• 空蒼

【空蒼】避難所防衛戦

マスター:きりん

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~15人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/15 09:00
完成日
2018/10/17 11:19

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●避難所の現状
 多くの避難所では、物資が不足している状態が続いていた。
 これは、リアルブルー全体が混乱のただ中に陥っており、VOIDたちや暴走アプリ使用者たちが蔓延る状況のせいで、完全にライフラインが寸断されてしまっているせいだ。
 ネット状況も不安定で、基本的に繋がらない時間の方が多く、たまに奇跡的に繋がることがあっても、得られるのは断片的な情報ばかり。
 いわゆる、陸の孤島状態に置かれていた。
「おい、今日の朝食は食パン四分の一きれだけってどういうことだ!」
 とある避難所で、避難民の一人が、食料の配給を行う強化人間兵士たちに食って掛かっている。
 これは、最近になって各地の避難所でよく見られるようになった光景だった。
 最初の頃は、有事だし仕方ない、助け合おうなどと協力的だった避難民たちは、事態が進むにつれ次々と余裕を無くしていった。
 もしかしたら、この期に及んですぐに事態が終息するという楽観的な予測もあったのかもしれない。
「灯油もガソリンも無くて暖房がつけられない! 何とかしてよ!」
 秋になって朝晩は冷え込むようになり、また地域によっては十月には暖房を稼働させる必要があるほど寒くなる。
 そのため、暖房用の燃料はまず灯油が真っ先に尽きた。
 それから、発電機用のガソリン。
 ガソリンは近くの車から抜いてくればまだ何とかなるものの、灯油は厳しい。
 ガソリンスタンドやホームセンターなど、比較的大きな商業施設に向かわなければ手に入らず、近くの民家を探そうにも、中途半端な季節が災いしてストーブ自体が置いていないことも多い。
「そもそも今どき煙突式のストーブって時点で古すぎるんだよ! さっさと新しいストーブに変えてくれ!」
「む、無茶いわないでください!」
 詰め寄る避難民たちに、強化人間たちも戸惑っている。
 新しいストーブに変えろと気軽にいうが、そのストーブはどこから調達してくるというのだ。
 今の状況では、避難所を守ることで精いっぱいで、敷地の外に出てできることなど避難所の周りに放置された車からガソリンを抜く程度が精いっぱいだというのに。
 何とか不平不満をこぼす避難民たちを帰らせた強化人間たちの一人が、我慢の限界が来たように声を荒げた。
「こんなの、僕たちだけじゃどうにもならないよ! いつまでこんな状況で戦い続ければいいんだ!」
「悲観しちゃだめよ! 心を強く持って! 応援を要請しましょう!」
「とっくにしてる! でも月の方にどうしても回さなきゃいけないから、これ以上戦力は送れないってさ! 分かってる! 分かってるけど!」
「でも、代わりにハンターの人たちだって来てくれてるわ!」
「確かにそうだけど、あいつら途中で帰って肝心な時にいないじゃないか!」
 強化人間である彼の不満は、味方であるハンターたちにも向けられていた。
 でも、仕方がないことなのだ。
 ハンターがリアルブルーに滞在できる時間には限りがあり、ずっといるわけにはいかないのだから。
 それに、この避難所だけが窮地に陥っているわけでもない。
 どこも似たような状況なのだ。

●月へ向かうシャトル
 強化人間同士の情報網や、入れ替わり立ち代わりにやってくるハンターたちから漏れたのか、各地の避難所ではとある噂が広がっていた。
 月で大きな戦いが起きようとしており、その戦いに備え、人々の避難と、残存戦力を可能な限り月へ結集させるために、月へ向かうシャトルの打ち上げが各地で始まっているという噂だ。
 それより前にも避難所では真贋様々な噂が広まっていたが、さらに追加された形になる。
 これらの噂を誰がどういう意図をもって流したのかは分からないものの、一ついえるのは、避難所の暮らしに僅かばかりにも光明が見えたということだ。
 このシャトルに同乗できれば、月にある安全なシェルターに避難できるかもしれない。
 もちろん現在も戦場になっている月が安全というわけではないが、少なくとも今の混沌とした地上よりかは何倍も安全なはずだ。
 それに、どの道いつまでも防衛などできない。
 いつかはこの避難所を捨てなければならないだろう。その時、向かうべき場所でもっとも可能性が高いのは月だ。
 その噂は、冴子と美紅が避難している避難所でも広まっていた。
「いつかはここを、去らなくちゃいけない……。なら、早い方がいい……?」
 噂を知った冴子は、一つの決意を固めた。
 敵襲を告げる強化人間兵の絶叫が聞こえる。
「同感。でも、そのためには、まずはあいつらを追い返さなきゃね」
 イクシード・アプリをインストールしたことで、不本意にも邪神の契約者となった美紅が、冴子の隣でスマホを握り締める。
 まず目前の大襲撃を凌がねばならなかった。

●大襲撃
 月でリアルブルーの趨勢を決める大きな戦いが行われようとしている中、地上でもたくさんの戦いが起きていた。
 避難所を巡る、VOIDと暴走者の集団と、強化人間とハンターたちの混成チームによる防衛戦である。
 日に日に激化していったその戦いは、今では戦える者は全て前線に出て、そうでない者も補給などの後方支援につくという、いわゆる総動員体制にまで発展していた。
 どんな希望も、目の前の戦いに勝たねば意味がない。
 文句ばかりこぼしていた避難民たちも、必死に戦う強化人間たちに協力して自分にできることをしている。
「おにぎり五十個、上がったよ! 持って行って!」
「A部隊はB部隊と交代! 補給に入れ! 急げ、なるべく早く終わらせるんだ!」
「避難所北部に敵集中! 応援回してください!」
 とある避難所では、強化人間部隊と避難民たちが一丸となって、襲い来る敵の猛攻を食い止めていた。
 絶対に、避難所の中に敵を入れさせるわけにはいかないと不退転の決意を固めている強化人間たちと、彼らが破れれば自分たちも死ぬしかないと知っている避難民たちは、この時ばかりは団結していた。

●切り抜けろ!
 どんな希望も、目の前の襲撃を耐え凌がなければ水の泡となる。
 襲い掛かってくる暴走者たちは、訳の分からない叫び声を上げながらバリケードを乗り越えようとしてくる。
 それをバリケードから叩き落とすことで防ぎつつ、強化人間たちは暴走者よりもその背後に控えるVOIDたちの対応に苦慮していた。
 狂気の感染という、特殊能力が厄介なのだ。
 近距離で目を合わせれば、いくら状態が安定している自分たちといえども、暴走してしまわないとも限らない。
 このぎりぎりの状況の中、そうなれば詰みである。
「頼む! ハンターたちは打って出て、VOIDたちを先に片付けてくれ!」
 避難所を守る強化人間部隊の指揮官が叫んだ。

リプレイ本文

●避難所の危機
 アニス・テスタロッサ(ka0141)は、バリケードとして置かれているバスのタイヤ四輪全部を撃ってパンクさせた。
「不安定な車体薙ぎ倒されて突破されるよりゃマシだろ」
 強化人間を始め、敵味方の判別をしやすくするため友軍各位に上腕部に白い布を巻くよう鹿東 悠(ka0725)は要請した。
「一瞬の迷いが死に繋がること戦場ではよくある話です。故に打てる手は打っておきたいだけですよ」
 避難所を護り、群がる敵を鎮圧するため時音 ざくろ(ka1250)はここにいる。
「辛い避難生活を送っている人々や、避難所を護る人達を狂気VOIDや暴徒の好きにはさせられない。ざくろ達が護るんだ!」
 避難民を護るためには、敵を撃破し避難所を防衛することが必須だ。
 戦況や壁や防衛線を抜けた敵等の情報授受のため、八島 陽(ka1442)は強化人間兵も含めた味方のそれと通信機器を相互登録する。
「護りきるぞ!」
 歪虚を強化人間から離すことと、避難所を襲う暴走者を減らすこと。それがカーミン・S・フィールズ(ka1559)のすべきことだ。
 どちらも時間をかけられない。
「なら、私が『銃』の弾丸になればいいのよね」
 正門前で暴走者の背後に控えるVOIDたちを、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は見据える。
 VOIDを強化人間たちに近づかせてはならない。
「攻める方が向いてるんでな。歪虚たちを狩ってくるとしよう」
 正門のVOIDたちを魔箒に乗り眺めながらエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は作戦を立てた。
「暴走者は迂回、友軍と連携しつつ間引きや接近阻止を念頭に最大効率化を図る。……まあ、こんなところでしょう」
 まだ救える可能性のあるものを救うため、フィルメリア・クリスティア(ka3380)は暴走者や狂気VOIDと戦う。
「既に『手遅れ』だと言うのなら、これ以上の被害が出る前に処理を済ませたいものね」
 注意事項を簡単に説明した鳳凰院ひりょ(ka3744)は、ポーションを六個冴子に託した。
「冴子はこれで皆を助けてあげてくれ」
「わ、分かりました……!」
 受け取った冴子は、それらをすぐ裏門を守る強化人間兵たちや美紅に届けに行った。 
 コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は暴走者を攻撃することに全くためらいがない。
「単純な兵力なら敵が有利だが、作戦次第ではこちらにも十分勝機がある。獣の如く暴れまわるだけの連中に出し抜かれるな」
 同情がないとはいわない。感情的にも殺したくはない。それでも、助けられないなら殺すしかない。
「……やるべきことをやる、それだけだ」
 覚悟の上で鞍馬 真(ka5819)はここにいる。今更手が鈍ったりはしない。
「俺はレイジ。輝羽・零次だ。よろしくな。まさか先日手伝いに来たところでいきなり騒動とはな。ともあれ、じっとしてはらんねえな!」
 輝羽・零次(ka5974)は軽く自己紹介を済ませると、正門へ駆け出した。
 霧島 百舌鳥(ka6287)はブラック気味の冗談を飛ばした。
「やぁ美紅君! 探偵はいつも事件が起こってから到着するものさ! おや、割とハンターもかな?」
「……あなたらしいですね」
 毒気を抜かれたか、美紅が笑った。
 暴走者及びVOIDを殲滅し避難民たちを護るため、作戦の打ち合わせが始まる。
「避難所の皆を傷つけさせはしない! 守り抜く!」
 その結果、南護 炎(ka6651)はまず正門側の暴走者対応を行うこととなった。
 落ち着いて、蓬(ka7311)は準備を進める。
「こんな時こそ冷静に、です」
 焦って失敗するわけにはいかない。
 暴走者とVOIDに、強化人間兵と避難民たちが防衛に追われている。
 準備が済み、ハンターたちも全員が防衛に加わった。
 さあ、戦いの始まりだ!

●正門側の戦い
 暴走者たちの頭上を、鮮やかに残像が舞った。
 その正体は、炎のようなオーラをまとい、紅き花弁が舞い散るかのごとく内外から全身を急加速させたアルトだ。
 暴走者を飛び越えたアルトはVOIDへと攻撃を仕掛けにいく。
 さらに、強化人間達を含めVOIDの狂気対策として、ざくろが歌って踊り味方の抵抗力を高めた。
「お待たせ! 大丈夫、どんな狂気が心の隙間に忍び寄っても、ざくろの歌が闇を祓うから……じゃあ、聞いてください、希望の明日へ☆」
「至れり尽くせりだな!」
 触手が乱れ飛び、VOIDたちの視線がアルトへ次々に突き刺さるが支援を受けたアルトは歯牙にもかけない。
 フライングスレッドに搭乗した陽も、アルトに遅れてVOIDとの戦闘へ参加する。
 常に高く飛行し、避難所内外の状況把握はばっちりだ。
「制圧射撃を行う! 範囲内に入らないでくれ!」
 弾丸に雷撃を付加し、アサルトライフルで広範囲に制圧射撃を行い、VOIDたちの動きを止めた。
 使用済みのマガシンを排出し、陽は素早く次弾を装填するのも忘れない。
「私に出来るのは、この今を忘れない事だけ」
 フィルメリアの呟きが、ONにされたマテリアルデバイスから、味方の通信機へと流れる。
 強化人間達の負担を減らすために狂気VOIDを優先目標としたいが、そのためには暴走者たちが邪魔だ。
「密集しているなら好都合、先ずは其処に孔を開けます。此方の指示する射線からの退避を」
 強化人間兵たちが慌てて退避して空いた射線に押し入ってくる暴走者たちへ向けて、積層型魔法陣が展開され、フィルメリアによる扇状に炎の力を持った破壊エネルギーが噴射された。
「行くぞ!! まずは、避難所の安全を確保する!」
 地面を踏み、果敢に斬りかかっていくのは炎だ。
 無線からフィルメリアの呟きが聞こえた。
 正門に群がる暴走者の状況と、VOIDとの相対距離を意識するエラは、無線を通じて伝わってくる各員の戦況と戦闘方針を元に、攻撃対象を選定していく。
 優先すべきはVOIDだ。
 特に強化人間兵たちにはこまめに位置状況を伝達していく必要がある。
 歌声を響かせつつ、ざくろは押してくる暴徒を雷撃をまとった光の障壁で押し返し、盾を構えて強化人間達を庇う。
「迫りくる者も、押し寄せる闇も、吹き飛ばせ♪」
 VOIDの身体すら使い縦横無尽に走り抜けながら斬るアルトには、せいぜいまぐれ当たりが発生する程度で、それすらほとんどは彼女の防御を抜けられない。
「数で押せば勝てると思ったのか!? だとしたら心外だ!」
 囲まれるのを厭わないアルトは、むしろ好都合だとばかりに暴れ回った。
 暴走者の相手をしながら三条の光線を放ち援護するざくろの存在もあり、強化された生体マテリアルによる回復術やポーションで回復する余裕すらある。
 戦場を新式魔導銃の射程内に入れられる中で最も高く、足場が安定している場所を探すアニスは、ちょうどいい場所を見つけた。
「体育館の屋上が良さそうだ。校舎屋上は裏口からは近いが、正門側だと少し遠いな」
 ハンターの身体能力をもってすれば、体育館の屋上に陣取って狙撃態勢を取ることは容易だ。
 銃持ちかつ、こちらを意識していない、またはできない暴走者を探す。
「……いた」
 銃把を握り、照準を合わせて、発砲。
 銃声が轟き、暴走者が一人倒れる。
 ヘッドショットによるワンショットワンキルが成功した。
 時折マテリアルを込めた連続射撃を混ぜ込んで、狙撃位置の欺瞞も行う。
 無線の報告によると、強化人間兵たちはよく戦っているが限界は近い。
 暴走者たちを強行突破しVOIDを早期に殲滅し、応援に入る必要があるだろう。
 先行するアルトたちに続き悠は狂気VOIDへの対応を狙う。
「スマートな手段ではありませんが……敵の数を減らすのも必要、ですからね」
 戦場を俯瞰視したアニスは、敵VOIDの偏りに気付いた。
「すげぇな。あいつ一人にVOIDが半分くらい群がってやがる」
 いうまでもなくアルトである。
 強化人間兵たちの迎撃ラインが整うまで彼女に暴れてもらわなければならないので、アニスは銃持ちを撃ちつつ支援射撃も行うことにした。
 漏れたVOIDたちを、再び陽が弾丸をばらまいて牽制し、錬魔剣に持ち替えて三条の光線を放つ。
 暴走者を食い止める強化人間兵たちも、ロングブーツからマテリアルを噴射してジェット移動するざくろが歌の効果範囲に入れて支援しているせいか、はたまた本人たちが目を合わせないことを徹底しているためか、暴走せず安定している。
 暴走者の一体が正門から離れ、拳銃で陽を狙った。
「しまった! フライングスレッド狙いか!?」
 陽が空中で旋回し回避運動を取る中、狙うためVOIDたちの近くに寄っていたその暴走者を、アルトが背後からの不意打ちで昏倒させる。
「治せる見込みがなかったときならまだしも、今は治せるようだからな」
「孔は空きました。さらに楔を打ち込みます!」
 フィルメリアは前に出て狂気VOIDを有効射程に収め、三条の光線を乱射する。
 水泡にも似たオーラをまとい、正門周辺の攻勢を利用して、暴走者の壁を突破したエラは、フィルメリアに続きVOIDたちを強襲した。
「穿て、散矢。閃け、瞬矢」
 二種類の魔法の矢を次々に放ちながら、味方を巻き込まないタイミングを見計らう。
「散れ、散炎」
 噴射されたマテリアル炎がVOIDたちを舐め尽くす。
 狂気の感染に備え、機導浄化デバイスにカードリッジをセットしておくのも忘れない。
 最前線ではアルトが暴れているものの、それでも多数のVOIDが群がってくる。
 しかしそれは逆に好機。フィルメリアの火炎放射と重なり、文字通りの十字放火となった。
 炎の絨毯がVOIDを焼く。
 その後フィルメリアは霊氷剣、禍炎剣を浮遊させ、星剣と合わせて暴走者に波状攻撃を仕掛けた。
 それに炎の攻撃が合わされる。
「……VOIDが来なければ彼らはアプリを使って暴走することは無かったんだ……。せめて、苦しまないように一気に倒すぜ……」
 暴走者たちへ向けやるせない気持ちを胸に、炎は防御を捨て聖罰刃を大上段に構えた。
 大きく息を吸い込むことでマテリアルを丹田から全身に巡らせると、肉体を加速させ暴走者たちの懐に飛び込み、一刀で斬り裂いていく。
「……撃ち抜きます」
 マテリアルを込めた瞳で相手を捕らえながら銃撃とリロードを行い、蓬は敵をフィルメリアと炎の攻撃を回避しようとした暴走者に牽制を加える。
 続いて戦線を突破しようとする暴走者の移動先に射撃を行い、足止めする。
 当然残りの暴走者たちに取り囲まれ三人とも袋叩きに遭うが、その八割近くをフィルメリアと炎の二人は迎撃し斬り払う。
 残念ながら炎はパリィグローブに持ち替える暇がなかったようだ。
「あっ」
「大丈夫ですか!?」
 うっかり暴走者たちの気を引いてしまった蓬もタコ殴りにされ、慌てた強化人間兵たちに救出された。
 なお、群がっていた暴走者は風のようにやってきたアルトに直ちに叩き伏せられた。
 正門の防衛は辛うじて均衡を保っていた。
「被害を出すわけにはいかねえ! 皆の力で守り抜こうぜ!」
 零次が強化人間兵たちを鼓舞するが、いかんせん数が多い。
 強化人間だけではなすすべもなく狂気に侵され、避難所を襲ってしまっていたかもしれない。
「この人達も犠牲者……でも、ごめん」
 なるべくなら行動不能ですませたいが、ざくろはアルトのように手加減ができるほど余裕があるわけでもない。
「数だけは多いな……数だけは、な」
 血風を巻き起こすかのように振るわれる悠の聖罰刃が、元人間であろうと一片の情けも無く切り伏せ、VOIDへの道を開く。
 問いたげなざくろに、悠は逆に先んじて問い返す。
「何か問題でも?」
「迷うな! こいつら、無理やり入ってくるぞ!」
 バスを乗り越えようとする暴走者たちを、陽がとにかく銃撃して妨害を試み、時には錬魔剣で三条の光線を放ち複数をバスから撃ち落とした。
 炎は怒りを前面に押し出して叫ぶ。
「VOIDどもめ……お前らが来なければ暴走者だってアプリを使うことなんて無かったんだ。絶対に許さない!」
「月じゃ強化人間の暴走を抑える手段も確立されつつあると聞く。だったらここで死んでちゃもったいねえよ! せっかく希望の芽が出来て来てるんだからよっ!」
 零次のこの言葉に、強化人間兵たちが奮起した。
 真の展開した結界にも助けられた蓬は、強化人間兵たちを支援する。
 魔箒で射程内まで接近し、正門に近い暴走者から順に射撃を試みた。
 狂気感染の危険を軽減するため、射撃は可能な限り敵の側面へ回り込みつつ行ったが、何度かエラの機導浄化術に世話になってしまった。
「うう、狂気の感染、厄介ですね……」
「カードリッジが無駄にならなくて良かった。残業は嫌ですし、ここからは倍速でいきましょうか」
 事態終息を優先させたエラは暴走者への追撃を控え、単位時間当たりの処理数を稼ぐことにした。
「同感です」
 悠も前に進むことを優先し、攻撃を重視して構え、移動した勢いを転化させて素早く動きながら周囲の暴走者に何度も斬りつける。
 極限まで高めたマテリアルを解放しオーラとしてまとい、攻めは最大の防御とばかりに、最小限の回避運動で、避けれないと判断した攻撃を聖罰刃で斬り払い対応する。
 やはり盾を構える余裕はなかった。
「ちっと手荒くなっちまうのは勘弁な!」
 零次にしてみれば、攻撃の力をいなしながら暴走者を投げ倒すのは赤子の手を捻るようなものだ。
「ロープか何か持ってきてくれ!」
「そんな暇があると思いますか!? 避難民の人たちに頼んでください!」
 バリケード越しに銃撃を行った強化人間兵が叫んだ。
「お、おう。わりぃ」
 予想以上の剣幕に頭をかきつつ、せめてできるだけ被害がないように図ろうと動く零次だった。
 時折フェンスの方のバリケードに向かう暴走者は、蓬が味方に連絡し、協力して排除した。

●裏門の戦い
 コーネリアの戦意が滾る。
「力を手にした一般人などを使って、我々に勝てると思っているのか? 場数と覚悟の違いってものを教えてやる……!」
 校舎の屋上は裏門に押し寄せる暴走者やVOIDたちの狙撃に最適な位置だった。
 裏門へは十分届く。
(暴走者たちはとにかく突破し侵入を試みようとしている。VOIDどもは……高みの見物か。だが、こちらが盛り返せば動き出すだろうな)
 連合軍や警察、救急医療機関へ負傷者が出る可能性を通知しておいたが、今のところ音沙汰はない。
 正門側は上手くやっているようだ。
「すぐにVOIDを倒してくるから、もう少しだけ持ちこたえてくれ!」
 味方の強化人間兵や美紅の暴走を防ぐためにも、真が前線に飛び出して真っ先にVOIDを倒しに行った。
 ひりょも後を追って前線へ向かう。
(稽古をつけたが、少しは美紅の助けになれているのか……心配ではある)
 途中で美紅に話しかける。
「美紅、守りの方は任せた。早く蹴散らしてくる故、それまで何とか凌いでくれ。必ず援護に向かう」
「任せてください。私もすっかり武器の扱いには慣れました。何しろ、四六時中ずっと戦っていますから」
 よく見れば、美紅の強化人間兵たちと同じ防弾ベストから覗く肌は、傷だらけで激戦があったことを思わせた。
「やはり、VOIDが邪魔だ。仕掛ける。合わせてくれ」
 通信機の向こうから応諾が次々に入るのを確認し、コーネリアは弾幕の雨を降らせ、一度に削るとマテリアルを収束させ、狙撃銃の引き金を引く。
 発射された弾丸は変則的な弾道を描きながら次々に敵を撃ち抜いた。
「群れた相手は必ず門の外で阻止しろ! バリケードを突破させるな!」
「了解。把握したわ」
 通信に答えたカーミンの身体から、幾多の花弁の如きマテリアル光が立ち上る。
 機動戦術として昇華した技術が、移動するカーミンの軌跡に残像を残す。
 舞い踊るように駆け抜けながら暴走者たちをすれ違いざまに切り倒し、振り向いた琥珀色の瞳が強化人間兵たちを見て細められる。
「狂気の目に中てられないことが肝要よ」
 まるで巻き戻したフィルムのコマを見ているように、同じ軌跡で、されどより激しく、縦横無尽にカーミンが舞い踊る。
 魔箒で強化人間兵と暴走者を飛び越え、真はVOIDのど真ん中に下り立つ。
「この程度!」
 当然突出するので集中砲火を浴びるが、際どい一撃に苦痛で顔をしかめながらも、真は精神を統一し呼吸を整え生体マテリアルを魔導剣に流し込んだ。
 ひりょも真と同じく魔箒に乗って、強化人間と暴走者を飛び越えVOIDの下へ。
 集中砲火を浴びる真を見ながら少し前で着地し接近し、念の為魔法で自分の抵抗力を強化してから突入する。
 伸びてくる触手を打点をずらして致命傷を避けつつ、薙ぎ払って攻撃していく。
 時折治癒魔法を使いながら、倒せそうな敵単体へ降魔刀で追撃をした。
 真は淡く輝く魔導剣を構え、縦横無尽に動きながら何度も斬りつけ、さらに魔導剣に込めたオーラを解放し、連撃を放つ。
 魔力により加速を受けた一撃は重く、そして鋭く閃きVOIDを串刺しにする。
 魔法剣をかけ直した真は、強化人間兵に向かうVOIDを一気に間合いを詰めて斬り捨てた。
 カーミンはある程度暴走者たちが追ってくるのを確認しつつ、VOIDの後方から乱入する。
「近づけば近づくほど狂気の深度が深まるタイプかしら? 遮蔽物と、その向こうの情報が欲しいわ?」
「車が転がってる! 上手く使え!」
「喰らって確かめる気はしないな!」
 答える真とひりょの二人と前後から挟撃し、近くにあった車の陰に隠れ、通信機越しに尋ねる。
「上から見て、どうなってる?」
「こちらからは姿が見えんな」
 通信機から端的なコーネリアの声がした。
「絶対にVOIDと目を合わせるんじゃない! 暴走者が一人入ったぞ! ついてくるかね!?」
 強化人間兵に指示を出して走り出す百舌鳥の後を、美紅が慌てて追う。
 暴走者は冴子を狙い、美紅が叫ぶ。
「冴子!」
 驚いた冴子が持っていた弾薬の箱や荷物を取り落とし、倒れる。
 しかしそのおかげで辛くも攻撃は空を切る。しかし二撃目をかわせる体勢ではない。
 ぞわりと美紅から濃い負のマテリアルが噴き出すが、倒れた冴子が引き抜いたものを見て止まる。
 ……それは、あの日百舌鳥が贈った、オートマチックだった。
 冴子が必死の形相で引き金を引く。
 百舌鳥は歓喜した。
「ボクらだってヒトだからねぇ、知っている子達は特に大事なのさ……特にボクのような変人はね!」
 偏見なく構ってくれる相手は貴重だ。贈ったものを、大事に持っていてくれる相手も。
「……ただ、何度もいった通り戦闘は専門外だ! あまり保たないから、後は頼むよ!」
 暴走者の前に立ち塞がる百舌鳥の背後で美紅がアサルトライフルを、冴子が立ち上がってオートマチックを構えた。
 味方が駆けつけたのは、その直後だった。

●ハンターたちと二人の少女
 避難所の攻防は終わった。
 裏門で暴走者が一人侵入したものの、百舌鳥や美紅に冴子、そして駆けつけた仲間たちによってすぐに対処された。
 犠牲者が出ていてもおかしくない激しい戦いだったが、奇跡的に強化人間兵にも、避難民にも死者や再起不能者は出ていない。
 銃を託す。
 かつての百舌鳥の行いが、ある少女が暴走するかもしれなかった未来を変え、一人の少女の危機を打破した。
 これからも、避難所を巡る攻防は続くのだろう。
 いつかは崩壊の時が来るに違いない。
 しかし、冴子が百舌鳥のオートマチックを手放すことは、きっとない。
 あのオートマチックは、今でも冴子が大事に持っている。
 己の命を託す愛銃として。

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MVP一覧

  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥ka6287

重体一覧

参加者一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 拳で語る男
    輝羽・零次(ka5974
    人間(蒼)|17才|男性|格闘士
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥(ka6287
    鬼|23才|男性|霊闘士
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士
  • 絆を紡ぐ少女
    蓬(ka7311
    人間(蒼)|13才|女性|猟撃士

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マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/10/15 01:57:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/13 14:08:33