ゲスト
(ka0000)
龍鉱石、持ってますか
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/10/14 19:00
- 完成日
- 2018/10/20 23:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ユニゾン島、マテリアル炉竣工――のはずが。
マゴイはじいんとした様子で、4メートル四方の立方体を見上げていた。
立方体の色は半透明な乳白色。ガラスのように華奢な印象を受けるが、ミサイル攻撃を受けて傷一つつかないほど、頑丈な材質で出来ている。
『……ついに……完成した……マテリアル炉……』
ワーカーコボルドたちは、自分たちがマゴイの指示通り作った建造物がマゴイを喜ばせていることに、とても喜んだ。
「まごーい、うれしがっている」
「あたらしいはこ、うれしがっている」
「ぼくらまごいのやくにとてもたっている」
刑務所から社会奉仕の名目で派遣されてきた工事監督者――もとエンジニア・ワーカーのスペットは、複雑な面持ちだ。
「……おいマゴイ、俺の顔のこと忘れてへんやろな、俺の顔のこと。生産機関が動かせるようになったらすぐに着手する言うてたやろ、お前」
『……もちろんそれは忘れていない……』
「ならええけどな。で、どのくらいかかんねん、俺の顔が出来るまで」
『……そうね……とりあえず1年はかかるかしら……追放者の顔を戻すなんて……ユニオンでも初めての事例だから……十分に会議を経て書類を整えないと……』
形式重視なのはいつものことである。なのでスペットはそこに対する追求は控えた。
マゴイは相変わらず感激醒めやらぬ調子で、いそいそとマテリアル鉱石――イクシードプライム――を捧げ持ち(本当は浮かせているのだが)、炉の表面に手をかざす。
『……それでは試運転を……』
箱にポカリと四角い穴が空いた。その中に鉱石が入れ込まれる。
穴が閉じしばらくして、箱の中に光が灯った。それは霧のように淡く、形なく、ゆるやかな明滅を繰り返す。
マゴイが訝しげに眉根を寄せた。
『……おかしい……出力が上がらない……』
●想定外の仕切り直し
魔術師協会。
協会職員タモンは、目の前で繰り広げられているニケとマゴイの会話を前に考えていた。
グリーク商会は、魔術師協会との協力関係の元、ユニゾン島との貿易を一手に引き受けている――はずなのだが、どうも最近とみに、向こうとこちらの力関係が逆転しているようでならない。
「取引を通じて商会が得た情報はあなたがたに渡します。その代わり彼女から物質的援助を求められた場合、その調達と配送を私たちに一任していただければと」
とは、当初彼女が言っていた言葉。
最初は確かにそのような形だったのだ。協会がマゴイから要望を聞き出し、それを商会に伝え商品を発注させるという。
しかし今は、商会がマゴイの要望を聞き出しそれに答え商品を発注し、しかるのちそれを協会に伝えてくるという形になっている、ような。
どちらにしても結果は一緒じゃないかと言われればその通りなのだが。
「炉に使うマテリアル燃料を、イクシードプライムではなくて龍鉱石に変更するんですね?」
『……ええ……模型ではイクシードプライムでよかったし……私もそれでいけるものだと思っていたのだけれど……どうにも出力が上がらなくて……構造物に……他国のアーキテクチャーによって生成せられたものを使用したことが原因のようで……マテリアルに対する共振数が模型とは異なってしまっていた……今の炉に最も合致するマテリアル鉱石は、イクシードプライムではなく……龍鉱石……』
「なるほど。では、早速我が商会が手配しましょう」
『……それはとてもありがたい……だけれど……ひとつ問題が……』
「なんです?」
『……労働管理部門の一般会計予算において……この世界の通貨割合がゼロになった……』
「つまり、あなたがこれまで当商会への支払いに使っていた、例の海賊埋蔵金が尽きたと」
『……そう……ユニオン通貨の運営はユニゾン内で始めているけど……それは使えないのよね……?』
「使えませんね。この世界のほかの場所で通用しませんから。ですがご安心ください。これまでのお付き合いから、あなたが信用出来るひとであることは分かっています。ですから龍鉱石の対価を、現金に限ることはいたしません。現物取引いたしましょう。かまいませんか?」
『……ええ……かまわないけど……何を代価として渡しましょうか……農産品や工業品……色々あるけれど……』
「それでは、船をいただけますか?」
『……船……?……それは……ユニゾンでは作っていない……』
「今作っていないのなら、これから作っていただくことは可能ですか?」
とんとん拍子に進んで行く話。
この問題を商会とマゴイの間だけで完結させてしまうのは、よくないのではないかとタモンは思った。
マテリアル炉を稼働させればユニゾンは、完全な自給自足が可能になる。その気になれば鎖国体制を敷くことだって出来る。市民生活になんら痛手を与えることなく。
マゴイも大分人間が丸くなった。だが、二度と最初の頑なな思考に戻らないとは――断言出来ない。少なくとも自分には。
だから万一にもそうならないために、炉の稼働に関わっておいた方がいい。なるべく多くの人が。後日ユニゾンに対し、マゴイに対し、口を差し挟む余地を作っておくために。
「マゴイさん、何なら我が魔術師協会も龍鉱石を提供いたしますよ」
『……おや……それはありがたい……でも……先程言ったように今私は……この世界の通貨の持ち合わせがないので……何を対価にしましょうか……』
「いえ、それは別になくても」
『……そういうわけにはいかない……外部者との商取引において対価を支払わないことは……ユニオン法に反する……』
「――では、あなたが燃料用に購入したイクシードプライムを対価としていただきたい。それでよろしいですか?」
『……それなら……もちろんかまわない……』
「ありがとうございます。ついでですから、ハンターオフィスにも依頼を出してみてはいかがですか。龍鉱石を募集するという――」
●ユニゾンへ向けて出発。
ポルトワール。グリーク商会。
ナルシスは一瞥した船の設計図を、指でピンと弾いた。
「空間操作のアーキテクチャーを利用した、見かけと容量が天地ほど違う船、か。商売相手出し抜くのに最適だよね。密貿易にもさ。こんなもの3隻も注文するなんてあくどいよね。正味龍鉱石よりはるかに金銭的価値あるでしょ、こっちの方が」
「それはあんたの考えであって、英霊の考えではないわね」
弟の皮肉を歯牙にもかけない姉は両手を机の上で組み合わせ、言った。
「私はこれからユニゾン島へ行かなきゃならないのよ。船を受け取るために」
「え、向こう、もう船造ったの」
「そうよ。そういうわけだからナルシス、あんた来なさい」
「なんで」
「受け取った船を操舵してポルトワールへ運ぶ人間が必要だから。一人で来るのが不服なら、マリーさんを連れてきてもいいわよ。コボちゃんも向こうのコボルドに呼ばれてるみたいだしね」
マゴイはじいんとした様子で、4メートル四方の立方体を見上げていた。
立方体の色は半透明な乳白色。ガラスのように華奢な印象を受けるが、ミサイル攻撃を受けて傷一つつかないほど、頑丈な材質で出来ている。
『……ついに……完成した……マテリアル炉……』
ワーカーコボルドたちは、自分たちがマゴイの指示通り作った建造物がマゴイを喜ばせていることに、とても喜んだ。
「まごーい、うれしがっている」
「あたらしいはこ、うれしがっている」
「ぼくらまごいのやくにとてもたっている」
刑務所から社会奉仕の名目で派遣されてきた工事監督者――もとエンジニア・ワーカーのスペットは、複雑な面持ちだ。
「……おいマゴイ、俺の顔のこと忘れてへんやろな、俺の顔のこと。生産機関が動かせるようになったらすぐに着手する言うてたやろ、お前」
『……もちろんそれは忘れていない……』
「ならええけどな。で、どのくらいかかんねん、俺の顔が出来るまで」
『……そうね……とりあえず1年はかかるかしら……追放者の顔を戻すなんて……ユニオンでも初めての事例だから……十分に会議を経て書類を整えないと……』
形式重視なのはいつものことである。なのでスペットはそこに対する追求は控えた。
マゴイは相変わらず感激醒めやらぬ調子で、いそいそとマテリアル鉱石――イクシードプライム――を捧げ持ち(本当は浮かせているのだが)、炉の表面に手をかざす。
『……それでは試運転を……』
箱にポカリと四角い穴が空いた。その中に鉱石が入れ込まれる。
穴が閉じしばらくして、箱の中に光が灯った。それは霧のように淡く、形なく、ゆるやかな明滅を繰り返す。
マゴイが訝しげに眉根を寄せた。
『……おかしい……出力が上がらない……』
●想定外の仕切り直し
魔術師協会。
協会職員タモンは、目の前で繰り広げられているニケとマゴイの会話を前に考えていた。
グリーク商会は、魔術師協会との協力関係の元、ユニゾン島との貿易を一手に引き受けている――はずなのだが、どうも最近とみに、向こうとこちらの力関係が逆転しているようでならない。
「取引を通じて商会が得た情報はあなたがたに渡します。その代わり彼女から物質的援助を求められた場合、その調達と配送を私たちに一任していただければと」
とは、当初彼女が言っていた言葉。
最初は確かにそのような形だったのだ。協会がマゴイから要望を聞き出し、それを商会に伝え商品を発注させるという。
しかし今は、商会がマゴイの要望を聞き出しそれに答え商品を発注し、しかるのちそれを協会に伝えてくるという形になっている、ような。
どちらにしても結果は一緒じゃないかと言われればその通りなのだが。
「炉に使うマテリアル燃料を、イクシードプライムではなくて龍鉱石に変更するんですね?」
『……ええ……模型ではイクシードプライムでよかったし……私もそれでいけるものだと思っていたのだけれど……どうにも出力が上がらなくて……構造物に……他国のアーキテクチャーによって生成せられたものを使用したことが原因のようで……マテリアルに対する共振数が模型とは異なってしまっていた……今の炉に最も合致するマテリアル鉱石は、イクシードプライムではなく……龍鉱石……』
「なるほど。では、早速我が商会が手配しましょう」
『……それはとてもありがたい……だけれど……ひとつ問題が……』
「なんです?」
『……労働管理部門の一般会計予算において……この世界の通貨割合がゼロになった……』
「つまり、あなたがこれまで当商会への支払いに使っていた、例の海賊埋蔵金が尽きたと」
『……そう……ユニオン通貨の運営はユニゾン内で始めているけど……それは使えないのよね……?』
「使えませんね。この世界のほかの場所で通用しませんから。ですがご安心ください。これまでのお付き合いから、あなたが信用出来るひとであることは分かっています。ですから龍鉱石の対価を、現金に限ることはいたしません。現物取引いたしましょう。かまいませんか?」
『……ええ……かまわないけど……何を代価として渡しましょうか……農産品や工業品……色々あるけれど……』
「それでは、船をいただけますか?」
『……船……?……それは……ユニゾンでは作っていない……』
「今作っていないのなら、これから作っていただくことは可能ですか?」
とんとん拍子に進んで行く話。
この問題を商会とマゴイの間だけで完結させてしまうのは、よくないのではないかとタモンは思った。
マテリアル炉を稼働させればユニゾンは、完全な自給自足が可能になる。その気になれば鎖国体制を敷くことだって出来る。市民生活になんら痛手を与えることなく。
マゴイも大分人間が丸くなった。だが、二度と最初の頑なな思考に戻らないとは――断言出来ない。少なくとも自分には。
だから万一にもそうならないために、炉の稼働に関わっておいた方がいい。なるべく多くの人が。後日ユニゾンに対し、マゴイに対し、口を差し挟む余地を作っておくために。
「マゴイさん、何なら我が魔術師協会も龍鉱石を提供いたしますよ」
『……おや……それはありがたい……でも……先程言ったように今私は……この世界の通貨の持ち合わせがないので……何を対価にしましょうか……』
「いえ、それは別になくても」
『……そういうわけにはいかない……外部者との商取引において対価を支払わないことは……ユニオン法に反する……』
「――では、あなたが燃料用に購入したイクシードプライムを対価としていただきたい。それでよろしいですか?」
『……それなら……もちろんかまわない……』
「ありがとうございます。ついでですから、ハンターオフィスにも依頼を出してみてはいかがですか。龍鉱石を募集するという――」
●ユニゾンへ向けて出発。
ポルトワール。グリーク商会。
ナルシスは一瞥した船の設計図を、指でピンと弾いた。
「空間操作のアーキテクチャーを利用した、見かけと容量が天地ほど違う船、か。商売相手出し抜くのに最適だよね。密貿易にもさ。こんなもの3隻も注文するなんてあくどいよね。正味龍鉱石よりはるかに金銭的価値あるでしょ、こっちの方が」
「それはあんたの考えであって、英霊の考えではないわね」
弟の皮肉を歯牙にもかけない姉は両手を机の上で組み合わせ、言った。
「私はこれからユニゾン島へ行かなきゃならないのよ。船を受け取るために」
「え、向こう、もう船造ったの」
「そうよ。そういうわけだからナルシス、あんた来なさい」
「なんで」
「受け取った船を操舵してポルトワールへ運ぶ人間が必要だから。一人で来るのが不服なら、マリーさんを連れてきてもいいわよ。コボちゃんも向こうのコボルドに呼ばれてるみたいだしね」
リプレイ本文
「へ~、これがユニゾン島か~」
夢路 まよい(ka1328)は港に降り立つや額に手をかざし、周囲を見回す。
白くて四角い建物、碁盤目の舗装道、樽のような幹をした街路樹。白い花壇。
差異というものが軒並み拭い去られた風景。
(なんだか新鮮な場所だな。ここは一つ観光してみようかな?)
と思いつつ道路標識に従い、外部者宿泊所へ向かう。龍鉱石の受け取りがそこで行われるということなので。
街の辻々には大きな字の掲示ポスターが貼られている。
『ほんじつ マテリアルろ かどう しきてんが おこなわれます ばしょは おおきなしまと ちいさなしまの あいだにある すなはまです。しみんのみなさん おそろいで おいでください』
●
外部者宿泊所のロビーは、いつになく多数の人々で賑わっていた。
その中で天竜寺 詩(ka0396)がスペットと談笑している。
「ついにマテリアル炉完成だねー。これでスペットも元の顔に戻る目途がたってよかったね♪」
「せやな。なんやこれで、ようやく先行きが見えてきた気分やわ」
「それにしても今日は、マリーさんやコボちゃんにタモンさんと多士済々だねぇ」
レオン(ka5108)がマゴイに5つの龍鉱石を手渡した。
「龍鉱石が必要と聞きました。僕の手元にもまだ5つ残っているから、よければ使ってください」
『……もちろん炉の稼働に使わせてもらうわ……ありがとう……』
マゴイの表情は普段よりいくらか緩んでいた。炉の完成がうれしくてしょうがないらしい。
リュー・グランフェスト(ka2419)はそんな彼女に以下の質問をする。龍鉱石を提供するからには、その使用先について詳しく知っておきたいと。
「マテリアル炉、か。どんなもんなんだ?」
『……マテリアル物質に適度な刺激を与え……ゆっくり融解させ……エネルギーに転換する装置……その転換率はほぼ100パーセントに達し……有害な廃棄物を出さない……きれいに使い切る……』
リューは念のためスペットに確認を取った。聞いた所では彼が、工事の指揮をとったらしいので。
「今の話は確かなのか?」
「ほんまや。今回の炉は構造に不純物が交じってるさかい、転換率が10~13パーセントくらい落ちるかも知らんけど……炉が動けば、生産機関の廃棄物処理セクションが動かせるようになるさかい。カスはそっちに持って行って処理したらええ」
「すげえもん作ったんだなあ。自己紹介遅れたけど、俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくね。この龍鉱石使ってくれ」
渡されたのは8つの龍鉱石。マゴイはそれを快く受ける。
『……提供感謝するわ……』
そこで彼はもう1つの龍鉱石――虹色龍鉱石を差し出した。
「こいつは使えるか?」
一瞥してマゴイは首を振る。
『……それは使えない……特殊要素が入ったものを燃料に交ぜると……融解速度にむらが生じてしまうから……』
そんなものかと思いながらエルバッハ・リオン(ka2434)とレイア・アローネ(ka4082)は、マゴイに祝辞を述べる。
「マテリアル炉の完成、おめでとうございます」
「マテリアル炉完成おめでとう」
『……ありがとう……』
弾んだ声を受けてリオンは、マゴイが相当浮かれていることを感じ取った。そして、次のように思った。
(マテリアル炉が完成して出来ることが増えたら、政治的な厄介ごとなども増えそうな気がしますね)
そこへルベーノ・バルバライン(ka6752)の声。
「すまんμ。コボルドたちに土産を渡していたら、ちとここに着くのが遅れてしまってな」
手にした土産は白い花束、白い花飾りのついた白ベレー帽、そして――中と大の龍鉱石。
「イクシードならいくらでも提供できたのだがな……残念ながら俺は2つしか持っていなくてな――」
彼は龍鉱石が現在入手しがたい貴重品となっている旨を細かく説明してから、大の方だけを彼女に渡した。
「――勿論俺も2つとも渡すことは出来ん。許せ」
『……全然いい……ありがとう……』
2人のやり取りを聞いたトリプルJ(ka6653)は、龍奏作戦にまつわる様々な事柄を思い起こし、一人ごちる。
「あの頃はいろんな鉱石の採掘依頼があったからなぁ。全部売っぱらったら依頼がなくなって、慌てて知り合いに頼んで回っても譲渡できない制限が掛かってる。歪虚領域に行けなくなったと分かって青褪めたぜ」
マリーが怪訝な顔をした。そして「ちょっといい?」と話に入ってきた。
「ねえ、あなたたち何か誤解してない? 龍奏作戦以降北方の汚染は、おおむね解除されてるわよ? 危険地域が全くないとは言わないけど、イニシャライザーに龍鉱石をつぎ込まなきゃ入れないほどの場所は激減してるはずよ?」
ルベーノとJは顔を見合わせた。
「……気づかん間にかなり事態は改善されていたんだな」
「……知らなかったな。そのアナウンス、正式にオフィスからあったっけか?」
ちょうどその時、まよいが宿泊所に到着した。
「あれ、みんなもう集まってるの。早いわねー」
彼女もまたマゴイに、龍鉱石を1つ提供する。
マゴイは満足しきった呟きを漏らす。ルベーノから渡された花束を抱いて。
『……これだけあれば……十分……非常用ストックも作れる……』
詩は改めて祝辞を述べる。
「完成おめでとう。私は今石を持ってないから提供は出来ないけど、せっかくの式典だしお祝い用のお料理を作らせてもらうね。ここの調理場、使っていい?」
『……もちろん……』
ルベーノが茶目っ気たっぷりに、片目を瞑った。
「μとコボルド達の、盛装なり礼装なりを見せて貰えるのだろう? 楽しみにしているぞ」
●
マテリアル炉――それは砂州にたたずむ半透明の立方体。
マゴイについて知見のあるレイアは、納得の表情で言った。式典用の折り畳み椅子を並べながら。
「まあ、ユニオンらしいな」
対してレオンは不安を覚える。リューも心配になってきた。
「あのー、こんな剥き出し状態で置いといて、大丈夫なんですか?」
『……大丈夫……』
「せめて屋根作った方がよくねえか? 雨ざらし日ざらしになるだろ、これ」
『……大丈夫……』
自信をもってマゴイが明言しているところに、わんわん賑やかな鳴き声。
コボルドたちがやってくる。花一杯のネコ車を押して。その後ろからルベーノとJが、ヤシの葉を積んだネコ車を押してやってくる。
リオンの見回りに同行し島内ひと巡りをしたまよいは、外部者宿泊所に戻って行く彼女と分かれ、港湾区に向かった。そちらから、きれいな歌声が聞こえてきたので。
すると港に多数の人魚が群れ、合唱していた。
特別大きなリーダーっぽい人魚に、声をかけてみる。
「こんにちは」
「ああ、これはこんにちは」
「何してるの?」
「精霊様にいいことがあったそうなので、お祝いに歌を歌って差し上げようと思いまして。今、その練習をしているところなんですよ」
歌なら自分もひとかどのもの。そう思ったまよいは彼女らにこう申し出た。
「よかったら私、伴奏を手伝いましょうか?」
●
厨房手伝いに入ったリオンは人間市民と一緒に、野菜の飾り切りを始める。
その隣ではマリーが、詩の指導で茶わん蒸しに挑戦中。
「マリーさん、ハンターオフィスでの私の評価はどのようなものなのでしょうか? 差し支えない範囲で教えて頂けませんか」
「どうしたの急に」
「いえ、依頼主の方などから高く評価して頂いたことがありましたので、ハンターオフィスでの評価はどのようなものなのか気になりましたから」
「そうねー、ハンターとしての評価はもちろん高いわよ? 確実に仕事してくれるから」
「そうですか……お答えくださりありがとうございます」
礼を述べた直後ニケとナルシスが入ってきた。
ナルシスのことが大嫌いなリオンはそつなく挨拶だけして、飾り切りに専念。
ナルシスは詩が味見しているスープ鍋の中をのぞき込み、引いた。
「なにそれ」
「鯛の目玉磯汁。おいしいよ」
「僕は絶っ対食べないからね。マリーは何作ってるの?」
「茶わん蒸しよ」
という短いやりとりの後交わされる軽いキス。
それがあんまり自然な感じだったので、うっかり目にしてしまった詩は、どぎまぎしてしまった。
ニケは我関せずと言った調子で、勝手にコーヒーを入れ飲んでいる。
●
「ううーわうー」「わわわー」「わーうー」
コボルドたちが鼻歌を歌いながら、炉を花と葉で飾り付けていく。彼らなりのお祝い表現らしい。
ルベーノ、レイアらと共にその手伝いをするJは、折を見てマゴイに話しかけた。彼にはどうしても、彼女にクギを刺しておきたいことがあったのだ。
「ウテルスから生まれてくるのが蟻やコボルド達みたいな階級社会を作る奴らだけならいいんだが……あんたやっぱり、人を生み出すつもりか?」
マゴイは不思議そうに首を傾げた。
『……蟻はともかく……彼らコボルドは……人では……?』
そういえば、そうだ。と会話を脇で聞いていたレイアは思った。
人間が人間と認識する姿形から掛け離れているので、誰しもついつい動物のように思ってしまうが――コボルドは亜『人』である。
ルベーノが頭をかき、横から口を挟む。
「Jはな、俺たちみたいな人間や、エルフや、ドワーフという種類の『人』を生み出すつもりか、と聞きたかったのだ」
それでマゴイは、ようやく質問の趣旨を理解した。
『……今のところエルフやドワーフの市民志願者はいないけれど……そのうち来てくれるようになったら……その遺伝子提供によって……新しい市民を生み出してあげられる……最適な資質をもって生まれて……それに沿った最適な教育を受けることが出来るようになる……それはとてもしあわせなこと……』
Jは物憂げに息をはいた。
「英霊といや聞こえはいいが、結局あんたも死人ってこった」
突き放すように言ってから、続ける。市民でありながら生き残ったのは追放者であるスペットだけだ、と。
「あんた達のユニオンは、滅ぶ時にゃ市民全員巻き込んで全滅するように出来てるんだよ、思考統制されてるからな。あんた達の世界は年寄りには悪くないだろう。でもそこに達するまでの人間にゃ苦痛だと思うぜ。生きたいように生きるのが人の業だからな。人を生むにしても、思考統制せず逃げたい奴は逃げるに任せるなら、俺達は何にも言わないぜ? 国としちゃ非効率だろうが、そうでなきゃいつかエバーグリーンと同じ事が起きるだろ」
マゴイは眉間に軽くしわを寄せる。
単純にJの言うことが気に入らなかったというのではなさそうだ。次の台詞の内容からするに。
『……ユニオンは……あなたのように生きられない人々のために……競うことが苦痛である人々のために存在する……私はユニオンの思想教育方法が間違っているとは思わない……とはいえ……そう……危機管理に際し……ユニオンに不備な点があったことは否めない……解釈改善の余地は……多分ある……』
自身の見解を述べた後彼女は、沈黙してしまう。
旧ユニオンについて色々思うことがあるのだろう。ステーツマンの末路についてもまだ記憶に新しいはずだ。
そう察したルベーノは彼女をそっとしておこうと、場を離れる。
Jも、そのようにした。
●
夕方、式典が始まった。
コボルド・ワーカーたちは皆おそろいの上着を着て席に着いていた。デザインはちょっと作業服に似ている。色は緑。人間市民も同様。
コボちゃんはいつも通りタキシード。リボンタイ。そしてシルクハット。
マゴイは――礼服なのだろう――普段より手の込んだドレッシーなワンピースを身につけていた。色は白。全体のシルエットがふわりと緩み、首元、袖、裾部分がレースになっている。
彼女は炉の前に立ち、参列者に祝辞を述べた。
『……本日、新型マテリアル炉を稼働させます……これはユニゾンにとってとても記念すべきこと……今後市民生活の一層の向上と発展のためになることですので……皆さん仲良くお祝いしましょう……』
そして引っ込む。
続けてコボルドたちが前に出てきた。
指揮棒を持ったコボちゃんがえへんと咳払いし、参列者に言う。
「こぼたち、おいわいにうたう。きけ」
そして始まる合唱。
♪ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなであそんでたのしいな、おべんきょうしてたのしいな
ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなでおやすみたのしいな、おしごとをしてたのしいな♪
(幼稚園のお遊戯会みたいだな……)
と思いつ手拍子をするレイア。
そこへ別の声と伴奏が交じってきた。
ルベーノである。
幼稚園の合唱が、路上バンドに格上げされた。
「俺からも、祝いだ」
と笑いかける彼にマゴイは、微笑みを返す。
そこにまた別の歌と演奏が加わってくる。人魚たちと、まよいだ。
路上バンドが商業バンドに格上げされた。
参列者は皆、心地よい音色に聞き惚れる。
それが済んだ後、炉の火入れが行われた。
『……それでは……運転を開始します……』
投入された竜鉱石から光の粉が吹き出した。
銀色の管が幾本も炉から出てきて、砂地に突き刺さる。
続けて炉の全体が一回り大きい、立方体の結界に包まれる。
『……それでは……導線のテスト……』
レオンが声を上げる。
「あっ。あれ……」
皆が顔を向けると、港の港湾地区が街明かりでいっぱいになっていた。これまでは夜になっても、街灯しかついていなかったのに。
明かりは赤、緑、青、と柔らかく色を変えていく。白い町並みがそのたび、同じ色に染まっていく。
リューはへえ、と感心しきり。
「なんか、遊園地みたいだな」
人魚たちが歓声を上げる。コボルドたちがパチパチ手を叩く……。
一通りシステム点検が終わったところで、式典は終了。後は立食パーティーとなった。
詩はコボちゃんとコボルドたちに、自分が作った唐揚げトンカツといった肉料理、そして野菜サラダの感想を尋ねる。
「どう、おいしい?」
「うま」「ウマウマ」「んま」
ついでニケに顔を向け、聞く。
「ニケさんて誰かお付き合いしてる人とかいるの?」
「いませんね」
「……ちなみにどんな人がタイプ?」
「現実問題に対する解決能力がある人ですね」
(じゃあマルコ君、どうかなあ……)
など夢想しながら、今度はマゴイに話しかける。
「マゴイ、あのー、ね、先日のお母さん発言のことなんだけど……ごめんね、あれがユニオン的には侮辱に近い言葉だって知らなくて」
『……知らなかったなら……仕方ないわ……次から気をつけて……』
「うん。でも……なんであれが侮辱に当たるの?」
『……なんでってそれは……』
マゴイは赤くなった。この前とそっくり同じことを言った。
『……母親というものが……有害でヒワイだからよ……』
「どういうところがヒワイなの?」
赤みが増す。もう聞いていること自体たまらないといった感じの叫びが飛び出す。
『……自分で子供を産むところ……!』
夢路 まよい(ka1328)は港に降り立つや額に手をかざし、周囲を見回す。
白くて四角い建物、碁盤目の舗装道、樽のような幹をした街路樹。白い花壇。
差異というものが軒並み拭い去られた風景。
(なんだか新鮮な場所だな。ここは一つ観光してみようかな?)
と思いつつ道路標識に従い、外部者宿泊所へ向かう。龍鉱石の受け取りがそこで行われるということなので。
街の辻々には大きな字の掲示ポスターが貼られている。
『ほんじつ マテリアルろ かどう しきてんが おこなわれます ばしょは おおきなしまと ちいさなしまの あいだにある すなはまです。しみんのみなさん おそろいで おいでください』
●
外部者宿泊所のロビーは、いつになく多数の人々で賑わっていた。
その中で天竜寺 詩(ka0396)がスペットと談笑している。
「ついにマテリアル炉完成だねー。これでスペットも元の顔に戻る目途がたってよかったね♪」
「せやな。なんやこれで、ようやく先行きが見えてきた気分やわ」
「それにしても今日は、マリーさんやコボちゃんにタモンさんと多士済々だねぇ」
レオン(ka5108)がマゴイに5つの龍鉱石を手渡した。
「龍鉱石が必要と聞きました。僕の手元にもまだ5つ残っているから、よければ使ってください」
『……もちろん炉の稼働に使わせてもらうわ……ありがとう……』
マゴイの表情は普段よりいくらか緩んでいた。炉の完成がうれしくてしょうがないらしい。
リュー・グランフェスト(ka2419)はそんな彼女に以下の質問をする。龍鉱石を提供するからには、その使用先について詳しく知っておきたいと。
「マテリアル炉、か。どんなもんなんだ?」
『……マテリアル物質に適度な刺激を与え……ゆっくり融解させ……エネルギーに転換する装置……その転換率はほぼ100パーセントに達し……有害な廃棄物を出さない……きれいに使い切る……』
リューは念のためスペットに確認を取った。聞いた所では彼が、工事の指揮をとったらしいので。
「今の話は確かなのか?」
「ほんまや。今回の炉は構造に不純物が交じってるさかい、転換率が10~13パーセントくらい落ちるかも知らんけど……炉が動けば、生産機関の廃棄物処理セクションが動かせるようになるさかい。カスはそっちに持って行って処理したらええ」
「すげえもん作ったんだなあ。自己紹介遅れたけど、俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくね。この龍鉱石使ってくれ」
渡されたのは8つの龍鉱石。マゴイはそれを快く受ける。
『……提供感謝するわ……』
そこで彼はもう1つの龍鉱石――虹色龍鉱石を差し出した。
「こいつは使えるか?」
一瞥してマゴイは首を振る。
『……それは使えない……特殊要素が入ったものを燃料に交ぜると……融解速度にむらが生じてしまうから……』
そんなものかと思いながらエルバッハ・リオン(ka2434)とレイア・アローネ(ka4082)は、マゴイに祝辞を述べる。
「マテリアル炉の完成、おめでとうございます」
「マテリアル炉完成おめでとう」
『……ありがとう……』
弾んだ声を受けてリオンは、マゴイが相当浮かれていることを感じ取った。そして、次のように思った。
(マテリアル炉が完成して出来ることが増えたら、政治的な厄介ごとなども増えそうな気がしますね)
そこへルベーノ・バルバライン(ka6752)の声。
「すまんμ。コボルドたちに土産を渡していたら、ちとここに着くのが遅れてしまってな」
手にした土産は白い花束、白い花飾りのついた白ベレー帽、そして――中と大の龍鉱石。
「イクシードならいくらでも提供できたのだがな……残念ながら俺は2つしか持っていなくてな――」
彼は龍鉱石が現在入手しがたい貴重品となっている旨を細かく説明してから、大の方だけを彼女に渡した。
「――勿論俺も2つとも渡すことは出来ん。許せ」
『……全然いい……ありがとう……』
2人のやり取りを聞いたトリプルJ(ka6653)は、龍奏作戦にまつわる様々な事柄を思い起こし、一人ごちる。
「あの頃はいろんな鉱石の採掘依頼があったからなぁ。全部売っぱらったら依頼がなくなって、慌てて知り合いに頼んで回っても譲渡できない制限が掛かってる。歪虚領域に行けなくなったと分かって青褪めたぜ」
マリーが怪訝な顔をした。そして「ちょっといい?」と話に入ってきた。
「ねえ、あなたたち何か誤解してない? 龍奏作戦以降北方の汚染は、おおむね解除されてるわよ? 危険地域が全くないとは言わないけど、イニシャライザーに龍鉱石をつぎ込まなきゃ入れないほどの場所は激減してるはずよ?」
ルベーノとJは顔を見合わせた。
「……気づかん間にかなり事態は改善されていたんだな」
「……知らなかったな。そのアナウンス、正式にオフィスからあったっけか?」
ちょうどその時、まよいが宿泊所に到着した。
「あれ、みんなもう集まってるの。早いわねー」
彼女もまたマゴイに、龍鉱石を1つ提供する。
マゴイは満足しきった呟きを漏らす。ルベーノから渡された花束を抱いて。
『……これだけあれば……十分……非常用ストックも作れる……』
詩は改めて祝辞を述べる。
「完成おめでとう。私は今石を持ってないから提供は出来ないけど、せっかくの式典だしお祝い用のお料理を作らせてもらうね。ここの調理場、使っていい?」
『……もちろん……』
ルベーノが茶目っ気たっぷりに、片目を瞑った。
「μとコボルド達の、盛装なり礼装なりを見せて貰えるのだろう? 楽しみにしているぞ」
●
マテリアル炉――それは砂州にたたずむ半透明の立方体。
マゴイについて知見のあるレイアは、納得の表情で言った。式典用の折り畳み椅子を並べながら。
「まあ、ユニオンらしいな」
対してレオンは不安を覚える。リューも心配になってきた。
「あのー、こんな剥き出し状態で置いといて、大丈夫なんですか?」
『……大丈夫……』
「せめて屋根作った方がよくねえか? 雨ざらし日ざらしになるだろ、これ」
『……大丈夫……』
自信をもってマゴイが明言しているところに、わんわん賑やかな鳴き声。
コボルドたちがやってくる。花一杯のネコ車を押して。その後ろからルベーノとJが、ヤシの葉を積んだネコ車を押してやってくる。
リオンの見回りに同行し島内ひと巡りをしたまよいは、外部者宿泊所に戻って行く彼女と分かれ、港湾区に向かった。そちらから、きれいな歌声が聞こえてきたので。
すると港に多数の人魚が群れ、合唱していた。
特別大きなリーダーっぽい人魚に、声をかけてみる。
「こんにちは」
「ああ、これはこんにちは」
「何してるの?」
「精霊様にいいことがあったそうなので、お祝いに歌を歌って差し上げようと思いまして。今、その練習をしているところなんですよ」
歌なら自分もひとかどのもの。そう思ったまよいは彼女らにこう申し出た。
「よかったら私、伴奏を手伝いましょうか?」
●
厨房手伝いに入ったリオンは人間市民と一緒に、野菜の飾り切りを始める。
その隣ではマリーが、詩の指導で茶わん蒸しに挑戦中。
「マリーさん、ハンターオフィスでの私の評価はどのようなものなのでしょうか? 差し支えない範囲で教えて頂けませんか」
「どうしたの急に」
「いえ、依頼主の方などから高く評価して頂いたことがありましたので、ハンターオフィスでの評価はどのようなものなのか気になりましたから」
「そうねー、ハンターとしての評価はもちろん高いわよ? 確実に仕事してくれるから」
「そうですか……お答えくださりありがとうございます」
礼を述べた直後ニケとナルシスが入ってきた。
ナルシスのことが大嫌いなリオンはそつなく挨拶だけして、飾り切りに専念。
ナルシスは詩が味見しているスープ鍋の中をのぞき込み、引いた。
「なにそれ」
「鯛の目玉磯汁。おいしいよ」
「僕は絶っ対食べないからね。マリーは何作ってるの?」
「茶わん蒸しよ」
という短いやりとりの後交わされる軽いキス。
それがあんまり自然な感じだったので、うっかり目にしてしまった詩は、どぎまぎしてしまった。
ニケは我関せずと言った調子で、勝手にコーヒーを入れ飲んでいる。
●
「ううーわうー」「わわわー」「わーうー」
コボルドたちが鼻歌を歌いながら、炉を花と葉で飾り付けていく。彼らなりのお祝い表現らしい。
ルベーノ、レイアらと共にその手伝いをするJは、折を見てマゴイに話しかけた。彼にはどうしても、彼女にクギを刺しておきたいことがあったのだ。
「ウテルスから生まれてくるのが蟻やコボルド達みたいな階級社会を作る奴らだけならいいんだが……あんたやっぱり、人を生み出すつもりか?」
マゴイは不思議そうに首を傾げた。
『……蟻はともかく……彼らコボルドは……人では……?』
そういえば、そうだ。と会話を脇で聞いていたレイアは思った。
人間が人間と認識する姿形から掛け離れているので、誰しもついつい動物のように思ってしまうが――コボルドは亜『人』である。
ルベーノが頭をかき、横から口を挟む。
「Jはな、俺たちみたいな人間や、エルフや、ドワーフという種類の『人』を生み出すつもりか、と聞きたかったのだ」
それでマゴイは、ようやく質問の趣旨を理解した。
『……今のところエルフやドワーフの市民志願者はいないけれど……そのうち来てくれるようになったら……その遺伝子提供によって……新しい市民を生み出してあげられる……最適な資質をもって生まれて……それに沿った最適な教育を受けることが出来るようになる……それはとてもしあわせなこと……』
Jは物憂げに息をはいた。
「英霊といや聞こえはいいが、結局あんたも死人ってこった」
突き放すように言ってから、続ける。市民でありながら生き残ったのは追放者であるスペットだけだ、と。
「あんた達のユニオンは、滅ぶ時にゃ市民全員巻き込んで全滅するように出来てるんだよ、思考統制されてるからな。あんた達の世界は年寄りには悪くないだろう。でもそこに達するまでの人間にゃ苦痛だと思うぜ。生きたいように生きるのが人の業だからな。人を生むにしても、思考統制せず逃げたい奴は逃げるに任せるなら、俺達は何にも言わないぜ? 国としちゃ非効率だろうが、そうでなきゃいつかエバーグリーンと同じ事が起きるだろ」
マゴイは眉間に軽くしわを寄せる。
単純にJの言うことが気に入らなかったというのではなさそうだ。次の台詞の内容からするに。
『……ユニオンは……あなたのように生きられない人々のために……競うことが苦痛である人々のために存在する……私はユニオンの思想教育方法が間違っているとは思わない……とはいえ……そう……危機管理に際し……ユニオンに不備な点があったことは否めない……解釈改善の余地は……多分ある……』
自身の見解を述べた後彼女は、沈黙してしまう。
旧ユニオンについて色々思うことがあるのだろう。ステーツマンの末路についてもまだ記憶に新しいはずだ。
そう察したルベーノは彼女をそっとしておこうと、場を離れる。
Jも、そのようにした。
●
夕方、式典が始まった。
コボルド・ワーカーたちは皆おそろいの上着を着て席に着いていた。デザインはちょっと作業服に似ている。色は緑。人間市民も同様。
コボちゃんはいつも通りタキシード。リボンタイ。そしてシルクハット。
マゴイは――礼服なのだろう――普段より手の込んだドレッシーなワンピースを身につけていた。色は白。全体のシルエットがふわりと緩み、首元、袖、裾部分がレースになっている。
彼女は炉の前に立ち、参列者に祝辞を述べた。
『……本日、新型マテリアル炉を稼働させます……これはユニゾンにとってとても記念すべきこと……今後市民生活の一層の向上と発展のためになることですので……皆さん仲良くお祝いしましょう……』
そして引っ込む。
続けてコボルドたちが前に出てきた。
指揮棒を持ったコボちゃんがえへんと咳払いし、参列者に言う。
「こぼたち、おいわいにうたう。きけ」
そして始まる合唱。
♪ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなであそんでたのしいな、おべんきょうしてたのしいな
ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなでおやすみたのしいな、おしごとをしてたのしいな♪
(幼稚園のお遊戯会みたいだな……)
と思いつ手拍子をするレイア。
そこへ別の声と伴奏が交じってきた。
ルベーノである。
幼稚園の合唱が、路上バンドに格上げされた。
「俺からも、祝いだ」
と笑いかける彼にマゴイは、微笑みを返す。
そこにまた別の歌と演奏が加わってくる。人魚たちと、まよいだ。
路上バンドが商業バンドに格上げされた。
参列者は皆、心地よい音色に聞き惚れる。
それが済んだ後、炉の火入れが行われた。
『……それでは……運転を開始します……』
投入された竜鉱石から光の粉が吹き出した。
銀色の管が幾本も炉から出てきて、砂地に突き刺さる。
続けて炉の全体が一回り大きい、立方体の結界に包まれる。
『……それでは……導線のテスト……』
レオンが声を上げる。
「あっ。あれ……」
皆が顔を向けると、港の港湾地区が街明かりでいっぱいになっていた。これまでは夜になっても、街灯しかついていなかったのに。
明かりは赤、緑、青、と柔らかく色を変えていく。白い町並みがそのたび、同じ色に染まっていく。
リューはへえ、と感心しきり。
「なんか、遊園地みたいだな」
人魚たちが歓声を上げる。コボルドたちがパチパチ手を叩く……。
一通りシステム点検が終わったところで、式典は終了。後は立食パーティーとなった。
詩はコボちゃんとコボルドたちに、自分が作った唐揚げトンカツといった肉料理、そして野菜サラダの感想を尋ねる。
「どう、おいしい?」
「うま」「ウマウマ」「んま」
ついでニケに顔を向け、聞く。
「ニケさんて誰かお付き合いしてる人とかいるの?」
「いませんね」
「……ちなみにどんな人がタイプ?」
「現実問題に対する解決能力がある人ですね」
(じゃあマルコ君、どうかなあ……)
など夢想しながら、今度はマゴイに話しかける。
「マゴイ、あのー、ね、先日のお母さん発言のことなんだけど……ごめんね、あれがユニオン的には侮辱に近い言葉だって知らなくて」
『……知らなかったなら……仕方ないわ……次から気をつけて……』
「うん。でも……なんであれが侮辱に当たるの?」
『……なんでってそれは……』
マゴイは赤くなった。この前とそっくり同じことを言った。
『……母親というものが……有害でヒワイだからよ……』
「どういうところがヒワイなの?」
赤みが増す。もう聞いていること自体たまらないといった感じの叫びが飛び出す。
『……自分で子供を産むところ……!』
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/14 09:28:06 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/10/14 13:55:42 |