ゲスト
(ka0000)
【虚動】意思亡き歴戦の兵士達
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/03 19:00
- 完成日
- 2015/01/11 08:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
CAM実験場が、俄にざわつき始める。
悲鳴や怒号、爆発や剣戟などの戦闘音。それらを聞きつけ、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)と、彼女に引っ張られて付いてきたナサニエル・カロッサ(kz0028)、そして二人の護衛を務めていたシュターク・シュタークスン(kz0075)は、各国の要人が集まる宿泊施設へと駆けつけていた。
非戦闘員の多い地域だ。同じく騒ぎを察知した人々が、街路で不安げに音源の方を見つめている。
「……私はもう、帰りたいんですけどねぇ」
「ここには戦闘能力のない御仁も多い、彼らを避難させなければな。シュターク、動けるか」
ナサニエルが愚痴るも、ヴィルヘルミナはどこ吹く風で傍らに立つ巨躯の女性を見上げ確認する。
「おう、聞くまでもねえな」
対して、ヴィルヘルミナの視線を受けたシュタークは、自信に満ちた笑みすら浮かべて背負った大剣の柄に手をかけた。
戦闘の臭いは、徐々にこちらへと近づいてきている。この場は戦場になるかもしれない。
「私が戦ってもいいが……というか、最近公務に次ぐ公務で禿げてしまいそうだからむしろ戦いたいが……我慢して要人の保護に向かう。この辺りの警護を任されたハンターがまだいくらか居るはずだ。彼らと協力して、時間を稼いでくれ。ナサニエルは私について来い、人手は一本でも多い方がいい」
「はいはい、陛下の仰せのままに」
有無を言わさぬヴィルヘルミナの指示に、ナサニエルは素直に従う姿勢を見せた。
●
ガシャンガシャンと、金属のぶつかる音が左右の建物に反射して街路にうるさく響く。
「おー、あれってあれか。半透明だし、亡霊型とかいう奴か。お化けだって聞いてたけど、何か鎧着てんじゃねえの」
二人と別れ、その場に残ったシュタークの目の前に現れたのは、半透明の青白い人型に鎧を纏った歪虚の群れだった。手に手に円錐状の槍身に取っ手が付いた馬上槍を持ち、揺らぐ炎をこねて整えたような青白い髑髏の眼窩でシュタークとハンター達を睨みつけている。
現在、ヴィルヘルミナの指揮もあってこの辺りの非戦闘員の殆どが避難を完了していた。しかし、この辺りから逃げられただけで、完全な安全圏への移動はまだ時間が掛かる。
それはつまり、その避難先に歪虚を行かせるわけには、絶対にいかないということだ。
「んじゃ、死守、ってやつだ。頑張っていこうぜ!」
シュタークが膨大で凶悪なオーラを纏い、鬼と見まごう姿へ変貌する。
それが合図となった。
声にならない声を上げ、歪虚の群れは槍を頭上に構える。
――数十もの槍が天を衝く様は、威嚇を行う山嵐の如く見る者に痛みを想起させた。
悲鳴や怒号、爆発や剣戟などの戦闘音。それらを聞きつけ、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)と、彼女に引っ張られて付いてきたナサニエル・カロッサ(kz0028)、そして二人の護衛を務めていたシュターク・シュタークスン(kz0075)は、各国の要人が集まる宿泊施設へと駆けつけていた。
非戦闘員の多い地域だ。同じく騒ぎを察知した人々が、街路で不安げに音源の方を見つめている。
「……私はもう、帰りたいんですけどねぇ」
「ここには戦闘能力のない御仁も多い、彼らを避難させなければな。シュターク、動けるか」
ナサニエルが愚痴るも、ヴィルヘルミナはどこ吹く風で傍らに立つ巨躯の女性を見上げ確認する。
「おう、聞くまでもねえな」
対して、ヴィルヘルミナの視線を受けたシュタークは、自信に満ちた笑みすら浮かべて背負った大剣の柄に手をかけた。
戦闘の臭いは、徐々にこちらへと近づいてきている。この場は戦場になるかもしれない。
「私が戦ってもいいが……というか、最近公務に次ぐ公務で禿げてしまいそうだからむしろ戦いたいが……我慢して要人の保護に向かう。この辺りの警護を任されたハンターがまだいくらか居るはずだ。彼らと協力して、時間を稼いでくれ。ナサニエルは私について来い、人手は一本でも多い方がいい」
「はいはい、陛下の仰せのままに」
有無を言わさぬヴィルヘルミナの指示に、ナサニエルは素直に従う姿勢を見せた。
●
ガシャンガシャンと、金属のぶつかる音が左右の建物に反射して街路にうるさく響く。
「おー、あれってあれか。半透明だし、亡霊型とかいう奴か。お化けだって聞いてたけど、何か鎧着てんじゃねえの」
二人と別れ、その場に残ったシュタークの目の前に現れたのは、半透明の青白い人型に鎧を纏った歪虚の群れだった。手に手に円錐状の槍身に取っ手が付いた馬上槍を持ち、揺らぐ炎をこねて整えたような青白い髑髏の眼窩でシュタークとハンター達を睨みつけている。
現在、ヴィルヘルミナの指揮もあってこの辺りの非戦闘員の殆どが避難を完了していた。しかし、この辺りから逃げられただけで、完全な安全圏への移動はまだ時間が掛かる。
それはつまり、その避難先に歪虚を行かせるわけには、絶対にいかないということだ。
「んじゃ、死守、ってやつだ。頑張っていこうぜ!」
シュタークが膨大で凶悪なオーラを纏い、鬼と見まごう姿へ変貌する。
それが合図となった。
声にならない声を上げ、歪虚の群れは槍を頭上に構える。
――数十もの槍が天を衝く様は、威嚇を行う山嵐の如く見る者に痛みを想起させた。
リプレイ本文
一糸乱れぬ軍靴の音は、無数のはずの兵士を一つの生き物に錯覚させる。
槍を構える鎧の群れは、例え肉体を失っても誇りだけは失っていないと言わんばかりに整然とした隊列を見せている。ただし、その矛先にあるのが生前守るべきものだった人類だと、彼らは気付いていない。
「……軍の成れの果てか、見るに忍びないな」
憐れむように、イーディス・ノースハイド(ka2106)が呟く。
「これはこれは大挙しての御出座しだ。これを六人で抑えろとは無茶を仰る」
対し、エアルドフリス(ka1856)は飄々と、しかしどこか影を落とした表情で肩をすくめる。
「本当に、また随分と居るな。いやまあ、数の面で有利だったことなんざ一度もないけどさ」
「こりゃどーにも、集団戦だと向こうに分がありそーだな」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は両手に二本の刀を携えながら溜息を付き、岩井崎 旭(ka0234)は楽しげな笑みを浮かべて向かってくる亡霊を眺めた。
「ま、ちっとばかし時間稼ぎゃいいだけだ。六人もいりゃ充分だろ」
そんなハンター達の様子を横目に、シュタークが大剣を担いで豪快な笑みを見せた。
「また、気楽なものですね」
エアルドフリスの皮肉げな物言いも気にしない。
「とにかく、足止めを頑張りましょう。師団長、前衛をお願いできますか?」
「んー? 後ろで最後の砦的なのやろうと思ったんだが……まあ、そう言うなら構わんぞ。作戦やらなんやら、あたしにはさっぱりだからな」
態度は尊大だが、提案は素直に聞くらしい。カール・フォルシアン(ka3702)の言葉に、シュタークは躊躇いなく頷いた。
そして、迫り来る亡霊の群れに戦意高まるハンター達の後ろで、ロスヴィータ・ヴェルナー(ka2149)は強く拳を握りしめていた。
怖くないとは決して言えない。しかし、戦うと決めたのだ。
自分を叱咤し、背筋を舐める寒気を堪え、彼女は必死に前を向く。
信じて、できることを精一杯にやるために。
●
やることはそう難しくない。とにかく時間を稼ぎ、ついでに亡霊の核を見つけ出す。そして出来る限り倒す。それだけだ。
まず、旭、リカルド、イーディス、そしてシュタークが前に出る。
次いで後衛の三人が距離を置いて武器を構えた。
「師団長、肩を並べて戦えることを光栄に思います」
「何だ固っ苦しいな。んなこと言ってる暇あったら前見ろ前! 来るぞ!」
リカルドが一応と、シュタークに対し挨拶を述べた直後だった。
接敵にはあと一秒、距離にして四、五メートル程だろうか。
俄に亡霊が腰を落として槍を構える。次の瞬間――横一列に並んだ幾つもの槍が、勢い良く射出された。
「おわっ! っと、危ねえなあ!」
咄嗟に身を反らした旭の脇を掠め、弾丸のように槍が突き抜けていく。同時に吹き荒れる突風が、彼の上半身を覆った羽毛を揺らす。
「ったく、かんべんしてくれよ!」
二刀を手に、リカルドは膝が地面に着くほど低く構える。そして、その目と鼻の先に槍が重なった瞬間――リカルドは後転するように思い切り刀を振り上げた。
万が一にも、後衛へと攻撃が行かないように。重低音と共に、刀をぶつけられた槍の穂先が跳ね上がる。
隣を走っていたイーディスは足を止め、構えた大盾を攻撃に合わせて斜めに構える。
金属に金属が擦れ、凶悪な不協和音が鳴り響いた。腕を伝う音と衝撃に、イーディスは顔をしかめる。
「……これは、ただの突き、なのか?」
受け流され背後に飛ぶ槍は、それ単体で飛来した訳ではなかった。箒星の尾のように、槍の柄から青白い物が伸びている。
イーディスは前に目を戻す。敵の肩口から、それは生えていた。
「う、腕が伸びてる……!」
「まあ、亡霊らしいといえばらしいな。本当に飛ばさないだけマシというものだ」
その光景に改めて恐怖を覚えるロスヴィータの気を紛らわすように、エアルドフリスは軽くそう口にする。
「補助を掛けます!」
カールは慌てて、体勢を崩しているリカルドへ防性強化を施した。
何故なら、敵の最前列が槍を放ったその直後に、後ろに控えていた列もまた槍の先端をこちらに向けていたからだ。
「空、風、樹、地、結ぶは水、天地均衡の下……」
エアルドフリスの手にした杖に、風が舞う。
「……巡れ!」
放たれた風の刃が、二列目の一体を吹き飛ばす。しかしその瞬間に、三列目の亡霊が列に加わり同じように槍を構えた。
「軍人の動き……わ、私も戦います!」
心を奮い立たせ、ロスヴィータもマテリアルを集中する。収縮するマテリアルは光を湛え、紡がれた光球は砲弾のように亡霊を打ち据える。
だが同じように、吹き飛ばされた一体の代わりに後ろの一体が列に加わる。さらにその奥で、何事もなかったかのように起き上がった亡霊が、再び隊列に復帰した。
「ちっ、キリがねー。とっとと核ってのを見つけねーとな!」
次々に飛んでくる槍の射程は、五メートル弱といったところだろうか。
しかし、槍は直線的にしか打ち出すことは出来ないらしい。前衛のハンターは直ぐ様見切り、躱し防ぐのはそう難しいことではなくなった。しかし、敵の連携が厄介だ。こちらの動きを見て、逃げ道を塞ぐように攻撃を繰り出してくる。
ジリ貧になる前にと、旭の掛け声と共に前衛が一息に距離を詰めた。
それに合わせ、後衛も援護に魔法や機導術を放つ。
そもそも、始めにハンター達の立てた作戦は、防御に徹したものだった。
防衛戦を構築し、前線を後退させながら耐え続ける。そして一体だけ敵を突出させて、旭を中心にした前衛と後衛の連携で核を見つける、というものだ。前衛が無理にでも近づかなければ、作戦は成り立たない。
ハンター達の動きを察したシュタークが、後衛を守るように壁になる。
前には出たものの、基本支援に徹するスタンスは崩さないらしい。しかしそのおかげで、前衛がより接近に専念することが可能となっていた。
「帝国師団長の前で、無様を見せる訳にはいかない。不倒にして不壊の壁として、この道は阻ませてもらうよ」
イーディスは腰を落とし、マテリアルを込めて盾をどっしりと構える。矢のような速度で襲う槍を正面から受ける事はせず、とにかく受け流す。時折伸びきった腕を斬り付けても見るが、やはり一切の手応えはない。
リカルドはとにかく動き回り、敵の目を引くよう努めていた。
数では敵が圧倒的に有利だ。リカルドが遊撃的に動くことで、敵の攻撃を集めて味方のチャンスを増やすことが出来る。
「刀を使うのは久々な上に鎧相手には分が悪いが、守りぬくには充分か。踊ろうか亡霊共!」
二刀で以って、飛来する槍を弾き、躱し、そして接近すれば足元を狙って攻撃を仕掛ける。
槍を避けられて出来た隙を突き、敵の軍靴を刀が叩く。バチンと足を弾かれた亡霊は体勢を崩すが――
「回避だリカルド!」
その後ろには既に、槍を構えた亡霊がこちらを狙っていた。
エアルドフリスの声に、理解するよりも早く刀が動いていた。合わせた二刀の中心に、槍の穂先が激突する。
「ぐぅ……っ!」
リカルドは思わずたたらを踏む。
「リカルドさん下がって! 回復します!」
「済まない!」
咄嗟に、リカルドが飛び退る。こちらの射程内に跳び込むのは面倒だが、敵の射程外に逃げるのは一瞬だ。
ロスヴィータは急いでリカルドにヒールを施す。
「ホントにキリねーな! 連携取れすぎだろ!」
「あっはっは! うちの師団より協調性ありそうだな!」
シュタークの笑い声を背に大きく踏み込んだ旭がレイピアを繰り出すも、別の個体からの攻撃が気になって深追いができていない。頭や胸など、核のありそうな部分への攻撃も、充分な検証とは言えない浅いものだ。
「全員で一斉に動くしか、なさそうですね」
敵は、未だに何処かを庇うような動きを見せていない。となれば、やはり当初の作戦通り一体を突出させるべきだろう。
連携には連携だ。カールの提案に、エアルドフリスは頷く。
「最前衛を一斉攻撃だ。一体を残して、みな押し戻してくれようぞ!」
「が、頑張ります!」
ロスヴィータが、若干緊張気味に御幣を構えた。守る人たちが後ろにいるのだ。決して、ここを通すわけには行かない。
エアルドフリスの秒読みと同時に、前衛が一斉に槍の射程外まで距離を取る。そうすれば、敵は疑いもせずに進軍を始めた。
「行け!」
掛け声が上がった。同時に、前衛が全力で地面を蹴る。
敵は槍を構えるが、来ると分かっていれば怖いものではない。
エアルドフリスの炎の矢と、ロスヴィータの光の球が、前衛の頭上を追い抜いて炸裂した。二体が吹き飛ぶ。
カールの持つ機械性の杖から一条の閃光が迸れば敵の足元が炸裂し、穿たれた穴に亡霊が足を引っ掛ける。
直後に接敵したリカルドが先ほどのように足を払えば、イーディスは一斉に放たれた敵の槍を一手に受け止めた。シュタークは大剣の一振りで、数体を纏めて叩き斬っている。
「せっかくのお膳立てだ。ちょっと死ぬまで付き合えよ」
敵の陣形は、力任せに崩された。旭は身を低く、一足飛びにその懐へ飛び込んでいく。
長柄の弱点は、潜り込まれると基本的に何も出来ないということだ。
旭は猛禽の迫力を伴う笑みを浮かべ、手にしたレイピアの柄を強く握りしめる。そして疾風のように、核のありそうな場所に怒涛の連撃を繰り出した。
頭、心臓、腕、肩、腰、膝――
「旭、後ろだ!」
リカルドの声に、旭が振り返る。
槍の突端が、視線の先にあった。亡霊の腕がぐるりと捻れ、槍が百八十度回転してこちらを向いている。
――リカルドが咄嗟に跳びかかり、槍を弾く。弾かれた穂先は狙いを外し、旭の頬を浅く裂くに留まった。
槍は勢い余って自らの胴体を貫く。鎧に巨大な穴が開いた。
「悪い、助かった!」
「そんなことはいい。それより、核は見つかったのか」
「ああ、何処を突いても庇いもしね―ってことはだ……」
旭はレイピアを投げ捨て、片方の手で亡霊に突き刺さった槍の柄を掴む。そして、もう片方の腕に装備したナックルの拳を、固く握りしめた。
「こいつで決まりだろ!」
槍を引き抜く。同時に、祖霊の力を込めた拳を、槍身に向けて大きく振り下ろした。
ゴッ、と鈍い音と共に、槍が大きく歪む。
そこで初めて、亡霊に表情が現れた。全身を形成する淡い炎のような輪郭が、激しくうねりを上げる。
旭はそれを見てニヤリと笑うと、立て続けに拳を振り下ろした。
声なき声が上がる。亡霊の揺らぐ髑髏は顎が外れんばかりに大きく口を開け旭に向けて手を伸ばし――しかしその手は、何も掴めずに溶けて消えた。
ガランと音を鳴らし、鎧の破片が力なく辺りに散らばる。
「おい皆! 槍だ! 槍をぶっ壊せ!」
旭が叫ぶ。
同時に、飛んできた槍を慌てて躱し、早速その先端に拳を叩きつけた。
「やれやれ、ようやくか。そこそこ楽勝させてくれよ、俺はただの民間人でコックさんなんだぜ?」
リカルドの愚痴る声にも、ようやく見えた光明に高揚する響きがあった。
「なるほど、兵士にとっての魂というわけか。分からないでもないね。……さあ、私が盾になる。皆、存分に敵を討ってくれ」
イーディスは尚も後ずさりながら、ひたすらに攻撃を受け続ける。その顔は無表情ながら、どこかに悲しみが滲んでいる。
「……ふむ、効いてるようだ。それじゃあこいつは如何かね」
旭の活躍を遠目に見、エアルドフリスは敵の側面に回りこんでいた。
亡霊にも感情がある。それは朗報だった。核を攻撃すれば、撹乱も可能かもしれない。期待し、炎の矢を放つ。
「皆さん、最後まで気を抜かないで下さい!」
敵の核が分かっても、敵が弱体化するわけではない。ロスヴィータは、損傷の大きな味方にヒールを掛ける。合間に拳銃での攻撃も忘れない。
「隙を作ります!」
必死に声を上げ、カールはワイヤー製の鞭を振るった。
直進する物体は、横からの力に弱い。飛んできた槍の先端を狙って鞭を振り、巻きつけて軌道を逸らす。
今の自分に出来る事を全力で。その思いが、カールの芯を支えている。
正念場は過ぎ去った。後は力の限り、敵の進軍を阻害するだけだ。
●
全員のスキルが尽きる頃、ようやく帝国の援軍が到着した。残った亡霊も後僅か、すぐにでも殲滅されることだろう。
ハンター達は、大きく息を吐いてようやく覚醒を解いた。
「ちくしょう……もう、動きたくねえ……」
「小さい子とお嬢さんにばかり任せる訳にもいくまいよ。年嵩の者が頑張らねばな」
リカルドを筆頭に、何人かが地面に座り込む。エアルドフリスは壁に背を預け、パイプを燻らせた。
「全員お疲れさん! いやー、あの手のはホント苦手だわ。お前らが来てくれて助かったよ」
そんなところに掛けられるシュタークの元気な声は耳障りこの上ないが、ハンター達は苦笑いで受け流す。
「……まあ、ここにお嬢さんらしからぬ方がいらっしゃる訳ですが」
「あん? どっから見ても立派な美少女だろうが」
「立派といえば、立派で御座いますね。主に身長とか」
そんな他愛のない会話が交わせるのも、結果として、被害はそれほど大きなものではなかったからだ。要人達の避難は無事に完了し、目的は果たしたと言うに相応しい。
やがて遠くで勝鬨が上がる。亡霊の殲滅に成功したのだろうか。
音の方に目を向けて、イーディスは小さく呟く。
「……安心して眠るといいよ。君達の遺志は、私達が継いでいく」
そのうち、花を手向けに来るとしよう。いや、酒の方が嬉しいだろうか。
様々な感情を胸の中に。イーディスは、静かに祈りを捧げるのだった。
槍を構える鎧の群れは、例え肉体を失っても誇りだけは失っていないと言わんばかりに整然とした隊列を見せている。ただし、その矛先にあるのが生前守るべきものだった人類だと、彼らは気付いていない。
「……軍の成れの果てか、見るに忍びないな」
憐れむように、イーディス・ノースハイド(ka2106)が呟く。
「これはこれは大挙しての御出座しだ。これを六人で抑えろとは無茶を仰る」
対し、エアルドフリス(ka1856)は飄々と、しかしどこか影を落とした表情で肩をすくめる。
「本当に、また随分と居るな。いやまあ、数の面で有利だったことなんざ一度もないけどさ」
「こりゃどーにも、集団戦だと向こうに分がありそーだな」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は両手に二本の刀を携えながら溜息を付き、岩井崎 旭(ka0234)は楽しげな笑みを浮かべて向かってくる亡霊を眺めた。
「ま、ちっとばかし時間稼ぎゃいいだけだ。六人もいりゃ充分だろ」
そんなハンター達の様子を横目に、シュタークが大剣を担いで豪快な笑みを見せた。
「また、気楽なものですね」
エアルドフリスの皮肉げな物言いも気にしない。
「とにかく、足止めを頑張りましょう。師団長、前衛をお願いできますか?」
「んー? 後ろで最後の砦的なのやろうと思ったんだが……まあ、そう言うなら構わんぞ。作戦やらなんやら、あたしにはさっぱりだからな」
態度は尊大だが、提案は素直に聞くらしい。カール・フォルシアン(ka3702)の言葉に、シュタークは躊躇いなく頷いた。
そして、迫り来る亡霊の群れに戦意高まるハンター達の後ろで、ロスヴィータ・ヴェルナー(ka2149)は強く拳を握りしめていた。
怖くないとは決して言えない。しかし、戦うと決めたのだ。
自分を叱咤し、背筋を舐める寒気を堪え、彼女は必死に前を向く。
信じて、できることを精一杯にやるために。
●
やることはそう難しくない。とにかく時間を稼ぎ、ついでに亡霊の核を見つけ出す。そして出来る限り倒す。それだけだ。
まず、旭、リカルド、イーディス、そしてシュタークが前に出る。
次いで後衛の三人が距離を置いて武器を構えた。
「師団長、肩を並べて戦えることを光栄に思います」
「何だ固っ苦しいな。んなこと言ってる暇あったら前見ろ前! 来るぞ!」
リカルドが一応と、シュタークに対し挨拶を述べた直後だった。
接敵にはあと一秒、距離にして四、五メートル程だろうか。
俄に亡霊が腰を落として槍を構える。次の瞬間――横一列に並んだ幾つもの槍が、勢い良く射出された。
「おわっ! っと、危ねえなあ!」
咄嗟に身を反らした旭の脇を掠め、弾丸のように槍が突き抜けていく。同時に吹き荒れる突風が、彼の上半身を覆った羽毛を揺らす。
「ったく、かんべんしてくれよ!」
二刀を手に、リカルドは膝が地面に着くほど低く構える。そして、その目と鼻の先に槍が重なった瞬間――リカルドは後転するように思い切り刀を振り上げた。
万が一にも、後衛へと攻撃が行かないように。重低音と共に、刀をぶつけられた槍の穂先が跳ね上がる。
隣を走っていたイーディスは足を止め、構えた大盾を攻撃に合わせて斜めに構える。
金属に金属が擦れ、凶悪な不協和音が鳴り響いた。腕を伝う音と衝撃に、イーディスは顔をしかめる。
「……これは、ただの突き、なのか?」
受け流され背後に飛ぶ槍は、それ単体で飛来した訳ではなかった。箒星の尾のように、槍の柄から青白い物が伸びている。
イーディスは前に目を戻す。敵の肩口から、それは生えていた。
「う、腕が伸びてる……!」
「まあ、亡霊らしいといえばらしいな。本当に飛ばさないだけマシというものだ」
その光景に改めて恐怖を覚えるロスヴィータの気を紛らわすように、エアルドフリスは軽くそう口にする。
「補助を掛けます!」
カールは慌てて、体勢を崩しているリカルドへ防性強化を施した。
何故なら、敵の最前列が槍を放ったその直後に、後ろに控えていた列もまた槍の先端をこちらに向けていたからだ。
「空、風、樹、地、結ぶは水、天地均衡の下……」
エアルドフリスの手にした杖に、風が舞う。
「……巡れ!」
放たれた風の刃が、二列目の一体を吹き飛ばす。しかしその瞬間に、三列目の亡霊が列に加わり同じように槍を構えた。
「軍人の動き……わ、私も戦います!」
心を奮い立たせ、ロスヴィータもマテリアルを集中する。収縮するマテリアルは光を湛え、紡がれた光球は砲弾のように亡霊を打ち据える。
だが同じように、吹き飛ばされた一体の代わりに後ろの一体が列に加わる。さらにその奥で、何事もなかったかのように起き上がった亡霊が、再び隊列に復帰した。
「ちっ、キリがねー。とっとと核ってのを見つけねーとな!」
次々に飛んでくる槍の射程は、五メートル弱といったところだろうか。
しかし、槍は直線的にしか打ち出すことは出来ないらしい。前衛のハンターは直ぐ様見切り、躱し防ぐのはそう難しいことではなくなった。しかし、敵の連携が厄介だ。こちらの動きを見て、逃げ道を塞ぐように攻撃を繰り出してくる。
ジリ貧になる前にと、旭の掛け声と共に前衛が一息に距離を詰めた。
それに合わせ、後衛も援護に魔法や機導術を放つ。
そもそも、始めにハンター達の立てた作戦は、防御に徹したものだった。
防衛戦を構築し、前線を後退させながら耐え続ける。そして一体だけ敵を突出させて、旭を中心にした前衛と後衛の連携で核を見つける、というものだ。前衛が無理にでも近づかなければ、作戦は成り立たない。
ハンター達の動きを察したシュタークが、後衛を守るように壁になる。
前には出たものの、基本支援に徹するスタンスは崩さないらしい。しかしそのおかげで、前衛がより接近に専念することが可能となっていた。
「帝国師団長の前で、無様を見せる訳にはいかない。不倒にして不壊の壁として、この道は阻ませてもらうよ」
イーディスは腰を落とし、マテリアルを込めて盾をどっしりと構える。矢のような速度で襲う槍を正面から受ける事はせず、とにかく受け流す。時折伸びきった腕を斬り付けても見るが、やはり一切の手応えはない。
リカルドはとにかく動き回り、敵の目を引くよう努めていた。
数では敵が圧倒的に有利だ。リカルドが遊撃的に動くことで、敵の攻撃を集めて味方のチャンスを増やすことが出来る。
「刀を使うのは久々な上に鎧相手には分が悪いが、守りぬくには充分か。踊ろうか亡霊共!」
二刀で以って、飛来する槍を弾き、躱し、そして接近すれば足元を狙って攻撃を仕掛ける。
槍を避けられて出来た隙を突き、敵の軍靴を刀が叩く。バチンと足を弾かれた亡霊は体勢を崩すが――
「回避だリカルド!」
その後ろには既に、槍を構えた亡霊がこちらを狙っていた。
エアルドフリスの声に、理解するよりも早く刀が動いていた。合わせた二刀の中心に、槍の穂先が激突する。
「ぐぅ……っ!」
リカルドは思わずたたらを踏む。
「リカルドさん下がって! 回復します!」
「済まない!」
咄嗟に、リカルドが飛び退る。こちらの射程内に跳び込むのは面倒だが、敵の射程外に逃げるのは一瞬だ。
ロスヴィータは急いでリカルドにヒールを施す。
「ホントにキリねーな! 連携取れすぎだろ!」
「あっはっは! うちの師団より協調性ありそうだな!」
シュタークの笑い声を背に大きく踏み込んだ旭がレイピアを繰り出すも、別の個体からの攻撃が気になって深追いができていない。頭や胸など、核のありそうな部分への攻撃も、充分な検証とは言えない浅いものだ。
「全員で一斉に動くしか、なさそうですね」
敵は、未だに何処かを庇うような動きを見せていない。となれば、やはり当初の作戦通り一体を突出させるべきだろう。
連携には連携だ。カールの提案に、エアルドフリスは頷く。
「最前衛を一斉攻撃だ。一体を残して、みな押し戻してくれようぞ!」
「が、頑張ります!」
ロスヴィータが、若干緊張気味に御幣を構えた。守る人たちが後ろにいるのだ。決して、ここを通すわけには行かない。
エアルドフリスの秒読みと同時に、前衛が一斉に槍の射程外まで距離を取る。そうすれば、敵は疑いもせずに進軍を始めた。
「行け!」
掛け声が上がった。同時に、前衛が全力で地面を蹴る。
敵は槍を構えるが、来ると分かっていれば怖いものではない。
エアルドフリスの炎の矢と、ロスヴィータの光の球が、前衛の頭上を追い抜いて炸裂した。二体が吹き飛ぶ。
カールの持つ機械性の杖から一条の閃光が迸れば敵の足元が炸裂し、穿たれた穴に亡霊が足を引っ掛ける。
直後に接敵したリカルドが先ほどのように足を払えば、イーディスは一斉に放たれた敵の槍を一手に受け止めた。シュタークは大剣の一振りで、数体を纏めて叩き斬っている。
「せっかくのお膳立てだ。ちょっと死ぬまで付き合えよ」
敵の陣形は、力任せに崩された。旭は身を低く、一足飛びにその懐へ飛び込んでいく。
長柄の弱点は、潜り込まれると基本的に何も出来ないということだ。
旭は猛禽の迫力を伴う笑みを浮かべ、手にしたレイピアの柄を強く握りしめる。そして疾風のように、核のありそうな場所に怒涛の連撃を繰り出した。
頭、心臓、腕、肩、腰、膝――
「旭、後ろだ!」
リカルドの声に、旭が振り返る。
槍の突端が、視線の先にあった。亡霊の腕がぐるりと捻れ、槍が百八十度回転してこちらを向いている。
――リカルドが咄嗟に跳びかかり、槍を弾く。弾かれた穂先は狙いを外し、旭の頬を浅く裂くに留まった。
槍は勢い余って自らの胴体を貫く。鎧に巨大な穴が開いた。
「悪い、助かった!」
「そんなことはいい。それより、核は見つかったのか」
「ああ、何処を突いても庇いもしね―ってことはだ……」
旭はレイピアを投げ捨て、片方の手で亡霊に突き刺さった槍の柄を掴む。そして、もう片方の腕に装備したナックルの拳を、固く握りしめた。
「こいつで決まりだろ!」
槍を引き抜く。同時に、祖霊の力を込めた拳を、槍身に向けて大きく振り下ろした。
ゴッ、と鈍い音と共に、槍が大きく歪む。
そこで初めて、亡霊に表情が現れた。全身を形成する淡い炎のような輪郭が、激しくうねりを上げる。
旭はそれを見てニヤリと笑うと、立て続けに拳を振り下ろした。
声なき声が上がる。亡霊の揺らぐ髑髏は顎が外れんばかりに大きく口を開け旭に向けて手を伸ばし――しかしその手は、何も掴めずに溶けて消えた。
ガランと音を鳴らし、鎧の破片が力なく辺りに散らばる。
「おい皆! 槍だ! 槍をぶっ壊せ!」
旭が叫ぶ。
同時に、飛んできた槍を慌てて躱し、早速その先端に拳を叩きつけた。
「やれやれ、ようやくか。そこそこ楽勝させてくれよ、俺はただの民間人でコックさんなんだぜ?」
リカルドの愚痴る声にも、ようやく見えた光明に高揚する響きがあった。
「なるほど、兵士にとっての魂というわけか。分からないでもないね。……さあ、私が盾になる。皆、存分に敵を討ってくれ」
イーディスは尚も後ずさりながら、ひたすらに攻撃を受け続ける。その顔は無表情ながら、どこかに悲しみが滲んでいる。
「……ふむ、効いてるようだ。それじゃあこいつは如何かね」
旭の活躍を遠目に見、エアルドフリスは敵の側面に回りこんでいた。
亡霊にも感情がある。それは朗報だった。核を攻撃すれば、撹乱も可能かもしれない。期待し、炎の矢を放つ。
「皆さん、最後まで気を抜かないで下さい!」
敵の核が分かっても、敵が弱体化するわけではない。ロスヴィータは、損傷の大きな味方にヒールを掛ける。合間に拳銃での攻撃も忘れない。
「隙を作ります!」
必死に声を上げ、カールはワイヤー製の鞭を振るった。
直進する物体は、横からの力に弱い。飛んできた槍の先端を狙って鞭を振り、巻きつけて軌道を逸らす。
今の自分に出来る事を全力で。その思いが、カールの芯を支えている。
正念場は過ぎ去った。後は力の限り、敵の進軍を阻害するだけだ。
●
全員のスキルが尽きる頃、ようやく帝国の援軍が到着した。残った亡霊も後僅か、すぐにでも殲滅されることだろう。
ハンター達は、大きく息を吐いてようやく覚醒を解いた。
「ちくしょう……もう、動きたくねえ……」
「小さい子とお嬢さんにばかり任せる訳にもいくまいよ。年嵩の者が頑張らねばな」
リカルドを筆頭に、何人かが地面に座り込む。エアルドフリスは壁に背を預け、パイプを燻らせた。
「全員お疲れさん! いやー、あの手のはホント苦手だわ。お前らが来てくれて助かったよ」
そんなところに掛けられるシュタークの元気な声は耳障りこの上ないが、ハンター達は苦笑いで受け流す。
「……まあ、ここにお嬢さんらしからぬ方がいらっしゃる訳ですが」
「あん? どっから見ても立派な美少女だろうが」
「立派といえば、立派で御座いますね。主に身長とか」
そんな他愛のない会話が交わせるのも、結果として、被害はそれほど大きなものではなかったからだ。要人達の避難は無事に完了し、目的は果たしたと言うに相応しい。
やがて遠くで勝鬨が上がる。亡霊の殲滅に成功したのだろうか。
音の方に目を向けて、イーディスは小さく呟く。
「……安心して眠るといいよ。君達の遺志は、私達が継いでいく」
そのうち、花を手向けに来るとしよう。いや、酒の方が嬉しいだろうか。
様々な感情を胸の中に。イーディスは、静かに祈りを捧げるのだった。
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相談卓 カール・フォルシアン(ka3702) 人間(リアルブルー)|13才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/02 22:00:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/31 12:15:41 |