ゲスト
(ka0000)
【落葉】合コンで構わない
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/27 19:00
- 完成日
- 2018/10/02 10:35
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●分別
(なんとかしてリゼリオに行く口実でもないだろうか)
庶民議会の設立、ラズビルナムの浄化作戦、ヴルツァライヒの暗躍……ゾンネンシュトラール帝国内は、ほんの少し前までの落ち着いた日常を見失っている。
気晴らしを兼ねて、治めている師団都市の視察(と書いて散歩)を行っていたカミラ・ゲーベル(kz0053)は、ずいぶんとまた自分勝手なことを考えていた。
彼女は第三師団シュラーフドルンの師団長で、この師団都市マーフェルスのトップでもある。今は通常業務に加えて、庶民議会設立に関する議決やそれに伴う事務系の業務、ラズビルナムの浄化作戦やヴルツァライヒ解体のための師団兵派遣業務など、通常時に比べると忙しくなっている時期の筈である。
とはいえこうしてエルヴィンバルト要塞から出ることができているので、自分の割り当てである急ぎの仕事は終わらせているし、手つかずのものも日程通りに終わらせる算段は付けているのだが。
(いや、リゼリオなんて贅沢は言えないか? ……情勢が目零してくれないだろう)
脳内で考えるだけならタダだな、と軽く首を振る。それは考えを振り落とすようにも見えるが、実際は違う。
(要は、理由があればいいわけだ)
いかに自分の望みを、願望に近いものを実現させるか……それくらい頭を働かせられなくては、師団長などやっていられないのだ。
「新しい出会いがない日々は……退屈だからな」
●下拵
長老という大役の割りにフットワークの軽いユレイテル・エルフハイム(kz0085)との面会を果たしたカミラは、時間が惜しいとばかりに用件を切り出した。
「巫女達を貸してくれないか」
「……態々許可を求めるという事は、浄化術とは関係がない……という事でいいのだな」
一度小さく息を飲んだユレイテルだが、帝国と協力体制をとるようになって一番長い付き合いとも呼べる相手である。カミラの意図を測りながら続きを促した。
「表向きは、浄化で忙しく過ごしている少女達の慰安だな」
「……本音は」
真面目な仕事の話ではないのだと理解して、大きくため息をつくユレイテル。気持ち姿勢も崩したのを見て、カミラは嬉しそうに目を細めた。この流れなら、いける。
「新しい料理に会う機会が足らん」
「貴殿の個人的な事情に、彼女達を巻きこめと?」
恨みがましげな視線になるように意識してカミラに向けるユレイテル。個人的な事情には、これくらいはっきりと意思を込めねば伝わらないのだ。この師団長は。伝わっていても押し通ってしまうと言うべきか。これが腹芸と呼べるのかは自信がないが、昔に比べれば自分は芸達者になったのかもしれないと、ユレイテルの心は既に遠くを眺めている。
「本音ではあるが、私のこれはついで扱いで問題ない。彼女達は浄化作戦ありきで外界へと触れているだろう。たまにはそういう柵のない立場で森の外を楽しんでほしいと思わないか?」
「……今は特に忙しい時期だと、お互い理解しているはずなのだが」
「だからこそ、だ。部下達のスイッチを上手に切ってやるのも、上司の手腕の見せ所だと思うぞ?」
今も断続的に続けられているラズビルナム浄化作戦。交代制で休息をとらせているのは勿論だが、状況が状況なので、ほぼ出ずっぱりだと言えるだろう。精神的な疲労は溜まっているはずだ。
「どこかで心身ともに休める時間は必要だ」
いつもの場所ではないところで気分も一新すれば、効果はより見込めはずだと立て続けに理由を積み上げたカミラは、どうだとばかりにユレイテルの返事を待った。
「……」
はじめこそ幼いだけの少女だった彼女達は、今は立派に浄化術を扱う巫女だ。戦闘能力が足りない事や世間知らずな部分は否めず、護衛をつけなければならないのは今も変わらないが。
そんな彼女達が出向中にどんな様子なのかはユレイテルも聞いている。やはり保護できたのが恭順派の思想に染められる前だったことが幸いしており柔軟だ。仕事はきちんとできている。それでもまだ、多感な少女達でもあるのだ。
今では出稼ぎ頭として故郷にとってなくてはならない存在になってしまった、巫女達。そんな存在にしてしまった自分達大人は、待遇の改善こそできたが、精神的な部分のフォローは……あまり、得意なものは居ないなと自嘲する。
「……わかった。パウラ、予定をすり合わせておいてくれ」
「はい。ところで……どういった趣向になるんですか?」
茶を出した後は後方で控えていた秘書の言葉に、カミラがそうだなと腕を組む。
「食事は外せないな! あとは巫女達が楽しめるように盛り上げ役が居れば……」
「なんだか、合コンみたいですね?」
話に聞いただけで、参加したことはありませんけど。咄嗟に呟いたパウラの言葉はしっかりとカミラの耳に届いた。届いてしまった。
「それだ! 少女達を楽しませるならもってこいだ。是非その名目で頼む」
「いや、それはどうかと思うのだが」
過去に合コンを勘違いして主催した経験を持つユレイテルとしては、出来れば避けたい単語だ。
「合コンで構わない。そのまま進めておいてくれ。親交を深める意味でも妥当だろう?」
既に変更する気がないと分かるカミラの様子に、深くため息を零すユレイテル。視線も遠くに向かっていた。
「……パウラ」
「なんでしょう、ユレイテル様」
「日程的に私は難しい。かわりに参加してきてくれ」
「えっ!? ……わかり、ました?」
●招待
招待状と書かれた手紙の内容に目を通した後、フュネはどう言葉にすべきか考え込んだ。
(いつもよりも強く汚染された土地だから、その疲れも出ているとは思っていましたけれど……)
周囲に言われるまでもなく、後輩達の体調や言動の変化には気をつかっているつもりだ。ただ長老達に言われるまま浄化を行い、器をヒトとして扱う事を避けていたかつての生活に比べれば、後輩の術を指導し、前述通り世話をしたりする日々は忙しくなったけれど、充実感を得られるものだ……と思っている。
そう考えるようになった自分はまだいいほうで、自分同様にあの事件を生き残った同僚の中にはまだ、周囲の変化に戸惑ったままの者もいる。巫女全体で見れば数は少ないので、目立ってもいないのだが。
(そうですね、休息……)
休むことで、今一度考えを巡らせる切欠になればいいと思う。かつての自分のように、良いきっかけになればいいと思う。
「どうしたんですか、フュネ様?」
手紙を持ったまま黙っているフュネに声をかけたのは、弟子として行動を共にすることが多い巫女、デリア。
「いえ、大丈夫よ。……今度、交代でリゼリオに行くことになりました」
「えっ、浄化が必要な場所があるんですか?」
「違うわよ? ……巫女の慰安なのですって」
せっかくだから、楽しみにしていましょうねと微笑むフュネに、悪いことではないと理解したデリアも笑顔を返した。
(なんとかしてリゼリオに行く口実でもないだろうか)
庶民議会の設立、ラズビルナムの浄化作戦、ヴルツァライヒの暗躍……ゾンネンシュトラール帝国内は、ほんの少し前までの落ち着いた日常を見失っている。
気晴らしを兼ねて、治めている師団都市の視察(と書いて散歩)を行っていたカミラ・ゲーベル(kz0053)は、ずいぶんとまた自分勝手なことを考えていた。
彼女は第三師団シュラーフドルンの師団長で、この師団都市マーフェルスのトップでもある。今は通常業務に加えて、庶民議会設立に関する議決やそれに伴う事務系の業務、ラズビルナムの浄化作戦やヴルツァライヒ解体のための師団兵派遣業務など、通常時に比べると忙しくなっている時期の筈である。
とはいえこうしてエルヴィンバルト要塞から出ることができているので、自分の割り当てである急ぎの仕事は終わらせているし、手つかずのものも日程通りに終わらせる算段は付けているのだが。
(いや、リゼリオなんて贅沢は言えないか? ……情勢が目零してくれないだろう)
脳内で考えるだけならタダだな、と軽く首を振る。それは考えを振り落とすようにも見えるが、実際は違う。
(要は、理由があればいいわけだ)
いかに自分の望みを、願望に近いものを実現させるか……それくらい頭を働かせられなくては、師団長などやっていられないのだ。
「新しい出会いがない日々は……退屈だからな」
●下拵
長老という大役の割りにフットワークの軽いユレイテル・エルフハイム(kz0085)との面会を果たしたカミラは、時間が惜しいとばかりに用件を切り出した。
「巫女達を貸してくれないか」
「……態々許可を求めるという事は、浄化術とは関係がない……という事でいいのだな」
一度小さく息を飲んだユレイテルだが、帝国と協力体制をとるようになって一番長い付き合いとも呼べる相手である。カミラの意図を測りながら続きを促した。
「表向きは、浄化で忙しく過ごしている少女達の慰安だな」
「……本音は」
真面目な仕事の話ではないのだと理解して、大きくため息をつくユレイテル。気持ち姿勢も崩したのを見て、カミラは嬉しそうに目を細めた。この流れなら、いける。
「新しい料理に会う機会が足らん」
「貴殿の個人的な事情に、彼女達を巻きこめと?」
恨みがましげな視線になるように意識してカミラに向けるユレイテル。個人的な事情には、これくらいはっきりと意思を込めねば伝わらないのだ。この師団長は。伝わっていても押し通ってしまうと言うべきか。これが腹芸と呼べるのかは自信がないが、昔に比べれば自分は芸達者になったのかもしれないと、ユレイテルの心は既に遠くを眺めている。
「本音ではあるが、私のこれはついで扱いで問題ない。彼女達は浄化作戦ありきで外界へと触れているだろう。たまにはそういう柵のない立場で森の外を楽しんでほしいと思わないか?」
「……今は特に忙しい時期だと、お互い理解しているはずなのだが」
「だからこそ、だ。部下達のスイッチを上手に切ってやるのも、上司の手腕の見せ所だと思うぞ?」
今も断続的に続けられているラズビルナム浄化作戦。交代制で休息をとらせているのは勿論だが、状況が状況なので、ほぼ出ずっぱりだと言えるだろう。精神的な疲労は溜まっているはずだ。
「どこかで心身ともに休める時間は必要だ」
いつもの場所ではないところで気分も一新すれば、効果はより見込めはずだと立て続けに理由を積み上げたカミラは、どうだとばかりにユレイテルの返事を待った。
「……」
はじめこそ幼いだけの少女だった彼女達は、今は立派に浄化術を扱う巫女だ。戦闘能力が足りない事や世間知らずな部分は否めず、護衛をつけなければならないのは今も変わらないが。
そんな彼女達が出向中にどんな様子なのかはユレイテルも聞いている。やはり保護できたのが恭順派の思想に染められる前だったことが幸いしており柔軟だ。仕事はきちんとできている。それでもまだ、多感な少女達でもあるのだ。
今では出稼ぎ頭として故郷にとってなくてはならない存在になってしまった、巫女達。そんな存在にしてしまった自分達大人は、待遇の改善こそできたが、精神的な部分のフォローは……あまり、得意なものは居ないなと自嘲する。
「……わかった。パウラ、予定をすり合わせておいてくれ」
「はい。ところで……どういった趣向になるんですか?」
茶を出した後は後方で控えていた秘書の言葉に、カミラがそうだなと腕を組む。
「食事は外せないな! あとは巫女達が楽しめるように盛り上げ役が居れば……」
「なんだか、合コンみたいですね?」
話に聞いただけで、参加したことはありませんけど。咄嗟に呟いたパウラの言葉はしっかりとカミラの耳に届いた。届いてしまった。
「それだ! 少女達を楽しませるならもってこいだ。是非その名目で頼む」
「いや、それはどうかと思うのだが」
過去に合コンを勘違いして主催した経験を持つユレイテルとしては、出来れば避けたい単語だ。
「合コンで構わない。そのまま進めておいてくれ。親交を深める意味でも妥当だろう?」
既に変更する気がないと分かるカミラの様子に、深くため息を零すユレイテル。視線も遠くに向かっていた。
「……パウラ」
「なんでしょう、ユレイテル様」
「日程的に私は難しい。かわりに参加してきてくれ」
「えっ!? ……わかり、ました?」
●招待
招待状と書かれた手紙の内容に目を通した後、フュネはどう言葉にすべきか考え込んだ。
(いつもよりも強く汚染された土地だから、その疲れも出ているとは思っていましたけれど……)
周囲に言われるまでもなく、後輩達の体調や言動の変化には気をつかっているつもりだ。ただ長老達に言われるまま浄化を行い、器をヒトとして扱う事を避けていたかつての生活に比べれば、後輩の術を指導し、前述通り世話をしたりする日々は忙しくなったけれど、充実感を得られるものだ……と思っている。
そう考えるようになった自分はまだいいほうで、自分同様にあの事件を生き残った同僚の中にはまだ、周囲の変化に戸惑ったままの者もいる。巫女全体で見れば数は少ないので、目立ってもいないのだが。
(そうですね、休息……)
休むことで、今一度考えを巡らせる切欠になればいいと思う。かつての自分のように、良いきっかけになればいいと思う。
「どうしたんですか、フュネ様?」
手紙を持ったまま黙っているフュネに声をかけたのは、弟子として行動を共にすることが多い巫女、デリア。
「いえ、大丈夫よ。……今度、交代でリゼリオに行くことになりました」
「えっ、浄化が必要な場所があるんですか?」
「違うわよ? ……巫女の慰安なのですって」
せっかくだから、楽しみにしていましょうねと微笑むフュネに、悪いことではないと理解したデリアも笑顔を返した。
リプレイ本文
●
ユノ(ka0806)がどんなに見回してもミナお姉さんとアイは居ない。
「ふぎゅー……」
けれど顔をあげ笑顔をつくった。お姉さんいっぱい居るし!
「お菓子を作るのだー☆」
甘いものを自分で作っちゃおう!
(美味しかったお菓子、メモしてきたもんねっ)
貰ったそのときの気持ちを、誰かに分けてあげたいんだ☆
ルカ(ka0962)は着いて早々にキッチンの一角を占領した。
(自分好みに載せられるようにすれば、数が増やせるでしょうか)
大量の米を炊き、ピザ生地を仕上げ、パンをスライス。主食の仕込みが終われば具も大量に。野菜は食べやすい大きさに、肉や魚は味をつけてそのままでも食べられるくらいに。チーズはスライス。
麺茹では中盤から。鍋の隣で、その前に茹でていた芋を潰してコロッケに。手際に全く無駄がない。
炊けた米飯の一部は酢飯にしておにぎりと寿司の住み分けを。サンドイッチは一部は作っておけば見本にもなるだろう。
けれど。
(時間が、足りないかもしれません)
早めに動いたが、開始時間は迫っていた。
(菓子類も手をつけなければいけない時間です……!)
「単純作業でよければやっておきます」
声をかけると同時に滞っていた作業を引き継ぐエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)。サーターアンダギーを作り終えた彼女が状況を把握したら。
「間に合わせます。指示を」
得意の管理スキルが炸裂するようだ。
「食べ慣れていそうなものと言ったら……」
蒸した甘藷の乱切りと、ペーストにマヨネーズとマスタード、黒胡椒を混ぜ込み鳳凰院ひりょ(ka3744)はサラダを作る。
そのまま食べられる野菜や果物は切り方を工夫。少しでも目新しさがあるように。
切り屑が出たら纏めてポタージュに使ってしまおう。口当たりがやさしいはずだ。
「森の外……そうだ」
サンマを半身に捌いて、梅肉と味噌を使ったタレを塗って焼けば海の香りがするだろう。
エルバッハ・リオン(ka2434)も果物をカットしている。
(十分な量がありますし。心配も不要でした)
サラダやスープを作ったが、自分で組み合わせる方法を見て、目からウロコというべきか。今は指示を貰って、少しでも量を多くそろえられるよう、丁寧に、けれど迅速に今は専念するとしよう。
メイム(ka2290)はフォーを作っていた。
(どんなグルメレポート聞けるかな?)
狙いはカミラの破顔である。
(名目上の合コン相手、女の子だし)
実際の趣旨は違うと聞いても、合コンの本来の意味を知る身としては……食の道を行こう。
米粉麺は念入りに手打ち。量は作れないがそこは一人をうならせるためだ。パーティー料理の一部なのだから、小分けで出せばいい。
傍のコンロでは持ち込んだ鉄人の鍋で特性のスープ作り。灰汁をとるのも丁寧に。雑味は極力なくしたい。
エステル・クレティエ(ka3783)は良い機会だと思ったから。
「……まだ愛想つかしてない?」
居ないからこそ聞けることを、親友の耳元に、こそり。
「えっわっ? ……っ!?」
手元が狂って、慌ててボウルを抑える。ルナ・レンフィールド(ka1565)は少しだけ恨めしい気持ちを視線に混ぜて振り返る。
(すぐには答えてあげない)
今は、小さく微笑むだけに留める。
「色んなアレンジを試してみましょう?」
少女達はいつもと違う髪型に目を輝かせた。順番待ちの子なんて、用意されたリボン選びに夢中になっていたりする。
(ほんの少しいつもと違うだけでも、気分は変わるものだから)
高瀬 未悠(ka3199)の口元に笑みが浮かぶ。
「……クリスマスやハロウィンみたいな感じなのかな……?」
「パーティーだと聞いたけど、違うの?」
星空の幻(ka6980)の零した呟きに答えるのは巫女。
「パーティーの、料理……難しいけどコーヒーなら……」
「わあ、楽しみにしてるね! でも、こーひー?」
「ん……好きは、ブラック。だけど」
初めて飲む者達の為にミルクと砂糖は多めに用意したほうが良さそうだ。
(初心者向けの、ブレンド……も、必要?)
同じく拘る仲間が居た時の為にも、数種類用意してみよう。
●
「お久しぶりです、カミラさん。しばらくお会いできませんでしたが、お元気そうで何よりです」
「奏か! しばらくぶり……ん、心配させていたのか?」
いつかの逆だと笑うカミラに、音桐 奏(ka2951)も薄く笑う。同じ応酬。変わらない様子に内心ほっとする。
「慰安って聞いてたけど合コン……えぇ!?」
キヅカ・リク(ka0038)が叫んでカミラを探す。
(久々に時間出来たから聞きたいことも……って、居た!)
「彼女達が楽しめれば構わんぞ?」
そう許可をもらったリクは大きく息を吸った。
「いいか皆! 合コンの発祥の地、RBのトウキョウでのお作法を教えてあげる! ウェーイ!」
「「「ウェーイ!」」」
「そうその調子で語尾に付けるんだ! 次は僕と一緒に……テンアゲでウェーイ!」
「「「テンアゲでウェーイ♪」」」
少女達は合コンでの挨拶だと認識し、互いにウェイウェイやっている。ハイタッチも混じった!
(どーすんだよ、この空気!?)
やらなければいいのに。
「カミラさんはまともだと思ってた日が僕にもありま……おっといけない」
ウェイ伝道師がそれを言うのか。
「ん? そう思う者の方が稀だぞ?」
しれっと返され三年前を思い返す。変人の気配はあった……かも。
盛り上がった空気の中グラスを配るGacrux(ka2726)。盆に載せたグラスの中身は事前に酒場に頼んだ品だ。相手を見て酒か否かを決めている。
そして、持参の高級酒もあけどきだ。
「私にもそれを」
振り返ればカミラ。
「はい、お待たせしておりましたか?」
「いいや」
「よい酒でしょう?」
「使い方は個人の勝手だと分かっちゃいるが」
いい酒だと頷く割りに眉が下がっている。
「とっておきは自分の為に開けろ」
これも私の勝手な言い分だ。詫びに後日補填すると言い置かれた。
(男性に慣れていないかと思っていたけど)
キッチンと会場を往復しながら、鞍馬 真(ka5819)はほっと息を吐く。それこそ軽薄に見えないよう気を配り、失礼にならないように様子を伺っていた。巫女達の応対は自然で、緊張も見られない。
(一人、どうしても例外はいるようだけど……)
視線を向ければ、丁度挨拶を受けているようで。
「私は紫炎。よろしく頼むよ」
ゴウコンを良くは知らないと言いつつも、自己紹介から始めた時点で紫炎(ka5268)は本来の合コンのルールにのっとった形になっていた。偶然だが。
「帝国の巫女には興味がある」
「いえ、帝国ではなくエルフハイムの巫女ですわ」
フュネがすかさず口を挟む。声は鋭いものではない。不運な誤解だろうと察していても、聞き逃せなかったらしい。
「それはすまない。……浄化術の行使。日々を大変な職務を負っているのだろう、それは素直に賞賛に値すると思うし、それを直に伝える機会は貴重だと思ったのだ」
「わざわざありがとうございます……私も、大人げなく申し訳ありません」
「私はハンターではあるが、田舎より来た武人の1人に過ぎない」
無礼があったら指摘を頼むつもりが、既に一本取られてしまったな。空気を解そうと笑みを交える。フュネも察した後、恥じ入ったようで頬が染まった。
(しかし……変化するものですね)
かつてGacruxが差し出したボトルは手元に残った。今はグラスを受け取っている。巫女が変わったのか、それとも周囲か。どちらが先か、後か……
見えるものがあるかもしれないと、さりげなくフュネを観察してみる。
「何か?」
「いいえ、おかわりはいかがですか」
「今はいいですわ、ありがとう」
あっさりミルキーに仕上げたクレームブリュレの決め手はビターのカラメル。甘さの中にもメリハリを。
甘藷の形そのまま使った船にカスタードクリームを載せて、丁寧に練り上げたペーストは焼かれた照りも美しいスイートポテト。
塩味を利かせたバターパンは食事としても。チョコがけラスクは病みつきになってしまう筈。
生キャラメルを絡めても後引く美味しさ……
菓子も料理は選びたい放題。ボルディア・コンフラムス(ka0796)の片手は常にお酒のグラスで埋まっているけれど。間違いのない組み合わせで食べて、少し冒険して変わり種を試して。気に入ったらおかわり。新しい皿が出て来たら、美味しいうちに一口。
「それ美味そうだな! 同じの試していいか?」
会場内を一所に留まらない分、合わせる顔それぞれに声をかける。今もトラウィス(ka7073)の気に入った味付けを興味津々で教わっている。
「美味い! 味覚は同じだよなあ。なあ、巫女って普段どんな生活してンだ?」
今度は巫女の方へ。違うところがあるのか、気になったのもある。
「修行の時間以外は、皆と変わらないと思うよ?」
「修行か。やっぱ四六時中カミサマに祈ったりとかか?」
「祈るより、マテリアルをより深く感じ取れ、って言われるかなあ」
「猫さんにゃぁ?」
星空の幻も挨拶がわりに片手をあげた。着ぐるみと相まって招き猫みたいだ。はじめは光と一緒に居たのだが、もふもふ好きの巫女達に可愛がられてからは共にいる。
時々、気付いたら飲み物をサーブしているのも好感触だ。
趣旨を聞いて一度は肩を落としたものの、料理が絶えず出てくる状況に上機嫌な玄武坂 光(ka4537)。
「一杯あるみてぇだし食わなきゃ損だぜ」
食われない料理が可哀想だしな、なんて理由もつけて食べていく。一部メニューをどこかで食べたことがある気がして、首を傾げた。
(なんか……ん? 配膳してるのに見知った顔がいるな)
丁度よく視界に映る雇い主。
「ひりょ、あんた給仕なんかやってるのか?」
「光が居るからやってるんだよ。食べ尽すなよ?」
人手は思ったより足りていたが、消費スピードと拮抗していると話すひりょ。
「そんじゃ、あんたの分まで食っちまうぜ?」
「俺の分ならいいって言うのか……」
言葉通り皿の中をかきこむ光。
「っ! ……ぐぉっふっゲホッ!」
「言ってる傍から! 大丈夫か?」
軽く背を叩いてやり、ひりょが水を差し出す。どちらが使用人なのだか。
「少しくらい食休みを入れておけよ」
「あぁー悪い……ちっと休憩するか」
「今回の私は完璧にやってみせるよ!」
勘違いの記憶は成功のもと。夢路 まよい(ka1328)は振り返らない。
「合コンの定番といえば~、何とか線ゲーム!」
ゲームと聞いて巫女達が寄ってくる。遊びと聞けばわくわくする程度に子供なのだ、彼女達は。
「リアルブルーでいう電車で、ぐるぐる回る線路のがモデルだって」
金属の道を走る細長い車……って説明でいいのかな? トラックやバイクよりももっと大きいのだと、両手を広げてみせるまよい。
「つまり、みんなで繋がって電車ごっこしながらグルグル回る?」
実際にまよいがデリアの後ろに回って、伸ばした腕を肩に置いてみれば。巫女達は真似してどんどん連なっていく。
ぐるぐる……グルグルグル……
身体能力が高い覚醒者が混ざることで、アトラクションじみた速度が出ている!
「「「め、目が……」」」
はじめは楽し気な黄色い悲鳴も、次第に静かに……
「え、違うっぽい?」
指摘に戸惑うまよいだけれど、巫女達共々楽しんだので問題はない。正しいルールを聞いてから、巫女達と相談に入る。
「じゃあそれもやらせて貰いましょう」
まよいの提案に集ったハンター達も加わり「スイーツ」をテーマでやってみたところ。各自おすすめショップの情報交換にもなって有意義な時間になったのだった。
「なるほど、情報交換ツールなのね」
またひとつまよいは賢くなった……はず。
●
「王様ゲームもするんだったな!」
勝負して、買った方が命令するって聞いたことがある。そうボルディアが声をあげて、概要を聞いた者たちが我こそはと集まりだす。
「つーワケで、俺と勝負したいヤツはいねぇか?」
呑み勝負でも腕相撲でも、なんでも受けて立つぜ!
「偉くなれるのか?」
喉の調子も落ち着いてきた光が勢いを取り戻して参戦の意思を見せる。
「面白れぇ、やってやろうじゃねぇか! いくぜ、燃えろ俺のマテリアル!」
目の輝きが強くなる。勢い任せでマテリアルが炎の演出まで始めている。光の体内に蓄えられたエネルギー(食料)も早々に燃え尽きそうだ!
「大食い勝負なんてどうだ!」
盛大に腹の虫が鳴きながら宣戦布告。これは勝ちに来ているー!?
「何やってるんだか」
楽しそうな声で、空気まで清浄になっている気がするのは巫女だからだろうか。
(なんてな)
慰労が成功しているということなのだろう。安堵の笑みを浮かべたひりょは、配膳先とは別の集団からの声を聞いた。
「まて大食いって、作る速度を上げないと!?」
大慌てでキッチンへと戻っていく。
のんびりと声の上がる方に行けば、星空の幻の見知った顔が大食い勝負をしている。
(……おおさまげーむ?)
思っていたのと違う。しばらく観戦して、キリが良いところで正せばいいか。籤を作って待とう。
おかわりのグラスをもって、真はフュネに歩み寄る。
「きみもちゃんと楽しめてる?」
「ええ、楽しませてもらっておりますわ」
返される微笑みがどこかぎこちないように見えたのは、自分に身に覚えがあるからかもしれない。自分のことより、周囲に気を回し過ぎている者の目だと思った。
「たまには肩の力を抜いても良いんじゃないかな」
君の慰労でもあるんだろう、今日は。
「私は十分ッ」
「最後に夢を見たのはいつ?」
「……」
覚えていない、と小さな返事。
「休める時には休む。とても大切なことだね」
今日みたいに、手を貸してくれる人は居るはずで。私達もその中の一部だと伝える。
「今日は、皆に早く休むよう言いますわ」
少し、続きを待った。
「……私も」
「なら、安心だ」
「えっ未悠? 何でこんな処いるの」
「皆で遊びに来たの。リクは楽しんで……いたわね?」
洗脳(?)現場を思い出して、未悠の片足が少し下がった。
●
エステルがバットで沢山作ったものを型で抜いたり、荒く潰したり。四角に切りそろえたものをそれぞれ別の器に入れて、大きめのスプーンを添えてある。
始まるまでは改めて冷やして、その間にクリームやフルーツも準備しておいた。グラスを人数分用意すれば、好みで作れるセルフパフェの仕込みは完成だ。果汁の鮮やかさが光を反射しふるふると輝くゼリーはもちろん、落ち着いた色合いのミルクや紅茶のムースは他よりも食感を感じられるように。星や葉の型を使ったのは少し、森を意識したから。
「可愛いも、美味しいに繋がるんですよ」
「記念にカメラに収めましょう♪」
作り手と共に、たくさんの可愛いが詰まったパフェをエステルの魔導カメラが撮っていく。折角の綺麗に仕上がったパフェを崩したくないと考えていた少女達もこれならと喜んで、少しずつ口にして笑顔になる。
「ほら、言ったでしょう?」
楽譜に音符をちりばめるように、流れを意識して盛り付けたのはユメリア(ka7010)。食べやすさは多分、二の次。
「ああっ、目の前に天国が……! 埋もれて死んでも本望だわ」
好きなものを自分の手で完成させる、その充足感は計り知れない。だからこそ心のままに、未悠も山というよりタワーを作り上げた!
「未悠さんそんなに盛ったら崩れ……っ」
「食べきれる……の……?」
エステルの声に心配そうにルナが見れば、あーん、と差し出されるスプーン。
「大丈夫、食べきれるから」
これはほんの少しのお裾分け。
しょうがないなあと言いながらも笑顔で口を開ける。だって美味しいのはわかっているのだから。
「……あーん?」
時間をかけて出来た生地は細く長く。捻じって焼いたら可愛らしく出来たと思う。挟んだクルミも砂糖と絡んで香ばしい。……のに。
「ぼそぼそ、じゃりっ?」
測り間違えた何かが悪さをしているみたいだ。
「パフェと一緒にしたら柔らかく食べれるよ」
だから大丈夫とユノの頭を撫でる巫女。そのままユノの料理の発表会へ。
潰したお芋を濾して、少しだけ調味料を混ぜて固めて。綺麗に切りそろえた時のあまりをひとくち。
「しょっぱーい!?」
「チーズのせて焼けば、おつまみになりますよ」
無事に酒の席にひきとられユノはほっとする。
とっておきのクルミと干しブドウ入りのパンは綺麗にできた。薄めに切って、ラスクにもして。
「もっと甘くて美味しくなるのが、一番だよね☆」
仕上がりはパーフェクト。ユノの満面の笑みが浮かんだ。少年の笑顔に、北湖りとした空気も流れたのだった。
●
「ねぇ、皆は好きな人はいる? 私の好きな人はね、この世界で一番いい男よ!」
未悠の宣言は一瞬皆の時を止めて。
「「「どんな方?」」」
すぐに黄色い声が上がった。
恋の空気に染まる中。
「おまじないを、ひとつ」
お教えしましょう。ユメリアがそっとグラスを引き寄せる。
「今は、こうして冷たい水に浮かべていますけど……」
鍵はこの、蜂蜜につけたレモン。用意するのはそれだけだ。
「手ずからつけたものを、気になる相手に食べてもらってください」
勿論、大切な気持ちを込めて。
「甘ければ、良い関係が築けるでしょう。酸い場合は……」
悪い、と言ってしまえばそれまでだけれど。
「……ですが、諦めずにいるならば、いずれ、甘くなる道もあるでしょう」
ユメリアが竪琴で紡ぐ詩に、のせるのは誘いの呪文。
広い宇宙の数ある一つ この広い世界の中で
小さな恋の想いよ届け 大きな縁のあなたの元へ
恋を。そう限らなくとも誰かへの想いを。
相手ありきの心の物語を好むのは種族問わず、少女達の目に熱が灯る。掴みは十分、微笑んだユメリアがエステルへ視線を向ける。
あなたがいなければこの世界はもっとくすんで見えた
暗い夜道日々照らす月
確かに道を示す存在なのだ、と。
微笑みを返して続きを担うのはエステル。
星のように降ってくる想いも
密かに育てる想いも
優しく花咲き実りますよう……
音は続いている。メロディが二巡目に入り、ルナのリュートの音が重なった。ハンターの詩が誘って、巫女達が返して。交互に、順番に。
「エステルちゃん、未悠ちゃんもどうかな」
フルートの音色とハミングが重なる。楽器がなくとも、聞く側でも、小さなハミングが少しずつ増えていく。
貴方が背中を押してくれたから 前に踏み出せた
貴方の風を感じられたから 詩も歌えた
歌を風に乗せて 詩が届く場所に風もきっと届くから
私の詩で貴方の支えになりたい
歌い終えても曲は続く。次は巫女の手番。
リュートの手は止めずに親友へと視線を向けるルナ。
(大丈夫だよ)
これで、わかってくれたかな。言葉で返すよりきっと、この方が私らしいと思うから。
次は自分の番。ユメリアのおまじないを思い出しながら、未悠が蜂蜜漬けを、ぱくり。
(私の、気持ちみたいに……甘酸っぱい)
この想いを詩に……
我儘が許されるなら
あなたの心からの笑顔が見たい
その心に触れたい
勢い任せじゃなくて
私の手を誘って
●
「美味しい料理を食べて楽しく過ごす交流会って聞いたよ」
そう言って深守・H・大樹(ka7084)からの誘いがあったから、トラウィスは素直についてきたのだ。
「交流……食べながら話すのは、マナーとしてよくないのでは?」
そもそも美味しい料理、というところからわからない。わからないことが不安になったとか、そんなつもりは毛頭なくて。トラウィスはただ疑問だったから聞いてみただけだ。
既に合コンへの疑問は解決したことになっている。
(大ちゃん様が誘ったという事は、大事なのだろう)
護る為に必要なのは人の配置や行動だと考えているからだ。
「他の人が話しているときに、食べればいいんじゃないのかな」
「成程」
演奏の合間、ゲームの合間。改めて会場を見渡して、確かに大樹の言う通りだと頷いた。
「何故、持ち寄っては駄目なのですか……」
料理を食べながらもサクラ・エルフリード(ka2598)はまだ諦めていなかったようで、未練に満ち溢れた声が漏れてきている。
「料理、美味しいの作ろうと思ったのですが残念です……」
「……サクラ? 大人しく、ジュース飲みながら此処に座ってやがれ」
すかさず念を押すシレークス(ka0752)の声の響きと口調に驚いて、近くに居た巫女達が目を瞬く。
「お姉さん?」
「まあ、聞き間違いですよ、わたくし敬遠なエクラ教シスターですから」
流れるようにフォローする彼女に巫女達は流された。チョロい?
「ありがとうございますねえ、可愛い娘達の注ぐお酒は美味し……いえゆっくりたしなむお酒って良いものですよね」
お酒が飲める年になったらご一緒しましょうねと言いながら、そっと口元にハンカチをあてるシレークス。大丈夫、よだれなんて出ていない。
「せっかくの機会ですし、私もお酒でも」
「ほらサクラ、おめーはこっちです」
すかさず差し出すジュースのコップ。醜態を晒さぬようにとシレークスの警戒態勢は万全だ。その分自分の言動が時々危ういけれど。
「わあ、お姉さんは手際が良いですね!」
大丈夫、この巫女チョロい!
「お酒いっぱいあるのに飲めないなんて……」
サクラは自覚がないが脱衣癖がある。ひどいときは周囲も道連れにする。だからはこんなときとても不便だ……周囲が。
「しょうがないです、演奏でもして気分を変えましょう」
相棒が止めるなら理由があるのだと一人納得する。酔った記憶がないので原因も知らないサクラは深く考えない。
APVにはガラクタから掘り起こされた楽器が置かれているので、それを借りればいいだろう。
(曲目は……)
迷ったが弾き慣れた旋律を繰り返すことにする。落ち着いたメロディはきっと、巫女達の心を安らかにできるはず。
「では美味しくある必要性は」
食べながら訪ねてくるトラウィスの言葉に少し、考える仕草を見せる大樹。
「オートマトンはこういうの疎いって言う人もいるけど、楽しく食べられたらやっぱり美味しいって思うかな」
少なくとも僕はね、と続く。
(味覚って案外気分なのかな?)
断言できるわけではないので、言葉にはしない。けれど自分が感じとれることは伝えられる。大樹が口を開こうとしたところで、再び周囲を見回したトラウィスが先に言葉を紡ぐ。
「何より栄養補給は活動するうえで欠かせぬことと考えます」
視線で、王様ゲームの様子を示す。まさに大食い勝負が行われているところだ。
「成程あれほどのカロリーを得るならば素晴らしい会かと思われます」
「ははっ」
生真面目なのにずれてしまったその感想で、大樹の顔に笑みが浮かぶ。
「ふふ……トラちゃんくんと一緒だと楽しいから、美味しく感じるよ」
エネルギー獲得の為だけのはずなのにね。
(うーん、オートマトン的には自我メンテナンスの充足行為?)
釣られて真面目に考えてはみたけれど。大樹はすぐに考えるのを放棄した。
「僕ね、トラちゃんくんと楽しく食べられればそれでいいや」
それが分かってればいいんじゃないかな。
「楽しく」
わからないとは思うものの。話しかけられれば答えるし、実際美味しそうに食べている皆の顔を見て、試しに自分の頬を手で押して、真似てみる。
「他者とのコミュニケーション能力を鍛える会だと理解致します」
頷いて満足したトラウィスは、再び食べる行為に戻っていった。
「……3番……膝枕、させて」
星空の幻の指名に飛びつくように寄っていくシスター。
(んふふ……これは役得ですねえ)
そう、見られないのをいいことに顔面が崩壊したシレークスだ。
「何かシレークスさんがそうしてると、こう……怪しいお店のお客っぽい雰囲気が」
途中で相棒の鋭い視線が向けられたので、後半は小声になるサクラである。完全に圧倒されているのだった。
「何を言いますか、これはゲームのルールで決まった事なのですよ」
いいですね王様ゲーム……シレークスは今少女の太腿効果で心身ともに絶好調だ。
ちなみに、星空の幻が作った籤で仕切り直された王様ゲーム。喜んだのはキッチン担当者達だとか。
「考えてなかったんだよなあ」
「俺もだ、どーすっか?」
命令に悩んだボルディアと光の2人へ、酒の入ったグラスを渡すのはGacrux。
「これでも飲んで落ち着きましょう」
「よし、一緒に呑め!」
「それだ!」
「えぇ?」
まさか自分が指名されるとは。しかし既に酔っ払いでもある二人だ。一度大きく瞬きしたものの、すぐに頷く。
「わかりました、ご一緒いたしますね」
●
アリア・セリウス(ka6424)は恋の経験がないからと、聞き役に徹していた。
(……同じではないかもしれないけれど)
巫女達の目を見て思いつく。キラキラと輝くものは、喜んでもらえないだろうか?
「そういえば」
だから順番が一回りした後に、秘密を教えるような声で聞いてみる。
「貴女達の森だと、宝石などは手に入りにくいのかしら?」
そっと取り出すのは蒼界で知った樹液の加工品。形を整えたり、磨いたり。手間をかければ更に輝く、けれど樹木の恩恵で作られる輝き。
親しんだ樹から生み出される宝石のようなそれは、確かに少女達の視線を釘付けにしたのだ。
「森で、作れるかはわからないわ」
柵や伝統を全く理解していないというわけではない。彼女達にとって森は生きるための家であり砦であり、皆の財産でもあるから。
「でも……綺麗ね……!」
ただ、今。輝きに魅入られるくらいは、当たり前のこと。
「是非私も混ぜてもらえるか」
紫炎が加わり、これまでに参加した依頼の話が上がりだす。東方の服装や料理など、女性の好む話題はやはり反応がよい。巫女という立場に意識を高く持っている巫女であっても、気になるものは隠しようがないらしい。
「自由な風の吹く地の、気儘な精霊達……宝石の輝きをその身に宿して、出会いを繋いで、新しい暮らしを始めるお話……」
アリアが語るのは同盟で出会った精霊達の物語。歌うような語り口に、皆も誘われ聞き入っていく……
本当に普通の少女達なのだと思う。巫女という括りは彼女達にとって特別でも何でもないのだろうか。エルとしてはモヤモヤと……物足りない、というべきなのだろうか。他とは違う教育を受けた、仲間のような意識がある。
「東方やリアルブルーの話に興味はありますか?」
だから自分の思いを見極めるためにも、頃合いを見計らって、聞いてみた。
「面白いことや楽しい話は好きよ!」
「私は東方の、結界術? が気になるの」
様々に、好き勝手な返事。個性と同じ、違う形のあつまり。
(気にし過ぎたのかもしれませんね)
仲良く出来ればそれでいいのだと、胸の内の雲を晴らしながら。概要しか知らないけれど、そう告げてからどこから話すべきか考える。
「先に、知っていることを確認していいでしょうか?」
だから今は会話を。お互いを知る為にも。
「今日も仕事扱いですか」
書き留めているパウラに声をかけるエラ。
「趣味でもあると思います」
図書館での仕事を好んでいたので。
(残業に見えますが)
声には出さない。
「他にも居ると?」
「特に高齢だと顕著です。森の娯楽でもあるので」
「図書館でしたか」
茶を淹れて、サーターアンダギーを添え差し出す。
「ありがとうございます……以前はそこに居ました。でも外の情報を実際に知る事が出来る今は、違う楽しみがあります」
同意するように、他の少女達も寄ってきた。
「……先日の号外は、エルフハイムにも?」
政治への関心を持つ娘も居るだろうか。
「長老様が紙面を持ち帰ってました!」
「あたし達は帝国の人達とお仕事するけど」
「外に出ないおじいちゃんとか、関係ないって顔してる……のかな?」
「長老様なら大丈夫って言ってたり?」
他人事の話し方だ。
(でも、見ているものですね)
●
メイムが選んだ、湯がいた麺に載せる具は茹でもやしとスライスして炙った鴨。
「ご賞味あれ♪」
出来立ての一杯はカミラに。
「私が先でいいのか? 貰うが」
遠慮らしき台詞を言いつつも受け取るカミラ。まずはスープを一口。麺と具を一度別々で食べてから、全て纏めて一口。
「後でいいからレシピをくれ」
感想の前に欲が先に出た。
「同じ場所に住む者同士組み合わせるのとは違うのだな。なのに味がぶれていない」
啜ることができないのが残念だ。言葉を挟みながらもフォークを持つ手が止まらない様子に、メイムは得意満面の笑顔を浮かべた。
シードルを注がれながら本題を切り出す奏。
「新しいレシピをお教えしようと思いまして」
ドネルケバブという蒼界のレシピだと、メモを差し出す奏。
「律儀なものだな」
視線はメモに向けつつ、どこか呆れたように笑うカミラ。おやと思うが気付かぬふりをする奏。
「要らないので?」
「私のだ」
するりとメモが引き抜かれた。奏に抵抗の予定はなかったが、素早い。
「カミラさんなら基本形からこの世界独自のバリエーションを生み出せると期待しています」
「その期待は私の望みでもある。言われるまでもないさ」
「いずれ、カミラさんが作った料理を味わってみたいですね」
「前に食べなかったか? しかし……言い方には気をつけた方がいいぞ」
私だから問題ないが。天然なのか?
「そうでしたか?」
雪の日の軽食は別件だと主張して、他は流した。
(その機会が訪れる日まで……観察を続けましょう)
少女達を眺めながらリクもシードルの相伴にあずかる。聞きたいのはもう一つ。
「他は元気にやってますか」
リクが特に気にするのはハジャやアイリス。
「とりあえず収まってくれている。だと。保護者殿の言葉だな」
ユノ(ka0806)がどんなに見回してもミナお姉さんとアイは居ない。
「ふぎゅー……」
けれど顔をあげ笑顔をつくった。お姉さんいっぱい居るし!
「お菓子を作るのだー☆」
甘いものを自分で作っちゃおう!
(美味しかったお菓子、メモしてきたもんねっ)
貰ったそのときの気持ちを、誰かに分けてあげたいんだ☆
ルカ(ka0962)は着いて早々にキッチンの一角を占領した。
(自分好みに載せられるようにすれば、数が増やせるでしょうか)
大量の米を炊き、ピザ生地を仕上げ、パンをスライス。主食の仕込みが終われば具も大量に。野菜は食べやすい大きさに、肉や魚は味をつけてそのままでも食べられるくらいに。チーズはスライス。
麺茹では中盤から。鍋の隣で、その前に茹でていた芋を潰してコロッケに。手際に全く無駄がない。
炊けた米飯の一部は酢飯にしておにぎりと寿司の住み分けを。サンドイッチは一部は作っておけば見本にもなるだろう。
けれど。
(時間が、足りないかもしれません)
早めに動いたが、開始時間は迫っていた。
(菓子類も手をつけなければいけない時間です……!)
「単純作業でよければやっておきます」
声をかけると同時に滞っていた作業を引き継ぐエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)。サーターアンダギーを作り終えた彼女が状況を把握したら。
「間に合わせます。指示を」
得意の管理スキルが炸裂するようだ。
「食べ慣れていそうなものと言ったら……」
蒸した甘藷の乱切りと、ペーストにマヨネーズとマスタード、黒胡椒を混ぜ込み鳳凰院ひりょ(ka3744)はサラダを作る。
そのまま食べられる野菜や果物は切り方を工夫。少しでも目新しさがあるように。
切り屑が出たら纏めてポタージュに使ってしまおう。口当たりがやさしいはずだ。
「森の外……そうだ」
サンマを半身に捌いて、梅肉と味噌を使ったタレを塗って焼けば海の香りがするだろう。
エルバッハ・リオン(ka2434)も果物をカットしている。
(十分な量がありますし。心配も不要でした)
サラダやスープを作ったが、自分で組み合わせる方法を見て、目からウロコというべきか。今は指示を貰って、少しでも量を多くそろえられるよう、丁寧に、けれど迅速に今は専念するとしよう。
メイム(ka2290)はフォーを作っていた。
(どんなグルメレポート聞けるかな?)
狙いはカミラの破顔である。
(名目上の合コン相手、女の子だし)
実際の趣旨は違うと聞いても、合コンの本来の意味を知る身としては……食の道を行こう。
米粉麺は念入りに手打ち。量は作れないがそこは一人をうならせるためだ。パーティー料理の一部なのだから、小分けで出せばいい。
傍のコンロでは持ち込んだ鉄人の鍋で特性のスープ作り。灰汁をとるのも丁寧に。雑味は極力なくしたい。
エステル・クレティエ(ka3783)は良い機会だと思ったから。
「……まだ愛想つかしてない?」
居ないからこそ聞けることを、親友の耳元に、こそり。
「えっわっ? ……っ!?」
手元が狂って、慌ててボウルを抑える。ルナ・レンフィールド(ka1565)は少しだけ恨めしい気持ちを視線に混ぜて振り返る。
(すぐには答えてあげない)
今は、小さく微笑むだけに留める。
「色んなアレンジを試してみましょう?」
少女達はいつもと違う髪型に目を輝かせた。順番待ちの子なんて、用意されたリボン選びに夢中になっていたりする。
(ほんの少しいつもと違うだけでも、気分は変わるものだから)
高瀬 未悠(ka3199)の口元に笑みが浮かぶ。
「……クリスマスやハロウィンみたいな感じなのかな……?」
「パーティーだと聞いたけど、違うの?」
星空の幻(ka6980)の零した呟きに答えるのは巫女。
「パーティーの、料理……難しいけどコーヒーなら……」
「わあ、楽しみにしてるね! でも、こーひー?」
「ん……好きは、ブラック。だけど」
初めて飲む者達の為にミルクと砂糖は多めに用意したほうが良さそうだ。
(初心者向けの、ブレンド……も、必要?)
同じく拘る仲間が居た時の為にも、数種類用意してみよう。
●
「お久しぶりです、カミラさん。しばらくお会いできませんでしたが、お元気そうで何よりです」
「奏か! しばらくぶり……ん、心配させていたのか?」
いつかの逆だと笑うカミラに、音桐 奏(ka2951)も薄く笑う。同じ応酬。変わらない様子に内心ほっとする。
「慰安って聞いてたけど合コン……えぇ!?」
キヅカ・リク(ka0038)が叫んでカミラを探す。
(久々に時間出来たから聞きたいことも……って、居た!)
「彼女達が楽しめれば構わんぞ?」
そう許可をもらったリクは大きく息を吸った。
「いいか皆! 合コンの発祥の地、RBのトウキョウでのお作法を教えてあげる! ウェーイ!」
「「「ウェーイ!」」」
「そうその調子で語尾に付けるんだ! 次は僕と一緒に……テンアゲでウェーイ!」
「「「テンアゲでウェーイ♪」」」
少女達は合コンでの挨拶だと認識し、互いにウェイウェイやっている。ハイタッチも混じった!
(どーすんだよ、この空気!?)
やらなければいいのに。
「カミラさんはまともだと思ってた日が僕にもありま……おっといけない」
ウェイ伝道師がそれを言うのか。
「ん? そう思う者の方が稀だぞ?」
しれっと返され三年前を思い返す。変人の気配はあった……かも。
盛り上がった空気の中グラスを配るGacrux(ka2726)。盆に載せたグラスの中身は事前に酒場に頼んだ品だ。相手を見て酒か否かを決めている。
そして、持参の高級酒もあけどきだ。
「私にもそれを」
振り返ればカミラ。
「はい、お待たせしておりましたか?」
「いいや」
「よい酒でしょう?」
「使い方は個人の勝手だと分かっちゃいるが」
いい酒だと頷く割りに眉が下がっている。
「とっておきは自分の為に開けろ」
これも私の勝手な言い分だ。詫びに後日補填すると言い置かれた。
(男性に慣れていないかと思っていたけど)
キッチンと会場を往復しながら、鞍馬 真(ka5819)はほっと息を吐く。それこそ軽薄に見えないよう気を配り、失礼にならないように様子を伺っていた。巫女達の応対は自然で、緊張も見られない。
(一人、どうしても例外はいるようだけど……)
視線を向ければ、丁度挨拶を受けているようで。
「私は紫炎。よろしく頼むよ」
ゴウコンを良くは知らないと言いつつも、自己紹介から始めた時点で紫炎(ka5268)は本来の合コンのルールにのっとった形になっていた。偶然だが。
「帝国の巫女には興味がある」
「いえ、帝国ではなくエルフハイムの巫女ですわ」
フュネがすかさず口を挟む。声は鋭いものではない。不運な誤解だろうと察していても、聞き逃せなかったらしい。
「それはすまない。……浄化術の行使。日々を大変な職務を負っているのだろう、それは素直に賞賛に値すると思うし、それを直に伝える機会は貴重だと思ったのだ」
「わざわざありがとうございます……私も、大人げなく申し訳ありません」
「私はハンターではあるが、田舎より来た武人の1人に過ぎない」
無礼があったら指摘を頼むつもりが、既に一本取られてしまったな。空気を解そうと笑みを交える。フュネも察した後、恥じ入ったようで頬が染まった。
(しかし……変化するものですね)
かつてGacruxが差し出したボトルは手元に残った。今はグラスを受け取っている。巫女が変わったのか、それとも周囲か。どちらが先か、後か……
見えるものがあるかもしれないと、さりげなくフュネを観察してみる。
「何か?」
「いいえ、おかわりはいかがですか」
「今はいいですわ、ありがとう」
あっさりミルキーに仕上げたクレームブリュレの決め手はビターのカラメル。甘さの中にもメリハリを。
甘藷の形そのまま使った船にカスタードクリームを載せて、丁寧に練り上げたペーストは焼かれた照りも美しいスイートポテト。
塩味を利かせたバターパンは食事としても。チョコがけラスクは病みつきになってしまう筈。
生キャラメルを絡めても後引く美味しさ……
菓子も料理は選びたい放題。ボルディア・コンフラムス(ka0796)の片手は常にお酒のグラスで埋まっているけれど。間違いのない組み合わせで食べて、少し冒険して変わり種を試して。気に入ったらおかわり。新しい皿が出て来たら、美味しいうちに一口。
「それ美味そうだな! 同じの試していいか?」
会場内を一所に留まらない分、合わせる顔それぞれに声をかける。今もトラウィス(ka7073)の気に入った味付けを興味津々で教わっている。
「美味い! 味覚は同じだよなあ。なあ、巫女って普段どんな生活してンだ?」
今度は巫女の方へ。違うところがあるのか、気になったのもある。
「修行の時間以外は、皆と変わらないと思うよ?」
「修行か。やっぱ四六時中カミサマに祈ったりとかか?」
「祈るより、マテリアルをより深く感じ取れ、って言われるかなあ」
「猫さんにゃぁ?」
星空の幻も挨拶がわりに片手をあげた。着ぐるみと相まって招き猫みたいだ。はじめは光と一緒に居たのだが、もふもふ好きの巫女達に可愛がられてからは共にいる。
時々、気付いたら飲み物をサーブしているのも好感触だ。
趣旨を聞いて一度は肩を落としたものの、料理が絶えず出てくる状況に上機嫌な玄武坂 光(ka4537)。
「一杯あるみてぇだし食わなきゃ損だぜ」
食われない料理が可哀想だしな、なんて理由もつけて食べていく。一部メニューをどこかで食べたことがある気がして、首を傾げた。
(なんか……ん? 配膳してるのに見知った顔がいるな)
丁度よく視界に映る雇い主。
「ひりょ、あんた給仕なんかやってるのか?」
「光が居るからやってるんだよ。食べ尽すなよ?」
人手は思ったより足りていたが、消費スピードと拮抗していると話すひりょ。
「そんじゃ、あんたの分まで食っちまうぜ?」
「俺の分ならいいって言うのか……」
言葉通り皿の中をかきこむ光。
「っ! ……ぐぉっふっゲホッ!」
「言ってる傍から! 大丈夫か?」
軽く背を叩いてやり、ひりょが水を差し出す。どちらが使用人なのだか。
「少しくらい食休みを入れておけよ」
「あぁー悪い……ちっと休憩するか」
「今回の私は完璧にやってみせるよ!」
勘違いの記憶は成功のもと。夢路 まよい(ka1328)は振り返らない。
「合コンの定番といえば~、何とか線ゲーム!」
ゲームと聞いて巫女達が寄ってくる。遊びと聞けばわくわくする程度に子供なのだ、彼女達は。
「リアルブルーでいう電車で、ぐるぐる回る線路のがモデルだって」
金属の道を走る細長い車……って説明でいいのかな? トラックやバイクよりももっと大きいのだと、両手を広げてみせるまよい。
「つまり、みんなで繋がって電車ごっこしながらグルグル回る?」
実際にまよいがデリアの後ろに回って、伸ばした腕を肩に置いてみれば。巫女達は真似してどんどん連なっていく。
ぐるぐる……グルグルグル……
身体能力が高い覚醒者が混ざることで、アトラクションじみた速度が出ている!
「「「め、目が……」」」
はじめは楽し気な黄色い悲鳴も、次第に静かに……
「え、違うっぽい?」
指摘に戸惑うまよいだけれど、巫女達共々楽しんだので問題はない。正しいルールを聞いてから、巫女達と相談に入る。
「じゃあそれもやらせて貰いましょう」
まよいの提案に集ったハンター達も加わり「スイーツ」をテーマでやってみたところ。各自おすすめショップの情報交換にもなって有意義な時間になったのだった。
「なるほど、情報交換ツールなのね」
またひとつまよいは賢くなった……はず。
●
「王様ゲームもするんだったな!」
勝負して、買った方が命令するって聞いたことがある。そうボルディアが声をあげて、概要を聞いた者たちが我こそはと集まりだす。
「つーワケで、俺と勝負したいヤツはいねぇか?」
呑み勝負でも腕相撲でも、なんでも受けて立つぜ!
「偉くなれるのか?」
喉の調子も落ち着いてきた光が勢いを取り戻して参戦の意思を見せる。
「面白れぇ、やってやろうじゃねぇか! いくぜ、燃えろ俺のマテリアル!」
目の輝きが強くなる。勢い任せでマテリアルが炎の演出まで始めている。光の体内に蓄えられたエネルギー(食料)も早々に燃え尽きそうだ!
「大食い勝負なんてどうだ!」
盛大に腹の虫が鳴きながら宣戦布告。これは勝ちに来ているー!?
「何やってるんだか」
楽しそうな声で、空気まで清浄になっている気がするのは巫女だからだろうか。
(なんてな)
慰労が成功しているということなのだろう。安堵の笑みを浮かべたひりょは、配膳先とは別の集団からの声を聞いた。
「まて大食いって、作る速度を上げないと!?」
大慌てでキッチンへと戻っていく。
のんびりと声の上がる方に行けば、星空の幻の見知った顔が大食い勝負をしている。
(……おおさまげーむ?)
思っていたのと違う。しばらく観戦して、キリが良いところで正せばいいか。籤を作って待とう。
おかわりのグラスをもって、真はフュネに歩み寄る。
「きみもちゃんと楽しめてる?」
「ええ、楽しませてもらっておりますわ」
返される微笑みがどこかぎこちないように見えたのは、自分に身に覚えがあるからかもしれない。自分のことより、周囲に気を回し過ぎている者の目だと思った。
「たまには肩の力を抜いても良いんじゃないかな」
君の慰労でもあるんだろう、今日は。
「私は十分ッ」
「最後に夢を見たのはいつ?」
「……」
覚えていない、と小さな返事。
「休める時には休む。とても大切なことだね」
今日みたいに、手を貸してくれる人は居るはずで。私達もその中の一部だと伝える。
「今日は、皆に早く休むよう言いますわ」
少し、続きを待った。
「……私も」
「なら、安心だ」
「えっ未悠? 何でこんな処いるの」
「皆で遊びに来たの。リクは楽しんで……いたわね?」
洗脳(?)現場を思い出して、未悠の片足が少し下がった。
●
エステルがバットで沢山作ったものを型で抜いたり、荒く潰したり。四角に切りそろえたものをそれぞれ別の器に入れて、大きめのスプーンを添えてある。
始まるまでは改めて冷やして、その間にクリームやフルーツも準備しておいた。グラスを人数分用意すれば、好みで作れるセルフパフェの仕込みは完成だ。果汁の鮮やかさが光を反射しふるふると輝くゼリーはもちろん、落ち着いた色合いのミルクや紅茶のムースは他よりも食感を感じられるように。星や葉の型を使ったのは少し、森を意識したから。
「可愛いも、美味しいに繋がるんですよ」
「記念にカメラに収めましょう♪」
作り手と共に、たくさんの可愛いが詰まったパフェをエステルの魔導カメラが撮っていく。折角の綺麗に仕上がったパフェを崩したくないと考えていた少女達もこれならと喜んで、少しずつ口にして笑顔になる。
「ほら、言ったでしょう?」
楽譜に音符をちりばめるように、流れを意識して盛り付けたのはユメリア(ka7010)。食べやすさは多分、二の次。
「ああっ、目の前に天国が……! 埋もれて死んでも本望だわ」
好きなものを自分の手で完成させる、その充足感は計り知れない。だからこそ心のままに、未悠も山というよりタワーを作り上げた!
「未悠さんそんなに盛ったら崩れ……っ」
「食べきれる……の……?」
エステルの声に心配そうにルナが見れば、あーん、と差し出されるスプーン。
「大丈夫、食べきれるから」
これはほんの少しのお裾分け。
しょうがないなあと言いながらも笑顔で口を開ける。だって美味しいのはわかっているのだから。
「……あーん?」
時間をかけて出来た生地は細く長く。捻じって焼いたら可愛らしく出来たと思う。挟んだクルミも砂糖と絡んで香ばしい。……のに。
「ぼそぼそ、じゃりっ?」
測り間違えた何かが悪さをしているみたいだ。
「パフェと一緒にしたら柔らかく食べれるよ」
だから大丈夫とユノの頭を撫でる巫女。そのままユノの料理の発表会へ。
潰したお芋を濾して、少しだけ調味料を混ぜて固めて。綺麗に切りそろえた時のあまりをひとくち。
「しょっぱーい!?」
「チーズのせて焼けば、おつまみになりますよ」
無事に酒の席にひきとられユノはほっとする。
とっておきのクルミと干しブドウ入りのパンは綺麗にできた。薄めに切って、ラスクにもして。
「もっと甘くて美味しくなるのが、一番だよね☆」
仕上がりはパーフェクト。ユノの満面の笑みが浮かんだ。少年の笑顔に、北湖りとした空気も流れたのだった。
●
「ねぇ、皆は好きな人はいる? 私の好きな人はね、この世界で一番いい男よ!」
未悠の宣言は一瞬皆の時を止めて。
「「「どんな方?」」」
すぐに黄色い声が上がった。
恋の空気に染まる中。
「おまじないを、ひとつ」
お教えしましょう。ユメリアがそっとグラスを引き寄せる。
「今は、こうして冷たい水に浮かべていますけど……」
鍵はこの、蜂蜜につけたレモン。用意するのはそれだけだ。
「手ずからつけたものを、気になる相手に食べてもらってください」
勿論、大切な気持ちを込めて。
「甘ければ、良い関係が築けるでしょう。酸い場合は……」
悪い、と言ってしまえばそれまでだけれど。
「……ですが、諦めずにいるならば、いずれ、甘くなる道もあるでしょう」
ユメリアが竪琴で紡ぐ詩に、のせるのは誘いの呪文。
広い宇宙の数ある一つ この広い世界の中で
小さな恋の想いよ届け 大きな縁のあなたの元へ
恋を。そう限らなくとも誰かへの想いを。
相手ありきの心の物語を好むのは種族問わず、少女達の目に熱が灯る。掴みは十分、微笑んだユメリアがエステルへ視線を向ける。
あなたがいなければこの世界はもっとくすんで見えた
暗い夜道日々照らす月
確かに道を示す存在なのだ、と。
微笑みを返して続きを担うのはエステル。
星のように降ってくる想いも
密かに育てる想いも
優しく花咲き実りますよう……
音は続いている。メロディが二巡目に入り、ルナのリュートの音が重なった。ハンターの詩が誘って、巫女達が返して。交互に、順番に。
「エステルちゃん、未悠ちゃんもどうかな」
フルートの音色とハミングが重なる。楽器がなくとも、聞く側でも、小さなハミングが少しずつ増えていく。
貴方が背中を押してくれたから 前に踏み出せた
貴方の風を感じられたから 詩も歌えた
歌を風に乗せて 詩が届く場所に風もきっと届くから
私の詩で貴方の支えになりたい
歌い終えても曲は続く。次は巫女の手番。
リュートの手は止めずに親友へと視線を向けるルナ。
(大丈夫だよ)
これで、わかってくれたかな。言葉で返すよりきっと、この方が私らしいと思うから。
次は自分の番。ユメリアのおまじないを思い出しながら、未悠が蜂蜜漬けを、ぱくり。
(私の、気持ちみたいに……甘酸っぱい)
この想いを詩に……
我儘が許されるなら
あなたの心からの笑顔が見たい
その心に触れたい
勢い任せじゃなくて
私の手を誘って
●
「美味しい料理を食べて楽しく過ごす交流会って聞いたよ」
そう言って深守・H・大樹(ka7084)からの誘いがあったから、トラウィスは素直についてきたのだ。
「交流……食べながら話すのは、マナーとしてよくないのでは?」
そもそも美味しい料理、というところからわからない。わからないことが不安になったとか、そんなつもりは毛頭なくて。トラウィスはただ疑問だったから聞いてみただけだ。
既に合コンへの疑問は解決したことになっている。
(大ちゃん様が誘ったという事は、大事なのだろう)
護る為に必要なのは人の配置や行動だと考えているからだ。
「他の人が話しているときに、食べればいいんじゃないのかな」
「成程」
演奏の合間、ゲームの合間。改めて会場を見渡して、確かに大樹の言う通りだと頷いた。
「何故、持ち寄っては駄目なのですか……」
料理を食べながらもサクラ・エルフリード(ka2598)はまだ諦めていなかったようで、未練に満ち溢れた声が漏れてきている。
「料理、美味しいの作ろうと思ったのですが残念です……」
「……サクラ? 大人しく、ジュース飲みながら此処に座ってやがれ」
すかさず念を押すシレークス(ka0752)の声の響きと口調に驚いて、近くに居た巫女達が目を瞬く。
「お姉さん?」
「まあ、聞き間違いですよ、わたくし敬遠なエクラ教シスターですから」
流れるようにフォローする彼女に巫女達は流された。チョロい?
「ありがとうございますねえ、可愛い娘達の注ぐお酒は美味し……いえゆっくりたしなむお酒って良いものですよね」
お酒が飲める年になったらご一緒しましょうねと言いながら、そっと口元にハンカチをあてるシレークス。大丈夫、よだれなんて出ていない。
「せっかくの機会ですし、私もお酒でも」
「ほらサクラ、おめーはこっちです」
すかさず差し出すジュースのコップ。醜態を晒さぬようにとシレークスの警戒態勢は万全だ。その分自分の言動が時々危ういけれど。
「わあ、お姉さんは手際が良いですね!」
大丈夫、この巫女チョロい!
「お酒いっぱいあるのに飲めないなんて……」
サクラは自覚がないが脱衣癖がある。ひどいときは周囲も道連れにする。だからはこんなときとても不便だ……周囲が。
「しょうがないです、演奏でもして気分を変えましょう」
相棒が止めるなら理由があるのだと一人納得する。酔った記憶がないので原因も知らないサクラは深く考えない。
APVにはガラクタから掘り起こされた楽器が置かれているので、それを借りればいいだろう。
(曲目は……)
迷ったが弾き慣れた旋律を繰り返すことにする。落ち着いたメロディはきっと、巫女達の心を安らかにできるはず。
「では美味しくある必要性は」
食べながら訪ねてくるトラウィスの言葉に少し、考える仕草を見せる大樹。
「オートマトンはこういうの疎いって言う人もいるけど、楽しく食べられたらやっぱり美味しいって思うかな」
少なくとも僕はね、と続く。
(味覚って案外気分なのかな?)
断言できるわけではないので、言葉にはしない。けれど自分が感じとれることは伝えられる。大樹が口を開こうとしたところで、再び周囲を見回したトラウィスが先に言葉を紡ぐ。
「何より栄養補給は活動するうえで欠かせぬことと考えます」
視線で、王様ゲームの様子を示す。まさに大食い勝負が行われているところだ。
「成程あれほどのカロリーを得るならば素晴らしい会かと思われます」
「ははっ」
生真面目なのにずれてしまったその感想で、大樹の顔に笑みが浮かぶ。
「ふふ……トラちゃんくんと一緒だと楽しいから、美味しく感じるよ」
エネルギー獲得の為だけのはずなのにね。
(うーん、オートマトン的には自我メンテナンスの充足行為?)
釣られて真面目に考えてはみたけれど。大樹はすぐに考えるのを放棄した。
「僕ね、トラちゃんくんと楽しく食べられればそれでいいや」
それが分かってればいいんじゃないかな。
「楽しく」
わからないとは思うものの。話しかけられれば答えるし、実際美味しそうに食べている皆の顔を見て、試しに自分の頬を手で押して、真似てみる。
「他者とのコミュニケーション能力を鍛える会だと理解致します」
頷いて満足したトラウィスは、再び食べる行為に戻っていった。
「……3番……膝枕、させて」
星空の幻の指名に飛びつくように寄っていくシスター。
(んふふ……これは役得ですねえ)
そう、見られないのをいいことに顔面が崩壊したシレークスだ。
「何かシレークスさんがそうしてると、こう……怪しいお店のお客っぽい雰囲気が」
途中で相棒の鋭い視線が向けられたので、後半は小声になるサクラである。完全に圧倒されているのだった。
「何を言いますか、これはゲームのルールで決まった事なのですよ」
いいですね王様ゲーム……シレークスは今少女の太腿効果で心身ともに絶好調だ。
ちなみに、星空の幻が作った籤で仕切り直された王様ゲーム。喜んだのはキッチン担当者達だとか。
「考えてなかったんだよなあ」
「俺もだ、どーすっか?」
命令に悩んだボルディアと光の2人へ、酒の入ったグラスを渡すのはGacrux。
「これでも飲んで落ち着きましょう」
「よし、一緒に呑め!」
「それだ!」
「えぇ?」
まさか自分が指名されるとは。しかし既に酔っ払いでもある二人だ。一度大きく瞬きしたものの、すぐに頷く。
「わかりました、ご一緒いたしますね」
●
アリア・セリウス(ka6424)は恋の経験がないからと、聞き役に徹していた。
(……同じではないかもしれないけれど)
巫女達の目を見て思いつく。キラキラと輝くものは、喜んでもらえないだろうか?
「そういえば」
だから順番が一回りした後に、秘密を教えるような声で聞いてみる。
「貴女達の森だと、宝石などは手に入りにくいのかしら?」
そっと取り出すのは蒼界で知った樹液の加工品。形を整えたり、磨いたり。手間をかければ更に輝く、けれど樹木の恩恵で作られる輝き。
親しんだ樹から生み出される宝石のようなそれは、確かに少女達の視線を釘付けにしたのだ。
「森で、作れるかはわからないわ」
柵や伝統を全く理解していないというわけではない。彼女達にとって森は生きるための家であり砦であり、皆の財産でもあるから。
「でも……綺麗ね……!」
ただ、今。輝きに魅入られるくらいは、当たり前のこと。
「是非私も混ぜてもらえるか」
紫炎が加わり、これまでに参加した依頼の話が上がりだす。東方の服装や料理など、女性の好む話題はやはり反応がよい。巫女という立場に意識を高く持っている巫女であっても、気になるものは隠しようがないらしい。
「自由な風の吹く地の、気儘な精霊達……宝石の輝きをその身に宿して、出会いを繋いで、新しい暮らしを始めるお話……」
アリアが語るのは同盟で出会った精霊達の物語。歌うような語り口に、皆も誘われ聞き入っていく……
本当に普通の少女達なのだと思う。巫女という括りは彼女達にとって特別でも何でもないのだろうか。エルとしてはモヤモヤと……物足りない、というべきなのだろうか。他とは違う教育を受けた、仲間のような意識がある。
「東方やリアルブルーの話に興味はありますか?」
だから自分の思いを見極めるためにも、頃合いを見計らって、聞いてみた。
「面白いことや楽しい話は好きよ!」
「私は東方の、結界術? が気になるの」
様々に、好き勝手な返事。個性と同じ、違う形のあつまり。
(気にし過ぎたのかもしれませんね)
仲良く出来ればそれでいいのだと、胸の内の雲を晴らしながら。概要しか知らないけれど、そう告げてからどこから話すべきか考える。
「先に、知っていることを確認していいでしょうか?」
だから今は会話を。お互いを知る為にも。
「今日も仕事扱いですか」
書き留めているパウラに声をかけるエラ。
「趣味でもあると思います」
図書館での仕事を好んでいたので。
(残業に見えますが)
声には出さない。
「他にも居ると?」
「特に高齢だと顕著です。森の娯楽でもあるので」
「図書館でしたか」
茶を淹れて、サーターアンダギーを添え差し出す。
「ありがとうございます……以前はそこに居ました。でも外の情報を実際に知る事が出来る今は、違う楽しみがあります」
同意するように、他の少女達も寄ってきた。
「……先日の号外は、エルフハイムにも?」
政治への関心を持つ娘も居るだろうか。
「長老様が紙面を持ち帰ってました!」
「あたし達は帝国の人達とお仕事するけど」
「外に出ないおじいちゃんとか、関係ないって顔してる……のかな?」
「長老様なら大丈夫って言ってたり?」
他人事の話し方だ。
(でも、見ているものですね)
●
メイムが選んだ、湯がいた麺に載せる具は茹でもやしとスライスして炙った鴨。
「ご賞味あれ♪」
出来立ての一杯はカミラに。
「私が先でいいのか? 貰うが」
遠慮らしき台詞を言いつつも受け取るカミラ。まずはスープを一口。麺と具を一度別々で食べてから、全て纏めて一口。
「後でいいからレシピをくれ」
感想の前に欲が先に出た。
「同じ場所に住む者同士組み合わせるのとは違うのだな。なのに味がぶれていない」
啜ることができないのが残念だ。言葉を挟みながらもフォークを持つ手が止まらない様子に、メイムは得意満面の笑顔を浮かべた。
シードルを注がれながら本題を切り出す奏。
「新しいレシピをお教えしようと思いまして」
ドネルケバブという蒼界のレシピだと、メモを差し出す奏。
「律儀なものだな」
視線はメモに向けつつ、どこか呆れたように笑うカミラ。おやと思うが気付かぬふりをする奏。
「要らないので?」
「私のだ」
するりとメモが引き抜かれた。奏に抵抗の予定はなかったが、素早い。
「カミラさんなら基本形からこの世界独自のバリエーションを生み出せると期待しています」
「その期待は私の望みでもある。言われるまでもないさ」
「いずれ、カミラさんが作った料理を味わってみたいですね」
「前に食べなかったか? しかし……言い方には気をつけた方がいいぞ」
私だから問題ないが。天然なのか?
「そうでしたか?」
雪の日の軽食は別件だと主張して、他は流した。
(その機会が訪れる日まで……観察を続けましょう)
少女達を眺めながらリクもシードルの相伴にあずかる。聞きたいのはもう一つ。
「他は元気にやってますか」
リクが特に気にするのはハジャやアイリス。
「とりあえず収まってくれている。だと。保護者殿の言葉だな」
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おもてなし準備会場 Gacrux(ka2726) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/09/26 22:45:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/26 10:44:31 |