ゲスト
(ka0000)
【虚動】未来への錯綜
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/04 19:00
- 完成日
- 2015/01/12 16:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
辺境の有力部族、オイマト族の戦士達が、族長バタルトゥ・オイマト(kz0023)と共に消息を絶った……
CAM強奪という最悪の事態が起きた矢先、辺境を駆け抜けた報せは、諸部族を震撼させた。
これまで部族会議の、歪虚との戦いの中心を担った部族の一つが、欠ける。
それは、大国に背後さえ脅かされた部族達を浮足立たせるには、十分すぎる理由であった。
直後よりファリフ・スコール(kz0009)率いるスコール族の戦士達は、バタルトゥらがマギア砦の北で目撃されていたという情報の元、緊急の活動に出た。
だが……
「うう、全然、手がかりがないなぁ……」
雪の降り積もる森の中を進みながら、ファリフは表情を曇らせる。
最悪の条件だった。この季節、辺境には雪と共に強風がやって来る。地吹雪は無慈悲なまでの早さで、そこに存在した者の痕跡を覆い隠してしまう。
古い言葉に『赤き大地』と呼ばれるこの地に長年生きてきた部族の民ならば本来、山野に消えた人間を追跡するのは決して不可能な事ではない。
人間や蹄鉄の足跡、枝葉に残される痕跡、鳥獣の動き、空気や風の微細な変化。そういったものから、対象の動きを読み取る技能が彼らにはあったのだ……『本来ならば』。
「もう、かなり時間が経っちゃってる……奪われたCAMも探さなくっちゃいけないのに」
若き少女は正統なる霊闘士にして、オイマト族と並ぶ辺境の最有力部族、スコールの族長。
だが、それでも、余りに若かった。首長に求められる確実で迅速な判断、それを裏付ける知識と技術が、未だ成長の途上にある。
「引き返すか、族長?」
並んだ若い戦士の顔ぶれのうち、一人が問いかけた。
ファリフはすかさず、首を横に振った。
「ううん、ダメだよ。オイマト族にもしも何かあったとしたら……助けてあげなくちゃ。私達が」
ファリフには悪い予感がしていたのだ。この状況にもあって探さずには居られない、それほどの。
「しかし、このまま探しても徒に時が過ぎるぞ」
「うーん……」
そうして、ファリフが考え込み、雪中に足を止めてしまいそうになった時だ。
「ここにおったか、スコールの長」
白い膜の様な地吹雪を擦り抜け、一人の老兵が、彼女達の前に現れる。
そう、老兵……辺境部族の戦士でありながら、帝国に降り『兵士』となった男。その人物を、ファリフは、知っていた。
「シバ(kz0048)……さん」
「難航しておるようだの、ファリフや」
驚愕するファリフに、老兵シバは誂うように言った。途端、ファリフの表情が曇る。
「何しに来たの」
「我ら帝国軍も手助けに来た。オイマト族の捜索に手を焼いていると聞いてな」
「帰って」
即答、ファリフは拒絶をぶつけた。顔立ちに似合わぬ、痛ましい表情で。
「帝国は『星の友』じゃない。貴方は……裏切り者だ」
帝国軍は、辺境部族を保護する代償に恭順を……部族としての文化も、生活も、誇りも、全てを捨てた帝国への『同化』を迫った。
そして、シバこそは部族の戦士でありながら真っ先にその申し出を受け、帝国軍の兵士となった男。
気高きスコールの長の瞳に怒りが灯るのは、その心の浅ましきを責めての事だ。
だが……ファリフの視線を、シバはいなすように嗤った。
「では、辺境部族に何ができる。スコールの長よ。今この時、ただ白雪を踏みならすだけのお主達が、オイマトを救うため何を成すと?」
「……だから、帝国に従えっていうの? 貴方みたいに、部族であることを捨ててまで」
「それが星の定めであれば。弱い獣が唯吠えただけでは、縄張りを守る事は出来ぬ」
「っ!」
ファリフの赤毛が、狼の如く逆立った。覚醒しかけたのだ。
覚醒しかけて……その意味に気づき、自分を抑えた。
見つ返すシバは、微動だにせず、ゆっくり口を開く。
「…………バタルトゥ・オイマトは、この先のザイタス峡谷におる」
「え?」
「若きオイマトの長は兵でなく心を攻められた、これは罠じゃよ。あれこそはベスタハの悲劇。オイマト族の宿敵にして、我等の、赤き大地の災厄。名を『ハイルタイ』」
「ちょ……え、ど、どういうこと?」
唐突に告げられ、ファリフが目を瞬かせた。言い伝えられた忌まわしき名と、それに連なる言霊に。
シバは、構わず言葉を続ける。まるで、独り言のように。
「帝国軍はザイタス峡谷へと入り、オイマト族を救う。さすれば証明できよう。赤き大地の部族に力なく、ウランゲル帝の膝下に跪くが定めとな」
「……嫌なら追い抜いてみせろ、ってこと?」
ファリフの問いに、シバは口元を釣り上げた。
「我等は功を競いなぞはせぬ。最初に言ったであろう、お主達を手助けにきたとな」
狼狽えていた少女の瞳が、戦士のそれに変わった。
●
短い会話が終わり、スコール族は直ぐにザイタス峡谷へ向けて移動を始めた。
残されたシバは踵を返して指揮官……辺境帝国軍の管理者、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の元へと戻る。
「随分、煽りましたねぇ。貴方が確実に部族を動かせると言うから、交渉をお願いしたのですが」
開口一番、ヴェルナーが言った。聞こえていたらしい。
「現にスコールは我等と同じ目的に動いたじゃろうが。細かい事は気にするな」シバが答える。
「あまり協力的でないのが、私としてはとても気になるのですがねぇ」
「今はオイマトを救うが最大の要ぞ。ここでオイマトの長を失えば、赤き大地における人類の勝目は潰える。そしてその為には、スコールの存在は断じて欠かせん」
「それほどなのですか、オイマト族や、スコール族の力は」
ヴェルナーの言葉に、シバは珍しく、失望したような表情を見せた。
「……お主、判っておらぬのか? そんな瑣末な括りの話ではない」
「どういうことでしょう」
「ここでオイマトを助けられぬなら、何も始まりさえせぬという事。お主にも関わるのだぞ、判らぬのか、本当に?」
「さあ、私にはさっぱり」
ヴェルナーがはぐらかしていると気付き、シバは問答をぱったりとやめた。
今度はヴェルナーが言葉を投げる。
「ザイダス峡谷は極寒の上に、いまや歪虚の巣窟です。少数精鋭の観点から今回は山岳猟団に捜索を要請しましたが、指揮は私が取ります。宜しいですか」
既に帝国軍山岳猟団の団員達が、ヴェルナーの背後に待機している。いずれも、精鋭ばかりだ。
「依存無し。団長代からはお主の指揮下に入るよう指示されておる。だが……」
シバは一度言葉を区切り、視線を横に向けた。帝国軍の横に立ち並んだ、『協力者達』に。
「ハンターはどうする? 儂としては、彼等の判断に任せたいが」
「同感です。その為の、遊撃戦力ですからね」
要塞管理者は、その場に招集されていたハンター達に向き直り、告げた。
「目的はオイマト族を探し出す事ですが、見ての通り範囲が余りに広大です。力を貸してください……私達にも、彼女達にも」
辺境の有力部族、オイマト族の戦士達が、族長バタルトゥ・オイマト(kz0023)と共に消息を絶った……
CAM強奪という最悪の事態が起きた矢先、辺境を駆け抜けた報せは、諸部族を震撼させた。
これまで部族会議の、歪虚との戦いの中心を担った部族の一つが、欠ける。
それは、大国に背後さえ脅かされた部族達を浮足立たせるには、十分すぎる理由であった。
直後よりファリフ・スコール(kz0009)率いるスコール族の戦士達は、バタルトゥらがマギア砦の北で目撃されていたという情報の元、緊急の活動に出た。
だが……
「うう、全然、手がかりがないなぁ……」
雪の降り積もる森の中を進みながら、ファリフは表情を曇らせる。
最悪の条件だった。この季節、辺境には雪と共に強風がやって来る。地吹雪は無慈悲なまでの早さで、そこに存在した者の痕跡を覆い隠してしまう。
古い言葉に『赤き大地』と呼ばれるこの地に長年生きてきた部族の民ならば本来、山野に消えた人間を追跡するのは決して不可能な事ではない。
人間や蹄鉄の足跡、枝葉に残される痕跡、鳥獣の動き、空気や風の微細な変化。そういったものから、対象の動きを読み取る技能が彼らにはあったのだ……『本来ならば』。
「もう、かなり時間が経っちゃってる……奪われたCAMも探さなくっちゃいけないのに」
若き少女は正統なる霊闘士にして、オイマト族と並ぶ辺境の最有力部族、スコールの族長。
だが、それでも、余りに若かった。首長に求められる確実で迅速な判断、それを裏付ける知識と技術が、未だ成長の途上にある。
「引き返すか、族長?」
並んだ若い戦士の顔ぶれのうち、一人が問いかけた。
ファリフはすかさず、首を横に振った。
「ううん、ダメだよ。オイマト族にもしも何かあったとしたら……助けてあげなくちゃ。私達が」
ファリフには悪い予感がしていたのだ。この状況にもあって探さずには居られない、それほどの。
「しかし、このまま探しても徒に時が過ぎるぞ」
「うーん……」
そうして、ファリフが考え込み、雪中に足を止めてしまいそうになった時だ。
「ここにおったか、スコールの長」
白い膜の様な地吹雪を擦り抜け、一人の老兵が、彼女達の前に現れる。
そう、老兵……辺境部族の戦士でありながら、帝国に降り『兵士』となった男。その人物を、ファリフは、知っていた。
「シバ(kz0048)……さん」
「難航しておるようだの、ファリフや」
驚愕するファリフに、老兵シバは誂うように言った。途端、ファリフの表情が曇る。
「何しに来たの」
「我ら帝国軍も手助けに来た。オイマト族の捜索に手を焼いていると聞いてな」
「帰って」
即答、ファリフは拒絶をぶつけた。顔立ちに似合わぬ、痛ましい表情で。
「帝国は『星の友』じゃない。貴方は……裏切り者だ」
帝国軍は、辺境部族を保護する代償に恭順を……部族としての文化も、生活も、誇りも、全てを捨てた帝国への『同化』を迫った。
そして、シバこそは部族の戦士でありながら真っ先にその申し出を受け、帝国軍の兵士となった男。
気高きスコールの長の瞳に怒りが灯るのは、その心の浅ましきを責めての事だ。
だが……ファリフの視線を、シバはいなすように嗤った。
「では、辺境部族に何ができる。スコールの長よ。今この時、ただ白雪を踏みならすだけのお主達が、オイマトを救うため何を成すと?」
「……だから、帝国に従えっていうの? 貴方みたいに、部族であることを捨ててまで」
「それが星の定めであれば。弱い獣が唯吠えただけでは、縄張りを守る事は出来ぬ」
「っ!」
ファリフの赤毛が、狼の如く逆立った。覚醒しかけたのだ。
覚醒しかけて……その意味に気づき、自分を抑えた。
見つ返すシバは、微動だにせず、ゆっくり口を開く。
「…………バタルトゥ・オイマトは、この先のザイタス峡谷におる」
「え?」
「若きオイマトの長は兵でなく心を攻められた、これは罠じゃよ。あれこそはベスタハの悲劇。オイマト族の宿敵にして、我等の、赤き大地の災厄。名を『ハイルタイ』」
「ちょ……え、ど、どういうこと?」
唐突に告げられ、ファリフが目を瞬かせた。言い伝えられた忌まわしき名と、それに連なる言霊に。
シバは、構わず言葉を続ける。まるで、独り言のように。
「帝国軍はザイタス峡谷へと入り、オイマト族を救う。さすれば証明できよう。赤き大地の部族に力なく、ウランゲル帝の膝下に跪くが定めとな」
「……嫌なら追い抜いてみせろ、ってこと?」
ファリフの問いに、シバは口元を釣り上げた。
「我等は功を競いなぞはせぬ。最初に言ったであろう、お主達を手助けにきたとな」
狼狽えていた少女の瞳が、戦士のそれに変わった。
●
短い会話が終わり、スコール族は直ぐにザイタス峡谷へ向けて移動を始めた。
残されたシバは踵を返して指揮官……辺境帝国軍の管理者、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の元へと戻る。
「随分、煽りましたねぇ。貴方が確実に部族を動かせると言うから、交渉をお願いしたのですが」
開口一番、ヴェルナーが言った。聞こえていたらしい。
「現にスコールは我等と同じ目的に動いたじゃろうが。細かい事は気にするな」シバが答える。
「あまり協力的でないのが、私としてはとても気になるのですがねぇ」
「今はオイマトを救うが最大の要ぞ。ここでオイマトの長を失えば、赤き大地における人類の勝目は潰える。そしてその為には、スコールの存在は断じて欠かせん」
「それほどなのですか、オイマト族や、スコール族の力は」
ヴェルナーの言葉に、シバは珍しく、失望したような表情を見せた。
「……お主、判っておらぬのか? そんな瑣末な括りの話ではない」
「どういうことでしょう」
「ここでオイマトを助けられぬなら、何も始まりさえせぬという事。お主にも関わるのだぞ、判らぬのか、本当に?」
「さあ、私にはさっぱり」
ヴェルナーがはぐらかしていると気付き、シバは問答をぱったりとやめた。
今度はヴェルナーが言葉を投げる。
「ザイダス峡谷は極寒の上に、いまや歪虚の巣窟です。少数精鋭の観点から今回は山岳猟団に捜索を要請しましたが、指揮は私が取ります。宜しいですか」
既に帝国軍山岳猟団の団員達が、ヴェルナーの背後に待機している。いずれも、精鋭ばかりだ。
「依存無し。団長代からはお主の指揮下に入るよう指示されておる。だが……」
シバは一度言葉を区切り、視線を横に向けた。帝国軍の横に立ち並んだ、『協力者達』に。
「ハンターはどうする? 儂としては、彼等の判断に任せたいが」
「同感です。その為の、遊撃戦力ですからね」
要塞管理者は、その場に招集されていたハンター達に向き直り、告げた。
「目的はオイマト族を探し出す事ですが、見ての通り範囲が余りに広大です。力を貸してください……私達にも、彼女達にも」
リプレイ本文
●
「はー……流石にこの寒さはこの歳だと堪えるわねぇ」
真っ白な景色を眺め渡しながら、エリシャ・カンナヴィ(ka0140)は大きく、白い息を吐いた。
ごうごうと吹き荒ぶ地吹雪は、冷たい風もさることながら、舞い上がった粉雪をハンター達に叩きつけ、彼らの体力を奪う。
一見して少女にしか見えないエリシャだが、長命のエルフともあれば何かしら体に来るものがあるらしい。
「私達も遭難したら意味が無い、慎重に行こう」
ルシオ・セレステ(ka0673)は言いながら、ローブの襟元をきつく閉ざした。
「一応、貸してといったものは全て貸して貰えたけれど……それでもこれは、冷えるわね」
椿姫・T・ノーチェ(ka1225)が、帝国軍から貸し出された装備を配り終えて、息をついた。
彼女が申請を行ったのは、ブーツ・耳当て付き帽子・外套・手袋・ゴーグルといった寒中行軍装備だ……要塞管理者のヴェルナーが同行していた事も幸いし、さしたる障害もなくそれらの道具は揃った。
だが、しかしである。
そんな装備でさえ気休めに感じてしまう程、吹雪は身を震わせる。
寒さだけではない……足場の悪さ、視界の悪さも、捜索条件の悪化に拍車を掛けている。
おまけに、人間の感情の問題まで重なっているときた。
ファリフ率いるスコール族は、そうしている間にもぐいぐいと先へ進み、吹雪の向こうへと消えてしまいそうになっている。
「争ってる場合……? 否ね」
スコールの背を見ながら、摩耶(ka0362)が小さく呟く。
シバの言葉が間違いでなければオイマト族は、既に危機的状況にある。
であれば、一刻の猶予も許されない状況なのだ……本来は。
「協力し合う事ができればオイマト族の捜索も早く行えるんだろうが……無理だろうな」
と、頭を振ったのはヴァイス(ka0364)。彼の目に映ったファリフは、とても帝国との協調などできる状態では無いように見えた。
イスフェリア(ka2088)も、ヴァイスの言葉に頷き、心配げな表情を浮かべている。
「ファリフさんの焦りや怒りも分かるけれど……オイマト族を救うことより、帝国軍に負けないこと、が先行してるのが気になるかな」
「少しでも、俺たちハンターが潤滑油になれればいいが」
イスフェリアの言葉に頷き、ヴァイスは愛犬を引き連れて帝国軍の元へと向かう。
一方でイスフェリアは、スコール族を追いかけた。
帝国軍とスコール族、双方にハンターがつく。あるいは、二つの組織を繋ぐ望みも、あるかもしれないと。
●
ハンター達はまず、峡谷の地理を知っているというシバの元へ行き、彼に地図の提供を求めた。
「シバはザイタス峡谷の地理を知ってるんだろう。俺達も地図が欲しいんだが」
シン・L・アガルッド(ka2385)を始め、多くのハンターがシバに峡谷の地理を求めたが、彼はやんわりと、首を横に振った。
「知らぬというたら嘘じゃがな。だが、儂にも立場がある」
シバは最初、わざとらしい口調でハンター達の頼みを断った。
重要な情報でもある辺境の地理を、理由なく誰にでも教えられる訳ではない、と。
その語り口は、まるでハンターを試しているかの様にも見えた。
「そう言うけど、この吹雪じゃなんにも見えないし、地図もないんじゃ捜索しづらいよ」
「……」
三日月 壱(ka0244)がずいと前に出て、あどけない声色で言った。
上目遣いに向けられた視線を、シバは一言も発さぬままじっと、見つめ返した。
不自然な沈黙を、傍らで見守っていたエイル・メヌエット(ka2807)が、破る。
「……貴方にも、何か思惑があるのは判ります。けれど、これから雪に覆われた未知の土地へ入るなら……せめて地理を把握しないと、あまりに危険です。ここは、お互いの為にも……」
「地図の内容は、内密に取り扱うわ。ファリフにも、伝えない」
エイルに続いて、誓うように語ったのは椿姫。黒い瞳はまっすぐに、老兵の瞳を見据える。
シバは少し考えて、それから徐ろに、次の言葉を切り出した。周囲を確認し、その場の人間にしか聞こえぬ声で。
「何度も『言えぬ』ゆえよく聞けよ、初めは三叉路、左に行けばそこがまた二手に別れ……」
滔々と語られる内容がザイタス峡谷の地形であると気づくと、椿姫は急ぎそれをメモに描き留めた。
その地図をハンター達は互いに描き写し、各々が所持することで共有情報とした。
●
体裁上は帝国軍からの招集に応えてこの場に集ったハンター達だが、スコール族が先行して峡谷に入ったのに合わせて、彼らも手を分ける事になった。
その思惑こそ様々だが、特別の思いを抱いて行動を起こす者も、少なくはない。
「人の命がかかっている時に、いがみ合うべきではないと思うのですが……」
レオン・イスルギ(ka3168)は、スコールの戦士の足取りを見て、心配そうに顔を俯かせる。
辺境の生まれでありながら異邦人の血を交えた彼女には、ファリフの怒りも、シバの焦燥も、現実から目をそむけた結果に映ってしまう。
「古く青の文化を受け入れた我が一族の如く、互いに歩み寄り、理解し合い溶け合えれば良いのですが」
レオンは、スコール族の持つ偏見――少なくとも、レオンはそう思っている――を解ければと考えていた。
今なすべき事は何か、ファリフやシバに気づいて貰う為に。
「俺の立場は、オイマト族に近い。あいつらとは共闘もして、ハンターを認めて貰った……急いで見つけないと」
ディル・トイス(ka0455)も、部族の血を引く者の一人だ。
かつて共に戦った、オイマトの若き族長の面影は、ディルの脳裏にはっきりと刻まれている。
「俺は政治的なことは正直興味は無いが……難しい話はまず眼の前の危険をどうにかしてからだな」
と、歩調を早めるのはレイオス・アクアウォーカー(ka1990)。隣には、捜索の為に連れてきた愛犬も一緒だ。
帝国軍には警戒感を示していたファリフだったが、ハンター……それも、見知った顔も混じっているとなれば、パッと表情を明るくし、彼らを迎えた。
「みんなが手伝ってくれるなら、きっと探し出せるね!」
「そうやファリフはん、期待してまっせ!」
アカーシャ・ヘルメース(ka0473)にとって、辺境の部族は馴染み深い隣人だ。であればこそ、彼女がスコールに傾ける期待は大きい。
その視線を真っ向から受け止め、ファリフは子供らしい満面の笑みで頷いてみせる。
「ここは赤き大地。求めるはこの地の民。ファリフさんだからこそ選べる道はあるわ」
エイルもまた、ファリフに小さからぬ願いを寄せる。年頃に不釣合いな使命を負ってしまった少女が前に進む、その助けになれば、と。
「いきましょう。彼らが心折れぬ様に。共に背を預け戦う者が多くいるのだと、信じてもらう為に」
アリオーシュ・アルセイデス(ka3164)の言葉は、誰かに向けてというよりは、自分自身への誓いのように聞こえた。
一度だけ、彼は右頬の傷を自らの指先でなぞり、表情を引き締める。何か、大切な決意を反芻するかの様に。
「みんな……ありがと。僕らもがんばるからさ、よろしくね!」
ファリフが今日一番の笑顔をみせる。そこから、ハンター達への信頼が、見て取れるような気がした。
「ファリフさん、良かれと思い簡易地図を作ってきました。これを元に一緒に捜索しましょう!」
壱が差し出した地図を見て、ファリフは目を丸くした。
「……ほんとに? 私達も知らない土地なのに、どうやって地図なんか」
「そんなことより、今は捜索が先でしょ! 急がなくちゃ」
「……」
言葉を詰まらせたファリフの手を引きながら、壱はあえて半ば強引に、雪原へと足を踏み出した。
●
「帝国に協力するハンターの中に、辺境に肩入れする輩がいる。こんなスパイじみた行為は、帝国ユニオンの一員として見過ごしたくはないんだがねぇ……」
Charlotte・V・K(ka0468)は、スコールの元へ向かったハンター達の背を見やって、不満げな言葉を零した。
何かしらの強い感情を持って依頼者に協力するのは、何もスコール族側のハンター達だけではない。
帝国軍側にもまた、同じように……組織の為という思いの元、依頼を受諾する者は居る。
「帝国には住居を工面してもらった借りがある。この場で少しでも返しておきたいな」
ヒースクリフ(ka1686)も、その一人。いつも気だるそうな青年にしては、積極的な姿勢を見せている。
「はっ、長い物に巻かれりゃ楽なのにガキもジジイも誇りだなんだとメンドイ生き方してるっすね〜」
対照的に神楽(ka2032)は、吐き捨てる様に言った。
秩序に背いて生きてきた彼にとっては、辺境をめぐる部族の諍いは茶番としか映らない。
「ま、俺には関係ねーっす! 寒みーしとっとと見つけて帰るっす」
帝国軍側のハンター達は、既にスコール族と別れ、最初の分岐路から別々の道を捜索し始めていた。
地形を把握したとは言え、アテがないのはこちらも同じ。加えて、帝国軍兵士の多くが、雪中行軍にあまり慣れていないのも気に掛かる。
「目印に、リボンか何かを木に結びつけながら探すといいと思う」
ルシオは大量に用意しておいたリボンを取り出し、手始めにと近くの木に結びつける。
「出来ればスコール同行組も違う色の印を持って貰えればよかったのだけれど……」
打ち合わせる機会を持たなかったのが、今になって悔やまれる。
「後は……各人をロープでつなげば、雪崩と崖落ちの対策になるだろう」
Charlotteが持参したロープを取り出すと、同じ意図を持っていたイシャラナ・コルビュジエ(ka1846)と宮前 怜(ka3256)も、ロープを取り出す。
「このロープを掴みながら左右に散って進めば、はぐれないで広範囲を探せるんじゃないかしら」
イシャラナの提案もあり、ハンター達は互いの体を結びつけた状態で、ある程度分散して捜索を行う事にした。
●
一方のスコール族は、雪になれた部族民のリードもあり、かなり速いペースで峡谷を移動していく。
「こちらも迷わないようにしませんとね」
上泉 澪(ka0518)は、進みながら、手にした斧で木々に傷をつけていく。
すでに捜索済みの場所、という意味での目印だ。
「ファリフさんは何だか焦っている様にも見えますが……諭しても効果があるかどうか」
と、澪はファリフの背を見た。
ファリフの足取りはこの吹雪の中で尚軽いが、乱暴というか、ふてくされた様な印象を受ける物で。
「あまり力を入れすぎても、後々の捜索の余力に影響しそうですね」
と、アリオーシュ。周囲の者の体調をこまめに観察している彼だが、現状最も不安なのはファリフといっていい。あまりにも、力みすぎているのだ。
「今のところは歪虚に遭遇してないからいいけど、これから戦闘になる可能性も高い訳だしねぇ」
と、周りを警戒しているのはエリシャ。
峡谷に入って間もないからか、雑魔の姿は見えず、一見して捜索は順調なようにも見える。
「本格的な訓練をした訳じゃないが、今は少しでも情報が欲しいからな。頼むぜウルガリス」
レイオスは愛犬を連れ、人の匂いを追跡させようとしているが、残念ながら効果は微妙なところだ。
犬に特定の匂いを捜索させるには、本来数ヶ月の訓練を要する。ぶっつけ本番でそれができるかといえば、否に近い。
尤も、無意味でもないであろう。犬ならば、人間の聞こえない音に反応してくれることもありうる。
「こっちのルートなら帝国軍とぶつかったりはしないはずだ、行こうぜファリフ」
と、シンはファリフを先導する。帝国軍と捜索範囲を被らせるよりは、このやり方のほうが効率はいい。
「ハイルタイの名前を、スコール族の方々は既に知っているようだが。何か、進むべき方角の示唆になるような伝承はないのか」
捜索中、シリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820)が発した問には、ファリフも、スコールの戦士達も、首を捻った。
「ベスタハの悲劇で、オイマト族を……私達部族を裏切って歪虚についた罪人。でも、私達が知ってるのはそれくらいだよ。それを一番よく知ってる、バタルトゥさん達は……この事を話したがらないから」
「この地で何かあったのかは、間違いないのか」と、シリル。
「うん。ベスタハの悲劇は、このザイタス峡谷で起きた。殺された戦士の血で、川が赤く染まったって」
「待て、川?」
「伝承では、そういうふうに伝わってるけど……」
ファリフの言葉に、シリルが口元を抑えながら、手元の地図に視線を落とした。
●
同時刻、帝国軍サイド。
「オイマト族は奪われたCAMを追っていったんでしょ、だったら、敵がどこへ逃げたか予想して追っていったんじゃないかしら」
イシャラナが、地図を見ながら言った。
「CAMを隠せそうな場所ってない?」
「そうは言っても、入り組んだ地形だからな……」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が、地図とにらめっこしつつ、それらしい場所に印をつけてみる。
四方を岩壁に囲まれた広い空間が、峡谷の中には点在していた。
「……地図に川は流れていないか」
「川?」
唐突に切り出したのは怜。その言葉に、周りの者が首をかしげた。
「長年この地に行きてきた部族の長であれば……何らかの自然を目印にしてCAMを追跡したかもしれん」
「でも、地図には川なんて……」
手元の地図を覗き込む摩耶。
「いや、これが川だろう。水が流れてなくとも、既に干上がっているだけの可能性も高い」
怜は、峡谷を縦横に走る、太い線を指差す。それは曲りくねった峡谷の道を横切る、一本の線となる。
それをイシャラナの推測と組み合わせると、かなり範囲が絞られてくる。
「崖の上に登れって確認できれば、早いのですけれど」
「やめた方が良いだろうな。登っている最中に滑落したら、無事ではすまん」
摩耶と怜は、道の両脇にそびえる崖の壁面を見上げた。
斜面の角度は垂直に近く、高さは人間の背の何倍もある。
「地道に探すしか無いですね……」
ペットのフクロウに捜索の手伝いを頼んでみようかとも思ったが、さすがに重荷すぎる。
摩耶はかすかに白い吐息を吐き出してから、再び捜索の足を踏み出した。
捜索中、ハンター達の連絡は主としてトランシーバーを用いたものであったが、それが思うように機能しないのは大きな誤算だった。
「くそ、なかなか聞こえないな」
ないよりはましにせよ、頻繁に通信が途切れるトランシーバーを、ヒースクリフは恨めしげに睨む。
「峡谷の岩壁に、電波が遮られてるのかもしれないな」
エヴァンスが、ヒースクリフの背中ごしに言った。
もともと遮蔽物の多い峡谷地帯、個人携帯用の小型無線機は悪影響を受けやすい。
さらにこの天候だ。空間に漂う雪にも、電波の伝搬を遮り、その有効通信距離を狭めてしまう性質がある。
少なくとも、現在トランシーバーが本来の通信距離を保っていないのは、明白であった。
では、魔導短伝話ならばどうか。
「……もしもし、聞こえますか」
『こっちはバッチリ聞こえてるじゃーん!』
魔導短伝話の向こうからくるユハニ・ラハティ(ka1005)の声を聞き、摩耶はほっと息をついた。
マテリアルによる通信は生きている。であれば、離れた味方同士の連携も、まだ可能だ。
『しっかしファンキーに寒いな! 脱いだら死ぬじゃーん!?』
「いや、脱ぐ必要はねぇだろ」
元気一杯に叫んだ老人に、エヴァンスが通信ごしのツッコミを入れる。短伝話同士での連絡網を構築できたのは、事前にエヴァンスがその所持者を確認していたことも大きい。
ユハニの方は一人、帝国軍からもスコール族からも離れ、物見の役割を担っていた。
既に何度も、狼型の歪虚を見かけては帝国、スコールの両サイドへと伝えている。
かなりの数の群に、それも結構な頻度で目視しているらしいのだ。
『ちょっとこの数はシャレになんねーじゃん!? 逃げれるなら逃げるが勝ちじゃーん』
殆どの歪虚を、ハンター達は避けて捜索していた。
相手をしていれば、間違いなく余計な時間を取られるからだ。
通信を中継するのは、屋外(ka3530)の役目。魔導短電話でスコール族側のアカーシャと随時連絡を取り、互いの距離が離れすぎないよう、かつ地図の空白を埋められる様に、互いを誘導する。
「スコール族の方も、未だ進展はないようですね」
屋外の報告に対する反応は、様々だった。ヴェルナーやシバは、感情的な反応を見せず、淡々とその報告を聞き入れていた。
●
再び、スコール族。
ベスタハの悲劇が川沿いで起きたという推測を得た彼らは、結果的に帝国軍と同様、河川の跡地を探しつつ、その線をなぞるような捜索を行っていた。
「おや……木にリボンが……」
レオンが、道の端にあった木に結び付けられた、赤いリボンを見つける。
「古い布ではないですね。ハンターのどなたかが、印として残したのでしょうか」
真新しい布を覆いかけている雪を払い、レオンはじっとそれを見つめる。
「さっきは、ダーツの刺さった木を見つけましたけれど」
「それは……私がつけておいた目印ね」
澪の言葉に、椿が手持ちのダーツを出して見せた。
スコール族、帝国軍ともに、捜索のため木に印をつける手法を取ったハンターは数人いたが、どんな手法を用いるか、それが何を意味するかについての共通認識は無かった。
「少なくとも、ここが既に捜索された場所というのは、確かでしょう。それだけ分かれば十分です」
澪はそういって、再び足を踏み出そうとするが、アリオーシュがそれをやんわり引き止める。
「少し、お待ちを。一度……小休止を入れませんか」
雪中で行進する中、足取りに疲れを見せるものが増えてきたためだ。
澪は後ろに続く面々の表情を見て……静かに、アリオーシュに頷いて見せた。
ハンター達は一度その場で足を止め、輪を作るように固まって心ばかりの暖をとる。
アリオーシュは手持ちの牛乳を取り出して、疲労の色が濃い者に優先して手渡した。
「雪の夜はホットワインといきたい……が、今はこれしかねぇんだ、悪いな」
と、レイオスはブランデーを差し出し、男性ハンターとの間で回し飲みして体を温めている。
一方、ファリフはその光景を眺めながらじっと休んでいていたが、頻繁に周囲を見渡すあたり、どこか落ち着かない。
その姿を見てイスフェリアが、そっとファリフの隣に座り、顔を覗き込むようにして語りかけた。
「ねえ、ファリフさん。先行してたら敵を引きつけてしまって、美味しいところを帝国軍に奪われちゃうかも」
「……どういう事?」
きょとんしたまるい瞳が、イスフェリアを見つめ返した。
「帝国軍を利用して、陥れてみたらどう? 帝国軍に勝ちたいんでしょ?」
「……」
イスフェリアの意図が、唐突にも聞こえる言葉のままで無い事は明らかだった。
あえて含みを持たせたその意図を、沈黙するファリフはどこまで察したか……
ただその表情は……葛藤か、何か迷っている様に見えた。
「難しく考えることはねーさ。まっすぐ進めば導かれるもんさ、ファンキーになっ!」
黙りこくってしまったファリフの肩をやや乱暴に叩いたのはユハニだ。休憩と聞いて、一度スコール側に合流していたのだ。
「そうだね。わざわざ帝国軍に何かしなくたっていいよ。今は……急いでバタルトゥさん達を見つける、それだけで良いんだ」
ただ、まっすぐに。その言葉が少女の迷いを和らげたのか、ファリフは小さく、頷いた。
●
「どこっすか〜聞こえたら返事しろっす!」
帝国軍側の捜索隊からあえて離れ先行した神楽は、偵察しながら声を張り上げ、オイマト族の捜索にあたっていた。
暫く経って、霧の向こうから人影が現れた時、神楽はそれが行方不明のオイマト族かと思った。
「お、ビンゴっすか!」
だが、目視できる距離に近づくまでに、相手が違う事に神楽は気づく。
人間にしては大きすぎる。毛むくじゃらの、巨大な歪虚……
「雪男!? ちょ、無理っす! ヘルプ! 助けて〜っす!」
叫んでも、地吹雪の向こうからは反応がない。
先行するうちに本隊からはぐれたか? それを確かめる連絡手段を、神楽は持たない。
再び前方を見る。既に雪男は目の前に迫っていた。
「……!」
毛むくじゃらの左手が、ぶん、と振り下ろされ――神楽の意識は途絶えた。
帝国軍とハンター達が神楽を救助したのは、まさに紙一重のタイミングだった。
ハンター達が連れてきた犬達がやにわ騒ぎ立て、オイマトを見つけた方と思ってしばらく走ると、雪男に襲われ、倒れている神楽を見つけたのだ。
そのままなし崩しに、ハンターたちは雪男と戦闘せねばならなかった。
「救出するぞ。俺が引きつける、その間に神楽を」
ヴァイスが駆け出し、雪男との距離を詰めようとするが……
「くそっ、ロープが……!?」
ここに来て互いを結びつけている縄が、ハンター達の位置取りを阻害する。
ロープを切れば早いが、そうすれば二度と、安全対策としてのこの手法は使えない。
ハンター達は緊急時の戦闘対処をある程度打ち合わせては居たものの、命を守るためのロープが今度は闘いを阻害するとは想定されていなかったのだ。
「ロープもだが……身体も冷えている上に雪に足を取られてる。初動は遠距離使いに任せよう」
ルシオはヒールを唱えながら、周囲のハンター達に言った。射程ぎりぎりから神楽を治療し、その命を繋ぎ止める。
「賛成ですね。私が射撃して雪男を押さえつけます、その間に!」
屋外が、アサルトライフルを連射し、弾丸を雪男に打ち込む。
その間に、やむなく全員がロープの結びをその場で解き、ようやく自由な戦闘が可能な状態となった。
「行くぞ皆、俺に続けぇぇぇぇぇぇ!」
ヒースクリフが神楽の傍に立ち、雪男に切りかかる。
それを皮切りに、雪男との乱戦が始まった。
●
一方、こちらはスコール族側。
部族民は帝国軍よりは雪道の行軍に慣れていることで、峡谷を進む早さも、その足取りも、比較的に安定した状態が続いていた。
ユハニの誘導や、不要な戦闘を回避する椿姫の提案もあり、ハンター達は狼型の歪虚を視認しても、可能な限り戦闘を避けている。
だがそれでも、吹雪の中、敵味方が近距離で蜂合わせてしまえば話が別だった。
地吹雪が途切れ、視界が開けたと思った瞬間……敵の群れは、既にそこにいたのだ。
「敵襲! 狼型だ! 数は……くそ、こいつらどれだけ居るんだ!?」
ディルが、叫んだ。視界に入るだけでも十体近くがいた筈だが、距離が近すぎて正確な数は把握できない。
「前に出るわ、援護、お願い」
迷わずエリシャが切込み、マルチステップを用いて狼の群れに撹乱をしかける。
続いてシリルがその後ろに続き、エリシャの背後を守る様にフレイルを振るう。
「皆、無理はするなよ。周囲を見て、囲まれない様に注意しろ」
「もちろん!」
頷きながら、壱はクラッシュブロウで、鞭の一撃を歪虚の鼻っ柱に見舞う。
隣の澪も、クラッシュブロウと共に斧を振り下ろす。一刀両断に、狼の胴が二つに別れた。
「今ここで道草を食うわけには行きません、一気に片をつけるべきです」
焦りを見せること無く、澪は冷静に言い放った。
一体一体は弱い。数と状況に翻弄されさえしなければ、勝てない相手ではない。
だが、これは時間との勝負なのだ。
一刻も早くオイマト族を発見しなければならない以上、歪虚との戦闘はタイムロスとさえ言える。
ハンター達とスコール族は、焦る気持ちを抑えながら、狼群との総力戦へと突入していった。
●
歪虚との戦闘にもかなりの時間を要したものの、二手に分かれた捜索隊は少しずつ、確実に峡谷を進んでいった。
既にハンターは勿論の事、同伴するスコール族や帝国軍にも疲労が色濃く出ている。
捜索に動きがあったのは、そろそろ捜索も限界かとハンター達が感じ始めた、その矢先のことだ。
レイオスの愛犬が、突如耳をぴくりと動かし、あたりを探し回る様に動き始めた。
「どうした……何か聞こえるのか?」
他の犬たちも一緒だ。吹雪の向こう側をじっと見つめている。
風の向こうから聞こえる声。何か、人の言葉で会話している。
あれは……
「もしもし、ユハニはん!? こっちでオイマト族を見つけました。至急、帝国軍側に連絡して下さい!」
アカーシャが短伝話に向けて叫んだ。
すかさずハンター達は駆け出し、人影に近づいて、その姿を……
「……そんな」
そこで目にしたのは、たった七人の人影。
ハンターと、バタルトゥだ。
「……ほかの戦士の方々は」
レオンの問いに、バタルトゥは黙したまま、首を横に振った。
沈黙の中で、ごうごうと風の吹き荒ぶ音だけが、ハンター達の耳にこびりつく。
帝国軍側のハンター達が合流するまで、彼らはその場に立ち尽くた。
●
オイマト族とその護衛のハンター達は、発見された段階で既に、自力で歪虚の包囲網を突破していた。
彼らを襲った『ハイルタイ』なる歪虚は、闘いの中「飽いた」という理由で撤退していた。
生き残ったバタルトゥも、その護衛として戦ったハンター達も、見るに耐えない様な傷を負っており、それがいかに厳しい闘いであったかが伺える。
そしてハンター達は、保護したバタルトゥらの護衛を勤めながら、要塞へと帰還した。
オイマトの戦士で、生きて再びマギア砦の門をくぐれたのは、族長バタルトゥのみだった。
他の戦士は、死んだ。
彼らの祖先と同じ地に、同じ形で、皆、悉く。
マギア砦に帰還した後のこと。
「せっかく赤き大地の部族で助けられても……これじゃ、何にも……」
「部族が、助けた? スコール族は帝国軍よりも先に現場についたが、それは帝国側の情報をリークしていた者が居たからだ。それでも、この結果……今の状況で、部族としての誇りを守り通せていると言えるのかい?」
ひと段落がついて尚、うなだれるファリフに、Charlotteが近づき、言った。
ハンターに助けられたから、ファリフは捜索活動をまともに行えたのだ。それは、スコール族の、辺境の一部族の長が持っているべき資質を発揮して人々を率いたからではない。
その事実を伝えなければ、これは礼を失すると……Charlotteは、そう考えていた。
「……で、でも。それは、シバさんから聞いた情報なんでしょう」
ファリフが発した言葉で、一部のハンター達は目を見開いた。
「だったら、帝国軍だって部族の……」
「ファリフや、今の儂は帝国軍の兵士ぞ。即ちこの身は、ウランゲル皇帝の所有物に過ぎぬ」
シバは抑揚のない声で、ファリフの言葉を遮った。
「はて、シバは峡谷の地図を、スコール族に渡らせているのですか? おかしいですねぇ、彼は帝国軍にさえ、地図の提供を渋っていた筈なのに」
そしてヴェルナーが首を傾げながら、独り言の様に口を挟んだ。
ハンターたちは事に気づいて、苦い顔つきのシバを見る。
シバがハンター達に峡谷の地理を教える条件は、何であったか……
「儂が私情でもって、ハンターに道を教えた。彼らには必要と判断してな」
シバは開き直るでもなく、同情を誘うでもなく、ただ淡々と答える。恐ろしく無機質な声だった。
「不思議な話ですねぇ、貴方は帝国軍の兵士の筈なのに」
「かっ、まどろっこしい。儂を何かしたければ気の済むようにせい」
紡がれる二人の言葉は乾ききっており、その真意は読み取れない。
そしてファリフも。表情を強張らせ、何も喋らない。
「ファリフはん……」
アカーシャが、堪らず声をかける。ファリフは、俯いた。
「……判るよ。いくら僕だって、判ってた。こんな古い土地を知ってる人は、オイマト族以外には何人も居ない。でも……でも……」
唇を噛みしめ、小さな拳を震わせながら、ファリフは目尻に溜めた涙を、しかし零す事はしなかった。
そのままきびすを返し、場を去ろうとした彼女を、ディルが呼び止める。
「ファリフ、こんな事になっちまったけど……でも、そもそも俺達の目的は何だった? 言葉を聴いて、考えてくれ。一筋縄じゃない……だから難しければ、頼って、さ。お互いに」
語り掛けたディルを、ファリフはまっすぐに見つめ返す。
「ごめんなさい……今は、僕、なにも……何も、言えない」
ディルに向けるファリフの瞳は潤み、いくつもの感情が、いびつに入り混じっていた。
……でも、ありがとう。
最後にファリフは、掠れる声でそう告げると……丸まった背を無理矢理に伸ばし、部族の戦士と、バタルトゥを連れてその場を去っていく。
●
原因を探れば、誰もが思い当たる節を、それぞれに持つ事だろう。
連絡網の不備か、いくつもの行動方針の不一致か、それとも、行軍の手法に問題があったか……
一言にすれば、時間をかけすぎたのだ。他の要因は、その結論に至るまでに積み重なる欠片に過ぎない。
だが、しかし……
(そうじゃなくて、それよりも……)
イスフェリアは、重苦しい沈黙の中で、小さく、息をつく。
物理的な原因は、確かに在り、はっきりと浮かび上がる。
けれども、問題はそうであって、それだけではなかった。
言葉にしても、聞く耳を持つものは少ないだろう……今は、まだ。
少女は蜂蜜色の髪を揺らしながら、穏やかな、けれどごく微かに憂いを宿した瞳で、『彼ら』を見つめ続けた。
辺境の冬は、長く、厳しい。
だが、この冬は更に一層、厳しいものとなるだろう。
変わるべきものも、変わらざるべきものも……全てを呑み込もうとする闇が、迫っている。
来たるべきその時に、誰が、何を為すのか。
それを予見できるものは居ない。
今は、誰も……
「はー……流石にこの寒さはこの歳だと堪えるわねぇ」
真っ白な景色を眺め渡しながら、エリシャ・カンナヴィ(ka0140)は大きく、白い息を吐いた。
ごうごうと吹き荒ぶ地吹雪は、冷たい風もさることながら、舞い上がった粉雪をハンター達に叩きつけ、彼らの体力を奪う。
一見して少女にしか見えないエリシャだが、長命のエルフともあれば何かしら体に来るものがあるらしい。
「私達も遭難したら意味が無い、慎重に行こう」
ルシオ・セレステ(ka0673)は言いながら、ローブの襟元をきつく閉ざした。
「一応、貸してといったものは全て貸して貰えたけれど……それでもこれは、冷えるわね」
椿姫・T・ノーチェ(ka1225)が、帝国軍から貸し出された装備を配り終えて、息をついた。
彼女が申請を行ったのは、ブーツ・耳当て付き帽子・外套・手袋・ゴーグルといった寒中行軍装備だ……要塞管理者のヴェルナーが同行していた事も幸いし、さしたる障害もなくそれらの道具は揃った。
だが、しかしである。
そんな装備でさえ気休めに感じてしまう程、吹雪は身を震わせる。
寒さだけではない……足場の悪さ、視界の悪さも、捜索条件の悪化に拍車を掛けている。
おまけに、人間の感情の問題まで重なっているときた。
ファリフ率いるスコール族は、そうしている間にもぐいぐいと先へ進み、吹雪の向こうへと消えてしまいそうになっている。
「争ってる場合……? 否ね」
スコールの背を見ながら、摩耶(ka0362)が小さく呟く。
シバの言葉が間違いでなければオイマト族は、既に危機的状況にある。
であれば、一刻の猶予も許されない状況なのだ……本来は。
「協力し合う事ができればオイマト族の捜索も早く行えるんだろうが……無理だろうな」
と、頭を振ったのはヴァイス(ka0364)。彼の目に映ったファリフは、とても帝国との協調などできる状態では無いように見えた。
イスフェリア(ka2088)も、ヴァイスの言葉に頷き、心配げな表情を浮かべている。
「ファリフさんの焦りや怒りも分かるけれど……オイマト族を救うことより、帝国軍に負けないこと、が先行してるのが気になるかな」
「少しでも、俺たちハンターが潤滑油になれればいいが」
イスフェリアの言葉に頷き、ヴァイスは愛犬を引き連れて帝国軍の元へと向かう。
一方でイスフェリアは、スコール族を追いかけた。
帝国軍とスコール族、双方にハンターがつく。あるいは、二つの組織を繋ぐ望みも、あるかもしれないと。
●
ハンター達はまず、峡谷の地理を知っているというシバの元へ行き、彼に地図の提供を求めた。
「シバはザイタス峡谷の地理を知ってるんだろう。俺達も地図が欲しいんだが」
シン・L・アガルッド(ka2385)を始め、多くのハンターがシバに峡谷の地理を求めたが、彼はやんわりと、首を横に振った。
「知らぬというたら嘘じゃがな。だが、儂にも立場がある」
シバは最初、わざとらしい口調でハンター達の頼みを断った。
重要な情報でもある辺境の地理を、理由なく誰にでも教えられる訳ではない、と。
その語り口は、まるでハンターを試しているかの様にも見えた。
「そう言うけど、この吹雪じゃなんにも見えないし、地図もないんじゃ捜索しづらいよ」
「……」
三日月 壱(ka0244)がずいと前に出て、あどけない声色で言った。
上目遣いに向けられた視線を、シバは一言も発さぬままじっと、見つめ返した。
不自然な沈黙を、傍らで見守っていたエイル・メヌエット(ka2807)が、破る。
「……貴方にも、何か思惑があるのは判ります。けれど、これから雪に覆われた未知の土地へ入るなら……せめて地理を把握しないと、あまりに危険です。ここは、お互いの為にも……」
「地図の内容は、内密に取り扱うわ。ファリフにも、伝えない」
エイルに続いて、誓うように語ったのは椿姫。黒い瞳はまっすぐに、老兵の瞳を見据える。
シバは少し考えて、それから徐ろに、次の言葉を切り出した。周囲を確認し、その場の人間にしか聞こえぬ声で。
「何度も『言えぬ』ゆえよく聞けよ、初めは三叉路、左に行けばそこがまた二手に別れ……」
滔々と語られる内容がザイタス峡谷の地形であると気づくと、椿姫は急ぎそれをメモに描き留めた。
その地図をハンター達は互いに描き写し、各々が所持することで共有情報とした。
●
体裁上は帝国軍からの招集に応えてこの場に集ったハンター達だが、スコール族が先行して峡谷に入ったのに合わせて、彼らも手を分ける事になった。
その思惑こそ様々だが、特別の思いを抱いて行動を起こす者も、少なくはない。
「人の命がかかっている時に、いがみ合うべきではないと思うのですが……」
レオン・イスルギ(ka3168)は、スコールの戦士の足取りを見て、心配そうに顔を俯かせる。
辺境の生まれでありながら異邦人の血を交えた彼女には、ファリフの怒りも、シバの焦燥も、現実から目をそむけた結果に映ってしまう。
「古く青の文化を受け入れた我が一族の如く、互いに歩み寄り、理解し合い溶け合えれば良いのですが」
レオンは、スコール族の持つ偏見――少なくとも、レオンはそう思っている――を解ければと考えていた。
今なすべき事は何か、ファリフやシバに気づいて貰う為に。
「俺の立場は、オイマト族に近い。あいつらとは共闘もして、ハンターを認めて貰った……急いで見つけないと」
ディル・トイス(ka0455)も、部族の血を引く者の一人だ。
かつて共に戦った、オイマトの若き族長の面影は、ディルの脳裏にはっきりと刻まれている。
「俺は政治的なことは正直興味は無いが……難しい話はまず眼の前の危険をどうにかしてからだな」
と、歩調を早めるのはレイオス・アクアウォーカー(ka1990)。隣には、捜索の為に連れてきた愛犬も一緒だ。
帝国軍には警戒感を示していたファリフだったが、ハンター……それも、見知った顔も混じっているとなれば、パッと表情を明るくし、彼らを迎えた。
「みんなが手伝ってくれるなら、きっと探し出せるね!」
「そうやファリフはん、期待してまっせ!」
アカーシャ・ヘルメース(ka0473)にとって、辺境の部族は馴染み深い隣人だ。であればこそ、彼女がスコールに傾ける期待は大きい。
その視線を真っ向から受け止め、ファリフは子供らしい満面の笑みで頷いてみせる。
「ここは赤き大地。求めるはこの地の民。ファリフさんだからこそ選べる道はあるわ」
エイルもまた、ファリフに小さからぬ願いを寄せる。年頃に不釣合いな使命を負ってしまった少女が前に進む、その助けになれば、と。
「いきましょう。彼らが心折れぬ様に。共に背を預け戦う者が多くいるのだと、信じてもらう為に」
アリオーシュ・アルセイデス(ka3164)の言葉は、誰かに向けてというよりは、自分自身への誓いのように聞こえた。
一度だけ、彼は右頬の傷を自らの指先でなぞり、表情を引き締める。何か、大切な決意を反芻するかの様に。
「みんな……ありがと。僕らもがんばるからさ、よろしくね!」
ファリフが今日一番の笑顔をみせる。そこから、ハンター達への信頼が、見て取れるような気がした。
「ファリフさん、良かれと思い簡易地図を作ってきました。これを元に一緒に捜索しましょう!」
壱が差し出した地図を見て、ファリフは目を丸くした。
「……ほんとに? 私達も知らない土地なのに、どうやって地図なんか」
「そんなことより、今は捜索が先でしょ! 急がなくちゃ」
「……」
言葉を詰まらせたファリフの手を引きながら、壱はあえて半ば強引に、雪原へと足を踏み出した。
●
「帝国に協力するハンターの中に、辺境に肩入れする輩がいる。こんなスパイじみた行為は、帝国ユニオンの一員として見過ごしたくはないんだがねぇ……」
Charlotte・V・K(ka0468)は、スコールの元へ向かったハンター達の背を見やって、不満げな言葉を零した。
何かしらの強い感情を持って依頼者に協力するのは、何もスコール族側のハンター達だけではない。
帝国軍側にもまた、同じように……組織の為という思いの元、依頼を受諾する者は居る。
「帝国には住居を工面してもらった借りがある。この場で少しでも返しておきたいな」
ヒースクリフ(ka1686)も、その一人。いつも気だるそうな青年にしては、積極的な姿勢を見せている。
「はっ、長い物に巻かれりゃ楽なのにガキもジジイも誇りだなんだとメンドイ生き方してるっすね〜」
対照的に神楽(ka2032)は、吐き捨てる様に言った。
秩序に背いて生きてきた彼にとっては、辺境をめぐる部族の諍いは茶番としか映らない。
「ま、俺には関係ねーっす! 寒みーしとっとと見つけて帰るっす」
帝国軍側のハンター達は、既にスコール族と別れ、最初の分岐路から別々の道を捜索し始めていた。
地形を把握したとは言え、アテがないのはこちらも同じ。加えて、帝国軍兵士の多くが、雪中行軍にあまり慣れていないのも気に掛かる。
「目印に、リボンか何かを木に結びつけながら探すといいと思う」
ルシオは大量に用意しておいたリボンを取り出し、手始めにと近くの木に結びつける。
「出来ればスコール同行組も違う色の印を持って貰えればよかったのだけれど……」
打ち合わせる機会を持たなかったのが、今になって悔やまれる。
「後は……各人をロープでつなげば、雪崩と崖落ちの対策になるだろう」
Charlotteが持参したロープを取り出すと、同じ意図を持っていたイシャラナ・コルビュジエ(ka1846)と宮前 怜(ka3256)も、ロープを取り出す。
「このロープを掴みながら左右に散って進めば、はぐれないで広範囲を探せるんじゃないかしら」
イシャラナの提案もあり、ハンター達は互いの体を結びつけた状態で、ある程度分散して捜索を行う事にした。
●
一方のスコール族は、雪になれた部族民のリードもあり、かなり速いペースで峡谷を移動していく。
「こちらも迷わないようにしませんとね」
上泉 澪(ka0518)は、進みながら、手にした斧で木々に傷をつけていく。
すでに捜索済みの場所、という意味での目印だ。
「ファリフさんは何だか焦っている様にも見えますが……諭しても効果があるかどうか」
と、澪はファリフの背を見た。
ファリフの足取りはこの吹雪の中で尚軽いが、乱暴というか、ふてくされた様な印象を受ける物で。
「あまり力を入れすぎても、後々の捜索の余力に影響しそうですね」
と、アリオーシュ。周囲の者の体調をこまめに観察している彼だが、現状最も不安なのはファリフといっていい。あまりにも、力みすぎているのだ。
「今のところは歪虚に遭遇してないからいいけど、これから戦闘になる可能性も高い訳だしねぇ」
と、周りを警戒しているのはエリシャ。
峡谷に入って間もないからか、雑魔の姿は見えず、一見して捜索は順調なようにも見える。
「本格的な訓練をした訳じゃないが、今は少しでも情報が欲しいからな。頼むぜウルガリス」
レイオスは愛犬を連れ、人の匂いを追跡させようとしているが、残念ながら効果は微妙なところだ。
犬に特定の匂いを捜索させるには、本来数ヶ月の訓練を要する。ぶっつけ本番でそれができるかといえば、否に近い。
尤も、無意味でもないであろう。犬ならば、人間の聞こえない音に反応してくれることもありうる。
「こっちのルートなら帝国軍とぶつかったりはしないはずだ、行こうぜファリフ」
と、シンはファリフを先導する。帝国軍と捜索範囲を被らせるよりは、このやり方のほうが効率はいい。
「ハイルタイの名前を、スコール族の方々は既に知っているようだが。何か、進むべき方角の示唆になるような伝承はないのか」
捜索中、シリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820)が発した問には、ファリフも、スコールの戦士達も、首を捻った。
「ベスタハの悲劇で、オイマト族を……私達部族を裏切って歪虚についた罪人。でも、私達が知ってるのはそれくらいだよ。それを一番よく知ってる、バタルトゥさん達は……この事を話したがらないから」
「この地で何かあったのかは、間違いないのか」と、シリル。
「うん。ベスタハの悲劇は、このザイタス峡谷で起きた。殺された戦士の血で、川が赤く染まったって」
「待て、川?」
「伝承では、そういうふうに伝わってるけど……」
ファリフの言葉に、シリルが口元を抑えながら、手元の地図に視線を落とした。
●
同時刻、帝国軍サイド。
「オイマト族は奪われたCAMを追っていったんでしょ、だったら、敵がどこへ逃げたか予想して追っていったんじゃないかしら」
イシャラナが、地図を見ながら言った。
「CAMを隠せそうな場所ってない?」
「そうは言っても、入り組んだ地形だからな……」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が、地図とにらめっこしつつ、それらしい場所に印をつけてみる。
四方を岩壁に囲まれた広い空間が、峡谷の中には点在していた。
「……地図に川は流れていないか」
「川?」
唐突に切り出したのは怜。その言葉に、周りの者が首をかしげた。
「長年この地に行きてきた部族の長であれば……何らかの自然を目印にしてCAMを追跡したかもしれん」
「でも、地図には川なんて……」
手元の地図を覗き込む摩耶。
「いや、これが川だろう。水が流れてなくとも、既に干上がっているだけの可能性も高い」
怜は、峡谷を縦横に走る、太い線を指差す。それは曲りくねった峡谷の道を横切る、一本の線となる。
それをイシャラナの推測と組み合わせると、かなり範囲が絞られてくる。
「崖の上に登れって確認できれば、早いのですけれど」
「やめた方が良いだろうな。登っている最中に滑落したら、無事ではすまん」
摩耶と怜は、道の両脇にそびえる崖の壁面を見上げた。
斜面の角度は垂直に近く、高さは人間の背の何倍もある。
「地道に探すしか無いですね……」
ペットのフクロウに捜索の手伝いを頼んでみようかとも思ったが、さすがに重荷すぎる。
摩耶はかすかに白い吐息を吐き出してから、再び捜索の足を踏み出した。
捜索中、ハンター達の連絡は主としてトランシーバーを用いたものであったが、それが思うように機能しないのは大きな誤算だった。
「くそ、なかなか聞こえないな」
ないよりはましにせよ、頻繁に通信が途切れるトランシーバーを、ヒースクリフは恨めしげに睨む。
「峡谷の岩壁に、電波が遮られてるのかもしれないな」
エヴァンスが、ヒースクリフの背中ごしに言った。
もともと遮蔽物の多い峡谷地帯、個人携帯用の小型無線機は悪影響を受けやすい。
さらにこの天候だ。空間に漂う雪にも、電波の伝搬を遮り、その有効通信距離を狭めてしまう性質がある。
少なくとも、現在トランシーバーが本来の通信距離を保っていないのは、明白であった。
では、魔導短伝話ならばどうか。
「……もしもし、聞こえますか」
『こっちはバッチリ聞こえてるじゃーん!』
魔導短伝話の向こうからくるユハニ・ラハティ(ka1005)の声を聞き、摩耶はほっと息をついた。
マテリアルによる通信は生きている。であれば、離れた味方同士の連携も、まだ可能だ。
『しっかしファンキーに寒いな! 脱いだら死ぬじゃーん!?』
「いや、脱ぐ必要はねぇだろ」
元気一杯に叫んだ老人に、エヴァンスが通信ごしのツッコミを入れる。短伝話同士での連絡網を構築できたのは、事前にエヴァンスがその所持者を確認していたことも大きい。
ユハニの方は一人、帝国軍からもスコール族からも離れ、物見の役割を担っていた。
既に何度も、狼型の歪虚を見かけては帝国、スコールの両サイドへと伝えている。
かなりの数の群に、それも結構な頻度で目視しているらしいのだ。
『ちょっとこの数はシャレになんねーじゃん!? 逃げれるなら逃げるが勝ちじゃーん』
殆どの歪虚を、ハンター達は避けて捜索していた。
相手をしていれば、間違いなく余計な時間を取られるからだ。
通信を中継するのは、屋外(ka3530)の役目。魔導短電話でスコール族側のアカーシャと随時連絡を取り、互いの距離が離れすぎないよう、かつ地図の空白を埋められる様に、互いを誘導する。
「スコール族の方も、未だ進展はないようですね」
屋外の報告に対する反応は、様々だった。ヴェルナーやシバは、感情的な反応を見せず、淡々とその報告を聞き入れていた。
●
再び、スコール族。
ベスタハの悲劇が川沿いで起きたという推測を得た彼らは、結果的に帝国軍と同様、河川の跡地を探しつつ、その線をなぞるような捜索を行っていた。
「おや……木にリボンが……」
レオンが、道の端にあった木に結び付けられた、赤いリボンを見つける。
「古い布ではないですね。ハンターのどなたかが、印として残したのでしょうか」
真新しい布を覆いかけている雪を払い、レオンはじっとそれを見つめる。
「さっきは、ダーツの刺さった木を見つけましたけれど」
「それは……私がつけておいた目印ね」
澪の言葉に、椿が手持ちのダーツを出して見せた。
スコール族、帝国軍ともに、捜索のため木に印をつける手法を取ったハンターは数人いたが、どんな手法を用いるか、それが何を意味するかについての共通認識は無かった。
「少なくとも、ここが既に捜索された場所というのは、確かでしょう。それだけ分かれば十分です」
澪はそういって、再び足を踏み出そうとするが、アリオーシュがそれをやんわり引き止める。
「少し、お待ちを。一度……小休止を入れませんか」
雪中で行進する中、足取りに疲れを見せるものが増えてきたためだ。
澪は後ろに続く面々の表情を見て……静かに、アリオーシュに頷いて見せた。
ハンター達は一度その場で足を止め、輪を作るように固まって心ばかりの暖をとる。
アリオーシュは手持ちの牛乳を取り出して、疲労の色が濃い者に優先して手渡した。
「雪の夜はホットワインといきたい……が、今はこれしかねぇんだ、悪いな」
と、レイオスはブランデーを差し出し、男性ハンターとの間で回し飲みして体を温めている。
一方、ファリフはその光景を眺めながらじっと休んでいていたが、頻繁に周囲を見渡すあたり、どこか落ち着かない。
その姿を見てイスフェリアが、そっとファリフの隣に座り、顔を覗き込むようにして語りかけた。
「ねえ、ファリフさん。先行してたら敵を引きつけてしまって、美味しいところを帝国軍に奪われちゃうかも」
「……どういう事?」
きょとんしたまるい瞳が、イスフェリアを見つめ返した。
「帝国軍を利用して、陥れてみたらどう? 帝国軍に勝ちたいんでしょ?」
「……」
イスフェリアの意図が、唐突にも聞こえる言葉のままで無い事は明らかだった。
あえて含みを持たせたその意図を、沈黙するファリフはどこまで察したか……
ただその表情は……葛藤か、何か迷っている様に見えた。
「難しく考えることはねーさ。まっすぐ進めば導かれるもんさ、ファンキーになっ!」
黙りこくってしまったファリフの肩をやや乱暴に叩いたのはユハニだ。休憩と聞いて、一度スコール側に合流していたのだ。
「そうだね。わざわざ帝国軍に何かしなくたっていいよ。今は……急いでバタルトゥさん達を見つける、それだけで良いんだ」
ただ、まっすぐに。その言葉が少女の迷いを和らげたのか、ファリフは小さく、頷いた。
●
「どこっすか〜聞こえたら返事しろっす!」
帝国軍側の捜索隊からあえて離れ先行した神楽は、偵察しながら声を張り上げ、オイマト族の捜索にあたっていた。
暫く経って、霧の向こうから人影が現れた時、神楽はそれが行方不明のオイマト族かと思った。
「お、ビンゴっすか!」
だが、目視できる距離に近づくまでに、相手が違う事に神楽は気づく。
人間にしては大きすぎる。毛むくじゃらの、巨大な歪虚……
「雪男!? ちょ、無理っす! ヘルプ! 助けて〜っす!」
叫んでも、地吹雪の向こうからは反応がない。
先行するうちに本隊からはぐれたか? それを確かめる連絡手段を、神楽は持たない。
再び前方を見る。既に雪男は目の前に迫っていた。
「……!」
毛むくじゃらの左手が、ぶん、と振り下ろされ――神楽の意識は途絶えた。
帝国軍とハンター達が神楽を救助したのは、まさに紙一重のタイミングだった。
ハンター達が連れてきた犬達がやにわ騒ぎ立て、オイマトを見つけた方と思ってしばらく走ると、雪男に襲われ、倒れている神楽を見つけたのだ。
そのままなし崩しに、ハンターたちは雪男と戦闘せねばならなかった。
「救出するぞ。俺が引きつける、その間に神楽を」
ヴァイスが駆け出し、雪男との距離を詰めようとするが……
「くそっ、ロープが……!?」
ここに来て互いを結びつけている縄が、ハンター達の位置取りを阻害する。
ロープを切れば早いが、そうすれば二度と、安全対策としてのこの手法は使えない。
ハンター達は緊急時の戦闘対処をある程度打ち合わせては居たものの、命を守るためのロープが今度は闘いを阻害するとは想定されていなかったのだ。
「ロープもだが……身体も冷えている上に雪に足を取られてる。初動は遠距離使いに任せよう」
ルシオはヒールを唱えながら、周囲のハンター達に言った。射程ぎりぎりから神楽を治療し、その命を繋ぎ止める。
「賛成ですね。私が射撃して雪男を押さえつけます、その間に!」
屋外が、アサルトライフルを連射し、弾丸を雪男に打ち込む。
その間に、やむなく全員がロープの結びをその場で解き、ようやく自由な戦闘が可能な状態となった。
「行くぞ皆、俺に続けぇぇぇぇぇぇ!」
ヒースクリフが神楽の傍に立ち、雪男に切りかかる。
それを皮切りに、雪男との乱戦が始まった。
●
一方、こちらはスコール族側。
部族民は帝国軍よりは雪道の行軍に慣れていることで、峡谷を進む早さも、その足取りも、比較的に安定した状態が続いていた。
ユハニの誘導や、不要な戦闘を回避する椿姫の提案もあり、ハンター達は狼型の歪虚を視認しても、可能な限り戦闘を避けている。
だがそれでも、吹雪の中、敵味方が近距離で蜂合わせてしまえば話が別だった。
地吹雪が途切れ、視界が開けたと思った瞬間……敵の群れは、既にそこにいたのだ。
「敵襲! 狼型だ! 数は……くそ、こいつらどれだけ居るんだ!?」
ディルが、叫んだ。視界に入るだけでも十体近くがいた筈だが、距離が近すぎて正確な数は把握できない。
「前に出るわ、援護、お願い」
迷わずエリシャが切込み、マルチステップを用いて狼の群れに撹乱をしかける。
続いてシリルがその後ろに続き、エリシャの背後を守る様にフレイルを振るう。
「皆、無理はするなよ。周囲を見て、囲まれない様に注意しろ」
「もちろん!」
頷きながら、壱はクラッシュブロウで、鞭の一撃を歪虚の鼻っ柱に見舞う。
隣の澪も、クラッシュブロウと共に斧を振り下ろす。一刀両断に、狼の胴が二つに別れた。
「今ここで道草を食うわけには行きません、一気に片をつけるべきです」
焦りを見せること無く、澪は冷静に言い放った。
一体一体は弱い。数と状況に翻弄されさえしなければ、勝てない相手ではない。
だが、これは時間との勝負なのだ。
一刻も早くオイマト族を発見しなければならない以上、歪虚との戦闘はタイムロスとさえ言える。
ハンター達とスコール族は、焦る気持ちを抑えながら、狼群との総力戦へと突入していった。
●
歪虚との戦闘にもかなりの時間を要したものの、二手に分かれた捜索隊は少しずつ、確実に峡谷を進んでいった。
既にハンターは勿論の事、同伴するスコール族や帝国軍にも疲労が色濃く出ている。
捜索に動きがあったのは、そろそろ捜索も限界かとハンター達が感じ始めた、その矢先のことだ。
レイオスの愛犬が、突如耳をぴくりと動かし、あたりを探し回る様に動き始めた。
「どうした……何か聞こえるのか?」
他の犬たちも一緒だ。吹雪の向こう側をじっと見つめている。
風の向こうから聞こえる声。何か、人の言葉で会話している。
あれは……
「もしもし、ユハニはん!? こっちでオイマト族を見つけました。至急、帝国軍側に連絡して下さい!」
アカーシャが短伝話に向けて叫んだ。
すかさずハンター達は駆け出し、人影に近づいて、その姿を……
「……そんな」
そこで目にしたのは、たった七人の人影。
ハンターと、バタルトゥだ。
「……ほかの戦士の方々は」
レオンの問いに、バタルトゥは黙したまま、首を横に振った。
沈黙の中で、ごうごうと風の吹き荒ぶ音だけが、ハンター達の耳にこびりつく。
帝国軍側のハンター達が合流するまで、彼らはその場に立ち尽くた。
●
オイマト族とその護衛のハンター達は、発見された段階で既に、自力で歪虚の包囲網を突破していた。
彼らを襲った『ハイルタイ』なる歪虚は、闘いの中「飽いた」という理由で撤退していた。
生き残ったバタルトゥも、その護衛として戦ったハンター達も、見るに耐えない様な傷を負っており、それがいかに厳しい闘いであったかが伺える。
そしてハンター達は、保護したバタルトゥらの護衛を勤めながら、要塞へと帰還した。
オイマトの戦士で、生きて再びマギア砦の門をくぐれたのは、族長バタルトゥのみだった。
他の戦士は、死んだ。
彼らの祖先と同じ地に、同じ形で、皆、悉く。
マギア砦に帰還した後のこと。
「せっかく赤き大地の部族で助けられても……これじゃ、何にも……」
「部族が、助けた? スコール族は帝国軍よりも先に現場についたが、それは帝国側の情報をリークしていた者が居たからだ。それでも、この結果……今の状況で、部族としての誇りを守り通せていると言えるのかい?」
ひと段落がついて尚、うなだれるファリフに、Charlotteが近づき、言った。
ハンターに助けられたから、ファリフは捜索活動をまともに行えたのだ。それは、スコール族の、辺境の一部族の長が持っているべき資質を発揮して人々を率いたからではない。
その事実を伝えなければ、これは礼を失すると……Charlotteは、そう考えていた。
「……で、でも。それは、シバさんから聞いた情報なんでしょう」
ファリフが発した言葉で、一部のハンター達は目を見開いた。
「だったら、帝国軍だって部族の……」
「ファリフや、今の儂は帝国軍の兵士ぞ。即ちこの身は、ウランゲル皇帝の所有物に過ぎぬ」
シバは抑揚のない声で、ファリフの言葉を遮った。
「はて、シバは峡谷の地図を、スコール族に渡らせているのですか? おかしいですねぇ、彼は帝国軍にさえ、地図の提供を渋っていた筈なのに」
そしてヴェルナーが首を傾げながら、独り言の様に口を挟んだ。
ハンターたちは事に気づいて、苦い顔つきのシバを見る。
シバがハンター達に峡谷の地理を教える条件は、何であったか……
「儂が私情でもって、ハンターに道を教えた。彼らには必要と判断してな」
シバは開き直るでもなく、同情を誘うでもなく、ただ淡々と答える。恐ろしく無機質な声だった。
「不思議な話ですねぇ、貴方は帝国軍の兵士の筈なのに」
「かっ、まどろっこしい。儂を何かしたければ気の済むようにせい」
紡がれる二人の言葉は乾ききっており、その真意は読み取れない。
そしてファリフも。表情を強張らせ、何も喋らない。
「ファリフはん……」
アカーシャが、堪らず声をかける。ファリフは、俯いた。
「……判るよ。いくら僕だって、判ってた。こんな古い土地を知ってる人は、オイマト族以外には何人も居ない。でも……でも……」
唇を噛みしめ、小さな拳を震わせながら、ファリフは目尻に溜めた涙を、しかし零す事はしなかった。
そのままきびすを返し、場を去ろうとした彼女を、ディルが呼び止める。
「ファリフ、こんな事になっちまったけど……でも、そもそも俺達の目的は何だった? 言葉を聴いて、考えてくれ。一筋縄じゃない……だから難しければ、頼って、さ。お互いに」
語り掛けたディルを、ファリフはまっすぐに見つめ返す。
「ごめんなさい……今は、僕、なにも……何も、言えない」
ディルに向けるファリフの瞳は潤み、いくつもの感情が、いびつに入り混じっていた。
……でも、ありがとう。
最後にファリフは、掠れる声でそう告げると……丸まった背を無理矢理に伸ばし、部族の戦士と、バタルトゥを連れてその場を去っていく。
●
原因を探れば、誰もが思い当たる節を、それぞれに持つ事だろう。
連絡網の不備か、いくつもの行動方針の不一致か、それとも、行軍の手法に問題があったか……
一言にすれば、時間をかけすぎたのだ。他の要因は、その結論に至るまでに積み重なる欠片に過ぎない。
だが、しかし……
(そうじゃなくて、それよりも……)
イスフェリアは、重苦しい沈黙の中で、小さく、息をつく。
物理的な原因は、確かに在り、はっきりと浮かび上がる。
けれども、問題はそうであって、それだけではなかった。
言葉にしても、聞く耳を持つものは少ないだろう……今は、まだ。
少女は蜂蜜色の髪を揺らしながら、穏やかな、けれどごく微かに憂いを宿した瞳で、『彼ら』を見つめ続けた。
辺境の冬は、長く、厳しい。
だが、この冬は更に一層、厳しいものとなるだろう。
変わるべきものも、変わらざるべきものも……全てを呑み込もうとする闇が、迫っている。
来たるべきその時に、誰が、何を為すのか。
それを予見できるものは居ない。
今は、誰も……
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/02 00:06:07 |
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質問卓 エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/01/02 18:53:07 |
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相談卓 エリシャ・カンナヴィ(ka0140) エルフ|13才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/04 18:04:49 |