• 空蒼

【空蒼】通信兵は夜狂う

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/10/11 19:00
完成日
2018/10/17 23:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●深夜のパニック
 アメリカ合衆国。
 連合軍通信担当、ヴィクター・グラスプール伍長は自分の端末の画面を見て暗澹たる気持ちに陥っていた。
 一番新しいところに収まっているのは「イクシード・アプリ」のアイコンだ。
 いくら前線に出向かない、司令室で待っているだけだからと言って安全ではない。もちろん彼とて毎日訓練はしている。だが、司令室が突然襲われたら? 逃げ帰ってきた兵士たちを追ってVOIDがやって来たら? そう思うとたまらなくて、夜中にパニックを起こしてインストールしてしまったのだ。
 いつ発狂するかわからない? どんどん生命力を吸い取られる? 馬鹿馬鹿しい。自分はとっくに発狂している。いつ自分で死んでもおかしくない。

 邪神も迫ってきていると言うのに!

 怖くて怖くて怖くて、でも自分の手では何も出来ず、通信先の兵士や民間人が死ぬのをずっと聞いている。彼が聞かなくては誰も聞く余裕がないからだ。一言一句余さず聞いて、聞いて、聞いて。それを伝える、一言に圧縮して。
 ずっと断末魔と別れの言葉と助けを求める声を聞き続けている。司令室で最初に聞くのは彼だ。

 狂わずにいられようか。司令室でもっとも狂気に近いのは自分であると言う確信は常にある。

 端末をトイレの洗面台の上に置く。鏡に映る自分の顔は肉が落ちていた。

「ああ、こちらにいらしたんですか」
 と、顔を出したのはマシュー・アーミテイジ軍曹だ。真面目で賢い若手である。
「よお、どうした軍曹殿」
「よしてください。そろそろ作戦が始まります。お戻りを。スギハラ曹長の復帰第一戦ですよ」
「ナンシーはあいつ大丈夫なのかね」
 ナンシー・スギハラ曹長は、先日のVOID事件で本人を残してチームが全滅。心に大きな傷を負ったとして休暇を与えられていた。カウンセリングなどによって徐々に心の均衡を取り戻してはいたが、その休暇中にイクシード・アプリ事件に巻き込まれてしまう。そのため復帰が延びていたのだが、悪化し続ける状況を前に、早めの復帰を本人に打診したところ、了承されたので復帰と相成った。
「グラスプールさん」
「伍長で良いんだよ」
 マシューは、自分より年上でありながら下の階級である自分を、階級で呼ぶのを嫌がった。
「自分たちに指示を伝えていただくお役目は、重い物であると思います」
「ああ」
「必ず生きて帰ります。なので何卒今回もお力添えを……」
 マシューの目が、洗面台傍の端末に釘付けになった。メッセージが来ている。ダイレクトメールの自動送信だろう。どこの会社も、システムを止める余裕なんてない。毎日どこからかメッセージが来る。
 マシューもまた、イクシード・アプリ関係の事件に関わったことがある。彼はアプリのアイコンをよく覚えていた。だから、メッセージが来て点灯した画面の一番下に表示されているそのアイコンに気付いてしまったのだ。ヴィクターも、彼が気付いたことに気付いた。マシューの腕を掴む。
「グラスプールさん」
「マシュー、違う、誤解しないでくれ、俺は」
「報告します」
「やめろ!」
 ヴィクターは踵を返したマシューの襟首を掴んで引き戻そうとした。が、既に強化人間となっていた彼は、力の加減を誤った。マシューは勢い余って洗面台に頭をぶつける。倒れてそのまま動かなくなった。
「マシュー?」
 慌ててしゃがみ込み、脈を取る。気絶しているだけのようだ。ヴィクターはしばらく考えると、彼をトイレの掃除用具入れに放り込んだ。
「すまない」
 ぶつけたであろう頭にそっと触れてから、彼はトイレを後にした。
 動揺した彼は、端末を洗面台に残している。

●暴動鎮圧
「ヴィクター、マシューに会わなかった?」
 戻ってきたヴィクターを見て、会議室前でナンシーが声を掛けた。
「あんたを探しに行ったけど」
「いや? 会わなかったぜ。もうすぐ戻ってくるんじゃ無いのか?」
「時間が無い。説明をしよう」
 責任者が時計を見て言うのが聞こえた。クリムゾンウェストから、援軍のハンターたちも来ている。ヴィクターは彼らから隠れるように、会議室から離れた。

 今回、ハンターたちに協力を要請したのは、邪神出現によってパニックに陥っている市街地の暴動鎮圧だ。
「同行するのはスギハラ曹長とアーミテイジ軍曹だ。しかし軍曹は遅いな」
「先に行ってるのかな?」
 ナンシーは首を傾げる。
「いや、彼に限ってそれはない……と思いたいが、もう時間がないな。曹長、悪いが先に行ってくれ。軍曹は戻って来たらすぐに向かわせる」
「了解しました」
 ナンシーはハンターたちに向き直る。
「あたし、今日から戦線復帰なんだ。よろしくね」

●マシュー捜索
 暴動鎮圧はすぐに済んだ。結局、アーミテイジ軍曹は来なかった。現場にもいなかった。
「どこ行っちゃったんだよぅ、マシュー」
 ナンシーは唇を尖らせながら司令部の建物を歩き回る。心配なのだ。彼女は、一緒に暴動鎮圧をしたハンターを見かけると、声を掛けた。
「あ、ねえあんたたち。ちょっとさ、もう一仕事してくれない? マシューの奴、どこにも見当たらないんだよ。あたし一人じゃ限度があるからさ、手伝って」

リプレイ本文

●Receive a request
「帰還までにゃ時間もあるし、美人の頼みとあっちゃ仕方ねえな」
 ジャック・エルギン(ka1522)はそう言ってマシュー探しを引き受けた。自分のことを言われているのだと、すぐには気付かなかったナンシーはきょとんとしてから、冗談めかした呆れ顔を作ってジャックの肩を叩く。まんざらでもないらしい。
「え……それじゃ作戦前から行方不明ということでしょうか? た、大変じゃないですか」
 穂積 智里(ka6819)があわあわしながら困った様に眉を寄せた。足下ではクリムゾンウェスト固有種の狛犬が主人を見上げている。
「学校の怪談ならぬ、基地の怪談……にはならないですよね?」
 智里とは別の意味で不安げな様子を見せるのはアシェ-ル(ka2983)だ。正体さえわかれば問題ないが、得体の知れない怖い話は苦手な様だ。
「うーん、でももうリアルブルーがパニック映画みたいになってるからねぇ。マシューもどっか回らない所の手伝いに行ってると思ったんだけど」
 作戦から戻ってきても、顔すら見せず、トランシーバーでの連絡もしてこないとなると話は違う。ちなみに、ナンシーからトランシーバーで呼びかけても返事がないらしい。
「ヴィクターを探しに行ってそれっきりなんだよねぇ。途中で掴まったのかな」
「ヴィクターさんって、通信の人でしたっけ?」
 アシェールが首を傾げた。先ほどの暴動鎮圧の際にも、本部からの指示を伝えたのは彼だ。ハンターたちは顔を見合わせる。
「わ、私、幽霊は苦手なので……」
「幽霊だってあんたの魔法食らったらイチコロだよ。 でも、良いよ、あんたは待ってな」
「ヴィクターさんと通信室に詰めてますね」
 その一言で、ジャックと智里はアシェールの意図を察した。マシューが消える直前に探しに行ったと言うヴィクターが何らかの形で関わっていることを懸念したのだ。
「ああ、頼む。何かあったら連絡するぜ」
「アシェールさんよろしくお願いします」
「はい。マシューさん探し、よろしくお願いしますね」

●Give permission
「……犬を使った方が早い気がするんですけど……まずいでしょうか」
 智里は、ヴィクターでなければ、入り込んだ契約者やVOIDにマシューが害された可能性を危惧している。その場合、ハンターが彼を探していることを知られてはまずいのではないかと考えた様だ。
「別に、マシューがいなくなったのは皆知ってるし、智里はあたしと同じ作戦にいたわけだし、あたしがマシュー探しを頼むのだって予想はできると思うし、問題ないと思うね。こそこそやる方が却って目に付くよ。と、スギハラ曹長が許可を出します」
 ナンシーは狛犬のたてがみをわしゃわしゃと撫でながら言った。
「ああ、俺も問題ないと思う。智里が連れてきている以上、犬が一緒に歩いていること自体は何も不自然じゃないはずだ」
 ジャックも頷いた。智里はまだ不安そうだが、それでも頷いた。
「ええっと、じゃあ、犬で探しますね。マシューさんの匂いがついてるもの、ありますか?」
「男子ロッカー行ってくる」
「ナンシーさん?」
 すたすたと去って行くナンシーに、智里は手を伸ばしかけたが、あまりにもためらいなく行ってしまうのでその手を引っ込めた。
 ナンシーはすぐに戻ってきた。ロッカーにもマシューはいなかったらしい。彼女はパーカーを持ってきた。
「はい、これマシューのパーカー」
 そう言って狛犬の鼻先にずい、とかざす。ふんふんとその匂いを嗅いでいた犬は、すぐにとてとてと歩き始めた。
「外には歩哨も居るだろうし、人目につかない場所ねえ……腹壊した可能性もあるな。俺は男子トイレを見て回るぜ」
「ああ、お願いするよ。さすがに、下着まで下ろすトイレは入りづらいからさ」
 ナンシーは苦笑して、男子トイレをジャックに托すと、智里と犬のあとを追って行った。
 それを見送ると、ジャックは一番近くのトイレに入った。

●Find offender
 アシェールはヴィクターの背中を眺めた。やや疲れているようにも見える。彼はアシェールに気付くと、手を挙げた。
「よぉ。一人なのか?」
「基地の怪談みたいな話聞いちゃって」
「マシューのことか」
 ヴィクターの表情が翳る。
「はい。早く見つかると良いなって思います」
「そうだな……どこもかしこも、敵だらけだ」
 彼はそう言って、自分の腰に吊ったホルスターを見た。彼の言う敵とは、何を指しているのだろうか? マシュー失踪にヴィクターが関わっているなら、彼の言う「敵」には彼自身も入っているのだろうか。
「こんな所にいてもつまんないだろ? ああ、でも怪談が怖いのか」
「はい……良かったら、ヴィクターさんも一緒におやつにしませんか?」
「おやつ?」
「はい! 私の世界のお菓子なんですよ!」
 アシェールは元気良く告げると、スコーン、プリン、饅頭と言った菓子の類いを広げた。まさか暴動鎮圧にそんなものを持ち込んでいるとは思わなかったので、ヴィクターは目を白黒させる。
「遠足か?」
「疲れた時こそ甘い物、ですよ!」
「そりゃそうだな。あんまり腹は減ってないんだが、お相伴しようかな」
 ヴィクターはそう言って、スコーンを手に取る。
「穂積です」
 その時、パイロットインカムのイヤホンから声がした。智里だ。
「ええっと、わかった、とかだけ返事してください。犬にマシューさんの匂いを辿らせたんですが、そちらの部屋の前で尻尾を振っていて……」
 アシェールはくるりと室内を見渡した。人を隠せるようなところはない。それで彼女はピンときた。
 ヴィクターに付いた匂いだ。
「わかりました。早く見つかると良いですね。こちらは今ヴィクターさんとおやつタイムです!」
「ヴィクター……」
 ナンシーのうめき声がした。彼女も、ヴィクターの関与を疑い始めている。
「今、男子トイレをジャックさんが探してくれています。私たちも、もう一度探し直します。アシェールさん気をつけて」
「はい!」
「お仲間、何だって?」
 ヴィクターがこちらを見上げた。正面から目を見て、アシェールはその目が疲れ切っているのを見た。押されれば流されそうな弱さが見える。
「まだマシューさんは見つかっていないそうです」
 アシェールは隣に座ると、ヴィクターが割るだけ割って置いてあるスコーンの欠片を手に取った。

●Help him
「マシュー? いるかー?」
 ジャックは二つ目の男子トイレを探していた。そのトイレには、洗面台の上に携帯端末が置いてある。誰かの忘れ物だろうか。会えるなら渡すのもやぶさかではない。
 持ち主の手がかりでもないだろうか、とホーム画面を付けて、ジャックは目を瞬かせた。
 メール通知として、ダイレクトメールの本文が数行表示されている。その宛先はヴィクター・グラスプール。それだけならまだ良い。マシューの失踪と関係があるとは限らない。
 だが、問題はその画面の下の方、一番最近インストールしたとおぼしきアプリケーション。
 イクシード・アプリだった。
(……こんなモンを忘れてるってことは、何かトラブルか?)
 やはり、マシュー失踪とヴィクターは関係しているのかもしれない。このトイレで何かあったのだろうか。
「マシュー?」
 その時、個室の方で声がした。機械を通した声。トランシーバーからのナンシーの声だ。彼女の方からも呼びかけているらしい。
「聞こえる?」
 ジャックはその音がした方の個室を端から開けた。そして、掃除用具入れを開けたところで、寄りかかるように詰め込まれていた、軍服の男性が倒れてくるのを支えた。
「おい! 大丈夫か?」
「う、ううーん……」
 ジャックは男性の襟を開けてドッグタグを引き出した。マシュー・アーミテイジ。男性。血液型O型……間違いない。彼がマシューだ。
「ジャックだ。男子トイレでマシューを発見した。気絶してるらしい。アシェール、ヴィクターにはまだ言うな」
「わかりました!」
 つとめて明るい声を出すアシェール。これで、ヴィクターに発見を気取られることはないだろう。
「ジャック! お手柄じゃないか! 今行くよ」
「よ、良かった! ポーション持ってるので今持って行きますね」
 ナンシーと智里も了解した。ジャックは男子トイレの場所を伝える。ほどなくして二人はやって来た。マシューも、ジャックの気付けで目を覚ましている。
「マシュー!」
 ナンシーが駆け寄った。智里はポーションを取り出してマシューに差し出す。
「ど、どうしたんですか? ひとまずこれを飲んでください」
 気絶してたと言うことは、殴られた、スタンガンを使われた、薬物を使われた……いずれかの可能性がある。ポーションを受け取ったマシューは、その瓶を握りしめて、彼らの顔を見た。
「グラスプールさんが……」
「これだろ」
 ジャックはそう言って、智里とナンシーにも画面が見えるように端末をつけた。
「メールが来てた。ヴィクター宛てのな。そこまで追い込まれてたのを知って、上に報告しようとしたら、引っ張られた勢いで頭を打ったらしい」
「イクシード・アプリ……」
 智里とナンシーが唱和する。ナンシーは一度、アプリをインストールした暴徒に追われたことがある。それをインストールするのがどう言うことなのか、ナンシーも知っている。悪魔に魂を売り渡すようなものだと彼女は理解していた。
 マシューがうろたえたようにジャックの肩を掴んで、呻くように告げる。
「か、彼を助けてください。ずっと、自分たちを助けてくださいました」
 ナンシーが目を逸らした。撤退しろと叫んだヴィクターの声を踏みにじった経験が彼女にはある。
「前線に出ないからってとやかく言う人がいないわけじゃないんです。でも違うんです。最初に自分たちのピンチを知るのはあの人なんです。自分たちの声を一言一句聞き漏らさずにいてくださるんです。変な音がしたらそれは何だって。それで助けられたことだってある」
「わかってる」
 ジャックはマシューの肩を叩いた。
「あのう」
 一人の男性軍人がトイレを覗き込んでいた。
「何してるんすか? 曹長まで……」
「アータートン一等兵!」
「は、はいっ!」
「マシューを医務室に! 頭打ってるんだ」
「りょ、了解しました!」
 You got it、と彼は言った。鎮圧作戦中でも何度か聞いた英語だ。了解を意味する。
「お、お願いします……」
 マシューはジャックの腕を掴んでいる。
「ああ、任せてくれ」
 ジャックは頷いた。

●You got it
 マシューが見つかった。その事情を聞いて、アシェールはヴィクターを見る。やはり、彼か。
「どうした?」
「……ヴィクターさんは軍人さんですよね。軍人さんって凄いな~って思います。命令一つで、やらなきゃいけないって」
 前線もそうだが、通信もそうだ。さぞ神経を使う仕事だろう。
「命令違反したら、武力は暴走する」
 ヴィクターは、結局手を付けなかったスコーンのくずを集めながら言った。
「だから、命令は絶対だ」
「……私、依頼でやらかした事があって……」
 アシェールはぽつりと話し始めた。
「それは、強化人間の子供を撃つ事だったんですけど……結局、撃てなかったんです……ヴィクターさんは撃てます?」
 ヴィクターはアシェールを見つめた。
「撃つよ。ナンシーも撃つ。マシューもだ。撃てるか、じゃない。撃つんだ。でもそれは強さじゃねぇ。そうしないと、武力行使を許されていない誰かに、それを押しつけることになるからだ」
 それから彼は自分の腰の銃に目をやった。
 その時、部屋のドアが開いた。ジャックを先頭に、智里、ナンシーが入ってくる。その表情で、ヴィクターは彼らの目的を察した様だ。肩を竦める。
「ヴィクター、マシューが見つかった」
「だろうな。で? 俺を引っ捕らえるかい?」
「それはしないな」
「何で?」
「依頼を受けたのさ……ヴィクターを助けて欲しいって依頼をな」
 ヴィクターはゆっくりとジャックを見上げた。
「アプリの解除方法はない」
「ああ。だが、あんたの問題はそれだけじゃないだろ。ずっと悲鳴を聞き続けなきゃならないってのは……辛えな」
「ああ」
 ヴィクターは頷く。
「辛かったよ。今は……それ以上に怖い。人が死ぬのが」
「軍人だって人ですよね」
 アシェールが沈痛の面持ちで言葉を投げかける。
「凄く辛い事も自分を押し殺して、それでもやり通さなければならないって。凄いなって思います。だからこそ、無理しないで欲しいですけど」
「アシェール、自分を下げるな。お前も、強化人間の子どもを撃つなんて依頼、本当はその場にいるのも辛かった筈だろ」
 ヴィクターは重い声で言う。彼はそのまま同僚を見た。硬い顔をしているナンシーを。
「ナンシー、お前は強い。あのカジノで、他が全滅しても、銃口は常に前を向いたな」
「ちょっと」
「俺はもう前に向けられない」
 ヴィクターがおもむろに腰から銃を抜いた。ナンシーも銃を抜く。彼女はそのまま、銃口をヴィクターに向けた。ヴィクターの銃は自分のこめかみだ。
「自分で死ぬのは罪じゃなかった?」
「隣人に怪我させた罪はそれに劣るのか? どっちにしろ遅い。残念だが、もう天国行き切符は燃やしたぜ」
「や、止めてください二人とも! 銃を下ろしてください!」
 智里が杖を持って二人を宥めようと試みる。
 ヴィクターが何か言おうとして口を開いた次の瞬間だった。

 ジャックが発砲した。

 ヴィクターの銃が落ちる。飛んだ銃は、回転して床を滑って行った。同時にヴィクターはよろけ、椅子にぶつかって転倒する。いざとなったらエレクトリックショットの使用もやむなしと考えていた智里は、それを見てほっとした顔で杖を下げた。
 ほぼ同時に、青白いガス状の霧が部屋に広がった。アシェールのスリープクラウドだ。
「い、いつの間に……」
 ガスの影響から辛うじて逃れ、口を袖で押さえながら銃を下ろすナンシーが呟いた。アシェールは胸を張る。
「魔術師は付けている物や着ている物でも、魔法を発動できるんですよ」
 ヴィクターが膝をついた。ハンターたちはガスの影響を受けずに済んだようで、ジャックはヴィクターに近づく。
「マシューの怪我は……」
「命に別状はなさそうだ。安心してくれ」
「大丈夫ですよ。勢い余ったって謝れば許してくれますよ!」
 アシェールが言葉を添える。ヴィクターはそれを聞いてかすかに笑った。それから、自分を抱き起こすジャックを見上げる。
「頼むよ……」
 睡魔に呑まれる意識の中で、彼はジャックの服の裾を掴んだ。
「頼むよ……もうこんなこと終わりにしてくれ……もう人死にはたくさんだ……」
「ああ」
 ジャックは頷いた。そして、先ほどトイレで交わされた言葉を口にする。

“You got it.”

「必ずアンタの耳に歓喜の、希望の声を聞かせてやるさ」

依頼結果

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MVP一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522

重体一覧

参加者一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 拳で語る男
    輝羽・零次(ka5974
    人間(蒼)|17才|男性|格闘士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アシェ-ル(ka2983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/10/11 16:18:08
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/10 20:58:34