• 郷祭1018

【郷祭】微笑みの蒐集家

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/27 22:00
完成日
2018/11/09 00:25

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●霧の山の主
 天蓋付きのベッドの前で、恭しく膝をついた男が頭を上げる。
「それでは今宵より姫様の血となり骨となり肉となり、精いっぱいお勤めをはたさせていただきます」
「そう……よろしくね」
 張り付いたような笑顔で語る男に、ジャンヌ・ポワソン(kz0154)はベッドに身を投げ出しながら空返事をした。
 アンニュイな表情はいつもの事だが、今日はいつにも増して気だるげな様子。
 嫉妬王の庇護の下での生活に、彼女自身は不自由していない。
 霧の山の屋敷は初めこそボロボロであったが、修繕を重ねて今では一般的な富豪の屋敷程度の荘厳さを取り戻している。
 満足もしていないが、そもそもそういったことを考える事さえ彼女にとっては時間の無駄だ。
 だが“何もしないをさせてもらえない”というのは彼女にとっては最大のストレスであり、庇護という状況下でそれが認められることもまたあり得ないこと。
 間を取って、嫉妬王・ラルヴァは1人のお目付け役を遣わした。
「それでそれで、あなたのお名前は?」
 問いかけた青髪のメイド・フランカは、ぴょんぴょん辺りを飛び跳ねるようにして近づくとグンと顔を近づけて男の顔を覗き込む。
「お好きなように。お屋敷勤めをする際は、ご主人様より新しい名を賜ることを信条としておりまして。そうすることであなた様に身も心も命すらも帰依したと、そう感じられるものです」
「……面倒ね」
 男の雄弁をジャンヌは一言で一蹴する。
「前はどう呼ばれていたのかしら……?」
「以前の名は以前のご主人様のもの。お答えすることはできません。ですがそうですね……人間界に溶け込んでいたころは“コレクター”と呼ばれておりました」
「あははっ、変な名前。ねぇルチア」
 フランカは再びぴょんぴょん飛び跳ねながら、誰も居ない空間へ向かって楽しそうに尋ねる。
 その度に、上半身と下半身が青と赤で分かれた奇抜なカラーのメイド服がふわふわと揺れる。
「じゃあそれでいいわ……コレクター」
「かしこまりました。姫様に頂いた名、お役目を終えるその時まで骨身に刻ませていただきます」
 深くこうべを垂れてから、男はすくりと立ち上がる。
 無造作に固めた銀のオールバックが揺れると同時に、微笑みに飾るモノクルが怪しく光る。
 2m近い長身はジャンヌとほぼ同じくらいであり、並ぶとフランカが子供のように見えてしまうくらい。
 しかしながら木の枝のように細い身体がフランカよりもその身体を華奢に見せ、纏った血のように真っ赤な燕尾服が目に映えた。
「早速ですが、我らが王は新たなゲームをお望みです。そこで姫様にも一枚噛んでいただきたいと伺っておりますが……」
「いやよ」
「そう仰ると思い、すでに手配を済ませておきました。此度は私にお任せいただき、同時に私めの有用性も姫様にお見せいたしましょう。主従とはすなわち、信頼関係でございますゆえ」
 相変わらずニコニコと語るコレクターに背を向け、ジャンヌはゆったりとベッドに身を沈める。
 返事をしないのは肯定――ではなく「好きにして」の合図。
 コレクターもまたそれを察して、ただ深く頭を下げた。

●商品がない
 依頼人の男性は、オフィスの窓口に座るなり大きなため息をついた。
 これはずいぶん深刻か、それとも全くそうでないかのどちらかだろうと察しながら、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は営業スマイルと共にお茶を出す。
「はぁ……もうどうしたらいいのかも分からず、私もいっぱいいっぱいなのです」
 男はジェオルジの農村のひとつ、フレッド村からやってきた青年だ。
 フレッドと言えば郷祭のたびに開催されているライブクッキング形式の料理対決イベント『リストランテ・フレッド』で有名な村で、ルミも一度審査員という形で参加した記憶がある。
 男はそんなイベントの中でも陽気でスカした実況を飛ばすことで記憶に残っていたが、今の姿には見る影もなく、ノックアウト寸前のボクサーのようにしょげこんでしまっていた。
「ええと……具体的に何があったんです?」
「ええ、ご存知『リストランテ・フレッド』を今年も開催することになったのですが――あ、今年のメインタイトルは『帰って来た炎の料理人! vs 絶対零度・氷の料理人!』って言うんですけど――ああああああ、そもそも開催できるのかどうかすら! みんな楽しみにしているというのに!」
「おおおお、おちついて! おちついてー!」
 頭を掻き毟って取り乱す彼をなんとか宥めて、ルミは話の続きを促す。
「今回の課題食材はシシという果物なんですが、これがちょっと市場から目を離したすきに誰かに買い占められてしまったんですよ……これから収穫する分まで売約がついてるとかで」
「それはまた豪気な人もいたもんですね。ちなみにどなたが?」
「霧の山に住む『ペーシェ』と名乗る富豪だそうです」
 霧の山というのはヴァリオスとポルトワールとの間にあるやや標高の高い山のことだ。
 昔は山沿いに連絡路が走っていたが一年中霧がかっていることで危険だとされ、新しい今の街道ができてからはめったに人が立ち入らない土地となっている。
「どんな方なんです?」
「知人を当たってみたのですが知っている者はおらず……しかし、少なくとも相応の財力は持っているので古い大富豪が隠居しているのではと考えています」
 男の答えはどこか歯切れがわるい。
 それほど相手に関する情報がないのだろう。
「ええと……元も子もないんだけど、他の食材に変えることは?」
「実はシシは新種の作物でして、今回はそのお披露目も兼ねていたんです。料理人にも既に伝えてあり試作なども行ってもらっている手前、できれば変えたくないのです」
「うーん……」
 ルミは難しい表情で唸った。
 あまりに情報がなさすぎる。
 それが率直な感想だった。
 相手が何者なのか、何を求めているのか、そもそも何でシシを買い占めたのか。
 何もかもが不可解で、それでいて有無を言わさぬ状況を仕上げる手際。
 さらには痕跡を抹消する手腕は不気味ですらある。
「なんか、不思議というよりもキナくさいですね」
「私もそう思って、この件にハンターのみなさんのお力を借りたいのです。イベントで使う分だけでも良いんです。どうか、シシを手に入れてきていただけないでしょうか?」
 拭いきれない不安はある。
 だが困った人がいて、対価を用意しているなら、依頼の要件は満たしている。
 ルミは薄い笑みを浮かべながら頷くと、さっそく依頼書を書き上げていった。

リプレイ本文


 その館は針のような木々に囲まれた霧の山中にあった。
 目的地が近づくにつれて徐々にその姿が見えてくると、何らかの予期反応か、ハンターたちの身体を風邪をひいたときにような倦怠感が襲っていた。
「へ、へへ……それではあっしはこれで」
 ここまでの道案内を引き受けてくれた御者が、馬車の手綱を引きながらペコペコとお辞儀をする。
「お1人で帰られるのは危険です――」
 良かれとと思って呼び止めたUisca Amhran(ka0754)を無視して、彼女らを下ろした御者は一目散に濃い霧に包まれていってしまった。
「――ごめんください。どなたか、いらっしゃいませんか?」
 蓬(ka7311)が屋敷のドアをノックする。
 程なくして、蝶番の軋む音と共に扉が開かれた。
 緊張が走る中で、真っ赤なタキシード姿に身を包んだ紳士が姿を現した。
「このような場所へ、ようこそいらっしゃいました」
 中腰で扉を開いた男はそのまま深いお辞儀でハンターらを出迎える。
 2m近い枯れ木のような細身の長身。
 この人物は本当に人間なのか――いや、ありえない。
 隠す気のない負のマテリアルが、ハンター達にあらゆる行動を躊躇させた。
 男は彼らの来訪に特段驚いたような様子もなく、にこやかに中へ入るよう勧めてくる。
(はは……そう来やがったか。他に敵の影はない……な)
 ジャック・エルギン(ka1522)が引きつった顔で辺りを見渡す。
 引くべきか。
 今なら無茶は利く。
「この屋敷に運ばれたっていう、シシを分けて貰いたいニャス」
 誰もが反応に困っていた中でミア(ka7035)があっけらかんとして一歩踏み出した。
 咄嗟にウィスカがその手を引く。
「ミアさん、気を付けて」
「大丈夫ニャス。それにシシはGETしニャいと」
 彼女自身、目の前の男の気配に気づいていないわけではない。
 しかしながら相手がそれを気にしていないなら、こちらも意図的に触れはしない。
 不可解なほどに自然な対応をする相手に、警戒心を高めて屋敷の中へと足を踏み入れた。

 通された応接間は玄関口のすぐそばにあった。
 光を取り込むためか窓も大きく、逃げようと思えばすぐに外へ出れそう。
 執事風の男はポットからお茶を注いでハンター達の前に並べる。
 柑橘系の良い香りが辺りに漂った。
「あなたがペーシェさんですか……?」
 話題を切り出すようにウィスカが尋ねる。
「申し遅れました。わたくし、この屋敷の管理を任されておりますコレクターと申します」
「私たちは依頼を受けてシシの実を分けてもらいに来たハンターです……!」
「ほう、ハンターですか」
 ゆっくりと対面に腰かけたコレクターに、名乗った百鬼 一夏(ka7308)の肩がびくりと揺れる。
 彼は優雅な動きでカップを取ると中の液体を啜った。
 とてもじゃないが、ハンター達は真似する気にはなれない。
 話を急くようにウィスカが返した。
「譲っていただけるなら、我々もすぐにここから立ち去ります」
「そう焦らずまず。あ、そうそう、このお茶にもシシの皮を乾燥させたものを混ぜているのですよ。いい香りでしょう」
「お祭りでどうしても必要なんです! どうか、譲ってもらえませんか……?」
「お祭り――なるほどなるほど」
 頭を下げた一夏にコレクターは相槌だけを返す。
 頼まれただけで譲る気はない、と感じるには十分な反応だった。
「では……交渉させていただけませんか」
 コレクターは細い顎をさすり、目を細めた。
「残念なことに、私どもには特に求めるものがないのです」
「そうかしら」
 遅れて応接室に現れたマリィア・バルデス(ka5848)にハンター達は驚いたように振り返った。
 同時に、彼女を案内してきたメイドの姿を見てジャックが勢いよくソファーから立ち上がる。
「てめぇ……!?」
「あらあら、どこかで見たニンゲンが混ざっているわ。ねぇ、ルチア」
 上下で青赤に別れた奇抜なメイド服。
 水色のポニーテールが揺れる少女――フランカが、どこか焦点の合わない目で笑顔で首を傾げた。
「落ち着いて。外を見て回っていただけで、特に何もされていないわ。ほんと、霧の中で迷子になって辿りつけなかった……と言い張れそうな場所ね」
 自嘲するように笑みを浮かべてマリィアがソファーに腰かける。
 それに習って、ジャックも警戒しつつ腰を下ろした。
「状況だけで考えれば……なぜシシを必要としているのか私たちの方が聞きたいくらいね。少なくとも商人ギルドこの屋敷と繋がりのある人物は誰もいなかったわ。誰1人――というのは少し奇妙な話じゃないかしら」
 マリィアは事前にギルドを駆け回って少しでもこの屋敷に関係のある人物を探そうと試みていた。
 結果はゼロ。
 誰一人、この屋敷と取引どころか存在すら知る者はいなかった。
 たった今見て回っていた屋敷の周囲にも生活の痕跡が見受けられない。
 案内に来たフランカに出会った瞬間、すべての疑問は明らかになったが。
「……シシが欲しかったわけでは無いのでは?」
「ほほう?」
 ふと溢した蓬の言葉に、コレクターがとぼけたように首をひねる。
「今回の買占め……それを行った人物像に関しては徹底的に隠蔽されているにも関わらず、方法に関してはあまりに粗雑です。買い手もすぐに特定され、かといって市場価格操作のような意図も感じない。目的は別のところにある、と感じています」
「祭りへの嫌がらせ――か?」
 口を挟んだジャックに、蓬は少し考え込む。
「それもあるとは思いますが、とても開催自体を邪魔できるものとは思えません」
 コレクターが連をじっと見る。
「では、その目的とは?」
「残念ながら……私に言えるのは1つだけです。必要でないのなら譲っていただけないでしょうか」
 言い切った蓬は涼やかな瞳でコレクターを見る。
 彼はしばらく黙り込んでいたが、やがてふふっと小さく鼻を鳴らした。
「おっしゃる通り、我々は別にあの実を必要としているわけではありません」
「ではなぜ……?」
 そう問いかけたウィスカに、コレクターはニコリと、満面の笑みで答えた。
「このような場所に住んでおりますから、退屈を紛らわす相手が欲しかったのですよ。あなた方のような、商売関係なしに語り合える方々を」
「なら、どうしたら譲ってくれるっていうんだ?」
「よきひと時を。それだけで構いませんよ――おっと、お茶が冷めてしまいましたね」
 コレクターがフランカに合図を送ると彼女は屋敷の奥に引っ込んでいく。
 ジャックは煮え切らない胸の内を押さえることができず、疑心の瞳をその背中に向けていた。


「ヒビに薬剤を塗り込んで……そうです、仕上げにニスを上塗りすれば――そうそう、お上手ですよ」
 応接室にはお茶の渋みのある良い香りに交じって、ツンとする薬剤の匂いが漂っていた。
 緊張の解けないハンター達を前にしたコレクターは突如、自分の趣味を手伝ってほしいと口にする。
 当然身構えるが、彼が持ち出したのは陶器でできた古いミニチュアの数々だった。
 小児がごっこ遊びに使うような家具や人を模した陶器人形。
 特に負のマテリアルを感じることもなく、ただのミニチュアであることを知ったジャックや一夏は不信感を持ちながらも修繕を手伝っていた。
(何が狙いなんだ……)
 成人男性を模した陶器人形の修繕を行いながら、ジャックはちらちらとコレクターの様子をうかがう。
 彼は一向に何か仕掛けてくるような様子はなく、本当に、ただ客人に接するかのよう。
 歪虚であることを隠しているつもりなのか。
 それともやはり別の意図があるのか。
「お器用ですね。何かそういった仕事をされているのですか?」
「あ、ああ。小物を作るのが趣味でな」
 不意に声を掛けられて柄にもなくビクリと肩を揺らす。
「言ってくだされば! それならハウスの方の修理を手伝っていただくべきでしたよ」
 ハウス――というのはおそらくこのミニチュアを飾っておく玩具の家のことなのだろう。
「あ、あの、これでいいでしょうか!?」
 一夏の差し出した女の子の人形を、コレクターがモノクル越しにまじまじと見る。
 それから、緊張からなまら声が大きくなった彼女の顔を見ると、にっこりと子供をあやすかのように笑いかけた。
「ええ、ええ、とてもお上手ですよ。次はこっちのお祖母さんをお願いします」
 強張りながらも受け取ると、緊張を忘れるように作業に没頭する。
「これだけたくさんの品、一朝一夕で集めたものではないのでしょう」
 手のひらサイズの食器棚を直しながら、蓬はさりげなく問う。
「本当に長い年月がかかりましたよ。ですが、どれだけ大事にしても経年劣化には逆らえませんね」
 コレクターもまた人形を修繕しながら答える。
 歪虚がミニチュア趣味……とは。
 具体的な年月の数字をごまかしたのはおそらく意図的なのだろう。
 そんな中で、応接室から離れていたミアとウィスカが戻ってきた。
「おまたせニャア! ミア&ウィスカ特製よく張り秋の味覚セットニャス!」
 2人で抱えるように持ってきたのは色とりどりの料理の数々。
 屋敷の厨房を借りて作っていたのか、後に続いて同じように料理を抱えたフランカがついてくる。
「厨房の掃除から始めたせいか時間が掛かってしまいましたね……」
 お腹も減っているし、せっかく食材も持ってきているしとミアの提案で始まった調理はなんとも奇妙な空気のまま遂行された。
 なんにも気にせず鼻歌交じりに調理をするミア。
 やや緊張した様子でそれを手伝うウィスカ。
 そして足から飛び出す暗器のナイフや、手から放つ火炎放射で1体2役も3役もこなしたフランカ。
「秋鮭のテリーヌ生春巻き風にハーブのキッシュ。デザートの丸ごとジャック・オー・プリンはカボチャのソースとシシのソースで楽しんでほしいニャス!」
「これはこれは」
 拍手で迎えたコレクターはミニチュアを大事そうに片付けてテーブルの上をあける。
 そこに並んだ料理の数々を見て、満足げな笑みを浮かべた。
「基本的に満足な食事は摂らないものでして、とても良い彩りです」
「そう言えば――」
 ふと、ウィスカが自分の荷物を漁り始める。
「こういったものもあるのですが、いかがでしょう」
 取り出した銀の香炉に香木を削って火を放つ。
 細い煙がなびくと共に、ほんのりと安らぐ香りが漂った。
「リアルブルーの香炉で、四季の縁起絵を配した珍しいものだそうです。お屋敷のどなたかにと思ってお持ちしたのですが……そう言えば、ご主人のペーシェ様は?」
 ウィスカの言葉に、コレクターのモノクルが怪しく光る。
 いや、それは彼が覗き込んだ香炉の灯が映っただけであったが、どこか彼の持つ空気が変わったような気がしたのを確かに感じていた。
「実のところ、主はここ数日寝込んでおりましてね。ご挨拶もできず、申し訳ないと仰っておりました」
「そうでしたか。奥様かどなたかにでもよいのでお使いいただければ」
「普段部屋からお出にならない方ですから、きっと喜ぶことでしょう」
 ニコニコと張り付いたような笑みを崩すことなく、コレクターは香炉を楽しむ。
 その笑顔を、マリィアがじっと見つめていた。


「今日はとても良い日を過ごさせていただきました。こちらお約束のシシです。運びやすいよう、荷車も用意しました」
 にこやかに見送りに来てくれたコレクターは、玄関先の傍らを指し示す。
 そこには荷車にたっぷりと乗った果物――シシの姿があった。
 ハンター達がややおっかなびっくりそれを受け取ったのを確認して、彼は恭しく頭を下げる。
「そういえば、この辺でおっかねえメイド姿の歪虚が出てな」
 去り際、不意にジャックがそんなことを口走る。
「長く住むつもりなら用心しといた方がいいぜ」
「それはそれは、ご忠告痛み入ります」
 にこやかに頭を下げるコレクター。
 フランカもクスクスと笑いながら、彼に倣うように遅れて頭を下げた。
 屋敷を離れていく彼らの背中が見えなくなるまでいつまでも、いつまでも――

「――追手はないようね」
 霧掛かった周囲の森を直感視したマリィアが、どこか煮え切らない様子で口にする。
 荷車のシシは祭で必要だと聞いたものを十分賄える――いや、それ以上の量。
 依頼は達成と言っていいのだろうが、どこか釈然としない思いだけが残る。
「あの館、ジャンヌ・ポワソンが潜んでいるとみて間違いないのですね?」
「あのピエロみたいなメイド服のねーちゃんは間違いなく配下だ」
 ジャックがハッキリと答える。
 尋ねたウィスカは一層眉を寄せて考え込んだ。
「だとしたら……なおさら不可解ですね」
「うーん、ただ楽しく過ごしたかっただけとか……そうでニャかったら、何かを伝えようとしていたんじゃニャいかなとか」
 人差し指でこめかみをこねくりまわしながらミアはうーんと唸る。
「たしかに、意味がないことをするようにも思えません! ……でも、何をしたかったんでしょう」
 一夏が大きく頷く……が、すぐに眉をハの字にして肩を落としてしまった。
 頭はもういっぱいいっぱいだ。
「何もしなかったわね」
「何もしない……ですか」
 改めて口にしたマリィアに、蓬はどこか引っかかりを覚えた。
「何もしないということは、何でもできる余力があるということ……いえ、意図などない方が良いのですが」
 シシは検査と浄化を行ってもらうとして、屋敷の対応はソサエティに預けるしかない。
 遠く後方に離れていく屋敷の姿が今はただ不気味だった。


「それで……結局何をしてくれたのかしら」
 ベッドの上で野暮ったそうに尋ねたジャンヌに、コレクターはやや弾んだ声で答えた。
「結果としては、何も。良い時間を過ごせました」
 この館で何が行われていたのか、ずっと定位置でごろごろしていたジャンヌは知りはしない。
「それはさておき……」
 ふっと意識を切り替えて、部屋の片隅へと視線を這わせる。
 そこにはフランカに手足を押さえつけられ、逆さづりになった御者の姿があった。
「す、すまねぇ! 俺はそんなつもりは……ひぃっ」
 足を陶器の手に、手を陶器の足から伸びたワイヤーに縛られた男は、涙と鼻水に濡れた汚らしい顔で命乞いをする。
 コレクターは残念そうに肩を落とすと、その長身でしゃがみ込んで、地面すれすれの高さから男の顔を覗き込んだ。
「あなたを雇った条件は3つ。シシを屋敷に運ぶこと。尋ねられればこの場所を教えてもよいこと。そして、それ以外この屋敷に関わらないこと。契約の破棄には対価を払っていただきますよ」
「ひいぃぃっ」
 コレクターは男の顔をわしづかみにして己の負マテリアルを注ぎ込む。
 すると悲鳴をあげていたその姿は、みるみると小さく縮小されていき――やがてコロンと、小さな陶器人形となって床に転がった。
 それをひょいと拾い上げコレクターは満足げに見つめる。
 
――ようこそ、私の新しいコレクション。

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MVP一覧

  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848
  • 絆を紡ぐ少女
    ka7311

重体一覧

参加者一覧

  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士
  • 絆を紡ぐ少女
    蓬(ka7311
    人間(蒼)|13才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン シシの実GET!相談卓
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/10/27 19:02:43
アイコン 質問卓
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/10/26 07:27:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/25 12:39:48