荒れ果てた領地

マスター:びなっす

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/03 07:30
完成日
2018/11/10 12:40

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 リベルタース地方の南西に位置するアドニス領。
 領主は逃げ出し、管理者を失った領地の村々は、襲い来る歪虚や亜人の脅威に晒され続けていた。
 ほとんどの領民は、村を放棄し王都へ逃げ出している状況だ。

 そんなアドニス領の最南端に位置する丘の上には、かつてここを治めていた領主の館が建っている。
 新しく建てられたばかりなのか、年数を感じさせない綺麗な館。 
 この館が建てられた経緯を知る者は、誰もがその綺麗な光景を蔑む。
 元々は危険地帯である領地の中心部に館が建てられていたのだが……領主が我が身可愛さに、歪虚の被害の少ない南端にある丘の上へと館を建てたのだ。

 そんな身勝手な理由で建てられた館に移り住むことになろうとは……特別な事情でこの領地を任せられたクリフォード・アベル・ラヴィンスは、そんな己の身の上に苦笑し、前にいる青髪の騎士へと声を掛ける。
「さて、今ならばまだ間に合う。私の元を離れて王都へ戻るというのなら止めはしない。ここから先は地獄だぞ?」
 彼は館に目を向け言い放つ。
 長い間放置されてきたアドニス領は、既に歪虚と亜人の巣窟だ。ここに民もいなければ、収入源も無い。
 更に武官、文官も、最低限を軽く下回る程しか連れてくることが出来なかった。
 これでは、まともな管理など出来るはずが無い。
 こんな場所を押しつけられたクリフォードは、既に詰んでいる。そんな彼に付いていくという行為は、自殺行為以外のなにものでもない。
 
 だが、言葉を掛けられた青髪の騎士は、表情を顔に出すこと無く静かに言う。
「ご冗談を。私は貴方に忠誠を誓った騎士です。例え地獄の底へと向かおうとも、私は決して離れません」
「そうか。君達はどうだ?」
 彼は、後ろに控える者達にも声を掛けた。
 すると、真っ赤な羽織を纏った文官の女性が、不機嫌そうに言葉を返す。
「そんなついでのように言わないでください、クリフォード様。ここで戻るぐらいなら、最初から来ていません」
「ふふ、それもそうだな。すまなかった」
 彼女の言葉に、クリフォードは微笑する。
 彼の様子は、押しつけられた者のそれではない。
 暗鬱な表情など微塵も見せず、ただ目の前の現実を淡々と受け止めていた。
 それでいて勝算はないかと、常に何かを探っている。
「予想はしていたが、館には亜人が住み着いているようだ。やれやれ……館に入るのも一苦労だな。どうにか出来るか?」
「あの程度であれば問題ありません」
 クリフォードの問いに、青髪の騎士は迷うこと無く断言する。
 彼の他にも戦える者は三人。青髪の騎士はたった四人で、広い館を占拠している邪魔者達を排除できると踏んだ。
 そして、クリフォードもその算段に頷く。 
「……クリフォード様。あれを」
 ふと文官の一人が、館とは反対の場所を指さす。すると、そこから黒い煙が立ち上っていた。
「あの辺りには、村があったはずです。どうやら襲われているようですね」
「ほぉ、まだ村に人が残っているのか……ならば、このまま見て見ぬふりは出来んな」
「しかし、村側へ割ける戦力がありません」
 クリフォード側の戦力は、青髪の騎士の他三名しかいない。余分な戦力など無かった。
「どうしたものか……時に、君は足に自信があったはずだったな?」
「は、はい?」
 訪ねられた彼は、クリフォードのその問いの意味が理解できずにいた。
「君に向かってもらいたい場所があるんだ」



 エスト村は、北部からやってきたゴブリン達の襲撃に遭っていた。
 村の入り口にて、領民とゴブリン達による小競り合いが繰り広げられている。
 鉄のナイフを手にやってくる一体のゴブリン。そこに、どこからともなく木で出来た矢が飛んでいく。
 その矢はゴブリンに命中し、そこを尖らせた石と棒で作った槍を使い、串刺しにする。
「……大丈夫か、みんな!」
 ゴブリンから石の槍を引き抜いた青年グレンは、周りにいる仲間に声を掛ける。
「あぁ、大丈夫だ」
「まだ、なんとかいけるよ」
「奴らは、数がどんどん減ってきてやがる。もう少しの辛抱だ!」
 グレンは皆を鼓舞し、目の前の敵に集中した。

 この村がゴブリンに襲われるのは初めてでは無い。
 ここ何ヶ月間かは、ゴブリンの十数回に及ぶ執拗な攻めを受け続けていた。
 そのせいで多くの村人が死に、生き残ったほとんどの者は王都へ逃げ出した。
 未だにここに残っている者達は、離れられない理由がある者、この世に絶望しきり死を待つ者ぐらいなものだ。
 そんな中、最後まで村を死守しようとするグレン達により作られた『自警団』が、ゴブリンの進行を押しとどめていた。

 もちろん、戦いの専門では無い領民である彼らが、ゴブリンとまともにやり合うのは分が悪い。囲まれれば太刀打ちは出来ないだろう。
 そこで彼らは一計を案じた。
 囲いにより村の一部を囲み、その他の敷地を放棄することにより集中的に村の一部だけを守ることにした。
 わざと狭く作った入り口にゴブリン達を誘導し、一体ずつ確実に仕留められる環境を作り出すことに成功する。
 だがそれは同時に、入り口が突破された場合、逃げ場を完全に失うことにもなる。まさに背水の陣だった。
「グ、グレン! 大変だ!」
 その声は、防衛線とは反対側から聞こえてきた。
 安全なはずの囲いの奥から、血相を変えて走ってくる仲間の姿に、なにやら言い知れぬ不安を感じるグレン。
「どうした、何があったんだ?」
「ゴブリンが……大量のゴブリン達が、後ろから入って来たんだ!」
「な、なにっ!?」
 突然の事態に、グレンだけでなく周りの仲間も絶句する。
「そんな馬鹿な……後ろの壁は、壊されないように何重にも固めてるはずだぞ! そんなに簡単に入って来られるはずが無い!」
「多分、一日だけじゃ無い。今まで攻めてきた時にも、気付かれないように少しずつ壁を崩していたんだ」
 グレンの隣にいる仲間が、重々しい口調で予想する。彼は、村の囲いの発案者でもあり、グレンも彼の言うことを信頼していた。
 だからこそ、その言葉に絶望する。
「今思えば、最近のあいつらの攻めは緩すぎた。グレン……僕たちは、あいつらにしてやられたんだ」
「ふざけるな! 後ろには動けない奴らがいるんだぞ! ニーナだって……」
 ニーナ。それはグレンがここを離れられない理由である少女の名だった。
「諦めろグレン! 囲まれたら、僕たちは終わりなんだ。逃げられる人達と一緒に避難するしか無い」 
「そうだな……お前達は、動ける奴らを捜して手を貸してやってくれ。後は任せた」
「なっ、おいグレン!」
 グレンはそう言い、ボロボロになった石の槍を手に後方へ走り出す。
 守らなければならない者を守るために……

 この村の心の柱であったグレンの決死の行動。
 その背を見送った彼らは、ついにこの村の終わりを覚悟した。
 そんな中、クリフォードの使いからの要請を受けたハンター達が、村へと近付いていた。

リプレイ本文

 ハンターの一行は、緊急事態のため急いで村へとやってきた。
 村に入ると、辺りの民家はボロボロでとても人が住めるような状態ではなかった。
 そんな廃れた村の奥に、事前の情報通り壁に囲まれている場所がある。
 それが村人達が避難しているという囲いで間違いないだろう。
「時間が惜しい。俺は上から行くぞ!」
 そう言い放ち、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は『エアグライディング』で飛行し、壁を飛び越え中へと向かった。
 他のメンバーも、各々の移動手段で急ぎ入り口へ向かう。
 
 壁を越え一番乗りを果たしたレイオスは、目の前の光景を見て気を引き締める。
 辺りには、外の民家よりはましだがそれでもボロボロの状態の民家が複数あり、そこにゴブリンの姿が何体か視認できた。
 よく見ると、ちらほらと村人もいるようで、その内の一人がゴブリンに追い掛けられているようだった。
 すぐさまレイオスは、襲われている村人の救援へ駆け付け、単独で行動していたゴブリンを斬り伏せた。
 半ば諦めていたのか、村人は死んだような表情でただ呆然とレイオスを見詰めていた。
「王国騎士団黒の隊所属、レイオス・アクアウォーカー! 領主の依頼にて助太刀する!」
 領地の状況を聞いていたレイオスは、少しでも領民の支持を得られるよう、領主の事を添えて名乗りを上げる。
「領主……依頼?」
「ああ、よく頑張ったな。後は任せろ」
 状況のよく分かっていない村人に入り口の場所を聞き、他の逃げていた村人を守りながら移動した。 

●状況把握 
 囲いの入り口に辿り着いた一行は、思ったよりも静かな状況を前に拍子抜けをしてしまった。
 そんな彼らにいち早く気付いた緑髪の青年が、警戒しながら近付いてくる。
「あなた達は?」
 彼の質問に、レオナ(ka6158)が優しく答える。
「私達は、ここの領主の依頼を受けて来たハンターです」
「領主に? しかし、領主はこの地を見捨てて逃げ出したはずです……いえ、今はそんな事を言っている場合ではありませんね」
 今の状況を考え思い直した青年は、現在の状況をハンター達に伝えた。
 ここから奥側の壁が壊され、その近くの建物に固まって避難していた村人達が危険に晒されている事。
 それを救出しに、一人の青年が無謀にも向かっていった事を話した。
「奥か!? 分かった任せろ」
「……え?」
 それを聞いたトリプルJ(ka6653)は、即座に行動に移そうとした。
「待ってくださいJ。同時に連絡が取れるように、通信機をリンクさせます」
 初月 賢四郎(ka1046)はトリプルJ、そしてレオナの通信機器も一緒に連結通話にてリンクを行う。
 状況を把握したレオナは、すぐさま『マッピングセット』に村の地図描写を依頼する。
 更に、その傍らではユーレン(ka6859)が傷付いた村人を一か所に集め、ヒーリングスフィアを使用し傷を癒やした。
 状況の危うさを肌で感じ取ったJは、マッピングが終わる前に村人に大まかな場所を聞く。
 そしてリンクが完了した通信機器を受け取り、『天駆けるもの』使用し空中を全力移動し奥の建物へと急いだ。
「自分も空から先行しますので、爾後(その後)の連絡はこれで」
 通信機器をレオナに渡した賢四郎は、緊急性の高い奥の建物へと向かう事に決めた。
 『エアグライディング』、『ジェットブーツ』を使用し、Jの後を追う。
  レオナは村人から得た情報に加え『生命感知』を使い、ゴブリンの位置を把握し、地図と照らし合わせた。
「ゴブリンは奥に集中していて、少しずつですがこちらにも向かってきているようですね」 
「毒矢を使う敵もいると聞く。全滅させるまでは村人を動かさん方が良かろう。我は入り口に残りこちらの守護を行う」
「分かりました。では私は奥へ向かいながら、ゴブリンを倒していきます」
 ユーレンは村人を守るために残り、レオナは村の地図を手に囲いの奥の方へと向かった。
 その様子を呆然と見詰めていた緑髪の青年は、残ったユーレンに問い掛ける。
「本当に……助けて頂けるのですか? こちらは何も渡せるものはありませんよ?」
 青年は、信じられないという顔で聞き返す。
 今まで、第三者の助けなんて有り得ないという状況を生きてきたのだろう。
「大丈夫だ、必ず皆を救ってみせる」
 ユーレンのその力強い言葉に、辺りにいた村人はざわめき、次第に絶望に染まっていた瞳に希望の色が灯っていった。

●救援
 奥の建物の入り口を、グレンは必死に守っていた。
「くそ! 何体いやがるんだ!」
 グレンは三体ものゴブリンを撃破したが、それは相手が単独でこちらへやってきたからだ。
 しかし、直に複数のゴブリンが同時に攻撃を仕掛けてくるだろう。
 空き屋を襲っているゴブリンが、こちらに気付いたとき、それが自分の最後だろう……そうグレンは覚悟していた。
 そんなことを思っていると、グレンの考えを肯定するように、二体のゴブリンが同時にこちらへやってきた。
 ナイフを手に、二体のゴブリンが飛びかかってくる。
 グレンは今にも壊れそうな石槍を持って、この最悪な状況に挑もうとした。
 その時、空から急降下してきたトリプルJが、片方のゴブリンを勢いよく殴り飛ばした。
 そして少し遅れてやってきた賢四郎は、『死人の手札』で、ゴブリンの眉間に光の銃弾を叩き込む。
 ものの一瞬でゴブリンを倒した二人は、グレンを視界に捉えた。
「おい、生きてるかっ!」
「な!? あんた達は!?」
 深手を負っているグレンを目にしたトリプルJは、『ファミリアヒーリング』でグレンの傷を癒やした。
 その様子を見ていた賢四郎は、グレンに呆れ混じりの言葉を放つ。
「やれやれ無謀な博打ですな……が、賭けた価値はあったようですね」
 賢四郎は、言葉を言い終わるや否や『死人の手札』を放つ。
 その先には二体のゴブリンがやってきていたようで、双方の身体にそれぞれぽっかりと穴が出来ていた。
「外のゴブリンは自分がなんとかしましょう。数を相手にするならそこそこ向いてはいますからね」
 建物の守りをトリプルJに任せ、賢四郎は迎撃へと向かった。
「お前がグレンだな? 中のみんなに伝えて来てくれねぇか? 俺たちゃ新しい領主さまの依頼でこの村を助けに来たってな? 金はなさそうだったが理想にゃ燃えてそうな人だったぜ?」
 グレンにそう伝えながら、親しみのあるウインクをする。
「領主……だと?」
 グレンは明らかに戸惑った様子を見せるが、少し経ちすぐに落ち着きを見せた。
「助太刀感謝する……俺達だけじゃどうにもできなかった。ここには怪我や病気で動けない者しかいない。動ける奴らは皆避難させた」
「なるほどな。ってことはここを守るしかねぇみたいだな」
 状況を把握したトリプルJは、救急セットを投げ渡し怪我人の治療もグレンに頼んだ。
「この家に他に侵入可能な場所はねぇよな? 他のハンターもすぐ来る。もう暫く入り口閉めて立て籠もってくれってな?」
「あぁ、重ね重ねの厚意、かたじけない」
 グレンは建物の奥へと入っていく。
 それを見届けたトリプルJは、入り口を絶対に死守しようと構えた。

●村人の防衛
「……敵が来たようだな」
 ユーレンは近付いてくるゴブリン達を睨む。
「大丈夫だ、絶対助けるっ!」
 村人を安心させ脇に隠れているよう伝え、ユーレンは敵に向き合い仁王立ちをした。
 やってきたゴブリンは3体。その内の1体がナイフを手に攻めてくるが、それをユーレンは殴り倒す。
 残るは2体だが……厄介な事に2体共弓を持っていた。
「例の毒矢を使うやつらか……」
 放たれた矢をユーレンは難なく弾くが、もう一つの矢があろう事か村人に向けて放たれた。
 それを瞬時に察したユーレンは、弓の射線に出て自らが矢を受け、すぐさまキュアで毒を回復した。
「ど……どうして、そこまでするんですか?」
 自らの犠牲のいとわないユーレンの行動に対し、青年は疑問におもうが……対し、ユーレンは当然のように答える。
「なんの守りも無い皆があれを受けるよりも、我が受けたほうが被害が少なく済む」
 彼女のそれには何の含みの無く、ただそうすることが一番いいと思っただけのことだ。
 しかし、状況は厄介だった。弓兵は2体。距離は離れていて、ここを離れれば村人達を守ることが出来ない。
 すると途端に、弓兵の1体が、どこからともなく飛んできた矢により倒される。
「大丈夫か、ユーレン!?」
 レイオスが声を掛けながら、何人かの村人を引き連れ入り口へとやってきた。
 おそらく彼らは、奥の建物から避難してきた者達なのだろう。
 突然現れたレイオスに、残った弓兵が毒矢を射る。
 それを見たユーレンは、『ホーリーヴェール』で光の防御壁を作りレイオスを守った。
 弓兵の矢は防がれ、入れ違いに放ったレイオスの矢が弓兵を貫く。
 すると、いつの間にか駆け付けていたゴブリン達が、破れかぶれに突っ込んできた。
 それに対し、レイオスは『ガウスジェイル』により攻撃を自身に引き寄せ『カウンターアタック』で倒す。
 その間に村人を入り口に誘導し、守りをユーレンに任せ『衝撃波』『薙ぎ払い』で敵を一掃した。
「この場から一匹たりとも逃さねぇよ!」
「皆の守りは我に任せろ」
 レイオスとユーレンは、連携して入り口を守り続けた。

●最後の詰め
 少しずつ村の奥へと来ていたレオナは、賢四郎、トリプルJと連絡を取りつつ状況を見る。
 『生命感知』と賢四郎の空中からの情報により、ゴブリンの位置は大体分かった。
 囲まれないように……そして、奥の家や入口の方へ逃亡されないように計算しながら進む。
 大袈裟な音発生させゴブリンを引き寄せ、『地縛符』を敷きつつ、レオナへ向かってくるゴブリンの脚を止めていく。
 そうしてゴブリンが一カ所に集まったところで、まとめて『五色光符陣』で焼き払った。
 そうして一帯のゴブリンを撃破したレオナは、トリプルJの情報で奥の建物に少しずつゴブリンが集まっている事を知る。
 挟撃を狙うため、レオナは急いで奥の建物へと向かった。

 賢四郎は、通信でレオナから挟撃の申し出を受けた。
 確かに、そろそろ詰めに掛かる頃合いだ。
 そんな収束に向かっている現状を眺め、賢四郎は依頼を受けたときの一件を思い出していた。
『一つ貴方方に、尋ねたいことがあるのですが』
 領主の使いという男が依頼の内容を話した後、賢四郎は疑問を抱き、つい問い掛けていた。
 聞けば、この領地は既に前領主が見限り離れていった場所だという話だ。
 領地は長らく放置され、立て直すには些か手遅れな状況だろう。
『普通に考えれば算盤が合わないと手を引くべき所にわざわざ依頼まで出す……なら聞かせて貰えませんかね?』
 賢四郎が知りたいのは、この土地の可能性だった。一体何を思い、何に賭けているのかを。
『この土地の可能性……ですか。とは言っても、ここに来た時はほとんど0に近かったのですけどね』
 使いの男性は、そう苦笑しながら答える。
『私も領主であるクリフォード様に、同じような問いをしました。その時、あの方がおっしゃった言葉はこうです』
 使いの男は、思い出しながら言葉を口にする。
『可能性などやろうと思えばどうとでもなるものだ。最悪周辺の領地を巻き込んで事を起こすのもいい。多少強引な手も残っていると言えば残っているからね。港町のガンナ・エントラータに繋がりを求めるのも面白そうだ。そう、『領民』さえ機能さえしていればどうとでもなる……彼らが今まで生き延びたということは、それなりに強い意志があったということだ。そういう意思を持った者がいるのなら、まだまだ出来ることがある』
 使いの男は一旦区切り、賢四郎を見据え言葉を続ける。
『我が領主は、この村に数少ない可能性を見出しているのです……今回の依頼、くれぐれもよろしくお願いいたします』
 深々と慇懃な礼をする使いに対し、賢四郎は答えに不足を感じていた。
 彼が求めていたのは、確実性のある算段だったのだが……聞くに、ただの危険な綱渡りのように思えた。
 しかし、そんな彼の行動により、摘み取られるはずだった僅かな可能性がこうして生き残ろうとしているのもまた事実だ。 
「なるほど……有能かどうかは分かりかねますが、少なくとも無能ではないようですね」
 と、賢四郎はそう結論づけた。
「ならば、今はその可能性を繋げましょうか」
 賢四郎は残る『死人の手札』を最大限に利用し、数を減らしつつ、残ったゴブリン達を上手く中央へと誘導した。

 奥の建物の前には、次々とゴブリンがやってきていた。
 建物の入り口を死守していたトリプルJは、今も複数のゴブリン相手に奮戦している。
 向かってくる相手を次々に殴り倒し、近付いてこない敵は『ファントムハンド』で引き寄せ殴飛ばした。
 辺りには倒れたゴブリンが積み上がっていく。
 途中で毒矢を持つゴブリンと、魔法を使うゴブリンもやってきたが……賢四郎の的確な援護により、被害を受ける前に撃破された。
「そろそろ、数も減ってきたな。あと一息ってところか?」
 ゴブリン達もここまで来ると、さすがに劣勢だと気付いたようで逃走も視野に入れようとする。
 しかし、後方からやってきたレオナによって、挟まれ逃げ場を失ったゴブリン達。
 賢四郎の『死人の手札』、そしてレオナの『五色光符陣』により、次々と攻撃を受けやがて一体残らず消滅していった。

●その後
 戦闘が終わり奥の建物に集まった村人達は、ハンター達に心から感謝し、涙を流しながら喜んだ。
「本当にありがとうございました」
「あんた達のおかげで、わしらは死なずにすんだ」
 そんな中、青年グレンは不安そうな面持ちをしていた。
 そこで緑髪の青年が口を開く。
「グレン、ここは素直に喜ぼう。新しい領主がどんな人間だったとしても、こうして命が助かったのは本当に喜ばしい事なんだから」
「ああ、そうだな……あんた達がいなければ、俺達は今頃皆殺しにされていた。本当にありがとう」
 グレンは頭を深く下げ、ハンターの皆に最大限の感謝を伝えた。
 そんな彼に向かって、レイオスとトリプルJはにこやかに言う。
「何を不安がってんのか分からねーけど、新しい領主はここを復興させたいんだってよ」 
「少し癖のありそうな領主さまかもしれねぇが、裏があるようには思えなかったぜ」
「民を思って行動できる立派な領主だ。ここも良くなっていくだろう」
 ユーレンも続いてそう言う。
「……村の皆さんが親しんだ場所で暮らしていけるのはいいことです。是非、復興が上手く行くといいですね」
 レオナも優しく微笑む。
 『復興』。その言葉に、希望を見出す多くの村人の姿があった。
 
 こうして、今回の依頼は村に大きな被害も出ず死者も無い、最高の結果に終わった。
 復興への第一歩は、ハンター達によって見事果たされたのだった。

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧

  • 矛盾に向かう理知への敬意
    初月 賢四郎(ka1046
    人間(蒼)|29才|男性|機導師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 遊演の銀指
    レオナ(ka6158
    エルフ|20才|女性|符術師
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 黒鉱鎧の守護僧
    ユーレン(ka6859
    鬼|26才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
初月 賢四郎(ka1046
人間(リアルブルー)|29才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/11/03 07:20:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/02 07:38:23