ゲスト
(ka0000)
【虚動】歪虚ゲーム陽動襲撃
マスター:笹村工事

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/02 15:00
- 完成日
- 2015/01/07 00:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●歪虚ゲームの始まり
荒野に降り立つ歪虚の群れ。
それは最近、CAM実験場に暴悪な牙を剥いた雑魔とは違い、明確な意思を持って動く虚無の使者。人類と相対する宿敵であった。
その先頭に、派手な服を着飾った嫉妬の歪虚、クラーレ・クラーラが立っている。彼は四本の腕を器用に使い、眼前に佇むCAMをハンドル付き双眼鏡で見やった。
「へぇ、結構たくさん用意したんだね。思ったより人も多いし、とても盛り上がりそうだ」
とはいえ、これもすべて彼が仕組んだことだ。ここまではすべて計画通り。
しかも今回、人類から『災厄の十三魔』と呼ばれる歪虚たちの協力を得ている。自分が考えた楽しいゲームを始める前に計画が頓挫するなんて、考えたくもない。いや、そんなことは絶対に起こり得ない。
「じゃあ、みんなよろしくね。ボクは、ゲームの駒を貰いに行く」
クラーレは手下を率い、CAM実験場の中央へと足を向けた。それに呼応するかのように、他の歪虚たちも持ち場へと散っていく。
彼らの狙いは、もはや明白であった。
●陽動蠢動
CAM稼働実験場すぐ傍の平坦な荒地。そこに歪虚の集団が現れた。
「あれがCAMか。でけぇ機械人形だな」
歪虚の内の一体、二十代後半の男に見えるドラクマは500mほど先のCAMを見詰め呟く。
それに返したのは細身の人型歪虚だった。
「あれ使ったら、人間を潰して丸めてお手玉みたいにして遊べそうじゃん」
「そりゃ楽しそうだな、ジャグラー。けどよ、今回の俺らは陽動だ。楽しむのは程々にな」
ドラクマの言葉に続けたのはマント姿の人型歪虚である。
「左様左様。それ以前に死なすなど勿体ない。生かさず殺さず苦悶の声を搾り取らねば」
この言葉に、ドラクマは軽く肩を竦め返す。
「相変わらずイイ趣味してんな、カードマジシャン。
ま、お前さんにとっちゃ観客の居ない所での芸なんざ、好みじゃねぇてこったろうけどよ」
「如何にも如何にも。いずれ滅ぶそれまでは、阿鼻叫喚を浴びたいものよ」
カードマジシャンの言葉にジャグラーも賛同する。
「それはオレっちも同じだ。いずれ全部きれいさっぱり滅ぶまで、人間達には楽しませて欲しい物じゃん」
そこまで言うとジャグラーはケラケラと、カードマジシャンはカラカラと笑い、ドラクマは苦笑するかのように息をつく。
これら名前持ちの知能の高い歪虚3体の他に、その場に居るのは20体ほどの雑魔である。
種類は2種類。陶製の犬人形めいた物が10体に、1メートル程度の大きさの兵隊型のブリキ人形が10体。
そしてそれらの後方に更に一体。メイド服姿の少女型歪虚が居た。それはCAMを見詰め楽しそうに声を上げる。
「人形人形楽しそう。リボンを付けてお化粧も。姫さまと一緒に遊びたい」
「そうなるかどうかは、これから次第だがよ。
ま、せいぜい、掻き回してやるさ。だから逃げる時の転移門頼んだぜ」
ドラクマはメイド服の少女型歪虚にそう言うと、次いでジャグラーとカードマジシャンに呼び掛ける。
「それじゃ、行こうぜ。俺は中央で切り込みを、左翼はジャグラー、右翼はカードマジシャンに頼む。その補助を雑魔にさせる。
初期の陣形はこれだが、そこから先はハンター達の反応次第で変えて行こうぜ。
それと、それぞれ奥の手を使うかどうかは好きにしとこうぜ。
もっともお前ら、今回の遊びじゃ使う気ないだろうけどよ」
「当然じゃん。遊びは縛りがあってこそ楽しいもんだし」
「いかにもいかにも。遊び心を忘れるぐらいなら、滅びた方がマシというもの」
「ま、好きにしな。俺は昔なじみにもまだ挨拶に行ってないんでな、滅ぼされる気はないから自分の奥の手はヤバくなったら使うぜ。
んじゃま、そろそろ行けるか?」
それにジャグラーとカードマジシャンの2体は戦闘準備で応える。
ジャグラーは一気に負のマテリアルを膨れ上がらせると掌にそれを収束、次いで奇剣の形に固定する。
それは太い枝を伸ばす木のような形状の、枝分かれした刃を持つ剣である。
リアルブルーにおいて「フンガ・ムンガ」と呼ばれる物に酷似していた。
それを2本作り出すと宙に放り、新たに2本、合わせて4本の奇剣をお手玉をするようにもてあそぶ。
それに倣うように、カードマジシャンも自身の負のマテリアルを用い武器を作り出した。
掌に収まるほどのカードの束である。だが、そこから漂う気配は禍々しい。
それをディラーの如く巧みに捌きながらドラクマの用意を待っていた。
それに応えるように、ドラクマは腰に差した双刀を抜く。
獣の牙を思わせる、緩やかに湾曲した幅が広く大きな刀である。
刃形は鮫の歯か鋸の如くギザギザとしており、凶悪さを見ただけで感じさせる。
「じゃ、始めるとするか」
遊びに行くかの如き気楽な声でドラクマは言うと、静かに歩み始める。
それに付いて行くように、雑魔の群れと2体の歪虚がハンター達の元へと進撃を始めた。
荒野に降り立つ歪虚の群れ。
それは最近、CAM実験場に暴悪な牙を剥いた雑魔とは違い、明確な意思を持って動く虚無の使者。人類と相対する宿敵であった。
その先頭に、派手な服を着飾った嫉妬の歪虚、クラーレ・クラーラが立っている。彼は四本の腕を器用に使い、眼前に佇むCAMをハンドル付き双眼鏡で見やった。
「へぇ、結構たくさん用意したんだね。思ったより人も多いし、とても盛り上がりそうだ」
とはいえ、これもすべて彼が仕組んだことだ。ここまではすべて計画通り。
しかも今回、人類から『災厄の十三魔』と呼ばれる歪虚たちの協力を得ている。自分が考えた楽しいゲームを始める前に計画が頓挫するなんて、考えたくもない。いや、そんなことは絶対に起こり得ない。
「じゃあ、みんなよろしくね。ボクは、ゲームの駒を貰いに行く」
クラーレは手下を率い、CAM実験場の中央へと足を向けた。それに呼応するかのように、他の歪虚たちも持ち場へと散っていく。
彼らの狙いは、もはや明白であった。
●陽動蠢動
CAM稼働実験場すぐ傍の平坦な荒地。そこに歪虚の集団が現れた。
「あれがCAMか。でけぇ機械人形だな」
歪虚の内の一体、二十代後半の男に見えるドラクマは500mほど先のCAMを見詰め呟く。
それに返したのは細身の人型歪虚だった。
「あれ使ったら、人間を潰して丸めてお手玉みたいにして遊べそうじゃん」
「そりゃ楽しそうだな、ジャグラー。けどよ、今回の俺らは陽動だ。楽しむのは程々にな」
ドラクマの言葉に続けたのはマント姿の人型歪虚である。
「左様左様。それ以前に死なすなど勿体ない。生かさず殺さず苦悶の声を搾り取らねば」
この言葉に、ドラクマは軽く肩を竦め返す。
「相変わらずイイ趣味してんな、カードマジシャン。
ま、お前さんにとっちゃ観客の居ない所での芸なんざ、好みじゃねぇてこったろうけどよ」
「如何にも如何にも。いずれ滅ぶそれまでは、阿鼻叫喚を浴びたいものよ」
カードマジシャンの言葉にジャグラーも賛同する。
「それはオレっちも同じだ。いずれ全部きれいさっぱり滅ぶまで、人間達には楽しませて欲しい物じゃん」
そこまで言うとジャグラーはケラケラと、カードマジシャンはカラカラと笑い、ドラクマは苦笑するかのように息をつく。
これら名前持ちの知能の高い歪虚3体の他に、その場に居るのは20体ほどの雑魔である。
種類は2種類。陶製の犬人形めいた物が10体に、1メートル程度の大きさの兵隊型のブリキ人形が10体。
そしてそれらの後方に更に一体。メイド服姿の少女型歪虚が居た。それはCAMを見詰め楽しそうに声を上げる。
「人形人形楽しそう。リボンを付けてお化粧も。姫さまと一緒に遊びたい」
「そうなるかどうかは、これから次第だがよ。
ま、せいぜい、掻き回してやるさ。だから逃げる時の転移門頼んだぜ」
ドラクマはメイド服の少女型歪虚にそう言うと、次いでジャグラーとカードマジシャンに呼び掛ける。
「それじゃ、行こうぜ。俺は中央で切り込みを、左翼はジャグラー、右翼はカードマジシャンに頼む。その補助を雑魔にさせる。
初期の陣形はこれだが、そこから先はハンター達の反応次第で変えて行こうぜ。
それと、それぞれ奥の手を使うかどうかは好きにしとこうぜ。
もっともお前ら、今回の遊びじゃ使う気ないだろうけどよ」
「当然じゃん。遊びは縛りがあってこそ楽しいもんだし」
「いかにもいかにも。遊び心を忘れるぐらいなら、滅びた方がマシというもの」
「ま、好きにしな。俺は昔なじみにもまだ挨拶に行ってないんでな、滅ぼされる気はないから自分の奥の手はヤバくなったら使うぜ。
んじゃま、そろそろ行けるか?」
それにジャグラーとカードマジシャンの2体は戦闘準備で応える。
ジャグラーは一気に負のマテリアルを膨れ上がらせると掌にそれを収束、次いで奇剣の形に固定する。
それは太い枝を伸ばす木のような形状の、枝分かれした刃を持つ剣である。
リアルブルーにおいて「フンガ・ムンガ」と呼ばれる物に酷似していた。
それを2本作り出すと宙に放り、新たに2本、合わせて4本の奇剣をお手玉をするようにもてあそぶ。
それに倣うように、カードマジシャンも自身の負のマテリアルを用い武器を作り出した。
掌に収まるほどのカードの束である。だが、そこから漂う気配は禍々しい。
それをディラーの如く巧みに捌きながらドラクマの用意を待っていた。
それに応えるように、ドラクマは腰に差した双刀を抜く。
獣の牙を思わせる、緩やかに湾曲した幅が広く大きな刀である。
刃形は鮫の歯か鋸の如くギザギザとしており、凶悪さを見ただけで感じさせる。
「じゃ、始めるとするか」
遊びに行くかの如き気楽な声でドラクマは言うと、静かに歩み始める。
それに付いて行くように、雑魔の群れと2体の歪虚がハンター達の元へと進撃を始めた。
リプレイ本文
●陽動を叩き潰せ
「狙うにゃ、遠すぎるな」
ジルボ(ka1732)は、陣形を組んで近付いて来る歪虚達の更に後方に位置するメイド姿の少女型歪虚を見詰め呟く。
彼は、あまりにも場違いなその姿に警戒心を抱いていた。
「怪しい奴は即排除。俺の直感がそう言ってるんだが、今は無理か。
仕方ねぇ、まずは目の前の相手に全力だな。出し惜しみ無しに、素早く終わらせる」
そして彼は他のハンター達と同様、状況に応じて動く事も考え最適と思われる配置へと就く。
敵との距離はこの時点で200m。既にハンター達は布陣を敷き終わり、迎撃態勢を取る。
それを歪虚達は進撃しながら見詰めていた。
「練度高ぇな、良い感じに陣形組んでやがる。こりゃ下手に突いてもボロ出しそうにねぇな。
しょうがねぇ、ちぃとキツイいが、こっちの陣形崩して攻めるか」
全体の陣形を崩さずゆっくり歩きながら進撃の指揮を執っていたドラクマはハンター達の陣形を見て呟くと、そこから視線を外さずに仲間の歪虚達へ声を掛ける。
「陣形2から3への切り替えで行くぞ。俺は切り込みしつつ、防御中心で掻き回す。
一度始めたら指示出せる余裕があるか分からねぇから、状況見て逃げるなりなんだりしろよ」
その言葉を受け、歪虚達は陣形を初期配置から僅かに変えた。
ドラクマの後方に居た雑魔の内、兵隊型が5体ずつ両翼の前へ移動。それと同時に歪虚達は速度を上げ突っ込んできた。
中央にドラクマ、その後方に足の速い犬型雑魔。両翼、防御に優れた兵隊型雑魔を先頭として、その後方に残り2体の歪虚。
それを迎撃する為にハンター達は本格的な戦闘準備を取る。
距離が100mになった所で、イグレーヌ・ランスター(ka3299)の弓による一撃が放たれた。
だが距離が離れすぎていることもあり当たらず、その間にも歪虚は間を詰めてくる。
そして彼我の距離が残り50m程になった所で、ドラクマは双刀の切っ先を左右に向けた。
それと同時に、背後に居た犬型雑魔が5体ずつ両翼に移動。
これで中央はドラクマのみとなったが、その状況から彼が単独で突っ込んで来る。
恐ろしく速い。瞬く間に距離を詰めてきた。
不意打ちにも近いその速さで中央前衛に陣取るハンター達へ襲い掛かろうとし、それは一発の銃弾で防がれた。
最初からドラクマの動きに注意を払っていた君島 防人(ka0181)の牽制射撃込みの一撃を放つ。
それをドラクマは避けずに双刀の腹で受けたが、進撃の勢いを確実に殺される。
「突撃は防いだ! 出鼻を挫けば勢いは削がれる、後は数的優位を保てば決して難しい状況ではない。仕留めるぞ!」
鼓舞するような君島の呼び掛けに応えるように、ハンター達は動き出す。
それにドラクマは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ヤベぇな、燃えてきた。クッソ、アイツ俺の所にゃ来ねぇのか。折角だし少しぐらい――」
「ドラクマ、それはマナー違反でしょう」
進撃を止められたドラクマへ、追いついたカードマジシャンが牽制じみた声を掛ける。これに軽く舌打ちしながらも、戦士は返す。
「分ぁってるよ。じゃ、お互い自分の取り分以外は手出し無用だ。
行くぜ、カードマジシャン、ジャグラー」
「ではでは」
「行くじゃん」
そして両翼と中央、3か所に分かれた戦闘は本格的に始まった。
●左翼戦闘開始
「人型を抑えます。援護を」
覚醒し獅子獣人の如き姿と化した雪ノ下正太郎(ka0539)に対し、仲間のハンター達も応えた。
「任せて! ミっちゃん協力してやろう」
ウーナ(ka1439)の呼び掛けに冒険仲間である満月美華(ka0515)は力強く返す。
「勿論! 折角のCAM稼働実験の邪魔をさせる訳にいかないし、お帰り願おうかしらね!」
言葉を終えるより早く、満月は進攻の邪魔になる犬型雑魔に狙いを付け、ファイヤーアローを放つ。素早い攻撃に雑魔は避け切れず、一撃を食らい動きが止まった。
それにウーナは牽制射撃込みの追撃を放ち止めを刺す。これによりジャグラーまでの道が僅かに開けた。
そこを更にこじ開けるように雪ノ下は前に進み、それを止めようと犬型雑魔が横から襲い掛かる。
しかし、それをレイス(ka1541)が迎撃する。
瞬脚とランアウトを駆使し、中央を迂回するようにして左翼横合いから進撃していたレイスは、雪ノ下に向かおうとしていた雑魔の不意を突くようにしてスラッシュエッジの一撃を放つ。
もろに食らった雑魔はダメージを受けるがそれだけでは滅びず、他の雑魔達も同調するかのように敵意を向けた。
「流石に数が多いな――そちらは任せる。俺は数を減らす!」
レイスは仲間への援護の為にあえて雑魔達の注意を引きつける。
「こっちでフォローするから押し込んで!」
オキクルミ(ka1947)はジャグラーへと向かう仲間の援護の為、雑魔達の前に立ちはだかる。
「古の盟約により歪虚滅ぶべし! 祖霊よ、導きを!」
クラッシュブロウと共に斧の一撃を放てば、犬型雑魔に直撃。倒し切れはしなかったが確実にダメージを与え、更に周囲の雑魔の注意を引いた。
それを援護するように静刃=II(ka2921)は、オキクルミの背後から近づいて来ていた兵隊型雑魔を迎え撃つ。
防御よりも攻めを重視した彼女は、攻めの構えを使い更に踏込と強打も使用した太刀の一閃を放つ。
それを雑魔は盾で受け止めるがスキルも使用した一撃は重く、盾越しの衝撃と共に動きを止められた。
「硬いですね。こちらは防御重視、犬型は移動力重視ですか。後は人型の情報も欲しいですが、今は無理ですね」
情報分析をまとめるように静刃は呟く。彼女は同じ組織の同志であるヴィス=XV(ka2326)と共に、CAM襲撃に関わる歪虚達の情報を集めていた。
「ここで死ねば情報を持ち帰る所ではないですし、まずは生き残る事に集中しましょう」
戦闘前、ヴィスと「ご無事で」と軽く抱擁を交わしてから分かれた時の事を思い出し心に余裕を作ると、彼女は戦闘に集中する。
そうして仲間が雑魔達を抑える中、雪ノ下はジャグラーへと迫っていく。しかし雑魔の数は多く、更に動きを止めようと迫ってくる。
それを迎撃するようにアルテア・A・コートフィールド(ka2553)は動いた。
「ここで抑えさせて貰うよ」
雪ノ下に右横から近づこうとしてきた兵隊型雑魔に立ちはだかると機導剣を発動。それを雑魔は盾で受け止め注意を彼女に向ける。
「やる気になった? でも僕は負ける気なんかないんだ。勝たせて貰うよ」
自身を鼓舞するように言いながら、彼女は更に戦い続ける。
仲間の援護を受けながら前へと向かう雪ノ下に、唸りを上げて奇剣が飛んで来た。
投擲したのはジャグラー。雪ノ下は避けずに、盾で受ける。盾越しですら骨が折れるかと思うほどの衝撃が彼を襲った。そして当たると同時に投擲された剣は掻き消える。
剣を投げたジャグラーは楽しげに声を上げた。
「嬉しいじゃん。誰もオレっちの相手してくれないなら手当たり次第に投げてやろうと思ったけど、遊んでくれるなら別じゃん。
1対1だし、1本ずつしか投げねぇよん。一杯遊ぼうぜい」
挑発するような言葉に雪ノ下はあえて乗る。
「承知。ならば付き合って貰うぞ」
仲間を守る為、雪ノ下はジャグラーと対峙した。
●右翼戦闘開始
「よーし、いっくよー!」
底抜けに明るいと言えるような声を上げ、ミクト・ラル(ka3794)はカードマジシャンへ一気に迫るべく、瞬脚とランアウトを使い間合いを詰めようとする。
しかしそれより早く、カードマジシャンは手にしたカードを投擲した。
それをマルチステップも使い回避しようとしたミクトだったが、追尾するように動いてきたカードは彼女に命中。
それによるダメージは無かったが、移動力が一気に落ちる。それにより、彼女は雑魔に囲まれた。
それを援護するように仲間が動く。
柊 真司(ka0705)は、カードマジシャンの護衛に就くような位置からミクトに向かおうとした兵隊型雑魔をアサルトライフルで撃つ。
強力な一撃は盾越しの衝撃ですら雑魔の腕を破壊した。
「何の為にこいつらが来たのかは知らないが、CAMを渡すわけにはいかねぇ。ここで叩き潰す」
「出来ればその前に情報を聞き出したい所だな」
ミクトに向かう犬型雑魔を踏み付け前に立ったヴィスは、属している組織の目的の為にも誘いのような言葉を口にする。
それに遊び好きな嫉妬の歪虚であるカードマジシャンは乗った。
「面白い。ならば遊びましょう。私に傷を与えられれば幾らか情報を教えます。
ただし、雑魔の数が減り過ぎれば私は逃げます。
さあさあ、遊びましょう」
「なら颯がお相手致しますの」
ミクトを援護するように近付いた八劒 颯(ka1804)は連携を口にする。
「ミクトさん、一緒に攻めに行きましょう」
これにミクトは笑みを浮かべながら返す。
「ええ、良いですよ。目にもの見せてやりましょう」
これに仲間のハンターは応える。
「だったら援護は任せて。
ボクのターン。お願い精霊さんボクに力を貸して」
元気の良い声で言ったのは弓月 幸子(ka1749)。彼女は雑魔の動きに注意しながら、ウィンドガストを施す。
それによりミクトや颯を緑に輝く風が取り巻き、回避の加護が掛けられた。
その隙を狙って襲い掛かろうとした雑魔は、他のハンターに足を止められる。
右翼の右から襲い掛かろうとした兵隊型雑魔に、敵の側面を突く為に移動していたキー=フェイス(ka0791)は殴り合えるほどに距離を詰める。
そして即座に銃を向けると、超近距離から雑魔の構えた盾を撃つ。ダメージその物はそれほどでもなかったが、盾越しに伝わる衝撃に雑魔の動きが僅かに止まった。
「堅いからって衝撃までは殺せねえだろ」
挑発するような言葉に雑魔は荒々しく剣を振るが、それをキーは回避。雑魔をその場から引き離すように動く。
「貴方は遊ばないのですか?」
キーの動きにカードマジシャンはつまらなそうに言った。
「てめえらみてえな化けもん相手にしてるくらいなら、カワイコちゃんの尻追っかけてた方が建設的だぜ!」
挑発するような言葉。しかしカードマジシャンはこれに乗らず、新たなカードを投擲する準備をする。
「気を付けろ! 何かして来るぞ!」
周囲に注意を払っていた柊の言葉に、ハンター達は身構える。
そして新たなカードは投げられた。
数は6枚。2枚はミクトと颯に向かい、残りは雑魔とカードマジシャン自身に向かう。
全てが命中。命中と同時、歪虚達は青く、ミクトと颯は赤い輝きに包まれる。
どういう訳か、ミクトと颯を守るウィンドガストの風の色も赤に変わっていた。
そしてミクトと颯に、カードが命中した雑魔が襲い掛かろうとする。
「そいつらを2人に近付けるな!」
柊は仲間に呼び掛けながら自身も雑魔の前に立ち迎撃する。
残り2体の内1体はヴィスが迎撃し、けれど残り1体がミクトと颯に向かう。
しかしその1体も、威嚇射撃により侵攻を止められた。
「前衛攻撃隊の支援に回ります。後ろはお気になさらず!」
ミネット・ベアール(ka3282)の力強い呼び掛け。それに後押しされるように、ミクトと颯はカードマジシャンに向かっていく。
そして雑魔達が仲間達の尽力により抑えられる中、ミクトと颯はカードマジシャンの前に立った。
●中央戦闘開始
「タイミングを合わせましょう」
ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)は単独で戦場を走り回るドラクマへの牽制の為に、仲間に呼び掛ける。
「奴は足が速い。動きを止める為にも一斉射撃は有効だろう」
イグレーヌは弓の長い射程を利用し戦場のどこであろうと射っていたが、動き回り捕えられないドラクマを抑える為に協力する。
そして更に賛同するハンターが2人。
「試し撃ちには持ってこいね。同時射撃で連携を取りましょう」
まだ一度も実戦で使っていない新品同然のアサルトライフルを握る手に力を込め八原 篝(ka3104)が返せば、スワニルダ(ka0641)も続いた。
「こちらに来た相手は、あちらの指揮者のようですし、集中攻撃で着実に仕留めて参りましょう」
そしてそれぞれの射程に合わせ移動する。配置に就いたのを確認して、ベアトリスは更に呼び掛けた。
「カウントダウンを始めます。3・2・1……今です!」
ベアトリスの銃撃と共に、ハンター達は使えるスキルは使い一斉に遠距離攻撃を放つ。
イグレーヌは狙いを付け信仰の言葉と共に矢を。
「主は賜った。土は土に。灰は灰に。塵は塵に。光あれ」
八原は気合と高揚を言葉に込め、銃撃を。
「一矢報いてみせる」
スワニルダは愛すべき妹たちを想い、輝ける機導砲を。
「わたくしの大切な妹たちを傷付けることも、妹たちの大切なわたくしを傷付けることもまかりなりません!」
4者それぞれが撃ち放った攻撃はドラクマへと一斉に向かう。
それをドラクマは迎撃するも動きを封じられた。
ベアトリスの一撃は避けられるも動きを止め、間髪入れず襲い掛かったイグレーヌの矢は刀で弾き、八原の銃撃とスワニルダの機導砲は刀の腹で受け止める。
ドラクマはこれによるダメージはほぼ無かったが、ドラクマを抑える為に向かった近接戦闘のハンター達に捉えられる。
「この隙に雑魔の数を減らしましょう」
ベアトリスの呼び掛けに遠距離攻撃手段を持ったハンター達はそれぞれ動く。
イグレーヌは変わらず陣形中央から弓の射程距離の長さを生かし射撃支援を繰り返し、八原とスワニルダ、そしてベアトリスは、両翼に散った雑魔に攻撃を重ねた。
攻撃を受けた雑魔はどんどん陣形を崩し、個別に殲滅される。
それにドラクマは舌打ちし毒づく。
「ホント、雑魔は馬鹿だな。何の為に両翼の陣形厚くしたと思ってやがる。そのまま陣形崩さず突っ込みゃ数で押し切れたってのによ。
あとジャグラーにカードマジシャン! オメーら遊び過ぎなんだよっ!」
「戦いの最中に無駄口か。その余裕、突かせて貰う」
静かな声で、だが苛烈な勢いを込め、イーディス・ノースハイド(ka2106)は剣による一撃を放つ。
それは誘いである。あえて声を掛けた事も、最初に攻撃した事も自分へ意識を向けさせる罠。
剣たる英雄を守り、戦う術を持たぬ民を守護する。不倒にして不壊の壁として歪虚を阻む事を自身の在り様とする彼女は、自分へ攻撃を集中させ受け止める事で、仲間のハンター達が攻撃し易い隙を作ろうとしていた。
だが、それにドラクマは乗らない。イーディスの攻撃を刀で受け流し、自分を囲む他のハンター達にも意識を向ける。
「その手にゃ乗らねぇよ。あいにく俺も、歪虚になる前はハンターとしてそこそこ戦ったんでな。戦いの駆け引きってヤツは、それなりに経験してんのよ」
「なら、こういうのはどうだ?」
ドラクマの死角に移動していた鳳 覚羅(ka0862)は、機導剣の一撃を放つ。
不意を突くような攻撃。しかしそれを事前に察知していたドラクマは僅かな足捌きで体を捻り刀で受け止める。
「いいねぇ、そういうの好きだぜ。気配を殺して背後から一撃」
「受けられたらしょうがないがな」
油断なく構え隙あらば追撃を放とうとする鳳に、ドラクマは獰猛な笑みを浮かべ返す。
「そんなことねぇだろ。なにせ、次の攻撃の布石にしてんだからよ」
言い終わるより早く、ドラクマは横から切り掛かって来た山田 勇三(ka3604)の一撃を刀で捌く。
ランアウトで肉薄し、問答無用に飛燕で飛び掛ったが、それすら反応し受ける。
受け捌かれた山田は、にこやかな笑みを浮かべ告げた。
「不意打ち無礼極まるが容赦を。
――尤も、礼を尽くす様な相手ではありませんが。
所詮は強盗風情、礼のなんたるかも知らないでしょう」
慇懃無礼に言葉を投げ、軽くため息。笑みを浮かべたまま僅かに距離を取り、ドラクマに見下ろすような視線を向けた後、両翼の人型歪虚に視線を向けた。
それはまるで品定めをするような眼差し。
ドラクマは楽しげに笑みを浮かべる。
「いいねぇ、小僧。そういう駆け引きめいた挑発は好きだぜ。使える物は何でも使う。それが戦いってもんだからな」
「小僧ですか。そういう貴方は随分と若造めいていますね」
更に山田は笑みを浮かべ挑発を重ねる。それは仲間への援護。攻撃し易い位置へと動く余裕を作る為、あえて注意を自分に向けようとする。
だがドラクマはこれにも乗らない。ハンターの位置取りに合わせ、態勢を整えながら言葉を返す。
「見た目は若ぇがな。これでもオメェより年上だぜ、多分。タメのダチなら、今頃孫が居てもおかしくない年だしな。
……そういやアイツも、生きてりゃそんな年か。ジジィになってんだな。ははっ、見たら笑ってやる」
懐かしそうにドラクマは語る。その姿は脱力しているように見えた。
だがハンター達は襲い掛からない。その隙が見いだせなかった。ある種の均衡めいた緊張が満ちる。
それをドラクマは崩した。
瞳孔を爬虫類のように細めると一気に気配を膨れ上がらせ、構えを取る。
「オメェらは強え。小手先の能力じゃなく、心構えがな。だがよ、さすがに3人じゃ俺は仕留められねぇよ。
一度でも怪我して均衡崩れりゃ、それまでだぜ」
挑発ではなく事実を告げる言葉に、力強く返したのはライエル・ブラック(ka1450)だった。
「その為に僕が居るんです。
しっかり支えます。安心して戦って下さい」
仲間の回復の為、あえて近くまで来ていたライエルは、ドラクマに隙があればいつでも攻撃できる心構えも見せながら仲間の援護に就いた。
その言葉に押されるように、残りのハンター達には気迫が漲る。
それにドラクマが獰猛な笑みを深める中、息詰まる途切れぬ戦いが始まった。
●左翼決着
「スリープクラウドが効く相手なら楽だったのに」
満月は、ウーナと連携を取り、確実に雑魔を殲滅しながら呟く。
スリープクラウドは生物のように眠りを確実に必要とする相手ではない場合、効かない事が多い。
その為、満月はスリープクラウドでは無い攻撃と支援を中心に動いていた。
そんな満月にウーナは声を掛ける。
「仕方ないよ。その分、協力して効率よく倒そう――来たよ!」
勢い良く突っ込んでくる犬型雑魔にウーナは銃撃。避け切れない雑魔は食らうも満月に肉薄する。
だが、ウーナの攻撃で動きが鈍った雑魔に満月はシルバーマグで応戦。脳天を撃ち抜いて滅ぼす。
「魔術師でもこういうの使うのよ」
こうして雑魔は更に数を減らされる。
「さぁどうした雑魔共。俺を抜かないと彼等の相手には向かえんぞ?
死にたい奴からかかって来い!」
ジャグラーへと向かう仲間に追い縋ろうとする雑魔を、レイスは今も引き付けていた。
瞬脚とランアウトを駆使する彼は、一撃離脱を繰り返し確実にダメージを与えながら、自身への被害は最小限に留める。
そうしてダメージを受けた雑魔に止めを刺すように、オキクルミはスキルも使い確実に攻めていく。
「隙ありだね、そこで立ち往生しちゃえー!」
クラッシュブロウを使い兵隊型雑魔に止めの一撃。ダメージを受ければ自己治癒で回復しながら戦場を駆け回り続けた。
こうしたハンターの動きにより雑魔は抑えられ、ジャグラーの元には残りのハンターが殺到する。
「一人に集中し過ぎですよ」
静刃はジャグラーの死角から近づき、踏込と強打を伴った一撃を放つ。
雪ノ下との1対1の戦いを遊んでいたジャグラーは、それをもろに食らう。
「痛い痛い痛い! 何するじゃん! ずっこい、ルール違反じゃん!」
「そっちの趣味の悪い遊びに付き合う気なんてないよ」
背中を切り付けられ距離を取るジャグラーに、距離を詰めたアルテアがエレクトリックショック込みの一撃を放つ。
だがそれを避けたジャグラーは、この期に及んでまだ剣をお手玉しながらただをこねるように言う。
「なんだよ、遊んでくれるんじゃないのかよ。つまんないじゃん」
「なら、ここで終われば良い」
ジャグラーの投擲を受けながら反撃のチャンスを辛抱強く窺っていた雪ノ下は、仲間の攻撃で生まれた隙を使って自己治癒で回復。距離を詰めた後、闘心昂揚とクラッシュブロウを込めた一撃を放った。
それを避け切れなかったジャグラーは、辛うじて間合いを外し受けるダメージを最小限に抑える。そして後方に跳んだ。
「遊びじゃないのかよぅ。雑魔もだいぶやられちゃってるし。つまんないじゃん。いいよ、もう帰るじゃん」
逃げを打とうとするジャグラー。それを止めようとハンター達は動く。
だがそれより早くジャグラーは剣を投擲した。一呼吸で2本、次いで1本。それをハンター達は避けようとするが追尾するように剣は軌道を変え命中した。
「遊びじゃないなら加減する必要ないじゃん」
そう言うとジャグラーはケラケラと笑い、剣を一本持ったまま全力で走って逃げ出した。
その足は呆れるほど速く、下手に追い掛け孤立する事を恐れたハンター達は残った雑魔の殲滅を終わらせる為、仲間の元へと踵を返す。
●右翼決着
「ごり押しでしかありませんが、全くやらないよりはマシでしょうか……」
引き絞りを使いながらミネットは兵隊型を射る。威力の上がったそれは盾に突き刺さり雑魔の動きを止めた。
それに合わせ、キーは横合いから銃撃を加える。
「ま、あのデカブツがどうなろうと知ったこっちゃないが、ナンパにも金が要るんでね」
軽口と共に放たれた一撃は雑魔の頭部に命中。それに柊は止めを刺す。
「これで残りは兵隊型が3体。残りを仕留め次第、人型に向かおう」
雑魔の足止めをする仲間に声を掛け、それに応えは返される。
そうして雑魔が抑えられる中、残りのハンター達はカードマジシャンに向かっていた。
「……ふふ♪ あは♪ あははハハハ!!」
思考は冷静なまま、ミクトは大剣を振り回す。敵の注意を引きつけるそれは、弓月の支援に後押しされている。
それは同じく前衛で戦う颯もだ。
「これが最後のウィンドガストだよ。気を付けて」
「ありがとうですの。折角の支援、無駄にはしません」
颯は弓月に礼を返し、ミクトと共に連携を続ける。
それを攻撃を捨て回避のみに集中したカードマジシャンはことごとく避ける。
「大分雑魔の数は減りましたね。そろそろ逃げるとしますか」
「その前に情報の一つも置いて行って貰おう」
颯とミクトの連携に合わせるようにヴィスも攻撃に加わる。
だがカードマジシャンは囲まれないように動き続け、攻撃を交わし続けた。
「捕まればタダでは済まない相手に、立ち向かう気はありませんよ、私」
軽口を叩くカードマジシャン。それを銃撃が襲う。
「俺が奴の足を封じる、その間に潰せ」
君島は牽制射撃を使い牽制。それを避けながら、カードマジシャンは言葉を返す。
「ドラクマの機先を止めた手練れ。油断はしませんよ」
「なら俺の事はノーマークだろ?」
君島の銃撃をカードマジシャンが避けた直後、そこを狙い澄まし遠射と強弾と共にジルボは弓の一撃を放つ。
それは腕を貫いた。
「出し惜しみ無しの一撃だ。効いただろ?」
ジルボの一撃で動きが止まった敵に、ハンター達は一斉に襲い掛かる。
ヴィスの一撃を辛うじて避けた所にミクトの連撃が入る。それは僅かに浅かったが、更に追撃を重ねた颯の一撃は横っ腹に食い込んだ。
「びりびり電撃どりるぅ~!!!!」
エレクトリックショックと共に放たれた魔導ドリルの一撃は、麻痺こそさせられなかったが無視できないダメージをカードマジシャンに与える。
それに慌てて距離を取るカードマジシャン。
「これはこれは、やられましたね。痛いですよ。
とはいえゲームは私の負けです。さて、聞きたい事はなんですか?」
「お前達は何をしにここに現れた」
すかさず問い掛けるヴィスにカードマジシャンは応えた。
「私とジャグラーはドラクマに誘われて遊びに。ドラクマは災厄の十三魔が一、ジャンヌ・ポワソン殿に義理を返す為。
それだけの事ですよ。では、今日の所はこれにて」
そう言うなりカードを6枚投擲。それはハンター達に命中、移動力を大きく阻害し、カードマジシャンは一気に逃げ去った。
カードの効果は短時間で自動的に効果が切れる事は最初に受けた物から分かっていたが、それでも全力で逃げる相手に追い付くには無理があった。
止むを得ず、ハンター達は雑魔の排除に向かう。
●中央決着
「左翼雑魔の残りが多いです。こちらを集中して叩きましょう」
ベアトリスの呼び掛けに、遠距離攻撃と支援をしていた仲間は応える。
「それならしぶとく残っている犬を。躾の悪い犬は嫌いですもの、確実に仕留めましょう」
スワニルダは雑魔を引き付ける為にあえて前に出る。それに誘われた雑魔に機導剣を振るい足を切り飛ばす。
そこに間髪入れず連撃を合わせたのは八原。銃撃は雑魔の脳天を貫いた。
「残りはあと少しです。こちらの片が付けば人型の増援に行きましょう」
前衛でドラクマに攻撃を重ね続ける仲間へ視線を向け、そう告げる。それにイグレーヌは賛同した。
「此処を『ホロウレイド』の様には決してさせない。一刻も早く叩き潰そう」
決意を胸に射った矢は兵隊型雑魔の盾に突き刺さった。
後方で雑魔を対応するハンター達の活躍により、このまま進めば確実に雑魔は殲滅されるであろう。
だが、その間もドラクマとの戦いは続いていた。
「すぐに回復させます」
「お願いします。早く戦線に戻らないと」
ライエルの回復を受けながら、山田は冷静に務めドラクマの隙を狙う。
それは自分の功の為ではなく、仲間に手数と勝機を与えるため。
相互扶助を第一にサラリーマンとしての矜持を胸に戦意を高める。
だが、それでもドラクマに隙を見出すのは難しかった。
前衛に囲まれたドラクマの取った戦術は至極簡単。完全防御主体から攻撃主体へ僅かに移行する。ただそれだけ。
だが幾らかのダメージを食らう事と引き換えに攻撃の余裕を作り出したドラクマは、まずは山田を攻撃。
それにより戦線を離脱させハンターの数を減らし、再び防御重視に戻し戦闘を続ける。
連携の人数が減った分、増えた手数を攻撃に充てていた。
「防戦一方だな! 攻めねぇのかネェちゃんよ!」
挑発しながらドラクマは刀を振るう。しかしそれを盾で受けるイーディスは冷静だ。
「不倒にして不壊の壁として歪虚を阻むのが私のやり方だよ。
キミ達歪虚を討つ剣、英雄たる者は私の横に並ぶ彼らさ」
その言葉を体現するようにイーディスは戦う。攻撃は主に鳳に任せ、自身は堅守も使い盾としてドラクマの攻撃を受け続ける。
「英雄? カッコいいねぇ。そんなもんになりたいって言ってたアイツを思い出すぜ。もっともアイツは俺一人滅ぼせねぇ体たらくだったがな」
「昔語りに酔ってる場合かい? そんな余裕、貰えると思うな」
イーディスを攻撃した隙を突き、鳳はドラクマに一気に踏み込む。それは銃や剣ではなく、素手の間合い。
これまでとは違う間合いにドラクマの反応が僅かに遅れる。その隙を飛拳がこじ開けた。
ロケットナックルの一撃がドラクマの顎を捉える。
「キミのお仲間が俺の身体の大半を持っていってくれたおかげでね……こういう真似もできるんだよ」
とはいえ、これは鳳が奥の手を今の今まで温存した結果であるが、ともかく予想外の攻撃にドラクマの動きが鈍った。これはその隙を逃さず、ハンター達は一斉に襲い掛かる。
回復役のライエルも加わる連撃。それは全てを防ぎ切る事は不可能な連携。
だからこそ、ドラクマは防御を捨てた。
山田の一撃もライエルのシャドウブリットも避けない。それによりダメージを受けながらも、次に取り得る全ての手数を攻撃に費やした。
息もつかせぬ3連撃。山田と鳳、そしてイーディスに一撃ずつ。
防御力が特に高いイーディス以外の2人は無視出来ないダメージを受ける。
それにより連携が止まる中、ドラクマは大きく跳びその場から離れた。
「おっかねぇな、お前ら。滅ぶまでやり合うつもりはねぇんでな。この辺りでとんずらさせて貰うぜ。
じゃあな、楽しかったぜ」
言うなり爆発的な速さで一気にその場から離脱する。あっという間に弓ですら届かぬ距離まで逃げると、更にその先に居たジャグラー達と合流。メイド姿の少女型歪虚の作り出した転移門でその場から消え去った。
あとに残ったのは僅かな雑魔。しかしそれはハンター達の協力により一掃された。
こうして依頼は終わった。戦いの中、回復出来る者はさせつつ、けれど後にダメージの残る者も出た戦いだった。
だが名持ちの歪虚達を逃したとはいえ、雑魔を全滅させ、指揮官級にも傷を与え、十分に成果を出したといえよう。
「狙うにゃ、遠すぎるな」
ジルボ(ka1732)は、陣形を組んで近付いて来る歪虚達の更に後方に位置するメイド姿の少女型歪虚を見詰め呟く。
彼は、あまりにも場違いなその姿に警戒心を抱いていた。
「怪しい奴は即排除。俺の直感がそう言ってるんだが、今は無理か。
仕方ねぇ、まずは目の前の相手に全力だな。出し惜しみ無しに、素早く終わらせる」
そして彼は他のハンター達と同様、状況に応じて動く事も考え最適と思われる配置へと就く。
敵との距離はこの時点で200m。既にハンター達は布陣を敷き終わり、迎撃態勢を取る。
それを歪虚達は進撃しながら見詰めていた。
「練度高ぇな、良い感じに陣形組んでやがる。こりゃ下手に突いてもボロ出しそうにねぇな。
しょうがねぇ、ちぃとキツイいが、こっちの陣形崩して攻めるか」
全体の陣形を崩さずゆっくり歩きながら進撃の指揮を執っていたドラクマはハンター達の陣形を見て呟くと、そこから視線を外さずに仲間の歪虚達へ声を掛ける。
「陣形2から3への切り替えで行くぞ。俺は切り込みしつつ、防御中心で掻き回す。
一度始めたら指示出せる余裕があるか分からねぇから、状況見て逃げるなりなんだりしろよ」
その言葉を受け、歪虚達は陣形を初期配置から僅かに変えた。
ドラクマの後方に居た雑魔の内、兵隊型が5体ずつ両翼の前へ移動。それと同時に歪虚達は速度を上げ突っ込んできた。
中央にドラクマ、その後方に足の速い犬型雑魔。両翼、防御に優れた兵隊型雑魔を先頭として、その後方に残り2体の歪虚。
それを迎撃する為にハンター達は本格的な戦闘準備を取る。
距離が100mになった所で、イグレーヌ・ランスター(ka3299)の弓による一撃が放たれた。
だが距離が離れすぎていることもあり当たらず、その間にも歪虚は間を詰めてくる。
そして彼我の距離が残り50m程になった所で、ドラクマは双刀の切っ先を左右に向けた。
それと同時に、背後に居た犬型雑魔が5体ずつ両翼に移動。
これで中央はドラクマのみとなったが、その状況から彼が単独で突っ込んで来る。
恐ろしく速い。瞬く間に距離を詰めてきた。
不意打ちにも近いその速さで中央前衛に陣取るハンター達へ襲い掛かろうとし、それは一発の銃弾で防がれた。
最初からドラクマの動きに注意を払っていた君島 防人(ka0181)の牽制射撃込みの一撃を放つ。
それをドラクマは避けずに双刀の腹で受けたが、進撃の勢いを確実に殺される。
「突撃は防いだ! 出鼻を挫けば勢いは削がれる、後は数的優位を保てば決して難しい状況ではない。仕留めるぞ!」
鼓舞するような君島の呼び掛けに応えるように、ハンター達は動き出す。
それにドラクマは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ヤベぇな、燃えてきた。クッソ、アイツ俺の所にゃ来ねぇのか。折角だし少しぐらい――」
「ドラクマ、それはマナー違反でしょう」
進撃を止められたドラクマへ、追いついたカードマジシャンが牽制じみた声を掛ける。これに軽く舌打ちしながらも、戦士は返す。
「分ぁってるよ。じゃ、お互い自分の取り分以外は手出し無用だ。
行くぜ、カードマジシャン、ジャグラー」
「ではでは」
「行くじゃん」
そして両翼と中央、3か所に分かれた戦闘は本格的に始まった。
●左翼戦闘開始
「人型を抑えます。援護を」
覚醒し獅子獣人の如き姿と化した雪ノ下正太郎(ka0539)に対し、仲間のハンター達も応えた。
「任せて! ミっちゃん協力してやろう」
ウーナ(ka1439)の呼び掛けに冒険仲間である満月美華(ka0515)は力強く返す。
「勿論! 折角のCAM稼働実験の邪魔をさせる訳にいかないし、お帰り願おうかしらね!」
言葉を終えるより早く、満月は進攻の邪魔になる犬型雑魔に狙いを付け、ファイヤーアローを放つ。素早い攻撃に雑魔は避け切れず、一撃を食らい動きが止まった。
それにウーナは牽制射撃込みの追撃を放ち止めを刺す。これによりジャグラーまでの道が僅かに開けた。
そこを更にこじ開けるように雪ノ下は前に進み、それを止めようと犬型雑魔が横から襲い掛かる。
しかし、それをレイス(ka1541)が迎撃する。
瞬脚とランアウトを駆使し、中央を迂回するようにして左翼横合いから進撃していたレイスは、雪ノ下に向かおうとしていた雑魔の不意を突くようにしてスラッシュエッジの一撃を放つ。
もろに食らった雑魔はダメージを受けるがそれだけでは滅びず、他の雑魔達も同調するかのように敵意を向けた。
「流石に数が多いな――そちらは任せる。俺は数を減らす!」
レイスは仲間への援護の為にあえて雑魔達の注意を引きつける。
「こっちでフォローするから押し込んで!」
オキクルミ(ka1947)はジャグラーへと向かう仲間の援護の為、雑魔達の前に立ちはだかる。
「古の盟約により歪虚滅ぶべし! 祖霊よ、導きを!」
クラッシュブロウと共に斧の一撃を放てば、犬型雑魔に直撃。倒し切れはしなかったが確実にダメージを与え、更に周囲の雑魔の注意を引いた。
それを援護するように静刃=II(ka2921)は、オキクルミの背後から近づいて来ていた兵隊型雑魔を迎え撃つ。
防御よりも攻めを重視した彼女は、攻めの構えを使い更に踏込と強打も使用した太刀の一閃を放つ。
それを雑魔は盾で受け止めるがスキルも使用した一撃は重く、盾越しの衝撃と共に動きを止められた。
「硬いですね。こちらは防御重視、犬型は移動力重視ですか。後は人型の情報も欲しいですが、今は無理ですね」
情報分析をまとめるように静刃は呟く。彼女は同じ組織の同志であるヴィス=XV(ka2326)と共に、CAM襲撃に関わる歪虚達の情報を集めていた。
「ここで死ねば情報を持ち帰る所ではないですし、まずは生き残る事に集中しましょう」
戦闘前、ヴィスと「ご無事で」と軽く抱擁を交わしてから分かれた時の事を思い出し心に余裕を作ると、彼女は戦闘に集中する。
そうして仲間が雑魔達を抑える中、雪ノ下はジャグラーへと迫っていく。しかし雑魔の数は多く、更に動きを止めようと迫ってくる。
それを迎撃するようにアルテア・A・コートフィールド(ka2553)は動いた。
「ここで抑えさせて貰うよ」
雪ノ下に右横から近づこうとしてきた兵隊型雑魔に立ちはだかると機導剣を発動。それを雑魔は盾で受け止め注意を彼女に向ける。
「やる気になった? でも僕は負ける気なんかないんだ。勝たせて貰うよ」
自身を鼓舞するように言いながら、彼女は更に戦い続ける。
仲間の援護を受けながら前へと向かう雪ノ下に、唸りを上げて奇剣が飛んで来た。
投擲したのはジャグラー。雪ノ下は避けずに、盾で受ける。盾越しですら骨が折れるかと思うほどの衝撃が彼を襲った。そして当たると同時に投擲された剣は掻き消える。
剣を投げたジャグラーは楽しげに声を上げた。
「嬉しいじゃん。誰もオレっちの相手してくれないなら手当たり次第に投げてやろうと思ったけど、遊んでくれるなら別じゃん。
1対1だし、1本ずつしか投げねぇよん。一杯遊ぼうぜい」
挑発するような言葉に雪ノ下はあえて乗る。
「承知。ならば付き合って貰うぞ」
仲間を守る為、雪ノ下はジャグラーと対峙した。
●右翼戦闘開始
「よーし、いっくよー!」
底抜けに明るいと言えるような声を上げ、ミクト・ラル(ka3794)はカードマジシャンへ一気に迫るべく、瞬脚とランアウトを使い間合いを詰めようとする。
しかしそれより早く、カードマジシャンは手にしたカードを投擲した。
それをマルチステップも使い回避しようとしたミクトだったが、追尾するように動いてきたカードは彼女に命中。
それによるダメージは無かったが、移動力が一気に落ちる。それにより、彼女は雑魔に囲まれた。
それを援護するように仲間が動く。
柊 真司(ka0705)は、カードマジシャンの護衛に就くような位置からミクトに向かおうとした兵隊型雑魔をアサルトライフルで撃つ。
強力な一撃は盾越しの衝撃ですら雑魔の腕を破壊した。
「何の為にこいつらが来たのかは知らないが、CAMを渡すわけにはいかねぇ。ここで叩き潰す」
「出来ればその前に情報を聞き出したい所だな」
ミクトに向かう犬型雑魔を踏み付け前に立ったヴィスは、属している組織の目的の為にも誘いのような言葉を口にする。
それに遊び好きな嫉妬の歪虚であるカードマジシャンは乗った。
「面白い。ならば遊びましょう。私に傷を与えられれば幾らか情報を教えます。
ただし、雑魔の数が減り過ぎれば私は逃げます。
さあさあ、遊びましょう」
「なら颯がお相手致しますの」
ミクトを援護するように近付いた八劒 颯(ka1804)は連携を口にする。
「ミクトさん、一緒に攻めに行きましょう」
これにミクトは笑みを浮かべながら返す。
「ええ、良いですよ。目にもの見せてやりましょう」
これに仲間のハンターは応える。
「だったら援護は任せて。
ボクのターン。お願い精霊さんボクに力を貸して」
元気の良い声で言ったのは弓月 幸子(ka1749)。彼女は雑魔の動きに注意しながら、ウィンドガストを施す。
それによりミクトや颯を緑に輝く風が取り巻き、回避の加護が掛けられた。
その隙を狙って襲い掛かろうとした雑魔は、他のハンターに足を止められる。
右翼の右から襲い掛かろうとした兵隊型雑魔に、敵の側面を突く為に移動していたキー=フェイス(ka0791)は殴り合えるほどに距離を詰める。
そして即座に銃を向けると、超近距離から雑魔の構えた盾を撃つ。ダメージその物はそれほどでもなかったが、盾越しに伝わる衝撃に雑魔の動きが僅かに止まった。
「堅いからって衝撃までは殺せねえだろ」
挑発するような言葉に雑魔は荒々しく剣を振るが、それをキーは回避。雑魔をその場から引き離すように動く。
「貴方は遊ばないのですか?」
キーの動きにカードマジシャンはつまらなそうに言った。
「てめえらみてえな化けもん相手にしてるくらいなら、カワイコちゃんの尻追っかけてた方が建設的だぜ!」
挑発するような言葉。しかしカードマジシャンはこれに乗らず、新たなカードを投擲する準備をする。
「気を付けろ! 何かして来るぞ!」
周囲に注意を払っていた柊の言葉に、ハンター達は身構える。
そして新たなカードは投げられた。
数は6枚。2枚はミクトと颯に向かい、残りは雑魔とカードマジシャン自身に向かう。
全てが命中。命中と同時、歪虚達は青く、ミクトと颯は赤い輝きに包まれる。
どういう訳か、ミクトと颯を守るウィンドガストの風の色も赤に変わっていた。
そしてミクトと颯に、カードが命中した雑魔が襲い掛かろうとする。
「そいつらを2人に近付けるな!」
柊は仲間に呼び掛けながら自身も雑魔の前に立ち迎撃する。
残り2体の内1体はヴィスが迎撃し、けれど残り1体がミクトと颯に向かう。
しかしその1体も、威嚇射撃により侵攻を止められた。
「前衛攻撃隊の支援に回ります。後ろはお気になさらず!」
ミネット・ベアール(ka3282)の力強い呼び掛け。それに後押しされるように、ミクトと颯はカードマジシャンに向かっていく。
そして雑魔達が仲間達の尽力により抑えられる中、ミクトと颯はカードマジシャンの前に立った。
●中央戦闘開始
「タイミングを合わせましょう」
ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)は単独で戦場を走り回るドラクマへの牽制の為に、仲間に呼び掛ける。
「奴は足が速い。動きを止める為にも一斉射撃は有効だろう」
イグレーヌは弓の長い射程を利用し戦場のどこであろうと射っていたが、動き回り捕えられないドラクマを抑える為に協力する。
そして更に賛同するハンターが2人。
「試し撃ちには持ってこいね。同時射撃で連携を取りましょう」
まだ一度も実戦で使っていない新品同然のアサルトライフルを握る手に力を込め八原 篝(ka3104)が返せば、スワニルダ(ka0641)も続いた。
「こちらに来た相手は、あちらの指揮者のようですし、集中攻撃で着実に仕留めて参りましょう」
そしてそれぞれの射程に合わせ移動する。配置に就いたのを確認して、ベアトリスは更に呼び掛けた。
「カウントダウンを始めます。3・2・1……今です!」
ベアトリスの銃撃と共に、ハンター達は使えるスキルは使い一斉に遠距離攻撃を放つ。
イグレーヌは狙いを付け信仰の言葉と共に矢を。
「主は賜った。土は土に。灰は灰に。塵は塵に。光あれ」
八原は気合と高揚を言葉に込め、銃撃を。
「一矢報いてみせる」
スワニルダは愛すべき妹たちを想い、輝ける機導砲を。
「わたくしの大切な妹たちを傷付けることも、妹たちの大切なわたくしを傷付けることもまかりなりません!」
4者それぞれが撃ち放った攻撃はドラクマへと一斉に向かう。
それをドラクマは迎撃するも動きを封じられた。
ベアトリスの一撃は避けられるも動きを止め、間髪入れず襲い掛かったイグレーヌの矢は刀で弾き、八原の銃撃とスワニルダの機導砲は刀の腹で受け止める。
ドラクマはこれによるダメージはほぼ無かったが、ドラクマを抑える為に向かった近接戦闘のハンター達に捉えられる。
「この隙に雑魔の数を減らしましょう」
ベアトリスの呼び掛けに遠距離攻撃手段を持ったハンター達はそれぞれ動く。
イグレーヌは変わらず陣形中央から弓の射程距離の長さを生かし射撃支援を繰り返し、八原とスワニルダ、そしてベアトリスは、両翼に散った雑魔に攻撃を重ねた。
攻撃を受けた雑魔はどんどん陣形を崩し、個別に殲滅される。
それにドラクマは舌打ちし毒づく。
「ホント、雑魔は馬鹿だな。何の為に両翼の陣形厚くしたと思ってやがる。そのまま陣形崩さず突っ込みゃ数で押し切れたってのによ。
あとジャグラーにカードマジシャン! オメーら遊び過ぎなんだよっ!」
「戦いの最中に無駄口か。その余裕、突かせて貰う」
静かな声で、だが苛烈な勢いを込め、イーディス・ノースハイド(ka2106)は剣による一撃を放つ。
それは誘いである。あえて声を掛けた事も、最初に攻撃した事も自分へ意識を向けさせる罠。
剣たる英雄を守り、戦う術を持たぬ民を守護する。不倒にして不壊の壁として歪虚を阻む事を自身の在り様とする彼女は、自分へ攻撃を集中させ受け止める事で、仲間のハンター達が攻撃し易い隙を作ろうとしていた。
だが、それにドラクマは乗らない。イーディスの攻撃を刀で受け流し、自分を囲む他のハンター達にも意識を向ける。
「その手にゃ乗らねぇよ。あいにく俺も、歪虚になる前はハンターとしてそこそこ戦ったんでな。戦いの駆け引きってヤツは、それなりに経験してんのよ」
「なら、こういうのはどうだ?」
ドラクマの死角に移動していた鳳 覚羅(ka0862)は、機導剣の一撃を放つ。
不意を突くような攻撃。しかしそれを事前に察知していたドラクマは僅かな足捌きで体を捻り刀で受け止める。
「いいねぇ、そういうの好きだぜ。気配を殺して背後から一撃」
「受けられたらしょうがないがな」
油断なく構え隙あらば追撃を放とうとする鳳に、ドラクマは獰猛な笑みを浮かべ返す。
「そんなことねぇだろ。なにせ、次の攻撃の布石にしてんだからよ」
言い終わるより早く、ドラクマは横から切り掛かって来た山田 勇三(ka3604)の一撃を刀で捌く。
ランアウトで肉薄し、問答無用に飛燕で飛び掛ったが、それすら反応し受ける。
受け捌かれた山田は、にこやかな笑みを浮かべ告げた。
「不意打ち無礼極まるが容赦を。
――尤も、礼を尽くす様な相手ではありませんが。
所詮は強盗風情、礼のなんたるかも知らないでしょう」
慇懃無礼に言葉を投げ、軽くため息。笑みを浮かべたまま僅かに距離を取り、ドラクマに見下ろすような視線を向けた後、両翼の人型歪虚に視線を向けた。
それはまるで品定めをするような眼差し。
ドラクマは楽しげに笑みを浮かべる。
「いいねぇ、小僧。そういう駆け引きめいた挑発は好きだぜ。使える物は何でも使う。それが戦いってもんだからな」
「小僧ですか。そういう貴方は随分と若造めいていますね」
更に山田は笑みを浮かべ挑発を重ねる。それは仲間への援護。攻撃し易い位置へと動く余裕を作る為、あえて注意を自分に向けようとする。
だがドラクマはこれにも乗らない。ハンターの位置取りに合わせ、態勢を整えながら言葉を返す。
「見た目は若ぇがな。これでもオメェより年上だぜ、多分。タメのダチなら、今頃孫が居てもおかしくない年だしな。
……そういやアイツも、生きてりゃそんな年か。ジジィになってんだな。ははっ、見たら笑ってやる」
懐かしそうにドラクマは語る。その姿は脱力しているように見えた。
だがハンター達は襲い掛からない。その隙が見いだせなかった。ある種の均衡めいた緊張が満ちる。
それをドラクマは崩した。
瞳孔を爬虫類のように細めると一気に気配を膨れ上がらせ、構えを取る。
「オメェらは強え。小手先の能力じゃなく、心構えがな。だがよ、さすがに3人じゃ俺は仕留められねぇよ。
一度でも怪我して均衡崩れりゃ、それまでだぜ」
挑発ではなく事実を告げる言葉に、力強く返したのはライエル・ブラック(ka1450)だった。
「その為に僕が居るんです。
しっかり支えます。安心して戦って下さい」
仲間の回復の為、あえて近くまで来ていたライエルは、ドラクマに隙があればいつでも攻撃できる心構えも見せながら仲間の援護に就いた。
その言葉に押されるように、残りのハンター達には気迫が漲る。
それにドラクマが獰猛な笑みを深める中、息詰まる途切れぬ戦いが始まった。
●左翼決着
「スリープクラウドが効く相手なら楽だったのに」
満月は、ウーナと連携を取り、確実に雑魔を殲滅しながら呟く。
スリープクラウドは生物のように眠りを確実に必要とする相手ではない場合、効かない事が多い。
その為、満月はスリープクラウドでは無い攻撃と支援を中心に動いていた。
そんな満月にウーナは声を掛ける。
「仕方ないよ。その分、協力して効率よく倒そう――来たよ!」
勢い良く突っ込んでくる犬型雑魔にウーナは銃撃。避け切れない雑魔は食らうも満月に肉薄する。
だが、ウーナの攻撃で動きが鈍った雑魔に満月はシルバーマグで応戦。脳天を撃ち抜いて滅ぼす。
「魔術師でもこういうの使うのよ」
こうして雑魔は更に数を減らされる。
「さぁどうした雑魔共。俺を抜かないと彼等の相手には向かえんぞ?
死にたい奴からかかって来い!」
ジャグラーへと向かう仲間に追い縋ろうとする雑魔を、レイスは今も引き付けていた。
瞬脚とランアウトを駆使する彼は、一撃離脱を繰り返し確実にダメージを与えながら、自身への被害は最小限に留める。
そうしてダメージを受けた雑魔に止めを刺すように、オキクルミはスキルも使い確実に攻めていく。
「隙ありだね、そこで立ち往生しちゃえー!」
クラッシュブロウを使い兵隊型雑魔に止めの一撃。ダメージを受ければ自己治癒で回復しながら戦場を駆け回り続けた。
こうしたハンターの動きにより雑魔は抑えられ、ジャグラーの元には残りのハンターが殺到する。
「一人に集中し過ぎですよ」
静刃はジャグラーの死角から近づき、踏込と強打を伴った一撃を放つ。
雪ノ下との1対1の戦いを遊んでいたジャグラーは、それをもろに食らう。
「痛い痛い痛い! 何するじゃん! ずっこい、ルール違反じゃん!」
「そっちの趣味の悪い遊びに付き合う気なんてないよ」
背中を切り付けられ距離を取るジャグラーに、距離を詰めたアルテアがエレクトリックショック込みの一撃を放つ。
だがそれを避けたジャグラーは、この期に及んでまだ剣をお手玉しながらただをこねるように言う。
「なんだよ、遊んでくれるんじゃないのかよ。つまんないじゃん」
「なら、ここで終われば良い」
ジャグラーの投擲を受けながら反撃のチャンスを辛抱強く窺っていた雪ノ下は、仲間の攻撃で生まれた隙を使って自己治癒で回復。距離を詰めた後、闘心昂揚とクラッシュブロウを込めた一撃を放った。
それを避け切れなかったジャグラーは、辛うじて間合いを外し受けるダメージを最小限に抑える。そして後方に跳んだ。
「遊びじゃないのかよぅ。雑魔もだいぶやられちゃってるし。つまんないじゃん。いいよ、もう帰るじゃん」
逃げを打とうとするジャグラー。それを止めようとハンター達は動く。
だがそれより早くジャグラーは剣を投擲した。一呼吸で2本、次いで1本。それをハンター達は避けようとするが追尾するように剣は軌道を変え命中した。
「遊びじゃないなら加減する必要ないじゃん」
そう言うとジャグラーはケラケラと笑い、剣を一本持ったまま全力で走って逃げ出した。
その足は呆れるほど速く、下手に追い掛け孤立する事を恐れたハンター達は残った雑魔の殲滅を終わらせる為、仲間の元へと踵を返す。
●右翼決着
「ごり押しでしかありませんが、全くやらないよりはマシでしょうか……」
引き絞りを使いながらミネットは兵隊型を射る。威力の上がったそれは盾に突き刺さり雑魔の動きを止めた。
それに合わせ、キーは横合いから銃撃を加える。
「ま、あのデカブツがどうなろうと知ったこっちゃないが、ナンパにも金が要るんでね」
軽口と共に放たれた一撃は雑魔の頭部に命中。それに柊は止めを刺す。
「これで残りは兵隊型が3体。残りを仕留め次第、人型に向かおう」
雑魔の足止めをする仲間に声を掛け、それに応えは返される。
そうして雑魔が抑えられる中、残りのハンター達はカードマジシャンに向かっていた。
「……ふふ♪ あは♪ あははハハハ!!」
思考は冷静なまま、ミクトは大剣を振り回す。敵の注意を引きつけるそれは、弓月の支援に後押しされている。
それは同じく前衛で戦う颯もだ。
「これが最後のウィンドガストだよ。気を付けて」
「ありがとうですの。折角の支援、無駄にはしません」
颯は弓月に礼を返し、ミクトと共に連携を続ける。
それを攻撃を捨て回避のみに集中したカードマジシャンはことごとく避ける。
「大分雑魔の数は減りましたね。そろそろ逃げるとしますか」
「その前に情報の一つも置いて行って貰おう」
颯とミクトの連携に合わせるようにヴィスも攻撃に加わる。
だがカードマジシャンは囲まれないように動き続け、攻撃を交わし続けた。
「捕まればタダでは済まない相手に、立ち向かう気はありませんよ、私」
軽口を叩くカードマジシャン。それを銃撃が襲う。
「俺が奴の足を封じる、その間に潰せ」
君島は牽制射撃を使い牽制。それを避けながら、カードマジシャンは言葉を返す。
「ドラクマの機先を止めた手練れ。油断はしませんよ」
「なら俺の事はノーマークだろ?」
君島の銃撃をカードマジシャンが避けた直後、そこを狙い澄まし遠射と強弾と共にジルボは弓の一撃を放つ。
それは腕を貫いた。
「出し惜しみ無しの一撃だ。効いただろ?」
ジルボの一撃で動きが止まった敵に、ハンター達は一斉に襲い掛かる。
ヴィスの一撃を辛うじて避けた所にミクトの連撃が入る。それは僅かに浅かったが、更に追撃を重ねた颯の一撃は横っ腹に食い込んだ。
「びりびり電撃どりるぅ~!!!!」
エレクトリックショックと共に放たれた魔導ドリルの一撃は、麻痺こそさせられなかったが無視できないダメージをカードマジシャンに与える。
それに慌てて距離を取るカードマジシャン。
「これはこれは、やられましたね。痛いですよ。
とはいえゲームは私の負けです。さて、聞きたい事はなんですか?」
「お前達は何をしにここに現れた」
すかさず問い掛けるヴィスにカードマジシャンは応えた。
「私とジャグラーはドラクマに誘われて遊びに。ドラクマは災厄の十三魔が一、ジャンヌ・ポワソン殿に義理を返す為。
それだけの事ですよ。では、今日の所はこれにて」
そう言うなりカードを6枚投擲。それはハンター達に命中、移動力を大きく阻害し、カードマジシャンは一気に逃げ去った。
カードの効果は短時間で自動的に効果が切れる事は最初に受けた物から分かっていたが、それでも全力で逃げる相手に追い付くには無理があった。
止むを得ず、ハンター達は雑魔の排除に向かう。
●中央決着
「左翼雑魔の残りが多いです。こちらを集中して叩きましょう」
ベアトリスの呼び掛けに、遠距離攻撃と支援をしていた仲間は応える。
「それならしぶとく残っている犬を。躾の悪い犬は嫌いですもの、確実に仕留めましょう」
スワニルダは雑魔を引き付ける為にあえて前に出る。それに誘われた雑魔に機導剣を振るい足を切り飛ばす。
そこに間髪入れず連撃を合わせたのは八原。銃撃は雑魔の脳天を貫いた。
「残りはあと少しです。こちらの片が付けば人型の増援に行きましょう」
前衛でドラクマに攻撃を重ね続ける仲間へ視線を向け、そう告げる。それにイグレーヌは賛同した。
「此処を『ホロウレイド』の様には決してさせない。一刻も早く叩き潰そう」
決意を胸に射った矢は兵隊型雑魔の盾に突き刺さった。
後方で雑魔を対応するハンター達の活躍により、このまま進めば確実に雑魔は殲滅されるであろう。
だが、その間もドラクマとの戦いは続いていた。
「すぐに回復させます」
「お願いします。早く戦線に戻らないと」
ライエルの回復を受けながら、山田は冷静に務めドラクマの隙を狙う。
それは自分の功の為ではなく、仲間に手数と勝機を与えるため。
相互扶助を第一にサラリーマンとしての矜持を胸に戦意を高める。
だが、それでもドラクマに隙を見出すのは難しかった。
前衛に囲まれたドラクマの取った戦術は至極簡単。完全防御主体から攻撃主体へ僅かに移行する。ただそれだけ。
だが幾らかのダメージを食らう事と引き換えに攻撃の余裕を作り出したドラクマは、まずは山田を攻撃。
それにより戦線を離脱させハンターの数を減らし、再び防御重視に戻し戦闘を続ける。
連携の人数が減った分、増えた手数を攻撃に充てていた。
「防戦一方だな! 攻めねぇのかネェちゃんよ!」
挑発しながらドラクマは刀を振るう。しかしそれを盾で受けるイーディスは冷静だ。
「不倒にして不壊の壁として歪虚を阻むのが私のやり方だよ。
キミ達歪虚を討つ剣、英雄たる者は私の横に並ぶ彼らさ」
その言葉を体現するようにイーディスは戦う。攻撃は主に鳳に任せ、自身は堅守も使い盾としてドラクマの攻撃を受け続ける。
「英雄? カッコいいねぇ。そんなもんになりたいって言ってたアイツを思い出すぜ。もっともアイツは俺一人滅ぼせねぇ体たらくだったがな」
「昔語りに酔ってる場合かい? そんな余裕、貰えると思うな」
イーディスを攻撃した隙を突き、鳳はドラクマに一気に踏み込む。それは銃や剣ではなく、素手の間合い。
これまでとは違う間合いにドラクマの反応が僅かに遅れる。その隙を飛拳がこじ開けた。
ロケットナックルの一撃がドラクマの顎を捉える。
「キミのお仲間が俺の身体の大半を持っていってくれたおかげでね……こういう真似もできるんだよ」
とはいえ、これは鳳が奥の手を今の今まで温存した結果であるが、ともかく予想外の攻撃にドラクマの動きが鈍った。これはその隙を逃さず、ハンター達は一斉に襲い掛かる。
回復役のライエルも加わる連撃。それは全てを防ぎ切る事は不可能な連携。
だからこそ、ドラクマは防御を捨てた。
山田の一撃もライエルのシャドウブリットも避けない。それによりダメージを受けながらも、次に取り得る全ての手数を攻撃に費やした。
息もつかせぬ3連撃。山田と鳳、そしてイーディスに一撃ずつ。
防御力が特に高いイーディス以外の2人は無視出来ないダメージを受ける。
それにより連携が止まる中、ドラクマは大きく跳びその場から離れた。
「おっかねぇな、お前ら。滅ぶまでやり合うつもりはねぇんでな。この辺りでとんずらさせて貰うぜ。
じゃあな、楽しかったぜ」
言うなり爆発的な速さで一気にその場から離脱する。あっという間に弓ですら届かぬ距離まで逃げると、更にその先に居たジャグラー達と合流。メイド姿の少女型歪虚の作り出した転移門でその場から消え去った。
あとに残ったのは僅かな雑魔。しかしそれはハンター達の協力により一掃された。
こうして依頼は終わった。戦いの中、回復出来る者はさせつつ、けれど後にダメージの残る者も出た戦いだった。
だが名持ちの歪虚達を逃したとはいえ、雑魔を全滅させ、指揮官級にも傷を与え、十分に成果を出したといえよう。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 21人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
作戦相談 八劒 颯(ka1804) 人間(リアルブルー)|15才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/02 01:12:37 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/02 00:22:25 |