ゲスト
(ka0000)
【虚動】Eisen Händer
マスター:稲田和夫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2015/01/01 07:30
- 完成日
- 2015/01/14 08:52
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「……と、いうワケなのよぉ。ちょっと面白そうじゃない?」
光射さぬ暗闇の中、その女は椅子に腰かけテーブルに頬杖をついたまま、笑って見せた。
「それで、北部部方面軍の師団長から援軍の要請があったのですね?」
応じたのも、やはり女性だ。
ただ、こちらは声色やその体つきからもまだ少女のようではあったが。
「カレの……ううん、カレらの、かしらね? 遊び好きには閉口するわぁ。レディの気を惹くだけの贈り物は用意しているみたいだけど」
「師団長殿は好きにしろと仰っています。軍医殿も、新兵器開発の参考にもなるし、私の新しい装備を試すにも良い機会だと」
「あんまり、がんばりすぎちゃ駄目よぉ?」
「いいえ! これ以上革命軍の好きにはさせません! 必ずや作戦を成功させてご覧にいれます! オルクス兵長殿!」
「ああん! もう、コレだからツィカーデちゃんは可愛いわぁ!」
椅子に掛けていた女は、直立不動の姿勢で敬礼を返した少女をいきなり抱き締めた。
「へ……兵長殿っ! その名はお止め下さいっ、私は既に正しき陽光を取り戻すための鋼鉄の腕(かいな)なのですから……」
少女の方は、顔を真っ赤にして抗議するが抵抗はしない。やがて、女がまだ幾分名残惜しそうに肌を放したのを機に、少女は乱れた服――朽ち果ててはいるが、紛れも無く帝国兵の制服――を直すと、再度敬礼して重い扉を開ける。
その一瞬――僅かに差しこんだ光が二人を照らす。
その青白い肌は死人のそれであり、彼女たちは紛れも無く歪虚、それも悪徳の七眷属とよばれる高位の者たちの内『暴食(フェレライ)』と呼ばれる存在であった。
女の名は四霊剣『不変の剣妃』オルクス。
そして、もう一体は――。
●
荒野に降り立つ歪虚の群れ。
それは最近、CAM実験場に暴悪な牙を剥いた雑魔とは違い、明確な意思を持って動く虚無の使者。人類と相対する宿敵であった。
その先頭に、派手な服を着飾った嫉妬の歪虚、クラーレ・クラーラが立っている。彼は四本の腕を器用に使い、眼前に佇むCAMをハンドル付き双眼鏡で見やった。
「へぇ、結構たくさん用意したんだね。思ったより人も多いし、とても盛り上がりそうだ」
とはいえ、これもすべて彼が仕組んだことだ。ここまではすべて計画通り。
しかも今回、人類から『災厄の十三魔』と呼ばれる歪虚たちの協力を得ている。自分が考えた楽しいゲームを始める前に計画が頓挫するなんて、考えたくもない。いや、そんなことは絶対に起こり得ない。
「じゃあ、みんなよろしくね。ボクは、ゲームの駒を貰いに行く」
クラーレは手下を率い、CAM実験場の中央へと足を向けた。それに呼応するかのように、他の歪虚たちも持ち場へと散っていく。
彼らの狙いは、もはや明白であった。
●
「遭遇した連中は確かに、『アイゼンハンダー』と言ったのだな!」
CAMの起動実験場にほど近い森の中を部下と共に駆けながら、第一師団のオレーシャ兵長は部下に叫ぶ。
その瞬間、凄まじい爆発音が森全体を揺るがす。
最早お喋りする時間も惜しいと、先を急いだオレーシャらが見たのは、森の一画が巨大な爆発でクレーターと化し、周囲に焼け焦げた木々、そして兵士たちが倒れている光景。
そして、クレーターの中心部に佇み、体に不釣り合いに大きい機械の義手から空薬莢を排出する一体の歪虚であった。
「帝国軍の制服に、少女の外見。何より、あの巨大な機械の腕は間違いなくあのアイゼンハンダーです!」
アイゼンハンダーは『災厄の十三魔』と総称される強力な歪虚の一体で、以前から帝国で活動が確認されている。『Eisen Händer=「鉄の腕」』という名が示す通り、機械化され強化されたその片腕に加え、状況に合わせて様々な機導術を用いた武器を使用している事も報告されている。
彫刻のような仮面を被った顔がオレーシャらの方に向く。スカートや、義手をつけていない方の足は青白い死体の色だ。
「ハンターたちは?」
「現在此方に急行中です! ですが、あちこちで歪虚の襲撃が発生しており十分な数は……」
「集まった戦力で戦うしかあるまい。会場の方には陛下や第二師団の師団長殿もおられる……我々はこの場を死守するのみだ」
オレーシャがそう部下を激励した途端、アイゼンハンダーが飛び掛かって来た。
覚醒者である兵士が咄嗟に剣を構える。
「相手は十三魔だぞ!?」
叫ぶオレーシャ。いくら歴戦の覚醒者とはいえ、迂闊にその一撃を受けるのは危険過ぎる筈であった。
だが、兵士の剣は、無造作に叩きつけられたその巨大な機械腕をギリギリで受け止めたのだ。
これなら、いける。そう判断した兵士は更に踏み込もうと足に力を込める。
だが、オレーシャは兵士としての本能で何かに気付き、叫んだ。
「離れろ!」
オレーシャ指揮下の憲兵隊にとって彼女の命令は絶対だ。考える前に体が反応し、兵士は大地を蹴ってアイゼンハンダーから逃れる。
直後、何かが遥か彼方から飛来し、アイゼンハンダーを中心に爆発した。
「魔法か!?」
「いや。恐らく長距離砲の類だろう」
部下にそう答えてから、オレーシャは立ちこめる黒煙を見つめる。
「誤射ではなさそうだな」
黒煙の中から無傷のアイゼンハンダーが姿を現した。その体は義手から発せられる昏い紫の光に覆われていた。
「囮ということか? 随分と回りくどいマネをしてくれる」
ゆっくりと愛用のスレッジハンマーを握りしめるオレーシャに部下が報告する。
「ハンターたちが到着しました!」
オレーシャは、駆け寄ってくるハンターたちを見て、ふっと目を細めると言った。
「良く来てくれた。……あるいは、何の事か解らないかもしれないが、前回は世話になったな。さて、最早、連中の目的がCAMにあるのは明白となった。私も見たが、アレは素晴らしい。奴らに渡さぬため、頼む」
●
その少女が立つ高台はアイゼンハンダーがいる場所からは距離的に離れているだけでなく、地形の起伏の関係でいかなる高性能な観測装置を用いても絶対にアイゼンハンダーたちを目視出来ない地点だ。
「もうちょっと出力を上げなきゃ……駄目……持たない。試作品とはいえ軍医殿の装備を失逸する訳にはいかない……え? 何?」
少女はその黄色く濁った瞳を閉じ、何者かの声に耳を澄ます。
「これ以上力を出したら壊れてしまう? うん、こっちも同じだよ。砲弾より先に、砲身が持たないの。うん、そうだね。今度はちゃんと出力を計算して……」
少女の肩には機導術による手術で、巨大な砲が無理やり癒合させられていた。
やがて、ひとしきり話した後、少女は遥か彼方を睨む。
「革命軍の新兵器……! あんなものが完成したら、また大勢の人が殺される! ……そんなこと、そんなこと絶対にさせない! コードネーム『CAM』……アレは必ず私たちが奪取する!」
光射さぬ暗闇の中、その女は椅子に腰かけテーブルに頬杖をついたまま、笑って見せた。
「それで、北部部方面軍の師団長から援軍の要請があったのですね?」
応じたのも、やはり女性だ。
ただ、こちらは声色やその体つきからもまだ少女のようではあったが。
「カレの……ううん、カレらの、かしらね? 遊び好きには閉口するわぁ。レディの気を惹くだけの贈り物は用意しているみたいだけど」
「師団長殿は好きにしろと仰っています。軍医殿も、新兵器開発の参考にもなるし、私の新しい装備を試すにも良い機会だと」
「あんまり、がんばりすぎちゃ駄目よぉ?」
「いいえ! これ以上革命軍の好きにはさせません! 必ずや作戦を成功させてご覧にいれます! オルクス兵長殿!」
「ああん! もう、コレだからツィカーデちゃんは可愛いわぁ!」
椅子に掛けていた女は、直立不動の姿勢で敬礼を返した少女をいきなり抱き締めた。
「へ……兵長殿っ! その名はお止め下さいっ、私は既に正しき陽光を取り戻すための鋼鉄の腕(かいな)なのですから……」
少女の方は、顔を真っ赤にして抗議するが抵抗はしない。やがて、女がまだ幾分名残惜しそうに肌を放したのを機に、少女は乱れた服――朽ち果ててはいるが、紛れも無く帝国兵の制服――を直すと、再度敬礼して重い扉を開ける。
その一瞬――僅かに差しこんだ光が二人を照らす。
その青白い肌は死人のそれであり、彼女たちは紛れも無く歪虚、それも悪徳の七眷属とよばれる高位の者たちの内『暴食(フェレライ)』と呼ばれる存在であった。
女の名は四霊剣『不変の剣妃』オルクス。
そして、もう一体は――。
●
荒野に降り立つ歪虚の群れ。
それは最近、CAM実験場に暴悪な牙を剥いた雑魔とは違い、明確な意思を持って動く虚無の使者。人類と相対する宿敵であった。
その先頭に、派手な服を着飾った嫉妬の歪虚、クラーレ・クラーラが立っている。彼は四本の腕を器用に使い、眼前に佇むCAMをハンドル付き双眼鏡で見やった。
「へぇ、結構たくさん用意したんだね。思ったより人も多いし、とても盛り上がりそうだ」
とはいえ、これもすべて彼が仕組んだことだ。ここまではすべて計画通り。
しかも今回、人類から『災厄の十三魔』と呼ばれる歪虚たちの協力を得ている。自分が考えた楽しいゲームを始める前に計画が頓挫するなんて、考えたくもない。いや、そんなことは絶対に起こり得ない。
「じゃあ、みんなよろしくね。ボクは、ゲームの駒を貰いに行く」
クラーレは手下を率い、CAM実験場の中央へと足を向けた。それに呼応するかのように、他の歪虚たちも持ち場へと散っていく。
彼らの狙いは、もはや明白であった。
●
「遭遇した連中は確かに、『アイゼンハンダー』と言ったのだな!」
CAMの起動実験場にほど近い森の中を部下と共に駆けながら、第一師団のオレーシャ兵長は部下に叫ぶ。
その瞬間、凄まじい爆発音が森全体を揺るがす。
最早お喋りする時間も惜しいと、先を急いだオレーシャらが見たのは、森の一画が巨大な爆発でクレーターと化し、周囲に焼け焦げた木々、そして兵士たちが倒れている光景。
そして、クレーターの中心部に佇み、体に不釣り合いに大きい機械の義手から空薬莢を排出する一体の歪虚であった。
「帝国軍の制服に、少女の外見。何より、あの巨大な機械の腕は間違いなくあのアイゼンハンダーです!」
アイゼンハンダーは『災厄の十三魔』と総称される強力な歪虚の一体で、以前から帝国で活動が確認されている。『Eisen Händer=「鉄の腕」』という名が示す通り、機械化され強化されたその片腕に加え、状況に合わせて様々な機導術を用いた武器を使用している事も報告されている。
彫刻のような仮面を被った顔がオレーシャらの方に向く。スカートや、義手をつけていない方の足は青白い死体の色だ。
「ハンターたちは?」
「現在此方に急行中です! ですが、あちこちで歪虚の襲撃が発生しており十分な数は……」
「集まった戦力で戦うしかあるまい。会場の方には陛下や第二師団の師団長殿もおられる……我々はこの場を死守するのみだ」
オレーシャがそう部下を激励した途端、アイゼンハンダーが飛び掛かって来た。
覚醒者である兵士が咄嗟に剣を構える。
「相手は十三魔だぞ!?」
叫ぶオレーシャ。いくら歴戦の覚醒者とはいえ、迂闊にその一撃を受けるのは危険過ぎる筈であった。
だが、兵士の剣は、無造作に叩きつけられたその巨大な機械腕をギリギリで受け止めたのだ。
これなら、いける。そう判断した兵士は更に踏み込もうと足に力を込める。
だが、オレーシャは兵士としての本能で何かに気付き、叫んだ。
「離れろ!」
オレーシャ指揮下の憲兵隊にとって彼女の命令は絶対だ。考える前に体が反応し、兵士は大地を蹴ってアイゼンハンダーから逃れる。
直後、何かが遥か彼方から飛来し、アイゼンハンダーを中心に爆発した。
「魔法か!?」
「いや。恐らく長距離砲の類だろう」
部下にそう答えてから、オレーシャは立ちこめる黒煙を見つめる。
「誤射ではなさそうだな」
黒煙の中から無傷のアイゼンハンダーが姿を現した。その体は義手から発せられる昏い紫の光に覆われていた。
「囮ということか? 随分と回りくどいマネをしてくれる」
ゆっくりと愛用のスレッジハンマーを握りしめるオレーシャに部下が報告する。
「ハンターたちが到着しました!」
オレーシャは、駆け寄ってくるハンターたちを見て、ふっと目を細めると言った。
「良く来てくれた。……あるいは、何の事か解らないかもしれないが、前回は世話になったな。さて、最早、連中の目的がCAMにあるのは明白となった。私も見たが、アレは素晴らしい。奴らに渡さぬため、頼む」
●
その少女が立つ高台はアイゼンハンダーがいる場所からは距離的に離れているだけでなく、地形の起伏の関係でいかなる高性能な観測装置を用いても絶対にアイゼンハンダーたちを目視出来ない地点だ。
「もうちょっと出力を上げなきゃ……駄目……持たない。試作品とはいえ軍医殿の装備を失逸する訳にはいかない……え? 何?」
少女はその黄色く濁った瞳を閉じ、何者かの声に耳を澄ます。
「これ以上力を出したら壊れてしまう? うん、こっちも同じだよ。砲弾より先に、砲身が持たないの。うん、そうだね。今度はちゃんと出力を計算して……」
少女の肩には機導術による手術で、巨大な砲が無理やり癒合させられていた。
やがて、ひとしきり話した後、少女は遥か彼方を睨む。
「革命軍の新兵器……! あんなものが完成したら、また大勢の人が殺される! ……そんなこと、そんなこと絶対にさせない! コードネーム『CAM』……アレは必ず私たちが奪取する!」
リプレイ本文
再度の爆発が、森を揺るがす。
「もう大丈夫でしょう。ここまで引き離せば、兵士たちは安全な筈です」
ハンターたちは、周辺の地形を把握していたシルヴェイラ(ka0726)の指示の元、アイゼンハンダーを負傷した兵士たちから引き離すことに成功していた。
「ようしこれで、思いっ切り戦えるってもんだぜ」
アーサー・ホーガン(ka0471)は、改めて敵に向き直ると不敵に笑った。
「何かしら仕掛けてくるだろうとは思ったが、随分と大物が出てきたもんだな。強ぇ敵は大歓迎だが、生憎と取り込み中なんでな」
アーサーがそう述べた直後、アイゼンハンダーが跳躍し、その義手で猛然とアーサーに殴りかかって来た。
「……さっさとお引き取り願いたいところだが、折角の機会だ、その実力、ちょいと味見させてもらうぜ!」
しかし、アーサーも怯む事無く斧を打ち振るい、その打撃を逸らさんと試みた。
鉄と鉄のぶつかり合う重い音が響き、イゼンハンダーは義手を弾かれ僅かに体勢を崩す。
後衛のハンターたちがそこに一斉射撃を浴びせる。
更に、その隙を逃さずマッシュ・アクラシス(ka0771)がサーベルを構え義手を狙う。
「帝国軍服……趣味の悪い者がいるようですね。人類の守護者を掲げた装いの者が歪虚の手先などとは、冗談が過ぎます。その喧嘩、買いましょうか」
マッシュが狙ったのは、構造的に脆いと思われる義手の内側であった。しかし、サーベルはその強固な装甲に弾かれ、甲高い音を立てる。
「やはり、義手は駄目か……? なら!」
マッシュの攻撃が弾かれたのを確認したティーア・ズィルバーン(ka0122)はクラッベを構えると胴体に打ち込んだ。
ティーアは戦闘の初期、クラッベの形状を利用して、敵の義手を挟み込みそのまま捩じ切ろうとしていた。
だが、その試みは強靭な装甲に阻まれて失敗していた。そこで、彼は他の仲間の意識が薄れている胴体を狙ったのだ。
「せっかくCAMが使えるようになるかってところで邪魔しやがって!」
手応えは、あった。敵はぐらりとよろめく。
しかし、その直後、本体がよろめいているにもかかわらず、鋼鉄の義手がまるで自動操縦でもされているかのように動いてティーアの頭を掴む。
直後、彼方から飛来した砲弾がアイゼンハンダーに着弾し、大爆発を引き起こす。
この時、爆風の範囲内に居たのはティーア、マッシュ、アーサーの三名だ。その内、ティーアとマッシュは、砲弾が着弾してから爆風が自分たちに襲い掛かるまでの一瞬の間に、自分のものではないマテリアルが、自分たちを包み込むのを感じていた。
――あの、最低男、怪我なんかしてないかしら?
――ソイツの腕、持ち帰って来いよ
結果、爆風をまともに受けて地面に叩きつけられたアーサーに対し、ティーアとマッシュは何とか踏みとどまる。
『面妖な』
その、ティーアとマッシュの耳に何者かの声が微かに響く。地の底から響くような底知れぬ邪悪さを孕んだ声が。
『先程から、この場に居る者共以上のマテリアルが戦場に介入して来おるのを感じるわ』
「今なのじゃ……!」
一方、カナタ・ハテナ(ka2130)は、立ちこめる黒煙の向こう、敵の全身を追おう結界に向けてアサルトライフルを構えた。
――カナタ殿は大切な方、いっけぇー!
直後、友人のマテリアルが、カナタの発射する弾丸に力を付与する。
威力を増した弾丸が未だにバリアを展開する的に殺到した。既に爆風による衝撃は収まっていたが、弾丸はバリアに着弾し周囲の大気が歪む。
カナタが攻撃を終えると、バリアはゆっくりと揺らいで消える。その様を固唾を飲んで見守るハンターたち。
だが、アイゼンハンダーはまるで力を吸い取られたかのようにぐらりとよろめく。危ない所で義手がその体を支えた。
「軍人を死機に……同じ軍人として英霊の魂を愚弄するなんて、絶対に……!」
アルファス(ka3312)はそう険しい表情で呟くと、銃を構えてユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)を見た。
「鉄の腕(アイゼンハンダー)ですか……歪虚にしてはやけに洒落た名前をつけますね」
そう呟いてから、ユーリはアルファスに頷いて見せた。
「アルファス……あなたが私の鞘ならば、私は刃です。不撓不屈の刃、不壊の剣……帰りを待つ仲間達の為に、勝って生きて帰りましょう!」
その直後、まずユーリが、続いてエリアスも各々の武器で敵に集中砲火を浴びせた。
――君の武運を祈っている。共に十三魔に打ち勝つんだ
発射の瞬間、アルファスは離れた場所で別の十三魔と戦っている筈の友人の声を確かに聞いたような気がした。
「動きが鈍っているです……? これなら、わたしにも狙えるですー!」
エリアス・トートセシャ(ka0748)も敵の動きが鈍っているのを良いことに、しっかりと狙いを定めアルファスと同じ部位――その鈍く光る鋼鉄の義手に照準を合わせて弾丸を放った。
しかし、アルファスの想いを繋げた一発も、エリアスの弾丸もアイゼンハンダーに届くことは無かった。
『愚物共奴! 来ると解っていてみすみす許すものかよ!』
アルファスとアリアスは何者かの声を聞いた。同時に、アイゼンハンダーの義手が、比喩では無く別の生き物のように動き飛来する弾丸を掴みとったのだ。
「そんな……!?」
「あ、ありえないですー!」
驚愕に目を見開く二人の前で、ハンダーはゆっくりと義手を支点にその身を起こす。
「まだです!」
ユーリが叫ぶ。他の二人と違い相手の脚を狙ったユーリの弾丸が、あっさりとハンダーの脚を射抜く。
――どうしても、と言う時はこれらだけは守れ
――無事の帰還を祈るよ、こんな所で躓く訳にはいかんだろう?
――真実を見抜く目と掴み砕く爪の力の一端を示したまえ……シリアスすると疲れるね!
『ええい! またか!』
『声』が忌々しげに叫んだ。
死体故に血は流れない。が、アイゼンハンダーはようやく起こしかけていた体勢を再び崩すことになった。
「何だか知らねえが、義手よりは生身を狙った方が効くみてェだな!」
次いで、シガレット=ウナギパイ(ka2884)がミラージュグレイブを突出し、アイゼンハンダーの足に攻撃を加えて行く。
(初撃はしくじっちたまったからな……すまねえ、二人とも、この埋め合わせはこいつをブッ殺すことでするゼ)
シガレットも、最初の攻撃を義手の関節部に行って弾かれていた。友人二人の力を感じながら繰り出した攻撃があっさり無効化されたことで一旦は萎えた戦意が再び高揚しているのだ。
「ワルプルギス錬魔院で人体実験されたクチかァ? ダセェデザインな上に、欠陥品じゃねェか!」
ようやく起き上がった敵から一旦飛び下がるシガレット。
「ハッ、革命軍万歳!皇帝陛下万歳!ってなァ?」
シガレットが相手を挑発したので、アルファスも畳み掛けるように口を開く。
「ここは通さない。CAMは僕の子供だからね……僕は革命軍の科学者。あれを生み出した一人だ。僕の頭脳があれば幾らでも作れるけど、子供を守るのは親の努め。それとも親ごと殺すかい?」
しかし、相手は相変わらず無反応だった。
「……やはり、ね。敵と語る舌は持たないという事かな? いずれにしろ……」
眉を顰めるアルファス。何かがズレているような感覚が急速に膨らんで行く。
しかし、今は目の前の脅威を取り除くのが先決だ。
「行くのじゃ、アーサーどん!」
アーサーの治療を終えたカナタが叫ぶ。
「ああ。足を狙えば良いんだな!」
アーサーが投げた手裏剣が、容赦なくアイゼンハンダーの足に突き刺さり、カナタの銃弾がその足を止めさせる。
と、ここでアイゼンハンダーがゆっくりとその義手を振り上げた。表面の歯車が軋むように回り、重々しい駆動音が空気を震わせる。
「皆、避けて!」
エルデ・ディアマント(ka0263)が叫び、ハンターたちは一斉に距離を取る。
直後、歪な体勢のままアイゼンハンダーはその拳を大地に叩きつけた。
凄まじい爆発と負のマテリアルの奔流が、ハンダーに浴びせかけられていた弾丸の雨を纏めて吹き飛ばす。
「く……!」
アルファスは咄嗟に盾を構えて背後に跳び、何とか爆風の威力を殺ぐ。それだけではなく、アルファスが友人から送られた腕輪も不思議な光を放って彼を守った。
直後、アルファスは起き上がって叫ぶ。
「気をつけて!」
アルファスは、敵の追撃を警戒したのだ。
しかし、追撃は来なかった。
炸薬によるパンチを放ったアイゼンハンダーは、拳を地面に叩きつけたまま、まるで反動に耐えるようにガクガクと震えていた。
実際、全身の改造されたと思しき箇所には黒い電流が弾け、明らかに衝撃で機能に支障を来していた。
『脆いっ!』
再び何者かの声が毒づく。今度のそれはハンターたちにもはっきりと聞こえていた。
「なるほど……良く、解った」
ここで、シルヴェイラがわざとらしいくらいの嘲笑を滲ませながら口を開いた。
彼とて、ここまでで相手に挑発が、効果が無さそうなのは認識していたが、可能性は全て試したかったのだ。
「この『実験』は、失敗だな。はっ……随分とお粗末な兵器じゃないか。製作者はどんな間抜けだ?」
考えてみれば、この戦いは不自然なことが多かった。
直接目標を狙わず、わざわざ自分を狙わせる長距離砲。
そして、時折その片鱗を覗かせるとはいえ、かの『災厄の十三魔』にしては余りにお粗末な『アイゼンハンダー』。
そういった要素から、シルヴェイラはこれが実験と推理したのだろう。
いずれにしろ、シルヴェイラのこの当て推量は、敵に意外な効果を及ぼした。
『グフ、グフフフフ』
最早、はっきりと全てのハンターに聞こえるようになった声が笑う。
『認めよう! やはり弱卒はどうあがいても弱卒! 儂とアレのみが異常なのだ。試みは、水泡に帰した……ならば、ガラクタは処分せねばな!』
次の瞬間、アイゼンハンダーは跳んだ。
その折れかけた脚が崩壊するのも構わず、義手を振り被ってハンターたちに仕掛けて来たのだ。
先刻、改めて炸薬によるパンチの威力を見せ付けられたばかりのハンターたちは咄嗟に退避しようとする。
ティーアもその一人であった。
しかし、彼の脳裏に一瞬、ここにはいない友人の声が響く。
――ティーア様も現地入りしてるらしいですけど無事でしょうかねぇ
その声で冷静さを取り戻したティーアは理解し、叫んだ。
「……違う、パンチじゃない! 砲撃だ! 皆備えろっ!」
炸薬によるパンチは連発出来ない。一方、砲撃は最後の一発が放たれてから大分時間が経っている。
この、ティーアの警告に真っ先にマッシュが反応した。
「……結局、此方の言葉は最後まで届きませんでしたか。まあ、良いでしょう。私としても歪虚の手先と交わす舌は持ちません」
マッシュは衝撃に備えて盾を構えつつ、姿勢を低くして思いっ切り力を込めて踏み込んだ。
「ただ、その服だけは脱ぎ捨てて頂けませんか!」
怒りに任せて黒い刀身を、柄まで通れと朽ちた少女の身体に突き刺すマッシュ。
だが、アイゼンハンダーも捨て身という意味では変わらない。動く死体故の頑健さか、アイゼンハンダーは『生身』の方の青白い腕で、マッシュの頭を掴むとそのまま前進する。
このまま一人でも多くの敵を砲撃に巻き込もうという魂胆だろう。
「残念! そうはさせないよっ!」
マッシュを抱え込んだままのアイゼンハンダーが唐突に動きを止めた。エルデの放った電撃が、アイゼンハンダーの体を射抜いたのだ。
「間に合って!」
アルファスは、マッシュの退避が間に合わないと判断して、咄嗟にマッシュの前面にマテリアルの障壁を作り出す。その瞬間、既に放たれていた敵の砲撃がアイゼンハンダーに命中し、大爆発が森を揺るがす。
恐らく、アイゼンハンダーがエルデの攻撃で突然動きを止められたことで、砲撃の照準に狂いが生じたのだろう。今度はマッシュ以外の味方は巻き込まれなかった。
「呪縛はこれまでだ! ユーリ、行くよ!」
アルファスが叫ぶ。
「私とアルの乾坤一擲の一撃、その身に刻みなさいっ」
マッシュを守っていた障壁が砕け散る音と同時に、ハンターたちは暗く輝く敵のバリアに向かって総攻撃を仕掛けた。
●
攻撃が止んだ後、傷だらけのアイゼンハンダーは両膝をついて座り込み、義手だけを高々と差し上げている。しかし、やがて最後の糸が切れたようにがしゃり、とその義手を地面に落下させる。
直後、その顔を覆っていた仮面が落下する。
幾人かは思わずその顔を覗きこもうとするが、その前にアイゼンハンダーは顔の部分から黒い霧のようなものに変じてしまう。そして、その上半身が崩れ落ちるより先に全身は黒い霧となって風に吹き散らされていく。
後には、太陽を反射して輝く義手のみが残された。
「あっけねェな……」
シガレットが呟く。いや、口にこそ出さないものの誰しも思いは同じだろう。これが、あの十三魔の一体の最後なのか、と。
「そうだ! 義手を持って帰って調べて貰えば、何か解るかもしれないですー」
エリアスがぽん、と手を打って叫び、地面に空しく転がる義手に駆け寄ろうとする。
だが、そのエリアスの手をカナタがぐっと掴んだ。
「カ、カナタさんー……?」
エリアスは首を傾げるが、次の瞬間気付いた。
自分の手を握るカナタの手が小刻みに震えている事に。
「ありゃなんだ?!」
アーサーが叫んだ。エリアスもはっとなって義手の方を振り向く。
エリアスは一度友人のマテリアルによる加護を受けている。もし、カナタが止めていなかったら、敵の攻撃で、浅くない傷を受けていたかもしれない。
そして、それを見た瞬間、誰もが理解した。
戦闘中、度々聞こえて来た声の正体を。
何故、あれほど『本体』が脆弱でありながら、緒戦の猛攻で義手に傷一つつけることが出来なかったのかを。
おぼろげな人型を取るソレは、黒とも紫ともつかぬ瘴気で構成され、地面から半ば浮き上がった義手に纏わりつき、顔面に当たる部分には髑髏のようなものが見える。
何より、その全身から発せられる負のマテリアルは余りに強大であった。
その髑髏が嘲笑するかのような表情を浮かべたかと思うと、義手は凄まじい速度で上空へと飛び上がり、あっという間に見えなくなった。
●
「オレーシャ……? ねえ、嘘だよね? 返事をしてよ……」
他の負傷兵に混じって、担架に寝かされているオレーシャを見てエルデは呆然と呟いた。
「ちょっと前振りなのに……ねえ、CAM身近に見たんだよね。乗った? 動かした? どうだったの?」
思わずその血塗れの顔を揺らそうとするエルデをエリアスが必死に制する。
「動かさないでくださいですー! まずは血を止めないと……! それから消毒するものを持って来てくださいー! 早くですー!」
以下は、兵士たちの証言である。
オレーシャ兵長は、ハンターたちの……ティーアやカナタの依頼を受け、他の覚醒者兵士二名と共に、砲撃手の捜索に向かった。
そして、数十分後ようやく別の場所から援軍に駆けつけた兵士たちが、腹部に大穴を開けられて血の海の中に倒れているオレーシャを発見したのである。
「カナタの……カナタのせいなのか? カナタが、砲撃手を捜索するようオレーシャどんに頼んだから……」
「違う、俺のせいだ……」
ティーアも呆然と呟いた。
最初に、カナタが頼んだ時はオレーシャはそんな余裕は無い、と首を縦に振らなかったのである。それは、次にティーアが頼んだ時は状況が違った。
――暴食の歪虚、不死の怪物が相手みたいだし、手伝ってあげるわ。しっかり、正体を突き止めてちょうだい
ティーアの説得と共に、こんな言葉がオレーシャの耳に聞こえた。
まるで、二人分の熱意が込められたかのようなティーアの熱心な説得に、オレーシャもしぶしぶ承知したのである。
「違う……俺たちのせいです! 兵長はアレに遭遇した瞬間、『逃げろ』と……!」
「兵長は、自らの意志で判断し、そして自らの意志で敵と戦ったに過ぎない。無意味な責任転嫁など望んではいない」
人々の視線がその声の主に集中する。
それは、帝国軍第一師団副長ヴィタリー・エイゼンシュテイン(kz0058)であった。
「状況を簡潔に説明する。今回の十三魔らによる襲撃は全て陽動だ。実験場のCAMが複数、歪虚によって奪われた」
騒然となるハンターたち。
「既に、我が帝国を含め各国は奪還作戦の準備に入っている。追って、ハンターたちにも再度の協力要請が正式に通達されるだろう」
エイゼンシュテインの言葉に、ハンターたちは理解した。
まだ、何も終わっていないのだ。例え、この戦いでアイゼンハンダーが倒されたのだとしても、まだ自分たちにはやるべきことがあるのだ。
エイゼンシュテインは手早く残った部下に事後の処理について指示を出すと、最後に一度だけオレーシャの方を見て踵を返す。
「副長……あの少女は……革命戦争の……あの掃討作戦で、我々が……」
その時、オレーシャが苦しい息の下から口を開いた。
「喋っては駄目ですー!」
エリアスが叫ぶ。
「……許せないよ」
じっと。オレーシャの手を握っていたエルデが呟く。
「必ず……取り返すからね」
「もう大丈夫でしょう。ここまで引き離せば、兵士たちは安全な筈です」
ハンターたちは、周辺の地形を把握していたシルヴェイラ(ka0726)の指示の元、アイゼンハンダーを負傷した兵士たちから引き離すことに成功していた。
「ようしこれで、思いっ切り戦えるってもんだぜ」
アーサー・ホーガン(ka0471)は、改めて敵に向き直ると不敵に笑った。
「何かしら仕掛けてくるだろうとは思ったが、随分と大物が出てきたもんだな。強ぇ敵は大歓迎だが、生憎と取り込み中なんでな」
アーサーがそう述べた直後、アイゼンハンダーが跳躍し、その義手で猛然とアーサーに殴りかかって来た。
「……さっさとお引き取り願いたいところだが、折角の機会だ、その実力、ちょいと味見させてもらうぜ!」
しかし、アーサーも怯む事無く斧を打ち振るい、その打撃を逸らさんと試みた。
鉄と鉄のぶつかり合う重い音が響き、イゼンハンダーは義手を弾かれ僅かに体勢を崩す。
後衛のハンターたちがそこに一斉射撃を浴びせる。
更に、その隙を逃さずマッシュ・アクラシス(ka0771)がサーベルを構え義手を狙う。
「帝国軍服……趣味の悪い者がいるようですね。人類の守護者を掲げた装いの者が歪虚の手先などとは、冗談が過ぎます。その喧嘩、買いましょうか」
マッシュが狙ったのは、構造的に脆いと思われる義手の内側であった。しかし、サーベルはその強固な装甲に弾かれ、甲高い音を立てる。
「やはり、義手は駄目か……? なら!」
マッシュの攻撃が弾かれたのを確認したティーア・ズィルバーン(ka0122)はクラッベを構えると胴体に打ち込んだ。
ティーアは戦闘の初期、クラッベの形状を利用して、敵の義手を挟み込みそのまま捩じ切ろうとしていた。
だが、その試みは強靭な装甲に阻まれて失敗していた。そこで、彼は他の仲間の意識が薄れている胴体を狙ったのだ。
「せっかくCAMが使えるようになるかってところで邪魔しやがって!」
手応えは、あった。敵はぐらりとよろめく。
しかし、その直後、本体がよろめいているにもかかわらず、鋼鉄の義手がまるで自動操縦でもされているかのように動いてティーアの頭を掴む。
直後、彼方から飛来した砲弾がアイゼンハンダーに着弾し、大爆発を引き起こす。
この時、爆風の範囲内に居たのはティーア、マッシュ、アーサーの三名だ。その内、ティーアとマッシュは、砲弾が着弾してから爆風が自分たちに襲い掛かるまでの一瞬の間に、自分のものではないマテリアルが、自分たちを包み込むのを感じていた。
――あの、最低男、怪我なんかしてないかしら?
――ソイツの腕、持ち帰って来いよ
結果、爆風をまともに受けて地面に叩きつけられたアーサーに対し、ティーアとマッシュは何とか踏みとどまる。
『面妖な』
その、ティーアとマッシュの耳に何者かの声が微かに響く。地の底から響くような底知れぬ邪悪さを孕んだ声が。
『先程から、この場に居る者共以上のマテリアルが戦場に介入して来おるのを感じるわ』
「今なのじゃ……!」
一方、カナタ・ハテナ(ka2130)は、立ちこめる黒煙の向こう、敵の全身を追おう結界に向けてアサルトライフルを構えた。
――カナタ殿は大切な方、いっけぇー!
直後、友人のマテリアルが、カナタの発射する弾丸に力を付与する。
威力を増した弾丸が未だにバリアを展開する的に殺到した。既に爆風による衝撃は収まっていたが、弾丸はバリアに着弾し周囲の大気が歪む。
カナタが攻撃を終えると、バリアはゆっくりと揺らいで消える。その様を固唾を飲んで見守るハンターたち。
だが、アイゼンハンダーはまるで力を吸い取られたかのようにぐらりとよろめく。危ない所で義手がその体を支えた。
「軍人を死機に……同じ軍人として英霊の魂を愚弄するなんて、絶対に……!」
アルファス(ka3312)はそう険しい表情で呟くと、銃を構えてユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)を見た。
「鉄の腕(アイゼンハンダー)ですか……歪虚にしてはやけに洒落た名前をつけますね」
そう呟いてから、ユーリはアルファスに頷いて見せた。
「アルファス……あなたが私の鞘ならば、私は刃です。不撓不屈の刃、不壊の剣……帰りを待つ仲間達の為に、勝って生きて帰りましょう!」
その直後、まずユーリが、続いてエリアスも各々の武器で敵に集中砲火を浴びせた。
――君の武運を祈っている。共に十三魔に打ち勝つんだ
発射の瞬間、アルファスは離れた場所で別の十三魔と戦っている筈の友人の声を確かに聞いたような気がした。
「動きが鈍っているです……? これなら、わたしにも狙えるですー!」
エリアス・トートセシャ(ka0748)も敵の動きが鈍っているのを良いことに、しっかりと狙いを定めアルファスと同じ部位――その鈍く光る鋼鉄の義手に照準を合わせて弾丸を放った。
しかし、アルファスの想いを繋げた一発も、エリアスの弾丸もアイゼンハンダーに届くことは無かった。
『愚物共奴! 来ると解っていてみすみす許すものかよ!』
アルファスとアリアスは何者かの声を聞いた。同時に、アイゼンハンダーの義手が、比喩では無く別の生き物のように動き飛来する弾丸を掴みとったのだ。
「そんな……!?」
「あ、ありえないですー!」
驚愕に目を見開く二人の前で、ハンダーはゆっくりと義手を支点にその身を起こす。
「まだです!」
ユーリが叫ぶ。他の二人と違い相手の脚を狙ったユーリの弾丸が、あっさりとハンダーの脚を射抜く。
――どうしても、と言う時はこれらだけは守れ
――無事の帰還を祈るよ、こんな所で躓く訳にはいかんだろう?
――真実を見抜く目と掴み砕く爪の力の一端を示したまえ……シリアスすると疲れるね!
『ええい! またか!』
『声』が忌々しげに叫んだ。
死体故に血は流れない。が、アイゼンハンダーはようやく起こしかけていた体勢を再び崩すことになった。
「何だか知らねえが、義手よりは生身を狙った方が効くみてェだな!」
次いで、シガレット=ウナギパイ(ka2884)がミラージュグレイブを突出し、アイゼンハンダーの足に攻撃を加えて行く。
(初撃はしくじっちたまったからな……すまねえ、二人とも、この埋め合わせはこいつをブッ殺すことでするゼ)
シガレットも、最初の攻撃を義手の関節部に行って弾かれていた。友人二人の力を感じながら繰り出した攻撃があっさり無効化されたことで一旦は萎えた戦意が再び高揚しているのだ。
「ワルプルギス錬魔院で人体実験されたクチかァ? ダセェデザインな上に、欠陥品じゃねェか!」
ようやく起き上がった敵から一旦飛び下がるシガレット。
「ハッ、革命軍万歳!皇帝陛下万歳!ってなァ?」
シガレットが相手を挑発したので、アルファスも畳み掛けるように口を開く。
「ここは通さない。CAMは僕の子供だからね……僕は革命軍の科学者。あれを生み出した一人だ。僕の頭脳があれば幾らでも作れるけど、子供を守るのは親の努め。それとも親ごと殺すかい?」
しかし、相手は相変わらず無反応だった。
「……やはり、ね。敵と語る舌は持たないという事かな? いずれにしろ……」
眉を顰めるアルファス。何かがズレているような感覚が急速に膨らんで行く。
しかし、今は目の前の脅威を取り除くのが先決だ。
「行くのじゃ、アーサーどん!」
アーサーの治療を終えたカナタが叫ぶ。
「ああ。足を狙えば良いんだな!」
アーサーが投げた手裏剣が、容赦なくアイゼンハンダーの足に突き刺さり、カナタの銃弾がその足を止めさせる。
と、ここでアイゼンハンダーがゆっくりとその義手を振り上げた。表面の歯車が軋むように回り、重々しい駆動音が空気を震わせる。
「皆、避けて!」
エルデ・ディアマント(ka0263)が叫び、ハンターたちは一斉に距離を取る。
直後、歪な体勢のままアイゼンハンダーはその拳を大地に叩きつけた。
凄まじい爆発と負のマテリアルの奔流が、ハンダーに浴びせかけられていた弾丸の雨を纏めて吹き飛ばす。
「く……!」
アルファスは咄嗟に盾を構えて背後に跳び、何とか爆風の威力を殺ぐ。それだけではなく、アルファスが友人から送られた腕輪も不思議な光を放って彼を守った。
直後、アルファスは起き上がって叫ぶ。
「気をつけて!」
アルファスは、敵の追撃を警戒したのだ。
しかし、追撃は来なかった。
炸薬によるパンチを放ったアイゼンハンダーは、拳を地面に叩きつけたまま、まるで反動に耐えるようにガクガクと震えていた。
実際、全身の改造されたと思しき箇所には黒い電流が弾け、明らかに衝撃で機能に支障を来していた。
『脆いっ!』
再び何者かの声が毒づく。今度のそれはハンターたちにもはっきりと聞こえていた。
「なるほど……良く、解った」
ここで、シルヴェイラがわざとらしいくらいの嘲笑を滲ませながら口を開いた。
彼とて、ここまでで相手に挑発が、効果が無さそうなのは認識していたが、可能性は全て試したかったのだ。
「この『実験』は、失敗だな。はっ……随分とお粗末な兵器じゃないか。製作者はどんな間抜けだ?」
考えてみれば、この戦いは不自然なことが多かった。
直接目標を狙わず、わざわざ自分を狙わせる長距離砲。
そして、時折その片鱗を覗かせるとはいえ、かの『災厄の十三魔』にしては余りにお粗末な『アイゼンハンダー』。
そういった要素から、シルヴェイラはこれが実験と推理したのだろう。
いずれにしろ、シルヴェイラのこの当て推量は、敵に意外な効果を及ぼした。
『グフ、グフフフフ』
最早、はっきりと全てのハンターに聞こえるようになった声が笑う。
『認めよう! やはり弱卒はどうあがいても弱卒! 儂とアレのみが異常なのだ。試みは、水泡に帰した……ならば、ガラクタは処分せねばな!』
次の瞬間、アイゼンハンダーは跳んだ。
その折れかけた脚が崩壊するのも構わず、義手を振り被ってハンターたちに仕掛けて来たのだ。
先刻、改めて炸薬によるパンチの威力を見せ付けられたばかりのハンターたちは咄嗟に退避しようとする。
ティーアもその一人であった。
しかし、彼の脳裏に一瞬、ここにはいない友人の声が響く。
――ティーア様も現地入りしてるらしいですけど無事でしょうかねぇ
その声で冷静さを取り戻したティーアは理解し、叫んだ。
「……違う、パンチじゃない! 砲撃だ! 皆備えろっ!」
炸薬によるパンチは連発出来ない。一方、砲撃は最後の一発が放たれてから大分時間が経っている。
この、ティーアの警告に真っ先にマッシュが反応した。
「……結局、此方の言葉は最後まで届きませんでしたか。まあ、良いでしょう。私としても歪虚の手先と交わす舌は持ちません」
マッシュは衝撃に備えて盾を構えつつ、姿勢を低くして思いっ切り力を込めて踏み込んだ。
「ただ、その服だけは脱ぎ捨てて頂けませんか!」
怒りに任せて黒い刀身を、柄まで通れと朽ちた少女の身体に突き刺すマッシュ。
だが、アイゼンハンダーも捨て身という意味では変わらない。動く死体故の頑健さか、アイゼンハンダーは『生身』の方の青白い腕で、マッシュの頭を掴むとそのまま前進する。
このまま一人でも多くの敵を砲撃に巻き込もうという魂胆だろう。
「残念! そうはさせないよっ!」
マッシュを抱え込んだままのアイゼンハンダーが唐突に動きを止めた。エルデの放った電撃が、アイゼンハンダーの体を射抜いたのだ。
「間に合って!」
アルファスは、マッシュの退避が間に合わないと判断して、咄嗟にマッシュの前面にマテリアルの障壁を作り出す。その瞬間、既に放たれていた敵の砲撃がアイゼンハンダーに命中し、大爆発が森を揺るがす。
恐らく、アイゼンハンダーがエルデの攻撃で突然動きを止められたことで、砲撃の照準に狂いが生じたのだろう。今度はマッシュ以外の味方は巻き込まれなかった。
「呪縛はこれまでだ! ユーリ、行くよ!」
アルファスが叫ぶ。
「私とアルの乾坤一擲の一撃、その身に刻みなさいっ」
マッシュを守っていた障壁が砕け散る音と同時に、ハンターたちは暗く輝く敵のバリアに向かって総攻撃を仕掛けた。
●
攻撃が止んだ後、傷だらけのアイゼンハンダーは両膝をついて座り込み、義手だけを高々と差し上げている。しかし、やがて最後の糸が切れたようにがしゃり、とその義手を地面に落下させる。
直後、その顔を覆っていた仮面が落下する。
幾人かは思わずその顔を覗きこもうとするが、その前にアイゼンハンダーは顔の部分から黒い霧のようなものに変じてしまう。そして、その上半身が崩れ落ちるより先に全身は黒い霧となって風に吹き散らされていく。
後には、太陽を反射して輝く義手のみが残された。
「あっけねェな……」
シガレットが呟く。いや、口にこそ出さないものの誰しも思いは同じだろう。これが、あの十三魔の一体の最後なのか、と。
「そうだ! 義手を持って帰って調べて貰えば、何か解るかもしれないですー」
エリアスがぽん、と手を打って叫び、地面に空しく転がる義手に駆け寄ろうとする。
だが、そのエリアスの手をカナタがぐっと掴んだ。
「カ、カナタさんー……?」
エリアスは首を傾げるが、次の瞬間気付いた。
自分の手を握るカナタの手が小刻みに震えている事に。
「ありゃなんだ?!」
アーサーが叫んだ。エリアスもはっとなって義手の方を振り向く。
エリアスは一度友人のマテリアルによる加護を受けている。もし、カナタが止めていなかったら、敵の攻撃で、浅くない傷を受けていたかもしれない。
そして、それを見た瞬間、誰もが理解した。
戦闘中、度々聞こえて来た声の正体を。
何故、あれほど『本体』が脆弱でありながら、緒戦の猛攻で義手に傷一つつけることが出来なかったのかを。
おぼろげな人型を取るソレは、黒とも紫ともつかぬ瘴気で構成され、地面から半ば浮き上がった義手に纏わりつき、顔面に当たる部分には髑髏のようなものが見える。
何より、その全身から発せられる負のマテリアルは余りに強大であった。
その髑髏が嘲笑するかのような表情を浮かべたかと思うと、義手は凄まじい速度で上空へと飛び上がり、あっという間に見えなくなった。
●
「オレーシャ……? ねえ、嘘だよね? 返事をしてよ……」
他の負傷兵に混じって、担架に寝かされているオレーシャを見てエルデは呆然と呟いた。
「ちょっと前振りなのに……ねえ、CAM身近に見たんだよね。乗った? 動かした? どうだったの?」
思わずその血塗れの顔を揺らそうとするエルデをエリアスが必死に制する。
「動かさないでくださいですー! まずは血を止めないと……! それから消毒するものを持って来てくださいー! 早くですー!」
以下は、兵士たちの証言である。
オレーシャ兵長は、ハンターたちの……ティーアやカナタの依頼を受け、他の覚醒者兵士二名と共に、砲撃手の捜索に向かった。
そして、数十分後ようやく別の場所から援軍に駆けつけた兵士たちが、腹部に大穴を開けられて血の海の中に倒れているオレーシャを発見したのである。
「カナタの……カナタのせいなのか? カナタが、砲撃手を捜索するようオレーシャどんに頼んだから……」
「違う、俺のせいだ……」
ティーアも呆然と呟いた。
最初に、カナタが頼んだ時はオレーシャはそんな余裕は無い、と首を縦に振らなかったのである。それは、次にティーアが頼んだ時は状況が違った。
――暴食の歪虚、不死の怪物が相手みたいだし、手伝ってあげるわ。しっかり、正体を突き止めてちょうだい
ティーアの説得と共に、こんな言葉がオレーシャの耳に聞こえた。
まるで、二人分の熱意が込められたかのようなティーアの熱心な説得に、オレーシャもしぶしぶ承知したのである。
「違う……俺たちのせいです! 兵長はアレに遭遇した瞬間、『逃げろ』と……!」
「兵長は、自らの意志で判断し、そして自らの意志で敵と戦ったに過ぎない。無意味な責任転嫁など望んではいない」
人々の視線がその声の主に集中する。
それは、帝国軍第一師団副長ヴィタリー・エイゼンシュテイン(kz0058)であった。
「状況を簡潔に説明する。今回の十三魔らによる襲撃は全て陽動だ。実験場のCAMが複数、歪虚によって奪われた」
騒然となるハンターたち。
「既に、我が帝国を含め各国は奪還作戦の準備に入っている。追って、ハンターたちにも再度の協力要請が正式に通達されるだろう」
エイゼンシュテインの言葉に、ハンターたちは理解した。
まだ、何も終わっていないのだ。例え、この戦いでアイゼンハンダーが倒されたのだとしても、まだ自分たちにはやるべきことがあるのだ。
エイゼンシュテインは手早く残った部下に事後の処理について指示を出すと、最後に一度だけオレーシャの方を見て踵を返す。
「副長……あの少女は……革命戦争の……あの掃討作戦で、我々が……」
その時、オレーシャが苦しい息の下から口を開いた。
「喋っては駄目ですー!」
エリアスが叫ぶ。
「……許せないよ」
じっと。オレーシャの手を握っていたエルデが呟く。
「必ず……取り返すからね」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
- フィーネル・アナステシス(ka0009) → ティーア・ズィルバーン(ka0122)
- ティーナ・ウェンライト(ka0165) → アルファス(ka3312)
- ミカ・コバライネン(ka0340) → マッシュ・アクラシス(ka0771)
- ジング(ka0342) → シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- ケイト・グラス(ka0431) → シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- ロイ・J・ラコリエス(ka0620) → エリアス・トートセシャ(ka0748)
- レイス(ka1541) → ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
- 久延毘 大二郎(ka1771) → アルファス(ka3312)
- シェリア・プラティーン(ka1801) → ティーア・ズィルバーン(ka0122)
- エアルドフリス(ka1856) → ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
- オキクルミ(ka1947) → ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
- マリーシュカ(ka2336) → ティーア・ズィルバーン(ka0122)
- クローソー・マギカ(ka3295) → アルファス(ka3312)
- 屋外(ka3530) → カナタ・ハテナ(ka2130)
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/31 08:19:03 |
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緊急作戦会議 ティーア・ズィルバーン(ka0122) 人間(リアルブルー)|22才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/01 02:20:50 |