ゲスト
(ka0000)
【空蒼】大型輸送シャトルを守れ!
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/06 09:00
- 完成日
- 2018/11/09 16:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●打ち上げ基地に到着
ついに、冴子と美紅を含めた避難民を護衛する強化人間部隊は、最寄りの軍事基地にまで辿り着いていた。
激しい戦いで重傷を負っている者が多く、皆疲労で疲れた顔をしている。
とはいえ希望が見えているということで、活力が戻ってきていた。
基地の入口には歩哨と基地の高官らしき人物が立っていて出迎え、この軍事基地がまだしっかりと機能していることを示していた。
「避難所防衛に当たっていた強化人間部隊、ただいま到着いたしました!」
敬礼した強化人間部隊の隊長に、基地の高官は次の任務を言い渡す。
「ご苦労! 上からの指示を伝える。シャトルの打ち上げ時刻が迫っている。補給を済ませ速やかに搭乗し、引き続き月シェルターを目指し避難民の護衛任務に当たれ!」
「はっ! 拝命いたしました!」
「我々は最後の任務として、シャトル打ち上げまでの間防衛任務に就く! ……生きろよ、ガキども」
高官の言葉に思わず敬礼を崩した強化人間部隊の隊長は、高官の背後に立つ歩哨たちが、いつ戦闘になってもいいように完全武装しているのに気が付いた。
シャトルの防衛任務に就くということは、そのシャトルには乗らないということだ。
そしてそのシャトルは、この基地で月に向かう最後のシャトル。
軍用の、本来ならCAMを宇宙に上げるために用いられる、大型輸送用シャトルだ。この大きさならば、彼らも乗ることは、十分可能だろうに。
堅苦しい口調を崩した高官は、物問いたげな強化人間兵たちの視線を受け不意ににやっと笑った。
「この基地には防衛用に強化人間が乗る前提でCAMが配備されているが、配属されていた強化人間たちは、連日の防衛戦で皆死んじまった。あのシャトル以外輸送機や輸送車は残ってないから他の基地にも回せねぇ。使えねぇ俺たちがこのまま腐らせておくよりはマシなはずだ。宇宙で敵に遭遇する可能性はゼロじゃねぇ。好きなCAMを持っていけ」
言葉の意味を理解した強化人間部隊の隊長は、立ち去る高官に、今度こそ最敬礼で答えたのだった。
●地球に、さよならを
強化人間用CAM四機とハンターたちが持ち込んだCAMを積み込み、冴子と美紅を含めた避難民たちと、強化人間部隊、そしてハンターたちを乗せたシャトルが、打ち上げ準備に入る。
避難民たちはようやく安堵の息をつき、強化人間兵たちは、基地を防衛するために地球に残る兵士たちをじっと真剣な表情で見つめている。
「あと、もう少しなんだね。長かったようで、短かったのかな」
「思えば、不思議だよね。私たち、ただの高校生だったのに、今じゃ軍事基地にいて、これから月に飛ぶんだよ」
不安げな面持ちの冴子とは対照的に、美紅は少し興奮している。
ゼロG空間も体験できるのかなとはしゃぐ様子はまるで子どものようだ。
いや、まだ高校生なので冴子も美紅も子どもには違いないのだが。
基地ではシャトルを守る兵士たちが最後の戦いを始めていた。
失敗できない大事なシャトル打ち上げが待っていても、それを暴走者やVOIDたちが酌んでくれるはずもない。
故に、地球に残る防衛部隊が絶対に必要なのだ。
その役目はクリムゾンウエストに帰還するという最後の手段を持つハンターたちこそが適任だという声がなくもなかったが、ハンターたちには最後まで避難民たちの傍についていて欲しいというのが、基地の高官の判断だった。
シャトルが空に向けて打ち上げられる。
大きな噴射音を巻き散らして飛んでいくシャトルは、やがて地上からは見えなくなった。
打ち上げは、無事に成功した。
ただし基地はVOIDと暴走者だらけで、防衛していた兵士たちに、もはや退路はない。
「行きやがったか」
壮年を迎える高官が、軍帽を深く被り直す。
そして、大音声で号令を発した。
「我々も足掻けるだけ足掻くぞ! ……総員、戦える者は武器を持て!」
こうして、基地防衛部隊最後の戦いが幕を開けた。
●VOIDが……!
シャトルの飛行は順調だった。スクリーンに映される宇宙の景色は平和で、搭載されたレーダーも問題なく飛行していることを示している。
現在主要な戦闘地域は邪神が顕現している地上だから、宇宙なら襲われる心配も少ない。
……はずだった。
切欠は、外を見張っていた強化人間兵の一人がもたらした報告だった。
「待て! あれ、味方じゃないか!? 前方の、デブリ密集地帯の中をCAMの部隊が進んでる!」
「該当CAMにVOIDの反応を確認! CAMではありません! VOIDです!」
輸送シャトルのメインカメラが捉えた映像に映ったのは、パーツのところどころが狂気VOIDの生体部分と置き換わったような外見のCAMだった。
間違いない。VOIDだ。
VOID発見。シャトルが撃墜される恐れあり。
そうなってしまえば、ここまで来て全滅は免れない。
「大変です! VOIDたちがこちらに気付いて転進、近付いて来ます!」
「CAMの出撃準備急げ! 何人出れる!?」
「三人が限度です! 機体自体は四機積み込まれていますが、私たちも損耗が多過ぎます! 操縦できるパイロットが足りません!」
その時轟音とともにシャトルが大きく揺れ、強化人間兵たちの間からも悲鳴が上がる。
「何が起きた! 報告しろ!」
「VOIDの攻撃です! エンジンルームに被弾! 火災発生、エンジンの出力低下! ダメージコントロールが必要です!」
「駄目だ! 僕たちはここから離れられない! 手が足りないぞ!」
「輸送用倉庫の避難民たちから事情説明を求める内線電話が入っています! 避難民たちの間でも、動揺が広がっているようです!」
カメラのうち、サブカメラの映像を見張っていた強化人間兵が悲鳴のような声を上げた。
「輸送用倉庫近くの外壁に小型VOIDが取りついています! ああっ! シャトルの外壁が一部破損、通路に侵入されました! このままでは輸送用倉庫にいる避難民も襲われます! 通路内の気圧低下止まりません!」
「隔壁を下ろして気圧を安定させろ! VOIDに対しても時間稼ぎになる! 急げ、ハンターにも応援を要請するんだ!」
シャトルに危機が迫りつつあった。
●少女たちの選択
響いた轟音は冴子と美紅にも伝わっていた。
強化人間兵は、どうやら見つけたVOIDたちの殲滅を図るらしい。
しかし、出撃準備をしているCAMがたった三機なのに対して、近付いてくるVOIDCAMは十体もいる。
今まで戸惑うばかりだった冴子が、事態を理解して初めて自分から動いた。
「私、避難民の方を見てくる! この状況で暴動でも起きたら、最悪シャトルが落ちるかもしれない!」
「なら、私は先に強化人間たちの方に行く! 私だって、本質的には強化人間と変わらない! やれることはきっとあるわ!」
迷わず冴子と美紅は別々の方向に走り出した。
己のできることを探し、それを果たすために。
ついに、冴子と美紅を含めた避難民を護衛する強化人間部隊は、最寄りの軍事基地にまで辿り着いていた。
激しい戦いで重傷を負っている者が多く、皆疲労で疲れた顔をしている。
とはいえ希望が見えているということで、活力が戻ってきていた。
基地の入口には歩哨と基地の高官らしき人物が立っていて出迎え、この軍事基地がまだしっかりと機能していることを示していた。
「避難所防衛に当たっていた強化人間部隊、ただいま到着いたしました!」
敬礼した強化人間部隊の隊長に、基地の高官は次の任務を言い渡す。
「ご苦労! 上からの指示を伝える。シャトルの打ち上げ時刻が迫っている。補給を済ませ速やかに搭乗し、引き続き月シェルターを目指し避難民の護衛任務に当たれ!」
「はっ! 拝命いたしました!」
「我々は最後の任務として、シャトル打ち上げまでの間防衛任務に就く! ……生きろよ、ガキども」
高官の言葉に思わず敬礼を崩した強化人間部隊の隊長は、高官の背後に立つ歩哨たちが、いつ戦闘になってもいいように完全武装しているのに気が付いた。
シャトルの防衛任務に就くということは、そのシャトルには乗らないということだ。
そしてそのシャトルは、この基地で月に向かう最後のシャトル。
軍用の、本来ならCAMを宇宙に上げるために用いられる、大型輸送用シャトルだ。この大きさならば、彼らも乗ることは、十分可能だろうに。
堅苦しい口調を崩した高官は、物問いたげな強化人間兵たちの視線を受け不意ににやっと笑った。
「この基地には防衛用に強化人間が乗る前提でCAMが配備されているが、配属されていた強化人間たちは、連日の防衛戦で皆死んじまった。あのシャトル以外輸送機や輸送車は残ってないから他の基地にも回せねぇ。使えねぇ俺たちがこのまま腐らせておくよりはマシなはずだ。宇宙で敵に遭遇する可能性はゼロじゃねぇ。好きなCAMを持っていけ」
言葉の意味を理解した強化人間部隊の隊長は、立ち去る高官に、今度こそ最敬礼で答えたのだった。
●地球に、さよならを
強化人間用CAM四機とハンターたちが持ち込んだCAMを積み込み、冴子と美紅を含めた避難民たちと、強化人間部隊、そしてハンターたちを乗せたシャトルが、打ち上げ準備に入る。
避難民たちはようやく安堵の息をつき、強化人間兵たちは、基地を防衛するために地球に残る兵士たちをじっと真剣な表情で見つめている。
「あと、もう少しなんだね。長かったようで、短かったのかな」
「思えば、不思議だよね。私たち、ただの高校生だったのに、今じゃ軍事基地にいて、これから月に飛ぶんだよ」
不安げな面持ちの冴子とは対照的に、美紅は少し興奮している。
ゼロG空間も体験できるのかなとはしゃぐ様子はまるで子どものようだ。
いや、まだ高校生なので冴子も美紅も子どもには違いないのだが。
基地ではシャトルを守る兵士たちが最後の戦いを始めていた。
失敗できない大事なシャトル打ち上げが待っていても、それを暴走者やVOIDたちが酌んでくれるはずもない。
故に、地球に残る防衛部隊が絶対に必要なのだ。
その役目はクリムゾンウエストに帰還するという最後の手段を持つハンターたちこそが適任だという声がなくもなかったが、ハンターたちには最後まで避難民たちの傍についていて欲しいというのが、基地の高官の判断だった。
シャトルが空に向けて打ち上げられる。
大きな噴射音を巻き散らして飛んでいくシャトルは、やがて地上からは見えなくなった。
打ち上げは、無事に成功した。
ただし基地はVOIDと暴走者だらけで、防衛していた兵士たちに、もはや退路はない。
「行きやがったか」
壮年を迎える高官が、軍帽を深く被り直す。
そして、大音声で号令を発した。
「我々も足掻けるだけ足掻くぞ! ……総員、戦える者は武器を持て!」
こうして、基地防衛部隊最後の戦いが幕を開けた。
●VOIDが……!
シャトルの飛行は順調だった。スクリーンに映される宇宙の景色は平和で、搭載されたレーダーも問題なく飛行していることを示している。
現在主要な戦闘地域は邪神が顕現している地上だから、宇宙なら襲われる心配も少ない。
……はずだった。
切欠は、外を見張っていた強化人間兵の一人がもたらした報告だった。
「待て! あれ、味方じゃないか!? 前方の、デブリ密集地帯の中をCAMの部隊が進んでる!」
「該当CAMにVOIDの反応を確認! CAMではありません! VOIDです!」
輸送シャトルのメインカメラが捉えた映像に映ったのは、パーツのところどころが狂気VOIDの生体部分と置き換わったような外見のCAMだった。
間違いない。VOIDだ。
VOID発見。シャトルが撃墜される恐れあり。
そうなってしまえば、ここまで来て全滅は免れない。
「大変です! VOIDたちがこちらに気付いて転進、近付いて来ます!」
「CAMの出撃準備急げ! 何人出れる!?」
「三人が限度です! 機体自体は四機積み込まれていますが、私たちも損耗が多過ぎます! 操縦できるパイロットが足りません!」
その時轟音とともにシャトルが大きく揺れ、強化人間兵たちの間からも悲鳴が上がる。
「何が起きた! 報告しろ!」
「VOIDの攻撃です! エンジンルームに被弾! 火災発生、エンジンの出力低下! ダメージコントロールが必要です!」
「駄目だ! 僕たちはここから離れられない! 手が足りないぞ!」
「輸送用倉庫の避難民たちから事情説明を求める内線電話が入っています! 避難民たちの間でも、動揺が広がっているようです!」
カメラのうち、サブカメラの映像を見張っていた強化人間兵が悲鳴のような声を上げた。
「輸送用倉庫近くの外壁に小型VOIDが取りついています! ああっ! シャトルの外壁が一部破損、通路に侵入されました! このままでは輸送用倉庫にいる避難民も襲われます! 通路内の気圧低下止まりません!」
「隔壁を下ろして気圧を安定させろ! VOIDに対しても時間稼ぎになる! 急げ、ハンターにも応援を要請するんだ!」
シャトルに危機が迫りつつあった。
●少女たちの選択
響いた轟音は冴子と美紅にも伝わっていた。
強化人間兵は、どうやら見つけたVOIDたちの殲滅を図るらしい。
しかし、出撃準備をしているCAMがたった三機なのに対して、近付いてくるVOIDCAMは十体もいる。
今まで戸惑うばかりだった冴子が、事態を理解して初めて自分から動いた。
「私、避難民の方を見てくる! この状況で暴動でも起きたら、最悪シャトルが落ちるかもしれない!」
「なら、私は先に強化人間たちの方に行く! 私だって、本質的には強化人間と変わらない! やれることはきっとあるわ!」
迷わず冴子と美紅は別々の方向に走り出した。
己のできることを探し、それを果たすために。
リプレイ本文
●事態に対応せよ
強化人間三人と美紅、そして船外の対応をしようとCAMを取りに来たハンターたちが格納庫で鉢合わせる。
「お前らはシャトルの直掩だ。抜けて来た奴は集中攻撃して確実に落とせ!」
強化人間と美紅に指示を出し、アニス・テスタロッサ(ka0141)はレラージュ・ベナンディを起動させた。
格納庫にある輸送用の大型通路はエアロックに直通しており、床が自動で動くので乗り込めばそのまま出撃することができる。
R7エクスシアのウィザードに乗って出撃したエルバッハ・リオン(ka2434)は、船外でのVOIDCAMの迎撃を担当する。
周りに展開しているCAMは、同じく船外で行動を共にし、VOIDCAMと戦う味方機だ。
第一条件として、シャトルからVOIDCAMの注意を逸らさなければならない。
(最悪、集中砲火を浴びることになっても、派手に攻撃して注意を引き付けなければいけませんね)
無茶な特攻をするつもりはないが。
サクラ・エルフリード(ka2598)は自らのCAM、魔導型デュナミスに乗り込み、船外に出た。
『こちらで把握している該当VOIDCOMのマーカーをCAM全機のモニターに送信します!』
同時にシャトルのコックピットから通信が入る。
強化人間兵のオペレーターだ。
成人していない少女である彼女は、速やかにシャトルのレーダー情報をCAMのモニターに送った。
敵を示す赤いマーカーが次々浮かび上がる。
コンフェッサーに搭乗したエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は、シャトルから注意を引き剥がすため船外対応を行う。
多数へ圧力をかけ戦線維持を図り、奇襲で撃破効率を向上させる狙いだ。
また、敵の包囲に対して味方と分業し警戒網を構築できればいうことはない。
「シャトルの防衛はお任せします。私たちでVOIDCAMを叩いてきますので」
強化人間兵と美紅にシャトル直掩を依頼し、エラは宇宙に飛び立った。
CAM搭載の通信機からシャトル内の様子が伝わってくる。
(皆さんこそ、すべての世界の希望です。シャトルは必ず守ります)
出撃したミオレスカ(ka3496)は、モニターに映るデブリ帯を見ながら戦闘方針を考えていた。
(敵が遠いうちはロングレンジマテリアルライフルで攻め寄りましょう。ヘビーガトリングの射程になったら制圧射撃。こんなところですね)
強化人間と美紅分の計四つトランシーバーを準備した鳳凰院ひりょ(ka3744)は、CAMに搭乗する前それぞれに渡した。
美紅が必死の形相で操縦マニュアルを読んでいる。
「R7エクスシアに乗るのは初めてかな? 良ければ簡単に操縦方法を教えるけど」
「お願いします!」
真剣に美紅はレクチャーを聞いた。
「私の名前は久我・御言! 諸君、よろしくしてくれたまえ」
堂々とした態度で名乗った久我・御言(ka4137)が、月光に搭乗する。
「シャトルを守ろう。まさしく乗りかかった船だしね。皆の未来をともに守り通そうではないか。約束したね? 必ず送り届ける、と。今こそ果たそう」
笑顔でここまで来た彼らを労い、請け負う。
(そうだとも、ハッピーエンド以外は認めない)
決意を胸に秘め、御言は月光を出撃させた。
「命をかけて託された仕事だからねぇ……。私だってもとはエンジニア、やってやろうじゃないっ。ルビィ、行くよっ!」
岩井崎 メル(ka0520)がオートソルジャーのルビィを連れて走り出す。
メル自身は船内の歪虚掃討をするつもりだ。
殲滅次第、シャトルの修理を支援する。
終了後夢路 まよい(ka1328)に合流し、船内の安全確保を伝え、避難民の動揺を抑える手助けをしたい。
ルビィには船体の破損口の修理とシャトル直掩を行わせる。
「内と外、両方に対応を割かれるのは痛いな。中も中で敵の駆逐と設備復旧に避難民の相手……一つずつ片づけていくしかあるまい」
ロニ・カルディス(ka0551)は、無線機でハンターたちや強化人間たちと連絡を取り合えるよう準備し、方針を伝える。
「シャトルの安全を優先しつつ敵を排除してくれ。消火や避難民対応に最低限の人手を割きつつ、敵の破壊活動を妨害して撃破を試みるんだ。シャトルの設備が壊れないよう注意しろ」
船内に潜入した歪虚の撃破を目的に、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は動き出す。
(チッ……しつけぇ男は嫌われンだぜ? ストーカーも大概にしやがれクソ歪虚がぁ!)
侵入してきた歪虚を探し、討伐するのだ。
船の中が狭く斧が振るえない場合も考えなければならない。
CAM用の大型輸送シャトルなのでサイズそのものは大きいが、結局大きいのは輸送に使う部分だけだ。
使用想定外になっている通路などは人間サイズしかない。
「ミグ・ロマイヤーじゃ。そなたらの支援をするぞ」
そういいつつシャトルのコクピットに入ったのは、チビのロリドワーフ、ミグ・ロマイヤー(ka0665)である。
「そなたらは船外への対応に集中するのじゃ。内部対応は任されよう」
(これだけの大型シャトルともなれば船内の管理システムはコクピットに統合されているはず……当たりじゃな)
機導師として機械知識を使い、シャトルの地図を呼び出すと通信の準備をする。
船内組との通話を開いた。
「大精霊の名の下に。流浪のシスター、シレークスが参りますですっ! インフラマラエっ! 気合入れていきやがりますですよっ!!」
「うにゃ~(ご主人様は相変わらず豪快過ぎるのにゃ)」
早期の鎮火及びダメージコントロールを目指すシレークス(ka0752)は、聖印が手の甲に浮かび上がった両手で、持てる限りの資材、及び消化器を担いで大急ぎでエンジンルームへ向かう。
インフラマラエにも修理機材を持たせて現場に急いだ。
レイア・アローネ(ka4082)はエンジンルームの消火作業に当たるため、格納庫のオートソルジャーを取りに行く。
コックピットから通信が入った。
ミグだ。
『CAMの搬入通路を使うがよい! 連れ歩くのに十分な広さがある!』
「利用させてもらおう!」
オートソルジャーがあれば単純に人手が二倍になるし、対VOIDとしても助けになる。
当然レイア自身にも戦士としての頑強さとストライダーとしての身のこなしがある。
シャトル内で消火、修理活動を行うと決めた霧島 百舌鳥(ka6287)は、途中の通路で冴子を連れたまよいと鉢合わせた。
「やぁ冴子君! ボクはエンジンルームを見てこようと思う、戦闘は専門外だからね! 適材適所といったところさ!」
「分かりました! 私は輸送用倉庫の様子を見てきます!」
「待ちたまえ! おそらくボク一人では手が足りないんだが、君も手伝ってくれないかい?」
「では、終わった後で向かいます!」
「ああ、それで頼むよ!」
百舌鳥と別れ、冴子と一緒に輸送用倉庫へ向かう最中、まよいは冴子に尋ねた。
「あっちに行かなくて良かったの?」
「もちろん心配です。でも、避難民の人たちも心配なんです……! 自棄になられたらと思うと……!」
まよいにはその気持ちがよく分かった。
(故郷を離れることへの不安がある中で、ここで死ぬかもしれないと思ったら、もっと不安にもなるよね。でも、自棄になって良くなることは何もないよ。私たちを信じて欲しいな)
それぞれの思いを胸に、事態は進む。
さあ、依頼の始まりだ!
●船内対応~コックピットにて
ミグはまず機器関係の扱い方を調べた。
「ふむ。やるべきことはいっぱいじゃな」
把握が終わるとするべきことを思い浮かべる。
まずは、エンジンルーム火災への対処だ。
燃料が供給され続けている限りエンジンの火災など消えるわけがない。
エンジンルームのタンクに供給される燃料をカットして、消火しやすいように支援する必要があるだろう。
「操作盤は……これかのぅ」
ただ、燃料供給を断つということはやがてエンジンが止まるということで、急に船体が慣性航行になったらシャトルを操作する強化人間たちの間で混乱が広がるかもしれない。
「エンジンへの燃料供給を一時的にストップさせようと思うのじゃが、どうじゃ」
「お願いします! その辺りの判断は、一任しますので!」
(……簡単に預けてくれるのう。信頼されておるのか、それともそこまで余裕がないのか)
苦笑しつつ、許可を取れたので燃料の供給を速やかに止めた。
消火が済めば、修理の状況を見て再始動のタイミングを強化人間たちに指示すればいい。
次は船内に侵入したVOIDの殲滅に向かう組への支援だ。
シャトル内の地図を呼び出し、下ろされている隔壁を確認するとそこから侵入地点を特定する。
最短経路を地図を見ながら通信で伝え、必要に応じてさらに隔壁を下ろせるよう、場所と操作手順を復習する。
「……壊されそうじゃな。次の隔壁を展開じゃ」
新しい隔壁を下ろし、壊れかけの隔壁は開閉を繰り返し、VOIDを挟み込んだり押しつぶすなど、やれる限りのことを試してみる。
「まあ、文字通り気休めじゃな」
元々壊れかけだったせいもあるのか、VOIDたちは隔壁を壊して下から元気に這い出てきたが、多少は時間稼ぎにもなったはずだ。
●船内対応~輸送用倉庫にて
まよいと冴子は、改めて輸送用倉庫へ向かうべく進路を取る。
「私の後ろからついてきてね。万が一の可能性だけど、隔壁を壊してVOIDがうろついてるかもしれないから」
「分かりました……!」
ミグから通信が入った。
『隔壁を迂回するルートを教えよう。そなたなら大して問題にならぬかもしれんが、一般人を巻き込んではまずいじゃろ』
「私にだってこれがあります!」
オートマチックを握り締める冴子だが、震えている両手と血の気が引いた顔を見れば、誰もが無茶をするなと思うに違いない。
道中、まよいは歌っていた。
「穢れし魂 もたらす災禍 精霊の加護にて 幻のものとせん」
澄んだまよいの歌声を聞くと、不思議なことに冴子の気持ちが安らいでいく。
これは冴子が狂気に囚われることを警戒してのまよいの気遣いだったが、ハンターについてまだよく知らない冴子はまよいが何をしているのか分からない。
「あの……何してるんですか?」
分からないなら聞けばいいとばかりに尋ねた冴子へ、まよいはにこりと笑いかけた。
「VOIDが出てきた時のための警戒だよ」
幻想的な歌と舞踊が、詠唱となって冴子に狂気に耐える力を与えている。
その事実は分からなくとも、不思議な力が自分の身に満ちていることは、冴子もなんとなく感覚で理解していた。
同時に、まよいが気遣ってしてくれたことであることも。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
穏やかな表情を浮かべて礼を告げた冴子に対し、まよいは小さな身体で胸を張った。
輸送用倉庫に着いた。
「ねえ、外の隔壁は何なの!?」
「さっきの大きな物音は!?」
「CAMが全部出ていったぞ! このシャトル、まさかVOIDに狙われてるのか!?」
中に入った途端、血走った目の避難民たちに冴子が捕まる。
「これから説明するから、静かにしてねー」
まよいは冴子の言葉を避難民が聞いてくれるように、サポートを行う。
不安になる気持ちも理解できるが、説明をするためにもまず静かにしてもらわないといけない。
「まずは落ち着いて私たちの言葉を聞いてね」
一瞬収まりかけた混乱は、輸送用倉庫の外から一際大きな破壊音が鳴ったことで再び広がってしまった。
どうやら隔壁が一つ破られたらしい。
ミグがすぐに次の隔壁を展開して難を逃れたようだが、輸送用倉庫の内壁一つを隔ててVOIDたちが隣にいることになってしまった。
しかも壁越しに殴打音まで聞こえてくる。
だいぶまずい状況だ。
「ど、どうしたら……」
冴子が途方に暮れている。
避難民を落ち着かせるため、まよいは己の幻獣であるトラオムに一曲奏でてもらった。
直接心を揺さぶる旋律の巨躯を聞いた避難民たちが、次々悲嘆に暮れた表情で静かになっていく。
「ちゃんと事態の解決に動いてくれてるハンターたちがいるから、大丈夫だよ」
どさくさにまぎれて冴子まで落ち込んでいたので、トラオムに新しく別の曲を弾いてもらって、避難民と一緒に落ち着いてもらうことにした。
午睡を誘う優しい旋律の曲が演奏される。
ゆったりとした旋律が、冴子や避難民たちの表情を解き解していった。
「……とても、綺麗な曲ですね」
ぽつりと冴子が呟く。
演奏を終えたトラオムが恭しく一礼した。
●船内戦闘~侵入したVOIDを排除せよ
移動中、コックピットのミグから通信が届いた。
『VOIDにいくつか隔壁を壊された。別の隔壁を下ろして引き続き隔離を続けておる』
即座にメル、ロニの両名と情報を共有する。
輸送シャトル内はCAMの輸送及びその部品や武装などの搬入に使われる通路がぐるりと一周しており、そこを通れば各施設へと向かうことができる。
ボルディアは狭く斧が振るえない場合も考え、魔脚と呼ばれる戦闘用靴も装備してきている。
いざとなれば、蹴りで敵を切り裂いて攻撃するのだ。
「損傷を与えないよう細心の注意を払わなきゃな。攻撃の余波で船が壊れたらシャレにならねぇ」
しかもミグがいうには、VOIDが閉じ込められている通路は輸送用通路のすぐ近くにあり、輸送用倉庫に雪崩れ込む危険性があるとのこと。
そうなれば待つのは地獄である。
おそらく避難民たちでは生き残れまい。
『破損個所には近付くでないぞ。吸い出されたくなければな』
「どれくらい壊れてるの?」
尋ねてみたメルにメグから通信で返事が返ってくる。
『一メートルほどじゃ。それ故吸い出す力は強くはないが、楽観はできん』
「なるほど。念のため宇宙服を着た方がいいね。エアロックに寄ろう」
宇宙服を借用して着用する。
その後格納庫でルビィに自分たちの行動を説明するとともに、ロープで腕に通信機を結び付け、修理資材の受け渡しをする。
「資材を受け取ったら、エアロックから船外に出て破損個所の修復を行って。修復が完了次第、『短伝話のスピーカーをONにして三回ノック』。覚えた?」
ルビィは首肯し、メルが腕に結び付けた通信機のスピーカーをONにして三回軽く叩いた。
一応VOIDの状況はミグにモニターしてもらっているが、それとて完全ではないのでメルは精霊に祈りを捧げておく。
こうしてマテリアルを高めることで、戦闘意欲を向上させ、身体能力を上昇させるとともに抵抗力も高めておくのだ。
問題の通路へ到着する。
隔壁の向こうからガンガン叩かれる音が響いている。
ミシミシ音を立てていて、いつ壊れてもおかしくないような状態だ。
「どうやって入る? 封鎖されてるんだろ?」
『お主ら側の隔壁を上げる。船全体の気圧維持のため、開けっ放しにはできん。気を付けい』
ミグの返事とともに、音を立てて隔壁が上がっていく。
「邪魔だ、退きやがれ!」
噛み砕く火がVOIDを捉える。
その名の如く、まるで炎の獣が敵を咀嚼するように、上下から火炎の幻影がVOIDを引き裂き、たまらず後退させた。
空いた空間に全員で身を滑り込ませ、隔壁が閉じられた。
「……空気が薄いな。それに流れていってやがる。どこかに穴でも空いてんのか」
よく考えれば、外からVOIDが侵入してきたのだから、当然侵入口があるはずだ。
VOIDを始末したら調べる必要があるだろう。
「よし、おまえら、気合入れていくぞ!」
ボルディアを先頭に、戦いが始まった。
「間違っても、船体を傷つけちゃいけないからね!」
メルは目の前に光でできた三角形を作り出す。
その頂点一つ一つから伸びた光が対象を貫くのだが、普段よりも術の制御にかなり気を使った。
同時に七式ワイヤーを鞭のように使って伸びてくる触手を牽制したりして援護しつつ、万が一に備え機導浄化デバイスにカードリッジを装着しておく。
シャトル内部での戦闘は、通常時の戦闘よりも気を使う。
流れ弾が設備を破壊すれば、どうなるか分からないからだ。
それが魔法などのマテリアルで引き起こされる現象ならばともかく、質量を持つ兵器や銃弾といった物理的なものなら、破壊するのに十分な破壊力を持つだろう。
途中でエアロックに寄って宇宙服を着用しているので、多少の気圧低下なら耐えられるとは思うが。
ボルディアが敵に一撃を加えてスペースを確保すると、そこにメルが機導術を撃ち込んでさらに道を切り開いた。
続けてロニが厳かに鎮魂歌を歌い上げる。
静かな、されど朗々とした声で紡がれる旋律が、VOIDたちの行動を戒め阻害した。
全てに効果があったわけではないが、それでも妨害としては十分だ。
さらに魔法で無数の闇の刃を作り、VOIDたちに向けて解き放つ。
飛翔する闇の刃が、VOIDたちに突き刺さり空中で串刺しにする。
刃が消滅した後も、残っているVOIDたちはまるで空間に縫い止められたかのように動きを封じられていた。
足止めされなかったVOIDが誰かと目を合わせようとぎょろぎょろと眼球を動かす。
「効くものか!」
目が合ったロニは、忍び寄ってくる狂気を気合で打ち破った。
「甘いんだよ!」
同じくボルディアも、戦意に猛る笑顔を浮かべて狂気を振り払う。
「あぶぶぶぶぶ……」
運悪くメルが狂気に飲まれ幻覚に取り込まれそうになったものの、即座にロニが祝福を施して不浄を払い、狂気を中和したため難を逃れた。
後手に回っているうちに、さらに触手による追撃を受けたので、いつでも癒しの法術を行使できるよう、ロニは祈りの準備をしておくことにした。
●船内対応~エンジンルームにて
ミグから通信が届く。
『道なりに行け。ちと遠回りになるが、エンジンルームまで続いておる』
「了解した。案内助かる」
礼を返し、レイアはオートソルジャーを引き連れて駆け出した。
この通路は、主にCAMの部品や武装などを搬入するための通路だ。
これらの部品や武装は厳重に梱包されたうえで運び込まれるため、実物以上の大きさになっていることも多く、当然搬入に使う通路もそれなりの広さが求められる。
オートソルジャーも、この搬入用通路を用いれば連れ歩くことができるだろう。
もっとも人間サイズの通路には連れていけないが。
そういう通路に限って、コックピットやエンジンルームへの近道だったりするのはご愛敬である。
オートソルジャーがレイアの後を追いかけ、素早く移動する。
レイアも急いでいるが、やはり遠回りしている関係上、メルと百舌鳥方が早くエンジンルームに到着した。
エンジンルームは絶賛大炎上中だった。
VOIDが船内に侵入しているのも重大な事件だが、それに負けず劣らず大問題だ。
「ちぃっ! よりによって、なんつー時に! 急ぎやがりますよ!!」
シレークスは消火器を手にして噴射する。
冴子をつれている場合、連れていない場合など、対応を色々考えていた百舌鳥だったが、エンジンルームに着いて状況を一目見た途端、それどころではないことを悟った。
「……これ、いつ燃料に引火してもおかしくないんじゃないかい?」
幸い気密はまだ保たれているようだが、エンジンルーム内の酸素を絶賛消費して炎が猛々しく燃え盛っている。
一部は燃料タンクにも燃え移っているようで、今はまだタンクだけで耐えているようだが、中の燃料に火がついたら終わりだ。
というか、既にタンクが燃えているので、直接的に引火せずとも上昇した温度で自然発火する可能性も高い。
「……どう見ても、埒が明かないでやがります!」
火の回りと勢いが強過ぎると判断したシレークスは、己が鍛錬を積んだ結果得た秘術を解き放つ。
覚醒中で衣類や装備品等も含め、仄かな黄金色に輝いていた全身が、燃える炎のように赤くなり、その色を変化させる。
同時に、シレークスの両手甲にエクラの聖印が浮かび上がった。
「これで良し……!」
敬虔なエクラ教信者として、我流の鍛錬を積み重ねきたシレークスが本質をそのままに変容させた術技は、正しく怪力を与えた。
「人間二人と幻獣一匹でどうにかなる規模じゃないかもしれないよ!」
百舌鳥が叫ぶと同時に通信が入り、出てみるとレイアだった。
『どこにいる? もうエンジンルームか?』
急いで状況を伝える。
『私もあと少しで到着する。耐えてくれ』
(レイア君と合流できれば、人手的にはだいぶ楽になるな……)
考え込みながらも、百舌鳥は消火の手を動かしていく。
「治療はおめーに任せますです!!」
「にゃ!? (えっ!?)」
消火器を大量に持ったまま火の中に飛び込むシレークスに、インフラマラエが慌てふためく。
もう、シレークスに説明書通り消火器を使うという発想はない。
「ええい、もう。めんどくせぇっ! ふんっ!」
「にゃああ~……(むちゃくちゃなのにゃ)」
消火器を破壊し、封入されている消火剤を開放する主を見て、インフラマラエは頭を抱えた。
延焼の危険がなく、なおかつさほど重要ではない箇所は後回しだ。
全員が無事に降りるまで持てば良いので、ダメージコントロールはそれを優先するべきだろう。
一番守るべきはエンジン本体。そして送られてきた燃料を溜め、エンジンに補給するタンク。そしてエンジンが生み出すエネルギーを船体各所に送るケーブル類だ。
レイアがエンジンルームに着いた頃には既に消火が始まっていた。
しかし火の手が凄く、百舌鳥とシレークスの二人掛かりでも追いついていない。
幸いオートソルジャーを連れている分人手を増やせる。
シレークスも小型の幻獣を連れているようなので、それも頭数に数えられるだろう。
VOIDは隔壁で閉じ込められているようだが、いつ出てこないとも限らない。
(……念のため、警戒しておいた方がいいか)
幸いこちらにはオートソルジャーがいるので、対VOID用のイニシャライズフィールドを展開すればある程度の狂気対策になる。
消火作業自体は力仕事だ。消火器を使ってどんどん火を消していく。これも輸送予定の荷物だったのか、それとも積みっ放しのまま人員輸送に回され忘れ去られたのか、輸送用倉庫には消火器が山ほど転がっていた。まあ、月でもあって困るものではないから、余っても処理に困るということはないだろうが。
こういう時、鍛えた身体と会得した身のこなしが役に立つ。
火災で崩落したらしい内壁が邪魔なので脇に寄せ、出し抜けに噴き上がる炎を避ける。
身体中が金属でできているオートソルジャーにも積極的に手伝わせ、とにかく盛大に燃えているところへ踏み入り消火作業に当たる。
(慌てるな……だが急げ……!)
幸いまだ燃料部分に引火はしていないようだが、仮に引火すればドカンである。
というか、既にエンジンルームの温度自体がかなり上昇しており、正直いつ爆発するか分からない状態だった。
今は徐々に温度も下がってきているし、今まで爆発しなかったことから燃料が漏れて気化しているということもなさそうだが、危なかったことに変わりはない。
ある程度の広さがあるとはいえ、エンジンルームの広さはあくまでエンジンの交換程度の想定によって決められたものでしかない。
それでもオートマトンが動く程度の広さは確保できるが、さすがに安全にスラスター移動するだけの余裕がエンジンルーム全体にあるわけではなかった。
なので、スラスターを使うのは余裕を持って直線距離を確保できる場所に留める。
レイアが加わり消火のペースは目に見えて上がった。
さらにしばらくすると輸送用倉庫から冴子も駆けつけてきて、消火作業に参加する。
「人数は十分揃ったね! 一気に消すよ!」
「はいっ!」
百舌鳥の号令に冴子が答え、消火器の消火剤を火に噴射する。
可能性としては考えにくいが、このタイミングでVOIDが現れることも想定し、守りに徹しつつベクトルを操って攻撃を引き寄せる準備は整っている。
まあ、この状況で戦闘になったらさらにややこしいことになること確実なので、VOIDなど来ないに越したことはない。
エンジンを攻撃されても困るので、その場合は完全に無視して幻影の腕を伸ばしエンジンルームから投げ飛ばしてもいいかもしれない。
どちらの場合も極力戦闘行動は行わず、あくまで消火活動を優先するべきだろう。
最悪消火器をVOIDの頭に向け噴射して足止めも考えている。
もっとも結局、無事に消火活動は終わったのでその必要はなかったわけだが。
本題はここからだ。
火災で著しく調子を落とし、出力が低下したエンジンを復調させなければならない。
大量の資材を輸送用倉庫から調達してきているので、修理用の部品や工具は潤沢にある。
その中には新しいケーブルや、燃料タンクの補修材、エンジンの修理資材などもきちんと含まれていた。
まずはエンジン全体を確認して、単純な交換作業で済むものと、精密な修理作業が必要なものに分け、状態を見極める。
交換作業はいうに及ばず、単に亀裂を埋める程度の修理も、大きさや場所にもよるがそれほど精密さは要らない。
問題はケーブルに繋がる電装系だ。
ある程度環境に強い作りにはなっているだろうが、火災と消火活動で火と水に晒されたに等しい状態になっている電子機器は確実に修理、あるいは交換の必要があるだろう。
そして電子機器はデリケートなので、作業は自ずと精密さを求められる。
「……適材適所でやがりますね!」
漏れてはいないが燃料タンクが焼けて穴が空きそうな箇所があり、シレークスは補修材を塗りたくって力技で強引に応急処置を行う。
ついでにどう見ても焼き切れて断線しているケーブルを引っこ抜き、新しいケーブルに繋ぎ直した。
頭を使う場所は味方に任せればいい。
シレークスはとにかく、脳筋行動で処理できる修理をどんどん進めるべきだ。
インフラマラエにも、資材や道具の運搬の手伝いをさせた。
「せー、のぉっ! せいやっ!!」
「うにゃにゃ……(ご主人様は、豪快なのにゃ)」
修理資材で、シレークスはエンジン破損部分の修理に取り掛かる。
レイアと彼女のオートソルジャーは対VOID班の様子を見に行ったので離脱した。
シレークスや彼女の幻獣であるインフラマラエ、最後に合流した冴子と協力し、煤と機械油だらけになりながら、百舌鳥は手分けして修理を行う。
単純修理を凄い勢いで片付けていくシレークスと同じく、冴子にも素人ができるような単純修理を担当してもらった。
二人ができない電子機器関係の修理が百舌鳥の役割だ。
後付けだが、幸い機械についてや修理のための知識は頭に入れてきた。一応日曜大工の知識も用意しているので、ちょっとした工作もできる。
持ち込んだ修理資材から電子機器の部品を、修理用の道具から必要な工具を取り出すと、焼けた電子部品の修理と交換を行う。
細々とした作業が多く、針の穴に糸を通すような集中力を必要としたが、何とか全てやり遂げた百舌鳥は、復調したエンジンを見上げてため息をついた。
「手伝ってくれてありがとう。おかげで助かったよ」
「いえ、大したことはできませんでしたし……」
礼をいう百舌鳥に、冴子は照れた。
エンジンルームでのダメージコントロールがひと段落着いたので、百舌鳥は戻って破られた外壁の修理をしに行った。
●船外戦闘~VOIDCAMを撃破せよ
サクラのクリスマスツリーが、デブリ帯で陣形を組むVOIDCAMたちのど真ん中に爆発する。
真っ暗な宇宙に色とりどりの花火が発生した。
クリスマスよりも夏にやった方がよほど似合うのではないかという感じだが、花火はクリスマスモチーフなので問題ない。
一見ふざけているようだし、じっくり見てもふざけているが、マテリアルによる爆発は本物で、VOIDCAMたちの装甲を大きく削ることに成功したようだ。
マテリアル爆発の宿命で、デブリ帯は無傷のまま健在。
環境に優しく、VOIDには厳しい。
花火としても十分に鑑賞に足るもので、パーティーの盛り上げにうってつけである。
シリアス? お帰りになられました。
「ちょっと早いクリスマス……ではないですけどね……。たーまやー……というべきでしょうか……」
弛緩した場の空気に緩みかけた気を引き締め直し、サクラは己の魔導型デュナミスを先に進ませた。
「ともあれ、これだけ派手なら注意を惹けるでしょうか……。後は、接近して叩いていきましょう……」
思い出したように仲間たちも動き出す。
マーカーの反応を見るに、同時にVOIDCAMも一部が動き出したようだ。
スパチュラの高い機動性を生かして一番に飛び出したミオレスカは、モニターに移る景色を見渡して周りの状況を確認する。
目前には巨大なデブリ帯がそびえており、まだ目視でVOIDCAMは確認できない。
しかし、表示されたマーカーは、デブリ帯に何かが潜んでいることを示している。
そのVOIDCAMがどれほど強力なのか、またはどの個体なのかまでは、肉眼で確認、あるいは戦闘するまで分からないが。
スラスターをふかし、量産型フライトパックのブースターにも火を入れ、敵影を確認次第ロングレンジマテリアルライフルで牽制しつつ攻め寄る。
ある程度近付くと、VOIDCAMの姿がモニターで確認できるようになる。
続いてアニスが敵機と彼我の距離を確認した。
武装を距離に合わせて適宜変更するためだ。
肉眼ではデブリが邪魔をするので、シャトルのコックピットから送られたマーカーを見て距離を測る。
敵機がデブリ帯から出てくる前に踏み込んで釣るべきと判断した。
逆にVOIDCAM側は仕掛けるべきと判断したのか、姿を見せて射撃を行ってきた。
「慣れてねぇ奴にゃタダの障害物だろうけどな」
デブリを徹底的に利用し、蹴って加速し軌道変更を行ったり、盾にするなどの防御行動を取りながらいなしていく。
同時に大型のデブリを回り込んだり、張り付いてやり過ごし、攻撃可能な距離まで詰めた。
一機のCAMが宇宙を進む。
御言が駆る魔導型デュミナス、月光だ。
銀色の機体が宇宙の黒に映えている。
「未だ彷徨う彼らの道筋をその光で照らし給え、月光!」
アニスに釣られてやってきたCAMは不気味なものだった。
全体のシルエットはCAMらしく、機械的なデザインを保っている。
しかし、所々が狂気VOIDのような、深海生物を思わせる不気味な生体組織に浸食されており、まるで生き物と機械が融合したかのような禍々しさを感じさせた。
それが、十機。
対する味方は、シャトルの直掩につく強化人間用R7エクスシアに乗った強化人間兵三人と美紅に、御言自身を含め、それぞれのCAMに乗り込んだアニス、エルバッハ、サクラ、エラ、ミオレスカ、ひりょの十一機だ。
通信を行い、味方機へ誰何を試みる。
前回来た時に顔を見た者は名前を覚えている。
「よろしく頼むよ」
返ってくる反応に対して送った言葉は一言のみ。
(覚悟を決めた者たちだ、これ以上の言葉は必要あるまい)
表情を引き締め、モニターに映るVOIDCAMを睨みつけた。
サクラのクリスマスツリーでVOIDCAMたちの足並みが乱れた隙をついて、エルバッハは突出しないように注意しながらウィザードを操作し、距離を詰めた。
「……そろそろですね」
試作電磁加速砲の射程にVOIDCAMが入ったことを確認する。
モニターにはVOIDCAMらの禍々しい姿がはっきりと映っている。
(まあ、どんな姿であろうと敵は敵ですが)
彼らに美的感覚があるのかどうかは知らないしエルバッハには興味もないが、それでも一般的な価値観で見れば、その姿は異様という他ない。
ひりょの通信機越しに、少女の荒い呼吸が聞こえる。
強化人間兵たちの中にも少女はいるが、彼らは軍人だ。
しかし、一人だけ、一般人といっていい存在がいる。
美紅のことだ。
彼女は今でこそイクシード・アプリで強化人間兵に迫る力を得ているが、いくら先天的にマテリアルを操る大きな才能を持っていても、それでも訓練によって後天的に身に着く能力の欠如ばかりはどうしようもない。
冴子に比べればメンタルが強いとはいえ、宇宙での戦いは地上での戦いとはまた違う恐怖がある。
殺気や敵意といった即実的な恐怖よりも、無音や暗闇といった根源的な恐怖に怯えながら、モニター越しに鉄の棺桶に包まれて敵と戦わなければならない。
そしてそれは、ひりょ自身にもいえることだ。
「冴子、美紅。君たちには大事な事を教わった。見えない明日に思いを馳せたり憂いたりする前に、まずは今を、今日を生き残る事。当たり前だけど凄く大事な事だ。俺も全力を尽くす。……だから、皆全員でこの戦況を乗り越えよう」
『……っ、はい!』
『美紅、頑張って!』
通信機から聞こえる誰かが息を飲むような音と、美紅の己を奮い立たせるような声に、美紅を激励する冴子の声が混じる。
ひりょに周波数を合わせた今の状態では冴子と美紅間で繋がっていないはずなのだが、おそらく冴子はいわずにいられなかったのだ。
強化人間や美紅、冴子や避難民達は長い避難生活と旅に戦闘で疲弊している。
冴子自身も自覚している。ならば、美紅だってそうだと思うだろう。
(安全な場所まであと少しなんだ、地上に残ってシャトルのことを俺達ハンターに託してくれた軍の人達の想いにも応えたい)
サクラのクリスマスツリーが盛大に炸裂した後、ひりょは背部の円形マテリアルエンハンサーから最大出力でマテリアルを放出する。
「お前達の攻撃、一撃たりともシャトルには当てさせない! させてなるかよっ!」
形成された光の翼を展開し、足並みが乱れたVOIDCAMたちへ突っ込んだ。
エラは初動がいかに重要であるかをよく理解している。
(上手く相手側の先手は潰せた。次は……)
コンフェッサーに備わるマテリアルの力により、通信を繋ぐ先を探す。
一番に繋ぐことができたのはアニスだった。
「確認できたVOIDCAMの位置情報を伝えます。迎撃の漏れがないようご注意を」
口頭で情報をアニスに送り、自分自身で集めた索敵情報の共有化を行う。
VOIDCAMを通してシャトルへ向かわせてはならない。
CAMの集団とVOIDCAMの集団が宇宙を翔ける。
悪趣味な機体をヘビーガトリングの射程に収め、ミオレスカは覚醒者用のスキルトレースシステムを利用して慣れ親しんだ動作を機体上で再現した。
連続射撃により弾幕を張ることで、攻撃を仕掛けようとした敵の機先を制した。
当然射撃の範囲内に味方はいない。誤射する愚など犯しはしないのだ。
「数的不利は、このスパチュラと、猟撃士として培った技で、覆します……!」
コンピュータがスパチュラの火器管制システムを制御し、高速演算を始める。
外の光景を移すモニターに重なるように、半透明の赤いマーカーが表示され、『ロックオン』のマークが追加される。
その数が増えていくとともに、ミオレスカの知覚領域が拡張していく。
「順番に倒させてもらいます……!」
ロングレンジマテリアルライフルによる狙撃が、次々にVOIDCAMを撃ち抜いていった。
一網打尽にされるのを恐れたか、VOIDCAMたちは動きを変えて散開し、ミオレスカに群がってきた。
「誤射しない程度の距離があるなら……!」
内蔵された高出力プラズマ弾を発射し、VOIDCAMを迎撃する。
魔導エンジンの余剰エネルギーで発生したプラズマ弾は、真っ直ぐVOIDCAMに突き進み、周囲を巻き込み爆発した。
陣形が乱れる。
ばらばらになり、突出する機体が出てきた。
「これ以上近付けさせません……!」
スパチュラに標準装備されたスキルトレースシステムを使い、ヘビーガトリングの斉射に冷気をまとわせた。
「弾込め……! 迅速に……!」
マテリアルを瞬間的に体に満たし、さらにスパチュラのスキルトレースシステムを併用して機体にまでマテリアルを流し込み、リロード動作を高速化させた。
シャトルに近付けさせないように、VOIDCAMの目はできる限り自分たちに引き付けなければならない。
万が一シャトル外壁に敵が張り付くことがあれば味方に頼るつもりのミオレスカだが、おどおどしつつも正確に任務をこなし、敵を撃つ。
奇襲の時間が訪れた。
「とっとと落ちろ。雑魚と遊んでるほど暇じゃねぇんだ」
高度な演算機能を持つレラージュ・ベナンディのコンピュータが演算を開始する。
コンピュータが複数の敵を同時にロックオンしたことを告げた。
リアルブルーのスキルトレース技術を覚醒者用に再現し、アニスはレラージュ・ベナンディと己の意志を同調させる。
レラージュ・ベナンディがアサルトライフルを構えた。
トリガーを引く瞬間にマテリアルを使って弾丸を加速させる。
狙撃がデブリの間を縫い、VOIDCAMの一機に直撃した。
だがスクラップにするには程遠い。
攻撃されたことに気付き、VOIDCAMたちが一斉に距離を詰めてくる。
引く意志を見せず、アニスは手甲部に内蔵した高出力プラズマ弾を発射する。
このプラズマ弾は最新型の魔導エンジンを搭載したことによる余剰エネルギーで発生させるもので、一定の距離を進んだ後、周囲を巻き込み爆発するというものだ。
光源といえば星の光のみの真っ暗な宇宙を、鮮やかにプラズマ弾の光が裂いて飛ぶ。
再び覚醒者用のスキルトレース技術を用いて、機体と己の意志を繋げた。
アニス本来の身体には、射撃と近接格闘術を組み合わせ、遠近両方に対応するべく生み出された特殊な戦闘術が染み付いている。
その技術を、 レラージュ・ベナンディで再現しようというのだ。
「想定している着弾座標を寄越せ。釣り上げる」
範囲攻撃武装持ちの味方機に告げ、送られてきた座標を見て自機を囮にそこに向かって引き込む。
VOIDCAMたちが次々にマテリアルライフルを乱射してくる中、デブリを撃って軌道変更し、狙った場所に確実に追い込んでいく。
味方の攻撃のタイミングに合わせ、先ほど発射したプラズマ弾が弾けた。
閃光で目を焼かれないようにしながら加速し、一気に範囲内から離脱する。
アニスの向こうで高まる力に気付いたVOIDCAMたちが転進しようとするが、それを許すアニスではない。
「逃がすわけねぇだろ」
再びレラージュ・ベナンディが演算を開始し、敵機体をマルチロックオンした。
御言はロングレンジライフルで牽制を行う。
敵がこちらを視認している事を確認してから機体にトリガーを引かせた。
月光は味方と連携しての戦闘に真価を発揮するコマンダータイプのCAMだ。
「君達の力が必要だ。協力してくれるかね?」
仲間や強化人間たちのCAMに対し、射撃が得意な機体に共に同じ相手を狙うように頼むと、彼らは返事の代わりに己の機体が装備する武装をVOIDCAMに向けることで答えた。
強化された射撃が次々にVOIDCAMたち目掛けて放たれる。
月光も負けてはいない。
マテリアルエンジンと武装を直結させることで、エンジンから供給されるマテリアル波動が武装に流れ込む。
エンジンから送られるマテリアル波動は紫電のごときオーラとなり、射撃能力を強化した。
ここからが覚醒者が扱うマテリアル操作技術の真骨頂。
引き金を引く刹那、マテリアルの流れがバレル内の弾丸にさらなる加速を与えた。
同時に弾丸本体を守るためマテリアルコーティングで覆い、発射前に損耗するのを防ぐ。
モニターの画面で味方と戦うVOIDCAMを確認しつつ、サクラ自身は中近距離戦主体を心掛ける。
機銃槍に内蔵された機関砲を撃ちつつ仲間の近接戦闘を援護する。
「後は近づいて倒していくとしましょう……。といっても私は機銃メインですが……」
意識が逸れないように、スラスターを盛大にふかして出力を最大にまで上げ、補助スラスターにも点火を行う。
機銃槍を構え突撃し、自分が突進した勢いを乗せVOIDCAMの一体に突き刺した。
「隙ありですよ……! この槍は飾りではないのです……!」
その後、VOIDCAMを蹴りつけ反動で槍を引き抜きつつ、機銃槍の機関砲を撃ちながら一旦距離を取り、中距離支援に戻る。
再度、VOIDCAMたちが他の味方の対応に追われ隙を見せるタイミングを見計らい、突撃体勢を取った。
やられっ放しでいるわけではなく、VOIDCAM側も攻撃を仕掛けてくる。
マテリアルライフルの乱射を危なげなく回避していると、その間に回り込んでいたらしいもう一機に懐へ潜り込まれた。
「く、槍の内側に……! ですがその程度で何も出来なくなるデュミナスではありません……!」
手甲部に内蔵された高出力のプラズマ切断機を展開する。
元を正せば宇宙船やコロニーの修理、解体用装備で工具の範疇に入るが、工具であるだけあって破壊力そのものは高く、近接武器として使える。
さらに蹴り飛ばし、離れながら機関砲を掃射するとともに、全体の状況把握を可能な限り努める。
流れ弾やVOIDCAMが行かないようシャトルの方にも注意が必要だ。
牽制と注意を引くことを目的に、エルバッハはまずは一度、試作電磁加速砲のトリガーを絞る。
コックピット内ではトリガーの感触など分からないが、それでもその感触は、どこか重い気がした。
(らしくもなく、緊張……しているのでしょうか?)
思考とは裏腹にウィザードを駆るエルバッハの動作は冴えており、即座に距離を詰めんと機体を先に進めている。
背部のマジックエンハンサーを展開した。
魔導エンジンの出力が上昇し、コックピットのモニターに出力上昇を示すランプが表示される。
エンジンが供給するマテリアルエネルギーは一度機体の隅々まで行き渡ると、機体に備わったスキルトレースシステムを介し、コックピットにいるエルバッハ自身へと流れ込んだ。
マテリアルの粒子がエルバッハの周りで舞い踊り、静かにコックピットを満たしていく。
やがてその流れは大きなうねりとなり、コックピットを揺らし、機体に危険を感知させてアラートを響かせた。
「……解除」
うるさいとばかりにアラートを手動で停止させたエルバッハが、静かに魔法を解き放つ。
スキルトレースシステムによって、エルバッハの魔法はコックピット内ではなく宇宙で、そしてCAMが放つに相応しい華々しさを見せる。
燃え盛る火球、それは例えるなら小さな太陽のようで、暗闇の宇宙において光り輝き、VOIDCAMもそうでないCAMも等しく照らす。
しかしこれが本物の太陽でない以上、まだコントロールはエルバッハの手にある。
「……行きなさい」
エルバッハの意志に応じ、宇宙に生まれ落ちた火の球がVOIDCAMたちを飲み込んだ。
火球が爆発し、広い範囲に衝撃を与え炎を巻き散らす。
これはマテリアルによって生まれた効果だ。
VOIDCAMだけを焼き、デブリ帯は無傷で残る。
いっそのこと一緒に焼き払えてしまえた方が楽かもしれないが、こちらが利用することもできるので判断し辛いところだ。
まあ、いざとなったら無理やり敵がいると仮定した上でデブリごと闇雲に吹き飛ばすという、半ば裏技のような荒業もないわけではない。
(やるのは構いませんが、爆発でVOIDCAMの位置を見失わないように注意しなければなりませんね)
冷静に思考しつつVOIDCAM一機のマテリアルライフルを回避し、続く触手による追撃も、マテリアルエンジンからマテリアルエネルギーをマント状に展開させ、斬艦刀を楯代わりにして防いだ。
ひりょはR7エクスシアのスキルトレースシステムを起動させる。
交戦可能範囲に入るのを待ち、光の翼を消して攻撃へと移行した。
炎のようなオーラがひりょのR7エクスシアを包む。
その輝きに、一斉にVOIDCAMたちが機体のカメラを向けた。
中には生体部分がうぞうぞと動いてひりょを指し示す個体もいる。
構わない。どちらにしろ、注目させる目的は十分に果たせた。
「誰もやらせやしない。俺もこんな所で死ぬつもりはない! 俺には支え守らねばならない人がいるんだよっ!」
押し寄せてくるVOIDCAMたちをおびき寄せ、近づいてきたところにマウントされたマテリアルライフルを引き抜いて射撃を浴びせかける。
紫色の光線がVOIDCAMたちに直撃し、まとめて装甲を削り取った。
有人機なら今頃アラームが鳴り響きダメージコントロールに四苦八苦しているだろうが、生憎相手はCAMと一体化したVOIDだ。気にも留めない。
それどころか反撃とばかりにマテリアルライフルを一斉射してきた。
「ぐっ……!」
さすがにたまらず、ひりょはエンジンからカーテン状にエネルギーによる障壁を展開させ、R7エクスシアにもフライトシールドを構えさせて防御姿勢を取らせた。
味方機は既にVOIDCAMと交戦を始めている。
自身の対応を決めるため、エラはどこが劣勢なのか冷静に見極めた。
必要に応じて即座に支援に入るためだ。
(一、二、三……七。足りない)
すぐにある可能性がエラの脳裏に思い浮かぶ。
「各機へ。敵VOIDCAMの所在が三機不明です。奇襲に警戒してください。シャトルを狙われる危険性があります。直掩機の皆様方、奮起を期待いたします」
直掩機としてシャトルの周りに展開するCAM四機へ、奇襲警戒を厳にと依頼する。
エラ自身もシャトルとの距離を若干詰め、即応可能な位置を維持した。
(とはいえ……敵機は全部で十機。対する友軍機は私自身が操縦するこのコンフェッサーを入れて十一機。数では僅かに勝っているとはいえ、こちらの四機は戦力として当てにしていいのか分からない。相手の三機が抜けて、それでようやく同数か)
無線経由で情報を共有しながらも、直掩各機及び、シャトルのオペレーターと通信をやり取りし、別方向からの奇襲の有無、他方向の戦況など、とにかく情報収集に努める。
三機のVOIDCAMがシャトル付近に現れた。
デブリ帯を迂回してきたらしい。
素早く位置関係を把握し支援先や攻撃対象を選定する。
シャトルとの相対距離、対応友軍の有無を確認して優先目標を定めた。
「各機へ。防衛戦闘を開始してください。敵機体をシャトルに取りつかせてはなりません」
『『『了解っ!』』』
『分かりました!』
冷静なエラの対応に信頼を寄せたか、R7エクスシアに乗る強化人間兵
たち三人から揃って返事が返ってくる。
美紅の返事が一瞬遅れるのは、まあ経験のなさを考えると仕方ない。
エラは直掩機たちと連携して、挟撃を行い各個撃破を図る。
距離に応じてマテリアルキャノンとプラズマライフルを使い分け、正確に撃ち分けていく。
スキルトレースシステムにより、機導術で生み出した光線をVOIDCAMにぶつける。
長期戦運用を前提に単発あたりの効率化を極限まで追求したものだ。威力などは凡庸だが継戦能力に特化している。
対CAMならば大きさから集中砲火できるので威力不足も補える。
素直に集団戦で範囲特化するならば、また別の方法がある。
「直掩各機へ。シャトルまで退避してください。繰り返します。シャトルまで退避してください」
通信に不穏なものを感じたか、四機が慌ててシャトルを守る輪を狭めた。
「焼き払え、延炎」
そうして空いたスペースを利用し、スキルトレースシステムで機導術を発動させた。
炎に焼かれたVOIDCAMたちが強引にシャトルへ肉薄し、強化人間兵や美紅と戦闘を始める。
「私は先輩だよ? 少しはかっこつけさせたまえ!」
御言が割って入り、可変機銃の轟音を響かせた。
同時にスラスターをふかす。
可変機銃の形態を巧みに変えて近接戦闘を行い、味方の攻撃を促す。
ある程度引きつけた所で覚醒者用のスキルトレースシステムを使用してマテリアルで形成した雷撃つきの障壁を展開、射撃モードに変更して追撃をかけた。
しかし反撃の射撃と触手による攻撃が乱れ飛び、そのいくつかが月光を貫く。
損傷を告げるアラームが鳴り響く中、使用不能になった箇所の応急修理を行い、マテリアルエンジンの出力低下を自分の生体マテリアルを注ぎ込むことで補った。
機と見たか、三体以外にもVOIDCAMたちが一斉にシャトルへ突撃を始める。
「シャトルの方へは何があっても向かわせません……。行きたければ私達全員を倒してからにしなさい……」
サクラは自分を無視してシャトルに向かおうとする敵機を、逆方向に弾き飛ばした。
VOIDCAMたちの攻撃のうち、シャトルに当たりそうなもののみシャトルととの間に入り盾を構えて防ぐ。
念のため無線で仲間へ伝達し即時対応を頼んだ。
外壁修理後メルにいわれた通り合図を送ったルビィは、そのままシャトルの外に留まり、直掩機へクイックライフルで援護を行った。
ちょうどVOIDCAMが攻勢を強めたタイミングで、VOIDCAM側の意表を突く形で戦闘に参戦する。
あくまで攻撃は援護に留め、船体外側を移動しようとする敵がいないかの警戒に当たる。
シャトルに直撃しそうなデブリや敵機へクイックライフルを向け、マテリアルビームで迎撃した。
傷だらけのVOIDCAMが一機直掩機の警戒網を抜けてシャトルに飛んでくる。
強化人間用R7エクスシアが一機慌てて飛んでくるが、どう考えても間に合わない。
「……!」
ルビィは冷静にマテリアルキャノンを構えた。
同時に己の身体を流れるマテリアルの力を偏らせることで、魔法力を強化する。
──発射。
真空状態故に無音。しかし巨大なマズルフラッシュが本来の轟音を思わせる。
マテリアルがなくなったカートリッジが排出される。
撃ち出されたエネルギーの弾丸がVOIDCAMに大きな風穴を開けた。
そこへR7エクスシアが追撃をかけ、クイックライフルを構え直したルビィの第二射が敵機に突き刺さった。
『大丈夫!? 怪我はない!?』
R7エクスシアから美紅の声が聞こえる。
ルビィは困ったように首を傾げると、新たにクイックライフルを構えR7エクスシアの背後へ忍び寄るVOIDCAMをマテリアルビームで撃ち抜いた。
●着陸~月へ
ミグは強化人間たちから操縦を引き継いだ。
シャトルも広義でいえば一応ユニットの範疇に入るだろう。
機導師かつパイロットのミグの方が、非常時の操縦については詳しい。
ルビィから対処完了の連絡があったので、メルはまよいに伝えておく。
避難民の動揺を鎮静化させる役に立つだろう。
VOIDを全て片付けた後で、改めてロニはすぐ近くの、避難民がいる輸送用倉庫へ応援に向かった。
結局回復は全て終わってからになったが、それはそれで構わない。
いざとなれば精神を浄化し救済と安寧をもたらす魔法が役に立つだろう。
あらかた撃墜して余裕が生まれたので、ミオレスカはデブリがシャトルや味方に当たらないか注意することにした。
敵がいないことを確認し、CAMに乗った他の味方と一緒にシャトルを目指す。
必要ならシャトル進路の維持に努めるつもりだ。
推力が必要ならCAMで外から押せばいい。
(生き残ることができれば、後の対策も出来ます。リアルブルーも必ず復活します)
ミオレスカは固唾を飲んでダメージコントロールが行われたエンジンの調子を見守る。
不時着になるなら、可能な限り協力するつもりだ。
「そろそろ限界だな。ケツ持ちはこっちでやる。各自帰還始めな」
通信を受けて最後の一機を追い詰め、撃破して後退を始めるアニスだが、時間が足りない。
「出来れば使いたくなかったんだがなぁ……しゃーねぇ」
映像の網膜投影とともに、脳への情報書き込みが行われ機体と繋がった反射神経が強化される。
赤く発光したメインカメラに、各部から噴出したマテリアルが赤光と緑光の軌跡を描き、レラージュ・ベナンディが飛び去っていった。
帰還する間、御言は邪魔なデブリに対してミサイルをぶつけて爆発させる。
作った道を進む強化人間兵たちのCAMを見ていると、一人の強化人間を思い出した。
かつてはともに肩を並べ、今は歪虚とともに行ってしまった彼の事を。
彼ともいつかまた共に肩を並べられるだろうか?
(否、必ず連れ戻そう)
帰還を喜ぶ強化人間兵や美紅たちの笑顔を見て決意を固めた。
「……殲滅終了ですか。そろそろ戻るとしましょう」
スラスターを噴射すると、エルバッハはもう少しで着陸の準備に入るシャトルへ戻るべく飛び立った。
掃討完了後も船外で活動していたエラは、予定時刻が近付いたことに気付いて作業を切り上げる。
「……私、残業はしない主義でして」
呟くと、コンフェッサーをシャトルへ回頭させた。
警戒のためぎりぎりまで船外壁に留まり、何事もないことを確認したルビィはエアロックを通りメルの下へ戻った。
静かに、大型輸送シャトルが着陸体勢に入る。
月への突入を始めた船体が、赤熱色に変わっていく。
崩壊を思わせる不規則な振動はなく、何かが爆発することもなく、皆の期待と不安を胸に、シャトルは月へと降りていく。
着陸は成功した。
そして月の転移が始まった。
強化人間三人と美紅、そして船外の対応をしようとCAMを取りに来たハンターたちが格納庫で鉢合わせる。
「お前らはシャトルの直掩だ。抜けて来た奴は集中攻撃して確実に落とせ!」
強化人間と美紅に指示を出し、アニス・テスタロッサ(ka0141)はレラージュ・ベナンディを起動させた。
格納庫にある輸送用の大型通路はエアロックに直通しており、床が自動で動くので乗り込めばそのまま出撃することができる。
R7エクスシアのウィザードに乗って出撃したエルバッハ・リオン(ka2434)は、船外でのVOIDCAMの迎撃を担当する。
周りに展開しているCAMは、同じく船外で行動を共にし、VOIDCAMと戦う味方機だ。
第一条件として、シャトルからVOIDCAMの注意を逸らさなければならない。
(最悪、集中砲火を浴びることになっても、派手に攻撃して注意を引き付けなければいけませんね)
無茶な特攻をするつもりはないが。
サクラ・エルフリード(ka2598)は自らのCAM、魔導型デュナミスに乗り込み、船外に出た。
『こちらで把握している該当VOIDCOMのマーカーをCAM全機のモニターに送信します!』
同時にシャトルのコックピットから通信が入る。
強化人間兵のオペレーターだ。
成人していない少女である彼女は、速やかにシャトルのレーダー情報をCAMのモニターに送った。
敵を示す赤いマーカーが次々浮かび上がる。
コンフェッサーに搭乗したエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は、シャトルから注意を引き剥がすため船外対応を行う。
多数へ圧力をかけ戦線維持を図り、奇襲で撃破効率を向上させる狙いだ。
また、敵の包囲に対して味方と分業し警戒網を構築できればいうことはない。
「シャトルの防衛はお任せします。私たちでVOIDCAMを叩いてきますので」
強化人間兵と美紅にシャトル直掩を依頼し、エラは宇宙に飛び立った。
CAM搭載の通信機からシャトル内の様子が伝わってくる。
(皆さんこそ、すべての世界の希望です。シャトルは必ず守ります)
出撃したミオレスカ(ka3496)は、モニターに映るデブリ帯を見ながら戦闘方針を考えていた。
(敵が遠いうちはロングレンジマテリアルライフルで攻め寄りましょう。ヘビーガトリングの射程になったら制圧射撃。こんなところですね)
強化人間と美紅分の計四つトランシーバーを準備した鳳凰院ひりょ(ka3744)は、CAMに搭乗する前それぞれに渡した。
美紅が必死の形相で操縦マニュアルを読んでいる。
「R7エクスシアに乗るのは初めてかな? 良ければ簡単に操縦方法を教えるけど」
「お願いします!」
真剣に美紅はレクチャーを聞いた。
「私の名前は久我・御言! 諸君、よろしくしてくれたまえ」
堂々とした態度で名乗った久我・御言(ka4137)が、月光に搭乗する。
「シャトルを守ろう。まさしく乗りかかった船だしね。皆の未来をともに守り通そうではないか。約束したね? 必ず送り届ける、と。今こそ果たそう」
笑顔でここまで来た彼らを労い、請け負う。
(そうだとも、ハッピーエンド以外は認めない)
決意を胸に秘め、御言は月光を出撃させた。
「命をかけて託された仕事だからねぇ……。私だってもとはエンジニア、やってやろうじゃないっ。ルビィ、行くよっ!」
岩井崎 メル(ka0520)がオートソルジャーのルビィを連れて走り出す。
メル自身は船内の歪虚掃討をするつもりだ。
殲滅次第、シャトルの修理を支援する。
終了後夢路 まよい(ka1328)に合流し、船内の安全確保を伝え、避難民の動揺を抑える手助けをしたい。
ルビィには船体の破損口の修理とシャトル直掩を行わせる。
「内と外、両方に対応を割かれるのは痛いな。中も中で敵の駆逐と設備復旧に避難民の相手……一つずつ片づけていくしかあるまい」
ロニ・カルディス(ka0551)は、無線機でハンターたちや強化人間たちと連絡を取り合えるよう準備し、方針を伝える。
「シャトルの安全を優先しつつ敵を排除してくれ。消火や避難民対応に最低限の人手を割きつつ、敵の破壊活動を妨害して撃破を試みるんだ。シャトルの設備が壊れないよう注意しろ」
船内に潜入した歪虚の撃破を目的に、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は動き出す。
(チッ……しつけぇ男は嫌われンだぜ? ストーカーも大概にしやがれクソ歪虚がぁ!)
侵入してきた歪虚を探し、討伐するのだ。
船の中が狭く斧が振るえない場合も考えなければならない。
CAM用の大型輸送シャトルなのでサイズそのものは大きいが、結局大きいのは輸送に使う部分だけだ。
使用想定外になっている通路などは人間サイズしかない。
「ミグ・ロマイヤーじゃ。そなたらの支援をするぞ」
そういいつつシャトルのコクピットに入ったのは、チビのロリドワーフ、ミグ・ロマイヤー(ka0665)である。
「そなたらは船外への対応に集中するのじゃ。内部対応は任されよう」
(これだけの大型シャトルともなれば船内の管理システムはコクピットに統合されているはず……当たりじゃな)
機導師として機械知識を使い、シャトルの地図を呼び出すと通信の準備をする。
船内組との通話を開いた。
「大精霊の名の下に。流浪のシスター、シレークスが参りますですっ! インフラマラエっ! 気合入れていきやがりますですよっ!!」
「うにゃ~(ご主人様は相変わらず豪快過ぎるのにゃ)」
早期の鎮火及びダメージコントロールを目指すシレークス(ka0752)は、聖印が手の甲に浮かび上がった両手で、持てる限りの資材、及び消化器を担いで大急ぎでエンジンルームへ向かう。
インフラマラエにも修理機材を持たせて現場に急いだ。
レイア・アローネ(ka4082)はエンジンルームの消火作業に当たるため、格納庫のオートソルジャーを取りに行く。
コックピットから通信が入った。
ミグだ。
『CAMの搬入通路を使うがよい! 連れ歩くのに十分な広さがある!』
「利用させてもらおう!」
オートソルジャーがあれば単純に人手が二倍になるし、対VOIDとしても助けになる。
当然レイア自身にも戦士としての頑強さとストライダーとしての身のこなしがある。
シャトル内で消火、修理活動を行うと決めた霧島 百舌鳥(ka6287)は、途中の通路で冴子を連れたまよいと鉢合わせた。
「やぁ冴子君! ボクはエンジンルームを見てこようと思う、戦闘は専門外だからね! 適材適所といったところさ!」
「分かりました! 私は輸送用倉庫の様子を見てきます!」
「待ちたまえ! おそらくボク一人では手が足りないんだが、君も手伝ってくれないかい?」
「では、終わった後で向かいます!」
「ああ、それで頼むよ!」
百舌鳥と別れ、冴子と一緒に輸送用倉庫へ向かう最中、まよいは冴子に尋ねた。
「あっちに行かなくて良かったの?」
「もちろん心配です。でも、避難民の人たちも心配なんです……! 自棄になられたらと思うと……!」
まよいにはその気持ちがよく分かった。
(故郷を離れることへの不安がある中で、ここで死ぬかもしれないと思ったら、もっと不安にもなるよね。でも、自棄になって良くなることは何もないよ。私たちを信じて欲しいな)
それぞれの思いを胸に、事態は進む。
さあ、依頼の始まりだ!
●船内対応~コックピットにて
ミグはまず機器関係の扱い方を調べた。
「ふむ。やるべきことはいっぱいじゃな」
把握が終わるとするべきことを思い浮かべる。
まずは、エンジンルーム火災への対処だ。
燃料が供給され続けている限りエンジンの火災など消えるわけがない。
エンジンルームのタンクに供給される燃料をカットして、消火しやすいように支援する必要があるだろう。
「操作盤は……これかのぅ」
ただ、燃料供給を断つということはやがてエンジンが止まるということで、急に船体が慣性航行になったらシャトルを操作する強化人間たちの間で混乱が広がるかもしれない。
「エンジンへの燃料供給を一時的にストップさせようと思うのじゃが、どうじゃ」
「お願いします! その辺りの判断は、一任しますので!」
(……簡単に預けてくれるのう。信頼されておるのか、それともそこまで余裕がないのか)
苦笑しつつ、許可を取れたので燃料の供給を速やかに止めた。
消火が済めば、修理の状況を見て再始動のタイミングを強化人間たちに指示すればいい。
次は船内に侵入したVOIDの殲滅に向かう組への支援だ。
シャトル内の地図を呼び出し、下ろされている隔壁を確認するとそこから侵入地点を特定する。
最短経路を地図を見ながら通信で伝え、必要に応じてさらに隔壁を下ろせるよう、場所と操作手順を復習する。
「……壊されそうじゃな。次の隔壁を展開じゃ」
新しい隔壁を下ろし、壊れかけの隔壁は開閉を繰り返し、VOIDを挟み込んだり押しつぶすなど、やれる限りのことを試してみる。
「まあ、文字通り気休めじゃな」
元々壊れかけだったせいもあるのか、VOIDたちは隔壁を壊して下から元気に這い出てきたが、多少は時間稼ぎにもなったはずだ。
●船内対応~輸送用倉庫にて
まよいと冴子は、改めて輸送用倉庫へ向かうべく進路を取る。
「私の後ろからついてきてね。万が一の可能性だけど、隔壁を壊してVOIDがうろついてるかもしれないから」
「分かりました……!」
ミグから通信が入った。
『隔壁を迂回するルートを教えよう。そなたなら大して問題にならぬかもしれんが、一般人を巻き込んではまずいじゃろ』
「私にだってこれがあります!」
オートマチックを握り締める冴子だが、震えている両手と血の気が引いた顔を見れば、誰もが無茶をするなと思うに違いない。
道中、まよいは歌っていた。
「穢れし魂 もたらす災禍 精霊の加護にて 幻のものとせん」
澄んだまよいの歌声を聞くと、不思議なことに冴子の気持ちが安らいでいく。
これは冴子が狂気に囚われることを警戒してのまよいの気遣いだったが、ハンターについてまだよく知らない冴子はまよいが何をしているのか分からない。
「あの……何してるんですか?」
分からないなら聞けばいいとばかりに尋ねた冴子へ、まよいはにこりと笑いかけた。
「VOIDが出てきた時のための警戒だよ」
幻想的な歌と舞踊が、詠唱となって冴子に狂気に耐える力を与えている。
その事実は分からなくとも、不思議な力が自分の身に満ちていることは、冴子もなんとなく感覚で理解していた。
同時に、まよいが気遣ってしてくれたことであることも。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
穏やかな表情を浮かべて礼を告げた冴子に対し、まよいは小さな身体で胸を張った。
輸送用倉庫に着いた。
「ねえ、外の隔壁は何なの!?」
「さっきの大きな物音は!?」
「CAMが全部出ていったぞ! このシャトル、まさかVOIDに狙われてるのか!?」
中に入った途端、血走った目の避難民たちに冴子が捕まる。
「これから説明するから、静かにしてねー」
まよいは冴子の言葉を避難民が聞いてくれるように、サポートを行う。
不安になる気持ちも理解できるが、説明をするためにもまず静かにしてもらわないといけない。
「まずは落ち着いて私たちの言葉を聞いてね」
一瞬収まりかけた混乱は、輸送用倉庫の外から一際大きな破壊音が鳴ったことで再び広がってしまった。
どうやら隔壁が一つ破られたらしい。
ミグがすぐに次の隔壁を展開して難を逃れたようだが、輸送用倉庫の内壁一つを隔ててVOIDたちが隣にいることになってしまった。
しかも壁越しに殴打音まで聞こえてくる。
だいぶまずい状況だ。
「ど、どうしたら……」
冴子が途方に暮れている。
避難民を落ち着かせるため、まよいは己の幻獣であるトラオムに一曲奏でてもらった。
直接心を揺さぶる旋律の巨躯を聞いた避難民たちが、次々悲嘆に暮れた表情で静かになっていく。
「ちゃんと事態の解決に動いてくれてるハンターたちがいるから、大丈夫だよ」
どさくさにまぎれて冴子まで落ち込んでいたので、トラオムに新しく別の曲を弾いてもらって、避難民と一緒に落ち着いてもらうことにした。
午睡を誘う優しい旋律の曲が演奏される。
ゆったりとした旋律が、冴子や避難民たちの表情を解き解していった。
「……とても、綺麗な曲ですね」
ぽつりと冴子が呟く。
演奏を終えたトラオムが恭しく一礼した。
●船内戦闘~侵入したVOIDを排除せよ
移動中、コックピットのミグから通信が届いた。
『VOIDにいくつか隔壁を壊された。別の隔壁を下ろして引き続き隔離を続けておる』
即座にメル、ロニの両名と情報を共有する。
輸送シャトル内はCAMの輸送及びその部品や武装などの搬入に使われる通路がぐるりと一周しており、そこを通れば各施設へと向かうことができる。
ボルディアは狭く斧が振るえない場合も考え、魔脚と呼ばれる戦闘用靴も装備してきている。
いざとなれば、蹴りで敵を切り裂いて攻撃するのだ。
「損傷を与えないよう細心の注意を払わなきゃな。攻撃の余波で船が壊れたらシャレにならねぇ」
しかもミグがいうには、VOIDが閉じ込められている通路は輸送用通路のすぐ近くにあり、輸送用倉庫に雪崩れ込む危険性があるとのこと。
そうなれば待つのは地獄である。
おそらく避難民たちでは生き残れまい。
『破損個所には近付くでないぞ。吸い出されたくなければな』
「どれくらい壊れてるの?」
尋ねてみたメルにメグから通信で返事が返ってくる。
『一メートルほどじゃ。それ故吸い出す力は強くはないが、楽観はできん』
「なるほど。念のため宇宙服を着た方がいいね。エアロックに寄ろう」
宇宙服を借用して着用する。
その後格納庫でルビィに自分たちの行動を説明するとともに、ロープで腕に通信機を結び付け、修理資材の受け渡しをする。
「資材を受け取ったら、エアロックから船外に出て破損個所の修復を行って。修復が完了次第、『短伝話のスピーカーをONにして三回ノック』。覚えた?」
ルビィは首肯し、メルが腕に結び付けた通信機のスピーカーをONにして三回軽く叩いた。
一応VOIDの状況はミグにモニターしてもらっているが、それとて完全ではないのでメルは精霊に祈りを捧げておく。
こうしてマテリアルを高めることで、戦闘意欲を向上させ、身体能力を上昇させるとともに抵抗力も高めておくのだ。
問題の通路へ到着する。
隔壁の向こうからガンガン叩かれる音が響いている。
ミシミシ音を立てていて、いつ壊れてもおかしくないような状態だ。
「どうやって入る? 封鎖されてるんだろ?」
『お主ら側の隔壁を上げる。船全体の気圧維持のため、開けっ放しにはできん。気を付けい』
ミグの返事とともに、音を立てて隔壁が上がっていく。
「邪魔だ、退きやがれ!」
噛み砕く火がVOIDを捉える。
その名の如く、まるで炎の獣が敵を咀嚼するように、上下から火炎の幻影がVOIDを引き裂き、たまらず後退させた。
空いた空間に全員で身を滑り込ませ、隔壁が閉じられた。
「……空気が薄いな。それに流れていってやがる。どこかに穴でも空いてんのか」
よく考えれば、外からVOIDが侵入してきたのだから、当然侵入口があるはずだ。
VOIDを始末したら調べる必要があるだろう。
「よし、おまえら、気合入れていくぞ!」
ボルディアを先頭に、戦いが始まった。
「間違っても、船体を傷つけちゃいけないからね!」
メルは目の前に光でできた三角形を作り出す。
その頂点一つ一つから伸びた光が対象を貫くのだが、普段よりも術の制御にかなり気を使った。
同時に七式ワイヤーを鞭のように使って伸びてくる触手を牽制したりして援護しつつ、万が一に備え機導浄化デバイスにカードリッジを装着しておく。
シャトル内部での戦闘は、通常時の戦闘よりも気を使う。
流れ弾が設備を破壊すれば、どうなるか分からないからだ。
それが魔法などのマテリアルで引き起こされる現象ならばともかく、質量を持つ兵器や銃弾といった物理的なものなら、破壊するのに十分な破壊力を持つだろう。
途中でエアロックに寄って宇宙服を着用しているので、多少の気圧低下なら耐えられるとは思うが。
ボルディアが敵に一撃を加えてスペースを確保すると、そこにメルが機導術を撃ち込んでさらに道を切り開いた。
続けてロニが厳かに鎮魂歌を歌い上げる。
静かな、されど朗々とした声で紡がれる旋律が、VOIDたちの行動を戒め阻害した。
全てに効果があったわけではないが、それでも妨害としては十分だ。
さらに魔法で無数の闇の刃を作り、VOIDたちに向けて解き放つ。
飛翔する闇の刃が、VOIDたちに突き刺さり空中で串刺しにする。
刃が消滅した後も、残っているVOIDたちはまるで空間に縫い止められたかのように動きを封じられていた。
足止めされなかったVOIDが誰かと目を合わせようとぎょろぎょろと眼球を動かす。
「効くものか!」
目が合ったロニは、忍び寄ってくる狂気を気合で打ち破った。
「甘いんだよ!」
同じくボルディアも、戦意に猛る笑顔を浮かべて狂気を振り払う。
「あぶぶぶぶぶ……」
運悪くメルが狂気に飲まれ幻覚に取り込まれそうになったものの、即座にロニが祝福を施して不浄を払い、狂気を中和したため難を逃れた。
後手に回っているうちに、さらに触手による追撃を受けたので、いつでも癒しの法術を行使できるよう、ロニは祈りの準備をしておくことにした。
●船内対応~エンジンルームにて
ミグから通信が届く。
『道なりに行け。ちと遠回りになるが、エンジンルームまで続いておる』
「了解した。案内助かる」
礼を返し、レイアはオートソルジャーを引き連れて駆け出した。
この通路は、主にCAMの部品や武装などを搬入するための通路だ。
これらの部品や武装は厳重に梱包されたうえで運び込まれるため、実物以上の大きさになっていることも多く、当然搬入に使う通路もそれなりの広さが求められる。
オートソルジャーも、この搬入用通路を用いれば連れ歩くことができるだろう。
もっとも人間サイズの通路には連れていけないが。
そういう通路に限って、コックピットやエンジンルームへの近道だったりするのはご愛敬である。
オートソルジャーがレイアの後を追いかけ、素早く移動する。
レイアも急いでいるが、やはり遠回りしている関係上、メルと百舌鳥方が早くエンジンルームに到着した。
エンジンルームは絶賛大炎上中だった。
VOIDが船内に侵入しているのも重大な事件だが、それに負けず劣らず大問題だ。
「ちぃっ! よりによって、なんつー時に! 急ぎやがりますよ!!」
シレークスは消火器を手にして噴射する。
冴子をつれている場合、連れていない場合など、対応を色々考えていた百舌鳥だったが、エンジンルームに着いて状況を一目見た途端、それどころではないことを悟った。
「……これ、いつ燃料に引火してもおかしくないんじゃないかい?」
幸い気密はまだ保たれているようだが、エンジンルーム内の酸素を絶賛消費して炎が猛々しく燃え盛っている。
一部は燃料タンクにも燃え移っているようで、今はまだタンクだけで耐えているようだが、中の燃料に火がついたら終わりだ。
というか、既にタンクが燃えているので、直接的に引火せずとも上昇した温度で自然発火する可能性も高い。
「……どう見ても、埒が明かないでやがります!」
火の回りと勢いが強過ぎると判断したシレークスは、己が鍛錬を積んだ結果得た秘術を解き放つ。
覚醒中で衣類や装備品等も含め、仄かな黄金色に輝いていた全身が、燃える炎のように赤くなり、その色を変化させる。
同時に、シレークスの両手甲にエクラの聖印が浮かび上がった。
「これで良し……!」
敬虔なエクラ教信者として、我流の鍛錬を積み重ねきたシレークスが本質をそのままに変容させた術技は、正しく怪力を与えた。
「人間二人と幻獣一匹でどうにかなる規模じゃないかもしれないよ!」
百舌鳥が叫ぶと同時に通信が入り、出てみるとレイアだった。
『どこにいる? もうエンジンルームか?』
急いで状況を伝える。
『私もあと少しで到着する。耐えてくれ』
(レイア君と合流できれば、人手的にはだいぶ楽になるな……)
考え込みながらも、百舌鳥は消火の手を動かしていく。
「治療はおめーに任せますです!!」
「にゃ!? (えっ!?)」
消火器を大量に持ったまま火の中に飛び込むシレークスに、インフラマラエが慌てふためく。
もう、シレークスに説明書通り消火器を使うという発想はない。
「ええい、もう。めんどくせぇっ! ふんっ!」
「にゃああ~……(むちゃくちゃなのにゃ)」
消火器を破壊し、封入されている消火剤を開放する主を見て、インフラマラエは頭を抱えた。
延焼の危険がなく、なおかつさほど重要ではない箇所は後回しだ。
全員が無事に降りるまで持てば良いので、ダメージコントロールはそれを優先するべきだろう。
一番守るべきはエンジン本体。そして送られてきた燃料を溜め、エンジンに補給するタンク。そしてエンジンが生み出すエネルギーを船体各所に送るケーブル類だ。
レイアがエンジンルームに着いた頃には既に消火が始まっていた。
しかし火の手が凄く、百舌鳥とシレークスの二人掛かりでも追いついていない。
幸いオートソルジャーを連れている分人手を増やせる。
シレークスも小型の幻獣を連れているようなので、それも頭数に数えられるだろう。
VOIDは隔壁で閉じ込められているようだが、いつ出てこないとも限らない。
(……念のため、警戒しておいた方がいいか)
幸いこちらにはオートソルジャーがいるので、対VOID用のイニシャライズフィールドを展開すればある程度の狂気対策になる。
消火作業自体は力仕事だ。消火器を使ってどんどん火を消していく。これも輸送予定の荷物だったのか、それとも積みっ放しのまま人員輸送に回され忘れ去られたのか、輸送用倉庫には消火器が山ほど転がっていた。まあ、月でもあって困るものではないから、余っても処理に困るということはないだろうが。
こういう時、鍛えた身体と会得した身のこなしが役に立つ。
火災で崩落したらしい内壁が邪魔なので脇に寄せ、出し抜けに噴き上がる炎を避ける。
身体中が金属でできているオートソルジャーにも積極的に手伝わせ、とにかく盛大に燃えているところへ踏み入り消火作業に当たる。
(慌てるな……だが急げ……!)
幸いまだ燃料部分に引火はしていないようだが、仮に引火すればドカンである。
というか、既にエンジンルームの温度自体がかなり上昇しており、正直いつ爆発するか分からない状態だった。
今は徐々に温度も下がってきているし、今まで爆発しなかったことから燃料が漏れて気化しているということもなさそうだが、危なかったことに変わりはない。
ある程度の広さがあるとはいえ、エンジンルームの広さはあくまでエンジンの交換程度の想定によって決められたものでしかない。
それでもオートマトンが動く程度の広さは確保できるが、さすがに安全にスラスター移動するだけの余裕がエンジンルーム全体にあるわけではなかった。
なので、スラスターを使うのは余裕を持って直線距離を確保できる場所に留める。
レイアが加わり消火のペースは目に見えて上がった。
さらにしばらくすると輸送用倉庫から冴子も駆けつけてきて、消火作業に参加する。
「人数は十分揃ったね! 一気に消すよ!」
「はいっ!」
百舌鳥の号令に冴子が答え、消火器の消火剤を火に噴射する。
可能性としては考えにくいが、このタイミングでVOIDが現れることも想定し、守りに徹しつつベクトルを操って攻撃を引き寄せる準備は整っている。
まあ、この状況で戦闘になったらさらにややこしいことになること確実なので、VOIDなど来ないに越したことはない。
エンジンを攻撃されても困るので、その場合は完全に無視して幻影の腕を伸ばしエンジンルームから投げ飛ばしてもいいかもしれない。
どちらの場合も極力戦闘行動は行わず、あくまで消火活動を優先するべきだろう。
最悪消火器をVOIDの頭に向け噴射して足止めも考えている。
もっとも結局、無事に消火活動は終わったのでその必要はなかったわけだが。
本題はここからだ。
火災で著しく調子を落とし、出力が低下したエンジンを復調させなければならない。
大量の資材を輸送用倉庫から調達してきているので、修理用の部品や工具は潤沢にある。
その中には新しいケーブルや、燃料タンクの補修材、エンジンの修理資材などもきちんと含まれていた。
まずはエンジン全体を確認して、単純な交換作業で済むものと、精密な修理作業が必要なものに分け、状態を見極める。
交換作業はいうに及ばず、単に亀裂を埋める程度の修理も、大きさや場所にもよるがそれほど精密さは要らない。
問題はケーブルに繋がる電装系だ。
ある程度環境に強い作りにはなっているだろうが、火災と消火活動で火と水に晒されたに等しい状態になっている電子機器は確実に修理、あるいは交換の必要があるだろう。
そして電子機器はデリケートなので、作業は自ずと精密さを求められる。
「……適材適所でやがりますね!」
漏れてはいないが燃料タンクが焼けて穴が空きそうな箇所があり、シレークスは補修材を塗りたくって力技で強引に応急処置を行う。
ついでにどう見ても焼き切れて断線しているケーブルを引っこ抜き、新しいケーブルに繋ぎ直した。
頭を使う場所は味方に任せればいい。
シレークスはとにかく、脳筋行動で処理できる修理をどんどん進めるべきだ。
インフラマラエにも、資材や道具の運搬の手伝いをさせた。
「せー、のぉっ! せいやっ!!」
「うにゃにゃ……(ご主人様は、豪快なのにゃ)」
修理資材で、シレークスはエンジン破損部分の修理に取り掛かる。
レイアと彼女のオートソルジャーは対VOID班の様子を見に行ったので離脱した。
シレークスや彼女の幻獣であるインフラマラエ、最後に合流した冴子と協力し、煤と機械油だらけになりながら、百舌鳥は手分けして修理を行う。
単純修理を凄い勢いで片付けていくシレークスと同じく、冴子にも素人ができるような単純修理を担当してもらった。
二人ができない電子機器関係の修理が百舌鳥の役割だ。
後付けだが、幸い機械についてや修理のための知識は頭に入れてきた。一応日曜大工の知識も用意しているので、ちょっとした工作もできる。
持ち込んだ修理資材から電子機器の部品を、修理用の道具から必要な工具を取り出すと、焼けた電子部品の修理と交換を行う。
細々とした作業が多く、針の穴に糸を通すような集中力を必要としたが、何とか全てやり遂げた百舌鳥は、復調したエンジンを見上げてため息をついた。
「手伝ってくれてありがとう。おかげで助かったよ」
「いえ、大したことはできませんでしたし……」
礼をいう百舌鳥に、冴子は照れた。
エンジンルームでのダメージコントロールがひと段落着いたので、百舌鳥は戻って破られた外壁の修理をしに行った。
●船外戦闘~VOIDCAMを撃破せよ
サクラのクリスマスツリーが、デブリ帯で陣形を組むVOIDCAMたちのど真ん中に爆発する。
真っ暗な宇宙に色とりどりの花火が発生した。
クリスマスよりも夏にやった方がよほど似合うのではないかという感じだが、花火はクリスマスモチーフなので問題ない。
一見ふざけているようだし、じっくり見てもふざけているが、マテリアルによる爆発は本物で、VOIDCAMたちの装甲を大きく削ることに成功したようだ。
マテリアル爆発の宿命で、デブリ帯は無傷のまま健在。
環境に優しく、VOIDには厳しい。
花火としても十分に鑑賞に足るもので、パーティーの盛り上げにうってつけである。
シリアス? お帰りになられました。
「ちょっと早いクリスマス……ではないですけどね……。たーまやー……というべきでしょうか……」
弛緩した場の空気に緩みかけた気を引き締め直し、サクラは己の魔導型デュナミスを先に進ませた。
「ともあれ、これだけ派手なら注意を惹けるでしょうか……。後は、接近して叩いていきましょう……」
思い出したように仲間たちも動き出す。
マーカーの反応を見るに、同時にVOIDCAMも一部が動き出したようだ。
スパチュラの高い機動性を生かして一番に飛び出したミオレスカは、モニターに移る景色を見渡して周りの状況を確認する。
目前には巨大なデブリ帯がそびえており、まだ目視でVOIDCAMは確認できない。
しかし、表示されたマーカーは、デブリ帯に何かが潜んでいることを示している。
そのVOIDCAMがどれほど強力なのか、またはどの個体なのかまでは、肉眼で確認、あるいは戦闘するまで分からないが。
スラスターをふかし、量産型フライトパックのブースターにも火を入れ、敵影を確認次第ロングレンジマテリアルライフルで牽制しつつ攻め寄る。
ある程度近付くと、VOIDCAMの姿がモニターで確認できるようになる。
続いてアニスが敵機と彼我の距離を確認した。
武装を距離に合わせて適宜変更するためだ。
肉眼ではデブリが邪魔をするので、シャトルのコックピットから送られたマーカーを見て距離を測る。
敵機がデブリ帯から出てくる前に踏み込んで釣るべきと判断した。
逆にVOIDCAM側は仕掛けるべきと判断したのか、姿を見せて射撃を行ってきた。
「慣れてねぇ奴にゃタダの障害物だろうけどな」
デブリを徹底的に利用し、蹴って加速し軌道変更を行ったり、盾にするなどの防御行動を取りながらいなしていく。
同時に大型のデブリを回り込んだり、張り付いてやり過ごし、攻撃可能な距離まで詰めた。
一機のCAMが宇宙を進む。
御言が駆る魔導型デュミナス、月光だ。
銀色の機体が宇宙の黒に映えている。
「未だ彷徨う彼らの道筋をその光で照らし給え、月光!」
アニスに釣られてやってきたCAMは不気味なものだった。
全体のシルエットはCAMらしく、機械的なデザインを保っている。
しかし、所々が狂気VOIDのような、深海生物を思わせる不気味な生体組織に浸食されており、まるで生き物と機械が融合したかのような禍々しさを感じさせた。
それが、十機。
対する味方は、シャトルの直掩につく強化人間用R7エクスシアに乗った強化人間兵三人と美紅に、御言自身を含め、それぞれのCAMに乗り込んだアニス、エルバッハ、サクラ、エラ、ミオレスカ、ひりょの十一機だ。
通信を行い、味方機へ誰何を試みる。
前回来た時に顔を見た者は名前を覚えている。
「よろしく頼むよ」
返ってくる反応に対して送った言葉は一言のみ。
(覚悟を決めた者たちだ、これ以上の言葉は必要あるまい)
表情を引き締め、モニターに映るVOIDCAMを睨みつけた。
サクラのクリスマスツリーでVOIDCAMたちの足並みが乱れた隙をついて、エルバッハは突出しないように注意しながらウィザードを操作し、距離を詰めた。
「……そろそろですね」
試作電磁加速砲の射程にVOIDCAMが入ったことを確認する。
モニターにはVOIDCAMらの禍々しい姿がはっきりと映っている。
(まあ、どんな姿であろうと敵は敵ですが)
彼らに美的感覚があるのかどうかは知らないしエルバッハには興味もないが、それでも一般的な価値観で見れば、その姿は異様という他ない。
ひりょの通信機越しに、少女の荒い呼吸が聞こえる。
強化人間兵たちの中にも少女はいるが、彼らは軍人だ。
しかし、一人だけ、一般人といっていい存在がいる。
美紅のことだ。
彼女は今でこそイクシード・アプリで強化人間兵に迫る力を得ているが、いくら先天的にマテリアルを操る大きな才能を持っていても、それでも訓練によって後天的に身に着く能力の欠如ばかりはどうしようもない。
冴子に比べればメンタルが強いとはいえ、宇宙での戦いは地上での戦いとはまた違う恐怖がある。
殺気や敵意といった即実的な恐怖よりも、無音や暗闇といった根源的な恐怖に怯えながら、モニター越しに鉄の棺桶に包まれて敵と戦わなければならない。
そしてそれは、ひりょ自身にもいえることだ。
「冴子、美紅。君たちには大事な事を教わった。見えない明日に思いを馳せたり憂いたりする前に、まずは今を、今日を生き残る事。当たり前だけど凄く大事な事だ。俺も全力を尽くす。……だから、皆全員でこの戦況を乗り越えよう」
『……っ、はい!』
『美紅、頑張って!』
通信機から聞こえる誰かが息を飲むような音と、美紅の己を奮い立たせるような声に、美紅を激励する冴子の声が混じる。
ひりょに周波数を合わせた今の状態では冴子と美紅間で繋がっていないはずなのだが、おそらく冴子はいわずにいられなかったのだ。
強化人間や美紅、冴子や避難民達は長い避難生活と旅に戦闘で疲弊している。
冴子自身も自覚している。ならば、美紅だってそうだと思うだろう。
(安全な場所まであと少しなんだ、地上に残ってシャトルのことを俺達ハンターに託してくれた軍の人達の想いにも応えたい)
サクラのクリスマスツリーが盛大に炸裂した後、ひりょは背部の円形マテリアルエンハンサーから最大出力でマテリアルを放出する。
「お前達の攻撃、一撃たりともシャトルには当てさせない! させてなるかよっ!」
形成された光の翼を展開し、足並みが乱れたVOIDCAMたちへ突っ込んだ。
エラは初動がいかに重要であるかをよく理解している。
(上手く相手側の先手は潰せた。次は……)
コンフェッサーに備わるマテリアルの力により、通信を繋ぐ先を探す。
一番に繋ぐことができたのはアニスだった。
「確認できたVOIDCAMの位置情報を伝えます。迎撃の漏れがないようご注意を」
口頭で情報をアニスに送り、自分自身で集めた索敵情報の共有化を行う。
VOIDCAMを通してシャトルへ向かわせてはならない。
CAMの集団とVOIDCAMの集団が宇宙を翔ける。
悪趣味な機体をヘビーガトリングの射程に収め、ミオレスカは覚醒者用のスキルトレースシステムを利用して慣れ親しんだ動作を機体上で再現した。
連続射撃により弾幕を張ることで、攻撃を仕掛けようとした敵の機先を制した。
当然射撃の範囲内に味方はいない。誤射する愚など犯しはしないのだ。
「数的不利は、このスパチュラと、猟撃士として培った技で、覆します……!」
コンピュータがスパチュラの火器管制システムを制御し、高速演算を始める。
外の光景を移すモニターに重なるように、半透明の赤いマーカーが表示され、『ロックオン』のマークが追加される。
その数が増えていくとともに、ミオレスカの知覚領域が拡張していく。
「順番に倒させてもらいます……!」
ロングレンジマテリアルライフルによる狙撃が、次々にVOIDCAMを撃ち抜いていった。
一網打尽にされるのを恐れたか、VOIDCAMたちは動きを変えて散開し、ミオレスカに群がってきた。
「誤射しない程度の距離があるなら……!」
内蔵された高出力プラズマ弾を発射し、VOIDCAMを迎撃する。
魔導エンジンの余剰エネルギーで発生したプラズマ弾は、真っ直ぐVOIDCAMに突き進み、周囲を巻き込み爆発した。
陣形が乱れる。
ばらばらになり、突出する機体が出てきた。
「これ以上近付けさせません……!」
スパチュラに標準装備されたスキルトレースシステムを使い、ヘビーガトリングの斉射に冷気をまとわせた。
「弾込め……! 迅速に……!」
マテリアルを瞬間的に体に満たし、さらにスパチュラのスキルトレースシステムを併用して機体にまでマテリアルを流し込み、リロード動作を高速化させた。
シャトルに近付けさせないように、VOIDCAMの目はできる限り自分たちに引き付けなければならない。
万が一シャトル外壁に敵が張り付くことがあれば味方に頼るつもりのミオレスカだが、おどおどしつつも正確に任務をこなし、敵を撃つ。
奇襲の時間が訪れた。
「とっとと落ちろ。雑魚と遊んでるほど暇じゃねぇんだ」
高度な演算機能を持つレラージュ・ベナンディのコンピュータが演算を開始する。
コンピュータが複数の敵を同時にロックオンしたことを告げた。
リアルブルーのスキルトレース技術を覚醒者用に再現し、アニスはレラージュ・ベナンディと己の意志を同調させる。
レラージュ・ベナンディがアサルトライフルを構えた。
トリガーを引く瞬間にマテリアルを使って弾丸を加速させる。
狙撃がデブリの間を縫い、VOIDCAMの一機に直撃した。
だがスクラップにするには程遠い。
攻撃されたことに気付き、VOIDCAMたちが一斉に距離を詰めてくる。
引く意志を見せず、アニスは手甲部に内蔵した高出力プラズマ弾を発射する。
このプラズマ弾は最新型の魔導エンジンを搭載したことによる余剰エネルギーで発生させるもので、一定の距離を進んだ後、周囲を巻き込み爆発するというものだ。
光源といえば星の光のみの真っ暗な宇宙を、鮮やかにプラズマ弾の光が裂いて飛ぶ。
再び覚醒者用のスキルトレース技術を用いて、機体と己の意志を繋げた。
アニス本来の身体には、射撃と近接格闘術を組み合わせ、遠近両方に対応するべく生み出された特殊な戦闘術が染み付いている。
その技術を、 レラージュ・ベナンディで再現しようというのだ。
「想定している着弾座標を寄越せ。釣り上げる」
範囲攻撃武装持ちの味方機に告げ、送られてきた座標を見て自機を囮にそこに向かって引き込む。
VOIDCAMたちが次々にマテリアルライフルを乱射してくる中、デブリを撃って軌道変更し、狙った場所に確実に追い込んでいく。
味方の攻撃のタイミングに合わせ、先ほど発射したプラズマ弾が弾けた。
閃光で目を焼かれないようにしながら加速し、一気に範囲内から離脱する。
アニスの向こうで高まる力に気付いたVOIDCAMたちが転進しようとするが、それを許すアニスではない。
「逃がすわけねぇだろ」
再びレラージュ・ベナンディが演算を開始し、敵機体をマルチロックオンした。
御言はロングレンジライフルで牽制を行う。
敵がこちらを視認している事を確認してから機体にトリガーを引かせた。
月光は味方と連携しての戦闘に真価を発揮するコマンダータイプのCAMだ。
「君達の力が必要だ。協力してくれるかね?」
仲間や強化人間たちのCAMに対し、射撃が得意な機体に共に同じ相手を狙うように頼むと、彼らは返事の代わりに己の機体が装備する武装をVOIDCAMに向けることで答えた。
強化された射撃が次々にVOIDCAMたち目掛けて放たれる。
月光も負けてはいない。
マテリアルエンジンと武装を直結させることで、エンジンから供給されるマテリアル波動が武装に流れ込む。
エンジンから送られるマテリアル波動は紫電のごときオーラとなり、射撃能力を強化した。
ここからが覚醒者が扱うマテリアル操作技術の真骨頂。
引き金を引く刹那、マテリアルの流れがバレル内の弾丸にさらなる加速を与えた。
同時に弾丸本体を守るためマテリアルコーティングで覆い、発射前に損耗するのを防ぐ。
モニターの画面で味方と戦うVOIDCAMを確認しつつ、サクラ自身は中近距離戦主体を心掛ける。
機銃槍に内蔵された機関砲を撃ちつつ仲間の近接戦闘を援護する。
「後は近づいて倒していくとしましょう……。といっても私は機銃メインですが……」
意識が逸れないように、スラスターを盛大にふかして出力を最大にまで上げ、補助スラスターにも点火を行う。
機銃槍を構え突撃し、自分が突進した勢いを乗せVOIDCAMの一体に突き刺した。
「隙ありですよ……! この槍は飾りではないのです……!」
その後、VOIDCAMを蹴りつけ反動で槍を引き抜きつつ、機銃槍の機関砲を撃ちながら一旦距離を取り、中距離支援に戻る。
再度、VOIDCAMたちが他の味方の対応に追われ隙を見せるタイミングを見計らい、突撃体勢を取った。
やられっ放しでいるわけではなく、VOIDCAM側も攻撃を仕掛けてくる。
マテリアルライフルの乱射を危なげなく回避していると、その間に回り込んでいたらしいもう一機に懐へ潜り込まれた。
「く、槍の内側に……! ですがその程度で何も出来なくなるデュミナスではありません……!」
手甲部に内蔵された高出力のプラズマ切断機を展開する。
元を正せば宇宙船やコロニーの修理、解体用装備で工具の範疇に入るが、工具であるだけあって破壊力そのものは高く、近接武器として使える。
さらに蹴り飛ばし、離れながら機関砲を掃射するとともに、全体の状況把握を可能な限り努める。
流れ弾やVOIDCAMが行かないようシャトルの方にも注意が必要だ。
牽制と注意を引くことを目的に、エルバッハはまずは一度、試作電磁加速砲のトリガーを絞る。
コックピット内ではトリガーの感触など分からないが、それでもその感触は、どこか重い気がした。
(らしくもなく、緊張……しているのでしょうか?)
思考とは裏腹にウィザードを駆るエルバッハの動作は冴えており、即座に距離を詰めんと機体を先に進めている。
背部のマジックエンハンサーを展開した。
魔導エンジンの出力が上昇し、コックピットのモニターに出力上昇を示すランプが表示される。
エンジンが供給するマテリアルエネルギーは一度機体の隅々まで行き渡ると、機体に備わったスキルトレースシステムを介し、コックピットにいるエルバッハ自身へと流れ込んだ。
マテリアルの粒子がエルバッハの周りで舞い踊り、静かにコックピットを満たしていく。
やがてその流れは大きなうねりとなり、コックピットを揺らし、機体に危険を感知させてアラートを響かせた。
「……解除」
うるさいとばかりにアラートを手動で停止させたエルバッハが、静かに魔法を解き放つ。
スキルトレースシステムによって、エルバッハの魔法はコックピット内ではなく宇宙で、そしてCAMが放つに相応しい華々しさを見せる。
燃え盛る火球、それは例えるなら小さな太陽のようで、暗闇の宇宙において光り輝き、VOIDCAMもそうでないCAMも等しく照らす。
しかしこれが本物の太陽でない以上、まだコントロールはエルバッハの手にある。
「……行きなさい」
エルバッハの意志に応じ、宇宙に生まれ落ちた火の球がVOIDCAMたちを飲み込んだ。
火球が爆発し、広い範囲に衝撃を与え炎を巻き散らす。
これはマテリアルによって生まれた効果だ。
VOIDCAMだけを焼き、デブリ帯は無傷で残る。
いっそのこと一緒に焼き払えてしまえた方が楽かもしれないが、こちらが利用することもできるので判断し辛いところだ。
まあ、いざとなったら無理やり敵がいると仮定した上でデブリごと闇雲に吹き飛ばすという、半ば裏技のような荒業もないわけではない。
(やるのは構いませんが、爆発でVOIDCAMの位置を見失わないように注意しなければなりませんね)
冷静に思考しつつVOIDCAM一機のマテリアルライフルを回避し、続く触手による追撃も、マテリアルエンジンからマテリアルエネルギーをマント状に展開させ、斬艦刀を楯代わりにして防いだ。
ひりょはR7エクスシアのスキルトレースシステムを起動させる。
交戦可能範囲に入るのを待ち、光の翼を消して攻撃へと移行した。
炎のようなオーラがひりょのR7エクスシアを包む。
その輝きに、一斉にVOIDCAMたちが機体のカメラを向けた。
中には生体部分がうぞうぞと動いてひりょを指し示す個体もいる。
構わない。どちらにしろ、注目させる目的は十分に果たせた。
「誰もやらせやしない。俺もこんな所で死ぬつもりはない! 俺には支え守らねばならない人がいるんだよっ!」
押し寄せてくるVOIDCAMたちをおびき寄せ、近づいてきたところにマウントされたマテリアルライフルを引き抜いて射撃を浴びせかける。
紫色の光線がVOIDCAMたちに直撃し、まとめて装甲を削り取った。
有人機なら今頃アラームが鳴り響きダメージコントロールに四苦八苦しているだろうが、生憎相手はCAMと一体化したVOIDだ。気にも留めない。
それどころか反撃とばかりにマテリアルライフルを一斉射してきた。
「ぐっ……!」
さすがにたまらず、ひりょはエンジンからカーテン状にエネルギーによる障壁を展開させ、R7エクスシアにもフライトシールドを構えさせて防御姿勢を取らせた。
味方機は既にVOIDCAMと交戦を始めている。
自身の対応を決めるため、エラはどこが劣勢なのか冷静に見極めた。
必要に応じて即座に支援に入るためだ。
(一、二、三……七。足りない)
すぐにある可能性がエラの脳裏に思い浮かぶ。
「各機へ。敵VOIDCAMの所在が三機不明です。奇襲に警戒してください。シャトルを狙われる危険性があります。直掩機の皆様方、奮起を期待いたします」
直掩機としてシャトルの周りに展開するCAM四機へ、奇襲警戒を厳にと依頼する。
エラ自身もシャトルとの距離を若干詰め、即応可能な位置を維持した。
(とはいえ……敵機は全部で十機。対する友軍機は私自身が操縦するこのコンフェッサーを入れて十一機。数では僅かに勝っているとはいえ、こちらの四機は戦力として当てにしていいのか分からない。相手の三機が抜けて、それでようやく同数か)
無線経由で情報を共有しながらも、直掩各機及び、シャトルのオペレーターと通信をやり取りし、別方向からの奇襲の有無、他方向の戦況など、とにかく情報収集に努める。
三機のVOIDCAMがシャトル付近に現れた。
デブリ帯を迂回してきたらしい。
素早く位置関係を把握し支援先や攻撃対象を選定する。
シャトルとの相対距離、対応友軍の有無を確認して優先目標を定めた。
「各機へ。防衛戦闘を開始してください。敵機体をシャトルに取りつかせてはなりません」
『『『了解っ!』』』
『分かりました!』
冷静なエラの対応に信頼を寄せたか、R7エクスシアに乗る強化人間兵
たち三人から揃って返事が返ってくる。
美紅の返事が一瞬遅れるのは、まあ経験のなさを考えると仕方ない。
エラは直掩機たちと連携して、挟撃を行い各個撃破を図る。
距離に応じてマテリアルキャノンとプラズマライフルを使い分け、正確に撃ち分けていく。
スキルトレースシステムにより、機導術で生み出した光線をVOIDCAMにぶつける。
長期戦運用を前提に単発あたりの効率化を極限まで追求したものだ。威力などは凡庸だが継戦能力に特化している。
対CAMならば大きさから集中砲火できるので威力不足も補える。
素直に集団戦で範囲特化するならば、また別の方法がある。
「直掩各機へ。シャトルまで退避してください。繰り返します。シャトルまで退避してください」
通信に不穏なものを感じたか、四機が慌ててシャトルを守る輪を狭めた。
「焼き払え、延炎」
そうして空いたスペースを利用し、スキルトレースシステムで機導術を発動させた。
炎に焼かれたVOIDCAMたちが強引にシャトルへ肉薄し、強化人間兵や美紅と戦闘を始める。
「私は先輩だよ? 少しはかっこつけさせたまえ!」
御言が割って入り、可変機銃の轟音を響かせた。
同時にスラスターをふかす。
可変機銃の形態を巧みに変えて近接戦闘を行い、味方の攻撃を促す。
ある程度引きつけた所で覚醒者用のスキルトレースシステムを使用してマテリアルで形成した雷撃つきの障壁を展開、射撃モードに変更して追撃をかけた。
しかし反撃の射撃と触手による攻撃が乱れ飛び、そのいくつかが月光を貫く。
損傷を告げるアラームが鳴り響く中、使用不能になった箇所の応急修理を行い、マテリアルエンジンの出力低下を自分の生体マテリアルを注ぎ込むことで補った。
機と見たか、三体以外にもVOIDCAMたちが一斉にシャトルへ突撃を始める。
「シャトルの方へは何があっても向かわせません……。行きたければ私達全員を倒してからにしなさい……」
サクラは自分を無視してシャトルに向かおうとする敵機を、逆方向に弾き飛ばした。
VOIDCAMたちの攻撃のうち、シャトルに当たりそうなもののみシャトルととの間に入り盾を構えて防ぐ。
念のため無線で仲間へ伝達し即時対応を頼んだ。
外壁修理後メルにいわれた通り合図を送ったルビィは、そのままシャトルの外に留まり、直掩機へクイックライフルで援護を行った。
ちょうどVOIDCAMが攻勢を強めたタイミングで、VOIDCAM側の意表を突く形で戦闘に参戦する。
あくまで攻撃は援護に留め、船体外側を移動しようとする敵がいないかの警戒に当たる。
シャトルに直撃しそうなデブリや敵機へクイックライフルを向け、マテリアルビームで迎撃した。
傷だらけのVOIDCAMが一機直掩機の警戒網を抜けてシャトルに飛んでくる。
強化人間用R7エクスシアが一機慌てて飛んでくるが、どう考えても間に合わない。
「……!」
ルビィは冷静にマテリアルキャノンを構えた。
同時に己の身体を流れるマテリアルの力を偏らせることで、魔法力を強化する。
──発射。
真空状態故に無音。しかし巨大なマズルフラッシュが本来の轟音を思わせる。
マテリアルがなくなったカートリッジが排出される。
撃ち出されたエネルギーの弾丸がVOIDCAMに大きな風穴を開けた。
そこへR7エクスシアが追撃をかけ、クイックライフルを構え直したルビィの第二射が敵機に突き刺さった。
『大丈夫!? 怪我はない!?』
R7エクスシアから美紅の声が聞こえる。
ルビィは困ったように首を傾げると、新たにクイックライフルを構えR7エクスシアの背後へ忍び寄るVOIDCAMをマテリアルビームで撃ち抜いた。
●着陸~月へ
ミグは強化人間たちから操縦を引き継いだ。
シャトルも広義でいえば一応ユニットの範疇に入るだろう。
機導師かつパイロットのミグの方が、非常時の操縦については詳しい。
ルビィから対処完了の連絡があったので、メルはまよいに伝えておく。
避難民の動揺を鎮静化させる役に立つだろう。
VOIDを全て片付けた後で、改めてロニはすぐ近くの、避難民がいる輸送用倉庫へ応援に向かった。
結局回復は全て終わってからになったが、それはそれで構わない。
いざとなれば精神を浄化し救済と安寧をもたらす魔法が役に立つだろう。
あらかた撃墜して余裕が生まれたので、ミオレスカはデブリがシャトルや味方に当たらないか注意することにした。
敵がいないことを確認し、CAMに乗った他の味方と一緒にシャトルを目指す。
必要ならシャトル進路の維持に努めるつもりだ。
推力が必要ならCAMで外から押せばいい。
(生き残ることができれば、後の対策も出来ます。リアルブルーも必ず復活します)
ミオレスカは固唾を飲んでダメージコントロールが行われたエンジンの調子を見守る。
不時着になるなら、可能な限り協力するつもりだ。
「そろそろ限界だな。ケツ持ちはこっちでやる。各自帰還始めな」
通信を受けて最後の一機を追い詰め、撃破して後退を始めるアニスだが、時間が足りない。
「出来れば使いたくなかったんだがなぁ……しゃーねぇ」
映像の網膜投影とともに、脳への情報書き込みが行われ機体と繋がった反射神経が強化される。
赤く発光したメインカメラに、各部から噴出したマテリアルが赤光と緑光の軌跡を描き、レラージュ・ベナンディが飛び去っていった。
帰還する間、御言は邪魔なデブリに対してミサイルをぶつけて爆発させる。
作った道を進む強化人間兵たちのCAMを見ていると、一人の強化人間を思い出した。
かつてはともに肩を並べ、今は歪虚とともに行ってしまった彼の事を。
彼ともいつかまた共に肩を並べられるだろうか?
(否、必ず連れ戻そう)
帰還を喜ぶ強化人間兵や美紅たちの笑顔を見て決意を固めた。
「……殲滅終了ですか。そろそろ戻るとしましょう」
スラスターを噴射すると、エルバッハはもう少しで着陸の準備に入るシャトルへ戻るべく飛び立った。
掃討完了後も船外で活動していたエラは、予定時刻が近付いたことに気付いて作業を切り上げる。
「……私、残業はしない主義でして」
呟くと、コンフェッサーをシャトルへ回頭させた。
警戒のためぎりぎりまで船外壁に留まり、何事もないことを確認したルビィはエアロックを通りメルの下へ戻った。
静かに、大型輸送シャトルが着陸体勢に入る。
月への突入を始めた船体が、赤熱色に変わっていく。
崩壊を思わせる不規則な振動はなく、何かが爆発することもなく、皆の期待と不安を胸に、シャトルは月へと降りていく。
着陸は成功した。
そして月の転移が始まった。
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/11/06 08:12:19 |
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![]() |
情報確認所(MS様への質問卓) 岩井崎 メル(ka0520) 人間(リアルブルー)|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/11/03 20:38:47 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/06 08:02:21 |