談笑をしていると、ふと女性ハンターが声を上げた。
「何か、甘い匂いがしない?」
「確かに、バナナみたいな匂いがするな」
「これはきっとポポーですね」
風に運ばれてきた匂いを嗅ぎ、シャールがその正体を突き止める。
「ポポー?」
「はい。幻の果実と呼ばれる果実で、果肉は凄く柔らかくてとても甘くて美味しいんですよ」
シャールが形や大きさなどを教えると、ハンターたちは感心したように声を上げる。
そんな中、ハンターの一人が尋ねた。
「そんなに美味しいなら、どうして流通しないの?」
「腐るのが早いから流通出来ないんです。それに熟した時の見た目は、皮に黒カビが生えているみたいなんです」
「それは……売れないだろうな」
人は基本見た目で判断するもので、それが食材だとなればなおさらだ。
「ですよね……」
ハンターの言葉を予想していたシャールは、苦笑すると立ち上がった。
「休憩はこの辺にして、そろそろ再開しましょう」
「了解」
そしてシャールとハンターたちは休憩を終え、薬草採取を再開する。
休憩を挟んだからか予定よりも早く目標の量を採取し終えた一行は、薬草と共にシャールを村へと送り届け、そこで依頼が終了。
帰ろうとしていたハンターたちは、ポポーのことを思い出していた。
「幻の果実って言われてるし、ちょっと興味あるわよね」
「……まだ日没まで時間があるし、ちょっと探してみるか?」
ポポーに興味津々のハンターたちは、日没まで猶予があることを確認するとまた森へと足を踏み入れる。
甘い匂いを辿って森の中を突き進んで行き、匂いの元へと辿り着いた。
「あの木の根元に幾つも落ちているのがポポーか」
シャールから聞いた特徴と一致している果実を見つけ、ハンターたちはポポーを拾おうとポポーの木へと近づいていく。
「いてっ」
不意に、ハンターの一人が痛みを訴えた。
「いつっ!」
「いたっ!」
「どうした!?」
次々と痛みを訴えるハンターたちは、痛みのあった箇所を見て目を見開いた。
そこに居たのは全体的に真っ黒な色の蝶。
大きさは通常の蝶程だが、両羽に赤い色の眼球のような模様が計四つあり、口である管は肌に突き刺さっている。
蝶はハンターたちに気づかれてもお構いなしに真っ赤な液体を吸い続け、黒い体を徐々に赤黒く変色させていく。
(な、何だ。だんだん体が痺れて……)
血を吸われ続ける中、体が徐々に麻痺していくのを感じたハンターたちは危険を感じて蝶を払い落とす。
「に、逃げるぞ!」
そしてそのままハンターたちは、身を翻して来た道を引き返していった。
「その後、ハンターオフィスに駆け込んできた彼らから事情を聞き、危険な蝶が森に生息していたことが発覚しました。ハンター達の証言から考えるに、襲ってきた蝶というのは紅眼揚羽でしょう。とても特徴的な模様のある蝶ですので、まず間違いありません」
ハンターオフィスの女性職員はハンター時代に出会ったことがあるのか、詳細な情報を教えてくれた。
「紅眼揚羽は森や草原に生息しており、大きさも強さも通常の蝶と同じですが、餌として動物や人間の体液を吸い、吸血と同時に生物を麻痺させる成分を注入して動けなくしてから、血を吸い尽くすという恐ろしい生態を持っています。餌を効率的に集める為に甘い匂いを放つ果実や花などの近くに集まる習性があり、今回のハンターたちはまさにそれに当てはまってしまったということですね」
職員は頭を軽く振って呆れた様子を見せてから、依頼内容を説明し始めた。
「依頼主は我々ハンターオフィス。紅眼揚羽の討伐をお願いします。今回はハンターだったので全員無事でしたが、一般人がいつ襲われるかも分かりません。ですので、全ての紅眼揚羽を倒してください。それと別口なのですが……この話を聞いたグルメで有名な貴族の方がポポーを味わってみたいと仰り、その貴族の方からポポーの実採取の依頼が来ました。可能であればポポーを採取して来てください」
説明を終えた職員は真剣な眼差しで。
「紅眼揚羽には十分に気をつけてください。運が悪いとミイラになっちゃいますよ」
と、警告をしてきた。
リプレイ本文
●
農耕推進地域ジェオルジにある森の中、四人組の男女が森に落ちている果実を踏まないように注意しつつ歩いていた。
「本当にバナナみたいな香りがしますね」
「思ったよりも強い香りのようですね」
穂積 智里(ka6819)は森に漂う香りを嗅いで呟くと、玲瓏(ka7114)も同じく香りの感想を口にする。
「これが元々の香りなのか、それとも時間が経ったから実が一斉に熟したからなのか。どちらにしてもこの香りに釣られて森に住む動物たちは寄ってくるだろうな」
「森に住む動物に食べられる前に回収しないといけませんね。残っていると良いのですが」
予想以上の香りにレイア・アローネ(ka4082)と橘花 夕弦(ka6665)は香りの元である果実が残っているかどうかを懸念する。
四人がこの森に来た目的は、森に漂う香りの元であるポポーの実の確保すること。
そしてポポーの実がある場所に集まっている危険生物である紅眼揚羽の討伐だ。
「紅眼揚羽の生態については、血を吸うことと血を吸うと体が赤くなるということ、吸血時に麻痺成分を注入すること、そして甘い香りを放つ物を餌に動物を誘き寄せて襲う。この四つ以外は普通の蝶と同じということでした」
智里は出発する前にハンターオフィスの職員にした質問を思い返す。
「聞けば聞くほどバナナみたいな気がしますけど……一本だけなら持ち帰って家で食べても大丈夫でしょうか」
「もちろんです」
「そう言えば、この蝶の生態はどの位判明していますか? 幼虫の好む場所や外見等の生態が分かっているなら、成虫退治後に確認してきます。成虫になってから長距離移動する種類かもしれませんけれど、森にこんな危険生物のコロニーがあったら大変です」
「幼虫が好む場所はやはり柔らかい葉があるところでしょうか。外見の方は通常の蝶と変わりません。小さいときはゴミと間違えてしまうような姿で、大きくなると葉と同じ緑色となります。それと……」
蝶と同じく卵の数は二~三百個で、産卵する際は柔らかい葉や硬い葉などに一個ずつバラバラの場所に産卵するらしい。
もちろん、全ての卵や幼虫が無事に成虫まで育つこともないので大量発生するということは起きてはいない。
そして一匹で数百もの卵を産むので個体数自体は多いが、甘い香りを放つ物に集まる習性を利用すれば駆除は容易いとのことだ。
今回はポポーの実の確保があるので、それを考慮しなければならず容易くはないが。
「成虫となった紅眼揚羽の寿命は二週間なので、紅眼揚羽のコロニーが出来ていることはないとのことでした」
職員が答えてくれた内容を全員に話して共有を行い、紅眼揚羽に対する知識を深める。
「それなら寿命が尽きるまで待つことも手だと思うのだが」
「いや、それでは恐らくポポーの実が腐ってしまうのでは?」
「う。そういえば腐るのが早いんだったな……忘れていた」
夕弦のツッコミにレイアは言葉を詰まらせて思い出す。
もう一つの目的である幻の果実と言われるポポーの実の確保だが、幻と言われる所以は腐りやすいところである。
それが理由で流通すらしておらず、ポポーの木がある場所でのみ食べられている。
そんな物を依頼主の下へどうやって運ぶのかと疑問に思うが、そこは四人の管轄外なので気にしないことにする。
「そういえば、香りが強くなってきましたね」
「あぁ。もう近くの場所に来たのだろうな」
話しながら歩いていたからか、智里の言葉で四人は森に漂うバナナに似た香りが先ほどよりも強くなっていることに気づき、目的地がすぐ近くであることを察する。
「ポポーの木の周囲に危険生物がいることは分かってますし、どんどん行ってしまっても良いんじゃないでしょうか」
「待ってください」
香りの先へ行こうとする智里に待ったをかけたのは玲瓏だった。
「望遠鏡を持ってきました。これで分かる分だけでも蝶の位置を把握しましょう」
「そうだな。位置が分かれば仕掛けやすい」
「俺も賛成です。万全を期しましょう」
「そうですね。吸血された時のことを考えるとその方がいいですね」
全員から賛成を得た玲瓏は望遠鏡を取り出すと、それで紅眼揚羽を探す。
すると思ったよりも近くまで来ていたようで、望遠鏡を通して紅眼揚羽と特徴が一致する蝶の群れを発見できた。
「見えるか?」
「はい。全体的に黒く、両羽に赤い色の目のような模様のある蝶……間違いありません。紅眼揚羽です。どうやら集まって行動はしていないようです」
玲瓏は望遠鏡で見える限りの紅眼揚羽の位置を把握し、その情報を全員と共有する。
その後、紅眼揚羽が気づかない程度まで近づくと玲瓏は全員にレジストをかけて麻痺対策を行い、準備万端だ。
「行くぞ!」
レイアの掛け声で、全員はポポーの木の周りを飛ぶ紅眼揚羽たちの前へと躍り出た。
「ふっ!」
レイアは自分が持つ武器にマテリアルで強化しつつ溜め込み、真正面にいた紅眼揚羽に向かって一気に武器を振り抜いた。
それによって起きた衝撃波が紅眼揚羽を捕らえ、残骸となった紅眼揚羽が散らばり落ちる。
智里の目の前に光で出来た三角形が現れ、その頂点からそれぞれ光が伸びていく。
玲瓏からの情報で前もって目星をつけていた紅眼揚羽たちを貫くが、一本だけは紅眼揚羽が直前に身を翻して避けたことで地面に突き刺さった。
「誰かが傷つけあう場所、ではないんですよ」
鞘から刃を抜きながら夕弦は呟くと、すぐ近くにいる紅眼揚羽へ切りかかりながら素早く踏み出す。
敵の逃げ道を断ちながら距離を詰め、一閃。
「早々に、赤黒く翅が染まる前に、斬り散らされなさい」
そして紙のように斬れ散る紅眼揚羽へと言葉を送った。
玲瓏は全員へかけたレジストが解けていないのを確認し、孤立しないように移動しつつこちらに気づいた紅眼揚羽が動き出すのを視界に捉えると刀を振るう。
上下に分かれて落ちていく紅眼揚羽の影から、別の紅眼揚羽が飛び出し智里へと迫っていく。
そして智里に触れると思った瞬間、雷撃を纏った光の障壁が間に出現して紅眼揚羽を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた紅眼揚羽は羽ばたき続けるが、その動作はどこかぎこちない。
「こういうの、たしか漢探知って言うんですよね……?」
智里の呟きに答えるかのように紅眼揚羽たちが一斉に四人に向かって迫り来る。
「そこだ!」
大きく踏み込みながらレイアは剣を突き出し、軌道上に居た紅眼揚羽たちを刺し貫いた。
そこから間を置かずに智里は再び光の三角形を出現させる。
頂点から伸びた三つの光は紅眼揚羽へと向かうが、紅眼揚羽を捕らえたのはその内の一本のみで他は危険を察知したのか避けられてしまった。
「蝶なのに素早いですね」
続けて夕弦が飛び出すと、素早く動きながら周囲にいる紅眼揚羽たちを何度も斬りつける。
それを終えると流れるように動いて元居た位置へと戻り囁いた。
「流影――水面の月の如く、静かに。留まる事なく」
順調に紅眼揚羽を倒していく三人の後ろから全員を視界に入れ、玲瓏がそろそろレイアを麻痺から守る光が消える時間だと思うと同時にレイアの全身を覆っていた光が消える。
そこへすかさず玲瓏が再度レイアに麻痺から守る光を付与する。
「助かる!」
レイアは手短に玲瓏に礼を言い、体を捻って寄ってきた紅眼揚羽たちを巧みに避ける。
顔へ向かってくる紅眼揚羽を避けた夕弦だが、もう一匹の紅眼揚羽には気づかずに体に止まることを許してしまった。
だが、夕弦の着ている鎧には歯が立たずにすぐに離れていく。
「鎧に助けられましたか」
玲瓏も避けるのが間に合わず足と腕に紅眼揚羽が止まるが、グローブとシューズのおかげで攻撃を防ぐことが出来た。
智里は体と脚に止まろうとするの紅眼揚羽たちを避けて事なきを得る。
「しっ!」
武器を振り抜き、生じた衝撃波でレイアは紅眼揚羽をまとめて吹き飛ばすと、幸運にも一匹の残骸が無事な紅眼揚羽へと当たりそれも仕留めることが出来た。
続けて智里の目の前に現れた光の三角形から伸びる光の一本が紅眼揚羽を貫き、夕弦が飛び出し縦横無尽に複数の紅眼揚羽を何度も斬りつけてから流れるように元の位置へと戻る。
玲瓏は麻痺から守る光が消えた仲間へ光の付与を行い、孤立しないように移動を行う。
今のところ誰も傷一つなく行動を出来ていることから、これを繰り返せば問題なく紅眼揚羽を駆除することが出来るだろう。
レイアはそう判断を下し、ミスを犯さないように気を引き締めながら仲間たちと固まって行動をしながら紅眼揚羽へと剣を振り下ろした。
●
全員が怪我をすることもなく、ノルマ───というよりは一人当たりの討伐数である十三匹以上を倒し、つつが無く紅眼揚羽を全て討伐し終えた。
その後、もう一つの目的であるポポーの実の確保へと四人は行動を移していた。
智里は足からマテリアルを噴射して空を飛び、ポポーの木の高い位置に生っているポポーの中から完熟間際の物を見つけるとそれを採取する。
ポポーの木の根元では夕弦たちが完熟して落ちたポポーを拾い集めていく。
智里も夕弦たちもポポーの実を集め終え、依頼してきた貴族用に傷がなく、完熟間近の実を玲瓏がバックパックに詰める。
残ったのは傷がついていたり収穫が間に合わない、もしくは既に完熟している実だけ。
これらの実の処分方法は決まっている。
「皆で分けようか」
「そうですね。そうしましょう」
「このまま腐らせるのも勿体無いでしょうしね」
「はい。頂きましょう」
レイアは完熟して少し柔らかい感触の実を手に取ると、半分に切り分けた。
中心に黒い大粒の種が並び、それを覆う果肉は黄色がかった白色をしている。
「んっ!」
レイアは果肉にかぶりつき、思わず声を上げた。
果肉はとても柔らかくとろっとしていて、まるでクリームだ。
味は凄く甘く、熟しすぎたバナナと言うべきか、甘みが強いメロンと言うべきか、独特な味だ。
「美味いな」
「本当に甘くて、口の中でとろけてしまいますね」
レイアの呟きに反応してか、玲瓏はポポーの味に満足気に頷いた後、思い出したようにボトルを取り出した。
「チョコレートをつけたら別の美味しさがあるかなと思って持ってきました。レイア様、いかがですか?」
「あぁ、もらおう」
ボトルの中身は溶かしてドリンク状にしたチョコレートで、玲瓏はレイアに勧める。
「私もいいでしょうか」
「もちろんです、智里様」
智里もチョコにポポーをつけ、三人は一斉にチョコ付きポポーを食べた。
「……蝶にとっての、甘い、好きなものですか」
夕弦の囁くような言葉は静かな森を揺らす静風によって誰の耳にも届かない。
「橘花様もいかがでしょうか」
「……せっかくなので頂きます」
玲瓏からの誘いに答え、夕弦も合流する。
そうして四人は仲間達と労を労い合いながら、一休みも兼ねて森の中でポポーに舌鼓を打った。
農耕推進地域ジェオルジにある森の中、四人組の男女が森に落ちている果実を踏まないように注意しつつ歩いていた。
「本当にバナナみたいな香りがしますね」
「思ったよりも強い香りのようですね」
穂積 智里(ka6819)は森に漂う香りを嗅いで呟くと、玲瓏(ka7114)も同じく香りの感想を口にする。
「これが元々の香りなのか、それとも時間が経ったから実が一斉に熟したからなのか。どちらにしてもこの香りに釣られて森に住む動物たちは寄ってくるだろうな」
「森に住む動物に食べられる前に回収しないといけませんね。残っていると良いのですが」
予想以上の香りにレイア・アローネ(ka4082)と橘花 夕弦(ka6665)は香りの元である果実が残っているかどうかを懸念する。
四人がこの森に来た目的は、森に漂う香りの元であるポポーの実の確保すること。
そしてポポーの実がある場所に集まっている危険生物である紅眼揚羽の討伐だ。
「紅眼揚羽の生態については、血を吸うことと血を吸うと体が赤くなるということ、吸血時に麻痺成分を注入すること、そして甘い香りを放つ物を餌に動物を誘き寄せて襲う。この四つ以外は普通の蝶と同じということでした」
智里は出発する前にハンターオフィスの職員にした質問を思い返す。
「聞けば聞くほどバナナみたいな気がしますけど……一本だけなら持ち帰って家で食べても大丈夫でしょうか」
「もちろんです」
「そう言えば、この蝶の生態はどの位判明していますか? 幼虫の好む場所や外見等の生態が分かっているなら、成虫退治後に確認してきます。成虫になってから長距離移動する種類かもしれませんけれど、森にこんな危険生物のコロニーがあったら大変です」
「幼虫が好む場所はやはり柔らかい葉があるところでしょうか。外見の方は通常の蝶と変わりません。小さいときはゴミと間違えてしまうような姿で、大きくなると葉と同じ緑色となります。それと……」
蝶と同じく卵の数は二~三百個で、産卵する際は柔らかい葉や硬い葉などに一個ずつバラバラの場所に産卵するらしい。
もちろん、全ての卵や幼虫が無事に成虫まで育つこともないので大量発生するということは起きてはいない。
そして一匹で数百もの卵を産むので個体数自体は多いが、甘い香りを放つ物に集まる習性を利用すれば駆除は容易いとのことだ。
今回はポポーの実の確保があるので、それを考慮しなければならず容易くはないが。
「成虫となった紅眼揚羽の寿命は二週間なので、紅眼揚羽のコロニーが出来ていることはないとのことでした」
職員が答えてくれた内容を全員に話して共有を行い、紅眼揚羽に対する知識を深める。
「それなら寿命が尽きるまで待つことも手だと思うのだが」
「いや、それでは恐らくポポーの実が腐ってしまうのでは?」
「う。そういえば腐るのが早いんだったな……忘れていた」
夕弦のツッコミにレイアは言葉を詰まらせて思い出す。
もう一つの目的である幻の果実と言われるポポーの実の確保だが、幻と言われる所以は腐りやすいところである。
それが理由で流通すらしておらず、ポポーの木がある場所でのみ食べられている。
そんな物を依頼主の下へどうやって運ぶのかと疑問に思うが、そこは四人の管轄外なので気にしないことにする。
「そういえば、香りが強くなってきましたね」
「あぁ。もう近くの場所に来たのだろうな」
話しながら歩いていたからか、智里の言葉で四人は森に漂うバナナに似た香りが先ほどよりも強くなっていることに気づき、目的地がすぐ近くであることを察する。
「ポポーの木の周囲に危険生物がいることは分かってますし、どんどん行ってしまっても良いんじゃないでしょうか」
「待ってください」
香りの先へ行こうとする智里に待ったをかけたのは玲瓏だった。
「望遠鏡を持ってきました。これで分かる分だけでも蝶の位置を把握しましょう」
「そうだな。位置が分かれば仕掛けやすい」
「俺も賛成です。万全を期しましょう」
「そうですね。吸血された時のことを考えるとその方がいいですね」
全員から賛成を得た玲瓏は望遠鏡を取り出すと、それで紅眼揚羽を探す。
すると思ったよりも近くまで来ていたようで、望遠鏡を通して紅眼揚羽と特徴が一致する蝶の群れを発見できた。
「見えるか?」
「はい。全体的に黒く、両羽に赤い色の目のような模様のある蝶……間違いありません。紅眼揚羽です。どうやら集まって行動はしていないようです」
玲瓏は望遠鏡で見える限りの紅眼揚羽の位置を把握し、その情報を全員と共有する。
その後、紅眼揚羽が気づかない程度まで近づくと玲瓏は全員にレジストをかけて麻痺対策を行い、準備万端だ。
「行くぞ!」
レイアの掛け声で、全員はポポーの木の周りを飛ぶ紅眼揚羽たちの前へと躍り出た。
「ふっ!」
レイアは自分が持つ武器にマテリアルで強化しつつ溜め込み、真正面にいた紅眼揚羽に向かって一気に武器を振り抜いた。
それによって起きた衝撃波が紅眼揚羽を捕らえ、残骸となった紅眼揚羽が散らばり落ちる。
智里の目の前に光で出来た三角形が現れ、その頂点からそれぞれ光が伸びていく。
玲瓏からの情報で前もって目星をつけていた紅眼揚羽たちを貫くが、一本だけは紅眼揚羽が直前に身を翻して避けたことで地面に突き刺さった。
「誰かが傷つけあう場所、ではないんですよ」
鞘から刃を抜きながら夕弦は呟くと、すぐ近くにいる紅眼揚羽へ切りかかりながら素早く踏み出す。
敵の逃げ道を断ちながら距離を詰め、一閃。
「早々に、赤黒く翅が染まる前に、斬り散らされなさい」
そして紙のように斬れ散る紅眼揚羽へと言葉を送った。
玲瓏は全員へかけたレジストが解けていないのを確認し、孤立しないように移動しつつこちらに気づいた紅眼揚羽が動き出すのを視界に捉えると刀を振るう。
上下に分かれて落ちていく紅眼揚羽の影から、別の紅眼揚羽が飛び出し智里へと迫っていく。
そして智里に触れると思った瞬間、雷撃を纏った光の障壁が間に出現して紅眼揚羽を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた紅眼揚羽は羽ばたき続けるが、その動作はどこかぎこちない。
「こういうの、たしか漢探知って言うんですよね……?」
智里の呟きに答えるかのように紅眼揚羽たちが一斉に四人に向かって迫り来る。
「そこだ!」
大きく踏み込みながらレイアは剣を突き出し、軌道上に居た紅眼揚羽たちを刺し貫いた。
そこから間を置かずに智里は再び光の三角形を出現させる。
頂点から伸びた三つの光は紅眼揚羽へと向かうが、紅眼揚羽を捕らえたのはその内の一本のみで他は危険を察知したのか避けられてしまった。
「蝶なのに素早いですね」
続けて夕弦が飛び出すと、素早く動きながら周囲にいる紅眼揚羽たちを何度も斬りつける。
それを終えると流れるように動いて元居た位置へと戻り囁いた。
「流影――水面の月の如く、静かに。留まる事なく」
順調に紅眼揚羽を倒していく三人の後ろから全員を視界に入れ、玲瓏がそろそろレイアを麻痺から守る光が消える時間だと思うと同時にレイアの全身を覆っていた光が消える。
そこへすかさず玲瓏が再度レイアに麻痺から守る光を付与する。
「助かる!」
レイアは手短に玲瓏に礼を言い、体を捻って寄ってきた紅眼揚羽たちを巧みに避ける。
顔へ向かってくる紅眼揚羽を避けた夕弦だが、もう一匹の紅眼揚羽には気づかずに体に止まることを許してしまった。
だが、夕弦の着ている鎧には歯が立たずにすぐに離れていく。
「鎧に助けられましたか」
玲瓏も避けるのが間に合わず足と腕に紅眼揚羽が止まるが、グローブとシューズのおかげで攻撃を防ぐことが出来た。
智里は体と脚に止まろうとするの紅眼揚羽たちを避けて事なきを得る。
「しっ!」
武器を振り抜き、生じた衝撃波でレイアは紅眼揚羽をまとめて吹き飛ばすと、幸運にも一匹の残骸が無事な紅眼揚羽へと当たりそれも仕留めることが出来た。
続けて智里の目の前に現れた光の三角形から伸びる光の一本が紅眼揚羽を貫き、夕弦が飛び出し縦横無尽に複数の紅眼揚羽を何度も斬りつけてから流れるように元の位置へと戻る。
玲瓏は麻痺から守る光が消えた仲間へ光の付与を行い、孤立しないように移動を行う。
今のところ誰も傷一つなく行動を出来ていることから、これを繰り返せば問題なく紅眼揚羽を駆除することが出来るだろう。
レイアはそう判断を下し、ミスを犯さないように気を引き締めながら仲間たちと固まって行動をしながら紅眼揚羽へと剣を振り下ろした。
●
全員が怪我をすることもなく、ノルマ───というよりは一人当たりの討伐数である十三匹以上を倒し、つつが無く紅眼揚羽を全て討伐し終えた。
その後、もう一つの目的であるポポーの実の確保へと四人は行動を移していた。
智里は足からマテリアルを噴射して空を飛び、ポポーの木の高い位置に生っているポポーの中から完熟間際の物を見つけるとそれを採取する。
ポポーの木の根元では夕弦たちが完熟して落ちたポポーを拾い集めていく。
智里も夕弦たちもポポーの実を集め終え、依頼してきた貴族用に傷がなく、完熟間近の実を玲瓏がバックパックに詰める。
残ったのは傷がついていたり収穫が間に合わない、もしくは既に完熟している実だけ。
これらの実の処分方法は決まっている。
「皆で分けようか」
「そうですね。そうしましょう」
「このまま腐らせるのも勿体無いでしょうしね」
「はい。頂きましょう」
レイアは完熟して少し柔らかい感触の実を手に取ると、半分に切り分けた。
中心に黒い大粒の種が並び、それを覆う果肉は黄色がかった白色をしている。
「んっ!」
レイアは果肉にかぶりつき、思わず声を上げた。
果肉はとても柔らかくとろっとしていて、まるでクリームだ。
味は凄く甘く、熟しすぎたバナナと言うべきか、甘みが強いメロンと言うべきか、独特な味だ。
「美味いな」
「本当に甘くて、口の中でとろけてしまいますね」
レイアの呟きに反応してか、玲瓏はポポーの味に満足気に頷いた後、思い出したようにボトルを取り出した。
「チョコレートをつけたら別の美味しさがあるかなと思って持ってきました。レイア様、いかがですか?」
「あぁ、もらおう」
ボトルの中身は溶かしてドリンク状にしたチョコレートで、玲瓏はレイアに勧める。
「私もいいでしょうか」
「もちろんです、智里様」
智里もチョコにポポーをつけ、三人は一斉にチョコ付きポポーを食べた。
「……蝶にとっての、甘い、好きなものですか」
夕弦の囁くような言葉は静かな森を揺らす静風によって誰の耳にも届かない。
「橘花様もいかがでしょうか」
「……せっかくなので頂きます」
玲瓏からの誘いに答え、夕弦も合流する。
そうして四人は仲間達と労を労い合いながら、一休みも兼ねて森の中でポポーに舌鼓を打った。
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蝶退治とグルメ依頼 穂積 智里(ka6819) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/09/21 06:51:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/19 15:01:15 |