• 落葉

【落葉】精霊達の導き手を求めて

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/05 19:00
完成日
2018/11/09 16:46

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●姐御の帰還

 曙光の精霊ローザリンデ(kz0269)が帝都近郊に聳えるコロッセオ・シングスピラに到着したのはとある日の昼下がりだった。
 ローザは数百年もズビルナムの森に封印されていた影響かかなり衰弱しており、現在は雑魔を一対一であれば辛うじて倒せる程度の力しかない。
 そのため彼女を救出した多忙なハンター達と交代する形で只埜 良人(kz0235)らが護衛依頼を受け――無事彼女を精霊たちの避難所たる自然公園へと届けたのだが。

『あ、姐さん……ローザ姐さんじゃないですかっ!』
『よくぞご無事でっ!』
『300年前の帝国軍との抗争の折にはお世話になりやしたっ! あれ以来姐さんに恩を報いることもできず……ううっ』
『おお、こいつは祝杯の準備が必要だな。お前ら、極上のマテリアルを用意して来い!』
『へえ、光のモンに声をかけときまさァ!』
 自然公園で先ほどまでのんびりと過ごしていた精霊達がローザの姿を見るなり突如、リアルブルーでかつて流行していた任侠映画のごとき緊迫感をもってずらりと並び、一様に頭を下げた。
 普段より明らかに口調が危うげなのは姐御気質のローザを前にしているからだろうか?
 元警察官の良人は「うーん……」と眉を顰めてしまったが、もっともここにいる精霊達はいずれも温厚な者達だ。きっと悪ノリに近いものもあるのだろうと判断する。
 それを証明するようにローザは困ったような笑顔を浮かべた。
『お前たち、やめとくれよ。今はそういう時代じゃないんだろう? それよりもあの毒ばかりの森で命をかけてアタシを助け、ここまで送り届けてくれたハンターの皆さんに礼を忘れるんじゃないよ。それが仁義ってもんだ』
 口調こそ厳しいが精霊達の顔ひとつひとつをじっと見つめ、その無事を確認するごとに表情が柔らかくなっていくローザ。精霊達はそのたびに『マジかよ』『でもこれで俺たちも……』と期待の籠った囁きを交わしあう。
 そこに手のひらサイズの淡い光が木陰から猛スピードで飛び出してきた。ラズビルナムの森出身の木漏れ日の精霊リンだ。
『母様っ! おかえりなさいっ』
『おや、リンじゃないかい! あの頃より随分と小さくなっちまったけど……お前たちに会えたことが何より嬉しいよ』
 リンが鈴のように笑いながらローザの手のひらの上でコロコロと転がる。その様はまるで本当の親子のようで、護衛役を全うしたハンター達は思わず微笑みあった。
「それじゃあ、俺たちはこれで。くれぐれも養生なさってくださいね」
「ラズビルナムの浄化が進みましたらその都度ご連絡します。その際は皆さんのお力を借りる機会もあるかもしれません、なにとぞよろしくお願いします」
 ここから感動の再会を邪魔する理由もないだろう、と会釈するハンター達。すると精霊達は次々と感謝の声を上げ、ローザもリンも大きく頷く。
 これはハンターと精霊の距離がまたひとつ近くなった、そんな瞬間だった――。


●精霊達の先導者とは

 これはそれから数日後のこと。
公園でリンと光のマテリアルを集めるべく、日向で散歩をしていたローザのもとに何か決意したような表情の精霊達がずらりと並ぶと、手を後ろに組み『姐さん、ひとつ俺たちの話を聞いてくれませんかね』と硬い声を発した。
『只事じゃないようだね……リン、その辺でちょっと遊んでな』
『う、うん……』
 不安そうな声で木々の間に戻り、ふわふわと落ち葉の間を舞うリン。それを見届けたローザは精霊達に向き直った。
『で、アタシに話っていうのはどういうことだい?』
『へえ。実は現在帝国で民主主義……つまりは皇族や軍人が臣民を一方的に指導するのではなく、民が施政者にふさわしい人物を選んで話し合いで政を決めていくという流れが起きていましてね』
『ふ……ん、いいことじゃないか。無能な権力者よりも有能な働き者の方が国に利するだろうからね。それがどうしたんだい?』
『どうもその施政者は全くの庶民や亜人であろうとも立候補し、民の心を掴むことができれば政に携われると話しているんです。そこで俺たち精霊も立ち上がろうと思いまして』
『ああ、それはいいことだね。選ばれるかどうかはともかくとして、精霊も国を良くする意志があると伝える良い機会になるだろう。……それで、立ち上がるっていうなら代表者が必要なんだろ? 誰が行くんだい』
 ローザのその言葉に精霊達が顔をこわばらせた。言っていいものなのかどうなのか――そういった、苦悩が滲み出る。
 その中で特に果敢な気質の獣の精霊がずいと前に歩み出ると、ローザの前で片膝をついた。
『姐さん……病み上がりかつ帝国軍との因縁を抱えているということは重々承知の上で申し上げやす。どうか俺達のために立ち上がっていただけやせんか』
『何だって?』
 ローザが声を震わせた。しかし精霊達は次々と膝をつき彼女に嘆願する。
『土地の絡みの強い精霊はそもそも帝都まで足を運ぶことができやせん。それに力の強い精霊は縄張り意識も強く……その多くが故郷に帰っちまいました。ここに残っているのは俺達、故郷に縛られない反面……力の弱い精霊ばかりです』
『グランの兄貴にも声をかけたんすけど、どうもあっちも雑魔の連中の巣を潰すのに躍起みたいで……しばらくは無理だと言われちまいました。今頼りになるのは光のある場所ならどこにも現れ、浄化の力を扱う姐御だけなんです!』
『俺、コロッセオの歴史書で姐御の記述を読みました。かつて帝国軍と反目しながらもマテリアル汚染から多くの民を救った勇敢な女傑だと。この伝承からもきっと、多くの民の心を惹きつけられるはずです!』
 どうかどうか、と頭を下げる精霊達。ローザは震える肩を抑えるように両手を当てると、やっとの思いで呟いた。
『やめとくれよ……アタシはあんた達を守りたいとは思ってる。この命を使ってでもね。でも精霊達のカシラになんてなれる器じゃないんだよ。あの日……どれだけの仲間を失ったのか、アタシは忘れられないんだ』
 過去の戦を思い出したのだろう、深紫の瞳から涙が零れだす。しかし精霊達も必死だ。
『今、俺たちは保護されているだけの身です。これからは人間と対等の立場となり、互いに助け合える社会を作りたいんです!』
『この保護区も人間たちの厚意により与えられたもの……これからは自分の力で生き抜いていけるってとこ、人間たちに見せたいんすよぉっ』
 悲痛な声にローザはいやいやするように肩を揺らした。
 もう話は堂々めぐりだ――。その時、精霊達の対話を木陰からそっと見守っている者がいた。花の精霊フィー・フローレ(kz0255)である。
「ムー……アレネ、第三者ノ意見ガ必要ナ場面ナノネ! オ話ノ内容ハヨクワカンナイケド、皆ガ泣クノハ良クナイノ!」
 てててっとフィーの肉球が落ち葉を蹴散らしていく。その先にあるものはハンターオフィスだった。

リプレイ本文

●少年の疑問と精霊の苦悶

 ここは自然公園に聳える風車の陰。白樺(ka4596)は茶会の前に、ローザリンデ(kz0269)と旧知の精霊達を数体呼び出した。これは彼女の前では尋ねられない類の話だと彼自身が自覚しているからだった。
「シロね、気になることがあるの。皆はローザのことをどう思ってる? 何を思ってローザにあんな大変なことをお願いしたの?」
『そりゃあ、姐さんは俺達の中で一番の実力者だからさ。精霊の中には力こそ全てと考える連中もいる。そういう奴らを暴力沙汰なく話をつけられるのは姐さんぐらいだからな』
 精霊達はローザのことを口々に褒めたたえ理屈を並べる。しかし白樺は彼らに卑屈さを感じ、表情を曇らせた。
「んと、皆がローザならやってくれるって信じてるのはわかるの。でもどうしてローザばっかり? って思うの。人間だってそう。ちょっと凄い人がいると『この人なら』って勝手に期待して自分じゃ何もしないの。……そーゆーのってシロは好きじゃないの」
 その正直すぎる言葉に精霊達は声を詰まらせる。そんな中、精霊のひとりが白樺の目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
『そりゃあ……でも、俺達では力不足なんだ。去年の戦以来、俺達は人と共存しようと街の復興活動や自然災害の緩和を精一杯やってきた。だが人の使う機械は本当に優秀で、俺達の出番はもうなくなってた』
『俺達が力を取り戻すには人の信仰が必要になる。俺達はマテリアル汚染を浄化し、生命を育む光の力を持つ姐御と共に戦い支えていくことで信仰を取り戻すしかないんだ』
 彼らの言葉を受け、白樺は後悔した。彼らは努力を重ねた上でなお苦しんでいたのだ。
「……ごめんなさい。シロ、皆の話をしっかり聞かないうちにひどいこと言ってたね。でも、シロにはローザや皆に伝えたいこと、いっぱいあるの。だからお茶会でもシロのお話、聞いてくれる?」
『ああ。お前さんが姐さんを心から心配してくれているのは嬉しい。必ず心に留めておく』
 眉尻を下げる精霊達。白樺は仄かに赤く腫れた目の縁を拭うと「ありがとう」とようやく笑んだ。


●少女たちの想い

 公園を散策する澪(ka6002)は、ふと足を止めると着物の胸元から小さな紙を取り出した。
 戦場に向かった親友から渡された手紙。そこには真面目そうな字で励ましの言葉が綴られている。
「……あっちの方が危ないのに。優しすぎるよ」
 彼女は再びそれを小さく折り畳むと、お守り代わりに胸元に戻す。親友の無事を祈りながら。
 その時、甲高い子犬の声が響いた。花の精霊フィー・フローレ(kz0255)だ。
「澪、来テクレタノネ! 今日ハトテモ美味シイ紅茶トケーキヲ用意シタノ。ソレニ私、パンケーキモ焼イタノヨ!」
 彼女は澪といつもともにある親友がいないことに不穏なものを感じとったのか「元気ヲ出シテ」とばかりに澪の周りを飛び跳ねる。その様子は何とも健気だ。
「ん、ありがと。楽しみにしてる。……それとローザリンデの昔のことを知っている精霊はいる? 話を聞きたい」
澪の願いに快く応じるフィー。その明るさに澪は心が和らぐのをたしかに感じていた。

 フィーが連れてきたのはラズビルナム出身の小鳥の精霊だった。
『貴女がローザを助けてくれたのね、ありがとう』
「ううん、私だけじゃない。たくさんのハンターとひとりの英霊が力を貸してくれたから。それよりも彼女の昔の話を聞かせて」
『ええ、この依頼を聞いた時から覚悟していたもの』
 澪と握手を交わし、小鳥が回顧する。その口から紡がれる過去は壮絶だった。
 ――ある日、少数の亜人が住むだけの平和な森ラズビルナムに突如強烈な負のマテリアルが満ち、生物が次々と倒れていった。続いて亜人が病む時を見計らい森の資源を奪うべく帝国が進軍を開始したという。
 亜人の信仰を失い弱った精霊達を守るためにローザはマテリアルを一気に放出して道を切り拓き、辛うじて精霊と亜人たちを森の外へ逃した。そして帝国軍へ幾度も膝を屈し――祭壇に縋りつくようにして浄化の祈りを捧げたというのだ。
『私たちはローザをすぐに助けに行くと決めたけど、日に日に強くなる負の力に手も足も出なくなって……彼女を祭壇で守ってくれた亜人達には本当に感謝しかないわ』
 小鳥の瞳から涙が零れ落ちる。澪は胸元の手紙へ手を当て、彼女へこう問うた。
「私達が駆け付けた時、彼女はひとりだった。それは彼女が望んだこと。貴方達を守るために。でも、だから聞かせて。彼女をひとりにしない?」
『ええ、それは勿論よ!』
「ん。正しい意志と気概があるなら私たちは協力できる。あとはローザリンデの意思次第。……私は彼女は代表に向いていると思う。けど、決めるのはあくまで彼女自身。……貴女はどう考えてる?」
『どの道を選んでも私はローザを守るわ。約束する』
 小鳥がか細い首をちょこんと下げる。澪は表情の乏しい顔に微かな笑みを湛えると、小鳥の背を優しく撫でた。


●光と呪縛に似た力

 フィーの給仕としての手際は意外と優れていたようで、テーブルの上には食品の他に小物類、紅茶を淹れるための道具一式が既に並べられていた。甘味だけでなく、惣菜の挟まれたクレープやサンドイッチも並べられているのは精霊達の心配りか。
 いずれにせよ、先ほど到着したばかりのマリィア・バルデス(ka5848)はテーブルを確認するフィーに近寄ると、その肩を軽く叩いた。
「お久しぶり、フィー・フローレ。呼んで貰えて嬉しいわ。元気だった?」
「マリィア! マリィアコソ、無事デ良カッタノヨ。リアルブルーガ大変ナ事二ナッタッテ……報告書毎日読ミニ行ッテタノ」
 目を潤ませ、マリィアの腰に強く抱き着くフィー。マリィアは「大丈夫、私はここにいる。それが答え……でいいんじゃない?」とフィーを抱き返す。
 その直後、精霊達が歓声を上げるた。ローザリンデが純白のドレスを纏い、会場に現れたのだ。力が衰えていようともその存在感は別格。マリィアはフィーを宥めると、ローザのもとへ歩み寄り微笑んだ。
「初めまして、曙光の精霊。お会いできて嬉しいわ。私は猟撃士のマリィア・バルデス」
 全身を武装しているマリィアだが、その顔の毒気のなさにローザが小さく頷く。
『マリィアといったね。その姿は常在戦場ってわけかい? いいね』
 一国の姫君のような姿のローザだが、思いのほか言葉遣いは蓮っ葉で闊達とした態度もあり親しみやすい。マリィアはここがチャンスとばかりに笑みを絶やさず続けた。
「最初に伺いたいのだけれど、貴女は光の精霊だから、光射す場所にあまねく顕現できる。移動に術師の手助けが必要だったり、どこかの地から動けない精霊ではないのよね?」
『ああ、光と信仰さえあればね』
 その答えにマリィアは「それなら」と、クリムゾンウェストの世界地図の写しを広げた。
「これを見て、ローザリンデ。これが今の世界の人類領域……歪虚に汚染されていない、人類が生存可能と言われている場所よ。重度汚染地域では精霊も休眠せざるを得ないから、精霊領域とも言い換えられるんじゃないかしら」
 ローザがその地図に深く見入る。広大なラズビルナムも世界地図においては卵程度の大きさだ。それはなんとも不思議な感覚だった。その表情を見つめるなりマリィアの声に自然と熱が帯びていく。
「北方王国リグ・サンガマ、東方地域エトファリカ連邦、亜人のみ生息可能な南方大陸、そしてゾンネンシュトラール帝国を含む西方世界。帝国は西方世界のたった四分の一でしかないの。私は貴女がいつか自分の力で立つと思っている。でもそれは今じゃない……ハンターに警護依頼を出して、世界中を見て回ってくるべきじゃないかしら」
 そう、マリィアはローザが世界に良き影響を齎すものと信じて旅するよう説いたのだ。しかし。ローザは小さく首を横に振った。
『マリィア、お前さんと旅に出たらきっと楽しかっただろう。でもそれは私にはできないんだ』
「え?」
『自然精霊が生まれた地を離れる場合には依り代が必要なのさ。例えばそこのフィーなら故郷に咲く花。英霊の類だと遺品。その点、光は閉じ込められない。私は帝国のどこにでも行ける。でも帝国から離れることはできないんだよ』
 悲しげな顔のローザ。それならとマリィアは彼女の指先に手を添え、帝国の区分をなぞらせた。他のハンターや精霊達の耳に入らないよう、ローザの耳元で囁く。
「精霊は遍く大精霊の眷属。帝国の役に立つことばかりが精霊の本質でもない。旅は帝国だけでも構わない……貴女は今を、自分の目で確かめるべきよ」
 これまで命を以て尽くしてきたんだもの、貴女自身の幸せのためにもね。そう言うマリィアの顔は優しい。ローザは『ああ。いつか、きっと』と囁きを返した。

 そんなふたりの背をじっと見つめる者がいた。先ほど知己となったリンと白樺である。
『なんだか母様、難しいお話をしてたね』
「うん、でももう終わったみたい」
 彼らは地図を折るマリィアの姿を見て笑顔を浮かべる。そしてマリィアが再びフィーのもとへ歩いていく様を見るや、白樺は満面の笑みを浮かべてローザに飛びついた。
「ローザっ♪ 元気そうでシロ嬉しいの♪」
『おや、白樺。遊びに来てくれたんだね、嬉しいよ。ん? 目元が赤いね。何かあったのかい?』
 ドレスが汚れるのも厭わずしゃがみ、白樺の目元を撫でるローザ。白樺は「えへへ、転んじゃったの」と取り繕った。
『そうかい、それは災難だったね。ああ、傷口を消毒してやろうか』
「だ、大丈夫! シロは聖導士だもん、自分で治しちゃった!」
 大きく手を上げて元気をアピールする白樺。ローザは母親のように穏やかな笑みを湛えむと彼の頭をぽんぽんと撫でた。


●茶会と政

 茶会は陽がまだ高いうちから行われた。風が冷たくなりつつある時期に紅茶を外で楽しむにはこの時間が丁度いい。
 蓬(ka7311)は丁度ローザと対になる位置に座り、カップに唇をあてた。
 彼女は他のハンターと異なり、今のところこの場にいる精霊達との接点がない。それゆえ、自然と近況や昔の話などを精霊達に尋ねては誰もが会話に参加できる状況を作り上げていた。
 その中で彼女が感じたことは「皆の考えていることの根本はそう変わらない」ということだった。
(きっと、みんな同じ気持ちなんですよね。誰かの助けを必要とする一方で、誰かを助けたい。互いの気持ちがすれ違わないようにしなければ)
 だが、政の話は避けられぬもの。ある精霊が改まって精霊の代表者の話題を口にしたところ、白樺が震える手でカップをソーサーに戻した。
「ねえ、ローザは疲れ切っているんだよ? なのに何でそんな大変なお仕事をお願いするの。ローザは大好きな仲間を護りたくって頑張った凄い精霊。でも皆の期待に応えなくちゃいけない王様じゃない。皆と一緒のただの精霊なの!」
 白樺の瞳から涙が零れた。一振りの意思なき刀に姿を変えるほど消耗したかつてのローザを思い出すと今も胸がひどく痛くなるのだ。慌てる精霊達に白樺が嘆願する。
「故郷に戻った精霊の中には強い精霊もいるんでしょ? そういう子にお願いできないの?」
 祈るように声を高める白樺。しかしその願いを断つ厳かな声を放ったのは――奇しくもそのローザだった。
『自然精霊は強い力を持つほど生まれた地や物質に強い因縁を持ち、自分の属性に基づく思考をするものなんだ。アタシはその中でも異様なほどファジーな思考と戦闘能力を持ち合わせている異物なんだよ。こういう仕事ができるのは……アタシだけだ、きっと』
「ローザ……」
 不安げな白樺。そこに澪が蒸らしたばかりのティーポットを差し出した。彼女のいたわりがローザリンデの傷心も白樺の思いやりも精霊達の熱意もじんわりと包み込んでいく。
「想いを語り合うのは悪くない。けど、今は会食中。落ち着いて」
 琥珀色の茶が注がれるたびに芳醇な香りが皆の胸中を満たしていく。次第に場を和まそうと世間話や思い出話に興じる者も現れてきた。そんな精霊達の姿に澪は安堵のため息を吐いた。
(精霊達はただ期待しているだけだと思う。ローザリンデもできればそれに応えたいんじゃないかな。そうでなければひとりで立ち向かっていないと思う)
 一方、蓬は話が一段落ついたところで再び口を開いた。
「皆さんがローザリンデさんに望むのは何なのですか?」
『そりゃあ、俺ら精霊達の自立と人間達との友好的な交流関係の締結だよ』
「なるほど、ローザリンデさんには犠牲や献身ではなくあくまでも精霊の象徴になってほしいのですね。……ローザリンデさん、皆さんは過去の再戦を求めたり、貴女にただの権力者になってほしいという願望は持っていないようです。そうですよね」
『もちろんだ! 戦が話し合いで止められるならそれが一番だしな』
『姐御が皆の大将なのは誰の話もきっちり聞いてくれるからだ。強いからだけじゃない』
 うんうんと頷きあう精霊達。ローザは『あんた達……』と呟いたきり、顔を俯かせて肩を震わせた。
 そこに蓬がダメ押しとばかりに少し声に厳しさを加え、立ち上がる。
「ただしこの制度には義務が発生します。それは代表者を送り出す者全てが政に関心を示し、しっかり考えること。代表者に自分の意見を伝えるのですから、これからは皆さん全員の肩に責任が圧し掛かるのです。その努力はできますか?」
 見た目こそ幼い少女の言葉である。しかしその誠実さに精霊達はまっすぐに視線を返した。
『当然だ。姐御は俺達のでっかい神輿だ。担ぎ手がへたれちゃ話にならねえやな』
 大柄な精霊がそう口にした瞬間、他の精霊達も笑いながら大きく頷きあった。
 するとローザは一気に破顔した。
『ははは、皆でアタシとこの国を支えようってのかい! 生きる重みを分かち合い、これからは本当の兄弟分になるってわけだ。そりゃあいい、それで行こうじゃないか』
 白樺はその様子を見るなり、ローザの手にそっと自分の手を重ねた。
「ねえ、知ってる? 白樺の花言葉は『光と豊富』『忍耐強さ』。そして『あなたをお待ちします』。ローザのこと、白樺はめいっぱい応援するの。だから……いつかまたおひさまの下で沢山笑えるようになるの……待ってる」
『ありがとう、白樺。あんたは本当に優しい子だ……アタシに勇気を与えてくれる』
 澪もまたローザの背をそっと擦った。
「期待は時に重荷になることもある。そんな時、私は貴女を支えたい。いつでも呼んで。私達が貴女を守る。支える。約束」
『澪、ありがとうね。あんたの心遣い、あったかいよ』
 そして蓬は自由になったローザの手に小指を差し出すと、静かに微笑んだ。
「今後もお手伝いできることなら、喜んでお引き受けします。……約束です」
 その指に白い指が絡みつく。顔を赤らめた蓬は「決まりですね」と呟くと、吊り目がちの瞳を優しく細めた。

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MVP一覧

  • 比翼連理―瞳―
    ka6002
  • 絆を紡ぐ少女
    ka7311

重体一覧

参加者一覧

  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺(ka4596
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 絆を紡ぐ少女
    蓬(ka7311
    人間(蒼)|13才|女性|猟撃士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/02 21:24:38
アイコン 【相談卓】お茶会のその前に
白樺(ka4596
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/11/02 21:34:58
アイコン 質問卓
澪(ka6002
鬼|12才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/11/04 13:40:57