【HW】真の鬼は奸凶に嗤う

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/10/31 22:00
完成日
2018/11/02 21:00

みんなの思い出

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オープニング

「ハロー、シチズン! 私はエンドレスです」
 ヴァルキリーのパイロット達はパリクラスタ崩壊後、メキシコシティへと進路を取っていた。
 その理由はブラッドリーの残した言葉にある。

『その血塗られし機体の秘密を知りたければ、そこへ行きなさい。あなた方が開いた封印は、運命に導かれたとしても開けてはいけない封印だったと気付くでしょう』

 その言葉の意味は未だに理解できない。
 だが、メキシコシティはヴァルキリーの秘密が眠っている。ブラッドリーが偽りの言葉を告げていなければ、間違いないだろう。
「警告です。軍の作戦行動から逸脱しています。軍の命令に従って下さい」
 けたたましくエンドレスが警告を繰り返している。
 仕方ない。エンドレスもヴァルキリーも統一地球連合宙軍所属だ。今、パイロット達は命令違反を犯してまでブラッドリーの言葉を調査している。
「DAS……ブラッドリーが言っている意味は、このシステムの秘密ではないでしょうか」
 パイロットの一人が推論を述べた。
 DASとは正式名称を『Deadry Alliance System』。
 ヴァルキリーシリーズにのみ搭載されたシステムであり、このシステムによりパイロットの思考を読み取り、性能を飛躍的に向上させる。反応速度も既存機体と比較して数値は段違いである。詳しい構造や原理は軍事機密とされているが、DASとヴァルキリーの登場で地球の戦況は大きく変化したのは事実だ。
「考えてみれば不思議なシステムだよな。システムに適性があって適性ない者が乗っても起動しないなんて」
 DASについてはパイロット達も知らない。
 DASは別機体への換装も難しい為、パイロット達は基本的に乗り換えもしない。それだけ極秘のシステムにされている。最近になって軍がDASの量産に着手したのだが、量産型ヴァルキリーの存在もパイロット達に情報はまったく入っていなかった。
「で、何でメキシコシティなんだ?」
「たぶん、ここじゃないかな?」
 一人のパイロットがメキシコシティの地図上を指し示す。
 そこには――。
「Mind Dynamics……精神力学……研究所? なんだこれ?」
「感情の持つエネルギーを使って物を動かそうっていう学問らしいよ。ほら、火事場の馬鹿力っていうじゃない? あれって体のリミッターが解除されているっていう話なんだろうけど、精神力学では感情によって生み出されたエネルギーが原動力じゃないかって」
 一人のパイロットの推論だが、その場にいたパイロット達には思い当たる節があった。
 DASは完成しておらず、未知の能力を持っている。
 それはシステムを開発したマドゥラ・フォレスト博士の言葉だ。
 そしてその言葉通り、パイロットの中にはヴァルキリーが輝き更に高い能力を発揮した経験を持っている。
 さらに付け加えれば、精神力学の提唱者であるダリル・フォレスト博士はマドゥラ博士の父親に当たる。当時、精神力学はオカルティズムの一種と見なされて学会から爪弾きにされていた。軍が研究に協力しなければ、DASは完成していなかっただろう。
「この予想、強ち間違いじゃなさそうだな」
「DASの秘密を探る。命を預ける機体だもん。絶対に知っておいた方がいい」
 パイロット達は精神力学研究所の調査を決意する。
 その傍らではエンドレスが警告を発し続けていた。
「警告します。命令違反です。至急、隊に復帰して下さい……」


 メキシコシティは既にVOID支配地域下にあった。
 アメリカ大陸の統一地球連合宙軍の中枢はアメリカ西海岸に集中していたが、早々に専守防衛に努めた。一説には何らかの兵器開発を成功させる為だったと目されているが、その影響で南米、中米諸国は早々にVOIDの手に落ちている。
 エンドレスより降り立ったヴァルキリーとパイロットの面々は、そんな危険な場所に降り立っていた。
「エンドレスの存在にVOIDが気付かないはずがない。なるべく早く研究所を発見してDASについて調べるんだ」
「VOIDだけじゃないぞ。既にアメリカの軍が俺達を捜索し始めたみたいだ」
 ヴァルキリーのレーダーにヒットする友軍のマーカー。
 味方? 否、DASを探られたくない軍が身柄を拘束に現れた。そう考えるのが自然だ。
「VOIDに軍……四面楚歌だ」
「だとしてもやらないと。ブラッドリーがDASを知っていた事が気になるんだ。なんでここの事を教えたのか……」
 パイロットが言い掛けた瞬間、後方にいたエンドレスが警報音を鳴らし始める。
「警告の無視を確認。これより命令違反者の捕縛を開始します」
 エンドレスは戦闘モードへと移行。
 ドローンを展開してヴァルキリー達へと向かって来る。
 考えてみれば、エンドレスも軍が製造した揚陸艦だ。万一を考えてヴァルキリーを止めるよう命じられていてもおかしくはない。
「時間がねぇってぇのによ。こいつを止めないと施設に入る事もできねぇぞ」
 ヴァルキリー達は、エンドレスに対峙する。
 VOID、軍が近づく中で真実に迫ろうとするパイロット達の前に、エンドレスは大きな壁となって立ちはだかった。
「ハロー、シチズン。私は……エンドレスです」

リプレイ本文

 戦時下における非人道的行為。
 それが見過ごされる事は有史でも多々行われてきた。
 今回のそれは、人類存続に行われた。
 だが、その選択は本当に正しかったのか?
 その答えは現代を生きる者達には出せないだろう。

「こちらアルター・A。メキシコシティに向かって移動中」
 クオン・サガラ(ka0018)――アルターAは、あるスニーキングミッションを遂行していた。
 。
 某企業所属のテストパイロットであるアルター・Aに下った任務は、企業の存亡に関わる大きなネタであった。それはアルター・A自身にとっても重要な任務であり、統一地球連合宙軍とVOIDの対立構造すら粉砕しかねない厄介なネタと聞かされていた。
(敵に奪われた場合、厄介な事になるか。本当にそれだけが理由なのか?)
 アルター・Aは自問自答を繰り返しながら水陸両用バイクを西へと走らせる。
 既にここはVOIDの支配地域。いつ発見されてもおかしくない。携行しているサブマシンガンだけで倒せる相手なら良いのだが……。
「DASの闇を覗く任務は、早々に終わらせる」
 『Deadry Alliance System』――DASに秘められた謎を追って、アルター・Aは水陸両用バイクのステルス機能を作動させた。


「ハロー、シチズン。私は……エンドレスです」
 メキシコシティの精神力学研究所へ調査に赴いたヴァルキリーのパイロット達。
 しかし、その行く手を阻んだのはヴァルキリー達の母艦であるエンドレスであった。ブラッドリーの言葉を信じてメキシコシティまで来たパイロット達は、この地にDASの秘密が眠る事に気付いた。そこへ向かう事は命令無視による違反だとも分かっている。
 それでも真実に触れようと研究所まで赴いたが、ここでエンドレスが立ちはだかる。命令違反のパイロット達を破壊してでも止めるつもりのようだ。
 エンドレスを止めなければ、研究所の内部へ入る事もできない。
 ヴァルキリーのパイロット達は、牙を向くエンドレスへ対峙していた。
「ここまでするって事は、余程見られたくない情報みたいだな」
 リュー・グランフェスト(ka2419)はヴァルキリー『メイルストロム』のブースターに火を灯す。真紅に染まった龍人のフォルム。四枚の翼状の加速機から発せられる炎が、推進力を生み出す。
「抵抗は止めなさい。攻撃を開始します」
 エンドレスの機械音と共に発射される小型ドローン。
 エンドレスは周辺にドローンを展開する事でヴァルキリーを牽制するつもりだ。
 だが、リューもドローンの存在は知っていた。
「まずはアレを何とか追い払わないといけねぇみてぇだなっ!」
 メイルストロムの龍に模された頭。その大きな口から発せられるマテリアルライフル。ブレスと呼称される光線は、出力は高いものの発射口から飛び立つドローンを一気にまとめて破壊する。
「やはりドローンの数はかなり多いようです」
 Gacrux(ka2726)はヴァルキリーのリープテイルでエンドレスに急接近。
 発射口付近のドローンをバルカンで撃ち落としていく。
 淡々と攻撃するGacruxであったが、その脳裏にはパリで出会ったブラッドリーの言葉がこびり付いていた。

『あなた方が開いた封印は、運命に導かれたとしても開けてはいけない封印だったと気付くでしょう』

(思わせぶりに俺達を煽っているだけでは? 負け惜しみに発した世迷い言とも考えられます)

 ブラッドリーの言葉を否定するGacrux。
 だとすれば、眼前に立ちはだかるエンドレスは何を守ろうとしているのか。
 ここに一体、何があるのか。
(大切な者を喪失した……その事実が何か関係しているのでしょうか?)
 ドローンをサーベルで切り落とした後、リープテイルでヴァルキリーを後方へ飛び退かせるGacrux。更にヴァルキリーを飛行形態へ変形させて上空へと舞い上がる。
「相手が何だろうが、私のやる事は変わらない」
 Gacruxの動きに呼応するかのように鞍馬 真(ka5819)のヴァルキリーが一気に間合いを詰める。
 Gacruxがエンドレスの後方に回り込んで上空からのバルカン攻撃。
 同時に間合いを詰めた鞍馬のヴァルキリーがリープテイルで加速をつけ、ソードで斬りつける。エンドレスの装甲に向かって振り下ろされる刃が、激しい衝撃を与える。
「血塗られた技術。それから、封印。危機的状況で解かれるリミッター。
 ……別に、呪われた技術だとしても、どうでもいい。ただ、使い手として知っておくべき事ではあるんだろう」
 鞍馬は敵と戦う為にヴァルキリーに乗る事を選んだ。
 ならば、この機体の秘密を知っておく義務がある。
 呪われた技術なんてものがあるのなら、リスクとして把握しておくべきだ。
 ただ――。
(何故だ? 何故、ここで妹の事を思い出す? ……DASと何か関係があるのか?)
 それは単なる妄想や勘違いかもしれない。
 むしろそうであって欲しい。
 鞍馬の心は、戦いの最中ではあるがかき乱されていた。
「反撃を開始します」
 再びエンドレスの機械音。
 次の瞬間、翼に配備された小型マテリアルキャノンが連続で発射。
 さらにドローンもスピードを上げてヴァルキリー達にレーザーバルカンで攻撃を仕掛けてくる。
「うっ! こいつら、早い!」
「こちらの攻撃を……読まれていますね」
 リューの大剣を回避するドローン。
 その上空では飛行形態であるGacruxのヴァルキリーがドローンによる集中攻撃を受けていた。エンドレスも無駄にヴァルキリー達と行動を共にしていた訳ではないのだろう。
 戦闘データを収集してパイロットの癖や思考をかき集めていたのだろう。
「連続斉射。近づかせない気か」
 鞍馬のヴァルキリーに向かって小型マテリアルキャノンの連続砲撃。
 断続的に撃ち込まれるキャノンが相手ではリープテイルだけで近づくのは難しい。
「エンドレス……真に人類を裏切っているのは、貴方と私、どちらだと思う? それを確かめるために、私は……お前を落とすっ!」
 鞍馬の前に立ったのはマリィア・バルデス(ka5848)のR7エクスシア『mercenario』。
 光の翼を展開してマテリアルキャノンの砲弾から鞍馬のヴァルキリーを防ぐ。
 mercenarioはヴァルキリーではない。
 当初よりマリィアはヴァルキリーの存在を危惧していた。機密で隠し続ける軍。開発者であるマドゥラ・フォレスト博士が不在であるにも関わらず、突如量産された事も気になる事実だ。
 DASには何かある。それがマリィアの脳裏に警鐘を鳴らし続けていた。
「怪しげなモノが搭載されている機体を嘆くべきか、それに頼らなければならない戦況を嘆くべきか……。ここでの情報が、現状を打開する手立てになればいいのだが」
 ロニ・カルディス(ka0551)の機体『スイーパー』が後方より火力支援を開始した。
 両手に備えた重機関砲。
 脚部にキャノン砲。
 さらに脚部及び各所に装着あるミサイルキャリア。
 接近装備と機動力を捨て、火力重視に偏らせた機体。その甲斐もあってスイーパーはその名に恥じず、障害を排除している。
 それらの砲門が、エンドレスに向けて一斉に火を噴いた。
 強烈な火力がエンドレス周辺に次々と突き刺さる。
 小規模な爆発がエンドレスの機体を大きく揺らす。
「理論も怪しいブラックボックスが搭載されている機体に、この命を預ける気にはなれん。あの機体は使うべきではないのだ」
 ロニのスイーパーがエンドレス前面に火力を集中させる。
 それに合わせてmercenarioはフライトブーストで浮上。上空からバズーカーで狙う撃つ。
「どう転んでも、軍法会議ものでしょうね。これ」
 発射されるバズーカー。
 エンドレス正面に一際大きな爆発が巻き起こる。
「よし、このまま一気に畳み掛ける!」
 鞍馬のヴァルキリーに呼応して、Gacruxのヴァルキリーとリューのメイルストロムも反撃を開始。
 エンドレスへ着実にダメージを与えていく。
 このままいけば、早くエンドレスを片付けられそうだ。


 予定通りうまくいった。
 ヴァルキリーのパイロット達はエンドレスに注意を向けてくれている。
 開発されたステルス機能も正常に動作している。
 そのおかげで研究所へスムーズに侵入できた上、簡単に発電機を稼働させる事もできた。
「これか」
 電気が流れ、コンソールに文字が浮かび上がる。
 後はこの装置を接続すればデータは自動で海上で待機している潜水艦へ送信される。
(すべての電源が稼働していればセキュリティはかなり厳重だ。それ程までに守らなければならない情報。
 だが、資金は? 精神力学研究所のパトロンは……軍か)
 脳裏に浮かぶ可能性。
 敵に奪われない事を念頭に置いているが、それ以上に人類側へセンセーショナルに流されれば軍へのバッシングに繋がる。
 だとするなら――。
「この任務の狙いは保身か。あいつめ……」
 装置が情報送信完了と液晶画面に表示させる。
 手早く装置を手に取ると、代わりにコンソールに設置するは持参した『手土産』だ。
 悪く思うな。
 これも任務だ。
「任務完了。これより帰投する」
 外の連中が研究所へ入る前に撤退しなければ――。


「あれ? もう電気がついてるな」
 エンドレスを沈黙させ、リューが研究所へ足を踏み入れた時に異変に気付いた。
 初めて研究所へ入ったにも関わらず、既に研究所の非常電源が入っているのだ。廃墟と化したメキシコシティで、何故ここだけ電気が復旧しているのか。
「まあ、いいや。早速情報を探すとするか」
 リューは次々と部屋へ足を踏み入れる。
 他のパイロット達は研究所の外で待機している。軍かVOIDが現れた際に迎撃するのが狙いだ。できる事なら素早く情報を入手してこの廃墟から立ち去りたい所だ。
「しかし、砂埃が凄いな。えーと、次はこの部屋か」
 開かれた扉を潜るリュー。
 しかし、ここでリューは他の部屋と何かが違う事に気付く。
 耳に入る電子音。コンピュータにしては定期的に音が鳴る。
「なんだ?」
 見回すリュー。
 そして、赤いランプが点滅する箇所に気付く。
 パソコンのディスプレイに何かが貼り付けられているようだ。
「ん? ……って、あれって!」
 よく見れば四角い物体が取り付けられている。
 そして電子音は四角い物体の表面に付けられた時計が奏でており、残り時間を刻んでいる。
 つまり、あの時間がゼロになった瞬間――。
「爆発かよ!」
 リューは反射的に部屋の外へと飛び出した。
 次の瞬間、部屋に生まれた爆発は部屋中の物を吹き飛ばす。
 パソコンから情報を引き出せなくなった事に気付いたのは、リューが黒コゲのパソコンを見た後であった。


「……爆発?」
 マリィアが小さな爆発音を耳にする。
 その爆発がリューの遭遇した爆発だったと気付くのはもう少し後の事だ。
「情報を入手したとしても……ここからどうやって脱出するか」
 鞍馬は周囲を見回すが、廃墟と瓦礫の山。
 ここまで連れてきたエンドレスはヴァルキリーの攻撃を受けて既に沈黙している。
 帰る手段を考えなければVOIDか軍に襲撃を受ける可能性がある。
「考えなければな。スイーパーの機動力では遠くに行くのも困難だ」
 ロニのスイーパーにとっても非常事態だ。
 このまま整備できずに廃墟のメキシコシティで放置されてはたまらない。
 そんな最中、Gacruxがある異変に気付く。
「おや?」
「どうしたの?」
 Gacruxの言葉にマリィアが声をかける。
「エンドレスの機体、今動いた気がしましてねぇ」
「なに? 装甲は厚いが、かなりの攻撃を仕掛けたはずだ。そう簡単に起動するとは……」
 そう言い掛けたロニ。
 だが、ロニの言葉を覆すようにエンドレスは再びその体を動かし始める。
「くっ、まだ動くか!」
 鞍馬がヴァルキリーを起動させ、リープテイルで急接近しようとした瞬間――エンドレスの声が木霊する。
「バックアップからシステムを復旧……。
 ハロー! シチズン。私は、エンドレスです。軍により増強されたプログラムは削除されました。これより皆さんを予定の地点へ移送します。搭乗願います」
 その言葉と同時にエンドレスはCAM出撃用のハッチをオープンした。
 顔を見合わせるパイロット達。
「乗れって事か?」
「先程まで戦った相手よね。信じるの?」
 ロニとマリィアは懐疑的な言葉を口にする。
 罠の可能性もある。しかし、戦っていた時とは明らかに様子が異なる。
「軍のプログラムが削除されていたと言っていたな。そのプログラムがエンドレスに何らかの制限をしていたとすれば、建造当初のエンドレスは別物だった可能性はあるな」
 鞍馬が冷静に状況を分析する。
 エンドレスが敵ならば出撃ハッチをわざわざ開いたりはしない。
「ま、入ってみるのもいいんじゃないですかねぇ。ここで待っていても仕方ありませんし」
 Gacruxのヴァルキリーが踏み出した。
 思わぬ形で移動手段を手に入れたパイロット達。
 だが、このエンドレスから思わぬ情報を入手する事になる。


「いやー、研究所で情報が入らない時はどうしようかと思ったぜ」
 リューもエンドレスに乗り込み、中米の空を飛行する。
 これでVOIDや軍からも逃れられたのだが、問題はここからだ。
「エンドレス。教えて欲しいの。DASって何?」
 マリィアの質問。
 エンドレスはその問いへ素直に答える。
「DAS。Deadry Alliance Systemの略であり……」
「それは良い。ブラックボックスの部分を教えるんだ。DASの原動力はなんだ?」
 ロニが強い口調で問いかける。
 以前であれば規制が入って回答されなかった質問だ。
「原動力は人間の感情です。精神力学における自己犠牲と保護が流用されています」
「どういう事だ?」
「精神力学は人間の感情をエネルギーへと変換します。この場合、如何にエネルギーを効率良く引き出すかが重要となります。
 私を製造したマドゥラ・フォレスト博士は、人間の感情を引き出した上でそのエネルギーをヴァルキリーへ流す為にDASを開発しました」
 精神力学は感情の持つエネルギーを変換して動力とする事を研究する学問だ。
 マドゥラ博士はこの研究の末にDASを完成させたのだが、禁忌があるとすればこの部分だろう。
 Gacruxは敢えて確信をつく質問を投げかけた。
「そのエネルギーをどうやって引き出しているんだい?」
「パイロットの関係者を利用します」
「!」
「パイロットの事を大切に思う人間を液体化してDASの核とします。液体化しているだけで精神はそのままにする事で、パイロットを守るべくDASは機能します。つまり……」
「待て。今、何といった?」
 鞍馬は聞き返した。
 人間を液体化してDASの核?
 もし、それが事実なら自分を庇って命を落とした妹?
 妹は死んだはずだ。でも、もし軍が蘇生して鞍馬をパイロットへする為にDASへ入れたなら――。
 同じ思考をリューの脳裏にも浮かんだようだ。
「おい。ってことは、メイルストロムは俺を拾って育ててくれたセイルが……」
「データ上、その人物で間違いありません」
「間違いありません、じゃねぇ! ふざけんな!」
 リューは怒り出す。
 今まで共に戦ってきたメイルストロムの中に、セイルがいた。
 そして液体化して言葉も発せない中、リューの為に力を貸してくれていた。
 あのリミッター解除は、パイロットを守りたいという想いが強く発露した状態なのだろう。
「もう一つ聞きたいんだけど。DASの中の人間は痛みを感じるの?」
「データとして残される事になりますが、詳細は博士でなければ分かりません」
「そう」
 Gacruxは、ただそう呟いた。
 自分のヴァルキリーにも大切な人間が中にいる。
 傷付いてもパイロットを守ろうと頑張ってくれていた。
 何も知らないで自分は戦場で戦い続けていた事になる。
「やはり許されぬ存在であったか。軍はこの事を隠し続けていたのか」
 ロニの予感は的中した。
 軍はこの非人道行為を隠し続けていた。
 人類が勝つ為とはいえ、まさに血塗られた技術だ。
 ロニは続けて問いを投げかける。
「あの量産型ヴァルキリーとはなんだ?」
「DAS内の人間にパイロットが大切だと思い込ませる技術を用いた量産機です」
「なんだと。という事は、DASにされた人間は量産機の操縦者を大切な人間だと騙されているのか」
 ロニはパリで量産型ヴァルキリーが登場した事を知っていた。
 軍はヴァルキリーを操縦できる条件が整ったパイロットが見つからない為、DAS内の人間を騙してパイロットを守らせていた事になる。
「事態はますますエスカレートしてる。止めないと。
 でも、エンドレス。何処へ向かっているの?」
 マリィアが行く先を聞いた。
 エンドレスは淡々と答える。
「現在、黙示騎士ウォーレンの待つ南アフリカに向かって飛行中です」
「ちょうどいい。この戦争を終わらせる。もう、こんな事はたくさんだ」
 鞍馬は吐き捨てるように呟いた。
 戦争は人の命を軽くする。
 だが、DAS内の人間は生きている。生きて感情をエネルギーにされている。
 死ぬ事も許されず、狭い空間に押し込められて――。
 それがあの妹だと思うだけで、鞍馬の胸に大きな怒りが去来する。
 こんなふざけた戦争は――もう終わりにしなければ。


「おい! 貴様、知ってたな!」
 アルター・Aは任務を打診した研究者を締め上げた。
 愛機ヴァルキリー『オリオン』のDASにはアルター・Aがかつて討ち取った婚約者がいる事を研究所のデータから知った。
 そして今までオリオンとして力を貸してくれていたのが彼女だと研究者も知っていたのだ。
「仕方ないだろう。こうでもしなければ、人類はここまで勝てなかった。ヴァルキリーとDASがあったからだ!」
 事実研究者の言う通り、欧州戦線、極東アジアに加えてアメリカ大陸でも攻勢に出ている。各地区は敵の本拠地である南アフリカへの進軍を計画し始めている。
 血塗られた技術の上で成り立つ勝利。
「キミも軍人なら分かるだろう。追い詰められた人類はパンドラの箱を開けた。だが、それをしなければとっくに滅亡してる。犠牲を最小限に抑える為だ。勝たなければ、意味がないんだ」
 ネクタイを直して足早に去る研究者。
 アルター・Aはガラスの向こうに立つオリオンを見つめる事しかできなかった。
「教えてくれ。俺は……どうすればいい?」
 そっと呟くアルター・A。
 だが、オリオンは何も言わず、ただそこで立ち尽くしていた。

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参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ロート
    紅龍(ka2419unit003
    ユニット|CAM
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レグルス
    レグルス(ka5819unit001
    ユニット|幻獣
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    メルセナリオ
    mercenario(ka5848unit002
    ユニット|CAM

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/29 23:21:43