ゲスト
(ka0000)
【糸迎】欠けてしまったひと
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/29 12:00
- 完成日
- 2018/10/04 23:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●退役軍人
その日、ハンターオフィスには、数人の自由都市同盟陸軍所属の軍人が訪れていた。応対したのは中年職員だ。
「それで、ご相談と言うのは?」
「何からお話すれば良いのか」
代表らしい女性が困惑したように呟いた。
「一番気になっていることから話してください」
相談に来る者は皆言う。何から話して良いかわからない、と。だから彼は言うのだ。一番気になっていることを教えてくれと。そこから、こちらがわからないことを聞いて情報を引き出せば良い。
「……私たちの友人が、傷害事件に関わっているかもしれなくて」
「それは、穏やかではありませんね。ご心配でしょう」
「ええ、とても」
「どうしてそのご友人が関わっているとお思いですか?」
そこで、ようやく彼女は順を追って説明し始めた。
最近、フマーレ周辺で傷害事件が多発している。皆、鋭い何かで刺されたような傷を負っている。ほとんどは軽傷だが、中には重傷者もいる。幸いにも死者はまだ出ていない。
恐らく、何かしらの精神操作を受けたのであろう、被害者たちの証言は曖昧で混乱している。しかし、一つの情報は一致していた。
「黒髪のショートヘアで、常に泣きそうな顔をしている女に連れて行かれた」
その特徴に当てはまる人物を、彼女たちは知っている。
「黒髪のショートヘアをした女性ならたくさんいます。でも、常に泣きそうな顔って言ったらもうその人しか思いつかなくて……それで、ハンターさんたちにこのことを調べて頂きたいんです」
「なるほど」
職員は頷いた。女性は、一枚の写真を差し出す。誰かが魔導カメラで撮ったらしい。黒いショートヘアの女性が、陸軍の制服に身を包んで笑っている。確かに、笑顔ではあるが今にも泣き出しそうな顔をしていた。元々そう言う顔立ちであるらしい。
「彼女の名前は、ザイラ・シェーヴォラ。機導師でもあって、人命救助に尽力していました。本当に優しい人よ」
「写真からも伝わるよ。今は軍属じゃないんですか?」
「退役してしまったんです。去年の春からの、同盟で頻発した歪虚事件のせいで……」
ザイラは、覚醒者として、その身体能力やスキルを活かして人命救助に当たっていた。たくさんの人からも感謝されていて、彼女はこれこそ自分の天職であると考えていた。
しかし、昨年春から同盟で頻発する嫉妬歪虚の侵攻の中では、救えない命があまりにも多かった。駆けつけたときには死亡。救出しても重傷で死亡。搬送先で死亡。死亡、死亡、死亡、死亡。救った命も多かったが、失った命も多かった。
「加えて……注目されるのは海軍だから」
同行していた男性軍人が、周りを気にしながら言った。
「それで、心が折れてしまったんです、彼女。自分がやっていることの意味を見失ってしまって」
「わかるよ」
オフィスでハンターたちを送り出す。そのハンターたちが無事で帰ってくれば良いが、時には無事で済まないこともある。そういうとき、職員は自分の説明に不備があったのではないかと悩むこともある。ずっと繰り返してきた。戦えない身の上を呪ったこともある。無事に済んだ依頼の方が圧倒的に多かったとしても。自分の仕事の意味とは何だろう。そう思うことはあった。
「私にもよくわかるよ」
「ありがとう。でも、私たちはザイラが人を傷つけるようなことをするはずがないって信じてる。きっと何か事情があるはず。それを調べて頂きたいんです」
「辛い真実が待っているかもしれないよ」
「構いません」
彼女はきっぱりと言った。目尻に涙が溜まっている。彼はハンカチを差し出した。
「ハンターには、ザイラが関与している可能性も含めて説明します」
「ええ、お願いします。彼女が噛んでいるなら、身構えて貰わないといけないわ。人命救助は、襲われている人のところでも行なう。雑魔くらいならデルタレイでどうにかできるの、彼女」
「ますます惜しい人材だね」
「そうでしょう」
彼女は泣き出した。
「本当にそう。お願いだから人違いであってほしいの」
●尖った脚
「被害者は皆、フマーレ近郊で、常に泣き出しそうな顔をした女性にさらわれているらしい。その時のことはよく覚えていないそうだ。連れて行かれた先のこともね。薄暗いところ、しかわからない。他にも聞き出せるようなら聞いてくれ」
集まったハンターの前で、職員はそう言ってため息を吐いた。
「後は刺し傷について。先が鋭く、経の大きなもので踏みつけるように刺されている、と言うのが医者の見解だ。金属製であることは確かだけど……刃物なら変わった形だね」
そう言って、彼は推定された凶器の形を見せた。尖っているというのは円錐ではなく、三角錐、四角錐のような、角張った形だ。
「踏みつけるって言う表現も妙だけど、斜め上くらいからこう、ガッといったみたいだ。勢いもある。実際に踏みつぶされる! って叫んだ被害者もいたようだ」
彼も説明しながら、まじまじと図解を見た。人体を、上から踏みつける何か。鋭い脚。金属。
それから彼はザイラの写真をハンターたちに見せた。
「彼女がそのザイラだ。優しい人ではあったが、デルタレイ、ファイアスローワーなんかも駆使していたようだよ。そうだろうね。迎えに行って囲まれて、連れて帰れないなんて本末転倒だからな。もし彼女が悪事に手を染めているなら、相手はそれなりの手練れ、と言うことになる」
彼は眼鏡を外して目をこすった。そしてしみじみとした顔でハンターたちを見回す。
「充分に気をつけてくれ。私はいつだって、誰にも欠けて欲しくないと思っているよ」
その日、ハンターオフィスには、数人の自由都市同盟陸軍所属の軍人が訪れていた。応対したのは中年職員だ。
「それで、ご相談と言うのは?」
「何からお話すれば良いのか」
代表らしい女性が困惑したように呟いた。
「一番気になっていることから話してください」
相談に来る者は皆言う。何から話して良いかわからない、と。だから彼は言うのだ。一番気になっていることを教えてくれと。そこから、こちらがわからないことを聞いて情報を引き出せば良い。
「……私たちの友人が、傷害事件に関わっているかもしれなくて」
「それは、穏やかではありませんね。ご心配でしょう」
「ええ、とても」
「どうしてそのご友人が関わっているとお思いですか?」
そこで、ようやく彼女は順を追って説明し始めた。
最近、フマーレ周辺で傷害事件が多発している。皆、鋭い何かで刺されたような傷を負っている。ほとんどは軽傷だが、中には重傷者もいる。幸いにも死者はまだ出ていない。
恐らく、何かしらの精神操作を受けたのであろう、被害者たちの証言は曖昧で混乱している。しかし、一つの情報は一致していた。
「黒髪のショートヘアで、常に泣きそうな顔をしている女に連れて行かれた」
その特徴に当てはまる人物を、彼女たちは知っている。
「黒髪のショートヘアをした女性ならたくさんいます。でも、常に泣きそうな顔って言ったらもうその人しか思いつかなくて……それで、ハンターさんたちにこのことを調べて頂きたいんです」
「なるほど」
職員は頷いた。女性は、一枚の写真を差し出す。誰かが魔導カメラで撮ったらしい。黒いショートヘアの女性が、陸軍の制服に身を包んで笑っている。確かに、笑顔ではあるが今にも泣き出しそうな顔をしていた。元々そう言う顔立ちであるらしい。
「彼女の名前は、ザイラ・シェーヴォラ。機導師でもあって、人命救助に尽力していました。本当に優しい人よ」
「写真からも伝わるよ。今は軍属じゃないんですか?」
「退役してしまったんです。去年の春からの、同盟で頻発した歪虚事件のせいで……」
ザイラは、覚醒者として、その身体能力やスキルを活かして人命救助に当たっていた。たくさんの人からも感謝されていて、彼女はこれこそ自分の天職であると考えていた。
しかし、昨年春から同盟で頻発する嫉妬歪虚の侵攻の中では、救えない命があまりにも多かった。駆けつけたときには死亡。救出しても重傷で死亡。搬送先で死亡。死亡、死亡、死亡、死亡。救った命も多かったが、失った命も多かった。
「加えて……注目されるのは海軍だから」
同行していた男性軍人が、周りを気にしながら言った。
「それで、心が折れてしまったんです、彼女。自分がやっていることの意味を見失ってしまって」
「わかるよ」
オフィスでハンターたちを送り出す。そのハンターたちが無事で帰ってくれば良いが、時には無事で済まないこともある。そういうとき、職員は自分の説明に不備があったのではないかと悩むこともある。ずっと繰り返してきた。戦えない身の上を呪ったこともある。無事に済んだ依頼の方が圧倒的に多かったとしても。自分の仕事の意味とは何だろう。そう思うことはあった。
「私にもよくわかるよ」
「ありがとう。でも、私たちはザイラが人を傷つけるようなことをするはずがないって信じてる。きっと何か事情があるはず。それを調べて頂きたいんです」
「辛い真実が待っているかもしれないよ」
「構いません」
彼女はきっぱりと言った。目尻に涙が溜まっている。彼はハンカチを差し出した。
「ハンターには、ザイラが関与している可能性も含めて説明します」
「ええ、お願いします。彼女が噛んでいるなら、身構えて貰わないといけないわ。人命救助は、襲われている人のところでも行なう。雑魔くらいならデルタレイでどうにかできるの、彼女」
「ますます惜しい人材だね」
「そうでしょう」
彼女は泣き出した。
「本当にそう。お願いだから人違いであってほしいの」
●尖った脚
「被害者は皆、フマーレ近郊で、常に泣き出しそうな顔をした女性にさらわれているらしい。その時のことはよく覚えていないそうだ。連れて行かれた先のこともね。薄暗いところ、しかわからない。他にも聞き出せるようなら聞いてくれ」
集まったハンターの前で、職員はそう言ってため息を吐いた。
「後は刺し傷について。先が鋭く、経の大きなもので踏みつけるように刺されている、と言うのが医者の見解だ。金属製であることは確かだけど……刃物なら変わった形だね」
そう言って、彼は推定された凶器の形を見せた。尖っているというのは円錐ではなく、三角錐、四角錐のような、角張った形だ。
「踏みつけるって言う表現も妙だけど、斜め上くらいからこう、ガッといったみたいだ。勢いもある。実際に踏みつぶされる! って叫んだ被害者もいたようだ」
彼も説明しながら、まじまじと図解を見た。人体を、上から踏みつける何か。鋭い脚。金属。
それから彼はザイラの写真をハンターたちに見せた。
「彼女がそのザイラだ。優しい人ではあったが、デルタレイ、ファイアスローワーなんかも駆使していたようだよ。そうだろうね。迎えに行って囲まれて、連れて帰れないなんて本末転倒だからな。もし彼女が悪事に手を染めているなら、相手はそれなりの手練れ、と言うことになる」
彼は眼鏡を外して目をこすった。そしてしみじみとした顔でハンターたちを見回す。
「充分に気をつけてくれ。私はいつだって、誰にも欠けて欲しくないと思っているよ」
リプレイ本文
●奇妙な事件
「被害者の数が多いし、奇妙な事件だね」
レオン(ka5108)が話を聞いて呟いた。
「穏やかじゃないねえ」
言葉とは裏腹に、微笑んで同じように意見を述べたのはフワ ハヤテ(ka0004)。
「皆どうしてそんなホイホイ着いていったんだろうね? 顔は覚えてるということは、記憶がないのは話しかけられたところからなのかな」
「歪虚が絡んでるような気がするけど」
「決めつけるのは早計だが、可能性はあるね」
「パティも、そう思うノ」
口伝符を作成しながらパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が頷く。
「ダカラねっ、二人一組の方ガ、安心、安全。パティはそう思いマス」
「ああ、そうとも。穂積の話を聞いて、それから班分けして出発することにしよう」
この場にいない穂積 智里(ka6819)は被害者の情報をオフィスに所望した。オフィスは最低限、誘拐事件の情報はまとめておいてあったらしく、それを持ち出すための手続きをしている。
「お待たせしました」
そこに智里が戻ってくる。
「こちらが事件の資料だそうです」
そこには、智里が所望した情報の内、誘拐日時・場所、性別、怪我の内容・部位・重傷度合、発見場所、職業、誘拐手口が記されている。
「事件事故への遭遇の有無まではわからないそうです」
話を聞いて、智里が思いついた背景の一つが報復事件だった。
「血の渇き等の衝動よりは怨恨の可能性が高い気がします。加害者やその知人が足の怪我をすることになった原因やそれを見ていて止めなかった等、もう一つ事件があったんじゃないでしょうか。凶器は仕込傘や仕込杖、ステッキや棒状の義足等先が尖って地面をつくのが不自然でないものの気がします」
「面白い推理だ! なるほどもう一つの事件ね。すると、穂積は被害者に話を聞くかい?」
「はい」
智里は頷く。ハヤテは笑んだまま、目を細めた。
「ボクもそうしようと思っていたところだ」
「あのネ、智里。今回は、歪虚的なものが関わってそだし、二人一組が良いかなって」
「そうですね。その方が安全だと思います」
「決まりネ! じゃあレオンは、パティと一緒、よろしくお願いシマス」
ぺこん、とパトリシアはレオンに頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」
パトリシアから口伝符を受け取り、それぞれスマートフォンの連絡先を交換して、一行は行動を開始した。
●刺したもの
ハヤテと智里は被害者の聞き込みに向かった。被害者の特徴に特に共通点はあまりない。同盟市民で、地元民であろうフマーレの人間が多いことくらいか。偶然訪れていた他の地域の人間もいる。発見された場所はもっとばらばらだ。連れ去られた場所で見つかることはまずないし、受傷も恐らく別の場所だろうと目されている。
まずは一人目。重傷を負った回復した三十代男性。
「怖いことを思い出させてすみません」
「いや、構いませんけど、何を聞きたいんですか? 思い出したくない、と言いたいけど、そもそもあんまり思い出せなくって」
「まずは連れて行かれてしまったことからかな。どうして着いていってしまったんだい?」
「いや、もうそこからして思い出せないんだよ。あ、いや、そうだな、声を掛けられた。迎えに来たよとかそんなことだったかな。人違いじゃないのか、そう聞こうとしたけど聞いたかどうかも思い出せない。その人の顔を見て、誰だろうって思ったらもう、ふーっと意識が遠のいて、気がついたら薄暗くてほこりっぽい部屋さ。部屋? 空間って感じだったなぁ」
「迎え、か。なるほどね?」
「あなたを刺したものですけど」
続いて智里が尋ねる。
「どんなものでしたか?」
「どでかい何かだったよ」
彼は肩を竦めてそれだけ答えた。
「それが上から襲いかかって来て、すごく痛くて叫んでたら、俺を連れて行った女が、そいつに何か叫んでたね。もうやめてとかなんとか。そこから先は覚えてない。気がついたら俺は病院だった」
「なるほどね」
ハヤテは目を細めた。智里も考え込む。人の義足である可能性は低くなる。だが、大きくて脚が尖っているものってなんだろう?
●欠けてしまったひと
「あなたたちが、ザイラのことを調べてくれるハンターさん?」
レオンとパトリシアは依頼人の元を訪れた。現役陸軍人である彼女は、背筋を伸ばして気丈に応対する。
「はい。レオンと言います」
「パティと言いマス」
「よろしくね。それで、私に聞きたい事って何かしら? ザイラのこと?」
「はい」
「パティもネ、ちょっと前に、お友達の様子がおかしくてネ」
その友達は契約者になってしまったが帰って来た。
どう言う形であれザイラが関わっているのであれば、急いだ方が良いと彼女は思っている。
「最近、ザイラに会った?どんなお話をした?」
「最近は……会ってないの。心が折れて退役してしまったから、声も掛けづらくて」
「家族や身の回りの人、特別に親しい人は?」
「実家の両親は健在だけど、気になって連絡してみたらザイラは実家には帰っていないそうなのよ。軍以外の交友はちょっと……あまりそう言うことは話さない人だったから」
「ザイラがお家以外で行きそうな場所ハ?」
「インドアだったから……わからない。でも、自分が救助に行った現場の、落ち着いた姿は見たいかもしれない」
「ザイラに会えたら、伝えたいコトハ?」
「顔を見せてほしい」
彼女がそう言うと、目尻から涙が落ちた。
「元気な顔を見せてほしい。私を疑ったの? って怒ってくれればどんなに良いか。でも彼女怒るような人じゃなくて……」
「うんうんっ」
パトリシアは女性の肩を抱いた。
「辛かったネ。パティたちも頑張るヨ。頑張って、ザイラを見付けるヨ」
「今、彼女の住まいはどちらに?」
レオンが尋ねた。女性は一度部屋に引っ込んで、一枚の葉書を持ってきた。そこが現住所だそうだ。
文面は淡々とした近況報告だけである。
「そうだ」
レオンは顔を上げた。ハヤテが、智里の推理を聞いて気にしていたことがある。
ザイラの持ち物や服装だ。ステッキやヒールのような、「尖ったもの」の有無。
「ザイラさんの私服なんですが、どんなものを普段着に?」
「スカートはあんまり履かなかったかな。靴も平たいのを履いていたし。荷物も少ない方」
つまり、傷はザイラがマテリアルを込めて踏みつけたものでもないと言うことか。
「ありがとう。助かりました」
二人は依頼人の家を辞去した。
●子どもの声
軽傷の人間は重傷の人間と特に変わらない証言をした。おそらくは、「どでかいもの」にもうやめてくれと言った人が押しとどめられたかどうかが傷の重さを分けたらしい。ハヤテはそんな印象を受けた。四十代女性だったが、連れ去られた時の状況もいきさつも変わらない。
レオンとパトリシアの進言で、オフィスからザイラの写真を借りていた二人は、彼女に見せた。
「そうそう。この人だけど……陸軍?」
「退役していますが、かつては」
「そう……軍人さんがそんなことするかな?」
「それを、調べています」
「あなたが聞いた、もうやめてって声だけど、それはあなたを連れて行った人と同じ人の声かな?」
「多分としか。ああ、でも部屋にはもう一人いたんだよ」
「もう一人?」
事件の資料にも書いてあった。二人の女性の話し声がすると。
「ちょっと偉そうなしゃべり方だけど、この元軍人さんより年下じゃないかなぁ。すごい怒ってて、それでこの人が泣きながら謝ってる、そんな感じだったよ。ぼんやりとしたイメージだけど。今から思えばだし、多分だけど、あの子、私を踏んづけた大きいものに乗ってたんじゃないかな」
「あの子」
ハヤテは復唱した。
「あの子、と言うと、あなたより大分年下、と言う印象だったようだね、その声は」
「ああ……言われてみれば、そう。うん、何か、あの人って言うよりあの子って感じだったよ。この歳になるとちょっと若いとあの子って言っちゃうけど。そうだね、あれは……子どもだったのかな?」
●もぬけの空
ザイラの家はもぬけの殻だった。とはいえ、身辺整理をした形跡はない。恐らくだが、つぶれかかった心のまま生活し、事件に巻き込まれて家を離れた様である。
軍関係のものは全て一つの箱にしまい込まれていた。写真は全て箱の中で、家のどこにも飾られていない。
「辛かったんだネ」
パトリシアはぽつりと漏らした。
「うん」
レオンも頷く。
「会えるなら会って話がしたいな」
●私じゃない
無傷の人間は二十代男性。どうやら彼の場合は精神操作が甘かったらしい。
「ふっと目を覚ますと、がらんどうの倉庫みたいなところで」
彼は言った。いきさつはやはり、前の二人と同じだ。
「逃げようとしたんですけど、ぼんやりしてて上手く身体が動かせなかった。遠くで女の子が酷く激昂したような声がして。どうして私じゃないのって、すっごく怒ってたんです」
「私じゃないって言うのは? 何のことだろう?」
ハヤテが尋ねる。
「そこまでは。それで、もう一人、多分俺を連れて行った女の人だと思うけど、その人が、ごめんなさい、ごめんなさいってずっと謝ってるんです」
結局意識ははっきりしたりぼんやりしたりを繰り返した。彼はぼんやりしたままで倉庫を出て行けたのか、はたまた謝っていた女性に連れ出されたのかはわからないが、無傷での脱出を果たした、と言うわけだ。
「あ、そうだ。意識がはっきりしてるときに聞こえたんですけど」
「何か気になる音が?」
「はい。倉庫だから、機械の音かな。たまにがちゃんがちゃんって、脚立を乱暴に動かすような音がしました」
●助けの必要
「パティダヨー」
パトリシアは、ハヤテと智里に連絡を入れた。双方はそこで、情報交換をする。
「残念だケド、ザイラはお家にいなかったノ。だからレオンと一緒に今から現場に行こうかなって」
「それは良い。ボクたちも、丁度聴取を終えて現場を見に行こうとしていたんだ。落ち合うかい?」
「うんっ」
「ああ、そうか」
ハヤテはそこで得心が行ったように頷く。昨年春の同盟動乱。あのときは確か、ポルトワールとフマーレが最初に侵攻を受けた筈だ。
「もしかしたら、現場はザイラが救助活動を行なった町なのかもしれないね」
その町はところどころに直した跡がある。歪虚の侵攻を受けた町の一つなのは間違いないだろう。この町は、僅差ではあるが被害者の連れ去られた回数が多い町だ。
「ザイラは被害者に、迎えに来たと言ったそうだからね」
「出来なかっタお迎え、今度コソやり遂げようとしている?」
「そうかもしれない。憶測だけどね」
四人は合流すると、ザイラの写真を持って聞き込みを開始した。案の定、ザイラは目撃されていた。人命救助に関わっていた元軍人であるとレオンが言うと、目撃者は納得したような顔になる。
「言われてみれば見たことあるかもしれない。あの歪虚事件の時にも陸軍来たし……この人が何か? あなたの恩人なの?」
「そんなところです」
「待ってれば会えるんじゃない?」
「まだ来るんですか?」
「わかんないけど」
四人は二組に分かれて、連れ去り現場に向かった。いずれも人気のない路地裏か町外れ。路地裏にハヤテと智里が、町外れにはレオンとパトリシアが向かった。
「路地裏は生存者が見つかりにくいのかもしれませんね」
智里が呟いた。救助に来れば、目につく生存者から助けるに決まっている。助けられる命から助けるのだ。多分、ザイラたちが間に合わなかったのは、路地裏や町外れの人たち。助けを求める声が届くかもわからない。
「それで、迎えに来ると言うわけだ。今では彼女の助けが必要ない人を」
ハヤテは涼しげに所感を述べる。
その時だった。智里のスマートフォンが鳴った。パトリシアだ。
「パトリシアさんどうしたんですか?」
「たいへんっ! たいへんっ! おっきな蜘蛛がイタ!」
「大きな蜘蛛?」
●動乱の余波
レオンとパトリシアは町外れを探していた。ザイラがまた誰かを「迎え」に来るならこの周辺か、ハヤテたちのいる路地裏だろうと踏んだのだ。
「フマーレは、去年の春にポルトワールと一緒に歪虚に攻め込まれた都市なのネ」
パトリシアが言った。
「ここも被害に遭っていたんだね」
「多分、ソウ」
がちん、と金属を鳴らす音がした。パトリシアはレオンを見る。
「レオン?」
「いや、今のはぼくじゃ……」
がちん。もう一つ。がちん。また一つ。まるで歩いているかのようだ。
パトリシアは生命感知の結界を張った。有効範囲内で、音が聞こえるくらい近くで生命体は……レオンと自分しかいない!
「レオン気をつけテ! 歪虚ダヨ!」
「了解!」
レオンはアルマス・ノヴァを抜く。彼は、視界の端に不自然な反射光を見付けてそちらを向いた。
「そこか!」
夕陽の中で鈍く輝くそれに、レオンはジャッジメントを下す。光の杭に貫かれたそれは……。
「蜘蛛!」
小型犬ほどの大きさをした、金属製の蜘蛛だった。パトリシアはすぐに智里に伝話を入れた。駆けつけた二人は蜘蛛に見覚えがあるらしい。
「ああ、前にも見たね」
ハヤテはマジックアローを放って蜘蛛を消し去った。
●蜘蛛の背後
報告を受けた中年職員は、報告書の束を持ってきた。それは、最近同盟で起こっている、金属製蜘蛛雑魔の事件と、その調査結果。
「調査の結果、この金属製蜘蛛雑魔の背後には、アウグスタと言う少女歪虚がいるらしいことが判明した」
「少女……」
パトリシアが呟く。ザイラ以外に、だいぶ若い女性が関わっているらしいことは、被害者の証言で明らかだ。居丈高な口調だったと言うから、実際の年齢よりも上に感じたのかもしれない。
「このアウグスタと言う歪虚は、迎え、と言うのにこだわっていてね。この前も、引き取りが決まった孤児の帰り道を襲ったんだ。幸いにもハンターが居合わせて事なきを得たが」
「ザイラは迎えに来たって被害者に言っていたそうだよ」
ハヤテが愛想良く言う。
「なにやら妙な符合を感じるね? だが矛盾が生じる」
「そうだね。もし二人が組んでいるとしても、アウグスタの元からザイラさんが出て行くなら、その迎えの相手はアウグスタじゃないはずだよ」
レオンも眉間に皺を寄せる。
「だから被害者が襲われるのさ」
ハヤテは落ち着いている。
「嫉妬してるノ?」
パトリシアが呟く。
「アウグスタは嫉妬シテ、ザイラが迎えに行った被害者を襲ったのカナ? 傷は蜘蛛の脚? 無傷の人ガ聞いた音は、蜘蛛が動く音?」
「そんなの、悪循環じゃないですか」
智里が咎めるように言った。咎める相手はもちろん歪虚だ。
「近い内に、またこの件に関して依頼を出すと思う。ザイラの関与は明らかだ」
職員が言った。
「もう、退役軍人とその友人の間で済む話じゃない。君たちありがとう。助かったよ。大丈夫だとは思うが、しばらく身辺には注意してくれ」
「被害者の数が多いし、奇妙な事件だね」
レオン(ka5108)が話を聞いて呟いた。
「穏やかじゃないねえ」
言葉とは裏腹に、微笑んで同じように意見を述べたのはフワ ハヤテ(ka0004)。
「皆どうしてそんなホイホイ着いていったんだろうね? 顔は覚えてるということは、記憶がないのは話しかけられたところからなのかな」
「歪虚が絡んでるような気がするけど」
「決めつけるのは早計だが、可能性はあるね」
「パティも、そう思うノ」
口伝符を作成しながらパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が頷く。
「ダカラねっ、二人一組の方ガ、安心、安全。パティはそう思いマス」
「ああ、そうとも。穂積の話を聞いて、それから班分けして出発することにしよう」
この場にいない穂積 智里(ka6819)は被害者の情報をオフィスに所望した。オフィスは最低限、誘拐事件の情報はまとめておいてあったらしく、それを持ち出すための手続きをしている。
「お待たせしました」
そこに智里が戻ってくる。
「こちらが事件の資料だそうです」
そこには、智里が所望した情報の内、誘拐日時・場所、性別、怪我の内容・部位・重傷度合、発見場所、職業、誘拐手口が記されている。
「事件事故への遭遇の有無まではわからないそうです」
話を聞いて、智里が思いついた背景の一つが報復事件だった。
「血の渇き等の衝動よりは怨恨の可能性が高い気がします。加害者やその知人が足の怪我をすることになった原因やそれを見ていて止めなかった等、もう一つ事件があったんじゃないでしょうか。凶器は仕込傘や仕込杖、ステッキや棒状の義足等先が尖って地面をつくのが不自然でないものの気がします」
「面白い推理だ! なるほどもう一つの事件ね。すると、穂積は被害者に話を聞くかい?」
「はい」
智里は頷く。ハヤテは笑んだまま、目を細めた。
「ボクもそうしようと思っていたところだ」
「あのネ、智里。今回は、歪虚的なものが関わってそだし、二人一組が良いかなって」
「そうですね。その方が安全だと思います」
「決まりネ! じゃあレオンは、パティと一緒、よろしくお願いシマス」
ぺこん、とパトリシアはレオンに頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」
パトリシアから口伝符を受け取り、それぞれスマートフォンの連絡先を交換して、一行は行動を開始した。
●刺したもの
ハヤテと智里は被害者の聞き込みに向かった。被害者の特徴に特に共通点はあまりない。同盟市民で、地元民であろうフマーレの人間が多いことくらいか。偶然訪れていた他の地域の人間もいる。発見された場所はもっとばらばらだ。連れ去られた場所で見つかることはまずないし、受傷も恐らく別の場所だろうと目されている。
まずは一人目。重傷を負った回復した三十代男性。
「怖いことを思い出させてすみません」
「いや、構いませんけど、何を聞きたいんですか? 思い出したくない、と言いたいけど、そもそもあんまり思い出せなくって」
「まずは連れて行かれてしまったことからかな。どうして着いていってしまったんだい?」
「いや、もうそこからして思い出せないんだよ。あ、いや、そうだな、声を掛けられた。迎えに来たよとかそんなことだったかな。人違いじゃないのか、そう聞こうとしたけど聞いたかどうかも思い出せない。その人の顔を見て、誰だろうって思ったらもう、ふーっと意識が遠のいて、気がついたら薄暗くてほこりっぽい部屋さ。部屋? 空間って感じだったなぁ」
「迎え、か。なるほどね?」
「あなたを刺したものですけど」
続いて智里が尋ねる。
「どんなものでしたか?」
「どでかい何かだったよ」
彼は肩を竦めてそれだけ答えた。
「それが上から襲いかかって来て、すごく痛くて叫んでたら、俺を連れて行った女が、そいつに何か叫んでたね。もうやめてとかなんとか。そこから先は覚えてない。気がついたら俺は病院だった」
「なるほどね」
ハヤテは目を細めた。智里も考え込む。人の義足である可能性は低くなる。だが、大きくて脚が尖っているものってなんだろう?
●欠けてしまったひと
「あなたたちが、ザイラのことを調べてくれるハンターさん?」
レオンとパトリシアは依頼人の元を訪れた。現役陸軍人である彼女は、背筋を伸ばして気丈に応対する。
「はい。レオンと言います」
「パティと言いマス」
「よろしくね。それで、私に聞きたい事って何かしら? ザイラのこと?」
「はい」
「パティもネ、ちょっと前に、お友達の様子がおかしくてネ」
その友達は契約者になってしまったが帰って来た。
どう言う形であれザイラが関わっているのであれば、急いだ方が良いと彼女は思っている。
「最近、ザイラに会った?どんなお話をした?」
「最近は……会ってないの。心が折れて退役してしまったから、声も掛けづらくて」
「家族や身の回りの人、特別に親しい人は?」
「実家の両親は健在だけど、気になって連絡してみたらザイラは実家には帰っていないそうなのよ。軍以外の交友はちょっと……あまりそう言うことは話さない人だったから」
「ザイラがお家以外で行きそうな場所ハ?」
「インドアだったから……わからない。でも、自分が救助に行った現場の、落ち着いた姿は見たいかもしれない」
「ザイラに会えたら、伝えたいコトハ?」
「顔を見せてほしい」
彼女がそう言うと、目尻から涙が落ちた。
「元気な顔を見せてほしい。私を疑ったの? って怒ってくれればどんなに良いか。でも彼女怒るような人じゃなくて……」
「うんうんっ」
パトリシアは女性の肩を抱いた。
「辛かったネ。パティたちも頑張るヨ。頑張って、ザイラを見付けるヨ」
「今、彼女の住まいはどちらに?」
レオンが尋ねた。女性は一度部屋に引っ込んで、一枚の葉書を持ってきた。そこが現住所だそうだ。
文面は淡々とした近況報告だけである。
「そうだ」
レオンは顔を上げた。ハヤテが、智里の推理を聞いて気にしていたことがある。
ザイラの持ち物や服装だ。ステッキやヒールのような、「尖ったもの」の有無。
「ザイラさんの私服なんですが、どんなものを普段着に?」
「スカートはあんまり履かなかったかな。靴も平たいのを履いていたし。荷物も少ない方」
つまり、傷はザイラがマテリアルを込めて踏みつけたものでもないと言うことか。
「ありがとう。助かりました」
二人は依頼人の家を辞去した。
●子どもの声
軽傷の人間は重傷の人間と特に変わらない証言をした。おそらくは、「どでかいもの」にもうやめてくれと言った人が押しとどめられたかどうかが傷の重さを分けたらしい。ハヤテはそんな印象を受けた。四十代女性だったが、連れ去られた時の状況もいきさつも変わらない。
レオンとパトリシアの進言で、オフィスからザイラの写真を借りていた二人は、彼女に見せた。
「そうそう。この人だけど……陸軍?」
「退役していますが、かつては」
「そう……軍人さんがそんなことするかな?」
「それを、調べています」
「あなたが聞いた、もうやめてって声だけど、それはあなたを連れて行った人と同じ人の声かな?」
「多分としか。ああ、でも部屋にはもう一人いたんだよ」
「もう一人?」
事件の資料にも書いてあった。二人の女性の話し声がすると。
「ちょっと偉そうなしゃべり方だけど、この元軍人さんより年下じゃないかなぁ。すごい怒ってて、それでこの人が泣きながら謝ってる、そんな感じだったよ。ぼんやりとしたイメージだけど。今から思えばだし、多分だけど、あの子、私を踏んづけた大きいものに乗ってたんじゃないかな」
「あの子」
ハヤテは復唱した。
「あの子、と言うと、あなたより大分年下、と言う印象だったようだね、その声は」
「ああ……言われてみれば、そう。うん、何か、あの人って言うよりあの子って感じだったよ。この歳になるとちょっと若いとあの子って言っちゃうけど。そうだね、あれは……子どもだったのかな?」
●もぬけの空
ザイラの家はもぬけの殻だった。とはいえ、身辺整理をした形跡はない。恐らくだが、つぶれかかった心のまま生活し、事件に巻き込まれて家を離れた様である。
軍関係のものは全て一つの箱にしまい込まれていた。写真は全て箱の中で、家のどこにも飾られていない。
「辛かったんだネ」
パトリシアはぽつりと漏らした。
「うん」
レオンも頷く。
「会えるなら会って話がしたいな」
●私じゃない
無傷の人間は二十代男性。どうやら彼の場合は精神操作が甘かったらしい。
「ふっと目を覚ますと、がらんどうの倉庫みたいなところで」
彼は言った。いきさつはやはり、前の二人と同じだ。
「逃げようとしたんですけど、ぼんやりしてて上手く身体が動かせなかった。遠くで女の子が酷く激昂したような声がして。どうして私じゃないのって、すっごく怒ってたんです」
「私じゃないって言うのは? 何のことだろう?」
ハヤテが尋ねる。
「そこまでは。それで、もう一人、多分俺を連れて行った女の人だと思うけど、その人が、ごめんなさい、ごめんなさいってずっと謝ってるんです」
結局意識ははっきりしたりぼんやりしたりを繰り返した。彼はぼんやりしたままで倉庫を出て行けたのか、はたまた謝っていた女性に連れ出されたのかはわからないが、無傷での脱出を果たした、と言うわけだ。
「あ、そうだ。意識がはっきりしてるときに聞こえたんですけど」
「何か気になる音が?」
「はい。倉庫だから、機械の音かな。たまにがちゃんがちゃんって、脚立を乱暴に動かすような音がしました」
●助けの必要
「パティダヨー」
パトリシアは、ハヤテと智里に連絡を入れた。双方はそこで、情報交換をする。
「残念だケド、ザイラはお家にいなかったノ。だからレオンと一緒に今から現場に行こうかなって」
「それは良い。ボクたちも、丁度聴取を終えて現場を見に行こうとしていたんだ。落ち合うかい?」
「うんっ」
「ああ、そうか」
ハヤテはそこで得心が行ったように頷く。昨年春の同盟動乱。あのときは確か、ポルトワールとフマーレが最初に侵攻を受けた筈だ。
「もしかしたら、現場はザイラが救助活動を行なった町なのかもしれないね」
その町はところどころに直した跡がある。歪虚の侵攻を受けた町の一つなのは間違いないだろう。この町は、僅差ではあるが被害者の連れ去られた回数が多い町だ。
「ザイラは被害者に、迎えに来たと言ったそうだからね」
「出来なかっタお迎え、今度コソやり遂げようとしている?」
「そうかもしれない。憶測だけどね」
四人は合流すると、ザイラの写真を持って聞き込みを開始した。案の定、ザイラは目撃されていた。人命救助に関わっていた元軍人であるとレオンが言うと、目撃者は納得したような顔になる。
「言われてみれば見たことあるかもしれない。あの歪虚事件の時にも陸軍来たし……この人が何か? あなたの恩人なの?」
「そんなところです」
「待ってれば会えるんじゃない?」
「まだ来るんですか?」
「わかんないけど」
四人は二組に分かれて、連れ去り現場に向かった。いずれも人気のない路地裏か町外れ。路地裏にハヤテと智里が、町外れにはレオンとパトリシアが向かった。
「路地裏は生存者が見つかりにくいのかもしれませんね」
智里が呟いた。救助に来れば、目につく生存者から助けるに決まっている。助けられる命から助けるのだ。多分、ザイラたちが間に合わなかったのは、路地裏や町外れの人たち。助けを求める声が届くかもわからない。
「それで、迎えに来ると言うわけだ。今では彼女の助けが必要ない人を」
ハヤテは涼しげに所感を述べる。
その時だった。智里のスマートフォンが鳴った。パトリシアだ。
「パトリシアさんどうしたんですか?」
「たいへんっ! たいへんっ! おっきな蜘蛛がイタ!」
「大きな蜘蛛?」
●動乱の余波
レオンとパトリシアは町外れを探していた。ザイラがまた誰かを「迎え」に来るならこの周辺か、ハヤテたちのいる路地裏だろうと踏んだのだ。
「フマーレは、去年の春にポルトワールと一緒に歪虚に攻め込まれた都市なのネ」
パトリシアが言った。
「ここも被害に遭っていたんだね」
「多分、ソウ」
がちん、と金属を鳴らす音がした。パトリシアはレオンを見る。
「レオン?」
「いや、今のはぼくじゃ……」
がちん。もう一つ。がちん。また一つ。まるで歩いているかのようだ。
パトリシアは生命感知の結界を張った。有効範囲内で、音が聞こえるくらい近くで生命体は……レオンと自分しかいない!
「レオン気をつけテ! 歪虚ダヨ!」
「了解!」
レオンはアルマス・ノヴァを抜く。彼は、視界の端に不自然な反射光を見付けてそちらを向いた。
「そこか!」
夕陽の中で鈍く輝くそれに、レオンはジャッジメントを下す。光の杭に貫かれたそれは……。
「蜘蛛!」
小型犬ほどの大きさをした、金属製の蜘蛛だった。パトリシアはすぐに智里に伝話を入れた。駆けつけた二人は蜘蛛に見覚えがあるらしい。
「ああ、前にも見たね」
ハヤテはマジックアローを放って蜘蛛を消し去った。
●蜘蛛の背後
報告を受けた中年職員は、報告書の束を持ってきた。それは、最近同盟で起こっている、金属製蜘蛛雑魔の事件と、その調査結果。
「調査の結果、この金属製蜘蛛雑魔の背後には、アウグスタと言う少女歪虚がいるらしいことが判明した」
「少女……」
パトリシアが呟く。ザイラ以外に、だいぶ若い女性が関わっているらしいことは、被害者の証言で明らかだ。居丈高な口調だったと言うから、実際の年齢よりも上に感じたのかもしれない。
「このアウグスタと言う歪虚は、迎え、と言うのにこだわっていてね。この前も、引き取りが決まった孤児の帰り道を襲ったんだ。幸いにもハンターが居合わせて事なきを得たが」
「ザイラは迎えに来たって被害者に言っていたそうだよ」
ハヤテが愛想良く言う。
「なにやら妙な符合を感じるね? だが矛盾が生じる」
「そうだね。もし二人が組んでいるとしても、アウグスタの元からザイラさんが出て行くなら、その迎えの相手はアウグスタじゃないはずだよ」
レオンも眉間に皺を寄せる。
「だから被害者が襲われるのさ」
ハヤテは落ち着いている。
「嫉妬してるノ?」
パトリシアが呟く。
「アウグスタは嫉妬シテ、ザイラが迎えに行った被害者を襲ったのカナ? 傷は蜘蛛の脚? 無傷の人ガ聞いた音は、蜘蛛が動く音?」
「そんなの、悪循環じゃないですか」
智里が咎めるように言った。咎める相手はもちろん歪虚だ。
「近い内に、またこの件に関して依頼を出すと思う。ザイラの関与は明らかだ」
職員が言った。
「もう、退役軍人とその友人の間で済む話じゃない。君たちありがとう。助かったよ。大丈夫だとは思うが、しばらく身辺には注意してくれ」
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/25 23:01:37 |
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相談するところ パトリシア=K=ポラリス(ka5996) 人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2018/09/29 11:15:17 |