ゲスト
(ka0000)
東方からの来客と秋の甘味
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/14 07:30
- 完成日
- 2018/10/25 13:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
秋。実りの季節。
とくに甘いものが収穫される季節というのもあろうが、芋や栗、かぼちゃといった甘い食材を使った料理や菓子のたぐいが好まれ、天高く馬肥ゆる秋――なんて言葉もある。……もっとも、本来の意味はまったく異なるのだが。
そしてそんな季節に、見慣れぬ装束をまとった黒髪の青年が、リゼリオの町を歩いていた。
「……もう、そういう季節なのだな」
青年はそう独りごちながら、きょろきょろと市場を通っていくのだった。
●
――辺境ユニオン「ガーディナ」は、静かに時間が過ぎていく。
彼の地――辺境は今まさに戦いの真っ最中だが、本来ならば例年この時期は実りを感謝することが多い。聖地の巫女たちも例外なく、辺境で採ることのできた実りに感謝した祈りを捧げたものだ。
しかし今年は状況が違う。怠惰王たるビックマー・ザ・ヘカトンケイルとの戦いによって辺境の多くが戦場と化し、実りを祝うどころの状態ではない。それよりも、辺境巫女でもあるユニオンリーダー・リムネラとしては、今回の戦闘で失われた多くの命を鎮めるための祈りを捧げたい――そう思っていたのだった。
ちなみに、ノアーラ・クンタウ付近からリゼリオに多くの避難民を連れてきた軍医・ゲルタは、すでに要塞都市に戻ってさらなる傷病者の面倒を見ているらしい。さすが、といえる行動力だ。
リムネラはその立場故、下手に動くこともできない。それでも、辺境の危機に何もできないのは心苦しくもあった。
――と、そんなときだった。
「失礼。ここは辺境のユニオンで間違いなかろうか」
聞き慣れぬ若い男の声に、補佐役のジークが返事をする。
「ええ、ここが辺境ユニオン『ガーディナ』です。あなたは?」
すると、見慣れぬ装束に黒髪を束ねた男は小さく頷きながら、
「ああ、私は東方から来た料理人で、ミクリヤといいます。私は西方の料理には縁があまりなかったのですが、甘いものが多い季節と聞いて……せっかくなら、ご教授願いたく思いまして」
そう自己紹介をすると、リムネラのすぐそばにいたヘレが、
「リムネラ、おかし!」
と、興味津々そうに目を輝かせて鳴いた。そういえば甘いものはヘレも好きだったので、興味を持ったのだろう。
「せっかくならハロウィンシーズンも近いですし、皆さんの故郷自慢の甘味を持ち寄るのはどうですか? ヘレの勉強にもなるし、ミクリヤさんのためにもなる。それに、少しでも気持ちを晴れやかにするには、甘いものでの気分転換もいいと思いますよ?」
ジークがそう言って笑いかけると、リムネラもわずかに笑い返した。最近疲れ気味だった彼女からこぼれた、久々の笑みだった。
秋。実りの季節。
とくに甘いものが収穫される季節というのもあろうが、芋や栗、かぼちゃといった甘い食材を使った料理や菓子のたぐいが好まれ、天高く馬肥ゆる秋――なんて言葉もある。……もっとも、本来の意味はまったく異なるのだが。
そしてそんな季節に、見慣れぬ装束をまとった黒髪の青年が、リゼリオの町を歩いていた。
「……もう、そういう季節なのだな」
青年はそう独りごちながら、きょろきょろと市場を通っていくのだった。
●
――辺境ユニオン「ガーディナ」は、静かに時間が過ぎていく。
彼の地――辺境は今まさに戦いの真っ最中だが、本来ならば例年この時期は実りを感謝することが多い。聖地の巫女たちも例外なく、辺境で採ることのできた実りに感謝した祈りを捧げたものだ。
しかし今年は状況が違う。怠惰王たるビックマー・ザ・ヘカトンケイルとの戦いによって辺境の多くが戦場と化し、実りを祝うどころの状態ではない。それよりも、辺境巫女でもあるユニオンリーダー・リムネラとしては、今回の戦闘で失われた多くの命を鎮めるための祈りを捧げたい――そう思っていたのだった。
ちなみに、ノアーラ・クンタウ付近からリゼリオに多くの避難民を連れてきた軍医・ゲルタは、すでに要塞都市に戻ってさらなる傷病者の面倒を見ているらしい。さすが、といえる行動力だ。
リムネラはその立場故、下手に動くこともできない。それでも、辺境の危機に何もできないのは心苦しくもあった。
――と、そんなときだった。
「失礼。ここは辺境のユニオンで間違いなかろうか」
聞き慣れぬ若い男の声に、補佐役のジークが返事をする。
「ええ、ここが辺境ユニオン『ガーディナ』です。あなたは?」
すると、見慣れぬ装束に黒髪を束ねた男は小さく頷きながら、
「ああ、私は東方から来た料理人で、ミクリヤといいます。私は西方の料理には縁があまりなかったのですが、甘いものが多い季節と聞いて……せっかくなら、ご教授願いたく思いまして」
そう自己紹介をすると、リムネラのすぐそばにいたヘレが、
「リムネラ、おかし!」
と、興味津々そうに目を輝かせて鳴いた。そういえば甘いものはヘレも好きだったので、興味を持ったのだろう。
「せっかくならハロウィンシーズンも近いですし、皆さんの故郷自慢の甘味を持ち寄るのはどうですか? ヘレの勉強にもなるし、ミクリヤさんのためにもなる。それに、少しでも気持ちを晴れやかにするには、甘いものでの気分転換もいいと思いますよ?」
ジークがそう言って笑いかけると、リムネラもわずかに笑い返した。最近疲れ気味だった彼女からこぼれた、久々の笑みだった。
リプレイ本文
●
ハロウィン、あるいは万聖節と呼ばれる時期に合わせたかのような異邦人の来訪、そしてそれを歓待するガーデンパーティの開催は、ここのところ辺境の戦闘でなにかと慌ただしかった辺境ユニオンにどこかわくわくするものを連れてきたようだった。
中庭にテーブルやいすを置き、植物も草刈りなどで整えて。
リムネラも、久々ののどかな雰囲気に目を細める。
それに、参加者のひとりUisca Amhran(ka0754)が、
「リムネラさん、せっかくの東方からのお客様ですし、私たちも辺境の甘味を作っておもてなししませんか?」
そう提案してくれたのである。
確かにこのところ、リムネラはずいぶん疲弊していた。【幻痛】と呼ばれる一連の歪虚との戦闘で、歪虚側の情勢も大きく変わったと聞くし、その経過を細かに伝える報告書などを何通も受け取り読んでいては、気も滅入るというものだ。
特にリムネラはまじめなタイプだ。報告書を読んでいる間も、ユニオンに待機していることが大切だったとはいえ、自分にも何かができたらとずっともやもやしていたのだから。
確かにジークもそのことはずっと気にかけてはいたのだが――
(それにしても、確かにこれはいい気分転換になりそうですね)
いつもの晴れやかな笑顔でクッキーの準備をしているリムネラはいかにも楽しそうで。
その笑顔が見られるだけでも、重畳だ。
●
そして当日。
東方からの客人――ミクリヤは、テーブルに所狭しと並べられている甘味、スイーツの類を見て目を大きく見開いた。
「これはすごい……この時期は、こんなに甘いものを食べるのか」
驚きの声をあげながら、集まったハンターの顔とテーブルを何度も見比べる。
「秋の甘味を、とのことでしたし……今回は女性も多いですからね」
そう言って柔らかく微笑むのは黒一点、天央 観智(ka0896)である。
「……とはいえ、故郷の自慢、となると……ぱっと浮かばないんですよね。あまり甘くはない……ですけれど、甘栗とか……でしょうか」
リアルブルー出身の観智は、かつて食べた甘栗の味をぼんやりと思い出す。
「確かに、栗は秋の味覚。当方でも好まれる食材だけれど……栗の甘露煮とかもうまいしな」
ミクリヤも思い出してこくりとうなずくと、はは、と笑った。
「秋はうまいものが多い。実りの季節を楽しまずにどうする、というくらいにね。……しかし、小耳には挟んでいたが、本当ににぎやかな行事があるんだな。万聖節、だったか」
クリムゾンウェストにおける万聖節はどちらかというとエクラ教の影響が大きい。だからだろうか、東方ではそれほど知られていないイベントなのかもしれない。
「リアルブルーでも同様の行事にハロウィンがありますけれど、その起源はリアルブルーのある地方……ケルトでしたっけ? そこにかつて住んでいた古代ケルト人の行っていた……秋の収穫を祝い、そして悪霊などを追い出す……そんな一種のお祭り、だったらしいんですよね。それが、ある一神教……エクラ教にも少しかかわりのあるらしい宗教が布教のために、潰されたらしくて……その名残、らしいんですよね」
観智がふむふむと言いながら軽くレクチャーをすると、ミクリヤも何度もうなずきながらそれを熱心に聞いている。
「クリムゾンウェストでの事情は、こちらで生まれ育った方に聞くほうが参考になるでしょう。リムネラさんは辺境の巫女ですし、何か聞くことができるかと」
「なるほど」
ミクリヤはうなずいて、一つ礼をした。と、
「万聖節のことなら少しは調べられましたけど」
Uiscaがにこりと微笑む。
「その年の恵みを精霊に捧げて、新たな一年の豊穣を願うのが目的なので、精霊信仰の強い辺境でも巫女がこのお祭りを取り入れている……と言うわけですね」
そう解説する彼女は巫女の修行の経験があるのだとミクリヤに説明をする。
「十月の末日が最大の祭りですが、準備も含めて盛り上がることも多いですね……かつての転移者たちが、様々な時代や場所のハロウィンの催しを伝えたことで、今のクリムゾンウェストのハロウィンはリアルブルーのものと比べると混沌としているのかもしれません」
言いながらUiscaは苦笑を浮かべる。
●
(ん~、それにしてもスイーツを目いっぱい楽しめばいいなんて、なんて素敵な依頼なんだろう♪)
ティーンエイジは甘いものが好きなことがままある。夢路 まよい(ka1328)もそんな一人だった。
彼女が持ち込んだのはパンプキンパイ。東方ではパイ料理はあまりなじみがないこともあってか、ミクリヤも一口食べてから目を輝かせている。
「小麦粉とバターを練った生地を折り重ねてからのばして、それから焼いたものだって聞いてるよ」
手作りではないので人からの受け売りだけど、と付け加えて軽く説明。
「でもこういう時には、お菓子そのものだけじゃなくて、その楽しみ方も大事なんだよ」
そう言いながら彼女が取り出したのはシナモンスティック。それをティカップに差し入れれば、たちまち香り高いシナモンティとなる。そのシナモンティに添える砂糖も気を配り、愛らしい薔薇の形をした角砂糖二つ。
「こういう添え物の見た目をちょっと工夫するだけでも、雰囲気がぐっと出るでしょ?」
まよいはそう言いながらウィンクしてみせる。
「それにね、聞いた話なんだけどね。お茶を浸したシナモンスティックで、好きな人の名前をさらさらと書いたら、好きな人と一緒にいられるおまじないにもなっちゃうんだって!」
いかにも甘いものが好きな女の子の言葉だ。一般的な女の子は、やはり甘いものや恋バナが好きなのだ。
「……ねぇねぇリムネラ、リムネラのずっと一緒にいたいひとって……誰かな?」
まよいはリムネラに近づいて、興味津々そうにそんなことを聞く。リムネラは少し考えて、
「一緒にイタイ……なら、ヘレ、デショウね」
そう言って、やさしく微笑んで見せた。
いっぽう、ミィナ・アレグトーリア(ka0317)が持ってきたのは見た目はシンプルながらも手の込んでいるらしい甘味の数々。
ガトーインビジブルのチーズケーキは焦げ目をなるべく抑えてリンゴをうまく隠れるように。
グラッセはリンゴと栗の二種類。リンゴのほうはチョコでコーティングして。
さつまいものパナジェッツに、栗とかぼちゃとサツマイモ、三種のモンブランに、ホイップクリームとモンブランクリームを乗せたカップケーキ。
カボチャクッキーは片側をジャックランタン風にくりぬいて筋目をつけ、チョコを挟んだサンドタイプ。
たっぷり創意工夫を詰め込んだ甘味の数々は、可能な限り辺境の素材を使って利益の還元を目的にしている。
また、砂糖ではなく蜂蜜やメープルシロップといった甘味料を使って、控えめでも優しい味わいに整えてある。
「たくさん作ったから、あとでおすそ分けをしてほしいのん!」
そう言ってにっこりと微笑むミィナは、長い銀の髪を揺らす。料理の心得がある彼女にとっては、菓子作りもまた楽しみの一つ。
「ハロウィンっていったらカボチャのイメージだけど、リンゴもあるんよー。魔女さんがリンゴ持っとるからなのん。半分に切ったとき、いくつ種があるかで占いをしたりするところもあるらしいんよ」
カボチャとリンゴのスイーツをたくさん並べて、満足そうに笑いながらモンブランをほおばるミィナ。そのモンブランを買って持ってきたのは観智だったりするが。
「甘栗も……試しに作ってみたんです、けどね。うまくできているかどうかは……食べてのお楽しみ、というやつで」
その観智特製甘栗は窯に小石と栗を入れ、黒蜜や水あめといった甘味料と一緒に攪拌しながら蒸し焼きにしたものだ。
「これおいしいです! 作り方とか教えてくれませんか?」
Uiscaも一口食べると目を輝かせ、思わずそんなことを口に出している。
「……にしてもリムネラはともかくヘレまで甘いものが好きなのは、なんか意外だな」
そう言って頷くのはレイア・アローネ(ka4082)、料理はもっぱら食べるのが専門という彼女はできのいい栗とサツマイモをそのまま持ち込んできたツワモノだ。しっかりしたサツマイモに、ヘレも興味津々に見つめている。
「ソウ言えば、コレで何を作るんデスか?」
リムネラが素朴な質問をするとレイアはにんまり笑って
「うん、いい質問だ。それをこれから考えようと思ってな」
と言いきった。
「……いや、私は普段の食事ならともかく、菓子など作ったことがなくてな……むろん食べたことはあるが、せっかくならほかの仲間たちを参考にと思って……って、できあいを買ってきているものも結構いるのか……?」
「まあ、僕も菓子作りの経験はあまりないですからね」
けろりと言う観智。まあ男性なので恥ずべきことではない、という認識なのかもしれない。
「わぁ、ケーキの材料にしたらすごくおいしそう! でも、せっかくこんなに立派な栗やサツマイモなら、たくさんあるし……落ち葉で焼き芋とかもいいんじゃないかな!」
落ち葉の季節にはまだ少し早いけれど、とまよいが提案する。Uiscaもそれは素敵ですねと頷き、ミィナが早速とばかりに落ち葉を集めてくる。ヘレはそれを目を輝かせながら見つめ、ミクリヤもコレならばと手を貸している。
焼き芋なら手間もさほどかからないし、何よりみんな好きだ。
そして少しばかり冷たい風が吹いても、芋を焼いているたき火のそばにいればじんわりと暖かくなる。心までぽかぽかとしてくるような気がするくらいに。
「ヘレちゃんも火を操れるなら、簡単なお菓子を作れるんよ? 焼きマシュマロとか、焼きリンゴとか! 加減が必要だけど、できるようになったらリムネラさんに作ってあげるといいのん」
ミィナがそう言ってヘレの頭をそっとなでると、ヘレも目を何度かぱちぱちさせて、それから
「おかし!」
とあどけない声を上げた。
●
芋や栗を適度に配置してから、できあがるまでの間は歓談タイムだ。
「そういえば、リムネラさんの作ったクッキーもおいしかったのん! なにか隠し味でもあるのん?」
ミィナが尋ねると、
「アレは、昔……故郷で親に教えてモラッタ、トクベツなときに食べる焼き菓子デス」
いってみれば祝いの席での定番菓子、という感じらしい。
「香辛料がチョット珍しいものを入れたりシテるんデス。甘いバカリじゃナイほうが、ちょっぴりトクベツな感じデショウ?」
そういって微笑むリムネラの姿は穏やかだ。
「皆さんがハロウィンを意識した甘味を用意するかなと思ったので、私は故郷の秋の味をと思って」
Uiscaの用意したのはイチジクジャムを使ったパンケーキ。しつこすぎない甘さが口に優しく、誰もがふわっと笑顔になれる。
「そういえばミクリヤさん。せっかくなら、東方の秋の味を教えてもらえませんか? こう言う機会はなかなかないし」
「東方の秋……か。それならやはり栗きんとんとかだろうか」
Uiscaの言葉に、ミクリヤが応じる。ミィナやまよいはもぐもぐとクッキーやパンケーキも食べつつ、ミクリヤの話を聞いている。
「栗きんとんは、リアルブルーにもある料理ですね。正月にも同じ名前の食べ物が出ますけど、それとはまた違って……おいしいんですよね」
観智が解説を添えると、ミクリヤも「ああ」と応じた。
「正月料理は縁起物だからな。秋の栗きんとんとは別物になるな、確かに」
ミクリヤがざっくりと解説すると、ぱちぱちと火のはぜる音がして、
「そろそろ焼き芋もできたみたいですよ」
とジークが笑いかけた。
●
「はろいん、おかし、すき! おかし、おいしい!」
ヘレもそんな風に少しずつ言葉を操りながら焼き芋をご相伴にあずかり満足そうにしている。ほかの面々は言わずもがな、という感じで、ほくほくの芋をほおばりながらにこにこの笑顔を浮かべている。そしてそんなヘレのはしゃぐ様子をUiscaやレイア、まよいも目を細めて眺める。
「……そういえば……ほら、なんだ。いつものハムたr……じゃなくて、あいつはどうした? こう言うことにはめっぽう鼻のきくやつ」
焼き芋作りの間、少し席を外していたレイアはふとそんな言葉を口にする。
「え?」
リムネラが聞き返すと、
「ほら、いただろう……あの怠惰王、いや元怠惰王か? あいつと戦ったらしいが」
どうやらレイアはチューダのことを言いたいらしい。もっとも、彼女もあのときの戦いでの姿を直接見てはいないのだが。レイアの複雑な心理はチューダのことを名前では呼びたくないらしい。
まあなにかとトラブルメーカーなのは確かだし、レイアもしばしば巻き込まれていたのは事実だから、そういうことが引っかかるのだろう。それでも、チューダのことを気にかけてくれているのは事実で、リムネラは一瞬目をしばたたいたが、すぐに口元にふわりと笑みを浮かべた。
「チューダは、タブン今は休養をとってマスよ。キットすぐ元気になりマス」
リムネラがそういうと、
「いや、まあ、いないならいいんだ、別に会いたくもないし……ただもし後でやつが来たのなら、……見舞いだ。これを食わせてやってくれ」
レイアが差し出したのは、持ち込んだサツマイモの残りを使って合間に作ったケーキだ。レシピはここに来てから皆に教えてもらい、手伝ってもらいながら作成したのだ。
「……初めて作ったから、味の保証はせんがな」
そういうと照れくさそうにそっぽを向く。
「きっとチューダも喜びマス」
お菓子作り初体験でも頑張ってこしらえていたレイアの努力は十分伝わってくる。形は少しいびつでも、味が少しまずくても、気持ちが大切なのだから。
冬支度というものも始めようというこの時期だが、皆の心はあたたかく、そして満たされていた。
――なお、余談だが。
レイアのケーキは砂糖と塩を間違えており、確かにいまいちな出来だったらしい――。
ハロウィン、あるいは万聖節と呼ばれる時期に合わせたかのような異邦人の来訪、そしてそれを歓待するガーデンパーティの開催は、ここのところ辺境の戦闘でなにかと慌ただしかった辺境ユニオンにどこかわくわくするものを連れてきたようだった。
中庭にテーブルやいすを置き、植物も草刈りなどで整えて。
リムネラも、久々ののどかな雰囲気に目を細める。
それに、参加者のひとりUisca Amhran(ka0754)が、
「リムネラさん、せっかくの東方からのお客様ですし、私たちも辺境の甘味を作っておもてなししませんか?」
そう提案してくれたのである。
確かにこのところ、リムネラはずいぶん疲弊していた。【幻痛】と呼ばれる一連の歪虚との戦闘で、歪虚側の情勢も大きく変わったと聞くし、その経過を細かに伝える報告書などを何通も受け取り読んでいては、気も滅入るというものだ。
特にリムネラはまじめなタイプだ。報告書を読んでいる間も、ユニオンに待機していることが大切だったとはいえ、自分にも何かができたらとずっともやもやしていたのだから。
確かにジークもそのことはずっと気にかけてはいたのだが――
(それにしても、確かにこれはいい気分転換になりそうですね)
いつもの晴れやかな笑顔でクッキーの準備をしているリムネラはいかにも楽しそうで。
その笑顔が見られるだけでも、重畳だ。
●
そして当日。
東方からの客人――ミクリヤは、テーブルに所狭しと並べられている甘味、スイーツの類を見て目を大きく見開いた。
「これはすごい……この時期は、こんなに甘いものを食べるのか」
驚きの声をあげながら、集まったハンターの顔とテーブルを何度も見比べる。
「秋の甘味を、とのことでしたし……今回は女性も多いですからね」
そう言って柔らかく微笑むのは黒一点、天央 観智(ka0896)である。
「……とはいえ、故郷の自慢、となると……ぱっと浮かばないんですよね。あまり甘くはない……ですけれど、甘栗とか……でしょうか」
リアルブルー出身の観智は、かつて食べた甘栗の味をぼんやりと思い出す。
「確かに、栗は秋の味覚。当方でも好まれる食材だけれど……栗の甘露煮とかもうまいしな」
ミクリヤも思い出してこくりとうなずくと、はは、と笑った。
「秋はうまいものが多い。実りの季節を楽しまずにどうする、というくらいにね。……しかし、小耳には挟んでいたが、本当ににぎやかな行事があるんだな。万聖節、だったか」
クリムゾンウェストにおける万聖節はどちらかというとエクラ教の影響が大きい。だからだろうか、東方ではそれほど知られていないイベントなのかもしれない。
「リアルブルーでも同様の行事にハロウィンがありますけれど、その起源はリアルブルーのある地方……ケルトでしたっけ? そこにかつて住んでいた古代ケルト人の行っていた……秋の収穫を祝い、そして悪霊などを追い出す……そんな一種のお祭り、だったらしいんですよね。それが、ある一神教……エクラ教にも少しかかわりのあるらしい宗教が布教のために、潰されたらしくて……その名残、らしいんですよね」
観智がふむふむと言いながら軽くレクチャーをすると、ミクリヤも何度もうなずきながらそれを熱心に聞いている。
「クリムゾンウェストでの事情は、こちらで生まれ育った方に聞くほうが参考になるでしょう。リムネラさんは辺境の巫女ですし、何か聞くことができるかと」
「なるほど」
ミクリヤはうなずいて、一つ礼をした。と、
「万聖節のことなら少しは調べられましたけど」
Uiscaがにこりと微笑む。
「その年の恵みを精霊に捧げて、新たな一年の豊穣を願うのが目的なので、精霊信仰の強い辺境でも巫女がこのお祭りを取り入れている……と言うわけですね」
そう解説する彼女は巫女の修行の経験があるのだとミクリヤに説明をする。
「十月の末日が最大の祭りですが、準備も含めて盛り上がることも多いですね……かつての転移者たちが、様々な時代や場所のハロウィンの催しを伝えたことで、今のクリムゾンウェストのハロウィンはリアルブルーのものと比べると混沌としているのかもしれません」
言いながらUiscaは苦笑を浮かべる。
●
(ん~、それにしてもスイーツを目いっぱい楽しめばいいなんて、なんて素敵な依頼なんだろう♪)
ティーンエイジは甘いものが好きなことがままある。夢路 まよい(ka1328)もそんな一人だった。
彼女が持ち込んだのはパンプキンパイ。東方ではパイ料理はあまりなじみがないこともあってか、ミクリヤも一口食べてから目を輝かせている。
「小麦粉とバターを練った生地を折り重ねてからのばして、それから焼いたものだって聞いてるよ」
手作りではないので人からの受け売りだけど、と付け加えて軽く説明。
「でもこういう時には、お菓子そのものだけじゃなくて、その楽しみ方も大事なんだよ」
そう言いながら彼女が取り出したのはシナモンスティック。それをティカップに差し入れれば、たちまち香り高いシナモンティとなる。そのシナモンティに添える砂糖も気を配り、愛らしい薔薇の形をした角砂糖二つ。
「こういう添え物の見た目をちょっと工夫するだけでも、雰囲気がぐっと出るでしょ?」
まよいはそう言いながらウィンクしてみせる。
「それにね、聞いた話なんだけどね。お茶を浸したシナモンスティックで、好きな人の名前をさらさらと書いたら、好きな人と一緒にいられるおまじないにもなっちゃうんだって!」
いかにも甘いものが好きな女の子の言葉だ。一般的な女の子は、やはり甘いものや恋バナが好きなのだ。
「……ねぇねぇリムネラ、リムネラのずっと一緒にいたいひとって……誰かな?」
まよいはリムネラに近づいて、興味津々そうにそんなことを聞く。リムネラは少し考えて、
「一緒にイタイ……なら、ヘレ、デショウね」
そう言って、やさしく微笑んで見せた。
いっぽう、ミィナ・アレグトーリア(ka0317)が持ってきたのは見た目はシンプルながらも手の込んでいるらしい甘味の数々。
ガトーインビジブルのチーズケーキは焦げ目をなるべく抑えてリンゴをうまく隠れるように。
グラッセはリンゴと栗の二種類。リンゴのほうはチョコでコーティングして。
さつまいものパナジェッツに、栗とかぼちゃとサツマイモ、三種のモンブランに、ホイップクリームとモンブランクリームを乗せたカップケーキ。
カボチャクッキーは片側をジャックランタン風にくりぬいて筋目をつけ、チョコを挟んだサンドタイプ。
たっぷり創意工夫を詰め込んだ甘味の数々は、可能な限り辺境の素材を使って利益の還元を目的にしている。
また、砂糖ではなく蜂蜜やメープルシロップといった甘味料を使って、控えめでも優しい味わいに整えてある。
「たくさん作ったから、あとでおすそ分けをしてほしいのん!」
そう言ってにっこりと微笑むミィナは、長い銀の髪を揺らす。料理の心得がある彼女にとっては、菓子作りもまた楽しみの一つ。
「ハロウィンっていったらカボチャのイメージだけど、リンゴもあるんよー。魔女さんがリンゴ持っとるからなのん。半分に切ったとき、いくつ種があるかで占いをしたりするところもあるらしいんよ」
カボチャとリンゴのスイーツをたくさん並べて、満足そうに笑いながらモンブランをほおばるミィナ。そのモンブランを買って持ってきたのは観智だったりするが。
「甘栗も……試しに作ってみたんです、けどね。うまくできているかどうかは……食べてのお楽しみ、というやつで」
その観智特製甘栗は窯に小石と栗を入れ、黒蜜や水あめといった甘味料と一緒に攪拌しながら蒸し焼きにしたものだ。
「これおいしいです! 作り方とか教えてくれませんか?」
Uiscaも一口食べると目を輝かせ、思わずそんなことを口に出している。
「……にしてもリムネラはともかくヘレまで甘いものが好きなのは、なんか意外だな」
そう言って頷くのはレイア・アローネ(ka4082)、料理はもっぱら食べるのが専門という彼女はできのいい栗とサツマイモをそのまま持ち込んできたツワモノだ。しっかりしたサツマイモに、ヘレも興味津々に見つめている。
「ソウ言えば、コレで何を作るんデスか?」
リムネラが素朴な質問をするとレイアはにんまり笑って
「うん、いい質問だ。それをこれから考えようと思ってな」
と言いきった。
「……いや、私は普段の食事ならともかく、菓子など作ったことがなくてな……むろん食べたことはあるが、せっかくならほかの仲間たちを参考にと思って……って、できあいを買ってきているものも結構いるのか……?」
「まあ、僕も菓子作りの経験はあまりないですからね」
けろりと言う観智。まあ男性なので恥ずべきことではない、という認識なのかもしれない。
「わぁ、ケーキの材料にしたらすごくおいしそう! でも、せっかくこんなに立派な栗やサツマイモなら、たくさんあるし……落ち葉で焼き芋とかもいいんじゃないかな!」
落ち葉の季節にはまだ少し早いけれど、とまよいが提案する。Uiscaもそれは素敵ですねと頷き、ミィナが早速とばかりに落ち葉を集めてくる。ヘレはそれを目を輝かせながら見つめ、ミクリヤもコレならばと手を貸している。
焼き芋なら手間もさほどかからないし、何よりみんな好きだ。
そして少しばかり冷たい風が吹いても、芋を焼いているたき火のそばにいればじんわりと暖かくなる。心までぽかぽかとしてくるような気がするくらいに。
「ヘレちゃんも火を操れるなら、簡単なお菓子を作れるんよ? 焼きマシュマロとか、焼きリンゴとか! 加減が必要だけど、できるようになったらリムネラさんに作ってあげるといいのん」
ミィナがそう言ってヘレの頭をそっとなでると、ヘレも目を何度かぱちぱちさせて、それから
「おかし!」
とあどけない声を上げた。
●
芋や栗を適度に配置してから、できあがるまでの間は歓談タイムだ。
「そういえば、リムネラさんの作ったクッキーもおいしかったのん! なにか隠し味でもあるのん?」
ミィナが尋ねると、
「アレは、昔……故郷で親に教えてモラッタ、トクベツなときに食べる焼き菓子デス」
いってみれば祝いの席での定番菓子、という感じらしい。
「香辛料がチョット珍しいものを入れたりシテるんデス。甘いバカリじゃナイほうが、ちょっぴりトクベツな感じデショウ?」
そういって微笑むリムネラの姿は穏やかだ。
「皆さんがハロウィンを意識した甘味を用意するかなと思ったので、私は故郷の秋の味をと思って」
Uiscaの用意したのはイチジクジャムを使ったパンケーキ。しつこすぎない甘さが口に優しく、誰もがふわっと笑顔になれる。
「そういえばミクリヤさん。せっかくなら、東方の秋の味を教えてもらえませんか? こう言う機会はなかなかないし」
「東方の秋……か。それならやはり栗きんとんとかだろうか」
Uiscaの言葉に、ミクリヤが応じる。ミィナやまよいはもぐもぐとクッキーやパンケーキも食べつつ、ミクリヤの話を聞いている。
「栗きんとんは、リアルブルーにもある料理ですね。正月にも同じ名前の食べ物が出ますけど、それとはまた違って……おいしいんですよね」
観智が解説を添えると、ミクリヤも「ああ」と応じた。
「正月料理は縁起物だからな。秋の栗きんとんとは別物になるな、確かに」
ミクリヤがざっくりと解説すると、ぱちぱちと火のはぜる音がして、
「そろそろ焼き芋もできたみたいですよ」
とジークが笑いかけた。
●
「はろいん、おかし、すき! おかし、おいしい!」
ヘレもそんな風に少しずつ言葉を操りながら焼き芋をご相伴にあずかり満足そうにしている。ほかの面々は言わずもがな、という感じで、ほくほくの芋をほおばりながらにこにこの笑顔を浮かべている。そしてそんなヘレのはしゃぐ様子をUiscaやレイア、まよいも目を細めて眺める。
「……そういえば……ほら、なんだ。いつものハムたr……じゃなくて、あいつはどうした? こう言うことにはめっぽう鼻のきくやつ」
焼き芋作りの間、少し席を外していたレイアはふとそんな言葉を口にする。
「え?」
リムネラが聞き返すと、
「ほら、いただろう……あの怠惰王、いや元怠惰王か? あいつと戦ったらしいが」
どうやらレイアはチューダのことを言いたいらしい。もっとも、彼女もあのときの戦いでの姿を直接見てはいないのだが。レイアの複雑な心理はチューダのことを名前では呼びたくないらしい。
まあなにかとトラブルメーカーなのは確かだし、レイアもしばしば巻き込まれていたのは事実だから、そういうことが引っかかるのだろう。それでも、チューダのことを気にかけてくれているのは事実で、リムネラは一瞬目をしばたたいたが、すぐに口元にふわりと笑みを浮かべた。
「チューダは、タブン今は休養をとってマスよ。キットすぐ元気になりマス」
リムネラがそういうと、
「いや、まあ、いないならいいんだ、別に会いたくもないし……ただもし後でやつが来たのなら、……見舞いだ。これを食わせてやってくれ」
レイアが差し出したのは、持ち込んだサツマイモの残りを使って合間に作ったケーキだ。レシピはここに来てから皆に教えてもらい、手伝ってもらいながら作成したのだ。
「……初めて作ったから、味の保証はせんがな」
そういうと照れくさそうにそっぽを向く。
「きっとチューダも喜びマス」
お菓子作り初体験でも頑張ってこしらえていたレイアの努力は十分伝わってくる。形は少しいびつでも、味が少しまずくても、気持ちが大切なのだから。
冬支度というものも始めようというこの時期だが、皆の心はあたたかく、そして満たされていた。
――なお、余談だが。
レイアのケーキは砂糖と塩を間違えており、確かにいまいちな出来だったらしい――。
依頼結果
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面白かった! | 5人 |
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相談所『秋の甘味と言えば』 天央 観智(ka0896) 人間(リアルブルー)|25才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/10/13 20:48:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/12 23:12:18 |