ゲスト
(ka0000)
王国最強ロボ――コンセプト編
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/09/29 12:00
- 完成日
- 2018/10/06 13:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
議論の声もパーツを加工する音も一瞬で消え去った。
「ハンターを開発から外すだぁ!?」
王国最高峰の技術者が歯を剥き出し無意識にハンマーを構える。
他国に劣る機械分野の技術者なのでリアルブルー基準ではやや優秀止まりである。
「わ、私はけっ……提案を伝えに来ただけですっ」
真っ青になった若手官僚が、這うようにして研究所から逃げ去る。
それを笑う者、怒りを抑えきれずに騒ぐ者、事情を飲み込めず戸惑う者全員が、手を打つ音で注意を引きつけられた。
「所長」
「相談役だ。そんなことより危機感を持ちなさい」
相談役という名目の所長に収まったリアルブルー人が諭すように言う。
「ハンターの目は何十万ドルもする測定装置に匹敵し、ハンターの腕は大企業が手放さない職人の腕に匹敵する。これなしで開発が間に合うと思うのかね」
顔色が悪くなる職員が多くなる。
「それに、予算を実際に握っているのは今の彼等だよ。人は感情でも動く。法の範囲内で怠業されただけでも月単位で開発が遅れるよ」
暴力的な熱気は完全に消えた。
リアルブルーの老博士が力づけるように微笑む。
「謝罪は私がしておこう。君達は資材の搬入とデータの整理をこのまま進めなさい。ハンターが来た時に一気に進めてしまいたいからね」
知識、技術、交渉力にカリスマの全てを兼ね備えた、理想的な上司にして研究者に見えていた。
●癒着
「最も控えめに表現しても危険人物です」
知己の老博士について尋ねられた司祭はそう言い切った。
「これを見て下さい」
リアルブルーから持ち帰ったらしい、古びたビデオデッキのスイッチを入れる。
同じく古びたブラウン管ディスプレイが時間をかけて起動して、ロッソが管轄しているはずの実験場を映し出す。
「貴様もう惚けたか! ハンターの足を引っ張る前に引退しろ」
「面白い冗談を言うねクソ蜥蜴君。それとももう目が悪くなったかなー、うーん?」
黒い竜と人格者のはずの老博士が唾を飛ばして罵倒しあっている。
地面が不気味に波打っているのは、ひょっとして高位歪虚による歪虚化だろうか。
「な、なんだねこれは」
「裏切りの証拠ではないか」
グラズヘイム王国の高官とサルバトーレ・ロッソの高級士官が死体じみた顔色になる。
老博士の知識と技術を惜しんで、牢獄行きでもおかしくない彼を連合宇宙軍に籍を置いたまま王国に送り込み受け入れたのだ。
裏切り者だとしたら推薦した彼等のキャリアもここで終わりだ。
「もしそうならとっくに対処しています」
司祭がコメントする。
なお、対処とは殴り込みからのメイスによる鎮圧である。
「この脆さはなんだ!」
黒竜がブレスをぶっ放す。
細く絞り込まれた炎がCAMの装甲だけでなくコクピットまで焼き尽くす。
「馬鹿なぁっ!?」
「俺と戦う前にクズCAMで殺するもりか、えェッ!? 奴らが事故で死んだら二度と強い人間と戦えぬだろゥガ!!」
映像と音が歪んでいく。
カメラが歪虚化したらしかった。
「この後3分後にロッソのCAM部隊と自動車化聖堂戦士団が突入しました」
竜種歪虚の姿は無く、研究所のCAMが歪虚CAMと戦っていたらしい。
少なくとも報告ではそうなっている。
「前回持ち込まれたのはその歪虚CAMの残骸です。ええ、我々も歪虚への内通や癒着を疑い徹底的に調べたのですが……」
重いため息。
「利敵行為をしているのは竜種歪虚です。強い人間と……ハンターと戦いたいから不定期に研究所に現れて協力しているようです」
人間に対する親愛は黒竜にはない。
激しい戦いとその上での勝利を求める欲望に忠実に従っているだけだ。
「また、罠を張って仕留める試みは全て失敗しました」
少数の覚醒者やCAMでは返り討ちになりかねず、確実に仕留められる戦力を集めている間に逃げられてしまう。
「国産CAMでしたか。私も王国出身ですので期待しています。竜だけでなく、討たねばならない高位歪虚はたくさんいますから」
残念ながら、CAM開発計画は別の方向へ歪められようとしていた。
●欺瞞
濃い灰色のCAMが立った。
がっしりとしているが魔導アーマー「ヘイムダル」ほどの厚みは無く、回避能力も期待できそうに見えた。
魔導エンジンは魔導型デュミナスの流用。
フレームには前回試作した特殊金属のうち最も安定したものを使用。
装甲にはマテリアルに反応する金属も使った複合装甲を採用。
所員は皆興奮して見上げている。
技術水準や政府のやりように不満はあっても愛着あるいは愛国心があるからだ。
「馬鹿共にはこれを渡して時間稼ぎをするぞ」
完全新規のCAMを開発したはずの老博士は、今にも唾を吐き捨てそうな顔だった。
「あの」
「これって王国国産CAMなんじゃ……いえ所長がほとんど造った機体ですけど」
はしゃいでいた王国人達のテンションが下がる。
アニメ的な意味ではない試作機なのに魔導型デュミナス並の性能がある。少なくとも書面上は。
「玩具だよ」
持ち込んだディスプレイに機体の状態が表示される。
「雑魔相手にダメージを受ける程度の装甲しかない。何より一線級のハンターの動きに追随できない」
高位歪虚お戦えば貴重なパイロットを犬死にさせることになる。
「いえ、ですが」
「動きはなかなかだと思いま……あっ」
CAMの足取りが激しく乱れた。
コクピットに繋がったスーピーカーから、聞くに堪えない嘔吐音が流れる。
「体の、感覚が、2つあ……ぅぷっ」
ドラゴン相手に一騎打ちして生き残れる騎士が、異様な感覚に堪えられずに目を回していた。
「造るだけなら簡単なのだ」
トマーゾ・アルキミアに劣るとはいえ比較できる程度に優秀な彼だからできるだけである。
「追求する性能と諦める性能を決めておかねば万能指向の欠陥機になる。開発時間短縮最優先のこれは悪い見本だ」
整備性と量産のし易さを重視した機体と、乗り手を限定しコストを考えず性能を突き詰めた機体は別種の存在だ。
希に両方の要素を高いレベルで満たす機体もありはするが、そんなものは例外中の例外である。
この機体は失敗の典型例であり、魔導型デュミナスを量産した方が圧倒的にましだった。
「素材の研究は続けるし機体の設計も複数案始める。だがその前に」
齢70を超え細くなった体が巨大に見えた。
「設計コンセプトを決める。スポンサーを誤魔化すためのものではなく、ロボ作りの夢を叶え、人類の勝利に貢献するめの、具体的な指針を決めるのだ!」
知性と狂気がもたらす熱が、所員達にじわりと浸透した。
「ハンターを開発から外すだぁ!?」
王国最高峰の技術者が歯を剥き出し無意識にハンマーを構える。
他国に劣る機械分野の技術者なのでリアルブルー基準ではやや優秀止まりである。
「わ、私はけっ……提案を伝えに来ただけですっ」
真っ青になった若手官僚が、這うようにして研究所から逃げ去る。
それを笑う者、怒りを抑えきれずに騒ぐ者、事情を飲み込めず戸惑う者全員が、手を打つ音で注意を引きつけられた。
「所長」
「相談役だ。そんなことより危機感を持ちなさい」
相談役という名目の所長に収まったリアルブルー人が諭すように言う。
「ハンターの目は何十万ドルもする測定装置に匹敵し、ハンターの腕は大企業が手放さない職人の腕に匹敵する。これなしで開発が間に合うと思うのかね」
顔色が悪くなる職員が多くなる。
「それに、予算を実際に握っているのは今の彼等だよ。人は感情でも動く。法の範囲内で怠業されただけでも月単位で開発が遅れるよ」
暴力的な熱気は完全に消えた。
リアルブルーの老博士が力づけるように微笑む。
「謝罪は私がしておこう。君達は資材の搬入とデータの整理をこのまま進めなさい。ハンターが来た時に一気に進めてしまいたいからね」
知識、技術、交渉力にカリスマの全てを兼ね備えた、理想的な上司にして研究者に見えていた。
●癒着
「最も控えめに表現しても危険人物です」
知己の老博士について尋ねられた司祭はそう言い切った。
「これを見て下さい」
リアルブルーから持ち帰ったらしい、古びたビデオデッキのスイッチを入れる。
同じく古びたブラウン管ディスプレイが時間をかけて起動して、ロッソが管轄しているはずの実験場を映し出す。
「貴様もう惚けたか! ハンターの足を引っ張る前に引退しろ」
「面白い冗談を言うねクソ蜥蜴君。それとももう目が悪くなったかなー、うーん?」
黒い竜と人格者のはずの老博士が唾を飛ばして罵倒しあっている。
地面が不気味に波打っているのは、ひょっとして高位歪虚による歪虚化だろうか。
「な、なんだねこれは」
「裏切りの証拠ではないか」
グラズヘイム王国の高官とサルバトーレ・ロッソの高級士官が死体じみた顔色になる。
老博士の知識と技術を惜しんで、牢獄行きでもおかしくない彼を連合宇宙軍に籍を置いたまま王国に送り込み受け入れたのだ。
裏切り者だとしたら推薦した彼等のキャリアもここで終わりだ。
「もしそうならとっくに対処しています」
司祭がコメントする。
なお、対処とは殴り込みからのメイスによる鎮圧である。
「この脆さはなんだ!」
黒竜がブレスをぶっ放す。
細く絞り込まれた炎がCAMの装甲だけでなくコクピットまで焼き尽くす。
「馬鹿なぁっ!?」
「俺と戦う前にクズCAMで殺するもりか、えェッ!? 奴らが事故で死んだら二度と強い人間と戦えぬだろゥガ!!」
映像と音が歪んでいく。
カメラが歪虚化したらしかった。
「この後3分後にロッソのCAM部隊と自動車化聖堂戦士団が突入しました」
竜種歪虚の姿は無く、研究所のCAMが歪虚CAMと戦っていたらしい。
少なくとも報告ではそうなっている。
「前回持ち込まれたのはその歪虚CAMの残骸です。ええ、我々も歪虚への内通や癒着を疑い徹底的に調べたのですが……」
重いため息。
「利敵行為をしているのは竜種歪虚です。強い人間と……ハンターと戦いたいから不定期に研究所に現れて協力しているようです」
人間に対する親愛は黒竜にはない。
激しい戦いとその上での勝利を求める欲望に忠実に従っているだけだ。
「また、罠を張って仕留める試みは全て失敗しました」
少数の覚醒者やCAMでは返り討ちになりかねず、確実に仕留められる戦力を集めている間に逃げられてしまう。
「国産CAMでしたか。私も王国出身ですので期待しています。竜だけでなく、討たねばならない高位歪虚はたくさんいますから」
残念ながら、CAM開発計画は別の方向へ歪められようとしていた。
●欺瞞
濃い灰色のCAMが立った。
がっしりとしているが魔導アーマー「ヘイムダル」ほどの厚みは無く、回避能力も期待できそうに見えた。
魔導エンジンは魔導型デュミナスの流用。
フレームには前回試作した特殊金属のうち最も安定したものを使用。
装甲にはマテリアルに反応する金属も使った複合装甲を採用。
所員は皆興奮して見上げている。
技術水準や政府のやりように不満はあっても愛着あるいは愛国心があるからだ。
「馬鹿共にはこれを渡して時間稼ぎをするぞ」
完全新規のCAMを開発したはずの老博士は、今にも唾を吐き捨てそうな顔だった。
「あの」
「これって王国国産CAMなんじゃ……いえ所長がほとんど造った機体ですけど」
はしゃいでいた王国人達のテンションが下がる。
アニメ的な意味ではない試作機なのに魔導型デュミナス並の性能がある。少なくとも書面上は。
「玩具だよ」
持ち込んだディスプレイに機体の状態が表示される。
「雑魔相手にダメージを受ける程度の装甲しかない。何より一線級のハンターの動きに追随できない」
高位歪虚お戦えば貴重なパイロットを犬死にさせることになる。
「いえ、ですが」
「動きはなかなかだと思いま……あっ」
CAMの足取りが激しく乱れた。
コクピットに繋がったスーピーカーから、聞くに堪えない嘔吐音が流れる。
「体の、感覚が、2つあ……ぅぷっ」
ドラゴン相手に一騎打ちして生き残れる騎士が、異様な感覚に堪えられずに目を回していた。
「造るだけなら簡単なのだ」
トマーゾ・アルキミアに劣るとはいえ比較できる程度に優秀な彼だからできるだけである。
「追求する性能と諦める性能を決めておかねば万能指向の欠陥機になる。開発時間短縮最優先のこれは悪い見本だ」
整備性と量産のし易さを重視した機体と、乗り手を限定しコストを考えず性能を突き詰めた機体は別種の存在だ。
希に両方の要素を高いレベルで満たす機体もありはするが、そんなものは例外中の例外である。
この機体は失敗の典型例であり、魔導型デュミナスを量産した方が圧倒的にましだった。
「素材の研究は続けるし機体の設計も複数案始める。だがその前に」
齢70を超え細くなった体が巨大に見えた。
「設計コンセプトを決める。スポンサーを誤魔化すためのものではなく、ロボ作りの夢を叶え、人類の勝利に貢献するめの、具体的な指針を決めるのだ!」
知性と狂気がもたらす熱が、所員達にじわりと浸透した。
リプレイ本文
●機体コンセプト
「乗り手をハンターに限るという点では意見が一致しています」
クオン・サガラ(ka0018)がまとめると、少女にしか見えないドワーフとパイロットスーツ姿のウーナ(ka1439)が深くうなずいた。
「所長が王国の官僚を説得する際に必要になりますので、改めて理由を挙げてください」
「うむ。まずはミグからいこう」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)が静かに立ち上がる。
「ミグはこれでもかつては帝国技術工廠にも所属していたこともある」
所長以外の所員がぎょっと目を剥くがハンターも所長も気にしていない。
「戦後の事も見越して王国に過度に強力なユニットを残すべきではないと考えから、中立性の高いハンター専用を推す」
「ありがとうございます。わたしは魔導エンジンを理由にハンター限定、そして少数生産の高コスト機を推します」
クオンが黒板に王国に字で書き込む。
「今回の機体には大出力の魔導エンジンが欠かせません。戦う相手が相手ですからね」
王国なら金にものをいわせて調達することは可能だろうが、現状では生産数が限られている。
「新コンセプトの機体ですし、装甲・動力・フレームと高価になります。ハンターがチケット30枚で買える……使用権を得られる程度のコストには抑えたいです」
「それはどうじゃろう」
否定するためではなく、己の力不足を嘆くのに近い感情と共にミグが発言する。
「運用での難を避けるため整備性と量産性を考慮し、予算を現実的な範囲に抑えようとしても30で抑えられるか? 取らぬ狸の皮算用ではあるが無視していいことでもない」
なお、取らぬ狸の皮算用は精霊による自動翻訳の結果である。
「待って下さい! というかあなた達何考えてるんですか! ここは王国国産CAMの開発現場でしょうっ」
悲鳴じみた発言をする若手官僚へ、所員達から非友好的な目が向けられた。
「ジーナさん」
挙手したジーナ(ka1643)が無言で立ち上がる。
人間ではなく王国人らしくもないジーナに、王国の官僚が警戒心を剥き出しにした。
「先に断っておくが、普通の素材なら王国の仕様でも構わない」
ジーナには好意も敵意もなかった。
だからこそ容赦が無い。
「だが、今回の素材は希少、危険、未知数の代物だ」
室内灯の光に照らされ、つい最近見つかったばかりの金属が不気味に沈黙している。
「熟練した覚醒者と昨今の最前線に合わせた性能、機体と搭乗者の安全性の確保、整備・補修パーツの補充も考えるならば」
ハンター限定、少数生産、超高コスト。
譲歩できるとしたら超高コストを高コストに変えることくらいだ。
「ついでに販売コストが高くても構わない。王国産CAMが満足いく仕上がりなら買うだけだ」
「予算が要らないのですかっ」
逆上する官僚を、ミグは楽しげとすらいえる表情で眺めている。
「官僚どもの世迷言には違いないが、そのような横やりが入るようでないとロボ開発とは言えんな」
予算を投じ続ける意思と、完成させる意思があるから横やりもあるのだ。
ミグは各種物資の値段表である羊皮紙を手に取り、孫ほどの世代の男相手に真正面からやり合い始めた。
「というかさー、リチャード博士も量産機なんか作りたくないでしょ? あたしは超熟練工や高レベル術師によるコスト度外視機を推すけど、条件を緩めに緩めてもミグさん達の案より安くはならないっしょ」
ウーナが本音を口にする。
「分かってくれて嬉しいぞ」
トマーゾ・アルキミアがいなければ世界的権威と呼ばれていただろう老博士が、心底楽しげに微笑んだ。
●仮想敵
「補佐につくにあたって、どんな衣装がお望みでしょうか? 後で問題になるような格好はお断りしますが、そうでなければミニスカメイド服だろうが、大人っぽい秘書服だろうが、希望に沿った衣装を着ますが」
幼さの残る顔立ちと実年齢のエルフ美少女にこう言われたなら、大多数の男は邪な思いを抱いてしまう。
聖人か枯れ果てた男で無い限り、立派に育ったお胸を意識しないのも無理だ。
所長も大多数のうちの1人である。
「え? はあ、構いませんが」
返ってきた答えは、エルバッハ・リオン(ka2434)が困惑するしかない内容だった。
「この続きはー?」
老博士より頭1つ分は背の高い黒の夢(ka0187)が、CAM用素材についての最新論文を手に問いかけてくる。
「リオン君、C4の棚の、そうそれを直接渡してくれたまえ」
博士が指示を出す。
真面目に仕事をしていらば知性と色気すら感じられるのだが、中身と普段の言動を知っているエルバッハは騙されない。
「かしこまりました。どうぞ」
「ありがと」
黙々と読み進める黒の夢の前で、エルバッハが小さく息を吐く。
首から下は厚い布で隠されている。
普段着より数倍分厚い生地の、単なる作業着だ。
実用に徹した造りだからこそエルバッハの素材の良さが目立つ、通向けの選択であった。
「参ったな。夢が叶うと満足して力が抜けていく」
大真面目に深刻な顔になる博士の肩を、ウーナの指がちょんちょんではなくドスドスと突いた。
「あたしにも寛容って心はあるけど……まずは約束、忘れてないよね?」
華やかな桃色の髪が怒りで揺れ、紅の瞳が殺人鬼じみた光を放つ。
「名刀だって使い手を選ぶでしょ? 最強の博士が作って、最強パイロットのあたしが駆って、最強ロボは完成するの」
徹底的に鍛えられてもなお女性的な肢体も、生命力溢れる表情も雰囲気も、殺意に限りなく近いものを強調するアクセントにしかならない。
「あんなトーシロ乗せてもダメダメ! 乗るのはあたし!」
口元だけは笑っているのが心底怖い。
素人呼ばわりされた王国騎士もウーナの視界に入らないよう息を潜めている。
「次は許さないよ?」
映像であればモザイク必須な仕草で、最後通牒を突きつけた。
「うむ? うむ。あっ」
困惑、思考、理解。
老博士はようやく事態を把握し真っ赤になった。
「あんな物は試作機ではない!」
ウーナに詰め寄る。
相手が指一本で己の命を絶てることは分かっているが止まらないし止まれない。
「予算確保のための子供騙しを試作機を一緒にするな!」
リチャード・クラフトマン72歳。
控えめに表現しても畜生な人格な持ち主であった。
「素面であんなセリフ吐ける人間がいるとは思わなかったっす」
神楽(ka2032)もドン引きだ。
エルバッハは淀んだ空気を変えるために、紅茶……ではなくインスタント珈琲を人数分運んで来た。
「休憩にしよう」
博士が椅子に座る。
いつの間にか少しだけ配置が変わっていて、昨日付のリアルブルーの新聞が手元にある。
無音で黒い液体を啜りながら眉間に皺を寄せ、記事の1つを苦苦しげに見下ろす。
「人類史最大の祭りに乗り遅れるのは我慢ならんな」
所員を全員掌握し、監視のはずのハンターが協力的だと判断した結果の本音漏らしである。
漏らすための環境をエルバッハが整えたことに、博士はまだ気付けていない。
「ねー、汝、前に我輩と会わなかった?」
論文の裏に数式を書き入れながら黒の夢が尋ねる。
「V型のときのお嬢さんか。あのときは夢中になっていたから記憶が薄くてな」
要保存と書いた付箋を数式の横に張りながら博士が答える。
黒の夢は高位の術者であるので、単なるメモ書きであっても見逃せない。
「我輩、機械には詳しくないけど……」
ペンを置く。
老人は小型端末を取り出し恐るべき速度で数式を入力。
設計中のエンジン設計の修正を始める。
「そういうヒトでも感覚的に乗れるといいな、魔法も出しやすい……あ! ダーリンに追いつくぐらい、速くてギュギューンと間合い詰めれたら嬉しいのな!」
「ダーリンとは?」
「ガルドブルムのヤツも言ってたでしょ?」
博士の警戒心と注意力が緩んだタイミングで、ウーナが容赦のない問いを放つ。
「黒いドラゴンが何か言ってたのは覚えているが、あいつガルドブルムなんて名前だったか」
興味がないことを覚えないだけか、興味の無いものを覚えられない程度に老化が進んでいるのかは分からない。
どちらにせよもう、歪虚との付き合いを否定することはできない。
「前のドラゴンっぽい鱗……あんなのよこす歪虚とか、アイツくらいっしょ」
予想はしていたのでウーナも驚かない。
「仮想敵ガルドブルム。最強級の歪虚を殺す最強のメカ……ってPRにも最強じゃない? そうすると必要なのは空対空が可能な飛行能力、対ブレス防御、鱗を貫く武装にー」
「待て。現行機でも作戦次第で殺せる奴を仮想敵にするわけには」
酷い言いようだ。
しかし王級の歪虚が戦場に現れる昨今、ガルドブルム程度でに手こずっていては話にならないのも事実である。
「我輩と同じ姿のおっきいのとかできないのかな。大きな歪虚にも、もっとハグハグ愛で愛でしたいのだ」
黒の夢がじっと見て来る。
金の瞳が意識の中に潜り込み、本能の奥深い場所から猛烈な警報が聞こえる気がした。
「それは別系統の研究が必要だな。君の専門分野の……魔術師の分野の方が近いのではないかな」
「簡単にできるなら聞いていないのだ」
色っぽいを通り越した魔性の吐息を1つこぼし、博士の糖分補給用チョコを許可無く囓る。
彼女も思索で膨大なエネルギーを消費しているため、体重は増えるどころか減ってしまいそうだった。
「やっぱりあの声、ダーリンのだったんだ……」
依頼をうける際に聞かされた録音音声を思い出し、黒の夢が微かな笑みを浮かべた。
●新機能
「大丈夫か?」
「この程度で足が萎えるならとっくにどこかで止まっておるわ。気遣いは感謝する」
特殊金属製のマニピュレーターを作業台の上に固定し、ルベーノ・バルバライン(ka6752)が老博士へ振り返った。
「実質的に所有権に近い使用権だが、不可逆に分解するとなるとな」
「うむ」
初期状態のまま運び入れたコンフェッサーから目を離し、ルベーノは気分と行動を切り替えることにした。
「俺の目的は変わらぬ。神に挑む最高の機体を作らせるために来た」
「邪神か」
博士の目の色が変わった。
屠れば人類が終わるまで名前が残る。
主力となった機体の開発者であれば、非常に大きく派手に残るはずだ。
「そのためには誤解を解かねばならぬ。迂遠であるが貴様が武人でない以上仕方があるまい」
ルベーノは徹底して偉そうだ。
「お前は俺達格闘士のことが分かっておらん。戦場でバンザイアタックを敢行しなお生き延びる、それが格闘士だ」
魔導トラック、魔導バイク、自転車、人間砲弾、飛行鎧。
様々な方法でバンザイアタックをを繰り返し、しかの生き残り概ね全ての敵を倒してきたのがルベーノである。
「俺はファナティックブラッド……神に挑み、神を倒せる機体が欲しい」
十三魔や歪虚王如きでは満足できない。
最高機体を名乗るなら最低でも邪神を倒さなくてはならない。
そんな、狂気とすらいえる熱い想いがそのまま博士に伝わった。
「最高のポテンシャルの機体が要る、最高の装備が要る。歪虚王を倒す程度の機体で満足してどうする。そんなもの、数を頼めば現行機で充だ。俺達が求めるのはもっと新しい、もっと至高の存在だ」
我が意を得たりとうなずく博士。
止めた方がいいのではと話し合う所員達。
「お前の最高のロボットを…神に挑める機体を作れ! 勿論自爆装置も忘れずにな!」
「それがオチか! 言うことがころころ変わる奴よりずっと信頼できるがな」
「オチでもなんでも無いわ。実際に見せてやる。おい、試作機の封を解け」
ルベーノは自身に見合った実力を感じさせる足取りで、格納庫として使われる大部屋へ向かった。
「本体性能の向上を目指すのは前提ですが」
クオンが深刻な顔だ。
「最低限必要な機能もあると思います。結論から言うと飛行能力です」
空を飛べないならガルドブルムにすら勝てない。
奴に勝てないなら歪虚王や邪神とは戦いにすらならないだろう。
「飛行型で陸戦仕様を目指すべきだと思います」
提案ではなく、それしかないという宣言に近かった。
「飛行能力を持たせるなら可変飛行機を推す」
ミグが議論に加わる。
「幻獣と違って対空時間に極度に短いのがCAM飛行の弱点。現状魔導ヘリにCAMを吊るすことでその打開策を模索中ではあるが、できれば1機にまとめてしまいたい」
「変形機構がデッドウェイトに……いや金属を操作し変形させればいけるか」
大真面目に突飛な研究を始めようとする博士を目で止める。
「気持ちは分かるが開発期間を考えよ。決着がついた後で開発完了してものう」
ハンターが協力すれば短期間で開発できる可能性があるが、その可能性は0に近いかもしれないのだ。
「本命の案は本人スキルの機体での活用よ。浄化済金属のフレームに人機一体を行うことが最も近道」
危険は特大なので当然対策はする。
「間に1枚噛ますことで予防策とする。有力候補は符術師の式符のようなマテリアル製の憑代じゃな。つまりユニットそのものにSAとして人機一体を連動することで高レベルの連動性が確保できるのではないか」
「魅力的な案だ。問題は」
「実験よな。試作機を何機造って壊すことになるやら」
見た目が年相応の博士と見た目は幼いドワーフが同時にため息をついた。
「機体が足りないなら操縦者が頑張るのはどうっすか?」
肌を押さえつけるような圧の中、神楽が軽い口調で加わる。
「コストの高騰も同じっすよ。いっそ謎金属の浄化は最小限にして操縦者に適宜浄化術を使わせるのはどうっす? 機体数を絞るなら浄化術が使える者って条件を操縦者に入れても問題ないと思うっす」
前回の実験である程度の抵抗力があれば直ぐには食われない事が解ったのだから、汚染度が一定を超えれば浄化するか最悪逃げて自爆させればコストを押し下げることもできるのではないか。
言動とは逆に徹底して堅実な案だった。
「それと機体を構成する金属に浄化術とかイニシャライズフィールドを付けるんなら範囲を広げられないっすかね? 今後は汚染地域で活動する事も増えると思うんで広範囲の浄化術が出来る機体があるとありがたいっす。浄化術は王国のお家芸で得意分野っすし、何より敵の汚染攻撃によりピンチになる味方達。そこに我等がロボが駆け付けた瞬間に周囲が浄化されて味方を救うとかかっけーじゃないっすか!」
「実用性と訴求力があるな」
博士は感じ入る。
個人的な趣味とはずれているが、そんなことが関係無いほど魅力的だ。
「王国経由で聖堂教会に圧力をかけるか」
「博士相変わらず最悪っすね」
神楽が冷たい目を向けても蛙の面に水であった。
「基礎技術と量産の為のインフラが無いのが大問題なんですよね」
クオンがため息をつく。
「CAMはリアルブルーから持ってきた機体を改修した物が全てです。そもそもの技術体系が違いすぎるのとクリムゾンウェストに宇宙活動の技術が無い事が原因です、が」
肩が落ちる。
こんな状況で自国技術と融合させて魔導アーマーをものにした帝国の凄さがよく分かる。
「一応、クリムゾンウエストにはゴーレムや魔法という独自技術があるので、今後はそれを利用して形にしていく事に……いえ、利用してなんとかするしかないですね」
どう考えても過酷な道程になりそうだった。
●試作機
骨が砕けたままあり得ない形にまとめられ、複数の神経が本来とは別の器官に繋がっている。
幻覚でも最上級の拷問だ。
意思によらず体が震え、意識が明滅するのを感じながら、それでもルベーノは笑って見せた。
「反応と速度は悪くない」
素人用装備と設定を外された試作機が、生身のルベーノに近い動きで手を開閉させた。
「聖導士を呼べ! 貴様はいらんっ、リザレクションを使える奴を連れてこいっ」
「実験を中断して下さい。このままではっ」
外が五月蠅い。
機体越しに感じる音は、意味ある情報として脳まで届いていない気がした。
「何を騒いでいる」
この程度なんでもないと、ルベーノは機体をまともに動かすことで語るのだった。
「訳が分からんぞ」
「じゃがどうすれば動くのは分かった。配線を引き直すだけでもマシになるはずじゃ」
ケーブル経由でディスプレイに送られてくる情報を、皺の多い顔と瑞々しい顔が覗き込んでいる。
「次、俺なんっすけど」
「骨は拾ってやる。よほどの自信が無いなら人機一体は止めておけ」
「とほほっす」
神楽は覚悟を決めてルベーノの次に乗り、予想外の操縦のし易さに驚いた後、三半規管が激震する錯覚を脳に送り込まれる。
「確かにこれはきついっすね。限界っす」
自分と機体の腕を分けて認識し、自分の手の平で口を覆う。
気を抜かなくても逆流しそうだ。
「次あたしね!」
ソフトの設定を自力で後進してウーナが乗り込む。
汗の臭いはしても胃液の臭いはしていない。
「ちょっと博士ー。あたしの合金役に立ってるじゃない」
試作機を愛機の横に移動させ同じポーズをとらせる。
予想以上に速く、そして滑らかに動く。
機体の外だけでなく、特殊合金でできたフレームまで感じられる気がした。
「ミグも乗りたいんじゃがなっ」
「手を休めるな壊れるまでに情報を……よりにもよってここに罅が!?」
実年齢老人コンビはデータ取りに夢中だ。
「順調なのか?」
小柄な体で人間重機じみた仕事をしていたジーナが足を止める。
頑丈なはずの床が主さに負けてぎしりときしむ。
一抱え有る金属製CAMパーツはそれだけ重いのだ。
「バレルか」
ジーナが持ち込んだ魔導型デュミナスは寂しく佇んでいる。
フル改造したたデュミナスなら最前線でも問題ないことを証明する機体ではある。
そして、この機体を使いこなせるなら最新鋭機に乗り換えもっと活躍しろと言われてしまったきっかけでもある。
「ん、私が乗ろう。ミグ殿は忙しいようなのでな」
小型のクレーンにパーツを引っかけ、顔と手をタオルで拭いてから試験機に乗り込んだ。
痛みと圧迫感と嫌悪感が全身を満たす。
これでも当初の3分の1になっている。
作戦によっては半日以上搭乗し続けるCAMとしては失敗作だ。
「これか」
30ミリペイント弾が装填されたアサルトライフルを取り上げ構える。
表面の温度や凹凸まで感じ取れた気がする。
ミグのオートソルジャーが構える盾兼的に向け発砲。
常時動いていたのに的の中央にペンキが広がり下に垂れる。
「悪くは無いがこの程度ではな」
今の最新鋭機だって悪い機体ではないのだ。
少し性能が良いだけの新機体ができても、ほとんど意味がないということになりかねない。
「見せてみろ、お前の可能性を…!」
人機一体。
操縦桿を強く握って精神を集中し、機体との距離を一気に縮める。
薄れた意識で途切れ途切れの悲鳴を聞く。
かすれたその音は絶命寸前の吐息のようだ。
「こちらジーナ。意識が回復した。問題、は」
外を見るだけでも神経がヤスリがけされているかのように痛む。
「細かく操作はできるが扱いきれない」
ジーナの操縦技術には問題ない。
機体が徹底して操縦しづらいのだ。
人機一体がもたらすはずの戦闘能力向上効果は無く、多重の浄化術をはね除け暴走しようとする金属を押さえつけるので精一杯だった。
補修の跡が目立つ機体が老博士を見下ろす。
反応が良く操作して楽しいし、ミグが機導の徒を使うと短期間で設計から組み立てをした博士の腕がよく分かる。
「拙いぞこれは」
開発方針も固まり素になる素材もある。
だが、今の操縦系ではポテンシャルを引き出せない。
「操縦桿と脳波で操るデュミナスの操縦系では……無理とは言わぬが最悪年単位でかかるぞ」
どこからか完成した研究を持ち込むような、超展開じみたやり方が必要なのかもしれない。
「乗り手をハンターに限るという点では意見が一致しています」
クオン・サガラ(ka0018)がまとめると、少女にしか見えないドワーフとパイロットスーツ姿のウーナ(ka1439)が深くうなずいた。
「所長が王国の官僚を説得する際に必要になりますので、改めて理由を挙げてください」
「うむ。まずはミグからいこう」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)が静かに立ち上がる。
「ミグはこれでもかつては帝国技術工廠にも所属していたこともある」
所長以外の所員がぎょっと目を剥くがハンターも所長も気にしていない。
「戦後の事も見越して王国に過度に強力なユニットを残すべきではないと考えから、中立性の高いハンター専用を推す」
「ありがとうございます。わたしは魔導エンジンを理由にハンター限定、そして少数生産の高コスト機を推します」
クオンが黒板に王国に字で書き込む。
「今回の機体には大出力の魔導エンジンが欠かせません。戦う相手が相手ですからね」
王国なら金にものをいわせて調達することは可能だろうが、現状では生産数が限られている。
「新コンセプトの機体ですし、装甲・動力・フレームと高価になります。ハンターがチケット30枚で買える……使用権を得られる程度のコストには抑えたいです」
「それはどうじゃろう」
否定するためではなく、己の力不足を嘆くのに近い感情と共にミグが発言する。
「運用での難を避けるため整備性と量産性を考慮し、予算を現実的な範囲に抑えようとしても30で抑えられるか? 取らぬ狸の皮算用ではあるが無視していいことでもない」
なお、取らぬ狸の皮算用は精霊による自動翻訳の結果である。
「待って下さい! というかあなた達何考えてるんですか! ここは王国国産CAMの開発現場でしょうっ」
悲鳴じみた発言をする若手官僚へ、所員達から非友好的な目が向けられた。
「ジーナさん」
挙手したジーナ(ka1643)が無言で立ち上がる。
人間ではなく王国人らしくもないジーナに、王国の官僚が警戒心を剥き出しにした。
「先に断っておくが、普通の素材なら王国の仕様でも構わない」
ジーナには好意も敵意もなかった。
だからこそ容赦が無い。
「だが、今回の素材は希少、危険、未知数の代物だ」
室内灯の光に照らされ、つい最近見つかったばかりの金属が不気味に沈黙している。
「熟練した覚醒者と昨今の最前線に合わせた性能、機体と搭乗者の安全性の確保、整備・補修パーツの補充も考えるならば」
ハンター限定、少数生産、超高コスト。
譲歩できるとしたら超高コストを高コストに変えることくらいだ。
「ついでに販売コストが高くても構わない。王国産CAMが満足いく仕上がりなら買うだけだ」
「予算が要らないのですかっ」
逆上する官僚を、ミグは楽しげとすらいえる表情で眺めている。
「官僚どもの世迷言には違いないが、そのような横やりが入るようでないとロボ開発とは言えんな」
予算を投じ続ける意思と、完成させる意思があるから横やりもあるのだ。
ミグは各種物資の値段表である羊皮紙を手に取り、孫ほどの世代の男相手に真正面からやり合い始めた。
「というかさー、リチャード博士も量産機なんか作りたくないでしょ? あたしは超熟練工や高レベル術師によるコスト度外視機を推すけど、条件を緩めに緩めてもミグさん達の案より安くはならないっしょ」
ウーナが本音を口にする。
「分かってくれて嬉しいぞ」
トマーゾ・アルキミアがいなければ世界的権威と呼ばれていただろう老博士が、心底楽しげに微笑んだ。
●仮想敵
「補佐につくにあたって、どんな衣装がお望みでしょうか? 後で問題になるような格好はお断りしますが、そうでなければミニスカメイド服だろうが、大人っぽい秘書服だろうが、希望に沿った衣装を着ますが」
幼さの残る顔立ちと実年齢のエルフ美少女にこう言われたなら、大多数の男は邪な思いを抱いてしまう。
聖人か枯れ果てた男で無い限り、立派に育ったお胸を意識しないのも無理だ。
所長も大多数のうちの1人である。
「え? はあ、構いませんが」
返ってきた答えは、エルバッハ・リオン(ka2434)が困惑するしかない内容だった。
「この続きはー?」
老博士より頭1つ分は背の高い黒の夢(ka0187)が、CAM用素材についての最新論文を手に問いかけてくる。
「リオン君、C4の棚の、そうそれを直接渡してくれたまえ」
博士が指示を出す。
真面目に仕事をしていらば知性と色気すら感じられるのだが、中身と普段の言動を知っているエルバッハは騙されない。
「かしこまりました。どうぞ」
「ありがと」
黙々と読み進める黒の夢の前で、エルバッハが小さく息を吐く。
首から下は厚い布で隠されている。
普段着より数倍分厚い生地の、単なる作業着だ。
実用に徹した造りだからこそエルバッハの素材の良さが目立つ、通向けの選択であった。
「参ったな。夢が叶うと満足して力が抜けていく」
大真面目に深刻な顔になる博士の肩を、ウーナの指がちょんちょんではなくドスドスと突いた。
「あたしにも寛容って心はあるけど……まずは約束、忘れてないよね?」
華やかな桃色の髪が怒りで揺れ、紅の瞳が殺人鬼じみた光を放つ。
「名刀だって使い手を選ぶでしょ? 最強の博士が作って、最強パイロットのあたしが駆って、最強ロボは完成するの」
徹底的に鍛えられてもなお女性的な肢体も、生命力溢れる表情も雰囲気も、殺意に限りなく近いものを強調するアクセントにしかならない。
「あんなトーシロ乗せてもダメダメ! 乗るのはあたし!」
口元だけは笑っているのが心底怖い。
素人呼ばわりされた王国騎士もウーナの視界に入らないよう息を潜めている。
「次は許さないよ?」
映像であればモザイク必須な仕草で、最後通牒を突きつけた。
「うむ? うむ。あっ」
困惑、思考、理解。
老博士はようやく事態を把握し真っ赤になった。
「あんな物は試作機ではない!」
ウーナに詰め寄る。
相手が指一本で己の命を絶てることは分かっているが止まらないし止まれない。
「予算確保のための子供騙しを試作機を一緒にするな!」
リチャード・クラフトマン72歳。
控えめに表現しても畜生な人格な持ち主であった。
「素面であんなセリフ吐ける人間がいるとは思わなかったっす」
神楽(ka2032)もドン引きだ。
エルバッハは淀んだ空気を変えるために、紅茶……ではなくインスタント珈琲を人数分運んで来た。
「休憩にしよう」
博士が椅子に座る。
いつの間にか少しだけ配置が変わっていて、昨日付のリアルブルーの新聞が手元にある。
無音で黒い液体を啜りながら眉間に皺を寄せ、記事の1つを苦苦しげに見下ろす。
「人類史最大の祭りに乗り遅れるのは我慢ならんな」
所員を全員掌握し、監視のはずのハンターが協力的だと判断した結果の本音漏らしである。
漏らすための環境をエルバッハが整えたことに、博士はまだ気付けていない。
「ねー、汝、前に我輩と会わなかった?」
論文の裏に数式を書き入れながら黒の夢が尋ねる。
「V型のときのお嬢さんか。あのときは夢中になっていたから記憶が薄くてな」
要保存と書いた付箋を数式の横に張りながら博士が答える。
黒の夢は高位の術者であるので、単なるメモ書きであっても見逃せない。
「我輩、機械には詳しくないけど……」
ペンを置く。
老人は小型端末を取り出し恐るべき速度で数式を入力。
設計中のエンジン設計の修正を始める。
「そういうヒトでも感覚的に乗れるといいな、魔法も出しやすい……あ! ダーリンに追いつくぐらい、速くてギュギューンと間合い詰めれたら嬉しいのな!」
「ダーリンとは?」
「ガルドブルムのヤツも言ってたでしょ?」
博士の警戒心と注意力が緩んだタイミングで、ウーナが容赦のない問いを放つ。
「黒いドラゴンが何か言ってたのは覚えているが、あいつガルドブルムなんて名前だったか」
興味がないことを覚えないだけか、興味の無いものを覚えられない程度に老化が進んでいるのかは分からない。
どちらにせよもう、歪虚との付き合いを否定することはできない。
「前のドラゴンっぽい鱗……あんなのよこす歪虚とか、アイツくらいっしょ」
予想はしていたのでウーナも驚かない。
「仮想敵ガルドブルム。最強級の歪虚を殺す最強のメカ……ってPRにも最強じゃない? そうすると必要なのは空対空が可能な飛行能力、対ブレス防御、鱗を貫く武装にー」
「待て。現行機でも作戦次第で殺せる奴を仮想敵にするわけには」
酷い言いようだ。
しかし王級の歪虚が戦場に現れる昨今、ガルドブルム程度でに手こずっていては話にならないのも事実である。
「我輩と同じ姿のおっきいのとかできないのかな。大きな歪虚にも、もっとハグハグ愛で愛でしたいのだ」
黒の夢がじっと見て来る。
金の瞳が意識の中に潜り込み、本能の奥深い場所から猛烈な警報が聞こえる気がした。
「それは別系統の研究が必要だな。君の専門分野の……魔術師の分野の方が近いのではないかな」
「簡単にできるなら聞いていないのだ」
色っぽいを通り越した魔性の吐息を1つこぼし、博士の糖分補給用チョコを許可無く囓る。
彼女も思索で膨大なエネルギーを消費しているため、体重は増えるどころか減ってしまいそうだった。
「やっぱりあの声、ダーリンのだったんだ……」
依頼をうける際に聞かされた録音音声を思い出し、黒の夢が微かな笑みを浮かべた。
●新機能
「大丈夫か?」
「この程度で足が萎えるならとっくにどこかで止まっておるわ。気遣いは感謝する」
特殊金属製のマニピュレーターを作業台の上に固定し、ルベーノ・バルバライン(ka6752)が老博士へ振り返った。
「実質的に所有権に近い使用権だが、不可逆に分解するとなるとな」
「うむ」
初期状態のまま運び入れたコンフェッサーから目を離し、ルベーノは気分と行動を切り替えることにした。
「俺の目的は変わらぬ。神に挑む最高の機体を作らせるために来た」
「邪神か」
博士の目の色が変わった。
屠れば人類が終わるまで名前が残る。
主力となった機体の開発者であれば、非常に大きく派手に残るはずだ。
「そのためには誤解を解かねばならぬ。迂遠であるが貴様が武人でない以上仕方があるまい」
ルベーノは徹底して偉そうだ。
「お前は俺達格闘士のことが分かっておらん。戦場でバンザイアタックを敢行しなお生き延びる、それが格闘士だ」
魔導トラック、魔導バイク、自転車、人間砲弾、飛行鎧。
様々な方法でバンザイアタックをを繰り返し、しかの生き残り概ね全ての敵を倒してきたのがルベーノである。
「俺はファナティックブラッド……神に挑み、神を倒せる機体が欲しい」
十三魔や歪虚王如きでは満足できない。
最高機体を名乗るなら最低でも邪神を倒さなくてはならない。
そんな、狂気とすらいえる熱い想いがそのまま博士に伝わった。
「最高のポテンシャルの機体が要る、最高の装備が要る。歪虚王を倒す程度の機体で満足してどうする。そんなもの、数を頼めば現行機で充だ。俺達が求めるのはもっと新しい、もっと至高の存在だ」
我が意を得たりとうなずく博士。
止めた方がいいのではと話し合う所員達。
「お前の最高のロボットを…神に挑める機体を作れ! 勿論自爆装置も忘れずにな!」
「それがオチか! 言うことがころころ変わる奴よりずっと信頼できるがな」
「オチでもなんでも無いわ。実際に見せてやる。おい、試作機の封を解け」
ルベーノは自身に見合った実力を感じさせる足取りで、格納庫として使われる大部屋へ向かった。
「本体性能の向上を目指すのは前提ですが」
クオンが深刻な顔だ。
「最低限必要な機能もあると思います。結論から言うと飛行能力です」
空を飛べないならガルドブルムにすら勝てない。
奴に勝てないなら歪虚王や邪神とは戦いにすらならないだろう。
「飛行型で陸戦仕様を目指すべきだと思います」
提案ではなく、それしかないという宣言に近かった。
「飛行能力を持たせるなら可変飛行機を推す」
ミグが議論に加わる。
「幻獣と違って対空時間に極度に短いのがCAM飛行の弱点。現状魔導ヘリにCAMを吊るすことでその打開策を模索中ではあるが、できれば1機にまとめてしまいたい」
「変形機構がデッドウェイトに……いや金属を操作し変形させればいけるか」
大真面目に突飛な研究を始めようとする博士を目で止める。
「気持ちは分かるが開発期間を考えよ。決着がついた後で開発完了してものう」
ハンターが協力すれば短期間で開発できる可能性があるが、その可能性は0に近いかもしれないのだ。
「本命の案は本人スキルの機体での活用よ。浄化済金属のフレームに人機一体を行うことが最も近道」
危険は特大なので当然対策はする。
「間に1枚噛ますことで予防策とする。有力候補は符術師の式符のようなマテリアル製の憑代じゃな。つまりユニットそのものにSAとして人機一体を連動することで高レベルの連動性が確保できるのではないか」
「魅力的な案だ。問題は」
「実験よな。試作機を何機造って壊すことになるやら」
見た目が年相応の博士と見た目は幼いドワーフが同時にため息をついた。
「機体が足りないなら操縦者が頑張るのはどうっすか?」
肌を押さえつけるような圧の中、神楽が軽い口調で加わる。
「コストの高騰も同じっすよ。いっそ謎金属の浄化は最小限にして操縦者に適宜浄化術を使わせるのはどうっす? 機体数を絞るなら浄化術が使える者って条件を操縦者に入れても問題ないと思うっす」
前回の実験である程度の抵抗力があれば直ぐには食われない事が解ったのだから、汚染度が一定を超えれば浄化するか最悪逃げて自爆させればコストを押し下げることもできるのではないか。
言動とは逆に徹底して堅実な案だった。
「それと機体を構成する金属に浄化術とかイニシャライズフィールドを付けるんなら範囲を広げられないっすかね? 今後は汚染地域で活動する事も増えると思うんで広範囲の浄化術が出来る機体があるとありがたいっす。浄化術は王国のお家芸で得意分野っすし、何より敵の汚染攻撃によりピンチになる味方達。そこに我等がロボが駆け付けた瞬間に周囲が浄化されて味方を救うとかかっけーじゃないっすか!」
「実用性と訴求力があるな」
博士は感じ入る。
個人的な趣味とはずれているが、そんなことが関係無いほど魅力的だ。
「王国経由で聖堂教会に圧力をかけるか」
「博士相変わらず最悪っすね」
神楽が冷たい目を向けても蛙の面に水であった。
「基礎技術と量産の為のインフラが無いのが大問題なんですよね」
クオンがため息をつく。
「CAMはリアルブルーから持ってきた機体を改修した物が全てです。そもそもの技術体系が違いすぎるのとクリムゾンウェストに宇宙活動の技術が無い事が原因です、が」
肩が落ちる。
こんな状況で自国技術と融合させて魔導アーマーをものにした帝国の凄さがよく分かる。
「一応、クリムゾンウエストにはゴーレムや魔法という独自技術があるので、今後はそれを利用して形にしていく事に……いえ、利用してなんとかするしかないですね」
どう考えても過酷な道程になりそうだった。
●試作機
骨が砕けたままあり得ない形にまとめられ、複数の神経が本来とは別の器官に繋がっている。
幻覚でも最上級の拷問だ。
意思によらず体が震え、意識が明滅するのを感じながら、それでもルベーノは笑って見せた。
「反応と速度は悪くない」
素人用装備と設定を外された試作機が、生身のルベーノに近い動きで手を開閉させた。
「聖導士を呼べ! 貴様はいらんっ、リザレクションを使える奴を連れてこいっ」
「実験を中断して下さい。このままではっ」
外が五月蠅い。
機体越しに感じる音は、意味ある情報として脳まで届いていない気がした。
「何を騒いでいる」
この程度なんでもないと、ルベーノは機体をまともに動かすことで語るのだった。
「訳が分からんぞ」
「じゃがどうすれば動くのは分かった。配線を引き直すだけでもマシになるはずじゃ」
ケーブル経由でディスプレイに送られてくる情報を、皺の多い顔と瑞々しい顔が覗き込んでいる。
「次、俺なんっすけど」
「骨は拾ってやる。よほどの自信が無いなら人機一体は止めておけ」
「とほほっす」
神楽は覚悟を決めてルベーノの次に乗り、予想外の操縦のし易さに驚いた後、三半規管が激震する錯覚を脳に送り込まれる。
「確かにこれはきついっすね。限界っす」
自分と機体の腕を分けて認識し、自分の手の平で口を覆う。
気を抜かなくても逆流しそうだ。
「次あたしね!」
ソフトの設定を自力で後進してウーナが乗り込む。
汗の臭いはしても胃液の臭いはしていない。
「ちょっと博士ー。あたしの合金役に立ってるじゃない」
試作機を愛機の横に移動させ同じポーズをとらせる。
予想以上に速く、そして滑らかに動く。
機体の外だけでなく、特殊合金でできたフレームまで感じられる気がした。
「ミグも乗りたいんじゃがなっ」
「手を休めるな壊れるまでに情報を……よりにもよってここに罅が!?」
実年齢老人コンビはデータ取りに夢中だ。
「順調なのか?」
小柄な体で人間重機じみた仕事をしていたジーナが足を止める。
頑丈なはずの床が主さに負けてぎしりときしむ。
一抱え有る金属製CAMパーツはそれだけ重いのだ。
「バレルか」
ジーナが持ち込んだ魔導型デュミナスは寂しく佇んでいる。
フル改造したたデュミナスなら最前線でも問題ないことを証明する機体ではある。
そして、この機体を使いこなせるなら最新鋭機に乗り換えもっと活躍しろと言われてしまったきっかけでもある。
「ん、私が乗ろう。ミグ殿は忙しいようなのでな」
小型のクレーンにパーツを引っかけ、顔と手をタオルで拭いてから試験機に乗り込んだ。
痛みと圧迫感と嫌悪感が全身を満たす。
これでも当初の3分の1になっている。
作戦によっては半日以上搭乗し続けるCAMとしては失敗作だ。
「これか」
30ミリペイント弾が装填されたアサルトライフルを取り上げ構える。
表面の温度や凹凸まで感じ取れた気がする。
ミグのオートソルジャーが構える盾兼的に向け発砲。
常時動いていたのに的の中央にペンキが広がり下に垂れる。
「悪くは無いがこの程度ではな」
今の最新鋭機だって悪い機体ではないのだ。
少し性能が良いだけの新機体ができても、ほとんど意味がないということになりかねない。
「見せてみろ、お前の可能性を…!」
人機一体。
操縦桿を強く握って精神を集中し、機体との距離を一気に縮める。
薄れた意識で途切れ途切れの悲鳴を聞く。
かすれたその音は絶命寸前の吐息のようだ。
「こちらジーナ。意識が回復した。問題、は」
外を見るだけでも神経がヤスリがけされているかのように痛む。
「細かく操作はできるが扱いきれない」
ジーナの操縦技術には問題ない。
機体が徹底して操縦しづらいのだ。
人機一体がもたらすはずの戦闘能力向上効果は無く、多重の浄化術をはね除け暴走しようとする金属を押さえつけるので精一杯だった。
補修の跡が目立つ機体が老博士を見下ろす。
反応が良く操作して楽しいし、ミグが機導の徒を使うと短期間で設計から組み立てをした博士の腕がよく分かる。
「拙いぞこれは」
開発方針も固まり素になる素材もある。
だが、今の操縦系ではポテンシャルを引き出せない。
「操縦桿と脳波で操るデュミナスの操縦系では……無理とは言わぬが最悪年単位でかかるぞ」
どこからか完成した研究を持ち込むような、超展開じみたやり方が必要なのかもしれない。
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相談卓(レッツ・開発!) ウーナ(ka1439) 人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/09/29 09:45:08 |
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王国最強ロボの為の最強質問卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/09/25 23:49:23 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/09/24 23:32:48 |