• 幻痛

【幻痛】ここでお前かよ!?

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/09/27 15:00
完成日
2018/09/29 18:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ──冗談じゃない。
 脳裏に過ったのはそんな一言だった。
 実際のところ今の状況は、何一つとして冗談と片付けられる事態などでは無かった。
 時は作戦「ベアーレアクト」の決戦とも言える戦いが始まる直前。
 場所は要塞ノアーラ・クンタウ、そこから帝国へと下る道をしばらく進んだ位置に広がる森林地帯である。
 決戦へ向け、要塞の住人たちを予め避難させようというその時、まさにその避難経路に立ち塞がろうというように移動をする敵集団が発見された。
 要塞に近付けることは勿論、避難が遅れることを考えると時間をかけることも許されない。
 そして……これだけの集団が纏まって一つの方向を目指している以上、統率している何らかの存在は居るだろう。所詮雑魔の群れと侮ってはならない。オフィスに出された増援依頼には、その事がしっかりと記されていた。
 予測の通り──それ、は、居た。
 この軍団を率いる強力な歪虚兵。機敏な動作で巨大昆虫の影を縫うように姿を見せたそいつ。
 ──冗談じゃない。
 過ったのがその一言だったのは、つまりどこか冗談めいていると迂闊にも思ってしまったからだろう。
「おや君は。いつぞやの青年」
 そいつのことを。
 伊佐美 透(kz0243)は知っていた。最初の一声を聞いただけで思い出して、はたして忘れてたまるかと忘れていたかったとどっちの想いが上だっただろう。生かしてはおけない、だがどこかで死んでてくれたならそのまま忘れ去りたかったかもしれない、そんな相手。

 ──流れのブッ殺セラピスト。
 それが、かつてその歪虚が名乗った名である。

「──聞こえるのだ」
 虫たちの間から、今やはっきりとその存在感を露にして、そいつは朗々と述べる。
「生きるのに悩める人々。怯える人々。いくつもの嘆きの声が。私はそれを救いに行かねばならない」
「今現在の話でいうならその嘆きの声は明らかにあんたらが襲いに来たのが原因だと思うけどなー……」
 つい突っ込み返して。注意がこちらを向いたことに透は心底「しまった」と思った。後の祭りである。
「むう。そう言えば君は」
「間に合ってます」
「……どうやらそのようだ。ふむ。では邪魔しないでくれればそれでいいのだが」
 今の透を、虫の背から見下ろして。存外物分かりの良さそうな口調でそいつは言った。……だからと言って、こちらが相手の言い分を通せる筈もないが。
「……あんたみたいなの、避難民の人たちのところに放り込めるわけないだろ」
 ともすれば萎えそうになる決意を固めるために、言い返す。
「で、あるならば君は今は、救済の為に排除すべき障害ということになるのだな。残念だ」
 告げると共に。そいつが、距離を詰めてくる。
 向かい来るそいつの構えが見える。いつか見た手刀……ではなく、固めた拳。
「……!?」
 やっぱり、忘れているべきではなかったのだろう。猛烈に走る嫌な予感と記憶が結び付いて咄嗟に反応する。刀から片手を放し、強く握りこむと共に籠手の最も頑丈な部分を意識して、弾く。それでも、受けた部分から来た衝撃は腕から脳天を貫いていって、そのまま意識まで飛ばされそうになるのを──今回はどうにか耐えた。次は分からない。
 以前見た技だ。その時は自分ではなく、別のハンターへと向けられた。
(……そう言えば)
 ふと今更のように気が付く。なんでこれ、前回自分には向けられなかったのか。あの時、自分が孤立していた段階からこれを使われていたら、もっと呆気なく殺されていた結果もあったかもしれないというのに。
 考えて──理解できた、気がした。
 流れのブッ殺セラピスト。そいつの主張はこうだった……『人間、死にかければ大体の悩みはどうでもよくなる』。つまり、悩める者を死の淵に立たせ、それを意識させることが肝要なのだろう。……で、先ほどの技は失神させてしまうので、それでは彼の目的として具合が悪い、と。
 多分そういうことなのだと思う……が、それでも。
「そ・れ・で冷静に状況判断してるつもりじゃないだろうな!? だから歪虚の力で朱雀連武なんて食らったら普通は死ぬからな!? しかも威力上乗せして来やがって!」
 突っ込まずにいられずに透は叫んでいた。
 雑だ。信念は通ってるようなのに手段が全くの雑。そんな相手。これが怠惰になると言うことなのか。生前が分からない以上なんとも言えないが。
 冗談じゃない。思い浮かんだその想いは全くの文字通りだった。ふざけてるような相手なのに。
(もしかして、俺にとっては前会った時より致死性高いのか。こいつの相手は)
 ──驚異度は、本気で洒落にならない相手である。
 すぐ傍で気配が生まれる。居合わせた別のハンターの横やりに、そいつは飛びのいてまた、虫たちの影へと紛れていく。
 思わず息を吐いた。調子の狂う相手だが、一度、下手すれば殺されていたかもしれない感触は記憶から消えてくれたわけじゃない。だからと言って見過ごすのは論外だった。こんなものが、避難民たちの元へ向かっていいわけがない。
 勿論この虫たちもだ。安全のためには一匹残らず殲滅しなくてはならない。
 改めて。
 状況は、まったく、何一つ、冗談などではなかった。

リプレイ本文

「ずいぶんと親しげな感じだけど、お友達?」
「……いや、出来れば知り合いたくなかった系」
「ふぅん……で、」
 冗談のように透に問いながら、八原 篝(ka3104)は慎重に間合いを取り始めていた。
「今の攻撃は? 他に警戒すべきは何?」
 情報を求めながら、篝は他方へも意識を向ける。どうやら相手を知っているのは彼だけでは無さそうだ。
「あはははは、殺りたくてたまんなかった相手とここで再戦ですぅ? いーい依頼じゃないですかぁ、あはははは」
 星野 ハナ(ka5852)が、テンションMAXといった笑い声を上げる。
「私の顔を覚えているか? あの時死ねなかったことを後悔させてやる……!」
 雪辱と怒りを滲ませた声でコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が吐き捨てる。
 ……再戦組の中で。
「……ここは通さない」
 鞍馬 真(ka5819)の声は、静かで、抑揚が無かった。
「成程、あれが真さん達の因縁の敵ですか……強いですね」
 まだ僅かに物陰から姿を見せただけの敵、その動き、気配から十分に危険なものを感じ取って、鳳城 錬介(ka6053)が呟く。
 思いがけない強敵との遭遇、それに彼は。
「ご一緒出来て良かった。巡ってきた再戦の機会、どうぞ存分に」
 怖れることなくそう呟いて見せると、神代 誠一(ka2086)がその隣でしっかりと頷いた。

 最初に動きを見せたのは錬介。簡略化された聖句、術式から、不浄を振り払う神の祝福を誠一、真、錬介の三名に纏わせる。
 同時に篝の指先が閃いていた。戦いに備えて十分に準備された弾丸に矢。詰め込まれたそれらから滑らかに間違えず彼女は一本の矢を取り出す。
 炎を纏う矢がつがえられしは桜花の如き輝きを零す和弓。薄紅と焔を散らしながら、魔力の籠められた矢が天へと放たれる。光の矢は上空で五筋に分かれて降り注ぎ、それぞれ甲虫へと突き立っていく。
 コーネリアも同じくライフルを天に向け、光の弾を空へと放つ。篝が狙ったのとは異なる敵に三発、それぞれ撃ち込まれていく。
 ハナが甲虫たち全体へと視線を巡らせる。羽を広げて身構えるもの、突撃の気配を見せるもの。ブッ殺セラピストが隠れるのはおそらく羽を広げた虫の向こう──ならば今狙うのは、こっちが先!
 突撃体勢で固まる虫たちに、五色の光が降り注いだ。魔法弾で弱体化させられていたそれらはまともに避けることが出来ず飲み込まれていく。メンバーの中で最も威力が高いハナの攻撃、それも、今回は行動阻害よりも威力を重視した術!
「……でも、一撃とはいきませんかぁ、ってぇ」
 光が晴れたその向こうの結果を見やり、彼女は呟く。

 真はそうして、透、チィと共に前衛役として虫たちの一角に詰め寄った。羽根を広げた一匹の虫、その向こう側にも意識を向ける。
「……死にかける程度じゃ悩みは消えないさ。まあ、試してみても良いけど」
 居るだろうか。思いながら声をかけた。この中で一番うだうだと悩みを持っているのは自分だ。それで気を引けないだろうかと。
「どうかな。うん、君にも覚えがある」
 答えはあった。正面からではない。
「……真殿!」
 チィの声がする。それで、来る方角は分かった。魔導剣を向ける。叩き落されようとする手刀と丁度ぶつかって、弾いた。が、そのまま二撃目が来る!
 素早く矢をつがえ直していた篝の妨害射撃が入るが、それでも敵の攻撃の鋭さは真に届くに至った。合計三撃。手刀が真を切り裂いていく。……が、倒れる程ではない。不敵に笑って見せる。こんなもの、こんな痛み……どれほど入ったところで、いまさら何を感じるものか。
「ふむ。無駄だと言いたげだ」
「分かってるじゃないか」
「君は分かっていないな。ブッ殺セラピーの奥の深さを。私は一つ見えたぞ。君を救う死への道が」
 戯言だ。そう思おうとした。だが。

「こういうのはどうかな──一つ、『前回のやり直し』をしようじゃないか」

 そいつがそう言って。透へと気配を向ける。
 やり直し。前回の。本来あるべきだった結果、形へとの。意味を理解して、全身を撫でていく感情は一体何だったのだろうか。
 血液が逆流していくのを感じながら眼前で景色は動き続けていた。拳の、重い一撃が透に襲い掛かる。胴にめり込むその一撃を、しかし今回も上手く受けてはいたようで、真の響劇剣から奏でられ続ける音色の助けもあって意識は飛ばされずに済んだようだった。
 しかし……これで二発目。表情にはっきり苦痛が浮かんでいる。
 恐怖。怒り。それらは今浮かぶものではなく、ずっと忘れられないものだった。忘れられる筈がない。空想し続けた、あるべきだった光景も。
 過る。
 次の攻撃を。次こそを。この身体で受け止めたら、どんな気分だろうか。
 過る。
 眼前を──これは──

 そうして彼は。
 すべきことをした。





「──……錬介さん!」





 ──助力を求めて、叫ぶ。
「ええ。任せてください」
 頼もしくも温かな声が返る。
 またも、簡易化されて素早く展開された術式がこの局面で誰よりも早く発動する。生まれた癒しの光が、透をあっさりと全快させる。
「きっと大丈夫。何とかなります──」
 錬介の、その言葉の先は真にももうわかっている。
 目の前を過っていったもの。マテリアルの光の軌跡。向かう先は甲虫。そこに突き立った棒手裏剣。
 手を伸ばすように縁の糸を手繰って──誠一が、真の前へと降り立たってくる。
 言葉はかけない。ただ、その背中から。俺が、居ると。
 逆流する血潮が、感情のさざ波が引いていくのを真は感じていた。静かに、剣を構えなおす。
 冷静になれと言い聞かせて、感情を見つめ直した。
 ……認める。実際、少しは気が晴れるのかもしれない。ここで彼を庇い直すことが出来たなら。それでも。
「私が今お前と戦うのは……そんな自己満足の為じゃない。──ここに居る人たちを守るためだ!」
 人々を守る。困っている人を助ける。
 何度悩もうがどれほど苦しもうが、それが、それこそが真の変わらぬ、消えぬ想い。
 それをまた確かめることが出来たのは──
「ふむ」
 ブッ殺セラピストが頷く。
「何かを掴み始めたな青年。我がブッ殺セラピーにより」
「いやブッ殺セラピー関係ねえよ!?」
「ではもう一歩だ青年。死に際してもその想い抱き続けることが出来れば、二度と揺らがぬものとなるだろう」
「結局殺しに来るのかよ!? もういいよ!」
 落ち着いた感情は、台無しにされた怒りに上書きされた。
(自由人と問題児には慣れてるが、こりゃまた予想以上にアレな……)
 誠一が遠い目になる。
「なんだかねー……そこで終わるんだったら、一瞬なくも無いか、とも思いかけたけど」
 篝が思わずという風に呟いていた。
「有るも無いもない。歪虚はすべて滅ぼすだけだ」
 コーネリアがその横で淡々と言った。彼女に取ってこいつは、一度交戦しとり逃した歪虚、それ以上でも以下でもない。そしてそれは、どんな手段を用いてでも歪虚は必ず息の根を止めることが信条の彼女にとって見逃せないものであるという事に他ならなかった。
 再戦のチャンスが得られたのなら、この場で確実に仕留める、それだけの話。
 ただ、状況は、そんな彼女が無駄口を叩くだけのものでは、あった。
 ハナの五色光符陣、行動阻害を彼女は期待していなかったようだが、歪虚はともかく甲虫には十分通じるものだったのだ。そこに錬介のプルガトリオである。こうして、あっけなく殆どの甲虫が動きを封じられていた。
 実は誠一が真の前の姿を現したのは狙ってヒーロー登場を気取ったわけでは無いのだ。既に、分断の必要がある甲虫が彼らの前に居る、そいつらだけになっていた。

「あっははははは!」
 先述の会話に、ハナが笑い声を上げる。
「本っ当に、それ以外やりたくない程の妄執なんですねぇ。センパイの妄執、ここで解き放ってあげますよぅ!」
 再び五色光符陣。一撃では仕留められなかったというだけで十分すぎるほど威力の高いそれが甲虫たちを纏めて潰す。間も無くだ、もうそろそろ……
「鳳城さんっ」
 そうして、満を持してハナは錬介に声をかける。錬介は頷いて、彼女と共にブッ殺セラピストへと近づいていく。届く距離まで近づいての、黒曜封印符。動けなくなるハナを庇うべく、錬介は周囲へと意識を拡散する。
 同時に真が星神器を構えた。認識と現象を書き換える大魔法が発動する。ハナへと向かい錬介へと向かった拳の軌道がさらにねじ曲がり、歪虚の顔に動揺が浮かぶ。
 甲虫はまだ全滅はしていない。時を稼ぐかのようにブッ殺セラピストはまた、防御態勢をとるその一匹の影へと沈む。その甲虫を、抉るような銃撃が襲う。
「この私に敵意を向けられることが何を意味するのか、貴様自身の身を以て教えてやろうか?」
 コーネリアが冷酷に告げた。一手一手、冷静に追い詰めるように。高速回転する弾丸はただ敵を穿っただけではなく、その装甲を削り取っている。そこへ、篝の自在の矢弾が、猟犬の如き弾道を描いて二度襲い掛かる。
「あの時逃げられたのは運が良かっただけだ。貴様の行動パターンを知った以上、たとえ地獄の底に逃げようともはや貴様に安楽の場所など無い」
 言葉の通り、コーネリアと篝の対処により、間もなく敵の逃げ場はすべて狩りつくされるように思えた。
 それでも。
 誠一は冷静に状況を見ている。敵の身体能力はそれでも高い。防御は出来ているがこちらの攻撃も敵を捉えきれてはいない。
 ヤルダバオートはあと何秒持つのか。錬介の回復はあと何回だ? 黒曜封印符にもいずれ抵抗される。スキルを封じても今は敵の攻撃に耐えられても、楽観できない材料は幾らでもある。
 そんな中、彼もまた己の役割を果たすべく踏み出していく。
 スキル封印が解けることを恐れず全力で攻撃する真の姿が見えた。聞こえる気がした。きみの援護を信じてる、と。
 敵の猛攻を受け続ける錬介の姿が見えた。聞こえる気がした。勿論俺も全力で守りますよ! と。
 一歩前へ。ひりつくような危険な領域に踏み込んだと肌で感じて、浮かんでくるのは笑みだった。
 親友が長い間ずっと心のどこかであの日を悔やみ続けてきたこと知っている。
 自分が今ここに居るのは。
 果たすべき役目は。
「逃がしは、しない……!」
 一瞬だけ真と視線を交わす。誠一が鞭を構えたタイミングで真が剣を振り下ろす。真の剣から逃れようとする敵に、誠一の鞭が、そこから伸びる蔦の幻影が絡みつく。
 頼れる仲間の存在が、真に力をくれる。そこに、もう一つ。
『へっ、シンが同じ相手に二度も後れをとるわきゃねーだろ!』
 頼ってくれる、存在も。
『何も心配してねぇからさ。セラピスト気取った勘違い野郎にキッチリ落とし前つけさせて来てくれよな!』
 状況を知った友人の、遠くからのエール。切っ先から力が膨れ上がる。込めていた魔法剣の力が解放され、弾け飛ぶ──大ダメージに、歪虚が絶叫を上げる。

 抵抗するならしてみろ、何度でもかけ直してやるとハナは敵を睨み続ける。
 錬介は聖杖を掲げ、ハナを庇い続けながら他の誰に攻撃が流れようと癒して見せると身構えている。
 チィが、透が順に攻撃して真の攻撃の機会を作ろうとする。
 誠一の援護を受けながら、真が攻撃を重ねる。
 攻めあぐねながら反撃を受ける中、篝の弾丸が、ついに最後の虫を潰した。
 コーネリアがその銃口を向ける先を歪虚へと変える。時間をかけてマテリアルを収束したのちに放たれる弾丸が、歪虚の猛攻に加わる。
 流石にこの人数に取り囲まれた歪虚はその機敏さをもってしてもしのぎ切ることは出来なくなっていた。
 猛攻の果て。
「死を意識する事で迷い振り払い本当の自分が見えてくる……なんてコトもあるかも知れないけど、わたしはゴメンだわ」
 滅びゆく歪虚を見つめながら、篝が呟く。
「アンタはどうなのよ、おじさん。消えようって時に何を感じているの?」
 問うと。
「無論残念だよ。私の救済がここで終わることが! どうかね、君が継いではくれまいか」
 その答えに。篝はぞっとするものを感じた。本気で、本当に、それだけなのか。これは。
 ハナが心底嫌そうな顔を浮かべた。
「アンタ、私達の先輩のハンターかエクラ教徒辺りでしょぉ? アンタみたいに妄執を固定化される仲間が出ないよう、一生覚えておいてやりますよぅ。名乗れるなら名乗ってから逝って貰えますぅ?」
「ふむ。今の私はそう、流れのブッ殺セラピスト、だが」
 最期まで。
 そう名乗り。
 他には何も遺さず、それは消えた。
「……なれの果てがこれだって言うなら、あいつは確かに忘れちゃいけない歪虚、なんだわ」
 うんざりと、篝が言った。本気で、あれは救済だけを考えていたのか。
 ならば。肝に銘じなければいけない。どれほど渇望する想いがあっても、決して歪虚の力などを求めてはいけない、と。それがどんな想いであっても、最後は必ず人に仇なす存在と成り果てるのだ。想いの他の全ては奪われ。その想いは歪んだ形を為す──故に歪虚。
「……何度も言わせるな」
 陰鬱な空気を吹き飛ばすように、コーネリアがぶれない口調と態度で言った。
「歪虚は滅ぼす。それだけだ」

「君は色々吹っ切れたのかな。良かったよ」
 今回の敵の様子から、真は透にそう声をかける。私も失った過去に囚われてばかりじゃ駄目だなあ、と自省の想いを浮かべながら言う真を、透は暫く見つめていた。
「君は、強いよな」
「……私一人の力じゃないよ」
「うん。頼れる仲間が居るときの君は強いんだ」
「……。どうか、した?」
「正直。あの時のことは、俺は悪くないと思ってたんだ。あの時はああするしかなかったって。……俺だって、君が倒れるのは嫌だったんだ」
 それで彼が悩んでいることについては、気にしていないことを見せて、時間が解決してくれるのを待てばいい、と。
「だけど……あの時の君の焦りや苦しみにもっと寄り添えてたら。ああなる前にもっと違う戦い方が出来たんじゃないかって……今日の君の……彼らとの戦い方を見て、思った」
 間違ってないと思ったのは、自己犠牲という美酒が見せる陶酔だったんじゃないか。被害を受けたのが自分という結果は、簡単に自分を最善を尽くした気にさせてくれる。それは結局、自分だけが楽になる方法を見つけて満足してそこで思考停止しただけじゃないのか。
「だから──あの時のことを、謝らせてほしい。君を苦しめることになって……それを省みずに、ずっと苦しめていて、本当にごめん」
 だから願わくば。
 あの時の事で、もう、自分を責めないでほしい。

「それじゃさっさと要塞に行きましょぉかぁ」
 決着を感じて。切り替えるようにハナが言って、皆に回復をかけて回る。その言葉に、何名かの表情が引き締まる。
 そう、これはあくまで、予期せず発生した前哨戦に過ぎないのだ。
 本当の決着は、これから──

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MVP一覧

  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一ka2086

重体一覧

参加者一覧

  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/09/23 07:53:59
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/09/25 23:03:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/23 11:00:44