王都第七街区 再復興計画会議

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/26 19:00
完成日
2018/11/01 16:12

みんなの思い出

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オープニング

 王都第七街区ドゥブレー地区を担当していた番頭、ジャック・ウェラーが『行方不明』となったことは、ノーサム商会会長ブライアン・ノーサムの元まで報告が届いていた。
 部下であるジャックがかの地区で『まっとうではない』手段で商会の権益拡大の為に行動していたことをブライアンは承知していた。そして、その事を危ぶんでもいた。だが、若くして番頭の一角を占めるまでに出世を果たしたジャックは聞く耳を持たなかった。そして、地区の『自治』を担う『地域の実力者』であるドニ・ドゥブレーに手を出した。
 ドニは元々、小さな賭場の主に過ぎなかったが、黒大公ベリアルの王都襲撃の際に人々を避難誘導し、その後の復興の旗振り役となったことで人望を得ていた人物だった。だが、ジャックは『成り上がり者』のドニを自分よりも下に見てしまった。彼は人間関係を上下関係でしか測れない人物だった。
 着任早々、ジャックはドニを自分のコントロール下に置こうとした。ドニが利益誘導に乗らぬ人物だと分かると、ジャックは『証拠を残さぬ脅迫』という形に手段をシフトした。だが、その悉くをドニとハンターたちに阻まれ、彼の自尊心は大きく傷つけられた。そして、かの第六城壁の歪虚襲撃事変を経て……ジャックは意のままに操れる者に頭を挿げ替えようと、ドニを直接襲撃してしまった。
 その日から、ジャックの行方は『不明』となった。恐らくはドニの手によって返り討ちに遭うなり、捕らえられたりしてしまったのだろう。
 狼狽するジャックの部下らに日常業務に戻って静観するよう指示を出し…… ブライアンはジッと審判の時を待つことにした。

 その時はそれほど遠からずやってきた。
 その日、王都の復興担当官ルパート・J・グローヴァーやドニらを交えて行われる地区の再復興計画会議に参加するべく自宅を出たブライアンは、庭の玄関先に停められた馬車の扉の前にドニ・ドゥブレーが立っているのを見て、思わず足を竦ませた。馬車に付いていたはずの護衛は一人も残っていなかった。ドニの部下らが音もなく排除したのだろう。ヒッ、と短く悲鳴を上げて屋敷に駆け込もうとした秘書は、いつの間にか背後に回り込んでいたドニの腹心アンドルーに道を阻まれ、腰を抜かしてしまった。
「おはようございます、ブライアン・ノーサム会長。なに、偶には馬車に相乗りさせていただこうかと思いまして。目的地は一緒でしょう?」
「さあ、乗ってください。何も取って食いやしませんよ」
 アンドルーの声に背を押され、ブライアンは座り込んで震える秘書に「事を荒立てるな」とだけ告げると、背筋を伸ばして馬車のワゴンに足を掛けた。
 キャビンの椅子に座ると、真横にアンドルー、向かい側にドニが座った。扉が閉まると馬車は第七街区に向かって進み出した。ブライアンは背後の窓越しに、もう二度と帰れないであろう屋敷を瞼の裏に写し取った。
「ジャック・ウェラーがうちのシマでしてかしてきたこと、その全てを自供した」
 差しさわりの無い会話で前置きをぐだぐだ述べるような趣味はドニにはないらしく、彼は一言目からブライアンに対して本題をズバッと切り出して来た。
「ノーサム商会がその権益を拡大する為にやってきたこと全て──こちらが訊いてないことまでベラベラと、ね。……ブライアンさん。あんた、相当彼に嫌われて……いや、憎まれているようですな」
 挑発的にそう告げるドニに対して、ブライアンは「……そうでしょうな」と毅然と返した。命の危険に晒されて尚、怯えた様子は一切なかった。
「で、手前どもの弱みを握ったドニさんはいったい何をお望みですかな? 地区から手を引けと? それとも、この爺の首をお望みか?」
「んなもん要らんわ。一文の得にもならん」
 その言葉を聞いた瞬間、ブライアンの背中にドッと汗が噴き出した。安堵の汗ではない。緊張の汗だった。
 ……どうやらドニは、報復ではなく『交渉』に来たらしい。となれば、死ぬのとはまた別の覚悟を定め直さねばならなくなる。
「商会が地区から手を引く必要はない。多少、後ろ暗い手段を用いるってのも……まあ、商売の範囲内だったら構わない。俺に火の粉が飛ばぬ限りはな。……俺からあんたに突きつける要求はただ一つ。地区担当の番頭の首を挿げ替えること、だけだ。自分を有能だと思い込んでいる若造の相手をいちいちさせられるのは時間の無駄だからな。仕事の話が出来る奴を連れて来い」
 ドニの言っていることはほぼ現状維持──即ち、実質的にお咎めなしという話だった。少なくとも商会に限った話では。
 意外とドニの立場は危ういものであるのかもしれない── ブライアンはそう思い至った。……元々、商人連合──地区に資本を投入している商人たちの互助組織──に参加している商人たちは、第五・第六街区に店を構える中小資本の新興商人たちで殆どが占められている。第二・第三街区の大店の権益が及んでいないフロンティアとして、地区での商売に魅力を感じて進出してきた者たちだ。ドニも意図的にこういった者たちを優遇してきたのだが…… 先の第六城壁の戦いでは地区は大きな痛手を被った。元々、体力のない中小規模の商人たちだ。中には地区からの撤退も検討している者らも多いと聞く。そんな中、連合筆頭たるオーサム商会までもが撤退を表明すれば、新興商人たちも雪崩を打ってこの地区から逃げ出してしまうだろう。……つまり、ドニの復興計画は完全に破綻する。
「……もし、私が断れば?」
「第二、第三街区辺りの大店に声を掛けることになるだろうな。新興商人たちは手つかずの新たな市場を一つ、完全に失うことになる。それに……」
 ドニはブライアンの目を真っ直ぐに見据えて、言った。
「その場合は、立場上、俺もけじめをつけなきゃならん。どこぞの商会の会長と番頭の死体が一つずつ、墓碑のない墓穴に埋まることになるだろうな」
 ……沈黙が場に舞い降りた。ガラガラと馬車が進む音だけが日の光差し込むキャビンに満ちて……やがて、御者が──ドニの部下が、第六城壁への到達を告げる。
「では、私たちはここで降りる。二人並んで会場に入ったら変に勘繰られてしまうからな。そちらの返答は復興会議での発言内容で判断させてもらう」
 そう言って立ち上がるドニたちを、ブライアンが引き留めた。
「待て。さっきの物言いだと……ジャックはまだ生きているのか?」

 ブライアンはドニへの協力を約した。
 復興会場へブライアンを送る馬車の背を見送りながら……アンドルーがドニへポツリと呟いた。
「……噂は本当だったんですかね? ジャックが愛人に産ませたブライアンの実の子だという噂は……」
「……さぁな」
 ドニは肩を竦めると、着替えの為に事務所へ向かった。

 各者、全ての根回しを終えて── 地区の再復興計画会議が始まる。

リプレイ本文

「王国の長屋の形状ってどんな形ですぅ? それこそ共同トイレで区画単位の『みかじめ料』の出番だと思いますけどぉ?」
 ハンターの星野 ハナ(ka5852)が先鞭をつける形で、ドゥブレー地区の再復興会議は始まった。
 きゃぴきゃぴ(←死語)とした見た目と言動に、会議参加者たちは驚き、眉をひそめたが…… 彼女が提出した住宅再建案はそのイメージとは対照的に、シビアなまでに実際的なものだった。
「地区ごとに五軒長屋を集中して建設してぇ、設計と材料の共通化で作業時間とコストを抑えてぇ、日雇いの賃金はお昼ご飯を出す分易くしてぇ、区画単位で共同トイレも作ってぇ、その分、完成した長屋は皆が手に入れ易いようお手頃価格で提供してぇ…… あ、煮炊きの竈も1か所に5個とか纏めて作れば、竈の灰とかも回収し易くなりますねぇ。後は家賃とか町会費とかの名目でゴミや汚物の回収費用を徴収すれば、収支は合うと思いますぅ」
 予想外に綿密な事業計画に目を丸くするおっさんたち。それを見たハナが(色んな意味で)ニッコリ笑う。
「作業員の賃金は安く、ですか……」
 そのハナの提案に、サクラ・エルフリード(ka2598)は渋い顔をした。今度は子供か、と苦笑う役人たち。が、地元の代表者たちはクスリとも笑わない。
「住宅の再建を最優先にマンパワーを振り分けるのは私も良いと思います…… ですが、給与に関しては通常通りに出してもらいたいです」
 サクラは主張を続ける。役人たちは絶句する。
「地域経済の停滞も治安の悪化も、根本的には『そもそも仕事もお金も無い』のが原因なのです。安い給与では生きるだけで精一杯となり、他へお金を回すことが出来なくなる」
 全ては繋がっている。お金に多少余裕が出来れば、人はそれを嗜好品や娯楽に使えるようになる。金が動けば経済が回り、商人たちの売り上げが上がる。ドニたちの税収も増え、公共サービスの質も上がる。
「だからこそ、賃金は値引かないで欲しいのです…… そして、その住宅再建事業には『地方出身者』も積極的に雇い入れるよう提案します」
 サクラがそう告げた瞬間、会場が大きくざわついた。無理もなかった。ここでサクラの言った『地方出身者』とは、王女の縁談騒動の際に王国各地から王都に集まって来た者たちの事を指していた。彼らはドゥブレー地区にも多く逗留していたが、戦火によって荷物や財産を寝泊まりする場所ごと失い、地区の治安悪化の一因となっていた。
「ああ、あんたらがそういった反応を示すのも無理は無ぇ。地元の人間にとっちゃ得体も気心も知れねぇ連中だろうしな」
 J・D(ka3351)がサクラに代わってざわつく者たちに告げた。
「だが、考えてもみてくれ。地方出身者も元をただせば同じ被害者だ。連中は故郷に帰る金が必要で、住宅の再建には人手が必要──となれば、建築現場の作業員として雇って賃金を払えばいい。金が入れば人の心も上を向く」
「はい。衣食住……特に食と住を充実させられれば、治安は自然と良くなっていくかと…… それまではドニさんたちやハンターに頑張ってもらいましょう。……特に誰かさんは物理的に殴るのがお得意ですし(←小声」
 J・Dの言葉に頷くサクラ。だが、ハナはうーん、と小首を傾げる。
「言いたいことは分かるけど……そうしちゃうと、どうしたって『足が出る』よ?」
 ハナは商人たちの方をチラと見た。……継続可能な『事業』でないと復興は『破綻』する。況してや今は商人たちも大きな損害を受け、撤退を検討する者まで出ているような有様だ。
「……提案がある」
 王都の復興担当官ルパートが挙手をした。
「資金が足りないと言うならば、第二、第三街区の大店を事業に引き入れるべきだ。幸い、そう言った話が幾つか私の元に届いている」
 ルパートが言い終わるより早く、会場はその日一番のどよめきに包まれた。最も騒然としたのは商人たちだった。それはそうだろう。彼ら第五、第六街区の新興商人たちは、老舗の権益の及んでいない新たなフロンティアを期待して、このハイリスクハイリターンな第七街区に出資し続けてきたのだから。
 ルパートの発言に、ドニとJ・Dは同時に舌打ちをした。……恐らくはルパートは既にどこかの大店に鼻薬を嗅がされているのだろう。このままでは新興商人たちは雪崩を打って撤退する。そうなれば、地区の経済はオーサム商会などとは比べ物にならない大資本に呑まれてしまうことになる。
「……衣食足りて礼節を知る、か。……うむ。この上なく適切な言葉だと思うが、どこからそれを持ってくるか、と言うのは、実に問題だ」
 騒然とする会場に、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の声が響いた。
 気づいたサクラが(敢えて)呑気な調子で挨拶をした。
「おや、これはルベーノさん。どうしました、こんな所に。今日は教会ではなかったですか?」
「いや、俺は調査結果を会議に提出したいというレイアの道案内をして来ただけだ」
 ルベーノがそう言って身体を横に退けると、そこに辺境の女戦士レイア・アローネ(ka4082)がいた。書類の束──調査結果を纏めた自作の資料──を手にした彼女は、慣れぬ仕事にいささか緊張しているように見えた。
「市街の復興── 普段、戦うことしかしていない私だが、こういうところで役に立てるのなら、喜んで参加させてもらいたい。……です」
 最後にポツリと敬語を付け加えて。レイアはお歴々に向かって一つ頭を下げた。


 会議の始まる数日前── 戦災にあった地区を広く見回って現状の調査を続けていたレイアは、その日、ルベーノに連れられてジョアニス教会のあるエリアを訪れていた。
 ジョアニス教会──かのリベルタースからの逃避行で、人々を導き続けたシスターマリアンヌが長を務める教会だ。孤児院も併設されており、大勢の子供たちを受け入れている。
 経営は苦しい。教会の運営は全て配給と寄付、シスターを慕うご近所さんや信者、ハンターたちのボランティアで成り立っていた。目の前の大男(ルベーノ)もまたそんなボランティアの一人だという。
「おはよう、シスター。今日も良い天気であるな。雨漏りを直すには良い日和だ!」
 ルベーノは教会に着くや否や、シスターたちから不足している物資を聞き取った後、とんかちと板と釘を手に屋根へと上って建物の修繕を終えて…… そのままの流れで孤児院の子供たちを訪れ、彼らと一緒に椅子や本棚と言った家具──自分たちで使ったり、バザーで売ったりするのだ──を日曜大工で作ったりした。
「お前たち、最近、何か気になったり、気づいたりしたことはないか? 教会のことでもご近所さんのことでも何でもいいぞ?」
 作業後、手伝ったレイアと一緒に完成した椅子や机らと共に子供たちをぶら下げて歩きながら、ルベーノが子供らに訊ねた。多くは取り留めのない事だったが、中には○○爺ちゃんを何日見てない、といった類の話もあり、教会を出て見に行くことにした。
「……この辺りは被害があまり無かったのだな」
「ああ。俺たちが守ったからな」
 幸い、お爺さんは腰をいわせただけだった。二人はお爺さんの身の回りの世話を済ませ、公共財の修繕などを行い、戻った。
「これからちょいと離れた商店街まで巡回に行くのだが……レイア、お前もついて来るか?」
 翌朝── 不足している物資の調達がてら日課の巡回に出るというルベーノと共にレイアも街に出た。
 そして、絶句した。その住宅街は教会周辺とは打って変わって酷い有様だった。町は大火に焼け、バラックと呼ぶのもおこがましい粗末な『雨避け』の下に、大勢の人々が無気力で座り込み、横たわっていた。
 レイアはその有様を忠実に記録していった。途中、悪党に因縁をつけられたりしたが、それはルベーノと共に『腕っぷしを活かした話し合い』で撃退した。
 そんな住宅街を抜けると、また被害の小さめな商店街へと辿り着いた。その裏道横丁商店街──第五、第六街区の新興商人でもなく、地元の商人たちが集まった商店街だ──で、パン屋や他の店を回って人手が要らぬか尋ねて回るルベーノについて回って調査を続けていると、一人の修道女と出会った。彼女は揃いの制服を着た男たち──ドニの部下たちだ──と共に、どこかに向かう途中であるようだった。
「む。シレークスか。今日は教会ではないのだな」
「お、ルベーノ。今日は『こっち』でやがりますよ」
 そう言って力こぶを作って見せる修道女。ルベーノの勧めもあって、レイアはその修道女──シレークス(ka0752)について行くことにした。
 シレークスたちは待ち合わせ場所で地元の自警団らと合流すると、レイアとルベーノが通り抜けた『被害の大きかった住宅街』へと踏み込んだ。
「おら、野郎共っ! こんな時だからこそ、下の方から気張っていきやがりますですよ!」
 シレークスの号令直下、ドニの部下らと自警団たちが廃墟の街並みへと展開し…… 街の片隅に屯していた不審者たち(恐らくは『地方出身者』たちだろう)を瞬く間に拘束していく。
 そこへ後光(明るい外から薄暗い廃墟の中に入るとそう見える)と共に登場するシレークス── 彼女は普段からは想像もつかない『慈愛に満ちた修道女の笑顔(=営業スマイル)』を浮かべながら、捕まった男たちへ「復興作業のご協力を」とにっこりと笑い掛けると、有無を言わさず『連行』していく……
 男たちが連れてこられたのは収容所ではなく、建築作業の現場だった。彼らは奴隷の様にこき使われると覚悟した。だが、そのようなことはなかった。定期的に水と休憩が与えられ、昼には暖かい食事まで出された。
「光よ、我らを導きたまえ」
 全員が席に着いた長テーブルで、シレークスが食前の祈りを捧げる。……そう言えば、祈りなんて捧げるのはいつ以来か。湯気の揺蕩う食事を見下ろし、男たちは涙した。
 日没と共に作業が終わると、全員にその日の賃金が手渡された。拘束されることもなかった。
「また明日もよろしくお願いしやがります」
 素の笑顔で笑いながら、シレークスは彼らを見送った。


 そうして調べて回った地区の現状を、レイアは資料として会議の参加者たちに配った。
「今後、復旧作業に本腰を入れるに当たって、どこから作業に当たるべきか…… その優先順位がつけ易いよう、私なりに纏めておい……おきました」
 復興事業の選択と集中── それがレイアの提案だった。一口に戦災と言っても被害の濃淡はある。既に自警団や炊き出しといった組織化がなされている地域は物資の援助に留め、人員は被害の大きな所に集中的に回す等すれば、巨大資本の手を借りずとも自分たちでやっていけるはずだ。
「だが、大勢の商人たちが撤収を検討している現状では……!」
「はいは~い! そこでご提案ですよぉ~!」
 反論しようとするルパートにすかさずカットインしながら、ハナが商人たちへ『商談』を持ちかけた。
「商人さんたちの出資方法を按分形式で『証券化』しましたぁ。家の建築と販売にだけ出資する人用の『商品』と、その後の運営にも関わりたい人向けの『より大口の商品』、複数の出資方法をご用意~! 家が売れたら清算となりますがぁ、『より大口の商品』へ出資してくださった方には、出資金額に比した配当が毎月貰えて更にお得! 商人さんたちの懐具合に応じて出資に参加できますよぉ~? そして、出資してくださった方には更に、更にぃ『統一エンブレム』をお店に掲示する権利をプレゼントぉ! これは地区の復興にご協力いただいたお店の証──お客さんの心証が良くなっちゃうナイス(死語)な代物なのですぅ!」
 ハナの提案に商人たちがざわめき。機と捉えたサクラが更に畳み掛ける。
「確かに、地元の人たちも商人さんたちも、今が一番辛い時です…… ですが、お互いにここが踏ん張りどころじゃないですかね……? ここを上手く切り抜ければ権益が手に入る。でも、今手を引いては第二、第三街区の老舗や大店にみすみすそれを取られてしまう…… いいのですか? これまで王都の商売で悔しい思いをしてきたのではないですか? だからこそこの第七街区に──新天地に賭けたのではなかったのですか? このまま自分たちが育てた市場を横から掻っ攫われるのを、指を咥えて見てるのですか?」
 サクラの挑発に、商人たちの心に火が付いた。更にレイアとJ・Dが理と利で詰める。
「ドゥブレー一家自らがこの地区の再興に『メリットを感じて』動いているんだ。これだけでもプラスの判断材料だと思うが」
「まぁ、それでも手を引こうって言うんなら、俺らも去る者は追わねぇさ。商人が減った分だけ、残った商人には顧客が増える」
 更に、J・Dはブライアンを見て、問うた。
「それに、だ。ノーサム商会はこの地に残って商売を続けるんだろう? 商会は苦難を分かち合った『仲間』だしな!」
 J・Dの呼び掛けに、ブライアンは無言で、だが、はっきりと頷いた。
 ……会議の大勢は決した。多くの商人が街区に残り、ハナが提案した復興案に出資することにした。
「待て! だからと言って、老舗や大店の出資を締め出す理由にはならないはずだ! このようなことがまかり通るようなら、自治担当者の解任も……」
 言い掛けたルパートは、レイアが無言で差し出した資料へ視線を落とし、二度見した。
 そこには、ドニの復興政策を支持するという街の人々の意見──アンケート調査の結果が記されていた。
 レイアは街の調査を続けながら……同時に、人々に対する根回しを済ませていた。彼女は事あるごとにドゥブレーの名を出し、彼が以前に進めた──或いは、今、進めている、進めようとしている街の復興を、未来を彼らに想起させたのだ。
「な……んな……ばかなっ、なんで……!」
「分からねぇのかい?」
 顔面を蒼白にするルパートに、呆れた様に訊ねるJ・D。
「これまで自分たちを助けてくれたのが誰か、街の連中は皆、分かっているからさ。実績だよ、実績。……絵にかいた餅じゃあ腹は膨れねェ。必要な金の話はノ商会と『つうかあ』だ。今更、余所者の入る余地はねェんだよ」


「では、私はこれで……」
 会議の休憩時間── 自分のやることを終えたレイアは、すぐにルベーノを追って会議場を後にした。ペコリと頭を下げてそれを見送るサクラ。彼女も早く現場に戻りたかったが、まだやるべきことがある。
「ハンターだって壊れた街一つは直せやしねえ…… が、旦那なら二度でもやってくれるさ。皆もそう信じている」
 J・Dのストレートな物言いに、ドニは面映ゆそうに天を仰いだ。
「さて、それじゃあ会議に戻るとしようぜ、旦那。次は災害時の避難計画の策定だ。避難拠点や誘導経路の整備…… 招集を掛けずとも各自の判断で避難誘導できるように整備しておかにゃあならん」

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参加者一覧

  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
シレークス(ka0752
ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/10/26 10:25:46
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/26 08:00:10