ゲスト
(ka0000)
【空蒼】恨絶の狂機 ∞機目
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/11 07:30
- 完成日
- 2018/10/19 14:49
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●十数日前の事
廃棄コロニーから救出されたリー軍曹は月面基地へと移送されていた。
彼自身は暴走していないのだが、部隊単位では暴走していたからだ。
軍部から廃棄コロニーでの反乱・暴走について尋問を受けたが、今の所、お咎めは無いようだった。
「……籃奈隊長殿から渡されたメモリーカードの中身がアレじゃな……」
『特務双艦ジェミニ』を率いた“上司”やその影響を受けた一団は先の戦いで全滅したが、メモリーカードには“上司”と軍需産業との不正に関する証拠が入っていたのだ。
そんな訳で目に見えない所で“取引”が行われているのだろう。
自身に関する事なのに、自分が蚊帳の外であるが、リー軍曹は慣れていた。それが軍組織というものだろう。
「面会時間は厳守だ」
月面基地のある施設に訪れたリー軍曹は警備の者にそう告げられて、部屋に入った。
部屋には様々な医療機器で囲まれており、ベットで星加 籃奈(kz0247)が穏やかな寝息を立てている。
そのすぐ傍には一人の少年が居た。
「こんにちわ」
リー軍曹に気が付いた少年はスッと立ち上がると礼儀正しい頭を下げる。
「この度は、母がご迷惑をお掛けしました。申し訳ございません」
「いや、俺は……迷惑とか受けてないから。むしろ……救われた方だ」
不思議そうな表情を浮かべる少年。
これまで母を訪ねてくるのは軍の偉い人ばっかりだったから、この人もそうではないかと思っていたのだ。
「俺の名はリー。籃奈隊長殿の部下だよ」
利発そうな息子が居たんだなと思いながらリー軍曹は名乗るのであった。
「……そんな事があったのですか……母さんが……」
リー軍曹から廃棄コロニーでの一連の事件を聞いて孝純はお礼を言った。
母はどんな戦場に行くかなど細かくは教えてくれなかった。
「……容体は?」
「母さんは命に別状はないみたいです。ただ……いつ、目を覚ますかは分からないみたいで」
少なくとも“此処”に居る限り、暴走する事はないらしい。
それは籃奈だけではなく、他の強化人間も同様……という事みたいだが、一般人に過ぎない孝純にはその詳細は分からない。
「ところで、リーさん。廃棄コロニー奥のVOIDはどうなったのでしょうか?」
捕獲した籃奈の機体記録から、廃棄コロニー奥に狂気VOIDが存在しているのは分かっていた。
「討伐戦は行われないらしい。軍の方でも動きがあるみたいだからな。それに、強化人間で討伐に行くわけにもいかない」
「それじゃ……そのままなのですね」
孝純はグッと拳を握った。
その狂気VOIDを倒せば、リアルブルーでの強化人間に絡む全ての問題が解決する訳ではない。それでも、孝純は母が命を懸けてみつけたそのVOIDを放置したくはなかった。
「……できない事はない。ハンター達を雇うんだ」
「現地まではどうすれば?」
「輸送船を手配できないか、俺が動いてみるぜ。こう見えても、色々とコネがあるからな」
孝純の気持ちもあるが、リー軍曹もVOIDの討伐を籃奈から頼まれていた。
そう――これは命令だ。戦場に行けなくとも、できる事はやり遂げたい。そう、リー軍曹は思っていた。
●廃棄コロニー宙域
リー軍曹がどうやってか手配した輸送船に孝純も乗り込んでいた。
コロニー奥底に潜む狂気VOIDをハンター達に討伐する依頼を出した依頼主としてだ。
「討伐する狂気VOIDは壁と一体化していて、どんな能力があるか分かりません」
出撃するハンター達をCAMデッキで見送りつつ、孝純は輸送船の護衛に乗っていたパイロットに言った。
このパイロットは何でもリー軍曹に借りがあったらしく、ハンター達が輸送船に居ない間の護衛をやってくれるという。
「なるほど。そりゃ、色々と備えがいるだろうな。そのVOIDまではここからだと離れているのか?」
「そうですね。母さんの機体から得られたデータを基にすると離れているようです」
宇宙服のヘルメット上にデータを呼び出しながら孝純は答える。
あの時、星加機の機動力は高い状態にあったので、参考程度にもなるかどうかわからないが、その状態で、輸送船のある辺りからコロニーまで数分。
討伐対象である狂気VOIDは外壁と同化しているので、付近のハッチから出入りできたとしても少しの時間はかかるだろう。
「……よし、それならこのままスタンバっておくか」
パイロットは真剣な表情を浮かべた。
二人の視線の先にはコンフェッサーが1機、待機状態だった。
「でも、この機体、ハンターか強化人間用ではないのですか?」
「いい質問だね、孝純君。これはね、一般人でも搭乗可能に調整した特別機なんだよ」
そこからパイロットは自慢げに、如何に自分の機体が素晴らしいか語り出した。
パイロットの負荷を抑える為の工夫や強力な射撃を行えるライフルや携帯性を高めた格闘武器など……きっと、彼は自分の機体が大好きなのだろう。
「まぁ、そういう訳で、狂気VOIDが襲ってきても大丈夫って訳だ」
誇らしげに胸を張った。
機体が良くても、大事なのはパイロットとしての技量も必要なのだが……宇宙軍所属のCAMパイロットだ。
きっと、歴戦のパイロットなのだろうと孝純は思う事にしたその時だった。
突如としての警戒音が船内に響く。
「な、なんだ?」
驚いたパイロットが声を上げた瞬間、CAMデッキのハッチ付近に何かが直撃する。
激しい爆音と衝撃。ハンター達を送り出す為、宇宙服を着ていたのが幸いした。
「襲撃!?」
姿勢制御を作動させながら孝純は手すりに捕まった。
コロニーの影から狂気VOIDが現れて攻撃してきたと船の放送が告げる。
全部倒したかと思ったら、潜んでいる分が残っていたようだ。ただちに直掩機の出撃許可が降りるが……。
「これじゃ……」
流れて来たコンテナから頭を出して孝純はCAMデッキ内を見渡して絶句する。
先ほどの直撃を受けて、多くの整備兵が怪我をしていた。パイロットも右腕があり得ない方向に曲がっている。
「だ、大丈夫ですか!?」
声を掛けてみたが、パイロットは気を失っているようだった。
そうこうしている間に、狂気VOIDから二撃目が放たれ――船体が揺れた。至近弾となったようだ。
このまま攻撃を受けていたら、船が沈む。
「……やるしかない」
少年の視線は1機のコンフェッサーに向かれていた。
廃棄コロニーから救出されたリー軍曹は月面基地へと移送されていた。
彼自身は暴走していないのだが、部隊単位では暴走していたからだ。
軍部から廃棄コロニーでの反乱・暴走について尋問を受けたが、今の所、お咎めは無いようだった。
「……籃奈隊長殿から渡されたメモリーカードの中身がアレじゃな……」
『特務双艦ジェミニ』を率いた“上司”やその影響を受けた一団は先の戦いで全滅したが、メモリーカードには“上司”と軍需産業との不正に関する証拠が入っていたのだ。
そんな訳で目に見えない所で“取引”が行われているのだろう。
自身に関する事なのに、自分が蚊帳の外であるが、リー軍曹は慣れていた。それが軍組織というものだろう。
「面会時間は厳守だ」
月面基地のある施設に訪れたリー軍曹は警備の者にそう告げられて、部屋に入った。
部屋には様々な医療機器で囲まれており、ベットで星加 籃奈(kz0247)が穏やかな寝息を立てている。
そのすぐ傍には一人の少年が居た。
「こんにちわ」
リー軍曹に気が付いた少年はスッと立ち上がると礼儀正しい頭を下げる。
「この度は、母がご迷惑をお掛けしました。申し訳ございません」
「いや、俺は……迷惑とか受けてないから。むしろ……救われた方だ」
不思議そうな表情を浮かべる少年。
これまで母を訪ねてくるのは軍の偉い人ばっかりだったから、この人もそうではないかと思っていたのだ。
「俺の名はリー。籃奈隊長殿の部下だよ」
利発そうな息子が居たんだなと思いながらリー軍曹は名乗るのであった。
「……そんな事があったのですか……母さんが……」
リー軍曹から廃棄コロニーでの一連の事件を聞いて孝純はお礼を言った。
母はどんな戦場に行くかなど細かくは教えてくれなかった。
「……容体は?」
「母さんは命に別状はないみたいです。ただ……いつ、目を覚ますかは分からないみたいで」
少なくとも“此処”に居る限り、暴走する事はないらしい。
それは籃奈だけではなく、他の強化人間も同様……という事みたいだが、一般人に過ぎない孝純にはその詳細は分からない。
「ところで、リーさん。廃棄コロニー奥のVOIDはどうなったのでしょうか?」
捕獲した籃奈の機体記録から、廃棄コロニー奥に狂気VOIDが存在しているのは分かっていた。
「討伐戦は行われないらしい。軍の方でも動きがあるみたいだからな。それに、強化人間で討伐に行くわけにもいかない」
「それじゃ……そのままなのですね」
孝純はグッと拳を握った。
その狂気VOIDを倒せば、リアルブルーでの強化人間に絡む全ての問題が解決する訳ではない。それでも、孝純は母が命を懸けてみつけたそのVOIDを放置したくはなかった。
「……できない事はない。ハンター達を雇うんだ」
「現地まではどうすれば?」
「輸送船を手配できないか、俺が動いてみるぜ。こう見えても、色々とコネがあるからな」
孝純の気持ちもあるが、リー軍曹もVOIDの討伐を籃奈から頼まれていた。
そう――これは命令だ。戦場に行けなくとも、できる事はやり遂げたい。そう、リー軍曹は思っていた。
●廃棄コロニー宙域
リー軍曹がどうやってか手配した輸送船に孝純も乗り込んでいた。
コロニー奥底に潜む狂気VOIDをハンター達に討伐する依頼を出した依頼主としてだ。
「討伐する狂気VOIDは壁と一体化していて、どんな能力があるか分かりません」
出撃するハンター達をCAMデッキで見送りつつ、孝純は輸送船の護衛に乗っていたパイロットに言った。
このパイロットは何でもリー軍曹に借りがあったらしく、ハンター達が輸送船に居ない間の護衛をやってくれるという。
「なるほど。そりゃ、色々と備えがいるだろうな。そのVOIDまではここからだと離れているのか?」
「そうですね。母さんの機体から得られたデータを基にすると離れているようです」
宇宙服のヘルメット上にデータを呼び出しながら孝純は答える。
あの時、星加機の機動力は高い状態にあったので、参考程度にもなるかどうかわからないが、その状態で、輸送船のある辺りからコロニーまで数分。
討伐対象である狂気VOIDは外壁と同化しているので、付近のハッチから出入りできたとしても少しの時間はかかるだろう。
「……よし、それならこのままスタンバっておくか」
パイロットは真剣な表情を浮かべた。
二人の視線の先にはコンフェッサーが1機、待機状態だった。
「でも、この機体、ハンターか強化人間用ではないのですか?」
「いい質問だね、孝純君。これはね、一般人でも搭乗可能に調整した特別機なんだよ」
そこからパイロットは自慢げに、如何に自分の機体が素晴らしいか語り出した。
パイロットの負荷を抑える為の工夫や強力な射撃を行えるライフルや携帯性を高めた格闘武器など……きっと、彼は自分の機体が大好きなのだろう。
「まぁ、そういう訳で、狂気VOIDが襲ってきても大丈夫って訳だ」
誇らしげに胸を張った。
機体が良くても、大事なのはパイロットとしての技量も必要なのだが……宇宙軍所属のCAMパイロットだ。
きっと、歴戦のパイロットなのだろうと孝純は思う事にしたその時だった。
突如としての警戒音が船内に響く。
「な、なんだ?」
驚いたパイロットが声を上げた瞬間、CAMデッキのハッチ付近に何かが直撃する。
激しい爆音と衝撃。ハンター達を送り出す為、宇宙服を着ていたのが幸いした。
「襲撃!?」
姿勢制御を作動させながら孝純は手すりに捕まった。
コロニーの影から狂気VOIDが現れて攻撃してきたと船の放送が告げる。
全部倒したかと思ったら、潜んでいる分が残っていたようだ。ただちに直掩機の出撃許可が降りるが……。
「これじゃ……」
流れて来たコンテナから頭を出して孝純はCAMデッキ内を見渡して絶句する。
先ほどの直撃を受けて、多くの整備兵が怪我をしていた。パイロットも右腕があり得ない方向に曲がっている。
「だ、大丈夫ですか!?」
声を掛けてみたが、パイロットは気を失っているようだった。
そうこうしている間に、狂気VOIDから二撃目が放たれ――船体が揺れた。至近弾となったようだ。
このまま攻撃を受けていたら、船が沈む。
「……やるしかない」
少年の視線は1機のコンフェッサーに向かれていた。
リプレイ本文
●
辛うじて届いた母船からの通信。
「VOIDの襲撃を受けているようだな」
黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)のモニターを巡らし、自分達が入って来たハッチを確認する瀬崎・統夜(ka5046)。
ハッチはおおよそ閉じかかっている状態だった。
直後に警戒音が鳴り、ハッチの外の宇宙空間にもVOIDの姿が見える。
「厄介な事だな……ヘルは大丈夫か?」
ハンター達の眼前には、コロニーの外壁と一体化しているようなVOIDもいるのだ。
そもそもこの依頼は、その外壁VOIDを倒す事にある。
ヘルヴェル(ka4784)が友人からの呼び掛けに、顔に掛かった髪を手で払いながらコントロールパネルを叩いていた。
「この状況なのに機体調整が……でも、大丈夫です。戦闘自体に支障はないです」
彼女が駆るOpfer(R7エクスシア)(ka4784unit002)の兵装やスキル。
これらはハンターと同じく、出発前の調整が欠かせない。何かの都合か、機体スキルが不足していた。
だからといって戦えない訳ではない。撃ち切り型の小型マテリアルライフルもある。
すぐに頭の中を切り替える。今は母船の護衛をどうするか、それを考えなければならない。
「一人か二人ほど、母船の護衛に戻った方が良さそうですね」
「それなら、わたしが行くよ」
答えたのは十色 エニア(ka0370)だった。
母船までの距離は離れている為、高い機動力が求められる事になる。
エニアが搭乗しているグラム(オファニム)(ka0370unit002)は条件を満たせるだろうか。
「それなら、俺も行った方が良さそうだな」
Koias(コンフェッサー)(ka0178unit005)のスラスターを確認するように幾度か吹かしながら、龍崎・カズマ(ka0178)が言った。
母船に到着後、VOIDを討伐ないし、時間稼ぎする必要がある。
少なくとも二機居ればなんとかなるかもしれない。それに母船には1機、護衛が付いているはずだ。
オリアス(R7エクスシア)(ka0141unit004)のガンポットを展開させたアニス・テスタロッサ(ka0141)が舌打ちして言った。
「なめたマネしやがって……多少、知恵は回るみてぇだが、それだけだ」
「うまく分断されてしまった、とみるべきか」
答えたカズマの台詞に頷くと長大なライフルの銃口をハッチへと向けた。
「十色、龍崎、母船は任せた。ケツ持ちはこっちでやる」
「外壁VOID討伐で依頼完了と思ったら……まぁ、そう順調にはいかないよね~」
CAM槍の機構をセットさせつつ言ったエニアの言葉。
母船には星加 籃奈(kz0247)の一人息子である孝純が乗船しているのだ。
機体の濃紺色が特徴的なAzrael(R7エクスシア)(ka0725unit001)に乗る鹿東 悠(ka0725)がエニアに同意する。
「ようやく親玉と相見えたかと思えば、間が悪い……お二人に母船を任せますが、大尉――籃奈――が目覚めた時に、彼――孝純――が居ないと、折角助けた甲斐がありませんからね。頼まれて下さいよ」
強化人間の部隊を率いた籃奈と共に廃棄コロニーに潜むVOIDを討伐しに来た。
“上司”の陰謀と強化人間の“暴走”。その悲劇の中で、僅かな希望をハンター達が成し得たのだ。
ここで母船を沈められ、孝純を死なす訳にはいかない。
「これ以上の悲劇を防ぐ為にも、原因VOIDはきっちり始末なのです!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がCAMの飛忍『セイバーI』(コンフェッサー)(ka5784unit004)のスキルトレースによる符術を行使する。
コックピット内にマテリアルの符が2枚舞うとモニター上に理想位置が表示された。戦機を見出す符術だ。
「開眼……セイバーIちゃんが進むべき未来を教えてくれるもの」
続いてルンルンはパネルを見もせずに叩いた。
機体が盾を構えながら印を描き、出現したのは、4体のバルーン。瞬く間にそれらは外壁VOIDとハンター達の機体の間に広がった。
「セイバーIちゃん、機忍法分身の術です!」
母船に向かう仲間達とそれを支援する仲間達を援護する為だ。
準備が整ったと判断し、アニスが全員に呼び掛ける。
「着弾座標合わせろ。ハッチをぶち抜いて道作るぞ」
「あのハッチに穴を空けるなら……『貫通徹甲弾』の方が有利か」
ダインスレイブ(ka6605unit004)の巨大な砲身をクラン・クィールス(ka6605)が微調整する。
人が出入りするようなハッチではない。ハンター達の最大火力を持ってしても粉砕できるかどうかという所だろう。
「カズマさん十色さん行ってください」
ヘルヴェルの言葉と共に一斉に放たれる攻撃。
ビームや砲弾、ミサイルが乱れ飛ぶ中、エニア機が螺旋槍を突き出し、カズマ機がアーマーペンチを構えて突貫していく。
二機は勢いそのままに脆くなったハッチを突き破ると外に居たVOIDを巻き込みながら、母船のある方へ加速していく。
それを確認して鹿東は機体を外壁VOIDへと向き直す。
ルンルンが放出していたバルーンはハンター達の盾となっていたようで、次々と破裂していく。
「さて、こちらは仕事を……今回の一件で随分と好き勝手した輩を始末しますか」
宣言するように斬艦刀の刀先を外壁VOIDに向けた。
●
巨大な人の上半身がコロニーの壁から飛び出ている。
調査の結果、強化人間を暴走させる謎電波を発するVOIDの一種……とされた。
籃奈や強化人間らは“声”と表現したが、ハンター達に謎電波は影響しない。
「こいつが…このVOIDが、全ての元凶か」
音を立てて砲身を上げるクラン。
脳裏に焼き付くのは、強化人間達の姿と声。
「……仇、などとは言わないさ。どんな過程であれ、アイツ等を……強化人間達を手にかけたのは俺だ」
暴走している強化人間を彼は討った。
だが、そもそも暴走しなければそうはならなかった。そして、暴走の原因となったVOIDは目の前にいる。
「…コイツを潰して、アイツ等への手向けぐらいにはしてやれる……行くぞ、ダインスレイブ。目標を…徹底的に破壊する!」
カッと見開いた瞳がモニターに映る照準と重なる。
直後、砲撃を連続で放った。必殺の砲撃は間違いなく外壁VOIDを直撃する。
相手が巨大なだけあって、彼ほどの腕前があれば、とりあえず撃てば当たるといっても過言ではないだろう。
「クランさんの言う通りです。顔を知らない連中なら兎も角、顔見知り程度とは言えいいように仲間を使ってくれましたからね」
砲撃に合わせ近接戦を挑む鹿東。
負のマテリアルのビームを避けつつ、斬艦刀を振るう。
「この“落とし前”、たっぷりと付けて貰いますよ!」
確かな手応えを感じる。
そう簡単には倒せないだろうが、絶望的という訳ではないはずだ。
鹿東機を援護しつつ、アニスが仲間に倣うように言った。
「そうだな……“落とし前”つけてもらおうか」
構えたライフルから紫色の光線が放たれた。
ハンター達の怒涛の攻撃に外壁VOIDもやられっぱなしではない。
十二分にハンター達を脅威と感じたようだった。目に該当する部位から負のマテリアルビームを放つ。
「何とか手数を減らしたい所ですね」
二本のビーム攻撃、そして、口から放たれた極太のレーザーを辛うじて避けてヘルヴェルが機体の姿勢を整える。
両腕に該当するマニピュレーター、両目、口とそれぞれ自在に攻撃を放ってくるのだ。
油断していると思わぬ所から攻撃を喰らう可能性もある。
「動きを鈍らせる他ないか。部位を狙うにしてもそれからだ」
瀬崎はスキルトレースを発動させると、機体のライフルにマテリアルを流す。
猟撃士が持つ力の中には、冷気を纏った射撃攻撃を行うものがある。
これが効けば、少しは相手の動きを阻害できるのだが……。
「そう簡単には通じないか」
強度の問題なのだろうか。それでも、幾度か撃てば効くかもしれない。
再度、同じ力を使おうとするが、敵も黙っている訳ではない。小賢しい攻撃をしてくる標的として認識したようだ。
「させませんよ」
瀬崎機の前にヘルヴェルの機体が立つ。
敵のビームに関していえば、攻撃は直線的だ。射線を塞ぐだけで仲間を庇う事が出来る。
「セイバーサイズ!」
壁を登って外壁VOIDの頭上から、長大なハルバードを振るったのはルンルンの機体だった。
マジックエンハンサーが一際大きく輝き、マテリアルハルバードの威力を増大させた一撃。
マニピュレーターを切り落とそうとしたが、さすがに無理があったようだ。
すぐに敵が反撃を繰り出す。まさに双方、火力の殴り合いだ。
「火器管制を援護する」
コマンダーのカスタムタイプを持つ瀬崎機が射撃を行う仲間の機体に並ぶ。
効果の程は大きくないが、それでも足しにはなるだろう。
●
ハッチから飛び出したエニアとカズマの機体は、仲間の援護があったおかげでもあり、突撃した勢いそのままに1体のVOIDを倒す。
「途上にも居るみたいだね」
「一気に突破するしかない」
アクティブスラスターを全開にする二機。
その行く手を塞ぐように狂気VOIDが小型狂気を排出しながら移動する。
「文字通り、試し打ちだな」
VOIDに対しパイルバンカーを打ち込むと、巻貝みたいな図体を足場代わりに蹴り飛ぶ。
螺旋槍の補助スラスターで高速状態のエニア機が駆け抜けざまにスキルトレースで魔法を放つ。
「全速前進DA!ってね」
何せ、足を止める訳にはいかないのだ。二機はそのまま宇宙を飛ぶ。
倒し切れなかったVOIDに背を見せる事になるが気にしている場合ではない。
縋るように攻撃を繰り出してくるVOIDの攻撃をギリギリのラインで避ける。
「っもう、しつこい!」
「……十色、背を頼む」
カズマは静かにパネルを操作する。
母船の状況は分からない。望遠レンズでは戦闘の様子が微かに見える程度だ。
「いいけど。無茶しないでね」
エニアには彼が何をしようとしているか分かった。
サブクラス操縦士が持つ能力の中には機体と文字通り一体化するスキルが存在する。
機体性能を限界以上に引き出す事が出来る分、乗り手のマテリアルを多量に消費するのだ。
「分かってる。全員が無事じゃないと、意味がないからな」
モニターに『人機一体』と表示されると同時に、機体がマテリアルのオーラに包まれる。
刹那、母船へと向けてカズマの機体が加速した。尋常ではない速さとそれを支えるマテリアルの排出。
全身を巡る激しい圧力と痛みに、歯を食いしばり遠くなりかける意識を引き戻す。
漆黒の宇宙に輝くマテリアルの光跡をエニアは見て呟いた。
「……不謹慎かもしれないけど……だけど、凄く綺麗……」
例えるなら、それは彗星だろうか。
●
「これだけ大きい相手だけど、どこかに弱点とか核とかないかなって思ったけど……それらしいのは無いみたいです?」
敵の攻撃を避けつつ、ハルバートを構えるルンルンの機体。
機体の腕が印を描くと同時に魔法が放たれる。
「ニンジャの魂フル解放、轟け雷鳴、セイバートマホーク!!」
スキルトレースによる符術を展開すると、稲妻が外壁VOIDを直撃した。
先程からハンター達の猛攻が続いているのに、幾らダメージを与えてもなかなか倒れてくれない。
巨大なだけあって、耐久力も高いという事なのだろう。
「またまた分身の術です!」
盾を前面に押し出し、マテリアルバルーンを放つ。
バルーンは脆い存在ではあるが、敵の射撃を散らす役割位はできるからだ。
幾度目かのレイターコールドショットを放った瀬崎はようやくスキルの効果が発揮されたと手応えを感じる。
「二度目はない。効果が続いているうちに畳み掛けろ」
仲間に告げながら、生体マテリアルを機体に流す。
それで補充したエネルギーで瀬崎は機体のエンジンと武装を直結させる。
極めて高度なマテリアル操作が求められる事だが、僅かでも威力を上げられるなら四の五の言ってられない。
「確実に仕留める」
4連カノン砲の銃口を向ける。
外壁VOIDの強烈な反撃が来たのは、それとほぼ同時だった。
複数のレーザー攻撃を放ちつつ、マニピュレーターが近くの残骸を掴むと遠慮なく周囲を破壊する。
「く……悪あがきを!」
瀬崎機の頭上に崩れてくる瓦礫をヘルヴェルがクイックライフルで破壊する。
続けて、味方の射線の邪魔になったものや移動スペースを塞ぐ瓦礫を壊していく。
「奥の手を残していて良かったです」
「何か別の攻撃手段を隠し持っている場合もあると思ったが……まさか、な」
クラン機が頭上の巨大な建造物を先に砲撃で粉砕した。
「今は動く様子が見えないが……動き出す可能性もゼロじゃあない」
「周囲の構造物を破壊しているという事は……」
ハッと気が付いたヘルヴェルの台詞に誰もが理解した。
外壁VOIDの狙いは残骸でハンター達を攻撃する事ではなく、外壁との固定を外そうとしているのだ。
ここで逃がして万が一でも月に行かれると厄介だ。
「一気にケリをつけるしかないな!」
機体の大きめの残骸に上に登らせ、固定するとクラン機は対VOIDミサイルを放った。
外壁VOIDからの攻撃のうち、致命傷となる射撃は庇いに入ったヘルヴェルに任せつつ、そのまま続けて砲撃を繰り出す。
ハンター達が持ち得る最大の火力を撃ち続けるしかない。
「アイツ等の無念も何もかも……これで、終わりだ!」
敵の攻撃を受け、機体が傾きながらもクランが放った砲撃は外壁VOIDのマニピュレーターを1本破壊した。
ダメージが積み重なっていた事もあった。敵が逃げ出そうとしていたのは不利を悟ったからだろう。
この機会を見逃すわけにはいかない。
「機忍法大火遁の術! 若い命が炎の様に燃え上がれ、なんだからっ!」
「行け! 鹿東! アニス!」
ルンルンと瀬崎の援護中、二機が敵のビームを掻い潜り急接近する。
残ったマニピュレーターがその進路を塞ぐように叩きつけてくるが、二機は絡み合うように回転、互いを反動の足場にして避ける。
「廃棄コロニーでよかったぜ……テメェを仕留めるのに何の遠慮もいらねぇしな!」
アニスは直感的にパネルを叩いた。モニター画面に表示される『Tonitrus』の文字。
機体と一つとなる感覚と共に膨大な情報量が奔流となった。
負荷は生身のアニスだけではない。機体も負荷に耐えるかのように各部の装甲がスライドしてフレームを露出させた。
熱か、マテリアルか、それらが入り混じったオーラが機体を包み、コロニーの残骸と外壁VOIDのビームを弾きつつ、格納用ホルスターから取り出した試作錬機剣を外壁VOIDに捩じり込むように押し付ける。
「外装を剥がす! 鹿東!」
試作錬機剣を内側から外側に向かって起動させる。
剥がれる落ちる外装。それを確認しつつ、アニスは機体を後退させ、VOIDとの間にガンポットを滑り込ませ、追撃を放ち、鹿東を援護する。
ここに来て外壁VOIDが“声”のような音を発する。
強化人間達を苦しめた呪いの声は、まるで、断末魔のようにも聞こえた。
仲間達の援護を受け鹿東機が残骸やVOIDの身体を足場に立体的な動きを取る。
アニスが剥がした外装を完全に切り落とすべく斬艦刀を振るう。
「これはシーバ軍曹の……次はコンドウ曹長……これは操られた隊員達……」
外壁VOIDの反撃も繰り出されるが、機体にダメージを受けながら、鹿東は怒りを静かな殺意に変え、淡々と刀を振るう操縦を止めない。
完全に外装が外れ、露出した内部に刀先を向ける。
「……そして、これは大尉の分だ」
深々と斬艦刀を突き刺す――そのままに、濃紺色のエクスシアはスラスターを全開に吹かし、飛び上がった。
間髪入れず、ハンター達の一斉射撃。
地獄に落ちていくような“声”をあげながら、外壁VOIDはボロボロと崩れ落ちていくのであった。
●
巨大な巻貝のようなものが漆黒の中に浮かんでいる。それは一目で異形であり、恐怖を感じさせた。
イニシャライズフィールドが作動していなかったら、狂気に汚染されていただろう。
「これが……戦場……」
緊張で身体が圧迫されている――そんなイメージを抱く孝純。
辛うじて戦えているが、押されているのは分かった。シミュレーターと実戦は違うのだ。
「あっ!?」
油断した訳ではなかった。
中型VOIDが放出した小型狂気に一瞬、気を取られた所を狙われたのだ。
巻貝の先端がモニター一杯に広がる――が、直後、VOIDが吹き飛んだ。
「間に合ったな」
マテリアルラインが繋がれた事をモニターが表示していた。
「カズマさん!? 廃棄コロニーに行ってたはずじゃ」
驚いたのは孝純だけではなく、カズマも同様だった。
孝純が乗っているとは思わなかったからだ。
「どうして、その機体に乗っている?」
「誰も乗れる人がいなかったから……」
「そうじゃない。乗ると決めた“理由”があるんだろ?」
小型狂気をアーマーペンチで掴むと、それのままVOIDに投げつけた。
「……生き残る為に」
「そうか。既に戦場に立ってるんだ、今更、下がれとは言わない。戦え」
「は、はい!」
カズマの機体が近接戦向きな兵装と読み取り、ライフルに武装を取り替える孝純。
そういう所は要領がいい少年だ。パイロットのセンスはあるかもしれない。
新手が脅威と感じたようでVOIDが次々に小型狂気を放出した。
だが、それらを紫色の光線が貫いていく。
「死神は逃がしませんよ~」
マテリアルライフルを放ったのはエニアの機体だった。
奇抜なデザインの槍を持っている死神だけど……と思いつつエニアが孝純に並ぶ。
「無理しなくていいからね。向こうが終われば、こっちに合流するはずだから」
正直言うと、孝純には過剰な負荷をかけさせたくない所だ。
だが、戦場に立つ、一人の戦士としての想いも認めたいとも感じる。
「エニアさんも……ありがとうございます」
「危なくなったら輸送船の開いたハッチから狙撃するだけでもいいからね。全部守ってあげるから」
「ぼ、僕は男ですから。こういう所で引っ込む訳にはいきません」
ここでは性別は関係ないだろうが、そういう意気込みって事なのだろう。
というか、どうも、この少年には、まだ『勘違い』されているらしい……が、今、指摘するタイミングでもないし……とエニアは心の中で呟く。
「仕方ないね」
風の力を付与する魔法をスキルトレースで発動させ、孝純機に掛けた。
「外壁VOIDを討伐したと連絡が入った。凌ぎ切れば問題ないが……やられっぱなしは性に合わないだろう?」
カズマの台詞に孝純は力強く返事をする。
「勿論です!」
中型VOIDにはカズマが向かい、小型狂気をエニアと孝純が対処する。
上手く連携が取れそうな形となり、エニアはうんうんと満足そうにうなずいた。
「……多分だけど、この組み合わせって、なかなか良いトリオだと思う」
結局、外壁VOIDを討伐したハンター達が母船に戻ってくる前に、襲撃してきたVOIDを、カズマとエニアは孝純と共に討伐したのであった。
●
母船の被害は軽微だった。
だが、月に戻る途上に何があるか分からない。その為、アニスは機体に乗り、応急修理を行っていた。
「金属板はあるか?」
「持って来ましたよ」
答えたのは鹿東だった。彼の愛機は多くの資材を担いでいた。
「損傷個所が酷くなりすぎていない所をみると……護衛が意味を成したのか」
クランの機体はCAM用の工具箱を持ってきていた。
人の手では扱えないような大型の工具もCAMであれば楽々と動かす事も出来る。
「ここを押さえておけばいいかな」
機体の足と腕を使い、敵の攻撃を受けて穴が開いている甲板を塞ぐように張った板をクランも押さえる。
後は溶接するかリベットで固定するかだ。
「あのVOIDを逃がさず倒せてよかったです」
鹿東が先程の戦いを思い返す。
機体の性能による所が多かったが、人数や武器、スキル、それらが不足していたら危なかっただろう。
「……パッと見似てやがったからなぁ……自分のツレを殺したであろう奴に」
作業しながらアニスは呟きにクランが返す。
「……籃奈のか?」
「それで暴走したかは分からないが……」
強化人間の暴走を呼ぶVOIDは討伐された。
籃奈を苦しめた“上司”は既にこの世からいない。
もう、籃奈が戦い続ける理由もないだろう。孝純も無事だった。なのに、当の籃奈が昏睡状態のままだ。
「早く目覚めるといいですね」
穏やかな口調で鹿東は言った。
その時、母船が揺れ、金属板を固定しようとした動きが逸れる。
アニスは外れかかった部品を抑えるように機体を操作した。
「ったく……っとに、大馬鹿野郎が……落とし前はつけたんだ。とっとと目ぇ覚ませや」
部品を掴んだ機体の指先が月を差していた。
一人の少年が、船医室に連れて行かれていた。
「大丈夫ですから」
足をブラブラとさせているのは、カズマと瀬崎に担がれているからだ。
この少年は見かけによらず、船内で隠密行動を取るわ、CAMを操縦するわで油断ならない。
「黙って大人の話は聞いておけ」
瀬崎が淡々と告げる。
その言葉に頷きながら、先行していたヘルヴェルが振り返った。
「目が覚めた時、孝純くんが居なければ籃奈さんがどうなるか、それも考えて下さいね」
「だからこそ、CAMに乗ったのに……」
弁解を続けようとする孝純に近づき、ポンとおでこを合わせた。
突然の行動に顔を真っ赤にする少年。
「その想いは素晴らしいです。ですが……貴方がいるべき戦場はここではないでしょう?」
何時目覚めるか分からない母親の隣でジッと待つ事は辛い事だろう。
だからこそ、その場に居続ける事に、意味があるのだ。
今回、無事に済んだから良かったものの、最悪、取り返しのつかない事になっていた可能性だってあるのだ。
「……手厳しいです」
ヘルヴェルの言葉は厳しいがそれは、彼女の優しさからのものだと孝純は分かっていた。
「お医者さんに診て貰ってもまだ時間はありますからね、孝純くん!」
ルンルンが孝純の荷物の中から携帯ゲームを取り出していた。
どうやら、こっそりと練習していたのだろう。ルンルンに勝つために。
「CAMの操縦といい、本当に油断できないですね……でも、ルンルン忍法の使い手である私には簡単には勝てませんよ!」
「意外と根に持つタイプなのね、孝純君」
エニアが苦笑を浮かべた。少年の母親もそんなタイプな気がする。
執念深いのが悪い訳ではないが。
「私は見ているだけでいいかな……」
「そんな事は言わず、エニアさんも一緒にやりましょう!」
「だって、二人共、強いから……」
ルンルンの誘いに言い訳するエニア。
そういえば、3人でゲームしたのはいつだったか。
少しは大人しくなった孝純を瀬崎とカズマは降ろす。
「ほら、着いたぞ」
瀬崎に背を押され、少年は困ったような表情を浮かべる。
こんなに元気なのに……という恥ずかしさがあるようだ。
「本当に入るんですか?」
そんな孝純の肩をカズマは軽く叩いた。
「いきなりの実戦は負担が大きいからな」
「……はい」
「だが、初陣にしては良い動きだった……そして、よく、生き残った。簡単にできる事じゃない。母船も無事だった訳だしな」
カズマの率直な褒め言葉に、少年は照れながら笑顔を向けたのであった。
廃棄コロニーに潜んでいた外壁VOIDだったが、ハンター達の活躍により討伐された。
また、VOIDの急襲を受けた母船もいち早く駆け戻ったハンターが孝純のフォローに入り、最悪の事態は避けられたのだった。
●
大規模な戦闘の間を突いて月面基地に無事に戻ってきた孝純はすぐさま、母が居る施設へと向かった。
CAMを勝手に操縦した件は、それどころではない戦況の中、どうやら、うやむやになったようだ。
むしろ『いつでも来いよ』的な感じで送り出さたので、戦力として当てにされているかもしれない。
「母さんが宇宙に出てから色々あったな……」
その間の出来事だけでも一杯話す事があるだろう。
逆に聞きたい事も沢山ある。CAMの操縦の事も、父さんの事も、そして、ハンター達の事も。
そんな事を思いながら、孝純は部屋の扉をゆっくりと開ける。
部屋の中は相変わらず静まり返っていた。
「ただいま、母さん」
返事が無いと分かっていても、孝純はそう言わずにはいられなかった。
そして、一歩踏み出した時だった。
「おかえり、孝純」
ベットの上で横になっていた籃奈が優し気な声と共に顔を一人息子に向ける。
少年の表情がパッと明るくなり――大粒の涙を流しながら、母親に駆け出したのだった。
――終局――
辛うじて届いた母船からの通信。
「VOIDの襲撃を受けているようだな」
黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)のモニターを巡らし、自分達が入って来たハッチを確認する瀬崎・統夜(ka5046)。
ハッチはおおよそ閉じかかっている状態だった。
直後に警戒音が鳴り、ハッチの外の宇宙空間にもVOIDの姿が見える。
「厄介な事だな……ヘルは大丈夫か?」
ハンター達の眼前には、コロニーの外壁と一体化しているようなVOIDもいるのだ。
そもそもこの依頼は、その外壁VOIDを倒す事にある。
ヘルヴェル(ka4784)が友人からの呼び掛けに、顔に掛かった髪を手で払いながらコントロールパネルを叩いていた。
「この状況なのに機体調整が……でも、大丈夫です。戦闘自体に支障はないです」
彼女が駆るOpfer(R7エクスシア)(ka4784unit002)の兵装やスキル。
これらはハンターと同じく、出発前の調整が欠かせない。何かの都合か、機体スキルが不足していた。
だからといって戦えない訳ではない。撃ち切り型の小型マテリアルライフルもある。
すぐに頭の中を切り替える。今は母船の護衛をどうするか、それを考えなければならない。
「一人か二人ほど、母船の護衛に戻った方が良さそうですね」
「それなら、わたしが行くよ」
答えたのは十色 エニア(ka0370)だった。
母船までの距離は離れている為、高い機動力が求められる事になる。
エニアが搭乗しているグラム(オファニム)(ka0370unit002)は条件を満たせるだろうか。
「それなら、俺も行った方が良さそうだな」
Koias(コンフェッサー)(ka0178unit005)のスラスターを確認するように幾度か吹かしながら、龍崎・カズマ(ka0178)が言った。
母船に到着後、VOIDを討伐ないし、時間稼ぎする必要がある。
少なくとも二機居ればなんとかなるかもしれない。それに母船には1機、護衛が付いているはずだ。
オリアス(R7エクスシア)(ka0141unit004)のガンポットを展開させたアニス・テスタロッサ(ka0141)が舌打ちして言った。
「なめたマネしやがって……多少、知恵は回るみてぇだが、それだけだ」
「うまく分断されてしまった、とみるべきか」
答えたカズマの台詞に頷くと長大なライフルの銃口をハッチへと向けた。
「十色、龍崎、母船は任せた。ケツ持ちはこっちでやる」
「外壁VOID討伐で依頼完了と思ったら……まぁ、そう順調にはいかないよね~」
CAM槍の機構をセットさせつつ言ったエニアの言葉。
母船には星加 籃奈(kz0247)の一人息子である孝純が乗船しているのだ。
機体の濃紺色が特徴的なAzrael(R7エクスシア)(ka0725unit001)に乗る鹿東 悠(ka0725)がエニアに同意する。
「ようやく親玉と相見えたかと思えば、間が悪い……お二人に母船を任せますが、大尉――籃奈――が目覚めた時に、彼――孝純――が居ないと、折角助けた甲斐がありませんからね。頼まれて下さいよ」
強化人間の部隊を率いた籃奈と共に廃棄コロニーに潜むVOIDを討伐しに来た。
“上司”の陰謀と強化人間の“暴走”。その悲劇の中で、僅かな希望をハンター達が成し得たのだ。
ここで母船を沈められ、孝純を死なす訳にはいかない。
「これ以上の悲劇を防ぐ為にも、原因VOIDはきっちり始末なのです!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がCAMの飛忍『セイバーI』(コンフェッサー)(ka5784unit004)のスキルトレースによる符術を行使する。
コックピット内にマテリアルの符が2枚舞うとモニター上に理想位置が表示された。戦機を見出す符術だ。
「開眼……セイバーIちゃんが進むべき未来を教えてくれるもの」
続いてルンルンはパネルを見もせずに叩いた。
機体が盾を構えながら印を描き、出現したのは、4体のバルーン。瞬く間にそれらは外壁VOIDとハンター達の機体の間に広がった。
「セイバーIちゃん、機忍法分身の術です!」
母船に向かう仲間達とそれを支援する仲間達を援護する為だ。
準備が整ったと判断し、アニスが全員に呼び掛ける。
「着弾座標合わせろ。ハッチをぶち抜いて道作るぞ」
「あのハッチに穴を空けるなら……『貫通徹甲弾』の方が有利か」
ダインスレイブ(ka6605unit004)の巨大な砲身をクラン・クィールス(ka6605)が微調整する。
人が出入りするようなハッチではない。ハンター達の最大火力を持ってしても粉砕できるかどうかという所だろう。
「カズマさん十色さん行ってください」
ヘルヴェルの言葉と共に一斉に放たれる攻撃。
ビームや砲弾、ミサイルが乱れ飛ぶ中、エニア機が螺旋槍を突き出し、カズマ機がアーマーペンチを構えて突貫していく。
二機は勢いそのままに脆くなったハッチを突き破ると外に居たVOIDを巻き込みながら、母船のある方へ加速していく。
それを確認して鹿東は機体を外壁VOIDへと向き直す。
ルンルンが放出していたバルーンはハンター達の盾となっていたようで、次々と破裂していく。
「さて、こちらは仕事を……今回の一件で随分と好き勝手した輩を始末しますか」
宣言するように斬艦刀の刀先を外壁VOIDに向けた。
●
巨大な人の上半身がコロニーの壁から飛び出ている。
調査の結果、強化人間を暴走させる謎電波を発するVOIDの一種……とされた。
籃奈や強化人間らは“声”と表現したが、ハンター達に謎電波は影響しない。
「こいつが…このVOIDが、全ての元凶か」
音を立てて砲身を上げるクラン。
脳裏に焼き付くのは、強化人間達の姿と声。
「……仇、などとは言わないさ。どんな過程であれ、アイツ等を……強化人間達を手にかけたのは俺だ」
暴走している強化人間を彼は討った。
だが、そもそも暴走しなければそうはならなかった。そして、暴走の原因となったVOIDは目の前にいる。
「…コイツを潰して、アイツ等への手向けぐらいにはしてやれる……行くぞ、ダインスレイブ。目標を…徹底的に破壊する!」
カッと見開いた瞳がモニターに映る照準と重なる。
直後、砲撃を連続で放った。必殺の砲撃は間違いなく外壁VOIDを直撃する。
相手が巨大なだけあって、彼ほどの腕前があれば、とりあえず撃てば当たるといっても過言ではないだろう。
「クランさんの言う通りです。顔を知らない連中なら兎も角、顔見知り程度とは言えいいように仲間を使ってくれましたからね」
砲撃に合わせ近接戦を挑む鹿東。
負のマテリアルのビームを避けつつ、斬艦刀を振るう。
「この“落とし前”、たっぷりと付けて貰いますよ!」
確かな手応えを感じる。
そう簡単には倒せないだろうが、絶望的という訳ではないはずだ。
鹿東機を援護しつつ、アニスが仲間に倣うように言った。
「そうだな……“落とし前”つけてもらおうか」
構えたライフルから紫色の光線が放たれた。
ハンター達の怒涛の攻撃に外壁VOIDもやられっぱなしではない。
十二分にハンター達を脅威と感じたようだった。目に該当する部位から負のマテリアルビームを放つ。
「何とか手数を減らしたい所ですね」
二本のビーム攻撃、そして、口から放たれた極太のレーザーを辛うじて避けてヘルヴェルが機体の姿勢を整える。
両腕に該当するマニピュレーター、両目、口とそれぞれ自在に攻撃を放ってくるのだ。
油断していると思わぬ所から攻撃を喰らう可能性もある。
「動きを鈍らせる他ないか。部位を狙うにしてもそれからだ」
瀬崎はスキルトレースを発動させると、機体のライフルにマテリアルを流す。
猟撃士が持つ力の中には、冷気を纏った射撃攻撃を行うものがある。
これが効けば、少しは相手の動きを阻害できるのだが……。
「そう簡単には通じないか」
強度の問題なのだろうか。それでも、幾度か撃てば効くかもしれない。
再度、同じ力を使おうとするが、敵も黙っている訳ではない。小賢しい攻撃をしてくる標的として認識したようだ。
「させませんよ」
瀬崎機の前にヘルヴェルの機体が立つ。
敵のビームに関していえば、攻撃は直線的だ。射線を塞ぐだけで仲間を庇う事が出来る。
「セイバーサイズ!」
壁を登って外壁VOIDの頭上から、長大なハルバードを振るったのはルンルンの機体だった。
マジックエンハンサーが一際大きく輝き、マテリアルハルバードの威力を増大させた一撃。
マニピュレーターを切り落とそうとしたが、さすがに無理があったようだ。
すぐに敵が反撃を繰り出す。まさに双方、火力の殴り合いだ。
「火器管制を援護する」
コマンダーのカスタムタイプを持つ瀬崎機が射撃を行う仲間の機体に並ぶ。
効果の程は大きくないが、それでも足しにはなるだろう。
●
ハッチから飛び出したエニアとカズマの機体は、仲間の援護があったおかげでもあり、突撃した勢いそのままに1体のVOIDを倒す。
「途上にも居るみたいだね」
「一気に突破するしかない」
アクティブスラスターを全開にする二機。
その行く手を塞ぐように狂気VOIDが小型狂気を排出しながら移動する。
「文字通り、試し打ちだな」
VOIDに対しパイルバンカーを打ち込むと、巻貝みたいな図体を足場代わりに蹴り飛ぶ。
螺旋槍の補助スラスターで高速状態のエニア機が駆け抜けざまにスキルトレースで魔法を放つ。
「全速前進DA!ってね」
何せ、足を止める訳にはいかないのだ。二機はそのまま宇宙を飛ぶ。
倒し切れなかったVOIDに背を見せる事になるが気にしている場合ではない。
縋るように攻撃を繰り出してくるVOIDの攻撃をギリギリのラインで避ける。
「っもう、しつこい!」
「……十色、背を頼む」
カズマは静かにパネルを操作する。
母船の状況は分からない。望遠レンズでは戦闘の様子が微かに見える程度だ。
「いいけど。無茶しないでね」
エニアには彼が何をしようとしているか分かった。
サブクラス操縦士が持つ能力の中には機体と文字通り一体化するスキルが存在する。
機体性能を限界以上に引き出す事が出来る分、乗り手のマテリアルを多量に消費するのだ。
「分かってる。全員が無事じゃないと、意味がないからな」
モニターに『人機一体』と表示されると同時に、機体がマテリアルのオーラに包まれる。
刹那、母船へと向けてカズマの機体が加速した。尋常ではない速さとそれを支えるマテリアルの排出。
全身を巡る激しい圧力と痛みに、歯を食いしばり遠くなりかける意識を引き戻す。
漆黒の宇宙に輝くマテリアルの光跡をエニアは見て呟いた。
「……不謹慎かもしれないけど……だけど、凄く綺麗……」
例えるなら、それは彗星だろうか。
●
「これだけ大きい相手だけど、どこかに弱点とか核とかないかなって思ったけど……それらしいのは無いみたいです?」
敵の攻撃を避けつつ、ハルバートを構えるルンルンの機体。
機体の腕が印を描くと同時に魔法が放たれる。
「ニンジャの魂フル解放、轟け雷鳴、セイバートマホーク!!」
スキルトレースによる符術を展開すると、稲妻が外壁VOIDを直撃した。
先程からハンター達の猛攻が続いているのに、幾らダメージを与えてもなかなか倒れてくれない。
巨大なだけあって、耐久力も高いという事なのだろう。
「またまた分身の術です!」
盾を前面に押し出し、マテリアルバルーンを放つ。
バルーンは脆い存在ではあるが、敵の射撃を散らす役割位はできるからだ。
幾度目かのレイターコールドショットを放った瀬崎はようやくスキルの効果が発揮されたと手応えを感じる。
「二度目はない。効果が続いているうちに畳み掛けろ」
仲間に告げながら、生体マテリアルを機体に流す。
それで補充したエネルギーで瀬崎は機体のエンジンと武装を直結させる。
極めて高度なマテリアル操作が求められる事だが、僅かでも威力を上げられるなら四の五の言ってられない。
「確実に仕留める」
4連カノン砲の銃口を向ける。
外壁VOIDの強烈な反撃が来たのは、それとほぼ同時だった。
複数のレーザー攻撃を放ちつつ、マニピュレーターが近くの残骸を掴むと遠慮なく周囲を破壊する。
「く……悪あがきを!」
瀬崎機の頭上に崩れてくる瓦礫をヘルヴェルがクイックライフルで破壊する。
続けて、味方の射線の邪魔になったものや移動スペースを塞ぐ瓦礫を壊していく。
「奥の手を残していて良かったです」
「何か別の攻撃手段を隠し持っている場合もあると思ったが……まさか、な」
クラン機が頭上の巨大な建造物を先に砲撃で粉砕した。
「今は動く様子が見えないが……動き出す可能性もゼロじゃあない」
「周囲の構造物を破壊しているという事は……」
ハッと気が付いたヘルヴェルの台詞に誰もが理解した。
外壁VOIDの狙いは残骸でハンター達を攻撃する事ではなく、外壁との固定を外そうとしているのだ。
ここで逃がして万が一でも月に行かれると厄介だ。
「一気にケリをつけるしかないな!」
機体の大きめの残骸に上に登らせ、固定するとクラン機は対VOIDミサイルを放った。
外壁VOIDからの攻撃のうち、致命傷となる射撃は庇いに入ったヘルヴェルに任せつつ、そのまま続けて砲撃を繰り出す。
ハンター達が持ち得る最大の火力を撃ち続けるしかない。
「アイツ等の無念も何もかも……これで、終わりだ!」
敵の攻撃を受け、機体が傾きながらもクランが放った砲撃は外壁VOIDのマニピュレーターを1本破壊した。
ダメージが積み重なっていた事もあった。敵が逃げ出そうとしていたのは不利を悟ったからだろう。
この機会を見逃すわけにはいかない。
「機忍法大火遁の術! 若い命が炎の様に燃え上がれ、なんだからっ!」
「行け! 鹿東! アニス!」
ルンルンと瀬崎の援護中、二機が敵のビームを掻い潜り急接近する。
残ったマニピュレーターがその進路を塞ぐように叩きつけてくるが、二機は絡み合うように回転、互いを反動の足場にして避ける。
「廃棄コロニーでよかったぜ……テメェを仕留めるのに何の遠慮もいらねぇしな!」
アニスは直感的にパネルを叩いた。モニター画面に表示される『Tonitrus』の文字。
機体と一つとなる感覚と共に膨大な情報量が奔流となった。
負荷は生身のアニスだけではない。機体も負荷に耐えるかのように各部の装甲がスライドしてフレームを露出させた。
熱か、マテリアルか、それらが入り混じったオーラが機体を包み、コロニーの残骸と外壁VOIDのビームを弾きつつ、格納用ホルスターから取り出した試作錬機剣を外壁VOIDに捩じり込むように押し付ける。
「外装を剥がす! 鹿東!」
試作錬機剣を内側から外側に向かって起動させる。
剥がれる落ちる外装。それを確認しつつ、アニスは機体を後退させ、VOIDとの間にガンポットを滑り込ませ、追撃を放ち、鹿東を援護する。
ここに来て外壁VOIDが“声”のような音を発する。
強化人間達を苦しめた呪いの声は、まるで、断末魔のようにも聞こえた。
仲間達の援護を受け鹿東機が残骸やVOIDの身体を足場に立体的な動きを取る。
アニスが剥がした外装を完全に切り落とすべく斬艦刀を振るう。
「これはシーバ軍曹の……次はコンドウ曹長……これは操られた隊員達……」
外壁VOIDの反撃も繰り出されるが、機体にダメージを受けながら、鹿東は怒りを静かな殺意に変え、淡々と刀を振るう操縦を止めない。
完全に外装が外れ、露出した内部に刀先を向ける。
「……そして、これは大尉の分だ」
深々と斬艦刀を突き刺す――そのままに、濃紺色のエクスシアはスラスターを全開に吹かし、飛び上がった。
間髪入れず、ハンター達の一斉射撃。
地獄に落ちていくような“声”をあげながら、外壁VOIDはボロボロと崩れ落ちていくのであった。
●
巨大な巻貝のようなものが漆黒の中に浮かんでいる。それは一目で異形であり、恐怖を感じさせた。
イニシャライズフィールドが作動していなかったら、狂気に汚染されていただろう。
「これが……戦場……」
緊張で身体が圧迫されている――そんなイメージを抱く孝純。
辛うじて戦えているが、押されているのは分かった。シミュレーターと実戦は違うのだ。
「あっ!?」
油断した訳ではなかった。
中型VOIDが放出した小型狂気に一瞬、気を取られた所を狙われたのだ。
巻貝の先端がモニター一杯に広がる――が、直後、VOIDが吹き飛んだ。
「間に合ったな」
マテリアルラインが繋がれた事をモニターが表示していた。
「カズマさん!? 廃棄コロニーに行ってたはずじゃ」
驚いたのは孝純だけではなく、カズマも同様だった。
孝純が乗っているとは思わなかったからだ。
「どうして、その機体に乗っている?」
「誰も乗れる人がいなかったから……」
「そうじゃない。乗ると決めた“理由”があるんだろ?」
小型狂気をアーマーペンチで掴むと、それのままVOIDに投げつけた。
「……生き残る為に」
「そうか。既に戦場に立ってるんだ、今更、下がれとは言わない。戦え」
「は、はい!」
カズマの機体が近接戦向きな兵装と読み取り、ライフルに武装を取り替える孝純。
そういう所は要領がいい少年だ。パイロットのセンスはあるかもしれない。
新手が脅威と感じたようでVOIDが次々に小型狂気を放出した。
だが、それらを紫色の光線が貫いていく。
「死神は逃がしませんよ~」
マテリアルライフルを放ったのはエニアの機体だった。
奇抜なデザインの槍を持っている死神だけど……と思いつつエニアが孝純に並ぶ。
「無理しなくていいからね。向こうが終われば、こっちに合流するはずだから」
正直言うと、孝純には過剰な負荷をかけさせたくない所だ。
だが、戦場に立つ、一人の戦士としての想いも認めたいとも感じる。
「エニアさんも……ありがとうございます」
「危なくなったら輸送船の開いたハッチから狙撃するだけでもいいからね。全部守ってあげるから」
「ぼ、僕は男ですから。こういう所で引っ込む訳にはいきません」
ここでは性別は関係ないだろうが、そういう意気込みって事なのだろう。
というか、どうも、この少年には、まだ『勘違い』されているらしい……が、今、指摘するタイミングでもないし……とエニアは心の中で呟く。
「仕方ないね」
風の力を付与する魔法をスキルトレースで発動させ、孝純機に掛けた。
「外壁VOIDを討伐したと連絡が入った。凌ぎ切れば問題ないが……やられっぱなしは性に合わないだろう?」
カズマの台詞に孝純は力強く返事をする。
「勿論です!」
中型VOIDにはカズマが向かい、小型狂気をエニアと孝純が対処する。
上手く連携が取れそうな形となり、エニアはうんうんと満足そうにうなずいた。
「……多分だけど、この組み合わせって、なかなか良いトリオだと思う」
結局、外壁VOIDを討伐したハンター達が母船に戻ってくる前に、襲撃してきたVOIDを、カズマとエニアは孝純と共に討伐したのであった。
●
母船の被害は軽微だった。
だが、月に戻る途上に何があるか分からない。その為、アニスは機体に乗り、応急修理を行っていた。
「金属板はあるか?」
「持って来ましたよ」
答えたのは鹿東だった。彼の愛機は多くの資材を担いでいた。
「損傷個所が酷くなりすぎていない所をみると……護衛が意味を成したのか」
クランの機体はCAM用の工具箱を持ってきていた。
人の手では扱えないような大型の工具もCAMであれば楽々と動かす事も出来る。
「ここを押さえておけばいいかな」
機体の足と腕を使い、敵の攻撃を受けて穴が開いている甲板を塞ぐように張った板をクランも押さえる。
後は溶接するかリベットで固定するかだ。
「あのVOIDを逃がさず倒せてよかったです」
鹿東が先程の戦いを思い返す。
機体の性能による所が多かったが、人数や武器、スキル、それらが不足していたら危なかっただろう。
「……パッと見似てやがったからなぁ……自分のツレを殺したであろう奴に」
作業しながらアニスは呟きにクランが返す。
「……籃奈のか?」
「それで暴走したかは分からないが……」
強化人間の暴走を呼ぶVOIDは討伐された。
籃奈を苦しめた“上司”は既にこの世からいない。
もう、籃奈が戦い続ける理由もないだろう。孝純も無事だった。なのに、当の籃奈が昏睡状態のままだ。
「早く目覚めるといいですね」
穏やかな口調で鹿東は言った。
その時、母船が揺れ、金属板を固定しようとした動きが逸れる。
アニスは外れかかった部品を抑えるように機体を操作した。
「ったく……っとに、大馬鹿野郎が……落とし前はつけたんだ。とっとと目ぇ覚ませや」
部品を掴んだ機体の指先が月を差していた。
一人の少年が、船医室に連れて行かれていた。
「大丈夫ですから」
足をブラブラとさせているのは、カズマと瀬崎に担がれているからだ。
この少年は見かけによらず、船内で隠密行動を取るわ、CAMを操縦するわで油断ならない。
「黙って大人の話は聞いておけ」
瀬崎が淡々と告げる。
その言葉に頷きながら、先行していたヘルヴェルが振り返った。
「目が覚めた時、孝純くんが居なければ籃奈さんがどうなるか、それも考えて下さいね」
「だからこそ、CAMに乗ったのに……」
弁解を続けようとする孝純に近づき、ポンとおでこを合わせた。
突然の行動に顔を真っ赤にする少年。
「その想いは素晴らしいです。ですが……貴方がいるべき戦場はここではないでしょう?」
何時目覚めるか分からない母親の隣でジッと待つ事は辛い事だろう。
だからこそ、その場に居続ける事に、意味があるのだ。
今回、無事に済んだから良かったものの、最悪、取り返しのつかない事になっていた可能性だってあるのだ。
「……手厳しいです」
ヘルヴェルの言葉は厳しいがそれは、彼女の優しさからのものだと孝純は分かっていた。
「お医者さんに診て貰ってもまだ時間はありますからね、孝純くん!」
ルンルンが孝純の荷物の中から携帯ゲームを取り出していた。
どうやら、こっそりと練習していたのだろう。ルンルンに勝つために。
「CAMの操縦といい、本当に油断できないですね……でも、ルンルン忍法の使い手である私には簡単には勝てませんよ!」
「意外と根に持つタイプなのね、孝純君」
エニアが苦笑を浮かべた。少年の母親もそんなタイプな気がする。
執念深いのが悪い訳ではないが。
「私は見ているだけでいいかな……」
「そんな事は言わず、エニアさんも一緒にやりましょう!」
「だって、二人共、強いから……」
ルンルンの誘いに言い訳するエニア。
そういえば、3人でゲームしたのはいつだったか。
少しは大人しくなった孝純を瀬崎とカズマは降ろす。
「ほら、着いたぞ」
瀬崎に背を押され、少年は困ったような表情を浮かべる。
こんなに元気なのに……という恥ずかしさがあるようだ。
「本当に入るんですか?」
そんな孝純の肩をカズマは軽く叩いた。
「いきなりの実戦は負担が大きいからな」
「……はい」
「だが、初陣にしては良い動きだった……そして、よく、生き残った。簡単にできる事じゃない。母船も無事だった訳だしな」
カズマの率直な褒め言葉に、少年は照れながら笑顔を向けたのであった。
廃棄コロニーに潜んでいた外壁VOIDだったが、ハンター達の活躍により討伐された。
また、VOIDの急襲を受けた母船もいち早く駆け戻ったハンターが孝純のフォローに入り、最悪の事態は避けられたのだった。
●
大規模な戦闘の間を突いて月面基地に無事に戻ってきた孝純はすぐさま、母が居る施設へと向かった。
CAMを勝手に操縦した件は、それどころではない戦況の中、どうやら、うやむやになったようだ。
むしろ『いつでも来いよ』的な感じで送り出さたので、戦力として当てにされているかもしれない。
「母さんが宇宙に出てから色々あったな……」
その間の出来事だけでも一杯話す事があるだろう。
逆に聞きたい事も沢山ある。CAMの操縦の事も、父さんの事も、そして、ハンター達の事も。
そんな事を思いながら、孝純は部屋の扉をゆっくりと開ける。
部屋の中は相変わらず静まり返っていた。
「ただいま、母さん」
返事が無いと分かっていても、孝純はそう言わずにはいられなかった。
そして、一歩踏み出した時だった。
「おかえり、孝純」
ベットの上で横になっていた籃奈が優し気な声と共に顔を一人息子に向ける。
少年の表情がパッと明るくなり――大粒の涙を流しながら、母親に駆け出したのだった。
――終局――
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/06 08:02:33 |
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【確認・質問用】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/10/16 07:36:40 |
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相談用 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/10/11 07:20:28 |