忘却の旅路

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/06 07:30
完成日
2018/11/17 22:30

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

――身体が焼けるように熱い。

 全身の血が沸騰しているかのようで、脈という脈が悲鳴を上げている。
 身体を冷まさなくては。
 少しでも涼しい方へ。
 気が付くと、アルバートは広大な雪原の上を歩いていた。
 足を引きずったように歩いた痕が、2本の轍のように雪の上に残る。
 生えていた翼が不意に消え、墜落してからここまで。
 新たな翼の出し方など分からず、行き場もなく、彷徨うようにここまで来た。

 以前に比べて温度に対する感覚が鋭くなった気がする。
 それは自分の体温もしかり、周囲の温度もしかり。
 自らが今望む環境がどこにあるのか――それが何となく「視えている」ような気がした。

 鉄の巨人から受けた肩の傷はとっくに完治している。
 だが傷口に沿った焼けるような痛みは今になっても続いていた。
 生傷が空気に触れるような感覚。
 指を這わせると、傷を覆うように現れた鋼の鱗が冷たく触れた。
「俺は……人間ではないのか?」
 戦場で出会った人間たちは、自分のことを歪虚と呼んだ。
 歪虚――憎むべき、倒すべき相手。
 しかし本当にそうであったのか……?
 混濁する記憶。
 身体を蝕んでいく人ならざる鱗。
 そのすべてが、自分という存在をあいまいにする。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 雪原のただなかで、行き場のない感情を発散するように叫ぶ。
 迷うな。
 惑うな。
 たとえ己がどのような存在であろうとも、たった1つの鮮明な記憶は本物のはずだから。
 あの美しい人を守らなければならない。
 守らなければならなかった。
 だから俺は――あの人を奪った存在を討ち果したのだ。
 
 身体から力が抜けて、ふと頬を温かいものが伝う。
 指先で拭うとどろりとした感触。
 血だ。
 薄黒い血の涙が、頬を伝って流れ落ちていた。
 慌てて纏ったボロ布の端でそれを拭う。
 直後に血の涙に触れた部分の布が音を立てて腐り落ちて、驚きと共に僅かばかりの後悔が頭を過った。
 
 不意に何者かの気配を感じて、弾かれたように辺りを見渡した。
 見通しのいい雪原。
 記憶の海を漂っているうちに、辺りににじり寄る2足歩行のトカゲたちの姿があった。
 咄嗟に立ち上がり警戒を強め、視線だけで敵影を追う。
 前後左右に合わせて9体。
 包囲されている。
 トカゲたちは剣や盾、弓、槍などで武装しており、それだけでも知性と集団性を持っていることを理解する。
 徐々に包囲円を狭めてくる集団。
 触発の距離まで狭まったとき、アルバ―トの背後にいたトカゲが一足で飛び掛かった。
 アルバートは手の中に剣をイメージする。
 先の戦いで咄嗟にできたこと――マテリアルが手の中に集まり、光の剣の姿を成した。
 振り向きざま、その切っ先をトカゲの胸に突き立てる。
 自らの勢いで心臓を貫かれた相手は、その一撃だけで沈黙してしまった。
 他のトカゲたちが一斉に雄たけびを上げ、襲い掛かる。
 アルバートは発生させた剣を自らの意志で砕き、新たな剣を生成。
 落下中のトカゲの死体を壁にして、後ろの敵を一閃。
 さらに壁にした死体を地面に落ちる前に蹴りつけると、刃を振りかけた個体をもろとも弾き飛ばす。
 一呼吸。
 その隙に、別方向から振られた剣がアルバートの背を薙ぐ。
 浅い傷から血の飛沫が飛んでトカゲの顔を濡らした。
 それが目くらましとなり、彼はアルバートが脇の下から突き出した槍の存在に気づくことができなかった。
 
 僅かな間に3匹の死体が転がり、トカゲたちは一時間合いを取って様子をうかがっている。
 1、2、3、4、5――1匹足りない。
 遠方に全速力で走り去るトカゲの背中が見えた。
 負ける数ではない。
 だが無勢ではあり、この良好な視界だ。
 突破は意味がない。
 ここですべて蹴散らすしか――
 
 覚悟を決めようとした時、死体だったはずの1匹がよろめきながら起き上がった。
 たった今、槍に貫かれたやつだ。
 血濡れの顔で立ち上がったそれを、周りのトカゲたちは戸惑いながら見る。
 仕留めそこなっていたか――アルバートは剣を構えてその姿を見据える。
 12の瞳にさらされる中で、そのトカゲの身体が痙攣を始めた。
 ドクリドクリと、心臓の鼓動に合わせるように身体が跳ね、鱗の皮膚が波打つ。
 それは次第にぼこぼことした肉のうねりとなって全身を包み込み、膨らむかのように姿が巨大化していく。
 3mをゆうに超える巨大な存在となったとき、その変質は収まった。
「何が起こった……?」
 狼狽えるアルバートの前で、鋭く重い雄たけびが雪原を揺らす。
 巨大トカゲは地面を蹴ると、馬のような速さで別のトカゲへ詰め寄った。
 何が起きたのか分からず棒立ちのトカゲを、巨大トカゲの2mはあろう、右腕に比べて異様に発達した左腕が掴む。
 そのまま軽々と持ち上げると、リンゴをそうするかのようにグシャリと握りつぶす。
 助けようと飛び掛かっていた別のトカゲを尻尾の一振りで打ち落とすと、今度はナイフのような爪で腹に一突き。
 断頭台のような一撃が、トカゲを無残な姿に変えた。
 再び地面を蹴ったトカゲは、今度はアルバートへと突進する。
 薙ぐように振るった巨腕を彼は飛び上がって回避すると、そのまま腕を足場に蹴って大きく距離を取る。

 巨大トカゲと対峙したアルバートは剣を砕き、両の手で槍を構えた。
 状況は理解しきれていない。
 だが、目の前のものが敵であることだけは確かだ。
 俺の行く道を阻むものであれば――それはすべからく敵である。
 残る3匹のトカゲが機をうかがうように距離を測る中で、光の槍と巨腕がぶつかり合う。

リプレイ本文


 現場に駆け付けたハンター達の目の前で、物質化したマテリアルの槍が閃いた。
 3mはゆうにある巨大なリザードマンと対峙する人型歪虚――アルバートの姿にハンター達は状況の把握に苦しんだ。
「人型の歪虚が1体って聞いてたんだがな……どういう状況だこりゃ?」
 リザードマン、大型リザードマン、そしてアルバート。
 ジャック・エルギン(ka1522)はその3者を見比べる。
 報告のあった歪虚はおそらく彼のハズ……となれば負のマテリアルを放つ大型のリザードマンはどこから現れた?
「アルバート……どうしてこんなところに」
 リアリュール(ka2003)はかつて出会った彼の姿にわずかな驚きを見せた。
 あの時、グラウンド・ゼロを飛び立ったアルバートの姿は、その後しばらく観測されることがなかった。
 理屈で考えればここまで流れてきたと見るのが妥当だろう。
 いったい何の目的で。
「あの人型歪虚、アルバートは強力よ。気を付けて」
「ふぅん、あれが報告書にあったヤツですか」
 リアリュールの警告に、ソフィア =リリィホルム(ka2383)が値踏みするように彼の姿を見た。
 大型リザードマンの拳を受け止めた槍が砕け散り、アルバートは即座に新たな剣を生成し立ち向かう。
 歪虚同士のいざこざか、とにかく、敵対関係にあることは確からしい。
 アルバートに関する知っている限りの情報を手ばやくみんなに伝えて、リアリュールが馬を駆った。
 それに続いてハンター達も戦場へと散開していく。
「いいか、まずはあのデカブツをやる。俺の銃と、お前たちの弓。分かるか?」
 ジャンク(ka4072)は大型リザードマン――呼称・ノヴァを指さし、それから自分とリザードマン達の弓を指さし、確認するように首をかしげる。
 彼らは分かったような様子ではあったが、ノヴァの姿を見てわずかに表情を曇らせた。
「どうしたんだお前ら」
「ン~、もしかしたらリザードマンのなれの果てなのカモしれないネ」
「なれの果てだ?」
「足りないんダヨ。遺体が1つ、ネ」
 雪原に転がる赤い染み。
 リザードマン亡骸を指さし数えて、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は小さく唸った。
「前に龍のなれ果てが歪虚になったモノと戦ったことがあるんダ。それに近いモノじゃないカと思ってネ」
 アルヴィンの指摘に、フォークス(ka0570)が大きくあくびをしながら銃の安全装置を解除して構える。
「だとしても、こんな短時間で――なんてのは普通じゃないネ。見た所、とりわけ負のマテリアルが濃い場所ってわけじゃあなさそうだし。言葉が通じるならリザードマンたちに尋ねるところだケド……それはあまり期待しないでおこうカナ」
 アルバートが大きく飛びのいて、ノヴァとの間に距離ができる。
 そこへ境界を引くように放ったガトリングの制圧射撃に、アルバートとノヴァ、両名がハンターたちの存在に気付いた。
「取り込み中すまねえが、人ん家の庭で暴れてもらっちゃ困るんだよッ!」
 真っ先に飛び込んだジャックのバスタードソードがノヴァを打つ。
 ミシリと鱗を砕いて、受けとめた大きな腕に刀身がめり込んだ。
「人か……ちっ、リザードマンと繋がっていたとは」
「アルバート、また会ったわね」
 人間の存在に警戒心をあらわにしたアルバートへリアリュールの落ち着いた声が投げかけられる。
「君は……確か紅い荒野の」
「リアリュールよ。あの時の記憶はちゃんとあるのね」
 言いながら弓を引き絞る。
 狙いはノヴァ――しかし矢は放たない。
 少しでもこちらに敵意をあらわにしたらアルバートを射抜く。
 それが彼女の役割だ。
「わたし達は今ここであなたと事を構えるつもりはありません。もちろんそちらにその気がなければ……ですが。少なくともそんな事より、アレの方が厄介だろうって考えてまして」
 ソフィアはめいいっぱい友好的な笑みを浮かべながらアルバートへとそう投げかけた。
 アレ――とはすなわちノヴァの事だが、視線の流れで彼もそれは理解したようだった。
「端的に聞きたいんですけど、アレ……なんなんです?」
「俺に語れることはない。リザードマンの亡骸が変化した……というだけだ」
 ノヴァが大腕を振るい、ジャックがそれを剣で受け流す。
 地面に拳が叩きつけられた衝撃で土ごと積雪が飛び散って辺りに舞った。
 それを憎悪にも似た濁った瞳で見つめながら、アルバートはぽつりと漏らす。
「アレが何かは知っている。歪虚――滅ぼすべき敵だ」
 その言葉に引っかかりを覚えながらもソフィアは理解を示すようにコクリと頷く。
「まっ、それだけ聞ければまずは十分です」
 構えた大型の魔導銃――星神機「ブリューナク」が唸り、放たれた銃弾がノヴァの手の甲を貫く。
 纏ったマテリアルが光の軌跡を描いて、まるで流星が駆け抜けたかのようだった。
 戦意はない――口で念を押さずとも行動でそれを示すソフィアに、アルバートは半信半疑のまま、捨て置くように小さく鼻を鳴らす。
「俺の道を阻むものもすべて敵だ」
 それだけを言い残して、両の手に一対の剣を生み出しノヴァへと駆けた。


「ふふふ、なんとも奇妙な光景だネ。とっても愉快ダヨ」
 やんわり目を細めながらアルヴィンはぴょんぴょんと道化が踊るようにステップを刻む。
 マーキスソング――その身体から放たれたマテリアルがノヴァの身体を構成するマテリアルに干渉し周囲への反応を鈍らせる。
 身構えるのが遅れて、アルバートの剣が脚の鱗が薄いところを直撃。
 思わず膝をついたノヴァの頭上からジャックの剣が叩き込まれる。
「力任せってわけじゃねえ。戦士だな、あんた」
 ジャックの言葉をアルバートは無言で受け流す。
 その瞳は鋭くノヴァに注がれ続けたままだったが、不意に表情が険しくなったかと思うとトンボ返りのように大きく距離を取った。
「なんなん――うおわっ!?」
 その動きを鏡代わりに、至近距離でノヴァの口からマテリアル炎弾が放たれたのをジャックはギリギリのところで回避する。
 自動的に彼もまたノヴァから距離が開いたのをジャンクは遠巻きに見逃さなかった。
「撃てッ!」
 手を大きく振り下ろすと、リザードマンの番えた矢が一斉にノヴァの身体に飛来し突き刺さる。
 自らもまた白銀の魔導銃で銃撃を重ね、冷気を纏った銃弾が地面についたままのノヴァの膝を凍り付かせた。
 遠方から降り注いだ火の粉にノヴァもまた炎弾を放つ。
 咄嗟に散開を指示してジャンクとリザードマンらが飛びのくと、炎は彼らの間を吹き抜けるように飛んで行った。
 立て続けに無差別な方向に放たれた炎弾が乱れ飛ぶ。
 しかし、体勢を立て直して迫るジャックの姿がノヴァの瞳の中にちらついて、どれも直撃コースからは外れて冷静に難なく回避が行われた。
「俺が気になるか? まっ、そうだろーよ!」
 ジャックの渾身の一撃が再びノヴァを打つ。
 多少のかすり傷はアルヴィンのヒールで回復済みだ。
 見境がない敵にとってすれば「誰かを気にかけなければならない」ということが何よりもウザったい。
 それを能動的に強いる彼の攻撃は、この上なくノヴァの激情を煽った。
「そうして怒ってくれれば、ガードが甘くなる……ってネ」
「――ッ!?」
 フォークスの銃弾が盾代わりの巨腕隙間を抜けて、ガラ空きのボディに突き刺さる。
 その一撃はとっさに身をひるがえしたアルバートの頬を掠めていた。
 野暮ったい黒髪の一部がはらりと宙を舞って、やがてマテリアルの塵となって空に消える。
「貴様……!」
「そう怒らないでヨ。これくらいは避けてくれると信じて、サ」
 いつもの飄々とした調子で、フォークスは悪びれる様子もなく魔導銃のボルトを引く。
 アルバートの意識が逸れたところにノヴァの巨腕が迫る。
 彼は剣を砕き、身の丈はある大剣を生成して、それを盾代わりに受け止めた。
 当てるつもりはない。
 外すつもりもなかった。
 これでヒットするならそれまで。
 ヒットしなくても、同調への圧力を掛けられればそれでいい。
「今回は翼、出さないのね。そもそも前のものは自分で納めたの?」
「何?」
 ノヴァの巨体を力任せに押し返したアルバートは、リアリュールの問いかけに眉をひそめた。
 彼は大剣を槍に持ち替えて、それを投げつけながら後退。
 敵は地を這っているのに翼を使って空という優位を取るようなそぶりはない。
「もしかして、自由には扱えないのかしら……?」
「……この辺りの人間は戦闘中によく喋る」
 僅かに苛立ちを覗かせながらつぶやくアルバート。
 眼前のノヴァへは、ポジションを移動したリザードマンたちの矢が刺さる。
 むき出しのノヴァの戦意をリザードマンたちの方へを向いた。
 ジャンクの銃弾がその鼻先を掠めて足元に刺さったが、気に留めずノヴァは力強く地面を蹴った。
「来るぞ! 下がれッ、下がれッ!」
 大きく手を振ってリザードマンたちに下がるように指示をして、ジャンク自身も引き金を引きながら後退する。
 身体に銃弾を受けながらも装甲車のような勢いで猛進するノヴァ。
 その横っ面を雷撃を纏った銃弾が穿って、ノヴァは勢いのまま雪原に転倒した。
「わたしが戦場にいて、そう簡単にさせますかって」
 ソフィアの機導砲を受けてなお敵は身を起こすが、銃弾から蝕む雷撃が身体の自由を奪う。
 アルバートの視線がちらりとソフィアの抱えるブリューナクを見た。
 その視線を目ざとく捉えて、彼女は僅かな引っかかりを覚える。
 物珍しいのか?
 思えばフォークスに後方を取られた時も、彼女が銃を持っているにも関わらず容易にその立ち位置を許した。
 真後ろからの銃弾を避けるだけの警戒心があるのに、だ。
 まさかとは思うがヤツは銃を知らない……?
(いつの時代のヤツだよ……いや、それとも本当に……?)
 何かとかみ合わない認識の差。
 それが違和感の正体なのか……?
 見えかけたものは、いまだ朧の中にある。
 そんな中、半ば棒立ちのノヴァをフォークスの銃口が捉えていた。
 練り上げたマテリアルを魔導銃へと込め、銃身から淡い輝きがほとばしる。
「今度こそ本気で貰うヨ」
 サジタリウス――収束したマテリアルは銃弾に爆発的なエネルギーを与え、解き放たれた。
 反動で暴れ馬のように跳ねる銃口。
 それも計算に入れて引き金を引くのが二流と一流の射手の違い。
 発砲音よりも疾く、銃弾がノヴァの胸に風穴を空ける。
「貰ったぜぇぇぇ!!」
 滾らせたジャックの命の鼓動が、マテリアルとなってバスタードソードを包む
 振りかぶった一撃は、ミチリと肉を叩き切るように敵の肩にめり込んだ。
 身体の痺れに抵抗して開かれたノヴァの口に炎がちらついてなお、剣に込める力は弱めない。
 放たれた火球がジャックの胸板を撃った。
 もうもうと巻き上がる爆炎の中、それでも気合いで振りぬいた刃が真っ赤な弧を描く。
 叩き切られた巨腕が大きな音を立てて雪上に転がる。
 炎で赤いリボンが焼き切れ、長い金髪がはらりと風に舞った。
 ノヴァの低い雄たけびが雪原を揺るがす。
 眼前の障害に、再び火炎がノヴァの口内をちらつく。
 しかしそれが放たれるよりも先に、真っ赤な結晶の刀身がその口内を貫いていた。
「良いタイミングじゃねぇか」
 煤こけた頬で笑うジャック。
 炎を吐くことなく崩れ落ちた巨体の先で、槍を投げつけたアルバートの灼熱のように輝く瞳が彼の姿を見つめていた。


 ノヴァを打倒してなお、興奮した様子で刃を抜き放ったリザードマンたちをジャンクが「どうどう」と宥めるように抑える。
 アルヴィンもまたジャックの最低限の治療を行ってから、彼らをなだめるためにひと役買っていた。
 ハンター達が警戒しながらも自分に掛かってくる様子がないのを確認してか、アルバートもふいと背を向ける。
 一瞬興奮していたように見えた瞳も、いつもの錆びついたような鉄色へと戻っていた。
「まって」
 リアリュールがその背中に投げかけると、彼はぴたりと歩みを止めた。
「思い出したことは何かあるの? あなたの大切な人、奪った存在、もしも分かるなら……」
 視線だけ振り向いて、アルバートは無言でリアリュールを見つめる。
 すると、ジャックがぐりぐりと肩を回して回復した身体の調子を確かめながら続いた。
「てめぇが探してる女がどんな美女かは知らねえが、行く先々で死体を作られたんじゃたまんねぇんだ。それによ、お前の言う“敵”ってのがホントにいるんなら――そいつを捨て置くことも俺たちにはできねぇ」
 歪虚は敵だと彼は確かに口にした。
 だとしたら彼の大切なものを奪った敵――歪虚がいずこかに存在していることになる。
 寒風にジャックの髪が揺れて、アルバートは一瞬、惚けたように目を丸くしてそれを見ていた。
 が――すぐにふいと視線を背けて足を踏み出す。
 フォークスがすぐに銃を構えられるようやんわりと身構えたが、アルバートはそのまま助走をつけるように低く体を沈めた。
「お前たちに語れるようなことはない。それに――」
 一言前置いてから、アルバートは胸の内の感傷を吐き出すように強く口にする。
「――彼女を奪った敵はもう俺が仕留めた」
「え……」
 大きく跳躍して、アルバートの背中はあっという間に見えなくなる。
 リアリュールはそれ以上何も言うことができず、ただ彼の去っていった方向を見つめていた。
「とりあえず龍園に用事があるわけでないなら一件落着、カナ?」
 納得したようにうんうん頷くアルヴィンの傍で、なんとかリザードマンたちの納得を得たジャンクはふぅと一息ついていた。
「それじゃ遺体を回収していこうぜ。敵討ちの気持ちは分かるが、仲間を弔ってやることも大事なことだ」
 亡くなったリザードマンの亡骸を大きめの布で覆うと、リザードマンたちも寂し気な瞳でそれを手伝った。
 ソフィアはどこか腑に落ちない様子でそれを眺めている。
「他の遺体は変質なし……ですか。どうしてあの1体だけ……?」
「さっきも言ったケド、この辺り一帯が特別汚染濃度が濃いってわけでもないシ……偶然で片付けるのは少し楽観的カナ?」
 アルヴィンが亡骸たちの冥福を祈ってから、にっこりとソフィアへほほ笑んだ。
 リザードマンたちは何かを伝えたそうにしていたが、それを理解できる者がここにはいない。
「ま……ここで考えてても仕方ないサ。龍園に戻れば話を聞く方法もあるだろうシ、寒いシ、依頼も終わったなら帰ろうヨ」
 興味なさそうにうんと背伸びをしたフォークスは、吹き抜けた北の風にぶるりと身をすくめる。
 
 あの歪虚がグラウンド・ゼロからここまで南下してきたのなら次はどこへ――いろいろなことに納得はつけられないまま、ハンター達は帰路へとついた。

依頼結果

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MVP一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522
  • 明敏の矛
    ジャンクka4072

重体一覧

参加者一覧

  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 明敏の矛
    ジャンク(ka4072
    人間(紅)|53才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【質問卓】ルミちゃんに質問
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/11/04 21:06:46
アイコン 【相談卓】両極端は一致する
フォークス(ka0570
人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/11/05 22:48:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/02 07:37:13