ゲスト
(ka0000)
【郷祭】バチャーレ村の精霊騒動
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/28 12:00
- 完成日
- 2018/11/11 01:01
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟領、農耕推進地域ジェオルジでは、年に2回『郷祭』と呼ばれる催しがある。
元は領内に散らばる村々の間に生じた諍いや、地域全体に関わる問題を話し合う『村長会議』がメインだったが、今ではその後のパーティーや交流会が賑わい、他の街からの観光客や、ジェオルジの特産品目当ての商人も大勢押し寄せる。
それでもジェオルジの住民にとって、村長会議がとても重要であることは今でも変わらなかった。
その会議の席で、ちょっとした騒動が持ち上がっていた。
「それが本物の精霊だと、誰が証明できるんだ?」
「……わざわざ嘘など流しませんよ。トナリー村の長老様ほか、ご覧になった方が多くいらっしゃるのですし」
サイモン・小川(kz0211)は極力穏やかに答える。
彼はサルヴァトーレ・ロッソの元乗員で、避難民と共にバチャーレ村に移住、現在では村長の役割を担う。
慣れない土地で、ハンター達の力も借りて、今ではどうにか村として自給自足でやっていけるようになった。
その村から少し山へ入った廃鉱山に、元は抗夫達が仕事の安全を願って祈りを捧げていた祠がある。
あるときその祠の主である地精霊が永い眠りから覚め、人間にその姿を見せた。
マニュス・ウィリディスと呼ばれる精霊は、お参りにいけば全身金色に輝く妙齢の美女の姿で登場する(ただし、気が向けば)。
これが噂を呼び、「お手軽に会える地元の精霊」というノリで、見学希望者がどっと増えてしまったのだ。
バチャーレ村や近隣の村では滞在用の場所を用意し、そこに行商人がやってきて……と、何やら「精霊参りフィーバー」状態である。
恩恵を受けられない村には、これが少々面白くない。
サイモンは村長会議で、街道が荒れるだとか、精霊をでっちあげて稼いでいるだとか、難癖をつけられているのだった。
「あんたらは蒼の人間だろう。そういう仕掛けを作ったりもできるんじゃないのか?」
ある村の村長がそう言いだし、普段は温厚なサイモンもさすがに顔色を変える。
そこに会議の議長でもある、領主のセスト・ジェオルジ(kz0034)が静かに口を挟んだ。
「そうですね、あるいはそういった技術はお持ちかもしれませんね」
「領主様!?」
サイモンが驚いて腰を浮かせた。
だがセストは考えの読めない無表情で、一同を見渡す。
「ですが、そういった技術を持つ方が、クリムゾンウェストの人間が納得できるだけの『畏れている振り』をできるとも思えません。そこで提案ですが」
村長たちは固唾をのんでセストを見つめる。
「この中でご希望の方に、現地まで足を運んでいただきましょう。もちろん、オガワ代表は抜きで、です」
会議室にざわめきが広がった。
同盟領、農耕推進地域ジェオルジでは、年に2回『郷祭』と呼ばれる催しがある。
元は領内に散らばる村々の間に生じた諍いや、地域全体に関わる問題を話し合う『村長会議』がメインだったが、今ではその後のパーティーや交流会が賑わい、他の街からの観光客や、ジェオルジの特産品目当ての商人も大勢押し寄せる。
それでもジェオルジの住民にとって、村長会議がとても重要であることは今でも変わらなかった。
その会議の席で、ちょっとした騒動が持ち上がっていた。
「それが本物の精霊だと、誰が証明できるんだ?」
「……わざわざ嘘など流しませんよ。トナリー村の長老様ほか、ご覧になった方が多くいらっしゃるのですし」
サイモン・小川(kz0211)は極力穏やかに答える。
彼はサルヴァトーレ・ロッソの元乗員で、避難民と共にバチャーレ村に移住、現在では村長の役割を担う。
慣れない土地で、ハンター達の力も借りて、今ではどうにか村として自給自足でやっていけるようになった。
その村から少し山へ入った廃鉱山に、元は抗夫達が仕事の安全を願って祈りを捧げていた祠がある。
あるときその祠の主である地精霊が永い眠りから覚め、人間にその姿を見せた。
マニュス・ウィリディスと呼ばれる精霊は、お参りにいけば全身金色に輝く妙齢の美女の姿で登場する(ただし、気が向けば)。
これが噂を呼び、「お手軽に会える地元の精霊」というノリで、見学希望者がどっと増えてしまったのだ。
バチャーレ村や近隣の村では滞在用の場所を用意し、そこに行商人がやってきて……と、何やら「精霊参りフィーバー」状態である。
恩恵を受けられない村には、これが少々面白くない。
サイモンは村長会議で、街道が荒れるだとか、精霊をでっちあげて稼いでいるだとか、難癖をつけられているのだった。
「あんたらは蒼の人間だろう。そういう仕掛けを作ったりもできるんじゃないのか?」
ある村の村長がそう言いだし、普段は温厚なサイモンもさすがに顔色を変える。
そこに会議の議長でもある、領主のセスト・ジェオルジ(kz0034)が静かに口を挟んだ。
「そうですね、あるいはそういった技術はお持ちかもしれませんね」
「領主様!?」
サイモンが驚いて腰を浮かせた。
だがセストは考えの読めない無表情で、一同を見渡す。
「ですが、そういった技術を持つ方が、クリムゾンウェストの人間が納得できるだけの『畏れている振り』をできるとも思えません。そこで提案ですが」
村長たちは固唾をのんでセストを見つめる。
「この中でご希望の方に、現地まで足を運んでいただきましょう。もちろん、オガワ代表は抜きで、です」
会議室にざわめきが広がった。
リプレイ本文
●
見知ったハンター達の来訪に、住民たちに安堵の空気が広がる。
ハンター達は『精霊参り』の人々がいる場所を尋ねた。
教えられた村と畑の間の作業用の広場には大小のテントが並び、農機具小屋は宿泊所兼案内所のように使われていた。
天王寺茜(ka4080)はその光景に思わず絶句する。
「まさか精霊がこんなに人を呼ぶなんて思わなかったわ……」
魔導トラックまで停まっていて、食料やこまごまとした日用品を並べ、お参りの人々の用を足しているらしい。
「なるほど、これなら……バチャーレ村の食糧を食いつぶすようなことはない、ですが……」
天央 観智(ka0896)が考え込む。
「……けれど、潤ってはいません……よね」
だがこんなトラックが走り回っていたら、街道沿いの事情を知らない他の村の住民たちが勘違いするのもわかる。
「面白くないっていう人らは、余所者なのにこの世界の精霊で儲けやがって……っていう意識なんやろなあ」
ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)が肩をすくめると、茜も苦笑いを浮かべた。
「賑わうのは良いことだけど、他の村との協調も大事なのね」
誰かが生活をしている場所に、新たに加わる難しさ。見知らぬ同士が信頼関係を築くまでの困難さ。
それでも乗り越えてほしい。この地で幸せに生きてほしい。
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、空に、山に、川に、挨拶するように思い切り手を伸ばす。
「2日間、よろしくネ♪ もひとつの、お家に帰ってきたよな気持ち」
心地よい秋の風が頬を撫でていく。おかえり、と迎え入れてくれるようだ。
「でも村のミンナには、大事な大事な、ホントのお家なのネ」
ラィルは頷く。
「よその村の昔から住んでる人らにとっても、自分の村ってのはそういうことやからな。そら大事なんや」
「だから、この部分を……しっかり見て貰わないと……」
観智は、バチャーレ村は今や平穏を脅かされている側でもあると思ったのだ。
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)は村で何人かの顔見知りを探して、声をかけた。
「よっ、調子はどうだ?」
明るい色の髪を短く切りそろえた若い女が微笑み返す。
「ありがとう、大丈夫よ」
「元気そうで何よりだ」
トリプルJ(ka6653)が女に向けて帽子のつばを軽く上げ、笑って見せた。
女はマリナという、サルヴァトーレ・ロッソの元乗員だ。
異世界での不安を歪虚に付け込まれ、一時は契約者となったが、ハンター達の尽力もあり人間の世界に戻ってきた。
「皆に助けてもらって、また前の仕事を始めたわ」
「そうか、そいつは良かったな」
その事件でマリナに誘拐された少女・ビアンカは、ルトガーの大きな手で頭を撫でられて、くすぐったそうに肩をすくめる。
「すっかり落ち着いているようだ」
「うちの子たちは強いからね」
ビアンカの母親であるアニタが胸を張る。
「そうか。またみんなで集まって、宴や星見で、ゆっくり話を聞きたいものだな」
怖がりの少女は、今や大きなお姉さんの悲しみを受け止めている。
互いの哀しみ、寂しさを知り、受け入れる。楽しいことはともに喜ぶ。
ビアンカだけでなく、確かにこの村の住民は、強くなったと思う。
トリプルJがマリナの肩を軽く叩いた。
「ゆっくり話したいのは山々なんだが。業突爺がマニュス・ウィリディスに会いに来るんで、神頼みに行こうと思ってな?」
「詳しくは皆を集めて説明するとしよう。いつもの場所は開いているか?」
ルトガーが村人たちを促した。
集会場になっているコンテナに村人が集まった。そこで改めて、今回の件についてハンター達から説明する。
サイモンは当日まで帰ってこられないため、ハンター達が代表代理だ。
「というわけなんだが。ちょっと教えてもらえるか」
ルトガーは村が賑わって嬉しいのか、あるいは精霊の周りで騒がれたくないのか。そういった住民たちの本音を確認する。
「まあ、寂れているよりはいいかもしれないなあ」
「でもあの精霊様って、騒がしすぎると怒って何かやらかしちゃいそう」
アニタの言葉に、一同は「違いない」と大笑いした。
思ったよりも住民たちは参拝客に寛大なようだった。
観智はその話に耳を傾け、先ほどのテント村の様子を思い返す。
「でしたら、ここは、行商人さん達の企業努力とか次第……でもあるんでしょうけれど、もう一寸……工夫は、あると良いかも知れませんね」
宿、食事、その他にも旅が楽になるような何か。今の村には、それらが用意されていない。
「ここで食事を出す余力はないかもしれませんけれど……このままでは、色々と不具合がおきかねません……不便が過ぎると、人は横着をしますからね……」
すぐ近くには平穏に暮らす人々がいるとなれば、悪いことを考える人間も出てくるかもしれないのだ。
そこで住人たちが顔を見合わせ、自分たちの考えを口にする。
これまでにも集会所を開けることは考えたらしいのだが、ずっと宿として提供する訳にもいかない。
「今でも作業場がふさがってて困ってるんだよ。でも冬にテントじゃ凍死しちゃうしなあ」
堂々巡りだった。
「かといって人数を制限してまうと、ほんまに会いたい人が会えなくなってまうし。色々難しいところやなあ」
ラィルがメモを取りながら呟いた。
「マニュス様にもお伺いを立ててみたらどうでしょうか」
茜は、ヒトをそれなりに受け入れてくれるあの精霊なら、ダイレクトに尋ねたほうが早いと思うのだ。
「お手軽に会える地元の精霊というノリを、あんまり喜んでいらっしゃらないかもしれないし」
住民たちも同意し、ひとまず事前にお参りに行くことになる。
●
お供え物は住民たちが持ち寄ってくれた。
村特産のまだ若いウィスキー『アクア・ヴィテ』に、川魚の缶詰、果物の瓶詰。
茜は自慢の『鉄人の鍋』を火にかける。
「先に作って持って来たんですけど。あと少し材料を分けていただけますか?」
この土地の食材を入れて、なおも煮込む。ヒスイトウモロコシが宝石のようにちりばめられたポトフは、とてもいい匂いがした。
「美味しいクッキーとお紅茶も、マニュスさまは喜んでくれるハズなのね♪」
パトリシアはリボンで飾ったクッキーの袋を、壊れないように大事に荷物に入れた。
それらをロバに積んで、お参りの一行が祠へ向かう。
その道すがら、パトリシアはリアルブルーで見聞きしたことを語った。
「ふたつめのお月さまは、ミンナの知ってるお月さま。あそこにいるミンナは、きっと今、ドキドキしてるネ」
かつて、サルヴァトーレ・ロッソでやってきた人々がそうだったように。
そしてこの村から、リアルブルーを忘れられずに崑崙へ行った人々は、どれほど複雑な想いを抱いているだろう。
「蒼の世界と、紅の世界と、協力して頑張ってテ、いつか戦いが終わっタラ。その時バチャーレのは、新しい可能性のひとつになるカラ」
パトリシアは表情を曇らせた元リアルブルー民の顔を覗き込む。
「みんなハこっちデ、頑張りましょ」
やっと見つけた居場所を守るためにできる限り力を貸す。パトリシアはそう約束した。
祠までの道は、以前より随分と歩きやすくなっていた。
道中の眺めの良い場所には休憩できるよう、切り倒した丸太まで置いてある。
一緒にくっついてきたレベッカとビアンカの姉妹も、元気よく歩いていた。
思わず笑みが漏れる光景だが、この状況を精霊がどう思っているのかはわからない。
祠についた茜はまず、精霊に声をかけた。
「お久しぶりです。ええと、お疲れでしたら姿を崩して頂いても」
実際のところ、精霊がサボりたい気分の時に、寝転んだりするのかは知らないが。
「ひとまずお掃除に取り掛かりますね。少し騒がしいかと思いますけど、すぐに済ませますから!」
村人たちと一緒に落ち葉をかき集め、草や蔓を取り除く。
作業を続けながら、茜は他の村の村長たちの来訪を伝え、バチャーレ村が長く根付くためにも会ってほしいと語りかけた。
「折角こうして、目覚められたのだから。100年先も、こうやって誰かが掃除にきて語らったり。そんな関係をあの村と続けてもらえたら、嬉しいなって」
ゴミがなくなったところで、パトリシアが水をかけて祠を洗い清める。
「今日もマニュスさまは、ぴかぴか綺麗ネ〜♪」
それから綺麗になった祠の前に祭壇を設け、持参したお供え物を並べた。
観智は興味深そうに祠を眺めつつ、呼びかける。
「初めまして……今日は、ひとまずお参りに来ましたけれど……後日また参りますので、その際にはお会いできれば……嬉しく、思います」
響くのは鳥の声、風の音。
が、しばらくすると祠の上に光が現れ、小さな人の形をとった。
「汝らか。相変わらず祠磨きだけは上手いのう」
妙齢の美しい女性の姿を取った精霊は、冗談を言うことを覚えたようだ。
「来訪者には、あまり騒がぬように言い含めるがよい。軽く驚かせてやっても良いが、疲れるのは面倒でな」
そこでレベッカとビアンカが進み出る。
「精霊さま! みんな、いつもありがとうって思ってます。だから村のこと、好きでいてください!」
ふたりはハンカチに包んだ貴石を祠に供えた。川べりで拾ってきたようだ。
元はこの祠の傍の鉱山の石が、長い年月を経て削れて川にたどり着いたものだから、精霊にとっては見慣れたもののはずだ。
だが精霊は穏やかに微笑んで、光る手をかざす。
「良い石じゃな。これは皆で分けるがよい。汝らが互いのことを慈しむ限り、悪いようにはならぬ」
「ありがとうございます!」
姉妹は石を大事に下げると、山を下りてから皆にひとつずつ分けてくれた。
夜になって、トリプルJはマリナに声をかける。
「一応、雑魔でも出ないか祠まで見て来ようと思ってな。一緒に来ないか?」
マリナは頷いてついてきた。
夜空を見上げれば、月が出ている。
「結局、月は2つになっちゃったわね。あの時はこんなことになるとは思わなかった」
「リアルブルーの人間のほうが、こっちに来ることになっちまったな」
トリプルJはマリナをリアルブルーに連れて行ってやると約束したのだ。それは当面の間、難しくなってしまったが。
「ま、逆に言や、皆が帰る時俺達だって帰れるってこった。無理せず楽に生きてこうぜ」
子供にするように頭をぐしゃぐしゃ撫ぜると、マリナは声を上げて笑った。
それからトリプルJは帽子を脱いで、真面目な表情で祠に向かう。
「俺達は以前、大精霊から力を借り受けたと思ってるから、大精霊やアンタら精霊に深く感謝してる」
だから彼は、『神』とまみえるこの世界で、精霊を信じないと便宜上であっても口にする人々が腹立たしかった。
「でもそれが俺の狭量な妬心だとも分かってるんだ。だが祈りは世界の、大精霊の力にもなるはずだ。明日くる奴らにもどうか会ってやってくれないか」
マリナは傍らで膝をついて祈っていた。
精霊は何も答えなかったが、ポケットに入れた貴石がどこか温かく感じられた。
●
そして2日後。
3村の村長たちと、やや不安そうな様子のサイモンを連れて、再び祠に向かう。
精霊はどうやらご機嫌がよかったらしく、いつもより若干強く光りながら神々しい姿を見せてくれた。
一番年配のソプラ村村長は腰を抜かさんばかりに驚いたが、そこは年の功でなんとか逃げ出すのを耐える。
「こ、これが、本物かどうか、わしらがどうやって見分けるんだ!!」
一瞬、精霊の光がゆらっと揺れる。
ラィルは思わず自分の額を押さえた。
(あー、まあ村長さんのメンツもあるしな。素直に「自分が間違うてました!」と言わんこともあるんかなあ)
だが意外なことに、ここでサイモンが声を上げた。
「私を疑うのは構いません。ですが、それは精霊様に失礼です」
厳しい調子でそう言ってから、不意に穏やかな口調に代わる。
「余り失礼が過ぎると、お怒りを買います。例えば……」
「うぎゃっ!?」
少し離れたところから成り行きを見ていたソット村村長が、尻餅をついていた。
見れば、彼とソプラ村村長との間に、今までなかったタケノコのような岩がいくつか生えていたのだ。
「な、岩が、急に……!」
「まずい! みんな閉じ込められますよ!」
若干棒読みのサイモン。
「帰り道には気をつけるがよいぞ。あまり騒がしいのは好まぬゆえ」
精霊はそう言って、ふっと消えた。――岩は残したままで。
ハンター達は、それぞれの村長たちの様子を窺う。精霊の脅しはかなり効いたようだ。
年長のソプラ村村長には、観智が話しかけた。
「後で、バチャーレ村の様子も……ご覧ください。賑わってはいますが、潤ってはいない……と、わかるはずです」
「どういうことだ?」
「勝手に集まった連中が村の敷地を占拠しているんだ。自分の村なら歓迎するか?」
ルトガーが尋ねると、村長は考え込む。
茜が声をかけたのは、メディオ村の村長だ。
「この村の人たちは、この土地で生きていこうって頑張ってます。でも、自分達だけ得すればいいなんて思ってないんです」
今までの試行錯誤を語り、その結果生まれたお供えの品々を差し出す。
「リアルブルーの加工技術を使えば、皆さんの村の特産品もこういう形で運べるようになります。どうですか?」
「我々にも得がある、という訳かな」
この村長は、それなら精霊の真偽はどうでもいいと考えそうだった。
残るソット村の村長は、一刻も早く帰りたい様子だ。
「だから俺は言っただろう! 本物だったら大変だって!!」
トリプルJがそれはいい顔で笑い、村長にたわしを握らせた。
「それなら、祠の清掃して祈りを捧げようぜ? 精霊への感謝は創世の大精霊に届く。気合入れにゃな?」
掃除を終えてから、お供えに持ち込んだごちそうをいただき、村へ戻る。
「やっぱしあんまり回数が多すぎても精霊さんも疲れるし。かといって一切禁止ってのは、忘れられそうやしな」
ラィルは一定の日を決めてお参りすることを提案する。
「その間は精霊さんのことを語り継いで、バチャーレ村の人だけがお参りするぐらいでええんやないかな。フィーバーよりは、細く長く続くようにな」
ルトガーは参拝のついでに、近隣の村にも立ち寄ってもらうことを提案する。
「あの精霊がどういう存在なのか、沿道の村にも理解してもらえればな。祭の帰りには参拝客にそちらにも立ち寄ってもらえるような方法……例えば特産品の紹介や、名所案内か。そういうものを協力して考えてはどうだろう」
それは一朝一夕でできることではないかもしれない。
たいした特産品のない村もあれば、どうしても人が立ち寄りにくい村もあるだろう。
「ほでも」
パトリシアが自分に言い聞かせるように言った。
「ブルーとクリムゾンのヒトが一緒に暮らせるようになった村だカラ。きっと、ダイジョブよ」
<了>
見知ったハンター達の来訪に、住民たちに安堵の空気が広がる。
ハンター達は『精霊参り』の人々がいる場所を尋ねた。
教えられた村と畑の間の作業用の広場には大小のテントが並び、農機具小屋は宿泊所兼案内所のように使われていた。
天王寺茜(ka4080)はその光景に思わず絶句する。
「まさか精霊がこんなに人を呼ぶなんて思わなかったわ……」
魔導トラックまで停まっていて、食料やこまごまとした日用品を並べ、お参りの人々の用を足しているらしい。
「なるほど、これなら……バチャーレ村の食糧を食いつぶすようなことはない、ですが……」
天央 観智(ka0896)が考え込む。
「……けれど、潤ってはいません……よね」
だがこんなトラックが走り回っていたら、街道沿いの事情を知らない他の村の住民たちが勘違いするのもわかる。
「面白くないっていう人らは、余所者なのにこの世界の精霊で儲けやがって……っていう意識なんやろなあ」
ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)が肩をすくめると、茜も苦笑いを浮かべた。
「賑わうのは良いことだけど、他の村との協調も大事なのね」
誰かが生活をしている場所に、新たに加わる難しさ。見知らぬ同士が信頼関係を築くまでの困難さ。
それでも乗り越えてほしい。この地で幸せに生きてほしい。
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、空に、山に、川に、挨拶するように思い切り手を伸ばす。
「2日間、よろしくネ♪ もひとつの、お家に帰ってきたよな気持ち」
心地よい秋の風が頬を撫でていく。おかえり、と迎え入れてくれるようだ。
「でも村のミンナには、大事な大事な、ホントのお家なのネ」
ラィルは頷く。
「よその村の昔から住んでる人らにとっても、自分の村ってのはそういうことやからな。そら大事なんや」
「だから、この部分を……しっかり見て貰わないと……」
観智は、バチャーレ村は今や平穏を脅かされている側でもあると思ったのだ。
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)は村で何人かの顔見知りを探して、声をかけた。
「よっ、調子はどうだ?」
明るい色の髪を短く切りそろえた若い女が微笑み返す。
「ありがとう、大丈夫よ」
「元気そうで何よりだ」
トリプルJ(ka6653)が女に向けて帽子のつばを軽く上げ、笑って見せた。
女はマリナという、サルヴァトーレ・ロッソの元乗員だ。
異世界での不安を歪虚に付け込まれ、一時は契約者となったが、ハンター達の尽力もあり人間の世界に戻ってきた。
「皆に助けてもらって、また前の仕事を始めたわ」
「そうか、そいつは良かったな」
その事件でマリナに誘拐された少女・ビアンカは、ルトガーの大きな手で頭を撫でられて、くすぐったそうに肩をすくめる。
「すっかり落ち着いているようだ」
「うちの子たちは強いからね」
ビアンカの母親であるアニタが胸を張る。
「そうか。またみんなで集まって、宴や星見で、ゆっくり話を聞きたいものだな」
怖がりの少女は、今や大きなお姉さんの悲しみを受け止めている。
互いの哀しみ、寂しさを知り、受け入れる。楽しいことはともに喜ぶ。
ビアンカだけでなく、確かにこの村の住民は、強くなったと思う。
トリプルJがマリナの肩を軽く叩いた。
「ゆっくり話したいのは山々なんだが。業突爺がマニュス・ウィリディスに会いに来るんで、神頼みに行こうと思ってな?」
「詳しくは皆を集めて説明するとしよう。いつもの場所は開いているか?」
ルトガーが村人たちを促した。
集会場になっているコンテナに村人が集まった。そこで改めて、今回の件についてハンター達から説明する。
サイモンは当日まで帰ってこられないため、ハンター達が代表代理だ。
「というわけなんだが。ちょっと教えてもらえるか」
ルトガーは村が賑わって嬉しいのか、あるいは精霊の周りで騒がれたくないのか。そういった住民たちの本音を確認する。
「まあ、寂れているよりはいいかもしれないなあ」
「でもあの精霊様って、騒がしすぎると怒って何かやらかしちゃいそう」
アニタの言葉に、一同は「違いない」と大笑いした。
思ったよりも住民たちは参拝客に寛大なようだった。
観智はその話に耳を傾け、先ほどのテント村の様子を思い返す。
「でしたら、ここは、行商人さん達の企業努力とか次第……でもあるんでしょうけれど、もう一寸……工夫は、あると良いかも知れませんね」
宿、食事、その他にも旅が楽になるような何か。今の村には、それらが用意されていない。
「ここで食事を出す余力はないかもしれませんけれど……このままでは、色々と不具合がおきかねません……不便が過ぎると、人は横着をしますからね……」
すぐ近くには平穏に暮らす人々がいるとなれば、悪いことを考える人間も出てくるかもしれないのだ。
そこで住人たちが顔を見合わせ、自分たちの考えを口にする。
これまでにも集会所を開けることは考えたらしいのだが、ずっと宿として提供する訳にもいかない。
「今でも作業場がふさがってて困ってるんだよ。でも冬にテントじゃ凍死しちゃうしなあ」
堂々巡りだった。
「かといって人数を制限してまうと、ほんまに会いたい人が会えなくなってまうし。色々難しいところやなあ」
ラィルがメモを取りながら呟いた。
「マニュス様にもお伺いを立ててみたらどうでしょうか」
茜は、ヒトをそれなりに受け入れてくれるあの精霊なら、ダイレクトに尋ねたほうが早いと思うのだ。
「お手軽に会える地元の精霊というノリを、あんまり喜んでいらっしゃらないかもしれないし」
住民たちも同意し、ひとまず事前にお参りに行くことになる。
●
お供え物は住民たちが持ち寄ってくれた。
村特産のまだ若いウィスキー『アクア・ヴィテ』に、川魚の缶詰、果物の瓶詰。
茜は自慢の『鉄人の鍋』を火にかける。
「先に作って持って来たんですけど。あと少し材料を分けていただけますか?」
この土地の食材を入れて、なおも煮込む。ヒスイトウモロコシが宝石のようにちりばめられたポトフは、とてもいい匂いがした。
「美味しいクッキーとお紅茶も、マニュスさまは喜んでくれるハズなのね♪」
パトリシアはリボンで飾ったクッキーの袋を、壊れないように大事に荷物に入れた。
それらをロバに積んで、お参りの一行が祠へ向かう。
その道すがら、パトリシアはリアルブルーで見聞きしたことを語った。
「ふたつめのお月さまは、ミンナの知ってるお月さま。あそこにいるミンナは、きっと今、ドキドキしてるネ」
かつて、サルヴァトーレ・ロッソでやってきた人々がそうだったように。
そしてこの村から、リアルブルーを忘れられずに崑崙へ行った人々は、どれほど複雑な想いを抱いているだろう。
「蒼の世界と、紅の世界と、協力して頑張ってテ、いつか戦いが終わっタラ。その時バチャーレのは、新しい可能性のひとつになるカラ」
パトリシアは表情を曇らせた元リアルブルー民の顔を覗き込む。
「みんなハこっちデ、頑張りましょ」
やっと見つけた居場所を守るためにできる限り力を貸す。パトリシアはそう約束した。
祠までの道は、以前より随分と歩きやすくなっていた。
道中の眺めの良い場所には休憩できるよう、切り倒した丸太まで置いてある。
一緒にくっついてきたレベッカとビアンカの姉妹も、元気よく歩いていた。
思わず笑みが漏れる光景だが、この状況を精霊がどう思っているのかはわからない。
祠についた茜はまず、精霊に声をかけた。
「お久しぶりです。ええと、お疲れでしたら姿を崩して頂いても」
実際のところ、精霊がサボりたい気分の時に、寝転んだりするのかは知らないが。
「ひとまずお掃除に取り掛かりますね。少し騒がしいかと思いますけど、すぐに済ませますから!」
村人たちと一緒に落ち葉をかき集め、草や蔓を取り除く。
作業を続けながら、茜は他の村の村長たちの来訪を伝え、バチャーレ村が長く根付くためにも会ってほしいと語りかけた。
「折角こうして、目覚められたのだから。100年先も、こうやって誰かが掃除にきて語らったり。そんな関係をあの村と続けてもらえたら、嬉しいなって」
ゴミがなくなったところで、パトリシアが水をかけて祠を洗い清める。
「今日もマニュスさまは、ぴかぴか綺麗ネ〜♪」
それから綺麗になった祠の前に祭壇を設け、持参したお供え物を並べた。
観智は興味深そうに祠を眺めつつ、呼びかける。
「初めまして……今日は、ひとまずお参りに来ましたけれど……後日また参りますので、その際にはお会いできれば……嬉しく、思います」
響くのは鳥の声、風の音。
が、しばらくすると祠の上に光が現れ、小さな人の形をとった。
「汝らか。相変わらず祠磨きだけは上手いのう」
妙齢の美しい女性の姿を取った精霊は、冗談を言うことを覚えたようだ。
「来訪者には、あまり騒がぬように言い含めるがよい。軽く驚かせてやっても良いが、疲れるのは面倒でな」
そこでレベッカとビアンカが進み出る。
「精霊さま! みんな、いつもありがとうって思ってます。だから村のこと、好きでいてください!」
ふたりはハンカチに包んだ貴石を祠に供えた。川べりで拾ってきたようだ。
元はこの祠の傍の鉱山の石が、長い年月を経て削れて川にたどり着いたものだから、精霊にとっては見慣れたもののはずだ。
だが精霊は穏やかに微笑んで、光る手をかざす。
「良い石じゃな。これは皆で分けるがよい。汝らが互いのことを慈しむ限り、悪いようにはならぬ」
「ありがとうございます!」
姉妹は石を大事に下げると、山を下りてから皆にひとつずつ分けてくれた。
夜になって、トリプルJはマリナに声をかける。
「一応、雑魔でも出ないか祠まで見て来ようと思ってな。一緒に来ないか?」
マリナは頷いてついてきた。
夜空を見上げれば、月が出ている。
「結局、月は2つになっちゃったわね。あの時はこんなことになるとは思わなかった」
「リアルブルーの人間のほうが、こっちに来ることになっちまったな」
トリプルJはマリナをリアルブルーに連れて行ってやると約束したのだ。それは当面の間、難しくなってしまったが。
「ま、逆に言や、皆が帰る時俺達だって帰れるってこった。無理せず楽に生きてこうぜ」
子供にするように頭をぐしゃぐしゃ撫ぜると、マリナは声を上げて笑った。
それからトリプルJは帽子を脱いで、真面目な表情で祠に向かう。
「俺達は以前、大精霊から力を借り受けたと思ってるから、大精霊やアンタら精霊に深く感謝してる」
だから彼は、『神』とまみえるこの世界で、精霊を信じないと便宜上であっても口にする人々が腹立たしかった。
「でもそれが俺の狭量な妬心だとも分かってるんだ。だが祈りは世界の、大精霊の力にもなるはずだ。明日くる奴らにもどうか会ってやってくれないか」
マリナは傍らで膝をついて祈っていた。
精霊は何も答えなかったが、ポケットに入れた貴石がどこか温かく感じられた。
●
そして2日後。
3村の村長たちと、やや不安そうな様子のサイモンを連れて、再び祠に向かう。
精霊はどうやらご機嫌がよかったらしく、いつもより若干強く光りながら神々しい姿を見せてくれた。
一番年配のソプラ村村長は腰を抜かさんばかりに驚いたが、そこは年の功でなんとか逃げ出すのを耐える。
「こ、これが、本物かどうか、わしらがどうやって見分けるんだ!!」
一瞬、精霊の光がゆらっと揺れる。
ラィルは思わず自分の額を押さえた。
(あー、まあ村長さんのメンツもあるしな。素直に「自分が間違うてました!」と言わんこともあるんかなあ)
だが意外なことに、ここでサイモンが声を上げた。
「私を疑うのは構いません。ですが、それは精霊様に失礼です」
厳しい調子でそう言ってから、不意に穏やかな口調に代わる。
「余り失礼が過ぎると、お怒りを買います。例えば……」
「うぎゃっ!?」
少し離れたところから成り行きを見ていたソット村村長が、尻餅をついていた。
見れば、彼とソプラ村村長との間に、今までなかったタケノコのような岩がいくつか生えていたのだ。
「な、岩が、急に……!」
「まずい! みんな閉じ込められますよ!」
若干棒読みのサイモン。
「帰り道には気をつけるがよいぞ。あまり騒がしいのは好まぬゆえ」
精霊はそう言って、ふっと消えた。――岩は残したままで。
ハンター達は、それぞれの村長たちの様子を窺う。精霊の脅しはかなり効いたようだ。
年長のソプラ村村長には、観智が話しかけた。
「後で、バチャーレ村の様子も……ご覧ください。賑わってはいますが、潤ってはいない……と、わかるはずです」
「どういうことだ?」
「勝手に集まった連中が村の敷地を占拠しているんだ。自分の村なら歓迎するか?」
ルトガーが尋ねると、村長は考え込む。
茜が声をかけたのは、メディオ村の村長だ。
「この村の人たちは、この土地で生きていこうって頑張ってます。でも、自分達だけ得すればいいなんて思ってないんです」
今までの試行錯誤を語り、その結果生まれたお供えの品々を差し出す。
「リアルブルーの加工技術を使えば、皆さんの村の特産品もこういう形で運べるようになります。どうですか?」
「我々にも得がある、という訳かな」
この村長は、それなら精霊の真偽はどうでもいいと考えそうだった。
残るソット村の村長は、一刻も早く帰りたい様子だ。
「だから俺は言っただろう! 本物だったら大変だって!!」
トリプルJがそれはいい顔で笑い、村長にたわしを握らせた。
「それなら、祠の清掃して祈りを捧げようぜ? 精霊への感謝は創世の大精霊に届く。気合入れにゃな?」
掃除を終えてから、お供えに持ち込んだごちそうをいただき、村へ戻る。
「やっぱしあんまり回数が多すぎても精霊さんも疲れるし。かといって一切禁止ってのは、忘れられそうやしな」
ラィルは一定の日を決めてお参りすることを提案する。
「その間は精霊さんのことを語り継いで、バチャーレ村の人だけがお参りするぐらいでええんやないかな。フィーバーよりは、細く長く続くようにな」
ルトガーは参拝のついでに、近隣の村にも立ち寄ってもらうことを提案する。
「あの精霊がどういう存在なのか、沿道の村にも理解してもらえればな。祭の帰りには参拝客にそちらにも立ち寄ってもらえるような方法……例えば特産品の紹介や、名所案内か。そういうものを協力して考えてはどうだろう」
それは一朝一夕でできることではないかもしれない。
たいした特産品のない村もあれば、どうしても人が立ち寄りにくい村もあるだろう。
「ほでも」
パトリシアが自分に言い聞かせるように言った。
「ブルーとクリムゾンのヒトが一緒に暮らせるようになった村だカラ。きっと、ダイジョブよ」
<了>
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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【郷祭】相談卓 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/10/28 09:15:09 |
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【質問卓】バチャーレ村等で質問 天央 観智(ka0896) 人間(リアルブルー)|25才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/10/27 01:25:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/27 08:12:04 |