ゲスト
(ka0000)
【HW】囚われより辿る道
マスター:音無奏

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/11/08 22:00
- 完成日
- 2018/11/22 01:38
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
少し身動きするだけで、擦れ合う鎖がじゃらりと音を立てる。
獲物を戒め縛り付ける楔、それが意味する事は未練か、畏怖か、或いは妄執と言ったものもあるのかもしれない。
窓にも扉にも鉄格子、手を伸ばす事を阻むが、鑑賞用には一切問題がなかった。
…………。
こんな境遇に陥ってるのは、自分の失策とでも言うべきなのだろう。
一個人の視点は、力持つ者のそれと当然違う。
力持つ者で、質の悪い奴は欲望に歯止めなどかけない、欲しいものは手に入れて当然で、他人はそれに尽力するべきで、それを邪魔するものなど存在さえも許すまい。
端的に言えば、自分はやりすぎた。
家族が有力者の娘に見初められ、強引にでも連れ去られようとするのを阻んだ。
不躾な欲望を幾度にも渡って振り払い、賢しく立ち回り、相手が悔しげに引き下がるのを見ては笑っていた。
頭は回ったのだろう、だが決して聡明ではなく、思慮も足りなかった。
“大切な人間と、自分は兄弟故に同じ顔である”。
余りにも当然すぎて意識してなかった、それが持つ危険性に思い至らなかった。
周辺には気をつけてたけど相手の動向なんて気にしてなかったし、何を考えているかなんて関心を払おうともしなかった。
兄に向けられていた執着はいつしか色を変え、それに気が付かなかったために、兄の心配はしていても自分自身の警戒がざるだった。
矛先が向いたのは兄ではなく自分の方、最初は手下がポンコツで人違いしたのかとさえ思った。
人違いではないと思い知ったのは此処に閉じ込められてからだ、兄に向けられてた執着は、いつしか自分への憎悪を隔て、妄執へと変化したらしい。
考えてみれば兄も弟も同じ顔である、しかも自分は兄じゃないのだから如何様にしても女は気にしないだろう。
服は引き裂かれたまま放置され、素肌には鞭打ちの跡がいくつも刻まれている。
顔だけは明確な暴力を振るわれていないが、昂ぶる女の爪によっていくつかの流血はしていた。
初日は一方的にフラストレーションのはけ口にされただけ、碌な会話もせず、女は立ち去っていた。
これは自分にとって幸運と言える、今ある時間のうちに、どう振る舞うのが最善か考えておく必要があるだろう、必要なら“キャラ作り”もしなければ。
兄の事を考えて自嘲する。
兄にたかる女を追い払ったのは自分の意志だ、兄に頼まれた訳でもなく、もっと言うなら、兄以上に自分が嫌だったからしたに過ぎない。
だからツケを払うのは自分であって当たり前、少しだけ寂しさと未練はあったが、兄が助けてくれるかもしれない期待は即座に投げ捨てた。
精々この顔を良く利用しよう。
自分は兄のように優しくはなれないけど、きっと甘く蕩かすくらいは出来るから。
獲物を戒め縛り付ける楔、それが意味する事は未練か、畏怖か、或いは妄執と言ったものもあるのかもしれない。
窓にも扉にも鉄格子、手を伸ばす事を阻むが、鑑賞用には一切問題がなかった。
…………。
こんな境遇に陥ってるのは、自分の失策とでも言うべきなのだろう。
一個人の視点は、力持つ者のそれと当然違う。
力持つ者で、質の悪い奴は欲望に歯止めなどかけない、欲しいものは手に入れて当然で、他人はそれに尽力するべきで、それを邪魔するものなど存在さえも許すまい。
端的に言えば、自分はやりすぎた。
家族が有力者の娘に見初められ、強引にでも連れ去られようとするのを阻んだ。
不躾な欲望を幾度にも渡って振り払い、賢しく立ち回り、相手が悔しげに引き下がるのを見ては笑っていた。
頭は回ったのだろう、だが決して聡明ではなく、思慮も足りなかった。
“大切な人間と、自分は兄弟故に同じ顔である”。
余りにも当然すぎて意識してなかった、それが持つ危険性に思い至らなかった。
周辺には気をつけてたけど相手の動向なんて気にしてなかったし、何を考えているかなんて関心を払おうともしなかった。
兄に向けられていた執着はいつしか色を変え、それに気が付かなかったために、兄の心配はしていても自分自身の警戒がざるだった。
矛先が向いたのは兄ではなく自分の方、最初は手下がポンコツで人違いしたのかとさえ思った。
人違いではないと思い知ったのは此処に閉じ込められてからだ、兄に向けられてた執着は、いつしか自分への憎悪を隔て、妄執へと変化したらしい。
考えてみれば兄も弟も同じ顔である、しかも自分は兄じゃないのだから如何様にしても女は気にしないだろう。
服は引き裂かれたまま放置され、素肌には鞭打ちの跡がいくつも刻まれている。
顔だけは明確な暴力を振るわれていないが、昂ぶる女の爪によっていくつかの流血はしていた。
初日は一方的にフラストレーションのはけ口にされただけ、碌な会話もせず、女は立ち去っていた。
これは自分にとって幸運と言える、今ある時間のうちに、どう振る舞うのが最善か考えておく必要があるだろう、必要なら“キャラ作り”もしなければ。
兄の事を考えて自嘲する。
兄にたかる女を追い払ったのは自分の意志だ、兄に頼まれた訳でもなく、もっと言うなら、兄以上に自分が嫌だったからしたに過ぎない。
だからツケを払うのは自分であって当たり前、少しだけ寂しさと未練はあったが、兄が助けてくれるかもしれない期待は即座に投げ捨てた。
精々この顔を良く利用しよう。
自分は兄のように優しくはなれないけど、きっと甘く蕩かすくらいは出来るから。
リプレイ本文
記憶の海に沈めば、輝かしい記憶から真っ先に映る。
どうしてだろう、そこから先は、落ちるだけってわかってるのに。
…………。
十色 エニア(ka0370)が最後に人間らしく在れたのは、ハンターとして“自由”な活動を認められてる間だった。
人間のように挨拶を交わし、人間のように会話をして、ちょっとだけ特別にハンターとしての仕事をしていた。
最後の依頼は一人で遂行可能な些細なもの、後は報告だけだったのに、あのヒトに出会ってしまった。
どうしてそうなったのかは覚えていない、或いは、最初からそう在るのが当然だったような気もする。
まるで時間を巻き戻したかのような、既視感のある生活。
窓から外を見ればあの頃とは景色が違うと思えたのだろうが、生憎そこまでの自由は認められていなかった。
視線がちょっと届くかどうか、その程度の行動範囲。
左手首には鉄の戒め、部屋から出る事は無論不可能で、窓に手すら届かない。
日々の間に目の光は消えた、あらゆる事の相手をさせられ、話相手になり、ゲームの相手をして、閨の相手にもなった。
その間貼り付けたような笑みを浮かべて、時々人間である事を示すように無表情になる。
幸せな夢が元に戻っただけ、そう受け止めてれば良かった……はずだったのだけれど。
最後の記録は破損したかのようにノイズ混じりで、断片しか確認出来ない。
破壊されたのは、賊が家に押し入って来た時、『戦利品』として自分も連れて行かれてしまっていた。
扱いは今までより遥かに粗暴だった、突き飛ばすようにして牢屋に入れられ、体を強かに打ち付けても見向きもされない。
四肢は鎖で繋がれ、ろくな手入れもされず、服はかろうじてそうだと言えるようなボロ布のみ。
あらゆる欲望のはけ口にされ、賊の機嫌が悪い日が来る度に、どこかが壊されていった。
時間感覚は失われ、目に残った景色は嬉しそうに息を荒くしてる人たちだけ。
外の世界の事はわからない、探されているのか、それとも諦められたのか。
夢は沈むようにして終わる、終わり方は人形しか知らなかった。
+
怒りに身を震わせれば、腕の鎖が張り詰めて音を鳴らす。
殴りたくてもそれは許されない、許されるのは罵倒と、噛み付く事だけ。
痛みの度に反抗心は募り、言葉の度に闘争心が燃える。
…………。
どうしてそうなったかは、『負けたから』の一言に尽きる。
流血に構わず、気を失うまで暴れ続けて、気がついた時、ボルディア・コンフラムス(ka0796)はどこともわからない場所に監禁されていた。
屈強な肉体は展示するように両腕を広げられ、ギリギリの長さの鎖で上から繋げられている。
自分を捕らえた奴の顔はすぐにわかった、期待と歓喜に満ちたお世辞にも品がいいとは言えない顔で、小手調べと称されて、手始めに極太の杭で体に穴を開けられた。
衝撃が体を走り抜ける、幾らボルディアが屈強とは言え、痛みを感じない訳でも、不死身である訳でもない。
だがそれを素直に表現する道理などあるはずもなくて、お前は温く、弱く、取るに足らないとばかりに、ボルディアは嘲りの顔で笑い返してやった。
どれくらいの時間そうして耐えてたのか、良くわからない。
刃のついた鞭によって皮膚を割かれ、肉を抉られ、骨を砕かれてもボルディアは尚反抗心を崩さなかった。
それが相手の望む事だったとわかるはずもない、一つ耐えきる度にそいつは歓喜を表現し、全身が血まみれになった時に、ボルディアは一方的に求婚されていた。
相手を嬲り、痛めつける度に高揚する性癖。
同時に、それに反抗され、意地でも意のままにはならないという憎悪に燃える目を向けられて歓喜する屈折した精神。
男とはつまりそういう、自分は相手を嬲りたい上にその相手から反抗されるのが好きという背反を抱えたド変態であり、更に言うならその屈折した愛欲を向けても壊れない相手を望んでいた。
悪い事に、ボルディアはその条件の全てを満たして気に入られてしまっている。
その後の行為は、ボルディアにとっては格段におぞましさを増した。
愛を囁きながら痛めつけられ、体をまさぐられながら破壊され、口付けられながら肉を削られる。
体を踏みつけられ、嘔吐しそうになる気持ち悪さ。一方で変態は陶然とした目を向けてきて、もう何度目か解らない求婚を口にしていた。
変態の癖に求婚を頷かせようとする所だけは律儀だったが、当然それに頷くはずもない。
「テメェの花嫁、だぁ……?」
有り得ないと心底の嘲りを込めて笑い捨てる、この瞬間だけは、自分が上位だと確信出来た。
「まぁだ蛙やゴキブリの方がマシだぜ! そのキメェ面を拝まなくて済むからなぁ!」
+
憎々しげに見つめられてるはずなのに、何故か縋られているような錯覚を感じてしまう。
襟を締め上げ、ナイフを握る手は震えている。
振り下ろすスローモーションは躊躇うようにも見えて。
突き立てられたナイフが、ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)の目をえぐり出していた。
…………。
事の発端は、駆け落ち。
やんごとなき令嬢と恋に落ちたラィルは、しかし令嬢が信頼していた侍従の手によって捕らえられた。
場所は海に面する打ち捨てられた古城、人知れずラィルは監禁され、侍従の手による拷問を受けていた。
目的のない腹いせだけの暴力。
令嬢と駆け落ちしようとしたから? 無論そうだろう、だが、本質は大きくずれていた。
侍従の口から語られる、同性でありながらの令嬢への愛慕。
男であり、堂々と恋情を語れるラィルへの憎悪と嫉妬。
暴力の度に侍従は食い入るようにしてラィルの目を覗き込み、拷問は日々激しさを増し、侍従もまた行為から狂気を孕んでいくようになった。
お前は令嬢を見捨て、一人で逃走した事になっていると侍従は声高に語る。
……ああ、無論歯がゆく口惜しいとも、だが、連日の拷問によりラィルは衰弱しつつあった。
ラィルの反応が薄かったのが気に入らなかったのか、逆に侍従の方が激昂した。私があんなに愛した人をと罵倒し、かと思えば、ここまでしたのにどうして、とうなだれる。
侍従の狂気は人格に影響を及ぼすところまで来ていた、ぶつぶつと何かを言いながら、ラィルを戒める鎖ごとテラスに引きずり出す。
振り上げられたナイフと、抉り出された目。転がる眼球を前に、侍従は「お母さん」と確かに呟いていた。
(……ああ)
この女は、この目が愛おしく憎かったのだろう。
ラィルの目は緑、令嬢の目も緑、……きっと、侍従の母親も。
体を引きずるようにして侍従の前に立ち、無事な方の瞳で彼女と目を合わせた。
「ほんまに欲しいんは、目やなくて、眼差し……いや、愛情やろ?」
彼女はきっと、緑の目から優しく見つめられたかった。
以前の自分がもう少し注意深かったら、それに気づけたかもしれない、でもそれはもう間に合わず、自分に出来る事は一つしかない。
「おいで」
手を広げ、残った片目から優しい眼差しを向ける。
正常な判断が出来なくなった彼女を優しく抱きしめると、共に冬の冷たい海へと落ちていった。
令嬢への義務感、死期への悟り……思うことは沢山あった、その中で、最後に残ったのは侍従へ向ける、僅かな憐憫だった。
「しゃーなしやで。つきおうたるわ。ひとりで寂しかったんやろ」
+
人目が決してつかぬような地下室、そこではタグをつけられた子どもたちがそれぞれ檻の中に入れられていた。
震えている子も、無気力になっている子もいる、その中に溶け込みながら――アルマ・A・エインズワース(ka4901)は人知れず笑みを浮かべた。
此処は研究所であり、子供たちは人に知られてはいけない実験の被検体だった。
それを知っているのは研究所の人間と子供たちだけであり、露見していない以上、誰にも咎められる事なく、狂った実験は継続されている。
子供たちは体が欠けている者も珍しくない、研究者が『欲しい』と言っただけで、子どもたちの肉体は材料か何かのようにしてもぎ取られるのだ。
非人道的な仕打ちを被検体達が黙って受けるはずもなく、人間を捕らえる専門的な施設じゃない事もあって、研究所は被検体が脱走を目論むくらいには『隙』があった。
だが、単独ではどうしようもない、脱走を志した被検体は会話が出来る近くの被検体たちに協力を要請する。
アルマは笑って、それに頷いた。
翌日、脱走を目論んだ被検体は連れて行かれ、二度と返ってくる事はなかった。
アルマの正面の檻にいる女の子は、彼のために涙を流していた。
彼の末路、そして自分たちもいずれああなる事を悟ったのだろう、泣きながら、彼の計画を継ぐと宣言していた。
彼女も連れて行かれて、二度と戻ってこなかった。
アルマは無邪気に笑う、表向き、他の実験体の中に溶け込みながら。
…………。
研究者の被検体になった事を、アルマはちっとも悲観視していなかった。
むしろ、素晴らしい研究者である先生の被検体になって光栄であり幸福であるとすら思っていた。
脱走計画の事を研究者に伝えたのも、当然アルマだ、だって悪い子がいたら先生は困ってしまう。
二人とも戻ってこなかったけど、先生はアルマを褒めてくれたからどうでもいい。
自分の右腕だってそう、先生が欲しいと言ったのなら差し出すのが当然、代わりに先生の作品の義手を与えてくれたのだから、歓びすらしている。
自分を入れる檻は、自分を先生の所有物だと証明してくれる大切なものだ。
いつの日か、自分をここから助ける王子様が現れても、自分は差し出された手を食いちぎるだろう。
先生が討たれたら、迷わず後を追う、だって向こうで実験体がいないと先生が困ってしまう。
アルマは先生が大好きだった、低い声も綺麗な目も、撫でてくれる手も、全部。
うっとりと時間が過ぎるのを待つ、先生が自分を呼んでくれる時を飽きもせずに待ち続ける。
『悪い子』は全部僕が教えてあげますから。
先生は、僕と研究の成果だけ信じてくださいね?
+
ある日、唐突に振りかざされた暴力と権力によって、ユメリア(ka7010)は囚われの身となる。
罪状は騒乱、その歌声が人を惑わし国を亡ぼすのだと国の主から告げられた。
当然、ユメリアに身の覚えはない。
誤解だと言い募っても聞く耳を持ってもらえなかった。
それどころか、繰り返し暴力をちらつかされ、ユメリアが怯える様子を見せれば、主は満足げな顔色を示す。
……ああ、この振る舞いには覚えがある。
美しい容姿に対して、か弱いとされるエルフの身。暴力で従え、言いなりにしようとする輩は一度か二度くらいは遭遇する。
尋問という名の言いがかりは日にひどくなり、歌声を恐れる割にはこの口を塞がず、むしろ悲鳴を上げるまで揺さぶりをやめない事から、ユメリアは自分が囚えられた本来の理由に気がついた。
――貴方の目的は、私のこの、声、なのですね。
独占と支配、気がつくと同時に、自分は真っ当な手段では解放されないだろう事を悟った。
少しだけ嘆き、すぐに前を向いた。
望まれたのなら仕方ないと、望まれた通りに、黒い欲望によって、少しだけ変わる事を決意する。
牢獄に置かれたまま、音楽を刻む。
歌声は許されていない、ならばと、鉄格子を叩いてリズムを作り、鼻歌を乗せていく。
音楽は世のどこにでも満ち溢れている、これにだって、主が言うような『惑わし』はかける事が出来た。
惹きつけられる人が出れば、秘密ですよ、と言い含めて歌声を聞かせていく。
優しく、美しく、奥深く。
看守も、獄長も、この歌声の虜になった。
人を媒介にして噂は広まり続け、虜囚でない人が牢獄に訪れるようになった。
国の主がいた、その家族がいた、主を支持する人間たちがいた。
誰もが狂ったように、ユメリアの美しい歌声を望んでいた。
ユメリアは誰をも止める事なく、牢獄でただ歌い続ける。
牢獄を訪れる人数は増え続け、やがて預かり知らぬところで大きな騒乱となり……風船がはちきれるように、誰もが来なくなった。
ユメリアは牢獄の扉を押す、いつからか鍵はかけられてなかった。
歌を謳いながら、ユメリアは再び吟遊詩人としての旅に出る。
滅びた国で何があったかは一つも見ていないけれど、吟遊詩人は全てを知っていた。
+
体を起こそうとすれば、痛めつけられた時の傷が再生し切れずに痛む。
内心悔しさを感じながらも、今はやる事があると、深守・H・大樹(ka7084)は牢屋の鍵に手をかけた。
…………。
こんな事になっているのは、大樹が家族殺しとして拿捕・連行されたからだ。
無論、自分はそんな事していない、そもそも捕らえられる直前まで他のハンター達と一緒にいて、依頼で辺境に行っていた。
他のハンター達は証言も抗議もしてくれたけれど、騎士団を名乗る連中は同じハンターの証言は採用出来ないと言い張り、押し切る形で自分を連れ去って行った。
連れ去られた先で受けたのは尋問という名の暴行で、散々痛めつけられた後、牢に繋がれ取り残された。
自分は大好きなパパさんもママさんも殺していない、なのにはっきり自分だと名指しされているのは、自分の偽者でもいるのだろうか。
確かめたい事は山程あって、大人しく牢に繋がれてる筈もなく、ピッキングで抜け出した。
牢屋から出て外を目指す、周囲を見渡すが、どうも騎士団って感じの建物ではない、どっちかといえば研究所という印象を受けた。
安全に出られる場所を探して次々と部屋を開けていく、見つけたのは人間そっくりの人形が詰め込まれた部屋、中には自分そっくりの人形もあった。
「これが真犯人か」
気配を感じて咄嗟に振り返る、騎士団を名乗っていた連中を従えた、白衣の男だった。
曰く、これらの人形は完全な生命への前段階であり、それらを完成させた暁に自分は神になると。
……くだらない。
「僕自分が神と思ってる人嫌い」
見れば生命維持装置を必要とする程度の死にぞこない、躊躇わずにマジックアローを叩き込み、それらを残らず破壊してやった。
……もしかして、パパさんとママさんは、こいつらに。
それは、とても許す事が出来ない、それに、こんな奴が神になると嘯く人形を残す訳にも行かなかった。
全兵装を使い研究所ごと人形を破壊していく、建物が崩れ、中心地にいる自分にも逃げ場はなかったけれど、目的は果たしたから、後悔はなかった。
……ああ、いや、ちょっとだけある。
家に帰れないままだったから、パパさんとママさんが本当に死んでしまったのかどうか確かめられなかった。
それに、初めての友達にありがとうもさよならも言う事が出来ない、思い返せば、未練だらけだったけど、だがもう遅かった。
「……ちょっと寂しいな」
どうしてだろう、そこから先は、落ちるだけってわかってるのに。
…………。
十色 エニア(ka0370)が最後に人間らしく在れたのは、ハンターとして“自由”な活動を認められてる間だった。
人間のように挨拶を交わし、人間のように会話をして、ちょっとだけ特別にハンターとしての仕事をしていた。
最後の依頼は一人で遂行可能な些細なもの、後は報告だけだったのに、あのヒトに出会ってしまった。
どうしてそうなったのかは覚えていない、或いは、最初からそう在るのが当然だったような気もする。
まるで時間を巻き戻したかのような、既視感のある生活。
窓から外を見ればあの頃とは景色が違うと思えたのだろうが、生憎そこまでの自由は認められていなかった。
視線がちょっと届くかどうか、その程度の行動範囲。
左手首には鉄の戒め、部屋から出る事は無論不可能で、窓に手すら届かない。
日々の間に目の光は消えた、あらゆる事の相手をさせられ、話相手になり、ゲームの相手をして、閨の相手にもなった。
その間貼り付けたような笑みを浮かべて、時々人間である事を示すように無表情になる。
幸せな夢が元に戻っただけ、そう受け止めてれば良かった……はずだったのだけれど。
最後の記録は破損したかのようにノイズ混じりで、断片しか確認出来ない。
破壊されたのは、賊が家に押し入って来た時、『戦利品』として自分も連れて行かれてしまっていた。
扱いは今までより遥かに粗暴だった、突き飛ばすようにして牢屋に入れられ、体を強かに打ち付けても見向きもされない。
四肢は鎖で繋がれ、ろくな手入れもされず、服はかろうじてそうだと言えるようなボロ布のみ。
あらゆる欲望のはけ口にされ、賊の機嫌が悪い日が来る度に、どこかが壊されていった。
時間感覚は失われ、目に残った景色は嬉しそうに息を荒くしてる人たちだけ。
外の世界の事はわからない、探されているのか、それとも諦められたのか。
夢は沈むようにして終わる、終わり方は人形しか知らなかった。
+
怒りに身を震わせれば、腕の鎖が張り詰めて音を鳴らす。
殴りたくてもそれは許されない、許されるのは罵倒と、噛み付く事だけ。
痛みの度に反抗心は募り、言葉の度に闘争心が燃える。
…………。
どうしてそうなったかは、『負けたから』の一言に尽きる。
流血に構わず、気を失うまで暴れ続けて、気がついた時、ボルディア・コンフラムス(ka0796)はどこともわからない場所に監禁されていた。
屈強な肉体は展示するように両腕を広げられ、ギリギリの長さの鎖で上から繋げられている。
自分を捕らえた奴の顔はすぐにわかった、期待と歓喜に満ちたお世辞にも品がいいとは言えない顔で、小手調べと称されて、手始めに極太の杭で体に穴を開けられた。
衝撃が体を走り抜ける、幾らボルディアが屈強とは言え、痛みを感じない訳でも、不死身である訳でもない。
だがそれを素直に表現する道理などあるはずもなくて、お前は温く、弱く、取るに足らないとばかりに、ボルディアは嘲りの顔で笑い返してやった。
どれくらいの時間そうして耐えてたのか、良くわからない。
刃のついた鞭によって皮膚を割かれ、肉を抉られ、骨を砕かれてもボルディアは尚反抗心を崩さなかった。
それが相手の望む事だったとわかるはずもない、一つ耐えきる度にそいつは歓喜を表現し、全身が血まみれになった時に、ボルディアは一方的に求婚されていた。
相手を嬲り、痛めつける度に高揚する性癖。
同時に、それに反抗され、意地でも意のままにはならないという憎悪に燃える目を向けられて歓喜する屈折した精神。
男とはつまりそういう、自分は相手を嬲りたい上にその相手から反抗されるのが好きという背反を抱えたド変態であり、更に言うならその屈折した愛欲を向けても壊れない相手を望んでいた。
悪い事に、ボルディアはその条件の全てを満たして気に入られてしまっている。
その後の行為は、ボルディアにとっては格段におぞましさを増した。
愛を囁きながら痛めつけられ、体をまさぐられながら破壊され、口付けられながら肉を削られる。
体を踏みつけられ、嘔吐しそうになる気持ち悪さ。一方で変態は陶然とした目を向けてきて、もう何度目か解らない求婚を口にしていた。
変態の癖に求婚を頷かせようとする所だけは律儀だったが、当然それに頷くはずもない。
「テメェの花嫁、だぁ……?」
有り得ないと心底の嘲りを込めて笑い捨てる、この瞬間だけは、自分が上位だと確信出来た。
「まぁだ蛙やゴキブリの方がマシだぜ! そのキメェ面を拝まなくて済むからなぁ!」
+
憎々しげに見つめられてるはずなのに、何故か縋られているような錯覚を感じてしまう。
襟を締め上げ、ナイフを握る手は震えている。
振り下ろすスローモーションは躊躇うようにも見えて。
突き立てられたナイフが、ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)の目をえぐり出していた。
…………。
事の発端は、駆け落ち。
やんごとなき令嬢と恋に落ちたラィルは、しかし令嬢が信頼していた侍従の手によって捕らえられた。
場所は海に面する打ち捨てられた古城、人知れずラィルは監禁され、侍従の手による拷問を受けていた。
目的のない腹いせだけの暴力。
令嬢と駆け落ちしようとしたから? 無論そうだろう、だが、本質は大きくずれていた。
侍従の口から語られる、同性でありながらの令嬢への愛慕。
男であり、堂々と恋情を語れるラィルへの憎悪と嫉妬。
暴力の度に侍従は食い入るようにしてラィルの目を覗き込み、拷問は日々激しさを増し、侍従もまた行為から狂気を孕んでいくようになった。
お前は令嬢を見捨て、一人で逃走した事になっていると侍従は声高に語る。
……ああ、無論歯がゆく口惜しいとも、だが、連日の拷問によりラィルは衰弱しつつあった。
ラィルの反応が薄かったのが気に入らなかったのか、逆に侍従の方が激昂した。私があんなに愛した人をと罵倒し、かと思えば、ここまでしたのにどうして、とうなだれる。
侍従の狂気は人格に影響を及ぼすところまで来ていた、ぶつぶつと何かを言いながら、ラィルを戒める鎖ごとテラスに引きずり出す。
振り上げられたナイフと、抉り出された目。転がる眼球を前に、侍従は「お母さん」と確かに呟いていた。
(……ああ)
この女は、この目が愛おしく憎かったのだろう。
ラィルの目は緑、令嬢の目も緑、……きっと、侍従の母親も。
体を引きずるようにして侍従の前に立ち、無事な方の瞳で彼女と目を合わせた。
「ほんまに欲しいんは、目やなくて、眼差し……いや、愛情やろ?」
彼女はきっと、緑の目から優しく見つめられたかった。
以前の自分がもう少し注意深かったら、それに気づけたかもしれない、でもそれはもう間に合わず、自分に出来る事は一つしかない。
「おいで」
手を広げ、残った片目から優しい眼差しを向ける。
正常な判断が出来なくなった彼女を優しく抱きしめると、共に冬の冷たい海へと落ちていった。
令嬢への義務感、死期への悟り……思うことは沢山あった、その中で、最後に残ったのは侍従へ向ける、僅かな憐憫だった。
「しゃーなしやで。つきおうたるわ。ひとりで寂しかったんやろ」
+
人目が決してつかぬような地下室、そこではタグをつけられた子どもたちがそれぞれ檻の中に入れられていた。
震えている子も、無気力になっている子もいる、その中に溶け込みながら――アルマ・A・エインズワース(ka4901)は人知れず笑みを浮かべた。
此処は研究所であり、子供たちは人に知られてはいけない実験の被検体だった。
それを知っているのは研究所の人間と子供たちだけであり、露見していない以上、誰にも咎められる事なく、狂った実験は継続されている。
子供たちは体が欠けている者も珍しくない、研究者が『欲しい』と言っただけで、子どもたちの肉体は材料か何かのようにしてもぎ取られるのだ。
非人道的な仕打ちを被検体達が黙って受けるはずもなく、人間を捕らえる専門的な施設じゃない事もあって、研究所は被検体が脱走を目論むくらいには『隙』があった。
だが、単独ではどうしようもない、脱走を志した被検体は会話が出来る近くの被検体たちに協力を要請する。
アルマは笑って、それに頷いた。
翌日、脱走を目論んだ被検体は連れて行かれ、二度と返ってくる事はなかった。
アルマの正面の檻にいる女の子は、彼のために涙を流していた。
彼の末路、そして自分たちもいずれああなる事を悟ったのだろう、泣きながら、彼の計画を継ぐと宣言していた。
彼女も連れて行かれて、二度と戻ってこなかった。
アルマは無邪気に笑う、表向き、他の実験体の中に溶け込みながら。
…………。
研究者の被検体になった事を、アルマはちっとも悲観視していなかった。
むしろ、素晴らしい研究者である先生の被検体になって光栄であり幸福であるとすら思っていた。
脱走計画の事を研究者に伝えたのも、当然アルマだ、だって悪い子がいたら先生は困ってしまう。
二人とも戻ってこなかったけど、先生はアルマを褒めてくれたからどうでもいい。
自分の右腕だってそう、先生が欲しいと言ったのなら差し出すのが当然、代わりに先生の作品の義手を与えてくれたのだから、歓びすらしている。
自分を入れる檻は、自分を先生の所有物だと証明してくれる大切なものだ。
いつの日か、自分をここから助ける王子様が現れても、自分は差し出された手を食いちぎるだろう。
先生が討たれたら、迷わず後を追う、だって向こうで実験体がいないと先生が困ってしまう。
アルマは先生が大好きだった、低い声も綺麗な目も、撫でてくれる手も、全部。
うっとりと時間が過ぎるのを待つ、先生が自分を呼んでくれる時を飽きもせずに待ち続ける。
『悪い子』は全部僕が教えてあげますから。
先生は、僕と研究の成果だけ信じてくださいね?
+
ある日、唐突に振りかざされた暴力と権力によって、ユメリア(ka7010)は囚われの身となる。
罪状は騒乱、その歌声が人を惑わし国を亡ぼすのだと国の主から告げられた。
当然、ユメリアに身の覚えはない。
誤解だと言い募っても聞く耳を持ってもらえなかった。
それどころか、繰り返し暴力をちらつかされ、ユメリアが怯える様子を見せれば、主は満足げな顔色を示す。
……ああ、この振る舞いには覚えがある。
美しい容姿に対して、か弱いとされるエルフの身。暴力で従え、言いなりにしようとする輩は一度か二度くらいは遭遇する。
尋問という名の言いがかりは日にひどくなり、歌声を恐れる割にはこの口を塞がず、むしろ悲鳴を上げるまで揺さぶりをやめない事から、ユメリアは自分が囚えられた本来の理由に気がついた。
――貴方の目的は、私のこの、声、なのですね。
独占と支配、気がつくと同時に、自分は真っ当な手段では解放されないだろう事を悟った。
少しだけ嘆き、すぐに前を向いた。
望まれたのなら仕方ないと、望まれた通りに、黒い欲望によって、少しだけ変わる事を決意する。
牢獄に置かれたまま、音楽を刻む。
歌声は許されていない、ならばと、鉄格子を叩いてリズムを作り、鼻歌を乗せていく。
音楽は世のどこにでも満ち溢れている、これにだって、主が言うような『惑わし』はかける事が出来た。
惹きつけられる人が出れば、秘密ですよ、と言い含めて歌声を聞かせていく。
優しく、美しく、奥深く。
看守も、獄長も、この歌声の虜になった。
人を媒介にして噂は広まり続け、虜囚でない人が牢獄に訪れるようになった。
国の主がいた、その家族がいた、主を支持する人間たちがいた。
誰もが狂ったように、ユメリアの美しい歌声を望んでいた。
ユメリアは誰をも止める事なく、牢獄でただ歌い続ける。
牢獄を訪れる人数は増え続け、やがて預かり知らぬところで大きな騒乱となり……風船がはちきれるように、誰もが来なくなった。
ユメリアは牢獄の扉を押す、いつからか鍵はかけられてなかった。
歌を謳いながら、ユメリアは再び吟遊詩人としての旅に出る。
滅びた国で何があったかは一つも見ていないけれど、吟遊詩人は全てを知っていた。
+
体を起こそうとすれば、痛めつけられた時の傷が再生し切れずに痛む。
内心悔しさを感じながらも、今はやる事があると、深守・H・大樹(ka7084)は牢屋の鍵に手をかけた。
…………。
こんな事になっているのは、大樹が家族殺しとして拿捕・連行されたからだ。
無論、自分はそんな事していない、そもそも捕らえられる直前まで他のハンター達と一緒にいて、依頼で辺境に行っていた。
他のハンター達は証言も抗議もしてくれたけれど、騎士団を名乗る連中は同じハンターの証言は採用出来ないと言い張り、押し切る形で自分を連れ去って行った。
連れ去られた先で受けたのは尋問という名の暴行で、散々痛めつけられた後、牢に繋がれ取り残された。
自分は大好きなパパさんもママさんも殺していない、なのにはっきり自分だと名指しされているのは、自分の偽者でもいるのだろうか。
確かめたい事は山程あって、大人しく牢に繋がれてる筈もなく、ピッキングで抜け出した。
牢屋から出て外を目指す、周囲を見渡すが、どうも騎士団って感じの建物ではない、どっちかといえば研究所という印象を受けた。
安全に出られる場所を探して次々と部屋を開けていく、見つけたのは人間そっくりの人形が詰め込まれた部屋、中には自分そっくりの人形もあった。
「これが真犯人か」
気配を感じて咄嗟に振り返る、騎士団を名乗っていた連中を従えた、白衣の男だった。
曰く、これらの人形は完全な生命への前段階であり、それらを完成させた暁に自分は神になると。
……くだらない。
「僕自分が神と思ってる人嫌い」
見れば生命維持装置を必要とする程度の死にぞこない、躊躇わずにマジックアローを叩き込み、それらを残らず破壊してやった。
……もしかして、パパさんとママさんは、こいつらに。
それは、とても許す事が出来ない、それに、こんな奴が神になると嘯く人形を残す訳にも行かなかった。
全兵装を使い研究所ごと人形を破壊していく、建物が崩れ、中心地にいる自分にも逃げ場はなかったけれど、目的は果たしたから、後悔はなかった。
……ああ、いや、ちょっとだけある。
家に帰れないままだったから、パパさんとママさんが本当に死んでしまったのかどうか確かめられなかった。
それに、初めての友達にありがとうもさよならも言う事が出来ない、思い返せば、未練だらけだったけど、だがもう遅かった。
「……ちょっと寂しいな」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/11/08 06:17:43 |