ゲスト
(ka0000)
超人蹴球・後半戦!(龍騎士側)
マスター:鮎川 渓

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/11/06 09:00
- 完成日
- 2018/11/19 15:25
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●交流試合とはどんなものかしら?
龍園が他の地域と交流を持つようになってから早1年半。けれど龍騎士達はなんだかんだで忙しく、龍園に引きこもったままだった。
そこで龍騎士隊隊長・シャンカラ(kz0226)は、比較的龍園近辺が落ち着いている今こそ! と、数名の龍騎士とともに西方へ飛び出すことに。
訪問の申し出を快く受けてくれたのは、ゾンネンシュトラール帝国軍第一師団の副師団長・シグルド(kz0074)。
初めての西方にわくわく★な龍騎士達に、シグルドが提案した交流方法は『サッカー』なる未知のすぽぅつ。
『手でボールに触らない』
『ゴール枠へボールを入れたら得点』
『前半後半に分けて行う』
ざっくり説明された内容はそんなカンジで。
「よくわからないけど、ハンターさんも来てくれるしなんとかなるよねっ★」
と、半ばおのぼりさん気分な龍騎士達だったが――。
いざ始まった前半戦。
高いポテンシャルを秘めた帝国チームに対し、龍騎士チームは刺突技で相手ゴールまでの相手を根こそぎふっとばしてみたり、自陣ゴールを伏せてみたり相手ゴールをかっぱらったり、空飛んでみたりカレーぶちまけてみたり、セクハラ★ケツタッチで動揺させたり誘惑対決を勃発させたりと、奇想天外な策略を次々に展開(本試合のルール的には全てセーフ)。何と先制することに成功する。
だがしかし、応援していた帝国チア軍団が乱入してきたことで事態は一変。
帝国チームも球分裂させてみたり「あれこれバスケじゃね?」なシュートを決めてきたりと大混戦。
奮起した帝国チームに巻き返され、2-2のドローで試合を折り返すこととなった。
●とりあえずごはん
「はー……」
シャンカラはミント香る蜂蜜レモン水を一息に飲み干し、空にしたグラスをタンッとベンチの上に置く。
「はー……」
ダルマ(kz0251)は蜂蜜漬けのレモンを皮ごともりもり頬張り、指についた蜂蜜を舐めた。
「んー……」
シグルド(kz0074)は弁当籠からハムとチーズが挟まれたパンをかじりつつ、2人の様子を眺めていた。
「疲れたかい?」
陶磁器でできたティーカップで紅茶を楽しみつつ、言葉少なになる2人に尋ねるシグルドに2人は軽くかぶりを振った。
「いえ、サッカーというのは『結構危険な競技なんだなぁ』って……。あ、この蜂蜜レモン美味しい」
「まさかあんなにおっかねェ……いや可愛い増援があろうとは。な、コレ止まらなくなるよな」
「それは僕も予想できなかった。あとゴールが空を飛んだりするのも予想外だった。このピクルス美味しいから食べてみるといいよ」
普通に敵将同士がサッカーのフィールド上で輪になって食べているのだから、なかなか不思議な話だ。
そしてふと気が付いて、周辺の静かさに気が付いてシャンカラは顔を上げて辺りを見回した。
「そういえば前半戦のハンターさん方は? あ、まずいこれホント止まらない。おなか減ってきたなぁ」
「さっき来てもらったハンターの契約は前半戦だけなんだ、また後半戦に募集かけてるからもうすぐ来るんじゃないかな。こっちのレモン水もらうね」
「後半はもっと戦いが激化してもおかしくないし、僕らはハンターさん達が怪我しないように護りを固めるべきかな……。そっちの貰っていいですか」
「いやもう、次は会場自体吹き飛ぶんじゃねェの。 ……あーナッツはヤベェわ、酒飲みてェわ」
「壊れたら仕事ができるって職人は喜ぶから問題ないさ。にしてもよく食べるね。他に何か頼むかい?」
「壊して喜ばれるって不思議ですね……って、ダルマさん真面目にやってくれるかい? 僕達は龍騎士隊を代表して来ているんだよ? ……あ、おうどんあったらくださーいっ」
「お前燃費悪ィなー。俺にもパスタくださーいッ」
差し入れで覚えた西方の料理を早速図々しく頼んでみるふたりに、シグルドはにっこり首を横に振る。
「帝国にそんな料理ないんだ。2人にイモのニョッキと、アクアヴィットを」
西方西方と一絡げにしてはいけない。国・地域ごとに特産品も食事情も異なるのだ。食い意地から思わぬ学習をしたふたりだった。
ともあれ、最初に出会った時のような緊張感はすっかり消え去り始めていた。
国を超えた『交流』試合という目的は十二分に果たされようとしていた。
それをどう締めくくるかは後半戦にかかっている。
「締めはフライドポテトでいいかい」
「本当に帝国は芋ばっかなんだな……」
そんなこんなで後半戦。
いやぁ~んッ、この試合どうなっちゃうのぉ~~ッ!?☆
龍園が他の地域と交流を持つようになってから早1年半。けれど龍騎士達はなんだかんだで忙しく、龍園に引きこもったままだった。
そこで龍騎士隊隊長・シャンカラ(kz0226)は、比較的龍園近辺が落ち着いている今こそ! と、数名の龍騎士とともに西方へ飛び出すことに。
訪問の申し出を快く受けてくれたのは、ゾンネンシュトラール帝国軍第一師団の副師団長・シグルド(kz0074)。
初めての西方にわくわく★な龍騎士達に、シグルドが提案した交流方法は『サッカー』なる未知のすぽぅつ。
『手でボールに触らない』
『ゴール枠へボールを入れたら得点』
『前半後半に分けて行う』
ざっくり説明された内容はそんなカンジで。
「よくわからないけど、ハンターさんも来てくれるしなんとかなるよねっ★」
と、半ばおのぼりさん気分な龍騎士達だったが――。
いざ始まった前半戦。
高いポテンシャルを秘めた帝国チームに対し、龍騎士チームは刺突技で相手ゴールまでの相手を根こそぎふっとばしてみたり、自陣ゴールを伏せてみたり相手ゴールをかっぱらったり、空飛んでみたりカレーぶちまけてみたり、セクハラ★ケツタッチで動揺させたり誘惑対決を勃発させたりと、奇想天外な策略を次々に展開(本試合のルール的には全てセーフ)。何と先制することに成功する。
だがしかし、応援していた帝国チア軍団が乱入してきたことで事態は一変。
帝国チームも球分裂させてみたり「あれこれバスケじゃね?」なシュートを決めてきたりと大混戦。
奮起した帝国チームに巻き返され、2-2のドローで試合を折り返すこととなった。
●とりあえずごはん
「はー……」
シャンカラはミント香る蜂蜜レモン水を一息に飲み干し、空にしたグラスをタンッとベンチの上に置く。
「はー……」
ダルマ(kz0251)は蜂蜜漬けのレモンを皮ごともりもり頬張り、指についた蜂蜜を舐めた。
「んー……」
シグルド(kz0074)は弁当籠からハムとチーズが挟まれたパンをかじりつつ、2人の様子を眺めていた。
「疲れたかい?」
陶磁器でできたティーカップで紅茶を楽しみつつ、言葉少なになる2人に尋ねるシグルドに2人は軽くかぶりを振った。
「いえ、サッカーというのは『結構危険な競技なんだなぁ』って……。あ、この蜂蜜レモン美味しい」
「まさかあんなにおっかねェ……いや可愛い増援があろうとは。な、コレ止まらなくなるよな」
「それは僕も予想できなかった。あとゴールが空を飛んだりするのも予想外だった。このピクルス美味しいから食べてみるといいよ」
普通に敵将同士がサッカーのフィールド上で輪になって食べているのだから、なかなか不思議な話だ。
そしてふと気が付いて、周辺の静かさに気が付いてシャンカラは顔を上げて辺りを見回した。
「そういえば前半戦のハンターさん方は? あ、まずいこれホント止まらない。おなか減ってきたなぁ」
「さっき来てもらったハンターの契約は前半戦だけなんだ、また後半戦に募集かけてるからもうすぐ来るんじゃないかな。こっちのレモン水もらうね」
「後半はもっと戦いが激化してもおかしくないし、僕らはハンターさん達が怪我しないように護りを固めるべきかな……。そっちの貰っていいですか」
「いやもう、次は会場自体吹き飛ぶんじゃねェの。 ……あーナッツはヤベェわ、酒飲みてェわ」
「壊れたら仕事ができるって職人は喜ぶから問題ないさ。にしてもよく食べるね。他に何か頼むかい?」
「壊して喜ばれるって不思議ですね……って、ダルマさん真面目にやってくれるかい? 僕達は龍騎士隊を代表して来ているんだよ? ……あ、おうどんあったらくださーいっ」
「お前燃費悪ィなー。俺にもパスタくださーいッ」
差し入れで覚えた西方の料理を早速図々しく頼んでみるふたりに、シグルドはにっこり首を横に振る。
「帝国にそんな料理ないんだ。2人にイモのニョッキと、アクアヴィットを」
西方西方と一絡げにしてはいけない。国・地域ごとに特産品も食事情も異なるのだ。食い意地から思わぬ学習をしたふたりだった。
ともあれ、最初に出会った時のような緊張感はすっかり消え去り始めていた。
国を超えた『交流』試合という目的は十二分に果たされようとしていた。
それをどう締めくくるかは後半戦にかかっている。
「締めはフライドポテトでいいかい」
「本当に帝国は芋ばっかなんだな……」
そんなこんなで後半戦。
いやぁ~んッ、この試合どうなっちゃうのぉ~~ッ!?☆
リプレイ本文
●
後半開始前。
「少しいいかしら。これも交流の一環と思考して、リアルブルーのサッカーを調査したの」
数分前サフィーア(ka6909)の提案で、龍騎士や希望者へ簡単なサッカー講座が始まった。
「選手の安全のため、本来はもっとルールが定められているそうよ。例えば、選手自身を狙うとルール違反だとか」
集めた情報をサフィーアが伝え、
「退場になっちゃうんだよー」
蒼界出身の桜崎 幸(ka7161)が補足していく。基本的に球の運搬手段は足のみ、道具の使用はNGなど。彼女の情報は前半を踏まえ必要そうな事柄に絞られており、短時間でよくまとめたものだと龍騎士達は驚嘆した。更に驚くべきはその内容。事前説明と大分違う。
「前半で異議を唱えられたのは、サッカーというスポーツにおいてフェアプレーでなかったのだと推測するわ」
「成程、それで怒られてしまったのですね」
「あー……」
「叱られた時に、もしやルールの解釈が違うのではと感じていたんですが……選手ではなく、ボールを対象にすることのほうが正しかったんですね……!?」
前半戦で初めてサッカーを体験したユウ(ka6891)、エンバディ(ka7328)、ニーロートパラ(ka6990)の龍園出身者達も驚くやら納得するやら。
近くで耳にしたユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)も額に手を当てる。
(んー、流石に前半のあれは不味かったかな?)
彼女は前半得点に貢献したが、その手法は超長射程の刺突技で相手選手をふっとばし仲間の道を拓くというものだった。
龍騎士達も困惑。
「概ね理解したぜェ、ありがとな」
「となると、後半はどう動けば良いのか」
それを聞き咎め、マリィア・バルデス(ka5848)が顔を上げた。
「今回はサッカーじゃなくてシグルドルールのサッカーっぽい何かでしょ? 交流だもの、全力を出すわ」
「ええ。工夫を試みつつ、過ぎた行為をしない配慮があれば良いと思考するわ」
外出から戻ってきた星野 ハナ(ka5852)も、シャンカラの横へ滑り込んで言う。
「これはシグルドさんが選んだシグルドサッカーですからぁ、あの2点だけ守れば問題ないんですぅ。こっちの結束見せてやりましょぉ?」
「「シグルドサッカー」」
そう。これは蒼界のサッカーをベースに生まれた新たな紅界すぽぅつ――シグルドサッカーなのであるッ!!
「今回の目的は交流なんだし、仲良く楽しくできればそれで良いんだよ」
鞍馬 真(ka5819)は悩む彼らを解すよう微笑みかけ、氷雨 柊(ka6302)と相変わらず釘バット片手のクラン・クィールス(ka6605)、レナード=クーク(ka6613)の銀髪トリオもこっくり。
「どちら側も楽しく終わりたいですねぇ」
「最後腐れなく終われれば良いんだろう?」
「勝っても負けても、お互いええ試合になれたんなら嬉しいやんね!」
前半戦を省み、あるいは元々のサッカーを知り、多くの選手に『今回のルール内で楽しく平和的に試合するには?』と模索する動きが現れた。攻撃技から阻害術へ替えたり、機動や耐久を上げパスをより繋げそうなスキル構成にしてみたり。
自由な発想から次々と奇策を打ち出し、格上と言っていい帝国チームを同点に抑えることができた龍騎士チームだが、それに固執することなく各々作戦をシフトしているのだ。適応力が半端ない。
そして新たに参戦したマリィアと、
「なんか面白そーな事やってんじゃん、俺様ちゃんも混ぜろ」
蒼機脚で足周りを固めたゾファル・G・初火(ka4407)。流れに囚われないこの2人が、チームに新たな風を吹かすか。
一方、トリエステ・ウェスタ(ka6908)は柳眉を寄せていた。
「"聞いていたルール"には何も違反していなかったはず。であれば、『サッカーじゃない』『お前たちの振舞いは後世まで龍園に残る』と一方的に非難されるのは理不尽だわ」
やはり龍園出身で、何も知らずにいた彼女からすればそう感じるのも無理からぬことだろう。ぶつぶつ零していると、隣に誰かが座ったので振り向き、驚く。
「シャンカラさん!? ……聞いてた?」
シャンカラは困ったように笑い、おもむろに彼女の頭を撫でた。
「な、何?」
「ご自分の名誉の為だけでなく、僕達の事も考えてくださっているのかなと感じたもので」
狼狽える彼女をいい子いい子と撫でてから物言いたげな目をする。彼女は察して息を吐き、
「親善目的の試合だし怒りに怒りで返したりしないわ、大人だもの。子供扱いはやめて頂戴」
シャンカラがホッとして手を下ろすと、アーク・フォーサイス(ka6568)がやって来た。
「大丈夫? 前半の最後、落ち込んでいるような気がしたから……」
と、今度はシャンカラ、彼の頭をなでなで。
「僕達は大丈夫ですよ。異文化交流は難しいですが、きっと帝国側の皆さんとも分かりあえます」
「うん、最後まで楽しもう。知らないことは知っていくことが出来るしね?」
やっぱりアークも内心狼狽えたが、元気なら良いかとされるがままになる。
けれど真相を知ったエンバディは浮かぬ顔。
「僕たちはもう、引き返せない所にまで来ちゃったのかもねぇ……」
アルカ・ブラックウェル(ka0790)はぐっと拳を握った。
「恐らく敵チームも今回はスキル使ってくる筈……歴戦の猛者揃いだから前半以上に気合入れて迎え撃つ!」
「相変わらずの戦力差、同点は寧ろ押されてる。積極的に攻めていきたい所だ」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は帝国勢の顔ぶれを眺め冷静に分析。
「……考えがありまぁす」
エンバディは龍騎士達へある物を渡した。
そうして、開始の時は来た。
●
「みんながんばれー、がんばれー♪」
チアガールにはなれないからと、幸はその分精一杯声を張る。
「応援の声って聞こえたら嬉しいよねぇ。だから思いっきり声を出してくよぉ」
「レモン水や蜂蜜レモンも、喜んで貰えてよかったですね」
幸と同じく引き続き応援参加のエステル・クレティエ(ka3783)、選手達へカメラを掲げて見せる。
「皆さん格好いいプレーをして下さいね!」
同じくカメラを提げた木綿花(ka6927)は、柴犬ポチと共にダルマへ手を振る。
「ダルマ様。約束のお写真、ご用意できておりますよ。後半は是非好プレー写真も撮らせてくださいませ」
写真とは珍プレーなあれだろうか。ダルマ、冷や汗。今度こそはと気合を入れ自陣ゴールへ。後半GK希望者が不在だったため、急遽ダルマが就くことになった。
全体を見渡せる席に座ったエンバディへ、カイン・シュミート(ka6967)が声をかける。
「できることは補佐するからさ、頼むぜ監督」
「監督だなんてそんなぁ」
双眼鏡を覗いたエンバディは、シャンカラの手に先程渡した無線機があるのを見て胸を撫で下ろす。前半に引き続き選手観客一体となって通信網を敷く算段だ。加えて後半では龍騎士にも無線機を貸し、エンバディが情報を統括・指示出しすることで、より活用しようというのだ。
「さあ! 後半戦! 引き続き、じっきょーととっこーはレムさんでお送りするのだっ☆ いくぜっ! 釘バットのクランらんッ! わたわたのアーくんっ! 正にいまコートの真ん中できっく、おぅっふ!?」
レム・フィバート(ka6552)の解説は早々に中断を余儀なくされた。ホイッスルと同時に弾丸がレムを掠めニーロを襲う! クローズコンバットを発動したニーロは辛くも逃れたが、その威力に嫌な汗が背を伝う。
「早速来ましたか!」
挑発するよう笑う狙撃手。けれど、自身より巨大な魔導銃を構えたマリィアはまだ落ち着いていた。
「向こうにも狙撃手がいるのね。でも、私の相手はあなたじゃないわ」
そして敵味方入り交じる前に、強度を抑えた制圧射撃で抵抗の高い相手を見極めようとするが……
「速攻!?」
帝国チーム、一気に攻勢を仕掛けてきた!
――帝国選手、案の定激おこだったのである。
「おいおい、交流試合だって忘れてねぇか?」
あまりの勢いに、メアリ・ロイド(ka6633)の口の端が引きつる。
苛烈な炎や雷が見舞われたかと思うとFW陣がなだれ込んで来、コートは熾烈な戦場と化す。マリィアが制圧射撃を、ニーロが妨害射撃をばら撒き味方を援護するも、頑強な帝国選手達は殆ど動じない。
そんな中、あえて前線へ飛び出す者達が。
「あーくんお守り隊の出番ですなっ!」
「アーク! 他にも範囲に入れそうな奴は入ってくれ!」
レムとクラン、シャンカラが進み出てガウスジェイル3体勢で前列の攻撃を請け負う。しかし半端ない威力の攻撃だ、数度受ければ回復のため一時撤退を余儀なくされる。
「ここは止めるの任せるの!」
欠けた箇所にすかさずディーナ・フェルミ(ka5843)が入りディヴァインウィルを発動。
「あれーおかしいの、ちゃんと防げるのボールないの!」
何だか予定と違ったらしく首を捻っているが、ともあれ後列の仲間を守るため結界維持に努めた。
この事態に、木綿花はライン際に駆け寄るとポチを後ろに隠し、
「再生の祈りを使用いたします、お怪我をされた方はこちらに!」
幸は癒やしの力を高めるロザリオを握りしめる。
「ヒールもあるよぉ、傷が深くなる前に戻ってきてー!」
真もギターを救急セットに持ち替え負傷者の許へ。仲良く試合できるように強く望んでいたその瞳を、淋しげに翳らせて。カインは慌てて立ち上がる。
「悪い、選手のフォローに行ってくるわ」
「お願いねぇ、僕はいざとなったら飛んで逃げるから! ……ボールはどこ?」
閃く炎雷に目を凝らし球を探すエンバディ。
その間撤退者への追撃はメアリが障壁で防ぎ、ライン際につけたカインもまた障壁を展開し負傷者を引き継ぐ。こうした即席の連携プレーが可能なのも通信網のお陰だ。
ニーロは既にラストテリトリーを展開し、ガウスでは防ぎ切れない範囲攻撃を引き受けていたアウレールの許へ。チーム屈指の頑強さを誇る彼だが、回避不能な状態で受ける攻撃は容赦なく体力を削いでいく。
「代わります、どうぞ一度回復へ!」
「くっ……攻撃を受け止めたはいいが、誰もボールを持っていないぞ!?」
そう。前半殆どダメージを与えることをしなかった帝国勢だが、怒り、あるいは前半の龍騎士チームのやり方に学び、選手への直接的な攻撃を選択した選手が多数いたのだ。
「これはちょっとマズいかもっ」
「このままでは全滅しかねません」
夢路 まよい(ka1328)は飛行術をかけた杖で、フィロ(ka6966)は格闘士ならではの術で飛翔し、相手方の射程外へ逃れる。
「ボールを持って帝国ゴールに近づけば、気を引けるかもしれないね」
「ええ、少しでも攻撃を分散させましょう。監督様、ボールは今どちらに?」
『それが……あ、あった! 遠くの客席に転がってる、このどさくさで飛んでったんだぁ!』
『あら早速出番なのね』
エンバディに続きトリエステの声が無線機から届くと、車輪付きのボールカゴを押してトリエステが現れた。カゴに積んだ予備のボールをひとつ手に取り、ふむと思案。
「相手の攻撃で飛んでいったなら、こちらのボールでいいのかしら? 行くわよー」
「こっちだよー!」
上空で手を振るまよい目掛け全力スロー。しかし飛来した弾丸が球にチップ、誰もいない方へすっ飛んでいく!
「ああっ」
「私がおります!」
声がしたかと思うと、ナイトカーテンで身を隠し難を逃れていたユウが現れ、速やかに球を確保した。
(後半も引き続いて、皆さんの足を引っ張らないよう頑張らないと……!)
龍娘ユウ、相変わらずの韋駄天ぶりでセンターへ駆け上がる! 気付いた者がすかさず奪いに来るも、
「こっちこっちー!」
隠の徒で他の選手に隠れていたアルカが飛び出し、ユウからのパスを受けた。
「空にお返しするよっ!」
「承ります」
アルカがどーんっと蹴り上げた球をフィロが脚でキャッチ。まよいや上がってきた柊、メアリら飛行班でパスを回し妨害の一点集中を避けることで、球の保持率を上げた。
と。
トンカン、しゅおおぉ……
「何の音でしょう?」
ロングアクションで回復ポイントと化した木綿花、幸と共に不思議な物音に振り向き、驚愕。
「うわぁ!? 帝国のゴールがちっちゃくなっちゃったよー!」
前半、こちらは自陣ゴールを伏せてしまう奇策に出たが、後半は何と帝国側がゴールをベキベキにして溶接し、球ひとつ分ほどの大きさに改造してきたのだ! しかも奪われぬようペグで地面に固定する念の入れよう。ぽかんとした隙に、飛行班は敵の銃撃に合い球を取り零してしまう。
しかし呆気に取られるのはまだ早かった。次に響いてきたのは魔導エンジンの咆哮。帝国軍御用達・魔導トライクのおでましだ!
「今回のルール的にはセーフ、なんだよな?」
マネージャーとしてルールギリギリを攻めてサポートに乗り出しているカインも、これには呆然。トライクのカゴへ球を入れ、頑丈な三輪で進路上の選手を蹴散らし猛然とゴールへ向かってくる!
「生かして帰さん覚悟しろ!」
その一言で龍騎士達の目の色が変わった。
「すまん、ちと頼む」
「わ、わかったで!」
GKダルマは傍にいたレナードへゴールの守りを託すと、真っ向からトライクへ突進。幻影の腕を伸ばしトライクを掴み止める。すかさずシャンカラが大剣でタイヤを薙ぎ払った。
「……非礼を重ねてしまったことはお詫びしますが、そのお言葉は看過できかねます。僕達には、皆さんを無事にお帰しする義務がありますので」
これで暴走トライクは止まったが、転がった球を拾った2人組が急襲を仕掛けてくる! その破格の威力たるやもはや暴力。障壁も妨害も打ち払い、嵐の如くゴールへ殺到!
「それ以上はあかんでー!」
レナードは氷の矢で脚を縫い止めにかかるも、一瞬早くシュートが繰り出されてしまう! あわやゴールなるかに思えたその時。
「間に合ったか」
復帰したアウレールが立ちはだかり、ガウスジェイルで球を引き寄せ被弾。アウレールでなければ気絶していただろう程の超高威力弾だ。流石に目眩を覚えたが、それでも彼は退かずドリブルで果敢に前へ!
「ちょっと回復は!?」
駆けつけたユーリと飛行班の援護を得て帝国ゴールへ爆走。しかしいざシュートという段でくるりと方向転換――彼が目指すは奥に控えしシグルド!
「ん?」
悠然と構えていたシグルド、目を瞬く。アウレールの挙動はまるで、帝国DF陣にゴールを守るかシグルドを守るか選択を迫っているようで。満身創痍の彼は毅然と声を張り上げる。
「卿らは未だ気付かないのか! 真の敵が内に居ることに!」
帝国選手の視線をしっかり惹きつけてからシグルドを指す。
「全ての元凶は無法を許す主催者、副長その人である。裏切られた者! 復讐を望む者! 正義(ルール)を取り戻さんと願う者! 旗色の違いを超え、万国のSNT(シグルド殴り隊)同志よ! 団結せよ! 今こそ己の本分を全うすべし!」
話術巧みなアウレール渾身のプロパガンダが、コート中に朗々と響いた。
――だが。
「悪いね」
前半シグルドへの敵愾心を燃やしていた帝国DFが、アウレールへ向け範囲魔法を放つ。寝返る選手はひとりとしていなかったのだ。前半であれば結果は違ったかもしれないが、帝国選手の矛先は完全に龍騎士チームへ変わっていた!
それだけ怒りを買ってしまったということなのか、帝国勢の猛攻は止まらない。零れた球は帝国側へ渡り、雷撃纏う弾丸となってゴールに刺さった!
「わわわっ2-3! 逆転されましたぞっ」
選手への直接攻撃を躊躇わなくなった者が複数いる帝国勢に対し、こちらはサッカーに寄せた平和路線へシフト済み。妨害や回避に努めるよりなく正にジリ貧……否!
「好き勝手してくれんじゃん。喰らえ! クリムゾンウェスタンラリアーット!!」
いた! 後半から参戦のバトルジャンキー・ゾファルが!
センターからリスタート直後、豪快なプロレスめく技で球をぴたりと止めGET。そのまま前進しバトルジャンキーの眼光で帝国GKを睨み据えると、
「いっけえぇ! 一打撃砕「星砕き」!!」
蒼機脚へ力全てを注ぎ込み、ちっさなゴールを塞ぐGK向けシュート! ……だが!
何と頑健な帝国GK、ペグで固定されたゴールをぶっこ抜くと、ゴールをバットよろしく豪快にフルスイング! シュートはホームランとなって弾き返された!
「やるじゃん! こーなったら天魔覆滅「如来掌」で防御要員を涅槃にいざなっちゃうしかないじゃん!?」
闘志を燃やしたゾファルの蒼機脚が、新たに送り込まれるマテリアルで煌々と照り始めた。
●
「この流れは、ちょっと……」
客席のエステルは青ざめてライン際へ駆けつけると、
「クールダウン、大事ですよね!」
球そっちのけでガチバトルを始めてしまった帝国DFとゾファルを眠りの霧で包む! 剣戟の音が寝息に変わった。エステル、きりっと凛々しい顔でエンバディを振り返る。
「監督、タイムをお願いしますッ」
「でも審判ってシグルド様? 聞いてくれるかなぁ」
「でしたらっ」
エステルはぴょんぴょん跳ねて懸命に手を振り、帝国チアチームへ合図を送る。先に気付いたのは、応急処置に走り回っていた真だった。
「一体何を?」
「音楽ですっ。本当は試合の盛り上げになれば一番だったのでしょうが……チームの垣根を越え、共に調べを奏でることで、皆さんにこの試合の趣旨を思い出していただけるかもしれません」
それを聞き、真は椅子に置き去りにしていたギターを手に取った。折角の交流試合、仲良く楽しくというのは真が前後半通して思っていたことだ。
「良ければ手伝わせてもらえないかな?」
また強力な威力を乗せたシュートが龍騎士ゴールを襲おうとしていた。その軌道上へ身を躍らせたディーナ、飛来する球を星神器「ウコンバサラ」で力一杯ぶっ叩く! するとこれまで覚醒者達の攻撃を散々食らってきた球が遂に破裂した。
「星神器ここで使う!?」
「でも手は使ってないの」
詰め寄る帝国選手に、ディーナは可愛らしくふんすふんす。
――と。そこに穏やかな音色がふぅわり流れてきた。
剣戟の音を柔らかく包み鎮めるエステルのフルートに、真が奏でるアルペジオがそっと添う。龍騎士側で紡ぐ旋律へ、帝国側から響く伸びやかな歌声が重なって、ヒートアップした選手達へ淡雪のように降り注ぐ。
「皆さん、どうか思い出してください……!」
「これは交流試合。仲良く楽しく、だよ?」
両陣営から響く和睦の祈りを込めた曲が、少しずつ選手達の胸へ染みていく。コートに吹き荒れていた吹雪や炎は次第に小さくなっていった。
演奏を終えたエステルはホッと息をつくと、真にぺこりと。
「良かった……では、ちょっと行ってきますね」
「どこへ?」
「仕込みです♪」
「んん?」
首を傾げた真だったが、ともあれ。相変わらず武装姿の選手が駆け回り空を飛んでいる不思議なシグルドサッカーだが、ここからは心安く観戦できそうだ。ぽろぽろとギターを爪弾き、選手達の応援に回ることにした。
けどね? 割れたんですよ球が。ボールガール・トリエステ、ぴっと手を挙げた。
「スペアボール突入するわよー。一緒に私も選手として参入するわよー」
突入? 誰もが首を捻ったが、彼女は気にせずラインの内側に入ってきた――ボールをひとつ入れたカゴをガラゴロ押しながら!! 呆気に取られる選手達の間を抜け、ちっこいゴールに顔を顰める。
「そうよ、今回は親善目的の試合でしょう? ずっと鎖国状態だった龍園だってバーンと門戸を開いたんだから、そちらさんもバーンと間口を開いてくれたって良いんじゃないかしら?」
言って、カゴごとゴールへ突き進む! ハッとしたまよいと柊が慌てて飛んできて、GKに眠りの霧を降らせ、眠ったGKを幻影の腕で引き寄せ進路から退けると、トリエステはちっちゃなゴールにカゴをガコンガコン! 溶接されたゴールを押し開き強引にねじ込んだ!
カゴの中にはボールがひとつ。
そのカゴがゴール枠へ入った。
つまり。
ハッと我に返った実況レムが叫ぶ!
「ご、ごおぉーるっ! よくわかんないけどごぉーるっ! これで3-3、龍騎士チーム追いついたー!? 解説のメアリさんっ、このシュート? は何ですかな!?」
上空のメアリ、眼鏡くいっ。
「これはある意味少女漫画的シュートと言えるのではないでしょうか。言うなれば『K5☆シュート』!」
「どのへんが少女漫画!? で、何の略ですかな?」
「『壁ドンならぬ/カゴドンで/国の垣根も/君のハートも/こじ開けちゃうぞ☆シュート』です」
「そう言われると少女漫画ちっくに思えるふしぎ!!」
「うーん?」
アークは首を傾げていたが、さておいて。
ここから試合の流れが変わる。
「行くぞ!」
ガウスで引き寄せ球を奪取したクラン、高々と蹴り上げる。その先には空を走るレムが。
「釘バットと刀と天と地のこみゅにけーしょん、見るが良いっ♪」
「天……、天? ……まあ、地なら頑張ろうか」
たったか宙を駆ける幼馴染に若干引きつつ、アークは少しでも先でパスを受けるべく敵陣へ駆け上がる。割り込んできた相手を躱し、不留一歩で更に前へ。眠りの霧に囚われそうになるも、
「アーク様、サポート致します」
フィロの歌声が凌いだ。だが飛んできた魔法の反動で弾かれ球は帝国側に。しかし龍騎士チーム、リカバリが早い!
「ちょっと冷たいでー?」
レナードが脚を凍らせ素早く足止め。それでもなおパスの送り先を探す帝国選手。けれどひとりは既にメアリにマークされているし、別のひとりはハナが眼前に放った五色で目を眩まされている。上がってきた別の選手もいたが、その姿は突如出現した土壁の向こうに消えた。サフィーアだ。
帝国選手達が直接攻撃をやめたことで、巡らせた通信網、そして互いにフォローし合う姿勢が活きてきたのだ。帝国勢は個人技重視の者が少なくなく、予想以上の効果を発揮した。
更にパスカットに注力した選手が多かったことが、元々高かったボール保持率を上昇させる。帝国勢に渡ろうと、
「いただきですよぅ♪」
空から柊が幻影の腕を伸ばしてくるし、何とか掻い潜りパスを出せたとて、
「させないわ?」
「この身をもって防ぎます!」
マリィアの弾丸がパス先の選手を妨害し、更には頑強なフィロが割り込んでくるのだから堪らない。
「皆様、もう1点取りましょう!」
弾かれた球を即座にゲットしたユウが、再びその駿足で戦線を押し上げていく!
『右サイド、空いてるよぉ』
「了解!」
すかさずそこへ滑り込んだアルカへパスが通ると、アルカは小さな――球1つ分からボールカゴ1台分に広がったがまだ小さい――ゴールへチェイジングスロー!
「いっくよー!」
ゴールまでひとっ飛び! が! 再びゴールを掴み振り回す帝国GK! アルカ、ばいんっと弾かれた。
「どんまいだよぉ!」
幸の鼓舞が飛ぶ。押し戻された球を拾ったユーリ、GKが握るゴールを見据えた。
「前半でやったやつと比べれば劣るかもだけど、標的へ穿つには不足はない筈よ。なので、止めるなら全力で止めてね」
己が生命力をも削り、ありったけのマテリアルを込め弾丸シュート! が、何せゴールが小さい!! 並ならぬ威力のシュートは、ポストに当たった衝撃でGKごとゴールを弾き飛ばしてしまう!
だがしかしまだ球はこちら側にある。転がった帝国ゴールへハナが、っていうか人の壁が押し寄せる! ハナwith式神8体、横一列に並び一糸乱れぬ動きでゴールへ! 結構な絵面だ。
「そぉれ♪」
9人(?)がかりで球を押し込もうとするもその物量が仇になった。何せゴールが小さい!!
まだまだ粘るぞ龍騎士チーム! 今度は上がってきたレナードが球へ雷撃を纏わせシュート! が、何せゴールが以下略!! すかさず釘バットにマテリアルを込めたクランがシュートっていうかフルスイングでねじ込もうとするも、何せゴ以下略!!
「どうしろと!?」
球をキープしている以上相手に加点を許すことはないが、何せゴ以下略でこちらもシュートが入れらない。
煮詰まったその時、胃を刺激する良い匂いが漂ってきた。アルカ、頬を緩ます。
「エステルのポトフだぁ♪」
と、更にそこへ肉の香ばしい匂いが混ざったかと思うと、木綿花が困惑気味にシャンカラとダルマを呼ぶ。
「お料理が届きましたが、受け取って良いものでしょうか?」
「料理?」
「その……牛が」
「「牛」」
「やだぁ、もう届いちゃったんですぅ? 試合終了時間を指定しておいたのにぃ」
反応したのはハナだ。さっきの外出はこれを注文するためだったらしい。受取りと支払いのためハナは離脱し、何故かカインと幸を引っ張っていく。次に彼らがコート脇へ戻ってきた時には、何と牛の丸焼き1頭をどどんと抱えていた。
裏で調理していたエステル、それを見て試合が終わったらしいと慌てて鍋をカートに乗せ、牛の隣へ。
「皆さーん、ポトフができましたよー!」
燃費の悪い隊長の腹がきゅるりと鳴る。
「……折角のお料理、温かい内に頂かないと失礼ですよね?」
「ンな事言ってまた腹減っただけだろォ? 俺も食う」
ゴール攻略に励んでいた龍騎士チームの面々、
「慰労会が始まったのですか? 給仕のお手伝いを!」
「あ。私も料理持ってきたのよ、出さなくちゃ」
「笛鳴ったっけ?」
「この物音で掻き消されたのではと推測するわ」
そんなことを言い合い、芳しい香りに釣られるようコートの外へ。
『~~!』
無線機から慌てふためく監督の声が流れていたが、誰の耳にも届かなかった。
●
「何か急に手薄になったな」
帝国側が決勝点となる4点目を上げた所で笛が鳴った。歓喜に湧く彼らが次の瞬間目にしたものは。
「食べさせてもらう分飲物は任せるの」
「ジュースだー!」
「このポトフお芋沢山で美味しいやんねー♪」
「暴れたりない気もするけど、旨いもんは大正義じゃん☆」
「はい隊長さん、あーん」
「っ!?」
――既に慰労会という名の宴をおっ始めている龍騎士チームだった。
ぽかんとするチームメイトをよそに、シグルドが興味深そうに寄ってくる。
「気が早いね、それは何だい?」
するとディーナが彼へ駆け寄り、
「ここまで来たら大食勝負もするの交流なのっ」
試合中鬱憤が晴らせなかったアウレールもニゴォッと笑い、
「それは良い。胃と言わず食道が裂けるまで存分に堪能するが良い」
あっつあつのソーセージをぐいぐい押し付ける。マリィアも持参した料理を広げた。
「アンチョビ風味のポテトグラタン、コケモモジャム添えミートボール、こっちはグロッグね」
「それ、去年のクリスマスに作ってくださったものですか?」
シャンカラの言葉に、マリィアにっこり。
「そう、私の故郷でクリスマスに飲まれるものよ。少し早いけど、もうすぐ第1アドベントだから。ポテトは帝国の特産品、コケモモは龍園の名物よね? それぞれ使ってみたわ」
まるで各国を繋げるかのような料理達。ポテトたっぷりのポトフを作ったエステルが、困惑する帝国勢へ微笑みかける。
「一緒に料理を囲めばそれだけでもう楽しいですよね。試合お疲れ様でした」
そこから帝国勢も巻き込んだ大慰労会が始まった。
何せポトフは大鍋いっぱい、牛の丸焼きは1頭分、ジュースは数樽どどんとある。マリィアの料理にハナのミートパイとタルトタタンもあって、料理も飲料も十二分。更に帝国側からほかほかのふかし芋の差し入れも。更に更に、
「シャンカラ、お疲れ。差し入れだけど、バウムクーヘン食う?」
カインがスイーツを持ってきた。その場で広げれば、何ということでしょう! 甘味まで揃った宴会フルコースに!
試合が終わればノーサイド、共に料理を囲み杯を交わす。と、木綿花がシャンカラの袖を引いた。
「サッカーを教えて下さいましたし、皆様に何か龍園らしいお礼をしてみては如何でしょう? 隊長方自ら伝統芸能の披露ですとか」
「良いですね。でも僕、芸と呼べそうなものは……あ。木綿花さん前半で龍園の伝統曲を歌われてましたよね? 一緒に歌ってくださいませんか?」
「勿論」
シャンカラは近くにいたユウにも、
「ユウさんもご一緒してくださいます?」
「はっはい、私で宜しければっ!」
そうやって龍園出身者達を次々巻き込み、龍園の古歌を披露する。帝国のコートに北方の旋律が響き渡り、宴に華を添えた。エステルと木綿花が撮った写真を配って回り、それを見て皆微笑んだりはにかんだり吹き出したりと、宴は一層盛り上がる。
ディーナから逃れ一息ついているシグルドへ、フィロは飲み物を差し出しながら言う。
「シグルド様が変な気を回さなくても、ドラグーンの皆様は正しいルールを提示されればその通りに試合に臨まれたと思います。引っ掻き回したのはシグルド様なのですから、こんなのサッカーじゃないと言ったシグルド様のお仲間と謂われなき批判に悩まれたドラグーンの皆様には、シグルド様から一言お話する方が良いのではないでしょうか」
フィロもまた、龍騎士達を案じていたのだ。シグルドは手近な皿に手を伸ばすと、
「異文化交流というものは互いの違いを認めて新たなルールを作るものだろう。最初は齟齬も不満も出るのは当然だよ。君の口から出たようにね」
答えて杯を受け取り、給仕していてまだ何も口にしていなかった彼女へパイを手渡した。
はふはふとふかし芋を頬張りながら、エンバディ。
「結果は残念だけど、楽しく締めくくれた良いよねぇ」
彼を除く面々は、まだ自分達が負けたことを知らない。けれど知っていたとしても、こうして帝国勢を招き宴をしたことに変わりはない。
和やかな慰労の宴は、日暮れまで続いた。
後半開始前。
「少しいいかしら。これも交流の一環と思考して、リアルブルーのサッカーを調査したの」
数分前サフィーア(ka6909)の提案で、龍騎士や希望者へ簡単なサッカー講座が始まった。
「選手の安全のため、本来はもっとルールが定められているそうよ。例えば、選手自身を狙うとルール違反だとか」
集めた情報をサフィーアが伝え、
「退場になっちゃうんだよー」
蒼界出身の桜崎 幸(ka7161)が補足していく。基本的に球の運搬手段は足のみ、道具の使用はNGなど。彼女の情報は前半を踏まえ必要そうな事柄に絞られており、短時間でよくまとめたものだと龍騎士達は驚嘆した。更に驚くべきはその内容。事前説明と大分違う。
「前半で異議を唱えられたのは、サッカーというスポーツにおいてフェアプレーでなかったのだと推測するわ」
「成程、それで怒られてしまったのですね」
「あー……」
「叱られた時に、もしやルールの解釈が違うのではと感じていたんですが……選手ではなく、ボールを対象にすることのほうが正しかったんですね……!?」
前半戦で初めてサッカーを体験したユウ(ka6891)、エンバディ(ka7328)、ニーロートパラ(ka6990)の龍園出身者達も驚くやら納得するやら。
近くで耳にしたユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)も額に手を当てる。
(んー、流石に前半のあれは不味かったかな?)
彼女は前半得点に貢献したが、その手法は超長射程の刺突技で相手選手をふっとばし仲間の道を拓くというものだった。
龍騎士達も困惑。
「概ね理解したぜェ、ありがとな」
「となると、後半はどう動けば良いのか」
それを聞き咎め、マリィア・バルデス(ka5848)が顔を上げた。
「今回はサッカーじゃなくてシグルドルールのサッカーっぽい何かでしょ? 交流だもの、全力を出すわ」
「ええ。工夫を試みつつ、過ぎた行為をしない配慮があれば良いと思考するわ」
外出から戻ってきた星野 ハナ(ka5852)も、シャンカラの横へ滑り込んで言う。
「これはシグルドさんが選んだシグルドサッカーですからぁ、あの2点だけ守れば問題ないんですぅ。こっちの結束見せてやりましょぉ?」
「「シグルドサッカー」」
そう。これは蒼界のサッカーをベースに生まれた新たな紅界すぽぅつ――シグルドサッカーなのであるッ!!
「今回の目的は交流なんだし、仲良く楽しくできればそれで良いんだよ」
鞍馬 真(ka5819)は悩む彼らを解すよう微笑みかけ、氷雨 柊(ka6302)と相変わらず釘バット片手のクラン・クィールス(ka6605)、レナード=クーク(ka6613)の銀髪トリオもこっくり。
「どちら側も楽しく終わりたいですねぇ」
「最後腐れなく終われれば良いんだろう?」
「勝っても負けても、お互いええ試合になれたんなら嬉しいやんね!」
前半戦を省み、あるいは元々のサッカーを知り、多くの選手に『今回のルール内で楽しく平和的に試合するには?』と模索する動きが現れた。攻撃技から阻害術へ替えたり、機動や耐久を上げパスをより繋げそうなスキル構成にしてみたり。
自由な発想から次々と奇策を打ち出し、格上と言っていい帝国チームを同点に抑えることができた龍騎士チームだが、それに固執することなく各々作戦をシフトしているのだ。適応力が半端ない。
そして新たに参戦したマリィアと、
「なんか面白そーな事やってんじゃん、俺様ちゃんも混ぜろ」
蒼機脚で足周りを固めたゾファル・G・初火(ka4407)。流れに囚われないこの2人が、チームに新たな風を吹かすか。
一方、トリエステ・ウェスタ(ka6908)は柳眉を寄せていた。
「"聞いていたルール"には何も違反していなかったはず。であれば、『サッカーじゃない』『お前たちの振舞いは後世まで龍園に残る』と一方的に非難されるのは理不尽だわ」
やはり龍園出身で、何も知らずにいた彼女からすればそう感じるのも無理からぬことだろう。ぶつぶつ零していると、隣に誰かが座ったので振り向き、驚く。
「シャンカラさん!? ……聞いてた?」
シャンカラは困ったように笑い、おもむろに彼女の頭を撫でた。
「な、何?」
「ご自分の名誉の為だけでなく、僕達の事も考えてくださっているのかなと感じたもので」
狼狽える彼女をいい子いい子と撫でてから物言いたげな目をする。彼女は察して息を吐き、
「親善目的の試合だし怒りに怒りで返したりしないわ、大人だもの。子供扱いはやめて頂戴」
シャンカラがホッとして手を下ろすと、アーク・フォーサイス(ka6568)がやって来た。
「大丈夫? 前半の最後、落ち込んでいるような気がしたから……」
と、今度はシャンカラ、彼の頭をなでなで。
「僕達は大丈夫ですよ。異文化交流は難しいですが、きっと帝国側の皆さんとも分かりあえます」
「うん、最後まで楽しもう。知らないことは知っていくことが出来るしね?」
やっぱりアークも内心狼狽えたが、元気なら良いかとされるがままになる。
けれど真相を知ったエンバディは浮かぬ顔。
「僕たちはもう、引き返せない所にまで来ちゃったのかもねぇ……」
アルカ・ブラックウェル(ka0790)はぐっと拳を握った。
「恐らく敵チームも今回はスキル使ってくる筈……歴戦の猛者揃いだから前半以上に気合入れて迎え撃つ!」
「相変わらずの戦力差、同点は寧ろ押されてる。積極的に攻めていきたい所だ」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は帝国勢の顔ぶれを眺め冷静に分析。
「……考えがありまぁす」
エンバディは龍騎士達へある物を渡した。
そうして、開始の時は来た。
●
「みんながんばれー、がんばれー♪」
チアガールにはなれないからと、幸はその分精一杯声を張る。
「応援の声って聞こえたら嬉しいよねぇ。だから思いっきり声を出してくよぉ」
「レモン水や蜂蜜レモンも、喜んで貰えてよかったですね」
幸と同じく引き続き応援参加のエステル・クレティエ(ka3783)、選手達へカメラを掲げて見せる。
「皆さん格好いいプレーをして下さいね!」
同じくカメラを提げた木綿花(ka6927)は、柴犬ポチと共にダルマへ手を振る。
「ダルマ様。約束のお写真、ご用意できておりますよ。後半は是非好プレー写真も撮らせてくださいませ」
写真とは珍プレーなあれだろうか。ダルマ、冷や汗。今度こそはと気合を入れ自陣ゴールへ。後半GK希望者が不在だったため、急遽ダルマが就くことになった。
全体を見渡せる席に座ったエンバディへ、カイン・シュミート(ka6967)が声をかける。
「できることは補佐するからさ、頼むぜ監督」
「監督だなんてそんなぁ」
双眼鏡を覗いたエンバディは、シャンカラの手に先程渡した無線機があるのを見て胸を撫で下ろす。前半に引き続き選手観客一体となって通信網を敷く算段だ。加えて後半では龍騎士にも無線機を貸し、エンバディが情報を統括・指示出しすることで、より活用しようというのだ。
「さあ! 後半戦! 引き続き、じっきょーととっこーはレムさんでお送りするのだっ☆ いくぜっ! 釘バットのクランらんッ! わたわたのアーくんっ! 正にいまコートの真ん中できっく、おぅっふ!?」
レム・フィバート(ka6552)の解説は早々に中断を余儀なくされた。ホイッスルと同時に弾丸がレムを掠めニーロを襲う! クローズコンバットを発動したニーロは辛くも逃れたが、その威力に嫌な汗が背を伝う。
「早速来ましたか!」
挑発するよう笑う狙撃手。けれど、自身より巨大な魔導銃を構えたマリィアはまだ落ち着いていた。
「向こうにも狙撃手がいるのね。でも、私の相手はあなたじゃないわ」
そして敵味方入り交じる前に、強度を抑えた制圧射撃で抵抗の高い相手を見極めようとするが……
「速攻!?」
帝国チーム、一気に攻勢を仕掛けてきた!
――帝国選手、案の定激おこだったのである。
「おいおい、交流試合だって忘れてねぇか?」
あまりの勢いに、メアリ・ロイド(ka6633)の口の端が引きつる。
苛烈な炎や雷が見舞われたかと思うとFW陣がなだれ込んで来、コートは熾烈な戦場と化す。マリィアが制圧射撃を、ニーロが妨害射撃をばら撒き味方を援護するも、頑強な帝国選手達は殆ど動じない。
そんな中、あえて前線へ飛び出す者達が。
「あーくんお守り隊の出番ですなっ!」
「アーク! 他にも範囲に入れそうな奴は入ってくれ!」
レムとクラン、シャンカラが進み出てガウスジェイル3体勢で前列の攻撃を請け負う。しかし半端ない威力の攻撃だ、数度受ければ回復のため一時撤退を余儀なくされる。
「ここは止めるの任せるの!」
欠けた箇所にすかさずディーナ・フェルミ(ka5843)が入りディヴァインウィルを発動。
「あれーおかしいの、ちゃんと防げるのボールないの!」
何だか予定と違ったらしく首を捻っているが、ともあれ後列の仲間を守るため結界維持に努めた。
この事態に、木綿花はライン際に駆け寄るとポチを後ろに隠し、
「再生の祈りを使用いたします、お怪我をされた方はこちらに!」
幸は癒やしの力を高めるロザリオを握りしめる。
「ヒールもあるよぉ、傷が深くなる前に戻ってきてー!」
真もギターを救急セットに持ち替え負傷者の許へ。仲良く試合できるように強く望んでいたその瞳を、淋しげに翳らせて。カインは慌てて立ち上がる。
「悪い、選手のフォローに行ってくるわ」
「お願いねぇ、僕はいざとなったら飛んで逃げるから! ……ボールはどこ?」
閃く炎雷に目を凝らし球を探すエンバディ。
その間撤退者への追撃はメアリが障壁で防ぎ、ライン際につけたカインもまた障壁を展開し負傷者を引き継ぐ。こうした即席の連携プレーが可能なのも通信網のお陰だ。
ニーロは既にラストテリトリーを展開し、ガウスでは防ぎ切れない範囲攻撃を引き受けていたアウレールの許へ。チーム屈指の頑強さを誇る彼だが、回避不能な状態で受ける攻撃は容赦なく体力を削いでいく。
「代わります、どうぞ一度回復へ!」
「くっ……攻撃を受け止めたはいいが、誰もボールを持っていないぞ!?」
そう。前半殆どダメージを与えることをしなかった帝国勢だが、怒り、あるいは前半の龍騎士チームのやり方に学び、選手への直接的な攻撃を選択した選手が多数いたのだ。
「これはちょっとマズいかもっ」
「このままでは全滅しかねません」
夢路 まよい(ka1328)は飛行術をかけた杖で、フィロ(ka6966)は格闘士ならではの術で飛翔し、相手方の射程外へ逃れる。
「ボールを持って帝国ゴールに近づけば、気を引けるかもしれないね」
「ええ、少しでも攻撃を分散させましょう。監督様、ボールは今どちらに?」
『それが……あ、あった! 遠くの客席に転がってる、このどさくさで飛んでったんだぁ!』
『あら早速出番なのね』
エンバディに続きトリエステの声が無線機から届くと、車輪付きのボールカゴを押してトリエステが現れた。カゴに積んだ予備のボールをひとつ手に取り、ふむと思案。
「相手の攻撃で飛んでいったなら、こちらのボールでいいのかしら? 行くわよー」
「こっちだよー!」
上空で手を振るまよい目掛け全力スロー。しかし飛来した弾丸が球にチップ、誰もいない方へすっ飛んでいく!
「ああっ」
「私がおります!」
声がしたかと思うと、ナイトカーテンで身を隠し難を逃れていたユウが現れ、速やかに球を確保した。
(後半も引き続いて、皆さんの足を引っ張らないよう頑張らないと……!)
龍娘ユウ、相変わらずの韋駄天ぶりでセンターへ駆け上がる! 気付いた者がすかさず奪いに来るも、
「こっちこっちー!」
隠の徒で他の選手に隠れていたアルカが飛び出し、ユウからのパスを受けた。
「空にお返しするよっ!」
「承ります」
アルカがどーんっと蹴り上げた球をフィロが脚でキャッチ。まよいや上がってきた柊、メアリら飛行班でパスを回し妨害の一点集中を避けることで、球の保持率を上げた。
と。
トンカン、しゅおおぉ……
「何の音でしょう?」
ロングアクションで回復ポイントと化した木綿花、幸と共に不思議な物音に振り向き、驚愕。
「うわぁ!? 帝国のゴールがちっちゃくなっちゃったよー!」
前半、こちらは自陣ゴールを伏せてしまう奇策に出たが、後半は何と帝国側がゴールをベキベキにして溶接し、球ひとつ分ほどの大きさに改造してきたのだ! しかも奪われぬようペグで地面に固定する念の入れよう。ぽかんとした隙に、飛行班は敵の銃撃に合い球を取り零してしまう。
しかし呆気に取られるのはまだ早かった。次に響いてきたのは魔導エンジンの咆哮。帝国軍御用達・魔導トライクのおでましだ!
「今回のルール的にはセーフ、なんだよな?」
マネージャーとしてルールギリギリを攻めてサポートに乗り出しているカインも、これには呆然。トライクのカゴへ球を入れ、頑丈な三輪で進路上の選手を蹴散らし猛然とゴールへ向かってくる!
「生かして帰さん覚悟しろ!」
その一言で龍騎士達の目の色が変わった。
「すまん、ちと頼む」
「わ、わかったで!」
GKダルマは傍にいたレナードへゴールの守りを託すと、真っ向からトライクへ突進。幻影の腕を伸ばしトライクを掴み止める。すかさずシャンカラが大剣でタイヤを薙ぎ払った。
「……非礼を重ねてしまったことはお詫びしますが、そのお言葉は看過できかねます。僕達には、皆さんを無事にお帰しする義務がありますので」
これで暴走トライクは止まったが、転がった球を拾った2人組が急襲を仕掛けてくる! その破格の威力たるやもはや暴力。障壁も妨害も打ち払い、嵐の如くゴールへ殺到!
「それ以上はあかんでー!」
レナードは氷の矢で脚を縫い止めにかかるも、一瞬早くシュートが繰り出されてしまう! あわやゴールなるかに思えたその時。
「間に合ったか」
復帰したアウレールが立ちはだかり、ガウスジェイルで球を引き寄せ被弾。アウレールでなければ気絶していただろう程の超高威力弾だ。流石に目眩を覚えたが、それでも彼は退かずドリブルで果敢に前へ!
「ちょっと回復は!?」
駆けつけたユーリと飛行班の援護を得て帝国ゴールへ爆走。しかしいざシュートという段でくるりと方向転換――彼が目指すは奥に控えしシグルド!
「ん?」
悠然と構えていたシグルド、目を瞬く。アウレールの挙動はまるで、帝国DF陣にゴールを守るかシグルドを守るか選択を迫っているようで。満身創痍の彼は毅然と声を張り上げる。
「卿らは未だ気付かないのか! 真の敵が内に居ることに!」
帝国選手の視線をしっかり惹きつけてからシグルドを指す。
「全ての元凶は無法を許す主催者、副長その人である。裏切られた者! 復讐を望む者! 正義(ルール)を取り戻さんと願う者! 旗色の違いを超え、万国のSNT(シグルド殴り隊)同志よ! 団結せよ! 今こそ己の本分を全うすべし!」
話術巧みなアウレール渾身のプロパガンダが、コート中に朗々と響いた。
――だが。
「悪いね」
前半シグルドへの敵愾心を燃やしていた帝国DFが、アウレールへ向け範囲魔法を放つ。寝返る選手はひとりとしていなかったのだ。前半であれば結果は違ったかもしれないが、帝国選手の矛先は完全に龍騎士チームへ変わっていた!
それだけ怒りを買ってしまったということなのか、帝国勢の猛攻は止まらない。零れた球は帝国側へ渡り、雷撃纏う弾丸となってゴールに刺さった!
「わわわっ2-3! 逆転されましたぞっ」
選手への直接攻撃を躊躇わなくなった者が複数いる帝国勢に対し、こちらはサッカーに寄せた平和路線へシフト済み。妨害や回避に努めるよりなく正にジリ貧……否!
「好き勝手してくれんじゃん。喰らえ! クリムゾンウェスタンラリアーット!!」
いた! 後半から参戦のバトルジャンキー・ゾファルが!
センターからリスタート直後、豪快なプロレスめく技で球をぴたりと止めGET。そのまま前進しバトルジャンキーの眼光で帝国GKを睨み据えると、
「いっけえぇ! 一打撃砕「星砕き」!!」
蒼機脚へ力全てを注ぎ込み、ちっさなゴールを塞ぐGK向けシュート! ……だが!
何と頑健な帝国GK、ペグで固定されたゴールをぶっこ抜くと、ゴールをバットよろしく豪快にフルスイング! シュートはホームランとなって弾き返された!
「やるじゃん! こーなったら天魔覆滅「如来掌」で防御要員を涅槃にいざなっちゃうしかないじゃん!?」
闘志を燃やしたゾファルの蒼機脚が、新たに送り込まれるマテリアルで煌々と照り始めた。
●
「この流れは、ちょっと……」
客席のエステルは青ざめてライン際へ駆けつけると、
「クールダウン、大事ですよね!」
球そっちのけでガチバトルを始めてしまった帝国DFとゾファルを眠りの霧で包む! 剣戟の音が寝息に変わった。エステル、きりっと凛々しい顔でエンバディを振り返る。
「監督、タイムをお願いしますッ」
「でも審判ってシグルド様? 聞いてくれるかなぁ」
「でしたらっ」
エステルはぴょんぴょん跳ねて懸命に手を振り、帝国チアチームへ合図を送る。先に気付いたのは、応急処置に走り回っていた真だった。
「一体何を?」
「音楽ですっ。本当は試合の盛り上げになれば一番だったのでしょうが……チームの垣根を越え、共に調べを奏でることで、皆さんにこの試合の趣旨を思い出していただけるかもしれません」
それを聞き、真は椅子に置き去りにしていたギターを手に取った。折角の交流試合、仲良く楽しくというのは真が前後半通して思っていたことだ。
「良ければ手伝わせてもらえないかな?」
また強力な威力を乗せたシュートが龍騎士ゴールを襲おうとしていた。その軌道上へ身を躍らせたディーナ、飛来する球を星神器「ウコンバサラ」で力一杯ぶっ叩く! するとこれまで覚醒者達の攻撃を散々食らってきた球が遂に破裂した。
「星神器ここで使う!?」
「でも手は使ってないの」
詰め寄る帝国選手に、ディーナは可愛らしくふんすふんす。
――と。そこに穏やかな音色がふぅわり流れてきた。
剣戟の音を柔らかく包み鎮めるエステルのフルートに、真が奏でるアルペジオがそっと添う。龍騎士側で紡ぐ旋律へ、帝国側から響く伸びやかな歌声が重なって、ヒートアップした選手達へ淡雪のように降り注ぐ。
「皆さん、どうか思い出してください……!」
「これは交流試合。仲良く楽しく、だよ?」
両陣営から響く和睦の祈りを込めた曲が、少しずつ選手達の胸へ染みていく。コートに吹き荒れていた吹雪や炎は次第に小さくなっていった。
演奏を終えたエステルはホッと息をつくと、真にぺこりと。
「良かった……では、ちょっと行ってきますね」
「どこへ?」
「仕込みです♪」
「んん?」
首を傾げた真だったが、ともあれ。相変わらず武装姿の選手が駆け回り空を飛んでいる不思議なシグルドサッカーだが、ここからは心安く観戦できそうだ。ぽろぽろとギターを爪弾き、選手達の応援に回ることにした。
けどね? 割れたんですよ球が。ボールガール・トリエステ、ぴっと手を挙げた。
「スペアボール突入するわよー。一緒に私も選手として参入するわよー」
突入? 誰もが首を捻ったが、彼女は気にせずラインの内側に入ってきた――ボールをひとつ入れたカゴをガラゴロ押しながら!! 呆気に取られる選手達の間を抜け、ちっこいゴールに顔を顰める。
「そうよ、今回は親善目的の試合でしょう? ずっと鎖国状態だった龍園だってバーンと門戸を開いたんだから、そちらさんもバーンと間口を開いてくれたって良いんじゃないかしら?」
言って、カゴごとゴールへ突き進む! ハッとしたまよいと柊が慌てて飛んできて、GKに眠りの霧を降らせ、眠ったGKを幻影の腕で引き寄せ進路から退けると、トリエステはちっちゃなゴールにカゴをガコンガコン! 溶接されたゴールを押し開き強引にねじ込んだ!
カゴの中にはボールがひとつ。
そのカゴがゴール枠へ入った。
つまり。
ハッと我に返った実況レムが叫ぶ!
「ご、ごおぉーるっ! よくわかんないけどごぉーるっ! これで3-3、龍騎士チーム追いついたー!? 解説のメアリさんっ、このシュート? は何ですかな!?」
上空のメアリ、眼鏡くいっ。
「これはある意味少女漫画的シュートと言えるのではないでしょうか。言うなれば『K5☆シュート』!」
「どのへんが少女漫画!? で、何の略ですかな?」
「『壁ドンならぬ/カゴドンで/国の垣根も/君のハートも/こじ開けちゃうぞ☆シュート』です」
「そう言われると少女漫画ちっくに思えるふしぎ!!」
「うーん?」
アークは首を傾げていたが、さておいて。
ここから試合の流れが変わる。
「行くぞ!」
ガウスで引き寄せ球を奪取したクラン、高々と蹴り上げる。その先には空を走るレムが。
「釘バットと刀と天と地のこみゅにけーしょん、見るが良いっ♪」
「天……、天? ……まあ、地なら頑張ろうか」
たったか宙を駆ける幼馴染に若干引きつつ、アークは少しでも先でパスを受けるべく敵陣へ駆け上がる。割り込んできた相手を躱し、不留一歩で更に前へ。眠りの霧に囚われそうになるも、
「アーク様、サポート致します」
フィロの歌声が凌いだ。だが飛んできた魔法の反動で弾かれ球は帝国側に。しかし龍騎士チーム、リカバリが早い!
「ちょっと冷たいでー?」
レナードが脚を凍らせ素早く足止め。それでもなおパスの送り先を探す帝国選手。けれどひとりは既にメアリにマークされているし、別のひとりはハナが眼前に放った五色で目を眩まされている。上がってきた別の選手もいたが、その姿は突如出現した土壁の向こうに消えた。サフィーアだ。
帝国選手達が直接攻撃をやめたことで、巡らせた通信網、そして互いにフォローし合う姿勢が活きてきたのだ。帝国勢は個人技重視の者が少なくなく、予想以上の効果を発揮した。
更にパスカットに注力した選手が多かったことが、元々高かったボール保持率を上昇させる。帝国勢に渡ろうと、
「いただきですよぅ♪」
空から柊が幻影の腕を伸ばしてくるし、何とか掻い潜りパスを出せたとて、
「させないわ?」
「この身をもって防ぎます!」
マリィアの弾丸がパス先の選手を妨害し、更には頑強なフィロが割り込んでくるのだから堪らない。
「皆様、もう1点取りましょう!」
弾かれた球を即座にゲットしたユウが、再びその駿足で戦線を押し上げていく!
『右サイド、空いてるよぉ』
「了解!」
すかさずそこへ滑り込んだアルカへパスが通ると、アルカは小さな――球1つ分からボールカゴ1台分に広がったがまだ小さい――ゴールへチェイジングスロー!
「いっくよー!」
ゴールまでひとっ飛び! が! 再びゴールを掴み振り回す帝国GK! アルカ、ばいんっと弾かれた。
「どんまいだよぉ!」
幸の鼓舞が飛ぶ。押し戻された球を拾ったユーリ、GKが握るゴールを見据えた。
「前半でやったやつと比べれば劣るかもだけど、標的へ穿つには不足はない筈よ。なので、止めるなら全力で止めてね」
己が生命力をも削り、ありったけのマテリアルを込め弾丸シュート! が、何せゴールが小さい!! 並ならぬ威力のシュートは、ポストに当たった衝撃でGKごとゴールを弾き飛ばしてしまう!
だがしかしまだ球はこちら側にある。転がった帝国ゴールへハナが、っていうか人の壁が押し寄せる! ハナwith式神8体、横一列に並び一糸乱れぬ動きでゴールへ! 結構な絵面だ。
「そぉれ♪」
9人(?)がかりで球を押し込もうとするもその物量が仇になった。何せゴールが小さい!!
まだまだ粘るぞ龍騎士チーム! 今度は上がってきたレナードが球へ雷撃を纏わせシュート! が、何せゴールが以下略!! すかさず釘バットにマテリアルを込めたクランがシュートっていうかフルスイングでねじ込もうとするも、何せゴ以下略!!
「どうしろと!?」
球をキープしている以上相手に加点を許すことはないが、何せゴ以下略でこちらもシュートが入れらない。
煮詰まったその時、胃を刺激する良い匂いが漂ってきた。アルカ、頬を緩ます。
「エステルのポトフだぁ♪」
と、更にそこへ肉の香ばしい匂いが混ざったかと思うと、木綿花が困惑気味にシャンカラとダルマを呼ぶ。
「お料理が届きましたが、受け取って良いものでしょうか?」
「料理?」
「その……牛が」
「「牛」」
「やだぁ、もう届いちゃったんですぅ? 試合終了時間を指定しておいたのにぃ」
反応したのはハナだ。さっきの外出はこれを注文するためだったらしい。受取りと支払いのためハナは離脱し、何故かカインと幸を引っ張っていく。次に彼らがコート脇へ戻ってきた時には、何と牛の丸焼き1頭をどどんと抱えていた。
裏で調理していたエステル、それを見て試合が終わったらしいと慌てて鍋をカートに乗せ、牛の隣へ。
「皆さーん、ポトフができましたよー!」
燃費の悪い隊長の腹がきゅるりと鳴る。
「……折角のお料理、温かい内に頂かないと失礼ですよね?」
「ンな事言ってまた腹減っただけだろォ? 俺も食う」
ゴール攻略に励んでいた龍騎士チームの面々、
「慰労会が始まったのですか? 給仕のお手伝いを!」
「あ。私も料理持ってきたのよ、出さなくちゃ」
「笛鳴ったっけ?」
「この物音で掻き消されたのではと推測するわ」
そんなことを言い合い、芳しい香りに釣られるようコートの外へ。
『~~!』
無線機から慌てふためく監督の声が流れていたが、誰の耳にも届かなかった。
●
「何か急に手薄になったな」
帝国側が決勝点となる4点目を上げた所で笛が鳴った。歓喜に湧く彼らが次の瞬間目にしたものは。
「食べさせてもらう分飲物は任せるの」
「ジュースだー!」
「このポトフお芋沢山で美味しいやんねー♪」
「暴れたりない気もするけど、旨いもんは大正義じゃん☆」
「はい隊長さん、あーん」
「っ!?」
――既に慰労会という名の宴をおっ始めている龍騎士チームだった。
ぽかんとするチームメイトをよそに、シグルドが興味深そうに寄ってくる。
「気が早いね、それは何だい?」
するとディーナが彼へ駆け寄り、
「ここまで来たら大食勝負もするの交流なのっ」
試合中鬱憤が晴らせなかったアウレールもニゴォッと笑い、
「それは良い。胃と言わず食道が裂けるまで存分に堪能するが良い」
あっつあつのソーセージをぐいぐい押し付ける。マリィアも持参した料理を広げた。
「アンチョビ風味のポテトグラタン、コケモモジャム添えミートボール、こっちはグロッグね」
「それ、去年のクリスマスに作ってくださったものですか?」
シャンカラの言葉に、マリィアにっこり。
「そう、私の故郷でクリスマスに飲まれるものよ。少し早いけど、もうすぐ第1アドベントだから。ポテトは帝国の特産品、コケモモは龍園の名物よね? それぞれ使ってみたわ」
まるで各国を繋げるかのような料理達。ポテトたっぷりのポトフを作ったエステルが、困惑する帝国勢へ微笑みかける。
「一緒に料理を囲めばそれだけでもう楽しいですよね。試合お疲れ様でした」
そこから帝国勢も巻き込んだ大慰労会が始まった。
何せポトフは大鍋いっぱい、牛の丸焼きは1頭分、ジュースは数樽どどんとある。マリィアの料理にハナのミートパイとタルトタタンもあって、料理も飲料も十二分。更に帝国側からほかほかのふかし芋の差し入れも。更に更に、
「シャンカラ、お疲れ。差し入れだけど、バウムクーヘン食う?」
カインがスイーツを持ってきた。その場で広げれば、何ということでしょう! 甘味まで揃った宴会フルコースに!
試合が終わればノーサイド、共に料理を囲み杯を交わす。と、木綿花がシャンカラの袖を引いた。
「サッカーを教えて下さいましたし、皆様に何か龍園らしいお礼をしてみては如何でしょう? 隊長方自ら伝統芸能の披露ですとか」
「良いですね。でも僕、芸と呼べそうなものは……あ。木綿花さん前半で龍園の伝統曲を歌われてましたよね? 一緒に歌ってくださいませんか?」
「勿論」
シャンカラは近くにいたユウにも、
「ユウさんもご一緒してくださいます?」
「はっはい、私で宜しければっ!」
そうやって龍園出身者達を次々巻き込み、龍園の古歌を披露する。帝国のコートに北方の旋律が響き渡り、宴に華を添えた。エステルと木綿花が撮った写真を配って回り、それを見て皆微笑んだりはにかんだり吹き出したりと、宴は一層盛り上がる。
ディーナから逃れ一息ついているシグルドへ、フィロは飲み物を差し出しながら言う。
「シグルド様が変な気を回さなくても、ドラグーンの皆様は正しいルールを提示されればその通りに試合に臨まれたと思います。引っ掻き回したのはシグルド様なのですから、こんなのサッカーじゃないと言ったシグルド様のお仲間と謂われなき批判に悩まれたドラグーンの皆様には、シグルド様から一言お話する方が良いのではないでしょうか」
フィロもまた、龍騎士達を案じていたのだ。シグルドは手近な皿に手を伸ばすと、
「異文化交流というものは互いの違いを認めて新たなルールを作るものだろう。最初は齟齬も不満も出るのは当然だよ。君の口から出たようにね」
答えて杯を受け取り、給仕していてまだ何も口にしていなかった彼女へパイを手渡した。
はふはふとふかし芋を頬張りながら、エンバディ。
「結果は残念だけど、楽しく締めくくれた良いよねぇ」
彼を除く面々は、まだ自分達が負けたことを知らない。けれど知っていたとしても、こうして帝国勢を招き宴をしたことに変わりはない。
和やかな慰労の宴は、日暮れまで続いた。
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質問卓 トリエステ・ウェスタ(ka6908) ドラグーン|21才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/11/04 10:58:40 |
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相談卓 エンバディ(ka7328) ドラグーン|31才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/11/06 08:00:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/04 20:55:06 |