• 空蒼

【空蒼】last launch

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/10/25 07:30
完成日
2018/11/04 16:33

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●終焉の日
 繁栄を極めた地球人類の文明が終わる――。
 安易に、その事実を受け入れられる事は出来なかった。インフラが完全に止まっていたら、あるいは、そう感じられたかもしれない。
 スイッチを押せば電気は点くし、蛇口を捻れば水が出る。
 テレビニュースは近隣の街に出現した巨大なVOIDの集合体の姿を映し出していた。
 パッと見、人の巨大な影姿のようなそれは、不気味そのものであった。解説者の話によるとVOIDが寄り集まって形成されているようだ。
「結局、隣の家はシャトルに乗るってな」
 ニュースを横目に、新聞を読みながらいつもの朝を迎えていた老人は長年連れ添った妻に言った。
「そうね……もうすぐ、打ち上げの時間かしら」
「よく月に行こうと思うな……記事によると物凄い激戦というじゃないか」
 なんでも地球が凍結するという。
 いや、凍結という言葉は正しくないだろう。時間が止まるというのだ。
 そんな超常現象は理解できなかった。時計の針ではないのだ。時間が止まる訳がない――そう老人は思っていた。
 例のアプリのように、デマかもしれない。もう、何も信じられないなら、このまま過ごしても、何も変わりはしないだろう。
「庭木の手入れでもするかの」
 老人はお茶をゆっくりと飲み干した。

●last launch
 その打ち上げ基地からの“最後のシャトル”が打ち上がる。
 点検も済んでいるので、後は発射までのカウントダウンを迎えるだけだ。
「天気は快晴。風なく、波も穏やか……運が向いているかもな」
 戦闘機パイロットが同僚に告げた。
 暴走している強化人間やアプリ使用者が襲撃してくる事もあったが、ここまでは順調だ。
 そして、自分達が地球に残るという命令も“順調”だった。
「……なぁ、時間が止まるってどんな事だと思う?」
「さぁな。全部止まっちまうなら、なにも感じないんじゃねぇ」
 パイロットは両肩を竦めた。
 シャトルを打ち上げた後、すぐに時間が止まるという事ではないらしい。
 暫くの猶予はあるらしいが、敵の襲撃の可能性があるなら、迎撃しない訳にはいかない。
 ある意味、残酷な時間だ。
「例えば、時間が止まったまま、戻る事が無かったら、俺ら、死ぬって事と変わらないよな」
「止まった事を経験した事ないから知らねぇよ。それに、月面に行っても、あの激戦だ。生き残れるって保証もない」
「だよな……なら、このままでもいいのかな……」
 同僚の言葉が終わると共に沈黙が続く。
 カモメの鳴き声が響いた。
「……死にたくねぇよ。死にたくねぇよ」
 静かにすすり泣く同僚。
 地球に残るように命令されれば従うのが軍人だ。
 それも時間が止まるという中に残れと言われるのだ。打ち上げ基地から遠い戦場であれば、まだ、諦めもついたかもしれない。
 だが、なまじ、僅かな希望に近すぎた。
「だから、時間が止まるだけで死ぬわけじゃねぇだろ」
「なんの保証にもならねぇだろ!」
 逆切れする同僚にパイロットは大きくため息をついた。
「あのな、誰だって明日、生きているという保証は無いんだぜ。むしろ、これから時間が止まると確定した情報があるだけ、マシと思わないのか?」
「おめーは頭がイカレてる! 時間が止まったら、死んだも同然だ!」
「それじゃ、今からシャトルに乗れよ。まだ、スペースはあるんだろ?」
 面倒な様子でパイロットは同僚に言い放った。
 席は埋まっているが、貨物スペースはまだ空いているのだ。
「……お前は乗らねーのかよ」
「シャトルにな、姉夫婦が乗ってるんだ。俺の自慢の姉さんだ。だから、俺は守る事を選んだ」
 時間が止まろうが、戦って死のうが、必ず守ると約束した。
「なんだよ、それ……」
「だから、俺に遠慮する事はない。お前もシャトルに行け」
「……行かねぇよ。行ける訳ないだろ!」
 同僚はグッと拳を作った。
 その時だった、基地に警報が鳴り響く。海鳥が一斉に飛び立つ。
「な、なんだ、ありゃ?」
 視界の中、外洋の方から巨大な存在が近づいてくるのが見えた。
 人の形をしているようだが……大きさ的に人間では無いのは明らかだ。
「冗談、だろ……」
「このタイミングでVOIDかよ!」
 それは巨大な人影のようなVOIDだった。
 海面から出ている部分だけで20メートルはあるだろうか。のっしのっしと真っ直ぐ向かってくる。
「基地に残っていたCAMは全部シャトルに積んでいるはず。今から降ろす訳にはいかないとなると……俺達で止めるしかねぇ」
「あんなもの、止められるのかって!」
 腰が引けている同僚にパイロットが爽やかな顔を向ける。
「死んでも守るって約束した。止められるかどうかじゃない止めるんだ」
「まさか……特攻するつもりじゃないだろうな!」
「じゃあな」
 走り出したパイロットの背を唖然と見ていた同僚だったが、ハッとして追い掛ける。
「くそ! くそ! ばかったれが! 待てよ、大馬鹿野郎!」
 打ち上げ基地から二機の戦闘機が飛び立つのはこの後の事だった。

リプレイ本文

●開始
 広大なラグーンの中をまるで水溜まりのように進む人の形をした巨大VOID。
 一直線にシャトルがある方向に向かっているのは確かなようだ。
「これより、あの巨大VOIDを『奇怪叫獣ウミヴォ-ズ』と呼称します!」
 海の上で飛び跳ね、盛大に豊満な胸を揺らしてルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が勝手に命名した。
 スーと横に並ぶ浅黄 小夜(ka3062)が髪を揺らしながら言った。
「折角の……お名前ですけど……倒どしたら……おしまいですよね」
「あ、そっか!」
 ハッとしながらもくるくると杖を振るって仲間にある魔法を掛けていく。
「ジュゲーム(以下略)……ルンルン忍法スーパー水蜘蛛の術☆」
「私もお手伝いします」
 二人が唱えている魔法は、水面の上に“立てる”魔法だ。
 このうち、ルンルンの方は、特別な杖の力を駆り、波で揺れても地面が揺れているようにならなくて済む。
「これで、波も私の大地。打ち上げ基地には一歩も立ち入らせないんだからっ!!」
 ルンルンは指先をビシっとVOIDへと向けた。
「……た、立ち入らせへんの……ですから」
 やらなきゃいけない事なのかと、ルンルンに続く小夜。
 揺れた所が揺れたかどうかはともかく、二人の術士の力で、海面に立った仲間達は迫りくるVOIDを見つめる。
「海面下を含めると、かなり大きいな……」
 瀬崎・統夜(ka5046)は水中用の弾を持ってきた事を確かめながら呟いた。
 場合によっては水中での戦闘もあり得るだろうからだ。
「面倒な相手のようだ」
 その台詞に面々は頷いた。
「流石に、この状況は空気読めてなさ過ぎだな」
「ほんとに、あんなの呼び寄せたのだーれー? 誰かが死亡フラグを呟いたとしか思えない間の悪さ!」
 テノール(ka5676)とカーミン・S・フィールズ(ka1559)の二人が一歩一歩、海を揺らして進むVOIDにそんな感想を言った。
「あぁ、いや、物語を面白くする敵役として出てきたか?」
「そんな軽いノリな割に、どう見てもシャトルを狙って移動しているよね」
「だったら、さっさと退場してもらおうか」
 飛沫を上げて走り出すテノールは瑠璃色のオーラを纏った拳を構えた。
 その斜め後ろを、蒼機槍を手にして追い駆けるカーミン。
 二人の前衛の背中を見つめ、八原 篝(ka3104)が純白のカオスセラミック製の弓を左手で持ちつつ、右手で通信機機能を持つイヤリングに触れていた。
「こちらハンター、到着したわ」
「頼もしい援軍、確認した。よろしく頼む。俺はシュガー1だ」
 突き抜けたような青空を舞う二機の戦闘機のうちの1機が翼を揺らしながら言葉を返してきた。
 続く機体がロールする。
「シュガー2だ」
「甘そうな名前ね」
「戦闘自体は激辛だけどな」
 そんなやり取りも束の間、VOIDの瞳に負のマテリアルが集まり、不気味に光った。
 直後、ビームが宙を飛んだ。二機が左右に散開して避ける。外れたビームは遥か後方へと伸びていく。
「どうやら、敵の射程が長いよう?」
「そのようだ。シュガー1、攻撃を開始する」
 敵の射程外から戦闘機が攻撃するのも難しいようだ。
 どの道、戦闘機がハンターと連携するなら誤爆を防ぐ為にも遠距離攻撃は適さないだろうか。

●戦闘
 VOIDに戦闘機からの対地ミサイルが立て続けに命中する……が、その歩みが衰える様子は全く見えない。
 逆に耳障りな叫び声が続いていた。
「あいつの叫び声にあてられると、マトモに動けなくなりそう?」
 篝が眉をひそめながら言った。
 負のマテリアルが含んだその叫びに屈してしまうと、行動が鈍くなりそうなそんな気がしたからだ。
 もっとも、誰一人として屈していないが。
「こちらは何の影響もない。シュガー2はどうだ?」
「全く影響がねぇ。というか、外の声が直接聞こえている訳じゃないしな」
「どうやら、叫びが聞こえたら影響が及ぶタイプのようね」
 戦闘機のエンジン音が大きすぎて通信機を通じて聞いているパイロットには無効だったようだ。
 これは覚醒者ではない彼らにとっては幸運な事だ。心配事の一つが無くなり、篝は火矢を番える。
「まずは、敵の動きから鈍らせてもらうわ」
 マテリアルを込めながら引き絞った矢を青空に向かって放つと、光の雨となってVOIDに降り注いだ。
 VOIDはそれを腕で受け止めるが、スキルが持つ効果までは防げない。
 チャンスと見た戦闘機が急旋回を見せた。再度の攻撃を行うつもりなのかもしれない。
 小夜が箒に跨りながら、二機へ告げる。
「私達が……止めしますさかい……無茶せず冷静に……確実に……攻撃しいやおくれやす」
「了解した」
 急旋回の途中から機体を捻り急上昇する二機。
 タイミングを見ての一撃離脱に戦法を切り替えたようだ。
 前衛を巻き込まないように魔法攻撃を撃つ為に、宙に飛び上がる小夜。
「ルンルンさん!」
「二段構えで、合わせましょう!」
 呼び掛けられたルンルンは海面を疾走しながら符を幾枚か宙へと投げる。
 それらが不可視の結界を構築する。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術……海の上だけど土蜘蛛なのです!」
 二人の術士が放った魔法が出現、結局は小夜が唱えた魔法が効果を発揮、VOIDの進む足が遅くなった。
 それを見てルンルンは符術を切り替える。
「ルンルン忍法戌三全集陣!……ババンババンバンバン!」
 無駄と言われても可笑しくないほどの振り付けでフォトンカードを宙に投げ上げると、幾つもの稲妻がVOIDを直撃した。
 その威力はなかなかのはずだが……VOIDは平然としたまま進んで来る。
「なかなか硬そうです!」
「ただ固いだけの敵とか、そんなフンイキとか。そういうの苦手ー!」
 悔しそうに次の符を準備しながら叫んだルンルンの言葉に、カーミンも叫んだ。
 VOID周辺は波が立っているが、ワンドの力を借りて行使されたウォーターウォークを受けている彼女に、海面の揺れは影響しなかった。
 注意深く敵を観察しながら側面に回ると、対地ミサイルが直撃した部位に蒼機槍で斬りかかる。
「これだけデカいと、狙った部位に当てたい放題ね」
 切り付けた部位に薄い傷のようなものが出来る程度だが、そこからマテリアルがググッと広がった。
 疾影士のスキルを用い、マテリアルを変質させた毒で相手にダメージを与えるのだ。
 これなら、如何に敵の防御力が高くても、安定してダメージを与える事が出来る。
 一方、テノールがVOIDの正面で拳を構えていた。
「今だッ!」
 VOIDと波の動きを見計らい、タイミングを合わせてマテリアルを込めた必殺の一撃を叩き込んだ。
 間髪入れず続く連打。格闘士の強力なコンボを受け、VOIDの動きが止まった。
 経過を見ていた戦闘機がチャンスと見て、急降下を開始する。
「まだです!」
「なん……うぉ!」
 VOIDの表面が激しく割れ落ちながら、負のマテリアルを全周囲に放ってきたからだ。
 間一髪の所で戦闘機は反転、直撃を避ける。テノールの警告が無ければ危ない所だっただろう。
「縮んだ……いや、これは表層を切り離したというべきか」
「それも、与えたバットステータス諸共ね」
 間近にいるテノールとカーミンが状況を観察する。
 これで、また一から仕切り直しだが、敵のサイズが小さくなったので、結果的にはVOIDが進む距離も減ったはずだ。
 テノールを跨ぐように進むVOIDに、瀬崎が魔導銃で狙いを定めつつ、インカムを通じて戦闘機に伝える。
「俺の射撃の後を狙え、動きを遅らせる!」
「分かった!」
 大空を旋回し、太陽の光を反射した翼がキラリと光ると同時に、瀬崎が持つ魔導銃の銃口も光った。
 降り注いだのはマテリアルによる光の雨。
「シュガー1 爆撃を行う。海面のハンター達は揺れに気を付けてくれ」
「シュガー2 とっておきを叩き込んでやるぜ!」
 交差するような機動を描いた二機が小型爆弾を投下した。
 大音響と共に水柱が高々と上がる。
 一瞬、よろめいたVOIDは、またもや表面が崩れ落ちると不気味な口をシュガー2に向けた。
「ち、ちくしょう!」
「やらせてたまるかよ!」
 マテリアルが込められた瞳で敵の動きを見ながら素早くリロードする瀬崎。
 発射した弾丸が変則的な弾道で飛び、口を一度、二度と貫いた。そのおかげか、放たれたビームは戦闘機の頭上を掠め飛んだ。
「助かったぜ」
 揺れながら一時退避する間もハンター達の猛攻が続く。
 表層は堅いが全くダメージが入らない訳ではないのだ。だが、次の問題が発生した。
 巨大だったVOIDが、ハンター達と戦闘機からの度重なる攻撃を受け続け、表層を剥がし続けた結果、その体がついに海上から消え去ったのだ。
「完全に……水没しはる大きさに……」
 驚きながら、小夜は海中を進むVOIDを注視する。
 巨人VOIDの身体は完全に海面より下だ。近接職や射程が短い魔法を撃つ場合、海の中に入るしかない。
 射撃攻撃は水中対応でなければそもそも届かない。
「こうなったら……」
 覚悟を決めたような台詞が通信機から聞こえてきた。
 戦闘機の兵装では海中を進むVOIDを攻撃する手段がない。最後の手段として機体ごと突っ込むつもりかもしれない。
「どもないです……私達が必ず倒しはりますから……」
 小夜はパイロットに告げると、箒から海の中に見事な弧を描きながら飛び込んだ。
 精霊の加護があるとはいえ、水中戦闘に影響が全くない訳ではない。戦う上で幾つか気を付けなければいけないだろう。
「息継ぎは余裕をもってね」
 カーミンも周囲の仲間に忠告すると海の中に潜る。
 海中では声を発する事が出来ないが、それはVOIDも同様のようだ。
 おかげで奇怪な叫び声は止まっている。もっとも、ハンター達にも、戦闘機パイロットにも、何の影響もなかったが……。
「水中では移動速度が落ちるからな」
 海面を疾走するテノールがVOIDの進行方向へと先回りする。
 VOIDが海中から負のマテリアルのビームを放つが、軽いステップを踏んで直撃を避ける。
 ハンター側も黙ってはいない。ルンルンが符を放ち、術を唱えた。
「火遁の術で、綺麗さっぱり消毒なんだからっ!」
 術であれば空中であろうと海中であろうと関係なく、距離さえ届けば効果を発揮する。
 小夜がマテリアルで創り出した氷の矢を放ち、VOIDを直撃する。
 VOIDの動きが鈍くなった所で、今度はカーミンがマテリアルの毒が込められた蒼機槍の十字型の穂先を飛ばす。
 投擲武器による攻撃は矢や銃との射撃攻撃と同じではない為、水中でも有効である。
 思わぬ追撃にVOIDが海中で右往左往とする。その様子に素早い動きで矢を番える篝。
「一気に畳みかけるわ」
 ただの矢ではない。水霊の力を宿した矢であり、水中に向けて放つ事も出来るのだ。
 目にも止まらない速さで二射すると、再び矢を番えた。
 射撃を繰り返すのは、篝だけではない。瀬崎も水中用の特殊弾に切り替えて撃ち続けていた。
 射撃武器は水中対応できる矢や弾が無ければ無用の長物だが、二人の準備が万全だった。
「更に小さくなったか……海底を歩かれると面倒だと思ったが、この様子なら大丈夫、だな!」
 マテリアルを込めた必殺の弾丸を放つ。
 それは人間大のサイズまで小さくなったVOIDに直撃した。間髪入れず、好機と見て海中に潜ったテノールが拳を水圧など気にせずに繰り出す。
「これ以上は小さくなれないはずだ」
 テノールの言う通り、白虎神拳を打ち込まれたVOIDは行動の自由を奪われたまま海中を漂う。
 こうなれば、もはや単なる的も良い所だ。次々に、容赦なくハンター達の攻撃が続き、VOIDは最期、海に溶けるように消滅していった。

●未来へと
 ハンター達がラグーンの端の砂浜に上陸した時、シャトルが宇宙に向かって発射された所だった。
 最後まで上空警戒を行っていた二機がハンター達の方へと向かってくる。
「行ったか……月まで無事に辿り着けるといいな」
 瀬崎の言葉にシュガー2が答えた。
「そうでないと……マジで困るぜ。俺は、俺は、ここに……残っているんだからな……」
 泣き声雑じりの声が通信機から聞こえてくる。
 シャトルが発射された以上、ここに残った者は等しく、凍結されるのだ。
 今更、月に行きたいと言っても、もはや物理的に不可能であり、彼の時間が止まるは確定している。
「わたし達にもっと力があれば、こうならなかった。ゴメンなさい……なんて言ったりしないわよ」
 篝が慰めるような事を言いつつ、戦闘機に向かって手を挙げて続ける。
「まだ終わってない。何があったって絶対に地球は取り戻すわ!」
 その誓いに弱々しくシュガー2は応えた。
「頼むぜ……本当に……」
 そんなシュガー2が乗る機体を小夜は見上げる。
 どこまでも続く青い空を自由に飛ぶその姿は、弱々しい彼の口調とは真逆に、頼もしく美しく見えた。
「……私が帰りたいのは地球で……それは、そこに家族や友達がいるからで……」
 触れるように腕を伸ばす小夜。
 機体を優しく包むように手を握る。強く、強く握った。今日、ここで決意した事を決して忘れないように。
「……帰れるのは……帰りを待ってくれる人がいるから、だから……ここは絶対に護るし……地球凍結も……必ず解除します」
「そうです! 絶対に解除です!」
 ルンルンが飛び跳ねながら叫ぶ。
 凍結は終わりではない。未来へ繋ぐ希望でもあるはずだ。
「……ありがとう。ありがとう」
 感謝を繰り返すシュガー2にハンター達は頷いた。
 彼の心が、落ち着いたと見て、シュガー1がハンター達に頼み事を告げる。
「ついでに聞いてくれると嬉しいが、あのシャトルには姉夫婦が乗ってるんだ。月まで無事にいけるように頼んだ」
「分かったわ」
 カーミンが即答して続ける。
「あなたの甥か姪が、小さく可愛いうちに会わせてあげる。楽しみにね♪」
「それは楽しみだな」
 シュガー1は嬉しそうに翼を揺らす。
 凍結して時間が止まるのはリアルブルーだけで、月に避難した者達とは時間軸が広がっていく。
 時間の差はなるべく小さい方がいいだろう。解除されたら、知っている者が居ない……みたいのは避けたい所だ。
 綺麗な弧を描いて飛ぶ彼らを目で追いながら、テノールは持ってきたウィスキーを掲げる。
「戦う人間が勝った後にやることは祝杯だろう? 次、逢った時にうまい酒でも教えてくれ」
「勿論だ。飛び切り旨い酒が故郷にある」
「ついでに、面白かったり話題の本があったら教えてくれないか……だから……またな」
 二機の戦闘機が絡むように上昇する。
 まるで航空ショーでも見ているような、見事な機動だ。ハンター達の未来での勝利を願って、彼らなりの餞別なのかもしれない。
「あぁ、またな」
 短い返事と共に空高く昇っていく彼らの姿を目に焼き付けながら、ハンター達は帰還するのであった――。


 おしまい

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重体一覧

参加者一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
八原 篝(ka3104
人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/10/21 10:43:09
アイコン 相談卓
八原 篝(ka3104
人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/10/25 03:04:44
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/20 11:13:14