ゲスト
(ka0000)
【東幕】親しき仲にも秘密あり
マスター:紺堂 カヤ
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/21 07:30
- 完成日
- 2018/10/29 00:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
エトファリカ連邦国にも、秋がやってきた。収穫の秋となると、自動的にそれらを売り買いする動きも激しくなる。つまり、秋は商人にとっても忙しい季節なのである。
「……という事情を、わかった上で来てるのかなあ、スーさんは?」
頼みがある、と言って天ノ都の営業所に突然やってきた友人を睨む、美しい少年の名は史郎(kz0242)。彼は若年ながら立派な一人前の商人として身を立てている。史郎の前で面目なさそうに肩をすぼめているその友人は、スメラギである。なお、スメラギは史郎に対して自分の身分を隠している……つもりでいる。
「いや……、それは、そのだな……」
どう言い訳しようかおろおろと言いよどむ姿はどこか微笑ましくて、史郎は苦笑した。そもそも半分以上冗談のつもりで睨んでいたのだ、本気で怒っているわけではない。
「いいですよ、別に。スーさんだって忙しいところを抜け出してきたんだろうしさ。で、何の用です?」
「うん、頼みごとをする前にだな……、史郎に謝らないといけないんだ。俺様はずっと、お前に秘密にしていたことがあるんだ」
「ああ、実は帝なんだよね、ってやつですか?」
「そう、それ……って、は?????」
緊張した面持ちで意を決したように史郎の方を向いていたスメラギが、一転してぽかん、と口を開いた。なんで、とか、え、とか、あまり意味をなさない言葉ばかりが続く。史郎はくすくすと笑った。
「なんで知ってるかって? いや逆に訊きますけどなんで隠せてると思ったんです?」
「いや、だって俺様これまで一言も……」
「それそれ。あのね、市井において一人称が『俺様』なんて人そうそういませんよ?」
「う」
今度こそ言葉に詰まったスメラギに、史郎はもう一度笑う。
「別に、謝ることはありませんよ。友人の間においてだって、秘密はあるものです。それに、なんてったって、帝なんですからね、あなたは。……で? 頼みごとはなんです? いまさら、俺に『頭が高い、控えおろう』なんて言いたくて来たわけじゃないんでしょう?」
「なんだ、その頭が高い、って」
スメラギはけらけら笑った。正体を知ってもなお、「スーさん」として接してくれる史郎に、胸中で深く感謝しながら。
スメラギの頼みとは、史郎に「市井の声を集めて欲しい」ということだった。
「ここだけの話だが……、俺様はこの国を共和制の国にしていこうと考えてる。だが、これは俺様の考えだ。この国の民がそれを良しとしなければ、意味がねえ。だから、共和制についてどう思うか、意見を集められねえかな。ハンターたちから意見を聞く場は設けたんだが、俺様は市井……、つまり「そのあたりを歩いている人々」がどう考えているかも知りたいんだ」
「……うーん……」
スメラギの話を聞いて、史郎は唸った。そして、きっぱりと言った。
「スーさん、それはたぶん無理ですね」
「無理!? なんでだ!?」
「共和制、という言葉を、まず人々は理解できないでしょう。残念ながら、この国の教育水準はそこに達していません。……残酷なことを言うようですが、事実です」
スメラギがハッと息を飲んだ。そして、神妙に頷く。事実は、受け入れなければならない。
「ですから、共和制、という言葉はとりあえず置いておいて、『どんな国なら暮らしやすいか、どんな国で生活するのが幸せか』ということについて、人々から意見を集めるのはいかがです?」
史郎はニヤリと笑って見せた。悪戯っぽい表情が小悪魔的である。
「スーさんが知りたいのはつまり、そういうことでしょう?」
「そうだ。……うん、じゃ、そうしよう」
スメラギは、精悍な顔つきですぐにはっきりと頷いた。この決断力は覇王の資質だな、と史郎は胸中でこっそり思う。
「運営費に加えて、ハンターを雇う予算をいただけますか。さっきも言いましたが、秋はどこも忙しいんで会場設営などの人員確保が難しいんです」
「ああ、わかった、出そう」
早速、実務的な話を進めながら、史郎は、そうそう、と何か思い出したように顔を上げた。
「ん? どうした史郎」
「ひとつ、お尋ねしたいんですが。この依頼は、俺の友人である「スーさん」としてのものなのか、この国の「帝」としてのものなのか、どちらです?」
史郎は、穏やかな笑顔でスメラギに問うた。穏やかな笑顔でありながら、その両目は切れそうなほど鋭い光を持っていた。帝であるスメラギが、ひそかに息を飲むほどに。
スーさんとして、なのか。帝として、なのか。
それは暗に、スメラギが今後どちらの立ち位置で史郎と付き合っていくのかを示せ、と迫っていた。
スメラギは……、返事に窮してしまった。今、それを選ぶことは、若き帝にとって少々難しい。それを汲み取ったのだろうか、史郎は肩をすくめると、スメラギが答える前に笑って言った。
「ま、今日のところはスーさんとして、ということにしといてあげますよ」
「そうか」
冗談めかした史郎の仕草に、スメラギも合わせて笑った。
「あーあ。友人価格と帝価格じゃ天と地ほども違うってのに。儲け損ねたなあ」
「そっちかい」
スメラギが帰ったあと。
史郎は「夜の支度」に取りかかった。こちらも早く済ませてしまわなければならない。忙しくなってきた。
「……秘密、ね。俺もそろそろ、明かす時が来たかな」
長い秋の夜が、天ノ都を包む。
「……という事情を、わかった上で来てるのかなあ、スーさんは?」
頼みがある、と言って天ノ都の営業所に突然やってきた友人を睨む、美しい少年の名は史郎(kz0242)。彼は若年ながら立派な一人前の商人として身を立てている。史郎の前で面目なさそうに肩をすぼめているその友人は、スメラギである。なお、スメラギは史郎に対して自分の身分を隠している……つもりでいる。
「いや……、それは、そのだな……」
どう言い訳しようかおろおろと言いよどむ姿はどこか微笑ましくて、史郎は苦笑した。そもそも半分以上冗談のつもりで睨んでいたのだ、本気で怒っているわけではない。
「いいですよ、別に。スーさんだって忙しいところを抜け出してきたんだろうしさ。で、何の用です?」
「うん、頼みごとをする前にだな……、史郎に謝らないといけないんだ。俺様はずっと、お前に秘密にしていたことがあるんだ」
「ああ、実は帝なんだよね、ってやつですか?」
「そう、それ……って、は?????」
緊張した面持ちで意を決したように史郎の方を向いていたスメラギが、一転してぽかん、と口を開いた。なんで、とか、え、とか、あまり意味をなさない言葉ばかりが続く。史郎はくすくすと笑った。
「なんで知ってるかって? いや逆に訊きますけどなんで隠せてると思ったんです?」
「いや、だって俺様これまで一言も……」
「それそれ。あのね、市井において一人称が『俺様』なんて人そうそういませんよ?」
「う」
今度こそ言葉に詰まったスメラギに、史郎はもう一度笑う。
「別に、謝ることはありませんよ。友人の間においてだって、秘密はあるものです。それに、なんてったって、帝なんですからね、あなたは。……で? 頼みごとはなんです? いまさら、俺に『頭が高い、控えおろう』なんて言いたくて来たわけじゃないんでしょう?」
「なんだ、その頭が高い、って」
スメラギはけらけら笑った。正体を知ってもなお、「スーさん」として接してくれる史郎に、胸中で深く感謝しながら。
スメラギの頼みとは、史郎に「市井の声を集めて欲しい」ということだった。
「ここだけの話だが……、俺様はこの国を共和制の国にしていこうと考えてる。だが、これは俺様の考えだ。この国の民がそれを良しとしなければ、意味がねえ。だから、共和制についてどう思うか、意見を集められねえかな。ハンターたちから意見を聞く場は設けたんだが、俺様は市井……、つまり「そのあたりを歩いている人々」がどう考えているかも知りたいんだ」
「……うーん……」
スメラギの話を聞いて、史郎は唸った。そして、きっぱりと言った。
「スーさん、それはたぶん無理ですね」
「無理!? なんでだ!?」
「共和制、という言葉を、まず人々は理解できないでしょう。残念ながら、この国の教育水準はそこに達していません。……残酷なことを言うようですが、事実です」
スメラギがハッと息を飲んだ。そして、神妙に頷く。事実は、受け入れなければならない。
「ですから、共和制、という言葉はとりあえず置いておいて、『どんな国なら暮らしやすいか、どんな国で生活するのが幸せか』ということについて、人々から意見を集めるのはいかがです?」
史郎はニヤリと笑って見せた。悪戯っぽい表情が小悪魔的である。
「スーさんが知りたいのはつまり、そういうことでしょう?」
「そうだ。……うん、じゃ、そうしよう」
スメラギは、精悍な顔つきですぐにはっきりと頷いた。この決断力は覇王の資質だな、と史郎は胸中でこっそり思う。
「運営費に加えて、ハンターを雇う予算をいただけますか。さっきも言いましたが、秋はどこも忙しいんで会場設営などの人員確保が難しいんです」
「ああ、わかった、出そう」
早速、実務的な話を進めながら、史郎は、そうそう、と何か思い出したように顔を上げた。
「ん? どうした史郎」
「ひとつ、お尋ねしたいんですが。この依頼は、俺の友人である「スーさん」としてのものなのか、この国の「帝」としてのものなのか、どちらです?」
史郎は、穏やかな笑顔でスメラギに問うた。穏やかな笑顔でありながら、その両目は切れそうなほど鋭い光を持っていた。帝であるスメラギが、ひそかに息を飲むほどに。
スーさんとして、なのか。帝として、なのか。
それは暗に、スメラギが今後どちらの立ち位置で史郎と付き合っていくのかを示せ、と迫っていた。
スメラギは……、返事に窮してしまった。今、それを選ぶことは、若き帝にとって少々難しい。それを汲み取ったのだろうか、史郎は肩をすくめると、スメラギが答える前に笑って言った。
「ま、今日のところはスーさんとして、ということにしといてあげますよ」
「そうか」
冗談めかした史郎の仕草に、スメラギも合わせて笑った。
「あーあ。友人価格と帝価格じゃ天と地ほども違うってのに。儲け損ねたなあ」
「そっちかい」
スメラギが帰ったあと。
史郎は「夜の支度」に取りかかった。こちらも早く済ませてしまわなければならない。忙しくなってきた。
「……秘密、ね。俺もそろそろ、明かす時が来たかな」
長い秋の夜が、天ノ都を包む。
リプレイ本文
秋晴れ、と呼ぶにふさわしい、すがすがしい青空が広がっていた。天気がよいというだけで人の表情は明るくなる。これは綺麗事でもなんでもなく事実だ、と史郎は道をゆきかう人々の顔を眺めながら思った。
市井の声を集めて欲しい、という依頼を、スーさんことスメラギから受けた史郎(kz0242)は、すぐさま会場を手配した。意見交換会の開催を知らせるチラシを作っていたるところに貼り出し、当日の会場整備を手伝ってもらうためにハンターオフィスへ依頼を出した。オフィスはいつもより混んでいて、スタッフが慌ただしく立ち働いていた。
(どこもかしこも忙しい時期だよなあ)
そして迎えた意見交換会当日。
会場整備を依頼していたハンターたちがやってきた。と、その中から。
「史郎さんっ……頼めば何でも手配出来るんですよねぇ? 婿か旦那が欲しいんですぅ、どうにかして下さいぃ」
星野 ハナ(ka5852)が半泣きで飛び出してきて、史郎にすがった。史郎は慌ててハナの体を支えつつ、目を丸くする。
「お年寄りと子供は除いた成人男性でぇ、私が生涯ハンターすることに理解があってぇ、こう落ち込んだ時に筋肉をすりすりぺろぺろくんかくんかさせてくださる人が希望なんですぅ」
「どうにかしてください、という必死さの割には自分の欲望に妥協のない要求ですね……。まあ、その率直さがハナさんのいいところでもありますけど」
史郎は苦笑するというよりは面白がる表情で言った。そんな史郎を、ハナは潤んだ両目でみつめる。
「お仕事頑張るのでぇ、今回の依頼料プラスアルファくらいで何とかなりませんかぁ?」
「うーん、申し訳ありませんが、今回は何ともなりませんね」
史郎は支えていたハナの体をゆっくりと押し戻して、彼女を自力で立たせた。
「今回は、あくまでも意見交換会を手伝ってもらうという約束ですから。……今回は、ね」
わざとらしく今回は、と繰り返す史郎の意図を読むことができたのだろう、ハナが半泣きの表情を笑顔に変え、うんうんと頷いた。
(恋人探し、ってのは商売になるな、こりゃ)
史郎は内心でにやりとした。どこまでも商魂たくましい美少年。それが史郎なのである。
会場設営の作業に取りかかるとすぐ、ミオレスカ(ka3496)が史郎に声をかけてきた。
「史郎さん、お願いしていたお団子の材料なのですが……」
「ああ、用意していますよ」
史郎はにっこりと頷いた。ミオレスカからは、事前に「参加者にお茶請けを出したいから材料を手配してほしい」と申し出があったのである。
「最初にお茶請けの甘い物があれば、口も滑らかになるかもしれない、というのは確かにその通りだと思いましたので。いい案ですね。ただ、あまりたくさんは作れませんよ。参加者からは入場料を取らないタイプの意見交換会ですからね」
「はい、承知しています。たとえ量が少なくても、あるとないとではだいぶ気持ちが違うはずですから」
ミオレスカはしっかりと頷くと、会場である公民館の奥にしつらえられている台所へ向かった。その背を夢路 まよい(ka1328)が追う。
「私も手伝うね!」
「ありがとうございます、助かります」
史郎はふたりを見送って、さて、と会場内に並べる座布団を取りに行った。すでにハナやレイア・アローネ(ka4082)が取りかかっている。
「参加者の口を滑らかにしたい、ということであればぁ、座席の配置も考えた方がいいんじゃないでしょうかぁ」
ミオレスカの話を聞いていたらしいハナがそう言った。お茶とお菓子を用意することについては、ハナもミオレスカ同様に考えていたことであるが、彼女はそれに加えて座席についても案を持ってきたのである。
「普通の教室形式じゃなくてぇ、少なくとも発言者がお互いの顔を確認できる方式の方が良いと思うんですぅ」
「なるほど、意見交換、だものな。誰かに教えを乞うわけではない」
レイアが感心したように頷いた。
「いいですね、そうしましょう」
史郎は即座にその案を取り入れた。折角開催する意見交換会だ、肝心の意見を引き出せなくては何の意味もない。
「車座か、対面式か……」
「車座がいいですね。対面式では意見交換ではなく討論になりかねない」
小首を傾げて考えるハナに、史郎は素早く答えを出した。この判断の早さは、史郎が若くして成功した理由の一つであると言える。
「わかりましたぁ。二重にしたら全員座れますかねぇ」
「ここはこんなに広く開いていていいのか?」
「あ、ゆとりを持たせているのはわざとですから、いいんですぅ」
ハナとレイアは史郎の決定にすぐさま対応し、ふたりで声を掛け合いながら会場を整えてゆく。その手際の良さのおかげで、会場は実に整然と準備を終えられた。
「そろそろ受付の準備をしなければならないのですが……」
史郎が公民館の入口に机を運びながら言うと、ちょうど台所での仕事を追えて出てきたまよいが挙手をした。
「受付嬢は、私がやるよ!」
「それは助かります、お願いします」
「受付といえば、私達が見慣れてるのはハンターオフィスの職員さん達だよね。あんな感じでやればいいのかな~?」
「はい、それで大丈夫だと思いますよ。特に事前参加の申し込みなども受けていませんから名簿なんかもありません。入場人数だけ数えてもらって、あとは席への案内をしていただければ結構です」
「わかった! めいっぱい愛想よくするよ!」
まよいは早速満面の笑みで史郎に返事をすると、机の前にちょこんと座って参加者を待ち受けた。ほどなく、ひとりふたりと参加希望者が顔を出し始めた。まよいは、そのひとりひとりに明るく声をかける。
「ようこそおいでくださいましたー! 会場はあちらです、奥へお進みくださーい」
まよいに笑顔で挨拶されて、緊張気味の表情でやってきた人々はホッとしたように力を抜いて奥へ進んでゆく。
「ようこそー、え、お手洗いの場所ですか? えーと、あっ、はい、履物はそちらに……、あ、会場は奥です、えーと、お手洗いですよね、少々お待ちください」
ただにこにこしていればいい、と思っていたまよいは、やってくる人の数が増えると途端に仕事も増えてわたわたし出してしまった。思っていたよりもやることが多い。
「お手洗いはその通路を右ですよ」
様子に気がついた史郎が、すかさず助け舟を出す。
「わ~ん、色々聞かれちゃったり案内したりでパンクしそう!」
「あはは、でも、そうやってあたふたしながらも人がやってくればきちんと笑顔になるんですから、まよいさんは一流の受付嬢ですよ。でも、大変そうなら、交代しましょうか?」
「ううん、大丈夫。ここは一度引き受けたからには、私が頑張らないと!」
まよいは笑顔できっぱりと言った。史郎も笑顔で頷き返す。
「やっぱり、一流ですね。では、よろしくお願いします」
会場内で参加者に座席の案内をしながらその会話を聞いていたハナは、むう、と唸った。
「ただ持ち上げるだけではなく、しっかり仕事をさせるように仕向ける完璧な褒め方ですぅ。やっぱり史郎さん、稼いでるだけのことはありますねぇ」
用意した座席がほぼ埋まり、全員にお茶とお菓子が行き渡った。会場の空気はすでに和やかで、史郎はホッと安心した。司会を買って出てくれたレイアが車座を見渡せる位置に立つと、参加者から自然に拍手が沸き起こる。レイアは驚いたように軽く目を見張って、慌ててぺこりとお辞儀をした。
「えー、本日は多くの参加者に集まってもらうことができて、感謝している。今日は、「国の更なる復興のための意見交換会」ということになっている。挙手性で自由に発言できるから、皆、遠慮なく意見を発表してほしい」
レイアが最初にそう挨拶すると、車座から、おいおい、と大きな声を出す男性がいた。さっそく過激な発言が飛び出すのか、と身構えたレイアだったが。
「更なる復興のための、なんてカタイ会だとは聞いてないぜえ? 史郎坊やが「もっと儲けるためにはどうしたらいいか」を考えてやる会なんじゃねえのかよ?」
冗談めかしてニヤニヤとそう言う男はどうやら史郎の知り合いであるらしい。史郎はけらけら笑って頷いた。気軽に参加してもらうため、そう吹聴しては意見交換会の宣伝をしていたのである。
「ま、俺の本音を言っちゃうとそういうとこだね」
史郎がしれっと返すと、参加者がドッと笑った。
「でもさあ、俺だけに儲けさせていいのかい、皆?」
史郎がニヤリとしてそう続けると、そんなんいいわけねえだろ、図々しいぞ、などとヤジが飛んで、ますます笑い声が大きくなった。
なるほど、こうやって場を温めるのか、とレイアは内心で感心した。レイアは先日、スメラギに求められ意見交換に出席したばかりだった。意見を出すのも悪くはないが、他人の意見を聞くことの方が興味があり、今回の任務についたのである。
「まあ、儲けられるに越したことはねえけどよ、儲けられればそれでいいか、っていうと、それも違うんだよな」
ひとりの青年が、笑いながらそう言った。笑ってはいたが、まなざしは真剣だった。
「それはわかるけどさ」
手を挙げながら声もあげたのは、割烹着姿の女性だ。レイアは目線だけで頷いて、その女性の発言をうながす。
「まずは儲けることだよ。儲けられればいいってわけじゃない、なんてのは綺麗ごとさ。たいていのことは金があれば解決するんだ。子どもたちに美味しいものを食べさせられるし、勉強だってさせてやれる」
確かにそうだ、という同意の声があちこちから上がった。そこに、スッと真っ直ぐ手があがる。レイアが指名すると、まだ少女とも呼べそうな若い女性が立ち上がった。
「勉強については反論があります。どんなにお金があっても、それをきちんと使って通える学校があまりに少ないわ。独学で勉強しようとしても、私たち庶民にはそうするための本が買えないし。お金があっても、です。売っていないんだもの」
ああ、とため息に似た声が響いた。それはまさしく、庶民である彼らを取り巻く現実だった。場の空気が、少し重くなる。何か口を挟んだ方がいいだろうか、とレイアやハナが迷ったようにすると、史郎が静かに首を横に振った。黙って見守っていよう、ということだろう。かわりに、ミオレスカがお茶のおかわりをそそいでまわる。
「あ、ありがとうな……。団子、美味しかったぜ」
「それはよかったです」
お茶をそそいであげた男性のひとりからそう礼を言われて、ミオレスカはにっこりと頷き返した。
「……そうなんだよなあ。団子ひとつでも幸せな気持ちになれるんだからさあ、いかにたくさん金を持ってるか、ってことが幸せにはならないんだよなあ」
誰かが、ぽつりと呟いた。そうだよなあ、と誰かがそれに同意した。
「俺さ、ここに来たとき、受付で「ようこそ」って笑顔で出迎えて貰ってさ、すっげえ嬉しかったんだよな」
突然話題に出され、まよいが面喰ったように目を丸くする。
「でさ、思ったんだよ、俺、あんなふうに誰かに向かって笑いかけることができてたかな、ってさ。毎日毎日、金を稼ぐことに必死になってさ、そういうの忘れてたよな、って」
しみじみとしたその言葉に、確かに、と一同が頷いた。まよいは、どう返答したらいいものか迷ったけれど、褒めて貰えた笑顔を、もう一度、にっこりと見せた。
「でも、やっぱり綺麗ごとだよ。笑顔は大事だけどさ、笑顔さえあればいいなんて、あたしはとても言えないね」
うつむいてそう言う割烹着姿の女性の言うことはもっともで、皆なんとも晴れない顔つきになった。と、先ほど立ち上がった若い女性が、再び挙手をした。
「皆、お金儲けは大事だと思ってるけど、それだけじゃダメだとも思ってるわけですよね。お金儲けにだけ、必死にならなくてもいいような、そんな世の中にしなくちゃ、いけないんじゃないのかな。一部の偉い人だけが勉強できるんじゃなくて、私たちも学べるような。……どうしていけばいいのかは、わからないけど」
「……それはこれから、順番に考えていけばいいんじゃないのかい?」
それまで黙っていた史郎が、口を開いた。参加者が、一斉に史郎を見る。史郎はひとつ肩をすくめると、朗らかに言った。
「大事なのは、「考え続ける」ってことさ。皆さえよければ、こういう会を、これからも続けようと思うが、どうだい?」
参加者全員から、拍手が起こった。
「案外、穏やかな会になりましたねぇ」
帰っていく参加者を見送りながら、ハナがどこか拍子抜けしたように言った。いつ大騒ぎになってもいいようにと身構えていたからだろう。
「そうですね。ま、結論という名の成果は得られなかったですけどね」
史郎が肩をそびやかすと、ミオレスカが微笑んだ。
「結論だけが重要なのではありませんよ。人々が考え続けるという選択肢を得たことは、充分成果と呼べるのではないでしょうか。……はい、こちら、今回の意見交換会で出た意見をまとめておきました」
「えっ、書き留めておいてくださったんですか。ありがとうございます」
ミオレスカが差し出した冊子を、史郎は嬉しそうに受け取った。語り合われた内容はしっかり頭で覚えているが、書き留めたものがあればスメラギに渡す報告書を作る手間が省ける。
「実に有意義な時間だったと思うぞ」
レイアが何度も頷く。笑いが真剣な話に移っていく様子を目の前で見ていただけに、不思議な感動がレイアの胸には沸き起こっていた。
「私は笑顔を褒められちゃったし! 意見交換会、続けるならまた是非呼んでください、機会があればお手伝いしちゃう!」
まよいがえへへ、と嬉しそうに照れる。
「はっ、そうですよ、続けるんですよね、史郎さん!!」
ハナの目がきらりと輝いた。これはもしや、と史郎は早くも苦笑する。
「次は!! 是非、私のお婿さん選びを同時開催で!!」
「前向きに検討しますよ」
「本当ですかぁ!? 約束ですよ!!」
ハナの力強い声が、暮れゆく秋の空に響いた。
後日。意見交換会の報告書をスメラギに提出すると、スメラギは神妙な顔で受け取り、すぐに目を通した。そして、史郎に問う。
「……民の言葉は、全部俺様が大切に預かる。……が、史郎、お前の意見はどうなんだ?」
史郎はいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべて小首を傾げた。
「そうですねえ……、考えておきますよ。またの機会に、お伝えしましょう」
「なんだよ、勿体ぶって」
けらけら笑うスメラギの顔を、史郎はまぶしく眺めた。
(またの機会にお伝えしますよ。……俺たちの間に、秘密がすっかりなくなってから、ね)
史郎の白く端正な顔に、少しだけ憂いが差したことに、スメラギは気がついただろうか。
市井の声を集めて欲しい、という依頼を、スーさんことスメラギから受けた史郎(kz0242)は、すぐさま会場を手配した。意見交換会の開催を知らせるチラシを作っていたるところに貼り出し、当日の会場整備を手伝ってもらうためにハンターオフィスへ依頼を出した。オフィスはいつもより混んでいて、スタッフが慌ただしく立ち働いていた。
(どこもかしこも忙しい時期だよなあ)
そして迎えた意見交換会当日。
会場整備を依頼していたハンターたちがやってきた。と、その中から。
「史郎さんっ……頼めば何でも手配出来るんですよねぇ? 婿か旦那が欲しいんですぅ、どうにかして下さいぃ」
星野 ハナ(ka5852)が半泣きで飛び出してきて、史郎にすがった。史郎は慌ててハナの体を支えつつ、目を丸くする。
「お年寄りと子供は除いた成人男性でぇ、私が生涯ハンターすることに理解があってぇ、こう落ち込んだ時に筋肉をすりすりぺろぺろくんかくんかさせてくださる人が希望なんですぅ」
「どうにかしてください、という必死さの割には自分の欲望に妥協のない要求ですね……。まあ、その率直さがハナさんのいいところでもありますけど」
史郎は苦笑するというよりは面白がる表情で言った。そんな史郎を、ハナは潤んだ両目でみつめる。
「お仕事頑張るのでぇ、今回の依頼料プラスアルファくらいで何とかなりませんかぁ?」
「うーん、申し訳ありませんが、今回は何ともなりませんね」
史郎は支えていたハナの体をゆっくりと押し戻して、彼女を自力で立たせた。
「今回は、あくまでも意見交換会を手伝ってもらうという約束ですから。……今回は、ね」
わざとらしく今回は、と繰り返す史郎の意図を読むことができたのだろう、ハナが半泣きの表情を笑顔に変え、うんうんと頷いた。
(恋人探し、ってのは商売になるな、こりゃ)
史郎は内心でにやりとした。どこまでも商魂たくましい美少年。それが史郎なのである。
会場設営の作業に取りかかるとすぐ、ミオレスカ(ka3496)が史郎に声をかけてきた。
「史郎さん、お願いしていたお団子の材料なのですが……」
「ああ、用意していますよ」
史郎はにっこりと頷いた。ミオレスカからは、事前に「参加者にお茶請けを出したいから材料を手配してほしい」と申し出があったのである。
「最初にお茶請けの甘い物があれば、口も滑らかになるかもしれない、というのは確かにその通りだと思いましたので。いい案ですね。ただ、あまりたくさんは作れませんよ。参加者からは入場料を取らないタイプの意見交換会ですからね」
「はい、承知しています。たとえ量が少なくても、あるとないとではだいぶ気持ちが違うはずですから」
ミオレスカはしっかりと頷くと、会場である公民館の奥にしつらえられている台所へ向かった。その背を夢路 まよい(ka1328)が追う。
「私も手伝うね!」
「ありがとうございます、助かります」
史郎はふたりを見送って、さて、と会場内に並べる座布団を取りに行った。すでにハナやレイア・アローネ(ka4082)が取りかかっている。
「参加者の口を滑らかにしたい、ということであればぁ、座席の配置も考えた方がいいんじゃないでしょうかぁ」
ミオレスカの話を聞いていたらしいハナがそう言った。お茶とお菓子を用意することについては、ハナもミオレスカ同様に考えていたことであるが、彼女はそれに加えて座席についても案を持ってきたのである。
「普通の教室形式じゃなくてぇ、少なくとも発言者がお互いの顔を確認できる方式の方が良いと思うんですぅ」
「なるほど、意見交換、だものな。誰かに教えを乞うわけではない」
レイアが感心したように頷いた。
「いいですね、そうしましょう」
史郎は即座にその案を取り入れた。折角開催する意見交換会だ、肝心の意見を引き出せなくては何の意味もない。
「車座か、対面式か……」
「車座がいいですね。対面式では意見交換ではなく討論になりかねない」
小首を傾げて考えるハナに、史郎は素早く答えを出した。この判断の早さは、史郎が若くして成功した理由の一つであると言える。
「わかりましたぁ。二重にしたら全員座れますかねぇ」
「ここはこんなに広く開いていていいのか?」
「あ、ゆとりを持たせているのはわざとですから、いいんですぅ」
ハナとレイアは史郎の決定にすぐさま対応し、ふたりで声を掛け合いながら会場を整えてゆく。その手際の良さのおかげで、会場は実に整然と準備を終えられた。
「そろそろ受付の準備をしなければならないのですが……」
史郎が公民館の入口に机を運びながら言うと、ちょうど台所での仕事を追えて出てきたまよいが挙手をした。
「受付嬢は、私がやるよ!」
「それは助かります、お願いします」
「受付といえば、私達が見慣れてるのはハンターオフィスの職員さん達だよね。あんな感じでやればいいのかな~?」
「はい、それで大丈夫だと思いますよ。特に事前参加の申し込みなども受けていませんから名簿なんかもありません。入場人数だけ数えてもらって、あとは席への案内をしていただければ結構です」
「わかった! めいっぱい愛想よくするよ!」
まよいは早速満面の笑みで史郎に返事をすると、机の前にちょこんと座って参加者を待ち受けた。ほどなく、ひとりふたりと参加希望者が顔を出し始めた。まよいは、そのひとりひとりに明るく声をかける。
「ようこそおいでくださいましたー! 会場はあちらです、奥へお進みくださーい」
まよいに笑顔で挨拶されて、緊張気味の表情でやってきた人々はホッとしたように力を抜いて奥へ進んでゆく。
「ようこそー、え、お手洗いの場所ですか? えーと、あっ、はい、履物はそちらに……、あ、会場は奥です、えーと、お手洗いですよね、少々お待ちください」
ただにこにこしていればいい、と思っていたまよいは、やってくる人の数が増えると途端に仕事も増えてわたわたし出してしまった。思っていたよりもやることが多い。
「お手洗いはその通路を右ですよ」
様子に気がついた史郎が、すかさず助け舟を出す。
「わ~ん、色々聞かれちゃったり案内したりでパンクしそう!」
「あはは、でも、そうやってあたふたしながらも人がやってくればきちんと笑顔になるんですから、まよいさんは一流の受付嬢ですよ。でも、大変そうなら、交代しましょうか?」
「ううん、大丈夫。ここは一度引き受けたからには、私が頑張らないと!」
まよいは笑顔できっぱりと言った。史郎も笑顔で頷き返す。
「やっぱり、一流ですね。では、よろしくお願いします」
会場内で参加者に座席の案内をしながらその会話を聞いていたハナは、むう、と唸った。
「ただ持ち上げるだけではなく、しっかり仕事をさせるように仕向ける完璧な褒め方ですぅ。やっぱり史郎さん、稼いでるだけのことはありますねぇ」
用意した座席がほぼ埋まり、全員にお茶とお菓子が行き渡った。会場の空気はすでに和やかで、史郎はホッと安心した。司会を買って出てくれたレイアが車座を見渡せる位置に立つと、参加者から自然に拍手が沸き起こる。レイアは驚いたように軽く目を見張って、慌ててぺこりとお辞儀をした。
「えー、本日は多くの参加者に集まってもらうことができて、感謝している。今日は、「国の更なる復興のための意見交換会」ということになっている。挙手性で自由に発言できるから、皆、遠慮なく意見を発表してほしい」
レイアが最初にそう挨拶すると、車座から、おいおい、と大きな声を出す男性がいた。さっそく過激な発言が飛び出すのか、と身構えたレイアだったが。
「更なる復興のための、なんてカタイ会だとは聞いてないぜえ? 史郎坊やが「もっと儲けるためにはどうしたらいいか」を考えてやる会なんじゃねえのかよ?」
冗談めかしてニヤニヤとそう言う男はどうやら史郎の知り合いであるらしい。史郎はけらけら笑って頷いた。気軽に参加してもらうため、そう吹聴しては意見交換会の宣伝をしていたのである。
「ま、俺の本音を言っちゃうとそういうとこだね」
史郎がしれっと返すと、参加者がドッと笑った。
「でもさあ、俺だけに儲けさせていいのかい、皆?」
史郎がニヤリとしてそう続けると、そんなんいいわけねえだろ、図々しいぞ、などとヤジが飛んで、ますます笑い声が大きくなった。
なるほど、こうやって場を温めるのか、とレイアは内心で感心した。レイアは先日、スメラギに求められ意見交換に出席したばかりだった。意見を出すのも悪くはないが、他人の意見を聞くことの方が興味があり、今回の任務についたのである。
「まあ、儲けられるに越したことはねえけどよ、儲けられればそれでいいか、っていうと、それも違うんだよな」
ひとりの青年が、笑いながらそう言った。笑ってはいたが、まなざしは真剣だった。
「それはわかるけどさ」
手を挙げながら声もあげたのは、割烹着姿の女性だ。レイアは目線だけで頷いて、その女性の発言をうながす。
「まずは儲けることだよ。儲けられればいいってわけじゃない、なんてのは綺麗ごとさ。たいていのことは金があれば解決するんだ。子どもたちに美味しいものを食べさせられるし、勉強だってさせてやれる」
確かにそうだ、という同意の声があちこちから上がった。そこに、スッと真っ直ぐ手があがる。レイアが指名すると、まだ少女とも呼べそうな若い女性が立ち上がった。
「勉強については反論があります。どんなにお金があっても、それをきちんと使って通える学校があまりに少ないわ。独学で勉強しようとしても、私たち庶民にはそうするための本が買えないし。お金があっても、です。売っていないんだもの」
ああ、とため息に似た声が響いた。それはまさしく、庶民である彼らを取り巻く現実だった。場の空気が、少し重くなる。何か口を挟んだ方がいいだろうか、とレイアやハナが迷ったようにすると、史郎が静かに首を横に振った。黙って見守っていよう、ということだろう。かわりに、ミオレスカがお茶のおかわりをそそいでまわる。
「あ、ありがとうな……。団子、美味しかったぜ」
「それはよかったです」
お茶をそそいであげた男性のひとりからそう礼を言われて、ミオレスカはにっこりと頷き返した。
「……そうなんだよなあ。団子ひとつでも幸せな気持ちになれるんだからさあ、いかにたくさん金を持ってるか、ってことが幸せにはならないんだよなあ」
誰かが、ぽつりと呟いた。そうだよなあ、と誰かがそれに同意した。
「俺さ、ここに来たとき、受付で「ようこそ」って笑顔で出迎えて貰ってさ、すっげえ嬉しかったんだよな」
突然話題に出され、まよいが面喰ったように目を丸くする。
「でさ、思ったんだよ、俺、あんなふうに誰かに向かって笑いかけることができてたかな、ってさ。毎日毎日、金を稼ぐことに必死になってさ、そういうの忘れてたよな、って」
しみじみとしたその言葉に、確かに、と一同が頷いた。まよいは、どう返答したらいいものか迷ったけれど、褒めて貰えた笑顔を、もう一度、にっこりと見せた。
「でも、やっぱり綺麗ごとだよ。笑顔は大事だけどさ、笑顔さえあればいいなんて、あたしはとても言えないね」
うつむいてそう言う割烹着姿の女性の言うことはもっともで、皆なんとも晴れない顔つきになった。と、先ほど立ち上がった若い女性が、再び挙手をした。
「皆、お金儲けは大事だと思ってるけど、それだけじゃダメだとも思ってるわけですよね。お金儲けにだけ、必死にならなくてもいいような、そんな世の中にしなくちゃ、いけないんじゃないのかな。一部の偉い人だけが勉強できるんじゃなくて、私たちも学べるような。……どうしていけばいいのかは、わからないけど」
「……それはこれから、順番に考えていけばいいんじゃないのかい?」
それまで黙っていた史郎が、口を開いた。参加者が、一斉に史郎を見る。史郎はひとつ肩をすくめると、朗らかに言った。
「大事なのは、「考え続ける」ってことさ。皆さえよければ、こういう会を、これからも続けようと思うが、どうだい?」
参加者全員から、拍手が起こった。
「案外、穏やかな会になりましたねぇ」
帰っていく参加者を見送りながら、ハナがどこか拍子抜けしたように言った。いつ大騒ぎになってもいいようにと身構えていたからだろう。
「そうですね。ま、結論という名の成果は得られなかったですけどね」
史郎が肩をそびやかすと、ミオレスカが微笑んだ。
「結論だけが重要なのではありませんよ。人々が考え続けるという選択肢を得たことは、充分成果と呼べるのではないでしょうか。……はい、こちら、今回の意見交換会で出た意見をまとめておきました」
「えっ、書き留めておいてくださったんですか。ありがとうございます」
ミオレスカが差し出した冊子を、史郎は嬉しそうに受け取った。語り合われた内容はしっかり頭で覚えているが、書き留めたものがあればスメラギに渡す報告書を作る手間が省ける。
「実に有意義な時間だったと思うぞ」
レイアが何度も頷く。笑いが真剣な話に移っていく様子を目の前で見ていただけに、不思議な感動がレイアの胸には沸き起こっていた。
「私は笑顔を褒められちゃったし! 意見交換会、続けるならまた是非呼んでください、機会があればお手伝いしちゃう!」
まよいがえへへ、と嬉しそうに照れる。
「はっ、そうですよ、続けるんですよね、史郎さん!!」
ハナの目がきらりと輝いた。これはもしや、と史郎は早くも苦笑する。
「次は!! 是非、私のお婿さん選びを同時開催で!!」
「前向きに検討しますよ」
「本当ですかぁ!? 約束ですよ!!」
ハナの力強い声が、暮れゆく秋の空に響いた。
後日。意見交換会の報告書をスメラギに提出すると、スメラギは神妙な顔で受け取り、すぐに目を通した。そして、史郎に問う。
「……民の言葉は、全部俺様が大切に預かる。……が、史郎、お前の意見はどうなんだ?」
史郎はいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべて小首を傾げた。
「そうですねえ……、考えておきますよ。またの機会に、お伝えしましょう」
「なんだよ、勿体ぶって」
けらけら笑うスメラギの顔を、史郎はまぶしく眺めた。
(またの機会にお伝えしますよ。……俺たちの間に、秘密がすっかりなくなってから、ね)
史郎の白く端正な顔に、少しだけ憂いが差したことに、スメラギは気がついただろうか。
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- 命無き者塵に還るべし
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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意見交換会準備 ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/10/20 22:59:51 |
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質問卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/10/20 10:27:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/20 12:01:11 |