ゲスト
(ka0000)
スケアリー・スパイダー・ハロウィン
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/17 15:00
- 完成日
- 2018/10/23 03:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●魔女になった歪虚
クリムゾンウェストと呼ばれている世界の、自由都市同盟という地域に、アウグスタと言う女の子がおりました。アウグスタはただの人間ではありません。歪虚と呼ばれる、この世界を滅ぼそうとする悪い一味の一人です。茶色くて長い髪の毛に金色の瞳、白くて(陶器的な意味で)つやつやなお肌、薄い唇、八歳くらいの見た目の女の子でした。
ハロウィンシーズンのある日、アウグスタは思いつきました。
「ハロウィンの時期ね! 私も仮装して、町に行きましょう! 町の人は、どれくらいで私が歪虚って気付くかしら! 気付かれたら町中に蜘蛛を放ってやりましょう! 面白いハロウィンになるわ!」
そしてウキウキとご機嫌に、魔女の仮装と、お供にブリキの蜘蛛をぬいぐるみの様に抱えて、ハロウィンのお祭りに興じている町の一つに行きます。
アウグスタは、見た目だけならどちらかと言うと可愛らしい女の子でしたので、町の人たちは誰も気付きませんでした。この手口でこの前も二箇所くらいで孤児院の子どもをたらし込みましたが、気に入らないことを言われてうっかり本性を見せてしまいました。それはまた別の話。
さて、そんなアウグスタを狙う一つの影がありました。
小さい女の子を狙い撃ちにする誘拐犯です。でれでれと鼻の下を伸ばしながら、彼はアウグスタに声を掛けました。
「おおおおお、お嬢ちゃん、か、かわうぃーね……」
「あら、ありがとうおじ様」
「蜘蛛使いの……へへへ、魔女さんなのかな?」
「そんなところよ」
「そそそ、そしたら、もっと魔女らしくなれるものがあるんだけど見るかい?」
「ま! 素敵! 是非とも見てみたいわ!」
誘拐犯はアウグスタを物陰に連れて行きました。そして……。
●運の尽き
ブリキの蜘蛛から滅多刺しにされた男はひゅー、ひゅー、と細い息を吐きながらアウグスタを見上げた。その金色の瞳は憤怒に燃えている。
「最低! あなた、私がただの子どもだと思って手を出したでしょう! 子どもに手を出す大人なんて最低よ!」
「ひ、た、たすけ……」
アウグスタが連れていた蜘蛛は、八本の脚全てを男の血で真っ赤に染めている。それはまだ男の腹の上に乗っていて、主の命があれば男にとどめを刺す算段だ。
「誰が助けるものですか!」
彼女は叫ぶ。
「やっちゃって!」
断末魔が響き渡った。しかしながら、今日はハロウィン。悲鳴の一つでは誰も注意を引かれない。
●万霊節で遭いましょう
アウグスタは、ぐすぐすと鼻をすすり上げながら雑踏を歩いていた。せっかくのハロウィンなのに、変態のせいで台無しだ。
「大丈夫?」
その時、同じような魔女の格好をした少女がアウグスタに声を掛けた。年齢はアウグスタの見た目より少し上くらい。十二歳くらいだろうか。
「変な男の人に連れて行かれそうになったの」
「ええっ!? 大丈夫!? 親は?」
「いないわ」
アウグスタはそう言って俯いた。
「いないの。来てくれなくって」
「ええ……よくわかんないけど、学校に行こうか? ハロウィンのお菓子配りで、先生が誰かいると思うから。あたしリンダ。あんたは?」
「アウグスタよ」
「よくできてる蜘蛛だね。血の感じとか」
「でしょう! とっても気に入っているの」
アウグスタとリンダは、仲良く話をしながら学校を目指した。学校もまた、仮装した子どもたちで賑わっている。リンダはまっすぐに職員室を目指した。
「先生ー」
リンダは職員室をノックしてから、からからと引き戸を横に開けた。
「女の子が変な人に連れて行かれそうになったって泣いてたから連れてきたんだけど」
「ああ、ありがとう、リンダさん……」
「あら」
アウグスタはその教師に見覚えがあった。この前山にいたら、後からやって来た上に一発で自分を歪虚と看破したから、からかって遊んだ男だ。
「あなた、ここの先生だったのね」
その教師は……ジェレミアは絶句した。彼はリンダをアウグスタから引き離して抱き上げると、引き戸を閉めた。施錠も行なう。
「先生!?」
「歪虚だ!」
「えっ」
ジェレミアは校庭に向かって叫んだ。
「歪虚だ! 学校の中に歪虚がいる! ハンターオフィスに通報してくれ!」
廊下から笑い声がする。アウグスタが笑っている。嫉妬の少女が笑っているのだ。
「あなたがいたのが誤算と言うやつよ、先生! 良いの。今日は帰るわ。もともとそう言う遊びだったし」
指笛が聞こえる。
「じゃあ、さよなら。どうぞお元気で、先生」
●かぼちゃではなく蜘蛛
アウグスタが指笛を吹いたタイミングで、どう聞きつけたものか、町外れに置いてあった、高さ三メートルほどの大きな蜘蛛のオブジェが動いた。このオブジェは、アウグスタが来たくらいのタイミングで置かれていたものだが、誰も気にしなかった。余興で使うのだろう、くらいの感覚でいた。
それは歪虚の蜘蛛だったのだ。けたたましい金属音を立てて、学校を目指す。町の人たちは悲鳴を上げて逃げ惑った。学校の校庭で止まると、アウグスタが校舎から蜘蛛めがけて走ってくる。
「ばっちり! 言うことを聞いてえらいわ」
彼女はその頭と腹の間の細い部分に飛び乗ると、つけてあった手綱を引いた。大蜘蛛はまた走り出す。
「さ、行きましょ。あなたたち、後はお願いね!」
町中に広がった、大量の小型蜘蛛にそれだけ声を掛けると、アウグスタと大蜘蛛は町を去って行った。
●ハンターオフィスにて
「町が蜘蛛で覆い尽くされている……」
オフィス青年職員は蒼白な顔で説明した。
「この前の山とは比じゃない。町の有志が一応頑張ってるみたい。蜘蛛の援軍はないみたいだけど、町の人じゃ限界がある。怪我人も出てるんだ。早く行ってあげて。治療については別で募集をかけてるから心配しなくていい。そっちがどうにかする。ただ、蜘蛛の殲滅と、取り残された人の誘導。それと治療担当が集まるまでの救護所運営の手伝い、避難所の護衛をして。頼むよ」
そして彼は町の方角を見た。
「アウグスタは何しに来たんだ?」
クリムゾンウェストと呼ばれている世界の、自由都市同盟という地域に、アウグスタと言う女の子がおりました。アウグスタはただの人間ではありません。歪虚と呼ばれる、この世界を滅ぼそうとする悪い一味の一人です。茶色くて長い髪の毛に金色の瞳、白くて(陶器的な意味で)つやつやなお肌、薄い唇、八歳くらいの見た目の女の子でした。
ハロウィンシーズンのある日、アウグスタは思いつきました。
「ハロウィンの時期ね! 私も仮装して、町に行きましょう! 町の人は、どれくらいで私が歪虚って気付くかしら! 気付かれたら町中に蜘蛛を放ってやりましょう! 面白いハロウィンになるわ!」
そしてウキウキとご機嫌に、魔女の仮装と、お供にブリキの蜘蛛をぬいぐるみの様に抱えて、ハロウィンのお祭りに興じている町の一つに行きます。
アウグスタは、見た目だけならどちらかと言うと可愛らしい女の子でしたので、町の人たちは誰も気付きませんでした。この手口でこの前も二箇所くらいで孤児院の子どもをたらし込みましたが、気に入らないことを言われてうっかり本性を見せてしまいました。それはまた別の話。
さて、そんなアウグスタを狙う一つの影がありました。
小さい女の子を狙い撃ちにする誘拐犯です。でれでれと鼻の下を伸ばしながら、彼はアウグスタに声を掛けました。
「おおおおお、お嬢ちゃん、か、かわうぃーね……」
「あら、ありがとうおじ様」
「蜘蛛使いの……へへへ、魔女さんなのかな?」
「そんなところよ」
「そそそ、そしたら、もっと魔女らしくなれるものがあるんだけど見るかい?」
「ま! 素敵! 是非とも見てみたいわ!」
誘拐犯はアウグスタを物陰に連れて行きました。そして……。
●運の尽き
ブリキの蜘蛛から滅多刺しにされた男はひゅー、ひゅー、と細い息を吐きながらアウグスタを見上げた。その金色の瞳は憤怒に燃えている。
「最低! あなた、私がただの子どもだと思って手を出したでしょう! 子どもに手を出す大人なんて最低よ!」
「ひ、た、たすけ……」
アウグスタが連れていた蜘蛛は、八本の脚全てを男の血で真っ赤に染めている。それはまだ男の腹の上に乗っていて、主の命があれば男にとどめを刺す算段だ。
「誰が助けるものですか!」
彼女は叫ぶ。
「やっちゃって!」
断末魔が響き渡った。しかしながら、今日はハロウィン。悲鳴の一つでは誰も注意を引かれない。
●万霊節で遭いましょう
アウグスタは、ぐすぐすと鼻をすすり上げながら雑踏を歩いていた。せっかくのハロウィンなのに、変態のせいで台無しだ。
「大丈夫?」
その時、同じような魔女の格好をした少女がアウグスタに声を掛けた。年齢はアウグスタの見た目より少し上くらい。十二歳くらいだろうか。
「変な男の人に連れて行かれそうになったの」
「ええっ!? 大丈夫!? 親は?」
「いないわ」
アウグスタはそう言って俯いた。
「いないの。来てくれなくって」
「ええ……よくわかんないけど、学校に行こうか? ハロウィンのお菓子配りで、先生が誰かいると思うから。あたしリンダ。あんたは?」
「アウグスタよ」
「よくできてる蜘蛛だね。血の感じとか」
「でしょう! とっても気に入っているの」
アウグスタとリンダは、仲良く話をしながら学校を目指した。学校もまた、仮装した子どもたちで賑わっている。リンダはまっすぐに職員室を目指した。
「先生ー」
リンダは職員室をノックしてから、からからと引き戸を横に開けた。
「女の子が変な人に連れて行かれそうになったって泣いてたから連れてきたんだけど」
「ああ、ありがとう、リンダさん……」
「あら」
アウグスタはその教師に見覚えがあった。この前山にいたら、後からやって来た上に一発で自分を歪虚と看破したから、からかって遊んだ男だ。
「あなた、ここの先生だったのね」
その教師は……ジェレミアは絶句した。彼はリンダをアウグスタから引き離して抱き上げると、引き戸を閉めた。施錠も行なう。
「先生!?」
「歪虚だ!」
「えっ」
ジェレミアは校庭に向かって叫んだ。
「歪虚だ! 学校の中に歪虚がいる! ハンターオフィスに通報してくれ!」
廊下から笑い声がする。アウグスタが笑っている。嫉妬の少女が笑っているのだ。
「あなたがいたのが誤算と言うやつよ、先生! 良いの。今日は帰るわ。もともとそう言う遊びだったし」
指笛が聞こえる。
「じゃあ、さよなら。どうぞお元気で、先生」
●かぼちゃではなく蜘蛛
アウグスタが指笛を吹いたタイミングで、どう聞きつけたものか、町外れに置いてあった、高さ三メートルほどの大きな蜘蛛のオブジェが動いた。このオブジェは、アウグスタが来たくらいのタイミングで置かれていたものだが、誰も気にしなかった。余興で使うのだろう、くらいの感覚でいた。
それは歪虚の蜘蛛だったのだ。けたたましい金属音を立てて、学校を目指す。町の人たちは悲鳴を上げて逃げ惑った。学校の校庭で止まると、アウグスタが校舎から蜘蛛めがけて走ってくる。
「ばっちり! 言うことを聞いてえらいわ」
彼女はその頭と腹の間の細い部分に飛び乗ると、つけてあった手綱を引いた。大蜘蛛はまた走り出す。
「さ、行きましょ。あなたたち、後はお願いね!」
町中に広がった、大量の小型蜘蛛にそれだけ声を掛けると、アウグスタと大蜘蛛は町を去って行った。
●ハンターオフィスにて
「町が蜘蛛で覆い尽くされている……」
オフィス青年職員は蒼白な顔で説明した。
「この前の山とは比じゃない。町の有志が一応頑張ってるみたい。蜘蛛の援軍はないみたいだけど、町の人じゃ限界がある。怪我人も出てるんだ。早く行ってあげて。治療については別で募集をかけてるから心配しなくていい。そっちがどうにかする。ただ、蜘蛛の殲滅と、取り残された人の誘導。それと治療担当が集まるまでの救護所運営の手伝い、避難所の護衛をして。頼むよ」
そして彼は町の方角を見た。
「アウグスタは何しに来たんだ?」
リプレイ本文
●アウグスタのハロウィンイベントへようこそ!
「これが噂に聞いたブリキの蜘蛛かあ」
夢路 まよい(ka1328)は町中で音を立てて歩く蜘蛛を見て興味深そうに呟いた。話には聞いていたし、関連調査にも参加しているが、現物を見るのは初めてだ。
「また奴か……どんどん規模が大きくなっていっている気がするな……!」
隣で渋面を作っているのはレイア・アローネ(ka4082)。彼女は蜘蛛との交戦経験がある。
「アウグスタは何がしたいんだろ? 遊んで欲しかったのかな?」
「そうだね、案外ただのゲームだったのかも知れない。子供だし」
魔箒を持参した鞍馬 真(ka5819)が目を細める。
「じゃあ、私が遊んであげる! ブリキの蜘蛛を壊してね!」
まよいはぱっと顔を輝かせると、マジックアローの詠唱を始めた。フォースリングのおかげで一度に五体狙えるが、レイアはその詠唱が二つなのに気付いた。ダブルキャストだ。つまり、まよいは十体を一度の詠唱で片付けようと言う算段らしい。
「とんでもないハロウィンになってしまった……」
同じ台詞も二つ重なる。真は、自分ともう一人、隣にいたレオン(ka5108)が呟くのを聞いた。二人は顔を見合わせて苦笑する。
「蜘蛛を倒して回るね」
「私は空から行こう」
「気をつけて」
「みんなも」
真は仲間の無事を祈ると、箒に乗って飛び上がった。
(やれやれ…これじゃハロウィンじゃなくてただのパニックホラーだ)
鳳凰院ひりょ(ka3744)はソウルトーチを使用しながら蜘蛛の引きつけを狙った。百鬼 一夏(ka7308)がそれに群がる蜘蛛を範囲攻撃で撃破するつもりでいる。
「……しかし、これだけの蜘蛛に注目されるって言うのは、ちょっと気持ち悪いな……」
彼は独りごちるとライトニングボルトを使って目の前の一直線を電撃で貫いた。向こうではまよいの詠唱が済んだのか、マジックアローが十本飛んでいくのが見える。ひりょの電撃はそれなりの数を潰した。しかしながら数が多すぎる。
「でも、この向かってくる敵を全員ぶっ飛ばせば全て解決! です!」
一夏が青龍翔咬波で一気にマテリアルを放出した。気功が物理的にブリキをへし折る音が高く響く。
「効いてるな」
ひりょは手応えを感じている。これだけのハンターが殲滅に回っているのだから、数が多くてもどうにかなるだろう。彼はトランシーバーを取り出す。
「ひりょだ。るー、そちらは大丈夫か?」
「あ、お兄? こっちは大丈夫だよー! あんまり向こうから攻撃してこないんだよね」
妹の鳳凰院瑠美(ka4534)は避難誘導の方に回っている。避難の邪魔になる蜘蛛に彼女も攻撃を仕掛けたようだ。
「やっぱりか……ソウルトーチを使ってもこちらを見るだけだから、そうなのかな、とは」
「そっちもそうか? こっちもだ」
ジャックが通信に合流した。
「こっちを見るは見るから、足止めにはなるが、一気に集まって来るって感じじゃないな」
同じようにソウルトーチを使うジャック・エルギン(ka1522)も、こちらと同じような事になっているらしい。
「話を聞くに、今回はジェレミアが意図的に狙われたとかそう言うことではなさそうだ」
レイアが言う。
「恐らく、最初から攻撃的でない蜘蛛だったと言うことだろう」
「……タチの悪い遊びだなぁ」
空から真が呟いた。
「そこだ!」
ジャックはダブルシューティングで屋根の蜘蛛を狙った。足が屋根の溝に引っかかっていたのか、バランスが難しいのかはわからないが、狙った二体は矢を受けて消滅する。
「逃がさないヨ!」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)も五色光符陣でまとめて蜘蛛を灼く。ジャックのソウルトーチに注意を引かれた蜘蛛は、回避行動を取ることはあるが積極的に動こうとはしない。活発に動き回るようであれば範囲を決めるのにも苦労するが、足が止まるなら一番集まっているところに敷けば良い。
「ハロウィンの悪戯にしちゃタチが悪すぎるぜ!」
「みんなのハロウィンを取り戻さなきゃっ」
異世界でも根付き始めた、彼女の故郷でも盛んな風習。こんなことで台無しになんてさせない。パトリシアの意気込みに、ジャックも矢をつがえて頷いた。
「ああ、同盟のハロウィンだ。台無しにさせねぇぞ」
レイアは建物の壁を駆け抜けた。蜘蛛の多いところで着地。こちらを振り返った蜘蛛たちに、薙ぎ払いで刀身を叩きつけた。避けきれなかった蜘蛛はそれで砕けて消える。ばきっ、と太い音を立てて、関節から外れた脚が頭上に飛ぶ。それも、塵になるとそのまま風に流されて消えていった。
「一体一体は弱いですが数が厄介ですね……」
サクラ・エルフリード(ka2598)がセイクリッドフラッシュで蜘蛛をまとめて消し去りながら呟いた。
「ああ、効率を重視した方が良いだろう。まとめて斬った方が良い」
「こちらは人が足りていますね……私は、皆の手が回らなさそうな所に向かいますか……」
「何かあったら呼んでくれ。すぐに向かう」
「その時はお願いします」
サクラは頷いた。彼女は、避難所になった町役場の方面に駆けて行った。
●学校籠城と怪我人救助
「先生は無事だろうなぁ?」
セルゲン(ka6612)は学校の方角を見て呟いた。今回の事件に巻き込まれている教師ジェレミアと彼は面識がある。
「顔が見れりゃ俺も安心なんだが……」
「セルゲンさん、私は学校の避難誘導をするつもりです。一緒にいかがですか?」
そう申し出たのは穂積 智里 (ka6819)だ。
「避難誘導って言うか、中が安全なら立てこもりの手伝いですけど」
「ああ、そうしてくれ。俺は学校周辺の敵の殲滅をしたいんだが、手が必要なところがあればそっちに行かないといけないからな。学校は頼むぜ」
「はい」
ママチャリと法輪で学校まで駆けつけると、校庭は趣味の悪い牧場のような有様になっている。この異常事態には似つかわしくないほどのんびりと歩く蜘蛛たち。
「智里、突っ切れるか? 俺は真ん中で止まる。先行してくれ」
「わかりました」
智里はそのまま法輪で校庭を突っ切る。セルゲンは途中まで追い掛けて、校庭の真ん中で自転車を停めた。緋虎童子を構える。呼吸を整えて全身のマテリアルを滾らせた。蜘蛛たちは好き放題に歩いているが、何体かは、現れたセルゲンに興味を引かれたらしい。
カーネージロアの大回転が、校庭の真ん中で炸裂した。ブリキが叩き折られる高い音がする。彼の周囲で、蜘蛛は次々と塵になる。
一方、智里が校内に入ると、既に蜘蛛が数匹入り込んでいた。デルタレイで片付けると、彼女は職員室のドアを叩く。
「ジェレミア先生! ご無事ですか!?」
「ジェレミア先生いないです!」
そう言って内側から鍵とドアを開けたのは初めて会う女性教師だった。
「怪我した子を病院に連れて行っています。無事な人は立てこもっていた方が安全だと思って」
「そうだと思います。申し遅れました。ハンターの穂積智里と言います」
名乗りながら気に掛かることがある。出て行ったジェレミアは無事なのだろうか?
「そんなに酷い怪我だったんですか?」
「蜘蛛の尖った足で結構ざっくりいっちゃった子がいて、出血が酷いので」
彼女は小さな声で囁いた。ちらりと見た目線を辿ると、床に血がこびりついている。
「本人も他の生徒も不安になるからって、他の男性の先生と二人がかりで連れて行きました」
「そうですか……」
一人の少女が蒼白な顔で言う。
「あたしがアウグスタ連れてきちゃったから……」
「リンダさん、あなた騙されたのよ。あなた悪くない」
「そうです。リンダさんは悪くありません。それより、ここにも既に蜘蛛が入り始めています。屋上は開けられますか?」
「はい。鍵ならここにあるので」
「じゃあ、屋上に行きましょう。皆さん、聞いてください。まず皆さんは階段で待機。一階と階段の間は私が魔法で塞ぎます。それから二階の安全を確認してから上へ行く。これを繰り返して屋上まで行きます。皆固まって、着いてきてください」
「え? 先生出て行ったのか?」
セルゲンは智里からの連絡を受けて目を丸くした。
「そうみたいです。病院に向かったみたいで」
「先生らしいと言えばそうだけど、大丈夫かな」
真も空から目を凝らすが、今のところジェレミアらしき影は見えない。
「こちらレオン。怪我人を保護した。避難誘導お願いするよ。子どもが怪我してて、先生二人が付き添ってる」
レオンから報告が入った。
「こちらバルデス。すぐ向かう」
マリィア・バルデス(ka5848)が短く答えた。
マリィアはトライクを低速で走らせながら大声で呼びかけていた。
「蜘蛛型雑魔殲滅まで、ハンターが住宅街を巡回します! 今家の中で安全が保てる方は無理に家を出ないで下さい! 急病人や怪我人のいるおうちの方以外、無理に家を出ないで下さい。安全確保のため、ハンターが住宅街を巡回しています……」
家の中が安全なら、無理に避難する必要はないのだ。幸いにも、雑魔は窓を突き破ったりドアを破壊するような攻撃力があるわけではない。ディーナ・フェルミ(ka5843)も可能な限り呼びかけを行なっているが、彼女は殲滅を引き受けているので、どうしても声かけは行き届かない。そのために避難誘導を引き受けたハンターがいる。
「戦闘が終わるまで皆さん外に出ないで下さいなの~!」
遠くでディーナが呼びかけているのも聞こえた。それから、閃光。セイクリッドフラッシュだろう。
明かりの点いている家屋はいくつかあった。思ったより、家に残る人は多いようだが正しい選択だ。移動中に怪我をしては元も子もないのである。
「こちらレオン。怪我人を保護した。避難誘導お願いするよ。子どもが怪我してて、先生二人が付き添ってる」
「こちらバルデス。すぐ向かう」
彼女はレオンと待ち合わせ場所を決めると、その場所までバイクで飛ばした。道中、いくつか蜘蛛を潰したが、特に車輪に影響はなかった。
「レオン」
「マリィア、こっちだ」
レオンが連れていたのは、少年と二人の男性だった。マリィアは片方の男性に見覚えがあるし、向こうもマリィアを覚えていた。
「あれっ、マリィアさんじゃない?」
「ジェレミア先生」
先日、校舎に人形雑魔が出た時に取り残されていた教師だ。彼は知った顔を見て安心した様だ。男性二人は小学校の教師らしく、怪我をした生徒を病院に連れて行こうとしていたとのこと。
「この子が蜘蛛の足でふくらはぎを切ってしまったんです」
「アンチボディはしたよ」
少年の下腿には、急ごしらえのガーゼと包帯が巻かれている。見たところ、止血は済んでいる様だ。マリィアは少年と目線を合わせる。
「よくここまで頑張ったわね。さ、これを飲んで。少し楽になるはずよ」
優しく微笑んで、彼女はヒーリングポーションの瓶を少年に渡す。
「ありがと……」
少年がポーションを飲むのを見て、マリィアは二人の教師に告げた。
「彼を病院まで送ります。先生方は……」
「そっちどうかなぁ? 怪我人さん大丈夫?」
タイミング良く、エンバディ (ka7328)から通信が入った。
「丁度良かった。怪我人はマリィアが連れて行ってくれるけど、先生二人を避難させてほしいんだ」
レオンが言う。
「わかったよぉ。すぐ行くね」
「すぐ来てくれる。それまでは僕がついてるよ」
「頼むわね、レオン。さ、こっちに乗って」
マリィアは少年をサイドカーに乗せた。
「彼をお願いします、マリィアさん」
「先生もお気をつけて」
「ありがとう。僕はお守りがあるから大丈夫だよ」
エンバディは、駆けつけたは良いものの困ってしまった。一人で二人引率しないといけない。箒に、成人男性が合わせて三人乗って飛べるとは聞いたことがない。
と、言うことで徒歩になる。だが、戦えるのは自分一人。いくら蜘蛛があまり攻撃してこないと言っても、万が一のことを考えるともう一人いた方が良い。応援を呼ぶことにした。もし誰もいなければ近くの民家に預けることにしよう。
「もしもし、エンバディだけど、瑠美さん手伝ってくれる?」
「はーい! 今どこにいるの?」
彼が具体的な場所を告げると、瑠美は一分も掛からないで駆けてきた。彼女は教師二人を見上げると、
「私たちにど~んと任せて!」
えへん、と胸を張る。一行はそのまま、一番近い避難所、町役場に向かった。道中の敵は一体ずつ的確に倒していく。幸いにも、向こうから積極的に向かってくる気配はなかった。だが、一般人二人が少々及び腰になってしまう。ゆっくりと進んでいると……。
「たくさん集まっているならむしろ歓迎です……蜘蛛好きではないですが、倒すのにはこちらの方が楽ですしね……セイクリッドフラッシュ……!」
前方で閃光が瞬いた。友軍の様だ。
「サクラさん!」
サクラがセイクリッドフラッシュでまとめて蜘蛛を蹴散らしていた。
「良かった。あまり手が回らなさそうなところを引き受けようと思って来ていたのですが……どうやら正解だったようですね」
「正解も正解だよぉ……助かった……」
エンバディがほっと胸をなで下ろす。四人はサクラに礼を言って先を急いだ。
●避難所にて、人の願い
まるでパニック映画の世界に迷い込んだ気分だ。神薙玲那(ka6173)は、町役場の窓に貼り付いている蜘蛛をホーリーライトで撃ち落としながらそんなことを考えた。
「けど蜘蛛が作り物臭くてイマイチ迫力がねぇな」
ホラーや怪談の類に目のない彼女は、大きな蜘蛛が町中を闊歩する様にわくわくもしていた。恐怖よりも楽しさが先に立つ。だが、それは彼女個人の嗜好の話であって、悪化を招いたり、手をこまねいて見ているつもりもない。ハンターとして全力を尽くす心構えだった。
雑魔の例に漏れず、神楽鈴で奏でるレクイエムはブリキの蜘蛛にもよく効いた。火の玉の様なオーラが明滅する。その中から、しゃん、しゃん、と聞こえる神楽鈴の音。その様こそが、彼女の好む怪談めいた見た目であったかもしれない。
「玲那さーん!」
自分を呼ぶ声に顔を上げると、瑠美とエンバディが、二人の男性を連れてこちらに走って来るところだった。玲那は道を空けた。レクイエムで雑魔は動けない。
「ありがとう!」
瑠美は一人の男性の手を引いて、その横を駆け抜けた。エンバディも、もう一人を連れて、頭を下げながらそれに続く。
「先生!」
中から声が上がった。どうやら教師だったようで、中で生徒たちと再会したらしい。まだ知っている人が来るかもしれない、と、数人の子どもたちが玄関先まで出てきたが、玲那はその額をちょん、と人差し指で小突く。
「こーら、事が済むまで安心してメシ食って寝てなって言っただろ?」
「でも……」
「悪い蜘蛛ちゃんはお姉さんがやっつけてやるって」
玲那はもう一度ホーリーライトを放つ。光が勢いよく飛んでいく様を見て、子どもたちは歓声を上げた。
「あ、良い子は真似しちゃダメだぜ。お姉さんは特別に鍛えてるからな」
話はこれで終わり。しゃん、とまた鈴を鳴らして、玲那は子どもたちを中に入れた。
エトナ・V・リインカネーション(ka7307)が、怪我人の一人を処置室に送り込み、処置が済んだ者を待合室に座らせると、外からバイクの音が聞こえた。避難誘導が誰か来たのだろう。彼女が表に出ると、バイクの主が、傍にいた蜘蛛に発砲した。
「マリィアさん、怪我人なのですか?」
「そうなのよ。エトナ、この子をお願いするわ。止血は済んでいるようなんだけど、ふくらはぎを切ってしまっているの」
「担架もらって来るのですよ」
彼女は壁に立てかけてあった担架を借りると、マリィアと端を持って少年を病院の中に入れた。
「病院よ。よく頑張ったわね」
マリィアはそう言って少年の額に手を当てる。
「では、私はまた立てこもりの呼びかけと見回りに戻るわ」
少年が処置室に運び込まれたのを見届けて、マリィアは病院を出た。バイクを見て、彼女は顔をしかめる。
「嫌なお客さんね」
サイドカーに蜘蛛が乗り込んでいた。エトナは白鳥のような形をした斧を持ち出したが、マリィアはそれを押しとどめる。
「エトナ、病院の戸締まりをもう一度確認して。あなたは中にいて」
「わかったのですよ」
彼女は言われた通りにした。
猟撃士はつかつかとサイドカーに歩み寄る。撃って、サイドカーを傷めたくはない。ディスターブをはめた手で拳を固めた。
「降りなさい」
鉄拳制裁と言うには軽い一撃だったが、この雑魔にはこれで十分だ。サイドカーの中をもう一度確認して、それ以上招かざる乗員がいないことを確認すると、マリィアはエトナに手を振ってバイクを発進させた。
エトナはそれを見送って、また治療の手伝いに戻った。足りない物品を確認して、倉庫から持ってくる。それを運搬するついでに、各所の情報をまとめた。第一処置室に患者が集中している。第三処置室に回すべきだろう。
「歩ける方は第三処置室の方に移動して欲しいのですよ。立てますか?」
エトナは軽傷の患者に手を差し伸べた。
Gacrux(ka2726)は教会に開設された避難所の運営補助についていた。犬ほどの大きさとは言うが、金属製と言うので柔軟性はないだろう。だが、隙間や穴があれば広げて入ってくる可能性はある。聖堂はもちろん、台所、司祭の私室、外に繋がるドアのない穴がないか点検していく。
倉庫の隅に、ネズミにでも囓られたのか丸い穴が空いていた。彼は司祭に頼んで工具と板をもらうと、長めの釘で打ち付けた。
侵入経路になり得るのはその一箇所だけだった。窓は全て無傷で、ヒビ割れているものもない。
ふと、聖堂の隅にある像が目に入った。白い石で作られたそれは、一点を凝視している。身じろぎもしない天使。彼はそれを眺めた。
「どうされましたかな?」
不意に、司祭が声を掛けた。Gacruxは、
「いえ……」
とバツが悪そうな顔で目を逸らす。それから、話をはぐらかすようにトランシーバーを取り出した。司祭に差し出して告げる。
「何かあったら連絡を。俺は周辺を見てきます」
ドアを開けてすぐのところで所在なさげにしていた一匹を蹴り飛ばす。たったそれだけのことで消えてしまうような、脆い雑魔なのに、町はパニックで怪我人も出ている。
「がっくん、教会の屋根に蜘蛛がいるみたいだ」
真から連絡が入った。
「私も今手伝いに行くよ」
「ありがとうございます真くん。俺も、今屋根を見に行こうとしていたんですよ」
「大丈夫だと思うけど、気をつけてね」
「ええ」
知人が高所に立つと聞いて気遣うのは、真らしい。Gacruxは壁歩きで一気に屋根まで上がった。真の言うとおり、数匹の蜘蛛がいる。
ピンク色の光が空の向こうからやって来た。箒に乗った真だ。
「真くん、援護を頼みますよ」
ラナンキュラスは持ち主のマテリアルを受けて緑色に輝いている。Gacruxは槍を振り抜いた。
髑髏のような衝撃波が、怨嗟の咆吼を上げて屋根を拭うように駆け抜ける。何も知らない住人の中には、それを更なる脅威と思った人もいたかもしれない。
間一髪でそれから逃れた蜘蛛がいた。
「逃がすか!」
真は風雷陣を放った。蜘蛛はなおも逃げようとしたが、瓦につんのめって転がった。そこに雷が落ちる。屋根の上は、ひとまずこれで大丈夫そうだ。
「無線の情報を聞く限りだと、半分は減っているようですね」
「そうだね。殲滅組が範囲攻撃を持ってきているから。討伐そのものはそんなに掛からないと思う」
イベントの続行を希望していたパトリシアの顔を思い出す。パニックが収まれば、彼女の希望が叶うかもしれない。
「そういえば、真くん。そうやって箒に乗ってると、それこそ魔女みたいですね」
「え? ああ、確かに、ハロウィンらしい格好なのかも」
真は自分の姿を見下ろした。それから肩を竦めて、苦笑する。
「乗っているのは可愛い魔女じゃなくて、私みたいなおじさんだけどさ」
空蝉(ka6951)は馬で移動していた。道中で蜘蛛を何匹か踏みつぶす。馬は特に痛がる気配も見せない。前進に差し支えがないならそれで良いだろう。
店が集まるエリアに来た。ここも、小型の蜘蛛が闊歩している。一軒の酒場に灯りが付いていた。窓から、不安そうにしている住人が覗いている。
「VOID感知。殲滅します」
空蝉の、開かない口から声がした。彼は二本の刀をすらりと抜き放つ。街灯のランプの、黄色がかった灯りを受けて、刀身が滑らかに光った。
蜘蛛は空蝉に気付いたが、特別攻撃してくる気配は見せない。ただ、こちらに音を立てて寄ってくる。目を光らせた、微笑のオートマトンがブリキの蜘蛛と対峙している。
それはどこか奇妙で、それでいて緊張するようなそんな情景だった。外を覗く目が増えていく。
空蝉は一歩前に出た。二刀流で、二体の蜘蛛を斬り伏せる。着物の裾が流れるように揺れた。
店の前の蜘蛛をあらかた倒すと、空蝉は店のドアをノックした。中から店主らしき男が出てくる。
「空蝉と申します」
彼は一礼した。
「歪虚は、わたくしの仲間が順調に討伐しています」
トランシーバーで、友軍の動きは把握している。殲滅に動いているハンターたちが範囲攻撃などでまとめて消し去っているらしいことも。
「窓から入ってくる可能性があります。バックヤードなどは?」
「厨房と事務室かな。あとトイレ」
「では皆様はそちらに」
厨房などへの誘導は店主に任せて、空蝉は外に出た。バイクのエンジン音が耳に届く。
セイクリッドフラッシュや、五色光符陣の光、衝撃波の轟音、マジックアローの弾道が、見える、聞こえる。
がちん、と音がした。空蝉は刀を抜く。こちらにやって来る蜘蛛に、踏み出して流れるように斬りつけた。
●戦い終えて
討伐は佳境に差し掛かっていた。ディーナは蜘蛛の群れに突っ込んではセイクリッドフラッシュを放ち、信仰の敵を葬り去っていく。
毒対策にウコンバサラのスキル使用も考えたが、何しろこの蜘蛛たち、ほとんど攻撃してこない上に当たればほぼ確実に消える。なら手数を増やした方が良い。
蜘蛛の数も減り、パトリシアはもう五色光符陣を必要としなくなった。風雷陣か、単に符を投げるのみ。
「ディーナ! こっちハ、そろそろいなくなりソウ!」
「こっちもなの!」
フォースクラッシュは必要ない。メイスを両手で振るう。それだけで、当たった蜘蛛は消え去った。今では、視認範囲の動く物は人間の方が多い。
「これだけ遊んであげればアウグスタも満足かな?」
まよいがくすっと笑いながら、マジックアローを惜しみなく炸裂させる。ウィンドガストを念のため自分に施していたが、蜘蛛はほとんど彼女に牙を剥くことはなかった。
「ああ、満足だろう、なっ!」
レイアも渾身の力を込めて残った蜘蛛を薙ぎ払いにかかった。蜘蛛が動き回る金属音は、もうほとんど聞こえない。
ジャックがトランシーバーを出した。
「ジャックだ。こちらはあらかた済んだぜ。そっちはどうだ?」
「こちらセルゲン。学校周辺は殲滅したと見て良いだろう」
「穂積です。学校に残っていた逃げ遅れの人たちは無事です。あれから蜘蛛の追撃もありませんでした」
「こちらバルデス。住宅街であれ以降の怪我人は出ていないわ」
「エンバディだよぉ……一人、木の上で震えてたから、すぐ傍の家に預けちゃった……地域での助け合いだよぉ……」
「神薙だ。町役場は無事。この辺もういないんじゃねぇかって思うぞ」
「Gacruxです。教会周辺も、ひとまず安全です」
「エトナなのですよ。病院も大丈夫。怪我人は全員治療が終わりました」
「空蝉です。店舗での避難者は無事。周辺を歩く雑魔も殲滅しました」
次々と、無事を知らせる連絡が入る。ジャックはふう、と息を吐いた。
「どうにか被害は拡大しないで済んだみたいだな。良かったぜ」
「見回りはいるかもしれないが、ひとまず当面の危機は去ったようだな」
ひりょも安心したように頷いた。
「鳳凰院さんすごかったですね! 向かい来る敵を電撃で蹴散らして!」
「百鬼こそ、よく頑張ったな。怯まずに戦い続ける姿、見事だった」
「私、避難所に行ってくるの」
ディーナが言った。怪我をしている人がいるならそのままにしておくことはできない。彼女は馬に乗って病院に向かった。
「ね、レイア」
パトリシアがレイアに声を掛けた。
「うん? どうした」
「レイアは、最初にアウグスタに会ったジェレミアって人を知ってるノ?」
戦いが始まってすぐ、レイアがジェレミアについて言及していたことをパトリシアは覚えていた。
「ああ。彼が関わっている依頼に入ることがあってな」
「パティ、その人とお話したい。この前の依頼デ、パティもこの蜘蛛見たノ。関係があるカモ……」
「じゃあ、紹介しようか。町役場にいるんだったな」
「ありがと! 町役場なら、ついでにイベント続行のお願いもできるネ!」
「だったら俺も行こうか。俺もジェレミアには会ったことがある」
ジャックも申し出る。三人は町役場に向かうことにした。
それと同時に、魔導トラックに乗った治療班が到着した。
Gacruxは、仲間たちとの通信で、殲滅が完了したことを知った。これから一軒一軒回って、住民に安全をしらせるのは効率が悪い。マリィアは大声で立てこもりを呼びかけたと言うが、仮に全員でやるにしても、時間がかかることは間違いない。知らされるまで、皆ずっと不安でいるだろう。
だから、彼は司祭と相談して鐘を鳴らすことにした。若い助祭がそれを引き受ける。彼は鐘楼に登ると、ゆっくりと鐘を鳴らした。危険を知らせるけたたましいものではない。事が一区切り着いたのだと言うことがわかる音だ。
司祭は信徒に囲まれている。それを眺めながら、彼は隅にある天使像にもたれかかる。
鐘の音が、重みを持って彼の所まで届いた。目を閉じて、その音を聞く。
空蝉は、鐘の音を聞くと、戦闘態勢を解いた。通信の内容からして、殲滅は完了したのだろう。店からも、恐る恐ると言ったていで人々が出てくる。
「危機は去ったようです」
柔和な笑顔で彼は告げる。
「よ、良かった……ありがとう空蝉さん……」
「いいえ」
「よー、パティ、ジャック、レイア。お疲れ」
仕事後の一服を楽しんでいた玲那は、やってくるパトリシア、ジャック、レイアを見てひらひらと手を振った。
「玲那! 玲那もお疲れ様なんだヨ!」
「防衛お疲れだったな」
「お疲れ様、玲那。ジェレミアはいるだろうか? 小学校の教師なんだが」
「どっちがどっちかはわからんが、先生なら二人逃げてきたぜ。中にいるだろ」
「ありがと!」
鐘の音が響いている。役場の中に入るパトリシアとレイアを見送って、玲那は鐘に合わせて神楽鈴を鳴らした。
エトナは鐘の音を聞くと、一緒にいた病院スタッフと顔を見合わせた。スタッフはほっとした顔をしている。
「良かった……終わったみたいね」
「そうみたいですよ」
「エトナさん、来てくれてありがとう。すごく心強かった。治療や運営の手伝いもしてくれて……」
「とんでもないのですよ」
エトナは微笑んで見せる。痛みを訴える声が時折聞こえる。それに、心を痛めたような顔をしてみせる。今回は真面目な顔をしておこう。
ほら、やっぱり、生とは苦痛なのだ。生きている限り、生ある限り、繰り返す。
でもそんなことここでは口にしない。エトナは物わかりの良い少女の顔をしたまま、治療の手伝いに来たディーナや治療係のハンターたちを迎えた。
●スケアリー・スパイダー・ハロウィン
智里とセルゲンは、リンダの話を聞いていた。パトリシアが提案し、町側も、子どもたちに嫌な思い出として残らないよう、ひとまずお菓子配りくらいは、最後にしても良いだろうと言うことになった。仮装をした彼女を始め、動けるハンターたちはその支度を手伝っている。人がたくさんいるところで話すことを希望したリンダのために、二人はハンターたちが駆け回る広場に連れて行った。
彼女は、アウグスタと会った時のことを説明してくれる。血の付いたような蜘蛛の玩具を持っていた少女が、変な大人に連れて行かれそうになったと言って泣いていたのだと彼女は語った。
「待てよ……その蜘蛛についてた血は誰の血だったんだ?」
セルゲンがふっと気が付いた様に疑問を口にする。智里はセルゲンを見た。
「もしかして、騒ぎになる前に被害者が……? その変な大人はどうなったんでしょう?」
「そんな」
リンダは震えた。
「あたし気が付かなかった」
「普通は気付かないから良いんだよ」
「そうです。リンダさんのせいじゃないです」
その時だった。
「すみません!」
治療班としてやって来た、聖導士のアルトゥーロが慌てた様子で駆けてきたのが見えた。何をあんなに慌てているんだろう。智里とセルゲンも、他のハンターたちも彼を見る。
「住宅街と学校の間で、男性が……あの、発見されました……!」
ハンターたちは顔を見合わせた。
「アウグスタは、見た目だけなら普通の子どもだからね。肌については、ハロウィンの仮装で何か塗ったと思ったかも」
報告を受けて、オフィス職員は息を吐いた。アルトゥーロは子どもの姿を見て具体的に何があったかを言わなかったが、ハンターたちは皆察した。遺体が見つかったのだ。
彼はオフィスの壁に貼ってあるアウグスタの似顔絵を見た。先日の調査で、目撃者・ジェレミアの証言から描いてもらったものだ。
「見た目が子どもだから余計に危険だ。君たちも、見かけたら気をつけて。でかい蜘蛛を呼び出すらしいからね」
もう一度、彼は大きく息を吐く。
「なんにせよお疲れ様。まったく、スケアリー・ハロウィンとはよく言ったもんだ」
「これが噂に聞いたブリキの蜘蛛かあ」
夢路 まよい(ka1328)は町中で音を立てて歩く蜘蛛を見て興味深そうに呟いた。話には聞いていたし、関連調査にも参加しているが、現物を見るのは初めてだ。
「また奴か……どんどん規模が大きくなっていっている気がするな……!」
隣で渋面を作っているのはレイア・アローネ(ka4082)。彼女は蜘蛛との交戦経験がある。
「アウグスタは何がしたいんだろ? 遊んで欲しかったのかな?」
「そうだね、案外ただのゲームだったのかも知れない。子供だし」
魔箒を持参した鞍馬 真(ka5819)が目を細める。
「じゃあ、私が遊んであげる! ブリキの蜘蛛を壊してね!」
まよいはぱっと顔を輝かせると、マジックアローの詠唱を始めた。フォースリングのおかげで一度に五体狙えるが、レイアはその詠唱が二つなのに気付いた。ダブルキャストだ。つまり、まよいは十体を一度の詠唱で片付けようと言う算段らしい。
「とんでもないハロウィンになってしまった……」
同じ台詞も二つ重なる。真は、自分ともう一人、隣にいたレオン(ka5108)が呟くのを聞いた。二人は顔を見合わせて苦笑する。
「蜘蛛を倒して回るね」
「私は空から行こう」
「気をつけて」
「みんなも」
真は仲間の無事を祈ると、箒に乗って飛び上がった。
(やれやれ…これじゃハロウィンじゃなくてただのパニックホラーだ)
鳳凰院ひりょ(ka3744)はソウルトーチを使用しながら蜘蛛の引きつけを狙った。百鬼 一夏(ka7308)がそれに群がる蜘蛛を範囲攻撃で撃破するつもりでいる。
「……しかし、これだけの蜘蛛に注目されるって言うのは、ちょっと気持ち悪いな……」
彼は独りごちるとライトニングボルトを使って目の前の一直線を電撃で貫いた。向こうではまよいの詠唱が済んだのか、マジックアローが十本飛んでいくのが見える。ひりょの電撃はそれなりの数を潰した。しかしながら数が多すぎる。
「でも、この向かってくる敵を全員ぶっ飛ばせば全て解決! です!」
一夏が青龍翔咬波で一気にマテリアルを放出した。気功が物理的にブリキをへし折る音が高く響く。
「効いてるな」
ひりょは手応えを感じている。これだけのハンターが殲滅に回っているのだから、数が多くてもどうにかなるだろう。彼はトランシーバーを取り出す。
「ひりょだ。るー、そちらは大丈夫か?」
「あ、お兄? こっちは大丈夫だよー! あんまり向こうから攻撃してこないんだよね」
妹の鳳凰院瑠美(ka4534)は避難誘導の方に回っている。避難の邪魔になる蜘蛛に彼女も攻撃を仕掛けたようだ。
「やっぱりか……ソウルトーチを使ってもこちらを見るだけだから、そうなのかな、とは」
「そっちもそうか? こっちもだ」
ジャックが通信に合流した。
「こっちを見るは見るから、足止めにはなるが、一気に集まって来るって感じじゃないな」
同じようにソウルトーチを使うジャック・エルギン(ka1522)も、こちらと同じような事になっているらしい。
「話を聞くに、今回はジェレミアが意図的に狙われたとかそう言うことではなさそうだ」
レイアが言う。
「恐らく、最初から攻撃的でない蜘蛛だったと言うことだろう」
「……タチの悪い遊びだなぁ」
空から真が呟いた。
「そこだ!」
ジャックはダブルシューティングで屋根の蜘蛛を狙った。足が屋根の溝に引っかかっていたのか、バランスが難しいのかはわからないが、狙った二体は矢を受けて消滅する。
「逃がさないヨ!」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)も五色光符陣でまとめて蜘蛛を灼く。ジャックのソウルトーチに注意を引かれた蜘蛛は、回避行動を取ることはあるが積極的に動こうとはしない。活発に動き回るようであれば範囲を決めるのにも苦労するが、足が止まるなら一番集まっているところに敷けば良い。
「ハロウィンの悪戯にしちゃタチが悪すぎるぜ!」
「みんなのハロウィンを取り戻さなきゃっ」
異世界でも根付き始めた、彼女の故郷でも盛んな風習。こんなことで台無しになんてさせない。パトリシアの意気込みに、ジャックも矢をつがえて頷いた。
「ああ、同盟のハロウィンだ。台無しにさせねぇぞ」
レイアは建物の壁を駆け抜けた。蜘蛛の多いところで着地。こちらを振り返った蜘蛛たちに、薙ぎ払いで刀身を叩きつけた。避けきれなかった蜘蛛はそれで砕けて消える。ばきっ、と太い音を立てて、関節から外れた脚が頭上に飛ぶ。それも、塵になるとそのまま風に流されて消えていった。
「一体一体は弱いですが数が厄介ですね……」
サクラ・エルフリード(ka2598)がセイクリッドフラッシュで蜘蛛をまとめて消し去りながら呟いた。
「ああ、効率を重視した方が良いだろう。まとめて斬った方が良い」
「こちらは人が足りていますね……私は、皆の手が回らなさそうな所に向かいますか……」
「何かあったら呼んでくれ。すぐに向かう」
「その時はお願いします」
サクラは頷いた。彼女は、避難所になった町役場の方面に駆けて行った。
●学校籠城と怪我人救助
「先生は無事だろうなぁ?」
セルゲン(ka6612)は学校の方角を見て呟いた。今回の事件に巻き込まれている教師ジェレミアと彼は面識がある。
「顔が見れりゃ俺も安心なんだが……」
「セルゲンさん、私は学校の避難誘導をするつもりです。一緒にいかがですか?」
そう申し出たのは穂積 智里 (ka6819)だ。
「避難誘導って言うか、中が安全なら立てこもりの手伝いですけど」
「ああ、そうしてくれ。俺は学校周辺の敵の殲滅をしたいんだが、手が必要なところがあればそっちに行かないといけないからな。学校は頼むぜ」
「はい」
ママチャリと法輪で学校まで駆けつけると、校庭は趣味の悪い牧場のような有様になっている。この異常事態には似つかわしくないほどのんびりと歩く蜘蛛たち。
「智里、突っ切れるか? 俺は真ん中で止まる。先行してくれ」
「わかりました」
智里はそのまま法輪で校庭を突っ切る。セルゲンは途中まで追い掛けて、校庭の真ん中で自転車を停めた。緋虎童子を構える。呼吸を整えて全身のマテリアルを滾らせた。蜘蛛たちは好き放題に歩いているが、何体かは、現れたセルゲンに興味を引かれたらしい。
カーネージロアの大回転が、校庭の真ん中で炸裂した。ブリキが叩き折られる高い音がする。彼の周囲で、蜘蛛は次々と塵になる。
一方、智里が校内に入ると、既に蜘蛛が数匹入り込んでいた。デルタレイで片付けると、彼女は職員室のドアを叩く。
「ジェレミア先生! ご無事ですか!?」
「ジェレミア先生いないです!」
そう言って内側から鍵とドアを開けたのは初めて会う女性教師だった。
「怪我した子を病院に連れて行っています。無事な人は立てこもっていた方が安全だと思って」
「そうだと思います。申し遅れました。ハンターの穂積智里と言います」
名乗りながら気に掛かることがある。出て行ったジェレミアは無事なのだろうか?
「そんなに酷い怪我だったんですか?」
「蜘蛛の尖った足で結構ざっくりいっちゃった子がいて、出血が酷いので」
彼女は小さな声で囁いた。ちらりと見た目線を辿ると、床に血がこびりついている。
「本人も他の生徒も不安になるからって、他の男性の先生と二人がかりで連れて行きました」
「そうですか……」
一人の少女が蒼白な顔で言う。
「あたしがアウグスタ連れてきちゃったから……」
「リンダさん、あなた騙されたのよ。あなた悪くない」
「そうです。リンダさんは悪くありません。それより、ここにも既に蜘蛛が入り始めています。屋上は開けられますか?」
「はい。鍵ならここにあるので」
「じゃあ、屋上に行きましょう。皆さん、聞いてください。まず皆さんは階段で待機。一階と階段の間は私が魔法で塞ぎます。それから二階の安全を確認してから上へ行く。これを繰り返して屋上まで行きます。皆固まって、着いてきてください」
「え? 先生出て行ったのか?」
セルゲンは智里からの連絡を受けて目を丸くした。
「そうみたいです。病院に向かったみたいで」
「先生らしいと言えばそうだけど、大丈夫かな」
真も空から目を凝らすが、今のところジェレミアらしき影は見えない。
「こちらレオン。怪我人を保護した。避難誘導お願いするよ。子どもが怪我してて、先生二人が付き添ってる」
レオンから報告が入った。
「こちらバルデス。すぐ向かう」
マリィア・バルデス(ka5848)が短く答えた。
マリィアはトライクを低速で走らせながら大声で呼びかけていた。
「蜘蛛型雑魔殲滅まで、ハンターが住宅街を巡回します! 今家の中で安全が保てる方は無理に家を出ないで下さい! 急病人や怪我人のいるおうちの方以外、無理に家を出ないで下さい。安全確保のため、ハンターが住宅街を巡回しています……」
家の中が安全なら、無理に避難する必要はないのだ。幸いにも、雑魔は窓を突き破ったりドアを破壊するような攻撃力があるわけではない。ディーナ・フェルミ(ka5843)も可能な限り呼びかけを行なっているが、彼女は殲滅を引き受けているので、どうしても声かけは行き届かない。そのために避難誘導を引き受けたハンターがいる。
「戦闘が終わるまで皆さん外に出ないで下さいなの~!」
遠くでディーナが呼びかけているのも聞こえた。それから、閃光。セイクリッドフラッシュだろう。
明かりの点いている家屋はいくつかあった。思ったより、家に残る人は多いようだが正しい選択だ。移動中に怪我をしては元も子もないのである。
「こちらレオン。怪我人を保護した。避難誘導お願いするよ。子どもが怪我してて、先生二人が付き添ってる」
「こちらバルデス。すぐ向かう」
彼女はレオンと待ち合わせ場所を決めると、その場所までバイクで飛ばした。道中、いくつか蜘蛛を潰したが、特に車輪に影響はなかった。
「レオン」
「マリィア、こっちだ」
レオンが連れていたのは、少年と二人の男性だった。マリィアは片方の男性に見覚えがあるし、向こうもマリィアを覚えていた。
「あれっ、マリィアさんじゃない?」
「ジェレミア先生」
先日、校舎に人形雑魔が出た時に取り残されていた教師だ。彼は知った顔を見て安心した様だ。男性二人は小学校の教師らしく、怪我をした生徒を病院に連れて行こうとしていたとのこと。
「この子が蜘蛛の足でふくらはぎを切ってしまったんです」
「アンチボディはしたよ」
少年の下腿には、急ごしらえのガーゼと包帯が巻かれている。見たところ、止血は済んでいる様だ。マリィアは少年と目線を合わせる。
「よくここまで頑張ったわね。さ、これを飲んで。少し楽になるはずよ」
優しく微笑んで、彼女はヒーリングポーションの瓶を少年に渡す。
「ありがと……」
少年がポーションを飲むのを見て、マリィアは二人の教師に告げた。
「彼を病院まで送ります。先生方は……」
「そっちどうかなぁ? 怪我人さん大丈夫?」
タイミング良く、エンバディ (ka7328)から通信が入った。
「丁度良かった。怪我人はマリィアが連れて行ってくれるけど、先生二人を避難させてほしいんだ」
レオンが言う。
「わかったよぉ。すぐ行くね」
「すぐ来てくれる。それまでは僕がついてるよ」
「頼むわね、レオン。さ、こっちに乗って」
マリィアは少年をサイドカーに乗せた。
「彼をお願いします、マリィアさん」
「先生もお気をつけて」
「ありがとう。僕はお守りがあるから大丈夫だよ」
エンバディは、駆けつけたは良いものの困ってしまった。一人で二人引率しないといけない。箒に、成人男性が合わせて三人乗って飛べるとは聞いたことがない。
と、言うことで徒歩になる。だが、戦えるのは自分一人。いくら蜘蛛があまり攻撃してこないと言っても、万が一のことを考えるともう一人いた方が良い。応援を呼ぶことにした。もし誰もいなければ近くの民家に預けることにしよう。
「もしもし、エンバディだけど、瑠美さん手伝ってくれる?」
「はーい! 今どこにいるの?」
彼が具体的な場所を告げると、瑠美は一分も掛からないで駆けてきた。彼女は教師二人を見上げると、
「私たちにど~んと任せて!」
えへん、と胸を張る。一行はそのまま、一番近い避難所、町役場に向かった。道中の敵は一体ずつ的確に倒していく。幸いにも、向こうから積極的に向かってくる気配はなかった。だが、一般人二人が少々及び腰になってしまう。ゆっくりと進んでいると……。
「たくさん集まっているならむしろ歓迎です……蜘蛛好きではないですが、倒すのにはこちらの方が楽ですしね……セイクリッドフラッシュ……!」
前方で閃光が瞬いた。友軍の様だ。
「サクラさん!」
サクラがセイクリッドフラッシュでまとめて蜘蛛を蹴散らしていた。
「良かった。あまり手が回らなさそうなところを引き受けようと思って来ていたのですが……どうやら正解だったようですね」
「正解も正解だよぉ……助かった……」
エンバディがほっと胸をなで下ろす。四人はサクラに礼を言って先を急いだ。
●避難所にて、人の願い
まるでパニック映画の世界に迷い込んだ気分だ。神薙玲那(ka6173)は、町役場の窓に貼り付いている蜘蛛をホーリーライトで撃ち落としながらそんなことを考えた。
「けど蜘蛛が作り物臭くてイマイチ迫力がねぇな」
ホラーや怪談の類に目のない彼女は、大きな蜘蛛が町中を闊歩する様にわくわくもしていた。恐怖よりも楽しさが先に立つ。だが、それは彼女個人の嗜好の話であって、悪化を招いたり、手をこまねいて見ているつもりもない。ハンターとして全力を尽くす心構えだった。
雑魔の例に漏れず、神楽鈴で奏でるレクイエムはブリキの蜘蛛にもよく効いた。火の玉の様なオーラが明滅する。その中から、しゃん、しゃん、と聞こえる神楽鈴の音。その様こそが、彼女の好む怪談めいた見た目であったかもしれない。
「玲那さーん!」
自分を呼ぶ声に顔を上げると、瑠美とエンバディが、二人の男性を連れてこちらに走って来るところだった。玲那は道を空けた。レクイエムで雑魔は動けない。
「ありがとう!」
瑠美は一人の男性の手を引いて、その横を駆け抜けた。エンバディも、もう一人を連れて、頭を下げながらそれに続く。
「先生!」
中から声が上がった。どうやら教師だったようで、中で生徒たちと再会したらしい。まだ知っている人が来るかもしれない、と、数人の子どもたちが玄関先まで出てきたが、玲那はその額をちょん、と人差し指で小突く。
「こーら、事が済むまで安心してメシ食って寝てなって言っただろ?」
「でも……」
「悪い蜘蛛ちゃんはお姉さんがやっつけてやるって」
玲那はもう一度ホーリーライトを放つ。光が勢いよく飛んでいく様を見て、子どもたちは歓声を上げた。
「あ、良い子は真似しちゃダメだぜ。お姉さんは特別に鍛えてるからな」
話はこれで終わり。しゃん、とまた鈴を鳴らして、玲那は子どもたちを中に入れた。
エトナ・V・リインカネーション(ka7307)が、怪我人の一人を処置室に送り込み、処置が済んだ者を待合室に座らせると、外からバイクの音が聞こえた。避難誘導が誰か来たのだろう。彼女が表に出ると、バイクの主が、傍にいた蜘蛛に発砲した。
「マリィアさん、怪我人なのですか?」
「そうなのよ。エトナ、この子をお願いするわ。止血は済んでいるようなんだけど、ふくらはぎを切ってしまっているの」
「担架もらって来るのですよ」
彼女は壁に立てかけてあった担架を借りると、マリィアと端を持って少年を病院の中に入れた。
「病院よ。よく頑張ったわね」
マリィアはそう言って少年の額に手を当てる。
「では、私はまた立てこもりの呼びかけと見回りに戻るわ」
少年が処置室に運び込まれたのを見届けて、マリィアは病院を出た。バイクを見て、彼女は顔をしかめる。
「嫌なお客さんね」
サイドカーに蜘蛛が乗り込んでいた。エトナは白鳥のような形をした斧を持ち出したが、マリィアはそれを押しとどめる。
「エトナ、病院の戸締まりをもう一度確認して。あなたは中にいて」
「わかったのですよ」
彼女は言われた通りにした。
猟撃士はつかつかとサイドカーに歩み寄る。撃って、サイドカーを傷めたくはない。ディスターブをはめた手で拳を固めた。
「降りなさい」
鉄拳制裁と言うには軽い一撃だったが、この雑魔にはこれで十分だ。サイドカーの中をもう一度確認して、それ以上招かざる乗員がいないことを確認すると、マリィアはエトナに手を振ってバイクを発進させた。
エトナはそれを見送って、また治療の手伝いに戻った。足りない物品を確認して、倉庫から持ってくる。それを運搬するついでに、各所の情報をまとめた。第一処置室に患者が集中している。第三処置室に回すべきだろう。
「歩ける方は第三処置室の方に移動して欲しいのですよ。立てますか?」
エトナは軽傷の患者に手を差し伸べた。
Gacrux(ka2726)は教会に開設された避難所の運営補助についていた。犬ほどの大きさとは言うが、金属製と言うので柔軟性はないだろう。だが、隙間や穴があれば広げて入ってくる可能性はある。聖堂はもちろん、台所、司祭の私室、外に繋がるドアのない穴がないか点検していく。
倉庫の隅に、ネズミにでも囓られたのか丸い穴が空いていた。彼は司祭に頼んで工具と板をもらうと、長めの釘で打ち付けた。
侵入経路になり得るのはその一箇所だけだった。窓は全て無傷で、ヒビ割れているものもない。
ふと、聖堂の隅にある像が目に入った。白い石で作られたそれは、一点を凝視している。身じろぎもしない天使。彼はそれを眺めた。
「どうされましたかな?」
不意に、司祭が声を掛けた。Gacruxは、
「いえ……」
とバツが悪そうな顔で目を逸らす。それから、話をはぐらかすようにトランシーバーを取り出した。司祭に差し出して告げる。
「何かあったら連絡を。俺は周辺を見てきます」
ドアを開けてすぐのところで所在なさげにしていた一匹を蹴り飛ばす。たったそれだけのことで消えてしまうような、脆い雑魔なのに、町はパニックで怪我人も出ている。
「がっくん、教会の屋根に蜘蛛がいるみたいだ」
真から連絡が入った。
「私も今手伝いに行くよ」
「ありがとうございます真くん。俺も、今屋根を見に行こうとしていたんですよ」
「大丈夫だと思うけど、気をつけてね」
「ええ」
知人が高所に立つと聞いて気遣うのは、真らしい。Gacruxは壁歩きで一気に屋根まで上がった。真の言うとおり、数匹の蜘蛛がいる。
ピンク色の光が空の向こうからやって来た。箒に乗った真だ。
「真くん、援護を頼みますよ」
ラナンキュラスは持ち主のマテリアルを受けて緑色に輝いている。Gacruxは槍を振り抜いた。
髑髏のような衝撃波が、怨嗟の咆吼を上げて屋根を拭うように駆け抜ける。何も知らない住人の中には、それを更なる脅威と思った人もいたかもしれない。
間一髪でそれから逃れた蜘蛛がいた。
「逃がすか!」
真は風雷陣を放った。蜘蛛はなおも逃げようとしたが、瓦につんのめって転がった。そこに雷が落ちる。屋根の上は、ひとまずこれで大丈夫そうだ。
「無線の情報を聞く限りだと、半分は減っているようですね」
「そうだね。殲滅組が範囲攻撃を持ってきているから。討伐そのものはそんなに掛からないと思う」
イベントの続行を希望していたパトリシアの顔を思い出す。パニックが収まれば、彼女の希望が叶うかもしれない。
「そういえば、真くん。そうやって箒に乗ってると、それこそ魔女みたいですね」
「え? ああ、確かに、ハロウィンらしい格好なのかも」
真は自分の姿を見下ろした。それから肩を竦めて、苦笑する。
「乗っているのは可愛い魔女じゃなくて、私みたいなおじさんだけどさ」
空蝉(ka6951)は馬で移動していた。道中で蜘蛛を何匹か踏みつぶす。馬は特に痛がる気配も見せない。前進に差し支えがないならそれで良いだろう。
店が集まるエリアに来た。ここも、小型の蜘蛛が闊歩している。一軒の酒場に灯りが付いていた。窓から、不安そうにしている住人が覗いている。
「VOID感知。殲滅します」
空蝉の、開かない口から声がした。彼は二本の刀をすらりと抜き放つ。街灯のランプの、黄色がかった灯りを受けて、刀身が滑らかに光った。
蜘蛛は空蝉に気付いたが、特別攻撃してくる気配は見せない。ただ、こちらに音を立てて寄ってくる。目を光らせた、微笑のオートマトンがブリキの蜘蛛と対峙している。
それはどこか奇妙で、それでいて緊張するようなそんな情景だった。外を覗く目が増えていく。
空蝉は一歩前に出た。二刀流で、二体の蜘蛛を斬り伏せる。着物の裾が流れるように揺れた。
店の前の蜘蛛をあらかた倒すと、空蝉は店のドアをノックした。中から店主らしき男が出てくる。
「空蝉と申します」
彼は一礼した。
「歪虚は、わたくしの仲間が順調に討伐しています」
トランシーバーで、友軍の動きは把握している。殲滅に動いているハンターたちが範囲攻撃などでまとめて消し去っているらしいことも。
「窓から入ってくる可能性があります。バックヤードなどは?」
「厨房と事務室かな。あとトイレ」
「では皆様はそちらに」
厨房などへの誘導は店主に任せて、空蝉は外に出た。バイクのエンジン音が耳に届く。
セイクリッドフラッシュや、五色光符陣の光、衝撃波の轟音、マジックアローの弾道が、見える、聞こえる。
がちん、と音がした。空蝉は刀を抜く。こちらにやって来る蜘蛛に、踏み出して流れるように斬りつけた。
●戦い終えて
討伐は佳境に差し掛かっていた。ディーナは蜘蛛の群れに突っ込んではセイクリッドフラッシュを放ち、信仰の敵を葬り去っていく。
毒対策にウコンバサラのスキル使用も考えたが、何しろこの蜘蛛たち、ほとんど攻撃してこない上に当たればほぼ確実に消える。なら手数を増やした方が良い。
蜘蛛の数も減り、パトリシアはもう五色光符陣を必要としなくなった。風雷陣か、単に符を投げるのみ。
「ディーナ! こっちハ、そろそろいなくなりソウ!」
「こっちもなの!」
フォースクラッシュは必要ない。メイスを両手で振るう。それだけで、当たった蜘蛛は消え去った。今では、視認範囲の動く物は人間の方が多い。
「これだけ遊んであげればアウグスタも満足かな?」
まよいがくすっと笑いながら、マジックアローを惜しみなく炸裂させる。ウィンドガストを念のため自分に施していたが、蜘蛛はほとんど彼女に牙を剥くことはなかった。
「ああ、満足だろう、なっ!」
レイアも渾身の力を込めて残った蜘蛛を薙ぎ払いにかかった。蜘蛛が動き回る金属音は、もうほとんど聞こえない。
ジャックがトランシーバーを出した。
「ジャックだ。こちらはあらかた済んだぜ。そっちはどうだ?」
「こちらセルゲン。学校周辺は殲滅したと見て良いだろう」
「穂積です。学校に残っていた逃げ遅れの人たちは無事です。あれから蜘蛛の追撃もありませんでした」
「こちらバルデス。住宅街であれ以降の怪我人は出ていないわ」
「エンバディだよぉ……一人、木の上で震えてたから、すぐ傍の家に預けちゃった……地域での助け合いだよぉ……」
「神薙だ。町役場は無事。この辺もういないんじゃねぇかって思うぞ」
「Gacruxです。教会周辺も、ひとまず安全です」
「エトナなのですよ。病院も大丈夫。怪我人は全員治療が終わりました」
「空蝉です。店舗での避難者は無事。周辺を歩く雑魔も殲滅しました」
次々と、無事を知らせる連絡が入る。ジャックはふう、と息を吐いた。
「どうにか被害は拡大しないで済んだみたいだな。良かったぜ」
「見回りはいるかもしれないが、ひとまず当面の危機は去ったようだな」
ひりょも安心したように頷いた。
「鳳凰院さんすごかったですね! 向かい来る敵を電撃で蹴散らして!」
「百鬼こそ、よく頑張ったな。怯まずに戦い続ける姿、見事だった」
「私、避難所に行ってくるの」
ディーナが言った。怪我をしている人がいるならそのままにしておくことはできない。彼女は馬に乗って病院に向かった。
「ね、レイア」
パトリシアがレイアに声を掛けた。
「うん? どうした」
「レイアは、最初にアウグスタに会ったジェレミアって人を知ってるノ?」
戦いが始まってすぐ、レイアがジェレミアについて言及していたことをパトリシアは覚えていた。
「ああ。彼が関わっている依頼に入ることがあってな」
「パティ、その人とお話したい。この前の依頼デ、パティもこの蜘蛛見たノ。関係があるカモ……」
「じゃあ、紹介しようか。町役場にいるんだったな」
「ありがと! 町役場なら、ついでにイベント続行のお願いもできるネ!」
「だったら俺も行こうか。俺もジェレミアには会ったことがある」
ジャックも申し出る。三人は町役場に向かうことにした。
それと同時に、魔導トラックに乗った治療班が到着した。
Gacruxは、仲間たちとの通信で、殲滅が完了したことを知った。これから一軒一軒回って、住民に安全をしらせるのは効率が悪い。マリィアは大声で立てこもりを呼びかけたと言うが、仮に全員でやるにしても、時間がかかることは間違いない。知らされるまで、皆ずっと不安でいるだろう。
だから、彼は司祭と相談して鐘を鳴らすことにした。若い助祭がそれを引き受ける。彼は鐘楼に登ると、ゆっくりと鐘を鳴らした。危険を知らせるけたたましいものではない。事が一区切り着いたのだと言うことがわかる音だ。
司祭は信徒に囲まれている。それを眺めながら、彼は隅にある天使像にもたれかかる。
鐘の音が、重みを持って彼の所まで届いた。目を閉じて、その音を聞く。
空蝉は、鐘の音を聞くと、戦闘態勢を解いた。通信の内容からして、殲滅は完了したのだろう。店からも、恐る恐ると言ったていで人々が出てくる。
「危機は去ったようです」
柔和な笑顔で彼は告げる。
「よ、良かった……ありがとう空蝉さん……」
「いいえ」
「よー、パティ、ジャック、レイア。お疲れ」
仕事後の一服を楽しんでいた玲那は、やってくるパトリシア、ジャック、レイアを見てひらひらと手を振った。
「玲那! 玲那もお疲れ様なんだヨ!」
「防衛お疲れだったな」
「お疲れ様、玲那。ジェレミアはいるだろうか? 小学校の教師なんだが」
「どっちがどっちかはわからんが、先生なら二人逃げてきたぜ。中にいるだろ」
「ありがと!」
鐘の音が響いている。役場の中に入るパトリシアとレイアを見送って、玲那は鐘に合わせて神楽鈴を鳴らした。
エトナは鐘の音を聞くと、一緒にいた病院スタッフと顔を見合わせた。スタッフはほっとした顔をしている。
「良かった……終わったみたいね」
「そうみたいですよ」
「エトナさん、来てくれてありがとう。すごく心強かった。治療や運営の手伝いもしてくれて……」
「とんでもないのですよ」
エトナは微笑んで見せる。痛みを訴える声が時折聞こえる。それに、心を痛めたような顔をしてみせる。今回は真面目な顔をしておこう。
ほら、やっぱり、生とは苦痛なのだ。生きている限り、生ある限り、繰り返す。
でもそんなことここでは口にしない。エトナは物わかりの良い少女の顔をしたまま、治療の手伝いに来たディーナや治療係のハンターたちを迎えた。
●スケアリー・スパイダー・ハロウィン
智里とセルゲンは、リンダの話を聞いていた。パトリシアが提案し、町側も、子どもたちに嫌な思い出として残らないよう、ひとまずお菓子配りくらいは、最後にしても良いだろうと言うことになった。仮装をした彼女を始め、動けるハンターたちはその支度を手伝っている。人がたくさんいるところで話すことを希望したリンダのために、二人はハンターたちが駆け回る広場に連れて行った。
彼女は、アウグスタと会った時のことを説明してくれる。血の付いたような蜘蛛の玩具を持っていた少女が、変な大人に連れて行かれそうになったと言って泣いていたのだと彼女は語った。
「待てよ……その蜘蛛についてた血は誰の血だったんだ?」
セルゲンがふっと気が付いた様に疑問を口にする。智里はセルゲンを見た。
「もしかして、騒ぎになる前に被害者が……? その変な大人はどうなったんでしょう?」
「そんな」
リンダは震えた。
「あたし気が付かなかった」
「普通は気付かないから良いんだよ」
「そうです。リンダさんのせいじゃないです」
その時だった。
「すみません!」
治療班としてやって来た、聖導士のアルトゥーロが慌てた様子で駆けてきたのが見えた。何をあんなに慌てているんだろう。智里とセルゲンも、他のハンターたちも彼を見る。
「住宅街と学校の間で、男性が……あの、発見されました……!」
ハンターたちは顔を見合わせた。
「アウグスタは、見た目だけなら普通の子どもだからね。肌については、ハロウィンの仮装で何か塗ったと思ったかも」
報告を受けて、オフィス職員は息を吐いた。アルトゥーロは子どもの姿を見て具体的に何があったかを言わなかったが、ハンターたちは皆察した。遺体が見つかったのだ。
彼はオフィスの壁に貼ってあるアウグスタの似顔絵を見た。先日の調査で、目撃者・ジェレミアの証言から描いてもらったものだ。
「見た目が子どもだから余計に危険だ。君たちも、見かけたら気をつけて。でかい蜘蛛を呼び出すらしいからね」
もう一度、彼は大きく息を吐く。
「なんにせよお疲れ様。まったく、スケアリー・ハロウィンとはよく言ったもんだ」
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相談卓 ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/10/17 12:56:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/17 12:54:04 |