イノセント・イビル 悪意の発芽

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/14 09:00
完成日
2018/10/22 18:18

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「お前たちはダフィールド侯爵家の為に命を捧げることを誓うか──?」
 その様な物言いで、『ソレ』は私の部下たちにその力を受け入れさせた。
「シモン様の御為に、私はこの命を捧げます」
 その力の正体と、私自身が内に抱える暗い想いを知って尚。家に対してよりも私個人に忠誠を向ける子飼いの部下たちに対しては、より強大な力が与えられた。……最終的には雑魔と融合し、人外と成り果ててしまう程の力を。
 それは植物の種子の様な形状をしていた。その力を使って、私は父より長を務めるよう任じられた秘密警察の組織内部から、父の影響力を慎重に慎重に希釈していった。私の内に抱えた悲願──父の殺害を果たす為に。
 やがて、長男カールのクーデター騒ぎを利用し、己が念願を果たさんと行動を起こした私は……知らぬ間にその『力』を己にも植え付けられていたことを知った。
 『暴走』し、大勢の──大切な人たちに迷惑を掛けてしまった私を最終的に止めたのは、四男ルーサーと縁を結んだハンターたちだった。
 救い出された私は館の地下牢に監禁された。監禁と言っても実質的には何の拘束もされていなかった。父と兄によって見張りに宛てられた2人は生き残った子飼いの部下だったし、それは即ち「逃げたければいつでも出て構わない」という家族なりのメッセージであったろうが……
 牢で本を読むばかりで一向に逃げようとしない事にほとほと呆れたのか、家督を継いだ長兄が「いつまでもサボるな」とばかりに私へ再び秘密警察の長の任を持って来た。流石にそこまで厚顔ではないので辞したが、代わりに元の部下たちが処理に困った案件の相談にちょくちょく顔を出すようになった。
 私は兄や部下らに心底呆れ返りながら……必要な案件に限って、地下牢に座したまま助言を行うことにした。
 母の無念と父への憎悪── それに囚われた私が喪ったと思っていたものは、ただ見失っていただけだった。末っ子のルーサーを中心に、あるべき姿へと戻った家族の姿── だが、それは過去の私自身の愚かさによって再び破壊される事となる。

「やあ。再び権力の一端を担えるようになったんだって? となるとまた僕の力が必要だよね」
 座敷牢で案件を記した羊皮紙を見ている時に、『ソレ』は唐突に現れた。
 以前に会った時と決定的に違うのは、その姿がかつての私の部下──庭師として館に潜り込ませた男の姿をしていたこと。だが、姿形こそ同じであるが、その『中身』はまるで別の存在であることは、内側から威圧的に漏れ出す負のマテリアルからも明白だ。
「何をしに来た……?」
 私は冷や汗を必死に押し隠しつつ、そっと身構えた。『看守』である子飼いの部下のベテランの軽装戦士2人が私を背に庇って抜刀する。
「何をしに来たって……さっき言ったでしょ? 二度も言わせないでよ、面倒くさい…… 君が再び責任ある立場に着いたっていうから、こうして僕の『種』を持って来たんだよ。前に配ったのはもう無くなっているだろう?」
 表情筋を動かすのも面倒なのか、飄々とした語り口とは対照的に全くの無表情で『彼』が手の平の上に乗せた真っ黒な『種』を見せながらそう告げた。
 私の罪──その象徴たる『種』を見せつけられて眩暈を覚えつつ……それでも私は頭を振る。
「……私はもう二度と公職には復帰しない。君の力を借りたことは私の間違いだった」
「ふぅん……?」
 私が告げると、『彼』はそれきり私に興味を失くした様にそっぽを向いた。
「これが心変わり、ってやつかぁ…… ホントに人間ってやつは面倒臭いね……」
 また一からやり直しだ、と呟きながら、『ソレ』は背を向け、歩き出し……ふと何かを思い出したように足を止め、振り返った。
「そうだ。これもケジメってやつ? だからね。不要になった道具はきちんと後始末をしていかないと…… どんなに面倒臭くってもね」


 地下牢から続く隠し階段の先、館の広いエントランス── 全身、血塗れの『ソレ』を出迎えたのは、侯爵家の兵隊たちだった。
 表情のない庭師の顔で「おや」と呟く『ソレ』の前に一人の男が現れる。それはダフィールド侯爵家の前当主──カールやシモン、ルーサーら兄弟の父、ベルムドだった。
「おやおや、これはベルムドさん。ちょうどいい。これからあなたに会いに行こうとしていたところだったんだよ。つい今しがた得意先の一つを失くしてしまったところでね。僕の『力』を買ってくれないかい?」
 『ソレ』は槍衾を前に営業スマイルを浮かべながら、そう『売り込み』を掛けて来た。──いやー、負のマテリアルをばら撒くならば、権力者の力を利用するのが一番効率がいい。どうだい? 僕の力を使って奪われた家督を取り戻し、再び王国に覇を……いや、全世界を相手に喧嘩をしてみる気はないかい? と……
「……そいつはおもしろい」
 ベルムドの返事に周囲の兵たちはぎょっとなった。彼らが一瞬、本気と考えてしまう程、ベルムドは王国の政治・社交界において奇傑、偏物、酔狂者として知られている。
「だが、その前に……」
 その笑みに凄みを加え、ベルムドが歪虚に問うた。
「聞いておかねばならぬことがある。……貴様、私の息子をどうした……?」


 オーサンバラの侯爵館が燃えていた。数百年の歴史を持ち、何度もの増改築を経て侯爵家の中心であり続けた王国政治史の舞台の一つが、炎に包まれ燃え落ちようとしていた。
「これはいったい何があった!? 親父は……シモン兄は?!」
 凶事を知り、ニューオーサンの街から広域騎馬警官隊を率いて駆けつけて来た三男ソードが、その火勢に為す術もなく消火を諦めた村長に下馬して詰め寄る。
 分かりません、と村長は頭を振った。村人たちが火事に気付いたのは館がすっかり炎に包まれてからのことだった。しかも、事情を知る者──即ち、館から出て来た者は只の一人もいなかったという。
「あ、いや! 全身血塗れになった男が一人、玄関前に立ち呆けておりました。あれは確か……お館の庭師の男。声を掛けるこちらを無視して街道の方に歩いていきましたが……」
 ソードは馬上に戻ると一人、拍車を掛けてそちらへ駆け出した。広域騎馬警官隊の部下たちが慌ててそれを追う。
「伝令! すぐにニューオーサンのハンター事務所(出張所)に赴いてハンターたちの派遣を要請してくるんだ!」
 副官のヤングが、隊で一番馬足の速い隊員を呼び止め、そう命じた。
「しかし、転移門は遠く離れています。依頼しても間に合うかどうか……!」
「それでもだ! 急げ!」
 部下の馬の尻を叩きながら、ヤングは主の後を追った。
(嫌な予感がする……!)
 そう奥歯を噛み締めながら──

リプレイ本文

 ベルムドからカールへ代替わりした後、ニューオーサンの街に新たに開設された、支部よりも小さな出張所── 依頼や報告、物見遊山等、それぞれの理由で訪れていたハンターたちは、息せき切って駆け込んで来た制服姿の男に、驚き、目を丸くした。
「そこにいるのは何やら見たことあるお兄さん。……そんなに血相変えて、どしたの?」
 恋人のルーエル・ゼクシディア(ka2473)と共に来ていたレイン・レーネリル(ka2887)が、その只ならぬ様子に目をしばたかせて事情を訊ねる。
「……聞いた限りだと、あまり良い予感のしない状況だな。何にせよ、急いで向かわねば……」
 ロニ・カルディス(ka0551)が言い終わるより早く、シレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)の二人は出張所を飛び出していた。繋いでいた馬に跳び乗り、一目散に拍車を掛ける。
「落ち着いてください! 馬が潰れてしまっては、辿り着くことすら出来ませんよ!」
 それに追いつき、諭して速度を緩めさせたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)も、目的地に駆け抜ける途上で遠目にしたオーサンバラの光景に言葉を失くした。
「館から火が……!」
 呻き、唇を噛み締めるルーエル。……ルーサーを送ってきて、あの館には長く滞留した。侯爵家の人たちは勿論、顔馴染みになった使用人たちも多くいる。
「……やはり、あの種子がらみの事件でしょうか…… まさか、こういった形で凶事を芽吹かせるとは……ッ!」
 不覚、と奥歯を噛み締めるアデリシア。二ケツ(タンデム)に乗ったルーエルに振り落とされないよう告げてアクセルを全開にするレインの表情にも余裕はない。
「走れ、走れっ!」
 ユーレン(ka6859)は馬に更なる鞭を入れた。普段は重い自分を乗せる馬を労って走らせるのが常だが、その分別も失せていた。
 この時、ユーレンの脳裏には、幼い頃、歪虚に滅ぼされた故郷の村が重なって見えていた。──かつて全てを失った。育ててもらった恩も忘れ、戦う為に出奔した。それを愚行と断じて尚、そうせずにはいられなかった。……自分はあの時、里の皆と一緒に一度死んだのだ。我は死人──仇である歪虚どもを滅ぼす他に、いったい何ができよう……

 ……村を抜けて、森へと入る。ただひたすらに続く街道の先に、やがて、倒れ伏した大勢の広域騎馬警官たちの姿が見えた。
 そんな中にただ一人、剣を杖代わりに膝立ちで荒い息を吐くソード。その傍らには、庭師の男──!
「撃って、お姉さん! もし歪虚じゃなくても僕が責任をもって治すから!」
「うん!」
 ルーエルの言葉に、レインは迷うことなく散弾銃を発砲した。

「もうすぐ君は死ぬ。君の部下たちも」
 致命傷を負いつつもなお諦めぬ瞳で見返して来るソードに、庭師の男は淡々と現実を突きつけた。
「でも、君たちが助かる方法が一つある。……なに、簡単なことさ。僕の『力』を受け入れてくれればいい。僕は特に「あれをしろ」とか「これをやれ」とか命じたり強制したりするつもりはないよ。使った分だけ対価は頂くけどね」
 ソードは答えを迷わなかった。
「くそくらえだ」
「……君も同じ台詞を言うんだねぇ。このままだと死んじゃうのに。分からないなぁ……」
 庭師が呆れた様に溜め息を吐いた時、遠くに魔導バイクの爆音が響いた。顔を上げてそちらを見るといきなり銃弾を浴びせられた。
 被弾して一歩後に下がった庭師を、雄叫びを上げながら突っ込んで来たユーレンが巨大な八角棍で殴りかかった。その間に、他のハンターたちがソードたちと庭師の間に割り込んだ。道を駆け抜ける馬から着流しを風になびかせつつ優美に飛び降りたハンス・ラインフェルト(ka6750)が、まだ無事な警官たちに向かって「下がってください、巻き込まれますよッ!」と大きな声で呼び掛ける。
「……どうやら最悪の転科だけは回避できたようだな」
「何とか間に合いましたね…… ソードさんまで死なせてしまっていたら、ルーサーに顔向け出来ないところでした」
 戦闘モードに入ったアデリシアに頷きつつ、退いてくるソードの部下らに手を貸すサクラ。動けない生存者はシレークスやルーエルが後方へと引きずり戻し。アデリシアはその内の一人、ヤングに『フルリカバリー』を掛けつつ、到着するまでの状況を訊ねる。
 庭師が反撃に出た。無造作に負のマテリアルを放って身長180を超えるユーレンを大きく弾き飛ばす庭師。ロニが咄嗟にユーレンの身体を『ホーリーヴェール』で包み、その強烈な威力を強力な防御膜で大きく軽減する。
「……歪虚だね。前に聞いていた『庭師の男』とは貴方……いや、お前か?」
「強力な正のマテリアル…… なるほど、君たちがハンターというやつか」
 ソードを『フルリカバリー』で癒すルーエルの問い掛けには答えず、砕け散った燐光を見て独り言つ歪虚。物言わぬ躯と化した警官の遺体を地面にそっと横たえたシレークスが、奥歯をギリと噛み締め、立ち上がる。
「……好き勝手やってんじゃねぇぞ、あぁっ!?」
「落ち着いてください。熱くなりすぎて冷静さを欠けば思わぬ不覚を取ることになりかねません」
 そう言って手を引くサクラの冷静さが癇に障って振り返ったシレークスは、友人のその表情を見た瞬間、彼女も想いは同じであると知る。
 シレークスは大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出すと……剛力を漲らせた拳を打ち鳴らしながら、問いかけた。
「私が訊きてぇのは一つだけでやがります。てめぇ、シモンやベルムドを…… そのほか、多くの従僕やメイドたちをどうしやがりました? 答えやがれっ!」
 シレークスの怒りに、庭師は呼応しなかった。むしろ、なぜその話題が今のこの状況に関係するのか、本気で分からぬようだった。
「へぇ。あそこには他にも人間がいたんだ……? 館ごと包み焼きにしたから分からなかったなぁ。溢れ出すほど油分たっぷりの蔦で館をすっぽり覆わせて、内部の主要な廊下にも蔦を這わせておいて、後は簡単楽チン、火をボッと……」
 そんな……とレインは絶句した。確かに、シモンもベルムドも『善人』と断言できるような人ではなかった。でも……
「お前たちは……お前たち歪虚はいつもそうだ!」
 文字通り鬼の様な形相で、再度、ユーレンが庭師に打ちかかる。「てめぇは必ずエクラの名の下にぶちのめす……!」と飛び出そうとしたシレークスは、だが、血を吐く様な叫びを上げて歪虚に突っ込もうとするソードに気付いて却って冷静さを取り戻し。落ち着け、と叫びながら、獣の様に暴れる彼をその場に引き留める。
「警官隊は退避を! あいつはこちらで引き受ける!」
「貴方がたは敵の退路の封鎖と怪我人の救助を優先させてくださいッ!」
 手早く指示を出すロニとハンス。侯爵家に関わったハンターたちは、皆、多かれ少なかれ歪虚に対して感情的になっている。ならば、自分たちは努めて冷静に戦況を把握しなければ……
「レインお姉さん、大丈夫?」
 寄り添うルーエルにレインは涙を拭いて、散弾銃に次弾を装填した。
「……仇だ何だと言うつもりはないよ、ルー君。私があいつを許せないだけ。……知人に危害が及ぶってんなら、手加減できないね。倒すしかない」

 ロニがバリトンで奏でる聖歌──『レクイエム』が朗々と響き渡る中、戦闘は再開された。
 味方の先頭、敵の真正面に立って敵と切り結ぶユーレンへの加護を求め、戦神へ祈りの歌を捧げ始めるアデリシア。退く警官たちの殿に立ってその後退を援護していたルーエルもまた異なる神、異なり祈りで同様の加護を前進するハンスへ付与をする。
 その加護を受けながら、ユーレンは亡者の嘆きの様な風切り音を振りまく八角棍を庭師へ振り下ろした。バックステップで躱した敵へ更に大きく踏み込みながら、手首の返しだけで棍を捻って再び逆袈裟に振り上げる。鬼の膂力を活かした真正面からの力押し──それがユーレンが自身に課した真骨頂だ。攻撃は受け止め、負った深手はすぐに自身の手で癒す。どんなに反撃を受けようとも一度踏み出した足は決して後には戻さない。ただひたすらに前進し、敵に圧を掛け続ける。
 そんなユーレンの戦い方が剛ならば、一方のハンスは柔だった。……いや、柔と言うよりは『鋭』だろうか。走りながらハンスがキンッ、と刀の鯉口を切った次の瞬間、目に見えぬ速さで放たれた無数の剣閃が歪虚とその背後の空間を一瞬で切り刻む。相手が人であればパッと華の如く血煙が舞ったところであろうか。
 それを見ながら、サクラは自身に『プロテクション』を掛けつつ、大きく横へと回り込んだ。そしてそのまま敵側方に張り付き、魔法剣の投擲によってハンスとユーレンを支援する。
(相手の能力が分からない…… ここは防御しながら注意しつつ行動した方が良さそうですね)
(正体や目的、能力など……まずはそれらの詳細を探り出す……!)
 ロニもまたサクラと同じ方針を立てつつ、側面のサクラと正面のハンスとユーレン、そのどちらも支援できる位置へと歌いながら移動する。
 ハンスは聖罰刀を正眼に構えたまま円舞を舞う様にすり足で敵との間合いを計りつつ、小さく光刃を振るって敵に出血を強いていたが、敵に隙が見えようものなら一気に踏み込み、手首や喉元といった急所──歪虚が同じとは限らないが──を狙って果敢に剣閃を浴びせ掛けた。
(こちらの前衛は三人。後衛には癒し手も多くいる── ここは怪我することを恐れず、逃がさずに討伐することを優先する……!)
 ハンターたちの猛攻に、庭師は心底面倒くさそうな表情を浮かべた。ロニから放たれる光のマテリアルの圧迫に痺れが走る手を見下ろし、零す。
「……予定外の『遭遇戦』とか、ホント勘弁して欲しいんだけど。今の手持ちは……これだけだし。まいったなぁ、ホント面倒くさい」
 庭師は懐から漆黒の『種』二つを取り出すと無造作にそれを握り潰した。現れたのは空中を蛇の様にのた打ち回る長い長い蔦だった。一つは庭師の身体に巻き付き、鎧の様に全身を覆い。もう一つは空中に蟠る一塊と化してハンスとユーレンの前へと広がる。
「こんなもの……!」
 ユーレンはそれを吹き飛ばそうと八角棍で殴りかかったが、まるで綿でも殴ったかのようだった。ハンスの斬撃もまた同様に。水に浮かんだロープを剣で斬りつける感覚、と言えば分かり易いだろうか。
 逆に、二人の攻撃を受け止めた蔦はうねうねと蠢きながら、得物から腕を伝ってその身体に絡みつき始めた。防具の無い場所、或いは隙間から入り込んでは、茨の棘で締め上げる。
 そうして蔦が正面の二人を阻んでいる間に、庭師は側方のサクラへ距離を詰めた。戻って来た魔法剣を空中に掴み取り、カウンターを突き入れるサクラ。それを歪虚は力任せの負のマテリアル放射によって道の端の森の木の幹へと吹き飛ばし。背骨を折りかねない程のその衝撃を、ロニが強力な光のヴェールでサクラの身体を包んで大きく軽減する。
「! あの蔦、結婚式のと同じ類の……!」
 サクラの言葉にルーエルも頷いた。まさに決定的な証拠というやつだった。
「やはりアレを持ち込んだのは貴様か…… ならばここで滅ぼさなければなるまい」
 告げるアデリシア傍らを通り過ぎ、靴底を滑らせながら前衛2人のすぐ後ろに停止したレインが、腰溜めに構えた散弾銃から『ファイアスローワー』──炎属性のマテリアルを扇状に噴射。「炎」はハンスとユーレンの間を抜けて空中に蟠る蔦の束を丸ごと呑み込み、2人に延ばされていた蔦が慌てて引っ込んだ。

 戦いは続く。純粋な戦闘力では庭師がハンターたちに優越していたが、実際の戦況はハンターたちの優位で進んだ。
 何しろ、庭師がどんなにハンターたちにダメージを与えても、ロニ、ルーエル、アデリシア、サクラの回復役4人(!)が立所に癒してしまうのだ。
「こっちが殴るそばから回復、回復…… まったくなんて面倒な……!」
 辟易する庭師へただひたすらに殴り掛かる怒りのユーレン。その間にアデリシアがワイヤーウィップを振るって蔦数本を纏めて巻き縛り……直後、サクラ、ルーエル、ロニの3人が『ブルガトリオ』の一斉投射で蔦を空中へと縫い付けた。
 次の瞬間、再びハンスの剣閃が煌いて……空間を満たすように放たれた斬撃が空中に固着された蔦を瞬く間に切り刻んだ。固着されてなかった部分も、鋏の様に上下左右から同時に裁断されてしまえば衝撃を逃がせない。
「マジか……!」
 蔦を滅ぼされた庭師は慌てて左右を見渡して……シレークスに羽交い絞めにされたソードに気付くと、負のマテリアルの全周噴射で周囲のハンターたちを吹き飛ばした後、人質に取るべく地を蹴った。
 その針路上に立ち塞がるルーエル。彼を排除せんと振るわれた庭師の攻撃は、だが、後方からダッシュしてきたシレークスによってそのベクトルを無理矢理捻じ曲げられ、万全の態勢で待ち構えられたカウンターを突き入れられた。
 そこへ浴びせられるレインの火炎放射。庭師を鎧っていた蔦が遂に耐え切れなくなって離れ…… 吹き飛ばされたハンターたちが戻って来て、全周から庭師を刺し貫く。
「これだから……能力の低い種は……」
 どぅと庭師の男が崩れ落ちた。ハンターたちは暫しそれを囲んで様子を見ていたが……起き上がってくることはなかった。
「……斃せた、だと……?」
 信じられないといった様に、ロニが真顔で呟いた。まさか何かのボスっぽく登場した歪虚がただの一戦で滅ぼせようとは……
「いったい誰の手先か……は、言う気はないのでしょう?」
 うつ伏せに倒れた庭師をつま先で仰向けに転がし、切っ先を突きつけながらハンスが訊ねる。
「……僕は誰にも仕えていないよ。少なくともそうありたいと思っている」
 そう言ったきり、庭師は事切れた。蔦が闇色の粒子と化して消失し、庭師の残骸だけが残った。
「庭師はただの仮の姿でしたか…… 魔に属する者ですね。誰の配下かは分かりませんでしたが……」
 他の聖導士たちと負傷者の手当てを済ませて、サクラ。
「偉大なる戦神よ。勇敢なる戦士たちの魂に栄誉と祝福を……」
 最後にアデリシアが戦死者に祈りを捧げて、ハンターたちはオーサンバラへと帰還した。

「誰か……誰か生き残っている人は……! ルーサーの為にも、どうか、誰か……!」
 館の消火を終え、救出作業にも加わったルーエルだったが……生存者はいなかった。戦いの始まる前に、ベルムドが使用人たちを避難させていたことがせめてもの慰めだった。
「あー、うー、ヤダヤダ。怒りというかさ、頭の熱が取れないよ…… 改めて実感させられる。たとえ仇を取ったとしても、なーんにも元に戻らないんだって……」
 立ち尽くす恋人の胸に、レインは額を押し付けた。

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参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 黒鉱鎧の守護僧
    ユーレン(ka6859
    鬼|26才|女性|聖導士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/12 12:24:08
アイコン 相談です…
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/10/14 06:33:29