ゲスト
(ka0000)
【落葉】土の中にも百年
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/24 15:00
- 完成日
- 2018/09/26 10:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●成虫になるため、幼虫はただひたすら耐える
蝉という夏の虫をご存じだろうか。
おそらく知らないという人はいないだろう。リアルブルーではそれくらいポピュラーな虫だ。
種類にもよるが、土の中で三年以上幼虫時代を過ごし、その後地上に出て羽化をして成虫になり、一か月ほど生きる。
昔は成虫になってからの寿命は一週間程度といわれていたが、それは人の飼育環境下での話であり、自然の中ではもっと生きるというのが、現在の定説だ。
このクリムゾンウエストでも蝉と同じ、あるいは蝉に相当する虫はいて、夏になれば元気に大音量を鳴り響かせてくれる。
リアルブルーの蝉よりも長い時間を、土の中で過ごした後で。
●あともう少し
その蝉の幼虫も、卵から孵化してから何年も土の中、木の根元で根に管を刺し、樹液を吸って成長しながら生きていた。
周りには自分と同じ幼虫たちが最初こそたくさんいたものの、ある個体は天敵に襲われて喰われ、ある個体は病気にやられたり、カビが生えたりして死んでいった。
幸運にも天敵に発見されず、病気にも罹患せずにすくすくと成長した蝉の幼虫は、羽化する時が近付いていることを、本能で悟っていた。
同じように、周りには幸運に恵まれた個体が何匹も羽化を待って土の中でじっと耐え続けている。
羽化の間は、ずっと無防備になってしまうため、その間は敵に発見されるわけにはいかない。
故に、羽化をするために地上に出るのはなるべくギリギリまで遅らせ、かつ夜明けまでには飛べるようにしなくてはならない。
彼らは本能から、それに都合がいい時間とタイミングがいつになるのかを悟っている。
しかし、その日が永遠に訪れることはなかった。
何が起きたのか彼らには理解する由もなかったが、土壌にまで達したマテリアル汚染により、雑魔化してしまったのだから。
彼らが住む森は、ラズビルナムと呼ばれていた。
●永遠に羽化できない
それからどれほどの年月が経っただろうか。
雑魔になってからも残っていた習性に従いじっと地中で耐え続けていた彼らは、強いマテリアルの輝きに惹かれて地上へと這い出てきた。
地上は負のマテリアルに汚染され、彼らが本来見るはずだった風景とは大きく違ってしまっている。
彼らがマテリアルの輝きに惹かれたのは、だからかもしれない。
マテリアルの輝きは、大勢の人間から発せられていた。
雑魔である彼らには知る由もなかったが、その人間たちはラズビルナムの浄化を行おうとする一団だった。
彼らは口吻を出し入れする。
あのマテリアルを吸い取って、吸収したいという欲求を覚えていた。
こうして羽化できなくなった蝉の幼虫たちは、雑魔として異形化した姿を晒し、人々へと襲い掛かった。
●ハンターズソサエティ
その日、依頼が一つハンターズソサエティに掲示された。
派遣された浄化チームの一つを襲った雑魔の群れを、退治して欲しいというのが、その依頼の内容だった。
蝉という夏の虫をご存じだろうか。
おそらく知らないという人はいないだろう。リアルブルーではそれくらいポピュラーな虫だ。
種類にもよるが、土の中で三年以上幼虫時代を過ごし、その後地上に出て羽化をして成虫になり、一か月ほど生きる。
昔は成虫になってからの寿命は一週間程度といわれていたが、それは人の飼育環境下での話であり、自然の中ではもっと生きるというのが、現在の定説だ。
このクリムゾンウエストでも蝉と同じ、あるいは蝉に相当する虫はいて、夏になれば元気に大音量を鳴り響かせてくれる。
リアルブルーの蝉よりも長い時間を、土の中で過ごした後で。
●あともう少し
その蝉の幼虫も、卵から孵化してから何年も土の中、木の根元で根に管を刺し、樹液を吸って成長しながら生きていた。
周りには自分と同じ幼虫たちが最初こそたくさんいたものの、ある個体は天敵に襲われて喰われ、ある個体は病気にやられたり、カビが生えたりして死んでいった。
幸運にも天敵に発見されず、病気にも罹患せずにすくすくと成長した蝉の幼虫は、羽化する時が近付いていることを、本能で悟っていた。
同じように、周りには幸運に恵まれた個体が何匹も羽化を待って土の中でじっと耐え続けている。
羽化の間は、ずっと無防備になってしまうため、その間は敵に発見されるわけにはいかない。
故に、羽化をするために地上に出るのはなるべくギリギリまで遅らせ、かつ夜明けまでには飛べるようにしなくてはならない。
彼らは本能から、それに都合がいい時間とタイミングがいつになるのかを悟っている。
しかし、その日が永遠に訪れることはなかった。
何が起きたのか彼らには理解する由もなかったが、土壌にまで達したマテリアル汚染により、雑魔化してしまったのだから。
彼らが住む森は、ラズビルナムと呼ばれていた。
●永遠に羽化できない
それからどれほどの年月が経っただろうか。
雑魔になってからも残っていた習性に従いじっと地中で耐え続けていた彼らは、強いマテリアルの輝きに惹かれて地上へと這い出てきた。
地上は負のマテリアルに汚染され、彼らが本来見るはずだった風景とは大きく違ってしまっている。
彼らがマテリアルの輝きに惹かれたのは、だからかもしれない。
マテリアルの輝きは、大勢の人間から発せられていた。
雑魔である彼らには知る由もなかったが、その人間たちはラズビルナムの浄化を行おうとする一団だった。
彼らは口吻を出し入れする。
あのマテリアルを吸い取って、吸収したいという欲求を覚えていた。
こうして羽化できなくなった蝉の幼虫たちは、雑魔として異形化した姿を晒し、人々へと襲い掛かった。
●ハンターズソサエティ
その日、依頼が一つハンターズソサエティに掲示された。
派遣された浄化チームの一つを襲った雑魔の群れを、退治して欲しいというのが、その依頼の内容だった。
リプレイ本文
●戦闘開始前
一人急用で来られなかったが、最終的に七人のハンターたちが集まった。
エクラ教徒として歪虚を滅するため、シレークス(ka0752)は憐憫の情を胸に、だが、断固たる決意とともに標的を撃滅するべく行動を開始した。
「憐れに思いますが、これ以上、てめぇらを見過ごすことはできねぇです。全力でお前達を滅ぼします。光よ、憐れみたまえ。……さぁて、いっちょやってみますですか!」
ルカ(ka0962)は魔導スマートフォンの通話悪化状況から敵の接近感知を試みたが、重汚染地帯だからか特定するのは難しいようだ。
「懐かしいですね……空き地の土を掘ると出てきた蛾の幼虫さんを思い出します……。ですが今回は歪虚になってしまった哀れな蝉の幼虫さんです……せめてその魂が浄化され次へと飛びたてますように……」
「蝉かあ。私が鳴き声を聞くことになったのはクリムゾンウェストに来てからだけど、あれすごい音するよね。幼虫は土の中で長い時間をかけて、地上に出てくるんだ」
皆には内緒だが、少し、リアルブルーで居た狭い世界からクリムゾンウェストに出てきた自分も、羽化した蝉みたいだと思う夢路 まよい(ka1328)だった。
「ラズビルナムですか。危険地帯という情報は聞いていましたが、護衛付きの浄化チームが全滅するとなると、油断すると私たちも危ないですね」
呟きながら、エルバッハ・リオン(ka2434)は、気を引き締める。
味方が木々を倒して物音を立て囮となってくれる予定なので、エルバッハは姿を見せた雑魔を狙い撃つつもりだ。
「本来なら地上に羽ばたく為に眠っていただろうに……。不憫ではあるが、こうなった以上はせめて安らかに眠らせてやろう」
他の仲間達と共に地上で敵を待ち構えるレイア・アローネ(ka4082)は、防御を固め、倒すよりは誘き出して上空に備える仲間と連携する形を取る。
ただし狙える敵は積極的に潰していくつもりだ。
「……空を舞うことが叶わなかった哀れな蝉たち、確かに人の命を奪ったことは許されることではない。……しかし、その哀れな運命から解き放ち、せめて魂だけでも空を舞わせてやろう」
蝉の幼虫型雑魔を全滅させ、魂だけでも空を舞わせるため、南護 炎(ka6651)の呼びかけで一同は今回の作戦について、打ち合わせを始めた。
「……汚染がなければ、綺麗な森になっていたんでしょうか」
打ち合わせの最中、森も敵も、本来はどんな姿であるべきだったのか、どうしても考えてしまう蓬(ka7311)は、自分たちが障害を取り除くことで、浄化作戦がうまく成功してくれればいいと思っている。
囮を引き受けてくれる味方の援護に徹し、可能な限り空中で戦うことになるだろう。
やがて打ち合わせが終わり、方針が決まった。
ハンターたちが各々行動を始める。
さあ、依頼の始まりだ!
●地上で蝉幼虫雑魔を引き付けよ!
打ち合わせでは、最初は見晴らしを良くするために森の木々を斬り開き、戦いやすくするとともにその際の物音で蝉幼虫型雑魔を引き寄せることになっている。
炎は聖罰刃を構えると、生物無機物敵味方全て等しく斬断する空間斬撃を繰り出し、森の木々を斬り払った。
聖罰刃が振るわれるたびに、横一文字に両断された木々が、ゆっくりと傾いでいき大きな物音を立てて転がる。
すると、土の中から予想通り蝉幼虫雑魔が現れ炎を始めとするハンターたちに襲い掛かってきた。
口吻を突き刺そうとしてくるのを、ある者は回避し、ある者は盾や鎧などの防具で受け止めて難を逃れる。
「行くぞ!! 雑魔の魂を解放する!!」
防御を捨て大上段に構えることで、攻撃力を高め機先を制する構えを取った炎は、精神を研ぎ澄まし、肉体を加速させ蝉幼虫型雑魔の懐に飛び込み、極めて回避が困難な神速の一撃を放った。
飛び込んだ先、自身の周辺二十メートル以内にいた蝉幼虫雑魔たちが、体液を巻き散らして絶命する。
「哀れな蝉たち、せめて魂だけでも空を自由に舞ってくれ……」
いや、絶命という表現は正しくない。
彼らは雑魔で、雑魔とは歪虚だ。そして歪虚は、元々死んでいるようなものなのだから。
そして蝉幼虫雑魔は地面に伝わる音に敏感だ。
人の足音など、わずかなものでも聞きつけて地中から忍び寄ってくる。
しかしそれ以上に好むのが、人間たちが持つ生体マテリアル反応だ。
先の炎の働きは、蝉幼虫雑魔をおびき寄せる策として申し分なかった。
そして、用意されている策は炎のものだけではない。
シレークスは他の囮役の仲間とは、やや離れた位置に陣取ると、体内のマテリアルを燃やし、炎のようなオーラを纏った。
周囲の注目を引き付けんとまばゆく輝くシレークスのオーラは、地面から顔を覗かせた蝉幼虫雑魔たちの目を奪う。
先に襲った浄化チーム以上のオーラの煌きに、まるで吸い寄せられる蛾のように現れた蝉幼虫雑魔たちが群がっていく。
「此方にも来やがりましたですよっ! あぁ~もう、こういう系統の敵は苦手でやがります! 砕け散りやがれです!!」
蝉幼虫雑魔の接近に対し、シレークスは強く踏み込むことで、次の打撃の威力を上昇させるとともにその動作を包囲回避に用い、魔導円匙にマテリアルを溜めた状態で振り抜くことで衝撃波を発生させ、その勢いを利用しシレークスを見失った蝉幼虫雑魔たちに対し攻撃を行った。
地上で敵を待ち構えていたのは、炎とシレークスだけではない。
レイアも他の仲間達と同じく、地上で敵を待ち構えている。
それぞれ能動的に蝉幼虫雑魔を引き付けた炎とシレークスに比べれば、レイアに向かってくる数は少ない。
「……とはいえ決して侮っていい数ではないな」
多くの蝉幼虫が雑魔に変じている。
これらとて、その一端に過ぎないのだ。
攻撃を捨てた守りに適した構えを取るレイアは、静かに蝉幼虫雑魔たちの動きを観察する。
まだ空に飛び立っていない後衛の仲間たちに攻撃しようとする個体に対し、自身の周囲にマテリアルを漲らせ、感覚を空間に拡張させることで一種の結界を形成し、攻撃のベクトルを捻じ曲げ、強制的に自分に向かって攻撃を引き寄せた。
条理を無視した角度から襲ってくる口吻を、レイアは攻撃を受ける直前に身を動かし、鎧の特に頑丈な部分に当てて受け流す。
倒すよりは誘き出して上空に備える仲間たちと連携する形を狙っている。
「だが、狙える敵をあえて見逃したりはせんぞ!」
自身の生体マテリアルを伝達し、強化した魔導剣にさらにマテリアルを溜め込み、攻撃してきた蝉幼虫雑魔に対し発生させた衝撃波を叩き込んだ。
●空からの掃討戦
炎、シレークス、レイアが立てる戦闘音は、次々と蝉幼虫雑魔を引き寄せ戦いへと駆り立てていった。
「三人とも、良い働きですね」
エルバッハは今の内に戦闘音に引かれて姿を見せた雑魔を狙い撃つべきだと考え、自分が出した戦闘音に雑魔が反応して寄ってこないよう、フライングスレッドに乗って空へ舞い上がった。
鬱蒼としたラズビルナムという森の中では、これで移動することこそ難しかったが、飛ぶこと自体は問題ない。
本来飛行の障害となる木々は、名護があらかた斬り払ってくれたので、飛ぶことに支障がない程度のスペースを確保できた。
自前で飛行魔法も使えるので、仮にフライングスレッドが使えずとも問題なかっただろうが。
飛行しながら、エルバッハは軍用双眼鏡で空中から地上の様子を監視する。
炎、シレークス、レイアの三人とも囮としてよく振舞っている。
蝉幼虫雑魔たちは完全に彼女たちしか見えておらず、エルバッハに気付いていない。
好機だ。
「グラビティフォールも、ブリザードも、誰か巻き込んでしまいそうです。……ならば、これで」
エルバッハが投げ上げた符が空中で稲妻と化し、蝉幼虫雑魔三体をまとめて貫いた。
敵は地中に潜り足元から攻撃してくる奇襲戦法を多用してくるが、それは裏を返せば空中にいる敵に対する攻撃手段にはなり得ないということでもある。
自分の杖に飛行魔法をかけて、土の中からの奇襲が届かない程度の上空まで舞い上がったまよいは、移動は維持して墜落を防ぎつつ、次の行動に移る。
「思った通り。空は安全だね。今のところは、だけど」
地上で戦う炎、シレークス、レイアの戦闘音や、エルバッハが放つ符によって生じた雷の轟音により、土の中から姿を現す蝉幼虫雑魔たちに向け、魔法の矢を五本生成し解き放つ。
飛翔する魔法の矢は、全て過たず蝉幼虫雑魔の身体に突き刺さり、貫通して地面に突き立ちその形を消していく。
魔法の矢が当たった蝉幼虫雑魔たちは体液を巻き散らしてのたうち、やがてその姿をゆっくりと崩れさせていった。
雑魔の常として、これもきっと塵となって消え去るのだろう。
「皆が傷つかないようにするのは勿論、あの口吻で攻撃されたら厄介そうだし、可能な範囲で防がないとね」
まよいは地上で戦う炎、シレークス、レイアたちの周りに緑に輝く風を送り、攻撃の機動をわずかにそらす形で回避力を上昇させた。
蝉雑魔が現れてすぐ、ルカは魔箒で浮上し奇襲の回避と地上の警戒を行っていた。
炎が木々を薙ぎ払ってくれたことで見通しが良くなり、同時に飛行もしやすくなっている。
一時避難用に登れる樹々を残して欲しいと打ち合わせの時に頼んでおいたので、ある程度の高さの木が残っている。
木と木の間にロープを張ってみたり、神楽鈴での誘導も考えていたが、地上の状況を見るに必要はなさそうだ。
囮となっている炎、シレークス、レイアの治療と支援が即座に出来る距離に高度を調整して飛行する。
「残してもらったのが、さっそく役に立ちますね……」
ルカは木の上に降り立ち、AWIを浮遊させた。
「援護攻撃いたします……! 地上の方々巻き込みにご注意ください……!」
狙い撃てる魔法ではあるものの、一応念のために炎、シレークス、レイアの三人に退避を促しつつ無数の闇の刃を作り出し、地上の蝉幼虫雑魔の群れ目掛け発射する。
降り注ぐ漆黒の刃が、蝉幼虫雑魔たちを串刺しにしていった。
蝉幼虫雑魔たちは動けない。
回復魔法もいつでも使えるよう複数準備してきているが、味方の奮戦が素晴らしく、本格使用するのは戦闘終了後になりそうだった。
魔箒を使用して、敵の攻撃が届かない程度の低空飛行状態を維持しながら、蓬は炎、シレークス、レイアの三人に攻撃を仕掛ける個体を優先目標として射撃し、敵の頭数を減らすことを試み囮役を援護していた。
時には炎が残した木々のうち太い枝などを足場に選び、安定した姿勢で敵への射撃を継続する。
蝉幼虫雑魔たちは鈍重そうな見た目だが、雑魔といえど木々を登って射手を狙ったり、地中に再度潜り味方前衛の背後に回り込んできたりと奇襲をかけてくるとも限らない。
危険性を考え、怪しい動きは随時、味方に伝えようと、蓬は蝉幼虫雑魔たちを注視しながら、攻撃を行う。
「……撃ち抜きます」
マテリアルを構えた短筒に込めて射撃の精度を高め、限界射程を超えた一撃を放つ。
しかし今回のこれは射程を伸ばすというより、確実な命中を期待して命中精度を上昇させるのが狙いだ。
元より、通常の射撃でも十分届く距離に、蝉幼虫雑魔はわらわらいるのだから。
マテリアルを込めた瞳で蝉幼虫雑魔を捕らえ、装填を行い、なるべく敵への射撃を途切れさせないよう継続的に銃撃を続け、蓬は多少の危険は度外視し味方への援護射撃に専念した。
●戦闘終了
蝉幼虫雑魔たちの最後の一匹が倒れ、消滅していく。
殲滅を終えたので、シレークスは今回犠牲になった浄化チームにエクラ教として鎮魂の祈りを捧げる。
ルカは傷付いた仲間たちの治療を始めた。消耗が激しくて治療し切れないということはなさそうだ。直に全員癒し終えるだろう。
比較的損害軽微で、それもルカの治療により完治したエルバッハが、他の人員の治療を待つ時間を活用し浄化チームの遺品を回収する。
まよい、炎、レイア、蓬の四人は、一足先にラズビルナムから撤退する準備を始めた。
ラズビルナムが重汚染地域である以上、帰り道も安全というわけではなく、浄化済みの場所でない限り高確率で雑魔の襲撃が予想されるが、それは今この場で語ることではない。
どの道彼らならば、特に苦戦することなく撃退し、悠々と立ち去ることだろう。
誰もいなくなったラズビルナムは、再び陰鬱な気配を放つ森としての雰囲気を取り戻した。
一人急用で来られなかったが、最終的に七人のハンターたちが集まった。
エクラ教徒として歪虚を滅するため、シレークス(ka0752)は憐憫の情を胸に、だが、断固たる決意とともに標的を撃滅するべく行動を開始した。
「憐れに思いますが、これ以上、てめぇらを見過ごすことはできねぇです。全力でお前達を滅ぼします。光よ、憐れみたまえ。……さぁて、いっちょやってみますですか!」
ルカ(ka0962)は魔導スマートフォンの通話悪化状況から敵の接近感知を試みたが、重汚染地帯だからか特定するのは難しいようだ。
「懐かしいですね……空き地の土を掘ると出てきた蛾の幼虫さんを思い出します……。ですが今回は歪虚になってしまった哀れな蝉の幼虫さんです……せめてその魂が浄化され次へと飛びたてますように……」
「蝉かあ。私が鳴き声を聞くことになったのはクリムゾンウェストに来てからだけど、あれすごい音するよね。幼虫は土の中で長い時間をかけて、地上に出てくるんだ」
皆には内緒だが、少し、リアルブルーで居た狭い世界からクリムゾンウェストに出てきた自分も、羽化した蝉みたいだと思う夢路 まよい(ka1328)だった。
「ラズビルナムですか。危険地帯という情報は聞いていましたが、護衛付きの浄化チームが全滅するとなると、油断すると私たちも危ないですね」
呟きながら、エルバッハ・リオン(ka2434)は、気を引き締める。
味方が木々を倒して物音を立て囮となってくれる予定なので、エルバッハは姿を見せた雑魔を狙い撃つつもりだ。
「本来なら地上に羽ばたく為に眠っていただろうに……。不憫ではあるが、こうなった以上はせめて安らかに眠らせてやろう」
他の仲間達と共に地上で敵を待ち構えるレイア・アローネ(ka4082)は、防御を固め、倒すよりは誘き出して上空に備える仲間と連携する形を取る。
ただし狙える敵は積極的に潰していくつもりだ。
「……空を舞うことが叶わなかった哀れな蝉たち、確かに人の命を奪ったことは許されることではない。……しかし、その哀れな運命から解き放ち、せめて魂だけでも空を舞わせてやろう」
蝉の幼虫型雑魔を全滅させ、魂だけでも空を舞わせるため、南護 炎(ka6651)の呼びかけで一同は今回の作戦について、打ち合わせを始めた。
「……汚染がなければ、綺麗な森になっていたんでしょうか」
打ち合わせの最中、森も敵も、本来はどんな姿であるべきだったのか、どうしても考えてしまう蓬(ka7311)は、自分たちが障害を取り除くことで、浄化作戦がうまく成功してくれればいいと思っている。
囮を引き受けてくれる味方の援護に徹し、可能な限り空中で戦うことになるだろう。
やがて打ち合わせが終わり、方針が決まった。
ハンターたちが各々行動を始める。
さあ、依頼の始まりだ!
●地上で蝉幼虫雑魔を引き付けよ!
打ち合わせでは、最初は見晴らしを良くするために森の木々を斬り開き、戦いやすくするとともにその際の物音で蝉幼虫型雑魔を引き寄せることになっている。
炎は聖罰刃を構えると、生物無機物敵味方全て等しく斬断する空間斬撃を繰り出し、森の木々を斬り払った。
聖罰刃が振るわれるたびに、横一文字に両断された木々が、ゆっくりと傾いでいき大きな物音を立てて転がる。
すると、土の中から予想通り蝉幼虫雑魔が現れ炎を始めとするハンターたちに襲い掛かってきた。
口吻を突き刺そうとしてくるのを、ある者は回避し、ある者は盾や鎧などの防具で受け止めて難を逃れる。
「行くぞ!! 雑魔の魂を解放する!!」
防御を捨て大上段に構えることで、攻撃力を高め機先を制する構えを取った炎は、精神を研ぎ澄まし、肉体を加速させ蝉幼虫型雑魔の懐に飛び込み、極めて回避が困難な神速の一撃を放った。
飛び込んだ先、自身の周辺二十メートル以内にいた蝉幼虫雑魔たちが、体液を巻き散らして絶命する。
「哀れな蝉たち、せめて魂だけでも空を自由に舞ってくれ……」
いや、絶命という表現は正しくない。
彼らは雑魔で、雑魔とは歪虚だ。そして歪虚は、元々死んでいるようなものなのだから。
そして蝉幼虫雑魔は地面に伝わる音に敏感だ。
人の足音など、わずかなものでも聞きつけて地中から忍び寄ってくる。
しかしそれ以上に好むのが、人間たちが持つ生体マテリアル反応だ。
先の炎の働きは、蝉幼虫雑魔をおびき寄せる策として申し分なかった。
そして、用意されている策は炎のものだけではない。
シレークスは他の囮役の仲間とは、やや離れた位置に陣取ると、体内のマテリアルを燃やし、炎のようなオーラを纏った。
周囲の注目を引き付けんとまばゆく輝くシレークスのオーラは、地面から顔を覗かせた蝉幼虫雑魔たちの目を奪う。
先に襲った浄化チーム以上のオーラの煌きに、まるで吸い寄せられる蛾のように現れた蝉幼虫雑魔たちが群がっていく。
「此方にも来やがりましたですよっ! あぁ~もう、こういう系統の敵は苦手でやがります! 砕け散りやがれです!!」
蝉幼虫雑魔の接近に対し、シレークスは強く踏み込むことで、次の打撃の威力を上昇させるとともにその動作を包囲回避に用い、魔導円匙にマテリアルを溜めた状態で振り抜くことで衝撃波を発生させ、その勢いを利用しシレークスを見失った蝉幼虫雑魔たちに対し攻撃を行った。
地上で敵を待ち構えていたのは、炎とシレークスだけではない。
レイアも他の仲間達と同じく、地上で敵を待ち構えている。
それぞれ能動的に蝉幼虫雑魔を引き付けた炎とシレークスに比べれば、レイアに向かってくる数は少ない。
「……とはいえ決して侮っていい数ではないな」
多くの蝉幼虫が雑魔に変じている。
これらとて、その一端に過ぎないのだ。
攻撃を捨てた守りに適した構えを取るレイアは、静かに蝉幼虫雑魔たちの動きを観察する。
まだ空に飛び立っていない後衛の仲間たちに攻撃しようとする個体に対し、自身の周囲にマテリアルを漲らせ、感覚を空間に拡張させることで一種の結界を形成し、攻撃のベクトルを捻じ曲げ、強制的に自分に向かって攻撃を引き寄せた。
条理を無視した角度から襲ってくる口吻を、レイアは攻撃を受ける直前に身を動かし、鎧の特に頑丈な部分に当てて受け流す。
倒すよりは誘き出して上空に備える仲間たちと連携する形を狙っている。
「だが、狙える敵をあえて見逃したりはせんぞ!」
自身の生体マテリアルを伝達し、強化した魔導剣にさらにマテリアルを溜め込み、攻撃してきた蝉幼虫雑魔に対し発生させた衝撃波を叩き込んだ。
●空からの掃討戦
炎、シレークス、レイアが立てる戦闘音は、次々と蝉幼虫雑魔を引き寄せ戦いへと駆り立てていった。
「三人とも、良い働きですね」
エルバッハは今の内に戦闘音に引かれて姿を見せた雑魔を狙い撃つべきだと考え、自分が出した戦闘音に雑魔が反応して寄ってこないよう、フライングスレッドに乗って空へ舞い上がった。
鬱蒼としたラズビルナムという森の中では、これで移動することこそ難しかったが、飛ぶこと自体は問題ない。
本来飛行の障害となる木々は、名護があらかた斬り払ってくれたので、飛ぶことに支障がない程度のスペースを確保できた。
自前で飛行魔法も使えるので、仮にフライングスレッドが使えずとも問題なかっただろうが。
飛行しながら、エルバッハは軍用双眼鏡で空中から地上の様子を監視する。
炎、シレークス、レイアの三人とも囮としてよく振舞っている。
蝉幼虫雑魔たちは完全に彼女たちしか見えておらず、エルバッハに気付いていない。
好機だ。
「グラビティフォールも、ブリザードも、誰か巻き込んでしまいそうです。……ならば、これで」
エルバッハが投げ上げた符が空中で稲妻と化し、蝉幼虫雑魔三体をまとめて貫いた。
敵は地中に潜り足元から攻撃してくる奇襲戦法を多用してくるが、それは裏を返せば空中にいる敵に対する攻撃手段にはなり得ないということでもある。
自分の杖に飛行魔法をかけて、土の中からの奇襲が届かない程度の上空まで舞い上がったまよいは、移動は維持して墜落を防ぎつつ、次の行動に移る。
「思った通り。空は安全だね。今のところは、だけど」
地上で戦う炎、シレークス、レイアの戦闘音や、エルバッハが放つ符によって生じた雷の轟音により、土の中から姿を現す蝉幼虫雑魔たちに向け、魔法の矢を五本生成し解き放つ。
飛翔する魔法の矢は、全て過たず蝉幼虫雑魔の身体に突き刺さり、貫通して地面に突き立ちその形を消していく。
魔法の矢が当たった蝉幼虫雑魔たちは体液を巻き散らしてのたうち、やがてその姿をゆっくりと崩れさせていった。
雑魔の常として、これもきっと塵となって消え去るのだろう。
「皆が傷つかないようにするのは勿論、あの口吻で攻撃されたら厄介そうだし、可能な範囲で防がないとね」
まよいは地上で戦う炎、シレークス、レイアたちの周りに緑に輝く風を送り、攻撃の機動をわずかにそらす形で回避力を上昇させた。
蝉雑魔が現れてすぐ、ルカは魔箒で浮上し奇襲の回避と地上の警戒を行っていた。
炎が木々を薙ぎ払ってくれたことで見通しが良くなり、同時に飛行もしやすくなっている。
一時避難用に登れる樹々を残して欲しいと打ち合わせの時に頼んでおいたので、ある程度の高さの木が残っている。
木と木の間にロープを張ってみたり、神楽鈴での誘導も考えていたが、地上の状況を見るに必要はなさそうだ。
囮となっている炎、シレークス、レイアの治療と支援が即座に出来る距離に高度を調整して飛行する。
「残してもらったのが、さっそく役に立ちますね……」
ルカは木の上に降り立ち、AWIを浮遊させた。
「援護攻撃いたします……! 地上の方々巻き込みにご注意ください……!」
狙い撃てる魔法ではあるものの、一応念のために炎、シレークス、レイアの三人に退避を促しつつ無数の闇の刃を作り出し、地上の蝉幼虫雑魔の群れ目掛け発射する。
降り注ぐ漆黒の刃が、蝉幼虫雑魔たちを串刺しにしていった。
蝉幼虫雑魔たちは動けない。
回復魔法もいつでも使えるよう複数準備してきているが、味方の奮戦が素晴らしく、本格使用するのは戦闘終了後になりそうだった。
魔箒を使用して、敵の攻撃が届かない程度の低空飛行状態を維持しながら、蓬は炎、シレークス、レイアの三人に攻撃を仕掛ける個体を優先目標として射撃し、敵の頭数を減らすことを試み囮役を援護していた。
時には炎が残した木々のうち太い枝などを足場に選び、安定した姿勢で敵への射撃を継続する。
蝉幼虫雑魔たちは鈍重そうな見た目だが、雑魔といえど木々を登って射手を狙ったり、地中に再度潜り味方前衛の背後に回り込んできたりと奇襲をかけてくるとも限らない。
危険性を考え、怪しい動きは随時、味方に伝えようと、蓬は蝉幼虫雑魔たちを注視しながら、攻撃を行う。
「……撃ち抜きます」
マテリアルを構えた短筒に込めて射撃の精度を高め、限界射程を超えた一撃を放つ。
しかし今回のこれは射程を伸ばすというより、確実な命中を期待して命中精度を上昇させるのが狙いだ。
元より、通常の射撃でも十分届く距離に、蝉幼虫雑魔はわらわらいるのだから。
マテリアルを込めた瞳で蝉幼虫雑魔を捕らえ、装填を行い、なるべく敵への射撃を途切れさせないよう継続的に銃撃を続け、蓬は多少の危険は度外視し味方への援護射撃に専念した。
●戦闘終了
蝉幼虫雑魔たちの最後の一匹が倒れ、消滅していく。
殲滅を終えたので、シレークスは今回犠牲になった浄化チームにエクラ教として鎮魂の祈りを捧げる。
ルカは傷付いた仲間たちの治療を始めた。消耗が激しくて治療し切れないということはなさそうだ。直に全員癒し終えるだろう。
比較的損害軽微で、それもルカの治療により完治したエルバッハが、他の人員の治療を待つ時間を活用し浄化チームの遺品を回収する。
まよい、炎、レイア、蓬の四人は、一足先にラズビルナムから撤退する準備を始めた。
ラズビルナムが重汚染地域である以上、帰り道も安全というわけではなく、浄化済みの場所でない限り高確率で雑魔の襲撃が予想されるが、それは今この場で語ることではない。
どの道彼らならば、特に苦戦することなく撃退し、悠々と立ち去ることだろう。
誰もいなくなったラズビルナムは、再び陰鬱な気配を放つ森としての雰囲気を取り戻した。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/09/24 10:42:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/23 19:06:20 |