首の無い馬

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/06 12:00
完成日
2018/10/12 01:09

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●でこぼこトリオの珍道中
 その日、一人のエルフと二人のドワーフという、風変わりな組み合わせの男性三人が、夕刻の街道を馬車で移動していた。
「助かった」
 そう言ったのは、馬を御している精悍な顔つきのドワーフで、本人の得物の槍はすぐ手の届くところに置いてある。
「それなら良かった! ドワーフの武器や防具は人気だって言うけど、ほんと、あっという間にはけちゃったね。すごいや」
 と、荷台で喜んでいるのは顎の高さで金髪を切ったエルフの青年だ。彼は矢筒と弓を背負っている。
「お前の軟弱な弓も変えてやろうか?」
 嫌みまじりに言うのは、同じく荷台に乗っているドワーフだ。小柄で、斧をいじくりながらぶつくさ言っている。
「これ軽くて使いやすいんだよ。でも、あんたたちの作る弓って一回使ってみたい」
「矢の試作品ならある」
 槍のドワーフが言った。
「今度使ってみるか? 鏑矢だ」
「ワオ! 試作品使わせてもらえるなんて、こんなに光栄なことはないね!」
「脳天気な野郎だ……」
 斧のドワーフがやれやれとため息を吐いた。

 この三人は、つい最近親しくなった。エルフの青年が二人のドワーフにたいそう懐いたのを、槍のドワーフは快く受け入れ、斧のドワーフも、見た目は渋々と言ったていで受け入れている。ツンデレである。
 何か手伝えることがあったら言ってよ! と、エルフの青年が言うので、槍のドワーフは防具の商いの手伝いを頼んだ、と言うわけだった。
 そしてその帰り道。夏も終わり、日はどんどん短くなっていく。西では太陽が徐々に沈んで行く。
「灯りがいるな。おい、ランプに火を頼む」
 槍のドワーフはそう言って馬車を止めた。エルフの青年が元気よく返事をする。
「はぁい!」
「……気をつけて行けよ、お前それでなくても軟弱なんだからよ……」
「大丈夫だって。あ、良いよ、あんたは疲れてるだろうから、休んでて」
「……おう」
「いい加減素直になれ」
 槍のドワーフが含み笑いを漏らしながら、友人に言う。
「俺はいつでも素直だよ!」
「ねぇ! ちょっと、後ろから何か来るみたいなんだけど!」
 ランプを付けて戻ってきたエルフの青年が慌てた様子で言った。
「何かって……俺たちみたいに帰り道なんじゃねぇのか?」
「なんか、変だよ! 馬に首がないみたいなんだ!」
「はぁ? 何馬鹿なこと言ってんだお前……うおっ!?」
 馭者台から槍のドワーフが降りてきた。彼は荷台から外を見ると、斧のドワーフに向かって言った。
「馬を代われ」
「へ? か、構わねぇが」
「坊主の言うとおりだ。ろくなもんじゃねぇ。逃げるぞ」
「やっぱり!」
「は、はあああああああ? また歪虚かよ!? 冗談じゃねぇ!」
「俺、迎撃するよ!」
「頼む。近すぎるなら俺もやる」
「お、落ちるんじゃねぇぞ!」
「落ちないって! あんたこそ気をつけて!」
 斧のドワーフが馭者台に就いた。すぐに馬は走り出す。
「あれは……馬の首を騎手がつけてるのか」
 槍のドワーフは目を細めて言った。
 追っ手をどう形容したものだろうか。その馬の首から上は、騎手の頭についている。だからといって、馬に騎手の頭がついている、と言うものでもないらしい。そんなものが、三組。
「首無し騎士の話はたまに聞くがな、首無し馬とはな」
「な、なあ、やり過ごしたりできねぇか? 俺たちが目的とは……」
「駄目だ。完全に乗り手の視線がこっちを向いてる。狙いは俺たちだ。おい、坊主」
「何?」
「さっき言ってた試作品の鏑矢を飛ばせ。誰かが気付けば儲けものだ。性能も試せる」
「積んでるの!?」
「そこにある」
 槍のドワーフが指したところに、簡素な矢筒が転がっていた。エルフの青年はそれに飛びつくと、一本引き抜いて、自分の弓を取った。
「音の狼煙か。良いね」
「連中に当てるなよ。鏑矢の意味がない」
「任せて!」
 エルフの青年は張り切って矢をつがえた。そして引き絞る。追っ手の頭上、少し上を狙って、右手を離した。軽快な弦の音がして、弓が手の中で一回転する。
 人の悲鳴のような、甲高い音を立てて、鏑矢はオレンジがわずかに滲む、夜の空を飛んでいった。
「これで駄目なら、集落まで逃げて総出で迎撃だ。坊主、その時はハンターオフィスに連絡をしてくれ」

●ハンドアウト
 あなたたちは、何らかの理由で夜の街道を行くハンターです。

 街道を行くあなたたちの内、幾人かは、暮れなずむ夕陽の中に、不穏な影を見ます。
 頭が馬の騎手が、首の無い馬に乗っている。そんなものが三体、街道を進んでいる。
 そんな、怪談話の様な光景を見てしまったあなたたちは、それが歪虚であることに気付いて追い掛けます。そしてあなたたちは、その歪虚が荷馬車を追い掛けているのを発見しました。荷台には弓使いが乗っているようで、その人は鏑矢を放ちました。
 甲高い音が夜の空を引き裂くように飛んでいくのを、あなたたちは聞きました。

 あなたたちの内、幾人かは、不穏な影も見ずに街道を進んでいます。
 しかし、どこからか、悲鳴のような音が聞こえました。あなたたちは、音が聞こえた方向に向かって進んでいきます。
 そこであなたたちは、首の無い馬に乗った、馬の首をした歪虚が、荷馬車を追い掛けているところに出くわすのでした。

リプレイ本文

●百鬼夜行
 ステラ=ライムライト(ka5122)と百鬼 一夏(ka7308)はハンターの先輩後輩同士である。二人はこの日、討伐依頼を一緒にこなした帰りであった。
「ステラ先輩かっこよかったですね! 特に最後の敵を一気になぎ倒したところが!」
 一夏はステラの勇姿に興奮冷めやらぬ様子ではしゃいでいる。ステラも可愛い後輩に褒められてもちろん悪い気はしない。今回の依頼では色々と学ぶところが多くあった。次の依頼でもこれを活かせれば。そう思っていたその時であった。
 人の悲鳴のような甲高い音を聞いて、二人は馬を止める。
「一夏ちゃん、今の……」
「ただ事じゃなさそうですね!」
 二人はそちらに馬を走らせた。そして、馬車を追い掛ける歪虚を発見したのであった。

 輝羽・零次(ka5974)はバイクで街道を走っていたところにその歪虚に行き会った。
「首無し馬、シュールだな……」
 それはまごう事なき彼の本音であったが、そんなことを言っている場合ではないと思い直す。何しろ、馬車が追われるようにその前を走っているのだ。彼はバイクで馬車に追いつく。
「おい! 返事できるか! 俺は通りすがりのハンターだ。追われてるってことで間違いないよな?」
「やった! ハンターだ! そうだよ! あの変なのに追い掛けられてるんだ!」
 荷台から金髪のエルフが顔を出す。弓を持っているようだ。
「俺が護衛につく! そのままいけ!」
「ありがたい」
 もう一人、荷台に乗っていたドワーフが頷いた。
 別の馬の足音が近づいてくる。振り返ると、二人の少女が馬に乗ってこちらに走ってきているのが見えた。

 蓬(ka7311)は魔箒の練習の帰り道であった。奇妙な音に誘われて駆けつければ、実戦、と言う状況だったのである。
「……これは、追いかけられたら怖いですね」
 首の無い馬に乗った、馬の首をした騎手。夕暮れにあんな奇妙なものが迫ってきたら、誰だって気持ち悪いと思うのではないか。
 間違いなく敵であるし、馬車も危険だ。早急に撃ち抜かなくてはならない。
 蓬は短筒・雀蜂を抜いた。箒に乗って浮かび上がる。彼女はそれを追い掛けた。既に、馬に乗った二人のハンター、一人のバイクに乗ったハンターが駆けつけている。
 こうして、試作品の鏑矢は四人のハンターを集めることに成功したのであった。

●二股までに
「守りは俺がする! 馬は任せるぞ!」
 零次は、駆けつけた同業に向かって声を張り上げた。箒の少女、蓬は頷いて見せ、馬に乗った二人、ステラと一夏は手を振った。
「了解! 馬車は任せるよ! いくよ一夏ちゃん、そっちの敵対応お願い!」
「はい! こちらはおまかせください!」
 二人は別れた。蓬は自分に一番近い歪虚に銃を向けている。残りの二体を二人で受け持つ形だ。
 ステラは馬に乗ったまま歪虚に近づいた。彼女はターミナー・レイを両手で振るう。
「そこ、逃がさないよ!」
 剣が光を帯びた。ステラ自身も光を放っている。二連之業で斬りかかった。初撃は回避されたが、二撃目は頭を強かに打ち据えた。重い音がして。メトロノームのように乗り手の身体が傾く。かなりのダメージだろうが走るのはやめない。ステラは納刀の構えを取った。

「方向変えるときは言ってくれ!」
 零次は馬車に並走しながら、馭者台のドワーフに叫んだ。
「お、おう! この先の二股を右に行くつもりだ! その先に集落がある! でも二股は大分先だから安心しろ!」
「了解!」
 振り返ると、ステラが両手剣で一体の歪虚の頭を斬りつけるところだった。そのまま、歪虚の方は落馬するのではないかと思われたが、起き上がり小法師の様に戻ってくる。とはいえ、頭部の損傷は相当なものだろう。
「この先大分行ったところで右に行くそうだ!」
 零次は声を張り上げた。
「わかったよ! その前に蹴りつけちゃおう!」
 今しがた、長剣を振るった彼女が叫んだ。

 蓬はもっとも馬車に近い歪虚に並走していた。いくら少年が護衛についているとは言え、近づけないのが一番良いのだ。威嚇射撃を試みる。
 箒に乗ったままだと、狙いは少々ブレやすい。慎重に狙いながら、馬の足下に発砲した。
 狙い通りに着弾。足下に弾丸を撃ち込まれた歪虚は、両脚を上げた。本来いななく頭は騎手のものだが。乗り手はだんまりだ。
「……ますます不気味ですね」
 これで時間稼ぎができる。蓬は雀蜂で狙いを定めると、今度は攻撃目的で発砲する。だがこれは外れた。馬が絶妙なタイミングで身体を振ったためだ。
 だが、足止めが成功したことは大きい。馬がまた走り出そうとするのに、彼女は身構えた。

 一夏は憧れのステラから歪虚一体を任されて張り切っている。一体はステラに瀕死の重傷を負わされ、もう一体は蓬に足止めされている。今、最も馬車の脅威になるのは、一夏が受け持ったものだ。
「私に出来ることは真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす! です!」
 馬を走らせる。飛翔撃で後方に吹き飛ばしたい一夏は、歪虚の前に回り込んだ。こちらを突き飛ばすように駆けてきた相手めがけて、彼女はあぶみから足を抜いて蹴りを放った。
 歪虚の蹄が土を削って後退する。二メートルは離しただろうか。
「やったね一夏ちゃん!」
「ありがとうございます!」
 しかし、喜んでばかりもいられない。いくら一体が瀕死でも、三体はまだ残っているのだ。しかも諦める気配もない。
「……追いついてきました」
 蓬が、自分が足止めした一体が猛然と駆けてくるのを見て呟いた。

●馬車の守り手
 ステラが斬りつけた一体は、ぎこちない動きで剣を振り上げた。並走していたステラは身構える。
 上段から振り下ろされた剣は、ステラの胴部を直撃した。衝撃でバランスを崩しかけるが、馬が頑張った。ステラも手綱に掴まって落馬を免れる。
「先輩!」
「おい! 大丈夫か!?」
「怪我は?」
 三人から声が上がる。
「大丈夫!」
 防御力の高い装甲が物を言った。ほぼ無傷だ。ステラはキッと強い目で歪虚を見返す。
「あれだけ食らってやり返すなんて、やるね!」
 馬の口は何も言わない。

 蓬が足止めした馬は、凄まじい勢いで追いすがる。蓬に反撃するのかと思われたが、それは彼女を追い抜いて一直線に馬車を目指した。
「抜かれました」
「任せろ!」
 流れ弾を考慮して、蓬は追走に専念する。向こうが任せろ言うのだから任せよう。
 歪虚は零次に並んだ。彼の事を邪魔に感じたらしい。剣を抜いて振り下ろした。
 零次は息を吸い込んだ。バイクから片手を離し、バランスも意識しながら、剣を握る相手の手首を掴む。振り下ろす勢いに押されて、一瞬だけバイクが蛇行したが、押し返すと同時に相手の手を捻り、投げ飛ばすように後ろに放り出した。
「とんでけっ!」
 自分の力で投げ飛ばされた歪虚は馬ごと横転する。再び置いて行かれる形になり、当面の脅威は消えた。
「後はまかせたぜ!」
 零次は後続に声を張り上げる。
 蓬はそれを聞いて、装填を確認した。

●ステラの逆鱗
 一夏に吹き飛ばされた歪虚もまた、彼女を追い掛けて来た。
「一夏ちゃん、気をつけて!」
「はい!」
 回避するか、反衝フィルムで受け止めるかだ。いずれにせよ、よそ見してはまずい。一夏は相手の出方を窺った。移動した勢いのままこちらに突っ込んでくる!
 闘狩人で言うところのチャージングに近い技だろう。一夏は構える。
 腕に振り下ろされた剣を、反衝フィルムで受け止めた。マテリアルを流し込む。それでも、勢いの乗った一撃を、完全には受け止めきれずに腕に痛みが走った。
「うっ!」
「一夏ちゃん!?」
「大丈夫ですか」
「おい、怪我は!?」
「大丈夫です! ちょっと痛いけど!」
 救急セットを持ってきておいて良かった。先の依頼で使う予定のものだったが、まさか自分で使うことになるとは。
 ここで弱気になってはいけない。一夏は自分に言い聞かせる。
 前方で、ステラが歪虚の一体を斬り倒すのが見えた。

 ステラは完全に頭にきていた。いくら覚醒者は傷の治りが早いとは言え、可愛い後輩が自分の目の前で歪虚に怪我をさせられて、怒らない先輩というものがいようか。いやいない。最初にあった、後輩に先輩らしいところを見せたいと言う見栄は、今や後輩を傷つけた不逞の歪虚に対する怒りに変わっている。
 傍らの歪虚を見る。スキルを使うまでもない。長剣で斬り捨てると、ステラは一夏と対峙する歪虚に向かった。
「ステラ先輩!」
「もう大丈夫! 私がついてるからね!」
 不安であろう一夏にそう笑いかけると、ステラは間に割って入った。
 零次はその様子を見て、ひとまずは安心した。どうやら、ステラを先輩と呼んでいる一夏の方は、駆け出しらしい。それでもあの一撃に耐えたのだから大したものだ。
 先輩であるステラがついているなら大丈夫だろう。彼女がついたことで、不安げだった一夏の表情が明るくなるのを、零次は見る。
「ねぇ! 女の子が一人怪我してるよ! ポーションとかないの!?」
 荷台でエルフの青年が叫んでいる。槍のドワーフが冷静に答えた。
「集落に戻ればある。用意が悪かった。今日は積んでない」
「集落に連れてかなきゃ」
「本人が希望すればな。希望しなければ誘拐だ」
「そりゃそうだけど、あんた冷静だね!?」
 零次も同じ感想であった。

●雀蜂の針
 零次に投げ飛ばされた歪虚が、再び追いついてくる。蓬は使い切った弾丸を装填すると、マテリアルを込めた目で狙いを付けた。
「……撃ち抜きます」
 発砲。雀蜂の針は、宣言通り腕を撃ち抜いた。剣が落ちる。もう、これで向こうに攻撃手段は体当たりしか残されていない。先ほど斬られた彼女は大丈夫だろうか。ちらりとそちらを見ると、二頭の馬が並んで走っている。馬を走らせる程度の力は残っているらしい。安心した。
 と、思ったところで、蓬は自分が今撃ち抜いた歪虚が、腕からさらさらと塵になっていくのに気付いた。先ほどの一撃がトドメになったらしい。
 これで残りは一体だ。ステラの逆鱗に触れて、あの歪虚がどれだけ長く立っていられるか。蓬は援護するためにそちらへ向かった。

「いっけぇぇ!! 叩っ斬る!!」
 上段に構えて、そこから繰り出される二連之業は、彼女が言うとおり「叩き斬る」と呼ぶに相応しい攻撃だった。斬撃にして殴打。刃の切れ味と剣の重量を生かした、粉砕しかねない攻撃力。
 その二撃は、歪虚の胴部を襲った。両断されないのが不思議なくらいの重量ある攻撃。
「一夏ちゃん! トドメ!」
「はいっ!」
 一夏はステラの声に励まされた。今にも胴と足が離れてしまいそうな歪虚に近寄ると、再びあぶみで片足立ちになって、脚絆による螺旋突を繰り出した。
 文字通りそれで蹴りがついた。一夏の攻撃は敵の急所を抉ったのだ。彼女が足を離したところから、形が崩れてゆく。
「やったぁ!」
 ステラが我が事の様に歓声を上げる。零次は、見える範囲に敵影がないのを確認すると、馬車に呼びかける。
「ひとまず、追い掛けて来た三体は倒したぜ。他に援軍もいなさそうだ」
「すごい! 流石ハンターだ!」
 エルフの青年が喜んではしゃぐ。槍のドワーフが馭者に声を掛けた。
「おい、一旦止まれ。馬を休ませる」
「お、おう」
 馬車と一緒に、ハンターたちも足を止めた。馭者台から、馬を操っていたドワーフがふらふらになりながら降りて来る。
「死ぬかと思った」
「お疲れさん。災難だったな」
 零次はそんな彼をねぎらうように肩を叩いた。
「ああ……ありがとよ。お前がいてくれたから集中できたぜ。歪虚は引き受けてくれるって思えたしな」
「信じてくれたのはありがたいな」
 守ると決めていたのだ。歪虚にどれだけ接近されようと。それが伝わったことは彼にとっても報いとなる。
「一夏さんは大丈夫ですか?」
 蓬が一夏に声を掛ける。一夏は、自身が持参した救急セットで応急手当をしていた。覚醒者であることだし、数日もすれば治るだろう。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「心臓が止まるかと思ったよ! でも一夏ちゃんが無事で良かった」
「ねー!」
 そこにエルフの青年がやって来た。
「ないと思ってたんだけど、馬車に一本だけポーションがあったんだ! ね、これもらって? 助けてくれたお礼!」
 彼はそう言って、ヒーリングポーションの瓶を一夏に押しつけた。
「良いんですか?」
「もちろん! だって助けてくれてそれで怪我しちゃったんだから。集落に戻ればまだあるみたいだけど……」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
 一夏は笑顔で答える。
「怪我も思ったより酷くなさそうですし」
 だから大丈夫。彼女は頷いた。後輩が本当に大丈夫そうであることを確認したステラは、気が抜けた様に息を吐く。
「つっかれたぁ……一夏ちゃん、大丈夫そうならこの後お茶でもどう?」
 先輩が奢っちゃうよ。ステラが冗談めかしてそう言うと、一夏の顔がぱっと輝いた。彼女に必要なのは、ポーションよりも、優しい先輩とのお茶の時間なのかもしれない。
「もちろん行きますとも!」
 槍のドワーフは、蓬に歩み寄った。
「良い銃だな」
「ありがとうございます」
「荷台から見てたが、上手い戦い方だった。飛びながらあれだけ当てられるって言うのは、大したものだ。教えも良いんだろうが、それを堅実に実行するのはなかなかできるものじゃない」
 蓬は転移直後に巻き込まれた事件で、自分を助けてくれたハンターに師事して短銃を用いた戦闘技術を習得している。
 だから教えが良いと言うことには彼女も賛成である。他人から見て、自分もその技術に少しでも近づけているのなら、今よりもっと、恩人の役に立てるようになるかもしれない。
 それは彼女にとって非常に喜ばしいことだった。
「次会うときは、今日より上達した技を見せてくれ」
「はい」

●解散
 馬車にも、乗員にも怪我はなかった。エルフと二人のドワーフは、ハンターたちに礼を告げて去って行く。もう慌てて逃げる必要もないし、馬も疲れていたのだろう。のんびりとした速度だ。エルフの青年は、見えなくなるまでずっと手を振っている。
「じゃあ、俺もこれで。怪我、大事にしろよ」
「私もこれで。お大事にしてください。ありがとうございました」
「ありがとうございます」
 零次と蓬が一夏に声を駆けると、彼女は笑顔でそれに応じた。
「一緒に戦ってくれてありがとう! 機会があったらまた!」
 ステラも笑顔で手を振った。蓬はこっくりと頷くと、箒に乗って浮かび上がる。実戦は上々だった。
「じゃ、私たちも行こうか、一夏ちゃん」
「はい!」
 明るい先輩の笑顔を見て、一夏は憧れの気持ちを新たにする。
 自分の頭に乗っている宝冠。ステラからもらったものだが、彼女は覚えていないらしい。
 いつか強くなって伝えられたら良い。
 でもそれはもう少し先のことになりそうだ。今夜は、後輩のままで、先輩の厚意に甘えることにしよう。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 甘苦スレイヴ
    葛音 ステラ(ka5122
    人間(蒼)|19才|女性|舞刀士
  • 拳で語る男
    輝羽・零次(ka5974
    人間(蒼)|17才|男性|格闘士
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士
  • 絆を紡ぐ少女
    蓬(ka7311
    人間(蒼)|13才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/04 00:50:44
アイコン 相談卓
葛音 ステラ(ka5122
人間(リアルブルー)|19才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/10/04 02:45:09