王都第七街区 反撃

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/09/23 07:30
完成日
2018/09/30 21:27

みんなの思い出

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オープニング

 王都第六城壁の戦いの余波で大きな被害を出した第七街区『ドゥブレー地区』── その自治を担う「地域の実力者」ドニ・ドゥブレーは、未だ精彩を欠いているように見えた。
 バラックからの奇跡の発展。そして、戦災による再破壊── 『酒に溺れ、正体を無くした』ドニに、街の人々は失望した。更にドニの部下であるドゥブレー一家の警邏が覆面を被った謎の襲撃者たちに路地裏などで襲われる事件が頻発すると、『武力によって保たれて来た』一家の権威も『完全に地に落ちた』。
「もうドニの旦那たちには頼っちゃいられねぇ…… 自分たちのことは自分たちで何とかするっきゃねえ!」
 街が最も困難な時期に『動かない』ドニに『失望し、見切りをつけた』人々は、商店街ごと、町内会ごとに、自ら自警団を組織した。そんな人々に対して、ノーサム商会の地区担当「番頭」ジャック・ウェラーは積極的な支援を申し出た。
「必要な物があれば何でも申し付けください。我がノーサム商会が無償で用立てて差し上げます」
 他と同様に自警団を組織した裏通り商店街の町会長トトムの元にも、ジャック自らが赴いて来て、そう言った。
 裏通り商店街は、この第七街区ドゥブレー地区で最も早く商売を始めた地元の商人たちだった。後になって王都から進出して来たノーサム商会ら「表通り」の商人たちとは商売敵の関係にあり、また、ドゥブレー一家にとっては、王都の復興担当官から自治を委任される前から続く最大の支持母体でもあった。
 だが……
「すまねぇ。恩に着る……」
「いえいえ! 私どもと致しましても、地区の治安の悪化は商売上、死活問題ですから! それに、以前から裏通り商店街の方々とは誼を通じたいと思っておりました」

 その日、幾つもの自警団を訪れ、支援を約して事務所に戻ったジャックは、執務室に入るや「ククク……」と喉を鳴らし…… やがて、誰に憚ることなく哄笑した。
「やりましたね。遂にドゥブレー一家最大の支援団体の切り崩しに成功しました!」
「ああ、ああ! まさかこんなに上手く、私の思う通りに事が進むとは!」
 部下の言葉に大仰に二度頷きながら、ジャックは芝居かかった動きで天を──その実、自分を──称えるように大きく仰いだ。
 ノーサム商会は、地区に進出した第五・第六街区の新興商人たちで作った「商人連合」の筆頭である。だが、それとは別に、地区の商売の独占を密かに狙って暗躍してきた。
 王女の縁談騒動の時には、貴族派の陰謀に見て見ぬふりをし、彼らが持ち込んだ大量の武器を隠れて預かったりもした。その陰謀が実行の機会も無く破綻するや、今度は一転、その表には出せぬ武器類を「押収」──無断で頂戴し、乱立する自警団に恩を売るべく、それを彼らに配って回った。地区には王女の縁談騒動に際して地方から大勢の「王女支持派」が流入して来ていたが、被災し、宿を焼け出され、手持ちの財産を失って故郷に帰ることもできなくなった彼らに金を渡して、ドゥブレー一家の警邏を襲わせていたのも彼だった。
「あのドニが……忌々しいあの男がようやくこちらに見せた隙だ。このまま一気に奴を引きずり降ろすぞ」
 そして、自分たちの息のかかった者を地区の自治担当者に任命させる。その為の復興担当官(確か、ルパートとか言ったか?)への根回しは既に済ませていた。後はドニを合法的に排除してしまえばいい。……いや。元々法治など無きに等しい第七街区だ。流れは作った。多少強引な手法であっても、今なら取り得るのではないか? 一家に恨みを持つ者の──例えば、かつてドニにシマを奪われたノエル・ネトルシップが、弱体化したドニを襲ったと見せかける、或いはそう噂を流すという方法は……
 今まさにそう部下に手配をさせようとしたジャックは、だが、執務室の扉を叩く音によってそれを遮られた。苛立たし気に許可を与えると、別の部下が恐る恐るといった風に、トレイに手紙の束を持って入って来た。
「あの……」
「何だ!」
「か、会長からのお手紙が、その……」
 会長という単語にビクリと反応し、ジャックは束の一番上に置かれていた手紙をひったくるように取り、それを広げた。
 つらつらと書かれた長文の最後に、ただ一言、「急いては事を仕損じる」とだけ追伸が記されていた。
 それを目にした瞬間、ジャックはゾッとし、背を汗に濡らした。今回の一連のドニ追い落としの件は全て、上には報せずに独断で行ってきたことだったからだ。
 同時に、カッと怒りに赤くなった。──あの男は……会長は、端から俺が失敗すると思ってやがるのか……?
 グシャリ、と手紙が握り潰された。ジャックはそれをデスクの上に放ると、部下に向かって命を発した。
「決行だ。かねてよりの計画に従い、無宿者どもにドニの事務所を襲撃させろ」


「ボス、お休みのところ、すいやせん。トトム町会長から伝令が来ました。武器を手にした男どもが大挙してこちらに向かっていると……」
 草木も眠る丑三つ時── 酒袋を手に寝台に仰臥して寝ていたドニが、腹心アンドルーの報告に、酔っ払いとは思えぬ素面な顔で身を起こした。
「動いたか…… 数は?」
「不明です。しかし、この事務所を落とそうと言うんです。半端な数ではないでしょう」
 ドニは衣服を整えることなく寝室を出た。元より彼はいつでも戦闘ができるように準備をしていた。
 玄関を抜け、庭に出る。そこには揃い制服の上に完全武装を整えた20人ばかしの部下の整列した姿があった。その全員が小銃で武装していた。刻まれた刻印は「リベルタスフィールドM1018」──ノーサム協会によって各地の自警団に配られ、そして、「彼らからドニに提供された」銃だった。
「さて、お前たち…… 楽しい楽しい乱痴気騒ぎの日々も今日で終いだ。酒に溺れて見せた甲斐もあって、馬鹿どもが内に攻めてくる」
 ……ドニは『酒に溺れ、正体を無くすような日々』を送ってはいなかった。『治安の悪化』は表面上の事。裏ではきっちりシメていたし、『賄賂』に関しても、そういう噂がノーサム商会の耳に入るよう、トトムらに協力してもらっただけだ。
 彼らが演じて見せたていたらくは全て、地区の商売の独占をもくろむノーサム商会の尻尾を掴む為の見せかけだった。これまでの商会が行ってきた企みは全てドニとハンターたちとで叩き潰してはいたものの、直接の証拠は何も残されてはいなかった為、商会の仕業と分かってはいても釘を刺す程度のことしかできなかった。
 だが、今回こそは違う。商会は──ジャックは一気に片を付けに来た。
 ドニはハンターたちを振り返り、冗談めかした表情でこう言った。
「では、先生方。せいぜい派手に『敗けて見せる』としましょうか」

リプレイ本文

「おう、派手にやるのは得意なのです! このシスターシレークスにどーんと任せ……」
 ドニに檄に不敵な笑みで応じ、己の拳を手の平に叩きつけたシレークス(ka0752)は…… 遅ればせながら『負けて見せる』という言葉に気付き、「え?」とドニを振り返った。
「……え?」
 思わず二度見した。そんなシレークスに苦笑しつつ、ドニは改めて己の意図をハンターたちに説明する。
「ジャックにまた逃げられても埒が明かねぇからな。今度こそ言質を取る。決着がついたとなりゃあ、あのガキは絶対、俺の前に姿を現す。直接、勝ち誇って見せる為にな」
「……なるほど。敗北を装い、相手を良い気にさせることで相手の口に油を注し、口を滑らせ易くする、と」
「……何とも面倒臭ェ話に乗っかっちまったモンだぜ。旦那の相談でなけりゃァ蹴ってるところさ」
 それぞれの表情でアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)と『ドゥブレー一家の食客』J・D(ka3351)。その後ろで金目(ka6190)は一人、帰るタイミングを逃してしまった、と、内心で頭を抱えた。……先日以降、『飲んだくれの演技を続ける』ドニに付き合い、ご相伴に預かっていたのが裏目に出たか。
「ドニさん、『飲んだくれてる』って聞いて心配したけど…… 敵を騙して、ボスを誘い出す作戦かあ……カッコいいね!」
 何か純粋に瞳をキラキラさせて見上げてくるシアーシャ(ka2507)に、ドニはゴホンと咳込んだ。前回、いい歳をしたおっさんが年端も行かない(?)少女の前でさめざめ泣いてしまったという事実は、酒が入っていたと言えど中々にこっぱずい。
「しかし、『派手に敗ける』ねえ…… さて、どう捌いたモンだか。マァ、見える所で〆るのが御法度ってェんなら、隠れた所で〆るしかあるめえが」
「敗勢を装って後退しつつ、外から見えない所で敵の数を減らしていくしかないでしょうね。もっとも、勝勢に乗った敵というのは手強いものです。撒き餌ごと腕をガブリといかれぬよう注意しないと」
 J・Dと共に作戦を立てていく『戦神の神官』アデリシア。その横でシアーシャがギュッと両の拳を握って見せる。
「よーし、あたしもドニさんの力になれるように、がんばるよ!」
(ドニの為に、か……)
 金目も、乗り掛かった舟か、と覚悟を決めた。彼自身、ドニは好感が持てる人物だと思えるし、何より、自分と違って『100を救える』視点と立場で行動できる人間でもある。

「怪我の具合はどうですか、サクラ?」
 皆が迎撃の準備に忙しく動き回る中── シレークスは時間を見つけて、事務所の奥の一室で寝台に横たわったサクラ・エルフリード(ka2598)を見舞った。
 サクラは昨日、一家の若手たちと共に街を巡回している最中、恐らくはジャックに雇われたと思しき覆面の男たちの襲撃を受け、皆を守って大怪我を負っていた。
 友人の迎えるべく寝台の上に身を起こしたサクラは……シレークスの恰好を見て思わずブッと噴き出した。シレークスは変装し、既に役に入り込んでいた。非力で、小柄で、清楚で、虫も殺さぬような──つまり、いつもとは真逆の存在に。
「サクラ、怪我人のおめーはここで大人しくしているです。……野郎ども。後でご褒美くれてやるから、サクラのことは頼みやがりますですよ?」
 一瞬だけ素に戻り、回復役兼護衛を務めるクルス(ka3922)とドニの部下らに頭を下げるシレークス。
「まともに戦うのは厳しいですが…… 支援くらいは出来ますし、頑張りますね」
 そんな友人の姿に口元を綻ばせつつ、サクラは友人を送り出した。

 まだ夜も明け切らぬ闇の中── 三々五々侵攻して来たジャックの『雇われ兵』たちが、ドニの事務所のすぐ前の広場に集まり始めた。
 その気配を察して、金目は無クリと身を起こした。彼は薄汚れた──即ち、この街では一般的な恰好に着替え、事務所から少し離れた廃屋の陰に隠れていた。
(……ざっと60人くらい、ってとこか)
 その勢力を確認し、内心に呟く。敵はこちらの倍以上。しかも、その多くが商会が提供したと思しき新型銃と防具で武装している。
 そのあまりの数の多さに、ドニの部下の門番たちは早々に門だけ閉めてその場を離れた。そして、すぐに事務所の中が蜂の巣を突いた様な騒ぎ(←偽装)となる。
 その騒ぎに乗じ、金目は後ろから飄々とジャックの雇われ兵たちに紛れ込んだ。そして、最初からそこにいたかの様な風情で平然と話し掛けた。
「なぁ、俺たちに仕事を依頼したヤツは来てないか? まさか、俺たちだけ前に立たせて捨て駒にする気じゃないよな?」
 男たちは顔を見合わせた。そして…… さぁ……と小首を傾げた。
「見てないなぁ…… 敵の親玉を捕らえたらその場で待機って話だから、その後にでも来るんじゃないか?」

 襲撃が始まった。
 小銃による一斉射からの突入── 門の防衛に出て来たドニの部下たちは、その数に抗し切れず、早々に崩れた。その後方、庭の中央に後詰として待機していたシアーシャだけが逃げ遅れ、ポツンと一人、取り残される。
「え? え? ええぇぇぇっ!? あたしまだ駆け出しなのにー!」
 素人臭い動きの演技でぶんぶんと剣を振り回して殿軍として時間を稼ぎ…… 横目で味方の後退を確認した後、自身もバビュンッと逃げ戻る。
 その『敗走』に勢いを増して追撃を仕掛ける襲撃者たち。その数が20名程に達した頃合いであろうか…… 門から伸びたその20人の隊列中央やや後方辺りで、ぎゃっ!? と小さく悲鳴を上げ、脛を抑えて倒れる男たちが続出し始めた。
「な、なんだ!?」
「撃たれているのか?!」
 慌てて地に伏せ、周囲を見渡す男たち。銃撃は前進する彼らの死角──門の真横の庭の隅に膝射姿勢で潜んでいたJ・Dとアメリア・フォーサイス(ka4111)の手によるものだった。
 隊列が分断される。だが、前方の男たちは止まらない。いや、止まる気もなかった。略奪のライバルは少ない方がいい──そう思う彼らを、しかし、靴底を滑らせ脚を止めたシアーシャが、今度は真剣な──演技抜きの薙ぎ払いを峰打ちで叩きつける。
(やるねェ、嬢ちゃん)
 その反撃を確認したJ・Dは、その銃口を今度は敷地内に入った20人の後部へ向けた。立て続けの制圧射撃を浴びせ掛けられ、男たちがその場に伏せ、或いは門の外へと逃れ出る。
 そうして敵隊列の只中に確保されたスペースに、J・Dらとは反対側の庭の隅に隠れていたアデリシアが飛び込んだ。そして、門を中心で『ディヴァインウィル』──不可侵の結界を張り巡らせた。
「結界!? ま、まさか、覚醒者が敵にいるのか!?」
「そんな話、聞いてないぞ?!」
 門前で騒然となる男たち。一方、敵後続の足止めと分断に成功したアデリシアが浮かべた『敵の数に驚いた表情』も……半ば演技ではなく本気のものだった。
(敵の数が普通に多すぎる……ッ ちゃんと作戦通りに行くんでしょうね、これ……!)
 不可侵の結界の効果時間が過ぎる。
 だが、襲撃者たちの方も誰一人、突入して来ようとはしなかった。……所詮、金で雇われただけの素人たちだ。鐘は喉から手が出るほど欲しいが、敵方に覚醒者がいると知った今、率先して怪我までしたくないというのが本音だった。
「何をしている? 敵は小勢ぞ。なぜ一気に押し潰さん?」
 そこへ、後ろから中年──と呼ぶには幾らか若い、身なりのきちっとした男がやって来て、皆の尻を叩き始めた。金目はスッと目を細めた。恐らくはこの男がジャックだろう……
 話を聞いたジャックは頷き、男たちに策を授けた。そうしてから、門の向こうのハンターたちに呼び掛けた。
「聞け、ハンターたちよ! 今のドニには命を賭して守る程の価値など無い! 早々にこの場を立ち去られよ!」
 その間にも、男たちはジャックの策に従い、動いていた。やがて事務所の全周から上がる鬨の声── 包囲体制を敷いた男たちが事務所の塀に梯子を立てかけ、剣山に毛布の束を被せて乗り越え、一気に庭へと雪崩れ込む……
「……作戦のつもりが本気で押し込まれてしまうとか、まるで笑えない話じゃないですか……!」
 その大攻勢にアデリシアとシアーシャは皆の殿軍に立って屋敷内へと逃げ込んだ。敵勢の中に取り残された形のJ・Dとアメリアは早々に玄関への撤収を諦め、塀を乗り越えて来る敵に対して威嚇射撃を行いつつ、万が一に備えて打ちつけずにおいた木窓から事務所内部へ撤収する。
 最後に事務所の玄関から飛び込んだアデリシアが、入り口に再度の結界を張った。ドニは玄関に直結するエントランス──建物の中で最も広い部屋を最終防衛線に定めていた。
「ドニさん、逃げてー!」
 結界が消え、エントランスに流れ込んで来る男たち。最前線で応戦するシアーシャとアデリシアは、だが、じりじりとその数に押し込まれていく……
 同じ頃、側面から塀を乗り越えて来た敵らも事務所に取りつき、打ちつけられた木窓を破壊。火の点いた虫よけ用の草の束を室内へと放り込んで来た。
「煙……! こちらを燻し出す気か……!」
 J・Dが走り寄って草の束を窓から外へと放り出し。そこに突き入れられた複数の槍を仰け反って躱しつつ、拳銃を狙いもつけずに発砲。敵を窓から追い払った直後、放たれた小銃一斉射撃に慌てて窓枠の下に身を隠す。
 だが、J・Dやアメリアが守備する以外の窓はすぐに敵に突破された。『蛮族』どもの侵入に、屋内にいた非戦闘員──若い女性たちが悲鳴を上げる。
「女だ……! 女がいるぞ!」
 男たちは色めき立った。探して飛び込んだ部屋の隅に、逃げ遅れたのか、非力なシスターが一人、震えて蹲っていた。
「あ…… あ……!」
 舌なめずりをしながら近づいて来る男たちに怯え、後じさりしていたシスターが…… 直後、男の両のこめかみをガッ! と掴み、剛力で締め上げながら立ち上がり、高々とそれを持ち上げる……
「……まったく。下種な輩はこの手にすぐかかりやがります」
 豹変し、にっこりと笑顔を浮かべて、掴み上げた男を別の男へとぶん投げるシスター、シレークス。同時に、部屋の外からも破壊音と男たちの悲鳴が響き渡って来た。サクラとクルスが不可侵の結界で各部屋ごとに分断した男たちを、闇の刃で拘束、排除していく音だった。
「いっ、いったい、何が……?!」
「おめーたちは誘い込まれたんですよ。……この屋内に」
 気絶させた男たちを引きずってエントランスへ向かうシレークス。そこでも、本気を出したアデリシアとシアーシャ、そして、ドニの伏兵投入によって、敵はすっかり鎮圧されていた。敵の退路は金目によって閉塞されていた。なぜ、と問う男たちの眼前に「悪いね」と応じて光線の槍を降らせる金目。男たちは「覚醒者……!」と呟いたきり、戦意を喪失して降伏した。


「商会の番頭と思しき男を確認した。所在は把握している」
 全ての敵を掃討後── 敵中にあって知り得た情報をドニへと報告し…… 金目はドニの部下らを手伝い、敵方の男たちを地下牢へと連れて行く。
 彼らの姿は半裸だった。敵に成りすます為の変装用の衣装として、ドニたちが剥ぎ取ったからだった。
「派手に敗けるというのもなかなか変わった経験でしたね。これはこれで面白いものです……」
 負傷した者をマテリアルで回復し終えたサクラが、ドニの部下たちと共に、奪ったその服に着替え始めた。その為にはあられもない下着姿を晒す事になるが、その場にいる誰も彼もが時間に追われており、気にも留めない。……決してサクラの見た目がまるっきりお子様だからだとかそう言った理由ではない。多分。
「対面して言質を取るってことは……『敗けた側』の私たちは怪我してるように見せかけないとね!」
 持ち込んだ生肉の血を庭やエントランスに振り撒き終えて戻って来たシアーシャは、『激戦後に捕らえられた捕虜』を装う提案をした。実際にアンドルー辺りに殴られようとしていたドニを止めて椅子に座らせ、鼻歌混じりにメイクで青アザを作ったり、口の端に血糊を付け……同じ『捕虜』役の自分や仲間たちにも施す。
 その完成度を彼女に問われたシレークスは……「まだまだでやがります」と答えて、シアーシャ(とドニ)の胸元のシャツのボタンを引き千切った。顔を真っ赤にして「ぴぎゃ~!」(!)と素っ頓狂な悲鳴を上げるシアーシャを他所に、「やるからにはこれくらいやらなくては」と自身の聖衣も威風堂々とした佇まいでビリビリ破っていく……

 剣戟(←偽装)の音が止んでから少しして、事務所の中から出て来た伝令がジャックの元に戻って来た。
「終わりました。ドニ・ドゥブレーも捕えてあります」
 その伝令──金目の報告に、愉悦の笑みを浮かべるジャック。そうして金目と直属の護衛を引き連れ、事務所の中へと入っていく。
 庭の血なまぐさい激戦の様子(←偽装)を横目に玄関を潜る。捕らえられたドニは、同様に捕虜になった部下(←ハンター)らと共に、すっかりボロボロとなった姿(←服はガチ。犯人は略)でエントランスに跪かされていた。

「あなたがこんなことを? どうして……」
「自分の胸に訊くといい。町の人々を守らぬ飲んだくれに、この地区を任せてはおけない」
 ジャックの物言いに、ドニは(言いやがる)と内心、笑みを浮かべた。──まったくもって、正論だ。引き出すべき言質は別にある。
「なぜだ、ジャック!? 俺たちは上手くやってきたじゃないか!」
「はあっ!?」
 ドニの言葉(←演技)に、ジャックは激高した。……この男にはこれまでさんざん邪魔をされてきた。それを「上手くやって来た」だと?
「まさか気付いていなかったのか!? お前はずっと俺にとって目の上のたんこぶだったんだよ! 知らなかったというなら教えてやる。ゴーレムが暴走するよう刻令術を仕込んだのも、警邏中のお前らを襲わせたのも、全部俺の指示だったんだよ!」
 直後、エントランスに鳴り響く銃声── 「え?」と思考がフリーズしたジャックの視界に、腕や手を押さえて倒れる護衛たちの姿が映る。
 エントランスの窓の外から放たれたJ・Dの銃撃に続いて間髪入れずに、ドニの部下らと共に室内に飛び込むアデリシア。彼女の放った闇の刃が残る護衛を薙ぎ払う。
「なっ!? これは……」
「こういうことさ」
 いつの間にか背後に肉薄していた金目がジャックに手の平を押し付けた。『エレクトリックショック』の電撃で麻痺して倒れた彼の所に歩み寄ったドニが表情のない顔でそれを見下ろす。
「お見事」
「いや、相手が間抜け過ぎだ」
 そうドニに返され、確かに、と苦笑する金目。
 サクラとアデリシアが呟いた。
「終わりましたね…… いえ、ドニさんにとってはここからが本番ですか」
「これで万事めでたしめでたし……となればいいんですけど、ね」

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  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 王国騎士団非常勤救護班
    クルス(ka3922
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/23 02:50:48
アイコン 相談です…
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/09/23 03:53:51