街の賑わい

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~50人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2015/01/08 12:00
完成日
2015/01/17 00:47

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 正月のお休みが開け、街のあちこちの店が、気持ちも新たに扉を開く。
 年末年始の間に、不足したものの買出しに。あるいは、まだ終わらない、正月祝いを買出しに。
 待ってたとばかりに、街に人があふれ出し。
 そうした客を当て込んで、広場に路に露天が溢れ、どの店も、今が売り時だと、工夫を凝らし声を上げる。

 とある服飾の店では、いそいそと何かを準備する娘を、母親が訝しげな目で見つめている。
「なあ、本当にそんなものが売れるのかい?」
「あら、リアルブルーではこれを買うために毎年行列が出来てるって話なのよ?」
 そう言って、娘は洋服を一つ一つ改めては、丁寧に畳んで布袋へと詰めていく。
 店の前に幾つか置かれた膨らんだ袋は、それなりに存在感をかもし出してはいた。
 同時に、怪しさも滲み出ている気がするが。

『福袋』

 と、その袋たちの前に置かれたプレートには書かれていた。リアルブルーのとある地域では、正月恒例の商品だという。
「……あたしゃ理解できないよ。自分の目で確認できない洋服を買うなんてさあ」
 溜息をつきながら言う母親に、娘も一度、表情を曇らせる。どうやら娘のほうも、絶対の自信があるわけではないらしい。
「……でも、わからないのがワクワクするって。新たなおしゃれや自分を発見するきっかけにもなるって聞いたもの。この服だって……」
 そう言って、彼女はまた、一つ服を手にとって、しげしげと眺める。
「たまたま、今年の流行りからはずれちゃったけど、母さんの服は、着てみたら絶対よさが分るんだから」
 拗ねるような顔でそんなことを言われたら、母親だって強く反対なんて出来るわけがない。
 どうせ、詰め込んでいるのは季節を過ぎても売れなかったり、仕立ててから文句を言われたりした『ワケアリ品』なのだ。
 ならば……娘の柔軟な感性に従って、『蒼の世界』のやり方を取り入れてみるのもいいのかもしれない。

 見れば、あちこちにも『フクビキ』だのなんだのと、最新のリアルブルー事情を取り入れたあれやこれや、という宣伝文句でいろんな店が、様々な趣向を凝らしている。
 もちろん、長く培ってきた店と紅の世界の伝統で勝負する店も。
 そして、それに相対する人々は。
 物珍しさで足を止めたり、懐かしそうに目を細めたり……これじゃない、と苦笑したり。
 満面だったり苦めだったりはするけれど、だけど皆、笑顔で。

 雑多に人が溢れる、正月開けの街。冬の染み入るような寒さと、人の暖かさを味わいながら歩く。
 この季節、この時期だけの街の賑わいに。ほら、貴方も、加わってみませんか?

リプレイ本文

 開けてびっくり福袋。
 その中身はいかがでしょう。
「むぅ、予想以上に福が入っていて、非常にお得ですが、微妙に期待を裏切られた感じです」
 まあ、最上 風(ka0891)もそういわず、どうか最後まで確かめてみてください。
 意外な中身が、見つかるかもしれません。


「あ、ハルの服かわいい!」
 エリーゼ・G・リデンブロック(ka0257)がハロルド・H・オーウェン(ka0593)を見つけて声を上げる。
「か、かわ……そ、そんな事無いよー……っ」
 中性的な顔立ちを気にするハロルドがエリーゼの言葉に抵抗を示す。
 逆にエリーゼの服装といえば今日この日も作業ツナギである。家出して以来これと軍服しかないという。
「いつも機械を弄ってばかりだったしねぇ……じゃ、今日は良いの選ぼう?」
「……んー……わたし、ああいうのしか着たことない……」
 指し示したのは高級そうなフォーマルなドレス。
 そう、元はといえば彼女は相当な資産家の娘で。
「…………」
 さらりと優美なドレスを着こなす彼女の姿に、ハロルドは言葉を失い目を回す。ドレスの値札を見て。もう一度、目を回した。
「にゃぁ……これ、こんなにしたんだ……お金ないー……」
 違う店で探そう。ハロルドの買い物もあるし。二人はそう結論して、街の中心部へと向かっていく。

「僕、小麦粉買えるだろうか……」
 人混みにもまれながら草薙 桃李(ka3665)は絶望的に呟いた。
 幼馴染のために美味しいパンを焼こうと小麦粉を買い足しに。
 混んでいるのは知っていた。だが、事態は覚悟を超えていた。
「……すみませんあの、足踏んでるよお嬢さん」
 早速ヒールで足を踏み抜かれる。だが……。
「ぐっ!? 首巻、が、ひっかか……とまっ」
 サレン・R・シキモリ(ka0850)は、もっと酷い目にあっていた。
「それは我の帽子なのだ! 売り物では、あああ……」
 悲鳴が遠く雑踏にかき消される。
 人ごみに慣れない二人はやがて、転がり出るようにもつれて人混みからはじき出された。
「むう、福ふくろうは何処に……」
 呟くサレン。どうやらこの商店街に「福ふくろう」なるものが出没すると聞いてやってきたようだ。
 つい間違いを指摘する草薙。
 間違いなのかとシュンとして、人混みとは違う方向に歩き始めるサレン。
 草薙は再び人混みに目を戻した。
「うん。流石正月。すごい人だ」
 遠い目になる。
「クリムゾンウェストのお正月ってこんな感じなのか……リアルブルーが懐かしくなるな……」
 そうして何を感じたか。
「……よし。予定変更だ」
 どこかへ向けて歩き出す。

 雑踏からはじき出された人間がここにもまた一人。
「……何やってんだ、コーセツ」
 振り向いたブルノ・ロレンソ(ka1124)の視線の先には、彼を追いかけようとして盛大にすっころんだ月護 幸雪(ka3465)の姿があった。
「……あはは……迷子なんだけど、拾ってもらえるのかな…?」
「老人の介護は俺の仕事じゃねえよ」
 顔を潜めつつブルノは冷淡に告げる。
 だが付いてくる事は止めない。ブルノの目的は顧客増加のための最近増えてきたリアルブルー人の文化・嗜好調査。
「……ありゃ、なんだ?」
「ほほう。福引ですなあ」
 月護、蒼の文化を理解するのに便利な解説役なのだ。
 なお、月護が福引をやってみた結果は菓子とお茶の詰め合わせと、そこそこいい物を当てていた。

 一人で歩くマキリ・エラ(ka2809)には。
「服が入ってるからフクブクロなのか! じゃーあっちのフクビキってのはなんだ? 服引っ張るのか?」
 盛大な勘違いを訂正してくれる連れ合いは居なかった。
「人がいっぱい、賑やかだなー!」
 彼女には人混みのこの状況も楽しいらしい。人集まるところにも躊躇わず飛び込んでいく。件の福袋を彼女も無事ゲットして。
「どーだ? カッコいいか?」
 サイズも構わず着こんでみる。
 ……最終的には「これ脱ぐと魔法使いに見えない」と上からローブを羽織るので、人々に見えるのは「ローブからはみ出す何か」でしかないのだが。

(全く、何故この寒い中に外に出なくてはならないのか……)
 ラディーノ・ハーヴィスト(ka0503)は「解せない」という表情を浮かべていた。
 視線はランカ(ka0327)へと向けられる。
 クリスマスだ年越しだなどと言って何処の誰かが暴飲暴食しすぎたせいで食糧が少なくなった。ランカに告げて買い出しを頼もうと思ったら。
「ラディーノも一緒に行こうよー、ずっと本読んでて暇なんでしょー」
 何故か一緒に引きずり出されたのだ。
 この際気晴らしに本や魔術研究の材料でも買いに行くか。そう己を誤魔化してラディーノは諦めて。
「いつもと町並みかなり変わってて面白いね。ついでだし冒険しようよ!」
 ランカの言葉に、ラディーノも、開き直って楽しむことにしたようだ。最近は青世界の文化が多く入ってきていて面白いのも事実。
「福袋、とやらは妻が気に入りそうだな。もう少しの期間続くのなら土産話にでもしよう」
 ふむ、と顎に手をあてひとりごちるラディーノ。
「お菓子の福袋? 何それ見たい!」
 横で、何か別の看板を見つけたらしいランカが歓声を上げる。
 どうも、袋自体が菓子でできていると勘違いしたらしいが……。
「ラディーノ、これ欲しいよ!」
 やがて再び聞こえたランカの歓喜の声に、ラディーノの顔に渋面が浮かぶ。勘違いに落ち込むかと思いきや、それはそれで気に入ったらしい。
「……オトシダマっていう文化が青世界にあるって知ってる?」
 たわいのないやり取りをしながら、二人は街を巡る。

「福袋、福袋♪」
 ヒスイ・グリーンリバー(ka0913)は跳ねるような足取りで店内へと入っていく。
 ……彼女自身は福袋に手は出さず、ただ懐かしそうに目を細めて。
 蒼の世界でもそうだった。福袋を買っていたのは彼女ではなく彼女の母。
 楽しかったのはその後だ。
 母が友人同士で集まって、中身の交換会をして。料理上手な人が居て。お年玉をくれる人が居て。そしてそのときにだけ会える友達が居て。
 そんな空気が大好きだった。
「うーん、冬物もう少し欲しいかな。自宅がない以上あんまり物増やすのは好きじゃないんだけど」
 彼女は結局、福袋ではなく普通に買い物を楽しむようだ。
「エプロンももう1枚くらいほしいしなぁ……」
 迷いながら店を練り歩く、それもまた、買い物の楽しみではあるだろう。

 そんなブティックの片隅で。楽しげに買い物をする三人の姿があった。
「そういえば黒ってあんまり選んだ事ないかも」
 リューナ・ヘリオドール(ka2444)が見立てたシックなワンピースを合わせて、銀 桃花(ka1507)がくるりと回る。
「うふふー♪ ちょっとオトナっぽく見える?」
「うん、桃ちゃん黒似合うかもー」
 嬉しげな銀に、桃園ふわり(ka1776)が同意する。リューナは今度はその桃園に似合う服を吟味中だ。
「え、僕が赤? わわっ、着てみるね」
「ふわちゃんナチュラル系だから、赤もイメチェンでいいかも! 可愛いよ」
 きゃあきゃあと、女三人でのミニファッションショー。
「リューナ姉さんは、白とか意外とセクシーに映えるかも?」
「リューナさんには明るい色も似合うんじゃないかなって、この辛子色のセーターとかどうかな」
 それぞれに互いの服を見立て足取りも軽やかに込み合う店内をすり抜けていく。
 一番似合う服はリューナが買ってやると言うと、銀が恐縮しながら次は自分がプレゼントすると約束して。
「あ、福袋! 懐かしいな♪」
 そんな中、桃園が「それ」に気づいて、歓声を上げた。
「福袋? そんなのがあるのねえ。面白そうだし、一つ買ってみようかしら」
 リューナが言うと、桃園もワクワクと飛びつく。
 そうして福袋を手にした三人は身動きのとりやすい喫茶店へ。お披露目と交換会といくようだ。
 ――そう、ヒスイが語った福袋の楽しみ方、そのままに。

「何このセーター! バッカじゃないの!? なんで胸部分が開いてるわけ!?」
 一方、一人、物は試しにと買ってみたアルフェロア・アルヘイル(ka0568)が、引っ張り出した中身に声を上げる。
 それは、リアルブルーの船から流れてきた品なのか、噂を聞いて作られた品なのか。
 一人でも、福袋の品評会はわりと盛り上がっていて。
「これ着たら男の人って喜ぶのかしら……?」
 呆れた口調の割にはなかなかに楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?

 気ままに出歩くチョココ(ka2449)は。
「すっごい人出ですのね! パルパル!」
 頭上にちょこんと座るパルムに語りかけながら歩く。
「……え、福袋? それは初耳です、気になりますの~」
 パルパル知ってる? と頭上の精霊に語りかけるも、それはのんびりと、チョココの頭上で気持ち良さそうにするばかり。
「ふむふむ、中身がわからない? 開けてみてのお楽しみ? それは欲しくなりますのー」
 普段節制しているから財布の余裕はある、ならば今が使い時。
 早速彼女も福袋をゲットである。
 満足げに店を出て暫く歩いた……ところで、強烈な視線を感じた。
 振り向くとそこに居たのは最上。
「鬱袋いかがですかー? 買うと損をする、オススメしない鬱袋ですよー」
 最上の福袋の利用法。それは買った後、微妙なものをより分けて鬱袋として叩き売るというものだった。
「人間、買うなよとか言われると、逆に欲しくなる心理を利用してます」
 賑やかな街の片隅。
 二人の少女がしばし、独特な緊張感で固まっていた。

 シェラリンデ(ka3332)も福袋の噂話を聞いて街へとやってきた一人。
 そこに待っていたのはオーキッド=フォーカスライト(ka2578)との予期せぬ遭遇。
「じゃあ、僭越ながら今日は僕がエスコートさせていただきます、って感じかな?」
 恭しくシェラリンデが誘いをかけると
「ありがとう、ではよろしくお願いいたしますわ」
 オーキッドはそこにドレスがあるかのように、裾を摘みあげるような淑女の礼を返す。
 一緒に街を見て回ることにした二人は人の波をダンスのステップのように軽やかに抜けて。
「うん、これなら使いやすそうだし、あたりかな? ミス・オーキッドはどうだったかな?」
 シェラリンデが買ってきたのは、食器と小物系の福袋。
「どう? 似合うかしら?」
 オーキッドは手にした飾りとヴェールをふわりと巻きつけ、そのまま優雅に一回転。
「ステキですよ。いい物が当たりましたね」
「ええ、なかなかイイ物が入っているじゃない」
 上々の結果だった。

「まっかせるでさ! ベンキョーさせてもらう、てぇやつですよぅ」
 その時鬼百合(ka3667)は、予想外の売れ行きに戸惑う服屋に手伝いを申し出ていた。
 行列を整理し、男物、女物、子供服と、頼まれた福袋を渡していく。
 だが慣れない仕事に少々調子に乗りすぎたようで足をもつれさせ。
「大丈夫?」
 受け止めたのは、擽るような綺麗な笑い声。
 イオ・アル・レサート(ka0392)がその手を引いて鬼百合を支えていた。
(うわ、すっごいびじん……!)
 鬼百合は思わずドキドキする。
「ありがとうごぜえます!」
 慌てて礼を言う鬼百合にイオはぽんと頭に手を置いて撫でると、福袋を一瞥。
「ねぇ、一つ選んでくれる?」
 へいと頷く鬼百合に、イオは期待してると微笑んだ。

 城戸 慶一郎(ka3633)は複雑な思いで街を歩いていた。
(新年正月か。青世界……元いた世界で迎えたかった)
 自分は何故こんな見知らぬ世界で新しい年を迎えているのか。めでたいのかどうかも分らない。
 腐ってばかりでも仕方ないと無理矢理自分を奮い起こしてでの外出だった。
 見知らぬ文化に出会っては感心し。
 馴染んだ文化を見つけては懐かしむ。
「福袋いかがっすか!」
 鬼百合の呼び込みが飛び込んできたのはそのときだった。
(ここまで来たらやけくそついでだ。買ってみよう)
 引き寄せられるように彼も街の行列に飛び込んでいく。

 福袋に望郷の思いをはせるものはここにもいた。
「都会ってのは、ホントに賑わっているなー」
 ラティナ・スランザール(ka3839)が呟く横で。
(母上が以前言っていた“福引”や”福袋”というのはコレだったか)
 リステル=胤・エウゼン(ka3785)は、懐かしさを噛み締めながる。
 母から聞いていたリアルブルーの光景。
「リステルの母君も……ここに連れて来られれば良かったな……」
 表情から何かを感じ取ったラティナが言う。
「さぞ、心細かっただろうに……この地に来た当初は……」
 それでもリステルから語られる話には、確かな親子の愛情があった。
 やがてリステルは顔を上げる。正月の街の賑わいを楽しみにきた友人を前にしんみりとばかりもしていられない。
「ラティナ。福引をしてみないか? 今年の運試しってヤツだ」
 ふと目に入った福引場にニヤリとリステルが誘いかけた。
「いいな。俺の方がリステルより良い品を引いてやるぜ!」
 気合を入れてラティナが応じる。
 一番下のキャンディー一本だったラティナよりは、喫茶店のケーキ無料チケットが当たったリステルのほうがやや上だろう。そんな結果。
 大げさに勝ち誇ったり悔しがったり。笑いあいながら二人は歩いていく……――



「いらっしゃいませ! 新鮮な肉揃えてますよ!」
 ミネット・ベアール(ka3282)は広場で串焼肉の屋台を広げていた。
 狩猟民族の食を楽しんでもらおうと狩り集めてきた逸品だ。
 ラインナップは兎に猪、年の入った羊にワニ、熊。独特の香りが立ち上る。
「熱っ……村の山羊も美味かったけど、ここのもイケるな!」
「ん、村の収穫祭で食べた味を思い出すな……美味い」
 言いながらほおばるラティナとリステルの横に、ハイネ・ブランシェ(ka1130)が並ぶ。懐には、柴犬の「コハク」と虎猫の「メノウ」。
「はい。ワニですね!」
 ハイネの注文を受け、ミネットが手際よく肉を焼き始める。
「お客さんも、お正月の買い物ですか?」
「それもあるけど……この先落ち着けそうな場所がないか、って見て回ってまして」
 雑談をはさみながら肉を味わう。
 この子達にも分けていいかと懐を示すと、ミネットは調味料を減らしたものを出してくれた。
 そこへ街の散策をしていた武神 守悟(ka3517)がやってくる。
 オススメを、と注文すると「どれもオススメですよ!」と言って、ミネットはあれもこれもと大盛りに盛り付ける。
 熊肉を一口かじり武神は苦笑した。
「猪肉は血抜きで癖が無くなるそうですね」
 ポツリとハイネ。隣り合った二人は互いに名乗りあうと話し始める。
「タケガミ……日本の方ですか? あちらのほうは繊細な料理が多いのですか?」
「そうでもねえぜ? 素材の味が一番って考え方はある」
 店先で、食べ物談義に花が咲く。
「ああでも繊細っていやあ、あっちにあったな。和菓子が」
 そうして武神がやってきたほうへと視線を向け。

 クリスティン・ガフ(ka1090)は賑わう街を憂いを帯びた表情で一人歩いていた。
(うーむ、対盗賊の筈の依頼でまさか凄腕の鞭使いと戦う事になろうとはな)
 思い返すのは先の依頼で出会った強敵のこと。
(次があれば今度は勝ちを得たいものだ)
 難度の高い依頼を受けたおかげで懐には多少の余裕があった。
 ワイヤー、銃、剣などの武具の手入れや使用法が書かれた本、武芸書などを買い求めていく。
 浮かれる街にあって、凛と歩く姿。
 ――が。
「うむ。店主、そのケーキもいただこうか。ん? そちらは……和菓子というのか。それもいただこう」
 薄珱(ka3790)の出店する甘味の露店に立ち寄った途端この様。
 自重する気、ゼロ。
「……まあ、そこまで気に入ってくれるのはありがたいけどね……」
 勢いは全く衰えない。
 覚醒して凛とした雰囲気を強くしても、そのペースで食べ続けていれば結局無駄である。

 ミリエル=フェリアンナ(ka3626)が、そんな薄桜の屋台を見ていた。
 宿に篭っていてはつまらないと気晴らしに繰り出した新年の街。
 だが異種族への恐怖はまだ消えず。
 花を模る鮮やかな菓子の店は猛烈に気になりつつも、露店の近くにきては引き返しを繰り返していた。
 そんなミリエルが見つめる先に、新たな来客。
 小さな、本当に小さなエルフの姿――アジュガ(ka3846)。
 興味深そうに人の街をあちこちと眺め、菓子も小遣いをだして買い求め。だが彼女が保護者とはぐれたのは、その好奇心ゆえ。
 薄桜も、気にして声を掛けるのだが。
「なんでもない」
 と答えるその様子は、次第に「こわくないもん」「うるさい」と生意気な、頑なな態度が増していく。
 そして、ついに逃げ出すようにその場を走り出し。
「……あ」
 思わず声を上げてミリエルはその姿を追いかけた。
 ごった返す人の波に交われぬエルフたちの。誰も知らないささやかな幕間劇。

 クラウディア・ルティーニ(ka2962)は不満だった。
 彼女の目的は魔導機械に応用できそうなリアルブルーの機械。せめて理論やアイデアだけでもと思っても、お気に召すようなものは見つからない。
 今のところ彼女の興味を引いたものといえば件の福袋くらい。これもリアルブルーの文化ではあるが本来の目的とは異なる。
 そこに見つけたのが一つの屋台。
「やあ。リアルブルーの飲み物はどうだい? こっちの人には珍しいと思うよ」
 エリオット・ウェスト(ka3219)のソーダ水屋。
 卓上に用意していた液体二つをゆっくりと混ぜると、気泡がコップの中に生じていく。
「こっちの液体はレモン水。こっちは、ベーキングパウダーを溶かしたものだね。クエン酸と炭酸水素ナトリウムが反応して炭酸が出来る」
 エリオットは、手元の紙に化学式を書きながら説明した。
 被り寄るように、クラウディアはエリオットの手元の紙を凝視し、写し取る。今は意味が分らなくとも、記録に残しておけば、いずれ。
「重曹を作る装置を作らなきゃね。それともそれとも炭酸ガス方式の装置を作った方がいいのかな?」
 ソーダ水を広めることが今の目標、と語るエリオットは、続けてそう口にする。
 今回用いたベーキングパウダーはロッソの備蓄から譲り受けたものだ。
「炭酸ガス方式っていうのは?」
 クラウディアの問いは続く。エリオットのいう装置に錬金術を介在させるならば?
 思考実験。紅と蒼の技術談義が始まった。

「へえ……リアルブルーの飲み物だってさ」
 ジオラ・L・スパーダ(ka2635)がシエラ・R・スパーダ(ka3139)に話しかける。
「欲しいの?」
「いや……珍しいなって……」
「ジオラが欲しいのなら買うわ」
 抑揚無しにシエラは言ってエリオットの屋台へと近づいていく。
 ……久しぶりに再会したエルフの姉妹の散歩。
 シエラは終始このような感じだった。短い返答をするのみで表情はロクに変わらず、買い物をしようとすれば有無を言わさず支払われる。
 ……思考が読めずちょっと怖い。
 誘ってくれたのはシエラのほうだから、怖いのは見た目だけなのだろうと思うのだが。
 ひとまずせっかくの好意だからと、購入されたソーダ水に口を付け。
「うわっ……」
 口の中で弾ける感触にジオラは声を上げた。
「びっくりしたっ……でも、ミネットの店の肉に合うかもなー。さっぱりする」
 先ほど訪れた知人の店を思い出してジエラは呟く。
 ……そんなジエラを見つめるシエラの無表情は、ほんの少し目じりが下がっていた。
 炭酸水を口にしたときの子供のような顔。昔からの印象そのままだ。
 ほぼ無言無表情で歩くシエラだが、実は楽しくてしょうがない、そしてジオラが可愛くて仕方ないのだ。

 アイ・シャ(ka2762)は、イーリアス(ka2173)と共に街に来た理由をこう語る。
「卵がなかったので里で飼っている鷹の卵を失敬しようとしましたら止められました。
 買物にいく、といったらせんせ~さまが付いてきてしまいました」
 イーリアスと、彼女の兄に料理を振舞おうとして、材料を買いに来たアイと。
 どこか危なっかしい彼女に、荷物持ちなりボディーガードとして同行を申し出たイーリアス。
 二人の関係は先生と教え子なのだが、どちらかというと親子っぽい。
「街中は人で一杯ですね」
「そうですね。はぐれないように気をつけましょう」
「せんせ~さまははぐれても独りで帰れるから大丈夫でしょう」
 どこか間延びした会話をそれでも二人楽しみながら街へと繰り出していく。
 いつもとは様相が違う街に目移りしながら。
 メニューにイーリアスが口出しして。
 ほしいものがあれば購入して。
 楽しい時間がどんどんと過ぎていく。

「んー新年のこの雰囲気、幸せー」
 レイン・レーネリル(ka2887)がうーんと伸びをしながらポツリと呟く。
 共に歩くのは幼馴染のルーエル・ゼクシディア(ka2473)。
 おねーさんらしくとレインがルーエルの手を引きながらの買い物。ルーエルは少しドキドキしていたが、その気持ちがなんなのかはわからない。
「福袋……残り物には福があるって言葉にあやかってるのかな」
 呟くルーエル。だが、服屋の福袋にレインは興味はなさそうだ。
「お姉さんが買うの、玩具とかでしょ。カラクリには目が無いもの」
 分ってはいるが、やれやれとルーエルが言った。
「……あー、どうせ売れ残りだと思ったでしょ?
 うふふ、売れ残りじゃないのよ! 模様替えして、この子達もこのチャンスを生かそうとしているのよ!
 どんなものにだって魂ってのは宿っているからね、私達が救済してあげないと! ね! ね!」
 そして始まるレインの熱弁。
「そんなあなたにオススメしない商品」
 声が、別のところから割り込んだ。
 お? と二人が振り向くその先には……最上がいた。
「鬱袋いかがですかー。買うと損をする、オススメしない鬱袋ですよー」
 怪しすぎる。だからこそ青ざめるルーエル。
「か、買いすぎだよお姉さん。何処に置くのさ」
 明らかにやばい形が突き出している大振りの袋に目を留めるレインを、必死で引き止めるが。
「え? 置き場所? あー……うん」
 努力もむなしくレインは生返事で鬱袋へと近づいてく。

 おばさんの手伝いやら門番やら頼まれたりして、コロネ・ユイレ(ka3594)がゆっくり街を見て回れるようになったのは昼をわりと過ぎてからだ。
 表通りの商店街はひと段落着いた頃合だが、何も買わずに帰るのもな、と広場の露店を流し始めて。
 肉とかないかな……そう考えながら歩けば、目に入るのはミネットの店。
「いらっしゃいませ! どのお肉にしますか?」
「片っ端から」
「はい♪」
 実に大雑把な注文に、店主がこれまた大雑把に肉を盛り付ける。……商売っ気は皆無らしい。
 見ただけで腹いっぱいになりそうな量の肉を、淡々と齧っていくコロネ。
(あ、福引もあるみたい……)
 肉を抱えながら散策を続けると、今度は福引に目を留める。
 結果はティーカップ。
(まあ、いっか……)
 食べ物ではなかったがそれはそれで楽しいらしい。もう暫く広場を散策しようと彼は足を動かし続ける。……あと口も。

 年明け独特の街の空気。祭りとはまた違った異なるこの感じが。
(私は好きですよ)
 シルウィス・フェイカー(ka3492)は、元気を吸い込むかのように街の空気を感じていく。
 曲がりなりにも店を切り盛りする身として、新年の挨拶回りのついでに色々買い込みに来たようだ。
(……少々買い過ぎましたかね)
 流石にこの賑わいの中では、身動きがとり辛い。
 さてどうするか……思案しながら広場を回っていると近くで歓声が上がった。
 思わず足を向ける。歓声の中心に居たのは知り合いのミオレスカ(ka3496)。
 露店の出店の一つ、射的場。
 周囲の人から賞賛を送られるエルフの少女にシルウィスは近づいていく。
「このような格好では失礼でしょうが、その点はどうかご容赦いただきたく」
 挨拶と同時に頭を下げるとミオレスカは気にしない様子で、それどころか荷物の手伝いを申し出てくれた。暫く遠慮するのしないのと問答の後。いつの間にか二人連れ立って歩く流れになる。
「福引がやってみたいんですよね。温泉旅行とか、当たるんでしょうか」
 ミオレスカが期待をこめて呟く。
「あれもなかなか興味深い試みですね……景品は、協賛する商店が持ち寄ってるようです」
「福引券、頑張って集めないとですね」
 足取りを軽くするのは、楽しい空気か、未知の出会いへの期待感か。
 二人歩けば、荷物の重さも忘れている。



 そして、ここにも重い荷物を抱える青年が一人。
(なんでこんな寒い中俺は両手いっぱいに荷物を持たされてるんだおい)
 本来は暖かい部屋で本を読む予定だった。そうぼやくのはトライフ・A・アルヴァイン(ka0657)。
 寒がりの彼は重装備の防寒具を、それでもお洒落に着こなしていた。
 抱える荷物は彼が買い求めたものではなく、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)に持たされているもの。
 出身孤児院の子供たちへの遅れたクリスマスプレゼントだそうだが、当のエヴァは今、クリス・ガードナー(ka1622)の出店する露店でその木彫り細工に見入っていた。
 絵描きの性か、絵や造型物の前ではつい長考してしまう。
 クリスは微笑みそれに応じていた。行商を始めたときは、「……正月から懐が寒いのは勘弁してほしいな」などと思っていたが、組み木細工、特にリアルブルーのロボットや兵士を模したものはそれなりに人気があった。
「おいエヴァ、いい加減にしろ。いつまで待たせるつもりだ」
 トライフが不平を言う。しまいにはいっそ置いて帰ってやろうかなどと考え踵を返すと。
「……っておい馬鹿マフラーを引っ張るな!」
 ぐいぐいと容赦のない引力によって、あえなく逃亡は失敗となった。……なんで商品をガン見してたはずなのに分るのか。
 振り向き、恨めしげに睨み付けるトライフ。しかしその先にあるものを見つけた瞬間、柔らかい表情に変わる。
「やあイオ、奇遇だね。長いこと会えなくて寂しかったよ」
 偶然イオと鬼百合が、買い物と手伝いを終えて連れて歩いてくるところだったのだ。
「あれ、イオさん? こんにちは」
 クリスも、イオの存在に気がつくと声をかけた。
 イオは二人と、それからエヴァに交互に視線を送ると。
「今日は可愛い彼女さん連れね」
 くすりと微笑みトライフに告げて。
 彼女といわれ、トライフには見えない背後でエヴァの表情が明るくなる。……無言ゆえ分り辛いが、実はかなりテンションの高かった彼女である。
「……あー、いや、見ての通りの荷物持ちさ。寒い中駆りだされてね」
 だがトライフは苦笑して、つれなく答える。エヴァの表情が威嚇する猫のものに変わる。
「あら、デートじゃないの?」
 くすっと笑ってイオ。またエヴァの顔が満面の笑みになる。
 おもしれえお姉ちゃんだな、と鬼百合が見ていた。
 広場はまだ人通りも多かったが、5人で談笑しているとそれなりに目立つようで。
 連れ立って歩いていたエジヴァ・カラウィン(ka0260)とシャトン(ka3198)の二人が、一行を見つけ声をかける。こちらも、シャトンがエジヴァの買い物に付き合い荷物持ちをしているが、シャトンは納得づくのエスコート。腕を組んで仲睦まじい様子である。
 イオはぱちりと目を瞬かせ、
「そっちもデート中?」
 そう言うと。
「そっちも? あら、トライフくん、可愛い彼女ですわね」
 トライフの苦笑とエヴァの百面相、もうワンセット。
 気がつけば、【魅惑の微笑み通り】の面々がそろい始め。新たにアルマンド・セラーノ(ka1293)もそこに加わる。
「お。なんだ、皆、揃いだな。ちょうどいい」
 のんびりとアルマンドは声をかける。毎日が騒がしいカジノ店主の彼にとって、街の賑やかさなどのどかなもの、といったところか。
 アルマンドは女性陣に向き直ると「どうぞ。今年のツキのおすそ分けです」と、アクセサリや小物を手渡しながら優雅に挨拶して回る。
 年の初めの運試しにと行った福袋は、なかなかの結果だったようだ。
(切った張ったのねェ気楽な賭けだが、こんなもんだろ)
 女性の笑顔が見れたならと、アルマンドは満足する。
 そうして……
「あら、ブルノ様。今年もよろしくお願いいたしますわ」
 エジヴァの声に皆振り返る。満を侍してのタイミングというか、ブルノと月護がここで登場である。
「また拾われましたのね……」
 月護の姿を見てエジヴァが微笑むと、
「……犬は好きじゃねえんだがな」
 苦笑してブルノが応える。
「初めまして、ブルノさん。クリス・ガードナーって言います」
 クリスがそこで、姿勢を正してブルノに挨拶をした。
「お店には良く通わせてもらってます。主に食事とお酒なんですが……今年もお世話になります」
 丁寧な挨拶に、ブルノも鷹揚に応じる。
 一方、女性に物を渡すアルマンドを見て、月護が「おお」とポン、と手を叩いた。
 小さな封筒のようなものを取り出すと、若手のものに配り始める。
「何かしら? これ」
 エジヴァの疑問の声はまず、月護ではなくシャトンへ向けて。
「……お年玉? 確か日本にそういう文化があるって」
 シャトンが答えると、月護が、孫をほめる祖父の微笑で頷いた。
「普段から倅が迷惑を掛けてるからね、これぐらいはさせてもらわないと!」
 そう言ってシャトンの答えを肯定すると。
「シャトンは物知りですわね」
 エジヴァが愛おしそうに微笑む。
 かくして、随分とにぎやかになってきた一行だが。
「青のことでしたら、シャトンが詳しいですわよ? 少しご一緒致しません?」
 エジヴァがブルノにそう誘いかけ、エジヴァ、シャトン、ブルノ、月護が移動を始める。
 イオが、残る面子を見渡して、「お邪魔しちゃ悪いから」とその場を離れることにして。
「今度は私ともデートしてね、トライフさん」
 と手を振って鬼百合と共に去っていく。
 是非にと答えたトライフはこの後エヴァに膝かっくんされた。

 思わぬ人だかりが出来ている場所は、もう一つあった。
 アルフェロアが仕込んでいた、甘酒の屋台である。
 その中には、異国の味を堪能したいというジオラとシエラ、それから……故郷の景色を探していた城戸の姿があった。
 甘酒を飲みたいと思いながら彷徨ってはいたが、まさか本当に見つかるとは。
 戸惑う彼の横で、ミオレスカが。
「リアルブルーって、楽しいことがたくさんなんですね。……皆さん、来てくださって、ありがとうございます」
 そんなことをポツリと告げて。

 ――その時、広場に響き渡るのは、奇妙な拍子木の音。



(世界は違えど、新たな年を迎えりゃ、浮かれるのが人間ってもんだ。
 楽しい気分を味わいたい。成程、平々凡々たる庶民が抱く真っ当な感情に違いねえ
 その願い、このデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)様が叶えてやろうじゃねぇか)

 広場に登場した――漆黒の、獅子。
 遠巻きに見る人たちの前で、獅子はうねり、跳ね、周囲を圧倒する。

「シシマイ? なんだかわからねーけど蒼の世界の祭りなんだな! これも楽しそうだな!」
 そう言ってマキリが歓声を上げて、デスドクロの元へと並び、一緒に奇妙に踊り始める。
 紅の人々が「なんかリアルブルーのお祝いだとか」「とにかく、一緒に踊ればいいの?」とデスドクロとマキリが作る列に並び始め。
 蒼の世界に人たちが「いやそーだけど」「アレは何か違う」そういいながら分け入っていく。
 ……妙な百鬼行列がここに爆誕した。

 デスドクロの、奇抜だが、ユーモラスな動きを先頭に。
 いつしか、皆が感じていた。
 慣れない文化がここにある。
 ちょっと誤解もあるだろう。
 だけどなんだか楽しいし、目出度いから、いっか!

 それは、文化の違い、世界の違いすら飛び越えて伝わる、至高のライオンダンス――

(すべて伝え切った――)
 デスドクロは勝利の充実感に浸りきっていた。




 騒がしい時間も徐々に収束を迎えていく。

 ハロルドとエリーゼの買い物も無事に完了した。
 普通の服の選び方が分らない、と困り果てていたエリーゼに、ハロルドが必死に見立ててカジュアルな服を買って。
「えへへ……ぁ、ハル……ありがと。わたし、おかしくない?」
 そう言って袖を通すエリーゼは、喜びに満ちていて。
 喜んでくれた。その結果に満足して、ハロルドもほっとする。

「こんなところ、かな」
 買い物を負えた草薙の手には、当初の予定だった小麦粉と……それから、お正月料理の材料。
「あっちの正月料理でも作って、差し入れよう」
 クリムゾンウェストの正月の風景。
 それに触れて感じた懐かしさ。
 ――大切な幼馴染に、この懐かしさを贈ろう。

「散々な目にあったが……これだけは得した気分なのだ」
 サレンの手には今珈琲豆の袋がある。
 流され彷徨いその果てに見つけた上質の珈琲店。
 どうにか取り返した帽子のその下で、彼の無愛想な表情に微かな笑みが浮かんでいた。

 ラディーノとランカは、買い物の最後にはラディーノの馴染みの本屋に居た。
「ここは……相変らずだな」
 蒼の文化とも正月の狂騒とも無関係の、いつもの佇まい
 ここには蒼の文化がないことを。少しだけ寂く感じていることをラディーノは自覚していた。

 銀とリューナ、桃園の楽しいお茶会も、そろそろお開きにしなければならない時間のようだ。
 銀のロールケーキ、リューナのパンケーキ、桃園のパフェは、もうとっくに食べ終わってしまっている。
 それでも。楽しい話は尽きなくて。楽しい時間は尽きなくて。
 だから。
「また来ようね!」
 桃園の言葉に、銀とリューナが大きく頷く。

 ミリエルは、沈みかける夕日に燃える街並みを見下ろして、息を吐く。
 同じエルフ同士なら、と思い切って声をかけた末。アジュガも心を開いてくれて。
 キツイ口調は照れ隠しで。本当はアジュガは、優しい人は大好きだと知ることが出来た。
 ――今年は頑張ろう。
 今日はエルフにしか声を掛けられなかったけれど、ここに居る人々たちにも少しずつ、馴染んでいこう。
 ミリエルはそう決意する。

 シエラとジオラは、街角のベンチで購入した福袋の中身を確かめていた。
 ワクワクを隠さないジオラ。そんなジオラを目を細めて見守るシエラ。
 一日を終えて、ジオラはどこか安堵する。
 自分を追って、今までの暮らしを捨てて出てきてくれた姉。無碍にはしたくない、と思っていたから。
「また一緒に散歩でもしような」
 そう自然に約束出来る自分に。

 散々買い物してよそ見して寄り道して。いつの間にやらこんな時間。
(はっ、帰りが遅くなるとご飯の心配が……!)
 そうして、アイがイーリアスの手を引いて帰る。
 イーリアスは苦笑する。自分は構わないが、周りの独り身に悪いかなーなど思いながら。
「財布だけじゃなくて気持ちも寒くならないように注意しないとねー♪」
 ひっそり呟いて、これまでどおり二人ぴったり寄り添って。騒ぎの余韻の残る街を過ぎていく。

 両手に抱える荷物を漸く下ろして。
「……はい、普段着に使えそうな服。レインお姉さんの分も買っておいたよ」
 ルーエルは、最後にそっと、手にした袋をレインに差し出す。
「家にいる時だって、たまにはこういうの着ても良いんだよ?」
 照れて目をそらすルーエルに。
「ありがとう」
 レインは思い返す。
 二人、手を繋いでいろんな店を見て回って。最後はプレゼントもしてもらって……あれ、これって。
(デ、デートじゃないけどね!)
 ふと思い浮かんだ言葉を、レインは慌てて打ち消した。

 屋台が畳まれ、徐々に閑散としていく広場。ごっちゃになっていた空間が片付いていくと、妙に広く感じられる。
 だけど……熱気の余韻が、まだ、体には残っていて。
 むずがるようなオーキッドに、シェラリンデがそっと手を差し出した。
「Lady, shall We Dance?」
 流麗な誘い文句に、オーキッドの目が輝く。
「お相手お願いしますわ」
 礼をしながらオーキッドがその手をとると……茜差す広場は、特別なダンスの舞台になる。

 暖かいレストランの店内で、トライフはようやっと荷物を置いて一息ついていた。
 海産物の出ない、食べ放題の店である。
『これでちゃらにしてよねっ』
 奢りを申し出たエヴァがそう書いたスケッチブックを掲げる。
 トライフは、ふう、と深く、煙草の煙をゆっくりと吐き出して。
「……もうワンランク高い店じゃなきゃ割に合わないな」
 皮肉げに、そう答えた。

「今日の思い出に、おそろいですわ」
 エジヴァはにっこりと笑って、露店に並べられるアクセサリーを指差す。
「ここはお姉さんに奢らせてくださいね?」
 そうにっこり微笑まれて、拒否なんて出来るわけなくて。
「じゃあ……オレもお返し……。エジヴァさんのは、オレが買うから」
 シャトンのはにかんだ笑顔には喜びが満ちていた。




 楽しい正月の一幕が、こうして終わりを告げる。
 慌しかった日々。
 その中で、何か、福を拾えただろうか?
 楽しさを詰め込んだような一日の、その後には。

「鬱袋いかがですかー。福袋の残り滓、鬱袋ですよー」


 どっとはらい。

依頼結果

依頼成功度普通
面白かった! 15
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師

  • エリーゼ・G・リデンブロック(ka0257
    人間(蒼)|19才|女性|機導師
  • 橋渡しの薔薇
    エジヴァ・カラウィン(ka0260
    エルフ|22才|女性|聖導士
  • 世界中の歌を求め歌って
    アマービレ・ミステリオーソ(ka0264
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • 貝焼き片手の盗人退治
    ランカ(ka0327
    人間(紅)|15才|女性|闘狩人
  • 甘香、誘う蝶
    イオ・アル・レサート(ka0392
    人間(紅)|19才|女性|魔術師

  • ラディーノ・ハーヴィスト(ka0503
    人間(紅)|42才|男性|魔術師

  • アルフェロア・アルヘイル(ka0568
    人間(紅)|19才|女性|聖導士

  • ハロルド・H・オーウェン(ka0593
    人間(蒼)|14才|男性|機導師
  • 大口叩きの《役立たず》
    トライフ・A・アルヴァイン(ka0657
    人間(紅)|23才|男性|機導師

  • サレン・R・シキモリ(ka0850
    人間(紅)|20才|男性|疾影士

  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士

  • ヒスイ・グリーンリバー(ka0913
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人

  • ブルノ・ロレンソ(ka1124
    人間(紅)|55才|男性|機導師
  • 鎮魂の刃
    ハイネ・ブランシェ(ka1130
    人間(蒼)|14才|男性|疾影士

  • アルマンド・セラーノ(ka1293
    人間(紅)|24才|男性|猟撃士
  • 身も心も温まる
    銀 桃花(ka1507
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士

  • クリス・ガードナー(ka1622
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • お菓子な仲間
    桃園ふわり(ka1776
    人間(蒼)|15才|男性|機導師

  • イーリアス(ka2173
    エルフ|26才|男性|魔術師

  • リューナ・ヘリオドール(ka2444
    エルフ|23才|女性|猟撃士
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士

  • オーキッド=フォーカスライト(ka2578
    エルフ|21才|女性|機導師
  • ビューティー・ヴィラン
    ジオラ・L・スパーダ(ka2635
    エルフ|24才|女性|霊闘士
  • Bro-Freaks
    アイ・シャ(ka2762
    エルフ|18才|女性|疾影士

  • マキリ・エラ(ka2809
    ドワーフ|12才|女性|魔術師
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師

  • クラウディア・ルティーニ(ka2962
    人間(紅)|18才|女性|機導師

  • シエラ・R・スパーダ(ka3139
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 小さな望み
    シャトン(ka3198
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 可愛い坊や♪
    エリオット・ウェスト(ka3219
    人間(蒼)|13才|男性|機導師
  • ♯冷静とは
    ミネット・ベアール(ka3282
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士
  • 人々の支えに
    リチャード・バートン(ka3303
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデ(ka3332
    人間(紅)|18才|女性|疾影士

  • 月護 幸雪(ka3465
    人間(蒼)|58才|男性|闘狩人
  • 平穏を望む白矢
    シルウィス・フェイカー(ka3492
    人間(紅)|28才|女性|猟撃士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 守る物・失う物
    武神 守悟(ka3517
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 疾風刃
    コロネ・ユイレ(ka3594
    エルフ|17才|男性|疾影士
  • 幼さと強さと
    ミリエル=フェリアンナ(ka3626
    エルフ|18才|女性|闘狩人
  • 充実異世界ライフ
    城戸 慶一郎(ka3633
    人間(蒼)|25才|男性|猟撃士
  • 心を守りし者
    草薙 桃李(ka3665
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 瑞鬼「白澤」
    鬼百合(ka3667
    エルフ|12才|男性|魔術師
  • Fantastic
    リステル=胤・エウゼン(ka3785
    エルフ|21才|男性|聖導士
  • 撃退士
    薄珱(ka3790
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 光森の絆
    ラティナ・スランザール(ka3839
    ドワーフ|19才|男性|闘狩人
  • 少年探偵団のなかま
    アジュガ(ka3846
    エルフ|10才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】賑わいましょう
ミオレスカ(ka3496
エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/01/07 21:22:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/08 07:12:58