• 落葉

【落葉】毒の森に眠る曙光の聖女

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/12 19:00
完成日
2018/10/26 16:40

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●精霊たちのひそひそ話

 ゾンネンシュトラール帝国帝都の傍に聳え立つコロッセオ・シングスピラ。
 その裏に広がるささやかな自然公園のベンチに2体の精霊が日向ぼっこがてら身を寄せるとおもむろに口を開いた。
『なぁ、聞いたか? 庶民議会の話』
『ああ。皇族や軍と関係ないところから議員……だっけ? 帝国の政に関わる人材を選出するとか。軍人たちがどうなるものかって首を傾げていたのをさっき見かけたよ』
『おう。あれな、俺たちも何かしなきゃいけないんじゃないかって思うんだよ』
『んー。俺も正直、それは思った。保護されっぱなしじゃいつまでたっても自立できないもんな。でも俺らってそれぞれ考え方が全然違うじゃないか? 人間と仲良くしようって奴がいれば、居心地の良い場所があればそれ以外はいらねって奴もいるし、むしろ人間嫌いを拗らせてる奴もいるし……話し合いをしても堂々巡りにしかならない気がするんだよ』
『俺らの話を真っ当に纏めてくれる知性と話を聞かない精霊からも話を聞きだせるほどのカリスマ性を持つ実力者かぁ……』
『力を持つ連中はほとんど里帰りしちまったからなぁ、今残ってる面子から代表を送り込むってのは難しいと思うぞ』
『……そういや最近ラズビルナムの汚染が少しずつ改善されてるらしいぜ。もし、あそこであの方が今も祈りを捧げているとしたら……』
『何を言ってるんだよ、あの方が姿を消してからどんだけの時間が経っていると思ってんだ。きっと毒にやられて消えちまっただろうさ。悲しいけどな……』
 そう、精霊たちがうつむいた時。小さな小さな光の珠が木陰から飛び出してこう叫んだ。
『勝手なこと言うな、ローザ母様は生きてるよっ!』
 この光の珠の名はリン。かつてラズビルナムで木漏れ日の精霊として生まれた存在だが、帝国軍との戦いにより他所の森へ追いやられ、今まで辛うじて生きながらえてきた力なき精霊だ。
 そんな彼に対し、悲観的な精霊は慰めるように柔らかく声を紡ぐ。
『あぁ、お前さんがそう信じたいのはわかるよ。ローザリンデ様はお前や他の精霊たちを逃がすために命懸けの浄化術で道を造ってくださったんだもんな。でもな……』
 こうしてなんとか聞き分けさせようとする精霊に対し、リンは意地を張っているつもりなのか胸を張るように形状を歪ませると声を張り上げた。
『僕、母様が祈りを捧げていた祭壇の場所覚えてるんだからっ。ハンター達にお願いすればきっと母様を見つけ出してくれるはずだよ。だって母様は曙光の精霊として、光のある場所ならどこにでも行って浄化の力を揮ってくれた……とっても強い精霊様なんだから!』


●ハンターオフィスにて

 帝都中心部にあるハンターオフィスには今日も無数の依頼案件がところ狭しと提示されている。
 英霊フリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)は依頼書の写しを手に取ると、その内容に目を通すたびに沈痛な面持ちとなった。
 ――ラズビルナム浄化作戦。
 かつてフリーデはラズビルナム周辺の亜人と戦を繰り広げた過去がある。まさかあの大きな森が亜人の去った後、帝国により誰も立ち入れなくなるほど汚染されていたとは……。
(私がやったことはやはり過ちだったのだな)
 以前ならばこの写しをすぐさま棚に押し戻し他愛のない歪虚討伐依頼を受けたのだろうが、今のフリーデは違う。胸の痛みを感じながらも、そのひとつを受けようとしたその時――。
「ラズビルナムの探索のお仕事、お願いできませんかっ!?」
 年若い少女が息せき切ってオフィスに飛び込んできた。フリーデが写しを手にしたまま、瞳をきょとんとさせる。
『……探索? 浄化ではなく、か?』
「はい。ラズビルナムで今なお生存している精霊がいる可能性があると、自然公園の精霊さんが話していて……丁度、その精霊が宿っていた祭壇の位置もお聞きできたので地図もご用意しています。もっとも数百年前のものですから……多少の地形の変化はあるかもしれませんけど」
 少女は目の前の傷だらけの大女に少しおどおどした挙動を見せたが、それでもなお瞳に強い光を宿して語った。
 ――余談だが少女の名はメルルと言い、以前契約者に身を落としていたところをハンター達に救われたという。かつて苦しんでいた病は契約から解放された途端に不思議と寛解に向かい、現在は投薬治療を受ければ健常者と変わらぬ生活ができるため、今は精霊達の世話役を担いながら正のマテリアルを受けて身体のバランスをとっている――という話だった。
『そうか……自然精霊も自分達の社会を守るべく必死に考えているのだな。そして君もまた、彼らのために力を尽くそうとしている』
「はい。私はハンターの適性がないようですから救ってくださった皆様のお役に立つことはできません。でも、精霊様とハンターさんの間を取り持つぐらいのことならできるかなって……。それに私の服用している薬はある精霊様の庇護を受けた薬草が使われているそうです。ですからそのご恩返しにもなればと……」
『その心意気やよし。私でよければその依頼、受けさせてもらうとしよう』
 早速逞しい女戦士に依頼を受諾されたころで、メルルは顔を紅潮させて喜んだ。フリーデは早速その依頼書を高々と掲げ、同行者を募る。
『ラズビルナムで今なお救済のために祈り続ける精霊がいるという。その精霊を救う強者はいないか、我こそと思う者は拳を挙げよ!』
 その猛々しい声にすぐさまいくつもの声が上がったことは言うまでもない。


●腐毒の森

 ラズビルナムの森は既に多くのハンターにより浄化されているといえど、それでもあまりある広大な地が広がっている。
 フリーデリーケとハンターの一行は地図を片手に目的地に向かう道中に――幾度も雑魔と遭遇し、それを葬ってきた。
 そして目的地である巨大な樹木が見えてきた時、フリーデの脚がぴたりと止まった。
『光の……微弱だが、清らかな光の香りがする』
 その呟きに顔を見合わせ、笑みを浮かべるハンター達。早速樹木の傍で盛り上がった土をスコップで払ってみれば――透き通るような白い石が半身、姿を現した。
「きれいな祭壇……棺のような形をしているけれど、この中に精霊がいるのかしら」
 ハンターのひとりがそれを開けようとおもむろに手を伸ばした瞬間、ぞくりと悪寒が奔った。
 ――ガチ、ガチガチガチ……。
 負のマテリアルがこちらにいくつも迫ってくる。そのひとつひとつの力は弱いが、纏まった数に襲われては厄介だ。
『戦うしかないようだな……』
 フリーデが大斧を構える。ハンター達も祭壇を囲むように立つと、それぞれの得物を黙して構えた。

リプレイ本文

●残光

 ラズビルナムの森には常に強烈な負のマテリアルの臭いが漂っていた。
「……気持ち悪い。歪虚に似た匂い」
 濡羽 香墨(ka6760)が仲間と歩調を合わせながらも兜で覆われた端正な顔に露骨な嫌悪を漂わせる。澪(ka6002)がそれを気遣うように身を寄せると「もう少しだから。がんばろ」と微笑み、香墨へ自分と揃いのスコップを手渡した。香墨は親友に「ありがと」と笑みを返す。
 こうしてフリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)が示した地に到着するなり、皆とともに土を払うフィロ(ka6966)はその美しい顔に微かな険を浮かべた。
「香墨様の仰る通りですね。しかしこの汚染の原因はまだ不明だとか」
「単なる歪虚討伐で済む問題ではなさそうだな。帝国の首脳陣も頭を痛めることだろうさ」
セシア・クローバー(ka7248)が作業の手を止めぬまま頷く。ふとその時、彼女は足元に硬い手応えを感じた。よくよく見つめてみれば透明感のある白い石が薄く散っている。
「これは?」
 セシアの呟きを機に、一行はその周辺の土を丁寧に解していった。すると美しい祭壇――いや。中ほどに蝶番が施されている白い石櫃が姿を現した。そこから漂う光の気配。精霊の存在をを確信した澪はフリーデに近づくと、踵を高く上げて囁く。
「フリーデ、貴女に今から願うのは失礼なことだと思う。でも、聞いて」
『何だ』
 小柄な澪の背に合わせ、腰を落とすフリーデ。そんな彼女に澪が依頼したのは「帝国軍人と名乗らず、帝国所属を示す物も一切外すこと」だった。
『過去の諍いか、已むを得ないな』
 胸元に着けていた記章を外すフリーデ。澪は「ん」と頷き、穏やかな声で続けた。
「嘘をつくことはいけないこと。でも物事には順序があるし心情もある。まずは彼女やその周りの大切な存在を傷つける者がいないことを知らせることが大切……だと思う」
 一方でそれを見届けた白樺(ka4596)は安堵したのか無邪気に祭壇へ手をかけた。
「ねえねえ、この祭壇にローザリンデが眠っているの? 依頼書で見たの、ローザのこと待ってる子がいるの。絶対に護って、会わせてあげるの♪ あとあと、お友達になれたら嬉しいのっ」
 無垢な言葉にフィロが「私も彼女が良き隣人となることを望みます」と微笑む。
そしてふたりが重い蓋を開きかけた時――周囲から無数の殺意が向けられる。それはハンター達が戦場で幾度も感じてきたものだった。


●迫りくる死

「私は多彩な技の持ち合わせも使いこなす技量もありません。ですので前に進もうと思います。皆様、祭壇の警護をお願いします!」
 負のマテリアルの気配を感じ取ったフィロは誰よりも先に地を抉るほどの強力な脚力で北へ向かって駆けだした。
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)は空から接近する黒い影を見るなり気に入りの玩具を前にした子犬のような顔をフリーデに向ける。
「わぅー? 全部じゅっとしていいです?」
『あぁ、お前にはそれができる業があるのだろう?』
 ふっと笑ってフリーデが南へと駆けだす。セシアはその背に凛と声を張った。
「フリーデリーケは前に出るのか。頼りにしている!」
『ああ、任せてくれ』
 そんなふたりの間でアルマは慌ててバイクのアクセルを吹かせた。
「お姉さん、どこに行くです? いくら強力な歪虚の気配がないといっても危険ですよぅー」
『アルマよ、私は歪虚には格好の餌だ。なればこそ、ここで佇むわけにはいかん。流れ弾ひとつこの祭壇に中てるわけにはいかぬだろう?』
「つまり?」
『フィロの向かった北も相当だが、南も賑わっているようだ。要は囮になると言っているのだよ』
 久方ぶりに好戦的な笑みを浮かべるフリーデ。アルマは頬を膨らませた。
「仕方ないですねえ、お姉さんの背中は僕が守るです。骨さんや鳥さんに好き勝手されるのは気に入らないですからねー」
 そう言うなり彼は盾を宙に浮かべた。そして蒼い炎の幻影を纏う腕を天に翳すと3つの光が流星のごとく天を駆け、こちらに直進してくる鳥型の雑魔3体を鮮やかに貫いた。まずは2体が宙で燃え尽きる。残り1体は辛うじて態勢を取り直したが、暴風を纏ったナイフが突き刺さり奇妙な悲鳴ごと消滅させた。
『まずは3体か。上出来だ』
「わふ。でも遠くからの殺気は消えていないです。きっと遠距離からの攻撃手段を備えている敵がいくつかいるですよー。どうにかしなくちゃです」
 警戒しているのか耳を張り、後方を振り向くアルマ。そこには祭壇の警護に当たる仲間の姿がある。必ず戻って来るとふたりは頷きあい、南へ移動を開始した。
 一方、警護に専念する白樺は祭壇を背に立つと、獣の力を秘めた化石を強く握りしめた。
「歪虚も雑魔も大っ嫌いなの! 絶対にこの中には一歩も入れないの!!」
 正しき心に基づく拒絶の意が強固な壁を造り上げる。
 その隣で香墨は澪の大太刀に禍々しき光の力を宿らせた。
「あった方が、いいだろうから」
 素っ気ない言葉。しかしその瞳には小さな戸惑いがある。澪はそれをしかと感じ取った。
「香墨、この前のこと。気にしてるの?」
「……澪には。嘘を、つけない」
 小さく項垂れる香墨。実は彼女と澪はとある英霊と先日面会した際に対話を失敗し、苦い想いを抱えていたのだ。だが心配そうな澪に香墨が「大丈夫」と首を振る。
「精霊を守らなきゃ、何もできない。気になることはあっても、やることはやる」
「ん。香墨がその覚悟なら私も全力を尽くす。必ず皆を守る」
 そう言い残して澪は軽やかに駆けだすと、木陰から突進してきたスケルトンに強烈な居合斬りを見舞った。上下に分かたれた骨が黒ずんだ灰になっていく。
「まずは1体」
 澪はそう呟くと、次の獲物を得るべく鋭敏な眼で周囲をみやった。
 後方に控えるセシアは祭壇の東側にアースウォールを展開した。たちまち土が頑強な壁となるものの――慎重な彼女はそれを根本的には信用していない。瞬時に警護にまわる仲間たちの立ち位置を再確認すると、セシアはすり足気味に視界の開けた位置へと移動した。
(北側は大樹が壁と為す。南は白樺、東西は私と香墨が柔軟に対処しよう。問題は音だ。枝や草を踏む音、動作音、飛行音……一瞬たりとも気を抜くわけにはいくまい)
 セシアは己の指先と脳にマテリアルを収束させた。ぞろぞろと土を踏む音、悲鳴に似た奇妙な鳥の声が耳をつく――セシアは確信した。決戦は近いと。


●最も死に近い森での血闘

「その矢、一本たりとも撃たせません! お覚悟!!」
 北の地で弓を持つ骨に向かい、フィロが鎧通しを込めた掌底を2度、繰り出した。その驚くべき速さの業の根幹にあるものは「鹿島の剣腕」。彼女が与えられた星神器「角力」に秘められた力だ。
『ア……ガッ』
 スケルトンが得物ごと砂と化すのを見届けたフィロは再び索敵に向けて感覚を研ぎ澄ませる。強い決意をもって。
(立ち位置を変えぬまま殺気を保つ者こそ弓を持っている可能性が高いはず。それらが私の倒すべき、敵!)
 既に剣を持ったスケルトンと幾度も交戦しながらも、マテリアルの盾で負傷を防いできた彼女の戦意は折れることを知らない。生命の存在しないこの森で弦を引く音が聞こえた瞬間、彼女は再び両の脚に俊足を叶えるべくマテリアルを巡らせた。
 その頃、南では。
「わふー。フリーデお姉さんが囮やるなんて言うからです!」
 アルマが「ぷん!」と唇を尖らせながらデルタレイを発動させた。アルマとフリーデを囲むスケルトンが次々と燃え尽きていく。しかしフリーデとアルマもまた負傷を重ねており、互いに笑みを浮かべる余裕はなかった。
『すまんな』
「わう。ここまでガウスジェイルでお姉さんを守ってこられたのは良かったですけど……無茶はしないでください、本当に……」
 長い耳をへろりと垂れるアルマ。するとフリーデは『そうだな』と呟き、胸元から半ば錆びたロケットを取り出した。
『これは私の依り代だ。歴史に消えたカレンベルク家の紋が唯一残る……私の最後の存在証明。これがあるからどの地であろうと私は戦える。しかし私に何かあった時は……』
「わふ! やめてください、悪い冗談なんて僕、笑ってあげられませんよ!」
 フリーデの腕を押し返すアルマ。その瞳には宝物を失うことを恐れる子供の如き真剣さがあった。
『すまん。まだ倒すべき敵がいるのにくだらん感傷に溺れたな。先へ進まねば』
「うん、それでこそお姉さんなのですー!」
 アルマは満面の笑みを浮かべたが――その奥にどこか埋火のような不安を感じ始めていた。


●聖櫃の守護者たち

 激闘を繰り広げるのは南北の前線のみにあらず。祭壇を模した石棺の周囲には前線に出た3名の目を掻い潜ってきた死者たちが次々と集まってきた。
「もぉぉぉっ! シロ、か弱いんだから来ないでなのー!」
 ディヴァインウィルを張り続けるためうまく身動きの取れない白樺。彼は盾を振り回し、防戦を繰り広げるのが精いっぱいだ。
「歪虚は最後には全部壊しちゃうから嫌いなの。悲しい事しかできないくせに! 壊しちゃうしかできないくせにっ!!」
 そう叫んだ彼はスケルトンが投げつけてきた剣を盾で払い落し、それを華奢な脚で強く踏みつけた。ディヴァインウィルには遠隔攻撃を阻む力がない。ならばこの身をもって白樺は精霊を守るしかないのだ。
(ローザ、皆に必ず会わせてあげる! ひとりぼっちは悲しいもの!)
 白樺が再び盾を構えたその時、うら若き乙女の悲しい唄が戦場に広がった。旧き指輪により力を強めた、死者を深淵へ引き摺り込む唄が雑魔どもの動きを強張らせていく。
「この祭壇は……お前たちが。触れていいものじゃない。うごかないで」
 そんな香墨の拒絶の言葉に畳みかけるように澪が敵陣に飛び込むと、まさに縦横無尽の剣技が死者どもを容易く粉砕した。
「あともう少し。香墨!」
「うん」
 香墨の唄は尚も美しく空に響き渡る。そこに鳥型の雑魔が半ば直滑降の体でセシアに飛び込もうとした時――彼女の魔法の矢が両翼を身体ごと貫いた。
「私が宙から目を離すほど迂闊と侮っていたのか? ならばそれは認識が甘すぎるというものだ」
 地面に叩きつけられた雑魔、そして武器を失ったスケルトン達が歯ぎしりのような不気味な声を上げて祭壇を囲むハンター達を睨みつける。しかしその醜い声が絶えるまで然程時間はかからなかった。


●聖櫃に納められたモノ

「皆様、雑魔の駆逐は無事完遂できたようです。帰路の安全も確保しました」
 フィロは皆の無事を確認すると、縮地移動を駆使して瞬時に見回りを行った。メイドらしく一礼する彼女に一同は戦いの終結を実感し、安堵のため息を漏らす。
 するとアルマが「わふ。それじゃローザさんには気持ちよく起きてもらいましょー」と言い、背中に巨大な機械の翼を展開した。その翼が砕けるごとに負のマテリアルも滅されていく。
「空気、綺麗になった」
 ぽつりと香墨が呟く。そこで早速白樺が祭壇の蓋へ手をかけた。澪とセシアもともに。軋む蝶番。しかし開かれたそこにあるモノは一本の刀だけ、だった。
「遅かった……の? ごめんなさい……」
 白樺が消え入るように声を発し、鞘ごと刀を抱きしめる。彼はせめてもとピュリフィケーションを発動させた。すると不思議なことに、その刀から光が放たれ、妖艶なエルフが姿を現した。白の長身、金の長髪、薄明のごとき群青の戦装束。それらが具現化できたのはアルマと白樺の浄化により負のマテリアルから解放されたからだろうか? しかし朦朧としているのか、その瞳は虚ろだ。
 だが白樺はその目の前の奇跡が嬉しくて仕方ない。涙をこぼしながら微笑みかけた。
「はじめましてなの。シロは白樺っていうの、ローザリンデが生きていてくれて嬉しいの!」
 その時、ローザリンデの耳がぴくりと動いたのをセシアは見逃さなかった。
「おはよう、優しき森の方」
 知的な顔立ちに優しさと喜びと歓迎の意を示して。澪も表情をほころばせ、敬意を表すべく胸に手を当てた。
「私は澪。鬼。貴方を起こしに来た。逢えて光栄」
『お……に?』
 ローザの唇から低い声が漏れる。すると香墨が兜を脱ぎ、前髪を掻き上げた。傷ついた角が露出する。
「私は香墨。貴女の知っている時代ではきっと亜人として虐げていられていた存在。私も色々あったけど。今のここは、みんな手をとりあっている。そしてここにいるままじゃ貴女は危険。だから……一緒に来てほしい」
『きけん……? ああ、そうだ。仲間達が帰ってこられるように私は……何度も帝国軍に懇願して、浄化をして……でも、間に合わなかったんだ……』
 彼女いわく消失する直前に昔世話をした亜人たちが命懸けで森に侵入し、彼女を石棺に封印することでその命を救ってくれたのだという。
『あれからどれだけの時間が流れた?』
 重い瞼をまぶしそうに広げるローザ。そこでアルマが自己紹介をしつつ帝国史を簡潔に解説する。するとローザは胡乱げな瞳を彼に向けた。
『あの帝国がかい?』
「うー。でもでも、帝国が昔のままだったなら僕なんかとっくに狩られていると思うんですよ?」
 アルマが柔らかい髪を揺らせば長い耳がぴょこりと動く。その様にローザは『それもそうさね、それが平和になった証拠ってやつか』と小さく笑った。
 澪がローザの刀をそっと撫でる。
「帝国は時の流れとともに大きく変わっている。現にこの通り、安易に精霊へ刃を向けることはなくなった。貴女に助けられ難を逃れて無事に過ごしているモノもいるという。貴女の生存を信じて。会ってあげてほしい」
『何、あの子らが生きていると言うのかい?』
 恐らく本心では彼らの生存を諦めていたのだろう、ローザの瞳が輝きを取り戻した。アルマが満面に笑顔を湛え、両腕を大きく広げる。
「わぅーっ。ずっと待ってる子いるです! だから少しだけ避難するです! 避難先の公園もすごく良い所ですよ! 僕知ってるですー!」
『そうか、そこに行けば、また会えるんだね……。でも……』
 どこか名残惜しそうに周囲を見回すローザ。その時、白樺が彼女の腕にしがみついた。
「あのね……シロ、浄化術を使えるの。この森をほんの少しずつだけど、きれいにできるの。シロにローザのお手伝い、させてほしいの。だからね、一度、皆に会って。身体を治して。皆で一緒に力を合わせて人も精霊さんも全員幸せになるの。……それじゃ、駄目?」
『お前はリンにそっくりだ。あの子もあの日、最後まで私と一緒に戦うって我がままを言ったんだよ。この腕を掴んでね。ありがとう、可愛い子』
 そう言ってローザは祭壇の周囲に散乱する骨の中で白いもの、おそらくは彼女を封じた亜人のものを優しく撫でた。そして――立ち上がる。
『皆、ありがとう。私はもう一度、この地のために戦うよ。お前たちの子孫と精霊たちが再び実り多かったこの地に還って来られるように』

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  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺ka4596
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901

重体一覧

参加者一覧

  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺(ka4596
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • レオーネの隣で、星に
    セシア・クローバー(ka7248
    人間(紅)|19才|女性|魔術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/09 11:49:11
アイコン 質問卓
濡羽 香墨(ka6760
鬼|16才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/10/12 01:15:53
アイコン 相談卓
濡羽 香墨(ka6760
鬼|16才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/10/12 05:46:07