ゲスト
(ka0000)
【HW】新生眷属はおいらのご主人
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/11/04 22:00
- 完成日
- 2018/11/16 00:51
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●転移
「いい加減、家賃払って下さいな。でないと出てってもらう事になりますよ」
玄関先で大家さんが家賃の催促中。いよいよ、首が回らなくなったのかもしれない。
おいらの名前はぽち。スーパー猫又だけど、ご主人のせいで割とひどい目に遭っている。
そしてこの家の家主でありご主人は今、大家の声を無視して狸寝入り中。
多分聞こえてはいるんだと思うのだけど、ないものはない訳で出ても無駄だと思っているらしい。
(確か昨日もお酒飲んでた気がするにゃ)
入ったお金は大体お酒に消えている。凄腕なのに、もっとお仕事やればそれなりに儲かるのに。それをしないのはただご主人がぐうたら好きなだけ。そんな時だった。転がった酒瓶からひゅっと風が吹いて、次の瞬間物凄い勢いでおいらとご主人を呑み込んでゆく。
それはつむじ風のようなものだったけど、次目覚めた先でおいらはビックリ。
身体が、人のモノになっていた。耳と尻尾は健在だけれど、おいらは人間の姿をしていて、そして。
「おい、あっちに八番目の眷属が確認されたってよ」
「まじかよっ、んなの聞いてないって!」
そこはまさに戦場。おいらのいた世界とは少し何かが違うけど、やっぱりここでも戦いは日常らしい。
よく判らないままにおいらはその方向に目をやる。するとそこには…。
「ご主人っ!」
継ぎ接ぎだらけの着流しの着物に寝癖交じりの髪。
仏頂面で眠そうな眼のその男は間違いなく、ご主人で何が起きたのか判らずおいらは戸惑う。
「んぁ? 何だってーんだ、一体。こんな場所、俺は知らんぞ」
ぼりぼりと背を掻きながらも囲まれた事を知って、面倒げに転がっていた大振りの剣を構える。
「新生の眷属めっ。我々が一刀のもとに」
「馬鹿いえ、死ぬのは御免だ」
威勢よく言い放つ戦士達にご主人はそう言うと、向こうが動くのを待ってそのまま衝突する。
が、力の差は圧倒的だった。この世界の住人が弱いのかただ単に対峙した奴が弱すぎたのかは判らない。けれど、あっさりとご主人の手にかかり、囲んでいた戦士達はばらばらと倒れてゆく。
「ダメにゃ、ご主人。悪い事はダメにゃ」
おいらが叫ぶ。しかし、この姿ではおいらをおいらだと認識できなかったようだ。
「? ぽちの声が聞こえた気がしたが…気のせいか」
敵意を見せる相手がいなくなったことを確認して、ご主人は何となく歩き出す。
「そういや、腹減ったな…何か食べものでも探すか」
そう言って街のある方へと進み始める。そんなご主人を追いかけようとしたおいらだったのだが、
「ダメだ、少年。あいつは危険だ」
何処かに隠れていたのか、傷を負いながらおいらを心配する様子の一人の青年がおいらに待ったをかける。
「だけど…」
「いいから、一旦戻ろう」
そう言われるままにおいらはこの世界のオフィスって所に案内されて、現状を把握する。
●悪者
「つ、つまりあの人は世界を壊そうとしている悪者なのにゃ?」
信じられない話であるが、青年の話によればそう言う事らしい。
七眷属と呼ばれる悪い奴がいて、そして二つの世界の住人達が力を合わせてそれらと戦っているのがこの世界。だが、ついさっき七眷属らが新たな眷属を召喚したのだという。
「漆黒の闇の中からあいつは現れた。つまり七眷属の召喚の儀は成功してしまった。だから、残念だけどあれはもう人じゃないよ。だって僕はみたんだ。彼から立ち昇る負のマテリアルを」
ぐっと拳を握って、自分を不安を握りつぶす様に青年が言う。
ご主人が悪者で、この世界を滅ぼす存在。そんなことありえない。ぐうたらなご主人だけど、曲がった事はしない人でだからこそここまで一緒にいたのに、突然そんな事を言われても信じられる筈がない。
「元に、元に戻す事は出来ないのかニャ!」
人じゃなくなったというのなら人に戻せばいい。そして、何としても自分達の世界に戻りたい。
「さぁねぇ…でも、難しいと思うよ。召喚される時に人のモノとも思えない凄い断末魔のような声が聞こえていたから。あの時、彼は人から人ならざる者になったんだと僕は思う。それをなかった事にするなんて、そんな簡単じゃない筈だ」
申し訳なさそうに彼が言う。
「そんな…じゃあ、倒すしかないのかにゃ」
しゅんと耳を伏せておいらが言う。その後は沈黙…青年もどう声を掛けたらいいか判らないらしい。
「ご主人…」
いつもと変わらない様子だったのに、本当に変わってしまったのだろうか。
おいらは判らないまま、途方に暮れる。けれど、世界の方は待ってはくれない。
新たな眷属の出現に、早急な対処を命じ多くのハンターが動き始める。
仕留めれば大スターだ。報奨金もたんまり入るだろうと躍起になる。
またある者は世界の平和の為、彼を葬る事が最善と考え腰を上げる。
「あの眷属は街の方に向かってるらしいぞ。急げ急げ」
「何をしている。急がないと手遅れになるぞっ」
ポチの傍でもそんな声が飛び交う。
ただ、生まれたばかりでもあるし見た目は人間と変わらないのだからまだ街人は知らないだろう。
「すまん、どうやら俺の金はここでは使えないらしいんだが皿洗いでもゴミ出しでも何でもする。だから飯を食わせて貰えないだろうか?」
辿り着いた街の飲食店で着流しの男がお願いする。
「おや、転移者かい。久方振りだけど、まあいいよ。そこに座りな」
店員のおばちゃんはそう言って、彼を快く迎えていたりで…はてさて、この後どうなる?
「いい加減、家賃払って下さいな。でないと出てってもらう事になりますよ」
玄関先で大家さんが家賃の催促中。いよいよ、首が回らなくなったのかもしれない。
おいらの名前はぽち。スーパー猫又だけど、ご主人のせいで割とひどい目に遭っている。
そしてこの家の家主でありご主人は今、大家の声を無視して狸寝入り中。
多分聞こえてはいるんだと思うのだけど、ないものはない訳で出ても無駄だと思っているらしい。
(確か昨日もお酒飲んでた気がするにゃ)
入ったお金は大体お酒に消えている。凄腕なのに、もっとお仕事やればそれなりに儲かるのに。それをしないのはただご主人がぐうたら好きなだけ。そんな時だった。転がった酒瓶からひゅっと風が吹いて、次の瞬間物凄い勢いでおいらとご主人を呑み込んでゆく。
それはつむじ風のようなものだったけど、次目覚めた先でおいらはビックリ。
身体が、人のモノになっていた。耳と尻尾は健在だけれど、おいらは人間の姿をしていて、そして。
「おい、あっちに八番目の眷属が確認されたってよ」
「まじかよっ、んなの聞いてないって!」
そこはまさに戦場。おいらのいた世界とは少し何かが違うけど、やっぱりここでも戦いは日常らしい。
よく判らないままにおいらはその方向に目をやる。するとそこには…。
「ご主人っ!」
継ぎ接ぎだらけの着流しの着物に寝癖交じりの髪。
仏頂面で眠そうな眼のその男は間違いなく、ご主人で何が起きたのか判らずおいらは戸惑う。
「んぁ? 何だってーんだ、一体。こんな場所、俺は知らんぞ」
ぼりぼりと背を掻きながらも囲まれた事を知って、面倒げに転がっていた大振りの剣を構える。
「新生の眷属めっ。我々が一刀のもとに」
「馬鹿いえ、死ぬのは御免だ」
威勢よく言い放つ戦士達にご主人はそう言うと、向こうが動くのを待ってそのまま衝突する。
が、力の差は圧倒的だった。この世界の住人が弱いのかただ単に対峙した奴が弱すぎたのかは判らない。けれど、あっさりとご主人の手にかかり、囲んでいた戦士達はばらばらと倒れてゆく。
「ダメにゃ、ご主人。悪い事はダメにゃ」
おいらが叫ぶ。しかし、この姿ではおいらをおいらだと認識できなかったようだ。
「? ぽちの声が聞こえた気がしたが…気のせいか」
敵意を見せる相手がいなくなったことを確認して、ご主人は何となく歩き出す。
「そういや、腹減ったな…何か食べものでも探すか」
そう言って街のある方へと進み始める。そんなご主人を追いかけようとしたおいらだったのだが、
「ダメだ、少年。あいつは危険だ」
何処かに隠れていたのか、傷を負いながらおいらを心配する様子の一人の青年がおいらに待ったをかける。
「だけど…」
「いいから、一旦戻ろう」
そう言われるままにおいらはこの世界のオフィスって所に案内されて、現状を把握する。
●悪者
「つ、つまりあの人は世界を壊そうとしている悪者なのにゃ?」
信じられない話であるが、青年の話によればそう言う事らしい。
七眷属と呼ばれる悪い奴がいて、そして二つの世界の住人達が力を合わせてそれらと戦っているのがこの世界。だが、ついさっき七眷属らが新たな眷属を召喚したのだという。
「漆黒の闇の中からあいつは現れた。つまり七眷属の召喚の儀は成功してしまった。だから、残念だけどあれはもう人じゃないよ。だって僕はみたんだ。彼から立ち昇る負のマテリアルを」
ぐっと拳を握って、自分を不安を握りつぶす様に青年が言う。
ご主人が悪者で、この世界を滅ぼす存在。そんなことありえない。ぐうたらなご主人だけど、曲がった事はしない人でだからこそここまで一緒にいたのに、突然そんな事を言われても信じられる筈がない。
「元に、元に戻す事は出来ないのかニャ!」
人じゃなくなったというのなら人に戻せばいい。そして、何としても自分達の世界に戻りたい。
「さぁねぇ…でも、難しいと思うよ。召喚される時に人のモノとも思えない凄い断末魔のような声が聞こえていたから。あの時、彼は人から人ならざる者になったんだと僕は思う。それをなかった事にするなんて、そんな簡単じゃない筈だ」
申し訳なさそうに彼が言う。
「そんな…じゃあ、倒すしかないのかにゃ」
しゅんと耳を伏せておいらが言う。その後は沈黙…青年もどう声を掛けたらいいか判らないらしい。
「ご主人…」
いつもと変わらない様子だったのに、本当に変わってしまったのだろうか。
おいらは判らないまま、途方に暮れる。けれど、世界の方は待ってはくれない。
新たな眷属の出現に、早急な対処を命じ多くのハンターが動き始める。
仕留めれば大スターだ。報奨金もたんまり入るだろうと躍起になる。
またある者は世界の平和の為、彼を葬る事が最善と考え腰を上げる。
「あの眷属は街の方に向かってるらしいぞ。急げ急げ」
「何をしている。急がないと手遅れになるぞっ」
ポチの傍でもそんな声が飛び交う。
ただ、生まれたばかりでもあるし見た目は人間と変わらないのだからまだ街人は知らないだろう。
「すまん、どうやら俺の金はここでは使えないらしいんだが皿洗いでもゴミ出しでも何でもする。だから飯を食わせて貰えないだろうか?」
辿り着いた街の飲食店で着流しの男がお願いする。
「おや、転移者かい。久方振りだけど、まあいいよ。そこに座りな」
店員のおばちゃんはそう言って、彼を快く迎えていたりで…はてさて、この後どうなる?
リプレイ本文
●
「ちょ、待て! それは物理的に無理な話だろうがッ!!」
一抹が全力で拒否する。ここはとある宿のとある一室――ぽちの話を聞いて集まったハンター達の彼への対応は様々であるが、結局のところ一致したのはぽちを一抹と会わせる事。だが、その後は個人によって異なる。まずアルマ・A・エインズワース(ka4901)の考えはこうだ。
「僕はお友達になれればそれでいいのです」
歪虚だろうが、異世界人だろうが彼には関係ない。
世界皆友達理論なのか、彼とも友達になりたいらしい。だから真っ先に彼を探しに行っている。
が彼よりも先に飛び出した者も存在する。それはボルディア・コンフラムス(ka0796)…彼女はどちらかと言えばさっさとこの件を終わらせたい派だ。
「馬鹿野郎ッ、こんくらい何だってんだよ! さっさと入っちまえって」
そう言って、一抹を酒瓶に押し込むべく彼に迫る。勿論、その酒瓶は適当に拾って来たものらしく、一向に吸引の風が起こる気配はない。そんな茶番を夢路 まよい(ka1328)は静かに見守る。
(まさか本当にやるとは思ってなかったけど、ものは試しよね)
一抹とポチがここへやって来た時の事を聞いて提案はしたものの、彼女自身は冗談のつもりだった。
しかし、それを間に受け実行に移すのだから天然とは本当に恐ろしい。
「大丈夫にゃ。多分帰りたいと思えば帰れる筈ニャ」
ぽちは真剣にそう言い、一抹を説得する。
「おい、一抹。往生際が悪いぞ! こんなに親身になっているのだ、男なら黙って試されろ!」
そんなぽちの肩を持つのはレイア・アローネ(ka4082)だ。主人の方はどうでもいいが、ぽち自身の気持ちに感化されてぽちに全面的な協力姿勢をとっている。
「馬鹿いえ…こんなもんで帰れる訳ないだろうがっ」
ここに味方はいない。一抹はそう感じ彼は部屋の窓に手をかける。
「ちょっ、まさか!」
「あんなもんに押し付けられてたまるか! 俺の事はもうほっておいてくれっ」
一抹はそう言い残しひらりと窓から身を投げて、
「あー…もう、これだから」
まよいが煩わし気に溜息をつく。
「愚痴っててもしょうがねぇだろ? さっさと追うぜ!!」
そんな彼女にボルディアがそう言葉を投げ放つ。
「わふっ、追いかけっこですー? それなら負けないですよー」
それをどう勘違いしたのかアルマは実に楽しそう。新しいお友達との戯れにやる気を見せる。
「絶対にぽちとアレを元の世界に戻してやるからな。安心してくれ」
レイアは出所不明の自信を見せて、ぽちの手を取り言い切る。
「ありがとにゃ! レイアしゃん」
そのストレートなパッションを受け取ってぽちも固く手を握り返す。
(何の青春ドラマなのかしら…)
まよいはそう思うも口には出さずに皆の後に続くのであった。
●
さて、一抹が宿屋に連行されるまでに一体何があったのか、ここから振り返る事にする。
まず初めに彼を捕らえたのはボルディアだった。新生眷属が現れたという話を聞きつけて、飛び出した先はとある街だ。ぼさぼさ頭でやる気のなさそうな仏頂面…これだけであったら探すのに苦労したかもしれないが、相手は着流し。場所が東方であればまだしも、リゼリオというハンターらの玄関口付近となれば、目立つ事この上ない。
「おい、すまねえがここに見かけない仏頂面の男が来なかったか?」
聞き込みで辿り着いた飲食店に入って彼女が尋ねる。
「ああ、来てるよ。だけど、それがどうかしたのかい?」
店主なのだろう肝っ玉母さんといった風体の女性が料理を運びながらそう返す。
「そいつに会いたい。今どこにいるんだ?」
騒ぎになっても悪いととりあえず素性を隠し問う。すると、彼は意外な所にいたのだが。
「おいおい、この料理髪の毛が入ってんじゃねーか。腹壊したらどうしてくれんだよぉ」
街のゴロツキが料理にいちゃもんをつけ始めて、それに気付いてテーブルに向かったエプロン男がそれらしい。そこで何をするのかと思いきや、男は眷属らしからぬ行動を始める。
「それはアンタがいれたんだろう。ポケットに仕込んでたじゃないか」
「はぁ?」
ごくごく自然に…男はゴロツキを窘める。
「あぁん? なんだ、その言いようはよぉ?」
ゴロツキが男の襟を掴む。だが、あっさりと押し戻されて目をぱちくり。それにはボルディアも同様だ。
(なんだァ…あいつ。本当に敵か?)
そのまま様子を見守るとなんとそのままゴロツキを簡単に言い負かして、店から追い出した後はテーブルの片付けまで。これでは本当にただのおっさんだ。
「いや~助かるよぉ。あいつにはいつも迷惑してたんだよねぇ」
店のおばちゃんの言葉に彼はただ一言。飯の礼だ――と。この店で食事をご馳走になったようだ。
「あ、そうそう。あんたを探して来てる人がいるよ? 知り合いかい?」
そこでおばちゃんはボルディアの事を思い出し二人が対面。二人の間に不思議な空気が流れる。
(おいおい、マジかよ。こいつ、こんなでいいのか?)
眷属とはもっと凄みがあるものだ。だが、この男からはそのプレッシャーを全く感じない。ただ一つ気になるのは僅かに漂う負のマテリアル…隠し切れていないにしては何処か違和感を感じる。
「アンタ、誰だ? 俺は知らんが」
手伝いの為か清潔そうなシャツにジーンズを着た一抹が彼女に尋ねる。
「おまえ、一抹風安…だよな?」
「ああ」
「なら、面貸せ。ちょっと聞きたい事がある」
手にした得物をチラつかせながら彼女が言う。だが、
「嫌だ」
一抹がそれをあっさり拒否して、思わずこけそうになる彼女。
「おまえなぁ~ここは空気を」
「知らんな。それにだ。ついて行ったとして、おまえは俺をどうにかするつもりなんだろう? 闘気が漏れてるぞ」
「なっ…」
一抹の忠告に手を上げそうになったが、ここではまずい。ぐっと堪えて彼女は彼の腕をとる。
「ちょっ、アンタ…」
「わりぃな。こいつは借りてくぜ」
おばちゃんの言葉に彼女はそう返して外に出る。
「アンタも俺を殺しに来たくちか?」
「だとしたらどうする?」
とりあえず連れ出された路地裏で一抹の問いに彼女は質問で返す。
「まあ、そうなるとやるしかない訳だが…一体俺が何をしたってんだ。それを聞いてもいいか?」
この問いは演技か否か。身体を動かす事には自信があるが、こういう心理戦はめっぽう苦手だと彼女は思う。
かくなる上は拳で語るのみ。相手の戦う姿勢から何かを読み取るしかない。
「あぁ、もう四の五の言ってねぇで戦いやがれっ!」
彼女が自慢の魔斧を振り被る。ここは横幅が狭いから縦にしか動かしようがない。
(もらったッ!)
そう思った時だった。
「あーーー、負のマテリアルの男の人見つけたです―――!!」
突如現れたアルマによって彼女の動きが僅かに鈍る。それに一抹は気付いて、近くに転がっていた石を拾うと彼女の手首に弾いて見せて…小石が手首に当たると同時に彼女は大きな魔斧を取り落とす。
「ボルディアさん、このひとは悪くないのですー。そういう訳で僕が連れて行くのです。いいですか? いいですよねっ、それじゃあまたー」
それはつむじ風の如き早さで…ボルディアは本日三度目の呆気にとられるのであった。
●
さらに遡って、時間は依頼の発布された位の頃のやり取り。
「ふむふむ、ぽちはいい子だな。でそのご主人というのはどんな奴だ? 詳しく教えてくれ」
齧り付くように近くに陣取ったレイアが真剣に尋ねる。
「だから、そのスボラで…家賃を滞納してて…お酒好きで」
「あー、成程。それは典型的なダメンズだな」
レイアからのぽろりと本音が零れる。
「ダメンズって一体な…?」
「あぁ、それはいいから。えーと、何だったっけ。確か大家さんに追い出されたのよね。だったら、大家さんの怨念か何かが稼いで来いーって事でこっちに送り込んだんじゃないかしら?」
やんわりとぽちの気を逸らして、まよいは自分の推理をぶつけてみる。
「大家しゃんがそんな…まさか」
「なんだ、完全に否定はできないのか? ならば働かせて金を貯めれば…いや、待て。しかし、そのご主人はのんだくれなのだろう。ということはまた酒代に消えるぞ。となると、これは堂々巡り……私が思うにやはりその男、救わなくてもいいので…」
「ちょっと、レイア! それは言いす」
「あ」
真剣に考えるあまりまたも本音が漏れたレイアにまよいも庇い切れない。はっとしてポチを見るとじわりと涙を浮かべて、耳をぺたんとさせている彼がいる。
「あわわ、すまん。今のは冗談だ! 大丈夫! 助けるからなっ、なっ。そんな顔しないでくれ…」
戦う事には長けているが、こういうのは苦手である。ボルディア同様レイアは困惑する。
「いいのにゃ…だって事実にゃし」
ぽちがしょんぼり顔で言う。
「まあ、とりあえずやってみましょ。酒瓶から始まったのなら酒瓶からよ。似たような酒瓶見つけて戻せないか試してみて、最悪戻れなくても仕事の斡旋とかそう言うのは出来るから」
(ハンターとして登録すればだけど)
心中でそう付け加えて、まずは追われている筈の彼を探す所から。その役目を買って出てくれたのはアルマだ。ぽちの話を聞いてすぐ「お友達を探してくるですっ」と言って出て行ったのか少し前。アルマならば浄化の魔法も持っているから、彼の負のマテリアルを浄化する事も出来るだろうという事だったのだが…。
「やってしまいましたー…一抹さんのそれ、浄化できないのですー」
ガクリと肩を落として、別の路地裏でアルマが一抹に言う。
だが、当の一抹は何かなんだか判らない。殺されかけたり、助けられたり…ついでに自分の名前を知っている者が予想以上に多く、混乱しっぱなしである。
「あー、とりあえずあんたは誰だ? 俺をどこに連れて行くつもりだ?」
危害を加えてくる感じがないので、一抹が静かにそう尋ねる。
「あ、申し遅れましたが、僕はアルマです。ぽちさんから話を聞いて、僕は一抹さんとお友達になりにきたのです♪ そして、その悪いマテリアルを浄化して誤魔化そうと思ったのですが、うっかりスキルを活性化を忘れてきてしまいまして、面目ないのですぅ」
しゅんとした表情で彼が言う。
「おい、今ぽちと言ったか。まさかあいつも来ているのか?」
一人だとばかり思っていた一抹は、彼に尋ねる。
「はいなのですよー。ぽちさんはご主人である貴方を探して助けようとしているんですから―。んで、今からポチさんのいる場所に案内するですっ」
浄化を諦めて、彼はそう言いずんずん歩き出す。
「助けるってどういう事だ?」
「あのですねー。一抹さんは悪者認定されているのです。でも、僕は気にしないです。それに第一印象悪い人には見えない…何か事情があったですよねー?」
歩きながらアルマが言葉する。
(悪者? 俺が?)
彼の話を鵜呑みにするのはどうかと思ったが、名前を知る理由を考えれば信じる他ない。
一抹は訝しみながらも彼についてゆく。が、それからかれこれ数時間。
「えーと、あれがこっちで、こっちがあれだから…」
「おい、大丈夫なのか?」
きょろきょろしている彼に一抹が問う。
「あ、はは…問題ないのですー」
そう言うもくんくん周囲の匂いを嗅いでいるから不安だ。
そんな二人にまさかの噂。世の中何が起こるか判らない。
「きゃー、ちょっとあっちの路地にイケおじと美青年が入って行ったわよー」
「まさか、禁断の恋とかv」
その手の女の子の想像力は凄まじい。
余りにもこそこそうろついている二人を見つけて、訳有りの二人だと思っているらしい。
「おい、二人ともこっちだ」
そこへ遅いのを心配してやって来たレイアとまよいが合流し、ぽちと一抹は再会を果たす。
●
「ご主人~」
ぽちが尻尾を揺らしながら駆け出す。
「誰だ、お前」
だが、一抹からは非情な一言。人間の姿だから無理もないか。
「そ、そんな…ご主人?」
ぽちがそれを聞きあわあわする。だが、一抹はあっさりまたも一言。
「冗談だ…で、俺はどうすればいい?」
彼はぽちとの再会を一瞬で留め、次を促すものだからカチンと来たのはこの人だ。
「おい、一抹とやら! もっと何かあるだろう!!」
剣を抜かんばかりの勢いでレイアが迫る。
「はぁ。この世界は血の気が多い奴が多いな」
だが、一抹は一切それに動じていなかった。
そして、一抹からも話を聞くうちに彼等はある真実に辿りつく。
「信じがたいけど、そう言う事よね…」
一抹が語った事、それは多分本当の事なのだろう。彼は確かにあの戦場に召喚、というか転移してきたが、その時彼自身は例の声を上げていないらしい。だが、確かに断末魔のような声を聞いたと幾人ものハンターが証言していて、一抹も実はそれを聞いたという。それに加えてもう一つ。
「こっちに来た時になんか踏んだな。プチっと音がしていた」
「プチッ…ね」
これは推測に過ぎない。過ぎないが、言えるのはこの男から負のマテリアルが微量しか感じない事とそのプチだ。つまり彼が転移してきた時、たまたま新生眷属が彼の下にいて踏み潰されたのではないだろうか。
「恐ろしいな、おまえ」
事情を知って、いつの間にか同席しているボルディアが呟く。
「ま、いいんじゃない。新生眷属が死んでるなら万々歳よ。新生って言う位だからまだ赤ちゃんで力が弱かったのかも…かこの人が強いのか。その辺はよく判らないけど」
まよいが淹れ立ての紅茶を飲みつつ言う。
「で、後は戻る方法だが?」
「それはそれ。まずは酒瓶からよ」
そんなやり取りがあって冒頭に至る訳だが…さて、あの後どうなったのか。
一抹は無意識にあの転移先――瓦礫の山と化している戦場跡へ向かっていた。今は本当に何もない筈だ。
が、そこにはまだ微かな澱み…。
(おのれ、あの転移者め…私をコケにしよって)
生まれたばかりの命がもう尽きようとしている。だが、一矢報いる為こうやって密かに身を隠し永らえていたらしい。その澱みが彼を呼び寄せる。そんな事と露知らず、一抹は一直線に澱みの方へ。
そして、その真上に踏み込んだ瞬間、澱みが一抹を仕留めにかかりのびる澱みの触手。
「ご主人っ!!」
ぽちがそれを見てボルディアを抜き去り、一抹に手を伸ばす。
『お前らなど帰ってしまえ! この世界には不必要だっ!』
それは澱みの――新生眷属最期の言葉。
二人を包み込むと同時に残っていた力を使い果たしたのか、そのまま塵となり消えていく。
「全く何だったんだ」
ボルディアがぽつりと呟く。
「よく判んないけど、多分あの二人帰れたんじゃないかしら?」
ホッとした様子でこれはまよいだ。
「そうなのですー? 僕のお友達計画は?」
「ぽち…よかったな。達者で暮らせよ~」
そう残念がるアルマと対照的にレイアは消えた宙に手を振って…。
そういう訳で彼らの目的達成。万事、めでたしめでたし?
「ちょ、待て! それは物理的に無理な話だろうがッ!!」
一抹が全力で拒否する。ここはとある宿のとある一室――ぽちの話を聞いて集まったハンター達の彼への対応は様々であるが、結局のところ一致したのはぽちを一抹と会わせる事。だが、その後は個人によって異なる。まずアルマ・A・エインズワース(ka4901)の考えはこうだ。
「僕はお友達になれればそれでいいのです」
歪虚だろうが、異世界人だろうが彼には関係ない。
世界皆友達理論なのか、彼とも友達になりたいらしい。だから真っ先に彼を探しに行っている。
が彼よりも先に飛び出した者も存在する。それはボルディア・コンフラムス(ka0796)…彼女はどちらかと言えばさっさとこの件を終わらせたい派だ。
「馬鹿野郎ッ、こんくらい何だってんだよ! さっさと入っちまえって」
そう言って、一抹を酒瓶に押し込むべく彼に迫る。勿論、その酒瓶は適当に拾って来たものらしく、一向に吸引の風が起こる気配はない。そんな茶番を夢路 まよい(ka1328)は静かに見守る。
(まさか本当にやるとは思ってなかったけど、ものは試しよね)
一抹とポチがここへやって来た時の事を聞いて提案はしたものの、彼女自身は冗談のつもりだった。
しかし、それを間に受け実行に移すのだから天然とは本当に恐ろしい。
「大丈夫にゃ。多分帰りたいと思えば帰れる筈ニャ」
ぽちは真剣にそう言い、一抹を説得する。
「おい、一抹。往生際が悪いぞ! こんなに親身になっているのだ、男なら黙って試されろ!」
そんなぽちの肩を持つのはレイア・アローネ(ka4082)だ。主人の方はどうでもいいが、ぽち自身の気持ちに感化されてぽちに全面的な協力姿勢をとっている。
「馬鹿いえ…こんなもんで帰れる訳ないだろうがっ」
ここに味方はいない。一抹はそう感じ彼は部屋の窓に手をかける。
「ちょっ、まさか!」
「あんなもんに押し付けられてたまるか! 俺の事はもうほっておいてくれっ」
一抹はそう言い残しひらりと窓から身を投げて、
「あー…もう、これだから」
まよいが煩わし気に溜息をつく。
「愚痴っててもしょうがねぇだろ? さっさと追うぜ!!」
そんな彼女にボルディアがそう言葉を投げ放つ。
「わふっ、追いかけっこですー? それなら負けないですよー」
それをどう勘違いしたのかアルマは実に楽しそう。新しいお友達との戯れにやる気を見せる。
「絶対にぽちとアレを元の世界に戻してやるからな。安心してくれ」
レイアは出所不明の自信を見せて、ぽちの手を取り言い切る。
「ありがとにゃ! レイアしゃん」
そのストレートなパッションを受け取ってぽちも固く手を握り返す。
(何の青春ドラマなのかしら…)
まよいはそう思うも口には出さずに皆の後に続くのであった。
●
さて、一抹が宿屋に連行されるまでに一体何があったのか、ここから振り返る事にする。
まず初めに彼を捕らえたのはボルディアだった。新生眷属が現れたという話を聞きつけて、飛び出した先はとある街だ。ぼさぼさ頭でやる気のなさそうな仏頂面…これだけであったら探すのに苦労したかもしれないが、相手は着流し。場所が東方であればまだしも、リゼリオというハンターらの玄関口付近となれば、目立つ事この上ない。
「おい、すまねえがここに見かけない仏頂面の男が来なかったか?」
聞き込みで辿り着いた飲食店に入って彼女が尋ねる。
「ああ、来てるよ。だけど、それがどうかしたのかい?」
店主なのだろう肝っ玉母さんといった風体の女性が料理を運びながらそう返す。
「そいつに会いたい。今どこにいるんだ?」
騒ぎになっても悪いととりあえず素性を隠し問う。すると、彼は意外な所にいたのだが。
「おいおい、この料理髪の毛が入ってんじゃねーか。腹壊したらどうしてくれんだよぉ」
街のゴロツキが料理にいちゃもんをつけ始めて、それに気付いてテーブルに向かったエプロン男がそれらしい。そこで何をするのかと思いきや、男は眷属らしからぬ行動を始める。
「それはアンタがいれたんだろう。ポケットに仕込んでたじゃないか」
「はぁ?」
ごくごく自然に…男はゴロツキを窘める。
「あぁん? なんだ、その言いようはよぉ?」
ゴロツキが男の襟を掴む。だが、あっさりと押し戻されて目をぱちくり。それにはボルディアも同様だ。
(なんだァ…あいつ。本当に敵か?)
そのまま様子を見守るとなんとそのままゴロツキを簡単に言い負かして、店から追い出した後はテーブルの片付けまで。これでは本当にただのおっさんだ。
「いや~助かるよぉ。あいつにはいつも迷惑してたんだよねぇ」
店のおばちゃんの言葉に彼はただ一言。飯の礼だ――と。この店で食事をご馳走になったようだ。
「あ、そうそう。あんたを探して来てる人がいるよ? 知り合いかい?」
そこでおばちゃんはボルディアの事を思い出し二人が対面。二人の間に不思議な空気が流れる。
(おいおい、マジかよ。こいつ、こんなでいいのか?)
眷属とはもっと凄みがあるものだ。だが、この男からはそのプレッシャーを全く感じない。ただ一つ気になるのは僅かに漂う負のマテリアル…隠し切れていないにしては何処か違和感を感じる。
「アンタ、誰だ? 俺は知らんが」
手伝いの為か清潔そうなシャツにジーンズを着た一抹が彼女に尋ねる。
「おまえ、一抹風安…だよな?」
「ああ」
「なら、面貸せ。ちょっと聞きたい事がある」
手にした得物をチラつかせながら彼女が言う。だが、
「嫌だ」
一抹がそれをあっさり拒否して、思わずこけそうになる彼女。
「おまえなぁ~ここは空気を」
「知らんな。それにだ。ついて行ったとして、おまえは俺をどうにかするつもりなんだろう? 闘気が漏れてるぞ」
「なっ…」
一抹の忠告に手を上げそうになったが、ここではまずい。ぐっと堪えて彼女は彼の腕をとる。
「ちょっ、アンタ…」
「わりぃな。こいつは借りてくぜ」
おばちゃんの言葉に彼女はそう返して外に出る。
「アンタも俺を殺しに来たくちか?」
「だとしたらどうする?」
とりあえず連れ出された路地裏で一抹の問いに彼女は質問で返す。
「まあ、そうなるとやるしかない訳だが…一体俺が何をしたってんだ。それを聞いてもいいか?」
この問いは演技か否か。身体を動かす事には自信があるが、こういう心理戦はめっぽう苦手だと彼女は思う。
かくなる上は拳で語るのみ。相手の戦う姿勢から何かを読み取るしかない。
「あぁ、もう四の五の言ってねぇで戦いやがれっ!」
彼女が自慢の魔斧を振り被る。ここは横幅が狭いから縦にしか動かしようがない。
(もらったッ!)
そう思った時だった。
「あーーー、負のマテリアルの男の人見つけたです―――!!」
突如現れたアルマによって彼女の動きが僅かに鈍る。それに一抹は気付いて、近くに転がっていた石を拾うと彼女の手首に弾いて見せて…小石が手首に当たると同時に彼女は大きな魔斧を取り落とす。
「ボルディアさん、このひとは悪くないのですー。そういう訳で僕が連れて行くのです。いいですか? いいですよねっ、それじゃあまたー」
それはつむじ風の如き早さで…ボルディアは本日三度目の呆気にとられるのであった。
●
さらに遡って、時間は依頼の発布された位の頃のやり取り。
「ふむふむ、ぽちはいい子だな。でそのご主人というのはどんな奴だ? 詳しく教えてくれ」
齧り付くように近くに陣取ったレイアが真剣に尋ねる。
「だから、そのスボラで…家賃を滞納してて…お酒好きで」
「あー、成程。それは典型的なダメンズだな」
レイアからのぽろりと本音が零れる。
「ダメンズって一体な…?」
「あぁ、それはいいから。えーと、何だったっけ。確か大家さんに追い出されたのよね。だったら、大家さんの怨念か何かが稼いで来いーって事でこっちに送り込んだんじゃないかしら?」
やんわりとぽちの気を逸らして、まよいは自分の推理をぶつけてみる。
「大家しゃんがそんな…まさか」
「なんだ、完全に否定はできないのか? ならば働かせて金を貯めれば…いや、待て。しかし、そのご主人はのんだくれなのだろう。ということはまた酒代に消えるぞ。となると、これは堂々巡り……私が思うにやはりその男、救わなくてもいいので…」
「ちょっと、レイア! それは言いす」
「あ」
真剣に考えるあまりまたも本音が漏れたレイアにまよいも庇い切れない。はっとしてポチを見るとじわりと涙を浮かべて、耳をぺたんとさせている彼がいる。
「あわわ、すまん。今のは冗談だ! 大丈夫! 助けるからなっ、なっ。そんな顔しないでくれ…」
戦う事には長けているが、こういうのは苦手である。ボルディア同様レイアは困惑する。
「いいのにゃ…だって事実にゃし」
ぽちがしょんぼり顔で言う。
「まあ、とりあえずやってみましょ。酒瓶から始まったのなら酒瓶からよ。似たような酒瓶見つけて戻せないか試してみて、最悪戻れなくても仕事の斡旋とかそう言うのは出来るから」
(ハンターとして登録すればだけど)
心中でそう付け加えて、まずは追われている筈の彼を探す所から。その役目を買って出てくれたのはアルマだ。ぽちの話を聞いてすぐ「お友達を探してくるですっ」と言って出て行ったのか少し前。アルマならば浄化の魔法も持っているから、彼の負のマテリアルを浄化する事も出来るだろうという事だったのだが…。
「やってしまいましたー…一抹さんのそれ、浄化できないのですー」
ガクリと肩を落として、別の路地裏でアルマが一抹に言う。
だが、当の一抹は何かなんだか判らない。殺されかけたり、助けられたり…ついでに自分の名前を知っている者が予想以上に多く、混乱しっぱなしである。
「あー、とりあえずあんたは誰だ? 俺をどこに連れて行くつもりだ?」
危害を加えてくる感じがないので、一抹が静かにそう尋ねる。
「あ、申し遅れましたが、僕はアルマです。ぽちさんから話を聞いて、僕は一抹さんとお友達になりにきたのです♪ そして、その悪いマテリアルを浄化して誤魔化そうと思ったのですが、うっかりスキルを活性化を忘れてきてしまいまして、面目ないのですぅ」
しゅんとした表情で彼が言う。
「おい、今ぽちと言ったか。まさかあいつも来ているのか?」
一人だとばかり思っていた一抹は、彼に尋ねる。
「はいなのですよー。ぽちさんはご主人である貴方を探して助けようとしているんですから―。んで、今からポチさんのいる場所に案内するですっ」
浄化を諦めて、彼はそう言いずんずん歩き出す。
「助けるってどういう事だ?」
「あのですねー。一抹さんは悪者認定されているのです。でも、僕は気にしないです。それに第一印象悪い人には見えない…何か事情があったですよねー?」
歩きながらアルマが言葉する。
(悪者? 俺が?)
彼の話を鵜呑みにするのはどうかと思ったが、名前を知る理由を考えれば信じる他ない。
一抹は訝しみながらも彼についてゆく。が、それからかれこれ数時間。
「えーと、あれがこっちで、こっちがあれだから…」
「おい、大丈夫なのか?」
きょろきょろしている彼に一抹が問う。
「あ、はは…問題ないのですー」
そう言うもくんくん周囲の匂いを嗅いでいるから不安だ。
そんな二人にまさかの噂。世の中何が起こるか判らない。
「きゃー、ちょっとあっちの路地にイケおじと美青年が入って行ったわよー」
「まさか、禁断の恋とかv」
その手の女の子の想像力は凄まじい。
余りにもこそこそうろついている二人を見つけて、訳有りの二人だと思っているらしい。
「おい、二人ともこっちだ」
そこへ遅いのを心配してやって来たレイアとまよいが合流し、ぽちと一抹は再会を果たす。
●
「ご主人~」
ぽちが尻尾を揺らしながら駆け出す。
「誰だ、お前」
だが、一抹からは非情な一言。人間の姿だから無理もないか。
「そ、そんな…ご主人?」
ぽちがそれを聞きあわあわする。だが、一抹はあっさりまたも一言。
「冗談だ…で、俺はどうすればいい?」
彼はぽちとの再会を一瞬で留め、次を促すものだからカチンと来たのはこの人だ。
「おい、一抹とやら! もっと何かあるだろう!!」
剣を抜かんばかりの勢いでレイアが迫る。
「はぁ。この世界は血の気が多い奴が多いな」
だが、一抹は一切それに動じていなかった。
そして、一抹からも話を聞くうちに彼等はある真実に辿りつく。
「信じがたいけど、そう言う事よね…」
一抹が語った事、それは多分本当の事なのだろう。彼は確かにあの戦場に召喚、というか転移してきたが、その時彼自身は例の声を上げていないらしい。だが、確かに断末魔のような声を聞いたと幾人ものハンターが証言していて、一抹も実はそれを聞いたという。それに加えてもう一つ。
「こっちに来た時になんか踏んだな。プチっと音がしていた」
「プチッ…ね」
これは推測に過ぎない。過ぎないが、言えるのはこの男から負のマテリアルが微量しか感じない事とそのプチだ。つまり彼が転移してきた時、たまたま新生眷属が彼の下にいて踏み潰されたのではないだろうか。
「恐ろしいな、おまえ」
事情を知って、いつの間にか同席しているボルディアが呟く。
「ま、いいんじゃない。新生眷属が死んでるなら万々歳よ。新生って言う位だからまだ赤ちゃんで力が弱かったのかも…かこの人が強いのか。その辺はよく判らないけど」
まよいが淹れ立ての紅茶を飲みつつ言う。
「で、後は戻る方法だが?」
「それはそれ。まずは酒瓶からよ」
そんなやり取りがあって冒頭に至る訳だが…さて、あの後どうなったのか。
一抹は無意識にあの転移先――瓦礫の山と化している戦場跡へ向かっていた。今は本当に何もない筈だ。
が、そこにはまだ微かな澱み…。
(おのれ、あの転移者め…私をコケにしよって)
生まれたばかりの命がもう尽きようとしている。だが、一矢報いる為こうやって密かに身を隠し永らえていたらしい。その澱みが彼を呼び寄せる。そんな事と露知らず、一抹は一直線に澱みの方へ。
そして、その真上に踏み込んだ瞬間、澱みが一抹を仕留めにかかりのびる澱みの触手。
「ご主人っ!!」
ぽちがそれを見てボルディアを抜き去り、一抹に手を伸ばす。
『お前らなど帰ってしまえ! この世界には不必要だっ!』
それは澱みの――新生眷属最期の言葉。
二人を包み込むと同時に残っていた力を使い果たしたのか、そのまま塵となり消えていく。
「全く何だったんだ」
ボルディアがぽつりと呟く。
「よく判んないけど、多分あの二人帰れたんじゃないかしら?」
ホッとした様子でこれはまよいだ。
「そうなのですー? 僕のお友達計画は?」
「ぽち…よかったな。達者で暮らせよ~」
そう残念がるアルマと対照的にレイアは消えた宙に手を振って…。
そういう訳で彼らの目的達成。万事、めでたしめでたし?
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相談卓 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/11/04 21:20:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/02 18:37:17 |