ゲスト
(ka0000)
【落葉】虚ろなる声を討て
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/21 07:30
- 完成日
- 2018/10/03 10:40
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ラズビルナム、ですか」
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)がその言葉を可憐な唇で口にした。
ここはゾンネンシュトラール帝国第一師団兵営、帝国歌舞音曲部隊のための一室である。
「ああ、浄化術の研究も進んでいてな。攻略が大分簡単になったらしい」
クレーネウス・フェーデルバール兵長にして歌舞音曲部隊の部隊長が説明した。
帝国は今、大幅な歴史の見直しを行っている。いや、国自体の改めようとしているのだ。
過去、亜人たちを弾圧した歴史から正義のラベルを取り外し、「庶民議会」を設立しようとしている。市井では、誰が庶民議会の仲間入りをするかで話題は持ちきりだ。
しかし、グリューエリンたちが今話をしているのは重度汚染地域「ラズビルナム」についてだった。
クレーネウスの言った通り、機導装置で浄化術が使用できるようになってから、浄化のハードルは下がった。いま、帝国は膿を絞り出す時期なのだ。だから、ラズビルナムも放置できない。
「そこで、私にどうしろと?」
たしかに、それは捨て置けない話題だが、グリューエリン個人が抱えられる問題ではない。グリューエリンは軍属アイドルだが基本はただの二等兵だ。
「ラズビルナムに巨大な樹の歪虚がいるんだそうだ」
この巨樹の歪虚、なかなか厄介な性質をしており、その幹にぽっかり空いた空から怨嗟の声を撒き散らし、敵の平衡感覚を失わせ、行動を阻害させるのだという。
そこで、歌舞音曲部隊に話が回っていた。
「つまり、虚の声に私の歌声をぶつけて対抗しろと? 選んでいただけるのは嬉しいですが、私にそこまでの力は……」
「いや、それが可能なんだ」
クレーネウスが力強く言った。
この巨樹の存在は非常に邪魔だ。探索の障害である。どうにか排除したい。
そこで立ち上がったのが、錬金術師組合組合長リーゼロッテ・クリューガー(kz0037)だった。
ほぼ時同じくして、長らく歌うことをやめていたグリューエリンがアイドルに復帰した、という知らせが飛び込んで来た。
そこでリーゼロッテが考えたのが、特殊なスピーカーで歌声を拡散することで、敵の声を相殺できるのではないか、というものだった。
「リーゼロッテ殿が……」
グリューエリンとリーゼロッテはもともと付き合いがあった。装備の相談などをしたことも数回ではない。しかし、歌うのをやめて以降、その交流は断絶されていた。
しかし、今、リーゼロッテの方からグリューエリンへの新装備の話が来ているのだ。
活動をしていなかったとはいえ、蒔いた種は無駄ではなかった。グリューエリンは人のつながりを嬉しく思った。
「わかりました。私にできることなら、喜んでいたしますわ」
きりりと緑の瞳でクレーネウスを見つめ返すグリューエリン。
クレーネウスは錬金術組合から送られて来た概要を読み上げる。
確認される巨樹は2体。いずれも、過去に観測された位置からほとんど動いていないようだ。つまり地図の印を目指していけば問題はない。
巨樹討伐はハンターに依頼する。グリューエリンは新しく製造された装備で、ハンターたちの援護をしてほしい。
グリューエリンのために誂えた装備は、衣装の一部のように作られたマイクの仕込まれた魔導機械、特製スピーカー、特製スピーカーを運ぶための特製魔導アーマーである。
特製魔導アーマーには全周囲に歌が響くようにスピーカーが設置されており、上部には小さいながらも演者が立つための舞台がある。また、魔導アーマーの操作するために、部隊員ひとりが必要になる。
スピーカーで拡散された歌声には巨樹の虚の響きに対抗する力が込められている。これで、ようやくハンターたちバッドステータスに振り回されず、まともに戦えるようになるだろう。
ここまで読み上げで、クレーネウスはちょっとグリューエリンを見た。
「つまり、歌っている間、グリューエリン、君は無防備になる。君を過小評価するわけではないが歌いながら戦うにはまだ厳しい」
「ええ、ハンターの皆様に守っていただきますわ」
グリューエリンはハンターに全幅の信頼を置いているように、断言した。
しかし、クレーネウスもハンターたちへの信頼という点ではグリューエリンと変わらない。
グリューエリンをスカウトし、挫折から立ち直らせたのはハンターたちの功績だ。ハンターたちがいなかったら、今のグリューエリンはいないのだ。
「それでは、部隊員グリューエリン・ヴァルファー。これよりラズビルナム浄化作戦への着任を命ずる」
「はい。了解いたしました」
びしり、と敬礼するグリューエリン。
こうして、彼女は巨樹討伐作戦の準備へ向かっていったのだった。
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)がその言葉を可憐な唇で口にした。
ここはゾンネンシュトラール帝国第一師団兵営、帝国歌舞音曲部隊のための一室である。
「ああ、浄化術の研究も進んでいてな。攻略が大分簡単になったらしい」
クレーネウス・フェーデルバール兵長にして歌舞音曲部隊の部隊長が説明した。
帝国は今、大幅な歴史の見直しを行っている。いや、国自体の改めようとしているのだ。
過去、亜人たちを弾圧した歴史から正義のラベルを取り外し、「庶民議会」を設立しようとしている。市井では、誰が庶民議会の仲間入りをするかで話題は持ちきりだ。
しかし、グリューエリンたちが今話をしているのは重度汚染地域「ラズビルナム」についてだった。
クレーネウスの言った通り、機導装置で浄化術が使用できるようになってから、浄化のハードルは下がった。いま、帝国は膿を絞り出す時期なのだ。だから、ラズビルナムも放置できない。
「そこで、私にどうしろと?」
たしかに、それは捨て置けない話題だが、グリューエリン個人が抱えられる問題ではない。グリューエリンは軍属アイドルだが基本はただの二等兵だ。
「ラズビルナムに巨大な樹の歪虚がいるんだそうだ」
この巨樹の歪虚、なかなか厄介な性質をしており、その幹にぽっかり空いた空から怨嗟の声を撒き散らし、敵の平衡感覚を失わせ、行動を阻害させるのだという。
そこで、歌舞音曲部隊に話が回っていた。
「つまり、虚の声に私の歌声をぶつけて対抗しろと? 選んでいただけるのは嬉しいですが、私にそこまでの力は……」
「いや、それが可能なんだ」
クレーネウスが力強く言った。
この巨樹の存在は非常に邪魔だ。探索の障害である。どうにか排除したい。
そこで立ち上がったのが、錬金術師組合組合長リーゼロッテ・クリューガー(kz0037)だった。
ほぼ時同じくして、長らく歌うことをやめていたグリューエリンがアイドルに復帰した、という知らせが飛び込んで来た。
そこでリーゼロッテが考えたのが、特殊なスピーカーで歌声を拡散することで、敵の声を相殺できるのではないか、というものだった。
「リーゼロッテ殿が……」
グリューエリンとリーゼロッテはもともと付き合いがあった。装備の相談などをしたことも数回ではない。しかし、歌うのをやめて以降、その交流は断絶されていた。
しかし、今、リーゼロッテの方からグリューエリンへの新装備の話が来ているのだ。
活動をしていなかったとはいえ、蒔いた種は無駄ではなかった。グリューエリンは人のつながりを嬉しく思った。
「わかりました。私にできることなら、喜んでいたしますわ」
きりりと緑の瞳でクレーネウスを見つめ返すグリューエリン。
クレーネウスは錬金術組合から送られて来た概要を読み上げる。
確認される巨樹は2体。いずれも、過去に観測された位置からほとんど動いていないようだ。つまり地図の印を目指していけば問題はない。
巨樹討伐はハンターに依頼する。グリューエリンは新しく製造された装備で、ハンターたちの援護をしてほしい。
グリューエリンのために誂えた装備は、衣装の一部のように作られたマイクの仕込まれた魔導機械、特製スピーカー、特製スピーカーを運ぶための特製魔導アーマーである。
特製魔導アーマーには全周囲に歌が響くようにスピーカーが設置されており、上部には小さいながらも演者が立つための舞台がある。また、魔導アーマーの操作するために、部隊員ひとりが必要になる。
スピーカーで拡散された歌声には巨樹の虚の響きに対抗する力が込められている。これで、ようやくハンターたちバッドステータスに振り回されず、まともに戦えるようになるだろう。
ここまで読み上げで、クレーネウスはちょっとグリューエリンを見た。
「つまり、歌っている間、グリューエリン、君は無防備になる。君を過小評価するわけではないが歌いながら戦うにはまだ厳しい」
「ええ、ハンターの皆様に守っていただきますわ」
グリューエリンはハンターに全幅の信頼を置いているように、断言した。
しかし、クレーネウスもハンターたちへの信頼という点ではグリューエリンと変わらない。
グリューエリンをスカウトし、挫折から立ち直らせたのはハンターたちの功績だ。ハンターたちがいなかったら、今のグリューエリンはいないのだ。
「それでは、部隊員グリューエリン・ヴァルファー。これよりラズビルナム浄化作戦への着任を命ずる」
「はい。了解いたしました」
びしり、と敬礼するグリューエリン。
こうして、彼女は巨樹討伐作戦の準備へ向かっていったのだった。
リプレイ本文
●戦闘前1
ラズビルナムに発生した巨樹歪虚退治の依頼を請け負ったハンターたちがユニットと共に駆けていく。
「さてさて、此処に来るのも随分久しぶりだが相変わらず息苦しい場所だね。このマテリアルの淀み具合、吐き気がするよ」
刻令ゴーレム「Gnome」、H・Gの肩に乗ったフワ ハヤテ(ka0004)が、濁り、混線したマテリアルを敏感に感じ取って言う。
「こういう森は初めてかもしれないわね……うん、気をつけていきましょう」
ペガサスに騎乗したイリアス(ka0789)が周囲を見渡す。
あたりは鬱蒼としている。木々が乱雑に生え、ユニットが通れる道幅はあるものの、射線や視線を遮られ、遠くまでは見えない。
『おーい、前方に、開けた場所が見えて来たよー』
ハンターが所持しているトランシーバーからフューリト・クローバー(ka7146)の声が聞こえてくる。それはもちろん、グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)を乗せた魔導アーマーの運転手もトランシーバーを持っているので伝わっている。
『地図にある通り、2体のおっきな樹がいるよー』
「うん、結構開けてそうだから、戦闘に支障はなさそうだねぇ」
フューリトは、ポロウのシフで空を飛び、軍用双眼鏡で目指す地点を見る。
地図通り、目指す場所は鬱蒼とした森にあって開けた場所で、そこには大きな樹が2体いる。根の部分を引き抜いて足のように使って、地面の上に立っている。虚ろなる声を響かせる、今回の討伐対象だ。
「シフさん、何か異常ある感じするー?」
フューリトの問いかけに、シフはふるふる首を振って答えた。
「おっけー、問題はないみたいだね。じゃ、あとは倒すだけかな」
●出発前
「グリューさん、やっほー、よろしくねぇ」
ラズビルナムへの出発前。
グリューエリンにフューリトは笑顔を向けた。
「はい、フューリト殿。今回もよろしくお願いしますわ」
「リトでいいよー。僕とグリューさんの仲なら羽虫以外おーるおっけー」
「そ、そうですか? では、リトさんと呼ばせていただきますね」
グリューエリンの頬はほんのり桜色に染まっている。きっと、フューリトと関係が親密になったことが嬉しかったのだ。
「それと、隊員さんもよろしくねぇ」
グリューエリンを乗せる特製魔導アーマーの最終点検をしている、帝国歌舞音曲部隊の隊員にもフューリトは手を振った。
隊員も軽く手を振り返してフューリトにこたえる。
「っと、それとトランシーバーの周波数合わせておかないとね。持ってる人はしゅーごー」
レオン(ka5108)と輝羽・零次(ka5974)はトランシーバーの周波数を合わせつつ、グリューエリンに言う。
「僕はレオン。よろしくね」
「俺はレイジ。輝羽・零次だ、よろしくな」
「レオン殿、零次殿、どうぞよろしくお願いします」
「そーいえば、復帰ライブしたみたいじゃない」
クリス・クロフォード(ka3628)がグリューエリンにそんな話題を振った。
「これ終わったらお茶しながら話聞かせてよ、グリューエリン」
「もちろんですわ、クリス殿」
「楽しみにしてるわ。それじゃ、準備はいい? 出発するわよ!」
●戦闘前2
地上を行く者からも、次第に敵の姿が見えて来た。
「あの歪虚も、ずっとずっと昔は、森に生い茂る命のひとつだったんですよね。そう思うと……すこし、かなしいかも知れませんね」
羊谷 めい(ka0669)が杖をぎゅっと握って、巨樹を見つめた。
「でも、放っておくわけにもいきませんよね」
側にはオートソルジャーのアルトリウスがいる。
「ま、俺様がサポートする以上、大船に乗ったつもりでバーンと構えておきゃ大丈夫だがな。グーハハハハ!」
R7エクスシア、閻王の盃に搭乗しているのはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だ。
今回の依頼では、敵の高強度のBSに、特殊なスピーカーで歌を拡散することによって、これに対抗することになっている。
歌うのはもちろんグリューエリンだ。このために、魔導アーマーもステージとスピーカーがつけられている。
グリューエリンが歌える時間は最大で15分。それ以上歌うためには、何かしらの休息を挟まないと難しかった。
「ずっと歌い続けるの、負担ですよね。それが役割だからって、わたしたちが甘えてちゃ、だめですから」
めいが後ろにいるグリューエリンを振り返ってみる。
「そうね。だから作戦は……途切れる前に集中攻撃で数を減らす、だったわよね?」
イリアスが確認する。さらにイリアスも魔導アーマーの舞台上にいるグリューエリンに言葉をかける。
「歌でこんなにみんなの力になれるなんて、素敵ね」
「いえ、私ひとりの力ではありません。私が歌えるのは皆様がいてくださったから。ここに立っていられるのは、たくさんの人に支えられているからです」
「そうなの。……枯らさないように気をつけてね」
にっこりとイリアスは笑った。
「ああ、守ってやるぜ任された! その代わり最高の歌を頼むぜぇ!」
零次が気合を入れて言う。
「さて、敵は広範囲かつ強度の高い声で行動を妨害してくるそうだ。であるなら、グリューエリンには早速歌ってもらって、彼女の歌の効果範囲に敵を収めた時点で戦闘開始、というのはどうかな?」
敵との距離を目測しながらフワが提案する。
BSの強度が高い以上、一度BSにかかってしまうと解除が難しい。グリューエリンの歌の効果範囲を出ないことは迅速に敵を討伐する上で、必須のことと言えるだろう。
「そろそろ、相手もこっちに気付く頃かしらね」
クリスが言った。
「あまり近づきすぎないで。あなた達が【虚の声】くらったら、こっちが崩れかねないからね。位置どりはさっき打ち合わせしたとおりによろしく」
「グリりん」
デスドクロがグリューエリンに言う。
「巨樹の虚声対策が目的とは言え、ライブ同様の歌唱力あってこその音曲部隊だ。気合い入れて歌えよ」
「……ええ、また私が歌えると信じてくださった人達のためにも全力で歌いますわ」
ゆっくりと、グリューエリンが息を吸い込む。そして、歌唱を開始した。
朗々たる歌声が森に響く。
フューリトは時間が歌唱を開始してからどれくらいたったかわかるように、魔導スマートフォンの目覚まし機能でアラームを設定しておく。
(ほう……スピーカーが糞音質だったら後でクレーム入れてやろうと思ったが、なかなか悪くない)
デスドクロが耳を澄ませ、音質と歌の出来を確認する。
(グリの歌も悪くない……どうやら、レッスンはちゃんとしているみたいだな)
「グーハハハ! ならば、ショウタイムを始めようぜ!!」
ハンターは巨樹への進撃を開始する。
「レイジ、ひとりで先走りすぎないようにね」
と、レオンが零次に言った。
「わかってるよ。ちゃっちゃと片付けちまおうぜ」
零次はそうこたえた。
●戦闘1
空気を引き裂いて、イリアスの矢が飛んでき、巨樹の幹に突き刺さった。
そこで巨樹はようやく敵が来たことに気がついたらしい。枝をさわさわ揺らし始めたのだ。それはもしかしたら威嚇の意味もあったのかもしれない。
ハンターが近づくほどに枝の震えは大きくなっていく。そして、びきびきと音を立てて、巨樹2体の幹に開いていた虚が声帯のように震え、衝撃を放った。
それは声というよりは衝撃波に近いものだった。あたり空気を不快に揺らし、行動を阻害する【虚の声】である。
前衛として先行していた零次と彼が騎乗している黒優の体が、振動によって痺れる。
しかし、後ろから響いてくるグリューエリンの歌声が、即座に振動を打ち消した。
「巨樹が声、で対抗に歌、かよ。おもしれえことを考える奴がいたもんだぜ。しばらく聴いておきたい所だけどよ、さすがにあんまり長引かせるのは悪いな。黒優、一気に接近するぞ!」
イェジドの黒優が鋭い爪で大地を蹴って驀進する。
「まずは、左にいる奴から狙う!」
その時、左にいた巨樹が鈍い風切り音を立てながら、零次と黒優目掛けて太い枝を思いっきり振り下ろした。
「黒優、おまえは俺と反対方向へ回り込め!」
短く黒優は吠えて指示を了承する。
巨樹の枝の拳が着弾する寸前に、零次は黒優から飛び降りて、攻撃を回避。黒優もまた、零次とは反対方向に飛ぶことで同じく攻撃を回避。疾駆の勢いを殺すことなく、零次の指示通り、反対側へと駆けて行く。
地面に着地した零次は機甲拳鎚で地面を引っかいて、勢いを殺し、攻勢に移る。
「いくぜえ!」
虚空に拳を突き出す零次。
振り抜いた拳には練り上げられたマテリアルが篭っており、それは青龍となって敵を貫いた。
「挨拶代わりだ! とっときな!!」
巨樹はさらなる打撃を加えようと枝を振りかぶる。
が、そこへ、影を塗り固めたような弾丸が地面を抉った。
思わず、巨樹の気が弾丸の飛んで来た方に向く。
「わぁ、報告書で読んでたけど、ほんとにおっきいんだねぇ」
フューリトがシフで上空を旋回しながら、敵の気をひくようにシャドウブリットを撃ったのだ。
だが、それは瞬間的に敵の意識を奪ったが、固定させるまではいかない。
巨樹も即座に前から迫って来ているハンターに意識を戻す。
が、そこには剣を地面と水平に構え、体の横に引き付けたレオンが居た。
レオンの緑の瞳が太陽の光を受けて輝いている。
そして、息を吐き出すのと同時に、切っ先を鋭く巨樹へと突き出した。
光の帯が走ったかのような刺突一閃は巨樹の幹を抉っていく。
レオンのユグディラであるミオが旅人たちの練習曲を奏で、味方の攻撃力を上げていく。
その時、レオンに影が落ちて来た。
もう1体の巨樹が枝の拳を振りかぶったのだ。
「させないわ!」
その枝めがけて、青龍翔咬波が撃ち込まれる。
プラヴァー、Luctatorに搭乗したクリスが放ったものだ。
「もう1体は私に任せなさい。そっちは攻撃に集中して。こっちもなるたけ削っとくわ。さっさと潰しちゃってね」
思わぬ妨害を受けたためか、巨樹はLuctatorに向かって再度枝を振り下ろす。
しかし、クリスは半身になってそれを華麗に躱し、そのまま機体を回転させ、勢いをのせた拳を巨樹に叩き込む。
「……とは言ったものの、抑えとくだけなんてつもりもないけどね。Luctatorの試運転も兼ねて……全力のど突き合い、つきあってもらうわよ」
●戦闘2
アイリスはペガサスで空を飛び、敵味方の位置を把握している。
レオンや零次の攻撃している巨樹が集中攻撃の対象だ。そしてもう1体の巨樹はクリスが抑え込んでいる。
後方には、H・Gの肩に乗ったフワ、デスドクロ、そしてグリューエリンの乗った魔導アーマーがいる。
「あれだけ距離があれば、巻き込まれることもないでしょうね。ハヤテさんがbindを設置してくれているし」
ハンターはグリューエリンの声の届く範囲で戦っている。
イリアスはトランシーバーで、魔導アーマーの運転手にそのままの位置で問題ないことを連絡した。
「グリューエリンさんとも初めましてだけど、あなたとも初めましてよね」
イリアスは、ペガサスの背中を優しく撫でた。
「よろしく、ね」
その言葉に応えるように、ペガサスは力強く翼を羽ばたかせた。
●戦闘3
フワはH・GのR.Oモードを発動し、素早く敵との距離を詰め、自分が有利な場所へ移動していく。
「このあたりが僕の射程だ。君達、ずいぶん大きな体をしているね。うん、とても当てやすそうだ」
イリアスの言ったように、フワはまずH・Gで移動した後、Cモード「bind」を敵の足元に設置していたのだ。敵が移動した場合、すぐにトラップが発動するように。
フワ自身も、もちろん巨樹討伐のために行動を開始する。
だが、ここに少し誤算があった。初手でアブソリュートゼロを放ち、行動阻害を付与する予定だったのだが、このスキルは直前のサブアクションで「集中」を使用した場合のみに使用できる。今回フワは「集中」をセットしていなかったので、アブソリュートゼロは使えない。
なので、フワはダブルキャストによるファイアーボールとマッジクアローの攻撃をすることになった。
敵はサイズ4と大きいために、効果範囲を持つ攻撃が非常に有効だ。さらに[SA]フォースリングによって5本に数を増やしたマジックアローで多段ヒットが狙える。
「燃やし尽くし──」
同時に紡がれる魔法。互いの詠唱は絡み合うことなく、それぞれの魔法を結実させる。
巨樹の頭上に火球が出現した。めらめらと燃える炎色は残酷に巨樹を照らし出す。
前衛を避けるように火球が落とされる。着弾点でそれは爆ぜて、マグマのような炎を周囲にまき散らした。
巨樹の表皮が焼けただれ、炭になる。一瞬焦げる匂いが立ち込める。
「──穿ち尽くそう」
フワが虚空に手をかざすと、5本の輝く魔法の矢が現れた。流星のように空を駆け、4本が集中攻撃をしている巨樹に、残った1本はもう1体の巨樹に撃ち込まれた。
着弾した衝撃で樹がばりばり音を立てて剥がれていく。長い間負のマテリアルに犯されていたからだろう、毀れた樹皮は地面に落ちる前に塵になって消えていった。
●戦闘4
巨樹が大きく枝を振り回し、前方を薙ぎ払う。
レオンが剣で防御し、さらにフューリトのホーリーヴェールがダメージを吸収したため、傷はない。
「厄介だな。その技、封じさせてもらう──!」
零次の掌底が巨樹に叩き込まれる。手のひらからマテリアルを流し込み、内部から破壊する技、鎧徹しだ。
巨樹の内部が軋む音がする。さらに、今防御に使った枝にソードブレイカーの呪いがかかる。
「これで、脆くなっただろ?」
だが、敵も負けじと、枝を振り下ろす。
頭を守るように零次は機甲拳鎚を掲げる。
「ただではやらせないよー」
再びフューリトのホーリヴェールが枝の拳の前に立ちはだかる。光の障壁は威力を減衰させて砕けた。
だが、それでも巨樹の攻撃は十分な破壊力を持っている。
「くっ──!」
機甲拳鎚を通して、攻撃を受けた振動が零次の体を駆け巡る。重たい打撃で、体を支えている両足が地面にめり込んだ。
「すぐに、回復します!」
めいがフルリカバリーを零次に施した。
今の攻撃でできた傷がみるみる回復していく。
「アルトリウス、前衛は頼みます」
オートソルジャーのアルトリウスの能力はバディフォースにより強化されている。
アルトリウスはドールハンマーを振り回す。その動作を受けて、ハンマーからマテリアル噴射がされて、加速した打撃が巨樹の横っ面を殴りつける。鈍い金属音がする。
巨樹の意識は前方に向かっている。だから忘れていた。背後にいた黒優のことを。
「喰らいつけ、黒優!」
黒優はフェンリルライズでオーラを纏っている。それは大幻獣フェンリルを思わせる威容。命の引き換えに力を解放する技。
黒優の牙が剥き出される。そして、地面を蹴りつけて、巨樹の枝に噛み付いた。黒優の強靭な牙は、樹皮に食い込み、敵を噛みちぎろうとする。
巨樹は体を振って、黒優を振り払おうとするが、深々と突き刺さった牙は容易く抜けるはずもない。結果、巨樹が体を震わせる度に傷は深くなる。そして、ついに黒優が敵の体を食いちぎった。
振り回された黒優は華麗に着地。黒優に食いちぎられた枝もやはり塵になって消えていく。
巨樹が黒優へと振り返ろうとした時、マテリアルを纏った矢が突き刺さった。
イリアスが高加速射撃で放ったものだ。
イリアスはグリューエリンの歌の範囲を出ないように飛び回り、援護射撃を行っていた。装填、移動、攻撃のリズムは崩さない。流れるような動作で、矢を番えていく。
その時、再び巨樹の虚が震えだした。
再度放たれる【虚の声】。景色を塗り替えるような音の振動は全身を打擲されるような感覚がある。
それを打ち消すように響くのはグリューエリンの歌声。
そして、どこか不気味な発射音だった。
【虚の声】が止まった。
それは、巨樹が声を中断したばかりではない。
1発の弾丸が撃ち込まれたからだ。
「このスピーカーは悪くねぇ。しかし、お前らの声はざらついてて、聴き心地の良いもんじゃねぇな」
閻王の盃に搭乗したデスドクロが200mm4連カノン砲で射撃したのだ。
デスドクロはグリューエリンの立っている魔導アーマーの側にいた。
グリューエリン達の護衛であることはもちろんだが、彼女がちゃんと歌えているかを確認するためでもある。グリューエリンを育てると決めたデスドクロならではの行動だろう。
「グリりん、良い調子だ。いいか、今回の仕事は歌うことだ。わざわざ仕事と装備を回してくれたってことは多少なりとも信頼されてるってこった。こういう期待は裏切っちゃいけねぇ」
歌いながらではあるが、グリューエリンもデスドクロの言葉を聴いている。
「歌うのに集中しろ。戦闘は任せておけ。俺様がいるんだぜ? 大丈夫に決まっているだろ?」
歌は途切れることなく、続いている。心なしか、先ほどより力強くなった感じもする。
デスドクロは銃の照準を微調整した。
●戦闘5
めいのプルガトリオによる闇の刃が敵を串刺しにする。[SA]の効果により効果範囲は広く、めいのいる位置からは、2体の巨樹がまとめて攻撃できた。
「ナイス、支援! これで大分楽になったわ!」
クリスはLuctatorを操縦し、集中攻撃されていない方の巨樹を足止めしている。
「僕も援護するよー」
フューリトのシャドウブリットが、クリスが抑えている巨樹に命中する。
クリスのLuctatorも無傷ではない。ところどころ装甲が凹んでいる。
「こっちはまだ持つわ。とっととそっちの奴を撃破しちゃって!」
「はい、わかりました。……今回は、攻めの姿勢、ですよっ」
めいがこくりとクリスの言葉に頷いた。
アルトリウスがドールハンマーで敵を砕いていく。
そして、巨樹が赤く染まった。
「うん、僕は魔法が切れると皆を応援する人になる他ないからね。できれば早く決着をつけたいところだ」
フワがダブルキャストで紡いだファイアーボールとマジックアローだ。
次々に着弾する魔法は威力が高く、巨樹の樹皮を削り取っていく。
フワの魔法攻撃で、大きく巨樹の体が傾いだ。
「ここが決め時、ですね──!」
レオンの剣には魔法剣の効果が乗っている。さらに、レオンが剣を突き出す刹那、ミオが森の宴の狂詩曲で自分の魔法威力を上乗せする。
繰り出される刺突が、巨樹の体に突き立った。
巨樹はざわざわ枝を揺らすと、茂っていた葉を全部落として、だらりと枝を垂らし、傷口から塵になってついにその巨体を消失させた。
●戦闘6
「こっちは終わったわ!」
イリアスがペガサスを操って、クリスの元へ飛んでいく。
「それは良かった。出来るだけのことはしておいたから」
残った巨樹も樹皮がはげている箇所があり、ダメージが累積していることがわかる。
「ふむ、それなりに敵も疲弊しているものと見える。これなら、魔法が尽きないうちに殺しきれそうだ」
フワが魔法を紡ぎ出す。
巨樹がクリスに太い枝を振り下ろす。
が、巨樹の狙いはそれて、勢いあまり前につんのめる。
レオンが、クリスが1番敵に近いと見てかけておいたエンジェルフェザーの効果だ。きっと巨樹はクリスに、Luctatorに、渦巻く羽の幻影を見たのだろう。
「さて、まだまだ動き足りないのよね、私。付き合ってもらうわよ?」
クリスが静かに笑った。
マジックアローが飛来する。エネルギーが爆ぜて、樹皮を傷つけていく。
さらに追い討ちをかけるように、イリアスの矢が鋭く突き刺さる。
そして、巨樹が大きく枝を振り上げた。
「好きにはさせねぇよ」
不気味な射撃音が響き渡り、一直線に飛んできた弾丸が振り上げた巨樹の枝に命中した。デスドクロが放ったものだ。
べきべきと音を立てて枝がもげる。
しかし、巨樹はまた別の枝を振りかぶって零次に向かって斜めに叩きつける。
「遅いな!」
零次は屈んでそれを躱し、地面にめり込んだ枝に向かって下から上に突き上げるように拳を叩き込む。それにはもちろんソードブレイカーの呪いが込められている。
「それ、邪魔ね? 潰させてもらうわ」
今度はクリスのLuctatorが枝を圧し折ろうと、炎のオーラを纏った拳を打ち下ろした。
枝が砕け、塵になって消えていく。
「これで腕の様に振るっていた枝がなくなったわけだけど?」
最後のあがきなのか、ここで巨樹は再び【虚の声】を響かせた。しかしグリューエリンはまだ歌える。BSは次々解除されていく。
「……もう、終わりにしましょう」
めいの瞳の中には覚醒により燐光が煌めいている。星の様な瞬き、同時に朝日の様な輝き。
「あなたもきっと、この森の命だったのでしょう。でも……こうなってしまった以上、退治するしかないんです」
めいの瞳の中には覚醒により燐光が煌めいている。星の様な瞬き、同時に朝日の様な輝き。瞳の中だけでなく彼女の周囲にもきらきらと光が漂う。その燐光が一層強く煌めいた。
「……さようなら」
巨樹の体を、プルガトリオの刃が引き裂いた。
いまや、巨樹は無数の闇の刃に刺し貫かれた奇妙なオブジェとしてそこにあった。
巨樹の体が、刃の傷に従って、バラバラになる。全ては塵に還元されていく。
虚ろな声はこうして途切れた。
ハンターの勝利を確認したグリューエリンは歌を終了した。
グリューエリンが連続して歌えるのは15分間。見事、その間にハンターは巨樹退治を完了した。
巨樹が特製魔導アーマーに近づかない様、上空からの監視、複数の足止めスキルが行使されたために、彼らは無傷だった。
●戦闘の後に
「グリューさん、はいたーっち!」
戦闘が無事終わって、フューリトは、早速グリューエリンに駆け寄った。
「リトさんもご無事でなによりですわ」
グリューエリンはフューリトの手に自分の手を合わせた。
「んー……久しぶりに全力で身体動かすと気持ちいいわぁ……」
Luctatorに乗ったまま、クリスは伸びをした。
「……うん、今度はもっと楽しくなれるときに歌を聞きたいわね」
ペガサスの背を撫でながら、イリアスはそう呟いた。
ラズビルナムに発生した巨樹歪虚退治の依頼を請け負ったハンターたちがユニットと共に駆けていく。
「さてさて、此処に来るのも随分久しぶりだが相変わらず息苦しい場所だね。このマテリアルの淀み具合、吐き気がするよ」
刻令ゴーレム「Gnome」、H・Gの肩に乗ったフワ ハヤテ(ka0004)が、濁り、混線したマテリアルを敏感に感じ取って言う。
「こういう森は初めてかもしれないわね……うん、気をつけていきましょう」
ペガサスに騎乗したイリアス(ka0789)が周囲を見渡す。
あたりは鬱蒼としている。木々が乱雑に生え、ユニットが通れる道幅はあるものの、射線や視線を遮られ、遠くまでは見えない。
『おーい、前方に、開けた場所が見えて来たよー』
ハンターが所持しているトランシーバーからフューリト・クローバー(ka7146)の声が聞こえてくる。それはもちろん、グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)を乗せた魔導アーマーの運転手もトランシーバーを持っているので伝わっている。
『地図にある通り、2体のおっきな樹がいるよー』
「うん、結構開けてそうだから、戦闘に支障はなさそうだねぇ」
フューリトは、ポロウのシフで空を飛び、軍用双眼鏡で目指す地点を見る。
地図通り、目指す場所は鬱蒼とした森にあって開けた場所で、そこには大きな樹が2体いる。根の部分を引き抜いて足のように使って、地面の上に立っている。虚ろなる声を響かせる、今回の討伐対象だ。
「シフさん、何か異常ある感じするー?」
フューリトの問いかけに、シフはふるふる首を振って答えた。
「おっけー、問題はないみたいだね。じゃ、あとは倒すだけかな」
●出発前
「グリューさん、やっほー、よろしくねぇ」
ラズビルナムへの出発前。
グリューエリンにフューリトは笑顔を向けた。
「はい、フューリト殿。今回もよろしくお願いしますわ」
「リトでいいよー。僕とグリューさんの仲なら羽虫以外おーるおっけー」
「そ、そうですか? では、リトさんと呼ばせていただきますね」
グリューエリンの頬はほんのり桜色に染まっている。きっと、フューリトと関係が親密になったことが嬉しかったのだ。
「それと、隊員さんもよろしくねぇ」
グリューエリンを乗せる特製魔導アーマーの最終点検をしている、帝国歌舞音曲部隊の隊員にもフューリトは手を振った。
隊員も軽く手を振り返してフューリトにこたえる。
「っと、それとトランシーバーの周波数合わせておかないとね。持ってる人はしゅーごー」
レオン(ka5108)と輝羽・零次(ka5974)はトランシーバーの周波数を合わせつつ、グリューエリンに言う。
「僕はレオン。よろしくね」
「俺はレイジ。輝羽・零次だ、よろしくな」
「レオン殿、零次殿、どうぞよろしくお願いします」
「そーいえば、復帰ライブしたみたいじゃない」
クリス・クロフォード(ka3628)がグリューエリンにそんな話題を振った。
「これ終わったらお茶しながら話聞かせてよ、グリューエリン」
「もちろんですわ、クリス殿」
「楽しみにしてるわ。それじゃ、準備はいい? 出発するわよ!」
●戦闘前2
地上を行く者からも、次第に敵の姿が見えて来た。
「あの歪虚も、ずっとずっと昔は、森に生い茂る命のひとつだったんですよね。そう思うと……すこし、かなしいかも知れませんね」
羊谷 めい(ka0669)が杖をぎゅっと握って、巨樹を見つめた。
「でも、放っておくわけにもいきませんよね」
側にはオートソルジャーのアルトリウスがいる。
「ま、俺様がサポートする以上、大船に乗ったつもりでバーンと構えておきゃ大丈夫だがな。グーハハハハ!」
R7エクスシア、閻王の盃に搭乗しているのはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だ。
今回の依頼では、敵の高強度のBSに、特殊なスピーカーで歌を拡散することによって、これに対抗することになっている。
歌うのはもちろんグリューエリンだ。このために、魔導アーマーもステージとスピーカーがつけられている。
グリューエリンが歌える時間は最大で15分。それ以上歌うためには、何かしらの休息を挟まないと難しかった。
「ずっと歌い続けるの、負担ですよね。それが役割だからって、わたしたちが甘えてちゃ、だめですから」
めいが後ろにいるグリューエリンを振り返ってみる。
「そうね。だから作戦は……途切れる前に集中攻撃で数を減らす、だったわよね?」
イリアスが確認する。さらにイリアスも魔導アーマーの舞台上にいるグリューエリンに言葉をかける。
「歌でこんなにみんなの力になれるなんて、素敵ね」
「いえ、私ひとりの力ではありません。私が歌えるのは皆様がいてくださったから。ここに立っていられるのは、たくさんの人に支えられているからです」
「そうなの。……枯らさないように気をつけてね」
にっこりとイリアスは笑った。
「ああ、守ってやるぜ任された! その代わり最高の歌を頼むぜぇ!」
零次が気合を入れて言う。
「さて、敵は広範囲かつ強度の高い声で行動を妨害してくるそうだ。であるなら、グリューエリンには早速歌ってもらって、彼女の歌の効果範囲に敵を収めた時点で戦闘開始、というのはどうかな?」
敵との距離を目測しながらフワが提案する。
BSの強度が高い以上、一度BSにかかってしまうと解除が難しい。グリューエリンの歌の効果範囲を出ないことは迅速に敵を討伐する上で、必須のことと言えるだろう。
「そろそろ、相手もこっちに気付く頃かしらね」
クリスが言った。
「あまり近づきすぎないで。あなた達が【虚の声】くらったら、こっちが崩れかねないからね。位置どりはさっき打ち合わせしたとおりによろしく」
「グリりん」
デスドクロがグリューエリンに言う。
「巨樹の虚声対策が目的とは言え、ライブ同様の歌唱力あってこその音曲部隊だ。気合い入れて歌えよ」
「……ええ、また私が歌えると信じてくださった人達のためにも全力で歌いますわ」
ゆっくりと、グリューエリンが息を吸い込む。そして、歌唱を開始した。
朗々たる歌声が森に響く。
フューリトは時間が歌唱を開始してからどれくらいたったかわかるように、魔導スマートフォンの目覚まし機能でアラームを設定しておく。
(ほう……スピーカーが糞音質だったら後でクレーム入れてやろうと思ったが、なかなか悪くない)
デスドクロが耳を澄ませ、音質と歌の出来を確認する。
(グリの歌も悪くない……どうやら、レッスンはちゃんとしているみたいだな)
「グーハハハ! ならば、ショウタイムを始めようぜ!!」
ハンターは巨樹への進撃を開始する。
「レイジ、ひとりで先走りすぎないようにね」
と、レオンが零次に言った。
「わかってるよ。ちゃっちゃと片付けちまおうぜ」
零次はそうこたえた。
●戦闘1
空気を引き裂いて、イリアスの矢が飛んでき、巨樹の幹に突き刺さった。
そこで巨樹はようやく敵が来たことに気がついたらしい。枝をさわさわ揺らし始めたのだ。それはもしかしたら威嚇の意味もあったのかもしれない。
ハンターが近づくほどに枝の震えは大きくなっていく。そして、びきびきと音を立てて、巨樹2体の幹に開いていた虚が声帯のように震え、衝撃を放った。
それは声というよりは衝撃波に近いものだった。あたり空気を不快に揺らし、行動を阻害する【虚の声】である。
前衛として先行していた零次と彼が騎乗している黒優の体が、振動によって痺れる。
しかし、後ろから響いてくるグリューエリンの歌声が、即座に振動を打ち消した。
「巨樹が声、で対抗に歌、かよ。おもしれえことを考える奴がいたもんだぜ。しばらく聴いておきたい所だけどよ、さすがにあんまり長引かせるのは悪いな。黒優、一気に接近するぞ!」
イェジドの黒優が鋭い爪で大地を蹴って驀進する。
「まずは、左にいる奴から狙う!」
その時、左にいた巨樹が鈍い風切り音を立てながら、零次と黒優目掛けて太い枝を思いっきり振り下ろした。
「黒優、おまえは俺と反対方向へ回り込め!」
短く黒優は吠えて指示を了承する。
巨樹の枝の拳が着弾する寸前に、零次は黒優から飛び降りて、攻撃を回避。黒優もまた、零次とは反対方向に飛ぶことで同じく攻撃を回避。疾駆の勢いを殺すことなく、零次の指示通り、反対側へと駆けて行く。
地面に着地した零次は機甲拳鎚で地面を引っかいて、勢いを殺し、攻勢に移る。
「いくぜえ!」
虚空に拳を突き出す零次。
振り抜いた拳には練り上げられたマテリアルが篭っており、それは青龍となって敵を貫いた。
「挨拶代わりだ! とっときな!!」
巨樹はさらなる打撃を加えようと枝を振りかぶる。
が、そこへ、影を塗り固めたような弾丸が地面を抉った。
思わず、巨樹の気が弾丸の飛んで来た方に向く。
「わぁ、報告書で読んでたけど、ほんとにおっきいんだねぇ」
フューリトがシフで上空を旋回しながら、敵の気をひくようにシャドウブリットを撃ったのだ。
だが、それは瞬間的に敵の意識を奪ったが、固定させるまではいかない。
巨樹も即座に前から迫って来ているハンターに意識を戻す。
が、そこには剣を地面と水平に構え、体の横に引き付けたレオンが居た。
レオンの緑の瞳が太陽の光を受けて輝いている。
そして、息を吐き出すのと同時に、切っ先を鋭く巨樹へと突き出した。
光の帯が走ったかのような刺突一閃は巨樹の幹を抉っていく。
レオンのユグディラであるミオが旅人たちの練習曲を奏で、味方の攻撃力を上げていく。
その時、レオンに影が落ちて来た。
もう1体の巨樹が枝の拳を振りかぶったのだ。
「させないわ!」
その枝めがけて、青龍翔咬波が撃ち込まれる。
プラヴァー、Luctatorに搭乗したクリスが放ったものだ。
「もう1体は私に任せなさい。そっちは攻撃に集中して。こっちもなるたけ削っとくわ。さっさと潰しちゃってね」
思わぬ妨害を受けたためか、巨樹はLuctatorに向かって再度枝を振り下ろす。
しかし、クリスは半身になってそれを華麗に躱し、そのまま機体を回転させ、勢いをのせた拳を巨樹に叩き込む。
「……とは言ったものの、抑えとくだけなんてつもりもないけどね。Luctatorの試運転も兼ねて……全力のど突き合い、つきあってもらうわよ」
●戦闘2
アイリスはペガサスで空を飛び、敵味方の位置を把握している。
レオンや零次の攻撃している巨樹が集中攻撃の対象だ。そしてもう1体の巨樹はクリスが抑え込んでいる。
後方には、H・Gの肩に乗ったフワ、デスドクロ、そしてグリューエリンの乗った魔導アーマーがいる。
「あれだけ距離があれば、巻き込まれることもないでしょうね。ハヤテさんがbindを設置してくれているし」
ハンターはグリューエリンの声の届く範囲で戦っている。
イリアスはトランシーバーで、魔導アーマーの運転手にそのままの位置で問題ないことを連絡した。
「グリューエリンさんとも初めましてだけど、あなたとも初めましてよね」
イリアスは、ペガサスの背中を優しく撫でた。
「よろしく、ね」
その言葉に応えるように、ペガサスは力強く翼を羽ばたかせた。
●戦闘3
フワはH・GのR.Oモードを発動し、素早く敵との距離を詰め、自分が有利な場所へ移動していく。
「このあたりが僕の射程だ。君達、ずいぶん大きな体をしているね。うん、とても当てやすそうだ」
イリアスの言ったように、フワはまずH・Gで移動した後、Cモード「bind」を敵の足元に設置していたのだ。敵が移動した場合、すぐにトラップが発動するように。
フワ自身も、もちろん巨樹討伐のために行動を開始する。
だが、ここに少し誤算があった。初手でアブソリュートゼロを放ち、行動阻害を付与する予定だったのだが、このスキルは直前のサブアクションで「集中」を使用した場合のみに使用できる。今回フワは「集中」をセットしていなかったので、アブソリュートゼロは使えない。
なので、フワはダブルキャストによるファイアーボールとマッジクアローの攻撃をすることになった。
敵はサイズ4と大きいために、効果範囲を持つ攻撃が非常に有効だ。さらに[SA]フォースリングによって5本に数を増やしたマジックアローで多段ヒットが狙える。
「燃やし尽くし──」
同時に紡がれる魔法。互いの詠唱は絡み合うことなく、それぞれの魔法を結実させる。
巨樹の頭上に火球が出現した。めらめらと燃える炎色は残酷に巨樹を照らし出す。
前衛を避けるように火球が落とされる。着弾点でそれは爆ぜて、マグマのような炎を周囲にまき散らした。
巨樹の表皮が焼けただれ、炭になる。一瞬焦げる匂いが立ち込める。
「──穿ち尽くそう」
フワが虚空に手をかざすと、5本の輝く魔法の矢が現れた。流星のように空を駆け、4本が集中攻撃をしている巨樹に、残った1本はもう1体の巨樹に撃ち込まれた。
着弾した衝撃で樹がばりばり音を立てて剥がれていく。長い間負のマテリアルに犯されていたからだろう、毀れた樹皮は地面に落ちる前に塵になって消えていった。
●戦闘4
巨樹が大きく枝を振り回し、前方を薙ぎ払う。
レオンが剣で防御し、さらにフューリトのホーリーヴェールがダメージを吸収したため、傷はない。
「厄介だな。その技、封じさせてもらう──!」
零次の掌底が巨樹に叩き込まれる。手のひらからマテリアルを流し込み、内部から破壊する技、鎧徹しだ。
巨樹の内部が軋む音がする。さらに、今防御に使った枝にソードブレイカーの呪いがかかる。
「これで、脆くなっただろ?」
だが、敵も負けじと、枝を振り下ろす。
頭を守るように零次は機甲拳鎚を掲げる。
「ただではやらせないよー」
再びフューリトのホーリヴェールが枝の拳の前に立ちはだかる。光の障壁は威力を減衰させて砕けた。
だが、それでも巨樹の攻撃は十分な破壊力を持っている。
「くっ──!」
機甲拳鎚を通して、攻撃を受けた振動が零次の体を駆け巡る。重たい打撃で、体を支えている両足が地面にめり込んだ。
「すぐに、回復します!」
めいがフルリカバリーを零次に施した。
今の攻撃でできた傷がみるみる回復していく。
「アルトリウス、前衛は頼みます」
オートソルジャーのアルトリウスの能力はバディフォースにより強化されている。
アルトリウスはドールハンマーを振り回す。その動作を受けて、ハンマーからマテリアル噴射がされて、加速した打撃が巨樹の横っ面を殴りつける。鈍い金属音がする。
巨樹の意識は前方に向かっている。だから忘れていた。背後にいた黒優のことを。
「喰らいつけ、黒優!」
黒優はフェンリルライズでオーラを纏っている。それは大幻獣フェンリルを思わせる威容。命の引き換えに力を解放する技。
黒優の牙が剥き出される。そして、地面を蹴りつけて、巨樹の枝に噛み付いた。黒優の強靭な牙は、樹皮に食い込み、敵を噛みちぎろうとする。
巨樹は体を振って、黒優を振り払おうとするが、深々と突き刺さった牙は容易く抜けるはずもない。結果、巨樹が体を震わせる度に傷は深くなる。そして、ついに黒優が敵の体を食いちぎった。
振り回された黒優は華麗に着地。黒優に食いちぎられた枝もやはり塵になって消えていく。
巨樹が黒優へと振り返ろうとした時、マテリアルを纏った矢が突き刺さった。
イリアスが高加速射撃で放ったものだ。
イリアスはグリューエリンの歌の範囲を出ないように飛び回り、援護射撃を行っていた。装填、移動、攻撃のリズムは崩さない。流れるような動作で、矢を番えていく。
その時、再び巨樹の虚が震えだした。
再度放たれる【虚の声】。景色を塗り替えるような音の振動は全身を打擲されるような感覚がある。
それを打ち消すように響くのはグリューエリンの歌声。
そして、どこか不気味な発射音だった。
【虚の声】が止まった。
それは、巨樹が声を中断したばかりではない。
1発の弾丸が撃ち込まれたからだ。
「このスピーカーは悪くねぇ。しかし、お前らの声はざらついてて、聴き心地の良いもんじゃねぇな」
閻王の盃に搭乗したデスドクロが200mm4連カノン砲で射撃したのだ。
デスドクロはグリューエリンの立っている魔導アーマーの側にいた。
グリューエリン達の護衛であることはもちろんだが、彼女がちゃんと歌えているかを確認するためでもある。グリューエリンを育てると決めたデスドクロならではの行動だろう。
「グリりん、良い調子だ。いいか、今回の仕事は歌うことだ。わざわざ仕事と装備を回してくれたってことは多少なりとも信頼されてるってこった。こういう期待は裏切っちゃいけねぇ」
歌いながらではあるが、グリューエリンもデスドクロの言葉を聴いている。
「歌うのに集中しろ。戦闘は任せておけ。俺様がいるんだぜ? 大丈夫に決まっているだろ?」
歌は途切れることなく、続いている。心なしか、先ほどより力強くなった感じもする。
デスドクロは銃の照準を微調整した。
●戦闘5
めいのプルガトリオによる闇の刃が敵を串刺しにする。[SA]の効果により効果範囲は広く、めいのいる位置からは、2体の巨樹がまとめて攻撃できた。
「ナイス、支援! これで大分楽になったわ!」
クリスはLuctatorを操縦し、集中攻撃されていない方の巨樹を足止めしている。
「僕も援護するよー」
フューリトのシャドウブリットが、クリスが抑えている巨樹に命中する。
クリスのLuctatorも無傷ではない。ところどころ装甲が凹んでいる。
「こっちはまだ持つわ。とっととそっちの奴を撃破しちゃって!」
「はい、わかりました。……今回は、攻めの姿勢、ですよっ」
めいがこくりとクリスの言葉に頷いた。
アルトリウスがドールハンマーで敵を砕いていく。
そして、巨樹が赤く染まった。
「うん、僕は魔法が切れると皆を応援する人になる他ないからね。できれば早く決着をつけたいところだ」
フワがダブルキャストで紡いだファイアーボールとマジックアローだ。
次々に着弾する魔法は威力が高く、巨樹の樹皮を削り取っていく。
フワの魔法攻撃で、大きく巨樹の体が傾いだ。
「ここが決め時、ですね──!」
レオンの剣には魔法剣の効果が乗っている。さらに、レオンが剣を突き出す刹那、ミオが森の宴の狂詩曲で自分の魔法威力を上乗せする。
繰り出される刺突が、巨樹の体に突き立った。
巨樹はざわざわ枝を揺らすと、茂っていた葉を全部落として、だらりと枝を垂らし、傷口から塵になってついにその巨体を消失させた。
●戦闘6
「こっちは終わったわ!」
イリアスがペガサスを操って、クリスの元へ飛んでいく。
「それは良かった。出来るだけのことはしておいたから」
残った巨樹も樹皮がはげている箇所があり、ダメージが累積していることがわかる。
「ふむ、それなりに敵も疲弊しているものと見える。これなら、魔法が尽きないうちに殺しきれそうだ」
フワが魔法を紡ぎ出す。
巨樹がクリスに太い枝を振り下ろす。
が、巨樹の狙いはそれて、勢いあまり前につんのめる。
レオンが、クリスが1番敵に近いと見てかけておいたエンジェルフェザーの効果だ。きっと巨樹はクリスに、Luctatorに、渦巻く羽の幻影を見たのだろう。
「さて、まだまだ動き足りないのよね、私。付き合ってもらうわよ?」
クリスが静かに笑った。
マジックアローが飛来する。エネルギーが爆ぜて、樹皮を傷つけていく。
さらに追い討ちをかけるように、イリアスの矢が鋭く突き刺さる。
そして、巨樹が大きく枝を振り上げた。
「好きにはさせねぇよ」
不気味な射撃音が響き渡り、一直線に飛んできた弾丸が振り上げた巨樹の枝に命中した。デスドクロが放ったものだ。
べきべきと音を立てて枝がもげる。
しかし、巨樹はまた別の枝を振りかぶって零次に向かって斜めに叩きつける。
「遅いな!」
零次は屈んでそれを躱し、地面にめり込んだ枝に向かって下から上に突き上げるように拳を叩き込む。それにはもちろんソードブレイカーの呪いが込められている。
「それ、邪魔ね? 潰させてもらうわ」
今度はクリスのLuctatorが枝を圧し折ろうと、炎のオーラを纏った拳を打ち下ろした。
枝が砕け、塵になって消えていく。
「これで腕の様に振るっていた枝がなくなったわけだけど?」
最後のあがきなのか、ここで巨樹は再び【虚の声】を響かせた。しかしグリューエリンはまだ歌える。BSは次々解除されていく。
「……もう、終わりにしましょう」
めいの瞳の中には覚醒により燐光が煌めいている。星の様な瞬き、同時に朝日の様な輝き。
「あなたもきっと、この森の命だったのでしょう。でも……こうなってしまった以上、退治するしかないんです」
めいの瞳の中には覚醒により燐光が煌めいている。星の様な瞬き、同時に朝日の様な輝き。瞳の中だけでなく彼女の周囲にもきらきらと光が漂う。その燐光が一層強く煌めいた。
「……さようなら」
巨樹の体を、プルガトリオの刃が引き裂いた。
いまや、巨樹は無数の闇の刃に刺し貫かれた奇妙なオブジェとしてそこにあった。
巨樹の体が、刃の傷に従って、バラバラになる。全ては塵に還元されていく。
虚ろな声はこうして途切れた。
ハンターの勝利を確認したグリューエリンは歌を終了した。
グリューエリンが連続して歌えるのは15分間。見事、その間にハンターは巨樹退治を完了した。
巨樹が特製魔導アーマーに近づかない様、上空からの監視、複数の足止めスキルが行使されたために、彼らは無傷だった。
●戦闘の後に
「グリューさん、はいたーっち!」
戦闘が無事終わって、フューリトは、早速グリューエリンに駆け寄った。
「リトさんもご無事でなによりですわ」
グリューエリンはフューリトの手に自分の手を合わせた。
「んー……久しぶりに全力で身体動かすと気持ちいいわぁ……」
Luctatorに乗ったまま、クリスは伸びをした。
「……うん、今度はもっと楽しくなれるときに歌を聞きたいわね」
ペガサスの背を撫でながら、イリアスはそう呟いた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 8人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談用スレッド デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013) 人間(リアルブルー)|34才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/09/21 05:03:18 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/18 12:18:19 |