ゲスト
(ka0000)
【陶曲】危険な置き土産
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/09/23 22:00
- 完成日
- 2018/09/30 01:40
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●Iam……
ぼくはぴょんきち、おもちゃのうさぎ。ほんもののうさぎより、あらゆるめんでゆうしゅうだ。
おれさまはもんきち、さるのおもちゃ。ほんもののさるなんかおよびもつかないほど、あたまがいい。
あたしはぴーこ。ことりのおもちゃ。ほんもののことりがだせないような、きれいなこえをだせるのよ。
わたしはほんもののうまより、ずっとはやくはしれる。おれはほんもののさかなより、ずっとはやくおよげる――――――おいらはほんもののいぬより、ずっとおりこう。
それなのにほんもののいぬのほうが、かわいがられる。
あのいぬがきたせいであのこは、おいらのことをすててしまった。
くやしい、くやしい、くやしい、いきているどうぶつなんかちっともいいものじゃないのに。
いきているどうぶつがねたましい。
こどもはぼくたちのことをすぐわすれてしまう。
あたし、こどもはきらいよ。
おれさまはにんげんがきらいだ。
あいつらが、かなしんでいたり、くるしんでいたり、いたがっていたりすると、すごくすごくいいきぶんだ。
でもそれを、はんたーはじゃましようとする。
ぼくはあやうくほんとうに、こわされるところだった。
あいつらをやっつけるんだ。ぼくがばらばらにされたようにあいつらをばらばらにしてやるんだ。
そのためのちからを、もういちどてにいれなければならない。
そうだ。そうだ。そうだ。そうだ。
てにいれなければ。てに。てにいれ。ててててて。にににに……。
床の上で単調に回転している歯車とネジを見下ろし、嫉妬王ラルヴァはふうむと息を漏らす。
「自我が融解しかけているね。前回のダメージがどうも大きすぎたのか……このままだと、お前は雑魔に戻ってしまいかねない。新しい体を探さねばなるまいて……」
●ジェオルジ。シャン郡ペリニョン村。
今秋開催予定である郷祭の出し物についてバリシア刑務所は、提携先のペリニョン村と様々な打ち合わせをするため、多数関係者を派遣した。
その関係者の中に、スペットも含まれている。村の英霊ぴょこにとって特にお気に入りな人物であるという理由で、特別参加を許可されたのだ――服役中の囚人という立場上、打ち合わせ等々には参加出来ないが。
『β、よう来たよう来た。ゆっくりしていくといいぞよ』
「おー、時間の許す限りはな。どやθ、村には何か変わったことあったか?」
『変わったことかの。んー……オーモンの牧場で、双子の子牛が生まれたくらいかのう。ところでβ、村長から聞いたのじゃが、バシリア刑務所は秋の郷祭に向け新商品を準備しておるそうじゃな?』
「そや。ブルーチャーいう奴がやな、俺と一緒でちょいちょい外に奉仕活動に出てんねんけどな、出向先の工場と組んで子供のおもちゃ作ってん。持ってきてるから見せたろな」
スペットは担いでいた荷袋を降ろし口を開けた。
わくわくと見守っているぴょこの前に出したのは、手のひら大のトラック。荷台にボタンがついている。
「ここ押したらな、こうなるんや」
一つのボタンを押すとトラックは、瞬く間にCAMへと変形した。
よくある二足歩行の人型ではない。四足歩行の動物型――形からすると、犀を模しているらしい。
『おおお! すごいのうすごいのう!』
「こっちのボタン押したら歩くねんで。で、こっち押したら鳴くんや」
『ほおお、さっそくやってみるのじゃ!』
ぴょこはおもちゃを手に取りボタンを叩いた。
たちまちおもちゃの首が折れ、バネと歯車が飛び出す。
ぴょこの力が強すぎたのである。
『……壊れてしもうた……』
肩を落とす英霊を、スペットが慰める。
「気にせんでええ、直したらええから。今度はもうちょっとゆっくり触ろうな」
そのとき、予期していない方向から声がした。
「ほう、なかなか面白いおもちゃだね」
振り向けば見慣れぬ小柄なじいさま。スマートな風体からしてこの辺の人間では無さそうだ。手にした変形おもちゃを興味深げに眺めている……。
『れ? おぬし、いつわしの手からそれをとったんじゃ?』
ぴょこの質問に答えぬまま老人は、こんなことを言い出した。
「どうだろう、これを私に譲ってくれないかね」
「は? いや、あかんてじいさん。それサンプルやし」
「代わりにもっと大きいおもちゃをあげようじゃないか」
「いやな、あかんて」
「どうぞ受け取りたまえ」
「ボケとんのか。人の話聞けや」
ぴょこが右に左に頭を振り、その場で軽く跳ねだした。
『うー、むー、のうおぬし、さっきからなんかもやもやそれっぽい空気感じるのじゃがの、もしや歪虚ではないかの? かの?』
と言いながら早くも構えの姿勢。
見かけに反し彼女は戦闘型の英霊なのだ。
『歪虚じゃということならわし、やっつけねばいかんのじゃが』
じいさまはそんな彼女の姿に、目尻のしわを深くした。
「そうかい、やっつけられるのは困るから、私はこれで失礼しよう」
老人はすっと姿を消す。ぴょこが息を詰めスペットが金縛りにあうほどの冷気を残して。
地面にひびが入った。轟音とともに『おもちゃ』が顔を出す。
それは全長8メートルはあろうかという巨大な赤ちゃん人形だった。
アババアワワ。
赤ちゃん人形は重低音な声を上げ、怒涛のハイハイで迫ってくる。
ぴょこは咄嗟にスペットを担いで一足飛びに場を離れた。
直後彼らがいた場所にぷくぷくした指がめり込み大穴を開ける。
赤ちゃん人形は握り締めた自分の手を開いてみた。
土くれしか取れなかったのを確認しむくれる。
アダー! アババババ!
腹立ち紛れに投げ散らした3~5トンはあろうかという土の塊が200メートル先にあるサイロを破壊する。
それを見て人形は眼を輝かせた。面白かったらしい。
ダー、ダー。
手当たり次第土を掴み、今度は家屋目がけて投げ散らし始めた。
ぴょこは大いに怒った。
スペットを離れた場所に置いた後、全力ダッシュで引き返す。
『ぴょこられぱ-んち!』
赤ちゃん人形の顎に強烈なのが入った。
かなり効いたらしく、赤ちゃん人形が仰向けにひっくりかえった。
しかし起き上がる。
それなりに無邪気だった形相が一転、邪悪なものになる。
バァアブゥウ……バー!
赤ちゃん人形の口から強烈な炎が吹き出された。
炎はぴょこを飲み込み、きれいさっぱり焼き尽くす。
遠くからそれを見ていたスペットは、血相を変えて叫ぶ。
「θ-!!」
すると返事が返ってきた。姿はないが。
『うわーん! わしのー、わしの体がー! 燃えてしもうたのじゃー!』
そうだ、あれは彼女にとってただの依りしろであったのだと思い返し、少なからずほっとする。
ぼくはぴょんきち、おもちゃのうさぎ。ほんもののうさぎより、あらゆるめんでゆうしゅうだ。
おれさまはもんきち、さるのおもちゃ。ほんもののさるなんかおよびもつかないほど、あたまがいい。
あたしはぴーこ。ことりのおもちゃ。ほんもののことりがだせないような、きれいなこえをだせるのよ。
わたしはほんもののうまより、ずっとはやくはしれる。おれはほんもののさかなより、ずっとはやくおよげる――――――おいらはほんもののいぬより、ずっとおりこう。
それなのにほんもののいぬのほうが、かわいがられる。
あのいぬがきたせいであのこは、おいらのことをすててしまった。
くやしい、くやしい、くやしい、いきているどうぶつなんかちっともいいものじゃないのに。
いきているどうぶつがねたましい。
こどもはぼくたちのことをすぐわすれてしまう。
あたし、こどもはきらいよ。
おれさまはにんげんがきらいだ。
あいつらが、かなしんでいたり、くるしんでいたり、いたがっていたりすると、すごくすごくいいきぶんだ。
でもそれを、はんたーはじゃましようとする。
ぼくはあやうくほんとうに、こわされるところだった。
あいつらをやっつけるんだ。ぼくがばらばらにされたようにあいつらをばらばらにしてやるんだ。
そのためのちからを、もういちどてにいれなければならない。
そうだ。そうだ。そうだ。そうだ。
てにいれなければ。てに。てにいれ。ててててて。にににに……。
床の上で単調に回転している歯車とネジを見下ろし、嫉妬王ラルヴァはふうむと息を漏らす。
「自我が融解しかけているね。前回のダメージがどうも大きすぎたのか……このままだと、お前は雑魔に戻ってしまいかねない。新しい体を探さねばなるまいて……」
●ジェオルジ。シャン郡ペリニョン村。
今秋開催予定である郷祭の出し物についてバリシア刑務所は、提携先のペリニョン村と様々な打ち合わせをするため、多数関係者を派遣した。
その関係者の中に、スペットも含まれている。村の英霊ぴょこにとって特にお気に入りな人物であるという理由で、特別参加を許可されたのだ――服役中の囚人という立場上、打ち合わせ等々には参加出来ないが。
『β、よう来たよう来た。ゆっくりしていくといいぞよ』
「おー、時間の許す限りはな。どやθ、村には何か変わったことあったか?」
『変わったことかの。んー……オーモンの牧場で、双子の子牛が生まれたくらいかのう。ところでβ、村長から聞いたのじゃが、バシリア刑務所は秋の郷祭に向け新商品を準備しておるそうじゃな?』
「そや。ブルーチャーいう奴がやな、俺と一緒でちょいちょい外に奉仕活動に出てんねんけどな、出向先の工場と組んで子供のおもちゃ作ってん。持ってきてるから見せたろな」
スペットは担いでいた荷袋を降ろし口を開けた。
わくわくと見守っているぴょこの前に出したのは、手のひら大のトラック。荷台にボタンがついている。
「ここ押したらな、こうなるんや」
一つのボタンを押すとトラックは、瞬く間にCAMへと変形した。
よくある二足歩行の人型ではない。四足歩行の動物型――形からすると、犀を模しているらしい。
『おおお! すごいのうすごいのう!』
「こっちのボタン押したら歩くねんで。で、こっち押したら鳴くんや」
『ほおお、さっそくやってみるのじゃ!』
ぴょこはおもちゃを手に取りボタンを叩いた。
たちまちおもちゃの首が折れ、バネと歯車が飛び出す。
ぴょこの力が強すぎたのである。
『……壊れてしもうた……』
肩を落とす英霊を、スペットが慰める。
「気にせんでええ、直したらええから。今度はもうちょっとゆっくり触ろうな」
そのとき、予期していない方向から声がした。
「ほう、なかなか面白いおもちゃだね」
振り向けば見慣れぬ小柄なじいさま。スマートな風体からしてこの辺の人間では無さそうだ。手にした変形おもちゃを興味深げに眺めている……。
『れ? おぬし、いつわしの手からそれをとったんじゃ?』
ぴょこの質問に答えぬまま老人は、こんなことを言い出した。
「どうだろう、これを私に譲ってくれないかね」
「は? いや、あかんてじいさん。それサンプルやし」
「代わりにもっと大きいおもちゃをあげようじゃないか」
「いやな、あかんて」
「どうぞ受け取りたまえ」
「ボケとんのか。人の話聞けや」
ぴょこが右に左に頭を振り、その場で軽く跳ねだした。
『うー、むー、のうおぬし、さっきからなんかもやもやそれっぽい空気感じるのじゃがの、もしや歪虚ではないかの? かの?』
と言いながら早くも構えの姿勢。
見かけに反し彼女は戦闘型の英霊なのだ。
『歪虚じゃということならわし、やっつけねばいかんのじゃが』
じいさまはそんな彼女の姿に、目尻のしわを深くした。
「そうかい、やっつけられるのは困るから、私はこれで失礼しよう」
老人はすっと姿を消す。ぴょこが息を詰めスペットが金縛りにあうほどの冷気を残して。
地面にひびが入った。轟音とともに『おもちゃ』が顔を出す。
それは全長8メートルはあろうかという巨大な赤ちゃん人形だった。
アババアワワ。
赤ちゃん人形は重低音な声を上げ、怒涛のハイハイで迫ってくる。
ぴょこは咄嗟にスペットを担いで一足飛びに場を離れた。
直後彼らがいた場所にぷくぷくした指がめり込み大穴を開ける。
赤ちゃん人形は握り締めた自分の手を開いてみた。
土くれしか取れなかったのを確認しむくれる。
アダー! アババババ!
腹立ち紛れに投げ散らした3~5トンはあろうかという土の塊が200メートル先にあるサイロを破壊する。
それを見て人形は眼を輝かせた。面白かったらしい。
ダー、ダー。
手当たり次第土を掴み、今度は家屋目がけて投げ散らし始めた。
ぴょこは大いに怒った。
スペットを離れた場所に置いた後、全力ダッシュで引き返す。
『ぴょこられぱ-んち!』
赤ちゃん人形の顎に強烈なのが入った。
かなり効いたらしく、赤ちゃん人形が仰向けにひっくりかえった。
しかし起き上がる。
それなりに無邪気だった形相が一転、邪悪なものになる。
バァアブゥウ……バー!
赤ちゃん人形の口から強烈な炎が吹き出された。
炎はぴょこを飲み込み、きれいさっぱり焼き尽くす。
遠くからそれを見ていたスペットは、血相を変えて叫ぶ。
「θ-!!」
すると返事が返ってきた。姿はないが。
『うわーん! わしのー、わしの体がー! 燃えてしもうたのじゃー!』
そうだ、あれは彼女にとってただの依りしろであったのだと思い返し、少なからずほっとする。
リプレイ本文
●邪悪な赤ちゃん発見
リーリー「ホル」に乗ったパトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、ジェオルジの田舎道をのんびり散歩。
そこに突如、重低音の叫びが轟いてきた。
バァアブゥウ……バー!
「な、何カナ!?」
急ぎホルを駆けさせる彼女の視界に、火を噴く赤ちゃん人形が飛び込んでくる。
「アレは……おっきなチビさん……歪虚、ネ! 被害が出ないよーにお助けするヨ。行こう、ホルっ」
桜色の翼を大きく羽ばたかせホルは、跳んだ。飛ぶよりもなお早く、なお遠くまで。
その背でパトリシアは、ギター「ジャガーノート」の弦をかき鳴らす。
●赤ちゃんあやしは難しい
Gacrux(ka2726)のワイバーンと、リュー・グランフェスト(ka2419)のワイバーン「シエル」は、競うように空を切り、人形の上空に陣取る。
「これは馬鹿にデカい……悪趣味ですねぇ、夢に出て来そうです」
「赤ん坊の人形ね……ろくなもんじゃなさそうだな。あれだけのサイズとなると、力は相当ありそうだぞ。頭は悪そうだが」
リューはパイロットインカムで、パトリシアとの通信を試みる。
「パティ、聞こえるか」
『あ、リュー! とっても大っきなベイビーだねっ♪』
「おー、でけーな。何食ったらこうなるんだか。それはそれとして、もっと左に誘導してくれるか? そのまま真っ直ぐ行くと街道方面に出ちまいそうだ」
『分かったヨー、やってみるネ♪』
パトリシアはホルと一緒に、張り切って人形の誘導を続けた。演奏と歌はもちろん、跳ねたり走ったり雷神具を鳴らしてみたり、とにかく気を引けそうなことは片端から試してみる。
しかし人形は思ったように動いてくれない。進んだかと思えば立ち止まり、きょろきょろしたり指しゃぶりしたり。
外見と同じく中身も赤ん坊仕様なのか、集中力が続かないのだ。加えて場には、他に気を引くものが存在している。
それは……ぴょこだ。
『おのれー、このあかちゃんめ! 邪悪なあかちゃんめ!』
彼女は姿形を無くしつつもまだ人形の近くにおり、大声で騒いでいるのである。
本人にその意識はないとしても、明らかに誘導の障害となっている。
見かねたリューはパトリシアに言った。
「すまん、離れるように言ってくれねえか。そこにいるえーと……何かよく分かんねえものに」
折りよくディヤー・A・バトロス(ka5743)のR7エクスシア「ジャウハラ」が場に飛び込んできた。
「失った体を嘆いている場合ではないぞ、ぴょこ殿! 今はひとまず仮の宿りとして、ワシのエクスシアを使うてくれい! 無理ならワシ自身にでも構わぬが」
『おお、助かるぞよ!』
ぴょこはジャラハウに憑依した。
ジャウハラの機体が頭からつま先まで、黄金色に染まる。その姿、宝石をちりばめた黄金細工のごとし。
アウッバー! ババババ!
これ見よがしなキラキラ感に引き付けられた人形が目を輝かせた。
『んむっ! 来るか邪悪なあかちゃんめ! 退治してくれようぞ!』
「待て待て待てぴょこ殿! 人命救助が先じゃ! 手順を踏まねば場は混乱するばかりじゃ。ワシらは今より、人的被害を下げる為に動く。よいな? スペット殿もおることじゃし軽はずみは避けねばならぬぞ?」
戦闘意欲溢れる英霊をなだめすかし、ディヤーは何とか場を後退させる。
人形はそれを追おうとするような仕草を見せた。
まずいと見たGacruxはワイバーンを急降下させ、人形の目の前を幾度も横切り注意を引く。
人形はちらちらそれを見たが――やっぱりジャラハウの方に興味の大半が向いたまま。
そこでパティがホルに呼びかけた。
「行くヨ? ホル?♪ リーリーちゃんフライトからのー 太陽を背負ったテンプテーショーーン!(きゅぴーん!」
ホルは飛んだ。翼はためかせほんの少しの間だけ。
そして、人形の目前に降り立つ。
パティは鞍へ逆向きに跨がった。相手から目をそらさないようにするために。
「チビさん、コッチコッチ、コッチなのヨー。カワイイベイビー、ハーイハイ♪ アンヨはジョーズ、アンヨはジョーズ♪ 鬼さんコチラ♪」
主人を乗せたホルは弧を描くように横歩きし、人形を方向転換させていく。
●人命救助班
「たく、躾の出来てないクソガキめ!」
天竜寺 舞(ka0377)は離れた位置にいる赤ん坊の背を睨み付け、魔導バイクを突っ走らせる。
スペットのもとにたどり着くやバイクを乗り捨て、彼の元に走り寄る。胸倉掴む勢いで言い募る。
「妹から聞いてるけどあんた結界張れるんでしょ? あのガキの注意をあたし達で惹いとくからその隙に結界で村人を護って! ぴょこは大丈夫だから!」
「ちょ、ちょ、待てや、結界ちゅうたて指輪がなかったら、そんなぱっとは作れへんねんぞ!」
そこへ地響きとともに黄金のジャウハラと化したぴょこと、その肩に乗ったディヤーが駆けつける。
『β、無事かのー!』
「おー、大事無くて何よりじゃスペット殿! 早速じゃが、救助小隊マフディーキットの隊長に臨時就任してくれぬかの!」
続けて魔箒「Shooting Star」に乗ったマルカ・アニチキン(ka2542)と、それにぶら下がっている同行ユニット、オートソルジャー「カマス」も来た。
「皆さん、ご無事ですかー」
後のことは彼らに任せればいいと判断した舞は、スペットの胸を拳で押し念を押した。
「いい? 頼んだよ」
それからバイクに飛び乗る。いち早く邪悪な赤ん坊に追いつくために。
マルカはスペットに指輪「ヘヴラハ」を見せ、小声で尋ねた。
「これで結界を作ることが出来ますか?」
「多分いけると思うで」
「じゃあこれをお貸しします。この戦いの間だけ。刑務所には内密にお願いします」
彼女の言わんとすることを察したスペットは、指輪をはめて言った。
「そんなら結界は、皆に見えんように作っとくわ」
スペットが結界を発動した。それは救助を求めてきた人々を包みこみ、防御する。
一方マルカはアースウォールを発動する。人形の目線を人々から遮るようにと。
●赤ちゃんはバイクがお好き
魔導アーマー「プラヴァー」に乗ったルベーノ・バルバライン(ka6752)は、魔導バイク「ゲイル」に乗ったレイオス・アクアウォーカー(ka1990)に疑問を呈した。
「殴ってこちらに注意を向ければ良いだけの気がするが……」
それに対しレイオスは、こう返した。
「いや、村から離すまでは下手に興奮させない方がいい。さっき火吹いてただろ。辺りかまわずあれをやられたら、収拾つかなくなるぞ」
「そんなものか。まあ見た目はどうあろうと、奴が倒すべき敵であることに代わりはない。俺は先回りしておくとしよう」
と言い置いてルベーノは、場を離脱した。
赤ん坊はおぼつかぬ足取りでパティを追っている。
盛り上がったほっぺたはりんごのような赤。はだかんぼのお尻はつやつやした桃色。口の周りにべっとり涎。
「普通なら愛嬌があるんだろうが、ここまでデカイとそんなもん無いな」
レイオスは人形に接近していく。気を引きにかかるため。彼のオートソルジャーがそれに追随する。
「派手な音や光は出せないとなると、動きで興味を引くしかな――」
バー! アバババ! ウキャ-! アキャー! アキャキャキャ!
「うおっ、えっ、おい、なんだ、やけに食いつきいいなオイ!」
どういう理由か知らないが、人形は彼と彼のバイクにはなはだ興味を示した。
地面をばしばし叩きながらハイハイで追いかけていく。
そこで舞が、とうとう赤ん坊に追いついた。
「あ、マイも来てたんだね♪」
「おー! 奇遇だなパティ!」
片手を挙げパティに応えた彼女は、チェイシングスローをかけた手裏剣を、人形の肩口に投げ付けた。
一拍遅れて人形は止まる。
ダ?
どうも、手裏剣が刺さったことによる刺激を感じたらしい。
ここで無駄な時間を食わせるわけにはいかない。思った舞は、炭酸ジュースのボトルにダーツを刺した即席注射器を取り出す。脅しをかけてやろうと。
「おいクソガキ、言う通――」
人形の頭が180度回転した。舞と目が合う。同時にありえない角度で腕が動いた。
予想していなかった動きに対して舞は、回避が遅れた。
巨大な手に叩かれ、地面にずり落ちた。
「やばい!」
リューはシエルを急降下させ、人形と舞の間に割って入る。
「舞、一旦離れろ!」
と呼びかけソウルトーチを発動。
人形は燃え上がるオーラに新たな刺激を感じ、舞から視線を外した。
ウダ。
その前にレイオスはバイクを寄せ、後輪走行。ちかちかライトも点滅させてみる。
「ほらほら、もっとこっちに寄ってこい。そしたらこのおもちゃ触らせてやるぞ」
と言って、蛇行。
人形は完全に舞のことを忘れた。
ウババー、バー。
腕の関節と首をぐるっと戻し、再び前方に向け移動。
その隙にパトリシアはこそっと背後に回り、引き返し防止のための地縛符を仕掛けた。
村外れで待ちの一手を続けているルベーノがバズーカ「ロウシュヴァウスト」を構える。
●早期避難を
避難者の中にはスペットを訝しく思う者もいた。それは、隣村から収穫作業の手伝いに来ていた人夫たちだ。
彼の存在をある程度見慣れている村の人間はともかく、それ以外の人間にとって猫顔は、やはり異様なものに映ってしまうのだ。
「おい、あいつは何だ?」
「顔……」
そんな囁きをディヤーは、勢いつけて押し流した。
「あれは我ら救助小隊マフディーキャット隊長スペット殿じゃ。見よ、あの精悍な猫顔を! 今はそんなことより逃げるか、怪我人運ぶのに手を貸せい」
続けてジャウハラを見上げ、話しかける。
「θ殿、ジャウハラの武装の扱い方はわかるか?」
『むー、なんとなくじゃの、あれじゃろ、撃つのじゃろ。どかーんと』
「……まあそんな感じじゃ。生体反応はあるかの? 魔導レーダーで感度が上がってると思うのじゃが」
『あるのじゃ、この下に人がおるのじゃ!』
ジャウハラが壊れた家の屋根を掴み持ち上げようとした。
途端にその手が掴んだ箇所が砕ける。
力の調節がうまく出来ていないと踏んだディヤーは、急いでこう申し出た。
「あーと、細かい作業はワシらがやるで。ぴょこ殿は、生命反応探索の方に集中してたも。後ブラストハイロゥの張り直しを頼みたいのじゃが」
『分かったのじゃ! では、ゆくぞよー!』
ブラストハイロゥが通常の倍増しに輝き、広がる。
ディヤーは人々を安心させるために、言う。
「この光の壁は敵の弾を通さぬ。今のうちに救助と丈夫な家に避難を!」
その間マルカはマジックフライトで、落ちた屋根を持ち上げようと試みていた。
しかし失敗した。3回やって3回とも不発。
そこで彼女は思い出した。マジックフライトの効果対象が『武器』に限られているということを。
「しまった……私としたことが……」
盛大な爆音。
丘の向こうに黒煙が上っていた。続けて地獄よりの使者みたいな叫び。
ブウォアアアウウウウウウ。
落ち込んでいる暇は無いと悟ったマルカは、カマスに命じる。
「カマス、皆さんの救助と避難のお手伝いをしていてください、。それから、スペットさんに救急セットも。私は皆さんの守りにつきますから!」
●赤ちゃん覚醒
バズーカ3連砲を食らった人形は、もうもうたる黒煙の中から姿を現した。
体のあちこちに小さな剥離が見られるが、その他ほぼ無傷。
ルベーノは歯をむき出した。
「そうでなくては面白くない!」
イカロスブレーカーでの急接近。スペルステーク。
炎のようなオーラをまとった拳が人形の顔面にたたき込まれた。
人形は口から炎を吹き出し応戦する。
肉付きのいい腕がアーマーを捕らえた。
ブウォアアアウウウウウウ。バアー!
片手を掴まれたアーマーは振り回され、地に叩きつけられる。
激しい動きで人形の顔の塗装がぼろぼろ剥げた。鋼の骸骨と眼球があらわになった。
パトリシアを乗せたホルが、羽毛を膨らませすくみあがる。
前衛に抜かりなく地脈鳴動での支援を送るパトリシアも、やや引く。
「怒ったチビさんハ……うぅん、ちょっと顔が怖いかも?」
人形の眼球に矢が突き刺さった。
レイオスがバリスタで撃ったのだ。
「建物を壊すのはヤンチャが過ぎる。お仕置きが必要だな」
バウ!
人形の首が彼の方に回る。
その機を捕らえ、リューが動いた。
「ここで決めさせてもらうぞ!」
星神器「エクスカリバー」に宿ったマテリアルが聖なる紋章を描き陽炎のように立ち上がる。
「竜貫」、超々重鞘「リミット・オーバー」を使用しての「散華」。それに繋がる「星竜」。
人形は粉砕された。
部品が粉々に飛び散り――急速な勢いで再結合した。
アウバアー!
先程までより一回り小さくなった人形は、手当たり次第にその辺のものを掴みぶん投げ始めた。
土くれ、自分からはみ出した部品――螺子だのばねだの歯車だの、ルベーノの機体からはげ落ちた装甲板、などなど。
ルベーノは機体の回復を後回しに、スペルウォールを発動した。つかの間でも人形の動きを遮るために。
Gacruxは蒼機槍「ラナンキュラス」を振りぬき、衝撃波を放つ。彼のワイバーンはレインオンブライトを放つ。
飛翔物が多数粉砕された。
しかし数が多い。幾つかはそのまま飛んでいく。
シエルはバレルロールで自身に飛んできたものを避けた。
マルカはウォーターシュートで迎え撃った。だが、撃ちもらした。歯車の欠片が彼女を負傷させた後、アースウォールをも砕く。
しかしそれ以上何の被害も出なかった。
住人たちは負傷者含め、既に安全圏への移動を終えていたのだ。
●遊びは終わりだ坊や
地に手をつけ、舞が起き上がった。
やられっぱなしなど、疾影士としてのプライドが許さない。
腹部の疼きもそのままに彼女は、闘争心をたぎらせる。
「今すぐ倍返ししてやるからな、クソガキ!」
手裏剣が投げられた――外す。
もう一度――今度は成功。舞は人形の首後ろに張り付いた。
仲間を巻き込んではいけないと思ったリューは、彼女が行動を終えるまでの間、攻撃を控える。
揺れ動く足場にへばり付いた彼女は、ナイトカーテンで姿を消す。ユナイテッド・ドライブ・ソードをかざす。
「らあっ!」
天誅殺。人形のうなじに刃が入った。
確かな手ごたえ。
人形の首が回転しかけ、真横の位置で止まった。今の攻撃で内部機関に故障が生じたらしい。
また関節構造を無視した払い攻撃が来る。
舞は自ら飛び降り避けた。
「二度も同じ手を食うか、バーカ!」
彼女が離れたのを見計らい、今度はレイオスが死角側から攻撃を仕掛ける。
渾身撃をかけた闘旋剣「デイブレイカー」で狙うのは、自在可変な腕。
タイミングが悪いことに、赤ん坊の首が勢いをつけ、こんどは真逆の側、つまりレイオスが仕掛けた側に急旋回した。
火焔。
大きな手のひらが突き出される。
丸まっちい指がレイオスの腹に食い込んだ。
「……ぐ」
膝をつくレイオス。人形はもう片方の手で彼を掴み上げ、齧ろうとした。
その途端腕が外れた。Gacruxがワイバーンの背から、怨嗟の咆哮を放ったのだ。
レイオスは腕ごと地面に落ちた。
人形はそれに見向きもしなかった。彼が咄嗟に口へ投げ込んできたコーヒー豆を吐き出すことのほうに意識が向いていたのである。
ブギャアアア! ベッ! ベッ!
レイオスのオートソルジャーが前に出て、スピンバッシュをかけた。主人が回復する間での時間を稼ぐつもりなのだ。
火を吹きそれを退けようとする人形。
その背後から、一応の機体回復を終えたルベーノが襲いかかった。
怒涛の連続スペルステーク。
機体が傷み切っている事により威力が落ちているが、それでもそれは人形の足を挫いた。
アーマーのスキルが切れたのを感じ取ったルベーノは、白虎神拳、並びに鎧通しを使おうとした。
だが、そこで機体がフリーズした。
人形は動きを止めたアーマーに強烈な体当たりをかけ、弾き飛ばす。
頃合を見計らっていたリューが、再び仕掛けた。竜貫、散華、星竜。
人形の全外装が剥離した。
どうやら先程より防御力が落ちているらしい。
舞はチェイシングスローを使って再度人形に取り付いた。
目玉に向け天誅殺。
人の頭程もあるそれに黒いヒビが入り、砕け散る。
Gacruxのワイバーンが幻獣砲を放つ。人形がよろけた。地縛符に踏み込んだ。
そこに黄金の塊が迫ってくる。
ジャウハラだ。
コクピット内ではディヤーが、焦った声を出している。
「ちょっと待って欲しいのじゃ、プラズマバーストまだ一発も使ってない……」
『安心せよ、わしには飛び道具は無用じゃ! そもそもわし、近接戦専門のソルジャーなのでのう!』
黄金の右が人形を粉々に吹き飛ばした。
しかし、これでもまだ終わりではなかった。
散ったものが再び寄り集まり、先程より2回り小さい赤ちゃん人形として復活する。
バアブウウウ!アバババババ!
ワイバーンの背でGacruxは、いやみったらしく言う。
「面白くもない一発芸は一回だけにしてもらいたいですね」
回復を終えたレイオスも、うんざり感を隠さない。
「んっっっとにしつこいな」
と言っても形はだいぶ小さくなった。後もうひと踏ん張り。
そう思いながら彼は、自身のオートソルジャーに言う。
「ぶっつけ本番だがアレをやるぞ」
オートソルジャーはこくりと頷きビームキャノン「プリマーヤ」を人形と一直線上に並ぶ主に向け、撃った。
レイオスはそれを風来縷々で受けて、己の力に変換。鎧徹しで、人形の体に叩き込む。
アブアッ!
人形の顔のパーツが左右にずれた。目玉が盛り上がり舌が突き出る。
ホルがおびえ数歩後退する。
パトリシアはそれをなだめつつ、マーキスソングを歌う。
「♪チビさん、チビさん、おやすみなさい。次はきっと、愛されおもちゃになれますよーに♪」
人形の顔がいよいよありえないくらいゲシュタルト崩壊した。
体ともども内側から膨張し、弾ける。以下の絶叫を残して。
ヒデブウ!!
さすがに人形は、もう復活しなかった。
だけれどもハンターたちは油断しない。徹底的に一帯の捜索をし、残った部品らしきものを片端から消滅させて回る。
それらが終わって初めて、戦闘は終了した。後顧の憂いを残す事なく。
ハンターたちの功績によって今回村の被害は、サイロ、家屋の倒壊、そして負傷者の発生までに留まった。死者は一人として出なかった。
●事後、ペリニョン村で
落ち着いたところで村人たちは、壊されたサイロ、および家屋の周辺に集まってきた。被害確認と片付けのために。
パトリシアはその中にいる猫顔の男に駆け寄る。
「あ、スペットくんだ!」
「おー、パトリシアやないか。久しぶりやな」
「うン、久しぶりだネ。元のお顔に戻れるみとーしできたのカナ?」
「人の顔いじくるのやめえや」
相変わらずもふもふされるのが嫌いみたいだけど、でも、前に比べると随分雰囲気が柔らかくなったような気がする……と彼女は思う。
そこにカマスもやってきて、一緒にスペットの顔をもふもふし始めた。
主人のマルカがあわてて飛んでくる。
「すいませんスペットさん、悪気はないんです。ただ動物と触れ合うが好きな子で……」
「動物ちゃうわ」
仏頂面で言いながらスペットは、彼女に指輪を返した。他の人間に見られないよう、さっと袖口に滑り込ませる形で。
赤いまるごとうさぎに憑依し直したぴょこが跳ねてくる。
『皆の衆、大事無いか、大事無いか』
村人たちは彼女の周りに集まり、口々に尋ねた。
「おお、ぴょこ様。ご無事で何よりです」
「歪虚はどうなりましたか」
『んむ、皆できれいに倒したで、もう心配せんでもよいのじゃ。のじゃ』
パトリシアは彼女にも話しかけた。
「英霊さんハ、ぴょこちゃん? かわいいお名前ネ♪」
『むふ、そうじゃろうそうじゃろう。わし気に入っとる。元の名前のθもいいが、こっちも好きなのじゃ』
そこに舞が入ってきて、聞いた。
「あの人形結局どういう経過で出現してきたわけ?」
レイオスもGacruxもリューもルベーノも、彼女と同じことを聞く。
ぴょことスペットは、自分たちが知り得る限りの状況経過――シルクハットをかぶり燕尾服を着、モノクルをつけた老紳士が現れておもちゃをとっていったこと、それが赤ちゃん人形を呼び出してきたこと――を伝えた。
舞は半信半疑な口調で呟く。
「そのじいさんまさかラルヴァ?」
『む? 舞、知り合いかの?』
「いや、噂に聞いたことがあるだけ」
「誰なんや」
「歪虚王の一人なんだ。あたし、その関連の依頼に参加した事あってさ……けど本人見た事無いから、確かには解んないな……」
やり取りを聞いたレイオスとGacruxが、それぞれの意見を述べる。
「ともあれ、聞く限りじゃ計画性の無い襲撃か。状況からして並みの相手じゃないのは確かみたいだが……」
「状況から見て、確実に歪虚でしょうねえ。もう一度特徴を教えていただけますか? オフィスに報告しておきますので」
不穏な話に村人たちは戦々恐々だ。
「歪虚王がここに現れたそうじゃ」
「そんなたいそうなものが、都会ならともかくこんな田舎に出てくるとは」
「うちの村は大丈夫じゃろうかい」
ルベーノは大声で駄法螺を吹いた。彼らを少しでもリラックスさせてやろうと。
「でかいわ投げるわヨダレ砲は飛ばすわ厄介な敵であった。しかし老人なのに赤ちゃん人形なんぞを歪虚にするとは特殊性癖の持ち主も居たものだ……もしや日々赤ちゃんプレイを堪能する”上級者”かもしれん」
ディヤーは顎に拳を当て考え込む。
「……そういや嫉妬王、今いちどんなキャラクターなのかハッキリせんのう。嫌みなジジイという評判は方々で聞かれるが」
まあ、ここであれこれ考えても詮無い。赤ん坊の出現場所を確認しても、何もなかったことだし。
というわけでハンターたちは、片付け、そして復旧の手伝いに入った。
「郷祭ハ同盟の大事なお楽しみ。ペリニョン村の出し物も楽しみ♪ 今年は何するノ、ぴょこちゃん」
『んふー、それは秘密じゃ。その日が来てのお楽しみなのじゃ』
「ぴょこ様……歪虚はペリニョン村に出禁の立て看板を作りましょう……っ」
『おう、それいいの、いいの、早速とりかかろうぞ』
話弾ませるパトリシア、マルカ、ぴょこを横目にしたルベーノは、クギ打ちをしているスペットに話しかける。
「ところでスペット、刑期が終わるならユニゾンに行かないか? そろそろウテルスが動くと思うのでな」
スペットはクギを口から外し、首を振った。
「俺な、刑期が明けたらこのペリニョン村に住もうて前々から思うてるんや。ユニゾンに手伝いとかなんとかで行くいうのはええけど、あそこに住まんかいうことやったら、断るで」
「そうか」
ルベーノは、やや残念に思った。ユニオンの技術を熟知する彼がいてくれたら、マゴイもいくらか心強いのだがと。
そこに思いがけない逆提案が。
「それよりお前自身がユニゾンに住んだらどないや? マゴイから何かと信用されてるんやし、コボルドワーカーからの受けもええんやし……申請すれば例の保養所にあるユニゾンへの通行扉、使わせてもらえると思うで。ほしたら大陸に通うのも楽なこっちゃ」
付け足しだが、ディヤーは今回、ぴょこの祠にレグルスの模型を寄贈した。
ぴょこはそれを大変喜んだそうだ。
『うは、わしのCAM、わしのCAMー♪』
リーリー「ホル」に乗ったパトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、ジェオルジの田舎道をのんびり散歩。
そこに突如、重低音の叫びが轟いてきた。
バァアブゥウ……バー!
「な、何カナ!?」
急ぎホルを駆けさせる彼女の視界に、火を噴く赤ちゃん人形が飛び込んでくる。
「アレは……おっきなチビさん……歪虚、ネ! 被害が出ないよーにお助けするヨ。行こう、ホルっ」
桜色の翼を大きく羽ばたかせホルは、跳んだ。飛ぶよりもなお早く、なお遠くまで。
その背でパトリシアは、ギター「ジャガーノート」の弦をかき鳴らす。
●赤ちゃんあやしは難しい
Gacrux(ka2726)のワイバーンと、リュー・グランフェスト(ka2419)のワイバーン「シエル」は、競うように空を切り、人形の上空に陣取る。
「これは馬鹿にデカい……悪趣味ですねぇ、夢に出て来そうです」
「赤ん坊の人形ね……ろくなもんじゃなさそうだな。あれだけのサイズとなると、力は相当ありそうだぞ。頭は悪そうだが」
リューはパイロットインカムで、パトリシアとの通信を試みる。
「パティ、聞こえるか」
『あ、リュー! とっても大っきなベイビーだねっ♪』
「おー、でけーな。何食ったらこうなるんだか。それはそれとして、もっと左に誘導してくれるか? そのまま真っ直ぐ行くと街道方面に出ちまいそうだ」
『分かったヨー、やってみるネ♪』
パトリシアはホルと一緒に、張り切って人形の誘導を続けた。演奏と歌はもちろん、跳ねたり走ったり雷神具を鳴らしてみたり、とにかく気を引けそうなことは片端から試してみる。
しかし人形は思ったように動いてくれない。進んだかと思えば立ち止まり、きょろきょろしたり指しゃぶりしたり。
外見と同じく中身も赤ん坊仕様なのか、集中力が続かないのだ。加えて場には、他に気を引くものが存在している。
それは……ぴょこだ。
『おのれー、このあかちゃんめ! 邪悪なあかちゃんめ!』
彼女は姿形を無くしつつもまだ人形の近くにおり、大声で騒いでいるのである。
本人にその意識はないとしても、明らかに誘導の障害となっている。
見かねたリューはパトリシアに言った。
「すまん、離れるように言ってくれねえか。そこにいるえーと……何かよく分かんねえものに」
折りよくディヤー・A・バトロス(ka5743)のR7エクスシア「ジャウハラ」が場に飛び込んできた。
「失った体を嘆いている場合ではないぞ、ぴょこ殿! 今はひとまず仮の宿りとして、ワシのエクスシアを使うてくれい! 無理ならワシ自身にでも構わぬが」
『おお、助かるぞよ!』
ぴょこはジャラハウに憑依した。
ジャウハラの機体が頭からつま先まで、黄金色に染まる。その姿、宝石をちりばめた黄金細工のごとし。
アウッバー! ババババ!
これ見よがしなキラキラ感に引き付けられた人形が目を輝かせた。
『んむっ! 来るか邪悪なあかちゃんめ! 退治してくれようぞ!』
「待て待て待てぴょこ殿! 人命救助が先じゃ! 手順を踏まねば場は混乱するばかりじゃ。ワシらは今より、人的被害を下げる為に動く。よいな? スペット殿もおることじゃし軽はずみは避けねばならぬぞ?」
戦闘意欲溢れる英霊をなだめすかし、ディヤーは何とか場を後退させる。
人形はそれを追おうとするような仕草を見せた。
まずいと見たGacruxはワイバーンを急降下させ、人形の目の前を幾度も横切り注意を引く。
人形はちらちらそれを見たが――やっぱりジャラハウの方に興味の大半が向いたまま。
そこでパティがホルに呼びかけた。
「行くヨ? ホル?♪ リーリーちゃんフライトからのー 太陽を背負ったテンプテーショーーン!(きゅぴーん!」
ホルは飛んだ。翼はためかせほんの少しの間だけ。
そして、人形の目前に降り立つ。
パティは鞍へ逆向きに跨がった。相手から目をそらさないようにするために。
「チビさん、コッチコッチ、コッチなのヨー。カワイイベイビー、ハーイハイ♪ アンヨはジョーズ、アンヨはジョーズ♪ 鬼さんコチラ♪」
主人を乗せたホルは弧を描くように横歩きし、人形を方向転換させていく。
●人命救助班
「たく、躾の出来てないクソガキめ!」
天竜寺 舞(ka0377)は離れた位置にいる赤ん坊の背を睨み付け、魔導バイクを突っ走らせる。
スペットのもとにたどり着くやバイクを乗り捨て、彼の元に走り寄る。胸倉掴む勢いで言い募る。
「妹から聞いてるけどあんた結界張れるんでしょ? あのガキの注意をあたし達で惹いとくからその隙に結界で村人を護って! ぴょこは大丈夫だから!」
「ちょ、ちょ、待てや、結界ちゅうたて指輪がなかったら、そんなぱっとは作れへんねんぞ!」
そこへ地響きとともに黄金のジャウハラと化したぴょこと、その肩に乗ったディヤーが駆けつける。
『β、無事かのー!』
「おー、大事無くて何よりじゃスペット殿! 早速じゃが、救助小隊マフディーキットの隊長に臨時就任してくれぬかの!」
続けて魔箒「Shooting Star」に乗ったマルカ・アニチキン(ka2542)と、それにぶら下がっている同行ユニット、オートソルジャー「カマス」も来た。
「皆さん、ご無事ですかー」
後のことは彼らに任せればいいと判断した舞は、スペットの胸を拳で押し念を押した。
「いい? 頼んだよ」
それからバイクに飛び乗る。いち早く邪悪な赤ん坊に追いつくために。
マルカはスペットに指輪「ヘヴラハ」を見せ、小声で尋ねた。
「これで結界を作ることが出来ますか?」
「多分いけると思うで」
「じゃあこれをお貸しします。この戦いの間だけ。刑務所には内密にお願いします」
彼女の言わんとすることを察したスペットは、指輪をはめて言った。
「そんなら結界は、皆に見えんように作っとくわ」
スペットが結界を発動した。それは救助を求めてきた人々を包みこみ、防御する。
一方マルカはアースウォールを発動する。人形の目線を人々から遮るようにと。
●赤ちゃんはバイクがお好き
魔導アーマー「プラヴァー」に乗ったルベーノ・バルバライン(ka6752)は、魔導バイク「ゲイル」に乗ったレイオス・アクアウォーカー(ka1990)に疑問を呈した。
「殴ってこちらに注意を向ければ良いだけの気がするが……」
それに対しレイオスは、こう返した。
「いや、村から離すまでは下手に興奮させない方がいい。さっき火吹いてただろ。辺りかまわずあれをやられたら、収拾つかなくなるぞ」
「そんなものか。まあ見た目はどうあろうと、奴が倒すべき敵であることに代わりはない。俺は先回りしておくとしよう」
と言い置いてルベーノは、場を離脱した。
赤ん坊はおぼつかぬ足取りでパティを追っている。
盛り上がったほっぺたはりんごのような赤。はだかんぼのお尻はつやつやした桃色。口の周りにべっとり涎。
「普通なら愛嬌があるんだろうが、ここまでデカイとそんなもん無いな」
レイオスは人形に接近していく。気を引きにかかるため。彼のオートソルジャーがそれに追随する。
「派手な音や光は出せないとなると、動きで興味を引くしかな――」
バー! アバババ! ウキャ-! アキャー! アキャキャキャ!
「うおっ、えっ、おい、なんだ、やけに食いつきいいなオイ!」
どういう理由か知らないが、人形は彼と彼のバイクにはなはだ興味を示した。
地面をばしばし叩きながらハイハイで追いかけていく。
そこで舞が、とうとう赤ん坊に追いついた。
「あ、マイも来てたんだね♪」
「おー! 奇遇だなパティ!」
片手を挙げパティに応えた彼女は、チェイシングスローをかけた手裏剣を、人形の肩口に投げ付けた。
一拍遅れて人形は止まる。
ダ?
どうも、手裏剣が刺さったことによる刺激を感じたらしい。
ここで無駄な時間を食わせるわけにはいかない。思った舞は、炭酸ジュースのボトルにダーツを刺した即席注射器を取り出す。脅しをかけてやろうと。
「おいクソガキ、言う通――」
人形の頭が180度回転した。舞と目が合う。同時にありえない角度で腕が動いた。
予想していなかった動きに対して舞は、回避が遅れた。
巨大な手に叩かれ、地面にずり落ちた。
「やばい!」
リューはシエルを急降下させ、人形と舞の間に割って入る。
「舞、一旦離れろ!」
と呼びかけソウルトーチを発動。
人形は燃え上がるオーラに新たな刺激を感じ、舞から視線を外した。
ウダ。
その前にレイオスはバイクを寄せ、後輪走行。ちかちかライトも点滅させてみる。
「ほらほら、もっとこっちに寄ってこい。そしたらこのおもちゃ触らせてやるぞ」
と言って、蛇行。
人形は完全に舞のことを忘れた。
ウババー、バー。
腕の関節と首をぐるっと戻し、再び前方に向け移動。
その隙にパトリシアはこそっと背後に回り、引き返し防止のための地縛符を仕掛けた。
村外れで待ちの一手を続けているルベーノがバズーカ「ロウシュヴァウスト」を構える。
●早期避難を
避難者の中にはスペットを訝しく思う者もいた。それは、隣村から収穫作業の手伝いに来ていた人夫たちだ。
彼の存在をある程度見慣れている村の人間はともかく、それ以外の人間にとって猫顔は、やはり異様なものに映ってしまうのだ。
「おい、あいつは何だ?」
「顔……」
そんな囁きをディヤーは、勢いつけて押し流した。
「あれは我ら救助小隊マフディーキャット隊長スペット殿じゃ。見よ、あの精悍な猫顔を! 今はそんなことより逃げるか、怪我人運ぶのに手を貸せい」
続けてジャウハラを見上げ、話しかける。
「θ殿、ジャウハラの武装の扱い方はわかるか?」
『むー、なんとなくじゃの、あれじゃろ、撃つのじゃろ。どかーんと』
「……まあそんな感じじゃ。生体反応はあるかの? 魔導レーダーで感度が上がってると思うのじゃが」
『あるのじゃ、この下に人がおるのじゃ!』
ジャウハラが壊れた家の屋根を掴み持ち上げようとした。
途端にその手が掴んだ箇所が砕ける。
力の調節がうまく出来ていないと踏んだディヤーは、急いでこう申し出た。
「あーと、細かい作業はワシらがやるで。ぴょこ殿は、生命反応探索の方に集中してたも。後ブラストハイロゥの張り直しを頼みたいのじゃが」
『分かったのじゃ! では、ゆくぞよー!』
ブラストハイロゥが通常の倍増しに輝き、広がる。
ディヤーは人々を安心させるために、言う。
「この光の壁は敵の弾を通さぬ。今のうちに救助と丈夫な家に避難を!」
その間マルカはマジックフライトで、落ちた屋根を持ち上げようと試みていた。
しかし失敗した。3回やって3回とも不発。
そこで彼女は思い出した。マジックフライトの効果対象が『武器』に限られているということを。
「しまった……私としたことが……」
盛大な爆音。
丘の向こうに黒煙が上っていた。続けて地獄よりの使者みたいな叫び。
ブウォアアアウウウウウウ。
落ち込んでいる暇は無いと悟ったマルカは、カマスに命じる。
「カマス、皆さんの救助と避難のお手伝いをしていてください、。それから、スペットさんに救急セットも。私は皆さんの守りにつきますから!」
●赤ちゃん覚醒
バズーカ3連砲を食らった人形は、もうもうたる黒煙の中から姿を現した。
体のあちこちに小さな剥離が見られるが、その他ほぼ無傷。
ルベーノは歯をむき出した。
「そうでなくては面白くない!」
イカロスブレーカーでの急接近。スペルステーク。
炎のようなオーラをまとった拳が人形の顔面にたたき込まれた。
人形は口から炎を吹き出し応戦する。
肉付きのいい腕がアーマーを捕らえた。
ブウォアアアウウウウウウ。バアー!
片手を掴まれたアーマーは振り回され、地に叩きつけられる。
激しい動きで人形の顔の塗装がぼろぼろ剥げた。鋼の骸骨と眼球があらわになった。
パトリシアを乗せたホルが、羽毛を膨らませすくみあがる。
前衛に抜かりなく地脈鳴動での支援を送るパトリシアも、やや引く。
「怒ったチビさんハ……うぅん、ちょっと顔が怖いかも?」
人形の眼球に矢が突き刺さった。
レイオスがバリスタで撃ったのだ。
「建物を壊すのはヤンチャが過ぎる。お仕置きが必要だな」
バウ!
人形の首が彼の方に回る。
その機を捕らえ、リューが動いた。
「ここで決めさせてもらうぞ!」
星神器「エクスカリバー」に宿ったマテリアルが聖なる紋章を描き陽炎のように立ち上がる。
「竜貫」、超々重鞘「リミット・オーバー」を使用しての「散華」。それに繋がる「星竜」。
人形は粉砕された。
部品が粉々に飛び散り――急速な勢いで再結合した。
アウバアー!
先程までより一回り小さくなった人形は、手当たり次第にその辺のものを掴みぶん投げ始めた。
土くれ、自分からはみ出した部品――螺子だのばねだの歯車だの、ルベーノの機体からはげ落ちた装甲板、などなど。
ルベーノは機体の回復を後回しに、スペルウォールを発動した。つかの間でも人形の動きを遮るために。
Gacruxは蒼機槍「ラナンキュラス」を振りぬき、衝撃波を放つ。彼のワイバーンはレインオンブライトを放つ。
飛翔物が多数粉砕された。
しかし数が多い。幾つかはそのまま飛んでいく。
シエルはバレルロールで自身に飛んできたものを避けた。
マルカはウォーターシュートで迎え撃った。だが、撃ちもらした。歯車の欠片が彼女を負傷させた後、アースウォールをも砕く。
しかしそれ以上何の被害も出なかった。
住人たちは負傷者含め、既に安全圏への移動を終えていたのだ。
●遊びは終わりだ坊や
地に手をつけ、舞が起き上がった。
やられっぱなしなど、疾影士としてのプライドが許さない。
腹部の疼きもそのままに彼女は、闘争心をたぎらせる。
「今すぐ倍返ししてやるからな、クソガキ!」
手裏剣が投げられた――外す。
もう一度――今度は成功。舞は人形の首後ろに張り付いた。
仲間を巻き込んではいけないと思ったリューは、彼女が行動を終えるまでの間、攻撃を控える。
揺れ動く足場にへばり付いた彼女は、ナイトカーテンで姿を消す。ユナイテッド・ドライブ・ソードをかざす。
「らあっ!」
天誅殺。人形のうなじに刃が入った。
確かな手ごたえ。
人形の首が回転しかけ、真横の位置で止まった。今の攻撃で内部機関に故障が生じたらしい。
また関節構造を無視した払い攻撃が来る。
舞は自ら飛び降り避けた。
「二度も同じ手を食うか、バーカ!」
彼女が離れたのを見計らい、今度はレイオスが死角側から攻撃を仕掛ける。
渾身撃をかけた闘旋剣「デイブレイカー」で狙うのは、自在可変な腕。
タイミングが悪いことに、赤ん坊の首が勢いをつけ、こんどは真逆の側、つまりレイオスが仕掛けた側に急旋回した。
火焔。
大きな手のひらが突き出される。
丸まっちい指がレイオスの腹に食い込んだ。
「……ぐ」
膝をつくレイオス。人形はもう片方の手で彼を掴み上げ、齧ろうとした。
その途端腕が外れた。Gacruxがワイバーンの背から、怨嗟の咆哮を放ったのだ。
レイオスは腕ごと地面に落ちた。
人形はそれに見向きもしなかった。彼が咄嗟に口へ投げ込んできたコーヒー豆を吐き出すことのほうに意識が向いていたのである。
ブギャアアア! ベッ! ベッ!
レイオスのオートソルジャーが前に出て、スピンバッシュをかけた。主人が回復する間での時間を稼ぐつもりなのだ。
火を吹きそれを退けようとする人形。
その背後から、一応の機体回復を終えたルベーノが襲いかかった。
怒涛の連続スペルステーク。
機体が傷み切っている事により威力が落ちているが、それでもそれは人形の足を挫いた。
アーマーのスキルが切れたのを感じ取ったルベーノは、白虎神拳、並びに鎧通しを使おうとした。
だが、そこで機体がフリーズした。
人形は動きを止めたアーマーに強烈な体当たりをかけ、弾き飛ばす。
頃合を見計らっていたリューが、再び仕掛けた。竜貫、散華、星竜。
人形の全外装が剥離した。
どうやら先程より防御力が落ちているらしい。
舞はチェイシングスローを使って再度人形に取り付いた。
目玉に向け天誅殺。
人の頭程もあるそれに黒いヒビが入り、砕け散る。
Gacruxのワイバーンが幻獣砲を放つ。人形がよろけた。地縛符に踏み込んだ。
そこに黄金の塊が迫ってくる。
ジャウハラだ。
コクピット内ではディヤーが、焦った声を出している。
「ちょっと待って欲しいのじゃ、プラズマバーストまだ一発も使ってない……」
『安心せよ、わしには飛び道具は無用じゃ! そもそもわし、近接戦専門のソルジャーなのでのう!』
黄金の右が人形を粉々に吹き飛ばした。
しかし、これでもまだ終わりではなかった。
散ったものが再び寄り集まり、先程より2回り小さい赤ちゃん人形として復活する。
バアブウウウ!アバババババ!
ワイバーンの背でGacruxは、いやみったらしく言う。
「面白くもない一発芸は一回だけにしてもらいたいですね」
回復を終えたレイオスも、うんざり感を隠さない。
「んっっっとにしつこいな」
と言っても形はだいぶ小さくなった。後もうひと踏ん張り。
そう思いながら彼は、自身のオートソルジャーに言う。
「ぶっつけ本番だがアレをやるぞ」
オートソルジャーはこくりと頷きビームキャノン「プリマーヤ」を人形と一直線上に並ぶ主に向け、撃った。
レイオスはそれを風来縷々で受けて、己の力に変換。鎧徹しで、人形の体に叩き込む。
アブアッ!
人形の顔のパーツが左右にずれた。目玉が盛り上がり舌が突き出る。
ホルがおびえ数歩後退する。
パトリシアはそれをなだめつつ、マーキスソングを歌う。
「♪チビさん、チビさん、おやすみなさい。次はきっと、愛されおもちゃになれますよーに♪」
人形の顔がいよいよありえないくらいゲシュタルト崩壊した。
体ともども内側から膨張し、弾ける。以下の絶叫を残して。
ヒデブウ!!
さすがに人形は、もう復活しなかった。
だけれどもハンターたちは油断しない。徹底的に一帯の捜索をし、残った部品らしきものを片端から消滅させて回る。
それらが終わって初めて、戦闘は終了した。後顧の憂いを残す事なく。
ハンターたちの功績によって今回村の被害は、サイロ、家屋の倒壊、そして負傷者の発生までに留まった。死者は一人として出なかった。
●事後、ペリニョン村で
落ち着いたところで村人たちは、壊されたサイロ、および家屋の周辺に集まってきた。被害確認と片付けのために。
パトリシアはその中にいる猫顔の男に駆け寄る。
「あ、スペットくんだ!」
「おー、パトリシアやないか。久しぶりやな」
「うン、久しぶりだネ。元のお顔に戻れるみとーしできたのカナ?」
「人の顔いじくるのやめえや」
相変わらずもふもふされるのが嫌いみたいだけど、でも、前に比べると随分雰囲気が柔らかくなったような気がする……と彼女は思う。
そこにカマスもやってきて、一緒にスペットの顔をもふもふし始めた。
主人のマルカがあわてて飛んでくる。
「すいませんスペットさん、悪気はないんです。ただ動物と触れ合うが好きな子で……」
「動物ちゃうわ」
仏頂面で言いながらスペットは、彼女に指輪を返した。他の人間に見られないよう、さっと袖口に滑り込ませる形で。
赤いまるごとうさぎに憑依し直したぴょこが跳ねてくる。
『皆の衆、大事無いか、大事無いか』
村人たちは彼女の周りに集まり、口々に尋ねた。
「おお、ぴょこ様。ご無事で何よりです」
「歪虚はどうなりましたか」
『んむ、皆できれいに倒したで、もう心配せんでもよいのじゃ。のじゃ』
パトリシアは彼女にも話しかけた。
「英霊さんハ、ぴょこちゃん? かわいいお名前ネ♪」
『むふ、そうじゃろうそうじゃろう。わし気に入っとる。元の名前のθもいいが、こっちも好きなのじゃ』
そこに舞が入ってきて、聞いた。
「あの人形結局どういう経過で出現してきたわけ?」
レイオスもGacruxもリューもルベーノも、彼女と同じことを聞く。
ぴょことスペットは、自分たちが知り得る限りの状況経過――シルクハットをかぶり燕尾服を着、モノクルをつけた老紳士が現れておもちゃをとっていったこと、それが赤ちゃん人形を呼び出してきたこと――を伝えた。
舞は半信半疑な口調で呟く。
「そのじいさんまさかラルヴァ?」
『む? 舞、知り合いかの?』
「いや、噂に聞いたことがあるだけ」
「誰なんや」
「歪虚王の一人なんだ。あたし、その関連の依頼に参加した事あってさ……けど本人見た事無いから、確かには解んないな……」
やり取りを聞いたレイオスとGacruxが、それぞれの意見を述べる。
「ともあれ、聞く限りじゃ計画性の無い襲撃か。状況からして並みの相手じゃないのは確かみたいだが……」
「状況から見て、確実に歪虚でしょうねえ。もう一度特徴を教えていただけますか? オフィスに報告しておきますので」
不穏な話に村人たちは戦々恐々だ。
「歪虚王がここに現れたそうじゃ」
「そんなたいそうなものが、都会ならともかくこんな田舎に出てくるとは」
「うちの村は大丈夫じゃろうかい」
ルベーノは大声で駄法螺を吹いた。彼らを少しでもリラックスさせてやろうと。
「でかいわ投げるわヨダレ砲は飛ばすわ厄介な敵であった。しかし老人なのに赤ちゃん人形なんぞを歪虚にするとは特殊性癖の持ち主も居たものだ……もしや日々赤ちゃんプレイを堪能する”上級者”かもしれん」
ディヤーは顎に拳を当て考え込む。
「……そういや嫉妬王、今いちどんなキャラクターなのかハッキリせんのう。嫌みなジジイという評判は方々で聞かれるが」
まあ、ここであれこれ考えても詮無い。赤ん坊の出現場所を確認しても、何もなかったことだし。
というわけでハンターたちは、片付け、そして復旧の手伝いに入った。
「郷祭ハ同盟の大事なお楽しみ。ペリニョン村の出し物も楽しみ♪ 今年は何するノ、ぴょこちゃん」
『んふー、それは秘密じゃ。その日が来てのお楽しみなのじゃ』
「ぴょこ様……歪虚はペリニョン村に出禁の立て看板を作りましょう……っ」
『おう、それいいの、いいの、早速とりかかろうぞ』
話弾ませるパトリシア、マルカ、ぴょこを横目にしたルベーノは、クギ打ちをしているスペットに話しかける。
「ところでスペット、刑期が終わるならユニゾンに行かないか? そろそろウテルスが動くと思うのでな」
スペットはクギを口から外し、首を振った。
「俺な、刑期が明けたらこのペリニョン村に住もうて前々から思うてるんや。ユニゾンに手伝いとかなんとかで行くいうのはええけど、あそこに住まんかいうことやったら、断るで」
「そうか」
ルベーノは、やや残念に思った。ユニオンの技術を熟知する彼がいてくれたら、マゴイもいくらか心強いのだがと。
そこに思いがけない逆提案が。
「それよりお前自身がユニゾンに住んだらどないや? マゴイから何かと信用されてるんやし、コボルドワーカーからの受けもええんやし……申請すれば例の保養所にあるユニゾンへの通行扉、使わせてもらえると思うで。ほしたら大陸に通うのも楽なこっちゃ」
付け足しだが、ディヤーは今回、ぴょこの祠にレグルスの模型を寄贈した。
ぴょこはそれを大変喜んだそうだ。
『うは、わしのCAM、わしのCAMー♪』
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/22 13:21:08 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/09/23 20:39:49 |